(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る水質管理システムの概略図である。
図1に示すように、水質管理システムは、水処理設備100、水処理装置102、複数の分析計104、及び水質管理装置110を備えている。
【0024】
水処理設備100は、循環水(冷却水)と被冷却体とを熱交換器を介して接触させて、被冷却体を冷却させる循環式冷却水系である。
図2に、循環式冷却水系の一例を示す。
図2は、循環式冷却水系の1種である開放循環式冷却水系の模式図である。
【0025】
図2に示すように、開放循環式冷却水系では、熱交換器61における熱交換により温度が上昇した水が冷却塔60に供給される。冷却塔60に供給された温水は充填材62を流下し、空気と向流接触して一部が蒸発する。蒸発潜熱によって冷却された水は冷却塔60の下部のピットに貯留され、ポンプ63により熱交換器61に供給される。ブロー水配管64のブロー弁(図示略)を開とすることによりブローが行われる。蒸発量とブロー水量との合計量に相当する補給水が補給水配管65からボールタップ(図示略)を介して冷却塔60に供給される。
【0026】
図1に示す水処理装置102は、水処理設備100で使用される水にスケール防止剤、防食剤、スラッジ分散剤、殺菌剤、スライム防止剤等の水処理薬品を注入する。例えば、
図2に示す冷却塔60に貯留されている水に水処理薬品が注入される。
【0027】
分析計104は、水処理設備100の循環水又は補給水の水質パラメータの分析を行う。分析計104は複数設けられており、複数種類の水質パラメータの分析が行われる。分析対象の水質パラメータは、水処理設備100の用途や、水処理装置102が注入する水処理薬品の種類に応じたものであり、例えば、pH、電気伝導率、塩化物イオン濃度、硫酸イオン濃度、酸消費量(pH4.8)、酸消費量(pH8.3)、マグネシウム硬度、カルシウム硬度、シリカ濃度、鉄濃度、銅濃度、アンモニウムイオン濃度、残留塩素濃度、酸化還元電位、TOC(全有機炭素)、COD(化学的酸素要求量)、ポリマー濃度、全りん酸濃度、亜鉛濃度、及び濁度からなる群より選ばれる2種以上、より好ましくは3種以上である。各水質パラメータの分析は、公知の方法に従って行えばよく、詳細な説明を省略する。
【0028】
分析計104は、水処理設備100から採取された試料水の水質パラメータの分析を行う。例えば、
図2に示す冷却塔60のピット内の水、ポンプ63により熱交換器61に供給される水、又は熱交換器61から冷却塔60に供給される水、好ましくはピット内の水の一部を採取して、循環水の試料水とする。また、配管65から冷却塔60に供給される補給水の一部を採取して、補給水の試料水とする。
【0029】
分析計104は、持ち運びが可能なものでもよいし、オンライン分析が可能な装置による常時分析計でもよい。
【0030】
水質管理装置110は、分析計104の分析結果に基づき、水処理設備100における水処理状況を推定し、推定した状況に応じ、水処理設備100へ施すべき対策を提示する。また、提示された対策の実施履歴を記録することで、プラント管理のエビデンスとして残してもよい。
【0031】
図3に水質管理装置110のブロック図を示す。水質管理装置110は、入力部112、表示部114、演算部116、及びメモリ118を備え、例えばノート型PC(パーソナルコンピュータ)やタブレット端末等の携帯可能な装置により構成することができる。入力部112は、例えばボタン、スイッチ、テンキー等により構成され、分析計104により求められた水質パラメータをユーザが入力できるようになっている。分析計104から水質管理装置110へ水質パラメータを無線/有線ネットワークを介して転送するようにしてもよい。入力された水質パラメータはメモリ118に記憶される。
【0032】
また、演算部116が、入力された循環水の水質パラメータと補給水の水質パラメータとを用いて濃縮倍数を算出し、算出した濃縮倍数をメモリ118に記憶してもよい。また、演算部116は、ランゲリア指数、リズナー指数、マットソン比などを算出してメモリ118に記憶してもよい。
【0033】
