特許第6202154号(P6202154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202154窒化物蛍光体及びその製造方法並びに発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202154
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体及びその製造方法並びに発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20170914BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20170914BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20170914BHJP
【FI】
   C09K11/08 B
   C09K11/64CQD
   H01L33/50
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-141227(P2016-141227)
(22)【出願日】2016年7月19日
(65)【公開番号】特開2017-43761(P2017-43761A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2016年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-169327(P2015-169327)
(32)【優先日】2015年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】西俣 和哉
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 浩之
(72)【発明者】
【氏名】細川 昌治
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−031201(JP,A)
【文献】 特開2013−012784(JP,A)
【文献】 特表2009−515333(JP,A)
【文献】 特開2014−240465(JP,A)
【文献】 特開2005−336450(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0250663(US,A1)
【文献】 特開2010−047772(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0033083(US,A1)
【文献】 特表2016−527163(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0060517(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/187624(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0006334(US,A1)
【文献】 特開2013−053311(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0290785(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08
C09K 11/64
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素、ケイ素、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及びユウロピウム化合物を含む原料混合物を熱処理することを含む、下記式(I)で表される組成を有する窒化物蛍光体の製造方法。
SrCaAlSi:Eu (I)
(s、t、u、v及びwはそれぞれ、0≦s<1、0<t≦1、s+t≦1、0.9≦u≦1.1、0.9≦v≦1.1、及び2.5≦w≦3.5を満たす)
【請求項2】
前記アルミニウム化合物が、窒化アルミニウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記カルシウム化合物が、窒化カルシウムである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ユウロピウム化合物が、酸化ユウロピウムである請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料混合物を、1200℃以上で熱処理する請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料混合物を、1900℃以上2050℃以下で熱処理する請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料混合物は、窒化ケイ素とケイ素の総量に対するケイ素の重量比率が10重量%以上85重量%以下である請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記原料混合物は、窒化ケイ素とケイ素の総量に対するケイ素の重量比率が30重量%以上80重量%以下である請求項1から7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記窒化ケイ素に含まれる酸素原子の含有率が0.3重量%以上2重量%未満である請求項1から8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記窒化物蛍光体のBET法による比表面積が0.05m/g以上0.3m/g未満である請求項1から9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記窒化物蛍光体の平均粒径が15μm以上30μm以下である請求項1から10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記窒化物蛍光体のBET法による比表面積が0.1m/g以上0.16m/g以下であり、前記窒化物蛍光体の平均粒径が20μm以上30μm以下である請求項1から11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記窒化物蛍光体のBET法による比表面積が0.1m/g以上0.15m/g以下であり、前記窒化物蛍光体の平均粒径が20μm以上30μm以下である請求項1から11のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物蛍光体及びその製造方法並びに発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
