(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に少なくとも背面電極層と化合物半導体からなる光吸収層と透明導電膜層との順で積層された積層構造を有する構造体に対し、パルスレーザー光を前記積層構造の最上層の所定箇所に照射しつつライン状に走査するとともに、1回のライン走査では溝形成が達成されない程度に1パルスあたりのレーザーエネルギー密度を低減させた状態で、かつ、次パルスがどの程度の時間間隔後に照射されるかを決めるパルス繰り返しと、照射面における前記パルスレーザー光のビーム重なりとを一定値以下に抑えた所定の照射条件で、前記積層構造の最上層の同じ箇所を複数回ライン走査することにより、前記積層構造のうち少なくとも前記光吸収層から前記透明導電膜層までの積層構造部分の前記所定箇所にライン状の所定幅の溝を形成して除去するレーザースクライブを行う工程を少なくとも有するレーザースクライブ工程を含み、
前記所定の照射条件は、
前記パルスレーザー光の前記1パルスあたりのパルスエネルギー密度(単位J/cm2)と、次パルスがどの程度の時間間隔後に照射されるかを決める前記パルス繰り返し(単位Hz)と、次パルスが前のパルスとどの程度重なった箇所に照射されるかを決める下記で定義される前記ビーム重なり(単位%)
[{(ビーム直径)−(次パルスの移動距離)}/(ビーム直径)]×100
ただし、上記においてビーム直径は前記パルスレーザー光の試料照射面におけるレーザービームスポットの直径
との計三つの主因子の積で表される数値が、前記光吸収層を含む積層構造部分の溝の側面上部が盛り上がって形成されるリムが前記パルスレーザー光の未照射部位の前記最上層の表面から高さ100nmより大となるときの値を上限値とし、0を下限値とする範囲で表される条件であり、
前記溝の部分が除去された前記積層構造部分を有し、かつ、前記基板上の前記背面電極層を含む構造体を薄膜太陽電池セルとし、複数の前記薄膜太陽電池セルが互いに電気的に接続された化合物薄膜太陽電池を製造することを特徴とする化合物薄膜太陽電池の製造方法。
前記パルスレーザー光は、パルス幅がピコ秒又はフェムト秒オーダーの超短パルスレーザーであることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の化合物薄膜太陽電池の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンで無尽蔵のエネルギー源である太陽光発電に大きな期待が寄せられるようになり普及が進められている。特に、薄膜太陽電池は、従来の結晶シリコン(Si)太陽電池に比べて、大面積化が可能で原料が少量で済み、原料純度も超高純度が必要ないことなどから、省資源・低コスト化に有利である。その中でも、銅(Cu)−インジウム(In)−ガリウム(Ga)−セレン(Se)の四元化合物を光吸収層に用いたCIGS化合物薄膜太陽電池をはじめとする化合物薄膜太陽電池は、上記の省資源・低コスト化に加えて、光劣化がなく長期信頼性に優れる上、潜在的に高い変換効率が期待されることから、その生産量を急速に伸ばしている。
【0003】
従来のCIGS化合物薄膜太陽電池の基本的な製造方法は、まず、ソーダガラスなどの基板に背面電極層(モリブデン膜(Mo))を製膜し、続いてその上にp型CIGS光吸収層(Cu(In
1-xGa
x)Se
2、二セレン化銅インジウムと二セレン化銅ガリウムを(1−x):xの比で合成した混晶)、バッファ層(CdSなど)、高抵抗バッファ層(ZnOなど)、n型酸化物透明導電膜層(ZnO:Alなど)の順に積層することで、CIGS化合物太陽電池を製造する。基板には、ガラス以外の樹脂や金属箔を使う場合もある。各薄膜層の典型的な厚みは、背面電極層:約1μm弱、光吸収層:約2μm、バッファ層:約50−100nm、高抵抗バッファ層:約100nm、透明導電膜層:約1μm弱であり、多層膜構造となっている。
【0004】
このCIGS化合物薄膜太陽電池のような化合物薄膜太陽電池が実用に供されるため大面積化されるモジュール製造工程には、必ず分割溝を形成する工程が含まれる。これは、化合物薄膜太陽電池の面積が大きくなると、導電膜層での直列抵抗成分が増大し、これがジュール損失となり化合物薄膜太陽電池の発電効率を低下させるためである。そこで、複数の幅の狭い短冊状に分離された薄膜太陽電池セルを各々の長軸方向が一致するように配置し、隣接する太陽電池セルの表面電極と背面電極とを接触させて直列接続した集積型モジュールや、ある程度の面積に分割し表面集束電極により接続したグリッド型モジュールなど、薄膜太陽電池モジュールとして動作させることで、導電膜層での直接抵抗成分の増大を低減し、化合物薄膜太陽電池の発電効率の低下を抑制している。
【0005】
このために分割溝を形成するスクライブ工程は、集積型モジュールの場合は背面電極層除去スクライブ工程である第一のスクライブ工程と、高抵抗バッファ/バッファ/光吸収層除去スクライブ工程である第二のスクライブ工程と、透明導電膜/高抵抗バッファ/バッファ/光吸収層除去スクライブ工程である第三のスクライブ工程の、計3種類のスクライブ工程からなる。グリッド型モジュールの場合のスクライブ工程は、透明導電膜/高抵抗バッファ/バッファ/光吸収層除去スクライブ工程の1種類のみである。
