(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
本実施形態(第1実施形態及び第2実施形態を包含する。以下同様。)に係る鉛蓄電池は、電槽と、正極及び負極を有する極板群と、電解液とを備えており、極板群及び電解液は、電槽内に収容されている。極板群は、正極及び負極がセパレータを介して積層されることにより構成されている。負極は、例えば、負極集電体と、負極集電体に充填された負極活物質等とを有する負極板である。正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体に充填された正極活物質等とを有する正極板である。電解液は、硫酸を含むことができる。第1実施形態において電解液はアルミニウムイオンを含むことができる。第2実施形態において電解液はアルミニウムイオンを含む。鉛蓄電池の基本構成としては、従来の鉛蓄電池と同様の構成を用いることができる。
【0029】
本実施形態に係る鉛蓄電池において、負極は、(A)ビスフェノール系樹脂と、(B)負極活物質と、を含むことができる。第1実施形態において、(A)ビスフェノール系樹脂は、(a)ビスフェノール系化合物(以下、場合により「(a)成分」という)と、(b1)アミノアルキルスルホン酸、アミノアルキルスルホン酸誘導体、アミノナフタレンスルホン酸及びアミノナフタレンスルホン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、場合により「(b1)成分」という)と、(c)ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、場合により「(c)成分」という)と、を反応させて得られる樹脂である。第2実施形態において、(A)ビスフェノール系樹脂は、(a)ビスフェノール系化合物と、(b2)アミノ酸、アミノ酸誘導体、アミノアルキルスルホン酸、アミノアルキルスルホン酸誘導体、アミノアリールスルホン酸及びアミノアリールスルホン酸誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、場合により「(b2)成分」という)と、(c)ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種と、を反応させて得られる樹脂である。以下、(b1)成分及び(b2)成分を総称して「(b)成分」という。
【0030】
<(A)ビスフェノール系樹脂>
((a)成分:ビスフェノール系化合物)
ビスフェノール系化合物は、2個のヒドロキシフェニル基を有する化合物である。ビスフェノール系化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、及び、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(以下、「ビスフェノールS」という)が挙げられる。
【0031】
ビスフェノール系化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ビスフェノール系化合物としては、充電受入性に更に優れる観点からビスフェノールAが好ましく、放電特性に更に優れる観点からビスフェノールSが好ましい。
【0032】
ビスフェノール系化合物としては、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、ビスフェノールAとビスフェノールSとを併用することが好ましい。この場合、(A)ビスフェノール系樹脂を得るためのビスフェノールAの配合量は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、ビスフェノールA及びビスフェノールSの合計量を基準として、70mol%以上が好ましく、75mol%以上がより好ましく、80mol%以上が更に好ましい。ビスフェノールAの配合量は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、ビスフェノールA及びビスフェノールSの合計量を基準として、99mol%以下が好ましく、98mol%以下がより好ましく、97mol%以下が更に好ましい。
【0033】
((b)成分)
[アミノアルキルスルホン酸及びアミノアルキルスルホン酸誘導体]
アミノアルキルスルホン酸及びアミノアルキルスルホン酸誘導体としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。アミノアルキルスルホン酸としては、例えば、下記一般式(I)においてX
1が水素原子である化合物が挙げられる。アミノアルキルスルホン酸誘導体としては、例えば、下記一般式(I)においてX
1がアルカリ金属であるアルカリ金属塩が挙げられる。
【化3】
[式(I)中、R
1は、水素原子又は炭化水素基を示し、X
1は、アルカリ金属又は水素原子を示し、n1は、0〜3の整数を示す。]
【0034】
式(I)におけるR
1の炭化水素基としては、例えば、直鎖状、分岐状又は環状の炭化水素基が挙げられる。直鎖状又は分岐状の炭化水素基としては、例えば、直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。環状の炭化水素基としては、例えば、脂環式炭化水素基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、1以上が好ましい。炭化水素基の炭素数は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、6以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。
【0035】
直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、s−ヘキシル基及びt−ヘキシル基が挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば脂環式アルキル基が挙げられ、具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基が挙げられる。R
1としては、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、水素原子、及び、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、水素原子及びメチル基がより好ましい。
【0036】
式(I)におけるX
1のアルカリ金属としては、例えばナトリウム及びカリウムが挙げられる。X
1としては、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、ナトリウムが好ましい。第1実施形態において、n1としては、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、1〜3が好ましく、1又は2がより好ましく、1が更に好ましい。第2実施形態において、n1としては、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、0〜2が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0037】
式(I)で表される化合物としては、例えば、下記一般式(I−a)〜(I−h)で表される化合物が挙げられる。但し、式(I)で表される化合物はこれらに限定されない。なお、式(I−a)〜(I−h)のそれぞれのX
1は、式(I)のX
1と同様であり、アルカリ金属又は水素原子を示す。式(I)で表される化合物としては、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、式(I−a)で表される化合物及び式(I−d)で表される化合物が好ましく、式(I−a)で表される化合物(X
1:水素原子)及び式(I−d)で表される化合物(X
1:水素原子)がより好ましい。
【0039】
アミノアルキルスルホン酸としては、例えば、アミノメタンスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸、3−アミノプロパンスルホン酸、及び、2−メチルアミノエタンスルホン酸が挙げられ、2−アミノエタンスルホン酸が好ましい。
【0040】
[アミノアリールスルホン酸及びアミノアリールスルホン酸誘導体]
アミノアリールスルホン酸としては、例えば、アミノベンゼンスルホン酸及びアミノナフタレンスルホン酸が挙げられる。アミノアリールスルホン酸誘導体としては、例えば、アミノベンゼンスルホン酸誘導体及びアミノナフタレンスルホン酸誘導体が挙げられる。
【0041】
アミノベンゼンスルホン酸としては、例えば、2−アミノベンゼンスルホン酸(別名オルタニル酸)、3−アミノベンゼンスルホン酸(別名メタニル酸)、及び、4−アミノベンゼンスルホン酸(別名スルファニル酸)が挙げられる。
【0042】
アミノベンゼンスルホン酸誘導体としては、例えば、アミノベンゼンスルホン酸の一部の水素原子がアルキル基(例えば炭素数1〜5のアルキル基)等で置換された化合物、及び、アミノベンゼンスルホン酸のスルホ基(−SO
3H)の水素原子がアルカリ金属(例えばナトリウム又はカリウム)で置換されたアルカリ金属塩が挙げられる。アミノベンゼンスルホン酸の一部の水素原子がアルキル基で置換された化合物としては、例えば、4−(メチルアミノ)ベンゼンスルホン酸、3−メチル−4−アミノベンゼンスルホン酸、3−アミノ−4−メチルベンゼンスルホン酸、4−(エチルアミノ)ベンゼンスルホン酸、及び、3−(エチルアミノ)−4−メチルベンゼンスルホン酸が挙げられる。アミノベンゼンスルホン酸のスルホ基の水素原子がアルカリ金属で置換されたアルカリ金属塩としては、例えば、2−アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、3−アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、4−アミノベンゼンスルホン酸ナトリウム、2−アミノベンゼンスルホン酸カリウム、3−アミノベンゼンスルホン酸カリウム、及び、4−アミノベンゼンスルホン酸カリウムが挙げられる。
【0043】
アミノナフタレンスルホン酸としては、例えば、4−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸(p−体)、5−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸(ana−体)、1−アミノ−6−ナフタレンスルホン酸(ε−体、5−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸)、6−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸(ε−体)、6−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸(amphi−体)、7−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸、8−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸(peri−体)、1−アミノ−7−ナフタレンスルホン酸(kata−体、8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸)等のアミノナフタレンモノスルホン酸;1−アミノ−3,8−ナフタレンジスルホン酸、3−アミノ−2,7−ナフタレンジスルホン酸、7−アミノ−1,5−ナフタレンジスルホン酸、6−アミノ−1,3−ナフタレンジスルホン酸、7−アミノ−1,3−ナフタレンジスルホン酸等のアミノナフタレンジスルホン酸;7−アミノ−1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、8−アミノ−1,3,6−ナフタレントリスルホン酸等のアミノナフタレントリスルホン酸が挙げられる。
【0044】
アミノナフタレンスルホン酸誘導体としては、例えば、アミノナフタレンスルホン酸の一部の水素原子がアルキル基(例えば炭素数1〜5のアルキル基)等で置換された化合物、及び、アミノナフタレンスルホン酸のスルホ基(−SO
