特許第6201915号(P6201915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6201915カソード及びこれを用いた金属水酸化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201915
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】カソード及びこれを用いた金属水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/02 20060101AFI20170914BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20170914BHJP
   C25B 1/00 20060101ALI20170914BHJP
   C25B 11/03 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C25B11/02 301
   C01G15/00 B
   C25B1/00 Z
   C25B11/03
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-135338(P2014-135338)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-14163(P2016-14163A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2016年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】森本 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】加茂 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】菅本 憲明
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 剛
(72)【発明者】
【氏名】川上 哲史
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−153958(JP,A)
【文献】 特開2000−107762(JP,A)
【文献】 特開平06−338335(JP,A)
【文献】 特開平10−298791(JP,A)
【文献】 特開2013−208528(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/015032(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
C01G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面側から見た下方両端部の曲率半径Reが3mm以上であり、両主面の凹凸の程度を表す平均算術粗さRaが3mm以下であカソードと、
インジウム又はスズからなるアノードとを用い、
電極間距離が10mm以上50mm以下、且つ電流密度が5A/dm以上25A/dm以下で、インジウム又はスズの電解を行うことを特徴とする金属水酸化物の製造方法。
【請求項2】
上記カソードは、板状、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網状、多孔体の何れかの形状であることを特徴とする請求項1に記載の金属水酸化物の製造方法。
【請求項3】
少なくとも、
主面側から見た下方両端部の曲率半径Reが3mm以上であり、両主面の凹凸の程度を表す平均算術粗さRaが3mm以下であるカソードと、
インジウム又はスズからなるアノードと、
電流密度が5A/dm以上25A/dm以下となるように調整可能な電源とを備え、
上記アノードと上記カソードの電極間距離が10mm以上50mm以下となるように配置されたことを特徴とする金属水酸化物の製造用電解槽。
【請求項4】
上記カソードは、板状、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網状、多孔体の何れかの形状であることを特徴とする請求項3に記載の金属水酸化物の製造用電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の電解において、デンドライトの析出を抑制し、純度の高い金属水酸化物を効率良く電解回収することのできるカソードに関するものである。特に、そのカソードを用い、インジウム又はスズを電解して水酸化インジウム又は水酸化スズを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
端末タブレットPCや太陽電池電極等には、透明電極材料としてインジウムスズ酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)を用いたスパッタリング法による導電性膜が広く採用されている。ここで使用されるITOスパッタリングターゲット材料には、その材料の寿命や成膜された膜の均質性等のために高純度性且つ高密度性が要求されている。
【0003】
ITOの製造において有効な工業的調整方法として、幾種類か挙げることができる。例えば、インジウムやスズの塩化物塩や硝酸塩を、アンモニア水等のアルカリにより中和沈澱させた後、濾過分離、乾燥して得られた水酸化物を仮焼する方法がある(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の方法は、最も一般的であるが、複製される濾過液が排水として公害を起こさないような処理をしなければならないという課題が随伴している。
【0004】
これに対して、電解によりインジウムやスズを水酸化物として単離する方法がある(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に記載の方法を用いた場合には、電解液を再利用できるため、排出する必要がなく環境負荷が生じない。
【0005】
特許文献2に記載の電解法では、一定規模のもと、生産性を向上させるために電流密度を高める対策がとられることがあるが、電流密度が高くなりすぎると、金属水酸化物の沈澱物にアノード金属粒子が混入する問題が生じる場合がある。これは、アノード金属が電解され金属水酸化物として沈澱反応を開始する前に、イオンの一部がカソードに達して金属として析出する反応を起こしたことによる。
【0006】
一般に、この析出物は、デンドライトと称される樹枝状に成長する。デンドライトは、金属水酸化物の沈澱粒子とは異なる粗粒であり、その金属水酸化物を乾燥及び仮焼した後に得られる酸化物も、金属水酸化物から得られる酸化物よりも粗粒であり、形状も異なる。従って、デンドライトの含有量が多くなると、乾燥及び仮焼後に得られる酸化物の性状がより不均質になり、ITOスパッタリングターゲット材料の高密度性が損なわれるという問題が生じてしまう。
