(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201905
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20170914BHJP
C22B 59/00 20060101ALI20170914BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20170914BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20170914BHJP
C02F 1/62 20060101ALI20170914BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20170914BHJP
C02F 1/64 20060101ALI20170914BHJP
C02F 1/72 20060101ALI20170914BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B59/00
C22B3/44 101A
C22B7/00 C
C02F1/62 ZZAB
C02F1/58 K
C02F1/64 Z
C02F1/72 Z
B09B3/00 304J
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-123296(P2014-123296)
(22)【出願日】2014年6月16日
(65)【公開番号】特開2016-3353(P2016-3353A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2016年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】石田 人士
(72)【発明者】
【氏名】真野 匠
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−025992(JP,A)
【文献】
特開2013−139616(JP,A)
【文献】
特開2010−180439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃ニッケル水素電池より得られる有価金属含有物からニッケル、コバルト及び希土類元素を分離回収する廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法であって、
前記廃ニッケル水素電池より得られる有価金属含有物を、硫酸溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程と、
前記浸出工程で得られた浸出液に、アルカリ金属の硫酸塩を添加して、希土類元素の硫酸複塩混合沈澱と脱希土類元素液とを得る希土類晶出工程と、
前記希土類晶出工程で得られた脱希土類元素液に、酸化剤を添加した後に中和剤を添加し、該脱希土類元素液のpHを4.5以上6.0以下に維持することにより、該脱希土類元素液中の不純物を沈澱物として分離し、該不純物が除去された硫酸ニッケル及び硫酸コバルトを含む混合水溶液を得る中和工程と
を有し、
前記酸化剤が、空気、過酸化水素、ニッケル酸リチウムの粉および過硫酸ナトリウムのうちの少なくともいずれかであることを特徴とする廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法。
【請求項2】
前記中和工程において、前記脱希土類元素液の酸化還元電位が800mV(Ag/AgCl電極基準)以上となるように、該脱希土類元素液に前記酸化剤を添加することを特徴とする請求項1に記載の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法。
【請求項3】
前記中和工程において、前記脱希土類元素液に、前記酸化剤を添加した後に中和剤を添加し、該脱希土類元素液のpHを5.4以上5.6以下に維持することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属の硫酸塩は、硫酸ナトリウム及び/又は硫酸カリウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みのニッケル水素電池や製造中に生じた不良品等の廃ニッケル水素電池から、ニッケル、コバルト、希土類元素等の有価金属を分離回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中に放出される硫黄酸化物や煤塵等に起因する広域的な大気汚染や炭酸ガス等による地球温暖化等の環境問題が、地球規模の課題としてクローズアップされている。
【0003】
大気汚染や地球温暖化等の原因の一つに自動車の排気ガスがあり、排気ガスによる汚染を低減するため、ニッケル水素電池等の二次電池を搭載したハイブリッド自動車や電気自動車の生産や需要が加速的に増加している。
