特許第6202229号(P6202229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202229
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】光学フィルタおよび撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20170914BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20170914BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20170914BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   G02B5/22
   G02B5/26
   G02B5/28
   H01L27/146 D
【請求項の数】19
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2017-513016(P2017-513016)
(86)(22)【出願日】2016年4月21日
(86)【国際出願番号】JP2016062658
(87)【国際公開番号】WO2016171219
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2017年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-88818(P2015-88818)
(32)【優先日】2015年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 好晴
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 麻奈
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔子
(72)【発明者】
【氏名】保高 弘樹
【審査官】 大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−191346(JP,A)
【文献】 特開2014−059550(JP,A)
【文献】 特開2007−183525(JP,A)
【文献】 特開2014−235258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
660〜785nmの波長領域に吸収極大を有する近赤外吸収剤を含み、下記(i−1)の要件を満たす吸収層と、下記(ii−1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と、を有することを特徴とする光学フィルタ。
(i−1)前記吸収極大を示す波長λ(DA_Tmin)より短波長側で620〜670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。
(ii−1)670〜1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し、前記近赤外反射帯域より短波長側で、入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が、前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある。
【請求項2】
前記反射層が、下記(ii−2)の要件を満たす請求項1に記載の光学フィルタ。
(ii−2)前記近赤外反射帯域より短波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Tp50%)と、前記波長λSh(A2_Ts50%)との関係が、0nm<λSh(A2_Tp50%)−λSh(A2_Ts50%)≦20nmである。
【請求項3】
前記吸収層が、下記(i−2)および(i−3)の要件を満たす請求項1または2記載の光学フィルタ。
(i−2)640〜700nmの波長領域に透過率が15%となる波長λSh(DA_T15%)を有し、かつλSh(DA_T50%)<λSh(DA_T15%)<λ(DA_Tmin)である。
(i−3)740〜840nm波長領域に透過率50%となる波長λLo(DA_T50%)と透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し、かつλ(DA_Tmin)<λLo(DA_T15%)<λLo(DA_T50%)である。
【請求項4】
前記吸収層は、370〜405nm波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含むとともに、下記(i−4)の要件を満たし、かつ前記反射層が、下記(ii−3)の要件を満たす請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(i−4)前記吸収極大を示す波長λ(DU_Tmin)より長波長側で400〜420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。
(ii−3)300〜420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し、前記近紫外反射帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が、前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。
【請求項5】
前記吸収層が、下記(i−5)の要件を満たし、前記反射層が、下記(ii−4)の要件を満たす請求項4に記載の光学フィルタ。
(i−5)前記波長λ(DU_Tmin)より短波長側に透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有する。
(ii−4)前記近紫外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λLo(U1_Tp50%)が、前記波長λSh(DU_T50%)より長波長側にある。
【請求項6】
前記反射層は、700〜1200nmの波長領域内の第1の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第1の近赤外反射帯域を有する第1の反射層と、700〜1200nmの波長領域内の前記第1の波長領域より短波長側の第2の波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる第2の近赤外反射帯域を有する第2の反射層を有し、前記第1の近赤外反射帯域と前記第2の近赤外反射帯域で前記近赤外反射帯域が構成される請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記第1の反射層と前記第2の反射層とを離間して備える請求項6に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記吸収層が740〜840nm波長領域に透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)を有し、前記波長λLo(DA_T15%)が、前記第2の近赤外反射帯域の短波長側で、入射角0°で入射する光の透過率が15%となる波長λSh(A2_T15%)より、長波長側にある請求項6または7に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記第1の近赤外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が、波長1150nmより長波長である請求項6〜8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
660〜785nmの波長領域に吸収極大を有する第1の近赤外吸収剤と、800〜920nmの波長領域に吸収極大を有する第2の近赤外吸収剤とを含み、下記(I−1)の要件を満たす吸収層と、下記(II−1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と、を有することを特徴とする光学フィルタ。
(I−1)前記第1の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DA_Tmin)より短波長側で620〜670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し、前記第2の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DB_Tmin)より長波長側で900〜970nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し、λSh(DA_T50%)<λ(DA_Tmin)<λ(DB_Tmin)<λLo(DB_T50%)である。
(II−1)670〜1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し、前記近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と、前記波長λ(DB_Tmin)と、前記波長λLo(DB_T50%)との関係が、
λ(DB_Tmin)<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%)
であり、かつ前記近赤外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が、波長1150nmより長波長である。
【請求項11】
前記吸収層は、370〜405nm波長領域に吸収極大を有する近紫外吸収剤を含むとともに、下記(I−2)の要件を満たし、かつ前記反射層が、下記(II−2)の要件を満たす請求項10に記載の光学フィルタ。
(I−2)前記吸収極大を示す波長λ(DU_Tmin)より長波長側で400〜420nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有する。
(II−2)300〜420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外反射帯域を有し、前記近紫外反射帯域より長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が、前記波長λLo(DU_T50%)より短波長側にある。
【請求項12】
前記吸収層が、下記(I−3)の要件を満たし、前記反射層が、下記(II−3)の要件を満たす請求項11に記載の光学フィルタ。
(I−3)前記波長λ(DU_Tmin)より短波長側に透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有する。
(II−3)前記近紫外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が50%となる波長λLo(U1_Tp50%)が、前記波長λSh(DU_T50%)より長波長側にある。
【請求項13】
前記反射層において、前記近赤外反射帯域の短波長側で、入射角0°で入射する光の透過率が15%となる波長λSh(A1_T15%)より、前記吸収層において、前記波長λ(DB_Tmin)より長波長側で、透過率が15%となる波長λLo(DB_T15%)が、長波長側にある請求項10〜12のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項14】
680〜750nmの波長領域で、入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr680−750)およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr680−750)がいずれも1.3%以下である請求項1〜13のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項15】
1000〜1150nmの波長領域で、入射角0°と30°におけるp偏光における透過率差の平均値ΔTp(Avr1000−1150)およびs偏光における透過率差の平均値ΔTs(Avr1000−1150)がいずれも10%以下である請求項1〜14のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項16】
下記要件(1)〜(3)の少なくとも1つを満たす請求項1〜15のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(1)入射角0°の分光透過率曲線において、440〜600nmの波長領域における平均透過率が80%以上である。
(2)入射角0°の分光透過率曲線において、350〜400nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。
(3)入射角0°の分光透過率曲線において、700〜1150nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。
【請求項17】
前記吸収層および前記反射層が、ガラス基板の片面または両面に備えられた請求項1〜16のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項18】
前記ガラス基板が、Cuを含有するフツリン酸塩系ガラスまたはリン酸塩系ガラスからなる請求項17に記載の光学フィルタ。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の光学フィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
可視光を透過し、近赤外光を遮断する光学フィルタ、および該光学フィルタを備えた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ等に搭載されるCCDやCMOSイメージセンサ等の固体撮像素子を用いた撮像装置では、色調を良好に再現し、かつ鮮明な画像を得るために、可視光を透過し、近赤外光を遮蔽する光学フィルタ(近赤外カットフィルタ)が用いられている。
かかる光学フィルタにおいて、とくに、良好な色調再現性を得るためには、可視光を透過させるとともに、紫外光および近赤外光を遮断する分光透過率曲線を示すことが求められる。
