(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程2において、アルカリ土類金属酸化物の添加量が、反応系内に存在する硫黄原子合計1モルに対し、0.001モル以上0.1モル以下の範囲である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
工程2において、アルカリ土類金属酸化物を非プロトン性極性有機溶媒に分散させた分散液をスラリーに加える請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、
工程1:非加水分解性有機溶媒の存在下、
含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、
加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)とを、反応系内に存在する硫黄原子合計1モルに対し、前記脂肪族系環状化合物(c1)を0.02モル以上0.9モル未満の範囲となる割合で混合して加熱し、前記含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を脱水させながら前記脂肪族系環状化合物(c1)と反応させ、前記化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)と固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、
工程2:続いて、工程1を経て得られたスラリーに、更にアルカリ土類金属酸化物を加える工程、
工程3:次いで、工程2を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物(a)と、アルカリ金属水硫化物(b)と、前記化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)とを、反応させて重合を行う工程、
を必須の製造工程とすることを特徴とする。
【0011】
上記の工程1〜3について、以下に詳述する。
(工程1)
工程1は、非加水分解性有機溶媒の存在下、
含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、
加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)とを、反応系内に存在する硫黄原子合計1モルに対し、前記脂肪族系環状化合物(c1)を0.02モル以上0.9モル未満の範囲となる割合で混合して加熱し、前記含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を脱水させながら前記脂肪族系環状化合物(c1)と反応させ、前記化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)と固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、である。
【0012】
本発明に用いられる非加水分解性有機溶媒は、水に不活性な有機溶媒であればよく、例えば、汎用の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類等が挙げられるが、工程3における反応に供されるポリハロ芳香族化合物(a)を非加水分解性有機溶媒として用いることが、生産効率が飛躍的に向上する点から好ましい。
【0013】
ここで本発明に用いられるポリハロ芳香族化合物(a)の具体例としては、例えば、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0014】
前記ポリハロ芳香族化合物(a)の中でも、本発明では線状高分子量PAS樹脂を効率的に製造できることを特徴とする点から、2官能性のジハロ芳香族化合物が好ましく、とりわけ最終的に得られるPAS樹脂の機械的強度や成形性が良好となる点からp−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが好ましく、特にp−ジクロロベンゼンが好ましい。また、線状PAS樹脂のポリマー構造の一部に分岐構造を持たせたい場合には、上記ジハロ芳香族化合物と共に、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、又は1,3,5−トリハロベンゼンを一部併用することが好ましい。
【0015】
工程1において、非加水分解性有機溶媒の使用量はスラリー(I)の流動性が良好となる量であれば特に制限されるものではない。非加水分解性有機溶媒としてポリハロ芳香族化合物(a)を用いる場合には、工程3における反応性に優れる点から、含水アルカリ金属硫化物(方法1−A)又は含水アルカリ水硫化物(方法1−B)1モルに対して1モル当たり、0.2〜5.0モルの範囲が好ましく、特に0.3〜2.0モルの範囲が好ましい。ポリハロ芳香族化合物(a)は、その後のPAS樹脂の製造工程でそのまま使用でき、その後のPAS樹脂の製造工程で必要に応じて不足の場合は追加して使用してもよいし、過剰な場合は削減して使用してもよい。
【0016】
その他、ポリハロ芳香族化合物(a)の適当な選択組合せによって2種以上の異なる反応単位を含む共重合体を得ることもでき、例えば、p−ジクロルベンゼンと、4,4’−ジクロルベンゾフェノン又は4,4’−ジクロルジフェニルスルホンとを組み合わせて使用することが耐熱性に優れたポリアリーレンスルフィドが得られるので特に好ましい。
【0017】
本発明に用いる含水アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10〜80質量%、特に35〜65質量%であることが好ましい。
【0018】
