(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケル酸化鉱石に硫酸を用いて高温高圧下で酸浸出してニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣とを得て、該浸出液に対し硫化剤により硫化処理を施してニッケル及びコバルトの硫化物と硫化後液と生成させた後、固液分離して得られた硫化後液中に溶存する硫化剤を除去する方法であって、
前記硫化後液に対して、前記浸出残渣を洗浄して得られる洗浄後浸出残渣と、硫酸溶液とを添加して、該硫化後液に含まれる硫化剤を硫黄として固定化し回収する
硫化剤の除去方法。
【背景技術】
【0002】
従来のニッケル製錬においては、硫化ニッケル鉱石を高温の炉で溶融する乾式製錬に付して、ニッケル品位が70重量%程度のマットを得た後、そのマットを塩素で浸出し、不純物を分離した後に電解採取等によって電気ニッケルを製造する方法が行われてきた。
【0003】
一方で近年では、硫化ニッケル鉱石の枯渇傾向や環境等の側面から、低品位ニッケル酸化鉱石を高温高圧下で酸浸出するHPAL(High Pressure Acid Leach)プロセスが開発され注目されている。
【0004】
HPALプロセスは、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬法とは異なり、還元及び乾燥工程等の乾式工程を必要とせず、湿式工程から構成されるため、エネルギー消費量が低く、コスト面や環境面で有利である。
【0005】
このHPALプロセスでは、ニッケル酸化鉱石に対して高温高圧下で酸浸出することにより、ニッケルやコバルトを含む浸出液と浸出残渣とが得られる。得られた浸出液には不純物が含まれるため、中和剤を添加して不純物を分離する中和処理等が施される。その後、HPALプロセスでは、不純物が分離除去された浸出液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことによって、ニッケルやコバルトの品位が50重量%程度のニッケル・コバルト混合硫化物(以下、単に「ニッケル硫化物」ともいう)を析出させて、ニッケル品位が低い硫化後液(貧液)と固液分離して回収する。回収されたニッケル硫化物は、上述したマットと同様に処理して電解処理等を施すことによって電気ニッケル等の形態で製品とすることができる。
【0006】
さて、HPALプロセスの硫化処理を経て得られた硫化後液には、硫化剤として用いた硫化水素等の一部が溶存して残留しており、そのまま処分することはできない。そこで、回収した硫化後液に対して、例えば3価の水酸化鉄(3価鉄)を添加して、下記反応式に示す反応を生じさせ、その硫化水素を硫黄として固定し除去する処理が行われる。
2Fe(OH)
3+3H
2SO
4→Fe
2(SO
4)
3+6H
2O
Fe
2(SO
4)
3+H
2S→2FeSO
4+H
2SO
4+S
0
【0007】
このような処理においては、その硫化後液を中和して最終的に排水として放流する際に、中和前に液中に含まれていた鉄がその中和処理により水酸化鉄となって沈殿するため、その中和澱物を回収して鉄源として利用することができるという利点がある。
【0008】
さて、このような処理により溶存硫化水素が除去された後の硫化後液は、HPALプロセスの浸出処理にて生成した浸出残渣の洗浄水として使用することもできる。なお、この浸出残渣を洗浄水により洗浄する工程を「浸出残渣洗浄工程」という。
【0009】
ところが、硫化後液中の溶存硫化水素が十分に分解除去されずに残留したままの状態で、浸出残渣洗浄工程や、排水として放流する前の最終中和処理を行う最終中和工程へと払い出された場合、設備周辺において硫化水素の臭気が発生し、安全面や環境面で問題となる。そのため、硫化後液中の溶存硫化水素を十分に除去することは、重要な処理の一つとなっている。
【0010】
このことから、これまでも溶存硫化水素除去に関する技術開発が種々行われており、例えば特許文献1には、硫化水素を含む溶液中に3価水酸化鉄を添加してpHを3以下とし、酸化還元電位(ORP)を0mV(Ag/AgCl電極基準)以上として、硫化水素と3価鉄を反応させることにより、溶液に溶存する硫化水素を硫黄の形に固定する方法が開示されている。