青色光を発する発光素子であるLED(Light Emitting Diode)と、この青色光に励起されて緑色発光する蛍光体と、赤色発光する蛍光体とを組み合わせることにより、白色光を放出可能な発光装置が開発されている。例えば、特許文献1には、β型Si結晶構造を有し、緑色に発光するβサイアロン蛍光体と、CaAlSiN:Euの組成を有する赤色発光の窒化物蛍光体(以下、CASN蛍光体ともいう)とを、青色LEDと組合せた白色光を発する発光装置が開示されている。
【0003】
またCASN蛍光体のCaの一部をSrに置換した(Ca,Sr)AlSiN:Euの組成を有する赤色発光の蛍光体(以下、SCASN蛍光体ともいう)が知られており、CASN蛍光体よりも発光ピーク波長を短くすることができるとされている。CASN蛍光体は、例えば、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化カルシウム及び窒化ユウロピウムからなる混合物を焼成することで得られ、SCASN蛍光体も同様にして得ることができる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−303331号公報
【特許文献2】特開2006−8721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発光装置の輝度向上の要求から、発光輝度がより高いCASN蛍光体等の窒化物蛍光体が求められている。本開示に係る一実施形態は、発光輝度の高い窒化物蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題に鑑みて更に鋭意研究を重ねた結果、原料を特定の構成にして窒化物蛍光体を製造することで、得られる窒化物蛍光体の発光輝度が向上することを見出し、本発明を完成させた。本発明は以下の態様を包含する。
第一の態様は、窒化ケイ素、ケイ素、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及びユウロピウム化合物を含む原料混合物を熱処理することを含む、窒化物蛍光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る一実施形態によれば、発光輝度の高い窒化物蛍光体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】発光装置の一例を示す概略断面図である。
図2】本実施形態に係る窒化物蛍光体の波長に対する相対エネルギーを示す発光スペクトルの一例である。
図3】比較例1に係る窒化物蛍光体のSEM画像である。
図4】実施例1に係る窒化物蛍光体のSEM画像である。
図5】本実施形態に係る窒化物蛍光体の波長に対する相対エネルギーを示す発光スペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る窒化物蛍光体の製造方法を、実施の形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を例示するものであって、本発明は、以下の窒化物蛍光体の製造方法に限定されない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。また「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。さらに組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0010】
[窒化物蛍光体の製造方法]
窒化物蛍光体の製造方法は、窒化ケイ素、ケイ素、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及びユウロピウム化合物を含む原料混合物を熱処理することを含む。窒化物蛍光体は、例えば下記式(I)で表される組成を有する。
SrCaAlSi:Eu (I)
ここでs、t、u、v及びwはそれぞれ、0.0≦s<1、0<t≦1、s+t≦1、0.9≦u≦1.1、0.9≦v≦1.1、及び2.5≦w≦3.5を満たす。
【0011】
原料混合物は、ケイ素源として窒化ケイ素に加えてケイ素単体も含む。詳細は不明だが、熱処理時においてケイ素単体は窒化されながら反応すると考えられ、これに起因して高温の熱処理による焼結が生じにくくなるものと考えられる。したがって、粒径が大きい窒化物蛍光体を得ることができる。得られる窒化物蛍光体は、発光効率が高く、発光輝度が向上する。
【0012】
原料混合物は、窒化ケイ素と、ケイ素と、アルミニウム化合物の少なくとも1種と、ユウロピウム化合物の少なくとも1種とを含む。
【0013】
窒化ケイ素は、窒素原子及びケイ素原子を含むケイ素化合物であり、酸素原子を含む窒化ケイ素であってもよい。窒化ケイ素が酸素原子を含む場合、酸素原子は酸化ケイ素として含まれていてもよく、ケイ素の酸窒化物として含まれていてもよい。
窒化ケイ素に含まれる酸素原子の含有率は、例えば2重量%未満であり、1.5重量%以下が好ましい。また酸素原子の含有率は、例えば0.3重量%以上であり、0.4重量%以上が好ましい。酸素量を所定値以上とすることにより反応性を高め、粒子成長を促進することができる。また、酸素量を所定値以下とすることにより、蛍光体粒子の過剰な焼結を抑制し、蛍光体粒子の形状を良化することができる。
窒化ケイ素の純度は、例えば95重量%以上であり、99重量%以上が好ましい。窒化ケイ素の純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして、窒化物蛍光体の発光輝度をより向上させることができる。
【0014】
窒化ケイ素の平均粒径は、例えば0.1μm以上15μm以下であり、0.1μm以上5μm以下が好ましい。窒化ケイ素の平均粒径を所定値以下とすることにより窒化物蛍光体の製造時の反応性を向上させることができる。窒化ケイ素の平均粒径を所定値以上とすることにより、窒化物蛍光体の製造時における過剰な反応を抑制して蛍光体粒子の焼結を防ぐことができる。
【0015】
窒化ケイ素は、市販品から適宜選択して用いてもよく、ケイ素を窒化して製造して用いてもよい。窒化ケイ素は、例えば、原料となるケイ素を希ガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で粉砕し、得られる粉体を窒素雰囲気中で熱処理して窒化することで得ることができる。原料に用いるケイ素単体は高純度であることが好ましく、その純度は例えば3N(99.9重量%)以上である。粉砕したケイ素の平均粒径は、例えば0.1μm以上15μm以下である。また熱処理温度は、例えば800℃以上2000℃以下であり、熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下である。
得られた窒化ケイ素には、例えば、窒素雰囲気中で粉砕処理を行うことができる。
【0016】
原料混合物に含まれるケイ素は単体のケイ素である。ケイ素の純度は、例えば95重量%以上であり、99.9重量%以上が好ましい。ケイ素の純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の輝度をより向上することができる。