【0004】
二次電池の一種であるニッケル水素電池は、正極、負極、電極端子及び電解液等の機能的部材と、電極基板、正負極の電極間に設けられるセパレータ及びこれらを収納するケース等の構造的部材とから構成されている。
【0005】
ニッケル水素電池を構成する機能的部材及び構造的部材には、様々な物質が含まれている。例えば、正極には正極活物質が含まれており、正極活物質は微量添加元素を含む水酸化ニッケル等から構成されている。また、負極には負極活物質が含まれており、負極活物質はニッケル、コバルト、希土類元素(ミッシュメタル)等を含む水素吸蔵合金等から構成されている。
【0006】
また、正極基板はニッケル板や発泡ニッケル板等から構成され、負極基板はニッケルメッキ鉄板等から構成されている。更に、セパレータは合成樹脂等から構成され、電解液は水酸化カリウム水溶液等から構成され、電極端子材は銅、鉄系金属等から構成され、ケースは合成樹脂、鋼等から構成されている。
【0007】
ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載されたニッケル水素電池も、何れは廃棄される見込みであり、使用済みのニッケル水素電池から、上述した各部材に含まれる有価金属を回収して、資源としてリサイクルするための技術開発も進められている。
【0008】
使用済みのニッケル水素電池から有価金属であるニッケルやコバルトを回収する方法としては、例えば、廃ニッケル水素電池を炉に入れて熔解し、使用済みのニッケル水素電池を構成する合成樹脂等を燃焼して除去し、更に大部分の鉄をスラグ化して除去し、ニッケルを還元して鉄の一部と合金化したフェロニッケルとして回収する乾式処理方法がある。
【0009】
乾式処理方法は、低コストで大量処理が可能であり、既存の製錬所の設備をそのまま利用できて処理に手間がかからないという利点がある。しかしながら、乾式処理方法は、回収されたフェロニッケルから不純物を分離することは難しく、ステンレスの原料以外の用途には適さない。
【0010】
また、乾式処理方法は、特にコバルトや希土類元素の殆どがスラグ中に分配されてスラグとして廃棄されてしまい、希少なコバルトや希土類元素の有効利用という側面では、望ましい方法とは言い難い。
【0011】
つまり、乾式処理方法では、純度の低い有価金属が回収されたり、有価金属が回収できずに廃棄されたりすることがある。そのため、乾式処理方法には、使用済みのニッケル水素電池に含まれている有価金属を、電池用にリサイクルが可能となる高純度の金属として回収することができないという問題がある。
【0012】
そこで、上記問題を解決するために、例えば、特許文献1に開示されているような湿式処理方法が提案されている。特許文献1に記載の有価金属の回収方法は、以下に示した(1)乃至(6)の工程で構成される。
【0013】
即ち、特許文献1に記載の方法は、(1)正極活物質及び負極活物質を、酸性水溶液を用いて洗浄処理に付し、正極活物質及び負極活物質に付着する電解液成分を除去して、洗浄後残渣と洗浄後液とを得る洗浄工程と、(2)洗浄後残渣と浸出工程で得た浸出液を混合することにより浸出液を還元処理に付し、浸出液中の鉄を2価に保持して、ニッケル、コバルト、希土類元素及びその他の共存する金属元素を含有する還元液と還元残渣とを得る還元工程と、(3)還元残渣に硫酸水溶液を添加し、且つ酸化しながら浸出処理に付し、ニッケル及び希土類元素を含有する浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程と、(4)還元液に硫酸アルカリ又は水酸化アルカリを混合し、希土類元素複塩化処理に付し、希土類元素複塩からなる沈澱物とニッケル及びコバルトを含有するろ液とを得る希土類回収工程と、(5)希土類回収工程で得たろ液に、酸化剤と中和剤を添加して酸化中和処理に付し、ニッケル及びコバルトを含有する酸化中和後液と鉄及びアルミニウムを含有する酸化中和澱物とを得る酸化中和工程と、(6)酸化中和後液を、リン酸系抽出剤を用いた溶媒抽出処理に付し、コバルト、マンガン、亜鉛及びイットリウムを含有する逆抽出液とニッケルを含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程とから構成されている。
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、工程数が多くて複雑なために多大な処理コストが掛かり、商業的に成立つプロセスとは言い難い。
【0015】
一方、使用済みのニッケル水素電池に含まれる有価金属を高純度の金属として回収する他の湿式処理方法として、例えば、特許文献2に開示されているような方法も提案されている。特許文献2に記載の有価金属の回収方法は、以下に示した(1)乃至(3)の工程で構成される。
【0016】
即ち、特許文献2に記載の方法は、