【0011】
ここで、特許文献1に示される方法では、3価の鉄イオン源として、HPALプロセスにて生成した浸出残渣にアルカリを添加して残渣に付着する酸を中和する最終中和工程を経て得られる3価の鉄水酸化物を含むものを用いることが好ましいとしている。
【0012】
しかしながら、その最終中和工程を経て得られる澱物は、その最終中和工程における中和処理で石灰石や消石灰を添加することで生成した3価の水酸化鉄であり、アルミニウムやマグネシウム等の不純物を含有する中和澱物である。そのため、そのような不純物を多く含有する中和澱物を、溶存硫化水素を除去するために使用した場合、その澱物中のアルミニウムやマグネシウムの澱物も溶解されるため、その分多量の硫酸が必要になる。さらに、溶存硫化水素を除去した後に、再び最終中和工程で中和剤を添加してアルミニウムやマグネシウムを沈殿物化する必要があり、不純物の中和と溶解とを繰り返す結果となる。
【0013】
このため、これまでの方法では、硫酸及び中和剤の使用量がいたずらに増加してしまい、処理コストを圧迫する一因となるといった問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。なお、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0025】
≪1.概要≫
本実施の形態に係る硫化剤の除去方法は、硫酸酸性溶液等の溶液から、溶存している硫化水素ガス等の硫化剤を除去する方法である。
【0026】
詳しくは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル酸化鉱石を硫酸により高温高圧下で酸浸出して得られた、ニッケル及びコバルトを含む浸出液に対して、硫化剤により硫化処理を施してニッケル及びコバルトの硫化物と硫化後液と生成させた後、固液分離して得られた硫化後液中に溶存する硫化剤を除去する方法である。
【0027】
具体的に、この硫化剤の除去方法では、硫化剤が溶存する硫化後液に対して、ニッケル酸化鉱石の酸浸出処理で生成した浸出残渣を洗浄して得られる洗浄後浸出残渣と、硫酸溶液とを添加して、その硫化後液に含まれる硫化剤を硫黄として固定化し回収する。
【0028】
なお、ここでいう「固定」とは、化合物を安定な形態に変換することであり、本実施の形態に係る硫化剤の除去方法では、硫化後液中に溶存する硫化水素等の硫化剤が、反応によって担体の硫黄(S)という安定した形態に変換され、この単体の硫黄が沈殿生成して除去される。
【0029】
この硫化剤の除去方法においては、上述したように洗浄後浸出残渣を用い、その浸出残渣に含まれる3価の鉄(酸化鉄)により、下記反応式に示す反応を生じさせる。なお、この反応では硫化剤として硫化水素ガスを用いたときの例である。
Fe
2O
3+3H
2SO
4→Fe
2(SO
4)
3+3H
2O
Fe
2(SO
4)
3+H
2S→2FeSO
4+H
2SO
4+S
0
【0030】
本実施の形態に係る硫化剤の除去方法によれば、3価の鉄イオン源を溶解するための硫酸の使用量を低減させることができ、効率的な処理を行うことができる。また、溶存する硫化剤を除去した後には、その除去処理後の硫化後液に対して最終中和処理を施して排水するが、硫化剤の除去処理において洗浄後浸出残渣を用いることで、その最終中和処理にて使用する中和剤の使用量も有効に低減させることができ、HPALプロセス全体としても効率的な操業を行うことができる。
【0031】
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス≫
先ず、硫化剤の除去方法のより具体的な説明に先立ち、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス(以下、単に「湿式製錬プロセス」ともいう)について説明する。
【0032】
図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れを示す工程図である。この湿式製錬プロセスは、ニッケル酸化鉱石を高温高圧下で硫酸により酸浸出して浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程S11と、浸出液に中和剤を添加して不純物を含む中和澱物と中和後液とを得る中和工程S12と、中和後液に硫化剤を添加して硫化物と硫化後液とを得る硫化工程S13とを有する。さらに、この湿式製錬プロセスでは、浸出工程S11にて生成した浸出残渣や、硫化工程S13にて排出された硫化後液を回収して無害化する最終中和工程S14を有する。