例えば、循環水系のランゲリア指数(飽和指数)は、酸消費量(pH4.8)、pH、カルシウム硬度、及び電気伝導率を用いて算出できる。ランゲリア指数は、循環水のpHと炭酸カルシウムの飽和pH(pHs)との差であり、水系における配管や熱交換器等の金属材料の腐食性を測る指標となる。pHsは、簡便計算法(ノーデル法)により、以下の数式1で求められる。
【0034】
pHs=(9.3+A値+B値)−(C値+D値) …(1)
【0035】
ここで、A値は、蒸発残留物の濃度により定まる値であり、電気伝導率から求まる。B値は循環水の水温から定まる値である。C値は、カルシウム硬度により定まる値である。D値は、酸消費量(pH4.8)により定まる値である。
【0036】
また、水の腐食性とスケール生成の傾向の指標となるリズナー指数RSI(Ryznar Stability Index)は、循環水のpHと炭酸カルシウムの飽和pH(pHs)とを用いて、以下の数式2により算出できる。
【0038】
RSIが6未満のとき水はスケール生成傾向にあることを示し、RSIが6以上7未満のとき水は安定状態にあることを示し、RSIが7以上のとき水は腐食傾向にあることを示す。
【0039】
また、銅の孔食発生の指標となるマットソン比は、硫酸イオン濃度、酸消費量(pH4.8)、及び酸消費量(pH8.3)を用いて算出できる。マットソン比は水中の炭酸水素イオン濃度と硫酸イオン濃度の比([HCO
3−]/[SO
42−])であり、炭酸水素イオン濃度HCO
3−(mgHCO
3−/L)は以下の数式3により求めることができる。
【0040】
HCO
3−(mgHCO
3−/L)=1.22×(酸消費量(pH4.8)−2×酸消費量(pH8.3)) …(3)
【0041】
マットソン比が1以下で、残留塩素が存在するとき、60℃程度の温水で、銅に孔食が生じやすいと判断される(出展:JRA−GL02(1994) (社)日本冷凍空調工業会)。
【0042】
水質管理装置110の表示部114は、例えば液晶ディスプレイであり、後述する演算部116により推定された水処理状況や、水処理設備100へ施すべき対策を表示する。
【0043】
メモリ118は、入力部112を介して入力された水質パラメータや、演算部116により算出された濃縮倍数等を記憶する。また、メモリ118は、複数の水質パラメータの項目名と、水質パラメータの変化と、水処理設備100における推定される水処理状況と、水処理設備100へ施すべき対策とを組み合わせた対策データを記憶する。なお、水質パラメータの変化とは、測定値が変化することだけでなく、測定値が所定の基準値を維持し続けることも含むものとする。
図4に対策データの例を示す。
【0044】
[対策データD1、D2]
対策データD1、D2では、ポリマー濃度と亜鉛濃度/全りん酸濃度に着目し、ポリマー濃度が基準値濃度を維持していても、亜鉛濃度/全りん酸濃度が、ポリマー濃度及び水処理剤の配合率から算出される濃度より低い場合、水処理設備100において腐食が発生し始めている可能性があると推定され、防食剤の注入量増加が推定された状況への対策となる。
【0045】
水処理設備100に亜鉛、りん酸、ポリマーが一剤で注入され、水処理薬品の注入をポリマー濃度のみで制御する場合、上述のように、亜鉛濃度/全りん酸濃度の低下が起きていても、ポリマー濃度が基準値濃度を維持していることで、問題が無いと判断し、腐食発生の検知が遅れる。しかし、ポリマー濃度とあわせて、亜鉛濃度/全りん酸濃度を監視することで、ポリマー濃度が基準値濃度を維持していても、亜鉛濃度/全りん酸濃度の低下により腐食発生を早期に検知し、適切な対処をとることができる。
【0046】
[対策データD3]
対策データD3では、塩化物イオン濃度、硫酸イオン濃度、及びマットソン比に着目し、塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度が基準値濃度を維持していても、マットソン比が1以下である場合、水処理設備100において銅材の腐食が発生し始めていると推定され、ブロー量増加による濃縮倍数の低減と防食剤の注入量増加が推定された状況への対策となる。
【0047】