図2に示す通り、(1)正・負極活物質含有物を、硫酸溶液に混合、溶解した後、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程S21と、(2)浸出工程S21で得られた浸出液に、アルカリ金属硫酸塩を添加して、希土類元素の硫酸複塩混合沈澱と脱希土類元素液とを得る希土類晶出工程S22と、(3)希土類晶出工程S22で得られた脱希土類元素液に硫化剤を添加して、ニッケル・コバルト硫化物原料と残液とに分離する硫化物原料回収工程S23とから構成されている。
【0017】
特許文献2に記載の方法によれば、特許文献1に記載の方法で問題となっていた工程数の多さと複雑さについては解消されている。
【0018】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、回収対象であるニッケル及びコバルトを選択的に分離するためには硫化物原料回収工程S23が必要不可欠である。そのため、硫化物原料回収工程S23では、微量の不純物ではなく、大量のニッケルを沈澱させるため、硫化剤の使用量が膨大となり、コストアップの要因となっている。
【0019】
また、亜鉛等の一部の不純物には、ニッケルよりも硫化物の沈澱を生成しやすい性質があり、完全な分離はできていない。そのため、特許文献2に記載の方法では、ニッケル及びコバルトと亜鉛等とを分離する場合、2段階の硫化操作が必要となる。
【0020】
即ち、特許文献2に記載の方法では、まず、脱希土類元素液に硫化剤を添加して、亜鉛等を含む硫化物沈澱を生成させた後、その硫化物沈澱とろ液とを固液分離する。次に、得られたろ液に、再度、硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの硫化物沈澱を得る。
【0021】
従って、硫化物沈澱法を用いた場合において、亜鉛等を分離する場合には、2段階の硫化工程とそれらに用いる設備を増加させる必要があり、使用済みのニッケル水素電池からの有価金属の回収プロセス全体の工程数が多くて複雑になる。
【0022】
ニッケル・コバルト硫化物原料は、ニッケル製錬プロセスS24の原料として利用できるため、特許文献2に記載の方法では、使用済みのニッケル水素電池に含まれている有価金属を、電池用にリサイクルが可能となる高純度の金属として回収する目的は達成される。
【0023】
ところが、特許文献2に記載の方法では、硫化物原料回収工程S23で得られたニッケル・コバルト硫化物原料は、ニッケル製錬プロセスS24で処理されて高純度硫酸ニッケル(電池材料用原料)となり、電池材料製造プロセスS25で水酸化ニッケルやニッケル酸リチウム等の電池材料へと製品化される。
【0024】
従って、電池材料用原料の製造コストという観点から見れば、湿式処理コストにニッケル製錬プロセスS24での処理コストが上乗せされるため、特許文献2に記載の方法では、処理費のコストダウンは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開2010−174366号公報
【特許文献2】特開2012−025992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
特許文献1及び特許文献2に記載の通り、使用済みのニッケル水素電池から有価金属を回収する方法として、使用済みのニッケル水素電池について、焼成、破砕、選別等の前処理をすることにより得られた有価金属含有物を、浸出処理、ナトリウム複塩の沈澱を利用した脱希土類処理、溶媒抽出処理、硫化処理等に付することによって、電池用にリサイクルが可能となる高純度のニッケルやコバルト等の有価金属を回収する湿式処理方法は、技術的に確立されている。
【0027】
しかしながら、これらの湿式処理方法においては、原料の主成分であるニッケルに対し、浸出処理用の酸、硫化処理用の硫化剤、廃液中和用のアルカリ等の試薬を多く消費するため、薬剤に要するコストが高額となる。
【0028】
殊に、特許文献2に記載の方法では、比較的単価の高い硫化剤を多く用いるため、それが薬剤コストの大半を占め、コストが高騰する要因となる。また、硫化剤を使用することにより、プロセス処理中に硫化水素ガスの発生が予想されるため、除害塔等の排ガス処理設備の設置が必須となり、設備コストや運転コストを上昇させるものとなる。
【0029】
特許文献2に記載の方法における硫化物原料回収工程S23は、不純物を除去するためのものであるが、これも万能ではなく、硫化物の沈澱を作りやすい亜鉛等はニッケルと分離できない。そのため、結局そのままでは電池材料製造用のニッケル原料として使用することができず、ニッケル製錬プロセスS24で再度処理することによって、高純度のニッケルを得る必要がある。
【0030】
使用済みのニッケル水素電池に含まれる有価金属を回収して、電池材料用原料としてリサイクルするプロセス全体を考えた場合に、電池材料用原料として、ある程度の不純物が許容されるのであれば、湿式処理方法で高純度の金属として回収する必要は無い。これにより、硫化工程(硫化物原料回収工程S23)の省略や、ニッケル製錬プロセスS24のバイパスも可能である。
