(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202087
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】底注ぎ式取鍋及びそれを用いた溶湯の注湯方法
(51)【国際特許分類】
B22D 41/18 20060101AFI20170914BHJP
B22D 41/16 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
B22D41/18
B22D41/16
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-505458(P2015-505458)
(86)(22)【出願日】2014年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2014056131
(87)【国際公開番号】WO2014142059
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-48909(P2013-48909)
(32)【優先日】2013年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-270664(P2013-270664)
(32)【優先日】2013年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】福本 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】石橋 修平
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭53−160421(JP,U)
【文献】
実開昭51−58119(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/18
B22D 41/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯排出用ノズルと、上下方向に昇降して前記ノズルの上方開口部を開閉するストッパーロッドとを具備する溶湯注湯用の底注ぎ式取鍋であって、
前記ノズルの上方開口部は逆円錐状テーパ面又は内側に凸の円弧状断面を有する曲面状テーパ面を有し、前記ストッパーロッドの下端部は逆円錐状テーパ面又は球面を有し、かつ前記ノズルの上方開口部が逆円錐状テーパ面を有する場合には前記ストッパーロッドの下端部は球面状であり、
前記ストッパーロッドが前記ノズルから上方に離隔した状態では、前記ストッパーロッドの中心軸は前記ノズルの中心軸から水平方向に離隔しており、
下降する前記ストッパーロッドの下端部が前記ノズルのテーパ面と接触したとき、前記ストッパーロッドの中心軸と前記ノズルの中心軸との水平方向距離が2mm以上であり、
前記ストッパーロッドをさらに下降させると、前記ストッパーロッドの下端部は前記ノズルのテーパ面に沿って下方に移動して前記ノズルの上方開口部を密閉し、
前記ノズルの上方開口部の密閉位置から上昇する前記ストッパーロッドは、その中心軸が前記ノズルの中心軸から水平方向に離隔するように前記ノズルのテーパ面に沿って移動することを特徴とする底注ぎ式取鍋。
【請求項2】
請求項1に記載の底注ぎ式取鍋において、前記ストッパーロッドは、その中心軸が前記ノズルの中心軸から水平方向に離隔するように、上下方向に昇降するアームに支持されていることを特徴とする底注ぎ式取鍋。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の底注ぎ式取鍋において、
前記ノズルが密閉された状態から前記ストッパーロッドを上昇させると、前記ストッパーロッドの中心軸と前記ノズルの中心軸との水平方向距離が2mm以上になるまで、前記ストッパーロッドは前記ノズルのテーパ面に沿って上昇し、
さらに前記ストッパーロッドを上昇させると、前記ノズルのテーパ面から分離して前記ノズルの上方開口部が全開することを特徴とする底注ぎ式取鍋。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の底注ぎ式取鍋において、(a)下降する前記ストッパーロッドの球面状下端部が前記ノズルの曲面状テーパ面と接触したとき、(b)下降する前記ストッパーロッドの球面状下端部が前記ノズルの逆円錐状テーパ面と接触したとき、又は(c)下降する前記ストッパーロッドの逆円錐状下端部が前記ノズルの曲面状テーパ面と接触したときに、両者の接点における前記ノズルの曲面状テーパ面又は前記ストッパーロッドの球面状下端部の法線と前記ノズルの中心軸とで挟まれた角度が25°以上であることを特徴とする底注ぎ式取鍋。
【請求項5】
請求項4に記載の底注ぎ式取鍋において、前記ストッパーロッドにより前記ノズルを密閉したときに、両者の接点における前記ノズルの曲面状テーパ面又は前記ストッパーロッドの球面状下端部の法線と前記ノズルの中心軸とで挟まれた角度が60°以下であることを特徴とする底注ぎ式取鍋。
【請求項6】
溶湯排出用ノズルと、上下方向に昇降して前記ノズルの上方開口部を開閉するストッパーロッドとを有する底注ぎ式取鍋を用いて、溶湯を注湯する方法であって、