循環水中の腐食性アニオンを塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度のみで監視する場合、上述のように、マットソン比が1以下となっても、塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度が基準値濃度を維持していることで、問題が無いと判断し、銅材の腐食発生の検知が遅れる。しかし、塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度とあわせて、マットソン比を監視することで、塩化物イオン濃度及び硫酸イオン濃度が基準値濃度を維持していても、マットソン比が1以下となることで銅材の腐食発生を早期に検知し、適切な対処をとることができる。
【0048】
[対策データD4、D5]
対策データD4、D5では、濁度と鉄濃度/銅濃度に着目し、濁度及び鉄濃度/銅濃度が上昇した場合、水処理設備100において腐食、又は持込み鉄による二次腐食が発生し始めていると推定され、防食剤の注入量増加が推定された状況への対策となる。
【0049】
水処理薬品の注入を濁度のみで制御する場合、上述のように、濁度が上昇しても、その原因には、補給水質の悪化、濃縮倍数の上昇、プロセスリーク等、様々なものがあり、原因を特定できず、腐食発生の検知が遅れる。しかし、濁度とあわせて、鉄濃度/銅濃度を監視することで、濁度の上昇原因が鉄/銅に起因するものと特定でき、腐食発生を早期に検知し、適切な対処をとることができる。
【0050】
[対策データD6]
対策データD6では、ポリマー濃度及びCODに着目し、ポリマー濃度が基準値濃度を維持していても、循環水中のポリマー濃度に対するCODが上昇している場合、水処理設備100において外部からのCOD成分の混入によりスライムが発生し始めている可能性があると推定され、スライム防止剤の注入量増加が推定された状況への対策となる。
【0051】
水処理薬品の注入をポリマー濃度のみで制御する場合、上述のように、循環水中のポリマー濃度に対するCODが上昇していても、ポリマー濃度が基準値濃度を維持していることで、問題が無いと判断し、スライム発生の検知が遅れる。しかし、ポリマー濃度とあわせて、CODを監視することで、ポリマー濃度が基準値濃度を維持していても、循環水中のポリマー濃度に対するCODが上昇することで、スライム発生を早期に検知し、適切な対処をとることができる。
【0052】
[対策データD7]
対策データD7では、遊離残留塩素濃度及び補給水アンモニウムイオン濃度に着目し、遊離残留塩素濃度が低下した場合、スライムが発生している可能性があると推定され、補給水アンモニウムイオン濃度から循環水系に必要な次亜塩素酸量を求め、次亜塩素酸ナトリウムの添加を行う。
【0053】
水処理薬品の注入を遊離残留塩素濃度のみで制御する場合、上述のように、遊離残留塩素濃度が低下し、次亜塩素酸ナトリウムの添加量を増やしても、遊離残留塩素濃度は上昇せず、遊離残留塩素濃度の調整が遅れ、スライム発生量が増加する。しかし、遊離残留塩素濃度とあわせて、補給水アンモニウムイオン濃度を監視し、補給水アンモニウムイオン濃度から循環水系に必要な次亜塩素酸量を求めることで、スライム発生量の増加を防止できる。
【0054】
[対策データD8]
対策データD8では、シリカ濃度及びマグネシウム硬度に着目し、シリカ濃度及びマグネシウム硬度が低下した場合、水処理設備100においてケイ酸マグネシウムでのスケールが析出していると推定され、ケイ酸マグネシウムスケール防止剤の注入量増加又はブロー量増加による濃縮倍数の低減が推定された状況への対策となる。
【0055】
水処理設備100の管理をシリカ濃度のみで行う場合、上述のように、シリカ濃度が低下すると、濃縮倍数が低下したと判断し、ブロー率を下げて濃縮倍数を上げるような対策をとり、スケール析出を検知できないばかりか、かえってスケール付着を悪化させるおそれがある。しかし、シリカ濃度とあわせて、マグネシウム硬度を監視することで、シリカ濃度及びマグネシウム硬度が低下した場合にケイ酸マグネシウムでのスケール析出を早期に検知し、適切な対処をとることができる。
【0056】
[対策データD9]
