(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記延伸器は、前記圧縮器の前記物質分散とは符号の異なる物質分散を呈する材料からなるバルク状の光学ブロックを含み、前記パルス光の直進通過経路を少なくとも複数与えられていることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載のチャープパルス増幅装置。
【背景技術】
【0002】
「チャープパルス増幅法」は、発振器からの低出力の光パルスに対して延伸器で分散を与えて時間幅を一旦延伸しておいてから、レーザー利得媒質を含む増幅器で増幅を行って、圧縮器で延伸器と逆符号の分散を与えて光パルスの時間幅を圧縮して戻し、高出力の光パルスを得ようとする方法である。
【0003】
ここで、時間幅τ[s]、エネルギーE[J]、ビーム断面積A[cm
2]の光パルスのピーク強度I[W/cm
2]は、近似的に、I=E/(τA)と表すことができる。つまり、チャープパルス増幅法において、延伸器で時間幅τを延伸しておくと、レーザー媒質中における光パルスのピーク強度Iを低減できるから、非線形効果によるレーザー媒質の破壊やパルス波形の歪みを抑制できるのである。
【0004】
非特許文献1及び2で述べられているように、チャープパルス増幅法では、一般的に、回折格子を平行配置して分散を制御する延伸器及び圧縮器の組み合わせが広く用いられている。ここで、増幅器の後段に配される圧縮器の回折格子では、増幅器で増幅された高い出力の光パルスに対して十分な耐性を有する高い破壊閾値が要求される。つまり、増幅器における増幅率を高くしようとすれば、回折格子には非常に特殊で高価なものを使用せざるを得ない。また、出力のエネルギー取出し効率において、回折効率による制限を受けてしまう。
【0005】
一方、特許文献1では、圧縮器に回折格子を使用しない「ダウンチャープパルス増幅法」なる方法を開示している。かかる増幅法では、物質分散を与える透明材料からなるバルク状の光学ブロックを含む素子を用いて、この中に光パルスを通過させて時間幅を圧縮させている。
【0006】
ここで、物質分散を与える素子として、ファイバのような線状体を利用することも考慮される。しかしながら、線状体のような小口径の素子では、例えば、上記したピーク強度Iの式からも判るように、入力ビームのビーム断面積Aを小さくせざるを得ず、ピーク強度Iが大きくなって、非線形効果の影響を強く受けることとなる。そこで、大口径のビームを入力し通過させ得るバルク状の光学ブロックを含む素子を用いて、非線形効果を抑制することが好ましいのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
短パルス光、特に、フェムト秒台の短パルス光では、非線形効果の影響をより強く受けることとなる。そこで、上記したように、バルク状の光学ブロックを含む素子を圧縮器などに用いたチャープパルス増幅装置が望まれる。一方で、光学ブロックを含む素子は、ファイバのような線状体を用いた素子に比べて大型化し、特に、線状体ではある程度の曲率で巻き取ることができるから、その差は大きくなってしまう。
【0010】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、フェムト秒台の短パルス光であっても高い出力で増幅可能でコンパクトなチャープパルス増幅装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるチャープパルス増幅装置は、発振器からのパルス光を延伸器、増幅器及び圧縮器を順次通過させパルスの時間幅を延伸した上で増幅し該時間幅を圧縮させて出力するチャープパルス増幅装置であって、前記圧縮器は、物質分散を呈する材料からなるバルク状の光学ブロックを含み、前記光学ブロックには前記パルス光の直進通過経路を少なくとも複数与えられていることを特徴とする。
【0012】
かかる発明によれば、コンパクトでありながらフェムト秒台の短パルス光であっても高い出力で増幅可能となるのである。また、透過損失の小さい透明材料を光学ブロックに用いることで、高効率な圧縮が可能である。
【0013】
上記した発明において、前記直進通過経路は、前記光学ブロックの表面における反射を繰り返して与えられることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、フェムト秒台の短パルス光であっても高い出力で増幅可能なチャープパルス増幅装置をよりコンパクトに得られるのである。
【0014】