3H)の水素原子がアルカリ金属で置換されたアルカリ金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、モノアルカリ金属塩及びジアルカリ金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩としては、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、ナトリウム塩及びカリウム塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
【0045】
アミノナフタレンスルホン酸及びアミノナフタレンスルホン酸誘導体としては、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、下記一般式(II)で表される化合物が好ましい。R
2のアルカリ金属としては、例えばナトリウム及びカリウムが挙げられる。n2は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、1又は2が好ましく、1がより好ましい。n2が2又は3である場合、R
2は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【化5】
[式(II)中、R
2は、アルカリ金属又は水素原子を示し、n2は、1〜3の整数を示す。]
【0046】
アミノナフタレンスルホン酸及びアミノナフタレンスルホン酸誘導体としては、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、5−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸、4−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸、7−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸、7−アミノ−1,5−ナフタレンジスルホン酸、7−アミノ−1,3−ナフタレンジスルホン酸及びこれらの誘導体がより好ましく、5−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸、7−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸が更に好ましく、5−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸が特に好ましい。
【0047】
[アミノ酸及びアミノ酸誘導体]
アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。アミノ酸誘導体としては、例えば、前記アミノ酸のカルボキシル基の水素原子がアルカリ金属で置換されたアルカリ金属塩が挙げられる。アミノ酸及びアミノ酸誘導体の中では、特に、グルタミン酸及びそのアルカリ金属塩が好ましい。アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
【0048】
(b)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。(b)成分としては、充電受入性及びサイクル特性が更に向上する観点から、アミノアルキルスルホン酸、アミノアルキルスルホン酸誘導体、アミノアリールスルホン酸及びアミノアリールスルホン酸誘導体が好ましく、2−アミノエタンスルホン酸、4−アミノベンゼンスルホン酸、及び、7−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0049】
第1実施形態において、(A)ビスフェノール系樹脂を得るための(b1)成分の配合量は、放電特性が更に向上する観点から、(a)成分1molに対して、0.2mol以上が好ましく、0.3mol以上がより好ましく、0.4mol以上が更に好ましく、0.5mol以上が特に好ましく、0.6mol以上が極めて好ましく、0.8mol以上が非常に好ましい。(b1)成分の配合量は、サイクル特性が更に向上しやすくなる観点から、(a)成分1molに対して、2.5mol以下が好ましく、2.2mol以下がより好ましく、2mol以下が更に好ましく、1.3mol以下が特に好ましく、1.2mol以下が極めて好ましく、1.1mol以下が非常に好ましい。
【0050】
式(I)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、(A)ビスフェノール系樹脂を得るための(b1)成分の配合量は、放電特性が更に向上する観点から、(a)成分1molに対して、0.2mol以上が好ましく、0.3mol以上がより好ましく、0.4mol以上が更に好ましく、0.5mol以上が特に好ましい。(b1)成分の配合量は、サイクル特性が更に向上しやすくなる観点から、(a)成分1molに対して、2.5mol以下が好ましく、2.2mol以下がより好ましく、2mol以下が更に好ましい。
【0051】
式(II)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、(A)ビスフェノール系樹脂を得るための(b1)成分の配合量は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、(a)成分1molに対して、0.5mol以上が好ましく、0.6mol以上がより好ましく、0.8mol以上が更に好ましい。(b1)成分の配合量は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、(a)成分1molに対して、2mol以下が好ましく、1.3mol以下がより好ましく、1.2mol以下が更に好ましく、1.1mol以下が特に好ましい。
【0052】
第2実施形態において、(A)ビスフェノール系樹脂を得るための(b2)成分の配合量は、放電特性が更に向上する観点から、(a)成分1molに対して、0.5mol以上が好ましく、0.6mol以上がより好ましく、0.8mol以上が更に好ましく、0.9mol以上が特に好ましい。(b2)成分の配合量は、放電特性及びサイクル特性が更に向上しやすくなる観点から、(a)成分1molに対して、1.3mol以下が好ましく、1.2mol以下がより好ましく、1.1mol以下が更に好ましい。
【0053】
((c)成分:ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体)
ホルムアルデヒドとしては、ホルマリン(例えばホルムアルデヒド37質量%の水溶液)中のホルムアルデヒドを用いてもよい。ホルムアルデヒド誘導体としては、例えば、パラホルムアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン及びトリオキサンが挙げられる。(c)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ホルムアルデヒドとホルムアルデヒド誘導体とを併用してもよい。
【0054】
(c)成分としては、優れたサイクル特性が得られやすくなる観点から、ホルムアルデヒド誘導体が好ましく、パラホルムアルデヒドがより好ましい。パラホルムアルデヒドは、例えば下記一般式(III)のような構造を有する。
HO(CH
2O)
n3H …(III)
[式(III)中、n3は2〜100の整数を示す。]
【0055】
第1実施形態において、(A)ビスフェノール系樹脂を得るための(c)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(b1)成分の反応性が向上する観点から、(a)成分1molに対して、1.5mol以上が好ましく、2mol以上がより好ましく、2.2mol以上が更に好ましく、2.4mol以上が特に好ましい。(c)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(A)ビスフェノール系樹脂の溶媒への溶解性に優れる観点から、(a)成分1molに対して、5.5mol以下が好ましく、4.5mol以下がより好ましく、3.5mol以下が更に好ましく、3.2mol以下が特に好ましく、3mol以下が極めて好ましい。
【0056】
式(I)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、(A)ビスフェノール系樹脂を得るための(c)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(b1)成分の反応性が向上する観点から、(a)成分1molに対して、1.5mol以上が好ましく、2mol以上がより好ましく、2.2mol以上が更に好ましい。(c)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(A)ビスフェノール系樹脂の溶媒への溶解性に優れる観点から、(a)成分1molに対して、5.5mol以下が好ましく、4.5mol以下がより好ましく、3.5mol以下が更に好ましい。
【0057】
式(II)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、(A)ビスフェノール系樹脂を得るための(c)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(b1)成分の反応性が向上する観点から、(a)成分1molに対して、2mol以上が好ましく、2.2mol以上がより好ましく、2.4mol以上が更に好ましい。(c)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(A)ビスフェノール系樹脂の溶媒への溶解性に優れる観点から、(a)成分1molに対して、3.5mol以下が好ましく、3.2mol以下がより好ましく、3mol以下が更に好ましい。
【0058】
第2実施形態において、(A)ビスフェノール系樹脂を得るための(c)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(b2)成分の反応性が向上する観点から、(a)成分1molに対して、2mol以上が好ましく、2.2mol以上がより好ましく、2.4mol以上が更に好ましい。(c)成分のホルムアルデヒド換算の配合量は、(A)ビスフェノール系樹脂の溶媒への溶解性に優れる観点から、(a)成分1molに対して、3.5mol以下が好ましく、3.2mol以下がより好ましく、3mol以下が更に好ましい。
【0059】
(b)成分としてアミノアルキルスルホン酸、アミノアルキルスルホン酸誘導体、アミノアリールスルホン酸又はアミノアリールスルホン酸誘導体を用いる場合、(A)ビスフェノール系樹脂は、下記式(IV)で表される構造単位、及び、下記式(V)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種を有することが好ましい。式(IV)で表される構造単位、及び、式(V)で表される構造単位の比率は、特に制限はなく、合成条件等によって変化し得る。(A)ビスフェノール系樹脂としては、式(IV)で表される構造単位、及び、式(V)で表される構造単位のいずれか一方のみを有する樹脂を用いてもよい。
【0060】
【化6】
[式(IV)中、X
4は、2価の基を示し、A
4は、アルキレン基又はアリーレン基を示し、R
41は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
42は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
43及びR
44は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、R
45は、水素原子又は炭化水素基を示し、n41は、1〜600の整数を示し、n42は、1〜3の整数を示し、n43は、0又は1を示す。]
【0061】
【化7】
[式(V)中、X
5は、2価の基を示し、A
5は、アルキレン基又はアリーレン基を示し、R