対策データD9では、濁度及びCODに着目し、濁度及びCODが上昇した場合、水処理設備100においてスライムが発生している可能性があると推定され、スライム防止剤の注入量増加が推定された状況への対策となる。
【0057】
濁度のみを監視する場合、上述のように濁度が上昇するとブロー量を増加させるような対策をとり、スライム発生を検知できないばかりか、系内のスライム防止剤の濃度が低下し、かえってスライム障害を悪化させるおそれがある。しかし、濁度とあわせてCODを監視することで、濁度とともにCODが上昇することによりスライム発生を早期に検知し、適切な対処をとることができる。
【0058】
水質管理装置110の演算部116は、メモリ118に記憶されている対策データを参照し、入力された水質パラメータの変化が、対策データ内の水質パラメータ変化と一致した場合、この水質パラメータ変化に対応する水処理状況及び対策を表示部114に表示する。ユーザは、表示部114に表示された対策に基づいて、水処理設備100に対して適切な処置を施すことができ、循環水系に発生する障害を抑制することができる。
【0059】
演算部116が参照する対策データは、ユーザが入力部112を用いて選択してもよい。対策データが選択されると、入力すべき水質パラメータの入力画面が表示部114に表示される。
【0060】
このように、本実施形態による水質管理装置110は、複数の水質パラメータの項目名と、水質パラメータの変化と、水処理設備100における推定される水処理状況と、水処理設備100へ施すべき対策とを組み合わせた対策データをメモリ118に記憶し、分析計104により現場で検出された2種以上の水質パラメータが入力されると、対策データを参照し、入力された水質パラメータに対応する水処理状況及び対策を表示部114に自動で表示する。2種以上の水質パラメータを用いることで、1種の水質パラメータの変化のみでは判断できない(見落としてしまう)障害の発生を検知することができ、水処理装置100に対して適切な処置を速やかに実行し、循環水系に発生する障害を抑制することができる。
【0061】
また、ユーザは、水質管理装置110を用いることで、自身の裁量や経験レベルによらず、適切な対策を現場で速やかに確認し、実行することができる。
【0062】
上記実施形態では、複数の分析計104を用いていたが、複数の水質パラメータを求めることができる分析計を用いてもよい。このような分析計を
図5〜
図7を用いて説明する。
【0063】
図5、6は複数の水質パラメータを測定可能な分析計の外観斜視図であり、
図7は分析計のブロック図である。
図7の通り、分析計は、吸光度測定部1、電極測定部2、電気伝導率測定部3、操作部4、表示部5、演算部6、及びメモリ7を備えており、これらが筐体Hに設置されている。
【0064】
図5、6の通り、筐体Hは、略々直方体形状の合成樹脂製のケースよりなり、その上面の一半側に操作部4と、液晶ディスプレイ等よりなる表示部5とが設けられている。操作部4は、ユーザによって操作されるボタン、スイッチ、タッチパネル等によって構成されている。
【0065】
筐体Hの上面の他半側には、セル設置部10が凹段部状に設けられ、開閉回動可能なカバー11で覆われている。また、筐体Hの上面の他半側には、試料水容器20の配置部21が設けられており、この配置部21の上方に起立方向回動可能なセンサ設置盤15が設けられている。カバー11及びセンサ設置盤15はヒンジによって筐体Hに対し回動可能に取り付けられている。
【0066】
セル設置部10には、吸光度測定用セル12A,12B,12Cの差込穴13A,13B,13Cが設けられている。筐体H内には、各差込穴12A〜12Cを挟んで対峙するようにそれぞれ発光素子、分光器及び受光素子が設けられている。分光器は省略される場合がある。セル12A〜12Cには予め規定量の発色試薬が封入されている。セル12A〜12C内の発色試薬は互いに別種のものである。
【0067】
発色試薬は、測定対象成分によって異なり、例えば測定対象成分がシリカの場合はモリブデンを含有するものを使用することができ、酸消費量(pH4.8)を求める場合はブロモフェノールブルーを含有するものを使用することができ、酸消費量(pH8.3)を求める場合はフェノールフタレインを含有するものを使用することができる。また、硫酸イオンを測定する場合は、クロム酸バリウムを含有するものを使用することができる。