上記した発明において、前記光学ブロックは、多角形柱からなることを特徴としてもよい。前記光学ブロックは、前記パルス光の入射角を変化させる制御ポートを設けられていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、補償される分散量を変化させ得て、フェムト秒台の短パルス光であっても正確な分散補償を与えるのである。
【0015】
上記した発明において、前記直進通過経路は、前記光学ブロックからの前記パルス光の出射と入射とを繰り返して与えられることを特徴としてもよい。また、前記直進通過経路は、前記光学ブロックの表面に設けられた反射防止膜と、前記光学ブロックの外に設けられた反射鏡と、を介して与えられることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、簡単な構成でコンパクトでありながらフェムト秒台の短パルス光であっても高い出力で増幅可能となるのである。
【0016】
上記した発明において、前記延伸器は、前記圧縮器の前記物質分散とは符号の異なる物質分散を呈する材料からなるバルク状の光学ブロックを含み、前記パルス光の直進通過経路を少なくとも複数与えられていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、フェムト秒台の短パルス光であっても高い出力で増幅可能でありながら動作安定性に優れるチャープパルス増幅装置をコンパクトに得られるのである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一般に、バルク状の光学ブロック(透明材料)の物質分散は回折格子の与え得る分散に比べて非常に小さい。すなわち、チャープパルス増幅装置において、光学ブロックを圧縮器に用いたときに補償し得る分散は小さいから、あらかじめ延伸器で付与する逆符号の分散も小さくしなければならず、延伸できる光パルスの時間幅は小さい。故に、増幅器のレーザー媒質中における光パルスの時間幅も短くなり、上記したピーク強度Iを求める式を参照すると、ピーク強度Iが大きくなってしまう。つまり、非線形効果の影響を強く受け、増幅媒質の破壊や光パルスの波形の劣化を生じさせやすく、増幅可能な出力を制限する要因となってしまう。そこで、本願発明者は、光学ブロックによって与えられる物質分散の量がこの内部の光路長に比例することに着目し、大きな分散を得るために光学ブロック内部に長尺の光路を与えることを考慮した。
【0019】
本発明の1つの実施例であるチャープパルス増幅装置について、
図1乃至
図5を用いて詳細を説明する。
【0020】
図1及び2に示すように、チャープパルス増幅装置1は、順次、光パルスを加工及び制御する、発振器10、延伸器12、増幅器14及び圧縮器16を含む。
【0021】
発振器10は、低出力のパルス光を発生させ、短パルス光、特に、フェムト秒台の短パルス光をアイソレータ21に通過させて後段の延伸器12に送信する。例えば、非特許文献に開示のように、発振器10は、パルス発振が可能なレーザー装置であって、中心波長1040nmでパルス発振するモード同期Ybファイバレーザーを用い得る。典型的には、中心波長1040nmで利得を持つYb添加ファイバを用いたリング型共振器で構成され、3枚の波長板により非線形偏波回転を利用して、受動モード同期を行い、パルス発振を行う。ここで、典型的な光パルスの繰り返し周波数として118MHz、出力として80mWを採用した。
【0022】
延伸器12は、発振器10から導かれた低出力パルス光に分散を与えて光パルスの時間幅を延伸する。典型的には、パルス光を2つの平行配置した回折格子12a間を往復させて分散を与える。ここでは、2つの回折格子12a間の光学経路に折り返し鏡13aを与えている。
【0023】
延伸器12の回折格子12aの溝本数は、典型的には、600本/mmであり、回折効率が最大となるリトロー角(入射角と回折角が等しくなる)に近くなるようにリトロー配置されている。回折格子12aのうちの一方は、可動ステージ13b上に載置され、2つの回折格子12a間の距離を220〜240mmの間で調整可能にしている。かかる調整によって、延伸器12が与え得る二次分散値の範囲は、−3.5×10
5〜−3.8×10
5[fs
2]で可変である。
【0024】
また、延伸器12は、上記に限定されるものではない。例えば、チャープファイバブラッグ格子を用いて格子間隔をチャープさせることによって、ブラッグ格子で反射した光に分散を与えるものであってもよい。かかるチャープの向きを適切に設定することにより、反射光に負の分散を与えることが可能である。
【0025】