従来、このような光学フィルタとして、近赤外吸収色素を含有する(光)吸収層と、紫外波長領域および赤外波長領域の光を遮断する誘電体多層膜からなる(光)反射層とを備えたものが知られている。これは、誘電体多層膜そのものが、入射する光の角度によって分光透過率曲線が変化(シフト)する。そのため、このような光学フィルタは、その変化を解消するように、透過率の入射角依存性が極めて小さい近赤外吸収色素を含有する吸収層の吸収波長領域を重ねて、光の入射角の依存性を抑制し色再現性に優れる分光透過率曲線を得ようとしたものである(例えば、特許文献1〜3等参照)。
【0003】
しかし、誘電体多層膜は、入射する光の角度が大きくなるにしたがい、偏光成分によっても光学特性に差が出てくる。すなわち、s偏光成分とp偏光成分の分光透過率曲線が異なってくる。上記の特許文献は、斜入射(例えば、30°)光に対する分光透過率曲線を示し、垂直入射(0°)光の分光透過率曲線との差分が小さくなることを開示しているが、偏光成分に関する具体的な記載はない。そして、特定の偏光成分(s偏光成分またはp偏光成分)に着目したとき、従来の光学フィルタは、シフト量が大きくなり、入射する光の偏光成分に起因した斜入射による分光透過率曲線のシフトが十分に解消されていなかった。ここでいうシフト(量)とは、とくに分光透過率曲線のうち、透過率の立ち上がりや立ち下がりに見られる波長の変化(量)に相当する。
【0004】
このため、従来の光学フィルタは、偏光成分による入射角依存性が発生するという問題があった。とくに、光学フィルタは、可視域と近赤外域の境界の700nm付近で透過から遮断に遷移する領域において、光の入射角依存性と偏光依存性が大きくなると、固体撮像素子での高精度な色再現性が得られない。さらに、光学フィルタは、固体撮像素子の感度の最長波長となる1150nm付近において、偏光依存性のために透過率が高まると、固体撮像素子が本来感知すべきではない波長の光量(ノイズ)を感知することで高精度な色再現性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−190553号公報
【特許文献2】特開2014−052482号公報
【特許文献3】国際公開第2014/002864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、斜入射時における偏光依存性が抑制された光学フィルタ、とくに、可視域と近赤外域の境界の700nm付近で透過から遮断に遷移する領域の偏光依存性が抑制された光学フィルタ、さらに、固体撮像素子の感度の最長波長となる1150nm付近において、偏光依存性による透過率の増大が抑制された光学フィルタ、および該光学フィルタを備えた撮像画像の色再現性に優れる撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る光学フィルタは、660〜785nmの波長領域に吸収極大を有する第1の近赤外吸収剤を含み、下記(i−1)の要件を満たす吸収層と、下記(ii−1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と、を有することを特徴とする。
(i−1)前記吸収極大を示す波長λ(DA_Tmin)より短波長側で620〜670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。
(ii−1)670〜1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し、前記近赤外反射帯域より短波長側で、入射角30°で入射する光のうちs偏光成分の光の透過率が50%となる波長λSh(A2_Ts50%)が、前記波長λSh(DA_T50%)より長波長側にある。
【0008】
また、本発明の他の態様に係る光学フィルタは、660〜785nmの波長領域に吸収極大を有する第1の近赤外吸収剤と、800〜920nmの波長領域に吸収極大を有する第2の近赤外吸収剤とを含み、下記(I−1)の要件を満たす吸収層と、下記(II−1)の要件を満たす誘電体多層膜からなる反射層と、を有することを特徴とする光学フィルタ。
(I−1)前記第1の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DA_Tmin)より短波長側で620〜670nmの波長領域に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有し、前記第2の近赤外吸収剤が吸収極大を示す波長λ(DB_Tmin)より長波長側で900〜970nmの波長領域に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し、λSh(DA_T50%)<λ(DA_Tmin)<λ(DB_Tmin)<λLo(DB_T50%)である。
(II−1)670〜1200nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有し、前記近赤外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる波長λSh(A1_T50%)と、前記波長λ(DB_Tmin)と、前記波長λLo(DB_T50%)との関係が、
λ(DB_Tmin)<λSh(A1_T50%)<λLo(DB_T50%)
であり、かつ前記近赤外反射帯域の長波長側で、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が、波長1150nmより長波長である。
【0009】
本発明のさらに他の態様に係る撮像装置は、上記いずれかの光学フィルタを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、斜入射時における偏光依存性が抑制された光学フィルタ、とくに、可視域と近赤外域の境界の700nm付近で透過から遮断に遷移する領域における偏光依存性による透過率の変化が抑制され、固体撮像素子の感度の最長波長となる1150nm付近における偏光依存性による透過率の増大が抑制された光学フィルタが得られる。また、そのような光学フィルタを用いた色再現性に優れる撮像装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】第1の実施形態の光学フィルタの一例を示す断面図である。
図1B】第1の実施形態の光学フィルタの他の例を示す断面図である。
図1C】第1の実施形態の光学フィルタの他の例を示す断面図である。
図1D】第1の実施形態の光学フィルタの他の例を示す断面図である。
図2】UV吸収剤(DU)と第1のNIR吸収剤(DA)を含む吸収層の分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図3A】高屈折率n=2.35、低屈折率n=1.45の誘電体膜を交互に屈折率n=1.5の透明基板上に、光学膜厚が波長λに対してλ/4となるよう21層積層した場合の分光透過率の計算結果で、波長λに対して横軸をg=λ/λとして表記したグラフである。
図3B図3Aに示す計算結果において、横軸を波長λで表記したグラフである。
図4】表2に示す誘電体多層膜からなる反射層の分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図5】表3に示す誘電体多層膜からなる反射層の分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図6】透明基板の片面に表2に示す誘電体多層膜からなる反射層を、他方の面に表3に示す誘電体多層膜からなる反射層を形成した、反射型フィルタの分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図7】透明基板の片面に表2に示す誘電体多層膜からなる反射層と、表3に示す誘電体多層膜からなる反射層を一体に形成した、反射型フィルタの分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図8A】第2の実施形態の光学フィルタの一例を示す断面図である。
図8B】第2の実施形態の光学フィルタの他の例を示す断面図である。
図8C】第2の実施形態の光学フィルタの他の例を示す断面図である。
図9】UV吸収剤(DU)と第1のNIR吸収剤(DA)と第2のNIR吸収剤(DB)を含む吸収層の分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図10】本発明の撮像装置の一例を概略的に示す断面図である。
図11】実施例1の光学フィルタの分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図12】実施例2の光学フィルタの分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図13A】実施例1の光学フィルタの680〜760nmの波長領域における分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図13B】比較例1の光学フィルタの680〜760nmの波長領域における分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図14A】実施例1の光学フィルタの1000〜1250nmの波長領域における分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図14B】比較例2の光学フィルタの1000〜1250nmの波長領域における分光透過率の計算結果を示すグラフである。
図15】実施例3の光学フィルタの分光透過率の計算結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
本実施形態の光学フィルタ(以下、第1の実施形態の説明中、「本フィルタ」ともいう)は、吸収層および反射層を有し、該反射層は誘電体多層膜からなる。
【0014】
吸収層は、本フィルタの中に1層有してもよく、2層以上有してもよい。2層以上有する場合、各層は同じ構成であっても異なってもよい。一例を挙げれば、一方の層を、後述するような近赤外吸収剤(以下、「NIR吸収剤」と略記することもある)を含む樹脂からなる近赤外吸収層とし、もう一方の層を、後述するような近紫外吸収剤(以下、「UV吸収剤」と略記することもある)を含む樹脂からなる近紫外吸収層としてもよい。また、吸収層は、それ自体が基板(樹脂基板)として機能するものであってもよい。
【0015】
誘電体多層膜からなる反射層は、吸収層と同様、1層有してもよく、2層以上有してもよい。2層以上有する場合、各反射層は同じ構成であっても異なってもよいが、通常、反射帯域の異なる複数の反射層で構成される。これら各反射層を構成する各誘電体多層膜中の各膜の光学膜厚の平均値は、反射帯域に応じて異なる。一例を挙げれば、一方の反射層を、近赤外域(700〜1200nm)の短波長側領域の光を遮蔽する近赤外反射層とし、もう一方の反射層を、近赤外域の長波長側領域および近紫外域の両領域の光を遮蔽する近赤外・近紫外反射層としてもよい。
【0016】
本フィルタは、透明基板をさらに有してもよい。この場合、上記吸収層と上記反射層は、透明基板の同一主面上に有してもよく、異なる主面上に有してもよい。吸収層と反射層を同一主面上に有する場合、これらの積層順はとくに限定されない。
【0017】
本フィルタは、また他の機能層を有してもよい。他の機能層としては、例えば可視域の透過率損失を抑制する反射防止層が挙げられる。とくに、吸収層が最表面の構成をとる場合には、吸収層と空気との界面で反射による可視光透過率損失が発生するため、吸収層上に反射防止層を設けることが好ましい。なお、その場合、反射防止層は、吸収層の最表面だけでなく、吸収層の側面全体も覆う構成としてもよい。側面全体も覆うことで、吸収層の防湿効果を高めることができる。
【0018】
以下、本フィルタの構成例を、図面を用いて説明する。
【0019】
図1Aは、吸収層11の両主面上にそれぞれ第1の反射層12aおよび第2の反射層12bを備えた光学フィルタ10の構成例である。
図1Bは、吸収層11の一方の主面上に第1の反射層12aおよび第2の反射層12bを備えた光学フィルタ20の構成例である。
なお、「吸収層11の一方の主面上に、第1の反射層12a等の他の層を備える」とは、吸収層11に接触して他の層が備わる場合に限らず、吸収層11と他の層との間に、別の機能層が備わっている場合も含むものとする。以下の構成も同様である。ここで、光学フィルタ10、光学フィルタ20における吸収層11は、この場合、透明基板としての機能を併せ持ってもよい。
図1Cは、透明基板13の両主面上にそれぞれ第1の反射層12aおよび第2の反射層12bを備え、第2の反射層12b上に吸収層11および反射防止層14を順に備えた光学フィルタ30の構成例である。
図1Dは、透明基板13の一方の主面上に第1の反射層12aおよび第2の反射層12bを備え、透明基板13の他方の主面上に吸収層11および反射防止層14を備えた光学フィルタ40の構成例である。
図1A図1Dは、いずれも2層の構成の異なる反射層が設けられている例である。前述のように、例えば、第1の反射層12aが上述した近赤外域の長波長側領域および近紫外域の光を遮蔽する近赤外・近紫外反射層で、第2の反射層12bが上述した近赤外域の短波長側領域を遮蔽する近赤外反射層であってよい。第1の反射層12aと第2の反射層12bの位置は特に限定されない。
【0020】
本フィルタは、下記要件(1)〜(3)の少なくとも1つを満たすことが好ましく、少なくとも2つを満たすことがより好ましい。下記(1)〜(3)の要件すべてを満たすことがより一層好ましい。
【0021】
(1)入射角0°の分光透過率曲線において、440〜600nmの波長領域における平均透過率が80%以上である。
(2)入射角0°の分光透過率曲線において、350〜400nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。
(3)入射角0°の分光透過率曲線において、700〜1150nmの波長領域の平均透過率が5%以下である。
上記(1)において、平均透過率は90%以上が好ましい。また、上記(2)において、平均透過率は3%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。さらに、上記(3)において、平均透過率は3%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0022】
また、入射角0°の分光透過率曲線における、440〜600nmの波長領域における透過率は、60%以上であればよく、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。また、入射角0°の分光透過率曲線における、350〜400nmの波長領域の透過率は、10%以下であればよく、5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。さらに、入射角0°の分光透過率曲線における、700〜1150nmの波長領域の透過率は、10%以下であればよく、5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0023】