前記ノズルの上方開口部は逆円錐状テーパ面又は内側に凸の円弧状断面を有する曲面状テーパ面を有し、前記ストッパーロッドの下端部は逆円錐状テーパ面又は球面を有し、かつ前記ノズルの上方開口部が逆円錐状テーパ面を有する場合には前記ストッパーロッドの下端部は球面状であり、
前記ストッパーロッドの中心軸が前記ノズルの中心軸から水平方向に離隔した状態で前記ストッパーロッドが前記ノズルの上方に離隔した第一の開放段階と、
前記ストッパーロッドを下降させることにより、前記ストッパーロッドの中心軸と前記ノズルの中心軸との水平距離が2mm以上の点で前記ストッパーロッドの下端部を前記ノズルのテーパ面と接触させる第一の閉塞段階と、
前記ストッパーロッドをさらに下降させることにより前記ストッパーロッドの下端部を前記ノズルのテーパ面に沿って下方に移動させ、もって前記ノズルの上方開口部を密閉する第二の閉塞段階と、
前記ノズルの上方開口部を開放するとともに、前記ストッパーロッドの中心軸が前記ノズルの中心軸から水平方向に離隔するように、前記ストッパーロッドを前記ノズルのテーパ面に沿って上昇させる第二の開放段階とを有することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の注湯方法において、前記ストッパーロッドは、その中心軸が前記ノズルの中心軸から水平方向に離隔するように、上下方向に昇降するアームに支持されていることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の注湯方法において、前記第二の開放段階を、前記ストッパーロッドの中心軸と前記ノズルの中心軸との水平方向距離が2mm以上になるまで行うことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の注湯方法において、(a)下降する前記ストッパーロッドの球面状下端部が前記ノズルの曲面状テーパ面と接触したとき、(b)下降する前記ストッパーロッドの球面状下端部が前記ノズルの逆円錐状テーパ面と接触したとき、又は(c)下降する前記ストッパーロッドの逆円錐状下端部が前記ノズルの曲面状テーパ面と接触したときに、両者の接点における前記ノズルの曲面状テーパ面又は前記ストッパーロッドの球面状下端部の法線と前記ノズルの中心軸とで挟まれた角度が25°以上であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の注湯方法において、前記ストッパーロッドにより前記ノズルを密閉したときに、両者の接点における前記ノズルの曲面状テーパ面又は前記ストッパーロッドの球面状下端部の法線と前記ノズルの中心軸とで挟まれた角度が60°以下であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルの上方開口部をストッパーロッドにより開閉する底注ぎ式取鍋、及びそれを用いた溶湯の注湯方法に関する。
【背景技術】
【0002】
底注ぎ式取鍋の底に設けたノズルの上方開口部をストッパーロッドで開閉することにより、取鍋のノズルから鋳型に鋳込む金属溶湯の量を制御する注湯方式は、取鍋内の溶湯表面に浮上した介在物が鋳型内に混入することが少ないという利点があり、鋳造分野において広く使用されている。
【0003】
図10(a) 及び
図10(b) は従来の底注ぎ式取鍋を概略的に示す。この底注ぎ式取鍋21は、取鍋本体2と、取鍋本体2の底部に設けられたノズル3と、ノズル3を閉塞するストッパーロッド4と、ストッパーロッド4を支持するアーム5と、アーム5を上下動させる昇降装置6とを具備する。ノズル3は通常耐熱性セラミックスにより形成されており、逆円錐状テーパ面又は凸の円弧状断面を有する曲面状テーパ面を有する。またストッパーロッド4は、通常黒鉛等の耐火物からなる外筒部41と、外筒部41を支持する金属製の芯部42とからなり、外筒部41の下端部41aは通常逆円錐状テーパ状又は半球状である。アーム5は垂直アーム部5aと水平アーム部5bとからなり、芯部42は支持部7により水平アーム部5bの先端部に螺着されている。図示の例では、ノズル3の上方開口部10は内側に凸の円弧状断面を有する曲面状テーパ面3aにより形成されており、ストッパーロッド4は半球状下端部41aを有する。
【0004】
図10(a) に示すように、ストッパーロッド4がノズル3から離隔している状態では、ストッパーロッド4の中心線O
2とノズル3の中心線O
1とはほぼ一致するように設定されている。その状態で昇降装置6によりストッパーロッド4を降下させると、
図10(b) に示すようにストッパーロッド4の半球状下端部41aはノズル3の曲面状テーパ面3aと密着し、上方開口部10を密閉する。この状態で溶湯(図示せず)を取鍋本体2に注入する。
【0005】
図10(b) に示す密閉状態で溶湯を取鍋本体2に注入した後、
図10(a) に示すようにストッパーロッド4を所定の時間上昇させ、規定量の溶湯をノズル3より流出させた後、再度ストッパーロッド4を降下させる。そのとき、ストッパーロッド4の中心線O
2とノズル3の中心線O
1とがほぼ一致しているので、ノズル3は本来密閉されるはずである。しかし、実際には
図10(b) に示す状態でノズル3からの溶湯の漏出が起こることがあった。また、ノズル3からの溶湯の漏出は、注湯サイクルを繰り返すにつれて増大する傾向にあることも分った。
【0006】