【0006】
上記集積化のためのスクライブ工程には、マスク蒸着法、フォトエッチング法、メカニカルスクライブ法およびレーザースクライブ法等が使用される。マスク蒸着法では、成膜時に基板とマスクを密着させる必要があり、そのために光吸収層を損傷して漏れ電流が生じたり、太陽電池モジュールの大面積化が困難であるという問題がある。フォトエッチング法においては、可視光領域で透過率の比較的高いレジストを用いたとしても太陽光の吸収損失は避けられず、レジストを除去する場合にはエッチング液の処理工程も必要となり、環境負荷や生産コストの増大を招く恐れがある。メカニカルスクライブ法やレーザースクライブ法では上記懸念がなく、実際にCIGS化合物薄膜太陽電池のパターニング工程に利用されている。
【0007】
一般に、薄膜太陽電池の変換効率は、大面積モジュール化により数%以上の劣化が報告されている。この発電ロスの主原因の一つは、分割溝が発電に寄与しないデッドエリアとなるためである。そこで、太陽電池の更なる高効率化のためにはデッドエリアの低減、すなわち分割溝幅の低減が重要となってくる。しかし、メカニカルスクライブ法では刃を接触させてスクライブするため、溝幅を刃の厚み以下に低減することは原理的に難しい。また、今後益々ニーズが高まるであろう軽量可撓性を有するポリマー基板などを利用したフレキシブル化についても、刃を接触させて加工するメカニカルスクライブ法では可撓性基板への適用が難しくなる問題がある。
【0008】
そこで、Si太陽電池をはじめ各種太陽電池では、分割溝幅低減に最も効果があり大面積化・フレキシブル化にも容易に対応可能なレーザースクライブ法の利用が進められている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。また、シリコン系集積型薄膜太陽電池についてはレーザースクライブの際、水や氷粒を同時に照射して熱ダメージ層を除去する方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について図面と共に説明する。
図1は、本発明に係る化合物薄膜太陽電池の一実施形態の断面図を示す。同図において、本実施形態の化合物薄膜太陽電池10は、基板11上に、背面電極層12、化合物半導体からなる化合物半導体光吸収層13、バッファ層14、高抵抗バッファ層15及び透明導電膜16がこの順で積層された多層膜構造である。また、この化合物薄膜太陽電池10には、いずれもレーザー光線を走査してライン状の溝を形成する3種類のレーザースクライブ工程により別々に3種類の分割溝が形成されている。すなわち、背面電極層除去レーザースクライブ工程(以下、第1のレーザースクライブ工程という)で所定の溝幅の分割溝(以下、これを「第一分割溝」という)17が形成され、高抵抗バッファ/バッファ/光吸収層除去レーザースクライブ工程(以下、第2のレーザースクライブ工程という)で所定の溝幅の分割溝(以下、これを「第二分割溝」という)18が形成され、透明導電膜/高抵抗バッファ/バッファ/光吸収層除去レーザースクライブ工程(以下、第3のレーザースクライブ工程という)で所定の溝幅の分割溝(以下、これを「第三分割溝」という)19が形成され、複数の領域(複数の太陽電池セル)に分離されている。
【0026】
更に詳しくは、第一分割溝17は、基板11上に背面電極層12を製膜後に第1のレーザースクライブ工程により背面電極層12のみに形成され、背面電極層12のみを短冊状の複数の領域に分割する。続いて、分割後の背面電極層12上に化合物半導体(例えばCIGS)の光吸収層13、バッファ層14、高抵抗バッファ層15の順で積層構造を形成する。第二分割溝18は、この積層構造に対して、第2のレーザースクライブ工程により背面電極層12にはダメージを与えないようにして形成され、化合物半導体光吸収層13、バッファ層14及び高抵抗バッファ層15の積層構造のみを短冊状の複数の領域に分割する。その後、分割後の高抵抗バッファ層15の上に透明導電膜層16を製膜する。第三分割溝19は、第3のレーザースクライブ工程により、下地層にダメージを与えないように形成され、化合物半導体光吸収層13、バッファ層14、高抵抗バッファ層15及び透明導電膜層16の積層構造のみを短冊状の複数の領域に分割する。本実施形態の化合物薄膜太陽電池10は、このように第一分割溝17、第二分割溝18及び第三分割溝19により分割された複数の領域(複数の太陽電池セル)が、互いに直列、並列、又は直並列に接続されて集積型モジュールを構成する。
【0027】
なお、グリッド型モジュール構造の化合物薄膜太陽電池では、基板11上に背面電極層12から透明導電膜層16までの積層構造を形成した後に、透明導電膜/高抵抗バッファ/バッファ/光吸収層除去レーザースクライブ工程を施して分割溝を形成して分割する。以上のように分割された複数の領域(複数の太陽電池セル)が、互いに直列、並列、又は直並列に接続されてグリッド型モジュールを構成する。すなわち、グリッド型モジュール構造の化合物薄膜太陽電池を製造する場合に用いるスクライブ工程は、透明導電膜/高抵抗バッファ/バッファ/光吸収層除去レーザースクライブ工程のみである。