ケイ素の平均粒径は、例えば0.1μm以上100μm以下であり、0.1μm以上80μm以下が好ましい。ケイ素の平均粒径を所定値以下とすることにより、粒子の内部まで十分に窒化することができる。ケイ素の平均粒径を所定値以上とすることにより、窒化物蛍光体の製造時における過剰な反応を抑制して蛍光体粒子の焼結を抑制することができる。
【0017】
原料混合物は、窒化ケイ素及びケイ素単体の一部を酸化ケイ素等の他のケイ素化合物に置換した混合物であってもよい。すなわち原料混合物は、窒化ケイ素及びケイ素単体に加えて酸化ケイ素等のケイ素化合物を含むものであってもよい。ケイ素化合物には、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、ケイ酸塩等が含まれる。
【0018】
また原料混合物は窒化ケイ素及びケイ素単体の一部を、ゲルマニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の第IV族元素の金属化合物、金属単体、合金等に置換した混合物であってもよい。金属化合物としては、酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。
【0019】
原料混合物における窒化ケイ素及びケイ素の総量に対するケイ素の重量比率は、例えば10重量%以上85重量%以下であり、20重量%以上80重量%以下が好ましく、30重量%以上80重量%以下がより好ましい。ケイ素の重量比率を所定値以上とすることにより、窒化物蛍光体の粒子成長時における焼結を抑えることができる。また、窒化ケイ素にはケイ素の窒化反応を促進する作用もあるため、ケイ素の重量比率を所定値以下とする(窒化ケイ素の重量比率を大きくする)ことにより、ケイ素を十分に窒化することができる。
【0020】
アルミニウム化合物としては、アルミニウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。またアルミニウム化合物の少なくとも一部に代えてアルミニウム金属単体又はアルミニウム合金等を用いてもよい。アルミニウム化合物として具体的には、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)、水酸化アルミニウム(Al(OH))等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、窒化アルミニウムがより好ましい。窒化アルミニウムは目的とする蛍光体組成に含まれる元素のみで構成されているため、不純物の混入をより効果的に抑制できる。窒化アルミニウムは、例えば、酸素や水素を含むアルミニウム化合物と比較して、それらの元素の影響を少なくすることができ、金属単体と比較して窒化反応が不要である。アルミニウム化合物は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0021】
原料として用いるアルミニウム化合物の平均粒径は、例えば0.1μm以上15μm以下であり、0.1μm以上10μm以下が好ましい。平均粒径を所定値以下とすることにより窒化物蛍光体の製造時における反応性を向上させることができる。平均粒径を所定値以上とすることにより、窒化物蛍光体の製造時における蛍光体粒子の焼結を防ぐことができる。
またアルミニウム化合物の純度は、例えば95重量%以上であり、99重量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光輝度をより向上することができる。
【0022】
アルミニウム化合物は、市販品から適宜選択して用いてもよく、所望のアルミニウム化合物を製造して用いてもよい。例えば窒化アルミニウムはアルミニウムの直接窒化法等により製造することができる。
【0023】
原料混合物はアルミニウム化合物の少なくとも一部を、ガリウム、インジウム、バナジウム、クロム、コバルト等の第III族元素の金属化合物、金属単体、合金等に置換した混合物であってもよい。金属化合物としては、酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。
【0024】
カルシウム化合物としては、カルシウムを含む水素化物、酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。またカルシウム化合物の少なくとも一部に代えてカルシウム金属単体又はカルシウム合金等を用いてもよい。カルシウム化合物として具体的には、水素化カルシウム(CaH)、窒化カルシウム(Ca)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH))等の無機化合物、及びイミド化合物、アミド化合物等の有機化合物塩を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、窒化カルシウムがより好ましい。窒化カルシウムは目的とする蛍光体組成に含まれる元素のみで構成されているため、不純物の混入をより効果的に抑制できる。窒化カルシウムは、例えば、酸素や水素を含むカルシウム化合物と比較して、それらの元素の影響を少なくすることができ、金属単体と比較して窒化反応が不要である。カルシウム化合物は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0025】
原料として用いるカルシウム化合物の平均粒径は、例えば0.1μm以上100μm以下であり、0.1μm以上80μm以下が好ましい。平均粒径を所定値以下とすることにより窒化物蛍光体の製造時における反応性を向上させることができる。平均粒径を所定値以上とすることにより、窒化物蛍光体の製造時における蛍光体粒子の焼結を防ぐことができる。
またカルシウム化合物の純度は、例えば95重量%以上であり、99重量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光輝度をより向上することができる。
【0026】
カルシウム化合物は、市販品から適宜選択して用いてもよく、所望のカルシウム化合物を製造して用いてもよい。例えば、窒化カルシウムは、原料となるカルシウムを不活性ガス雰囲気中で粉砕し、得られた粉体を窒素雰囲気中で熱処理して窒化することで得ることができる。原料に用いるカルシウムは高純度であることが好ましく、その純度は例えば2N(99重量%)以上である。粉砕したカルシウムの平均粒径は、例えば0.1μm以上15μm以下である。また熱処理温度は、例えば600℃以上900℃以下であり、熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下である。
得られた窒化カルシウムには、例えば、不活性ガス雰囲気中で粉砕処理を行うことができる。
【0027】