51は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
52は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
53及びR
54は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、R
55は、水素原子又は炭化水素基を示し、n51は、1〜600の整数を示し、n52は、1〜3の整数を示し、n53は、0又は1を示す。]
【0062】
(b)成分としてアミノアルキルスルホン酸、アミノアルキルスルホン酸誘導体、アミノアリールスルホン酸又はアミノアリールスルホン酸誘導体を用いる場合、(A)ビスフェノール系樹脂は、下記式(VI)で表される構造単位、及び、下記式(VII)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種を有することが好ましい。式(VI)で表される構造単位、及び、式(VII)で表される構造単位の比率は、特に制限はなく、合成条件等によって変化し得る。(A)ビスフェノール系樹脂としては、式(VI)で表される構造単位、及び、式(VII)で表される構造単位のいずれか一方のみを有する樹脂を用いてもよい。
【0063】
【化8】
[式(VI)中、X
6は、2価の基を示し、A
6は、アルキレン基又はアリーレン基を示し、R
61は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
62は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
63及びR
64は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、n61は、1〜600の整数を示し、n62は、1〜3の整数を示し、n63は、0又は1を示す。]
【0064】
【化9】
[式(VII)中、X
7は、2価の基を示し、A
7は、アルキレン基又はアリーレン基を示し、R
71は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
72は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
73及びR
74は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、n71は、1〜600の整数を示し、n72は、1〜3の整数を示し、n73は、0又は1を示す。]
【0065】
第1実施形態において、式(I)で表される化合物を(b1)成分として用いる場合、(A)ビスフェノール系樹脂は、例えば、下記一般式(VIII)で表される構造単位、及び、下記一般式(IX)で表される構造単位の少なくとも一方を有することが好ましい。式(VIII)で表される構造単位、及び、式(IX)で表される構造単位の比率は、特に制限はなく、合成条件等によって変化し得る。(A)ビスフェノール系樹脂としては、式(VIII)で表される構造単位、及び、式(IX)で表される構造単位のいずれか一方のみを有する樹脂を用いてもよい。
【0066】
【化10】
[式(VIII)中、X
8は、2価の基を示し、R
81は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
82は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
83及びR
84は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、R
85は、水素原子又は炭化水素基を示し、n81は、1〜200の整数を示し、n82は、1〜3の整数を示し、n83は、0又は1を示す。]
【0067】
【化11】
[式(IX)中、X
9は、2価の基を示し、R
91は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
92は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
93及びR
94は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、R
95は、水素原子又は炭化水素基を示し、n91は、1〜200の整数を示し、n92は、1〜3の整数を示し、n93は、0又は1を示す。]
【0068】
第1実施形態において、式(II)で表される化合物を(b1)成分として用いる場合、(A)ビスフェノール系樹脂は、例えば、下記一般式(X)で表される構造単位、及び、下記一般式(XI)で表される構造単位の少なくとも一方を有することが好ましい。式(X)で表される構造単位、及び、式(XI)で表される構造単位の比率は、特に制限はなく、合成条件等によって変化し得る。(A)ビスフェノール系樹脂としては、式(X)で表される構造単位、及び、式(XI)で表される構造単位のいずれか一方のみを有する樹脂を用いてもよい。
【0069】
【化12】
[式(X)中、X
10は、2価の基を示し、R
101は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
102は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
103及びR
104は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、n101は、1〜600の整数を示し、n102は、1〜3の整数を示し、n103は、0又は1を示す。]
【0070】
【化13】
[式(XI)中、X
11は、2価の基を示し、R
111は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
112は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
113及びR
114は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、n111は、1〜600の整数を示し、n112は、1〜3の整数を示し、n113は、0又は1を示す。]
【0071】
(b)成分としてアミノ酸又はアミノ酸誘導体を用いる場合、(A)ビスフェノール系樹脂は、下記式(XII)で表される構造単位、及び、下記式(XIII)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種を有することが好ましい。式(XII)で表される構造単位、及び、式(XIII)で表される構造単位の比率は、特に制限はなく、合成条件等によって変化し得る。(A)ビスフェノール系樹脂としては、式(XII)で表される構造単位、及び、式(XIII)で表される構造単位のいずれか一方のみを有する樹脂を用いてもよい。
【0072】
【化14】
[式(XII)中、X
12は、2価の基を示し、A
12は、アルキレン基又はアリーレン基を示し、R
121は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
122は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
123及びR
124は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、n121は、1〜600の整数を示し、n122は、1〜3の整数を示し、n123は、0又は1を示す。]
【0073】
【化15】
[式(XIII)中、X
13は、2価の基を示し、A
13は、アルキレン基又はアリーレン基を示し、R
131は、アルカリ金属又は水素原子を示し、R
132は、メチロール基(−CH
2OH)を示し、R
133及びR
134は、それぞれ独立にアルカリ金属又は水素原子を示し、n131は、1〜600の整数を示し、n132は、1〜3の整数を示し、n133は、0又は1を示す。]
【0074】
X
4〜X
13(X
4、X
5、X
6、X
7、X
8、X
9、X
10、X
11、X
12及びX
13)としては、例えば、アルキリデン基(メチリデン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、sec−ブチリデン基等)、シクロアルキリデン基(シクロヘキシリデン基等)、フェニルアルキリデン基(ジフェニルメチリデン基、フェニルエチリデン基等)などの有機基;スルホニル基が挙げられ、充電受入性に更に優れる観点からはイソプロピリデン基(−C(CH
3)
2−)基が好ましく、放電特性に更に優れる観点からはスルホニル基(−SO
2−)が好ましい。X
4〜X
13は、フッ素原子等のハロゲン原子により置換されていてもよい。X
4〜X
13がシクロアルキリデン基である場合、炭化水素環はアルキル基等により置換されていてもよい。
【0075】
A
4、A
5、A
6、A
7、A
12及びA
13としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素数1〜4のアルキレン基;フェニレン基、ナフチレン基等の2価のアリーレン基が挙げられる。前記アリーレン基は、アルキル基等により置換されていてもよい。
【0076】
R
41、R
43、R
44、R
51、R
53、R
54、R
61、R
63、R
64、R
71、R
73、R
74、R
81、R
83、R
84、R
91、R
93、R
94、R
101、R
103、R
104、R
111、R
113、R
114、R
121、R
123、R
124、R
131、R
133及びR
134のアルカリ金属としては、例えば、ナトリウム及びカリウムが挙げられる。R
45、R
55、R
85及びR
95の炭化水素基としては、式(I)のR
1と同様の炭化水素基を用いることができる。
【0077】
n41、n51、n61、n71、n121及びn131は、サイクル特性及び溶媒への溶解性に更に優れる観点から、5〜300が好ましい。n81、n91、n101及びn111は、サイクル特性及び溶媒への溶解性に更に優れる観点から、1〜150が好ましい。n42、n52、n62及びn72は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、1又は2が好ましく、1がより好ましい。n43、n53、n63及びn73は、製造条件により変化するが、サイクル特性に更に優れるとともに(A)ビスフェノール系樹脂の保存安定性に優れる観点から、0が好ましい。
【0078】
第1実施形態において、(A)ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、鉛蓄電池において電極から(A)ビスフェノール系樹脂が電解液に溶出することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、1000以上が好ましく、2000以上がより好ましく、3000以上が更に好ましく、5000以上が特に好ましく、10000以上が極めて好ましく、20000以上が非常に好ましい。(A)ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、電極活物質に対する吸着性が低下することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、300000以下が好ましく、250000以下がより好ましく、200000以下が更に好ましく、150000以下が特に好ましく、120000以下が極めて好ましい。
【0079】
式(I)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、(A)ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、鉛蓄電池において電極から(A)ビスフェノール系樹脂が電解液に溶出することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、5000以上が好ましく、10000以上がより好ましく、20000以上が更に好ましい。(A)ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、電極活物質に対する吸着性が低下することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、300000以下が好ましく、200000以下がより好ましく、150000以下が更に好ましく、120000以下が特に好ましい。