溶湯の漏出により規定量を超える溶湯が注湯されたり、注湯開始前に漏出した溶湯が鋳型内に流入したりすると、湯玉や湯境と呼ばれる不具合が発生することがある。そこでストッパーロッド4に大きな荷重をかけて、ノズル3に強く押し付けることも考えられるが、そうするとストッパーロッド4の耐熱性外筒部41又はノズル3が破損するおそれがある。
【0007】
このような溶湯の漏出の問題を解決すべく鋭意検討の結果、(a) 溶湯の流出中ノズル3の曲面状テーパ面3aに溶湯中の介在物が付着するだけでなく、半凝固状の溶湯も付着し、(b) ノズル3の曲面状テーパ面3aに付着した介在物や半凝固状溶湯によりストッパーロッド4の半球状下端部41aがノズル3の曲面状テーパ面3aに密着するのを妨げること、さらに(c) ノズル3の曲面状テーパ面3aに付着した介在物や半凝固状の溶湯を潰したりずらしたりしながら下降するのに必要な荷重をストッパーロッド4にかけると、ストッパーロッド4の半球状下端部41a及びノズル3の一方又は両方が損傷するおそれがあることが分った。
【0008】
このような問題に対して、特開平3-124363号は、
図11に示すように、傾注式の取鍋から掛堰16に溶湯を定量供給した後、この溶湯を掛堰16の溶湯落下ノズル51から鋳型41の湯口54に注湯する注湯装置において、鋳型41の上部に、掛堰16の溶湯落下ノズル51と密着される砂型ノズル53が掛堰16から分離して設けられ、砂型ノズル53に湯口54が設けられ、湯口54に、掛堰16の溶湯落下ノズル51を貫通して挿入されたストッパー25と密着係合するストッパー当接座部55が設けられた注湯装置を開示している。この注湯装置によると、ストッパー25に大荷重をかけることなくストッパー25と砂型ノズル53との高い密着性を得ることができる。しかし、特開平3-124363号の注湯装置は、傾注式の取鍋から一旦掛堰16に注湯した後で、掛堰16から鋳型41に注湯する量を調節する装置であって、底注ぎ式取鍋の注湯量を調節する装置ではない。従って、ストッパー25が接触するノズル53は砂型の一部であり、介在物や半凝固状の溶湯の付着の問題がない。
【0009】
実公平1-28944号は、
図12に示すように、溶融物容器の流出口の開閉装置であって、主フレーム112と、主フレーム112に枢動自在に支持された2本のアーム104,105と、アーム104,105の先端に枢動自在に取り付けられたフレーム101と、フレーム101に固定された駆動装置108と、駆動装置108により前後動する開閉ロッド102と、開閉ロッド102の先端に固定された開閉栓103と、主フレーム112に枢動自在に支持されたアーム回動用駆動装置106と、アーム回動用駆動装置106により前後動するとともに主フレーム112及びアーム105に枢動自在に連結したリンク109,110と、開閉ロッド102の開閉栓103が嵌入する溶融物容器流出口111とを具備し、2本のアーム104,105と開閉ロッド102との駆動により円弧状軌跡に沿って開閉栓103が移動し、流出口111の上方内周面に接触した後、流出口111全体に接触する装置を開示している。この開閉装置はアルミニウム溶融物に使用するもので、円筒状の流出口111に対して円錐状の開閉栓103を用いている。しかし、流出口111は円筒状で、その開口部はテーパ面ではないので、円錐状開閉栓103は常に流出口111の上端縁部に接触し、両者の摩耗が大きい。その上、円筒状流出口111と円錐状開閉栓103との接触では十分な密閉力が得られず、密閉時の湯漏れを防止できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の第一の目的は、ノズルを通して規定量の鋳鋼溶湯を注湯する際に、ストッパーロッドに大きな荷重をかけることなくノズルからの湯漏れを防止することができる底注ぎ式取鍋を提供することである。
【0011】
本発明の第二の目的は、かかる底注ぎ式取鍋を用いて、ノズルからの湯漏れを防止しつつ注湯を行う方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者等は、注湯用の底注ぎ式取鍋において、ストッパーロッドの中心軸がノズルの中心軸から離隔した状態でストッパーロッドをノズルに接触させた後、ノズル上を滑らせながらノズルを閉じると、小さな荷重をストッパーロッドにかけるだけでノズルを完全に密閉でき、かつ注湯サイクルを繰り返してもノズルからの湯漏れを防止できることを発見し、本発明に想到した。
【0013】
すなわち、本発明の溶湯注湯用の底注ぎ式取鍋は、溶湯排出用ノズルと、上下方向に昇降して前記ノズルの上方開口部を開閉するストッパーロッドとを具備し、
前記ノズルの上方開口部は逆円錐状テーパ面又は内側に凸の円弧状断面を有する曲面状テーパ面を有し、前記ストッパーロッドの下端部は逆円錐状テーパ面又は球面を有し、かつ前記ノズルの上方開口部が逆円錐状テーパ面を有する場合には前記ストッパーロッドの下端部は球面状であり、
前記ノズルの開放状態では、前記ストッパーロッドは前記ノズルの上方に離隔するとともに、前記ストッパーロッドの中心軸は前記ノズルの中心軸から水平方向に離隔しており、
下降する前記ストッパーロッドの下端部が前記ノズルのテーパ面と接触したとき、両者の接点における前記ストッパーロッドの中心軸と前記ノズルの中心軸との水平方向距離が2 mm以上であり、
前記ストッパーロッドをさらに下降させると、前記ストッパーロッドの下端部は前記ノズルのテーパ面に沿って下方に移動し、もって前記ノズルの上方開口部を密閉することを特徴とする。