【0031】
つまり、使用済みのニッケル水素電池に含まれる有価金属を高純度の金属として回収して、電池用原料(電池材料)としてリサイクルするのでは無く、使用済みのニッケル水素電池に含まれる有価金属を、少量の不純物を含んだ状態で回収して、電池用原料としてリサイクルすることができるようになれば、製造工程の簡略化により、設備コストや運転コストを低減することができると考えられる。
【0032】
また、比較的単価の高い硫化剤を使用せずに、使用済みのニッケル水素電池に含まれる有価金属を回収することができるようになれば、薬剤コストの低減を図ることができる。更に、硫化水素ガスの発生に伴う排ガス処理設備の設置が不要となり、設備コストや運転コストの低減を図ることが可能となる。
【0033】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて考案されたものであり、使用済みのニッケル水素電池を前処理することにより得られた有価金属含有物を、硫酸溶液に混合して溶解することにより浸出液を得た後、ニッケル、コバルト、希土類元素、他の不純物を含む浸出液から、有用元素である希土類元素を分離する。次に、本発明は、硫化剤を使用することなく、ニッケル及びコバルトから微量の不純物を分離して、電池材料製造プロセスへニッケル及びコバルトを供給する。
【0034】
即ち、従来技術では、
図2に示すように、硫化物原料回収工程S23において、硫化処理によってニッケル・コバルト硫化物原料を製造し、ニッケル・コバルト硫化物原料をニッケル製錬プロセスS24にて処理する。
【0035】
これに対し、本発明では、ニッケル製錬プロセスをバイパスさせるプロセスを確立して、プロセス全体の低コスト化を図りつつ、更に安全性を向上させた廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記目的を達成するために、本発明者らは、特に希土類晶出工程で得られた脱希土類元素液に、酸化剤を添加した後に中和剤を供給し、不純物を沈澱物として分離し、その不純物が除去された硫酸ニッケル及び硫酸コバルトを含む混合水溶液を得る中和工程における、該混合溶液のpHと重金属濃度に着目して研究を重ねた。
【0037】
その結果、本発明者らは、中和工程における水溶液のpHを4.5以上6.0以下に維持することにより、電池材料用原料として使用可能な硫酸ニッケル及び硫酸コバルトを含む混合水溶液を製造することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0038】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法は、廃ニッケル水素電池より得られる有価金属含有物からニッケル、コバルト及び希土類元素を分離回収する方法であって、廃ニッケル水素電池より得られる有価金属含有物を、硫酸溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程と、浸出工程で得られた浸出液に、アルカリ金属の硫酸塩を添加して、希土類元素の硫酸複塩混合沈澱と脱希土類元素液とを得る希土類晶出工程と、希土類晶出工程で得られた脱希土類元素液に、酸化剤を添加した後に中和剤を添加し、脱希土類元素液のpHを4.5以上6.0以下に維持することにより、脱希土類元素液中の不純物を沈澱物として分離し、不純物が除去された硫酸ニッケル及び硫酸コバルトを含む混合水溶液を得る中和工程とを有
し、酸化剤が、空気、過酸化水素、ニッケル酸リチウムの粉および過硫酸ナトリウムのうちの少なくともいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法によれば、従来の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法とは異なり、硫化工程を経ずに有価金属を回収することができる。従って、有価金属回収プロセス全体で処理コストを低減することができる。
【0040】
更に、本発明の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法によれば、ニッケル製錬プロセスを経ずに電池材料となるニッケル及びコバルトを得ることができる。従って、上述の有価金属回収プロセスを含む電池材料製造プロセス全体で処理コストを半減することができる。
【0041】
本発明の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法によれば、中和工程で得られた硫酸ニッケル及び硫酸コバルトを含む混合水溶液を、電池材料用原料として用いることができる。これにより、廃ニッケル水素電池に含まれる有価金属を、電池用にリサイクル可能な金属として回収することが、経済的に成立するプロセスを確立することができる。
【0042】