原料混合物はカルシウム化合物の少なくとも一部を、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ホウ素、アルミニウム等の第III族元素;の金属化合物、金属単体、合金等に置換した混合物であってもよい。金属化合物としては、水素化物、酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。
【0028】
ユウロピウム化合物としては、ユウロピウムを含む酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。またユウロピウム化合物の少なくとも一部に代えてユウロピウム金属単体又はユウロピウム合金等を用いてもよい。ユウロピウム化合物として具体的には、酸化ユウロピウム(Eu)、窒化ユウロピウム(EuN)、フッ化ユウロピウム(EuF)等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、酸化ユウロピウムがより好ましい。窒化ユウロピウム(EuN)は、目的とする蛍光体組成に含まれる元素のみで構成されているため、不純物の混入をより効果的に抑制できる。また、酸化ユウロピウム(Eu)、フッ化ユウロピウム(EuF)はフラックスとしても作用があり、好ましく用いられる。ユウロピウム化合物は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0029】
原料として用いるユウロピウム化合物の平均粒径は、例えば0.01μm以上20μm以下であり、0.05μm以上10μm以下が好ましい。ユウロピウム化合物の平均粒径を所定値以上とすることにより、製造時における蛍光体粒子の凝集を抑制できる。ユウロピウム化合物の平均粒径を所定値以下とすることにより、より均一に賦活された蛍光体粒子を得ることができる。
またユウロピウム化合物の純度は、例えば95重量%以上であり、99.5重量%以上が好ましい。純度を所定値以上とすることにより、不純物の影響を少なくして蛍光体の発光輝度をより向上することができる。
【0030】
ユウロピウム化合物は、市販品から適宜選択して用いてもよく、所望のユウロピウム化合物を製造して用いてもよい。例えば、窒化ユウロピウムは、原料となるユウロピウムを不活性ガス雰囲気中で粉砕し、得られた粉体を窒素雰囲気中で熱処理して窒化することで得ることができる。粉砕したユウロピウムの平均粒径は、例えば0.1μm以上10μm以下である。また熱処理温度は、例えば600℃以上1200℃以下であり、熱処理時間は、例えば1時間以上20時間以下である。
得られた窒化ユウロピウムは、例えば、不活性ガス雰囲気中で粉砕処理を行うことができる。
【0031】
原料混合物はユウロピウム化合物の少なくとも一部を、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce),プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb),ルテチウム(Lu)等の希土類元素の金属化合物、金属単体、合金等に置換した混合物であってもよい。金属化合物としては、酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。
【0032】
原料混合物は、必要に応じてカルシウム化合物の一部を、ストロンチウム化合物、金属ストロンチウム、ストロンチウム合金等に置換した混合物であってもよい。ストロンチウム化合物としては、ストロンチウムを含む水素化物、酸化物、水酸化物、窒化物、酸窒化物、フッ化物、塩化物等を挙げることができる。
【0033】
ストロンチウム化合物は、市販品から適宜選択してもよく、所望のストロンチウム化合物を製造して用いてもよい。例えば、窒化ストロンチウムは、窒化カルシウムと同様にして製造することができる。ストロンチウムの窒化物は、カルシウムの窒化物と異なり、窒素量が任意の値を取りやすく、SrNとして表される。ここでxは、例えば0.5以上1以下である。
【0034】
原料混合物がストロンチウム原子を含む場合、原料混合物中のカルシウム原子とストロンチウム原子の総量中のストロンチウム原子数の比率は、例えば0.1モル%以上99.9モル%以下であり、0.1モル%以上98モル%以下が好ましい。このようなストロンチウム原子の含有量とすることにより、窒化物蛍光体の発光ピーク波長を所望の値に調整することができる。
【0035】
原料混合物における窒化ケイ素、ケイ素、アルミニウム化合物、カルシウム化合物及びユウロピウム化合物の混合比は、上記式(I)で表される組成を有する窒化物蛍光体が得られる限り特に制限されず、所望の組成に応じて適宜選択すればよい。例えば、原料混合物に含まれるケイ素原子とアルミニウム原子とのモル比はu:vであり、好ましくは0.9:1.1以上1.1:0.9以下である。また、カルシウム原子(場合によりストロンチウム原子を含む)とアルミニウム原子とのモル比は、(s+t):uであり、好ましくは0.9:1以上1.11:1以下である。また、カルシウム原子(場合によりストロンチウム原子を含む)及びユウロピウム原子の総モル量中のユウロピウム原子のモル比は、例えば1:0.05以上1:0.001以下であり、好ましくは1:0.03以上1:0.003以下である。
【0036】
例えば、Ca:Eu:Al:Si=0.993:0.007:1:1の組成比となるように、窒化カルシウム、酸化ユウロピウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素及びケイ素を混合して原料混合物を調製し、後述する方法で熱処理することにより、
Ca0.993Eu0.007AlSiN
で表される窒化物蛍光体を得ることができる。
ただし、この窒化物蛍光体の組成は、原料混合物の配合比率より推定される代表組成である。酸化ユウロピウムを用いていること、更に各原料には1重量%程度の酸素を含むために、得られる蛍光体中にも実際には一定量の酸素を含む場合があるが、代表組成を示すために酸素を除いた化学式で示している。また、熱処理の際に原料の一部が分解し、飛散等が生じたりするため仕込みの組成とは多少異なることもあり得る。しかしながら、各原料の配合比率を変更することにより、目的とする窒化物蛍光体の組成を変更することができる。ここではストロンチウムを含まない組成で説明したが、ストロンチウムを含む組成でも同様であることは言うまでもない。
【0037】
原料混合物は、必要に応じて別途準備した式(I)で表される組成物(窒化物蛍光体)を更に含んでいてもよい。原料混合物が窒化物蛍光体を含む場合、その含有量は原料混合物の総量中に、例えば1重量%以上50重量%以下とすることができる。
【0038】