次に、本フィルタを構成する、吸収層、反射層、透明基板および反射防止層について説明する。
【0024】
<吸収層>
吸収層は、NIR吸収剤(DA)と、透明樹脂(B)とを含有する層であり、典型的には、透明樹脂(B)中にNIR吸収剤(DA)が均一に溶解または分散した層である。なお、吸収層は、NIR吸収剤(DA)以外の吸収剤、例えば、UV吸収剤(DU)を含有してもよい。また、第2の実施形態で説明するNIR吸収剤(DB)を含有してもよい(以下、NIR吸収剤(DA)を「第1のNIR吸収剤(DA)」、NIR吸収剤(DB)を「第2のNIR吸収剤(DB)」ともいう)。
NIR吸収剤(DA)を含む吸収層の光学的性質は、屈折率nと消衰係数κを用いた複素屈折率n−iκで表され、吸収剤固有の消衰係数κの波長(λ)依存性に応じた光吸収にともない分光透過率が変化する。吸収剤が透明樹脂中に厚さ方向に均一に分散された吸収層の厚さをdとすると、吸収層の分光透過率T(λ)は、T(λ)=exp(−4πκd/λ)で記述される。ここで、α=4πκ/λは吸収係数であり、常用対数を用いて透過率を表記する場合はT(λ)=10−βdとなり、吸収係数βはαにlog10(e)=0.434を乗じた値に相当する。このとき、吸光度Aは−log10{T(λ)}=βdと記載される。吸収係数αおよびβは吸収層中の吸収剤濃度により変化する。すなわち、吸収層の分光透過率は吸収層中の吸収剤濃度および吸収層の厚さdを変えることにより調整できる。
【0025】
本実施形態においては、600〜700nmの波長領域の分光感度を人間の眼の分光感度に相当する比視感度の等色関数に近似させるとともに、700〜1150nmの近赤外光を遮断し、440〜600nmの可視光が高透過率となるように、吸収層を設計することが望まれる。
【0026】
しかし、消衰係数κの波長依存性は吸収剤に固有な特性であり、可視域で高透過率を維持し、広い近赤外域を吸収により十分に遮断することは一般に難しい。そのため、本フィルタは、600〜700nmの波長領域の分光透過率曲線を等色関数に近似させるとともに、700nm以上の近赤外域のうち短波長側の領域をNIR吸収剤により遮断し、NIR吸収剤により遮断できない近赤外域の長波長側の領域を後述する反射層により遮断する構成とする。
【0027】
したがって、本実施形態の光学フィルタにおける吸収層は、NIR吸収剤を透明樹脂(B)に溶解または分散して作製した樹脂膜の350〜1200nmの吸収スペクトルにおいて、660〜785nmの波長領域に吸収極大波長λ(DA_Tmin)を有するNIR吸収剤(DA)を用いる。また、吸収層は、吸収極大波長λ(DA_Tmin)より短波長側で620〜670nmの波長領域内に透過率50%となる波長λSh(DA_T50%)を有するようにNIR吸収剤(DA)の濃度と厚さdを設定する。さらに好ましくは、吸収層は、吸収極大波長λ(DA_Tmin)より短波長側で640〜700nmの波長領域内に透過率15%となる波長λSh(DA_T15%)を有し、λ(DA_Tmin)より長波長側で740〜840nmの波長領域内に透過率15%となる波長λLo(DA_T15%)と透過率50%となる波長λLo(DA_T50%)(ただし、λLo(DA_T15%)<λLo(DA_T50%))を有し、入射角0°の分光透過率曲線において440〜600nm波長領域の平均透過率が80%以上となるように、NIR吸収剤(DA)の濃度と厚さdを設定する。
【0028】
ここで、本フィルタが、RGBカラーフィルタ付き固体撮像素子におけるRedの色再現性を重視した撮像装置用の光学フィルタの場合、吸収層は、600〜700nm波長領域の分光感度が等色関数x(λ)に近似されるようにNIR吸収剤(DA)を選択し、かつ吸収層中の濃度と厚さdの調整を行うことが好ましい。また、固体撮像素子の感度を重視する撮像装置用の光学フィルタの場合、600〜700nmの波長領域がより高透過率で700nm以上の波長は吸収する急峻な分光透過率を示すNIR吸収剤(DA)の選択が好ましい。
【0029】
単一化合物のNIR吸収剤(DA)は、近赤外域の吸収特性として特定の波長領域に高い吸収を有し、可視域で吸収が小さく、さらに吸収極大波長λ(DA_Tmin)より長波長側で透過率が増加(吸収が低下)するものが多い。そのため、単一化合物からなるNIR吸収剤(DA)は、広い波長領域の入射光を十分に吸収することは難しい。しかし、本実施形態の光学フィルタは、前述の第1の反射層と第2の反射層のような複数の反射層を備えることで、広い波長領域の入射光を遮断できる。なお、吸収層は、吸収極大波長が異なる複数の化合物を用いて吸収波長領域を拡大する構成でもよい。ただし、吸収層が、複数のNIR吸収剤を含有し、可視域におけるNIR吸収剤固有の残留吸収を有すると、可視域の透過率を低下させる場合があるため、これらを考慮してNIR吸収剤を選択し、さらに、吸収層中の濃度および吸収層の厚さも考慮する。
【0030】
本実施形態の光学フィルタに好適なNIR吸収剤(DA)の具体例としては、KODAK社のIRDシリーズの05、22、57、67等、Epolin社のEpolightTMシリーズの5548、5768、6084等、QCR Solutions社のNIRシリーズの757A、762A、775B、778A、783C等、Exciton社のABS694、ABS691等、H.W.Sands社のSDAシリーズの1372、3517、4231、4653、5027、5966、6390、6396、7251、8064およびSDB3410等(以上、商品名)が挙げられる。これらはいずれも、前述した吸収スペクトルにおいて、660〜785nmの波長領域に吸収極大波長λ(DA_Tmin)を有するとともに、440〜600nmの可視域の光吸収がほとんどないことから、本実施形態のNIR吸収剤(DA)として好適である。
【0031】
また、下記一般式(A1)で示されるスクアリリウム系化合物も、本実施形態のNIR吸収剤(DA)として好適である。
【0032】
【化1】
【0033】
式(A1)中の記号は以下のとおりである。
Xは、独立して1つ以上の水素原子が炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい下記式(1)または式(2)で示される2価の有機基である。
−(CHn1− …(1)
式(1)中n1は、2または3である。
−(CHn2−O−(CHn3− …(2)
式(2)中、n2とn3はそれぞれ独立して0〜2の整数であり、n2+n3は1または2である。
は、独立して飽和環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜12の飽和もしくは不飽和炭化水素基、炭素数3〜12の飽和環状炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基または炭素数7〜13のアルアリール基を示す。
およびRは、独立して水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
は、独立して1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい、少なくとも1以上の分岐を有する炭素数5〜25の炭化水素基である。
【0034】
上記一般式(A1)で表される化合物は、可視域と近赤外域との境界付近の吸収スペクトルにおける傾斜が急峻であり、かつ近赤外光に対する遮蔽能も高い。そのため、吸収層は、該化合物を少量添加しても優れた吸収特性を有し、光学フィルタの薄型化および小型化が図れる。さらに、上記一般式(A1)で表される化合物は、耐熱性に優れるため、熱プロセス中の分光透過率の変化も抑制できる。
【0035】
また、400〜450nmの可視域における固体撮像素子の分光感度は、固体撮像素子のBlue用画素に形成されたBlueカラーフィルタにより比視感度の等色関数z(λ)に近似される。そして、人間の眼に感度がない350〜400nmの近紫外光の一部も、Blueカラーフィルタを透過し固体撮像素子で検知され、高精度な色再現性の妨げになる場合がある。したがって、吸収層は、350〜400nmの近紫外光を遮断し、420nm以上の可視域で高透過率となるように、前述した吸収スペクトルにおいて、370〜405nmの波長領域に吸収極大波長λ(DU_Tmin)を有するUV吸収剤(DU)を含むことが好ましい。
さらに、吸収層は、上記吸収極大波長λ(DU_Tmin)より長波長側で400〜420nmの波長領域内に透過率50%となる波長λLo(DU_T50%)を有し、入射角0°の分光透過率曲線、すなわち、UV吸収剤(DU)のみを含む吸収層の主面に垂直に入射する光の分光透過率曲線において、440〜620nmの波長帯域の平均透過率が90%以上、好ましくは95%以上となるように、UV吸収剤(DU)の種類、UV吸収剤(DU)の(吸収層中の)濃度、および厚さdを設定することが好ましい。
【0036】
なお、UV吸収剤(DU)を含む吸収層は、370〜440nmの波長領域における最小透過率波長と最大透過率波長の間隔が狭い、すなわち透過率の変化が急峻であるほど、可視光の損失が減少し好ましい。しかし、このような急峻な変化を得るためには、UV吸収剤(DU)の濃度を増加させる必要があり、その場合、可視域におけるUV吸収剤(DU)固有の残留吸収を有すると、可視光の透過率が低下する場合がある。したがって、そのようなUV吸収剤を用いる場合、吸収層は、440〜620nmの波長領域の平均透過率が上記範囲になるように、UV吸収剤(DU)の種類、UV吸収剤(DU)の(吸収層中の)濃度、および厚さdを設定することが好ましい。
【0037】
本実施形態の光学フィルタに好適なUV吸収剤(DU)の具体例としては、H.W.Sands社のSDA3382およびMSA3144、QCR Solutions社のUV386AおよびUV386BやUV386A、Chiba社のTINUVIN479(以上、商品名)、メロシアニン系色素、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、オキザニリド系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらはいずれも、前述した吸収スペクトルにおいて、370〜405nmの波長領域に吸収極大波長λ(DU_Tmin)を有するとともに、440〜700nmの可視域の光吸収がほとんどなく、かつ390〜420nmの波長領域で比較的急峻な透過率変化が得られることから、本フィルタのUV吸収剤(DU)として好適である。
【0038】
UV吸収剤として、例えば、上記SDA3382を用いた場合、吸収極大波長λ(DU_Tmin)は387nmである。そして、該UV吸収剤の濃度を調整することにより、吸収極大波長λ(DU_Tmin)より長波長側で透過率15%となる波長λLo(DU_T15%)を394nm、透過率50%となる波長λLo(DU_T50%)を402nm、透過率70%となる波長λLo(DU_T70%)を407nmに設定できる。
【0039】
図2は、NIR吸収剤(DA)として吸収極大波長λ(DA_Tmin)が775nmのNIR775Bを用い、UV吸収剤(DU)として前述のSDA3382を用い、これらの吸収層中の濃度および厚さdを調整して算出した吸収層の分光透過率曲線の一例である。図2は、吸収層と空気との一つの界面で発生する略4%程度のフレネル反射損失は考慮しておらず、分光透過率は吸収層の内部透過率に相当する。言い換えると図2は、吸収層の界面に所定の反射防止層を備える場合における分光透過率曲線に相当する。
【0040】
図2のとおり、例示した吸収層は、近紫外域の363〜393nmの透過率が10%以下、可視域の404nmと633nmで透過率が略50%で、410〜630nm波長領域の平均透過率が略85%、近赤外域の700〜800nmの透過率が略5%以下の分光透過率を示す。
【0041】
図2に示した吸収層の分光透過率曲線は、入射光の入射角依存性がほとんどない。したがって、上記吸収層を備えることにより、可視域と近紫外域との境界領域、および可視域と近赤外域との境界領域において、発散および集束する入射光に対しても安定した分光透過率曲線が得られる。
【0042】
また、吸収層は、少なくともNIR吸収剤(DA)と透明樹脂(B)を含有する。透明樹脂(B)としては、種々の樹脂材料を使用できる。例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、およびポリエステル樹脂等が挙げられる。透明樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0043】
上記の中でも、透明性、NIR吸収剤(DA)やUV吸収剤(DU)等の透明樹脂(B)に対する溶解性、および耐熱性の観点から、透明樹脂は、ガラス転移点(Tg)の高い樹脂が好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、およびエポキシ樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。さらに、透明樹脂は、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂から選ばれる1種以上がより好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等が好ましい。
【0044】
吸収層中の吸収剤の全量に対するNIR吸収剤(DA)およびUV吸収剤(DU)の割合は、3〜100質量%が好ましい。また、透明樹脂(B)100質量部に対し、NIR吸収剤(DA)およびUV吸収剤(DU)は、合計で0.01〜20質量部が好ましく、0.05〜15質量部がより好ましく、1〜10質量部がより一層好ましい。
【0045】
<反射層>
本実施形態の光学フィルタは、上記NIR吸収剤(DA)、あるいは上記NIR吸収剤(DA)およびUV吸収剤(DU)を含有する吸収層のみが波長選択的な光遮断性を有する構成の場合、RGBカラーフィルタ付き固体撮像素子が感度を有する350〜1150nmの波長領域の入射光のうち、略350〜390nmの近紫外域、および略800〜1150nmの近赤外域の入射光の遮断性が不十分である。したがって、本フィルタは、さらに、低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜とを交互に積層した誘電体多層膜からなる反射層を備える。本フィルタは、反射層を備えることで、不要な波長の光の遮断性を向上させ、RGBカラーフィルタ付き固体撮像素子は略400〜700nmの可視域内の光のみを検知できるようになる。なお、以下、高屈折率の誘電体膜は、「高屈折率膜」ともいい、低高屈折率の誘電体膜は、「低屈折率膜」ともいう。
【0046】