【0028】
基板11は、この種の用途に用いられる従来公知のものであれば特に限定されることはなく、いかなるものでも用いることができる。特に、レーザースクライブ法は、メカニカルスクライブのように刃を使った接触分割とは異なり、撓みのある薄い金属箔やポリマー基板を用いた薄膜太陽電池の分割・大面積モジュール化も容易に対応でき、フレキシブル基板も利用可能である。好ましくは、化合物半導体光吸収層13と熱膨張係数が近く、製膜温度に十分耐えられる基板がよい。
【0029】
基板11上に形成される背面電極層12は、この種の用途に用いられる従来公知のものであれば特に限定なく適用できる。通常、導電率の高い金属膜で形成することができる。例えば、CIGS薄膜太陽電池の場合は、厚さ約1μm程度のモリブデン(Mo)の金属膜を用いている。Moは融点が2600℃を超える高融点金属であり、このような高融点金属はレーザーアブレーション閾値(レーザー照射によるアブレーションを起こすのに必要なレーザーエネルギー)が高くなる傾向にある。よって、その後の化合物半導体光吸収層13以上の上層の除去のためのスクライブ工程の際、高融点金属膜のアブレーションをゼロまたはアブレーション速度を低く抑えることが可能となり、上層のみを選択的にレーザーアブレーションできるためより好ましい。また、基板11と背面電極層12にも透明導電膜を用いれば、両面受光型の太陽電池とすることもできる。
【0030】
背面電極層12上に形成される化合物半導体光吸収層13は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する作用を有し、厚さ2μm程度までの半導体薄膜で形成される。この半導体薄膜としては、この種の用途に用いられる従来公知のものであれば特に限定なく適用することができるが、とりわけ光劣化がなく長期信頼性に優れる上、潜在的に高い変換効率が期待されるCIGS半導体膜を適用することが好ましい。
【0031】
化合物半導体光吸収層13上に積層されるバッファ層14及び高抵抗バッファ層15は、化合物半導体光吸収層13と透明導電膜層16との界面のバンド不整合を緩和し、電池変換効率向上のために導入される。例えばCIGS太陽電池の場合、CIGS光吸収層の上に50〜100nmの硫化カドミウム(CdS)層をバッファ層14とし、さらにその上にノンドープで低キャリア濃度の酸化亜鉛(ZnO)層を約100nm程度積層して高抵抗バッファ層15とすることがバンド整合上好ましい。なお、バッファ層14及び高抵抗バッファ層15は、必要に応じて設けないようにしてもよい。
【0032】
上記高抵抗バッファ層15または化合物半導体光吸収層13上に直接形成される透明導電膜層16は、この種の用途に用いられる従来公知のものであれば特に限定されることなく、いかなるものでも用いることができる。たとえば、ZnO、酸化インジウムスズ(ITO)等からなる低抵抗化に十分な厚さ数百nm〜1μm程度の透明導電膜を透明導電膜層16として形成することができる。
【0033】
化合物薄膜太陽電池10は、第二分割溝18及び第三分割溝19の各溝幅が10μm〜40μmで、分割溝側面上部が盛り上がって形成されるリムが、パルスレーザー未照射部位の最上層の表面から高さ0〜100nmであることを特徴とする。また、化合物薄膜太陽電池10は、透明導電膜/高抵抗バッファ/バッファ/光吸収層の積層構造にライン状の分割溝を形成して分離するレーザースクライブ工程においてメカニカルスクライブ法を用いて同一面積にモジュール化した太陽電池変換効率を基準値とすると、変換効率が上記基準値から1%以上減少しない特性を有する。
【0034】
次に、本発明の化合物薄膜太陽電池の製造方法の実施形態について
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、本発明に係る化合物薄膜太陽電池の製造方法の一実施形態の各工程の素子断面図、
図3は、本発明に係る化合物薄膜太陽電池の製造の際に用いるレーザースクライビング装置の一例の構成図を示す。
【0035】
まず、
図3のレーザースクライビング装置について説明する。レーザースクライビング装置100は、制御用コンピュータ101、パルスレーザー光源102、アッテネータ103、ミラー104、ガルバノ走査ミラー105、f−θレンズ106を備え、後述の積層構造体の試料107にパルスレーザーを照射し、後述の分割溝を形成するレーザースクライブ工程を行う構成である。
【0036】
レーザースクライビング装置100においては、試料107に分割溝を形成するレーザースクライブ工程の際に、パルスレーザー光源102とガルバノ走査ミラー105とに制御用コンピュータ101から信号入力し、パターン中の各ポイントでパルスレーザーが照射されるように、パルスレーザー光源102とガルバノ走査ミラー105を制御する。パルスレーザー光源102は、パルス幅がナノ秒オーダーのパルスレーザー又はパルス幅がピコ秒やフェムト秒オーダーの超短パルスレーザーを出射する。
