(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201957
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】N−シリルピペラジンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/10 20060101AFI20170914BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170914BHJP
【FI】
C07F7/10 T
!C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-219091(P2014-219091)
(22)【出願日】2014年10月28日
(65)【公開番号】特開2016-84314(P2016-84314A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】殿村 洋一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 透
【審査官】
高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−256477(JP,A)
【文献】
特開平3−279361(JP,A)
【文献】
特開2007−51363(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/031850(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/133096(WO,A1)
【文献】
特開2006−321789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/10
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペラジンと、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3は水素原子、又は炭素数1〜20の置換又は非置換の1価炭化水素基である。)
で示されるシリル基で保護されたピペラジン化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(2)
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3は上記と同様である。)
で示されるN−シリルピペラジンの製造方法。
【請求項2】
酸触媒を用いることを特徴とする請求項1記載のN−シリルピペラジンの製造方法。
【請求項3】
上記一般式(1)におけるR1が、炭素数3〜20の置換又は非置換の2級もしくは3級炭化水素基である請求項1又は2記載のN−シリルピペラジンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料添加剤、医薬品類や農薬類の合成中間体等として有用なN−シリルピペラジンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
N−シリルピペラジンは、塗料添加剤、医薬品類や農薬類の合成中間体等として有用であり、例えば特開2013−256477号公報(特許文献1)には、シランカップリング剤等として有用なピペラジニル基を有するオルガノキシシラン化合物の合成中間体として有用であるとの記載がある。
【0003】
上記N−シリルピペラジンを製造する方法としては、例えば特許文献1記載のピペラジンとハロシラン化合物を反応させる方法が例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−256477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1における実施例1のN−トリイソプロピルシリルピペラジンの製造においては、ハロシラン化合物を基準とした場合の収率55%、実施例3のN−トリ(sec−ブチル)シリルピペラジンの製造方法においては54%と、いずれも満足のいく収率ではない。収率低下の大きな要因としては、ピペラジンとハロシラン化合物が反応する際、目的とするピペラジンの1つの窒素−水素結合がシリル化されたN−シリルピペラジンの他に、ピペラジンの2つの窒素−水素結合がいずれもシリル化された1,4−ビスシリルピペラジンも相当量副生してしまうことが挙げられる。そして、1,4−ビスシリルピペラジンは廃棄されるため、結果的にハロシラン化合物を基準とした場合の収率が低下してしまう。1,4−ビスシリルピペラジンの生成を抑制するためには、ピペラジンをハロシラン化合物に対して大過剰量用いれば良いが、それでも1,4−ビスシリルピペラジンの生成を完全に抑制することはできず、且つ反応器あたりの収量が大幅に低下するため効率的な製造方法とは言えない。そのため、より高収率で効率的なN−シリルピペラジンの製造方法が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、1,4−ビスシリルピペラジンをピペラジンと反応させることにより、N−シリルピペラジンを得ることができ、これまで廃棄していた1,4−ビスシリルピペラジンを有効利用できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
従って、本発明は下記に示すN−シリルピペラジンの製造方法を提供する。
[1] ピペラジンと、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3は水素原子、又は炭素数1〜20の置換又は非置換の1価炭化水素基である。)
で示されるシリル基で保護されたピペラジン化合物とを反応させることを特徴とする下記一般式(2)
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3は上記と同様である。)
で示されるN−シリルピペラジンの製造方法。
[2] 酸触媒を用いることを特徴とする[1]記載のN−シリルピペラジンの製造方法。
[3] 上記一般式(1)におけるR
1が、炭素数3〜20の置換又は非置換の2級もしくは3級炭化水素基である[1]又は[2]記載のN−シリルピペラジンの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗料添加剤、医薬品類や農薬類の合成中間体等として有用なN−シリルピペラジンを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のN−シリルピペラジンの製造方法は、ピペラジンと、下記一般式(1)
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3は水素原子、又は炭素数1〜20の置換又は非置換の1価炭化水素基である。)
で示されるシリル基で保護されたピペラジン化合物とを反応させるものである。
【0010】
ここで、上記一般式(1)におけるR
1、R
2、R
3は、水素原子、又は炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10の置換又は非置換の1価炭化水素基であり、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の直鎖状のアルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、テキシル基、2−エチルヘキシル基等の分岐鎖状のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基等が例示され、特に原料の入手容易性、生成物の有用性の点からR
1がイソプロピル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数3〜20、特に炭素数3〜15の置換又は非置換の2級もしくは3級炭化水素基が好ましい。また、炭化水素基の水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、該置換基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;シアノ基;アミノ基、炭素数2〜10のアシル基、トリクロロシリル基、それぞれ各アルキル基、各アルコキシ基が炭素数1〜5であるトリアルキルシリル基、ジアルキルモノクロロシリル基、モノアルキルジクロロシリル基、トリアルコキシシリル基、ジアルキルモノアルコキシシリル基もしくはモノアルキルジアルコキシシリル基が挙げられる。
【0011】