反射層は、吸収層に比べると、斜入射する光に対し入射角に依存して分光透過率曲線が変化する、入射角依存性が大きい。そのため、反射層および吸収層を含む本フィルタの入射角依存性は、反射層の入射角依存性によって支配的に表れる傾向がある。また、反射層は、入射する光の角度が大きくなるにしたがい、偏光成分による分光透過率曲線の相違が生ずる、偏光依存性もある。したがって、本フィルタは、これらの入射角依存性や偏光依存性が、撮像装置のカラー画像の色再現性に影響することなく、吸収層による可視域の分光透過率曲線をできるだけ維持するとともに、不要な波長の光の遮断性を向上させるように設計する。
【0047】
前述のように反射層は、高屈折率膜(屈折率:n)と低屈折率膜(屈折率:n)とを、それぞれ入射光の波長と同程度以下の膜厚dおよびdで交互に積層した誘電体多層膜からなる。該反射層は、垂直入射(入射角θ=0°)における波長λの反射率R(λ)が最大となる条件は、誘電体膜界面で生じるフレネル反射が光干渉により強め合う構成である。具体的には、各誘電体膜の光学膜厚(屈折率n×膜厚d)がλ×(2m−1)/4となる構成を有する。ここで、mは自然数で、m=1のとき光学膜厚は最小値λ/4となる。
反射層は、使用する誘電体材料が使用波長領域で透明な場合、反射光以外の入射光は透過するため、波長λの透過率T(λ)=1−R(λ)が最小透過率となる。
【0048】
また、誘電体膜界面のフレネル反射率は(n−n/(n+nで表記され、屈折率差(n−n)が大きく、平均屈折率(n+n)/2が小さな2種の誘電体材料の組み合わせにより、反射波長帯域の反射率は増す。同じ理由で、可視域で透明な光学ガラスや光学樹脂等からなる透明基板の屈折率nは、一般に1.4〜1.6程度のため、透明基板界面の誘電体膜および屈折率n=1の空気界面の誘電体膜には屈折率nより大きな屈折率nの高屈折率誘電体を用いて層数を(2p+1)とすることで、少ない層数で高い反射率が得られ好ましい。ここで、pは自然数である。
このとき、波長λの反射率R(λ)は次式(1)で記載される。
【数1】
すなわち、多層膜の層数(2p+1)が多い程、反射率R(λ)は増加する。
また、g=λ/λと定義すると、最大反射波長はgが奇数となるλ=λ/(2m−1)で、最大反射波長を中心に反射率50%以上の反射帯域幅Δgは式(2)で記載される。なお、反射帯域全幅は2×Δgに相当する。
【数2】
すなわち、屈折率比n/nが大きい程、少ない層数で広い反射帯域幅Δgが得られるとともに、同じ層数で比較するとより低い透過率が得られる。したがって、屈折率比n/nが大きな誘電体材料の組み合わせが遮光性の高い反射層として有効である。
なお、本明細書において、単に「反射帯域」または「反射帯域幅」というときは、とくに断らない限り、反射率50%以上(つまり、透過率50%以下)の反射帯域または反射帯域幅を意味する。
【0049】
図3Aは、屈折率n=1.5の透明基板上に、n=2.35、n=1.45の誘電体膜を交互に光学膜厚n×dおよびn×dがλ=1100nmに対してλ/4となるよう21層積層した場合の分光透過率の計算結果である。ここでは、横軸の波長をg=λ/λで記す。g=1(λ=λ)とg=3(λ=λ/3)で最大反射率(すなわち、最小透過率)となり、反射帯域幅Δg=0.152が得られる。
なお、本明細書において、透明基板や吸収層について屈折率を記載するときは、とくに断らない限り、20℃における波長589nmの光に対する屈折率をいう。
図3Bは、横軸を波長λで表記したグラフで同じ計算結果である。この例では、近赤外域の波長λ=1100nm周辺の略950〜1320nmの波長領域で反射率50%以上の反射帯域が形成され、近紫外域の波長λ=λ/3=367nm周辺の略340〜390nmの波長領域で反射率50%以上の反射帯域が形成される。
上記計算は、波長の変化に対する屈折率を一定と仮定しているが、実際の誘電体材料の屈折率は材料固有の波長依存性(分散)を有し、短波長ほど高屈折率となり光学膜厚がその分増加する。そのため、g=3の波長がλ/3であるg=3±Δgの反射帯域は、g=1の波長がλであるg=1±Δgの反射帯域に近づくよう長波長側にシフトする。
【0050】
ここで、反射層を構成する誘電体多層膜が、近赤外域の波長λに対し光学膜厚がλ/4となるよう、高屈折率膜と低屈折率膜を交互に積層した設計を考える。このとき該設計が、近赤外域の波長λの周辺および近紫外域の波長λ/3の周辺に生成される反射帯域を利用することにより、400nm以下および700nm以上の波長領域において、UV吸収剤(DU)、NIR吸収剤(DA)では十分吸収できない波長領域の透過光を遮断できる。
具体的に該設計は、g=1(反射極大波長λ=λ)の反射帯域を遮断したい近赤外域に、g=3(反射極大波長λ=λ/3)の反射帯域を遮断したい近紫外域になる誘電体多層膜の構成とすることで、層数を少なく、かつ、総膜厚を薄くできる。このような設計は、後述する第1の反射層(UA1)により実現できる。これにより、吸収剤による材料固有の吸収では十分遮断できない不要な波長領域の光を有効に遮断できる光学フィルタが得られる。
【0051】
本フィルタの反射層は、NIR吸収剤(DA)のみ、もしくは、UV吸収剤(DU)およびNIR吸収剤(DA)のみ、を含む吸収層では遮断できない略800〜1150nmの近赤外域の光を遮断するため、以下の設計を取り入れる必要がある。すなわち、反射層は、単一波長λの光学膜厚λ/4からなる誘電体多層膜で生成される反射作用により遮断するため、反射率50%以上(透過率50%以下)となる反射帯域幅ΔλNIRは350nm以上が必要となる。また、反射層を構成する誘電体多層膜は、入射角30°までの斜入射にともなう反射波長帯域の短波長側へのシフトを考慮すると、0°入射における反射帯域幅ΔλNIRは略400nm以上が好ましい。
【0052】
誘電体多層膜は、例えば、屈折率n=1.50の透明基板上に屈折率n・n・・・n・nの順に光学膜厚λ/4(λ=1000nm)で積層した構成を考える。このとき、該誘電体多層膜は、近紫外域および近赤外域の分光透過率をnとnの数値および層数を変えて計算した結果、400nm以上の反射帯域幅ΔλNIRを得るために、「屈折率比n/n>1.7」を満足する誘電体材料の組み合わせに限定される。一方で、該誘電体多層膜が「屈折率比n/n≦1.7」の組み合わせから構成される場合、層数を増やしても反射帯域幅ΔλNIRの拡大および99%以上の反射率(すなわち、透過率1%以下の遮断能)は得られない。なお、ΔλNIRは、本フィルタにおける反射層の近赤外域における反射帯域幅を意味する。
【0053】
したがって、誘電体多層膜が「屈折率比n/n≦1.7」であって、比較的大きい実用的な高/低屈折率誘電体材料を用いる場合、下記の構成としてもよい。すなわち反射層は、反射帯域の最大反射波長λが異なる2種の光学膜厚λ/4の誘電体多層膜からなる構成とする。そして、それぞれの誘電体多層膜は、例えば、1つの誘電体多層膜により生成される近赤外域の反射帯域幅を略200nmとし、2種の誘電体多層膜で略400nmの反射帯域幅ΔλNIRを確保するように設計してもよい。
具体的には、近赤外域の短波長側である略750〜950nmの反射帯域用の第2の反射層(A2)と、近赤外域の長波長側である略950〜1150nmの反射帯域用の第1の反射層(UA1)の2種の誘電体多層膜を用いる。そして、反射帯域が、NIR吸収剤(DA)の波長λLo(DA_T50%)を含むようにして、近赤外域を反射する構成とする。
【0054】
表1は、上記計算により、近赤外域の波長λ=1000nm近傍で表中の透過率条件を満足する反射帯域幅が200nmとなる屈折率比n/nと誘電体多層膜の層数との関係を示した表である。
【0055】
【表1】
【0056】
表1から明らかなように、1つの誘電体多層膜は、21〜31層と比較的少ない層数でも、200nm以上の帯域で、透過率0.1%以下(反射率99.9%)を実現する反射帯域幅が得られる。すなわち、1つの誘電体多層膜は、屈折率比n/nが1.47以上の高/低屈折率誘電体材料を用いる前提で、屈折率比n/nが大きな程少ない層数で高い遮断性能が得られる。
【0057】
また、1つの誘電体多層膜は、g=3に対応する波長λ/3の近紫外域にも、g=1に対応する波長λの近赤外域と同じ幅Δgの2倍に相当する反射帯域幅ΔλNUVを有する。なお、ΔλNUVは、本フィルタにおける反射層の近紫外域において反射率50%以上(透過率50%以下)となる反射帯域幅を意味する。また、屈折率波長分散を考慮した実際の反射帯域幅ΔλNUVは、屈折率波長分散を考慮しない場合の反射帯域幅に比べて広くなる。
【0058】
反射層に要求される反射帯域の透過率は、RGBカラーフィルタ付き固体撮像素子の分光感度や信号処理回路のノイズを含む映像信号のダイナミックレンジにより異なる。1つの誘電体多層膜が31層以下で透過率0.1%以下の反射帯域を実現する例を挙げると、700〜1200nmの近赤外域における屈折率比n/nが1.47以上で、400〜700nmの波長領域で透明で光学特性が安定な誘電体膜材料として、n≦1.46のSiOとn≧2.15のTiOの組み合わせがある。なお、低屈折率膜は、SiO以外に、NaAl14、NaAlF、MgF等のフッ化物を用いればn≦1.38が得られる。さらに、低屈折率膜は、芯物質(コア)が空孔で殻物質(シェル)がSiOからなる粒径20nm以下のコア・シェル型中空粒子の集合体を含む材料を用いれば、n=1.30レベルが得られる。また、高屈折率膜は、TiO以外にTa、Nb、ZnS、ZnSe等を用いればn≧2.15が得られる。
【0059】
なお、誘電体多層膜は、g=3およびg=1となる反射帯域に対し、g=3とg=1の反射帯域の中間領域のように、g=2mの偶数値となる波長λ=λ/(2m)において、各誘電体膜は光学膜厚λ/4=m×(λ/2)となる。この場合、各誘電体膜界面のフレネル反射が光干渉しない条件となるため、誘電体多層膜がない構成と略同じとなり、透明基板と空気との界面におけるフレネル反射と同じ反射率となる。
また、g=3−Δgからg=1+Δgの波長領域は透過帯域であるが、波長λ=λ/(2m)と異なる波長では各誘電体膜界面で生じるフレネル反射の光干渉強度が波長に応じて変化し、図3Aに示すような周期的な透過率変動(リップル)が表れる。
このような可視透過帯域中のリップルを低減し透過率を向上させるために、誘電体多層膜は、(2p+1)層の誘電体多層膜と透明基板や空気との界面に、光学膜厚がλ/4より薄い誘電体膜を追加した構成が有効である。また、誘電体多層膜は、前述の高/低屈折率誘電体材料以外に、Al、ZrO等の中間屈折率の誘電体材料を用いてもよい。さらに、反射層は、光学膜厚λ/4の設計波長λをシフトした誘電体多層膜に分割した構成や、各誘電体膜の光学膜厚をλ/4から略±10%以下程度変動させた構成とすること等によって、透過率変動の振幅や残留反射を低減できる。
【0060】
本実施形態では上述したように、反射層は2種の反射層、すなわち第1の反射層(UA1)および第2の反射層(A2)を備える構成にできる。以下、この反射層の入射角依存性について説明する。
【0061】
誘電体多層膜からなる反射層は、空気中から入射角θで波長λの光が入射したとき、スネル屈折則により、高屈折率膜(屈折率:n)中および低屈折率膜(屈折率:n)中の入射角θと入射角θは次式で関係付けられる。
sin(θ)=n×sin(θ)=n×sin(θ) …(3)
【0062】
入射光は、入射基板面の法線と入射光方位ベクトルを含む入射面に対し、入射面内に光電場振動を有するp偏光(TM偏光)と入射面に直交する光電場振動を有するs偏光(TE偏光)が定義される。各偏光成分に対する実効屈折率η(p)とη(s)は異なり、nおよびnに対し、それぞれ次式で関係付けられる。なお、η(p)は、高屈折率膜中のp偏光に対する実効屈折率、η(p)は、低屈折率膜中のp偏光に対する実効屈折率を示し、η(s)は、高屈折率膜中のs偏光に対する実効屈折率、η(s)は、低屈折率膜中のs偏光に対する実効屈折率を示す。
η(p)=n/cos(θ)、η(s)=n×cos(θ) …(4a)
η(p)=n/cos(θ)、η(s)=n×cos(θ) …(4b)
また、誘電体膜界面で生じるフレネル反射の干渉に影響する高屈折率および低屈折率の各誘電体膜の光路長位相差δ、δは、斜入射にともない次式のように記載されるため、いずれも減少する。
δ=2π×n×d×cos(θ)/λ …(5a)
δ=2π×n×d×cos(θ)/λ …(5b)
すなわち、入射角0°の光学膜厚n=n=λ/4が、入射角θ(≠0°)では(λ/4)×cos(θ)および(λ/4)×cos(θ)に変化するため、最大反射率の波長λが近似的にλ×{cos(θ)+cos(θ)}/2の短波長側にシフトする。
なお、δは、高屈折率膜の光路長位相差、δは、低屈折率膜の光路長位相差を示す。
【0063】
また、反射率50%以上の反射帯域幅Δgも、入射光の偏光成分、すなわちp偏光とs偏光とで異なる。式(2)において、nの代わりに、式(4a)のη(p)とη(s)、nの代わりに式(4b)のη(p)とη(s)を用いると、屈折率比(n/n)が、p偏光ではcos(θ)/cos(θ)、s偏光ではcos(θ)/cos(θ)を積算した値になる。ここで、n>nのため斜入射時(θ>0°)は式(3)よりθ>θで、cos(θ)<cos(θ)となるため、入射角θの増加にともない(n/n)の値がp偏光では減少し、s偏光では増加する。
したがって、垂直入射(θ=0°)を基準に入射角θの増加にともない、s偏光に対する反射帯域幅Δg(s)は拡大し、p偏光に対する反射帯域幅Δg(p)は縮小する。
また、入射角θに応じて実効屈折率が、式(4a)および式(4b)に記述される偏光依存性を有するため、式(1)に示した最大反射率となる波長λの反射率R(λ)も入射偏光に依存して変化する。そのため反射率R(λ)は、入射角θの増加にともない、s偏光に対して増加し、p偏光に対して減少する。
【0064】
すなわち、近赤外反射帯域幅ΔλNIRにおける透過率50%の波長λShと波長λLo(ただし、λSh<λLo)は、入射角θの増加にともない短波長側にシフトし、そのシフト量は入射偏光(p、s)に応じて異なる。ここで、入射角の増加にともなって波長λShがシフトした最短波長は、最大入射角におけるs偏光の波長λSh(s)に相当する。また、入射角の増加にともなって波長λLoがシフトした最短波長は、最大入射角におけるp偏光の波長λLo(p)に相当する。このように、最大入射角において透過率50%を示す最短波長の偏光成分は、反射帯域の短波長側の領域と長波長側の領域とで対象が異なる。
【0065】
次に、第2の反射層(A2)において、入射角θが0°〜30°まで変化したときの近赤外反射帯域で透過率50%となるp偏光に対する短波長側の波長λSh(A2_Tp50%)および長波長側の波長λLo(A2_Tp50%)と、s偏光に対する短波長側の波長λSh(A2_Ts50%)および長波長側の波長λLo(A2_Ts50%)を計算する。このとき、第2の反射層(A2)は、NIR吸収剤(DA)を含む吸収層における可視域の長波長側の分光透過率曲線が、第2の反射層(A2)における分光透過率の入射角依存性と偏光依存性による光学フィルタ全体の分光透過率曲線の変化が小さくなるように設計する。該設計では、とくに光学フィルタ全体の分光透過率曲線のうち、可視域の長波長側における分光透過率曲線の変化(透過から遮断への遷移)が抑制できるとよい。