【0080】
式(II)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、(A)ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、鉛蓄電池において電極から(A)ビスフェノール系樹脂が電解液に溶出することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、1000以上が好ましく、2000以上がより好ましく、3000以上が更に好ましい。(A)ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、電極活物質に対する吸着性が低下することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、300000以下が好ましく、250000以下がより好ましく、200000以下が更に好ましい。
【0081】
第2実施形態において、(A)ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、鉛蓄電池において電極から(A)ビスフェノール系樹脂が電解液に溶出することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、3000以上が好ましく、10000以上がより好ましく、20000以上が更に好ましく、30000以上が特に好ましい。(A)ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、電極活物質に対する吸着性が低下して分散性が低下することを抑制することによりサイクル特性が向上しやすくなる観点から、200000以下が好ましく、150000以下がより好ましく、100000以下が更に好ましい。
【0082】
(A)ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量は、例えば、下記条件のゲルパーミエイションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により測定することができる。
(GPC条件)
装置:高速液体クロマトグラフ LC−2200 Plus(日本分光株式会社製)
ポンプ:PU−2080
示差屈折率計:RI−2031
検出器:紫外可視吸光光度計UV−2075(λ:254nm)
カラムオーブン:CO−2065
カラム:TSKgel SuperAW(4000)、TSKgel SuperAW(3000)、TSKgel SuperAW(2500)(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
溶離液:LiBr(10mM)及びトリエチルアミン(200mM)を含有するメタノール溶液
流速:0.6mL/分
分子量標準試料:ポリエチレングリコール(分子量:1.10×10
6、5.80×10
5、2.55×10
5、1.46×10
5、1.01×10
5、4.49×10
4、2.70×10
4、2.10×10
4;東ソー株式会社製)、ジエチレングリコール(分子量:1.06×10
2;キシダ化学株式会社製)、ジブチルヒドロキシトルエン(分子量:2.20×10
2;キシダ化学株式会社製)
【0083】
本実施形態に係るビスフェノール系樹脂の製造方法は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を反応させて(A)ビスフェノール系樹脂を得る樹脂製造工程を備えている。
【0084】
(A)ビスフェノール系樹脂は、例えば、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を反応溶媒中で反応させることにより得ることができる。反応溶媒は、水(例えばイオン交換水)であることが好ましい。反応を促進させるために、有機溶媒、触媒、添加剤等を用いてもよい。
【0085】
第1実施形態において、式(I)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、樹脂製造工程は、サイクル特性が更に向上する観点から、(b1)成分の配合量が(a)成分1molに対して0.2〜2.5molであり、且つ、(c)成分の配合量が(a)成分1molに対してホルムアルデヒド換算で1.5〜5.5molである態様が好ましい。(b1)成分及び(c)成分の好ましい配合量は、(b1)成分及び(c)成分の配合量のそれぞれについて上述した範囲である。
【0086】
第1実施形態において、式(II)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、樹脂製造工程は、サイクル特性が更に向上する観点から、(b1)成分の配合量が(a)成分1molに対して0.5〜2molであり、且つ、(c)成分の配合量が(a)成分1molに対してホルムアルデヒド換算で2〜3.5molである態様が好ましい。(b1)成分及び(c)成分の好ましい配合量は、(b1)成分及び(c)成分の配合量のそれぞれについて上述した範囲である。
【0087】
第2実施形態において、(A)ビスフェノール系樹脂を得る樹脂製造工程は、サイクル特性が更に向上する観点から、(b2)成分の配合量が(a)成分1molに対して0.5〜1.3molであり、且つ、(c)成分の配合量が(a)成分1molに対してホルムアルデヒド換算で2〜3.5molである態様が好ましい。(b2)成分及び(c)成分の好ましい配合量は、(b2)成分及び(c)成分の配合量のそれぞれについて上述した範囲である。
【0088】
(A)ビスフェノール系樹脂は、充分量の(A)ビスフェノール系樹脂が得られやすい観点から、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を塩基性条件(アルカリ性条件)で反応させることにより得ることが好ましい。塩基性条件に調整するためには、塩基性化合物を用いてもよい。塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び炭酸ナトリウムが挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。塩基性化合物の中でも、反応性に優れる観点から、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。
【0089】
第1実施形態において、(a)成分、(b1)成分及び(c)成分を含有する反応溶液が反応開始時において中性(pH=7)である場合、(A)ビスフェノール系樹脂の生成反応が進行しにくい場合があり、反応溶液が酸性(pH<7)である場合、副反応が進行する場合がある。そのため、反応開始時の反応溶液のpHは、(A)ビスフェノール系樹脂の生成反応を進行させつつ副反応が進行することを抑制する観点から、アルカリ性である(7を超える)ことが好ましく、7.1以上がより好ましく、7.2以上が更に好ましく、8以上が特に好ましく、8.5以上が極めて好ましい。反応溶液のpHは、(A)ビスフェノール系樹脂の(b1)成分に由来する基の加水分解が進行することを抑制する観点から、14以下が好ましく、13.5以下がより好ましく、13以下が更に好ましい。式(I)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、反応開始時の反応溶液のpHは、(A)ビスフェノール系樹脂の(b1)成分に由来する基の加水分解が進行することを抑制する観点から、11以下が特に好ましく、9.5以下が極めて好ましい。
【0090】
第2実施形態において、(a)成分、(b2)成分及び(c)成分を含有する反応溶液が反応開始時において中性(pH=7)である場合、(A)ビスフェノール系樹脂の生成反応が進行しにくい場合があり、反応溶液が酸性(pH<7)である場合、副反応が進行する場合がある。そのため、反応開始時の反応溶液のpHは、(A)ビスフェノール系樹脂の生成反応を進行させつつ副反応が進行することを抑制する観点から、アルカリ性である(7を超える)ことが好ましく、7.1以上がより好ましく、7.2以上が更に好ましい。反応溶液のpHは、(A)ビスフェノール系樹脂の(b2)成分に由来する基の加水分解が進行することを抑制する観点から、13以下が好ましく、10以下がより好ましく、9以下が更に好ましい。
【0091】
反応溶液のpHは、例えば、アズワン株式会社製のTwin pHで測定することができる。pHは25℃におけるpHと定義する。
【0092】
第1実施形態において、前記のようなpHに調整しやすいことから、強塩基性化合物の配合量は、(b1)成分に含まれるスルホ基1molに対して、1.01mol以上が好ましく、1.02mol以上がより好ましく、1.03mol以上が更に好ましく、1.05mol以上が特に好ましい。同様の観点から、強塩基性化合物の配合量は、(b1)成分に含まれるスルホ基1molに対して、1.6mol以下が好ましく、1.5mol以下がより好ましく、1.3mol以下が更に好ましく、1.2mol以下が特に好ましく、1.1mol以下が極めて好ましい。強塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。
【0093】
第2実施形態において、前記のようなpHに調整しやすいことから、強塩基性化合物の配合量は、(b2)成分1molに対して、1.01mol以上が好ましく、1.02mol以上がより好ましく、1.03mol以上が更に好ましい。同様の観点から、強塩基性化合物の配合量は、(b2)成分1molに対して、1.1mol以下が好ましく、1.08mol以下がより好ましく、1.07mol以下が更に好ましい。強塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。
【0094】
本実施形態では、(A)ビスフェノール系樹脂を製造する際に得られる反応物(反応溶液)をそのまま、後述する電極の製造に用いてもよいし、反応物を乾燥して得られる(A)ビスフェノール系樹脂を溶媒(水等)に溶解させて、後述する電極の製造に用いてもよい。
【0095】
(A)ビスフェノール系樹脂の合成反応は、(a)成分、(b)成分及び(c)成分が反応して(A)ビスフェノール系樹脂が得られればよく、例えば、(a)成分、(b)成分及び(c)成分を同時に反応させてもよく、(a)成分、(b)成分及び(c)成分のうちの2成分を反応させた後に残りの1成分を反応させてもよい。
【0096】
第1実施形態において、式(I)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、(A)ビスフェノール系樹脂の合成反応は、次のように二段階で行うことが好ましい。第一段階の反応では、例えば、(b1)成分、溶媒(水等)及び塩基性化合物(例えば強塩基性化合物)を仕込んだ後に攪拌し、(b1)成分におけるスルホ基の水素原子をアルカリ金属等で置換して(b1)成分のアルカリ金属塩等を得る。これにより、後述の縮合反応において副反応を抑制しやすくなる。反応系の温度は、(b1)成分の溶媒(水等)への溶解性に優れる観点から、0℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましい。反応系の温度は、副反応を抑制する観点から、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。反応時間は、例えば30分である。
【0097】
第1実施形態において、式(I)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、第二段階の反応では、例えば、第一段階で得られた反応物に(a)成分及び(c)成分を加えて縮合反応させることにより(A)ビスフェノール系樹脂を得る。反応系の温度は、(a)成分、(b1)成分及び(c)成分の反応性に優れる観点から、75℃以上が好ましく、85℃以上がより好ましく、87℃以上が更に好ましい。反応系の温度は、副反応を抑制する観点から、100℃以下が好ましい。反応時間は、例えば3〜20時間である。