【0014】
上記底注ぎ式取鍋において、前記ノズルが密閉された状態から前記ストッパーロッドを上昇させると、(a) 両者の接点における前記ストッパーロッドの中心軸と前記ノズルの中心軸との水平方向距離が2 mm以上になるまで、前記ストッパーロッドは前記ノズルのテーパ面に沿って上昇し、(b) さらに前記ストッパーロッドを上昇させると、前記ノズルのテーパ面から分離して前記ノズルの上方開口部が全開するのが好ましい。
【0015】
本発明の溶湯の注湯方法は、溶湯排出用ノズルと、上下方向に昇降して前記ノズルの上方開口部を開閉するストッパーロッドとを有する底注ぎ式取鍋を使用し、
前記ノズルの上方開口部は逆円錐状テーパ面又は内側に凸の円弧状断面を有する曲面状テーパ面を有し、前記ストッパーロッドの下端部は逆円錐状テーパ面又は球面を有し、かつ前記ノズルの上方開口部が逆円錐状テーパ面を有する場合には前記ストッパーロッドの下端部は球面状であり、
前記ストッパーロッドが前記ノズルの上方に離隔するとともに、前記ストッパーロッドの中心軸が前記ノズルの中心軸から水平方向に離隔した開放段階と、
前記ストッパーロッドの中心軸と前記ノズルの中心軸との水平距離が2 mm以上になる点で前記ストッパーロッドの下端部が前記ノズルのテーパ面と接触するように、前記ストッパーロッドが下降する第一の閉塞段階と、
さらに下降する前記ストッパーロッドの下端部が前記ノズルのテーパ面に沿って下方に移動し、もって前記ノズルの上方開口部を密閉する第二の閉塞段階とを有することを特徴とする。
【0016】
上記方法において、前記ノズルの開放を、両者の接点における前記ストッパーロッドの中心軸と前記ノズルの中心軸との水平距離が2 mm以上になるまで前記ストッパーロッドを前記ノズルのテーパ面に沿って上昇させる第一の開放段階と、さらに前記トッパーロッドを上昇させて、前記ノズルの上方開口部を全開させる第二の開放段階とにより行うのが好ましい。
【0017】
下降する前記ストッパーロッドの下端部は前記ノズルのテーパ面と接触する。このとき、前記ストッパーロッドの下端部が球面状又は逆円錐状であるか、及び前記ノズルが逆円錐状テーパ面又は曲面状テーパ面を有するかで、両者の接触面の組合せは4通りあるが、そのうち少なくとも一方が曲面状(球面状)である場合は3通りある。すなわち、(a) 下降する前記ストッパーロッドの球面状下端部が前記ノズルの曲面状テーパ面と接触する場合、(b) 下降する前記ストッパーロッドの球面状下端部が前記ノズルの逆円錐状テーパ面と接触する場合、及び(c) 下降する前記ストッパーロッドの逆円錐状下端部が前記ノズルの曲面状テーパ面と接触する場合がある。両者の接点において、前記ノズルの曲面状テーパ面の法線と前記ノズルの中心軸とで挟まれた角度[(a) 及び(c) の場合]、及び前記ストッパーロッドの球面状下端部の法線と前記ノズルの中心軸とで挟まれた角度[(b) の場合]は、いずれも25°以上であるのが好ましい。
【0018】
前記ストッパーロッドにより前記ノズルを密閉したときに、両者の接点における前記ノズルの曲面状テーパ面又は前記ストッパーロッドの球面状下端部の法線と前記ノズルの中心軸とで挟まれた角度は60°以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の底注ぎ式取鍋を用いると、ノズルのテーパ面に介在物や半凝固状の溶湯が付着しても、ノズル密閉時にストッパーロッドに大荷重をかけることなくノズルからの湯漏れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1(a)】ストッパーロッドが上昇位置にある状態の本発明の第一の実施形態による底注ぎ式取鍋を示す部分断面概略図である。
【
図1(b)】ストッパーロッドがノズルにはじめて接触した状態の本発明の第一の実施形態による底注ぎ式取鍋を示す部分断面概略図である。
【
図1(c)】ストッパーロッドがノズルを密閉した状態の本発明の第一の実施形態による底注ぎ式取鍋を示す部分断面概略図である。
【
図2】アームの水平アーム部にストッパーロッドの芯部を螺着する支持部を示す平面図である。
【
図3】ノズルとストッパーロッドの詳細を示す概略図である。
【
図4】回動自在な支持部の一例を示す断面図である。
【
図5】回動自在な支持部の別の例を示す側面図である。
【
図8(a)】第二の実施形態において、第一の閉塞段階でのストッパーロッドの下端部とノズルのテーパ面との関係を示す部分拡大概略図である。
【
図8(b)】第二の実施形態において、第二の閉塞段階でのストッパーロッドの下端部とノズルのテーパ面との関係を示す部分拡大概略図である。
【
図9(a)】第三の実施形態において、第一の閉塞段階でのストッパーロッドの下端部とノズルのテーパ面との関係を示す部分拡大概略図である。
【
図9(b)】第三の実施形態において、第二の閉塞段階でのストッパーロッドの下端部とノズルのテーパ面との関係を示す部分拡大概略図である。
【
図10(a)】ストッパーロッドが上昇位置にある状態の従来の底注ぎ式取鍋を示す部分断面概略図である。
【
図10(b)】ストッパーロッドがノズルを密閉した状態の従来の底注ぎ式取鍋を示す部分断面概略図である。
【
図11】特開平3-124363号に開示の注湯装置を示す断面図である。
【