【0068】
セル12A〜12Cのキャップを開け、セル12A〜12C内に規定量の試料水を注入した後、キャップを閉じ、試料水と発色試薬とを混合した後、セル12A〜12Cを差込穴13A〜13Cに差し込み、吸光度を測定することができる。このセル12A〜12Cと、各発光素子、分光器及び受光素子と、各素子の駆動回路と、受光信号処理回路とによって吸光度測定部1が構成されている。
【0069】
センサ設置盤15はヒンジによって、
図5の起立状態と、
図6の倒伏状態とをとりうるように上下方向に回動可能となっている。センサ設置盤15には、電極測定部2を構成するイオン電極16、17、pHガラス電極18及び比較電極23と、電気伝導率測定部3を構成する電気伝導率計19とが、各々の下端側が倒伏装置のセンサ設置盤15の下面から下方に突出する形態にて設置されている。
【0070】
この実施の形態では、イオン電極16は2価陽イオン選択性電極であり、イオン電極17はカルシウムイオン選択性電極である。
【0071】
倒伏状態のセンサ設置盤15の下方には、試料水容器20が配置されており、センサ設置盤15が倒伏すると、イオン電極16,17、pHガラス電極18、比較電極23、及び電気伝導率計19の下端側が容器20内の試料水W(
図5)に浸漬されるように構成されている。試料水容器20には把手20aが設けられており、この把手20aを摘んで試料水容器20を筐体Hの容器配置部21に出し入れすることが可能である。また、容器20に隣接するスペースSに各種電極の保護キャップが収納できるようになっている。
【0072】
吸光度測定部1の発光素子には、LED、キセノンフラッシュランプやハロゲンランプ等を用いることができる。分光器には、干渉フィルタや色ガラスフィルタ等のフィルタ、水晶や溶融石英等のプリズム、又は平面回折格子や凹面回折格子等の回折格子を用いることができる。受光素子は、例えばフォトダイオードであり、試料からの透過光を電気信号に変換する。この電気信号に基づく透過光の強度、及び試料への入射光強度から、吸光度が求まる。吸光度の代りに透過率を求めてもよい。
【0073】
予め測定対象成分の標準液の吸光度を測定して検量線が作成され、この検量線のデータがメモリ7に記憶されている。この検量線を参照することで、算出された吸光度から、試料水における測定対象成分の溶存成分濃度を求めることができる。吸光度や溶存成分濃度の算出は、吸光度測定部1の演算部(図示せず)が行ってもよいし、演算部6が行ってもよい。
【0074】
電極測定部2を構成するイオン選択性電極及び比較電極は、測定対象イオンに対して高度の選択性を持ち、イオン濃度(溶存成分濃度)に応じた電位を生じる。イオン選択性電極は、比較電極と組み合わせることによって電池を構成し、その起電力(両電極間に生じる電位差)Eが電位差計により測定される。イオン選択性電極の電極電位をE
ind、比較電極の電極電位をE
ref、試料水Wと比較電極との間の電位差をE
jとすると、起電力Eは以下の数式4のようになる。
【0075】
E=E
ind−E
ref+E
j …(4)
【0076】
ここでE
refは一定値であり、E
jは適当な塩橋を用いることで無視できる。従って、EはE
indの値のみによって定まることになり、測定対象イオン濃度は、この電池の起電力として表すことができる。予め、標準液を用いてイオン濃度と、電極間電位差との関係(検量線)を求めておくことで、電位差計の測定値から試料中の測定対象イオン濃度を求めることができる。例えば、2価陽イオン選択性電極16及び比較電極23を用いることで、全硬度(総硬度=カルシウム硬度+マグネシウム硬度)を求めることができる。また、カルシウムイオン選択性電極17及び比較電極23を用いることでカルシウム硬度を求めることができる。また、全硬度とカルシウム硬度との差分からマグネシウム硬度を求めることができる。検量線のデータはメモリ7に記憶されている。測定対象イオン濃度の算出は、電極測定部2の演算部(図示せず)が行ってもよいし、演算部6が行ってもよい。
