特許第6201277号(P6201277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6201277非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201277
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20170914BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-190843(P2013-190843)
(22)【出願日】2013年9月13日
(65)【公開番号】特開2015-56368(P2015-56368A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】森 建作
(72)【発明者】
【氏名】大下 寛子
(72)【発明者】
【氏名】高木 正徳
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−076797(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/150837(WO,A2)
【文献】 特開2007−242288(JP,A)
【文献】 特開平10−027611(JP,A)
【文献】 特開2012−230898(JP,A)
【文献】 特開2009−032467(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0122363(US,A1)
【文献】 特開2011−076767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiNi1―y−zCo(但し、0.96≦x≦1.03、0.05<y≦0.20、0<z≦0.10、MはV、Cr、Fe、Mnからなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属元素)で表されるリチウム金属複合酸化物粉末からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
Li以外の金属元素の原子数(すなわち、Ni、CoおよびM金属元素の原子数)の和(Me)と、Liの原子数との比(Li/Me)が、1.01〜1.10で、
前記非水系電解質二次電池用正極活物質を水に浸漬した場合に、水に溶出するリチウムが0.1wt%以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム金属複合酸化物粉末が、一次粒子と前記一次粒子が複数集合して形成した二次粒子から構成され、
前記二次粒子の形状が、略球状で、
前記二次粒子の平均粒子径が5μm以上、20μm以下であって、比表面積が0.8m/g〜2.0m/g、リートベルト解析によるLi席占有率が97.6%以上であることを特徴とする請求項1記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
LiNi1―y−zCo(但し、1.01≦x≦1.10、0.05<y≦0.20、0<z≦0.10、MはV、Cr、Fe、Mnからなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属元素)で、Li以外の金属元素の原子数(すなわち、Ni、CoおよびM金属元素の原子数)の和(Me)と、Liの原子数との比(Li/Me)が、1.01〜1.10で表されるリチウム金属複合酸化物100重量部に対し、水50〜200重量部の割合で混合、水攪拌し、ろ過を行い、
次いで、得られた澱物を熱処理することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記リチウム金属複合酸化物が、原料のNi1−y−ZCo(OH)2+α(但し、0.05<y≦0.20、0<z≦0.10、MはV、Cr、Fe、Mnからなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属元素)で表される金属元素が均一に分布した金属複合水酸化物を熱処理して形成した熱処理材と、水酸化リチウムあるいは炭酸リチウムとの混合物を、650℃〜850℃の温度で焼成して形成したリチウム金属複合酸化物であることを特徴とする請求項3に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記金属複合水酸化物が、
ニッケル塩とコバルト塩の混合水溶液と
添加金属塩溶液と
アルカリ溶液と
アンモニウムイオン供給体を含む水溶液
を同時に加え、ニッケルとコバルトと添加金属から構成される水酸化物を共沈させ、各金属元素が均一に分布せしめた金属複合水酸化物であることを特徴とする請求項4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電容量が高く、サイクル特性に優れて、ペースト調整時にゲル化しない非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及にともない、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。このような二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池の負極材料には、リチウム金属やリチウム合金、金属酸化物、あるいはカーボン等が用いられている。これらの材料は、リチウムを脱離・挿入することが可能な材料である。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われている。