図12】実公平1-28944号に開示の溶融物容器の流出口の開閉装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を以下詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。各実施形態に関する説明は、特に断りがなければ他の実施形態にも適用することができる。
【0022】
[1] 第一の実施形態
(1) 底注ぎ式取鍋の構造
図1(a) に示すように、本発明の第一の実施形態による底注ぎ式取鍋1は、上方が開口した有底の取鍋本体2と、取鍋本体2の底部に設けられたノズル3と、ノズル3を閉塞するストッパーロッド4と、ストッパーロッド4を支持するアーム5と、アーム5を上下動させる昇降装置6とを具備する。ノズル3は窒化珪素のような耐熱性セラミックスにより形成されているのが好ましい。またストッパーロッド4は、黒鉛等の耐火物からなるほぼ円柱形状の外筒部41と、外筒部41を支持する金属製の芯部42とからなるのが好ましい。
【0023】
本実施形態では、ノズル3の上方開口部10は内側に凸の円弧状断面を有する曲面状テーパ面3aであり、中心軸O
1に関して軸対称である。また、外筒部41の下端部41aは中心軸O
2に関して軸対称な球面状である。ここで「球面状」とは、完全に半径が一定の球面に限らず、半径が中心軸O
2からの角度に応じて多少増減した球面でも良いことを意味する。外筒部41の下端部41aは半球であるのが好ましい。内側に凸の円弧状断面を有するノズル3の曲面状テーパ面3aに当接したストッパーロッド4の球面下端部41aは、小さな力で曲面状テーパ面3a上を滑り、さらに下降することができる。その上、ノズル3が逆円錐状テーパ面を有していても、ストッパーロッド4の球面下端部41aが球面状であると、ストッパーロッド4の傾斜にかかわらず十分な密着性が確実に得られる。
【0024】
アーム5は、取鍋2に設置された昇降装置6により上下動する垂直アーム部5aと、垂直アーム部5aに直角に固定された水平アーム部5bとからなる。昇降装置6の構造は、アーム5が上下動する限り限定されないが、例えばラック・ピニオン式、油圧式が挙げられる。
【0025】
図2に示すように、水平アーム部5bの先端部に長穴5cが設けられており、長穴5cの幅にほぼ等しい外径のストッパーロッド4の芯部42の雄ネジ部42aは、長穴5cを貫通した後上下から一対のナット7a,7aに螺合している。このような構造のために、ストッパーロッド4の芯部42の水平方向位置を任意に設定することができる。
【0026】
図3に示すように、ノズル3は、内側に凸の円弧状断面を有する曲面状テーパ面3aからなる上方開口部10を有するドーナツ形状である。ノズル3の上面は直径D
1で、内側に半径r
1の曲面状テーパ面3aがあり、曲面状テーパ面3aに囲まれた中央部に貫通孔3bを有する。貫通孔3bの直径はD
2であるので、上方開口部10の半径r
2はr
1+D
2/2である。従って、ノズル3の上面の外周には、D
1/2−r
2の幅の平坦部がある。ストッパーロッド4の外筒部41の半球状下端部41aの半径はr
3であり、直径はD
3である。半球状下端部41aが完全に半球状の場合、D
3=2r
3である。
【0027】
図3に示す例では、ストッパーロッド4の中心軸O
2は垂直であるので、ノズル3の開放状態において、ストッパーロッド4の中心軸O
2とノズル3の中心軸O
1との水平方向距離dはどこでも同じであるが、ストッパーロッド4の中心軸O
2が傾斜している場合、水平方向距離dは、図示のように、上方開口部10の上端を通る平面で測定するものとする。
【0028】
後述するように、本発明ではストッパーロッド4の中心軸O
2は上昇位置ではノズル3の中心軸O
1から水平方向に離隔しているが、下降によりストッパーロッド4がノズル3の曲面状テーパ面3aに沿って移動するので、その移動分を吸収し得る機構が必要である。ストッパーロッド4の中心軸の水平方向移動を吸収する機構としては、(a) 支持部7の回動、(b) 昇降装置6における垂直アーム部5aの回動等が挙げられる。構造の簡単さの観点から、支持部7を回動自在にするのが好ましい。
【0029】
回動自在な支持部7の一例は、
図4に示すように、ストッパーロッド4の芯部42の上部に設けられた雄ネジ部42aと、水平アーム部5bの長穴5cを貫通した雄ネジ部42aに両側から螺合した一対のナット7a,7aと、各ナット7aの下側(水平アーム部5bの側)に設けられたワッシャー7bとからなる。各ワッシャー7bは、例えばスプリングワッシャ(切れ目があって、端部が段違いなっている。)のように弾性変形自在である必要がある。(a) 芯部42が長穴5cの長手方向に移動できないが、(b) ワッシャー7b,7bの弾性変形が可能な程度にナット7a,7aを芯部42の雄ネジ部42aに螺合すると、ストッパーロッド4の芯部42は支持部7を中心として長穴5cの長手方向に僅かに回動できる。ナット7a,7aの螺合力(ワッシャー7b,7bの弾性力)は、ストッパーロッド4の半球状下端部41aがノズル3の曲面状テーパ面3aに沿って滑るときに、半球状下端部41a及び曲面状テーパ面3aが破損しないような大きさに設定する必要がある。その結果、ストッパーロッド4の降下により、半球状下端部41a及び曲面状テーパ面3aが破損することなく、ストッパーロッド4の外筒部41の下端部41aは曲面状テーパ面3aに沿って数mm程度水平方向に移動できる。
【0030】