【0077】
電極測定部2を構成するpHガラス電極18及び比較電極23は、いわゆるガラス電極法により、試料水WのpHを測定する。具体的には、水素イオン活量に応答する特殊なガラス膜で作られたpHガラス電極18と、pHに無関係に一定の電位を示す比較電極23との間に発生した電位差を電位差計で測定し、pHを算出する。
【0078】
電気伝導率測定部3を構成する電気伝導率計19は、いわゆる交流二電極法により試料水Wの電気伝導率を求める。具体的には、交流電源を用いて1対の電極間に交流電圧を印加し、この時に流れる電流を交流電流計により測定して試料水Wの液抵抗を求め、電気伝導率を算出する。電極にはステンレス鋼や白金などが用いられる。また、電気伝導率計19には測温抵抗体等の温度センサが内蔵されている。
【0079】
セル12A〜12C及び試料水容器20に収容される試料水Wは、
図2に示すような循環式冷却水系の循環水又は補給水である。
【0080】
分析計の操作部4は、循環水モードと補給水モードとの切り替え設定を行う。循環水モードの設定時に吸光度測定部1、電極測定部2、電気伝導率測定部3により測定された値は、循環水の測定値としてメモリ7に記憶される。また、補給水モードの設定時に吸光度測定部1、電極測定部2、電気伝導率測定部3により測定された値は、補給水の測定値としてメモリ7に記憶される。
【0081】
演算部6は、循環水モード設定時の測定値及び補給水モード設定時の測定値に基づいて、循環水中の塩類濃度が補給水と比較して何倍になっているかを示す指標である濃縮倍数を算出する。例えば、同一の溶存成分について、循環水モード設定時に測定された溶存成分濃度を補給水モード設定時に測定された溶存成分濃度で除算することで、濃縮倍数が算出される。また、例えば、循環水モード設定時に測定された電気伝導率を補給水モード設定時に測定された電気伝導率で除算することでも、濃縮倍数が算出される。
【0082】
この分析計は、複数の濃縮倍数を取得できる。即ち、セル12A〜12Cの各吸光度から求めた溶存成分濃度に基づく濃縮倍数、イオン電極測定値により求めたイオン濃度に基づく濃縮倍数、電気伝導率に基づく濃縮倍数が算出される。
【0083】
表示部5は、演算部6により算出された複数の濃縮倍数や、各測定部による測定値を表示する。メモリ7は、各測定部による測定値、検量線データ、演算部6により算出された複数の濃縮倍数などを記憶する。演算部6は、ランゲリア指数(飽和指数)、リズナー指数、マットソン比を求めてもよい。
【0084】
ユーザは、表示部5に表示された複数の水質パラメータや濃縮倍数等を水質管理装置110に入力する。
【0085】
図5〜7に示す分析計が、水質管理装置110の機能を備えていてもよい。すなわち、メモリ7に
図4に示すような対策データが記憶され、演算部6は、メモリ7に記憶されている対策データを参照し、各測定部による測定値に対応する水処理状況及び対策を表示部5に自動で表示する。これにより、現場において、1台の分析計で、複数の水質パラメータの分析、水処理設備100における水処理状況の判断、及び水処理設備100へ施すべき対策の提示を行うことができる。
【0086】
図8に示すように、水質管理システムに、水処理設備100における水処理状況の判断及び水処理設備100へ施すべき対策の選定を行う外部サーバ120と、分析計104の分析結果を有線/無線ネットワークを介して外部サーバ120へ送信するデータ通信装置130を設けてもよい。外部サーバ120は、対策データのデータベースを備え、データ通信装置130から分析計104の分析結果を受信すると、この分析結果に対応する水処理状況及び対策をデータ通信装置130に通知する。データ通信装置130には、スマートフォン等の携帯端末を用いることができ、外部サーバ120から通知された水処理状況及び対策を表示部に表示する。このように、水質管理装置110の機能の一部を外部サーバ120に持たせるようにしてもよい。また、現場で補給水の分析を実施しなかった場合には、過去の最新データをクラウド上から引用して使用してもよい。
【0087】
また、