【0007】
この問題に対して、インジウムをアノードとし、電解液中で金属水酸化物を析出させる際に、電解液をインジウムアノードとカソードとの間で回流させることにより、デンドライトの析出物量を低減する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3314388号公報
【特許文献2】特許第2829556号公報
【特許文献3】特開2013−036074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、装置が大掛かりになり、且つカソードの表面状態によっては、デンドライトの成長を防止することができない。従って、デンドライトの成長問題に対して十分な解決策を与えておらず、この課題に対する改善技術が広く開示されているとは言い難い。
【0010】
デンドライドが析出した場合には、インジウムやスズ等の金属の電解により生成した水酸化物に粗粒物質が混入してしまう。このような粗粒粒子が混入した水酸化物を乾燥、仮焼して得られた酸化物を用いたITOスパッタリングターゲット等の焼結体は、焼結密度が低下してしまう。
【0011】
従って、本発明は、デンドライトの成長を抑制することが可能なカソード及びこれを用いた金属水酸化物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、電解法で金属水酸化物を得る際に、デンドライトが析出して成長する条件を鋭意検討した。その結果、カソードの主面側から見た下方両端部の曲率半径Re及び両主面の凹凸の程度を表す平均算術粗さRaを、所定の数値範囲に収めることにより、デンドライトの析出及び成長により粗粒物質の混入を抑制することができることを見出した。
【0013】
また、本発明者らは、曲率半径Re及び平均算術粗さRaを所定の数値範囲に収めたカソードを用いた金属の電解による金属水酸化物の製造方法において、電極間距離及び電流密度を所定の数値範囲に収めることにより、更に効率的にデンドライトの析出及び成長により粗粒物質の混入を抑制し、所望の金属水酸化物を生成することができることを見出した。
【0014】
即ち、本発明に係る金属水酸化物の製造方法は、主面側から見た下方両端部の曲率半径Reが3mm以上であり、両主面の凹凸の程度を表す平均算術粗さRaが3mm以下であカソードと、インジウム又はスズからなるアノードとを用い、電極間距離が10mm以上50mm以下、且つ電流密度が5A/dm以上25A/dm以下で、インジウム又はスズの電解を行うことを特徴とする。
【0015】
また、上述のカソードは、板状、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網状、多孔体の何れかの形状であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る金属水酸化物の製造用電解槽は、少なくとも、主面側から見た下方両端部の曲率半径Reが3mm以上であり、両主面の凹凸の程度を表す平均算術粗さRaが3mm以下であるカソードと、インジウム又はスズからなるアノードと、電流密度が5A/dm以上25A/dm以下となるように調整可能な電源とを備え、アノードとカソードの電極間距離が10mm以上50mm以下となるように配置されたことを特徴とする。
【0017】
また、上述のカソードは、板状、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網状、多孔体の何れかの形状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るカソードによれば、金属の電解による水酸化物の生成において、電解液が回流した際に乱流が発生することを抑制して、デンドライトの析出及び成長を抑えることができる。
【0020】
本発明に係る金属水酸化物の製造方法によれば、金属の電解による金属水酸化物の生成において、更に効率的にデンドライトの析出及び成長を抑えることで、粗粒物質の混入が抑制された金属水酸化物を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明を適用した板状のカソードを模式的に示した図である。
図2】本発明を適用した板状のカソードを用いた場合の電解液の流れを模式的に示した図である。
図3】算術平均粗さRaについて説明するための図である。
図4】本発明を適用したエキスパンドメタルのカソードを模式的に示した図である。
図5】本発明を適用したパンチングメタルのカソードを模式的に示した図である。
図6】実施例及び比較例で用いた電解装置の概略図である。
図7】実施例及び比較例で用いた電解装置におけるカソードとアノードの配置を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照して以下に示す項目に沿って詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0023】
1.本実施の形態の概要
2.アノード
3.カソード
4.電解液
5.両電極の配置
6.電解の条件
7.金属水酸化物の製造
8.まとめ
【0024】
<1.本実施の形態の概要>
本実施の形態に係る金属水酸化物の製造方法は、原料となる金属のアノード(陽極)と、本実施の形態に係るカソード(陰極)と、濃度、pH、溶解度等を調整した電解液とを用い、金属の電解反応を利用して金属水酸化物を製造する方法である。
【0025】
以下、金属水酸化物の製造方法で用いる電極及び電解の条件について説明した後、より詳細な金属水酸化物の製造方法について説明する。
【0026】
<2.アノード>
アノードは、水酸化インジウムを製造する場合には、例えば金属インジウム等を用いる。使用する金属インジウムは、特に限定されないが、酸化インジウムへの不純物の混入を抑制するため、高純度のものが望ましい。適切な金属インジウムとしては、例えば純度99.9999%(通称6N品)が好適品として使用される。
【0027】
水酸化スズ粉を製造する場合には、アノードに例えば金属スズ等を用いる。使用する金属スズは、特に限定されないが、金属インジウムと同様にして、高純度のものが望ましい。
【0028】
アノードの大きさは、生産規模に応じて決定するが、工業的な面を考慮して、縦横10cm以上であることが好ましい。また、アノードの形状は金属水酸化物の製造に悪影響を及ぼすものでなければ特に限定されないが、詳細は後述するカソードと同様の形状であってもよい。その形状としては、例えば、板状、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網状、多孔体等が挙げられる。
【0029】
アノードの厚みは、電解の時間と目標の製造量に見合うように決定することができる。ここでは、電極間距離が電解工程時間中に著しく変わらない程度の厚みにすることが好ましい。また、電解中の保持や取扱いの点からも、いたずらに厚くして重量を重くすることは好ましくない。従って、アノードの厚みは、2mm以上15mm以下とすることが好ましい。