本発明の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法によれば、硫化剤を使用していないため、硫化水素ガス発生のリスクが無くなることから、安全環境面での効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明に係る廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法における有価金属の回収プロセスの概略を示す工程図である。
【
図2】従来の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法における有価金属の回収プロセスの概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、以下の順序で図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
1.浸出工程
2.希土類晶出工程
3.中和工程
4.電池材料製造プロセス
【0046】
本実施の形態に係る廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法(以下では、単に「有価金属回収方法」と呼称する場合もある。)は、
図1に示すように、有価金属含有物に浸出処理を施し有価金属を含む浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程S11と、浸出工程S11で得られた浸出液に希土類晶出処理を施し希土類元素の硫酸複塩混合沈澱と脱希土類元素液とを得る希土類晶出工程S12と、希土類晶出工程S12で得られた脱希土類元素液に酸化処理を施した後に中和処理を施し中和澱物と有価金属混合溶液(硫酸ニッケル・コバルト混合溶液)とを得る中和工程S13とを有するものである。
【0047】
そして、有価金属回収方法では、希土類晶出工程S12で得られた脱希土類元素液を用いて中和工程S13で有価金属混合溶液が得られることにより、廃ニッケル水素電池から有価金属を回収することができる。また、中和工程S13で得られた有価金属混合溶液を、電池材料製造プロセスS14に供することにより、有価金属混合溶液から電池材料が作製され、得られた電池材料を用いて各種電池を製造することができる。
【0048】
[1.浸出工程]
浸出工程S11では、
図1に示すように、廃ニッケル水素電池に前処理を施して得られる有価金属含有物と硫酸溶液とを混合、加温して溶解することにより、有価金属を含んだ浸出液と浸出残渣とを得る。
【0049】
有価金属含有物中に含まれる有価金属のうち、例えば、ニッケル及び希土類元素の一つであるランタンは、下記式に従って溶解される。
Ni+H
2SO
4→NiSO
4+H
2・・・(式1)
2La+3H
2SO
4→La
2(SO
4)
3+3H
2・・・(式2)
【0050】
浸出液のpHとしては、特に限定されるものではないが、0以上5以下に維持することが好ましく、0以上1以下に維持することがより好ましい。浸出液のpHが0未満では、後工程で用いる中和剤が増加する。一方、浸出液のpHが5を超えると、ニッケル、コバルト等の有価金属の浸出率が低下する。
【0051】
浸出工程S11において、実用的な満足できる反応速度を得るには、強酸下で80℃以上の液温に維持して浸出することが好ましい。浸出工程S11では、例えば、濃度64%の硫酸を用いて浸出処理を施すことができる。
【0052】
また、浸出工程S11では、有価金属含有物と硫酸溶液とを混合、加温して溶解した後、過剰分の硫酸を中和するために、更に有価金属含有物を追加添加することもできる。次いで、得られた浸出液と浸出残渣とから成るスラリーを放冷し、その後、固液分離して浸出液を得る。スラリー濃度としては、特に限定されるものではないが、50g/L以上300g/L以下に調整することが好ましい。
【0053】
以上のように浸出工程S11では、ニッケル、コバルト、希土類元素等の有価金属が硫酸溶液中に浸出した浸出液を得ることができる。
【0054】
[2.希土類晶出工程]
次に、希土類晶出工程S12では、
図1に示すように、浸出工程S11で得られた浸出液に、アルカリ金属硫酸塩を添加して、希土類元素がアルカリ金属と結びついた硫酸複塩混合沈澱と、希土類を分離した硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液である脱希土類元素液とに分離し、希土類元素を回収する。
【0055】
希土類晶出工程S12では、例えば、浸出液中の希土類元素の一つであるランタンは、下記式3に従ってランタンとナトリウムの複塩(硫酸複塩混合沈澱)を生成する。
La
2(SO
4)
3+Na
2SO
4→2LaNa(SO
4)
2・・・(式3)
【0056】
希土類晶出工程S12では、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸アルカリ(アルカリ金属硫酸塩)を用いることが、より好ましい。