一般に、誘電体多層膜からなる反射層において、透過から遮断へ遷移する分光透過率曲線は、入射角θの増加にともない短波長側に変化するシフト量が増すとともに、s偏光成分がp偏光成分に比べより大きくシフトし、そのシフト量の差は反射層の誘電体多層膜構成に依存する。ここで、上記近赤外反射帯域における波長λSh(A2_Tp50%)と波長λSh(A2_Ts50%)との間に次の関係があることが好ましい。
0nm<λSh(A2_Tp50%)−λSh(A2_Ts50%)≦20nm(好ましくは15nm)
【0066】
本実施形態の光学フィルタは、入射角θが0°〜30°の入射光に対する分光透過率曲線の変化を抑制する場合、第2の反射層(A2)は、以下のように設計するとよい。
すなわち、第2の反射層(A2)において、入射角θ=0°における近赤外反射帯域の短波長側で透過率50%の最短波長λSh(A2_T50%)は、入射角θの増加にともない短波長にシフトし、最大入射角θ=30°におけるs偏光成分、すなわち上記の波長λSh(A2_Ts50%)が最短波長に相当する。そのため、第2の反射層(A2)は、波長λSh(A2_Ts50%)が波長λSh(DA_T50%)より長波長側に位置するような誘電体多層膜構成とする。
一方、遮断から透過へ遷移する分光透過率曲線は、入射角θの増加にともない短波長側に変化するシフト量は増すとともに、p偏光成分がs偏光成分に比べより大きくシフトする。したがって、入射角θ=0°における近赤外反射帯域の長波長側で透過率50%の最短波長λLo(A2_T50%)は、入射角θの増加にともない短波長にシフトし、最大入射角θ=30°におけるp偏光成分、すなわち波長λLo(A2_Tp50%)が最短波長に相当する。そのため、第1の反射層(UA1)は、その反射帯域が入射角θ=0°〜30°に対し波長λLo(A2_Tp50%)を含むような誘電体多層膜構成とする。
【0067】
また、第1の反射層(UA1)において、入射角θが0°〜30°まで変化したときの近赤外反射帯域で透過率50%となるp偏光に対する短波長側の波長λSh(A1_Tp50%)および長波長側の波長λLo(A1_Tp50%)と、s偏光に対する短波長側の波長λSh(A1_Ts50%)および長波長側の波長λLo(A1_Ts50%)を計算する。そして、第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)は、最大入射角θ=30°で、第2の反射層(A2)の波長λLo(A2_Tp50%)に対し、第1の反射層(UA1)の近赤外反射帯域の短波長側で、p偏光に対する透過率50%の最短波長λSh(A1_Tp50%)が、λSh(A1_Tp50%)<λLo(A2_Tp50%)となるように設計する。このように、反射層は、第2の反射層(A2)と第1の反射層(UA1)を併用することにより、入射角θが0°〜30°の入射光に対し、400nm以上にわたる(近赤外域の)反射帯域幅ΔλNIRを確保できる。
また、反射帯域のうち長波長領域ほど入射角増加にともなう分光透過率曲線の短波長シフト量が大きい。そのため、入射角θ=0°において、第2の反射層(A2)の波長λLo(A2_T50%)が、第1の反射層(UA1)の波長λSh(A1_T50%)より長波長側に位置するように、それぞれの誘電体多層膜を構成する。すなわち、λSh(A1_T50%)<λLo(A2_T50%)となるように誘電体多層膜を設計すれば、λSh(A1_Tp50%)<λLo(A2_Tp50%)を満たし、所定の広い近赤外反射帯域幅ΔλNIRを確保できる。
【0068】
なお、本実施形態の光学フィルタは、NIR吸収剤(DA)を含む吸収層の波長λ(DA_Tmin)から波長λLo(DA_T50%)までの透過率を3%以下に低減するため、第2の反射層(A2)の入射角θ=0°における近赤外反射帯域で透過率15%となる短波長側の波長λSh(A2_T15%)が、前述の波長λLo(DA_T15%)より短波長側に位置するよう、第2の反射層(A2)を設計することが好ましい。さらに、波長λ(DA_Tmin)から波長λLo(DA_T50%)の透過率を0.3%以下に低減するため、第2の反射層(A2)の入射角θ=0°における近赤外反射帯域で透過率1%となる短波長側の波長λSh(A2_T1%)が、前述の波長λLo(DA_T15%)より短波長側に位置するよう、第2の反射層(A2)を設計することが好ましい。
【0069】
また、近赤外反射帯域の長波長側でも分光透過率の入射角依存性、偏光依存性を考慮して、入射角θ=30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が、波長1150nmより長波長となるよう、第1の反射層(UA1)を設計することが好ましい。また、入射角θ=30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が5%となる波長λLo(A1_Tp5%)が、波長1150nmより長波長となるよう、第1の反射層(UA1)を設計することがさらに好ましい。
すなわち、第1の反射層(UA1)は、入射角θ=0°〜30°の入射光に対して近赤外反射帯域の長波長側で透過率15%または透過率5%の最短波長が、入射角θ=30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%または透過率5%となる波長λLo(A1_Tp15%)または波長λLo(A1_Tp5%)である。そのため第1の反射層(UA1)は、該波長λLo(A1_Tp15%)または該波長λLo(A1_Tp5%)が、波長1150nmより長波長側に位置するように設計する。なお、固体撮像素子の分光感度の最長波長は、1150nmであり、本実施形態の光学フィルタは、波長1150nmまでの分光透過率曲線について、第1の反射層(UA1)における分光透過率曲線の入射角依存性、偏光依存性の影響を抑制できる。
【0070】
また、本実施形態の光学フィルタは、第2の反射層(A2)と第1の反射層(UA1)それぞれの反射光および透過光が干渉しない間隔を隔てて配置したとき、第2の反射層(A2)と第1の反射層(UA1)の入射角0°における近赤外反射帯域の境界領域である波長λSh(A1_T50%)から波長λLo(A2_T50%)までの透過率を所定の透過率x%以下に低減するため、下記のように設計するとよい。すなわち、本フィルタは、入射角θ=0°における第2の反射層(A2)の近赤外反射帯域で透過率x%となる長波長側の波長λLo(A2_Tx%)が、入射角θ=0°における第1の反射層(UA1)の近赤外反射帯域で透過率x%となる短波長側の波長λSh(A1_Tx%)より長波長側に位置するよう第2の反射層(A2)および第1の反射層(UA1)を設計する。ここで、x%は3%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0071】
また、第1の反射層(UA1)の近赤外反射帯域と同様に、入射角θが0°〜30°まで変化したとき、近紫外反射帯域で透過率が50%となる、p偏光に対する短波長側の波長λSh(U1_Tp50%)および長波長側の波長λLo(U1_Tp50%)と、s偏光に対する短波長側の波長λSh(U1_Ts50%)および長波長側の波長λLo(U1_Ts50%)を計算する。そして、第1の反射層(UA1)は、入射角θが0°〜30°まで変化したとき、近紫外反射帯域の長波長側で透過率50%となる最長波長λLo(U1_T50%)が、UV吸収剤(DU)を含む吸収層の吸収極大波長λ(DU_Tmin)より長波長側で透過率50%となる波長400〜420nmの範囲における波長λLo(DU_T50%)に対し、短波長側に位置するように設計すればよい。
【0072】
さらに、第1の反射層(UA1)は、固体撮像素子の画素毎に形成されたRGBカラーフィルタを透過する350〜400nmの波長領域で、UV吸収剤(DU)を含む吸収層により十分に吸収できない350nmから吸収極大波長λ(DU_Tmin)までの波長領域の入射光を遮断する。そのため、第1の反射層(UA1)は、入射角θが0°〜30°まで変化したとき、近紫外反射帯域の短波長側で透過率50%の最長波長である入射角θ=0°の波長λSh(U1_T50%)が350nmより短波長側に位置するように設計することが好ましい。なお、第1の反射層(UA1)は、使用する誘電体(TiO)膜の近紫外域の短波長側の吸収や、第2の反射層(A2)の近紫外域における反射等によっても、350nm近傍の波長領域の光の透過を低減できる。
【0073】
次に、第1の反射層(UA1)および第2の反射層(A2)の具体的な設計例を示す。
なお、本例の光学フィルタは透明基板を含むが、計算に用いる透明基板はいずれも350〜1150nmの波長領域で光吸収および光散乱のない基板を前提としている。実際に用いる透明基板は、後述するように、可視域で光学的に吸収、散乱の少ないものであれば使用可能であり、レンズ等の非平面を有する基板であってもよい。
【0074】
表2は、屈折率n=1.51の透明基板の一方の面に形成した第1の反射層(UA1)の設計例である。反射層の表面は空気に面する。
本例の第1の反射層(UA1)は、略350〜400nmの近紫外域と略850〜1150nmの近赤外域に反射帯域が生じるように、設計波長λ=1033nmに対し、n=2.36のTiO膜とn=1.45のSiO膜を交互に光学膜厚nとnが略λ/4となる23層構成とした。
また、第1の反射層(UA1)は、可視透過帯域のリップルを低減するため、TiOとSiOの23層膜における各層の光学膜厚をλ/4から±10%程度ずらした構成としている。
さらに、第1の反射層(UA1)は、略400〜700nmの可視透過帯域のリップル低減および反射防止効果が生じるように、λ/4より薄い光学膜厚で、空気と該23層膜との界面にSiO膜を、透明基板と該23層膜との界面にSiO膜とTiO膜の2層を、それぞれ追加し、合計26層とした誘電体多層膜である。
【0075】
【表2】
【0076】
図4は、表2に示す第1の反射層(UA1)について、TiO膜とSiO膜の屈折率波長分散を考慮して、入射角θ=0°、入射角θ=30°におけるp偏光、入射角θ=30°におけるs偏光の各分光透過率を計算した結果である。なお、計算結果は、透明基板片面の空気界面で発生する反射損失は考慮していないが、実際には、後述する反射防止層により可視域の反射損失を同レベルに低減できる。
図4に示すように、本設計例の第1の反射層(UA1)は、入射角θ=0°〜30°の入射光に対し、略844〜1256nmの近赤外域と略350〜386nmの近紫外域で透過率50%以下、略862〜1222nmの近赤外域と略350〜382nmの近紫外域で透過率15%以下となる反射帯域を有し、400〜700nmの可視域で平均透過率98%以上を示す。
第1の反射層(UA1)は、光学膜厚が略λ/4となるように、TiOとSiOとを23層の交互多層膜とした構成では、近赤外反射帯域の最小透過率が0.02%レベルだが、層数を増やすことで最小透過率をさらに低下させ0.02%未満を実現できる。
【0077】
表3は、透明基板と、透明基板の一方の面に第1の反射層(UA1)を有し、透明基板の他方の面に第2の反射層(A2)を有し、さらにその上に、透明樹脂(B)にNIR吸収剤(DA)とUV吸収剤(DU)を含有する吸収層を備える構成における、第2の反射層(A2)の設計例である。
ここで吸収層は、NIR吸収剤(DA)としてNIR775Bと、UV吸収剤(DU)としてSDA3382を含む例を考える。このとき、第2の反射層(A2)は、該吸収層と第1の反射層(UA1)のみでは反射帯域が確保できない波長を含む略800〜950nmに反射帯域が与えられるように設計する。
第2の反射層(A2)は、設計波長λ=940nmに対し、n=2.37のTiO膜とn=1.45のSiO膜を交互に光学膜厚nとnが略λ/4となる21層構成とした。
また、第2の反射層(A2)は、可視透過帯域のリップルを低減するため、TiOとSiOの21層膜における各層の光学膜厚をλ/4から±10%程度ずらした構成としている。
さらに、第2の反射層(A2)は、略400〜700nmの可視透過帯域のリップル低減および反射防止効果が生じるように、透明基板と該21層膜との界面、および吸収層と該21層膜との界面にそれぞれ、各層がλ/4より薄い光学膜厚となるSiO/TiO/SiOの3層膜を追加し、合計27層とした誘電体多層膜である。なお、透明基板と吸収層の透明樹脂の波長940nmにおける屈折率は、1.51と設定している。
【0078】
【表3】
【0079】
図5は、表3に示す第2の反射層(A2)について、TiO膜とSiO膜の屈折率波長分散を考慮して、入射角θ=0°、入射角θ=30°におけるp偏光、入射角θ=30°におけるs偏光の各分光透過率を計算した結果である。なお、計算結果は、透明基板片面および吸収層表面の空気界面で発生する反射損失は考慮していないが、実際には、後述する反射防止層により可視域の反射損失を同レベルに低減できる。
図5に示すように、本設計例の第2の反射層(A2)は、入射角θ=0°〜30°の入射光に対し、略760〜1140nmの近赤外域で透過率50%以下、略774〜1026nmの近赤外域で透過率15%以下となる反射帯域を有し、400〜700nmの可視域は95%以上の透過率を有する。
第2の反射層(A2)は、光学膜厚が略λ/4となるように、TiOとSiOとを21層の交互多層膜とした構成では、近赤外反射帯域の最小透過率が0.1%レベルだが、層数を増やすことで最小透過率をさらに低下させ0.1%未満を実現できる。
【0080】
次に、第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)を含む光学フィルタの分光透過率の計算結果を示す。第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)は、図1A図1Cの例に示すように、吸収層、透明基板等の両主面にそれぞれ成膜する場合、それらの反射層の間隔が入射光の可干渉長より短い配置では2種の反射層で発生する反射光の干渉を考慮する必要がある。一方、これらの間隔が、入射光の可干渉長より長い配置では干渉しないため反射光の干渉を考慮する必要はない。
光学フィルタを搭載した撮像装置において、被写体から撮像装置に入射する光は可干渉長の短い自然光であるため、光学フィルタが、厚さ略30μm以上の吸収層、透明基板等の両主面に、それぞれ、第1の反射層(UA1)および第2の反射層(A2)を備える場合、分光透過率は干渉を考慮しない計算に対応する。
【0081】
図6は、この場合の第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)を含む光学フィルタの分光透過率曲線(入射角θ=0°、入射角θ=30°でp偏光、入射角θ=30°でs偏光)の計算結果である。ここでは、図1Cの光学フィルタ30において、吸収層11が吸収剤を含まない透明樹脂のみからなる場合に相当する。