増幅器14は、延伸器12において時間幅を延伸された光パルスをレーザー利得媒質によって増幅し高出力化し、レンズ対からなる望遠鏡光学系23を通過させて光ビームの発散角と口径を調整した後、これを圧縮器16に送信する。
【0026】
増幅器14は、典型的には、Ybファイバレーザー増幅器を用い得る。利得ファイバ14aとしては、偏波保持型のダブルクラッドファイバを用い得る。コア径の大きいフォトニック結晶ファイバを用いることで、非線形効果をより抑制することができて好ましい。例えば、励起光は半導体レーザー14bによって供給され、ダイクロイックミラー14cとレンズ14dとを介してファイバ14aの励起クラッドに入射され、励起クラッドからコアに入ると、コア中のYbイオンを励起し、増幅されるのである。かかるダイクロイックミラー14cは、増幅波長帯1020〜1100nmを透過し、励起波長976nmを反射するように設計されている。
【0027】
圧縮器16は、増幅器14で増幅された高出力光パルスを光学ブロック(透明材料)16aを通過させて物質分散を与え、延伸器12で付与された分散を補償、つまり、光パルスの時間幅を圧縮する。なお、発振器10及び増幅器14においても分散が与えられる場合にあっては、これらの分散と延伸器12の分散とを合わせた合計の分散を圧縮器16で補償して、チャープパルス増幅装置1全体の残留分散をゼロにすることが好ましい。
【0028】
圧縮器16は、光学ブロック16aの両側に全反射鏡17を離間して設置し、この間に光パルスを繰り返し反射させることで、光学ブロック16a内のパルス光の直進通過経路を少なくとも複数与え、光路長を長尺化している。
【0029】
ところで、パルスレーザーの波長に対する長さ1mmあたりの二次分散の概算値、すなわち単位長さあたりの二次分散をd[fs
2/mm]とする。バルク状の光学ブロック16a内部を通過する光路の物理長をL[mm]とすると、かかる光学ブロック16aにより与えられる二次分散D[fs
2]は、単位長さあたりの二次分散d[fs
2/mm]と、光路の物理長L[mm]との積で表される。つまり、光学ブロック16aで与えられる分散量は光路長に比例して大きくなる。そこで、圧縮器16では、バルク状の光学ブロック16aの内部のパルス光の直進通過経路を少なくとも複数与えて、その内部を通過する光路長を長尺化しているのである。
【0030】
また、光学ブロック16aの両端面に反射防止コーティング16bを施すことにより、光学ブロック16aの端面におけるフレネル反射損失を著しく抑制することが可能である。反射防止コーティング16bは、必須ではないが、一般に、分散の大きい光学材料ではその屈折率も大きいため、フレネル反射損失が大きくなる傾向があり、圧縮器16における高効率な圧縮を実現したい場合には好ましい。
【0031】
典型例として、光学ブロック16aは、長さ25cmのショット社製のSF57ガラスからなる。発振器10及び増幅器14に波長1040nmのYbファイバレーザーを用いたため、反射防止コーティング16bは波長1000〜1100nmに対する反射防止膜を、全反射鏡17は同波長範囲に対する全反射誘電体多層膜鏡を用いた。なお、
図2では、全反射鏡17による反射を利用して、パルス光が光学ブロック16a内を直線通過経路で7パスしている。これにより、長さ25×7=175cmのガラスに相当する物質分散を与えることが可能である。SF57ガラスの波長1040nm光に対する二次分散の値は、概ね、d=150[fs
2/mm]であるから、圧縮器16によって付与される二次分散の値は、D=2.6×10
5[fs
2]となる。また、発振器10及び増幅器14やその他の光学系において生じる二次分散値は、典型的には1.1×10
5[fs
2]と見積もられ、上記した延伸器によって与えうる二次分散値と合わせると、増幅装置1全体の二次分散の合計をゼロに調整することが可能となる。
【0032】
図3には、増幅出力3Wで圧縮器16から出力される光パルスの時間幅の測定結果を示した。なお、延伸器12の2つの回折格子12aの間隔は可動ステージ13bの調整により、光パルス幅が最も短くなるように最適化している。実線は測定された自己相関波形であり、一般的な波形の相関因子の値1.5を仮定すれば、実測パルス幅(半値全幅)は、170[fs]である。一方、点線は測定スペクトルのフーリエ変換から得られるフーリエ限界パルス(パルス幅150[fs])である。実線と点線の波形がほぼ一致することから、圧縮器16が二次分散を正しく補償し、フーリエ限界に近いパルス幅を得ることが可能であることを示している。
【0033】