回動自在な支持部7の別の例は、
図5に示すように、ストッパーロッド4の芯部42の雄ネジ部42aに一対のワッシャー7b,7bを介して強固に螺合された一対のナット7a,7aと、芯部42の途中に設けられたバネ部42bとからなる。バネ部42bは水平方向の力に対しては屈曲自在であるが、垂直方向の力に対しては変形しないことが必要である。このようなバネ部42bとして、隙間のないコイルスプリングが好ましい。この例では、ナット7a,7aが雄ネジ部42aに強固に螺合されているのでワッシャー7b,7bは弾性変形できず、芯部42の回動はバネ部42bにより行われる。バネ部42bの弾性力は、上記と同様に、ストッパーロッド4の半球状下端部41aがノズル3の曲面状テーパ面3aに沿って滑るときに、半球状下端部41a及び曲面状テーパ面3aが破損しないような大きさに設定する必要がある。その結果、バネ部42bによる回動の場合も、ストッパーロッド4の降下により、半球状下端部41a及び曲面状テーパ面3aが破損することなく、ストッパーロッド4の外筒部41の下端部41aは曲面状テーパ面3aに沿って数mm程度水平方向に移動できる。
【0031】
(2) 注湯方法
図1(a)〜
図1(c) を参照して、第一の実施形態の底注ぎ式取鍋1を使用した注湯方法を説明する。本発明の注湯方法は、介在物や半凝固状の溶湯の付着の問題がある鋳鋼の溶湯に対し好適であるが、これに限定されず、鋳鉄又はアルミニウムの溶湯でも介在物や半凝固状の溶湯の付着の問題があるので、使用可能である。
【0032】
(a) 開放段階
図1(a) に示すように、ストッパーロッド4がノズル3から上方に離隔している状態では、ストッパーロッド4の中心軸O
2はノズル3の中心軸O
1から水平方向に離隔した位置にある。開放段階においてストッパーロッド4の中心軸O
2とノズル3の中心軸O
1との水平方向距離dは2 mm以上であるのが好ましい。ストッパーロッド4の中心軸O
2は垂直でも良いが、傾斜していても良い。ストッパーロッド4の傾斜方向は垂直アーム部5aの側(図中右側)であるのが好ましい。
【0033】
(b) 第一の閉塞段階
図1(b) に示すように、ストッパーロッド4を降下させると、その外筒部41の半球状下端部41aはノズル3の曲面状テーパ面3aに当接する。この段階では、ストッパーロッド4の中心軸O
2とノズル3の中心軸O
1との水平方向距離dは変わらない。2 mm以上の距離dがあるために、鋳鋼溶湯中の介在物や半凝固状の溶湯を少しずつずらしたり潰したりする効果が大きくなり、ストッパーロッド4にかける荷重が小さくてもノズル3を効果的に密閉したり開放したりすることができる。より好ましい距離dは5 mm以上である。一方、距離dの上限はノズル3の大きさ及びその曲面状テーパ面3aの形状により変動し得るが、30 mm以下が好ましく、10 mm以下がより好ましい。
【0034】
図6に示すように、下降したストッパーロッド4の外筒部41の半球状下端部41aがノズル3の曲面状テーパ面3aとはじめて接触したとき、両者の接点をXとする。接点Xにおけるノズル3の曲面状テーパ面3a又はストッパーロッド4の半球状下端部41aの法線15とノズル3の中心軸O
1との角度α(鋭角側)が大きいほど曲面状テーパ面3a上をストッパーロッド4が滑りやすくなり、ノズル3からの湯漏れを防止するために必要なストッパーロッド4にかける荷重を小さくすることができる。そのため、角度αは25°以上であるのが好ましく、37〜58°であるがより好ましい。
【0035】
(c) 第二の閉塞段階
ストッパーロッド4をさらに降下させると、両者の中心軸O
1及びO
2がほぼ重なるまで半球状下端部41aがノズル3の曲面状テーパ面3aに沿って下方に移動し(両者の接点が最下点Yまで下降し)、もってノズル3の上方開口部10を密閉する。ストッパーロッド4が最下点Yまで下降したときにノズル3の中心軸O
1とストッパーロッド4の中心軸O
2とが完全に重ならないこともあるが、そのような場合でも、ストッパーロッド4の下端部41aが球面状であると、ノズル3の曲面状テーパ面3aに密着できる。
【0036】
上記のように、第一の閉塞段階では両者の中心軸O
1及びO
2が離隔した状態で、ストッパーロッド4はノズル3とまず1点Xで接触し、その後ノズル3の曲面状テーパ面3aに沿って下降するにつれてストッパーロッド4の中心軸O
2はノズル3の中心軸O
1に近づき、ストッパーロッド4とノズル3とが接触又は溶湯が通過しない程度に十分に接近している範囲が次第に拡大して、最終的に最下点Yでノズル3が密閉状態になる。このとき、ストッパーロッド4は支持部7を支点として傾斜し、半球状下端部41a及び曲面状テーパ面3aが破損することなく、ストッパーロッド4の外筒部41の下端部41aは曲面状テーパ面3aに沿って数mm程度水平方向に移動する。
【0037】
ストッパーロッド4の半球状下端部41aがノズル3の曲面状テーパ面3aに沿って滑るにつれて、ストッパーロッド4とノズル3との接触範囲が次第に大きくなるので、ストッパーロッド4とノズル3との密着の抵抗となる溶湯中の介在物や半凝固状の溶湯は少しずつ潰されるかずらされ、もってストッパーロッド4にかける荷重が小さくてもノズル3を密閉状態にすることができる。
【0038】
図7に示すように、最下点Yにおけるノズル3の曲面状テーパ面3a又はストッパーロッド4の半球状下端部41aの法線17とノズル3の中心軸O