その中で、リチウム金属複合酸化物、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として期待され、実用化されている。このリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を用いたリチウムイオン二次電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発がこれまで数多く行われてきており、すでにさまざまな成果が得られている。
しかし、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)は、原料に希産で高価なコバルト化合物を用いているため、電池のコストアップの原因となっている。このため、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)以外のものを用いることが望まれている。
【0004】
また、最近は、携帯電子機器用の小型二次電池だけではなく、電力貯蔵用や、電気自動車用などの大型二次電池としてリチウムイオン二次電池を適用することへの期待も高まってきている。
このため、活物質のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を可能とすることは、広範な分野への大きな波及効果が期待されている。そこで、リチウムイオン二次電池用正極活物質として新たに提案されている材料としては、コバルトよりも安価なマンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)や、ニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)を挙げることができる。
【0005】
このリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)は原料が安価である上、熱安定性、特に、発火などについての安全性に優れるため、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)の有力な代替材料であるといえるが、理論容量がリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)のおよそ半分程度しかないため、年々高まるリチウムイオン二次電池の高容量化の要求に応えるのが難しいという欠点を持っている。また、45℃以上では、自己放電が激しく、充放電寿命も低下するという欠点もあった。
【0006】
一方、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)は、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)とほぼ同じ理論容量を持ち、リチウムコバルト複合酸化物よりもやや低い電池電圧を示す。このため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待できることから、開発が盛んに行われている。
しかし、ニッケルを他の元素で置換せずに、純粋にニッケルのみで構成したリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いてリチウムイオン二次電池を作製した場合、リチウムコバルト複合酸化物に比べサイクル特性が劣っている。また、リチウムニッケル複合酸化物は、他の正極材料と比較してリチウムイオンを離しやすく電池極板を作製するためのペースト調整の際にゲル化を引き起こすという欠点も抱えている。
このような欠点を解決するために、様々な提案がなされている。
【0007】
例えば特許文献1には、リチウムイオン二次電池の自己放電特性やサイクル特性を向上させることを目的として、LiNiCo(ただし、0.8≦x≦1.2、0.01≦a≦0.99、0.01≦b≦0.99、0.01≦c≦0.3、0.8≦a+b+c≦1.2、MはAl、V、Mn、Fe、CuおよびZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム含有複合酸化物が提案されている。
【0008】
特許文献2には、高容量で充放電サイクルに優れた正極活物質およびそれを用いた高性能の二次電池を提供することを目的とした、Li1−x−aNi1−y−b(但し、Aはストロンチウムまたはバリウム、もしくはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの中から選ばれた少なくとも2種のアルカリ土類金属元素、のいずれかであり、BはNiを除く少なくとも1種の遷移金属元素からなり、式中x、yは、0<x≦0.10、0<y≦0.30、a、bは、−0.10≦a≦0.10、−0.15≦b≦0.15;但し、xはAの総モル数を表し、Aが2種以上のアルカリ土類金属元素からなる場合は、xは全アルカリ土類金属元素の総モル数であり、また、yはBの総モル数を表し、Bが2種以上の遷移金属元素からなる場合は、yはNiを除く全遷移金属元素の総モル数である)で表される化合物であることを特徴とする正極活物質が提案されている。
【0009】
また溶出アルカリについては、特許文献3には水溶性アルカリ量が0.4質量%以下であるLiNiCoMn(但しa+b+c=1、0.3≦a≦0.6、0.3≦b≦0.6、0.1≦c≦0.4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−213015号公報