上記一般式(1)で示されるシリル基で保護されたピペラジン化合物の具体例としては、1,4−ビス(ジメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(エチルジメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(ジエチルメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリエチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリプロピルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリブチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(ブチルジメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(ヘキシルジメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(オクチルジメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(デシルジメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(オクタデシルジメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリイソプロピルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリイソブチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリsec−ブチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリシクロペンチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリシクロヘキシルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(t−ブチルジメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(ジt−ブチルジメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリt−ブチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(テキシルジメチルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(テキシルジイソプロピルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(ジメチルビニルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリビニルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(ジメチルフェニルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(メチルジフェニルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(トリフェニルシリル)ピペラジン、1,4−ビス(t−ブチルジフェニルシリル)ピペラジン等が例示される。
【0012】
本発明のシリル基で保護されたピペラジン化合物の使用量は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、ピペラジン1モルに対し、0.1〜10.0モル、特に0.2〜5.0モルの範囲が好ましい。
【0013】
上記反応は無触媒でも進行するが、反応速度が向上することから酸触媒を用いることが好ましい。用いられる酸触媒としては、硫酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸化合物、塩酸、硝酸、及び上記酸の塩、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、四塩化チタン等のルイス酸化合物が例示される。
【0014】
触媒の使用量は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、ピペラジン1モルに対し0.0001〜0.1モル、特に0.001〜0.05モルの範囲が好ましい。
【0015】
上記反応の反応温度は特に限定されないが、0〜200℃、特に10〜180℃が好ましい。
【0016】
なお、上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。用い得る溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が例示される。これらの溶媒は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0017】
また、上記反応は上記一般式(1)で示されるシリル基で保護されたピペラジン化合物、ピペラジン、必要ならば酸触媒、溶媒の系で実施することができるだけでなく、N−シリルピペラジンを通常一般的に製造する方法であるピペラジンとハロシラン化合物との反応と併用して実施、つまりシリル基で保護されたピペラジン化合物、ピペラジン、ハロシラン化合物、必要ならば酸触媒、溶媒の系で実施することもできる。
【0018】
以上のようにして得られた反応液からは、蒸留等の通常の方法で目的物を回収することができる。
【0019】
このような本発明の製造方法では、下記一般式(2)
【化4】
(式中R
1、R
2、R
3は水素原子又は炭素数1〜20の置換又は非置換の1価炭化水素基である。)
で示されるN−シリルピペラジンを効率的に高収率で得ることができる。
【0020】
上記一般式(2)で示されるN−シリルピペラジンとしては、具体的にはN−ジメチルシリルピペラジン、N−トリメチルシリルピペラジン、N−エチルジメチルシリルピペラジン、N−ジエチルメチルシリルピペラジン、N−トリエチルシリルピペラジン、N−トリプロピルシリルピペラジン、N−トリブチルシリルピペラジン、N−ブチルジメチルシリルピペラジン、N−ヘキシルジメチルシリルピペラジン、N−オクチルジメチルシリルピペラジン、N−デシルジメチルシリルピペラジン、N−オクタデシルジメチルシリルピペラジン、N−トリイソプロピルシリルピペラジン、N−トリイソブチルシリルピペラジン、N−トリsec−ブチルシリルピペラジン、N−トリシクロペンチルシリルピペラジン、N−トリシクロヘキシルシリルピペラジン、N−t−ブチルジメチルシリルピペラジン、N−ジt−ブチルジメチルシリルピペラジン、N−トリt−ブチルシリルピペラジン、N−テキシルジメチルシリルピペラジン、N−テキシルジイソプロピルシリルピペラジン、N−ジメチルビニルシリルピペラジン、N−トリビニルシリルピペラジン、N−ジメチルフェニルシリルピペラジン、N−メチルジフェニルシリルピペラジン、N−トリフェニルシリルピペラジン、N−t−ブチルジフェニルシリルピペラジン等が例示される。
【実施例】
【0021】
以下、実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0022】
[実施例1]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、1,4−ビス(トリイソプロピルシリル)ピペラジン119.6g(0.3モル)、ピペラジン25.8g(0.3モル)、メタンスルホン酸2.9g(0.03モル)、トルエン239.2gを仕込み、110℃で12時間加熱した。12時間加熱後の反応液をガスクロマトグラフィーにて分析を行ったところ、N−トリイソプロピルシリルピペラジンの生成が確認され、N−トリイソプロピルシリルピペラジン、ピペラジン、1,4−ビス(トリイソプロピルシリル)ピペラジンの比(面積比、以下同様)は50:8:42であった。室温まで冷却後、2質量%水酸化ナトリウム水溶液100gを加え、有機層を分液、蒸留した。N−トリイソプロピルシリルピペラジンを沸点111℃/0.4kPaの留分として62.7g得た。
【0023】
[実施例2]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、1,4−ビス(t−ブチルジメチルシリル)ピペラジン110.1g(0.35モル)、ピペラジン30.1g(0.35モル)、メタンスルホン酸1.3g(0.014モル)、トルエン220.2gを仕込み、110℃で8時間加熱した。8時間加熱後の反応液をガスクロマトグラフィーにて分析を行ったところ、N−t−ブチルジメチルシリルピペラジンの生成が確認され、N−t−ブチルジメチルシリルピペラジン、ピペラジン、1,4−ビス(t−ブチルジメチルシリル)ピペラジンの比は51:8:41であった。室温まで冷却後、2質量%水酸化ナトリウム水溶液60gを加え、有機層を分液、蒸留した。N−t−ブチルジメチルシリルピペラジンを沸点81℃/0.4kPaの留分として61.2g得た。
【0024】
[実施例3]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、1,4−ビス(t−ブチルジメチルシリル)ピペラジン110.1g(0.35モル)、ピペラジン30.1g(0.35モル)、p−トルエンスルホン酸2.4g(0.014モル)、トルエン220.2gを仕込み、110℃で8時間加熱した。8時間加熱後の反応液をガスクロマトグラフィーにて分析を行ったところ、N−t−ブチルジメチルシリルピペラジンの生成が確認され、N−t−ブチルジメチルシリルピペラジン、ピペラジン、1,4−ビス(t−ブチルジメチルシリル)ピペラジンの比は50:9:41であった。室温まで冷却後、2質量%水酸化ナトリウム水溶液60gを加え、有機層を分液、蒸留した。N−t−ブチルジメチルシリルピペラジンを沸点81℃/0.4kPaの留分として61.9g得た。