【0037】
アッテネータ103は、入射するパルスレーザー光を適切なレーザーフルエンスに減光する。ミラー104は、入射するパルスレーザー光を全反射して光路を変更させる。ガルバノ走査ミラー105は、制御用コンピュータ101からの制御信号によりf-θレンズ106の光軸を可変して試料107の試料面にパターン描画できる構成とされており、ミラー104を介して入射するパルスレーザー光を、f-θレンズ106を通して試料107に照射しつつ走査する。
【0038】
このときパルスレーザー光は試料107の表面上を試料107の両端部の一方から他方まで所定方向に走査することを、予め設定された複数回数繰り返して1ラインの走査を終えると、続いて、上記所定方向と直交する方向に所定間隔移動した後次のラインの走査を行うことを繰り返すように制御され、後述する所定の層(一層又は複数層)を切断して分割溝を複数形成する。また、このとき、制御用コンピュータ101は、後述するようにパルスレーザー光が超短パルスレーザー光の場合は、超短パルスレーザー光の「1パルス当りのパルスエネルギー密度」、「パルス繰り返し」及び「ビーム繰り返し」の三つの主因子の積の数値に応じた照射条件を設定している。なお、
図3に示す108はレーザースクライブ後の化合物薄膜太陽電池(試料107)の上面を示し、白線がレーザースクライブ工程で形成された分割溝を示し、この分割溝で複数の短冊状の領域に分割されていることが分かる。なお、パルスレーザー光源102は背面電極層のみをスクライブする場合など、必要に応じてナノ秒レーザーパルスを出力することも可能である。
【0039】
次に、
図2を参照してレーザースクライビングの対象となる試料107の構造の変化とレーザースクライビング工程について説明する。まず、
図2(a)に示すように、基板11上に形成された背面電極層12を形成する。続いて、この構造の試料107に対して第1のレーザースクライブ工程により、
図2(b)に示すように、背面電極層12にのみレーザー光線をライン状に走査して走査部分の背面電極層12のみを除去して第一分割溝17を形成する。これにより、背面電極層12が複数の短冊状の領域21a、21b、21c、21d等に分割される。かかる第1のレーザースクライブ工程においては、基板11がレーザー波長に対して透明な場合は基板11、背面電極層12のどちら側からでも、また基板11がレーザー波長に対して不透明な場合には必ず背面電極層12側からレーザー照射することにより第一分割溝17を形成する。
【0040】
以上のように背面電極層12が短冊状に分離されるとき、各背面電極層領域21a、21b、21c、21d間で絶縁できるよう背面電極層12が完全に分離され、下の基板11が蒸発・溶融など形状や絶縁性へのダメージがないようにレーザー照射条件を最適化することが重要である。そのためには基板11が光吸収を有しない,あるいは低い光吸収のレーザー波長を用いることが好ましい。ただし、一般に基板11に付着している背面電極層12に比べ、基板11自体の方がレーザーアブレーション閾値が高い場合が多く、次の積層膜中のターゲットとなる膜のみを選択的に除去する必要のある第2のレーザースクライブ工程、及び第3のレーザースクライブ工程と比較すると、レーザーのパルス幅などの条件に対するプロセスウィンドウは広い。実際、本実施形態においても、第1のレーザースクライブ工程ではパルス幅がナノ秒オーダーのレーザーパルスを用いて問題がなく、後の第2のレーザースクライブ工程、及び第3のレーザースクライブ工程とは異なり、蓄熱を避けるより、高繰り返しのレーザーパルスを用いた高速化の方が重要と考えられる。
【0041】
続いて、
図2(c)に示すように、分割された背面電極層領域21a、21b、21c、21d上と露出した基板11上に化合物半導体光吸収層13を製膜し、更にその上に
図2(d)に示すようにバンド整合のため必要であればバッファ層14及び高抵抗バッファ層15を積層した構造体の試料107を用意する。続いて、化合物半導体光吸収層13、バッファ層14及び高抵抗バッファ層15の積層部分で、かつ、背面電極層領域21a〜21dの上方位置に対して第2のレーザースクライブ工程が施される。この第2のレーザースクライブ工程では、
図2(e)に示すように、背面電極層領域21a〜21dの上方位置に存在する高抵抗バッファ層15に超短パルスレーザーをライン状に走査して、背面電極層領域21a〜21dにダメージを与えることなくレーザー光走査部分の上記積層部分のみをライン状に除去して第二分割溝18を形成し、上記積層部分を複数の短冊状の領域22a、22b、22c、22d等に分割する。
【0042】
この第2のレーザースクライブ工程で重要なのは、太陽電池効率劣化の主要因となる化合物半導体光吸収層13への熱ダメージを可能な限り低減する実施条件を選択することである。なお、レーザー波長については、アブレーション除去の最下層である化合物半導体光吸収層13が線形あるいはアブレーションに十分な程度の非線形光吸収を示す波長であれば問題ない。例えば、化合物半導体光吸収層13がCIGS光吸収層の場合は、Inサイトを置換するGa濃度の増加に伴いバンドギャップがほぼ連続的に1.01eVから1.64eVまで変化させることができ、現在高効率が確認されているバンドギャップは約1.15eV(波長約1.1μm)である。この場合、レーザー波長としてNd:YAGレーザーの基本波(波長1.064μm)やその2倍波、3倍波、4倍波といった高調波においても高い線形吸収を有することから本発明に効率的に利用することができる。