1との角度β(鋭角側)が小さいほど、ストッパーロッド4を最下点Y(ノズル3の密閉状態)から引き上げる荷重を小さくできる。そのため、角度βは60°以下であるのが好ましく、42〜54°であるがより好ましい。
【0039】
(d) 第一の開放段階
密閉状態からストッパーロッド4を上昇させてノズル3を開放するとき、上記のとは逆に、まずストッパーロッド4の上昇につれてストッパーロッド4の半球状下端部41aはノズル3の曲面状テーパ面3aに沿ってノズル3の中心軸O
1から離隔する方向に点Xまで滑り、ストッパーロッド4とノズル3との非接触範囲が次第に大きくなる。
【0040】
(e) 第二の開放段階
点Xに到達したストッパーロッド4をさらに上昇させることにより、ノズル3の上方開口部10は全開状態になり、底注ぎ式取鍋1中の溶湯は鋳型(図示せず)に注湯される。上記の通り、第一及び第二の閉塞段階とちょうど逆の手順で第一及び第二の開放段階を行うので、小さな荷重でストッパーロッド4を引き上げることができる。
【0041】
[2] 第二の実施形態
図8(a) 及び
図8(b) に示すように、この実施形態では、ストッパーロッド4の下端部41aは球面状(半球状)であるが、ノズル13のテーパ面13aは逆円錐状テーパ面である。これ以外については、第二の実施形態は第一の実施形態と同じでよい。
【0042】
第二の実施形態の場合も、第一の閉塞段階ではストッパーロッド4の中心軸O
2とノズル13の中心軸O
1との水平方向距離dは2 mm以上であり、第二の閉塞段階では半球状下端部41aが、両者の中心軸O
1及びO
2がほぼ重なる
までノズル13の逆円錐状テーパ面13aに沿って下方に移動し(両者の接点が最下点Yまで下降し)、もってノズル13の上方開口部を密閉する。第一の閉塞段階では、接点Xにおけるストッパーロッド4の半球状下端部41aの法線とノズル13の中心軸O
1との角度αは25°以上であるのが好ましい。また第二の閉塞段階では、最下点Yにおけるストッパーロッド4の半球状下端部41aの法線とノズル13の中心軸O
1との角度βは60°以下であるのが好ましい。
【0043】
[3] 第三の実施形態
図9(a) 及び
図9(b) に示すように、この実施形態では、ノズル3のテーパ面3aは曲面状テーパ面であるが、ストッパーロッド14の下端部141aは逆円錐状テーパ面である。これ以外については、第三の実施形態は第一の実施形態と同じでよい。
【0044】
第三の実施形態の場合も、第一の閉塞段階ではストッパーロッド14の中心軸O
2とノズル3の中心軸O
1との水平方向距離dは2 mm以上であり、第二の閉塞段階では逆円錐テーパ面状下端部141aが、両者の中心軸O
1及びO
2がほぼ重なる
までノズル3の曲面状テーパ面3aに沿って下方に移動し(両者の接点が最下点Yまで下降し)、もってノズル3の上方開口部を密閉する。第一の閉塞段階では、接点Xにおけるノズル3の曲面状テーパ面3aの法線とノズル3の中心軸O
1との角度αは25°以上であるのが好ましい。また第二の閉塞段階では、最下点Yにおけるノズル3の曲面状テーパ面3aの法線とノズル3の中心軸O
1との角度βは60°以下であるのが好ましい。
【0045】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるのもではない。また、実施例では鋳鋼を例にとるが、勿論本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
実施例1
図1(a)〜
図3に示す構造の底注ぎ式取鍋1を用いて、鋳鋼を注湯した。取鍋本体2の容量は500 kg(鋳鋼の重量換算)であり、耐熱性セラミック(窒化珪素)製ノズル3の外径D
1は160 mm、貫通孔3bの内径D
2は40 mm、曲面状テーパ面3aの曲率半径r
1は50 mm、上方開口部10の半径r2は65 mmであった。ストッパーロッド4は半径10 mmの鋼鉄製芯部42と黒鉛製外筒部41からなり、外筒部41(半球状下端部41a)の直径D3は100 mmで、全長L
1は800 mmであり、半球状下端部41aの半径r
3は50 mmであった。またストッパーロッド4の全長L(水平アーム部5bの下面から外筒部41の半球状下端部41aの最下点までの距離)は1000 mmであった。
【0047】
まず
図1(c) に示すようにストッパーロッド4がノズル3を密閉する位置で、水平アーム部5bの長穴5cにストッパーロッド4の芯部42の雄ネジ部42aを挿入し、一対のナット7a,7aにより螺合した。このときのナット7a,7aの締着強度は、ナット7a及び/又は芯部42を金槌で打つことにより芯部42の長手方向位置を変更することができる程度であった。また、この状態では、ノズル3の中心軸O
1はストッパーロッド4の中心軸O
2と一致していた。
【0048】
この状態から昇降装置6を作動させて垂直アーム部5aを上昇させ、ストッパーロッド4を50 mm引き上げて
図1(a) に示す状態とした。その後、ナット7aを金槌で打つことによりストッパーロッド4を10 mmだけ右方向にずらした。この状態で、ナット7a,7aをより強く締着した。この締着強度は、金槌で打っても芯部42は長穴5cに沿ってずれないが、外筒部41の下端部41aを水平方向に押すと芯部42の傾斜を容易に変えることができる程度であった。
【0049】
昇降装置6を作動させてストッパーロッド4を下降させ、
図1(b) に示すようにノズル3の中心軸O