【0030】
アノードは、電解の際に、電解槽に懸垂させて直流電源の給電部と接続して通電させることが必要である。そのため、アノードには、上方両端部に給電部と導通する接触部が設けられている。この給電部は、アノードと一体に形成されていてもよいし、別体であってもよい。
【0031】
<3.カソード>
カソードは、チタンや白金等のイオン化傾向の低い導電性の金属材料や、カーボン電極を準備することが好ましく、例えば不溶性のチタン等を用いることができる。なお、カソードには、アノードと同じ材料を利用してもよい。
【0032】
カソードの大きさは、生産規模に応じて決定するが、工業的な面を考慮して、縦横10cm以上であることが好ましい。
【0033】
ここで、電流密度が高くなるとアノード金属の電解速度が高まり、電解液中に含まれるアノード金属のイオンの濃度が高くなることにより、金属水酸化物の生成効率が向上する。その一方で、電解液中に含まれるアノード金属イオンの濃度が高くなり過ぎると、金属水酸化物にならずに金属として再析出しやすくなる。
【0034】
そのため、詳細は後述するが、電極間でアノード金属イオンの濃度が局部的に高くならないように電解液を回流させている。
【0035】
しかしながら、従来のカソードは、四角形状のものが多く、その下方両端部が略直角のような角になっている。このようなカソードを用いた場合には、電解液が回流した際に、特にカソードの主面側から見た下方両端部、即ち角端部において電解液の回流が妨げられて乱流が発生し、電解液が十分に回流しない領域が生じることがある。その領域とは、主にカソードの底面部側に位置する領域である。そこで、本発明者らは、電解液中の乱流の発生を防ぐことが可能となるように、カソードの形状を改良した。
【0036】
具体的には、図1に示すようなカソード10である。カソード10は、板状であり、電解液に浸漬しているカソード10の正面から見た、即ち主面11a,11b側から見た下方端部12a,12bの曲率半径Reが3mm以上となるように、それぞれ円弧状に形成されている。
【0037】
カソード10は、主面11a,11b側から見た下方端部12a,12bの曲率半径Reが3mm以上となるように形成されているので、図2の矢印で示すように、電解液が上方から下方に向って流れ、下方端部12a、12bの近傍に流れてきたときに、電解液が円滑に底面部14側に流れ込みやすくなる。これにより、このようなカソード10を用いた場合には、電解液の回流を妨げることがない。従って、電解槽内の全領域において、電解液中のアノード金属イオンを偏在させることなく、アノード金属イオンの濃度を均一にすることができる。
【0038】
下方端部12a,12bの曲率半径Reは、例えば下方端部12aを一つの円の一部であると見なしたときの、その円の半径で表わされる。曲率半径Reが3mm未満の場合には、電解液中の下方端部12a,12b近傍における乱流の発生が収まらず、アノード金属イオンの濃度が局部的に高くなる。つまり、曲率半径Reが小さくなるほど下方端部12a,12bの形状が角に近づくので、電解液の流れが阻害され、その結果、下方端部12a,12bにデンドライトが析出しやすくなる。従って、カソード10では、下方端部12a,12bの曲率半径Reを3mm以上とすることが好ましい。
【0039】
なお、カソード10では、下方端部12a,12b以外を円弧状に形成してもよい。例えば、主面11a,11b側から見た下端部13a,13bを円弧状に形成してもよいし、底面部14を円弧状に形成してもよい。このように、下端部13a,13bを円弧状に形成し、或いは底面部14を円弧状に形成することで、更に電解液が回流した際にカソード10の下端部13a,13bや底面部14側で乱流が発生することを抑制して、デンドライトの析出を抑えることができる。
【0040】
カソード10では、電解による劣化等によりカソード10の主面11a,11bの凹凸の程度が大きくなり過ぎると、主面11a,11bに形成された凹凸の近傍において、凹凸により電解液の回流が妨げられる。これにより、主面11a,11bの凹凸近傍において、乱流が発生し、アノード金属イオンの濃度が局部的に高くなる領域が生じるため好ましくない。
【0041】
カソード10の主面11a,11bの凹凸の程度は様々な尺度で表される。本発明者らは、カソード10の主面11a,11bの凹凸の程度を、一般的な凹凸の尺度の一つである算術平均粗さRa(日本工業規のJIS B0601(1994)を参照)で規定することが、最も適切であることを見出した。
【0042】
そこで、カソード10は、図3に示すように、粗さ曲線からその平均線の方向にX軸を、カソード10の主面11a,11bの凹凸の深さに該当する縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をY=f(X)とした場合に、下記式により算出される算術平均粗さRaを3mm以下とする。
【0043】
【数1】
【0044】
カソード10の主面11a,11bの算術平均粗さRaが3mmより大きくなると、主面11a,11bの凹凸により電解液の回流が妨げられる。これにより、主面11a,11bの凹凸近傍でアノード金属イオンの濃度が局部的に高くなる領域が発生し、デンドライトが析出しやすくなるため好ましくない。
【0045】
従って、ここでは、主面11a,11bから見た下方端部12a,12bの曲率半径Reが3mm以上であり、主面11a,11bの算術平均粗さRaが3mm以下のカソード10を用いることで、電解液の回流を妨げる要因を無くすことができ、電解液中での乱流の発生を抑制し、デンドライトの析出を抑えることができる。
【0046】
カソード10では、その主面11a,11bから見た上方端部15a,15bに、水平方向の外方に張り出した接触部16a,16bが設けられている。金属水酸化物の製造方法では、カソード10に接触部16a,16bが設けられることで、直流電源の給電部と接続して通電させることができる。更に、例えば、カソード10を電解槽に所定の方法で懸架することができる。なお、接触部16a,16bのサイズや形状等は、これらに限定されるものではない。また、接触部16a,16bは、図1のようにカソード10と一体に形成されずに、別体となるように形成されてもよい。
【0047】
また、カソード10の形状は、上述した曲率半径Re及び算術平均粗さRaを有し、電解液の回流を妨げる要因を無くすことができ、電解液中での乱流の発生を抑制し、デンドライトの析出を抑えることができれば、図1に示すような板状に限定されるものではない。
【0048】
例えば、図4に示すようなエキスパンドメタルのカソード20を用いてもよい。ここでは、図1に示すカソード20と同じ機能を有する構成要素については、説明を省略する。また、後述する図5のカソード30についても同様とする。
【0049】
図4に示すカソード20は、図1に示すカソード10と同様にして、主面21a,21bから見た下方端部22a,22bの曲率半径Reが3mm以上となるように、また、主面21a,21bの算術平均粗さRaが3mm以下となるように形成されている。また、カソード20の上方端部25a,25bには、水平方向の外方に張り出した接触部26a,26bが設けられている。