【0033】
本実施の形態に係る硫化剤の除去方法は、このニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにより得られる硫化後液を処理対象とし、その硫化後液に溶存する硫化剤を除去する。
【0034】
(1)浸出工程
浸出工程S11は、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)等を用いて、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して220℃〜280℃の温度下で、加圧しながら撹拌処理を施し、ニッケル及びコバルトを含有する浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる工程である。
【0035】
ここで、ニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。
【0036】
浸出工程S11では、得られた浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを洗浄しながら、ニッケルやコバルト等を含む浸出液と、ヘマタイト(Fe
2O
3)である浸出残渣とに固液分離する。この固液分離処理では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、凝集剤供給設備等から供給される凝集剤を用いて、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。
【0037】
浸出スラリーに対する固液分離処理で分離された浸出液は、次工程の中和工程S12に移送され、一方で、浸出残渣はシックナーの底部から回収される。なお、回収された浸出残渣は、浸出残渣洗浄工程へと移送されて、洗浄水による洗浄処理が施される。
【0038】
(2)中和工程
中和工程S12は、上述した浸出工程S11により得られた浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る工程である。この中和工程S12における中和処理により、ニッケルやコバルト等の有価金属は中和後液に含まれるようになり、鉄、アルミニウム等の不純物の大部分が中和澱物となる。
【0039】
中和剤としては、従来公知のもの使用することができ、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0040】
中和工程S12における中和処理では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、pHを1〜4の範囲に調整することが好ましく、1.5〜2.5の範囲に調整することがより好ましい。pHが1未満であると、中和が不十分となり中和澱物と中和後液とに分離できない可能性がある。一方で、pHが4を超えると、アルミニウム等の不純物のみならず、ニッケルやコバルト等の有価金属も中和澱物に含まれる可能性がある。
【0041】
(3)硫化工程
硫化工程S13は、上述した中和工程S12により得られた中和後液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトの硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と硫化後液とを得る工程である。この硫化工程S13における硫化処理により、ニッケル、コバルト、亜鉛等は硫化物となり、その他は硫化後液に含まれることになる。
【0042】
具体的に、硫化工程S13では、得られた中和後液に対して硫化剤を添加し、中和後液に含まれるニッケルやコバルトを硫化物の形態に硫化させる硫化反応を生じさせる。これにより、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの硫化物と、ニッケル濃度を低い水準で安定させた硫化後液(貧液)とを生成させる。