これらの中でも、反応性の点から硫化ナトリウムの含水物であることが好ましい。なお、含水アルカリ金属硫化物を硫黄源として用いる場合、含水アルカリ金属硫化物の他に、更にアルカリ金属水酸化物を加えて脱水処理を行うことにより、固形のアルカリ金属硫化物の生成が一層促進される点から好ましい。
【0019】
一方、含水アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10〜80質量%であることが好ましい。これらの中でも水硫化リチウムの含水物と水硫化ナトリウムの含水物が好ましく、特に水硫化ナトリウムの含水物が好ましい。
【0020】
また、前記アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの水溶液が挙げられる。なお、該水溶液を用いる場合には、濃度20質量%以上の水溶液であることが工程1の脱水処理が容易である点から好ましい。これらの中でも特に水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、固形のアルカリ金属硫化物の生成が促進される点から、アルカリ金属水硫化物(b)1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより好ましい。
【0021】
本発明に用いる加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)の具体例としてはN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する。)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸などの脂肪族環状アミド化合物、アミド尿素、及びラクタム類が挙げられる。これらの中でも反応性が良好である点から脂肪族環状アミド化合物、特にNMPが好ましい。
【0022】
工程1の脱水処理を行う方法は、更に具体的には以下の方法が挙げられる。
(方法1−A)
加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)、非加水分解性有機溶媒、含水アルカリ金属硫化物、更に必要に応じて前記アルカリ金属水硫化物又はアルカリ金属水酸化物の所定量を反応容器に仕込み、含水アルカリ金属硫化物の沸点以上で、かつ、水が共沸により除去される温度、具体的には80〜220℃の範囲、好ましくは100〜200℃の範囲にまで加熱して脱水する方法。
【0023】
(方法1−B)
加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)、非加水分解性有機溶媒、含水アルカリ水硫化物、及びアルカリ金属水酸化物の所定量を反応容器に仕込み、この仕込みとほぼ同時に含水アルカリ金属硫化物を生成させた後、前記含水アルカリ金属硫化物の沸点以上で、かつ、水が共沸により除去される温度、具体的には80〜220℃の範囲、好ましくは100〜200℃の範囲にまで加熱して脱水する方法。
【0024】
上記方法1−A及び方法1−Bは、共沸留出した水と非加水分解性有機溶媒とをデカンターで分離し、非加水分解性有機溶媒のみを反応系内に戻すか、共沸留出した量に相当する量の非加水分解性有機溶媒を追加仕込みするか、あるいは、共沸留去する量以上の非加水分解性有機溶媒を予め過剰に仕込んでおいてもよい。本発明では、特に、方法1−Bがスラリーの調整が容易で、本発明の効果が顕著なものとなる点から好ましい。
【0025】
また、脱水初期段階の反応系内は、有機層/水層との2層になっているが、脱水が進行するとともに無水アルカリ金属硫化物が固形物として析出し、非加水分解性有機溶媒中に微粒子状に均一に分散する。さらに、反応系内の加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)のほぼ全てが加水分解するまで継続して脱水処理を行う。
【0026】
このように本発明の工程1は、脱水処理によって水が反応系外に排出されると共に、加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)が加水分解され、同時に無水の固形アルカリ金属硫化物が析出する工程である。よって、脱水処理後に反応系内に過剰な水分が存在した場合、その後の重合工程において、副生成物が多量に生成し、成長末端停止反応を誘発して、目的であるPAS樹脂の高分子量化が阻害されやすくなる問題がある。
【0027】
従って、工程1における脱水処理後の反応系内の全水分量は極力少ない方が好ましく、具体的には、工程1で用いた含水アルカリ金属硫化物(方法1−A)又は含水アルカリ水硫化物(方法1−B)1モル当たり、即ち、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.1モルを超える範囲であって、かつ、0.99モル以下となるような水分量、好ましくは0.6〜0.96モルとなるような水分量であることが好ましい。ここで「反応系内の全水分量」とは、前記化合物(c1)の加水分解に消費された水、固形アルカリ金属硫化物中に微量残存する結晶水、及びその他反応系内に存在する水分の全ての合計質量である。
【0028】
更に、工程1における脱水処理後の反応系内に現存する水分量が反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.11モル以下、好ましくは0.03〜0.11モルとなる割合である。ここで、「反応系内に現存する水分量」とは、反応系内の全水分量のうち、前記化合物(c1)の加水分解に消費された水分を除く水、即ち、結晶水、H
2O等として現に反応系内に存在する水分(以下、これらを「結晶水等」という。)の総量をいう。
【0029】
ここで、工程1の反応は、例えば下記式(1)で表すことができる。
【0031】
上記の式(1)中、x及びyは(x+y)が0.1〜30を満足する数を表し、zは0.01以上0.9未満の数を表し、Mはアルカリ金属原子を表し、Xは前記化合物(c1)を表し、X’はその加水分解物を表す。