原料混合物は、必要に応じてハロゲン化物等のフラックスを含んでいてもよい。原料混合物がフラックスを含むことで、原料間の反応がより促進され、更には固相反応がより均一に進行するために粒径が大きく、発光特性により優れた蛍光体を得ることができる。これは例えば、準備工程における熱処理の温度が、フラックスであるハロゲン化物等の液相の生成温度とほぼ同じか、それ以上であるためと考えられる。ハロゲン化物としては、希土類金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属の塩化物、フッ化物等を利用できる。フラックスとしては、陽イオンの元素比率を目的物組成になるような化合物として加えることもできるし、更に目的物組成に各原料を加えた後に、添加する形で加えることもできる。
原料混合物がフラックスを含む場合、その含有量は原料混合物中に例えば20重量%以下であり、10重量%以下が好ましい。またその含有量は例えば0.1重量%以上である。このようなフラックス含有量とすることにより、蛍光体の発光輝度を低下させることなく、反応を促進させることができるからである。
【0039】
原料混合物は、所望の原料化合物を所望の配合比に秤量した後に、ボールミルなどを用いた混合方法、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダ―などの混合機、乳鉢と乳棒を用いた混合方法等を用いて原料化合物を混合することで得ることができる。混合は、乾式混合で行うこともできるし、溶媒等を加えて湿式混合で行うこともできる。
【0040】
原料混合物の熱処理温度は、例えば1200℃以上であり、1500℃以上が好ましく、1900℃以上がより好ましい。また熱処理温度は、例えば2200℃以下であり、2100℃以下が好ましく、2050℃以下がより好ましい。1200℃以上の温度で熱処理することで、Euが結晶中に入り込み易く、所望の窒化物蛍光体が効率よく形成される。また熱処理温度が2200℃以下であると形成される窒化物蛍光体の分解が抑制される傾向がある。
【0041】
原料混合物の熱処理における雰囲気は、例えば窒素ガスを含む雰囲気であり、実質的に窒素ガス雰囲気であることが好ましい。窒素ガスを含む雰囲気とすることにより、原料に含まれるケイ素を窒化させることもできる。また、窒化物である原料や蛍光体の分解を抑制することができる。原料混合物の熱処理の雰囲気が窒素ガスを含む場合、窒素ガスに加えて、水素、アルゴン等の希ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素、アンモニアなどの他のガスを含んでいてもよい。また原料混合物の熱処理の雰囲気における窒素ガスの含有率は、例えば90体積%以上であり、95体積%以上が好ましい。窒素以外の元素を含むガスの含有率を所定値以下とすることにより、それらのガス成分が不純物を形成し蛍光体の発光輝度を低下させる可能性をより小さくすることができる。
【0042】
原料混合物の熱処理における圧力は、例えば、常圧から200MPaとすることができる。生成する窒化物蛍光体の分解を抑制する観点から、圧力は高い方が好ましく、0.1MPa以上200MPa以下が好ましく、0.6MPa以上1.2MPa以下が工業的な設備の制約も少なく、より好ましい。
【0043】
原料混合物の熱処理は、単一の温度で行ってもよく、2以上の熱処理温度を含む多段階で行ってもよい。多段階で熱処理を行う場合、例えば800℃以上1400℃以下で一段階目の熱処理を行い、その後、徐々に昇温して1500℃以上2100℃以下で二段階目の熱処理を行ってもよい。
【0044】
原料混合物の熱処理では、例えば室温から所定の温度に昇温して熱処理する。昇温に要する時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、2時間以上24時間以下が好ましく、3時間以上20時間以下であることがより好ましい。昇温に要する時間が1時間以上であると、蛍光体粒子の粒子成長が充分に進行する傾向があり、またEuが蛍光体粒子の結晶中に入り込み易くなる傾向がある。
【0045】
原料混合物の熱処理においては所定温度での保持時間を設けてもよい。保持時間は、例えば0.5時間以上48時間以下であり、1時間以上30時間以下が好ましく、2時間以上20時間以下であることがより好ましい。保持時間を所定値以上とすることにより均一な粒子成長をより促進することができる。また、保持時間を所定値以下とすることにより蛍光体の分解をより抑制することができる。
【0046】
原料混合物の熱処理における所定温度から室温までの降温時間は、例えば0.1時間以上20時間以下であり、1時間以上15時間以下が好ましく、3時間以上12時間以下であることがより好ましい。なお、所定温度から室温まで降温する間に適宜選択される温度での保持時間を設けてもよい。この保持時間は、例えば、窒化物蛍光体の発光輝度がより向上するように調節される。降温中の所定の温度における保持時間は例えば、0.1時間以上20時間以下であり、1時間以上10時間以下が好ましい。また保持時間における温度は、例えば1000℃以上1800℃未満であり、1200℃以上1700℃以下が好ましい。
【0047】
原料混合物の熱処理は、例えばガス加圧電気炉を用いて行うことができる。
また、原料混合物の熱処理は、例えば原料混合物を、黒鉛等の炭素材質又は窒ホウ素(BN)材質のルツボ、ボート等に充填して用いて行うことができる。炭素材質、窒化ホウ素材質以外に、アルミナ(Al)、Mo材質等を使用することもできる。中でも窒化ホウ素材質のルツボ、ボートを用いることが好ましい。
【0048】
原料混合物の熱処理後には、熱処理で得られる窒化物蛍光体に解砕、粉砕、分級操作等の処理を組合せて行う整粒工程を含んでいてもよい。整粒工程により所望の粒径の粉末を得ることができる。具体的には、窒化物蛍光体を粗粉砕した後に、ボールミル、ジェットミル、振動ミルなどの一般的な粉砕機を用いて所定の粒径に粉砕することができる。ただし、過剰な粉砕を行うと蛍光体粒子表面に欠陥が生じて、輝度低下を引き起こすこともある。粉砕で生じた粒径の異なるものが存在する場合には、分級を行い、粒径を整えることもできる。
【0049】
[窒化物蛍光体]
本開示は、上記製造方法で製造される窒化物蛍光体を包含する。窒化物蛍光体は、アルカリ土類金属、アルミニウム、ケイ素及びユーロピウムを含むことが好ましく、上記式(I)で表される組成を有することがより好ましい。窒化物蛍光体は、その製造に用いられる原料混合物がケイ素と窒化ケイ素を組み合わせて含むことで、製造時の熱処理における焼結が抑制され、粒径が大きくなり高輝度を達成できる。
【0050】
窒化物蛍光体は、例えば200nm以上600nm以下の範囲の光を吸収して、605nm以上670nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する光を発する赤色発光の蛍光体である。窒化物蛍光体の励起波長は420nm以上470nm以下の範囲にあることが好ましい。窒化物蛍光体の発光スペクトルにおける半値幅は、例えば70nm以上95nm以下である。
【0051】