【0043】
硫化剤としては、例えば、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等を用いることができるが、その中でも、硫化水素ガスを用いることが、取扱い容易さやコスト等の点で特に好ましい。
【0044】
この硫化処理では、ニッケル・コバルト混合硫化物のスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて沈降分離処理してニッケル・コバルト混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する一方で、水溶液成分である硫化後液はオーバーフローさせて回収する。
【0045】
ここで、本実施の形態に係る硫化剤の除去方法においては、硫化工程S13における硫化処理により得られた硫化後液、すなわち、硫化処理後のスラリーに対して固液分離処理を施して得られた硫化後液を処理対象とする。
【0046】
(4)最終中和工程
最終中和工程S14では、上述した硫化工程S13にて生成した硫化後液、すなわち、鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む硫化後液に対して、排出基準を満たす所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理)を施す。
【0047】
本実施の形態においては、詳しくは後述する硫化後液に対する硫化剤の除去処理を経て、溶存する硫化水素等の硫化剤が除去された硫化後液に対して中和処理を施す。
【0048】
最終中和工程S14における無害化処理の方法、すなわちpHの調整方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウム(石灰石)スラリーや水酸化カルシウム(消石灰)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。
【0049】
また、最終中和工程S14における最終中和処理では、石灰石を中和剤として用いた第1段階の中和処理(第1の最終中和工程)と、消石灰を中和剤として用いた第2段階の中和処理(第2の最終中和工程)とからなる段階的な処理を行うことができる。このように段階的な中和処理を行うことで、効率的にかつ効果的な中和処理を行うことができる。
【0050】
具体的に、第1の最終中和工程では、回収した硫化後液を中和処理槽に装入し、石灰石スラリーを添加して撹拌処理を施す。この第1の最終中和工程では、石灰石スラリーを添加することによって、硫化後液のpHを4〜5に調整する。
【0051】
次に、第2の最終中和工程では、石灰石スラリーを添加して第1段階の中和処理を施した溶液に対して、消石灰スラリーを添加して撹拌処理を施す。この第2の最終中和工程では、消石灰スラリーを添加することによって、硫化後液のpHを8〜9に引き上げる。
【0052】
最終中和工程S14では、このような2段階の中和処理を施すことによって、中和処理残渣(最終中和澱物)が生成され、テーリングダムに貯留される(テーリング残渣)。一方、中和処理後の溶液(中和後液)は、排出基準を満たすものとなり系外に排出される。なお、この最終中和工程S14における中和処理では、硫化後液に含まれていた鉄が水酸化鉄(Fe(OH)
3)の形態で固定化されて分離される。
【0053】
ここで、最終中和工程S14における最終中和処理では、硫化後液中に残留しているマグネシウムイオンやマンガンイオン等の不純物元素イオンの量に応じて、消石灰や石灰石等の中和剤の量が決定される。したがって、硫化後液に残留する不純物の量が多ければ、中和竿の使用量も多くなる。
【0054】
この点、本実施の形態においては、最終中和工程S14に先立ち、硫化工程S13から得られた硫化後液に対して、その硫化後液に溶存する硫化剤を除去する処理を行うようにしており(硫化剤除去処理工程S22)、その硫化剤除去処理工程S22では、洗浄後の浸出残渣を3価の鉄イオン源として用いるようにしている。このことから、最終中和工程S14に対しては、鉄、マグネシウム、マンガン、アルミニウム等の不純物の濃度が低い硫化後液を移送させることができ、その結果として、最終中和工程S14にて使用する中和剤の使用量を効果的に低減させることができる。詳しくは後述する。