【0032】
このように工程1は、固形のアルカリ金属硫化物が生成する際に副生する水を系外に除去すると共に、前記脂肪族系環状化合物(c1)が加水分解して、アルカリ金属塩(c2)と、同時にアルカリ金属水硫化物(b)が生成する。
【0033】
工程1では、前記脂肪族系環状化合物(c1)の仕込み量を調整することで、反応系内の固形分であるアルカリ金属硫化物の量、及びアルカリ金属水硫化物(b)の量を調節することができる。よって、工程1における前記脂肪族系環状化合物(c1)の仕込み量は、含水アルカリ金属水硫化物(方法1−A)又は含水アルカリ金属水硫化物(方法1−B)1モル、すなわち反応系内に存在する硫黄原子合計1モルに対して0.01モル以上0.9モル未満となる割合で用いることが好ましい。特に、PASの高分子量化効果が顕著なものとなる点から含水アルカリ金属水硫化物(方法1−A)又は含水アルカリ金属水硫化物(方法1−B)1モルに対して0.04〜0.4モルとなる割合で用いることがより好ましい。
【0034】
(工程2)
工程2は、工程1を経て得られたスラリーに、更にアルカリ土類金属酸化物を加える工程、である。具体的には、工程1で調整したスラリー(I)に、アルカリ土類金属酸化物を反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.001〜0.1モルの範囲、好ましくは0.005〜0.05の範囲となる割合で加え、撹拌する。その際、アルカリ土類金属酸化物を非プロトン性極性有機溶媒に分散させた分散液として反応系内に加えることが好ましい。
【0035】
かかる前記非プロトン性極性有機溶媒の具体例としては、例えば、NMP、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸のアミド尿素、及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物などを挙げることができる。これらの非プロトン性極性有機溶媒の中でも、NMPはスルフィド化剤の反応性を向上させる点から特に好ましい。また、該非プロトン性極性有機溶媒の量は反応系内に存在する硫黄原子1モルに対して0.5〜5モルとなる割合であることが結晶水等を効率的に溶液中に抽出させ、アルカリ土類金属酸化物と効率よく接触ないし反応させることができるため好ましい。
【0036】
工程2において、反応系内にアルカリ土類金属酸化物を加え、撹拌する際の温度、圧力(ゲージ圧)は特に限定されるものではなく、例えば、温度100〜200℃、好ましくは120〜180℃の範囲、かつ圧力(ゲージ圧)0.000〜0.080MPa、好ましくは0.000〜0.007MPaの範囲が挙げられる。
しかしながら、生産性に優れる点や工程3において副反応を抑制できる点から、密閉した反応容器内で、圧力(ゲージ圧)を負圧(例えば、−0.090〜−0.010MPa)にしてアルカリ土類金属酸化物をスラリー(I)に加え、その後、温度180〜220℃の範囲、圧力(ゲージ圧)0.0〜0.1MPaの範囲、特に温度180〜200℃の範囲、圧力(ゲージ圧)0.0〜0.05MPaの範囲で撹拌することが好ましい。密閉した反応容器内の圧力(ゲージ圧)を負圧にするには、脱気装置を用いて減圧すればよいが、工程1と工程2を同じ反応容器を用い連続的に行う場合には、工程1において脱水反応を80〜220℃の温度範囲で行い、その後、反応容器を密閉してから、120〜180℃の温度範囲に冷却すればよい。
【0037】
なお、本発明においてアルカリ土類金属酸化物は、アルカリ土類金属の酸化物を意味し、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどが挙げられる。このうち、酸化マグネシウム、酸化カルシウムが好ましいものとして挙げられる。なお、アルカリ土類金属の語は、周期表第II族の元素のうちベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウムを指すものとする。
【0038】
工程2では、工程1で脱水しきれず反応系内に残留する結晶水等が誘発する、アルカリ金属水酸化物とポリハロ芳香族化合物(a)との副反応や、上記フェノール系の成長末端停止反応(下記一般式(2)参照)を、反応系内にアルカリ土類金属酸化物を加えることによって抑制することができ、その結果、PPS樹脂の高分子量体が得られるものと考えられる。
【0040】
(工程3)
工程3は、工程2を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物(a)と、アルカリ金属水硫化物(b)と、前記化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)とを、反応させて重合を行う工程、である。より具体的には、本発明における工程3は、工程2のアルカリ土類金属酸化物の添加工程を経て得られたスラリー(II)中で、ポリハロ芳香族化合物(a)と、アルカリ金属水硫化物(b)と、前記化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)とを、反応させて重合を行う工程である(下記式(3)参照。)。
【0041】
【化3】
(式中、Mはアルカリ金属原子を表す。)
【0042】
上記反応において、アルカリ金属塩(c2)の存在割合は、反応系内に存在する硫黄原子の1モルに対して0.01モル以上0.9モル未満、特に0.04〜0.4モルであることが副反応抑制の効果が顕著なものとなる点から好ましい。
【0043】
工程3の反応におけるポリハロ芳香族化合物(a)は、工程3において反応系内に添加してもよいが、前記したとおり、工程1において非加水分解性有機溶媒としてポリハロ芳香族化合物(a)を用いた場合には、そのまま工程2を経て工程3の反応を行うことができる。
【0044】