図6に示すように、本設計例は、入射角θ=0°〜30°の入射光に対し、略350〜386nmの近紫外域および略756〜1272nmの近赤外域で透過率50%以下、略350〜382nmの近紫外域および略770〜1244nmの近赤外域で透過率15%以下、400〜700nmの可視域で平均透過率98%以上を示す反射型フィルタとなる。
【0082】
一方、第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)は、図1B図1Dの例に示すように、吸収層、透明基板等の同一主面上に積層する場合、それぞれの誘電体多層膜界面の反射光が干渉するため、分光透過率は第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)を連続した1つの光干渉多層膜構造として計算できる。このとき、個別に設計した第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)とを単に積層した反射型フィルタは、透過帯域や反射帯域にリップルが生じ、特性劣化を招く場合がある。該反射型フィルタは、かかる積層にともなうリップルを低減するため、第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)の境界や空気との界面、吸収層との界面等における誘電体膜の膜厚や各誘電体多層膜の膜厚を調整することが好ましい。
【0083】
図7は、第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)を連続して積層し、TiO膜とSiO膜を53層交互に積層した誘電体多層膜からなる反射層について、分光透過率曲線(入射角θ=0°、入射角θ=30°でp偏光、入射角θ=30°でs偏光)を計算した結果である。なお、図7の計算結果は、第1の反射層(UA1)が、λ=1060nmで光学膜厚が略λ/4となる23層構成を、第2の反射層(A2)が、λ=925nmで光学膜厚が略λ/4となる21層構成、をそれぞれ基本とし、可視域の透過率向上およびリップル低減のため、表2に示す誘電体多層膜と表3に示す誘電体多層膜の光学膜厚を調整した誘電体多層膜の分光透過率曲線である。図7に示す分光透過率曲線は、透明基板片面の空気界面で発生する反射損失は考慮していないが、実際には、後述する反射防止層により可視域の反射損失を同レベルに低減できる。
【0084】
図7に示すように、該反射層は、入射角θ=0°〜30°の入射光に対し、略350〜384nmの近紫外域および略748〜1240nmの近赤外域で透過率50%以下、略350〜382nmの近紫外域および略794〜1226nmの近赤外域で透過率15%以下、400〜700nmの可視域で平均透過率98%以上を示す。
【0085】
上記のように、反射層は、第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)を透明基板の両主面に分離形成してなる構成、および透明基板の一方の主面に一体形成してなる構成のいずれの場合も、入射角θ=0°〜30°の入射光に対し、略794〜1150nmの近赤外域と略350〜382nmの近紫外域で透過率15%以下に遮断し、それにより略400〜700nmの可視域で平均透過率98%以上を示す反射型フィルタが得られる。
【0086】
第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)は、これらが透明基板の同一主面上に連続して有する場合、誘電体多層膜を連続して成膜できるため生産性が向上する。しかし、本フィルタは、前述したように、充填密度の高い高信頼性の誘電体膜を形成しようとすると、膜応力にともない透明基板に歪みが生じ易くなるため、膜応力を低減する成膜条件での作製が必要となる場合がある。また、本フィルタは、誘電体膜の層数が多いほど干渉リップルが生じ易くなるため、リップル発生を抑制した多層膜設計、および設計を再現する高精度の膜厚制御が必要となる場合がある。
【0087】
一方、第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)は、これらが透明基板の両主面に分離して有する場合、表面と裏面と2回に分けて成膜することで生産性が低下する場合がある。しかし、第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)とが、同一誘電体材料を用いて同一製法により形成することで各誘電体多層膜の応力は同レベルとなるため、透明基板両面の膜応力が互いに打ち消すように作用し、充填密度の高い高屈折率の誘電体膜を含めても歪みを抑制しやすい。さらに、充填密度の高い誘電体膜は、環境変化にともなう光学特性変化が少ないため高い信頼性も得やすい。また、入射光の可干渉長より厚い透明基板を用いれば第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)との間の干渉リップルが生じにくい。その結果、第1の反射層(UA1)と第2の反射層(A2)は、個々の誘電体多層膜の設計を調整することなく、2つの誘電体多層膜間の干渉を無視して多重反射のみを考慮した計算により分光透過率を求めることができる。
【0088】
以上、上記の光学フィルタ(反射型フィルタ)は、入射角θが0°〜30°の斜入射光を想定した反射層の誘電体多層膜における分光透過率の計算例および構成例を示したが、入射角θの範囲が異なる場合は、それに応じた分光透過率の変化を考慮した多層膜構成とすればよい。
【0089】
<透明基板>
光学フィルタに透明基板を用いる場合、透明基板は、略400〜700nmの可視光を透過するものであれば、構成する材料はとくに制限されない。近赤外域や近紫外域の光を吸収する基材であってもよい。例えば、ガラスや結晶等の無機材料や、樹脂等の有機材料が挙げられる。また、厚さは、構成する材料にも依存するが、0.03〜5mmが好ましく、薄型化の観点からは、0.03〜0.5mmがより好ましい。また、透明基板は、光学フィルタとしての光学特性、機械特性等の長期にわたる信頼性に係る形状安定性の観点、フィルタ製造時のハンドリング性等から無機材料が好ましい。加工性の観点から、板厚0.05〜0.5mmのガラスが好ましい。
【0090】
透明基板として使用できる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0091】
透明基板として使用できるガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。なお、「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiOで構成されるケイリン酸塩ガラスも含むものとする。また、透明基板に使用できる結晶材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の複屈折性結晶が挙げられる。
【0092】
フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラスを透明基板として用いる場合、CuO等の添加濃度や基板厚を調整することにより、700〜1150nmの近赤外域における吸収型ガラスの透過率を20%以下にできる。このため、第1のNIR吸収剤(DA)や第2のNIR吸収剤(DB)を含有する吸収層では遮断できない近赤外光に対する遮光性を改善できる。また、誘電体多層膜からなる反射層に要求される近赤外域の反射率を緩和(すなわち、低反射率化)できるため、少ない層数で同等の遮光性を有する光学フィルタが得られる。あるいは、同じ構成の誘電体多層膜からなる反射層を用いた場合、遮光性が向上するため、該光学フィルタを搭載した撮像装置画質を向上できる。
【0093】
なお、本フィルタの一例となる光学フィルタ40、後述する光学フィルタ60、70が、透明基板13としてガラスや吸収型ガラスを用いる場合、ガラスまたは吸収型ガラス(透明基板13)と、吸収層11との間に図示しない誘電体層を有してもよい。誘電体層は、誘電体材料で構成される層であり、その厚さは30nm以上が好ましい。誘電体層を有することで、本フィルタにおける吸収層11の耐久性を向上できる。誘電体層の厚さは100nm以上がより好ましく、200nm以上がさらに好ましい。誘電体層の厚さの上限はとくにないが、設計のしやすさや製造の容易さの観点から該厚さは2000nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましい。
【0094】
誘電体層は、例えば、ガラスからなる透明基板にNa原子やK原子等のアルカリ原子が含まれ、そのアルカリ原子が吸収層11に拡散することで吸収層11の光学特性や耐候性を劣化させ得る場合に、アルカリバリア膜として機能し、本フィルタの耐久性を向上できる。上記の場合、誘電体層の材料として、SiO、SiO、Al等が好適である。
【0095】
また、本フィルタの一例となる光学フィルタ40、後述する光学フィルタ60、70は、透明基板13と吸収層11との間に、密着膜を有してもよい。密着膜としては、MgF、CaF、LaF、NdF、CeF、NaAl14、NaAlF、AlF、BaFおよびYFから選ばれる少なくとも1つの材料を含む膜から選択できる。このように、透明基板13と吸収層11との間には、上記の誘電体層(アルカリバリア膜)もしくは密着膜、または、該誘電体層と該密着膜との両方を備えてもよい。
【0096】
ここで、透明基板に使用されるCuOを含有するガラスは、例えば、WO2014/30628A1に記載されているものが使用できる。
【0097】
透明基板の光学特性は、吸収層、反射層等と積層して得られる光学フィルタとして、前述した光学特性を有し得るものが好ましい。
【0098】
<反射防止層>
反射防止層は、吸収層の表面に形成される場合、空気と、吸収層との界面で屈折率差に応じて生じる4%程度のフレネル反射損失を、略400〜700nm可視域全域で入射角0°〜30°の入射光に対し、略1.5%以下の反射率に低減する機能が得られる構成が好ましい。また、反射防止層は、透明基板の一方の面が空気と接する光学フィルタの構成でも、透明基板と空気との間に備えられるとよく、反射層と同様、可視域で透明な誘電体材料を用い、薄膜の光干渉を利用して反射防止効果を得るのが一般的である。とくに、略400〜700nmの可視域全域で有効な反射防止効果を得るためには、例えば、屈折率の異なる誘電体膜を3〜9層で総膜厚が200〜400nm程度となるように積層すればよい。誘電体多層膜からなる反射防止層を吸収層の表面に直接形成する場合、吸収層の透明樹脂の劣化を抑制するため、低膜応力となる成膜条件および総膜厚を薄くする設計が好ましい。
【0099】
また、反射防止層としては、モスアイ構造と呼ばれる反射防止構造を吸収層の表面に形成したものでもよい。モスアイ構造は、例えば、空気界面から吸収層内部に向かって屈折率が緩やかに変化するように、吸収層表面に反射防止する可視波長よりも短い周期で円錐構造や角錐構造を形成する。なお、吸収層を構成する透明樹脂の波長589nmにおける屈折率が1.4〜1.6であれば、周期が略100〜200nmで、高さが略200〜400nmの錘体構造となるように、予め転写用のモスアイ構造が表面加工されたガラス成形型や樹脂成形型等の金型を用い、吸収層表面を成形固化することにより、モスアイ構造からなる反射防止層を作製できる。
また、吸収層は、構成する透明樹脂材料が金型離型性等で微細金型を用いた成形に適さない場合、吸収層上に、特性の異なる透明樹脂材料を成膜し、この樹脂膜に対しモスアイ構造を形成してもよい。かかる樹脂膜の形成によって、耐久性を向上できる効果もある。モスアイ構造は、薄膜の光干渉を利用した反射防止膜に比べ、真空プロセスが不要なため生産性が向上でき、また、膜応力の影響が軽減できる。
【0100】
さらに、反射防止層は、SiOやMgFを、ナノサイズの微細粒子で粗な構造を形成可能なゾル−ゲル法等の成膜法によりさらに屈折率を低下させ、屈折率nが1.2〜1.3の誘電体膜としてもよい。この場合、該反射防止層は屈折率が1.4〜1.6の透明樹脂に対し、単層で可視域(略400〜700nm)の残留反射が1%以下にできる。ここで、反射防止層は、低屈折率膜の光学膜厚を可視域の中心波長509nm(=2×400×700/(400+700))の1/4である127nmとすれば、波長509nmで最小反射率となる。また、該低屈折率膜の屈折率が透明樹脂の屈折率の平方根に近いほど最小反射率がゼロに近づく。
【0101】
本実施形態の光学フィルタは、可視域のうち600〜700nmの波長領域では、第1のNIR吸収剤(DA)を含む光吸収層の分光透過率により、人間の眼の比視感度分光曲線に近似できる。また、本フィルタは、反射層における分光透過率曲線が入射角、入射偏光に依存して短波長側にシフトしても、吸収層における600〜700nmの波長領域における分光透過率曲線を維持するように働くため、近赤外域は、吸収層と反射層によって入射角、入射偏光に大きく影響されずに遮断できる。
【0102】
本フィルタは、近赤外域で透過率50%となる波長について、入射角θ=0°と30°におけるs偏光およびp偏光の、4通りの条件を与える。このとき、620〜670nmの波長領域において、最短となる条件の波長Sh(T50%)と最長となる条件の波長Lo(T50%)との差は、2nm以下であればよく、1nm以下が好ましく、0.5nm以下がさらに好ましく、略0nmが最も好ましい。
また、本フィルタは、680〜750nmの波長領域で、入射角θ=0°と30°との、各偏光(s、p)における透過率差の平均値ΔTp(Avr680−750)、ΔTs(Avr680−750)は、1.3%以下であればよく、1.1%以下が好ましく、1.0%以下がさらに好ましく、0.9%以下がより一層好ましい。なお、上記各偏光(s、p)における透過率差の平均値は、例えば、680〜750nmの範囲の10nm毎における各偏光でのθ=0°と30°との差(合計8点)を平均することにより算出できる。
【0103】
また、本フィルタは、1000〜1150nmの波長領域で、入射角θ=0°と30°との、各偏光(s、p)における透過率差の平均値ΔTp(Avr1000−1150)、ΔTs(Avr1000−1150)は、10%以下であればよく、5%以下が好ましく、2.0%以下であればより好ましく、1.5%以下がさらに好ましく、1.0%以下がより一層好ましく、0.7%以下が最も好ましい。なお、上記各偏光(s、p)における透過率差の平均値は、例えば、1000〜1150nmの範囲の10nm毎における各偏光でのθ=0°と30°との差(合計16点)を平均することにより算出できる。本指標(ΔTp(Avr1000−1150)、ΔTs(Avr1000−1150))は、後述する第2の実施形態の光学フィルタにも適用できる。