【0050】
カソード20は、主面21a,21bを貫通した菱形又は亀甲形等の孔部27が形成されることで、網目状に加工された電極である。即ち、カソード20は、所定厚の金属板に多数のスリットを交互に形成し、このスリットと直行する方向に板材を引き延ばすラス加工を施して、網目状に加工したエキスパンドメタルを用いたものである。
【0051】
カソード20に孔部27を形成したことにより、電極間に存在する電解液が、確実に電極間を回流できるようになる。従って、エキスパンドメタルのカソード20を用いることで、より効果的に電解液における乱流の発生を抑制し、デンドライトの析出を防止することができる。
【0052】
また、図5に示すようなパンチングメタルのカソード30を用いてもよい。図5のカソード30は、図1に示すカソード10と同様にして、主面31a,31bから見た下方端部32a,32bの曲率半径Reが3mm以上となるように、また、主面31a,31bの算術平均粗さRaが3mm以下となるように形成されている。また、カソード30の上方端部35a,35bには、水平方向の外方に張り出した接触部36a,36bが設けられている。
【0053】
カソード30は、主面31a,31bを貫通した略円形の孔部37が形成された電極である。即ち、カソード30は、所定厚の金属板に金型で多数の孔を開けるパンチング加工を施したパンチングメタルを用いたものである。
【0054】
カソード30に孔部37を形成したことにより、電極間に存在する電解液が、確実に電極間を回流できるようになる。従って、パンチングメタルのカソード30を用いることで、より効果的に電解液における乱流の発生を抑制し、デンドライトの析出を防止することができる。
【0055】
なお、図4及び図5に示したカソード20,30は一例であり、孔部27,37の形状、大きさ、数、間隔等はこれらに限定されるものではない。
【0056】
更に、上述したカソード20,30の他に、網状や多孔体のカソードを用いてもよい。これらのカソードを用いても、カソード10と同様にして、デンドライトの析出を防止することができる。ワイヤーを編み込んだ網状カソードを用いる場合には、ワイヤー同士が点接触している個所で部分的な抵抗が高まりやすいので、点接触部分の溶接や高温溶着処理等を施すことにより、問題なく利用することができる。
【0057】
<4.電解液>
電解液として、水溶性の硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩等の一般的な電解質塩の水溶液を用いることができる。それらの中でも、金属水酸化物を沈澱した後の乾燥、仮焼後に不純物の残らない硝酸アンモニウムを使用した硝酸アンモニウム水溶液が好ましい。
【0058】
また、電解液には、金属水酸化物の溶解安定性を向上させるために、クエン酸や酒石酸、グリコール酸等の含酸素キレート化合物やEDTA等の含窒素キレートを、必要に応じ添加してもよい。
【0059】
電解液の濃度は、0.1mol/L以上2.0mol/L以下とする。電解液の濃度が低いほど安価となるが、電解液の濃度が0.1mol/Lよりも低い場合には、電解液の電気伝導率が低すぎて電流が生じない、又は必要電圧が実用範囲を超すため好ましくない。
【0060】
一方、電解液の濃度を2.0mol/Lとすれば、十分な電気伝導率を確保することができる。従って、電解液の濃度を2.0mol/Lよりも高くすると不経済となるため、これ以上高くする必要はない。
【0061】
電解液のpHは、2.5以上5.0以下の範囲とする。pHが2.5より小さい場合には、金属水酸化物の沈澱が生じない。一方、電解液のpHが5.0より大きい場合には、金属水酸化物の析出速度が速すぎて濃度不均一のまま沈澱が形成されるため、粒度分布幅が広くなり好ましくない。
【0062】
電解液の液温は、20℃〜60℃とする。液温が20℃より低い場合には、金属水酸化物の析出速度が遅くなり過ぎ、一方、60℃より高い場合には、析出速度が速くなり過ぎて、濃度不均一のまま沈澱が形成されるため粒度分布幅が広くなり、粒度分布幅を小さく制御することができないため好ましくない。
【0063】
電解液は、生成された金属水酸化物の溶解度が10−6mol/L以上10−3mol/L以下の範囲であることが好ましい。金属水酸化物の溶解度が10−6mol/Lよりも低い場合には、アノードから溶け出した金属イオンが核化しやすくなるため、一次粒子径が微細化し過ぎてしまう。一次粒子径が微細化し過ぎた場合には、後の金属水酸化物の分離回収が困難となるため好ましくない。
【0064】
一方、金属水酸化物の溶解度が10−3mol/Lよりも高い場合は、粒成長が促進されるため、一次粒子径が大きくなる。このため、粒子を成長させるほど、成長する粒子と成長しない粒子の間で粒子径の違いが大きくなる。粒子径の違いは、凝集の度合いに影響を与えるため、結果として粒度分布の幅が広くなってしまう。金属水酸化物の粒度分布の幅が広くなると、金属水酸化物を仮焼して得られる金属酸化物粉の粒度分布の幅も広くなり、これを焼結して得られるスパッタリングターゲットの密度は高密度となり難いため好ましくない。
【0065】
従って、電解液は、金属水酸化物の溶解度が10−6mol/L以上10−3mol/L以下の範囲であればよく、電解液の濃度、pH、液温等により溶解度を制御することができる。
【0066】
<5.両電極の配置>
カソードとアノードは、電解液の撹拌による液流により、接触することがないようしっかりと固定されていることが好ましい。
【0067】
ここでは、アノードとカソードとを交互に平行に配置させて、電解液(電解質溶液又は融解塩)に浸漬させた状態で両者に直流電流を流し、電極面に化学変化を起こさせて物質を分解するという、一般的な方法を用いることができる。
【0068】
カソードとアノードは、後述する電流密度の数値範囲を確保して、電圧を効率的に制御するために、アノードとカソードの間隔を一定にすることが好ましい。従って、アノードとカソードとを互いに平行で等間隔に配置することが好ましい。
【0069】
<6.電解の条件>
ここでは、電流密度の設定値の増加に従い、デンドライトが析出しやすくなる傾向にあるため、電流密度は5A/dm以上25A/dm以下とすることが好ましい。電流密度が5A/dm未満では、生産速度が低く、生産効率が悪いので好ましくない。一方、電流密度が25A/dmより高いとデンドライトが析出しやすくなるため好ましくない。
【0070】
ここでは、電解において電極間距離が近すぎるとデンドライトが析出しやすくなるため、電極間距離は10mm以上が好ましい。しかしながら、一定の電流密度を維持するためには、電極間距離が遠くなるに従い、印加する電圧を上げる必要がある。印加電圧が高過ぎるのは安全上好ましくないため、金属水酸化物の製造方法では、印加電圧を上げすぎないようにするために、電極間距離を50mm以下にするのが好ましい。従って、金属水酸化物の製造方法における電極間距離は、10mm以上が好ましく、10mm以上50mm以下がより好ましい。