【0057】
反応時のpHとしては、特に限定されるものではないが、1以上5以下に維持することが好ましく、1以上3以下に維持することがより好ましい。即ち、希土類晶出工程S12では、反応時のpHが1以上5以下であるとき、希土類元素を沈澱として分離することができる。
【0058】
しかしながら、反応時のpHが3を超えると、ニッケル、コバルト、鉄、アルミニウム等の金属元素が硫酸複塩混合沈澱と共に沈澱する場合があるので、pHは1以上3以下の範囲に維持しながら、これらの金属元素を脱希土類元素液に残留させることがより好ましい。
【0059】
希土類晶出工程S12では、液温は、特に限定されるものではないが、50℃以上70℃以下が好ましい。液温が50℃未満では、実用的な満足できる反応速度が得られない。一方、液温の上限は特に限定されるものではないが、水分蒸発量やエネルギー効率を考慮すると、70℃以下が好ましい。
【0060】
[3.中和工程]
次に、中和工程S13では、
図1に示すように、希土類晶出工程S12で得られた脱希土類元素液に酸化剤を添加して酸化処理を施し、その後に中和剤を添加して中和処理を施し中和澱物と有価金属混合溶液(硫酸ニッケル・コバルト混合溶液)とを得て、有価金属混合溶液として有価金属を回収する。
【0061】
中和工程S13では、酸化剤として空気、過酸化水素、ニッケル酸リチウムの粉、過硫酸ナトリウム等を用いることができる。また、中和剤として水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等を用いることができる。これらの中では、カルシウムの混入の恐れがない水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0062】
酸化剤として空気又は過酸化水素を用いた場合には、脱希土類元素液の酸化還元電位が400mV(Ag/AgCl電極基準)程度まで上昇し、その後、中和剤を添加してpHを4.5以上6.0以下、より好ましくは5.4以上5.6以下、更に好ましくは5.5にする。この場合、中和工程S13では、アルミニウム、鉄、マンガン等の不純物が沈澱して中和澱物を形成し、不純物を除去することができる。
【0063】
一方、酸化剤としてニッケル酸リチウムの粉又は過硫酸ナトリウムを用いた場合には、脱希土類元素液の酸化還元電位が800mV(Ag/AgCl電極基準)以上に上昇し、その後、中和剤を添加してpHを4.5以上6.0以下、より好ましくは5.4以上5.6以下にする。この場合、中和工程S13では、特により多くのマンガンが沈澱して中和澱物を形成し、不純物を効率的に除去することができる。
【0064】
例えば、酸化剤としてリチウムイオン電池材料用原料であるニッケル酸リチウムの粉を用いた場合には、この酸化剤を脱希土類元素液に添加することで、酸化還元電位が上昇し、下記式4に従って、溶存する2価の鉄イオンを3価に酸化する。
2Fe
2++2H
++2LiNiO
2+3H
2SO
4
→2Fe
3++4H
2O+Li
2SO
4+2NiSO
4・・・(式4)
【0065】
中和工程S13では、その後、中和剤を添加して、脱希土類元素液中のpHを4.5以上6.0以下、より好ましくは5.4以上5.6以下にして不純物を沈澱する。なお、特許文献1の金属の回収方法では、この時のpHが3.5以上4.5以下であるが、本実施の形態に係る中和工程S13では、不純物の分離効率を高めるために、液中のpHを4.5以上6.0以下にする。
【0066】
脱希土類元素液中のアルミニウム、鉄及びマンガンは、下記式5乃至式7に従って沈澱し、中和澱物となる。
Al
3++3NaOH→Al(OH)
3+3Na
+・・・(式5)
Fe
3++3NaOH→Fe(OH)
3+3Na
+・・・(式6)
Mn
2++2LiNiO
2+3H
2SO
4
→MnO
2+Li
2SO
4+2NiSO
4+2H
2O+2H
+・・・(式7)
【0067】
以上で説明した通り、中和工程S13では、酸化処理及び中和処理を施した脱希土類元素液中に、有価金属であるニッケルやコバルトが残存するため、これをろ過し、得られた硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液(硫酸ニッケル・コバルト混合溶液)を、後述する電池材料製造プロセスS14において、電池材料製造用の原料とすることができる。
【0068】
なお、鉄を酸化するための設備(例えば、酸化反応槽)と不純物を沈澱させるための設備(例えば、中和反応槽)は共用とすることが可能であり、酸化と中和の同時処理も可能である。
【0069】
[4.電池材料製造プロセス]
電池材料製造プロセスS14では、
図1に示すように、中和工程S13で得られた硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液(硫酸ニッケル・コバルト混合溶液)を原料とする。硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液中の硫酸分は、最終的に廃液処理工程から硫酸ナトリウムの形で排出する。