【0104】
さらに、吸収層が、UV吸収剤(DU)を含むと、300〜420nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近紫外吸収帯域を有する。ここで、反射層における、入射角0°に対し近紫外吸収帯域の長波長側で透過率が50%となる波長λLo(U1_T50%)が、UV吸収剤(DU)の波長λLo(DU_T50%)より短波長側に設けると、略400〜440nmの可視域で、UV吸収剤(DU)を含む吸収層の分光透過率曲線により、人間の眼の青色等色関数分光曲線に近似できる。このように、本フィルタは、斜入射光に対する反射層の分光透過率が入射角、入射偏光に依存して短波長側にシフトしても、吸収層における分光透過率曲線を維持するように働く。そのため、本フィルタは、近紫外域における吸収層の遮断が不十分な場合でも、反射層により入射角、入射偏光に大きく影響されずに遮断できる。
【0105】
また、吸収層が波長λ(DU_Tmin)より短波長側で透過率が50%となる波長λSh(DU_T50%)を有し、入射角θが0°〜30°まで変化したときを考える。このとき、反射層が近紫外反射帯域の短波長側で透過率が50%となる最長波長λSh(U1_T50%)を350nm以下とした場合には、反射層の分光透過率が入射角、入射偏光に依存して短波長側にシフトしても、350nm以上の近紫外域は、吸収層と反射層によって入射角、入射偏光に大きく依存せず遮断できる。
【0106】
(第2の実施形態)
本実施形態の光学フィルタ(以下、第2の実施形態の説明中、「本フィルタ」ともいう)は、吸収層、および誘電体多層膜からなる反射層を有する。
【0107】
図8A図8Cに、本フィルタの構成例を示すが、本フィルタの構成は、これらの例に限定されない。
【0108】
図8Aは、吸収層11の一方の主面上に第1の反射層12aを備えた構成例である。
図8Bは、透明基板13の一方の主面上に吸収層11を備え、透明基板13の他方の主面上に第1の反射層12aを備えた構成例である。
図8Cは、透明基板13の一方の主面上に第1の反射層12aを備え、透明基板13の他方の主面上に吸収層11および反射防止層14を備えた構成例である。
なお、本実施形態では、重複する説明を避けるため、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0109】
(吸収層)
吸収層は、第1の実施形態で用いた第1のNIR吸収剤(DA)と、第2のNIR吸収剤(DB)と、透明樹脂(B)とを含有する層であり、典型的には、透明樹脂(B)中に第1のNIR吸収剤(DA)および第2のNIR吸収剤(DB)が均一に溶解または分散した層である。吸収層は、さらに、第1の実施形態で用いたUV吸収剤(DU)を含有してもよい。
第1のNIR吸収剤(DA)は、第1の実施形態と同様に、透明樹脂(B)に溶解または分散して作製した樹脂膜の350〜1200nmの吸収スペクトルにおいて、660〜785nmの波長領域に吸収極大波長λ(DA_Tmin)を有する。
第2のNIR吸収剤(DB)は、前記吸収スペクトルにおいて、800〜920nmの波長領域に吸収極大波長λ(DB_Tmin)を有する。
UV吸収剤(DU)は、第1の実施形態と同様に、前記吸収スペクトルにおいて、370〜405nmの波長領域に吸収極大波長λ(DU_Tmin)を有する。
【0110】
そして、吸収層は、第1のNIR吸収剤(DA)の吸収極大波長λ(DA_Tmin)より短波長側で620〜670nmの波長領域内に透過率が50%となる波長λSh(DA_T50%)を有する。さらに吸収層は、第2のNIR吸収剤(DB)の吸収極大波長λ(DB_Tmin)より長波長側で900〜970nmの波長領域内に透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)を有し、かつλSh(DA_T50%)<λ(DA_Tmin)<λ(DB_Tmin)<λLo(DB_T50%)の関係を満足するように、第1のNIR吸収剤(DA)および第2のNIR吸収剤(DB)の各濃度と厚さdを設定する。
また、吸収層は、UV吸収剤(DU)を含有する場合、UV吸収剤(DU)の吸収極大波長λ(DU_Tmin)より長波長側で400〜420nmの波長領域内に透過率が50%となる波長λLo(DU_T50%)を有するように、UV吸収剤(DU)の濃度と厚さdを設定する。
【0111】
本フィルタの吸収層は、第1のNIR吸収剤(DA)を含む透明樹脂の透過率が50%以下となる近赤外吸収帯域(波長λSh(DA_T50%)〜波長λLo(DA_T50%))と、第2のNIR吸収剤(DB)を含む透明樹脂の透過率が50%以下となる近赤外吸収帯域(波長λSh(DB_T50%)〜波長λLo(DB_T50%))との間で、以下の関係を満たすことが好ましい。
λSh(DA_T50%)<λSh(DB_T50%)≦λLo(DA_T50%)<λLo(DB_T50%)
上記の関係を満たすことにより、第1のNIR吸収剤(DA)の吸収帯域と第2のNIR吸収剤(DB)の吸収帯域との境界領域で吸収層の透過率を25%以下にできる。
また、本フィルタの吸収層は、第1のNIR吸収剤(DA)を含む透明樹脂の透過率が15%以下となる近赤外吸収帯域(波長λSh(DA_T15%)〜波長λLo(DA_T15%))と、第2のNIR吸収剤(DB)を含む透明樹脂の透過率が15%以下となる近赤外吸収帯域(波長λSh(DB_T15%)〜波長λLo(DB_T15%))との間で、以下の関係を満たすことがより好ましい。
λSh(DB_T15%)≦λLo(DA_T15%)
上記の関係を満たすことにより、第1のNIR吸収剤(DA)の吸収帯域と第2のNIR吸収剤(DB)の吸収帯域との境界領域で吸収層の透過率を3%以下にできる。
第2のNIR吸収剤(DB)としては、例えば、前述の吸収スペクトルにおいて、800〜920nmの波長領域に吸収極大を有するものが使用できる。その具体例としては、KODAK社のIRDシリーズの04、79等、Epolin社のEpolightTMシリーズの5547、5588等、QCR Solutions社のNIRシリーズの907B、910C等、H.W.Sands社のSDA8630等、Exciton社のNP800、IRA868等(以上、商品名)が挙げられる。
【0112】
例えば、吸収層が、第1のNIR吸収剤(DA)として吸収極大波長λ(DA_Tmin)が775nmのNIR775Bを含み、第2のNIR吸収剤(DB)として吸収極大波長λ(DB_Tmin)が860nmのEpolightTM5588を含む場合、吸収により透過率2%以下まで遮断できる近赤外域を700〜900nm程度まで拡大できる。図9は、このような吸収層に、さらに、UV吸収剤(DU)として前述のSDA3382を加えた吸収層の分光透過率曲線の例である。分光透過率曲線は、吸収層中の各NIR吸収剤、UV吸収剤の濃度および厚さdを調整して算出した。図9は、吸収層と空気との一つの界面で発生する略4%程度のフレネル反射損失は考慮しておらず、分光透過率は吸収層の内部透過率に相当する。図9は、吸収層の界面に所定の反射防止層を備える場合における分光透過率曲線に相当する。
【0113】
図9のとおり、上記例の吸収層は、近紫外域の363〜393nmの透過率が10%以下、可視域の404nmと625nmで透過率が略50%で、410〜630nmの波長領域の平均透過率が略77%、近赤外域の690〜900nmの透過率が略5%以下の分光透過率を示す。
【0114】
図9に示した吸収層の分光透過率曲線は、入射光の入射角依存性がほとんどない。したがって、上記吸収層を備えることにより、可視域と近紫外域との境界領域、および可視域と近赤外域との境界領域において、発散および集束する入射光に対しても安定した分光透過率曲線が得られる。
【0115】
なお、第1のNIR吸収剤(DA)および第2のNIR吸収剤(DB)は、それぞれ1種のNIR吸収剤を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。さらに、UV吸収剤(UV)を用いる場合も、1種のUV吸収剤を単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。しかし、吸収層は、複数種の吸収剤を併用する場合、可視域における吸収剤固有の残留吸収を有すると可視域の透過率を低下させるため、可視域への影響を考慮して吸収剤を選択することが好ましく、さらに、濃度および厚さについても考慮することが好ましい。
吸収層中の吸収剤の全量に対するNIR吸収剤(DA)およびNIR吸収剤(DB)の割合は、3〜100質量%が好ましい。また、透明樹脂(B)100質量部に対し、NIR吸収剤(DA)とNIR吸収剤(DB)は、合計で0.01〜20質量部が好ましく、0.05〜15質量部がより好ましく、1〜10質量部がより一層好ましい。
【0116】
本実施形態の光学フィルタの吸収層は、前記吸収スペクトルにおいて、660〜785nmの波長領域に吸収極大波長λ(DA_Tmin)を有する第1のNIR吸収剤(DA)と、800〜920nmの波長領域に吸収極大波長λ(DB_Tmin)を有する第2のNIR吸収剤(DB)を含む。こうすることで、該吸収層は、近赤外吸収帯域を700〜900nmと拡張でき、本実施形態の光学フィルタは後述するように、1層の反射層(第1の反射層(UA1))のみで、700〜1150nmの近赤外域を遮断できる。また、吸収層が、さらにUV吸収剤(DU)も含有した場合、さらに350〜400nmの近紫外域を吸収できる。このように、本実施形態の光学フィルタは、反射層が第2の反射層(A2)を含むことを必須としないので、薄膜化、生産性の向上や応力緩和の効果が期待できる。
【0117】
(反射層)
上記のように、本実施形態の光学フィルタの吸収層は、近赤外吸収帯域を略700〜900nmに拡張できる。このため、本フィルタは、反射層として、670〜1150nmの波長領域に入射角0°で入射する光に対する透過率が50%以下となる近赤外反射帯域を有する第1の反射層(UA1)(のみ)を備える構成にできる。
第1の反射層(UA1)は、吸収層における吸収による遮断と反射層における反射による遮断が、それぞれの層の境界波長領域で有効に機能させるようにする。そのため、第1の反射層(UA1)は、第1の実施形態と同様に、入射角、入射偏光依存性による分光透過率曲線の短波長側シフトを考慮して設計する。
【0118】
すなわち、第1の反射層(UA1)は、入射角θ=0°〜30°の入射光に対して近赤外反射帯域の短波長側における透過率50%の最長波長は入射角θ=0°の波長λSh(A1_T50%)である。そのため、第1の反射層(UA1)は、第2のNIR吸収剤(DB)の吸収極大波長λ(DB_Tmin)より長波長側で透過率が50%となる波長λLo(DB_T50%)が、波長λSh(A1_T50%)より長波長側に、かつ波長λSh(A1_T50%)が波長λ(DB_Tmin)より長波長側に位置するよう誘電体多層膜を設計する。このとき、入射角θの増加にともなって第1の反射層(UA1)の波長λSh(A1_T50%)は短波長側にシフトするが、吸収層の近赤外吸収帯域内であるため、光学フィルタの分光透過率曲線の変化を抑制できる。
【0119】
この場合、本実施形態の光学フィルタは、第2のNIR吸収剤(DB)の吸収帯域における波長λ(DB_Tmin)から波長λLo(DB_T50%)までの波長領域の透過率を3%以下に低減するため、第1の反射層(UA1)は、入射角θ=0°における近赤外反射帯域で透過率が15%となる短波長側の波長λSh(A1_T15%)が、第2のNIR吸収剤(DB)の吸収帯域の長波長側で透過率が15%となる波長λLo(DB_T15%)より短波長側に位置する設計が好ましい。また、本実施形態の光学フィルタは、波長λ(DB_Tmin)から波長λLo(DB_T50%)までの波長領域の透過率を0.3%以下に低減するため、第1の反射層(UA1)は、入射角θ=0°における近赤外反射帯域で透過率1%となる短波長側の波長λSh(A1_T1%)が、第2のNIR吸収剤(DB)の吸収帯域の長波長側で透過率が15%となる波長λLo(DB_T15%)より短波長側に位置する設計がより好ましい。
【0120】
また、第1の実施形態と同様に、第1の反射層(UA1)は、近赤外反射帯域の長波長側でも分光透過率の入射角依存性、偏光依存性を考慮して、入射角30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が15%となる波長λLo(A1_Tp15%)が、波長1150nmより長波長となるように設計することが好ましい。また、入射角θ=30°で入射する光のうちp偏光成分の光の透過率が5%となる波長λLo(A1_Tp5%)が、波長1150nmより長波長となるよう、第1の反射層(UA1)を設計することがさらに好ましい。このように設計することで、本フィルタは、波長1150nmまでの分光透過率曲線について、第1の反射層(UA1)における分光透過率曲線の入射角依存性、偏光依存性の影響を抑制できる。
【0121】
本実施形態の光学フィルタは、誘電体多層膜からなる1層の反射層のみで、350〜400nmの近紫外域、および900〜1150nmの近赤外域の光を遮断でき、さらに光の入射角や入射偏光に大きく影響されずに遮断できる。このため、薄膜化や、生産性の向上、応力緩和の効果等が期待できる。
【0122】
なお、吸収極大波長がλ(DA_Tmin)である第1のNIR吸収剤(DA)における透過率50%以下の吸収波長帯域幅をΔλ(DA)、吸収極大波長がλ(DB_Tmin)である第2のNIR吸収剤(DB)における透過率50%以下の吸収波長帯域幅をΔλ(DB)とする。このとき、λ(DB_Tmin)とλ(DA_Tmin)の波長間隔が吸収波長帯域幅の平均値{Δλ(DA)+Δλ(DB)}/2より大きい場合、λ(DB_Tmin)とλ(DA_Tmin)との間の波長領域内の一部領域で所定レベル以上の透過光が生じ、ノイズ増大や色再現性劣化の原因となることがある。その場合、本フィルタはさらに、第2の反射層(A2)を併用した光学フィルタの構成としてもよい。該構成は、第2のNIR吸収剤(DB)により800〜900nmの波長領域の透過率が低減されるため、この波長領域に対する第2の反射層(A2)の反射率のターゲットは、第1の実施形態における第2の反射層(A2)比べて緩和(すなわち、低反射率も適用可)できる。その結果、この場合の第2の反射層(A2)は、第1の実施形態における第2の反射層(A2)に比べて、少ない層数および総膜厚の薄い誘電体多層膜構成にできるため、成膜時間を短縮し、かつ膜応力を低減できる。
【0123】
また、以上説明した各実施形態の光学フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置される。また、該光学フィルタは、撮像装置の固体撮像素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着しても使用できる。