【0043】
一般に、レーザー照射によりアブレーション除去される溝周辺部位には、アブレーション除去に用いられ散逸した以外の残余エネルギーが熱拡散する結果、溝周辺部位にいわゆるリムや変性相などの熱ダメージ層が形成されてしまう。例えばCIGS薄膜太陽電池の場合、光吸収層を形成するCIGSの融点は比較的低く(三元系CuInSe
2融点986℃、CuGaSe
2融点1070℃)、背面電極層を形成するZnO(融点 約1975℃(加圧下))やMo(融点約2600℃)に比べ、レーザーアブレーション後の残余エネルギーの溝周辺部分への熱拡散による熱で容易に溶融してしまう傾向がある。その結果、溝側面上部が盛り上がって形成されるリムや、溝側面部分へ一度溶融してしまったCIGSの変性相が確認される場合が多々見られる。前者のリム形成は太陽電池のモジュール化の弊害となり、後者のCIGS変性相は成分偏析などを内包し電流漏れの原因となるなど太陽電池効率の著しい低下をもたらす主要因となる。よって、化合物半導体光吸収層13への熱ダメージを低減することは効率の大幅な劣化を防ぐために大変重要と言える。
【0044】
前記の残余エネルギーを低減するには、レーザーパルス幅をピコ秒やフェムト秒といったいわゆる超短パルス化し、吸収されたレーザー光エネルギーが格子緩和により熱拡散する以前にアブレーション除去加工を終えコールドアブレーションを実現することで、アブレーション時の熱流動変形によるリム形成を大幅に抑制する効果が期待できる。さらに、熱拡散以前のアブレーションにより光エネルギーの大半が消費されることにより、変性相といった熱ダメージ層の発生も低減することができると考えられる。
【0045】
そこで、第2のレーザースクライブ工程におけるレーザースクライビングに必要なパルスエネルギー密度(単位J/cm
2)の下限値としては、複数パルスの蓄熱効果に頼ることなく、単一パルス照射で除去対象層のレーザーアブレーションを起こすのに必要な閾値以上のパルスエネルギー密度とする。また、本発明では、1回のレーザー光又は太陽電池走査ではライン状分割溝が達成されるほどの高いパルスエネルギー密度では蓄熱による損傷・電池効率劣化が引き起こされてしまう危惧があるため、同じ箇所に対して2回以上の走査が必要となる程度のパルスエネルギー密度とするのがよい。
【0046】
しかし、後の比較例2で示されるように、レーザー光源の超短パルス化のみでは、融点が低く多成分化合物であるCIGSのような化合物半導体の溶融・偏析などの熱変性を電池変換効率の大幅な劣化が見られない程度にまで低減することは難しい。実際に後述する比較例2では、1パルスあたりのエネルギー密度を低くした条件にもかかわらず、高さ1μmを超える溝側面上部へのリム形成が起こってしまっており、明らかにCIGS化合物半導体光吸収層の溶融・固化による変性相の残存が確認される。
【0047】
これは、太陽電池産業におけるレーザースクライブ工程が、各太陽電池セル間の分離を図るため高速なライン走査を要し、単一レーザーパルスだけではなく高繰り返しでの複数レーザーパルスの連続照射を必要とするためである。この高繰り返しでの複数レーザーパルスの連続照射により、残余エネルギーが照射部位周辺に熱となって蓄熱される結果、溝周辺部位の部分的な変性・溶融が起こってしまうと推察される。
【0048】
超短パルスレーザーを利用したスクライブでの前記蓄熱の程度は、「1パルスあたりのパルスエネルギー密度」とともに、次パルスがどの程度の時間間隔後に照射されるかを決める「パルス繰り返し」、さらに次パルスが前のパルスとどの程度重なった箇所に照射されるかを決める「ビーム重なり」が主因子となって決まる。なお、「ビーム重なり」は下記の
[{(ビーム直径)−(次パルスの移動距離)}/(ビーム直径)]×100
で定義される。また、「ビーム直径」はレーザー光の試料照射面におけるレーザービームスポット(集光痕)の直径である。
【0049】
そこで、本発明では、「1パルスあたりのパルスエネルギー密度(単位J/cm
2)」、「パルス繰り返し(単位Hz)」、「ビーム重なり(単位%)」の計三つの主因子の積を蓄熱の目安として数値化し、分割溝の側面上部が盛り上がって形成されるリムが、パルスレーザー光の未照射部位の最上層の表面から高さ100nmより大となるときの数値をレーザー照射条件の上限値とし、上限値以下の値を与えるレーザー照射条件を見出した。なお、レーザー照射条件の上記数値の下限値は、光吸収層のアブレーションを起こし、かつ、できるだけ小なる値が望ましく、例えば「0」である。この「0」は「ビーム重なり」が0%のときの値である。
【0050】
続いて、
