【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための多くの試験研究の結果、本発明者は、AlB
12またはSiB
6のホウ素化合物を主要成分とするセラミックスが、Si
3N
4、Al
2O
3、SiC等のセラミックスや鋼を相手材とした時、水中において低摩擦・低摩耗を示すことを知見した。本発明は、そのような知見に基づくものである。
【0007】
本発明のホウ素化合物を主要成分とするセラミックスにおいて、主要成分がAlB
12のAlB
12系セラミックスである場合、AlB
12の重量割合は、60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。主要成分以外の成分としては、例えば、Al、AlB
2、Bや第3成分が挙げられる。
また、主要成分がSiB
6のSiB
6系セラミックスである場合、SiB
6の重量割合は、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。主要成分以外の成分としては、例えば、Si、SiB
3、SiB
n、Bや第3成分が挙げられる。
【0008】
本発明に係るAlB
12系またはSiB
6系セラミックスからなる摺動部材は、Si
3N
4、Al
2O
3、SiC等のセラミックスや鋼から構成される相手材に対し、水中において摩擦係数0.2以下の低摩擦、かつ比摩耗量10
-6mm
3/Nmオーダー以下の低摩耗を示す。
【0009】
本発明に係る請求項4のAlB
12系セラミックスの製造方法は、AlとBの原子比が10:90から6:94までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下のAl、AlB
2、AlB
12、B粉末から選択した1種類の粉末(すなわちAlB
12粉末)、または、2種類以上の混合粉末を真空中または不活性ガス中、焼結温度1750℃以上2150℃以下、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件で黒鉛型によるホットプレスをすることを特徴とする。
【0010】
上記のようにAlB
12系セラミックスの製造方法は、AlとBの原子比が10:90から6:94までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下(好ましくは100マイクロメートル以下、より好ましくは50マイクロメートル以下)のAl、AlB
2、AlB
12、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末をホットプレスする必要があるが、Al、AlB
2、AlB
12、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末としたのは、非特許文献1にあるようにAl-B二元系でAl、AlB
2、AlB
12、B以外の材料が存在しないためである。さらに粒径が150マイクロメートル以下としたのは150マイクロメートル超過になると焼結中AlB
12等の相の生成が充分に進まないためである。粒径の下限は、限定する必要はないが、取扱容易性から0.1マイクロメートル以上、好ましくは0.5マイクロメートル以上とすることができる。またAlとBの原子比についてBの原子比が90原子%未満になると、低摩擦・低摩耗でないAlB
12以外の相が多くなり、Bの原子比が94原子%超過になると脆いB相が多くなり、得ようとするAlB
12系セラミックスが得にくくなる。
【0011】
また上記のようにAlB
12系セラミックスの製造方法は、真空中または不活性ガス中でホットプレスする必要があるが、真空中及び不活性ガス中以外のガス雰囲気でホットプレスを行うと、黒鉛型とガスの反応による型の劣化やAlB
12系セラミックスのガス雰囲気との反応が起こり、得ようとするAlB
12系セラミックスが得にくくなる。
【0012】
また上記のAlB
12系セラミックスの製造方法は、焼結温度1750℃以上2150℃以下でホットプレスする必要があるが、焼結温度が1750℃未満であると、緻密なセラミックスが得られにくくなる。一方、焼結温度が2150℃超過であると、AlB
12系セラミックスが溶解し、型の外部に漏れるため、得ようとする形状のセラミックスが得られにくくなる。
【0013】
また上記のAlB
12系セラミックスの製造方法は、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件でホットプレスする必要があるが、加圧力が20MPa未満であると、緻密なセラミックスが得られにくくなる。一方、加圧力が80MPa超過であると、ホットプレスに用いる黒鉛型が割れる恐れがある。
【0014】
本発明に係る請求項5のSiB
6系セラミックスの製造方法は、SiとBの原子比が17:83から10:90までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下(好ましくは100マイクロメートル以下、より好ましくは50マイクロメートル以下)のSi、SiB
3、SiB
6、SiB
n、B粉末から選択した1種類の粉末(すなわちSiB
6粉末)、または、2種類以上の混合粉末を真空中または不活性ガス中、焼結温度1650℃以上1850℃以下、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件で黒鉛型によるホットプレスをすることを特徴とする。
【0015】
上記のようにSiB
6系セラミックスの製造方法は、SiとBの原子比が17:83から10:90までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下のSi、SiB
3、SiB
6、SiB
n、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末をホットプレスする必要があるが、Si、SiB
3、SiB
6、SiB
n、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末としたのは、非特許文献2にあるようにSi-B二元系でSi、SiB
3、SiB
6、SiB
n、B以外の材料が存在しないためである。さらに粒径が150マイクロメートル以下としたのは150マイクロメートル超過になると焼結中SiB
6等の相の生成が充分に進まないためである。粒径の下限は、限定する必要はないが、取扱容易性から0.1マイクロメートル以上、好ましくは0.5マイクロメートル以上とすることができる。またSiとBの原子比についてBの原子比が83原子%未満になると、低摩擦・低摩耗でないSiB
6以外の相が多くなり、Bの原子比が90原子%超過になると脆いB相が多くなり、得ようとするSiB
6系セラミックスが得にくくなる。
【0016】
また上記のようにSiB
6系セラミックスの製造方法は、真空中あるいは不活性ガス中でホットプレスする必要があるが、真空中及び不活性ガス中以外のガス雰囲気でホットプレスを行うと、黒鉛型とガスの反応による型の劣化やSiB
6系セラミックスのガス雰囲気との反応が起こり、得ようとするSiB
6系セラミックスが得にくくなる。
【0017】
また上記のSiB
6系セラミックスの製造方法は、焼結温度1650℃以上1850℃以下でホットプレスする必要があるが、焼結温度が1650℃未満であると、緻密なセラミックスが得られにくくなる。一方、焼結温度が1850℃超過であると、SiB
6系セラミックスが溶解し、型の外部に漏れるため、得ようとする形状のセラミックスが得られにくくなる。
また上記のSiB
6系セラミックスの製造方法は、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件でホットプレスする必要があるが、加圧力が20MPa未満であると、緻密なセラミックスが得られにくくなる。一方、加圧力が80MPa超過であると、ホットプレスに用いる黒鉛型が割れる恐れがある。
【0018】
本発明に係る請求項6のAlB
12系セラミックスやSiB
6系セラミックスの製造方法は、黒鉛製型と前記粉末(上述の1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末)の間に厚さ0.3mm以上0.6mm以下のカーボン製シートを挟み、ホットプレスすることを特徴とする。
【0019】
上記のように黒鉛製型と前記粉末の間に挟むカーボンシートの厚さは0.3mm以上0.6mm以下の範囲内である必要があるが、カーボンシートの厚さが0.3mm未満であると、焼結後、AlB
12系セラミックスやSiB
6系セラミックスが黒鉛型に付着しやすくなり、かつ熱応力がかかりやすくなるため割れやすくなる。一方カーボンシートの厚さが0.6mm超過であると、得られるAlB
12系セラミックス及びSiB
6系セラミックスの表面形状が凸凹になり、得ようとする形状のセラミックスが得られにくくなる。
【0020】
以上のような本発明は、次のように整理することができる。
<1>AlB
12またはSiB
6のホウ素化合物を主要成分とするセラミックスからなり、セラミックスまたは鋼からなる相手部材に低摩擦・低磨耗を示すことを特徴とする水潤滑用摺動部材。
<2>摺動部材を構成するセラミックスが60重量%以上のAlB
12または50重量%以上のSiB
6を含有するものである、<1>に記載の水潤滑用摺動部材。
<3>相手部材のセラミックスがSi
3N
4、Al
2O
3、または、SiCであり、鋼がステンレス鋼である、<1>または<2>に記載の水潤滑用摺動部材。
<4>AlとBの原子比が10:90から6:94までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下のAl、AlB
2、AlB
12、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末を真空中または不活性ガス中、焼結温度1750℃以上2150℃以下、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件で黒鉛型によるホットプレスを行うことを含む、AlB
12を主要成分とするセラミックスからなる水潤滑用摺動部材の製造方法。
<5>SiとBの原子比が17:83から10:90までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下のSi、SiB
3、SiB
6、SiB
n、B粉末から選択した1種類の粉末または2種類以上の混合粉末を真空中または不活性ガス中、焼結温度1650℃以上1850℃以下、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件で黒鉛型によるホットプレスを行うことを含む、SiB
6を主要成分とするセラミックスからなる水潤滑用摺動部材の製造方法。
<6>黒鉛製型と粉末の間に厚さ0.3mm以上0.6mm以下のカーボン製シートを挟んで前記ホットプレスを行う、<4>または<5>に記載の水潤滑用摺動部材の製造方法。
<7>AlB
12またはSiB
6のホウ素化合物を主要成分とするセラミックスからなる一方の摺動部材、及び、前記一方の摺動部材に対し相対的に摺動し、セラミックスまたは鋼からなる他方の摺動部材を具備する水潤滑用摺動装置。
【0021】
また、本発明は、次のような態様を含むことができる。
<8>摺動部材を構成するセラミックスが70重量%以上のAlB
12または60重量%以上のSiB
6を含有するものである、<2>に記載の水潤滑用摺動部材。
<9>摺動部材を構成するセラミックスが80重量%以上のAlB
12または70重量%以上のSiB
6を含有するものである、<8>に記載の水潤滑用摺動部材。
<10>一方の摺動部材を構成するセラミックスが60重量%以上のAlB
12または50重量%以上のSiB
6を含有するものである、<7>に記載の水潤滑用摺動装置。
<11>他方の摺動部材のセラミックスがSi
3N
4、Al
2O
3、または、SiCであり、鋼が高耐食性ステンレス鋼(SUS304、SUS316、SUS317、SUS321、SUS347、SUS836L、SUS329J1、SUS329J4L、SUS444、SUS447J1、SUSXM27、SUS420J1)である、<7>または<10>に記載の水潤滑用摺動装置。