【0071】
電流密度の増加や両電極の接近に伴って析出するデンドライトは、水酸化インジウムの製造方法においては金属インジウムで形成され、水酸化スズ粉の製造方法においては金属スズで形成されている。カソードの主面側に形成されるこれらの金属成分は、電解中に容易にカソードの主面側から分離し、電解後には水酸化物にデンドライトが混入した状態で回収される。これらの金属成分は、回収した水酸化物を仮焼した際に酸化物形態に転換される。
【0072】
しかしながら、仮焼後の酸化物であっても、デンドライトの混入により水酸化物の粗粒状態が維持されるため、水酸化物の粒度との違いから、酸化物の粒度分布を悪化させてしまう。その結果、この酸化物を用いてスパッタリングターゲット等に焼結した際に、焼結密度が十分高くならないという不具合が発生することがある。従って、ここでは、デンドライトを水酸化物に極力混入させないことが好ましい。
【0073】
<7.金属水酸化物の製造>
原料とする金属のアノード(陽極)とカソード(陰極)とを所定位置に配置し、これらを電解液に浸漬して両極間に電位差を発生させ電流を生じさせることで、アノード金属の溶解が進行する。
【0074】
次いで、電解において、電解液のpHを金属水酸化物の溶解度より低い状態となる領域に制御することにより、金属水酸化物スラリーが晶析して金属水酸化物の沈澱を生じさせ、金属水酸化物を得る。
【0075】
例えば、アノードに金属インジウム(In)を用いて水酸化インジウム(In(OH))を製造する場合には、下記式1乃至式3に示す通りに電解による晶析反応が進行し、水酸化インジウムを得ることができる。
【0076】
陰極:(主)6NO + 24H + 18e → 6NO + 12HO…(式1)
(副)18HO + 18e → 9H + 18OH…(式2)
陽極:6In + 18OH → 6In(OH) + 18e…(式3)
【0077】
ここでは、アノード金属イオン濃度を均一にするために電解液を撹拌して回流を生じさせており、例えば、カソードの周辺では上方から下方に向かって電解液が回流している。しかしながら、カソードの下方両端部で電解液の流れが堰き止められて乱流が発生するため、底面部付近の電解液が十分に回流しない領域(澱み)が生じてアノード金属イオン濃度が部分的に高くなる。そして、アノード金属イオン濃度が局所的に上昇した箇所に、デンドライトが析出しやすくなる。
【0078】
そこで、例えば、図1に示すようなカソード10を用いてカソード10の底面部14側に生じた電解液の澱みを解消し、デンドライトの析出を抑制する。即ち、カソード10は、主面11a,11b側から見た下方端部12a,12bの曲率半径Reが3mm以上となるように、それぞれ円弧状に形成されている。これにより、例えば、図2の矢印で示すように、カソード10の上方から下方に向かって流れている電解液が、下方端部12a,12bで堰き止められずに底面部14側に流れ込みやすくなることで、乱流の発生を抑制し、カソード10の底面部14側に生じた電解液の澱みを解消することができる。その結果、電解液中のアノード金属イオン濃度が均一化され、主面11a,11b側から見た下方端部12a,12bにおけるデンドライトの析出を抑制することができる。
【0079】
また、従来では、金属の電解による劣化等によりカソードの両主面の凹凸の程度が大きくなり過ぎると、両主面に形成された凹凸の近傍において、カソードの上方から下方に向かって流れている電解液の回流を妨げてしまい乱流が発生する。その結果、両主面の凹凸近傍において、アノード金属イオン濃度が部分的に高くなり、デンドライトが析出しやすくなる。
【0080】
そこで、カソード10を用いて、カソード10の主面11a,11b近傍のアノード金属イオン濃度の局所的な上昇を抑制する。即ち、カソード10は、主面31a,31bの算術平均粗さRaが3mm以下となるように形成されている。これにより、図2の矢印で示すように、カソード10の上方から下方に向かって流れている電解液が、主面11a,11b側で堰き止められずに下方端部12a,12b側に流れ込みやすくなることで、乱流の発生を抑制し、アノード金属イオン濃度の局所的な上昇を抑制することができる。その結果、電解液中のアノード金属イオン濃度を均一化することができ、カソード10の主面11a,11b近傍におけるデンドライトの析出を抑制することができる。
【0081】
<8.まとめ>
以上で説明した通り、金属水酸化物の製造方法で用いるカソードは、主面側から見た下方両端部の曲率半径Reが3mm以上であり、両主面の算術平均粗さRaが3mm以下である。
【0082】
このようなカソードを、例えばインジウムやスズ等の金属の電解による水酸化物の生成において用いることで、電解液中の乱流の発生を抑制すると共に澱みを解消して、アノード金属イオン濃度の均一化を図り、デンドライトの析出及び成長を抑えることができる。
【0083】
また、上述した通りのカソードを用いて金属水酸化物の製造を行う場合に、電極間距離が10mm以上50mm以下、且つ電流密度が5A/dm以上25A/dm以下でインジウムやスズ等の金属の電解を行うことで、更に効率的にデンドライトの析出及び成長を抑えることができる。そして、金属水酸化物への粗粒物質の混入を抑制し、水酸化インジウムや水酸化スズ等の金属水酸化物を生成することができる。
【0084】
金属水酸化物への粗粒物質の混入を抑制し、水酸化インジウムや水酸化スズ等の金属水酸化物を生成した結果、その水酸化物を乾燥及び仮焼して得られた酸化物粉を使用して、ITOスパッタリングターゲット等の焼結体を作製することができる。そして、得られた焼結体の焼結密度の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0085】
実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例では、図6に示す電解装置40を用いて水酸化インジウムの生成を行った。電解装置40の具体的な構成については、実施例1において説明する。
【0086】
(実施例1)
<アノードの準備>
実施例1では、図6及び図7に示す電解装置40で用いるために、厚さ8mm、縦349mm、横260mmのサイズのインジウムアノード41(陽極)を、次なる鋳型を用いて溶解鋳造により製造した。まず、厚み30mm、縦400mm、横300mmのカーボングラファイト製の板の内側に、深さ15mmで底部が縦349mm、横260mmの凹部を有する鋳型を製作した。
【0087】
次に、実施例1では、30cm×30cmの大型ホットプレート(アズワン社製、HP−A2234M)に2Lのステンレス鍋を乗せ、その中に5000gのインジウム金属を入れた。この状態で、ホットプレートを約300℃まで加熱及び保持し、インジウム金属を完全に溶解した。
【0088】
次に、実施例1では、溶融したインジウムを、カーボングラファイト製の鋳型に流し入れ、その後、15分間室温で静置して冷却し、固化した。その後、カーボン枠型を反転し、中身のインジウム板を速やかに剥離し、取り出した。