図2(f)に示すように、分割された複数の短冊状の積層部分領域22a、22b、22c、22d上と背面電極層領域21a、21b、21c、21dの露出した部分の上に透明導電膜層16を製膜した構造体の試料107を用意する。続いて、この試料107に対して第3のレーザースクライブ工程が施される。この第3のレーザースクライブ工程では、背面電極層領域21a〜21dの上方位置に存在する透明導電膜層16に超短パルスレーザー光線をライン状に走査して、
図2(g)に示すように、背面電極層21a〜21dにダメージを与えることなく、化合物半導体光吸収層13、バッファ層14、高抵抗バッファ層15及び透明導電膜層16の積層構造部分をライン状に除去して第三分割溝19を形成する。これにより、上記積層構造部分は
図2(h)の上面図に示すように、複数の短冊状の領域23a、23b、23c等に分割され、第三分割溝19の底面には背面電極層21a〜21dの各一部が露出する。第3のレーザースクライブ工程は、例えば上述した第2のレーザースクライブ工程と同じレーザー照射条件を用いて実施される。
【0051】
このようにして、
図1に示した断面構造の化合物薄膜太陽電池10が製造される。本実施形態の化合物薄膜太陽電池の製造方法によれば、モジュール化を阻害する分割溝側面上部へのリム構造の形成が殆どなく、融点が比較的低い化合物半導体光吸収層への溶融などの熱ダメージを大幅に低減でき、熱ダメージ層に起因したセル変換効率の低下を抑制した高品質の化合物薄膜太陽電池を製造することができる。また、本実施形態の化合物薄膜太陽電池の製造方法によれば、非接触のレーザースクライブ法を利用しているため、可撓性基板上に作製した化合物薄膜太陽電池も容易にスクライブして、大面積モジュール化した集積型モジュール構造の化合物薄膜太陽電池を製造することができる。
【0052】
なお、グリッド型モジュール構造の化合物薄膜太陽電池を製造するには、前述した3種類のレーザースクライブ工程ではなく、上記第3のレーザースクライブ工程と同様のレーザー照射条件を用いた単一のレーザースクライブ工程(一般にはエッジデリーションといわれる工程)により、基板(ガラス/金属等材質・面積は問わない)上に形成された背面電極層の上の化合物半導体光吸収層から透明導電膜層までの積層構造部分の端部を所定幅だけ除去して薄膜太陽電池セルとする。
【0053】
図8はグリッド型モジュール構造の化合物薄膜太陽電池の一例の構成を示す。
図8において、基板11a、11b、11cとその上の背面電極層12a、12b、12cとからなる各構造部分は、レーザースクライブ工程時にはそれぞれ分離されて別々に設けられている。そして、背面電極層12a、12b、12cの上には同じ幅で化合物半導体光吸収層13a、13b、13cと、バッファ層14a、14b、14cと、高抵抗バッファ層15a、15b、15cと、透明導電膜層16a、16b、16cとがこの順で積層されている。レーザースクライブ工程では本実施形態の前述した第3のレーザースクライブ工程と同様のレーザー照射条件に従い超短パルスレーザー光により、背面電極層の上の積層構造部分の所定幅の端部に
図8に31で示すように溝を形成して除去し,薄膜太陽電池セルとする。その後、複数の薄膜太陽電池セルは、
図8に示すように互いに導線32で電気的に接続され(直列・並列・直並列を問わない)、グリッド型モジュール構造の化合物薄膜太陽電池とされる。このとき隣接する薄膜太陽電池セルの光吸収層及び透明導電膜層は上記のレーザースクライブによって電気的に接触しないようになっている。なお、グリッド型モジュール構造の化合物薄膜太陽電池において2つの薄膜太陽電池セル間の電気的接続は、一方の薄膜太陽電池セルの背面電極層上の電極33と他方の薄膜太陽電池セルの透明導電膜層上に形成した表面電極34とを導線32で接続することで行われる。また、溝の溝幅(端部31の幅)は例えば10μm〜40μmであるが、これに限定されない。
【0054】
次に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、種々の変形例も包含する。
[実施例1]
【0055】
本実施例及び後述する実施例2、比較例1及び2はいずれもグリッド型モジュール構造の化合物薄膜太陽電池を製造する例であり、レーザースクライブ工程は1種類のみ(すなわち、透明導電膜/高抵抗バッファ/バッファ/CIGS光吸収層除去レーザースクライブ工程のみ)である。まず、
図2(a)に示したように、基板11の上に背面電極層12となる金属としてMoを800nm程度積層した。続いて、化合物半導体光吸収層13としてCIGS光吸収層を約2μmの厚さで製膜し、その上にバッファ層14であるCdS層と高抵抗バッファ層15であるZnO層とを各々数十nmの厚さで順次積層し、更に透明導電膜層16としてAlドープのZnO透明導電膜(ZnO:Al)を約700nmの膜厚で積層した。その後に、フェムト秒レーザー光をZnO:Alの表面にライン状に走査して、CIGS光吸収層から透明導電膜層(ZnO:Al)までの積層部分を複数の領域に分割するレーザースクライブ工程を行った。この際、溶融温度が比較的低く熱に弱いCIGS光吸収層の熱ダメージを少しでも低減するため、レーザー光としては、パルス幅200fs(フェムト秒)の超短パルスレーザーを利用した。レーザー波長については1.03μmの近赤外波長を用いた。この波長は、CIGSが光吸収を有し効率良くCIGS光吸収層をアブレーションできる波長である。