図10は、図1Cに示す光学フィルタ30を用いた撮像装置の一例を示す。撮像装置100は、RGBカラーフィルタ付き固体撮像素子21と、その前面に配置された光学フィルタ30および撮像レンズ23と、これらを固定する筐体24とを有する。撮像レンズ23は、筐体24の内側にさらに設けられたレンズユニット22により固定されている。光学フィルタ30は、撮像レンズ23側に第1の反射層(UA1)が位置するように配置されている。固体撮像素子21と、撮像レンズ23とは、光軸Xに沿って配置されている。光学フィルタ30を設置する際の向きや位置は、設計に応じて適宜選択される。
【実施例】
【0124】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0125】
[実施例1]
図1Cに示す光学フィルタ30を製造する。
表2に示した構成の誘電体多層膜からなる第1の反射層12aと、表3に示した構成の誘電体多層膜からなる第2の反射層12bを、屈折率1.52で厚さ100μmの透明樹脂(シクロオレフィンポリマー)フィルムからなる透明基板13を挟持するように形成する。
図5に示す分光透過率曲線から明らかなように、第2の反射層12bは、波長λSh(A2_Tp50%)が略734nm、波長λSh(A2_Ts50%)が略720nmであり、したがって、λSh(A2_Tp50%)−λSh(A2_Ts50%)は14nmである。
次いで、NIR吸収剤(DA)としてNIR775Bと、UV吸収剤(DU)としてSDA3382とを含む吸収層11を、第2の反射層12bの表面に形成する。すなわち、NIR775BおよびSDA3382と、屈折率1.49のアクリル樹脂の15質量%シク口ヘキサノン溶液とを、NIR775BおよびSDA3382がアクリル樹脂100質量部に対して合計で0.01〜20質量部となる範囲で適宜調整して混合した後、室温にて攪拌・溶解することで塗工液を得る。得られた塗工液を、透明樹脂フィルムからなる透明基板13の第2の反射層12bが成膜された表面にダイコート法により塗布し、150℃で30分間加熱乾燥させ膜厚10μmの近紫外・近赤外吸収層11を形成する。さらに、吸収層11の空気界面に、Al膜、ZrO膜およびMgF膜を順に積層して3層からなる反射防止層14を形成し、入射角θ=0°〜30°の400〜700nmの可視域の入射光に対し残留反射率を1.5%以下とする。
これにより、図11図13Aおよび図14Aに示す分光透過率曲線(入射角θ=0°、入射角θ=30°のp偏光およびs偏光)を有する光学フィルタ30が得られる。なお、図11は、350〜1150nmの波長領域の分光透過率曲線、図13Aは、680〜760nmの波長領域の分光透過率曲線、図14Aは、1000〜1250nmの波長領域の分光透過率曲線である。
【0126】
[実施例2]
図1Dに示す光学フィルタ40を製造する。
表2に示した構成の誘電体多層膜からなる第1の反射層12aと表3に示した構成の誘電体多層膜からなる第2の反射層12bを一体化した構成の反射層を、厚さ200μmのソーダライムガラスからなる透明基板13の一方の主面に形成する。
図7に示す分光透過率曲線から明らかなように、第1の反射層12aと第2の反射層12bを一体化した構成の反射層は、波長λSh(A2_Tp50%)が略722nm、波長λSh(A2_Ts50%)が略712nmであり、したがってλSh(A2_Tp50%)−λSh(A2_Ts50%)は10nmである。
次いで、透明基板13の他方の主面に、NIR吸収剤(DA)としてNIR775Bと、UV吸収剤(DU)としてSDA3382とを含む吸収層11を形成する。すなわち、NIR775BおよびSDA3382と、屈折率1.59のポリ力一ボネー卜樹脂の10質量%シク口ペンタノン溶液とを、NIR775BおよびSDA3382がポリカーボネート樹脂100質量部に対して合計で0.01〜20質量部となる範囲で適宜調整して混合した後、室温にて攪拌・溶解することで塗工液を得る。得られた塗工液を、透明基板13の反射層が成膜されていない表面にダイコート法により塗布し、150℃で30分間加熱乾燥させ膜厚10μmの近紫外・近赤外吸収層11を形成する。さらに、吸収層11の空気界面に、TiO膜とSiO膜を交互に積層して4層からなる反射防止層14を形成し、入射角θ=0°〜30°の400〜700nmの可視域の入射光に対し残留反射率を1.5%以下とする。
これにより、図12に示す分光透過率曲線(入射角θ=0°、入射角θ=30°のp偏光およびs偏光)を有する光学フィルタ40が得られる。
【0127】
図11および図12から明らかなように、実施例1の光学フィルタ30および実施例2の光学フィルタ40は、下記の特性を有する。すなわち、これらの光学フィルタは、人間の眼は感度を有しないがRGBカラーフィルタ付き固体撮像素子は感度を有する近紫外域350〜400nmと近赤外域700〜1150nmの入射光を入射角0°〜30°において遮断し、可視域の400〜450nmおよび600〜700nmにおける分光透過率の入射角0°〜30°における変動がほとんどなく、人間の眼の比視感度に対応した等色関数に近似した分光感度曲線を示し、440〜600nm可視域で89%以上の高い平均透過率が得られる。
とくに、これらの光学フィルタは、入射光がs偏光またはp偏光に偏った画像光で、斜入射する場合でも、分光透過率曲線の変化は僅かで安定した特性が維持できる。中でも、図13Aにおいて、入射角が0°から30°に変化したときのs偏光成分のシフト量が大きく低減されている(透過率10%で、シフト量が略0nmである)ことからも明らかなように、可視域の長波長側における偏光成分に依存した分光透過率曲線の変化(透過から遮断への遷移)を抑制できる。なお、実施例1の光学フィルタ30および実施例2の光学フィルタ40は、ΔTp(Avr680−750)、ΔTs(Avr680−750)は、いずれも0.9%以下である。
また、第1の反射層12aは、少ない層数および総膜厚の誘電体多層膜構成で、350〜400nm近紫外域と950〜1150nm近赤外域に反射帯域を生成するとともに、反射帯域の最小透過率が0.1%以下となる高い遮断特性が実現できるため、薄膜化、多層膜応力の低減および生産性向上に有効である。
さらに、実施例1の光学フィルタ30では、透明樹脂フィルム基板11の一方の主面に第1の反射層(UA1)12a、他方の主面に第2の反射層(A2)12bを成膜する。そのため、高密度で多層膜応力の大きい高信頼性の誘電体膜を用いても多層膜応力が両面で均等化されやすく、透明樹脂フィルム基板11の歪みが少なく透過波面収差の劣化が少ない安定した光学性能が実現できる。
その結果、本フィルタは、図10に例示したようなRGBカラーフィルタ付き固体撮像素子を用いた撮像装置の光学フィルタとすることで、色再現性の優れた画像が安定して得られる。
【0128】
[比較例1]
実施例1の第2の反射層12bに代えて、入射角30°のp偏光で、透過率50%の波長(第2の反射層12bのλSh(A2−Tp50%に対応)が略719nmとなるように設計、調整した誘電体多層膜からなる反射層を形成する以外は、実施例1と同様にして光学フィルタを得る。
図13Bは、この比較例1の、680〜760nmの波長領域における入射角0°と入射角30°の入射光に対する偏光毎の分光透過率曲線の計算結果を示すグラフである。
【0129】
図13A(実施例1)と図13B(比較例1)の比較から明らかなように、比較例1の光学フィルタは、実施例1に比べ、690〜730nm波長領域における入射角に依存した分光透過率の変動が増大する。すなわち、比較例1では、680〜750nm波長領域における10nm毎の入射角0°と入射角30°に対する透過率差の和を波長数8で割った「透過率差の平均値」の計算結果は、p偏光でΔTp(Avr680−750)=0.84%、s偏光でΔTs(Avr680−750)=1.57%となる。一方、実施例1では、ΔTp(Avr680−750)=0.39%、s偏光ではΔTs(Avr680−750)=0.89%となり、入射偏光に関わらず1.3%以内の差(変化)に収まっている。その結果、比較例1の光学フィルタは、図10に例示したような撮像装置に用いた場合、色再現性に劣る撮像画像となる。
【0130】
[比較例2]
実施例1の第1の反射層12aに代えて、入射角30°のs偏光で、透過率15%の波長(第1の反射層12aのλLo(UA1−Ts15%に対応)が略1150nmとなるように設計、調整した誘電体多層膜からなる反射層(入射角30°のp偏光で、透過率15%の波長(第1の反射層12aの波長λLo(UA1−Tp15%)に対応)は略1110nmで、波長1150nmより短波長側になる)を形成する以外は、実施例1と同様にして光学フィルタを得る。
図14Bは、この比較例2の、1000〜1250nmの波長領域における入射角0°と入射角30°の入射光に対する偏光毎の分光透過率曲線の計算結果を示すグラフである。
【0131】
図14A(実施例1)と図14B(比較例2)の比較から明らかなように、比較例2の光学フィルタは、実施例1に比べ、RGBカラーフィルタ付き固体撮像素子が感度を有する1040〜1150nm波長領域における入射角に依存した分光透過率の変動が増大する。すなわち、比較例2では、1000〜1150nm波長領域における10nm毎の入射角0°と入射角30°に対する透過率差の和を波長数16で割った「透過率差の平均値」の計算結果は、p偏光でΔTp(Avr1000−1150)=12.2%、s偏光でΔTs(Avr1000−1150)=2.5%となる。一方、実施例1では、ΔTp(Avr1000−1150)=0.6%、s偏光ではΔTs(Avr1000−1150)=0.0%となり、入射偏光に関わらず10%以内の差(変化)に収まっている。
さらに、上記波長領域の入射角0°と入射角30°のp偏光およびs偏光に対する平均透過率TAvr1000−1150(0°)、TpAvr1000−1150(30°)、TsAvr1000−1150(30°)が、比較例2ではTAvr1000−1150(0°)=3.1%、TpAvr1000−1150(30°)=15.3%、TsAvr1000−1150(30°)=4.4%となる。一方、実施例1では、TAvr1000−1150(0°)=0.0%、TpAvr1000−1150(30°)=0.6%、TsAvr1000−1150(30°)=0.0%となり、1.0%以内の平均透過率に収まっている。その結果、比較例2の光学フィルタは、図10に例示したような撮像装置に用いた場合、色再現性に劣る撮像画像となる。
【0132】
[実施例3]
図8Cに示す光学フィルタ70を製造する。
表2に示した構成の誘電体多層膜からなる第1の反射層12aを、厚さ200μmのソーダライムガラスからなる透明基板13の一方の主面に形成する。
次いで、透明基板13の他方の主面に、NIR吸収剤(DA)としてNIR775Bと、UV吸収剤(DU)としてSDA3382と、NIR吸収剤(DB)としてEpolight5588とを含む吸収層11を形成する。すなわち、NIR775B、SDA3382およびEpolight5588と、屈折率1.52のシクロオレフィン樹脂の25質量%トルエン溶液とを、NIR775BおよびSDA3382がポリカーボネート樹脂100質量部に対して合計で0.01〜20質量部となる範囲で適宜調整して混合した後、室温にて揖梓・溶解することで塗工液を得る。得られた塗工液を、透明基板13の反射層が成膜されていない表面にダイコート法により塗布し、70℃で10分間加熱後、さらに110℃で10分間加熱して膜厚22μmの近紫外・近赤外吸収層11を形成する。さらに、吸収層11の空気界面に、TiO膜とSiO膜を交互に積層して4層からなる反射防止層14を形成し、入射角θ=0°〜30°の400〜700nmの可視域の入射光に対し残留反射率を1.5%以下とする。
これにより、図15に示す分光透過率曲線(入射角θ=0°、入射角θ=30°のp偏光およびs偏光)を有する光学フィルタが得られる。
【0133】
図15から明らかなように、実施例3の光学フィルタ70は、下記の特性を有する。すなわち、この光学フィルタ70は、人間の眼は感度を有しないがRGBカラーフィルタ付き固体撮像素子は感度を有する近紫外域350〜400nmと近赤外域700〜1150nmの入射光を入射角0°〜30°において遮断する。また、可視域の400〜450nmおよび600〜700nmにおける分光透過率の入射角θ=0°〜30°における変動がほとんどなく、人間の眼の比視感度に対応した等色関数に近似した分光感度曲線を示し、440〜600nmの可視域で82%以上の高い平均透過率が得られる。
なお、ΔTp(Avr680−750)、ΔTs(Avr680−750)は、それぞれ0.1%、0.2%で、いずれも1.3%以下の差(変化)に収まっており、また、ΔTp(Avr1000−1150)、ΔTs(Avr1000−1150))も、それぞれ0.6%、0.0%で、いずれも10%以下の差(変化)に収まっている。
さらに、TAvr1000−1150(0°)=0.0%、TpAvr1000−1150(30°)=0.6%、TsAvr1000−1150(30°)=0.0%となり、1.0%以内の平均透過率に収まっている。
【0134】
実施例3の吸収層は、実施例1および実施例2の吸収層に比べ近赤外吸収帯域が略690〜900nmと広い。そのため、実施例3の光学フィルタ70は、800〜1000nmの波長領域を反射する第2の反射層12bが不要となり、350〜400nm近紫外域および900〜1150nmの近赤外域を反射する第1反射層12aのみの反射層で遮断機能を実現できる。
すなわち、実施例3の光学フィル70は、実施例1や実施例2の約半分の総膜厚・層数の誘電体多層膜からなる反射層を用いても、入射角θ=0°〜30°の波長領域350〜1150nmの入射光に対して安定した分光透過率特性を示す光学フィルタをなっている。
また、実施例3の光学フィルタは、実施例1および実施例2の光学フィルタと同様に、入射光がs偏光またはp偏光に偏った画像光で斜入射する場合でも、分光透過率曲線の変化は僅かで安定した特性が維持できる。
その結果、本フィルタは、図10に例示したような撮像装置の光学フィルタとすることで、色再現性に優れた撮像画像が安定して得られる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の光学フィルタは、固体撮像素子(CCD、CMOS等)を用いたデジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話カメラ等の撮像装置に用いられる光学フィルタとして有用である。
【符号の説明】
【0136】
10,20,30,40,50,60,70…光学フィルタ、11…吸収層、12a…(第1の)反射層、12b…(第2の)反射層、13…透明基板、14…反射防止層、21…固体撮像素子、22…レンズユニット、23…撮像レンズ、24…筐体、100…撮像装置。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15