また、前記アルカリ金属水硫化物(b)は工程2を経てスラリー(II)中に存在するものをそのまま用いて工程2の反応を行うことができる。
【0045】
そしてポリハロ芳香族化合物(a)と前記アルカリ金属水硫化物(b)と前記脂肪族系環状化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)との反応後は、下記式(4)に示すように、該反応に関与した前記脂肪族系環状化合物(c1)の加水分解物がスラリー中の固形のアルカリ金属硫化物とイオン交換反応により、再度、アルカリ金属水硫化物(b)を生成することによって上記式(3)で示される重合反応を進行させることができる。
【0047】
工程3の反応はこのようなサイクルによって固形のアルカリ金属硫化物が徐々に必要量のアルカリ金属水硫化物(b)と前記化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)とに変換され、反応系内にスルフィド化剤として供給されるため、副反応が抑制されることになる。
【0048】
また、この工程3では、リチウム塩化合物を反応系内に加え、リチウムイオンの存在下で反応を行ってもよい。ここで使用できるリチウム塩化合物の具体例としては、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウム、リン酸リチウム、リン酸水素リチウム、リン酸二水素リチウム、亜硝酸リチウム、亜硫酸リチウム、塩素酸リチウム、クロム酸リチウム、モリブデン酸リチウム、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、ブタン二酸リチウム、吉草酸リチウム、ヘキサン酸リチウム、オクタン酸リチウム、酒石酸リチウム、ステアリン酸リチウム、オレイン酸リチウム、安息香酸リチウム、フタル酸リチウム、ベンゼンスルホン酸リチウム、p−トルエンスルホン酸リチウム、硫化リチウム、水硫化リチウム、水酸化リチウム等の無機リチウム塩化合物;リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムポロポキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウムブトキシド、リチウムフェノキシド等の有機リチウム塩化合物が挙げられる。これらの中でも塩化リチウムと酢酸リチウムが好ましく、特に塩化リチウムが好ましい。また、上記リチウム塩化合物は無水物又は含水物又は水溶液として用いることができる。
【0049】
工程3における反応系内のリチウムイオン量は、工程1で用いた含水アルカリ金属硫化物、及び、その後に加えたスルフィド化剤の合計モル数を1モルとした場合に、0.01モル以上0.9モル未満の範囲となる割合であることが工程3における反応性の改善効果が顕著になる点から好ましく、特に有機酸アルカリ金属塩(c)の存在割合が反応系内に存在する硫黄原子の1モルに対して特に0.04〜0.4モルとなる割合であって、かつ、反応系内のリチウムイオン量が有機酸アルカリ金属塩(c)に対して、モル基準で1.8〜2.2モルとなる範囲であることが、ポリアリーレンスルフィド樹脂がより高分子量化する点から好ましい。
【0050】
また、工程3における反応ないし重合反応の原料である前記アルカリ金属水硫化物(b)は、前記した通り、スラリー(II)中の固形分であるアルカリ金属硫化物を徐々にアルカリ金属水硫化物(b)へ変換されることで順次反応系に供給されるものであるが、必要により、工程3の任意の段階でアルカリ金属水硫化物(b)を別途添加してもよい。ここで使用し得るアルカリ金属水硫化物(b)は、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム、又はこれらの水和物等が挙げられる。これらの中でも水硫化リチウムと水硫化ナトリウムが好ましく、特に水硫化ナトリウムが好ましい。
【0051】
また、スラリーの固形分を構成するアルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物(b)、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えてもよい。
【0052】
工程3の反応及び重合を行う具体的方法は、工程1及び工程2を経て得られたスラリー(II)に、必要により、ポリハロ芳香族化合物(a)、アルカリ金属水硫化物(b)、非プロトン性極性有機溶媒、前記リチウム塩化合物を加え、反応温度180〜300℃の範囲、好ましくは200〜280℃の範囲で反応ないし重合させることが好ましい。該反応ないし重合は定温で行うこともできるが、段階的に又は連続的に昇温しながら行うこともできる。その際、反応開始時の圧力(ゲージ圧)は0.000〜0.040MPa、好ましくは0.000〜0.035MPaの範囲で、さらに反応終了時の圧力(ゲージ圧)が0.000〜0.050MPa、好ましくは0.015〜0.035MPaの範囲となるよう反応ないし重合させることが好ましい。
【0053】
また、工程3におけるポリハロ芳香族化合物(a)の量は、具体的には、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより高分子量のPAS樹脂を得られる点から好ましい。
【0054】
工程3の反応ないし重合反応において、更に非プロトン性極性有機溶媒を加えてもよい。反応内に存在する非プロトン性極性有機溶媒の総使用量は、特に制限されるものではないが、反応系内に存在する硫黄原子1モル当たり0.6〜10モルとなる様に非プロトン性極性有機溶媒を追加することが好ましく、更にはPAS樹脂のより一層の高分子量化が可能となる点から2〜6モルの範囲が好ましい。また、反応容器の容積当たりの反応体濃度の増加という観点からは、反応系内に存在する硫黄原子1モル当たり1〜3モルの範囲が好ましい。
【0055】