【特許文献2】特許3460413号公報
【特許文献3】特開2011−76797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、サイクル特性の向上を目指して組成を規定しているが、電池のサイクル特性には、組成だけでなく、結晶構造、および粉体物性を最適化する必要があり、上記特許文献では結晶構造や粉体物性の最適化は考慮されておらず、サイクル特性向上には不十分であった。
【0012】
更に、上記特許文献2に記載の発明では、正極活物質にアルカリ土類金属イオンを添加することで、リチウムサイトへのニッケルイオンの混入を抑え、充放電特性とサイクル特性を、元素添加無しのLiNiOに比べて向上できることが示されているが、提案されているアルカリ土類金属イオンの添加では、LiサイトにLi以外のアルカリ土類金属イオンが混入してしまうため、Liの結晶内の拡散が阻害され、出力特性が悪くなってしまうという問題があった。
【0013】
また、特許文献3は電池内にて悪作用する水溶性アルカリの適量化を提案しているが、そもそも充放電の酸化還元反応を担うニッケルの含有量が高々60%の材料であり、高容量が期待できなかった。
【0014】
さらに、最近では携帯電子機器等の小型二次電池に対する高容量化の要求は年々高まる一方であり、安全性を確保するために容量を犠牲にすることは、リチウムニッケル複合酸化物の高容量のメリットを失うことになる。また、リチウムイオン二次電池を大型二次電池に用いようという動きも盛んであり、中でもハイブリッド自動車用、電気自動車用の電源、あるいは電力貯蔵用の定置式蓄電池としての期待が大きく、このような用途において、リチウムニッケル複合酸化物の問題点の解消は大きな課題であった。
【0015】
このような状況に鑑み、本発明は高容量かつサイクル特性に優れ、溶出アルカリ成分の少ない非水系電解質二次電池用正極活物質と、その製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以上の状況を鑑み、本発明者等は、ニッケルを主体としたリチウム金属複合酸化物の組成と製法について鋭意検討したところ、ニッケルの一部を特定の遷移金属に置き換えて、添加量の最適化と製法を検討することにより、高容量かつサイクル特性に優れ、溶出アルカリ成分の少ない正極活物質となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、LiNi1―y−zCo(但し、0.96≦x≦1.03、0.05<y≦0.20、0<z≦0.10、MはV、Cr、Fe、Mnからなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属元素)で表されるリチウム金属複合酸化物粉末からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、Li以外の金属元素の原子数(すなわち、Ni、CoおよびM金属元素の原子数)の和(Me)と、Liの原子数との比(Li/Me)が、1.01〜1.10で、その非水系電解質二次電池用正極活物質を水に浸漬した場合に、水に溶出するリチウムが0.1wt%以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0018】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるリチウム金属複合酸化物粉末が、一次粒子と一次粒子が複数集合して形成した二次粒子から構成され、その二次粒子の形状が略球状で、平均粒子径が5μm以上、20μm以下であって、比表面積が0.8m/g〜2.0m/g、リートベルト解析によるLi席占有率が97.6%以上であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0019】
本発明の第3の発明は、LiNi1―y−zCo(但し、1.01≦x≦1.10、0.05<y≦0.20、0<z≦0.10、MはV、Cr、Fe、Mnからなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属元素)で、Li以外の金属元素の原子数(すなわち、Ni、CoおよびM金属元素の原子数)の和(Me)と、Liの原子数との比(Li/Me)が、1.01〜1.10で表されるリチウム金属複合酸化物100重量部に対し、水50〜200重量部の割合で混合、水攪拌し、ろ過を行い、次いで、得られた澱物を熱処理することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0020】
本発明の第4の発明は、第3の発明におけるリチウム金属複合酸化物が、原料のNi1−y−ZCo(OH)2+α(但し、0.05<y≦0.20、0<z≦0.10、MはV、Cr、Fe、Mnからなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属元素)で表される金属元素が均一に分布した金属複合水酸化物を熱処理して形成した熱処理材と、水酸化リチウムあるいは炭酸リチウムとの混合物を、650℃〜850℃の温度で焼成して形成したリチウム金属複合酸化物であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0021】