【0089】
その結果、実施例1では、厚さ8mm、縦349mm、横260mmのサイズのインジウムアノード41が得られた。更に、上述したものと同じ製法を用いて、同様のインジウムアノード41を4枚作製した。
【0090】
<カソードの準備>
実施例1では、図6及び図7に示す電解装置40で用いるために、厚さ4mm、縦400mm、横260mmのサイズのチタン板を準備した。チタン板の上部には、厚さ4mm、縦3cm、横10cmのサイズの凸部(腕)が水平方向の外方に張り出しており、直流電源と接続して通電させることができる構造のカソード42(陰極)とした。
【0091】
次に、実施例1では、カソード42の主面43a,43b側から見た下方端部44a,44bに、曲率半径Reが5mmとなるように丸み部を設けた。また、このカソード42は、主面43a,43bの算術平均粗さRaが0.01mm未満の凹凸のない平滑のプレート(板状)であった。更に、上述したものと同じ製法を用いて、同様のカソード42を5枚作製した。
【0092】
<電解装置>
図6に示した通り、実施例1で用いた電解装置40は、電解槽45と調整槽46とを備え、これらは互いに隣接しており、電解槽45と調整槽46とは、循環ポンプ47により接続されている。
【0093】
電解槽45には、底部より2cmの高さで底と平行に、電解液48の液流を分散させるためのパンチプレート(液分散板)49が設けられている。即ち、パンチプレート49は、10cm四方あたり縦5列、横5列、計25個の直径3mmの穴がマス目状に等間隔に開いている。これにより、電解槽45では、循環ポンプ47により電解槽45の下部に注入された電解液48がパンチプレート49を通過し、各液流は偏流のないほぼ均一な液流を確保することができる。
【0094】
また、図7に示した通り、電解槽45には、5枚のカソード(陰極)42と4枚のアノード(陽極)41とが配置されている。5枚のカソード42と4枚のインジウムアノード41とは、電解槽45内のパンチプレート49上に垂直にして、両極が互いに平行となるよう交互に配置されている。また、5枚のカソード42は、互いに導線50で電気的に接続されている。
【0095】
図6に示した通り、調整槽46は、電解液48の温度を制御及び維持するための温調ヒータ51と冷却器52とを備えている。また、調整槽46は、調整槽46内の電解液48を撹拌するための撹拌棒53と電解液48のpHを測定するためのpH電極54とを備えている。
【0096】
<電解槽の準備>
実施例1では、1mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液200Lを準備し、これに硝酸を加えてpHが4.0の電解液48とした。図6及び図7に示した通り、電解槽45及び調整槽46に電解液48を入れ、温調ヒータ51を用いて液温(電解温度)を40℃に保持した。
【0097】
次に、実施例1では、図7に示した通り、電極間距離が30mmとなるように、4枚のインジウムアノード41と5枚のカソード42とを平行で交互に配置した。また、インジウムアノード41の電解液48への浸漬部分の面積が、ちょうど縦330mm、横260mmとなるように調節した。更に、カソード42も電解液48に浸った部分の面積が、インジウムアノード41と同じになるように調整した。
【0098】
次に、実施例1では、図7に示すような回路で、2新VVケーブル(JIS C 3342、許容電流200A、公称断面積100mm)の導線55を用いて、インジウムアノード41とカソード42を図示しない整流器や電源56と結線した。
【0099】
<電解試験>
実施例1では、接続されたインジウムアノード41とカソード42に対して電圧を印加し、電流密度が15A/dmとなるよう電流を維持し、電解を実施した。この状態を6時間維持し水酸化インジウムを析出させた。電解後に水酸化物を含む電解スラリーを回収した。
【0100】
<水酸化インジウムとデンドライト量の測定>
実施例1では、電解後のカソード42上の、ごく僅かであるが、電解液48に浸漬したカソード42の下方端部44a,44bに、微小な枝状の析出物(デンドライト)が見られた。次に、各カソード42を静かに取り出して、縦40cm、横30cm、深さ8cmのステンレストレーに横たえた。そして、ステンレストレーに5Lの純水を加えてから、カソード42上の析出物を、ゴムプレートと刷毛を利用して注意深く取り除き、ステンレストレー内に回収した。
【0101】
次に、実施例1では、全てのカソード42について同じ手順を繰り返してから、ステンレストレーにたまった沈澱物を、平均径0.01μmの濾紙にて自然濾過を行った。濾過後に、濾紙上の沈澱物を80℃で大気中にて一昼夜乾燥させてから重量を量り、濾紙重量を差し引いて沈澱物の析出量P1を求めた。
【0102】
一方、実施例1では、得られた電解スラリーを、20μmのポリプロピレン製メッシュに濾し通した。その結果、電解スラリー中の粗粒物質が、ポリプロピレン製メッシュ上に少量残った。この物質を集めて、80℃で大気中にて乾燥させた。濾過後に、ポリプロピレン製メッシュ上の粗粒物質を80℃で大気中にて一昼夜乾燥させてから重量を量り、ポリプロピレン製メッシュ重量を差し引いて粗粒物質の析出量P2を求めた。
【0103】
次に、実施例1では、20μmのポリプロピレン製メッシュを濾し通ったスラリーを、平均径0.01μmの濾紙にて減圧濾過を実施し、水酸化物ケーキを取得した。次いで、得られた水酸化物ケーキに、50Lの純水を加えて分散撹拌し、再度、減圧濾過を実施した。濾紙上の水酸化物ケーキを80℃で大気中にて一昼夜乾燥させてから重量を量り、濾紙重量を差し引いて水酸化物ケーキの重量P3を測定した。
【0104】
次に、実施例1では、析出した水酸化インジウムの粒度分布を、レーザー光ドップラー法により測定した。その結果、表1に示す通り、水酸化インジウムは、最小径0.3μm、最大径1.2μmであり、極めて限定された範囲の粒度分布を有していた。
【0105】
また、実施例1では、20μmのポリプロピレン製メッシュにて濾過採取された電解スラリー中の粗粒物質は、捕集されて濾過乾燥する際にデンドライトが破壊され、その後、凝集して粒子状となっていた。粗粒物質の重量は0.26kgあり、レーザー光ドップラー法により測定した粒子サイズは平均で50μmであった。また、カソード42上に析出した析出物(デンドライト)は0.02kgで、粒子サイズは平均で22μmであり、水酸化物よりも粗粒であることが確認された。
【0106】
<酸化インジウム調製>
実施例1では、デンドライトの評価のため、電解スラリーを20μmのポリプロピレン製メッシュに濾し通したが、通常の操業では、工数及びコストの関係上、得られた電解スラリーを濾過しないで使用する。
【0107】
そのため、実施例1では、電解スラリーにポリプロピレン製メッシュで濾過して得られた粗粒物質(析出量P2)と、水酸化インジウム乾燥物(重量P3)とを混合し、十分撹拌した上で、静置式電気炉により大気中にて700℃で4時間仮焼した。そして、実施例1では、仮焼後、10.4kgの酸化インジウムが得られた。