また、工程3における反応ないし重合は、その初期においては、反応系内の水分量は実質的に無水状態となる。即ち、工程1における脱水工程で前記脂肪族系環状化合物(c1)の加水分解に供された水は、スラリー中の固形分が消失した時点以後、該加水分解物が閉環反応され、反応系内に出現することになる。従って、本発明の工程3では前記固形のアルカリ金属硫化物の消費率が10%の時点における該重合スラリー中の水分量が0.2質量%以下となる範囲であることが、最終的に得られるPAS樹脂の高分子量化の点から好ましい。
【0056】
(反応容器)
前記工程1で用いる反応容器としては、撹拌装置、蒸気留出ライン、コンデンサー、デカンター、留出液戻しライン、排気ライン、硫化水素捕捉装置及び加熱装置などから成る脱水装置を備えた反応容器が挙げられる。
また工程2で用いる反応容器としては、添加槽、攪拌装置、加温装置、加圧ライン及び排気ラインなどから成るアルカリ土類金属酸化物投入装置を備えた反応容器が挙げられる。
さらに工程3で用いる反応容器としては、PAS重合で通常用いられる重合反応容器を用いることができる。
各工程をそれぞれの工程を行うための専用の反応容器を用いて行ってもよいが、前記脱水装置およびアルカリ土類金属酸化物投入装置を備えた重合反応容器を用い、工程1〜3を同じ容器で連続して行うことが生産性の観点から好ましい。
工程1〜工程3で使用する反応容器の材質は、特に限定されるものではないが、接液部がチタン、クロム、ジルコニウム等で作られた容器を用いることが好ましい。
【0057】
工程1〜3の各工程は、バッチ方式、回分方式あるいは連続方式など通常の各重合方式を採用することができる。また、各工程何れにおいても、不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。使用する不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられ、中でも経済性及び取扱いの容易さの面から窒素が好ましい。
【0058】
(後処理工程)
重合工程(工程3)を経て得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、当業者が通常用いる方法であればよく、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、又は酸あるいは塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法、あるいは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPAS樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PAS樹脂や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、あるいは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法等が挙げられる。
【0059】
なお、上記(1)〜(3)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0060】
このようにして得られたPAS樹脂は、そのまま各種成形材料等に利用可能であるが、空気あるいは酸素富化空気中あるいは減圧条件下で熱処理を行い、酸化架橋させてもよい。この熱処理の温度は、目標とする架橋処理時間や処理する雰囲気によっても異なるものの、180℃〜270℃の範囲であることが好ましい。また、前記熱処理は押出機等を用いてPAS樹脂の融点以上で、PAS樹脂を溶融した状態で行ってもよいが、PAS樹脂の熱劣化の可能性が高まるため、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。
【0061】
(コンパンド)
以上詳述した本発明の製造方法によって得られたPAS樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形の如き各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物に加工することができる。
【0062】
また、本発明により得られたPAS樹脂は、更に強度、耐熱性、寸法安定性等の性能を更に改善するために、各種充填材と組み合わせたPAS樹脂組成物として使用することができる。充填材としては、特に制限されるものではないが、例えば、繊維状充填材、無機充填材等が挙げられる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等が使用できる。また無機充填材としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、バイロフェライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタルパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用できる。また、成形加工の際に添加剤として離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を含有せしめることができる。
【0063】
更に、本発明により得られたPAS樹脂は、用途に応じて、適宜、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂、あるいは、ポリオレフィン系ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマーを配合したPAS樹脂組成物として使用してもよい。
【0064】
本発明の製造方法で得られるPAS樹脂は、PAS樹脂の本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等の射出成形若しくは圧縮成形、若しくはコンポジット、シート、パイプなどの押出成形、又は引抜成形などの各種成形加工用の材料として、あるいは繊維若しくはフィルム用の材料として幅広く有用である。