本発明の第5の発明は、第4の発明における金属複合水酸化物が、ニッケル塩とコバルト塩の混合水溶液と、添加金属塩溶液と、アルカリ溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を同時に加え、ニッケルとコバルトと添加金属から構成される水酸化物を共沈させ、各金属元素が均一に分布せしめた金属複合水酸化物であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明による非水系電解質二次電池用正極活物質並びにその製造方法は、高容量かつサイクル特性に優れ、電池極板製造時のペースト調整においてゲル化することなく容易に極板の製造を可能とし、近年の携帯電子機器等の小型二次電池に対する高容量化の要求を満足するとともに、ハイブリッド自動車用、電気自動車用あるいは定置型蓄電池用の大型二次電池に用いられる電源として求められるサイクル特性をも確保することが可能な非水系電解質二次電池を提供することを可能とするもので、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(a)は実施例1で作製した本発明に係る正極活物質の走査電子顕微鏡写真(SEM像)で、(b)はその一部を拡大した図(1万倍)である。
図2】電池評価に用いたコイン電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係るリチウムイオン二次電池の実施形態について、構成要素ごとにそれぞれ詳しく説明する。
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、正極、負極、非水電解液等、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0025】
(1)正極活物質
本発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質は、リチウム金属複合酸化物LiNi1‐y−zCo(但し、0.96≦x≦1.03、0.05<y≦0.20、0<z≦0.10、MはV、Cr、Fe、Mnからなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属元素)からなり、この正極物質を水に浸漬した場合、水に溶出するリチウムの量が0.1wt%以下であることを特徴とする。
【0026】
ここで、V、Cr、Fe、Mnからなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属元素Mを添加することによりLiの溶出を抑える効果が得られる。
その理由は、Liイオンとの親和力が強い添加元素が均一に結晶内の遷移金属サイトに分布しているためと考えている。さらに、過剰のLi化合物は水洗により除去されている。それによりLi溶出量を0.1wt%以下に抑えることで、ペースト調整時に結着剤の架橋が抑制され、ペーストのゲル化が起こらない。
【0027】
さらに正極活物質は、一次粒子と一次粒子が複数集合して形成した二次粒子から構成され、その二次粒子の形状は、略球状であり、その平均粒子径が5μm以上、20μm以下であって、比表面積は0.8m/g〜2.0m/g、そして「リートベルト解析」によるLi席占有率が97.6%以上であることが好ましい。
【0028】
このような正極活物質が高容量で高サイクル特性を示すのは、充放電に伴う酸化還元反応を担うニッケルの含有量が高く、かつ層状結晶構造の完全性を示すLi席占有率が高く、Liイオンの挿脱入が円滑に行われるためである。
【0029】
(2)正極活物質の製造方法
[複合水酸化物作製工程]
ニッケル塩とコバルト塩と添加金属塩の混合水溶液に、アルカリ溶液とアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を加えて、それらを一定速度にて攪拌して、反応槽内にコバルトとニッケルの添加金属元素の原子比が上記一般式の原子比となるように共沈殿させる。
【0030】
この共沈殿におけるpH領域は、錯化剤無しの場合、pH=10〜11を選択し、かつ混合水溶液の温度を、60℃を越えて80℃以下の範囲とする。
錯化剤無しの場合、pH11〜13で晶析すると細かい粒子となり、濾過性も悪くなり、球状粒子が得られない。
また、pHが10よりも小さいと水酸化物の生成速度が著しく遅くなり、濾液中にNiが残留し、Niの沈殿量が目的組成からずれて目的の比率の混合水酸化物が得られなくなってしまう。
【0031】
そこで、pH領域を10〜11とし、かつ混合水溶液の温度を、60℃を越えて保つことによって、Niの沈殿量が目的組成からずれ、共沈にならない現象を、反応温度を上げ、Niの溶解度を上げることで回避している。
この時、混合水溶液の温度が80℃を越えると、水の蒸発量が多いためにスラリー濃度が高くなり、Niの溶解度が低下する上、濾液中に硫酸ナトリウム等の結晶が発生し、不純物濃度が上昇する等正極材の充放電容量が低下する問題が出てきて好ましくない。
【0032】
一方、アンモニアなど錯化剤を使用する場合、Niの溶解度が上昇するためpH領域はpH10〜12.5まで、温度領域も50℃〜80℃まで広げることができる。
反応槽内では、反応水溶液中のアンモニア濃度は、以下の問題を生じさせないために、好ましくは3〜25g/Lの範囲内で一定値に保持する。
まず、アンモニアは錯化剤として作用し、アンモニア濃度が3g/L未満であると、金属イオンの溶解度を一定に保持することができないため、形状及び粒径が整った板状の水酸化物一次粒子が形成されず、ゲル状の核が生成しやすいため粒度分布も広がりやすい。
【0033】
