特許第6202317号(P6202317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202317
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】X線発生装置及びX線照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/06 20060101AFI20170914BHJP
   H01J 35/08 20060101ALI20170914BHJP
   H01J 35/14 20060101ALI20170914BHJP
   G21K 1/00 20060101ALI20170914BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01J35/06 B
   H01J35/06 H
   H01J35/08 C
   H01J35/14
   G21K1/00 E
   G21K5/02 X
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-218158(P2013-218158)
(22)【出願日】2013年10月21日
(65)【公開番号】特開2015-82349(P2015-82349A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年7月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構復興促進プログラム(マッチング促進)「産業用X線照射装置の大線量冷陰極X線管の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英俊
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良一
【審査官】 杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−021849(JP,A)
【文献】 米国特許第03751701(US,A)
【文献】 実開昭61−013454(JP,U)
【文献】 特開2006−255089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J35/00−35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに電子ビームを照射して仮想軸線に沿ってコーン状にX線を発生させるX線発生装置であって、
前記電子ビームの照射を受ける照射面を有し前記照射面の法線を前記仮想軸線と平行に配置させたターゲットと、
前記ターゲットから前記仮想軸線に沿って離間した位置にあって前記仮想軸線を軸線にして配置され、外周縁に沿って電子遮蔽部材を与えられ且つ前記ターゲットに向けられた電子放出面から電子ビームを放出するリング状電子源と、
前記仮想軸線に沿って前記ターゲットと前記リング状電子源との間に位置し、前記仮想軸線を軸線にして配置され、前記リング状電子源からの前記電子ビームを収束させて前記ターゲットに仕向けるガイドリングと、を含むことを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記ターゲット、前記ガイドリング、前記リング状電子源の前記軸線に沿った相対距離を変更可能としたことを特徴とする請求項1記載のX線発生装置
【請求項3】
前記リング状電子源の前記電子放出面から前記電子ビームの放出方向に離間させて電子引出グリッドを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記リング状電子源の前記電子放出面に電界により電子を放出する電子放出膜を与えたことを特徴とする請求項1乃至のうちの1つに記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記電子放出膜は、針状炭素からなることを特徴とする請求項記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記電子放出面に凹凸形状を与えたことを特徴とする請求項記載のX線発生装置。
【請求項7】
ターゲットに電子ビームを照射して仮想軸線に沿ってコーン状にX線を発生させるX線発生装置を複数並置したX線照射装置であって、
前記X線発生装置は、
前記電子ビームの照射を受ける照射面を有し前記照射面の法線を前記仮想軸線と平行に配置させたターゲットと、