【0056】
熱ダメージによる電池変換効率の劣化を抑えるため重要なのは、パルスレーザーのパルス幅とともに、1パルス照射により形成されてしまう熱ダメージを低減することであり、加えてライン状の分割溝形成のために複数のパルスレーザーを連続照射するにあたり試料に蓄えられる熱によるダメージを低減することである。そこで、まずは、前者の1パルス照射による熱ダメージを抑えるため、超短パルスレーザーの1パルスあたりの照射エネルギー密度を約0.3J/cm
2と低い値に抑えた。また、このように1パルスあたりの照射エネルギー密度を抑えることで、CIGS光吸収層に比べ溶融温度が高くレーザーアブレーションが起こる閾値レーザーエネルギー密度の高いMo背面電極層については、1パルス当たりのアブレーション深さ(以下、エッチング速度)を極端に低くすることができ、CIGS光吸収層の選択的なレーザーアブレーションを起こすことが可能となる。
【0057】
また、分割溝形成のための複数パルス連続照射による蓄熱を抑えるため、超短パルスレーザーの「パルスの繰り返し」は100kHzとし、さらに前述した「ビーム重なり」を約90%としてライン状の分割溝を形成した。よって、本技術で蓄熱の目安として用いる「1パルスあたりの照射エネルギー密度」と「パルス繰り返し」と「ビーム重なり」との積で表される数値は、2.7×10
6(=0.3(J/cm
2)×10
5(Hz)×90(%))であった。
【0058】
上記のように1パルスあたりの照射エネルギーとライン走査時の蓄熱を抑えたことから、CIGS光吸収層のアブレーション除去を達成するために、同じ箇所へのレーザー走査回数を1回ではなく複数回とすることで、CIGS光吸収層の完全な除去、すなわちCIGS光吸収層を完全除去した分割溝を作製した。
【0059】
図4は、レーザースクライブ工程で形成した分割溝のレーザー顕微鏡イメージと断面プロファイル及び断面SEM写真を示す。
図4(a)はレーザー走査回数1回、同図(b)はレーザー走査回数7回、同図(c)はレーザー走査回数10回により形成した分割溝を示す。
図4(a)に示すように、レーザー走査回数1回では、分割溝底面にはCIGS光吸収層(以下、単にCIGS層と表記)がほぼ残存していることがわかる。これは、熱ダメージ低減のためパルスエネルギー密度をわざと低い値に設定したためである。またパルス繰り返しやレーザー走査速度を複数パルス照射による蓄熱を低減するよう設定した結果、後の比較例1の高繰り返しフェムト秒レーザーによるスクライブ溝に見られるような溝両端部分へのリム(盛り上がり部分)形成は確認されなかった。
【0060】
レーザー走査回数を重ね、レーザー走査回数を7回とすると、
図4(b)に示すように残存していたCIGS層のレーザーアブレーションが進み、分割溝底面にCIGS層とその下部の背面電極層であるMo層が混在する状態となる。更にレーザー走査回数を重ね、レーザー走査回数を10回とすると、
図4(c)に示すように、CIGS層の除去が完了し溝底面はMo層のみとなり、所望のレーザースクライブ工程が達成されていることがわかる。
[実施例2]
【0061】
本レーザースクライブ技術と従来のメカニカルスクライブ技術の太陽電池変換効率の比較評価を行うため、透明導電膜の製膜工程までは実施例1と全て同じ条件とし、光吸収層から透明導電膜層までの積層構造のスクライブ工程については、従来のメカニカルスクライビング工程を用いて分割溝を複数形成した試料1を作製した。また、試料1の分割溝のうち1本の分割溝はメカニカルスクライビングではなく、実施例1と同じ条件のレーザースクライビングにより形成した試料2を作製した。ただし、試料2は溝幅を更に低減する目的でフェムト秒レーザーの集光径を小さくし(照射エネルギー密度 約0.6J/cm
2)、ビーム重なりは80%とし、本技術で蓄熱の目安として用いる1パルスあたりの照射エネルギー密度とパルス繰り返し並びにビーム重なりの積で表される数値は、4.8×10
6(=0.6(J/cm
2)×10
5(Hz)×80(%))とした。実施例1に比べ目安値を大きくしたため、走査回数は10回から7回に回数を減らして透明導電膜/高抵抗バッファ/バッファ/CIGS光吸収層除去レーザースクライブ工程を行った。
【0062】
試料2のレーザースクライブにより作製した溝と試料1のメカニカルスクライブにより作製した溝のSEM−EDX分析より得た観察写真を
図5(a)及び(b)に各々示す。両加工とも溝底面はMo層であり、所定のレーザースクライブ工程が達成されていることをEDX組成分析より確認した。溝幅は、メカニカルスクライブにより形成された溝幅が
図5(b)に示すように約55μmであったのに対し、レーザースクライブにより形成された溝幅は
図5(a)に示すように約25μmであり、メカニカルスクライブにより形成された溝幅に比べて約45%に低減することに成功した。また、CIGS化合物薄膜太陽電池のレーザースクライブ法でこれまで問題とされてきたCIGSの溶融箇所がほぼ見られないことから、レーザー照射による熱ダメージが低減できていることが分かる。