一方、アンモニア濃度が25g/Lを越える濃度では、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎ、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増えて、組成のずれなどが起きる。また、アンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な水酸化物粒子が形成されないため、一定値に保持することが好ましい。例えば、アンモニア濃度は、上限と下限の幅を5g/L程度として所望の濃度に保持することが好ましい。
なお、アンモニウムイオン供給体はとくに限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。
そして定常状態になった後に沈殿物を採取し、濾過、水洗してニッケルコバルトニオブ複合水酸化物を得る。
【0034】
[熱処理工程]
熱処理工程は、上記複合水酸化物粒子を加熱して熱処理する工程であり、複合水酸化物粒子に含有されている水分を除去するものである。
この熱処理工程を行うことによって、粒子中に焼成工程まで残留している水分を減少させることができる。言い換えれば、複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換することができるので、製造される正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。
なお、正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしも全ての複合水酸化物粒子を複合酸化物粒子に転換する必要はない。
【0035】
この熱処理工程においては、複合水酸化物粒子は残留水分が除去される温度まで加熱されればよく、その熱処理温度はとくに限定されないが、105〜800℃とすることが好ましい。
例えば、複合水酸化物粒子を105℃以上に加熱すれば残留水分を除去することができる。なお、105℃未満では、残留水分を除去するために長時間を要するため工業的に適当でない。800℃を超えると、複合酸化物に転換された粒子が焼結して凝集することがある。熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
【0036】
また、熱処理時間はとくに制限されないが、1時間未満では複合水酸化物粒子中の残留水分の除去が十分に行われない場合があるので、少なくとも1時間以上が好ましく、5〜15時間がより好ましい。
そして、熱処理に用いられる設備は特に限定されるものではなく、複合水酸化物粒子を空気気流中で加熱できるものであれば良く、送風乾燥器、ガス発生がない電気炉が好適に使用できる。
【0037】
[混合工程]
本発明における混合工程は、熱処理工程を経た熱処理された粒子(以下、熱処理粒子という)と、リチウムを含有する物質、例えば、リチウム化合物とを混合して、リチウム混合物を得る工程である。
なお、熱処理粒子とは、熱処理工程において残留水分を除去された複合水酸化物粒子や、熱処理工程で酸化物に転換された複合酸化物粒子、もしくはそれらの混合粒子である。
【0038】
熱処理粒子とリチウムを含有する物質とは、リチウム混合物中のリチウム以外の金属の原子数(すなわち、ニッケル、コバルトおよび添加金属の原子数の和(Me))と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/M)が、1.01〜1.10、より好ましくは1.02〜1.08となるように、混合される。つまり、リチウム混合物におけるLi/Meが、水洗前の正極活物質におけるLi/Mと同じになるように混合される。これは、焼成工程前後で、Li/Mは変化しないので、この混合工程で混合するLi/Mが正極活物質におけるLi/Mとなるからである。
【0039】
リチウム混合物を形成するために使用されるリチウムを含有する物質は特に限定されるものではないが、リチウム化合物であれば、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウムまたは炭酸リチウム、もしくはその混合物は入手が容易であるという点で好ましい。とくに、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムを用いることがより好ましい。
なお、リチウム混合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合には、個々の粒子間でLi/Mがばらつき、十分な電池特性が得られない等の問題が生じる可能性がある。
【0040】
また、混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができ、複合水酸化物粒子等の形骸が破壊されない程度で、熱処理粒子とリチウムを含有する物質とが十分に混合されればよい。
【0041】
[焼成工程]
焼成工程は、上記混合工程で得られたリチウム混合物を焼成して、リチウムニッケル複合酸化物を形成する工程である。
焼成工程においてリチウム混合物を焼成すると、熱処理粒子に、リチウムを含有する物質中のリチウムが拡散するので、リチウムニッケル複合酸化物が形成される。
【0042】
リチウム混合物の焼成は、650〜850℃で行う。添加金属によって最適な温度範囲は異なるものの、概ね700〜820℃で行うことが好ましい。
焼成温度が650℃未満であると、熱処理粒子中へのリチウムの拡散が十分に行われなくなり、余剰のリチウムや未反応の粒子が残ったり、結晶構造が十分整わなくなったりして、十分な電池特性が得られないという問題が生じる。
【0043】