【0055】
≪3.硫化剤の除去方法の詳細説明≫
さて、上述したニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、硫化工程S13での硫化処理を経て生成した硫化後液には、硫化反応を生じさせるために添加した硫化水素等の硫化剤が溶存していることがある。硫化処理で生成した硫化後液は、最終中和工程S14に移送されて、その溶液に対する無害化処理が施されることによってマグネシウム、マンガン等の成分が除去され、排水基準を満たした状態で系外に排出される。しかしながら、硫化後液に硫化剤が残存している場合には、その硫化剤についての除去処理を行わなければ、系外に放流することができない。
【0056】
そこで、本実施の形態においては、硫化剤が溶存する硫化後液に対して、ニッケル酸化鉱石の酸浸出処理で生成した浸出残渣を洗浄して得られる洗浄後浸出残渣と、硫酸溶液とを添加し、これによって、その硫化後液に含まれる硫化剤を硫黄として固定化する。つまり、溶存する硫化水素等の硫化剤を、固体の硫黄に形態として、その硫化後液から回収除去する。
【0057】
図2は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの工程図に、硫化後液に対する硫化剤の除去処理の工程(硫化剤除去処理工程)を組み合わせたときの流れを示す工程図である。なお以下では、硫化工程S13にて硫化水素ガスを硫化剤として用いた場合を一例とし、硫化後液に溶存する硫化水素を除去する実施態様を示す。
【0058】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの硫化工程S13にて得られる、ニッケル・コバルト混合硫化物を分離回収した後の硫化後液は、ニッケルイオン濃度が0.04g/L〜0.10g/L程度であり、鉄、マンガン、マグネシウム、アルミニウム、クロム、鉛等の不純物を含む硫酸酸性溶液である。そして、上述したように、この硫化後液には、硫化工程S13における硫化処理で使用した硫化水素が、濃度10mg/L〜150mg/L程度の割合で溶存している。
【0059】
硫化後液中に溶存する硫化水素の除去においては、3価の鉄イオンが、溶存硫化水素に対するモル比で0.05以上の割合で溶液中に存在していることが必要となる。これにより、有効に硫化水素を硫黄として固定化することができる。
【0060】
このとき、本実施の形態においては、3価の鉄イオン源として、湿式製錬プロセスの浸出工程S11にて生成する浸出残渣を用いる。より具体的には、浸出工程S11から固液分離して回収された浸出残渣を浸出残渣洗浄工程S21へと移送させ、そこで洗浄処理を施して得られる洗浄後の浸出残渣を用いる。なお、この洗浄後の浸出残渣を、「洗浄後浸出残渣」という。
【0061】
従来、硫化剤の除去処理においては、最終中和工程S14にて生成する最終中和澱物を3価の鉄イオン源として用いていた。最終中和澱物は、3価の水酸化鉄を多量に含有しているため、硫化水素の除去反応を効果的に進行させることができる。しかしながら、その最終中和工程S14で生成する最終中和澱物には、3価の鉄のほかにマグネシウムやマンガン、アルミニウム等の不純物も多量に含まれており、その最終中和澱物を硫化水素の除去処理に使用した場合には、それら不純物の溶解に硫酸が使用されて硫酸の使用量を増加させるとともに、その後の中和処理にて使用する中和剤の使用量も増加させていた。
【0062】
これに対して、本実施の形態に係る硫化剤の除去方法では、3価の鉄イオン源として洗浄後浸出残渣を用いることにより、硫酸の使用量を効果的に低減させることができ、効率的な処理を行うことができる。また、最終中和工程S14での中和剤の使用量も有効に低減させることができ、湿式製錬プロセス全体として効率的な操業を行うことができる。
【0063】
(浸出残渣洗浄工程)
浸出残渣洗浄工程S21では、浸出工程S11から回収された浸出残渣に対して洗浄水を用いて洗浄処理を施し、その浸出残渣に付着する不純物を除去する。
【0064】