前記ターゲットから前記仮想軸線に沿って離間した位置にあって前記仮想軸線を軸線にして配置され、外周縁に沿って電子遮蔽部材を与えられ且つ前記ターゲットに向けられた電子放出面から電子ビームを放出するリング状電子源と、
前記仮想軸線に沿って前記ターゲットと前記リング状電子源との間に位置し、前記仮想軸線を軸線にして配置され、前記リング状電子源からの前記電子ビームを収束させて前記ターゲットに仕向けるガイドリングと、
を含むことを特徴とするX線照射装置。
【請求項8】
前記ターゲット、前記ガイドリング、前記リング状電子源の前記軸線に沿った相対距離を変更可能としたことを特徴とする請求項記載のX線照射装置。
【請求項9】
前記リング状電子源の前記電子放出面から前記電子ビームの放出方向に離間させて電子引出グリッドを設けたことを特徴とする請求項7又は8に記載のX線照射装置。
【請求項10】
前記リング状電子源の前記電子放出面に電界により電子を放出する電子放出膜を与えたことを特徴とする請求項乃至のうちの1つに記載のするX線照射装置。
【請求項11】
前記電子放出膜は、針状炭素からなることを特徴とする請求項1記載のX線照射装置。
【請求項12】
前記電子放出面に凹凸形状を与えたことを特徴とする請求項1記載のX線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットに電子ビームを照射してX線を発生させるX線発生装置及びこれを用いたX線照射装置に関し、特に、リング状の電子源を用いた小型のX線発生装置及びこれを用いた大面積を高い照射線量で照射可能なX線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を利用した各種の検査装置や照射装置に用いられるX線源であるX線発生装置(X線管)では、タングステンなどからなるターゲットに電子ビームを照射してX線を発生させている。従来の典型的なX線発生装置では、X線の放出方向である軸線に対して斜めにターゲットを配置してその側方に電子ビームを発生させる電子源を配置した、いわゆる「非軸対称」の構成を採用している。一方、軸線上にターゲットとリング状の電子源とを同軸に配置した、いわゆる「軸対称」の構成を採用したX線発生装置も知られている。かかる「軸対称」の構成では、装置を小型化できるとともに、回転対称の部品を多用できるので製造コストを削減できるとされる。
【0003】
例えば、特許文献1では、棒状の陽極(棒状ターゲット)とリング状の陰極(リング状電子源)とをX線の放出方向である軸線に沿って同軸に配置し、「軸対称」としたX線発生装置が開示されている。詳細には、棒状陽極は錐形の先端部を有し、リング状陰極が該棒状陽極の錐形先端部を同心且つ環状に囲むように配置されている。リング状電極の内側面上には遮蔽部材が設けられていて、リング状電極の内側面から放出される電子ビームを棒状陽極の錐形先端部斜面に選択的に導くようになっている。電子ビームの照射を受けた棒状陽極の錐形先端部斜面ではX線が発生し、軸線上に設けられたX線導出窓で直進性を高められて装置外部へ放出されるのである。
【0004】
また、特許文献2でも、環状ウェネルト電極を用いた「軸対称」の構成のX線発生装置を開示している。詳細には、丸棒状陽極は、先端に向かうにつれて断面寸法を漸減させるテーパー部を有し、その先端面にはターゲットを与えられている。環状ウェネルト電極は、丸棒状陽極の径外方向において該丸棒状陽極と略同軸に配置され、丸棒状陽極のテーパー部と平行に対向するテーパー部を与えられている。更に、陰極フィラメントは、ウェネルト電極の径外方向において該ウェネルト電極と略同軸に配置されている。陰極フィラメントからの電子ビームはターゲット上に略円形に収束し、軸線に沿ってX線を放出させるのである。
【0005】
更に、特許文献3では、X線の放出方向である軸線に沿って平板ターゲット(陽極)とリング状電子源(陰極)とを離間して配置した「軸対称」の構成のX線発生装置を開示している。詳細には、集束・偏向用リング電極の一対についてリング状電子源を軸線方向に挟んで同軸に配置し、そのリング状内側先端部をリング状電子源の内部方向へ挿入するように屈曲させている。ターゲットとリング状電子源との間に電圧を印加すると、リング状電子源の内側面から電子ビームが放出されて集束・偏向用リング電極によってターゲットの表面に形成されたV字型溝に照射されてX線を発生させる。かかるX線は、リング状電子源、集束・偏向用リング電極の内部を通って軸線方向に取り出されるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−288159号公報
【特許文献2】特開2010−33992号公報
【特許文献3】特開昭64−21849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2のX線発生装置では、ターゲット(陽極)をリング状電子源(陰極)の内部に配置しているため、X線の照射線量を高めるべく陽極と陰極との間の電圧を高くしようとすると、リング状陰極の内径を大きくして絶縁を確保する必要がある。すなわち、X線発生装置が大型化、特に、装置側方の寸法を大きくしてしまう。一方、特許文献3のX線発生装置では、かかる場合にターゲット(陽極)とリング状電子源(陰極)とを軸線方向に沿って距離を大きくすればよく、少なくとも、X線発生装置がその側方に大型化することはない。しかし、リング状電子源の電子放出面である内壁(内側面)の内側に引出電極やフォーカス電極などが配置されていることから、X線の取り出し角度(面積)を広げることが困難である。
【0008】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、小型でありながら大なる出力を得られるとともに低コストであるX線発生装置を提供し、更に、これを用いて大面積を照射可能とするX線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるX線発生装置は、ターゲットに電子ビームを照射して仮想軸線に沿ってコーン状にX線を発生させるX線発生装置であって、前記電子ビームの照射を受ける照射面を有し前記照射面の法線を前記仮想軸線と平行に配置させたターゲットと、前記ターゲットから前記仮想軸線に沿って離間した位置にあって前記仮想軸線を軸線にして配置され、前記ターゲットに向けた電子放出面から電子ビームを放出するリング状電子源と、前記仮想軸線に沿って前記ターゲットと前記リング状電子源との間に位置し、前記仮想軸線を軸線にして配置され、前記リング状電子源からの前記電子ビームを収束させて前記ターゲットに仕向けるガイドリングと、を含むことを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、軸対称のターゲット、リング状電子源、及び、ガイドリングを仮想軸線上に同軸に互いに離間させて配置し、装置を小型化、特に、その側方の寸法をコンパクトにできる。また、ターゲットとリング状電子源との間の印加電圧を高めようとする場合にあっても、ターゲットとリング状電子源との離間距離を大きくすることで絶縁を確保でき、装置を少なくとも側方に大きくすることはない。また、リング状電子源の内側面から電子ビームを放出する場合には該内側面近傍にグリッド(引出電極)やフォーカス電極などを設ける必要があったが、リング状電子源のターゲットに向けた面から電子ビームを放出するため、かかる制約がなく、X線の取り出し角度(面積)をより広くできる。つまり、小型でありながら高い効率で大なる出力を得られるとともに、低コストであるX線発生装置を提供できる。
【0011】
上記した発明において、前記ターゲット、前記ガイドリング、前記リング状電子源の前記軸線に沿った相対距離を変更可能としたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、電子ビームの制御を一軸の駆動機構で行うことができて、装置を大型化することなく、特に側方に大きくすることなく、低コストで制御できるのである。
【0012】
上記した発明において、前記リング状電子源の前記電子放出面の外周縁に沿って電子遮蔽部材を与えたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、軸線中心方向に電子ビームを収束させ、電力消費ロスを低減できるのである。
【0013】
上記した発明において、前記リング状電子源の前記電子放出面から前記電子ビームの放出方向に離間させて電子引出グリッドを設けたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、出力電流と電圧を独立して調整できるのである。
【0014】
上記した発明において、前記リング状電子源の前記電子放出面に電界により電子を放出する電子放出膜を与えたことを特徴としてもよい。また、前記電子放出膜は、針状炭素からなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、例えば、熱電子放出型電子源のような予熱を不要とし、低い消費電力で電子を放出させ得るのである。
【0015】
上記した発明において、前記リング状電子源の前記電子放出面に凹凸形状を与えたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、より低い電圧で電子を放出させ得るのである。
【0016】
本発明によるX線照射装置は、ターゲットに電子ビームを照射して仮想軸線に沿ってコーン状にX線を発生させるX線発生装置を複数並置したX線照射装置であって、前記X線発生装置は、前記電子ビームの照射を受ける照射面を有し前記照射面の法線を前記仮想軸線と平行に配置させたターゲットと、前記ターゲットから前記仮想軸線に沿って離間した位置にあって前記仮想軸線を軸線にして配置され、前記ターゲットに向けた電子放出面から電子ビームを放出するリング状電子源と、前記仮想軸線に沿って前記ターゲットと前記リング状電子源との間に位置し、前記仮想軸線を軸線にして配置され、前記リング状電子源からの前記電子ビームを収束させて前記ターゲットに仕向けるガイドリングと、を含むことを特徴とする。
【0017】
かかる発明によれば、特に、側方の寸法をコンパクトにしたX線発生装置を複数並置するので同じ面積に密に収容でき、しかも側方の寸法を維持したまま高い印加電圧を得られるから、高い出力で且つ高い効率で大面積を照射可能となるのである。また、面積あたりのX線発生装置の数を多くすることで、1つのX線発生装置における出力負荷、特に、ターゲットの損傷を抑制し、X線照射装置の寿命を延長できるのである。更に、X線発生装置は、ターゲットへの電子ビームの入射方向とX線の放出方向とをほぼ同軸にできるので、ターゲットの背面から容易にターゲットを冷却可能であるとともに、高圧電源を初めとする各種機器の収容をターゲットの背面に容易にできるのである。
【0018】
上記した発明において、前記ターゲット、前記ガイドリング、前記リング状電子源の前記軸線に沿った相対距離を変更可能としたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、各X線発生装置の電子ビームの制御を一軸の駆動機構で行うことができて、X線発生装置を複数並置したX線照射装置であっても、電子ビームの制御を低コストでできるのである。
【0019】
上記した発明において、前記リング状電子源の前記電子放出面の外周縁に沿って電子遮蔽部材を与えたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、各X線発生装置を小型でありながら電力消費ロスを低減し、大なる出力とできるから、X線発生装置を複数並置したX線照射装置であっても、高い効率を得られるのである。
【0020】
上記した発明において、前記リング状電子源の前記電子放出面から前記電子ビームの放出方向に離間させて電子引出グリッドを設けたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、各X線発生装置において出力電流と電圧を独立して調整できるのである。
【0021】
上記した発明において、前記リング状電子源の前記電子放出面に電界により電子を放出する電子放出膜を与えたことを特徴としてもよい。また、前記電子放出膜は、針状炭素からなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、例えば、熱電子放出型電子源のような予熱を不要とし、低い消費電力で電子を放出させ得るのである。
【0022】
上記した発明において、前記リング状電子源の前記電子放出面に凹凸形状を与えたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、より低い電圧で電子を放出させ得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明によるX線発生装置の斜視図である。
図2】本発明によるX線発生装置の断面図である。
図3】本発明によるX線発生装置の電子ビームのシミュレーション結果を示す図である。
図4】本発明によるX線発生装置の断面図である。
図5】本発明によるX線発生装置の電子ビームのシミュレーション結果を示す図である。
図6】本発明によるX線発生装置の要部の断面図である。
図7図6に示すリング状電子源における電界強度分布の計算結果を示すグラフである。
図8】本発明によるX線発生装置の断面図である。
図9】本発明によるX線照射装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明による1つの実施例としてのX線発生装置について、図1乃至図3を用いて説明する。
【0025】
図1に示すように、X線発生装置1は、X線の放出方向(矢印S)に平行な仮想軸線Pに沿って、リング状電子源2、リング状のガイドリング3、ターゲット4をそれぞれ同軸配置した構造を有している。リング状電子源2及びガイドリング3の中心軸は仮想軸線Pと一致し、ターゲット4の電子線照射面4aの法線は仮想軸線Pと平行である。また、図示しない駆動機構によって、仮想軸線Pに沿ったリング状電子源2、ガイドリング3、ターゲット4の相対距離を変更可能である。
【0026】
リング状電子源2は、陰極であって、後述するような図示しない電子線遮蔽部材を表面に与えられて、電子ビーム放出面2aから仮想軸線Pに沿ってX線の放出方向(矢印S)と逆方向に向けて電子ビームEを放出する。なお、電子放出面2aには電界により電子を放出する電子放出膜を与えることが好ましい。
【0027】
ガイドリング3は、リング状電子源2とターゲット4との間に位置し、リング状電子源2の電子ビーム放出面2aからの電子ビームEを仮想軸線Pに沿って集束させる。
【0028】
ターゲット4は、W(タングステン)などの所定の金属からなり、電子線照射面4aをリング状電子源2の電子ビーム放出面2aに対向させている。
【0029】
図2を併せて参照すると、リング状電子源2とガイドリング3、ターゲット4の各々の間隔は放電開始距離以上、すなわち、互いに絶縁されている。ターゲット4の電圧VTを正電圧(0<VT)、及び、リング状電子源2の電圧VRを接地若しくは負電圧(VR≦0)にするとともに、ガイドリング3の電圧VGをリング状電子源2とターゲット4との印加電圧の間の電圧(VR<VG<VT)とする。電圧の印加によって生じた電界によってリング状電子源2の電子ビーム放出面2aから電子ビームEが放出される。ここで電子ビームEのエネルギーは、リング状電子源2の電圧VRとターゲット4の電圧VTの差VR-T=VR−VTに依存する。
【0030】
また、ガイドリング3は、電子ビームEを収束させ、これをターゲット4の電子線照射面4aに照射させる。かかる収束された電子ビームEは、ターゲット4の電子線照射面4aでX線を発生させ、リング状電子源2の中心の開口部から仮想軸線Pに沿って取り出される(矢印S)。
【0031】
なお、X線を取り出し可能な最大角度θは、リング状電子源2とターゲット4の間の距離LR-Tとリング状電子源2の内径(半径R1)によって、
θ=tan-1(R1/LR-T)
として決定される。つまり、同一の内径を有するリング状電子源2では、距離LR-Tが小さいほど、X線の取り出し角度は大きくなるのである。
【0032】
ここで、ターゲット4は電子ビームEの照射を受けると、X線を出射するとともに余剰エネルギーを熱として発生させる。かかる熱はターゲット4の温度を上昇させる。しかし、ターゲット4は電子線照射面4aと反対側の背面4bから冷却できるので、X線の出射に影響を与えることなく冷却部を設け得るのである。つまり、X線発生装置1では、被照射物との距離を近接させることが出来るから、大線量のX線を被照射物に照射でき、効率的に広範囲に均一且つ所定線量の照射ができるのである。
【0033】
図3には、上記したX線発生装置1において、ガイドリング3及びターゲット4に電圧を印加したときの電子線Eの放出シミュレーションの結果を示した。ここで、リング状電子源2を接地し、これに対してガイドリング3を5kV、ターゲット4を図3(a)では150kVに、図3(b)では300kVの各電圧にした。
【0034】
リング状電子源2、ガイドリング3、ターゲット4の間に印加する電圧、特に、ターゲット4の電圧を高くするには、リング状電子源2、ガイドリング3、ターゲット4の各電極間の距離を仮想軸線P方向に沿ってより離間させるようにして絶縁を確保する必要がある。図3(a)と図3(b)とを比較して分かるように、電圧を高くしても仮想軸線P方向に沿ってリング状電子源2、ガイドリング3、ターゲット4の間隔を大きくすることで絶縁が確保されていることが分かる。かかる絶縁方法により、リング状電子源2の電子ビーム放出面2a(図2参照)には、数MV/mの電界を印加でき、放出された電子ビームはターゲット4で焦点を有するX線源とできるのである。
【0035】
続いて、本発明による他の実施例としてのX線発生装置について、図4乃至図8を用いて説明する。
【0036】
図4には、他の実施例としてのX線発生装置11を示した。ここでは、リング状電子源2の電子ビーム放出面2aに電界によって電子を放出する膜、例えば、針状炭素を与えた針状炭素膜を与え、且つ、電子引出用のグリッド6をリング状電子源2の電子ビーム放出面2aに対向するように与えている。これによれば、電子ビーム放出面2aからの出力電流は、ガイドリング3及びターゲット4の電圧に依存せずに制御できる。ここで、グリッド6に印加する電圧Vgはリング状電子源2とガイドリング3に印加する電圧の間の電圧(VR<Vg≦VG)とする。リング状電子源2とグリッド6間に印加する電圧差(VR-g)により出力電流が調整可能である。グリッド6には、リング状電子源2とグリッド6との間の距離LR-gよりも間隔の狭いメッシュを用いる。
【0037】