一方、焼成温度が850℃を超えると、熱処理粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じる可能性がある。すると、焼成後の粒子が粗大となってしまい粒子形態(後述する球状二次粒子の形態)を保持できなくなる可能性があり、正極活物質を形成したときに、比表面積が低下して正極の抵抗が上昇して電池容量が低下するという問題が生じる。
【0044】
焼成に要する焼成時間は、少なくとも3時間以上とすることが好ましく、より好ましくは、6〜24時間である。3時間未満では、リチウムニッケル複合酸化物の生成が十分に行われないことがあるからである。
【0045】
さらに、焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、とくに、酸素濃度が18〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。
これは、酸素濃度が18容量%未満であると、熱処理された粒子に含まれるニッケル複合水酸化物粒子を十分に酸化できず、リチウムニッケル複合酸化物の結晶性が十分でない状態になる可能性があるからである。とくに電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことが好ましい。
【0046】
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよいが、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
【0047】
[水洗工程]
リチウム化合物の混合割合を化学量論比よりも高くした場合は、焼成後に残留する余剰のリチウム化合物を除去するために水洗することが好ましい。
余剰のリチウム化合物が残留していると、ペースト調整時のゲル化の原因となるのみならず非水系二次電池内において副反応を引き起こしガス発生による電池の膨張などの原因となるため安全性を損なうおそれがあるからである。
【0048】
(3)非水系電解質二次電池
[正極活物質]
次に、正極を形成する正極合材およびそれを構成する各材料について説明する。
本発明の粉末状の正極活物質と、導電材、結着剤とを混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
【0049】
正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウム二次電池の性能を決定する重要な要素となる。
溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、一般のリチウム二次電池の正極と同様、それぞれ、正極活物質の含有量を60〜95質量%、導電材の含有量を1〜20質量%、結着剤の含有量を1〜20質量%とすることが望ましい。
【0050】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもある。このようにしてシート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法に依ってもよい。
【0051】
この正極の作製にあたって、導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)やアセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンプロピレンジエンゴム、フッ素ゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0052】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂等を用いることができる。必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。
【0053】
溶剤としては、具体的にはN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には電気二重層容量を増加させるために活性炭を添加することができる。
【0054】
[負極]
負極には、金属リチウム、リチウム合金等、また、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0055】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。
この場合、負極結着剤としては、正極同様、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これら活物質および結着剤を分散させる溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0056】
[セパレータ]
正極と負極との間にはセパレータを挟み込んで配置する。
セパレータは、正極と負極とを分離し電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な穴を多数有する膜を用いることができる。
【0057】
[非水系電解液]
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル補足剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0058】
[電池の形状、構成]