洗浄水としては、特に限定されず、例えば水等を用いることができる。また、その洗浄水として、湿式製錬プロセスの最終中和工程S14にて最終中和澱物を分離除去した後の中和後液を用いてもよい。中和後液は、最終中和工程S14の中和処理において不純物が除去された液であり、この中和後液を洗浄水として用いることで、湿式製錬プロセスにおける処理水を有効に活用することができ、より効率的な処理を行うことができる。
【0065】
(硫化剤除去処理工程)
硫化剤除去処理工程S22では、硫化水素が溶存する硫化後液に、上述した洗浄後浸出残渣を添加するとともに硫酸溶液を添加する。これにより、下記反応式に示す反応が生じて、硫化後液に溶存する硫化水素が酸化され、固体の硫黄として固定化される。
Fe
2O
3+3H
2SO
4→Fe
2(SO
4)
3+3H
2O
Fe
2(SO
4)
3+H
2S→2FeSO
4+H
2SO
4+S
0
【0066】
ここで、上記反応式にも示すように、使用する浸出残渣はヘマタイト(Fe
2O
3)を主体としており、例えば最終中和工程S14にて生成する最終中和澱物に比べて3価の鉄が溶解し難い。このことから、硫化剤除去処理工程S22における硫化水素の除去処理においては、硫化後液に対してpHが1.5以下となるように硫酸溶液を添加し、そのpHを維持した状態で反応を生じさせることが好ましい。なお、pHが1.5を超えると、硫酸の使用量は減少するものの、ヘマタイトの溶解量も減少してしまうため、3価の鉄の供給が不足して溶存する硫化水素の除去量が低下してしまう可能性がある。
【0067】
また、硫化後液のpHとしては、1.2を超えるように調整することが好ましい。硫化後液のpHが1.2以下である場合、3価の鉄の溶解量が増加して、必要な洗浄後浸出残渣の量は低減するものの、その浸出残渣に含まれるマグネシウムやアルミニウム等の不純物も溶解してしまい、硫酸の使用量が増加するとともに、硫化水素の除去処理後における最終中和工程S14での中和処理にて使用する中和剤の量が増加する。
【0068】
このことから、硫化後液のpHとしては、1.2を超えて1.5以下の範囲に調整することが好ましく、1.4以上1.5以下の範囲に調整することがより好ましい。なお、硫酸溶液としては、濃度が高い濃硫酸を用いることが好ましいと考えられるが、その濃度は特に限定されない。ただし、極端に濃度の低い硫酸溶液の場合には、硫化水素を硫黄として固定化させる反応時間が長くなる。また、低濃度の硫酸溶液を用いると、その添加する硫酸量が多くなり、タンクやポンプ等の設備が必然的に大きくなる。したがって、硫酸溶液としては、例えば濃度が0.05N以上のものを用いることが好ましい。
【0069】
また、硫化水素の除去処理においては、硫化後液に洗浄後浸出残渣を添加した後、その硫化後液のスラリー1m
3あたり1.8Nm
3以上の割合で空気を吹き込むことが好ましい。これにより、硫化後液中に溶存する硫化水素の酸化を促進させることができる。
【0070】
なお、硫化水素の除去処理における酸化還元電位(ORP)の条件としては、150mV(銀/塩化銀電極基準)以上とすることが好ましく、このようなORP条件となるまで酸化反応を生じさせることが好ましい。
【0071】
硫化水素の除去処理は、例えば撹拌手段を備えた撹拌反応槽により行うことができ、その撹拌反応槽に硫化後液を収容させるとともに、その反応槽内に、洗浄後浸出残渣と硫酸溶液とを添加する。そして、例えば、pH条件を、1.2を超えて1.5以下の範囲とし、ORPを150mV以上となる条件とし、その硫化後液を撹拌しながら反応を生じさせる。硫化後液の反応時間(滞留時間)としては、特に限定されるものではないが、例えば30分以上とすることが好ましい。
【0072】
以上のように、本実施の形態に係る硫化剤の除去方法によれば、3価の鉄イオン源を溶解するための硫酸の使用量を低減させることができ、効率的な処理を行うことができる。また、溶存する硫化剤を除去した後には、その除去処理後の硫化後液に対して最終中和処理を施して排水するが、硫化剤の除去処理において洗浄後浸出残渣を用いることで、その最終中和処理にて使用する中和剤の使用量も有効に低減させることができ、HPALプロセス全体としても効率的な操業を行うことができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例では、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル量換算で1トンのニッケル硫化物を製造する条件(処理量)で操業を行った。