【0108】
<スパッタリングターゲット試作と焼結密度評価>
この後、実施例1では、コールドプレス大気圧焼結法によって、酸化インジウム単独での焼結体を作製した。その結果、実施例1では、酸化インジウムの真比重7.18g/cmに対して、相対密度が99.8%なる高密度の焼結体が得られ、スパッタリングターゲットに求められる焼結密度99.0%を超す値となった。従って、実施例1では、焼結密度評価において、焼結体の作製に用いた粗粒物質のサイズ及び混合量で問題ないことが確認された。
【0109】
実施例1では、得られた水酸化インジウムの電解条件及び特性、並びに酸化インジウム及び焼結体の特性をまとめて表1に示した。また、後述する実施例2乃至実施例8及び比較例1乃至比較例4における各結果についても、実施例1と同様にして表1に示した。
【0110】
(実施例2)
実施例2では、カソード42の主面43a,43bを研磨紙で荒らすことにより、カソード42の主面43a,43bの算術平均粗さRaを2.2mmとした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0111】
実施例2では、表1に示した通り、得られた水酸化インジウムの最小径及び最大径は、実施例1で得られた水酸化インジウムと同じであった。また、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量も実施例1と同等量であった。更に、実施例2で得られた焼結体の相対密度を求めた結果、99.7%なる高密度であった。従って、実施例2では、焼結体の作製に用いた粗粒物質のサイズ及び混合量で問題ないことが確認された。
【0112】
(実施例3)
実施例3では、電解液に浸漬したカソード42の下方端部44a,44bに曲率半径Reが4mmの丸みを設け、カソード42の主面43a,43bを研磨紙で荒らすことにより、カソード42の主面43a,43bの算術平均粗さRaを2.4mmとした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0113】
実施例3では、表1に示した通り、得られた水酸化インジウムの最小径及び最大径は、実施例1で得られた水酸化インジウムと同じであった。また、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量は、実施例1よりも増加していた。更に、実施例3で得られた焼結体の相対密度を求めた結果、99.6%なる高密度であった。従って、実施例3では、焼結体の作製に用いた粗粒物質のサイズ及び混合量で問題ないことが確認された。
【0114】
(実施例4)
実施例4では、インジウムアノード41とカソード42の電極間距離を20mmとし、電解温度を25℃にして電解を行った以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0115】
実施例4では、表1に示した通り、得られた水酸化インジウムの最小径及び最大径は、実施例1で得られた水酸化インジウムと同じであった。また、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量も実施例1と同等量であった。更に、実施例4で得られた焼結体の相対密度を求めた結果、99.5%なる高密度であった。従って、実施例4では、焼結体の作製に用いた粗粒物質のサイズ及び混合量で問題ないことが確認された。
【0116】
(実施例5)
実施例5では、インジウムアノード41とカソード42の電極間距離を10mmとした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0117】
実施例5では、表1に示した通り、得られた水酸化インジウムの最小径及び最大径は、実施例1で得られた水酸化インジウムと同じであった。また、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量は、実施例1よりも増加していた。更に、実施例5で得られた焼結体の相対密度を求めた結果、99.5%なる高密度であった。従って、実施例5では、焼結体の作製に用いた粗粒物質のサイズ及び混合量で問題ないことが確認された。
【0118】
(実施例6)
実施例6では、電流密度を20A/dmとした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0119】
実施例6では、表1に示した通り、得られた水酸化インジウムの最小径及び最大径は、実施例1で得られた水酸化インジウムと同じであった。また、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量は、実施例1よりも増加していた。更に、実施例6で得られた焼結体の相対密度を求めた結果、99.5%なる高密度であった。従って、実施例6では、焼結体の作製に用いた粗粒物質のサイズ及び混合量で問題ないことが確認された。
【0120】
(実施例7)
実施例7では、電流密度を22A/dmとし、電極間距離を17mmとした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0121】
実施例7では、表1に示した通り、得られた水酸化インジウムの最小径及び最大径は、実施例1で得られた水酸化インジウムと同じであった。また、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量は、実施例1よりも増加していた。更に、実施例7で得られた焼結体の相対密度を求めた結果、99.4%なる高密度であった。従って、実施例5では、焼結体の作製に用いた粗粒物質のサイズ及び混合量で問題ないことが確認された。
【0122】
(実施例8)
実施例8では、カソード42にパンチングメタルを使用した以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0123】
実施例8では、パンチングメタルとして、厚さ4mm、縦400mm、横260mmのサイズのチタン板を準備した。そして、チタン板の外周部から内側に幅2cmの部分を除いて、更にその内側に、中心間距離3cmで縦12個、横7個になるように、合計84個の直径2cmの孔を開けた。
【0124】
実施例8では、表1に示した通り、得られた水酸化インジウムの最小径及び最大径は、実施例1で得られた水酸化インジウムと同じであった。また、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量も実施例1と同等量であった。更に、実施例8で得られた焼結体の相対密度を求めた結果、99.8%なる高密度であった。従って、実施例8では、焼結体の作製に用いた粗粒物質のサイズ及び混合量で問題ないことが確認された。
【0125】
(比較例1)
比較例1では、電解液に浸漬したカソード42の下方端部44a,44bに曲率半径Reが0.5mmの丸みを設けた以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0126】