以上説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明に係るリチウム二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極をセパレータを介して積層させて電極体とし、この電極体に上記非水電解液を含浸させる。正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、並びに負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を集電用リード等を用いて接続する。以上の構成のものを電池ケースに密閉して電池を完成させることができる。
以下、本発明になる一実施の形態を好適な図面に基づいて詳述する。
【実施例1】
【0059】
ニッケル:コバルト:鉄のモル比が87:10:3となるように、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸第一鉄の混合溶液を準備し、25%水酸化ナトリウム溶液と25%アンモニア水を反応槽に同時に添加し、pH11.8を、反応温度を50℃に、アンモニア濃度を10g/Lに保ち、共沈法によってニッケルコバルト鉄複合水酸化物粒子を形成させた。その後反応槽内の水酸化物スラリーを全量回収し、濾過、水洗後乾燥し、ニッケルコバルト鉄複合水酸化物の乾燥粉末を得た。この金属複合水酸化物は、1μm以下の一次粒子が複数集合した球状の二次粒子からなっていた。
【0060】
得られた複合水酸化物を大気中で昇温速度2.77℃/minで700℃まで昇温して6時間保持した後、室温まで炉冷することで熱処理を行い、熱処理粒子を得た。
この熱処理粒子と市販の水酸化リチウムとをニッケルコバルト鉄とリチウムの原子比が1:1.045になるように秤量した後、球状の二次粒子の形骸が維持される程度の強さでシェーカーミキサー装置「ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて、十分に混合した。
【0061】
この混合物60gを5cm×12cm×3cmのマグネシア製の焼成容器に挿入し、密閉式電気炉を用いて、流量6L/minの酸素気流中で昇温速度2.77℃/minで500℃まで昇温して500℃で3時間保持した後に、730℃まで昇温して12時間保持した後、室温まで炉冷した。得られた正極活物質粉末をスラリー濃度が1500g/Lとなるように純水と混合したスラリーを作製し、スターラーを用いて30分水洗後、ろ過し、真空乾燥機を用いて210℃で14時間保持して室温まで冷却して、正極活物質粉末を得た。
【0062】
得られた正極活物質粉末の比表面積は、流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製マルチソーブ)により測定した。また、化学分析により組成分析を行い、Li/M比を算出した。
得られた正極活物質粉末を粉末X線回折法で分析した結果、得られた正極活物質粉末は六方晶系の層状構造を有することが判明し、リートベルト解析法によりLi席占有率を算出すると99.0%であった。
走査型電子顕微鏡で観察したところ、図1に見られるように0.2〜1.0μm程度の一次粒子が凝集して二次粒子を構成していた。
【0063】
得られた正極活物質の初期容量評価は以下のようにして行った。
活物質粉末70質量%にアセチレンブラック20質量%及びPTFE10質量%を混合し、ここから150mgを取り出してペレットを作製し正極とした。負極としてリチウム金属を用い、電解液には1MのLiClOを支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で、図2に示すような2032型のコイン電池を作製した。図2において、10は2032型のコイン電池、1はリチウム金属負極、2はセパレータ、3は正極、4はガスケット、5は負極缶、6は正極缶、7は集電体である。
【0064】
作製した電池は24時間程度放置し、開路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.5mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量とし、1時間の休止後カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とし201.8mAh/gであった。
さらに、この充放電サイクルを100回繰り返してサイクル耐久性を評価し、初期放電容量に対する維持率を算出した。
【0065】
溶出アルカリは、得られた正極活物質を5g分取して25℃の純水100cc中に投入、浸漬して30分攪拌後、HCl水溶液を用いて滴定を行い得て、溶出リチウムとして算出したところ、溶出リチウム量は0.06wt%であった。
【0066】
得られた正極活物質のLi/M比、平均粒径、比表面積、Li席占有率、初期放電容量及び、溶出Li量を表1に示す。
【実施例2】
【0067】
ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が85:10:5となるように、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンの混合溶液を準備し、pHを11.4にした以外は実施例1と同様に晶析を行い、複合水酸化物を得た。
晶析中のpHを低くしたことにより20μmの複合水酸化物が得られた。以降の工程について、Li/M比を1.035、焼成温度を800℃とした以外は実施例1と同様にして正極活物質を得た。
得られた正極活物質の平均粒径、Li席占有率、初期放電容量及び、溶出Li量を表1に示す。
【実施例3】
【0068】
ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が83:10:7となるように、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンの混合溶液を準備し、実施例1と同様に晶析を行い、複合水酸化物を得た。以降の工程について、焼成温度を820℃とした以外は実施例1と同様にして正極活物質を得た。
得られた正極活物質の平均粒径、Li席占有率、初期放電容量及び、溶出Li量を表1に示す。
【実施例4】
【0069】
ニッケル:コバルト:バナジウムのモル比が85:10:5となるように、硫酸ニッケルと硫酸コバルトとオキシ硫酸バナジウムの混合溶液を準備し、実施例1と同様に晶析を行い、複合水酸化物を得た。以降の工程について、焼成温度を760℃とした以外は実施例1と同様にして正極活物質を得た。
得られた正極活物質の平均粒径、Li席占有率、初期放電容量及び、溶出Li量を表1に示す。
【実施例5】
【0070】
ニッケル:コバルト:鉄のモル比が85:10:5となるように、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸第一鉄の混合溶液を準備し、実施例1と同様に晶析を行い、複合水酸化物を得た。以降の工程について、焼成温度を680℃としLi/M比を1.02とした以外は実施例1と同様にして正極活物質を得た。
得られた正極活物質の平均粒径、Li席占有率、初期放電容量及び、溶出Li量を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
ニッケル:コバルト:マグネシウムのモル比が87:10:3となるように、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マグネシウムの混合溶液を準備し、実施例1と同様に晶析を行い、複合水酸化物を得た。以降の工程について、焼成温度を715℃とした以外は実施例1と同様にして正極活物質を得た。
得られた正極活物質の平均粒径、Li席占有率、初期放電容量及び、溶出Li量を表1に示す。
【0072】
(比較例2)
ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が60:20:20となるように、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンの混合溶液を準備し、実施例1と同様に晶析を行い、複合水酸化物を得た。以降の工程について、焼成温度を850℃とした以外は実施例1と同様にして正極活物質を得た。
得られた正極活物質の平均粒径、Li席占有率、初期放電容量及び、溶出Li量を表1に示す。
【0073】
(比較例3)
ニッケル:コバルト:鉄のモル比が87:10:3となるように、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸第一鉄の混合溶液を準備し、実施例1と同様に晶析を行い、複合水酸化物を得た。以降の工程について、焼成温度を640℃とした以外は実施例1と同様にして正極活物質を得た。
得られた正極活物質の平均粒径、Li席占有率、初期放電容量及び、溶出Li量を表1に示す。
【0074】
(比較例4)
ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が85:10:5となるように、硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンの混合溶液を準備し、実施例1と同様に晶析を行い、複合水酸化物を得た。以降の工程について、焼成温度を880℃とした以外は実施例1と同様にして正極活物質を得た。
得られた正極活物質の平均粒径、Li席占有率、及び溶出Li量、初期放電容量と100サイクル後の容量維持率を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示すように、本発明の請求の範囲内にある実施例1〜5ではLi席占有率が高く、溶出アルカリ量が低く抑えられており、190mAh/gを超える高い放電容量と高いサイクル特性を示し、正極活物質として優れた材料であることがわかる。
【0077】
比較例1では添加元素を範囲外のマグネシウムとしているが、放電容量は高いものの溶出リチウム量が多い。比較例2では範囲外の組成としているが、放電容量が低く高容量材料としては好ましくない。比較例3では、焼成温度が低すぎて結晶としても不完全であり放電容量が低くサイクル特性も悪く、溶出リチウム量も多くなっている。比較例4では焼成温度が高すぎるため、カチオンミキシングが起こり、放電容量とサイクル特性が低くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0078】
高い放電容量を有し、かつ工業上取り扱いやすいという本発明の非水系電解質二次電池のメリットを活かすためには、常に高容量を要求される小型携帯電子機器の電源としての用途に好適である。また電気自動車用の電源や定置型蓄電池においても、高容量の材料が望まれるため好適である。なお、電気自動車用の電源とは、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車のみならず、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源として用い得る。
【符号の説明】
【0079】
1 リチウム金属負極
2 セパレータ(電解液含浸)
3 正極(評価用電極)
4 ガスケット
5 負極缶
6 正極缶
7 集電体
10 2032型のコイン電池
図1
図2