図5〜7に示す分析計に通信部を設け、この通信部が、各測定部による測定値をメモリ7から取り出し、外部サーバ120へ出力してもよい。外部サーバ120は、分析計から測定値を受信すると、この測定値に対応する水処理状況及び対策を分析計に通知する。分析計は、通知された水処理状況及び対策を表示部5に表示する。ユーザが、現場において、表示部5に表示された対策を確認し、水処理装置100に対して適切な処置を速やかに実行することで、循環水系に発生する障害を抑制することができる。
【実施例】
【0088】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0089】
[実施例1]
図1に示す装置により、パイロットプラント(以下、第1プラント)の冷却水系の循環水で、スケール防止剤としてアクリル酸を主体とするポリマーの濃度を連続して分析し、分析した結果が一定となるように薬品注入量を自動制御した。この系では、別途、持ち運び可能な分析計によりTOCをバッチで測定した。なお、第1プラントの脇で、測定開始後の26日以降から、近辺での有機溶剤の取り扱いを想定して、冷却塔脇に有機溶剤の排気ダクトの一部を引っ張り、運転を継続した。測定結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1の通り、第1プラントでは、測定開始から28日以降で大気中から循環水系に流入した有機溶剤由来と推定されるTOCの増加が判明した。ここで、ポリマー濃度ではなく、TOCのみを指標とした薬品注入量の制御を実施していた場合、TOCの増加に伴って薬品注入量を減少させることで、循環水系内のポリマー濃度が減少してスケール付着のリスクが著しく上昇していたと推定される。
【0092】
本プラントでは、TOCに加えて、ポリマー濃度を同時測定していたために、誤って薬品注入量を低減する判断を行うことがなく、適切な薬品の注入量が維持できた。
【0093】
[実施例2]
図1に示す装置により、第1プラントとは別のパイロットプラント(以下、第2プラント)の冷却水系の循環水で、ORP測定値に基づいて、モノクロロスファミン酸を主体とするスライム防止剤を含む水処理薬品の注入量を制御した。この系では、別途、持ち運び可能な分析計によりpHをバッチで測定した。なお、第2プラントでは、測定開始後の4日後にプロセスからのリークを模擬して冷却水系内に塩酸を添加した。測定結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
表2の通り、第2プラントでは、5日以降にプロセスからの塩酸の混入を模擬した塩酸の投入を行ったため、pHの急激な低下が起こった。ここで、ORPのみを指標として薬品注入量を増加する制御を実施していた場合、塩酸の混入に気づかず、循環水系内のpH低下に加えて、酸化剤の過剰添加により、系内配管および熱交換器の腐食のリスクが著しく上昇していたことがわかった。
【0096】
本プラントでは、ORPに加えて、pHを同時に測定することで、迅速にプロセスリークを模擬した塩酸の混入を検知することができた。
【0097】
[実施例3]
図1に示す装置により、第1、2のプラントとは別のパイロットプラント(以下、第3プラント)に設置された循環水系の循環水及び補給水について、残留塩素およびシリカを測定した。本プラントでは、モノクロロスファミン酸を主体とするスライム防止剤を含む水処理薬品をタイマー注入した。また、夏場の渇水時期を想定して、実機冷却水の濁質をバッチで毎日投入した。それぞれの分析結果とシリカから算出した濃縮倍数の経時変化を表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3の通り、第3のプラントでは、シリカ濃度から算出した濃縮倍数が5.1〜5.3倍で推移し、薬品注入量も期間中は同じ設定値で注入されていたにもかかわらず、全残留塩素の濃度が経時的に減少した。測定開始から22日の時点では、本プラントの管理値である全残留塩素濃度5mgCL/L)以上の条件を満足していたが、1〜22日における低下傾向を考慮すると、全残留塩素濃度が管理値を下回ることが予測されたため、薬品注入量を増加する対策を提示した。
【0100】