比較例1では、表1に示した通り、得られた水酸化インジウムの最小径及び最大径は、実施例1で得られた水酸化インジウムと同じであった。また、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量は、実施例1よりも増加していた。更に、比較例1で得られた焼結体の相対密度を求めた結果、98.8%まで密度が低下してしまった。従って、焼結体の作製に用いた粗粒物質の混合量を、比較例1における量まで増加すると、十分な焼結体密度が得られないことが確認された。
【0127】
(比較例2)
比較例2では、カソード42の主面43a,43bを研磨紙で荒らすことにより、カソード42の主面43a,43bの算術平均粗さRaを3.1mmとした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0128】
比較例2では、表1に示した通り、得られた水酸化インジウムの最小径及び最大径は、実施例1で得られた水酸化インジウムと同じであった。また、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量は、実施例1よりも増加していた。更に、比較例2で得られた焼結体の相対密度を求めた結果、98.0%まで密度が大きく低下してしまった。従って、焼結体の作製に用いた粗粒物質の混合量を、比較例2における量まで増加すると、十分な焼結体密度が得られないことが確認された。
【0129】
(比較例3)
比較例3では、電流密度を26A/dmとした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0130】
比較例3では、表1に示した通り、得られた水酸化インジウムの最小径及び最大径は、実施例1で得られた水酸化インジウムよりも大きくなった。また、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量は、実施例1よりも増加していた。更に、比較例1で得られた焼結体の相対密度を求めた結果、98.0%まで密度が大きく低下してしまった。従って、焼結体の作製に用いた粗粒物質のサイズを、比較例3におけるサイズまで大きくし、粗粒物質の混合量を、比較例3における量まで増加すると、十分な焼結体密度が得られないことが確認された。
【0131】
(比較例4)
比較例4では、インジウムアノード41とカソード42の電極間距離を7mmとした以外は、実施例1と同様にして、評価を行った。
【0132】
比較例4では、電解を開始して3時間ほど経過したところで、電圧が急激に下がったので確認したところ、短絡現象が発生していた。以後、電解沈澱が継続できず中断を余儀なくされた。スラリーは少量得られたが、異常条件下での採取であったため、評価は行わなかった。
【0133】
(比較例5)
比較例5では、電流密度を4A/dmとした以外は、実施例1と同様にして水酸化インジウム、酸化インジウム及び焼結体(スパッタリングターゲット)を作製し、それらの特性評価を行った。
【0134】
比較例5では、表1に示した通り、スラリー中の粗粒物質の重量や、カソード42上に析出した析出物の重量は、実施例1と同レベルであった。しかしながら、得られた酸化インジウムの取得量が2.8kgであり、実施例に比べて著しく生産性を欠く結果が得られた。比較例5で得られた酸化インジウムにより作製した焼結体の相対密度を求めた結果、99.5%の焼結体相対密度を得ることはできた。
【0135】
(比較例6)
比較例6では、インジウムアノード41とカソード42の電極間距離を53mmとした以外は、実施例1と同様にして、評価を行った。
【0136】
比較例6では、電流密度を15A/dmにしようとしたところ、電圧が高くなりすぎて安全上問題がある状態になってしまったため、電解そのものを中止し、評価は行わなかった。


































【0137】
【表1】
【0138】
実施例1乃至実施例7では、主面43a,43b側から見た下方端部44a,44bの曲率半径Reが3mm以上であり、主面43a,43bの凹凸の程度を表す平均算術粗さRaが3mm以下である平板状のカソード42を用い、更に、電極間距離が10mm以上50mm以下、且つ電流密度が5A/dm以上25A/dm以下でインジウムの電解を行った結果、デンドライトの析出を防止することが確認できた。
【0139】
また、実施例8では、実施例1乃至実施例7と同等の曲率半径Re及び平均算術粗さRaを有するパンチングメタルをカソード42として用い、更に、実施例1乃至実施例7と同等の電極間距離及び電流密度でインジウムの電解を行った結果、デンドライトの析出を防止することが確認できた。
【0140】
その結果、実施例1乃至実施例8で得られた水酸化インジウムを乾燥した酸化インジウムを使用して焼結体を作製することで、スパッタリングターゲット材に求められる90%以上の焼結密度を超す高密度の焼結体を得ることができた。
【0141】
一方、比較例1乃至比較例6では、曲率半径Re、平均算術粗さRa、電流密度、及び電極間距離の何れかが異なった条件で水酸化インジウムの作製をそれぞれ行った。
【0142】
その結果、比較例1乃至比較例3では、デンドライトの析出による粗粒物質の混入によって、焼結体の焼結密度が低下した。また、比較例4では、短絡により電解を行うことができなかった。更に、比較例5では、酸化インジウムの取得量が低下し、生産性の低下が見られた。また更に、比較例6では、電圧の上昇により電解を行うことができなかった。
【0143】
従って、実施例1乃至実施例8及び比較例1乃至比較例4の結果より、主面43a,43b側から見た下方端部44a,44bの曲率半径Reが3mm以上であり、主面43a,43bの凹凸の程度を表す平均算術粗さRaが3mm以下である平板状のカソード42を用い、更に、電極間距離が10mm以上50mm以下、且つ電流密度が5A/dm以上25A/dm以下でインジウムの電解を行うことで、デンドライトの析出を防止し、90%以上の焼結密度を超す高密度の焼結体を得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0144】
10,20,30,42 カソード(陰極)、11a,11b,21a,21b,31a,31b,43a,43b 主面、12a,12b,22a,22b,32a,32b,44a,44b 下方端部、13a,13b,23a,23b,33a,33b 下端部、14,24,34 底面部、15a,15b,25a,25b,35a,35b 上方端部、16a,16b,26a,26b,36a,36b 接触部、27,37 孔部、40 電解装置、41 インジウムアノード(陽極)、45 電解槽、46 調整槽、47 循環ポンプ、48 電解液、49 パンチプレート(液分散板)、50,55 導線、51 温調ヒータ、52 冷却器、53 撹拌棒、54 pH電極、56 電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7