【実施例】
【0065】
(フェノール生成量の測定)
ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製「GC−2014」及び財団法人化学物質評価研究機構製カラム「G300」)を用い、重合後のスラリー中に存在するフェノールを定量した。なお、フェノール生成量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子に対するモル%で表記した。
【0066】
(溶融粘度の測定法)
PPS樹脂の溶融粘度(η)は、フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT500D」)を用い、300℃、1.96MPa、L/D=10で6分間保持した後に測定した値である。
【0067】
(実施例1)
・工程1
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp−DCB33.201kg(226モル)、NMP3.648kg(36.8モル)、48.23質量%NaSH水溶液26.733kg(230モル)、及び48.70質量%NaOH水溶液18.42kg(226モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間かけて昇温して、水26.186kgを留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出下p−DCBはデカンターで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水反応後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がDCB中に分散したスラリー状態であり、水分の残存量は220g(12.2モル)であった。以下、該スラリー状態の組成物をスラリー(I)と記す。
なお、水分量の測定はカールフィッシャー法を用いて行った。
【0068】
・工程2
続いて、スラリー(I)を含むオートクレーブ内を内温160℃、ゲージ圧−0.055MPaにして、予め、酸化マグネシウム492g(12.2モル)をNMP46.124kg(465モル)に分散させた分散液をオートクレーブ内に加えた後、撹拌しながら、内温200℃、ゲージ圧0.020MPaまで昇温して、スラリー(II)を調整した。
【0069】
・工程3
続いて、スラリー(II)を含むオートクレーブ内温を200℃から230℃まで3時間かけて昇温し、3時間撹拌した後、250℃まで40分かけて昇温し、1時間撹拌した。最終ゲージ圧を表1に示した。また、得られた反応生成物を解析し、副反応頻度の指標となるフェノール生成量を表1に示した。
・後処理工程
冷却後に得られたスラリー500gに70℃のイオン交換水1000gを加えて、10分間撹拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水1000gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水1000g、25℃の5%酢酸水溶液を加えて、スラリーのpHを4.0に調整した後、10分間撹拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水1000gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水1000gを加えて、10分間撹拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水1000gを加えケーキ洗浄を行った。その後、120℃で4時間乾燥し、PPS樹脂を得た。得られた樹脂の溶融粘度を表1に示した。
【0070】
(実施例2)
工程2において、酸化マグネシウムの代わりに酸化カルシウム684g(12.2モル)としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。工程3における最終ゲージ圧を表1に示した。また、得られた反応生成物を解析し、副反応頻度の指標となるフェノール生成量と、さらに、得られたPPS樹脂の溶融粘度を表1に示した。
【0071】
(比較例1) 特開平8-231723(無水硫化ソーダ法)による製造例
工程2において、酸化マグネシウムを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。工程3における最終ゲージ圧を表1に示した。また、得られた反応生成物を解析し、副反応頻度の指標となるフェノール生成量と、さらに、得られたPPS樹脂の溶融粘度を表1に示した。
【0072】
(比較例2)
工程2において、酸化マグネシウムの代わりに塩化カルシウム1394g(12.2モル)としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。工程3における最終ゲージ圧を表1に示した。また、得られた反応生成物を解析し、副反応頻度の指標となるフェノール生成量と、さらに、得られたPPS樹脂の溶融粘度を表1に示した。
【0073】
(比較例3)
工程2において、酸化マグネシウムの代わりに酸化アルミニウム1244g(12.2モル)としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。工程3における最終ゲージ圧を表1に示した。また、得られた反応生成物を解析し、副反応頻度の指標となるフェノール生成量と、さらに、得られたPPS樹脂の溶融粘度を表1に示した。
【0074】
【表1】
表中、「フェノール生成量(モル%)」は硫化ナトリウム(Na
2S)及びNaOHの合計1モルに対するフェノール生成量として計算した値。