ここで、本循環水系より分岐させた別の循環水系で、提示された対策に従って薬品注入ポンプのストロークを上げ、全残留塩素濃度が5mgCL/L以上を維持する調整を行った。試験開始から43日後の冷却塔ピットは清浄に保たれており、付属するスライムセンサ(センサに内蔵されている抵抗に電流を周期的に供給して発熱させ、加熱時温度と非加熱時温度を温度センサで測定するセンサ。センサにスライムが付着すると伝熱阻害を受けて、加熱時温度と非加熱時温度との温度差が上昇することからスライムの付着傾向を検知する)の温度上昇も認められなかったため、熱交換器を含めた循環水系が清浄に維持できていたことを確認した。
【0101】
一方、ポンプストロークを現状のまま維持して運転を続けた循環水系では、全残留塩素濃度が29日後に3.5mgCL/Lとなり、管理値の5mgCL/Lを下回ったため、ポンプストロークを上げて調整したが、36日後では1.4mgCL/Lと依然として管理値以下であり、ポンプストロークをさらに上げたところ、43日後には5.3mgCL/Lと管理値まで回復した。このとき、冷却塔ピット内に藻類が見られ、スライムセンサ温度は0.4℃(伝熱効率やや不良の領域)となり、好適な水処理が実施できていなかった。
【0102】
このように、過去の傾向を利用して薬注量を事前に変更することで、管理値を容易に維持することができ、かつ伝熱効率も維持できることが確認できた。
【0103】
[実施例4]
図1に示す装置により、第1〜3のプラントとは別のパイロットプラント(以下、第4プラント)に設置された循環水系の循環水及び補給水について、持ち運び可能な分析計によりバッチでpH、薬品濃度、およびシリカ濃度を測定した。さらに測定したシリカ濃度から濃縮倍数を算出した。測定結果及び算出結果を以下の表4に示す。なお、本プラントでは、アルカリを含んだ冷却水用薬品をタイマー注入した。
【0104】
【表4】
【0105】
表4の通り、第4プラントでは、循環水のpHが9.5と銅材が腐食する領域であり、また、注入されている薬品量も750mg/Lと目標値の300mg/Lと比較して大幅に高くなっていた。この2項目からのみ判断すると、系内の薬品濃度の低減とpHの低下を目的として、薬品注入の設定タイマー間隔の延長とブロー量のアップ対応をする可能性が高いが、本プラントでは同時に測定しているシリカ濃度から循環水が濃縮していないことが判明していた。そのため、水質管理装置は、冷却塔の負荷が低く、薬品のみが注入され続けていたと判断し、系内の水をブローすることと、冷却塔が冬季等の停止状態である場合には冷却水を抜いて乾燥保管することを対策として提示した。
【0106】
[実施例5]
図1に示す装置により、第1〜4のプラントとは別のパイロットプラント(以下、第5プラント)に設置された循環水系の循環水及び補給水について、電気伝導率、カルシウム硬度、酸消費量(pH4.8)及びシリカ濃度を測定し、さらにそれぞれの測定値から濃縮倍数を算出した。測定結果を以下の表5に示す。
【0107】
【表5】
【0108】
第5プラントでは、電気伝導率から算出した濃縮倍数(5.5倍)が、シリカ濃度から算出した濃縮倍数(5.2倍)と比較して高くなっていた。これは、薬品由来の電気伝導率の上昇があったためであり、現状の濃縮倍数は5.2倍と判断した。
【0109】
また、シリカ濃度および電気伝導率から算出した濃縮倍数が5.2倍以上であったのに対し、カルシウム硬度および酸消費量(pH4.8)から算出した濃縮倍数は3.7〜3.8倍と大幅に低かった。水質管理装置は、カルシウム硬度成分と酸消費量(pH4.8)成分とが循環水系内で反応し、炭酸カルシウムの析出が起こっていると判断し、濃縮倍数を下げる操作を促す対策を提示した。
【0110】
ここで、本循環水系より分岐した別の循環水系で、提示された対策に従って、各水質項目の濃縮倍数が3.8倍になるようブロー量を増加し、以下の表6の水質を維持した。1ヵ月後に開放点検した結果、熱交換器に炭酸カルシウムを主成分とするスケールの付着は認められなかった。
【0111】
【表6】
【0112】
一方、各水質項目が表5に示す値のまま運転を続けた循環水系を、1ヵ月後に開放点検した結果、熱交換器に炭酸カルシウムを主成分とするスケールの付着が認められた。