窒化物蛍光体の比表面積は、例えば0.3m/g未満であり、0.27m/g以下が好ましく、0.2m/g以下がより好ましく、0.16m/g以下が更に好ましく、0.15m/g以下がより更に好ましく、0.13m/g以下が特に好ましい。また比表面積は、例えば0.05m/g以上であり、0.1m/g以上が好ましい。比表面積が0.3m/g未満であると光吸収及び変換効率がより向上し、より高輝度を達成できる傾向がある。
【0052】
窒化物蛍光体の比表面積はBET法で測定される。具体的には、島津製作所製ジェミニ2370を用いて、動的定圧法により算出する。
【0053】
窒化物蛍光体の平均粒径は、例えば15μm以上であり、18μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。また平均粒径は、例えば30μm以下であり、25μm以下が好ましい。平均粒径が15μm以上であると光吸収及び変換効率がより向上し、よりより高輝度を達成できる傾向がある。また30μm以下であると取扱い性がより向上し、窒化物蛍光体を用いる発光装置の生産性がより向上する傾向がある。
窒化物蛍光体の平均粒径は、例えば15μm以上30μm以下の範囲である。また、この粒径値を有する蛍光体が、頻度高く含有されていることが好ましい。また、粒度分布も狭い範囲に分布しているものが好ましい。このように粒径、及び粒度分布のバラツキが小さい蛍光体を用いることにより、より色ムラが抑制され、良好な色調を有する発光装置が得られる。
【0054】
窒化物蛍光体の平均粒径は、フィッシャーサブシーブサイザー(Fisher Sub Sieve Sizer)を用いる空気透過法で得られるF.S.S.S.N.(Fisher Sub Sieve Sizer's No.)である。具体的には、気温25℃、湿度70%RHの環境下において、1cm分の試料を計り取り、専用の管状容器にパッキングした後、一定圧力の乾燥空気を流し、差圧から比表面積を読み取り、平均粒径に換算した値である。
【0055】
窒化物蛍光体は、発光輝度を向上させる観点から、BET法による比表面積が0.3m/g未満、且つ平均粒径が18μm以上であることが好ましく、比表面積が0.2m/g以下、且つ平均粒径が20μm以上であることがより好ましく、比表面積が0.16m/g以下、且つ平均粒径が20μm以上であることが更に好ましい。また比表面積は0.1m/g以上であり、平均粒径は、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。
【0056】
窒化物蛍光体は、発光輝度を向上させる観点から、アルカリ土類金属、アルミニウム、ケイ素及びユーロピウムを含む窒化物であって、BET法による比表面積が0.1m/g以上0.16m/g以下であり、平均粒径が20μm以上30μm以下であることが好ましく、上記式(I)で表される組成を有し、BET法による比表面積が0.1m/g以上0.16m/g以下であり、平均粒径が20μm以上30μm以下であることがより好ましい。また窒化物蛍光体は、発光輝度を向上させる観点から、アルカリ土類金属、アルミニウム、ケイ素及びユーロピウムを含む窒化物であって、BET法による比表面積が0.1m/g以上0.15m/g以下であり、平均粒径が20μm以上30μm以下であることも好ましく、上記式(I)においてs=0である組成を有し、BET法による比表面積が0.1m/g以上0.15m/g以下であり、平均粒径が20μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0057】
窒化物蛍光体は、少なくとも一部に結晶性が高い構造を有していることが好ましい。例えばガラス体(非晶質)は構造が不規則であり結晶性が低いため、その生産工程における反応条件が厳密に一様になるよう管理できなければ、蛍光体中の成分比率が一定せず、色度ムラ等を生じる傾向がある。これに対し、本実施形態に係る窒化物蛍光体は、少なくとも一部に結晶性が高い構造を有している粉体ないし粒体であることで製造及び加工し易くなる傾向がある。また、窒化物蛍光体は、有機媒体に均一に分散することが容易にできるため、発光性プラスチック、ポリマー薄膜材料等を調製することが容易にできる。具体的に、窒化物蛍光体は、例えば50重量%以上、より好ましくは80重量%以上が結晶性を有する構造である。これは、発光性を有する結晶相の割合を示し、50重量%以上、結晶相を有していれば、実用に耐え得る発光が得られるため好ましい。ゆえに結晶相が多いほど発光輝度がより向上し、加工し易くなる。
【0058】
[発光装置]
本開示は前記窒化物蛍光体を含む発光装置を包含する。発光装置は、例えば380nm以上470nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する発光素子と、前記窒化物蛍光体を含む第一蛍光体を少なくとも含む蛍光部材とを備える。蛍光部材は、緑色から黄色に発光する第二蛍光体を更に含んでいてもよい。発光装置が発する光は、発光素子の光と蛍光部材が発する蛍光との混合色であり、例えば、CIE1931に規定される色度座標が、x=0.220以上0.340以下且つy=0.160以上0.340以下の範囲に含まれる光であることが好ましく、x=0.220以上0.330以下且つy=0.170以上0.330以下の範囲に含まれる光であることがより好ましい。
【0059】
本実施形態に係る発光装置100の一例を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る発光装置の一例を示す概略断面図100である。発光装置100は、表面実装型発光装置の一例である。
発光装置100は、可視光の短波長側(例えば、380nm以上485nm以下の範囲)の光を発し、発光ピーク波長が、例えば440nm以上460nm以下である窒化ガリウム系化合物半導体の発光素子10と、発光素子10を載置する成形体40と、を有する。成形体40は第1のリード20及び第2のリード30と、樹脂部42とが一体的に成形されてなるものである。あるいは樹脂部42に代えてセラミックスを材料として既に知られた方法を利用して成形体40を形成することもできる。成形体40は底面と側面を持つ凹部を形成しており、凹部の底面に発光素子10が載置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極はそれぞれ第1のリード20及び第2のリード30とワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は蛍光部材50により被覆されている。蛍光部材50は発光素子10からの光を波長変換する蛍光体70として例えば赤色蛍光体(第一蛍光体71)及び緑色蛍光体(第二蛍光体72)と、樹脂とを含有してなる。
【0060】