なお、上記において、発振器10として、中心波長1550nmのErファイバレーザーモード同期発振器を用いることもできる。かかる波長域では、石英及びBK7の二次分散値は負である。延伸器12として、波長1550nm帯で正の二次分散を有する正常分散ファイバを用いて、発振器10からの出力パルスに対して、正の二次分散を与える。増幅器14には、利得ファイバとしてErイオンとYbイオンが共添加されたファイバを用いたEr−Ybファイバレーザー増幅器を用いる。延伸器12から出力され、時間的に延伸されたパルスをアイソレータ21に通過させた後、増幅器14で増幅するのである。圧縮器16は、バルク状の光学ブロック16aとして石英又はBK7を用いる。増幅された高出力パルス光を圧縮器16に入れると、石英又はBK7により負の二次分散が与えられ、あらかじめ延伸器12で付与された正の二次分散が補償され、パルス圧縮を行うことができるのである。
【0034】
また、
図4及び
図5には、上記した圧縮器16に対する他の圧縮器36及び46を示した。
【0035】
図4では、光学ブロック36aの両端面に誘電体多層膜若しくは金属膜からなる全反射コーティング37を付与した。また、光学ブロック36aの両端面の一部には、入力ポート38及び出力ポート39を与え、かかる部分には、反射防止コーティングを与えた。つまり、一旦、入力ポート38から光学ブロック36aに入射したパルス光はこれから外に出射することなく、光学ブロック36aの部で多重反射をした後、出力ポート39から出射されるのである。これにより、バルク状の光学ブロック36aの内部のパルス光の直進通過経路を少なくとも複数与え得るのである。また、
図4では、全反射コーティング37による反射によりパルス光が光学ブロック36a内を直線通過経路で7パスしているが、後述するように、光学ブロック36aへの入射角を変えることで、直線通過経路の往復回数を調整できる。
【0036】
また、
図5には、光学ブロック46aの両側にこれから離間させて全反射鏡47を配置するが、光学ブロック46aの両端面に反射防止コーティングを付与せず、パルス光をブリュースター角で入射させる。つまり、入射角θ
Bで入射したp偏光に対して、
tanθ
B=n
2/n
1
の式が成立し、ブリュースター角で入射させると反射率がゼロとなることが知られている。但し、n
1、n
2はそれぞれ入射側及び出射側の媒質の屈折率である。
【0037】
例えば、外部の空気中から光学ブロック46aの内部に光が入射する場合、及び、光学ブロック46aから空気中へ光が出射する場合の角度を上記入射角θ
Bの式を満たすように設定すると、光線がp偏光であれば、入射面及び出射面において、反射損失を著しく抑制することができる。具体的には、SF57ガラスを用いた場合、波長1040nmに対する屈折率は1.81であるから、空気側の入射角を61.1度となるように光学ブロック46aを配置すると、反射損失を少なくできる。また、光学ブロック46aの両端面を平行にしておくと、光学ブロック46aから出射する際の出射角もブリュースター角となるのである。つまり、反射防止コーティングを必要とせずとも、反射損失を十分抑制できるのである。
【0038】
以上述べてきたように、本実施例によれば、高出力短パルスレーザー装置として、熱的影響の少ないことを求められる精密加工や患部へのダメージの少ないことを求められる医療手術に効果的である。また、比較的簡単な構成であるので、高出力短パルスレーザー装置を低価格で提供できるのである。
【0039】
続いて、以下には、上記した圧縮器16に対する他の圧縮器26を用いた実施例を示す。なお、チャープパルス増幅装置1を構成する発振器10、延伸器12、増幅器14は、特に断りのない限り上記したものと同様であり、また限定されるものでもない。
【0040】
図6に示すように、圧縮器26は、光学ブロック26a内部の全反射を利用してパルス光をこの中に閉じ込め、直進通過経路を少なくとも複数与えて光路長の長尺化を行って、二次分散を補償する。光学ブロック26aから屈折して外部へ出射するパルス光が存在しないため、パルスエネルギーの損失を抑制できる。図では、正六角柱の光学ブロック26aからなる圧縮器26を示したが、正N角形(Nは3以上の整数)の底面を持つ柱状体であればよい。また、ここではガラス材料を用いたが、適宜、各種光学材料を用い得る。
【0041】
光学ブロック26aの上部近傍の入光箇所P1には、光学ブロック26aに凸部入力ポート27を与え、若しくは、