【0098】
第1実施形態において、式(II)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、(A)ビスフェノール系樹脂の合成反応は、次のように二段階で行うことが好ましい。第一段階の反応では、例えば、(b1)成分、溶媒(水等)及び塩基性化合物(例えば強塩基性化合物)を仕込んだ後に攪拌し、(b1)成分におけるスルホ基の水素原子をアルカリ金属等で置換して(b1)成分のアルカリ金属塩等を得る。これにより、後述の縮合反応において副反応を抑制しやすくなる。反応系の温度は、(b1)成分の溶媒(水等)への溶解性に優れる観点から、0℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましい。反応系の温度は、副反応を抑制する観点から、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。反応時間は、例えば5〜30分である。
【0099】
第1実施形態において、式(II)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、第二段階の反応では、例えば、第一段階で得られた反応物に(c)成分を加え、混合物が透明の均一系になるまで5〜30分間撹拌した後、混合物に(a)成分を加えて縮合反応させることにより(A)ビスフェノール系樹脂を得る。反応系の温度は、(a)成分、(b1)成分及び(c)成分の反応性に優れる観点から、80℃以上が好ましく、85℃以上がより好ましく、95℃以上が更に好ましい。反応系の温度は、反応溶媒(例えば水)が蒸発することを抑制する観点から、120℃以下が好ましく、115℃以下がより好ましい。反応時間は、例えば1〜5時間である。
【0100】
第2実施形態において、(A)ビスフェノール系樹脂の合成反応は、次のように二段階で行うことが好ましい。第一段階の反応では、例えば、(b2)成分、溶媒(水等)及び塩基性化合物を仕込んだ後に攪拌し、(b2)成分におけるスルホ基の水素原子をアルカリ金属等で置換して(b2)成分のアルカリ金属塩等を得る。これにより、後述の縮合反応において副反応を抑制しやすくなる。反応系の温度は、(b2)成分の溶媒(水等)への溶解性に優れる観点から、0℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましい。反応系の温度は、副反応を抑制する観点から、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。反応時間は、例えば30分である。
【0101】
第2実施形態における第二段階の反応では、例えば、第一段階で得られた反応物に(a)成分及び(c)成分を加えて縮合反応させることにより(A)ビスフェノール系樹脂を得る。反応系の温度は、(a)成分、(b2)成分及び(c)成分の反応性に優れる観点から、75℃以上が好ましく、85℃以上がより好ましく、87℃以上が更に好ましい。反応系の温度は、副反応を抑制する観点から、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましく、93℃以下が更に好ましい。反応時間は、例えば5〜20時間である。
【0102】
このようにして得られた反応物を乾燥して溶媒(水等)及び未反応の(c)成分などを除去することにより(A)ビスフェノール系樹脂が得られる。乾燥方法としては、特に限定されないが、(A)ビスフェノール系樹脂の自己硬化反応を防ぐ観点から、(A)ビスフェノール系樹脂の温度が100℃以下となる方法が好ましい。乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥、凍結乾燥及びスプレードライ乾燥が挙げられる。
【0103】
本実施形態によれば、(A)ビスフェノール系樹脂を含有する樹脂組成物を提供することができる。本実施形態によれば、ビスフェノール系樹脂を含有する樹脂組成物の鉛蓄電池への応用を提供できる。本実施形態によれば、ビスフェノール系樹脂を含有する樹脂組成物の鉛蓄電池の負極への応用を提供できる。本実施形態によれば、ビスフェノール系樹脂を含有する樹脂組成物の自動車における鉛蓄電池への応用を提供できる。本実施形態によれば、ビスフェノール系樹脂を含有する樹脂組成物のISS車における鉛蓄電池への応用を提供できる。本実施形態によれば、鉛蓄電池のISS車への応用を提供できる。本実施形態によれば、鉛蓄電池のマイクロハイブリッド車への応用を提供できる。
【0104】
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、(A)ビスフェノール系樹脂と溶媒とを含有する組成物であり、25℃において液状の樹脂溶液である。溶媒としては、例えば水(例えばイオン交換水)及び有機溶媒が挙げられる。樹脂組成物に含まれる溶媒は、(A)ビスフェノール系樹脂を得るために用いた反応溶媒であってもよい。本実施形態に係る樹脂組成物は、(A)ビスフェノール系樹脂以外の天然樹脂又は合成樹脂を更に含有していてもよい。
【0105】
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂製造工程において得られる組成物であってもよく、樹脂製造工程後に(A)ビスフェノール系樹脂と他の成分とを混合して得られる組成物であってもよい。
【0106】
本実施形態に係る樹脂組成物における(A)ビスフェノール系樹脂の含有量は、充電受入性、放電特性及びサイクル特性がバランス良く向上する観点から、樹脂組成物における不揮発分の全質量を基準として、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0107】
本実施形態に係る樹脂組成物における未反応の(c)成分(残存(c)成分)の含有量は、サイクル特性が更に向上する観点から、樹脂組成物の全質量を基準として、1質量%以下が好ましく、0.9質量%以下がより好ましく、0.8質量%以下が更に好ましい。未反応の(c)成分の含有量は、例えば、樹脂組成物を乾燥処理することにより低減することができる。未反応の(c)成分の含有量は、例えばガスクロマトグラフィーにより測定できる。
【0108】
本実施形態に係る樹脂組成物における水分量は、品質管理及び操作性に優れる観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。同様の観点から、水分量は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。水分量は、例えばカールフィッシャー滴定により測定できる。
【0109】
式(I)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、第1実施形態に係る樹脂組成物(例えば25℃において液状の樹脂溶液)のpHは、(A)ビスフェノール系樹脂の溶媒(水等)への溶解性に優れる観点から、アルカリ性である(7を超える)ことが好ましく、7.1以上がより好ましい。樹脂組成物のpHは、電極活物質(鉛、酸化鉛等)などへの樹脂組成物の濡れ性に更に優れる観点から、14以下が好ましく、12以下がより好ましく、11以下が更に好ましく、10以下が特に好ましい。また、樹脂製造工程において得られる反応物を樹脂組成物として用いる場合、樹脂組成物のpHは、前記範囲であることが好ましい。
【0110】
式(II)で表される化合物を(b1)成分が含む場合、第1実施形態に係る樹脂組成物(例えば25℃において液状の樹脂溶液)のpHは、後述する電池作製プロセスにおいて、(A)ビスフェノール系樹脂の溶媒(水等)への溶解性に優れるとともに、電極活物質(鉛、酸化鉛等)などへの樹脂組成物の濡れ性に優れる観点から、アルカリ性である(7を超える)ことが好ましく、7.1以上がより好ましい。樹脂組成物のpHは、(A)ビスフェノール系樹脂の溶媒(水等)への溶解性に更に優れる観点から、7.5以上が好ましい。樹脂組成物のpHは、電極活物質(鉛、酸化鉛等)などへの樹脂組成物の濡れ性に更に優れる観点から、8以上が好ましい。樹脂組成物のpHは、(A)ビスフェノール系樹脂の(b1)成分に由来する基の加水分解を低減できる観点から、14以下が好ましく、13.5以下がより好ましく、13以下が更に好ましい。樹脂組成物のpHは、電極活物質(鉛、酸化鉛等)などへの樹脂組成物の濡れ性に更に優れる観点から、11以下が好ましい。特に、(A)ビスフェノール系樹脂を5質量%の水溶液(例えば、イオン交換水を含む水溶液)に調整したときのpHが上記範囲であることが好ましい。また、樹脂製造工程において得られる反応物を樹脂組成物として用いる場合、樹脂組成物のpHは、前記範囲であることが好ましい。
【0111】
第2実施形態に係る樹脂組成物(例えば25℃において液状の樹脂溶液)のpHは、(A)ビスフェノール系樹脂の溶媒(水等)への溶解性に優れる観点から、アルカリ性である(7を超える)ことが好ましく、7.1以上がより好ましい。樹脂組成物のpHは、樹脂組成物の保存安定性が向上する観点から、10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8.5以下が更に好ましい。特に、樹脂製造工程において得られる反応物を樹脂組成物として用いる場合、樹脂組成物のpHは、前記範囲であることが好ましい。
【0112】
樹脂組成物のpHは、例えばアズワン株式会社製のTwin pHで測定することができる。pHは25℃におけるpHと定義する。樹脂組成物のpHは、例えば、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整することができる。
【0113】
<(B)負極活物質>
負極活物質は、後述するように、負極活物質の原料を含む負極活物質ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成活物質を得た後に化成することで得ることができる。化成後の負極活物質は、多孔質の海綿状鉛(Spongy Lead)を含むことが好ましい。負極活物質の原料としては、特に制限はなく、例えば、鉛粉が挙げられる。鉛粉としては、例えば、ボールミル式鉛粉製造機又はバートンポット式鉛粉製造機によって製造される鉛粉(ボールミル式鉛粉製造機においては、主成分PbOの粉体と鱗片状金属鉛の混合物)が挙げられる。
【0114】
負極活物質の平均粒径は、充電受入性及びサイクル特性が更に向上する観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.7μm以上が更に好ましい。負極活物質の平均粒径は、サイクル特性が更に向上する観点から、2.5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましい。負極活物質の平均粒径としては、例えば、化成後の負極の中央部における縦10μm×横10μmの範囲の透過型電子顕微鏡写真(1000倍)を取得した後、画像内における全ての粒子の長辺の長さの値を算術平均化した数値を用いることができる。
【0115】
負極活物質の比表面積は、電解液と負極活物質との反応性を高める観点から、0.4m
2/g以上が好ましく、0.5m
2/g以上がより好ましく、0.6m
2/g以上が更に好ましい。負極活物質の比表面積は、サイクル時の負極の収縮を更に抑制する観点から、2m
2/g以下が好ましく、1.8m
2/g以下がより好ましく、1.5m
2/g以下が更に好ましい。負極活物質の比表面積は、例えば、未化成活物質の段階で活物質を微細化させる方法により調整することができる。
【0116】
負極活物質の比表面積は、例えば、BET法で測定することができる。BET法は、一つの分子の大きさが既知の不活性ガス(例えば窒素ガス)を測定試料の表面に吸着させ、その吸着量と不活性ガスの占有面積とから表面積を求める方法であり、比表面積の一般的な測定手法である。具体的には、以下のBET式に基づいて測定する。
【0117】
下記式(1)の関係式は、P/P
oが0.05〜0.35の範囲でよく成立する。なお、式(1)中、各符号の詳細は下記のとおりである。
P:一定温度で吸着平衡状態であるときの吸着平衡圧
P
o:吸着温度における飽和蒸気圧
V:吸着平衡圧Pにおける吸着量
V