蛍光部材50は、蛍光体70を含む波長変換部材としてだけではなく、発光素子10や蛍光体70を外部環境から保護するための部材としても機能する。図1では、蛍光体70は蛍光部材50中で偏在している。このように発光素子10に接近して蛍光体70を配置することにより、発光素子10からの光を効率よく波長変換することができ、発光輝度の優れた発光装置とできる。なお、蛍光体70を含む蛍光部材50と、発光素子10との配置は、それらを接近して配置させる形態に限定されることなく、蛍光体70への熱の影響を考慮して、蛍光部材50中で発光素子10と、蛍光体70との間隔を空けて配置することもできる。また、蛍光体70を蛍光部材50の全体にほぼ均一の割合で混合することによって、色ムラがより抑制された光を得るようにすることもできる。
【0061】
(発光素子)
発光素子の発光ピーク波長は、例えば380nm以上470nm、好ましくは440nm以上460nm以下の範囲にある。この範囲に発光ピーク波長を有する発光素子を励起光源として用いることにより、発光素子からの光と蛍光体からの蛍光との混色光を発する発光装置を構成することが可能となる。さらに、発光素子から外部に放射される光を有効に利用することができるため、発光装置から出射される光の損失を少なくすることができ、高効率な発光装置を得ることができる。
【0062】
発光素子の発光スペクトルの半値幅は、例えば、30nm以下とすることができる。
発光素子には半導体発光素子を用いることが好ましい。光源として半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
半導体発光素子としては、例えば、窒化物系半導体(InAlGa1−X−YN、ここでX及びYは、0≦X、0≦Y、X+Y≦1を満たす)を用いた青色、緑色等に発光する半導体発光素子を用いることができる。
【0063】
(蛍光部材)
発光装置は、発光素子から発せられる光の一部を吸収して波長変換する蛍光部材を備える。蛍光部材は、赤色に発光する第一蛍光体の少なくとも1種を含み、緑色から黄色に発光する第二蛍光体の少なくとも1種を含んでいてもよい。第一蛍光体には前記窒化物蛍光体が含まれる。第二蛍光体には500nm以上580nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する蛍光を発する緑色蛍光体から適宜選択される蛍光体を用いることができる。第二蛍光体の発光ピーク波長、発光スペクトル等を適宜選択することで発光装置の相関色温度、演色性等の特性を所望の範囲とすることができる。蛍光部材は、蛍光体に加えて樹脂を含んでいてもよい。発光装置は、蛍光体及び樹脂を含み、発光素子を被覆する蛍光部材を備えることができる。
【0064】
第一蛍光体に含まれる窒化物蛍光体の詳細は既述の通りである。発光装置における第一蛍光体の含有量は、例えば蛍光部材に含まれる樹脂100重量部に対して0.1重量部以上50重量部以下とすることができ、1重量部30重量部以下であることが好ましい。
【0065】
第二蛍光体は、例えば500nm以上580nm以下、好ましくは520nm以上550nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する蛍光を発する。第二蛍光体は、下記式(IIa)で表される組成を有するβサイアロン蛍光体、下記式(IIb)で表される組成を有するシリケート蛍光体、下記式(IIc)で表される組成を有するハロシリケート蛍光体、下記式(IId)で表される組成を有するチオガレート蛍光体、下記式(IIe)で表される組成を有する希土類アルミン酸塩蛍光体、下記式(IIf)で表されるアルカリ土類アルミン酸塩蛍光体及び下記式(IIg)で表されるアルカリ土類リン酸塩蛍光体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。特に、第二蛍光体として、下記式(IIc)、(IIe)、(IIf)または(IIg)で表される組成を有する蛍光体の少なくとも1種を選択して、第一蛍光体とともに蛍光部材に含むことにより、発光装置の演色性を向上させることができる点で好ましい。
Si6−wAl8−w:Eu (IIa)
(式中、wは、0<w≦4.2を満たす。)
(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu (IIb)
(Ca,Sr,Ba)MgSi16(F,Cl,Br):Eu (IIc)
(Ba,Sr,Ca)Ga:Eu (IId)
(Y,Lu,Gd)(Al,Ga)12:Ce (IIe)
(Sr,Ca,Ba)Al1425:Eu (IIf)
(Ca,Sr,Ba)(PO(Cl,Br):Eu (IIg)
組成式(IIa)中、wは、0.01<w<2を満たすことが好ましい。
【0066】
発光装置に含まれる第二蛍光体の平均粒径は、発光輝度の観点から、2μm以上35μm以下であることが好ましく、5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
第二蛍光体の平均粒径は、第一蛍光体の平均粒径と同様にして測定される。
【0067】
発光装置における第二蛍光体の含有量は、例えば蛍光部材に含まれる樹脂100重量部に対して1重量部以上70重量部以下とすることができ、2重量部以上50重量部以下であることが好ましい。
【0068】
発光装置における第一蛍光体の第二蛍光体に対する含有比(第一蛍光体/第二蛍光体)は、例えば重量基準で0.01以上10以下とすることができ、0.1以上1以下が好ましい。
【0069】
その他の蛍光体
発光装置は、第一の蛍光体及び第二の蛍光体以外のその他の蛍光体を必要に応じて含んでいてもよい。その他の蛍光体としては、CaScSi12:Ce、CaSc:Ce、(La,Y)Si11:Ce、(Ca,Sr,Ba)Si:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si12:Eu、(Ba,Sr,Ca)Si:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si:Eu、K(Si,Ti,Ge)F:Mn等を挙げることができる。発光装置がその他の蛍光体を含む場合、その含有量は、例えば第一蛍光体及び第二蛍光体の総量に対して10重量%以下であり、1重量%以下である。
【0070】
蛍光部材を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂として、具体的には、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができる。蛍光部材は、蛍光体及び樹脂以外のその他の成分を必要に応じて含んでいてもよい。その他の成分としては、シリカ、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム等のフィラー、光安定化剤、着色剤等を挙げることができる。蛍光部材が、その他の成分として、例えばフィラーを含む場合、その含有量は樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上20重量部以下とすることができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