1とストッパーロッド4の中心軸O
2との距離dが10 mmとなる状態で当接させた。このとき、
図6に示すように、ノズル3の接点Xにおける法線15とノズル3の中心軸O
1との角度αは33°であった。
【0050】
ストッパーロッド4を130 Nの荷重で下方に押すように昇降装置6を作動させると、支持部7を中心としてストッパーロッド4が傾斜し、ノズル3の曲面状テーパ面3aに沿ってストッパーロッド4の半球状下端部41aが下降して、ノズル3の中心軸O
1とストッパーロッド4の中心軸O
2とがほぼ重なり、ノズル3を密閉した。このとき、
図7に示すように、ストッパーロッド4の最下点Yにおけるノズル3の曲面状テーパ面3aの法線17とノズル3の中心軸O
1との角度βは42°であった。
【0051】
この状態で取鍋本体2内に温度1600℃の鋳鋼の溶湯500 kgを投入した。このとき、溶湯によりストッパーロッド4にかかる浮力を考慮して、ストッパーロッド4を下方に押圧する荷重を130 N+170 N(浮力の分)=300 Nとし、ノズル3の密閉状態を保持した。
【0052】
鋳鋼溶湯の注湯を開始するにあたりストッパーロッド4を上昇するための引き抜き荷重は120 Nであった。注湯はストッパーロッド4を100 mm上昇させてノズル3を開放し、鋳型(図示せず)に約12 kgの溶湯を注湯した後、上記と同じ第一及び第二の閉塞段階を経て、ノズル3を密閉した。このサイクル30回繰り返したが、ノズル3からの湯漏れは発生しなかった。
【0053】
実施例2〜6
ノズル3の中心軸O
1とストッパーロッド4の中心軸O
2との距離dを表1に示す値にそれぞれ変更し、かつ角度αを変化させた以外実施例1と同様にして、注湯サイクルを30回繰り返した。その結果、30サイクルの注湯の途中にノズルからの湯漏れは発生しなかった。
【0054】
実施例7〜9
ストッパーロッド4の外筒部41の外径及び半球状下端部41aの半径を変更し、ノズル3の中心軸O
1とストッパーロッド4の中心軸O
2との距離dを5 mmに固定した以外実施例1と同様にして、注湯サイクルを30回繰り返した。30サイクルの注湯の途中にノズルからの湯漏れは発生しなかった。
【0055】
比較例1
ノズル3の中心軸O
1とストッパーロッド4の中心軸O
2とのずれを0 mmにし、密閉荷重を405 Nに設定して、上記注湯サイクルを7回繰り返したところ、密閉状態にしたノズル3から湯漏れが発生した。そのため、ストッパーロッド4に加える荷重を600 Nに増大したところ、湯漏れは止まったが、注湯を再開した後8サイクル目にノズル3に亀裂が入った。
【0056】
比較例2
比較例1と同じくノズル3の中心軸O
1とストッパーロッド43の中心軸O
2とのずれを0 mmとし、ストッパーロッド4に加える荷重をはじめから600 Nとして注湯を開始した結果、注湯開始から13サイクル目にノズル3に亀裂が入った。
【0057】
比較例1及び2から、ノズル3の中心軸O
1とストッパーロッド4の中心軸O
2とが離隔していない状態では、密閉状態にしたノズル3からの湯漏れを防止するためにストッパーロッド4を大荷重で押す必要があり、ノズル3に亀裂を発生させることが分った。これに対して、実施例1〜9のようにノズル3の中心軸O
1とストッパーロッド4の中心軸O
2とを離隔しておくと、ストッパーロッド4に大きな密閉荷重をかけることなくノズル3からの湯漏れを防止できることが分かった。また、角度αが25°以上であるとロッド荷重及び密閉荷重が小さく、また角度βが60°以下であると引き抜き荷重が小さかった。
【0058】
表1に、実施例1〜9及び比較例1及び2における外筒部41(半球状下端部41a)の直径D
3及び半径r
3、距離d、角度α及びβ、ストッパーロッド4への荷重(ロッド荷重)、ノズル3を密閉したときのストッパーロッド4への荷重(密閉荷重)、ストッパーロッド4を引き抜くときの荷重(引き抜き荷重)、ノズル3からの湯漏れ及びノズル3の亀裂の有無をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0061】
1・・・底注ぎ式取鍋
2・・・取鍋本体
3,13・・・ノズル
3a,13a・・・ノズルの上方開口面
4,14・・・ストッパーロッド
41,141・・・ストッパーロッドの外筒部
41a,141a・・・外筒部の下端部
42・・・ストッパーロッドの芯部
42a・・・芯部の雄ネジ部
42b・・・芯部に設けられたバネ部
5・・・アーム
5a・・・垂直アーム部
5b・・・水平アーム部
5c・・・長穴
6・・・昇降装置
7・・・支持部
7a・・・ナット
7b・・・ワッシャー
10・・・ノズルの上方開口部
15・・・接点Xにおけるノズルの曲面状テーパ面の法線
17・・・最下点Yにおけるノズルの曲面状テーパ面の法線
O
1・・・ノズルの中心軸
O
2・・・ストッパーロッドの中心軸
r
1・・・曲面状テーパ面の曲率半径
r
2・・・上方開口部の半径
r
3・・・半球状下端部の半径
D
1・・・ノズルの外径
D
2・・・ノズル貫通孔の内径
D
3・・・ストッパーロッドの外筒部(半球状下端部)の直径
L・・・ストッパーロッドの全長
L
1・・・ストッパーロッドの外筒部の全長
X・・・第一の閉塞段階におけるストッパーロッドの下端部とノズルのテーパ面との接点
Y・・・第二の閉塞段階におけるストッパーロッドの下端部とノズルのテーパ面との接点(最下点)