m:単分子層吸着量(気体分子が固体表面で単分子層を形成したときの吸着量)
C:BET定数(固体表面と吸着物質との間の相互作用に関するパラメータ)
【0119】
式(1)を変形する(左辺の分子分母をPで割る)ことにより下記式(2)が得られる。測定に用いる比表面積計では、吸着占有面積が既知のガス分子を試料に吸着させ、その吸着量(V)と相対圧力(P/P
o)との関係を測定する。測定したVとP/P
oより、式(2)の左辺とP/P
oをプロットする。ここで、勾配がsであるとすると、式(2)より下記式(3)が導かれる。切片がiであるとすると、切片i及び勾配sは、それぞれ下記式(4)及び下記式(5)のとおりとなる。
【0124】
式(4)及び式(5)を変形すると、それぞれ下記式(6)及び式(7)が得られ、単分子層吸着量V
mを求める下記式(8)が得られる。すなわち、ある相対圧力P/P
oにおける吸着量Vを数点測定し、プロットの勾配及び切片を求めると、単分子層吸着量V
mが求まる。
【0128】
試料の全表面積S
total(m
2)は、下記式(9)で求められ、比表面積S(m
2/g)は、全表面積S
totalより下記式(10)で求められる。なお、式(9)中、Nは、アボガドロ数を示し、A
CSは、吸着断面積(m
2)を示し、Mは、分子量を示す。また、式(10)中、wは、サンプル量(g)を示す。
【0131】
<電極、鉛蓄電池及びこれらの製造方法>
本実施形態に係る電極は、電極活物質と、本実施形態に係るビスフェノール系樹脂、又は、当該ビスフェノール系樹脂を含有する樹脂組成物と、を用いて製造される。本実施形態に係る電極の製造方法は、本実施形態に係るビスフェノール系樹脂の製造方法により得られたビスフェノール系樹脂を用いて電極を製造する工程を備える。電極は、例えば、電極活物質等を含む電極層と、当該電極層を支持する集電体とを有している。電極は、例えば、鉛蓄電池用の負極(負極板等)である。
【0132】
本実施形態に係る鉛蓄電池は、本実施形態に係る電極を備えている。本実施形態に係る鉛蓄電池としては、例えば、液式鉛蓄電池及び密閉式鉛蓄電池が挙げられ、液式鉛蓄電池が好ましい。本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、例えば、電極(正極及び負極)を得る電極製造工程と、前記電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池を得る組み立て工程とを備えている。電極が未化成である場合、電極は、例えば、電極活物質の原料等を含む電極層と、当該電極層を支持する集電体とを有している。化成後の電極は、例えば、電極活物質等を含む電極層と、当該電極層からの電流の導電路となり且つ電極層を支持する集電体とを有している。
【0133】
電極製造工程では、例えば、活物質ペーストを集電体(例えば集電体格子)に充填した後に、熟成及び乾燥を行うことにより未化成の電極を得る。未化成の電極は、主成分として三塩基性硫酸鉛を含む未化成活物質を含むことが好ましい。前記活物質ペーストは、例えば、活物質の原料を含んでおり、その他の所定の添加剤等を更に含んでいてもよい。電極が負極である場合、活物質ペーストは、(A)ビスフェノール系樹脂、及び、(B)負極活物質の原料を含んでいる。
【0134】
活物質ペーストは、溶媒及び硫酸を更に含んでいてもよい。溶媒としては、例えば、水(例えばイオン交換水)及び有機溶媒が挙げられる。溶媒は、(A)ビスフェノール系樹脂を得るために用いた反応溶媒であってもよい。活物質ペーストは、(A)ビスフェノール系樹脂以外の天然樹脂又は合成樹脂を更に含有していてもよい。
【0135】
活物質ペーストが含む添加剤としては、例えば、硫酸バリウム、炭素材料及び補強用短繊維(アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、炭素繊維等)が挙げられる。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック及び黒鉛が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック及びケッチェンブラックが挙げられる。
【0136】
本実施形態に係る鉛蓄電池の負極(負極板等)を得るための負極活物質ペーストは、例えば、以下の方法により得ることができる。まず、鉛粉に、(A)ビスフェノール系樹脂、又は、(A)ビスフェノール系樹脂を含有する樹脂組成物(樹脂溶液等)と、必要に応じて添加される添加剤とを混合することにより混合物を得る。次に、この混合物に、硫酸(希硫酸等)及び溶媒(水等)を加えて混練することにより負極活物質ペーストが得られる。
【0137】
負極活物質ペーストにおいて、硫酸バリウムを用いる場合、硫酸バリウムの配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準として0.01〜1質量%が好ましい。また、炭素材料を用いる場合、炭素材料の配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準として0.2〜1.4質量%が好ましい。また、補強用短繊維を用いる場合、補強用短繊維の配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準として0.05〜0.3質量%が好ましい。(A)ビスフェノール系樹脂、又は、(A)ビスフェノール系樹脂を含有する樹脂組成物(樹脂溶液等)の配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準として、樹脂固形分換算で、0.01〜2質量%が好ましく、0.05〜1質量%がより好ましく、0.1〜0.5質量%が更に好ましい。
【0138】
集電体の組成としては、例えば、鉛−カルシウム−錫系合金、鉛−カルシウム合金、鉛−アンチモン−ヒ素系合金等の鉛合金が挙げられる。用途に応じて適宜セレン、銀、ビスマス等を集電体に添加してもよい。これらの鉛合金を重力鋳造法、エキスパンド法、打ち抜き法等で格子状に形成することにより集電体を得ることができる。
【0139】
熟成条件としては、温度35〜85℃、湿度50〜98RH%の雰囲気で15〜60時間が好ましい。乾燥条件は、温度45〜80℃で15〜30時間が好ましい。
【0140】
鉛蓄電池における正極(正極板等)は、例えば、下記の方法により得ることができる。まず、正極活物質の原料に対して、補強用短繊維を加えて乾式混合する。次に、水及び希硫酸を加えた後に混練して正極活物質ペーストを作製する。正極活物質ペーストを作製するに際しては、正極活物質の原料として、鉛粉を用いることができる。また、化成時間を短縮できる観点から、正極活物質の原料として鉛丹(Pb
3O
4)を加えてもよい。この正極活物質ペーストを集電体(例えば集電体格子)に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより未化成の正極が得られる。正極活物質ペーストにおいて、補強用短繊維の配合量は、正極活物質の原料の全質量を基準として0.005〜0.3質量%が好ましい。集電体の種類、熟成条件、乾燥条件は、負極の場合とほぼ同様である。
【0141】
正極活物質は、正極活物質の原料を含む正極活物質ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成活物質を得た後に化成することで得ることができる。化成後の正極活物質は、例えば二酸化鉛を含む。
【0142】
正極活物質の平均粒径は、充電受入性及びサイクル特性が更に向上する観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.7μm以上が更に好ましい。正極活物質の平均粒径は、サイクル特性が更に向上する観点から、2.5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましい。正極活物質の平均粒径としては、例えば、化成後の正極の中央部における縦10μm×横10μmの範囲の透過型電子顕微鏡写真(1000倍)を取得した後、画像内における全ての粒子の長辺の長さの値を算術平均化した数値を用いることができる。
【0143】
正極活物質の比表面積は、電解液と正極活物質との反応性を高める観点から、2m
2/g以上が好ましく、3m
2/g以上がより好ましく、4m
2/g以上が更に好ましい。正極活物質の比表面積は、利用率に優れる観点から、10m
2/g以下が好ましく、8m
2/g以下がより好ましく、6m
2/g以下が更に好ましい。正極活物質の比表面積は、例えば、未化成活物質の段階で活物質を微細化させる方法、又は、化成条件を変化させる方法により調整することができる。正極活物質の比表面積は、例えば、負極活物質と同様に、窒素ガス吸着によるBET法で測定することができる。
【0144】
組み立て工程では、例えば、前記のように作製した未化成の負極及び正極を、セパレータを介して交互に積層し、同極性の極板同士をストラップに連結(溶接等)させて極板群を得る。この極板群を電槽内に配置して未化成電池を作製する。次に、未化成電池に希硫酸等を注液した後、直流電流を通電して化成を行うことにより鉛蓄電池が得られる。通常は、通電のみで所定比重の鉛蓄電池を得られるが、通電時間短縮を目的として、化成後に希硫酸を一度抜いた後、電解液を注液してもよい。
【0145】
セパレータの材質としては、例えば、ポリエチレン及びガラス繊維が挙げられる。なお、化成条件、及び、電解液の比重は電極活物質の性状に応じて調整することができる。また、化成処理は、組み立て工程において実施されることに限られず、電極製造工程において実施されてもよい。
【0146】
本実施形態における電解液は、例えば、硫酸を含有している。第2実施形態における電解液は、アルミニウムイオンを更に含有しており、硫酸及び硫酸アルミニウム粉末を混合することにより得ることができる。電解液中に溶解させる硫酸アルミニウムは、無水物又は水和物として添加することができる。第1実施形態における電解液は、アルミニウムイオンを含有していなくてもよい。
【0147】
化成後の電解液の比重(20℃換算)は下記の範囲であることが好ましい。第1実施形態における電解液の電解液の比重(20℃換算)は、1.25〜1.35が好ましく、1.25〜1.33がより好ましい。第2実施形態における電解液の比重は、浸透短絡又は凍結を抑制するとともに放電特性に更に優れる観点から、1.25以上が好ましく、1.28以上がより好ましく、1.285以上が更に好ましく、1.29以上が特に好ましい。電解液の比重は、充電受入性及びサイクル特性が更に向上する観点から、1.35以下が好ましく、1.33以下がより好ましく、1.32以下が更に好ましく、1.315以下が特に好ましく、1.31以下が極めて好ましい。電解液の比重は、例えば、化成後の電解液(硫酸等)の比重である。電解液の比重の値は、例えば、浮式比重計、又は、京都電子工業株式会社製のデジタル比重計によって測定することができる。
【0148】
電解液にアルミニウムイオンを含む場合の電解液のアルミニウムイオン濃度は、充電受入性及びサイクル特性が更に向上する観点から、0.01mol/L以上が好ましく、0.02mol/L以上がより好ましく、0.03mol/L以上が更に好ましい。電解液のアルミニウムイオン濃度は、充電受入性及びサイクル特性が更に向上する観点から、0.2mol/L以下が好ましく、0.15mol/L以下がより好ましく、0.13mol/L以下が更に好ましい。電解液のアルミニウムイオン濃度は、例えば、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定することができる。
【0149】
電解液のアルミニウムイオン濃度が前記所定範囲であることにより充電受入性が向上するメカニズムの詳細については明らかではないが、任意の低SOC下において、放電生成物である結晶性硫酸鉛の電解液中への溶解度が上がるため、又は、アルミニウムイオンの高いイオン伝導性により電解液の電極活物質内部への拡散性が向上するためと考えられる。
【0150】
また、電解液のアルミニウムイオン濃度が前記所定範囲であることによりサイクル特性が向上するメカニズムについては、以下のように推測される。まず、アルミニウムイオンを含まない通常の電解液を用いた場合、充電時に電解液に供給される硫酸イオン(例えば硫酸鉛から生成する硫酸イオン)は、電極(極板等)の表面を伝って下方へと移動する。PSOC下では、電池が満充電になることがないため、ガス発生による電解液の撹拌が行われない。その結果、電池下部での電解液比重が高くなるのに対し電池上部の電解液比重が低くなるという「成層化」と呼ばれる電解液濃度の不均一化が起こる。このような現象が起こると、充電しても元に戻り難い結晶性硫酸鉛が生成するとともに、活物質の反応面積が低下する。これにより、充放電が繰り返される寿命試験において性能の劣化が起こる。一方、電解液のアルミニウムイオン濃度が前記所定範囲であると、アルミニウムイオンの静電的引力により硫酸イオンが強く引き付けられるため、成層化が発現しにくくなると考える。
【実施例】
【0151】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0152】
<ビスフェノール系樹脂の作製>
[合成例1(ビスフェノール・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物)]
ジムロート、メカニカルスターラー及び温度計を装着した500mLセパラブルフラスコに水酸化ナトリウム4.2質量部(0.105mol)及びイオン交換水79.26質量部(4.4mol)を加えた後、150rpm(=min
−1)で5分間撹拌して水酸化ナトリウム水溶液を調製した。この水酸化ナトリウム水溶液に4−アミノベンゼンスルホン酸17.32質量部(0.1mol)を加えて25℃にて30分間撹拌を行い、均一の水溶液を得た。この水溶液にパラホルムアルデヒド9.01質量部(ホルムアルデヒド換算、0.3mol、三井化学株式会社製)を加えた後に5分間撹拌してパラホルムアルデヒドを溶解し、均一の水溶液を得た。この水溶液にビスフェノールA21.92質量部(0.096mol)及びビスフェノールS1.04質量部(0.004mol)を加えた後、90℃に設定したオイルバスを用いて加熱しながら10時間撹拌して水溶液を得た。ビスフェノールA及びビスフェノールSを加えた直後の反応開始時の水溶液のpHを下記のpH測定条件で測定した結果、pHは8.6であった。
【0153】
得られた水溶液を耐熱容器に移した後、60℃に設定した真空乾燥機にこの水溶液を投入した。次に、1kPa以下の減圧状態で10時間乾燥することによりビスフェノール系樹脂粉末(ビスフェノール・アミノベンゼンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物)を得た。合成例1で得られたビスフェノール系樹脂の重量平均分子量を下記条件のGPCにより測定した結果、重量平均分子量は53900であった。
【0154】
[合成例2(ビスフェノール・アミノナフタレンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物)]
ジムロート、メカニカルスターラー及び温度計を装着した500mLセパラブルフラスコに水酸化ナトリウム4.2質量部(0.105mol)及びイオン交換水137.4質量部(7.6mol)を加えた後、150rpmで5分間撹拌して水酸化ナトリウム水溶液を調製した。この水酸化ナトリウム水溶液に7−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸ナトリウム24.5質量部(0.1mol)を加えて25℃にて10分間撹拌を行い、均一の水溶液を得た。この水溶液にパラホルムアルデヒド9.01質量部(ホルムアルデヒド換算、0.3mol、三井化学株式会社製)を加えた後に5分間撹拌してパラホルムアルデヒドを溶解し、均一の水溶液を得た。この水溶液にビスフェノールA22.8質量部(0.1mol)を加えた後、115℃に設定したオイルバスを用いて加熱しながら3時間撹拌して水溶液を得た。ビスフェノールAを加えた直後の反応開始時の水溶液のpHを下記のpH測定条件で測定した結果、pHは12.9であった。
【0155】
得られた水溶液を耐熱容器に移した後、10質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pHが10.0の水溶液を得た。続いて、60℃に設定した真空乾燥機にこの水溶液を投入した。次に、1kPa以下の減圧状態で10時間乾燥することによりビスフェノール系樹脂粉末(ビスフェノール・アミノナフタレンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物)を得た。合成例2で得られたビスフェノール系樹脂の重量平均分子量を下記条件のGPCにより測定した結果、重量平均分子量は97000であった。
【0156】
[合成例3(ビスフェノール・アミノエタンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物)]
ジムロート、メカニカルスターラー及び温度計を装着した500mLセパラブルフラスコに水酸化ナトリウム4.2質量部(0.105mol)及びイオン交換水100質量部(5.56mol)を加えた後、150rpmで5分間撹拌して水酸化ナトリウム水溶液を調製した。この水酸化ナトリウム水溶液に2−アミノエタンスルホン酸12.52質量部(0.1mol)を加えて25℃にて30分間撹拌を行い、均一の水溶液を得た。この水溶液にパラホルムアルデヒド9.01質量部(ホルムアルデヒド換算、0.3mol、三井化学株式会社製)を加えた後に5分間撹拌してパラホルムアルデヒドを溶解し、均一の水溶液を得た。この水溶液にビスフェノールA22.83質量部(0.1mol)を加えた後、90℃に設定したオイルバスを用いて加熱しながら4時間撹拌して水溶液を得た。ビスフェノールAを加えた直後の反応開始時の水溶液のpHを下記のpH測定条件で測定した結果、pHは9.1であった。
【0157】
得られた水溶液を耐熱容器に移した後、60℃に設定した真空乾燥機にこの水溶液を投入した。次に、1kPa以下の減圧状態で10時間乾燥することによりビスフェノール系樹脂粉末(ビスフェノール・アミノエタンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物)を得た。合成例3で得られたビスフェノール系樹脂の重量平均分子量を下記条件のGPCにより測定した結果、重量平均分子量は76000であった。
【0158】
なお、合成例3で得られたビスフェノール系樹脂粉末の
1H−NMRスペクトルを下記条件で測定した。
1H−NMRスペクトルの測定結果を
図1に示す。
装置:AVANCE300(日本ブルカー株式会社製)
重溶媒:DMSO−d
6【0159】
(pH測定条件)
試験機:Twin pH(アズワン株式会社製)
校正液:pH6.86(25℃)、pH4.01(25℃)
測定温度:25℃
測定手順:校正液を用いて2点校正を行った。試験機のセンサ部の洗浄を行った後、測定溶液をスポイトで吸い取り、センサ部に0.1〜0.3mLを滴下した。画面上に測定終了の表示が現れたときのpHを測定値とした。
【0160】
(GPC条件)
装置:高速液体クロマトグラフ LC−2200 Plus(日本分光株式会社製)
ポンプ:PU−2080
示差屈折率計:RI−2031
検出器:紫外可視吸光光度計UV−2075(λ:254nm)
カラムオーブン:CO−2065
カラム:TSKgel SuperAW(4000)、TSKgel SuperAW(3000)、TSKgel SuperAW(2500)(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
溶離液:LiBr(10mM)及びトリエチルアミン(200mM)を含有するメタノール溶液
流速:0.6mL/分
分子量標準試料:ポリエチレングリコール(分子量:1.10×10
6、5.80×10
5、2.55×10
5、1.46×10
5、1.01×10
5、4.49×10
4、2.70×10
4、2.10×10
4;東ソー株式会社製)、ジエチレングリコール(分子量:1.06×10
2;キシダ化学株式会社製)、ジブチルヒドロキシトルエン(分子量:2.20×10
2;キシダ化学株式会社製)
【0161】
{実験A}
<負極板の作製>
[実施例A1]
鉛粉の全質量を基準として、合成例3で得られたビスフェノール系樹脂を固形分換算で0.2質量%と、ファーネスブラック0.2質量%と、硫酸バリウム1.0質量%とを鉛粉に対して添加した後に乾式混合した。次に、希硫酸(比重1.26(20℃換算))及び水を加えながら混練して負極活物質ペーストを作製した。負極活物質ペーストを厚さ0.6mmのエキスパンド集電体(鉛−カルシウム−錫合金)に充填して負極板を作製した。負極板を通常の方法に従い、温度50℃、湿度95%の雰囲気下に18時間放置して熟成した後、温度50℃の雰囲気下で乾燥して未化成の負極板を得た。
【0162】
[実施例A2〜A3]
ビスフェノール系樹脂を得るための成分を、表1に示す成分へ変更したこと以外は合成例3と同様の方法によりビスフェノール系樹脂を得た。表1中、パラホルムアルデヒドの配合量は、ホルムアルデヒド換算の配合量である。合成例3と同様にビスフェノール系樹脂の重量平均分子量を測定した。測定結果を表1に示す。そして、このビスフェノール系樹脂を用いて実施例A1と同様の方法で未化成の負極板を得た。
【0163】
[比較例A1]
ビスフェノール系樹脂を用いなかったこと以外は実施例A1と同様の方法により未化成の負極板を得た。
【0164】
[比較例A2]
ビスフェノール系樹脂を得るための成分を、表1に示す成分へ変更したこと以外は合成例3と同様の方法によりビスフェノール系樹脂を得た。表1中、37質量%ホルマリンの配合量は、ホルムアルデヒド換算の配合量である。合成例3と同様にビスフェノール系樹脂の重量平均分子量を測定した。測定結果を表1に示す。そして、このビスフェノール系樹脂を用いて実施例A1と同様の方法で未化成の負極板を得た。
【0165】
<反応終了後のpH>
ビスフェノール系樹脂の反応終了後、ビスフェノール系樹脂を含む樹脂溶液のpHを、反応開始時のpHの測定条件と同様の上記測定条件で測定した。結果を表1に示す。
【0166】
<正極板の作製>
鉛粉の全質量を基準として0.01質量%のカットファイバー(補強用短繊維、ポリエチレン繊維)を鉛粉に対して添加した後に乾式混合した。次に、希硫酸(比重1.26(20℃換算))及び水を加えて混練して正極活物質ペーストを作製した。鋳造格子体からなる正極集電体(鉛−カルシウム−錫合金)に正極活物質ペーストを充填して、温度50℃、湿度95%の雰囲気下に18時間放置して熟成した後、温度50℃の雰囲気下で乾燥して未化成の正極板を得た。
【0167】
<電池の組み立て>
未化成の負極板及び未化成の正極板が交互に積層されるように、ポリエチレン製のセパレータを介して6枚の未化成の負極板及び5枚の未化成の正極板を積層した後に、同極性の極板同士をストラップで連結させて極板群を作製した。極板群を電槽に挿入して2V単セル電池を組み立てた。この電池に希硫酸(比重1.28(20℃換算))を注液した後に、50℃の水槽中、通電電流1.0Aで15時間の条件で化成した。そして、希硫酸を排出した後に、再び比重1.28(20℃換算)の希硫酸を注入して鉛蓄電池を得た。なお、この鉛蓄電池の電解液(希硫酸)はアルミニウムイオンを含有していない。
【0168】
<電池特性の評価>
上記の2V単セル電池について、充電受入性、放電特性及びサイクル特性を下記のとおり測定した。比較例A2の充電受入性、放電特性及びサイクル特性の測定結果をそれぞれ100とし、各特性を相対評価した。結果を表1に示す。
【0169】
(充電受入性)
充電受入性として、電池の充電状態(State of charge)が90%になった状態、つまり、満充電状態から電池容量の10%を放電し、2.33Vで定電圧充電した際の5秒後の電流値を測定した。5秒後の電流値が大きいほど初期の充電受入性が良い電池であると評価される。
【0170】
(放電特性)
放電特性として、−15℃において5Cで定電流放電し、電池電圧が1.0Vに達するまでの放電持続時間を測定した。放電持続時間が長いほど放電特性に優れる電池であると評価される。
【0171】
(サイクル特性)
サイクル特性は、日本工業規格の軽負荷寿命試験(JIS D 5301)に準じた方法で評価した。サイクル数が大きいほど耐久性が高い電池であると評価される。
【0172】
【表1】
【0173】
実施例では、比較例と比べてサイクル特性が大きく向上していることが確認できる。また、充電受入性及び放電特性についても、比較例A2とほぼ同等の水準に留まっており、例えばISS車両用途としての性能を充分満足できることが確認できる。このように、実施例では、優れた充電受入性、放電特性及びサイクル特性が両立されていることが確認できる。
【0174】
{実験B}
<負極板の作製>
[実施例B1〜B6]
ビスフェノール系樹脂を得るための成分を、表2に示す成分へ変更したこと以外は合成例2と同様の方法によりビスフェノール系樹脂を得た。表2中、パラホルムアルデヒドの配合量は、ホルムアルデヒド換算の配合量である。実施例B3のビスフェノール系樹脂は、合成例2により得られたビスフェノール系樹脂である。そして、このビスフェノール系樹脂を用いて実施例A1と同様の方法で未化成の負極板を得た。
【0175】
合成例2と同様に、ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量、及び、反応開始時のpHを測定した。また、得られたビスフェノール系樹脂を5質量%含有する水溶液のpHを、反応開始時のpHの測定条件と同様の測定条件で測定した。測定結果を表2に示す。
【0176】
また、実施例B1において、合成例2と同様の方法によりビスフェノール系樹脂粉末を得た後、このビスフェノール系樹脂粉末の
1H−NMRスペクトルを下記条件で測定した。
1H−NMRスペクトルの測定結果を
図2に示す。
装置:AVANCE300(日本ブルカー株式会社製)
重溶媒:DMSO−d
6【0177】
[比較例B1]
ビスフェノール系樹脂を用いなかったこと以外は実施例B1と同様の方法により未化成の負極板を得た。
【0178】
[比較例B2]
ビスフェノール系樹脂を得るための成分を、表2に示す成分へ変更したこと以外は合成例2と同様の方法によりビスフェノール系樹脂を得た。表2中、37質量%ホルマリンの配合量は、ホルムアルデヒド換算の配合量である。実施例B1と同様に、ビスフェノール系樹脂の重量平均分子量、反応開始時のpH、及び、ビスフェノール系樹脂を5質量%含有する水溶液のpHを測定した。測定結果を表2に示す。そして、このビスフェノール系樹脂を用いて実施例A1と同様の方法で未化成の負極板を得た。
【0179】
<電池特性の評価>
実験Aと同様の方法により未化成の正極板を作製した。そして、未化成の負極板及び未化成の正極板を用いて、実験Aと同様に鉛蓄電池を得た。充電受入性、放電特性及びサイクル特性を実験Aと同様の方法で測定し評価した。結果を表2に示す。
【0180】
【表2】
【0181】
実施例では、比較例と比べて充電受入性及びサイクル特性が大きく向上していることが確認できる。また、放電特性についても、比較例B2とほぼ同等の水準に留まっており、例えばISS車両用途としての性能を充分満足できることが確認できる。このように、実施例では、優れた充電受入性、放電特性及びサイクル特性が両立されていることが確認できる。
【0182】
{実験C}
<鉛蓄電池の作製>
[実施例C1]
(正極板の作製)
正極活物質の原料として、鉛粉と鉛丹(Pb
3O
4)を用いた(鉛粉:鉛丹=96:4(質量比))。正極活物質の原料と、正極活物質の原料の全質量を基準として0.07質量%の補強用短繊維(アクリル繊維)と、水とを加えて混練した。続いて、比重1.280(20℃換算、以下同様)の希硫酸を少量ずつ添加しながら混練して、正極活物質ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体にこの正極活物質ペーストを充填した後、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後乾燥して未化成の正極板を作製した。
【0183】
(負極板の作製)
負極活物質の原料として鉛粉を用いた。表3に示す樹脂(ビスフェノール系樹脂)0.2質量%、補強用短繊維(アクリル繊維)0.1質量%、硫酸バリウム1.0質量%、及び、炭素質導電材(ファーネスブラック)0.2質量%の混合物を前記鉛粉に添加した後に乾式混合した(前記配合量は、負極活物質の原料の全質量を基準とした配合量である)。次に、水を加えた後に混練した。続いて、比重1.280の希硫酸を少量ずつ添加しながら混練して、負極活物質ペーストを作製した。鉛合金からなる圧延シートにエキスパンド加工を施すことにより作製されたエキスパンド式集電体にこの負極活物質ペーストを充填した後、温度50℃、湿度98%の雰囲気で24時間熟成した。その後乾燥して未化成の負極板を作製した。
【0184】
(電池の組み立て)
袋状に加工したポリエチレン製のセパレータに未化成の負極板を挿入した。次に、未化成の正極板5枚と、前記袋状セパレータに挿入された未化成の負極板6枚とを交互に積層した。続いて、キャストオンストラップ(COS)方式で、同極性の極板の耳部同士を溶接して極板群を作製した。前記極板群を電槽に挿入して2V単セル電池(JIS50301規定のB19サイズの単セルに相当)を組み立てた。アルミニウムイオン濃度が0.04mol/Lになるように硫酸アルミニウム無水物を溶解させた希硫酸(化成後の電解液比重が1.290になるように調整)をこの電池に注液した。その後、50℃の水槽中、通電電流10Aで16時間の条件で化成して鉛蓄電池を得た。化成後の電解液比重(20℃換算)は1.290であった。
【0185】
化成後の正極活物質及び負極活物質の比表面積は、試料を液体窒素で冷却しながら液体窒素温度で窒素ガス吸着量を多点法で測定し、BET法に従って算出した。測定条件を下記する。このようにして測定した結果、正極活物質の比表面積は、5m
2/gであった。負極活物質の比表面積は、0.6m
2/gであった。
(比表面積測定条件)
装置:HM−2201FS(Macsorb社製)
脱気時間:130℃で10分
冷却:液体窒素で4分
吸着ガス流量:25mL/m
【0186】
[実施例C2〜C8、比較例C1〜C2]
負極板に用いた樹脂の種類、アルミニウムイオン濃度及び化成後の電解液の比重(20℃換算)を表3に示すように変更したこと以外は実施例C1と同様の方法により鉛蓄電池を作製した。なお、比較例C1では、ビスフェノール系樹脂の代わりに、市販のリグニンスルホン酸ナトリウム(商品名:バニレックスN、日本製紙株式会社製)を用いた。比較例C2では、合成例1のビスフェノール系樹脂を用いて得られた負極板を用い、アルミニウムイオンを含有しない電解液を用い、化成後の電解液の比重は1.280であった。
【0187】
<電池特性の評価>
前記の鉛蓄電池について、充電受入性、放電特性及びサイクル特性を下記のとおり測定した。放電特性及びサイクル特性については、比較例C2の測定結果をそれぞれ100として相対評価した。これらの試験により、定電圧充電時の充電受入性と、PSOC下で使用されたときの耐久性とを評価できる。結果を表3に示す。
【0188】
(充電受入性)
満充電状態の鉛蓄電池に対して、25℃の恒温槽の中で温度を調節しつつ、定電圧充電と定電流放電で構成される所定の充放電パターンを繰り返し、終了時のSOCの値を充電受入性として評価した。以下、充放電の電流パターンを示す
図3に基づき評価方法を更に説明する。
図3の縦軸は、鉛蓄電池の電流の挙動を示し、X軸上部が充電電流の挙動を示し、X軸下部が放電電流の挙動を示す。まず、0.6Cでx秒間放電(工程S1。1サイクル目のxは25秒)し、その後5Cで1秒間放電(工程S2)し、次いで0.3Cで35秒間放電(工程S3)した。その後、2.4V(制限電流1.5C)で定電圧充電(工程S4)を12秒間行い、次いで2.5V(制限電流2C)で定電圧充電(工程S5)を14秒間行った。続いて、前記xを表4に示すとおりの数値に替えて前記の充放電パターンを計11回繰り返し、これを1サイクルとした。ISS車における使用を想定したこの充放電パターンを30サイクル繰り返し、30サイクル終了時のSOCの値を充電受入性として評価した。なお、前記Cとは、満充電状態から定格容量を定電流放電するときの電流の大きさを相対的に表したものである。例えば、定格容量を1時間で放電させることができる電流を1Cと表現し、定格容量を2時間で放電させることができる電流を0.5Cと表現する。
【0189】
実施例C2、比較例C1及び比較例C2について、各サイクル終了時のSOCの値を評価した結果を
図4に示す。なお、実施例C1〜C8で得られた鉛蓄電池では、5〜10サイクルまではSOCが低下していくが、それ以降はSOCが上がり、高い充電受入性が発現することが確認された。前記5〜10サイクルまでのSOCが低下していく期間は、初期の状態からある程度の充放電が繰り返されて活物質が充分に活性化されるまでの、言わば、助走期間であると考える。
【0190】
この評価試験では、放電量と充電量の収支が重要となる。満充電の状態から開始される評価において、評価初期の状態は、電池が満充電状態に近く、すなわちSOC(State of charge)が高い状態である。このような評価初期においては、活物質が充分に活性化されていないために、元来、放電量に対して充電量が少なくなる。充電量が不足する状態で評価サイクル数が増えるので、SOCが急激に低下してくる。この評価試験は、充電を充分に行うという観点からみると、厳しい条件を設定している。したがって、活物質が初期の状態を経て充分に活性化された後では、同一サイクル時点におけるSOCがより高い方が、充電受入性がより高いことを意味する。SOCは電流積算法による充放電量収支に基づき、下記式から算出した。なお、満充電状態の電池容量(定格容量)は、満充電状態の電池を0.2Cで放電したときの容量とした。
SOC(%)=100×(満充電状態の電池容量−充放電量収支の積算値)/満充電状態の電池容量
【0191】
(放電特性)
低温高率放電特性の測定を次のように行った。電池温度を−15℃に調整した状態で150A(5C)の定電流放電を行い、電池電圧が1.0Vを下回るまでの放電持続時間を評価した。放電持続時間が長いほど放電特性に優れる電池であると評価される。
【0192】
(サイクル特性)
前記充電受入性の評価で用いた充放電パターンに基づきサイクル試験を行った。サイクル評価中の放電時の電圧が1.25Vを下回ったときを電池の寿命と判定し、その時点でのサイクル回数を評価した。
【0193】
【表3】
*:硫酸アルミニウムを配合しなかったことを意味する。
【0194】
【表4】
【0195】
実施例では、比較例と比較して優れた充電受入性及びサイクル特性が得られることが分かる。比較例C2の充電受入性が89%であるのに対し実施例C1〜C8では93〜95%であり、その差は4〜6%である。充電受入性を1%であっても向上させることが容易でないため、充電受入性を1%向上できる場合であっても大きな優位差である。
【0196】
また、実施例C3及び実施例C5の対比、並びに、実施例C3及び実施例C6の対比によれば、合成例2又は合成例3のビスフェノール系樹脂を用いた場合、合成例1のビスフェノール系樹脂と比較して充電受入性は同等であり、放電特性こそ若干劣るものの、サイクル特性を向上させることができることが分かる。
【0197】
実施例C1〜C4によれば、電解液のアルミニウムイオン濃度が所定範囲である場合において、合成例1のビスフェノール系樹脂を用いることにより、これらの相乗効果により、放電性能低下が抑制されつつ、充電受入性及びサイクル特性が向上することが分かる。
【0198】
実施例C7及び実施例C8では、実施例C1〜C6より放電特性が若干低下するが、実用上は問題ないレベルである。放電特性が若干低下する理由は、電解液の比重が低いことに起因していると考える。
【0199】
実施例C3及び実施例C4の対比から、電解液のアルミニウムイオン濃度を0.10mol/Lから0.12mol/Lに変更した場合、優れた充電受入性及びサイクル特性が得られるものの、アルミニウムイオンの増加に伴い充電受入性及びサイクル特性が更に向上していないことが分かる。これは、アルミニウムイオンが高濃度になると、イオン同士の静電的相互作用の影響が増大し、イオン伝導性の低下、すなわち、充電受入性能の向上が頭打ちになるためであると推測される。したがって、アルミニウムイオンを供給する化合物(例えば硫酸アルミニウム)の配合量に応じた効果を効率よく得る観点では、電解液のアルミニウムイオン濃度には上限を設けることが望ましい。