図7(a)の右下円内に示すように、光学ブロック26aを切削し凹部入力ポート27’を与え、入力光が直入射となる入力面27aを与える。また、入力面27aには適宜、反射防止コーティングをしておくと、フレネル反射損失を防止できて好ましい。若しくは、上記したブリュースター角で入光できるようにして、p偏光の光に対して反射を防止するようにしてもよい。光学ブロック26aの下部近傍の出光箇所P2には、出力ポート28を与え、これは、入力ポート27と同様に形成される。
【0042】
図7(a)を併せて参照すると、光学ブロック26aを鉛直方向上部から見ると、辺ABの中点Pの入光箇所P1より入力されたパルス光は、点Qにおいて反射して、更に隣の辺の中点Rに向かい、同様に各辺の中点において反射を繰り返し、正N角柱の光学ブロック26a内部を周回する。入光箇所P1から入力光を水平方向から少しだけ鉛直方向の上又は下に傾けて入力させると、正N角形内部を1周した後に、光は入力点Pよりも鉛直方向のやや上又は下に位置する点に戻ってくる。なお、
図7(a)は、下方に傾けた場合を示している。つまり、パルス光は、光学ブロック26a内部をらせん状に周回し、正N角形内部を何周か周回した後に到達した点に出力ポート28が設けられていると、光学ブロック26aから外へパルス光を出力することが可能である。
【0043】
ここで、N角柱の光学ブロック26aの辺の中点で反射する際の入射角θは、θ=90度−180度/Nで表される。
図8(a)に、N=9までの入射角の値を表した。つまり、
図8(b)の臨界角の値を参照すると、例えば、波長1040nmの光を用いた場合には、入射角が臨界角以上であるという全反射条件を満たすためには、SF57、SF6、石英、BK7の4種類のガラス体において、N≧4、つまり、正四角柱以上の正N角柱であればよいことになる。
図7(b)には、SF57において、波長1040nmの光に対して、光路を計算した例を示した。
【0044】
また、
図9(a)には、上記した正六角柱の光学ブロック26aから辺の長さを5%程度変化させた不等辺六角柱を用いて
図7(b)と同様に計算した結果を示した。光学ブロック26aの断面の多角形の辺を不等辺にすることで、入光箇所P1からの光路の位置が周回ごとにわずかに変化する。ここでは6周した後に全反射条件を満たさない面に到達し出光箇所P2が与えられる。これによれば、出力ポート28(
図6及び7参照)のような特別な形状の加工などを出光箇所P2に与える必要とすることなしに光学ブロック26aから光を出射できる。
【0045】
また、
図9(b)には、不等辺六角柱へのパルス光の入射を直角入射面によって行っている。かかる場合、入力ポート27(
図6及び7参照)のような特別な形状の加工を入光箇所P1に与える必要がない。光学ブロック26aの断面の多角形の辺を不等辺にすることで、直線通過経路(光路位置)が周回ごとにわずかに変化し、2周半の後に全反射条件を満たさない面に到達し出光箇所P2が与えられる。これによれば、入力ポート27だけでなく、出力ポート28についても特別な形状の加工などを必要としないのである。
【0046】
以上のように、光学ブロック26aは正多角柱だけでなく、内部で全反射条件を満たせば、必ずしも、正多角柱である必要はなく、各辺の中点から入力する必要もない。
【0047】
図10は、正六角柱の光学ブロック26aの辺の中点の入光箇所P1において、入射角を変化させたときの光路を示した。
図10(a)及び
図10(b)は、それぞれ入射角を59度及び61度に変化させたときの光路の計算結果である。光路長は、入射角に対応して連続的に変化する。
【0048】
図11には、光路の物理的距離の入射角依存性を示した。なお、光路の物理的距離の値は、正六角柱の光学ブロック26aの辺の長さを100として、これに対する数値(比)で表記した。これから判るように、入光箇所P1に制御ポートを設けて入射角をわずかに変化させることで、圧縮器26が与える分散量を連続的に変化させ得る。かかる分散量調整機構によって、チャープパルス増幅装置1の全体の残留分散量を正確にゼロにすることが可能となる。
【0049】
ところで、上記した圧縮器16(26,36,46)において、光学ブロック16a(26a,36a,46a)と逆符号の分散を与える光学材料からなる光学ブロックを用いて、直進通過経路を少なくとも複数与えて光路長の長尺化を行った延伸器12を与えることもできる。かかる延伸器は、上記した圧縮器16(26,36,46)と同様に利点を有し、例えば、分散量調整機構などを与え得る。つまり、これを用いたチャープパルス増幅装置では、全体の残留分散量を正確にゼロにできて、フェムト秒台の短パルス光であっても高い出力で増幅可能でありながら動作安定性により優れるものとできる。
【0050】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるだろう。