特許第6202315号(P6202315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202315水潤滑用低摩擦・低摩耗摺動部材、及び、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202315
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】水潤滑用低摩擦・低摩耗摺動部材、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/58 20060101AFI20170914BHJP
   F16C 17/14 20060101ALI20170914BHJP
   F16C 33/24 20060101ALI20170914BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C04B35/58 050
   F16C17/14
   F16C33/24 A
   F16C33/12 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-214781(P2013-214781)
(22)【出願日】2013年10月15日
(65)【公開番号】特開2015-78078(P2015-78078A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年7月29日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名 トライボロジー会議 2013 春 東京予稿集,A14 発行日 平成25年5月10日 刊行物名 2013年(第153回)秋期講演大会 日本金属学会講演概要集,S3・13 発行日 平成25年9月3日 刊行物名 トライボロジー会議 2013 秋 福岡予稿集,E38 発行日 平成25年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】村上 敬
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−037653(JP,A)
【文献】 特開2002−348175(JP,A)
【文献】 特表2007−527952(JP,A)
【文献】 特開平07−237964(JP,A)
【文献】 特開平03−228868(JP,A)
【文献】 特開平08−338428(JP,A)
【文献】 松下純一,ケイ素のホウ化物,セラミックス,2002年 3月25日,Vol.37 No.4,P.292-294
【文献】 水谷嘉之,セラミックスのトライポロジー,豊田中央研究所R&Dレビュー,1992年 6月,Vol.27 No.2,P.11-21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
60重量%以上のAlB12または80重量%以上のSiB6を含有するセラミックスからなる一方の摺動部材、及び、前記一方の摺動部材に対し相対的に摺動し、Si3N4、Al2O3、もしくは、SiCのセラミックスまたは、高耐食性ステンレス鋼(SUS304、SUS316、SUS317、SUS321、SUS347、SUS836L、SUS329J1、SUS329J4L、SUS444、SUS447J1、SUSXM27、SUS420J1)からなる他方の摺動部材を具備し、潤滑剤として水を使用するオイルフリー摺動装置。
【請求項2】
AlとBの原子比が10:90から6:94までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下のAl、AlB2、AlB12、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末を真空中または不活性ガス中、焼結温度1750℃以上2150℃以下、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件で、かつ、黒鉛製型と粉末の間に厚さ0.3mm以上0.6mm以下のカーボン製シートを挟んで、黒鉛型によるホットプレスを行うことを含む、60重量%以上のAlB12を含有するセラミックスからなる、潤滑剤として水を使用するオイルフリー摺動部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧ポンプ等の水存在下の摺動機構を有する装置に好適に使用される水潤滑用摺動部材に関する。より具体的には、潤滑剤としてオイルでなく水を使用し、水中にオイルが漏れる心配がなく、コスト的にも安い、オイルフリー水潤滑用摺動部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年水圧ポンプなどの分野で、オイルを水中に漏らすような環境汚染を起こさない、オイルより水の方が安価で、低環境負荷であるなどの理由でオイルフリーの水潤滑システムが利用され始めている。
現在、オイルフリーの水潤滑用摺動材料として主に低摩耗の窒化珪素やアルミナ、低摩擦のダイヤモンドライクカーボン(DLC)などが使用されている。
一方、特許文献1〜4のように、AlB12やSiB6は金属材料の硬度を上げる硬質粒子として使用されている例はあるが、AlB12やSiB6のホウ素化合物を水潤滑用摺動部材の主要構成成分として用いるという研究例は見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−11020号公報
【特許文献2】特開2003−239030号公報
【特許文献3】特開平8−13074号公報
【特許文献4】特許第5020334号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】O.N.Carlson, Al-B (Aluminum-Boron), in “Binary Alloy Phase Diagram, Second Edition Plus Updates”, edited by T.B. Massalski et al., ASMInternational, 1996.
【非特許文献2】R.W.Olesinski and G.J.Abbaschian, Si-B (Silicon-Boron), in “Binary Alloy Phase Diagram, Second Edition Plus Updates”, edited by T.B. Massalski et al., ASM International, 1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水潤滑用摺動材料として現在使用されている窒化珪素やアルミナは、被膜状とバルク状のどちらの形態でも利用可能であり、かつ、金属、樹脂に比べて摩耗が小さい利点を有しているが、摩擦が非常に大きいという問題点がある。
一方、DLCは、バルク状のものや厚膜状のものを作ることができないため、通常厚さ1ミクロン程度の低摩擦被膜として摺動基板面上に形成して用いられているが、比較的短時間で摩耗し基板面を露出してしまうため、摩擦が急上昇・不安定化しやすい問題点がある。
したがって、本発明は、低摩擦、低摩耗を示す水潤滑用摺動部材及びその製造方法の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための多くの試験研究の結果、本発明者は、AlB12またはSiB6のホウ素化合物を主要成分とするセラミックスが、Si3N4、Al2O3、SiC等のセラミックスや鋼を相手材とした時、水中において低摩擦・低摩耗を示すことを知見した。本発明は、そのような知見に基づくものである。
【0007】
本発明のホウ素化合物を主要成分とするセラミックスにおいて、主要成分がAlB12のAlB12系セラミックスである場合、AlB12の重量割合は、60重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。主要成分以外の成分としては、例えば、Al、AlB2、Bや第3成分が挙げられる。
また、主要成分がSiB6のSiB6系セラミックスである場合、SiB6の重量割合は、50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。主要成分以外の成分としては、例えば、Si、SiB3、SiBn、Bや第3成分が挙げられる。
【0008】
本発明に係るAlB12系またはSiB6系セラミックスからなる摺動部材は、Si3N4、Al2O3、SiC等のセラミックスや鋼から構成される相手材に対し、水中において摩擦係数0.2以下の低摩擦、かつ比摩耗量10-6mm3/Nmオーダー以下の低摩耗を示す。
【0009】
本発明に係る請求項4のAlB12系セラミックスの製造方法は、AlとBの原子比が10:90から6:94までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下のAl、AlB2、AlB12、B粉末から選択した1種類の粉末(すなわちAlB12粉末)、または、2種類以上の混合粉末を真空中または不活性ガス中、焼結温度1750℃以上2150℃以下、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件で黒鉛型によるホットプレスをすることを特徴とする。
【0010】
上記のようにAlB12系セラミックスの製造方法は、AlとBの原子比が10:90から6:94までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下(好ましくは100マイクロメートル以下、より好ましくは50マイクロメートル以下)のAl、AlB2、AlB12、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末をホットプレスする必要があるが、Al、AlB2、AlB12、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末としたのは、非特許文献1にあるようにAl-B二元系でAl、AlB2、AlB12、B以外の材料が存在しないためである。さらに粒径が150マイクロメートル以下としたのは150マイクロメートル超過になると焼結中AlB12等の相の生成が充分に進まないためである。粒径の下限は、限定する必要はないが、取扱容易性から0.1マイクロメートル以上、好ましくは0.5マイクロメートル以上とすることができる。またAlとBの原子比についてBの原子比が90原子%未満になると、低摩擦・低摩耗でないAlB12以外の相が多くなり、Bの原子比が94原子%超過になると脆いB相が多くなり、得ようとするAlB12系セラミックスが得にくくなる。
【0011】
また上記のようにAlB12系セラミックスの製造方法は、真空中または不活性ガス中でホットプレスする必要があるが、真空中及び不活性ガス中以外のガス雰囲気でホットプレスを行うと、黒鉛型とガスの反応による型の劣化やAlB12系セラミックスのガス雰囲気との反応が起こり、得ようとするAlB12系セラミックスが得にくくなる。
【0012】
また上記のAlB12系セラミックスの製造方法は、焼結温度1750℃以上2150℃以下でホットプレスする必要があるが、焼結温度が1750℃未満であると、緻密なセラミックスが得られにくくなる。一方、焼結温度が2150℃超過であると、AlB12系セラミックスが溶解し、型の外部に漏れるため、得ようとする形状のセラミックスが得られにくくなる。
【0013】
また上記のAlB12系セラミックスの製造方法は、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件でホットプレスする必要があるが、加圧力が20MPa未満であると、緻密なセラミックスが得られにくくなる。一方、加圧力が80MPa超過であると、ホットプレスに用いる黒鉛型が割れる恐れがある。
【0014】
本発明に係る請求項5のSiB6系セラミックスの製造方法は、SiとBの原子比が17:83から10:90までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下(好ましくは100マイクロメートル以下、より好ましくは50マイクロメートル以下)のSi、SiB3、SiB6、SiBn、B粉末から選択した1種類の粉末(すなわちSiB6粉末)、または、2種類以上の混合粉末を真空中または不活性ガス中、焼結温度1650℃以上1850℃以下、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件で黒鉛型によるホットプレスをすることを特徴とする。
【0015】
上記のようにSiB6系セラミックスの製造方法は、SiとBの原子比が17:83から10:90までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下のSi、SiB3、SiB6、SiBn、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末をホットプレスする必要があるが、Si、SiB3、SiB6、SiBn、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末としたのは、非特許文献2にあるようにSi-B二元系でSi、SiB3、SiB6、SiBn、B以外の材料が存在しないためである。さらに粒径が150マイクロメートル以下としたのは150マイクロメートル超過になると焼結中SiB6等の相の生成が充分に進まないためである。粒径の下限は、限定する必要はないが、取扱容易性から0.1マイクロメートル以上、好ましくは0.5マイクロメートル以上とすることができる。またSiとBの原子比についてBの原子比が83原子%未満になると、低摩擦・低摩耗でないSiB6以外の相が多くなり、Bの原子比が90原子%超過になると脆いB相が多くなり、得ようとするSiB6系セラミックスが得にくくなる。
【0016】
また上記のようにSiB6系セラミックスの製造方法は、真空中あるいは不活性ガス中でホットプレスする必要があるが、真空中及び不活性ガス中以外のガス雰囲気でホットプレスを行うと、黒鉛型とガスの反応による型の劣化やSiB6系セラミックスのガス雰囲気との反応が起こり、得ようとするSiB6系セラミックスが得にくくなる。
【0017】
また上記のSiB6系セラミックスの製造方法は、焼結温度1650℃以上1850℃以下でホットプレスする必要があるが、焼結温度が1650℃未満であると、緻密なセラミックスが得られにくくなる。一方、焼結温度が1850℃超過であると、SiB6系セラミックスが溶解し、型の外部に漏れるため、得ようとする形状のセラミックスが得られにくくなる。
また上記のSiB6系セラミックスの製造方法は、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件でホットプレスする必要があるが、加圧力が20MPa未満であると、緻密なセラミックスが得られにくくなる。一方、加圧力が80MPa超過であると、ホットプレスに用いる黒鉛型が割れる恐れがある。
【0018】
本発明に係る請求項6のAlB12系セラミックスやSiB6系セラミックスの製造方法は、黒鉛製型と前記粉末(上述の1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末)の間に厚さ0.3mm以上0.6mm以下のカーボン製シートを挟み、ホットプレスすることを特徴とする。
【0019】
上記のように黒鉛製型と前記粉末の間に挟むカーボンシートの厚さは0.3mm以上0.6mm以下の範囲内である必要があるが、カーボンシートの厚さが0.3mm未満であると、焼結後、AlB12系セラミックスやSiB6系セラミックスが黒鉛型に付着しやすくなり、かつ熱応力がかかりやすくなるため割れやすくなる。一方カーボンシートの厚さが0.6mm超過であると、得られるAlB12系セラミックス及びSiB6系セラミックスの表面形状が凸凹になり、得ようとする形状のセラミックスが得られにくくなる。
【0020】
以上のような本発明は、次のように整理することができる。
<1>AlB12またはSiB6のホウ素化合物を主要成分とするセラミックスからなり、セラミックスまたは鋼からなる相手部材に低摩擦・低磨耗を示すことを特徴とする水潤滑用摺動部材。
<2>摺動部材を構成するセラミックスが60重量%以上のAlB12または50重量%以上のSiB6を含有するものである、<1>に記載の水潤滑用摺動部材。
<3>相手部材のセラミックスがSi3N4、Al2O3、または、SiCであり、鋼がステンレス鋼である、<1>または<2>に記載の水潤滑用摺動部材。
<4>AlとBの原子比が10:90から6:94までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下のAl、AlB2、AlB12、B粉末から選択した1種類の粉末、または、2種類以上の混合粉末を真空中または不活性ガス中、焼結温度1750℃以上2150℃以下、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件で黒鉛型によるホットプレスを行うことを含む、AlB12を主要成分とするセラミックスからなる水潤滑用摺動部材の製造方法。
<5>SiとBの原子比が17:83から10:90までの範囲内となるように粒径150マイクロメートル以下のSi、SiB3、SiB6、SiBn、B粉末から選択した1種類の粉末または2種類以上の混合粉末を真空中または不活性ガス中、焼結温度1650℃以上1850℃以下、加圧力20MPa以上80MPa以下の条件で黒鉛型によるホットプレスを行うことを含む、SiB6を主要成分とするセラミックスからなる水潤滑用摺動部材の製造方法。
<6>黒鉛製型と粉末の間に厚さ0.3mm以上0.6mm以下のカーボン製シートを挟んで前記ホットプレスを行う、<4>または<5>に記載の水潤滑用摺動部材の製造方法。
<7>AlB12またはSiB6のホウ素化合物を主要成分とするセラミックスからなる一方の摺動部材、及び、前記一方の摺動部材に対し相対的に摺動し、セラミックスまたは鋼からなる他方の摺動部材を具備する水潤滑用摺動装置。
【0021】
また、本発明は、次のような態様を含むことができる。
<8>摺動部材を構成するセラミックスが70重量%以上のAlB12または60重量%以上のSiB6を含有するものである、<2>に記載の水潤滑用摺動部材。
<9>摺動部材を構成するセラミックスが80重量%以上のAlB12または70重量%以上のSiB6を含有するものである、<8>に記載の水潤滑用摺動部材。
<10>一方の摺動部材を構成するセラミックスが60重量%以上のAlB12または50重量%以上のSiB6を含有するものである、<7>に記載の水潤滑用摺動装置。
<11>他方の摺動部材のセラミックスがSi3N4、Al2O3、または、SiCであり、鋼が高耐食性ステンレス鋼(SUS304、SUS316、SUS317、SUS321、SUS347、SUS836L、SUS329J1、SUS329J4L、SUS444、SUS447J1、SUSXM27、SUS420J1)である、<7>または<10>に記載の水潤滑用摺動装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明の水潤滑用摺動部材は、水中等の水存在下でSi3N4、Al2O3、SiC等のセラミックスや鋼を相手に低摩擦・低摩耗を示すことから、現用のSi3N4同士、Al2O3同士などの摺動面に置き換えうる摺動部材ということができる。
また本発明の水潤滑用摺動部材の製造方法は、黒鉛型の割れや劣化を生じることなく、離型が容易で、かつ、割れのない緻密なAlB12系セラミックスやSiB6系セラミックスからなる水潤滑用摺動部材を安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】軸受用Si3N4ボールを相手材とした時の水中における実施例(AlB12系セラミックス、SiB6系セラミックス)と比較例(Si3N4)の摩擦係数変化を示す図面。
図2】軸受用Al2O3ボールを相手材とした時の水中における実施例(AlB12系セラミックス、SiB6系セラミックス)と比較例(Al2O3)の摩擦係数変化を示す図面。
図3】軸受用SiCボールを相手材とした時の水中における実施例(AlB12系セラミックス、SiB6系セラミックス)の摩擦係数変化を示す図面。
図4】Si3N4、Al2O3、SiC軸受用ボールを相手材とした時の実施例(AlB12系セラミックス、SiB6系セラミックス)ディスク試験片と比較例(Si3N4、Al2O3)ディスク試験片の比摩耗量、及び、相手材ボール試験片の比摩耗量を示す図面。
図5】Al-B二元系合金の状態図。図中(a)は、AlB12系セラミックスの組成範囲を示す。
図6】Si-B二元系合金の状態図。図中(a)は、SiB6系セラミックスの組成範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明のAlB12系セラミックス及びSiB6系セラミックスは、それぞれAl-B、Si-B二元系材料を基本とするが、その低摩擦・低摩耗性能を大きく阻害しない範囲内で不純物や第3成分を含むことができる。
【0025】
第5図、第6図に、非特許文献1、2に記載されたAl-B、Si-B二元系合金の状態図をそれぞれ示す。第5図において、(a)は、本発明の請求項4のAlB12系セラミックスの組成範囲を示し、第6図において、(a)は、請求項5のSiB6系セラミックスの組成範囲を示す。
【0026】
本発明の水潤滑用摺動部材は、水中等の水の存在下で相手部材に対し相対的に摺動する摺動部の全体を構成するものであっても良いし、また、摺動部のうち摺動面を含む摺動面部のみを構成するものであっても良い。
相手部材のセラミックスは、限定されないが、Si3N4、Al2O3、SiC等を好適に使用することができる。また、相手部材の鋼は、限定されないが、ステンレス鋼等を好適に使用することができる。該相手部材は、前記水潤滑用摺動部材と相対的に摺動する相手部材側摺動部の全体を構成するものであっても良いし、また、その摺動面を含む摺動面部のみを構成するものであっても良い。
相対的な摺動は、いずれか一方が固定であっても良いし、両方が可動であっても良いし、また、直線摺動、回転摺動、曲線摺動、それらの複合的な摺動等のどのような摺動であっても良い。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種の設定調整や設計変更が可能であることは言うまでもない。
【0028】
表1に示される組成の原料粉末を用い、同表に示される焼結温度、加圧力、保持時間の条件により、2種類の実施例のセラミックスディスク試験片をアルゴンガス中における加圧焼結により製造した。
【0029】
【表1】
【0030】
上記の加圧焼結により得られた実施例のAlB12系セラミックス試験片(AlB12の含有量約90重量%)、SiB6系セラミックス試験片(SiB6の含有量約80重量%)及び市販の比較例のSi3N4、Al2O3板について、表面を粒径1μmのダイヤモンドペーストで研磨した後、市販のセラミックス軸受用Si3N4ボール、Al2O3ボール及びSiCボール相手にボールオンディスク摩擦試験装置で水中における摩擦係数、比磨耗量の評価を行った。この時、摺動速度は1.57mm/s、ボールのディスクへの押しつけ荷重は9.8N、測定温度は25℃である。
【0031】
Si3N4ボールを相手にした場合の摩擦係数を図1に、Al2O3ボールを相手にした場合の摩擦係数を図2に、SiCボール相手にした場合の摩擦係数を図3に示す。Si3N4同士及びAl2O3同士の場合、摩擦係数はかなり高めになるが、実施例のAlB12系セラミックス試験片及びSiB6系セラミックス試験片をディスク試験片として用いる場合、相手材がSi3N4ボール、Al2O3ボール、SiCボールのいずれの場合も0.20未満の安定な摩擦係数を示すことがわかる。
【0032】
Si3N4、Al2O3、SiC軸受用ボールを相手材とした時の実施例(AlB12系セラミックス、SiB6系セラミックス)ディスク試験片と比較例(Si3N4、Al2O3)ディスク試験片の比摩耗量、及び、相手材ボール試験片の比摩耗量を図4に示す。
Si3N4同士及びAl2O3同士の場合、ディスク試験片及びボール試験片の比摩耗量はいずれも10-5mm3/Nm以上になるが、実施例のAlB12系セラミックス試験片及びSiB6系セラミックス試験片をディスク試験片として用いる場合、ディスク試験片及びボール試験片の比摩耗量はいずれも10-7〜10-6mm3/Nmオーダーに下がることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の水潤滑用摺動部材は、Si3N4、Al2O3、SiC等のセラミックスや鋼の相手部材に対し、低摩擦・低摩耗を示すため、回転型、往復動型等の各種水圧ポンプなど、水存在下の各種の摺動機構を有する摺動装置への幅広い応用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6