【0070】
この硫酸ナトリウムが所定の濃度以上であれば、希土類晶出工程S12で使用するナトリウム塩として利用することが可能であり、処理に必要となる薬剤コストを低減させることが可能となる。
【0071】
以上の通り、有価金属回収方法は、希土類晶出工程S12において、硫酸複塩混合沈澱として希土類元素を、選択的に分離して回収することができる。また、中和工程S13において、硫酸ニッケル及び硫酸コバルトを含む混合水溶液(硫酸ニッケル・コバルト混合溶液)としてニッケル及びコバルトを、選択的に回収することができる。
【0072】
これにより、有価金属回収方法では、従来の廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法とは異なり、硫化工程を経ずに有価金属を回収することができる。従って、有価金属回収プロセス全体で処理コストを低減することができる。
【0073】
更に、有価金属回収方法では、ニッケル製錬プロセスを経ずに電池材料を作製することもできるので、上述の有価金属回収プロセスを含む電池材料製造プロセス全体で処理コストを半減することができる。
【0074】
有価金属回収方法では、中和工程で得られた硫酸ニッケル及び硫酸コバルトを含む混合水溶液を、電池材料用原料として用いることができる。これにより、廃ニッケル水素電池に含まれる有価金属を、電池用にリサイクル可能な金属として回収するプロセスとして確立することができる。また、このプロセスは、経済的に成立しており、非常に有用である。
【0075】
有価金属回収方法では、硫化剤を用いることなく、有価金属であるニッケル及びコバルトを回収できることにより、硫化剤の使用に伴う薬剤コストを低減することができる。
【0076】
更に、有価金属回収方法では、硫化剤の不使用により、硫化水素ガスの発生に伴う排ガス処理設備における設備コストや運転コストを無くすことができる。これにより、有価金属回収方法では、硫化水素ガス発生のリスクが無くなることから、安全環境面での効果も期待できる。
【実施例】
【0077】
以下に示す実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
実施例1では、廃ニッケル水素電池に前処理を施して得られる有価金属含有物を原料とした。この原料には、浸出しにくい金属片状のものと、浸出しやすい粉状のものの2種類があるが、実施例1ではこれらを処理対象とし、後述する浸出工程において、浸出処理に供した。また、実施例1では、効率的な浸出を実現するために、処理対象となる原料の浸出は2段階で行った。
【0079】
<浸出工程>
浸出工程では、金属片状の原料25kgをカラム槽に投入し、水300Lを循環させながら59%硫酸120Lを段階的に供給し、1段階目の酸濃度の濃い浸出液を得た。
【0080】
次に、浸出工程では、粉状の原料65kgを撹拌機付きの浸出槽に投入し、150Lの水を供給して、撹拌しながら1段階目の浸出液350Lを段階的に供給した。粉状の原料は、1段階目の浸出液に含まれる余剰硫酸で浸出されることとなり、浸出残渣をフィルタープレスでろ過後、最終的にpH1.0、ニッケル濃度110g/Lの浸出液を得た。
【0081】
<希土類晶出工程>
希土類晶出工程では、予め撹拌機付きの槽に180g/Lの硫酸ナトリウム溶液140Lを張り込んでおいた。次に、希土類晶出工程では、この槽に浸出工程で得られた浸出液140Lを投入し、60℃を保持したまま3時間撹拌を継続した。その後、フィルタープレスでろ過し、沈澱生成した希土類硫酸複塩を分離した硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液280Lを得た。この時のニッケル濃度は42g/Lであった。
【0082】
<中和工程>
中和工程では、希土類晶出工程で得られた硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液が、ニッケル濃度41g/L、コバルト濃度6.3g/L、アルミニウム濃度1.1g/L、鉄濃度0.83g/L及びマンガン濃度1.7g/Lであるものを出発物質として使用した。
【0083】
中和工程では、硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液0.25Lに酸化剤としてリチウムイオン電池製造用のニッケル酸リチウムの粉を1.8g添加し、60℃、pH2.4をキープするよう、硫酸供給流量及びウォーターバスを制御した。
【0084】
次に、中和工程では、酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)が970mVに到達した時点で上澄み液をサンプリングし、常温まで放冷した。
【0085】