【0074】
≪実施例、比較例の処理≫
[実施例1]
図1及び
図2のニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスに示すように、先ず、ニッケル酸化鉱石のスラリーをオートクレーブに装入し、高温高圧下で硫酸を用いて浸出処理を施すことによって浸出液と浸出残渣(ヘマタイト,Fe
2O
3)とを含有する浸出スラリーを得た(浸出工程S11)。下記表1に、浸出スラリーの組成の分析結果を示す。
【0075】
【表1】
【0076】
次に、浸出スラリーを固液分離して得られた浸出液に対して不純物を中和除去した後(中和工程S12)、硫化剤として硫化水素ガスを添加して硫化処理を行った(硫化工程S13)。この硫化工程S13における硫化反応により、浸出液中のニッケル及びコバルトが硫化され、ニッケル・コバルト混合硫化物が生成した。生成した硫化物は、硫化処理後のスラリーをシックナーにより固液分離して回収した。
【0077】
一方、硫化物を分離回収した後の硫化後液(貧液)には、硫化処理に用いた硫化剤である硫化水素が30mg/Lの割合で溶存していた。そこで、その硫化後液に溶存する硫化水素を除去する処理を行った。
【0078】
硫化水素の除去処理においては、溶存硫化水素濃度が30mg/Lである硫化後液に、溶存硫化水素に対するモル比で0.05となるように3価の鉄イオン(鉄量として3.6kg)を添加した。具体的に、実施例1では、その3価の鉄イオン源として、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの浸出工程S11で得られるヘマタイトを主体とする浸出残渣を用い、その浸出残渣を洗浄することで得られた洗浄後浸出残渣のスラリーを硫化後液に供給した。
【0079】
また、硫化後液のpHが1.5、酸化還元電位(ORP)が250mV(銀/塩化銀電極基準)となるように希釈硫酸溶液を添加した。さらに、浸出残渣を添加した後の硫化後液のスラリーに、硫化後液スラリー1.0m
3あたり1.8Nm
3以上の空気を吹き込んだ。これにより、硫化後液中に溶存する硫化水素を硫黄として固定化する反応を生じさせ、その硫化水素を除去した。
【0080】
このようにして硫化後液中の溶存硫化水素を硫黄として除去した後、硫化水素除去後の硫化後液中の硫化水素濃度を測定した結果、分析下限である1mg/L未満となっており、硫化水素は十分に除去されていた。なお、この硫化水素の除去処理で使用した洗浄後浸出残渣スラリーの供給量は、25.7m
3であった。
【0081】
ここで、下記表2に、硫化後液に浸出残渣スラリー25.7m
3を添加し、硫酸溶液によりpHを1.5に調整した際における、浸出残渣から溶出する不純物量、必要な硫酸溶液の量、及び溶出した不純物の中和に必要な中和剤(石灰石及び消石灰)の量を示す。
【0082】
【表2】
【0083】
[比較例1]
比較例1では、硫化後液に溶存する硫化水素の除去処理において、湿式製錬プロセスの最終中和工程S14から得られる最終中和澱物を硫化後液中に添加した。
【0084】
具体的には、溶存硫化水素濃度が30mg/Lである硫化後液に、溶存硫化水素に対するモル比で0.05となるように3価の鉄イオン(鉄量として3.6kg)を添加した。その3価の鉄イオン源としては、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの最終中和工程S14で得られる最終中和澱物を用い、その最終中和澱物のスラリーを硫化後液に供給した。なお、下記表3に、最終中和工程S14にて生成する中和後スラリーの組成の分析結果をしめす。この表3に示すように、最終中和澱物には、3価の水酸化鉄や、アルミニウム及びマグネシウムの水酸化物が含まれていた。
【0085】
【表3】
【0086】
また、硫化後液のpHが1.7、ORPが250mVとなるように希釈硫酸溶液を添加した。さらに、最終中和澱物を添加した後の硫化後液のスラリーに、硫化後液スラリー1.0m
3あたり1.8Nm
3以上の空気を吹き込んだ。
【0087】
このようにして硫化後液中の溶存硫化水素を硫黄として除去した後、硫化水素除去後の硫化後液中の硫化水素濃度を測定した結果、分析下限である1mg/L未満となっており、硫化水素は十分に除去されていた。なお、この硫化水素の除去処理で使用した最終中和澱物スラリーの供給量は、10.8m