原料化合物となる窒化カルシウム(Ca)と、窒化ケイ素(Si)及びケイ素単体(Si)と、窒化アルミニウム(AlN)と、酸化ユウロピウム(Eu)とをCa:Si:Al:Eu=0.993:1.1:0.9:0.007のモル比となるように秤量し、混合した。ここで窒化ケイ素とケイ素単体の配合割合は、窒化ケイ素が41.6重量%、ケイ素単体が58.4重量%となるようにした。得られた混合原料を窒化ホウ素製ルツボに充填し、窒素雰囲気で0.92MPa(ゲージ圧)の圧力、2000℃、2時間、熱処理することにより、窒化物蛍光体を得た。
【0073】
(実施例2)
窒化ケイ素とケイ素単体の配合割合を、窒化ケイ素が37.5重量%、ケイ素単体が62.5重量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして窒化物蛍光体を得た。
【0074】
(実施例3)
窒化ケイ素とケイ素単体の配合割合を、窒化ケイ素が20.5重量%、ケイ素単体が79.5重量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして窒化物蛍光体を得た。
【0075】
(実施例4)
窒化ケイ素とケイ素単体の配合割合を、窒化ケイ素が70.6重量%、ケイ素単体が29.4重量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして窒化物蛍光体を得た。
【0076】
(実施例5)
窒化ケイ素とケイ素単体の配合割合を、窒化ケイ素が84.4重量%、ケイ素単体が15.6重量%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして窒化物蛍光体を得た。
【0077】
(比較例1)
ケイ素単体を用いずに、窒化ケイ素のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして窒化物蛍光体を得た。
【0078】
(比較例2)
窒化ケイ素を用いずに、ケイ素単体のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして窒化物蛍光体を得た。
【0079】
得られた窒化物蛍光体について以下の評価を行った。
平均粒径
F.S.S.S.(Fisher Sub Sieve Sizer)を用い、気温25℃、湿度70%RHの環境下において、1cm分の試料を計り取り、専用の管状容器にパッキングした後、一定圧力の乾燥空気を流し、差圧から比表面積を読み取り、平均粒径を算出した。
【0080】
比表面積
島津製作所製ジェミニ2370を用いて、取扱い説明書に準じて動的定圧法により算出した。
【0081】
発光特性
日立ハイテク製のF−4500を用い、460nmで励起させた時の発光スペクトルを測定した。この得られた発光スペクトルのエネルギー値:ENG(%)、発光ピーク波長:λp(nm)を求めた。
【0082】
表1に平均粒径、比表面積、λp、ENG(%)を示す。ENG(%)は、比較例1の窒化物蛍光体のエネルギー値を100%とした相対値である。また図2に得られた発光スペクトルを示す。
【0083】
【表1】
【0084】
比較例1はケイ素単体を用いずに、2000℃で焼成した蛍光体であり、これを基準としてENGを表している。窒化ケイ素とケイ素単体を併用した実施例1から5は、比表面積が0.3m/g未満、且つ平均粒径が18μm以上となっており、ENGも高くなり発光特性が良好であった。
【0085】
また、図3図4に比較例1及び実施例1の窒化物蛍光体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。図3に示す比較例1では大きな粒子に微小粒子が混在している。これは、高温で焼成することで、粒子同士が焼結してしまい、分散する粉砕工程において、粒子も粉砕されて微粒子化が生じているためと思われる。図4に示す実施例1では微小粒子が存在しておらず、焼成品を粉砕しても、焼結が少ないために粒子の粉砕が生じていないことが分かる。実施例1の窒化物蛍光体では、粉砕工程で粒子を痛めることが少なく、図4に示すように粒子の表面が滑らかであり、発光輝度が低い微小粒子が混在しないためにENGが高くなっていると思われる。本実施例の窒化物蛍光体を含む発光装置においては、レイリー散乱を引き起こすような微小粒子も少ないと考えられることにより、発光素子から射出された光の発光装置内部(発光素子)へ向かっての散乱が抑制され、発光装置外部、すなわち光取り出し面へ向かっての散乱(例えば、ミー散乱)が促進されるので、発光効率が高い発光装置とすることができる。
これは例えば原料に窒化ケイ素とケイ素単体を併用することで、窒化ケイ素よりも酸素量を低減させて焼結を抑え、更にケイ素が窒化ケイ素化するときの体積変化も利用できたことにより、粒子成長と焼結性を制御できたためと考えられる。
【0086】
一方、窒化ケイ素を用いない比較例2では、粒径と比表面積が大きくなり、ENGが低下している。これは蛍光体形成とケイ素の窒化工程とを同時に行っているため、ケイ素の窒化が不十分なために特性低下していると考えられる。窒化ケイ素とケイ素単体を併用することにより窒化ケイ素がケイ素の窒化作用を促進していることが関連していると考えられる。
【0087】
(実施例6)
ストロンチウム化合物として窒化ストロンチウムを用い、原料混合物の組成をSr:Ca:Si:Al:Eu=0.099:0.891:1.1:0.9:0.01のモル比となるように変更し、窒化ケイ素とケイ素単体の配合割合を窒化ケイ素が37.5重量%、ケイ素単体が62.5重量%となるように変更したこと以外は実施例1と同様にして窒化物蛍光体を得た。
【0088】
(比較例3)
ケイ素単体を用いずに、窒化ケイ素のみを用いたこと以外は、実施例6と同様にして窒化物蛍光体を得た。
【0089】
得られた窒化物蛍光体を上記と同様に評価した。表2に平均粒径、比表面積、λp、ENG(%)を示す。ENG(%)は、比較例1の窒化物蛍光体のエネルギー値を100%とした相対値である。また図5に得られた発光スペクトルを示す。
【0090】
【表2】
【0091】
表2及び図5に示される通り、発光ピーク波長は実施例6が657nm、比較例3が663nmと実施例1よりも長くなっている。これはEu量を変更した影響が大きいと考えられる。実施例6も実施例1から5と同じように原料にケイ素単体を加えることで、比表面積が0.2m/g以下と小さく、比較例3よりも発光特性が高くなっており、良好な結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る一実施形態の製造方法で得られる窒化物蛍光体を用いた発光装置は、照明用の光源等として好適に利用できる。特に照明用光源、LEDディスプレイ、バックライト光源、信号機、照明式スイッチ及び各種インジケータ等に好適に利用できる。特に発光輝度の高い窒化物蛍光体等が得られるので、産業上の利用価値は極めて高い。
【符号の説明】
【0093】
10:発光素子、50:蛍光部材、71:第一蛍光体、72:第二蛍光体、100:発光装置
図1
図2
図3
図4
図5