その後、中和工程では、得られた上澄み液に苛性ソーダ(中和剤)をpH5.5まで添加した後に、ろ過して不純物を澱物(中和澱物)として硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液から分離した。
【0086】
中和工程では、回収した澱物は2.0gであり、ろ液(硫酸ニッケル・コバルト混合溶液)は0.27Lであった。
【0087】
また、得られた澱物及びろ液について、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法を用いて分析した各分析値は表1及び表2の通りであった。なお、表1の下段にある「中和pH2.4ろ液」の各分析値は、苛性ソーダを添加する前のサンプリングした上澄み液について測定した結果である。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
実施例1では、表1及び表2に示す通り、ニッケルとコバルトが僅かながら澱物側に移行し、有価金属の回収という意味では若干のロスとなっていたが、略全量のアルミニウムと鉄を分離することができ、マンガンも80%程度の分離が可能という結果になった。
【0091】
(比較例1)
廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収方法では、硫化剤を使用しない不純物分離という意味で、中和工程で水酸化ニッケルの形態で沈澱を作り、不純物をろ液側に残すという分離方法も考えられる。
【0092】
そこで、比較例1では、中和工程において酸化剤を添加せずに、所定pH値の上限を超えて中和剤を添加した以外は実施例1と同様にして、廃ニッケル水素電池からの有価金属の回収を試みた。
【0093】
<中和工程>
中和工程では、希土類晶出工程で得られた硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液が、ニッケル濃度40g/L、コバルト濃度6.0g/L、アルミニウム濃度1.1g/L、鉄濃度0.85g/L及びマンガン濃度1.7g/Lであるものを出発物質として使用した。
【0094】
中和工程では、硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液0.25Lに中和剤として苛性ソーダをpH8まで添加した後に、ろ過して水酸化ニッケル澱物を硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液から分離した。
【0095】
中和工程では、回収した澱物は45gであり、ろ液は0.22Lであった。
【0096】
また、得られた澱物及びろ液について、実施例1と同様にしてICP発光分光分析法を用いて分析した各分析値は表3及び表4の通りであった。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
比較例1では、表3及び表4に示す通り、出発物質に含まれるマンガンの含有量の半分程度をろ液に残して分離することができたが、略全量のアルミニウムと鉄がニッケル側(中和澱物側)へ移行するという結果になった。即ち、比較例1では、有価金属であるニッケル及びコバルトと、不純物であるマンガン、アルミニウム及び鉄との分離が十分でなかった。
【0100】
従って、実施例1では、希土類晶出工程で得られた硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液に、硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液の酸化還元電位が800mV(Ag/AgCl電極基準)以上となるように酸化剤を添加した後に、硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液のpHが4.5以上6.0以下となるように中和剤を添加した。
【0101】
その結果、実施例1では、硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液中の不純物であるマンガン、アルミニウム及び鉄を中和澱物として分離し、不純物が除去されたろ液として硫酸ニッケル及び硫酸コバルトを含む混合水溶液を得て、有価金属であるニッケル及びコバルトを回収できることが確認できた。
【0102】
一方、比較例1では、希土類晶出工程で得られた硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液に、酸化剤を添加することなく、硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液のpHが6.0を超過するように中和剤を添加した。
【0103】
その結果、比較例1では、不純物であるアルミニウム及び鉄が、有価金属であるニッケルを含む澱物中に移行してしまい、不純物を選択的に分離することができず、不純物分離性能に劣り、有価金属の回収方法としては問題のあることがわかった。