3であった。
【0088】
ここで、下記表4に、硫化後液に最終中和澱物スラリー10.8m
3を添加し、硫酸溶液によりpHを1.7に調整した際における、最終中和澱物から溶出する不純物量、必要な硫酸溶液の量、及び溶出した不純物の中和に必要な中和剤(石灰石及び消石灰)の量を示す。
【0089】
【表4】
【0090】
[比較例2]
比較例2では、硫化後液に溶存する硫化水素の除去処理において、実施例1と同様に洗浄後浸出残渣のスラリーを硫化後液に添加したが、硫酸溶液の添加により、その硫化後液のpHが1.2となるように調整した。
【0091】
具体的には、溶存硫化水素濃度が30mg/Lである硫化後液に、溶存硫化水素に対するモル比で0.05となるように3価の鉄イオン(鉄量として3.6kg)を添加した。その3価の鉄イオン源としては、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの浸出工程S11で得られるヘマタイトを主体とする浸出残渣を用い、その浸出残渣を洗浄することで得られた洗浄後浸出残渣のスラリーを硫化後液に供給した。
【0092】
また、硫化後液のpHが1.2、ORPが250mVとなるように希釈硫酸溶液を添加した。さらに、洗浄後浸出残渣を添加した後の硫化後液のスラリーに、硫化後液スラリー1.0m
3あたり1.8Nm
3以上の空気を吹き込んだ。
【0093】
このようにして硫化後液中の溶存硫化水素を硫黄として除去した後、硫化水素除去後の硫化後液中の硫化水素濃度を測定した結果、分析下限である1mg/L未満となっており、硫化水素は十分に除去されていた。なお、この硫化水素の除去処理で使用した浸出残渣物スラリーの供給量は、7.2m
3であった。
【0094】
ここで、下記表5に、硫化後液に浸出残渣スラリー7.2m
3を添加し、硫酸溶液によりpHを1.2に調整した際における、浸出残渣から溶出する不純物量、必要な硫酸溶液の量、及び溶出した不純物の中和に必要な中和剤(石灰石及び消石灰)の量を示す。
【0095】
【表5】
【0096】
[比較例3]
比較例3では、硫化後液に溶存する硫化水素の除去処理において、実施例1と同様に洗浄後浸出残渣のスラリーを硫化後液に添加したが、硫酸溶液の添加により、その硫化後液のpHが1.8となるように調整した。
【0097】
しかしながら、添加したヘマタイトがほとんど溶解せず、硫化後液中において3価鉄イオンを得ることができなかった。
【0098】
したがって、硫化剤の除去処理における硫化後液のpH条件として1.8という条件では、溶存硫化水素を除去することが困難であることが分かった。
【0099】
≪結果≫
以上の結果から、実施例1のように、硫化水素が溶存した硫化後液に対して洗浄後浸出残渣を添加することにより、最終中和澱物を3価鉄イオン源として添加した比較例1に比べて、硫酸溶液の使用量を大幅に低減させることができることが分かった。また、その硫化水素の除去後に最終中和処理にて使用する中和剤(石灰石及び消石灰)の使用量についても、大幅に低減させることができることが分かった。
【0100】
実施例1と比較例1との対比において、比較例1の処理にて硫酸溶液の使用量や中和剤の使用量が多くなった理由として、添加した最終中和澱物には、ヘマタイトを主体とする浸出残渣と共に、最終中和工程において生成した3価の水酸化鉄、アルミニウムやマグネシウム等の水酸化物を多量に含まれていることが挙げられ、3価鉄イオンの供給量は同じであっても、アルミニウムやマグネシウム等が存在する分だけ、その溶解に用いる硫酸溶液の必要量や、中和処理での中和剤の必要量が多くなったと考えられる。
【0101】
また、実施例1と比較例2との対比において、硫化後液のpHが1.2となるように硫酸溶液を添加して調整した場合(比較例2)、硫酸溶液の必要量が増加するとともに、中和処理での中和剤の必要量も増加した。このことは、pHを1.2まで低下させた場合、3価鉄の溶解量が増加して必要な浸出残渣量は低減するものの、浸出残渣に含まれるマグネシウムやアルミニウム等の不純物の溶解量も増加したことから、硫酸溶液の必要量や中和処理での中和剤(石灰石、消石灰)の必要量が増加したと考えられる。