[比較例1]
【0063】
透明導電膜/高抵抗バッファ/バッファ/CIGS光吸収層除去レーザースクライブ工程のフェムト秒レーザー照射条件のうちビーム重なりを99%、走査回数を1回としたことのみが実施例2の場合と異なる製造条件の下で、比較例1の太陽電池を作製した。なお、本技術で蓄熱の目安として用いる1パルスあたりの照射エネルギー密度とパルス繰り返し並びにビーム重なりの積で表される数値は、5.9×10
6(=0.6(J/cm
2)×10
5(Hz)×99(%))であった。
【0064】
図6は、比較例1のレーザースクライブ工程により作製した分割溝の上面のSEM観察写真を示す。実施例2の走査回数7回に比べ、比較例1では1回しかレーザー光をライン走査していないにも関わらず、溝底面部はMo層のアブレーションが進み、
図6の上面図に示すようにガラス基板が剥き出しになっている箇所が見られる。これは、比較例1のビーム重なりが99%と実施例2のそれの80%に比べ大きいため、1パルスあたりのレーザーエネルギー密度が同じでも、蓄熱の効果が飛躍的に大きくなり、高融点のMoですら容易に蒸発を起こしているためである。
【0065】
次に、実施例2の試料1、2と比較例1の光照射時の曲線因子FFと電池変換効率Effの評価結果について表1とともに説明する。曲線因子FFは良く知られているように最大出力電圧と最大出力電流との積を、開放電圧と短絡電流との積で除算した値である。また、変換効率Effは、取り出せる最大電力を放射強度と受光面積との積で除算した値である。
【0067】
表1から明らかなように、分割溝をレーザースクライブ工程を用いて形成した試料2の変換効率は16.3%であり、メカニカルスクライブ工程を用いて形成した試料1のそれの16.9%より0.6%低いが、これはレーザースクライブ工程時の熱ダメージによる効率の低減はメカニカルスクライブ工程よりも0.6%まで抑えられており、試料2では変換効率がほぼ維持できていることを意味する。一方、比較例1では変換効率は試料1の変換効率より16.2%劣化しており、比較例1のようにフェムト秒レーザーを用いても蓄熱作用を伴う場合にはCIGS薄膜太陽電池の変換効率維持が極めて難しいことを示している。
【0068】
また、表1から明らかなように、試料2の曲線因子は0.73であり、メカニカルスクライブ工程を用いて形成した試料1のそれの0.76より0.03低いが、これはレーザースクライブ工程時の熱ダメージによる曲線因子の低減はメカニカルスクライブ工程よりも0.03まで抑えられていることを意味する。一方、比較例1では曲線因子は試料1の曲線因子より0.51劣化しており、比較例1のようにフェムト秒レーザーを用いても蓄熱作用を伴う場合にはCIGS薄膜太陽電池の曲線因子の維持が極めて難しいことを示している。
[比較例2]
【0069】
実施例1と同様にCIGS光吸収層を約2μmの膜厚で製膜し、その上に透明導電膜(ZnO:Al)を700nmの膜厚で積層した後、透明導電膜/高抵抗バッファ/バッファ/CIGS光吸収層除去レーザースクライブ工程を実行した。ただし、比較例2のレーザースクライブ工程の照射条件は、実施例1に比べて800倍の高繰り返しの80MHz、ビーム重なり98%、1パルスあたりのレーザーエネルギー密度0.2J/cm
2である。よって、本技術で蓄熱の目安として用いる1パルスあたりの照射エネルギー密度とパルス繰り返しならびにビーム重なりの積で表される数値は、1.6×10
9(=0.2(J/cm
2)×80×10
6(Hz)×98(%))であった。
【0070】
図7(a)、(b)は、比較例2における分割溝のレーザー共焦点顕微鏡写真とその断面プロファイルを示す。
図7(a)、(b)に示すように、比較例2においてレーザースクライブ工程で形成された分割溝の溝側面上部にCIGSの溶融により形成された高さ約1.5μm以上の盛り上がり、いわゆるリム構造が形成されてしまっていることが分かる。よって、フェムト秒レーザーパルスを用いても、パルス繰り返し及びビーム重なりが上記のように過度に大きい場合には、デバイス作製の阻害や変換効率の大幅な低減につながるCIGSの溶融部分形成につながることが示された。
【0071】
以上より、本発明において超短パルスレーザーを用いたレーザースクライブ工程において、蓄熱の目安として用いる1パルスあたりの照射エネルギー密度とパルス繰り返し並びにビーム重なりの三つの主因子の積で表される数値は、光吸収層を含む積層構造部分の分割溝の側面上部が盛り上がって形成されるリムが、パルスレーザー光の未照射部位の最上層の表面から高さ100nmより大となるときの数値(例えば、5.0×10
6)以下で0以上の範囲内であることが望ましい。ここで、超短パルスレーザーを用いたレーザースクライブ工程における「1パルスあたりの照射エネルギー密度」は化合物半導体光吸収層のレーザーアブレーションが起こる閾値以上で、かつ、1J/cm
2以下であることが望ましく、また、「パルス繰り返し」は実用上の観点から例えば100Hz以上で1MHz以下であることが望ましい。