また、グリッド6と平行な電子ビーム放出面2aを大きくした場合にあっては、グリッド6を配置したことによって電子ビーム放出面2aに印加される電界は一様となって、電子ビーム放出面2aの全域に亘って均一な密度の電子ビームが放出されるのである。このため、電子ビーム放出面2aを大きくすることで出力電流は、電子ビーム放出面2a上における電流密度(A/m2)と電子放出面積に伴い増加し、高出力のX線発生装置を構成できる。
【0038】
逆に、所定の出力電流を大きくするにあたって、電子放出面積を大きくすることで可能であるから、電子ビーム放出面2aにおける電流密度を低く抑えることができる。故に、リング状電子源2の寿命を延ばすことができる。なお、電子放出面積を増加させるには、リング状電子源2の開口部を小さくすることになる。ここで、X線照射面積は、リング状電子源2とターゲット4間距離L1-4、リング状電子源2の厚さt1及びリング状電子源2の開口部の半径R1によって制限される。X線の照射半径Rは、ターゲット4と照射対象位置間の距離Lに依存し、
R=R1L/(L1-4+t1)
X線の出射角θは、
θ=Tan-1[R1/(L1-4+t1)]
でそれぞれ与えられる。これによれば、リング状電子源2の厚さt1=4.5mm、及び、開口部半径(内径)R1=12.5mm、リング状電子源2とターゲット4の間の距離LR-T=30mmとすると、X線出射角θは上記した式より±20度となり、ターゲット4から100mm離間した位置において、Φ72.5mmのX線が得られる。
【0039】
ここで、電子ビーム放出面2aを大きくする際に、リング状電子源2の電子ビーム放出面2aの外周縁部に沿ってリング状の電子遮蔽部材5を取り付けることが好ましい。かかる場合、電子ビーム放出面2aの外周近傍からの電子放出を抑止するとともに、ガイドリング3の方向へ向けて放出される電子を抑制し、電力消費ロスを低減できるのである。また、電子ビーム放出面2aの内周部に曲面を設けることで、内周部に集中した電界が付加されることを抑制し、リング状電子源2とグリッド6との間の放電を抑制することが好ましい。
【0040】
図5には、上記したX線発生装置11において、ガイドリング3及びターゲット4に併せてグリッド6に電圧を印加した際の電子放出シミュレーションの結果を示した。ここでは、リング状電子源2の内周部に曲面を設けている。グリッド6とガイドリング3には5kV、ターゲット4には150kVの電圧をそれぞれ印加した。グリッド6はターゲット4の電圧VTによるリング状電子源2への寄与を遮蔽している。つまり、ターゲット4の電圧VTに依存せずに、リング状電子源2とグリッド6との間に印加される電圧差VR-g及びリング状電子源2とグリッド6との間の距離LR-gによって出力電流を調整できるのである。
【0041】
また、電子ビーム放出面2aの外周周辺において、電子遮蔽部材5はフォーカスレンズとして働き、電子ビームEの出射方向を決定している。電子遮蔽部材5の先端の曲面部は、電子ビーム放出面2aに対してフラットにすると、電子ビーム放出面2aの垂直方向に電子ビームが出射され、グリッド6の方向に突き出す構造とすることで電子ビームEは中心軸方向へ傾けることができる。
【0042】
また、リング状電子源2とグリッド6との間の電圧差VR-g、及び、グリッド6とターゲット4との間の電圧差Vg-Tの比(VR-g/Vg-T)が大きくなるに従って、焦点サイズを小さくすることが可能である。
【0043】
図6には、上記したX線発生装置11におけるリング状電子源2の例を示した。図6(a)は電子ビーム放出面2aの形状を平坦面としたとき、及び、図6(b)は、電子ビーム放出面2aの形状を櫛歯状の凹凸面としたときである。また、図7には、この2つの場合の電子ビーム放出面2aのX軸に沿った電界強度の計算結果を示した。電子ビーム放出面2aの形状を凹凸面とすることで、電子ビーム放出面2aから電子を放出させる際に必要な印加電圧を低くしようとするものである。
【0044】
つまり、図7の破線Aに示すように、電子ビーム放出面2aが平坦のとき(図6(a)参照)、リング状電子源2の内周部及び外周部周辺の曲面を除き、電界強度は電子ビーム放出面2a全体にほぼ均一に与えられている。一方、図7の実線Bに示すように、電子ビーム放出面2aが凹凸形状のとき(図6(b)参照)、電界は凸部に集中し、電界強度は凸部で強調され、平坦面における電界強度よりも強くなる。つまり、凹凸を与えた方が電子を放出させる際に必要な電圧は低くなり、リング状電子源2とグリッド6との間の電圧差VR-gを小さくできる。電圧を低くできることで、電子遮蔽部材5とグリッド6間における放電の可能性を低く抑えることが出来る。
【0045】
更に、図8には、他の実施例としてのX線発生装置21を示した。開口部を狭めたリング状電子源2’がX線を通過させる際にスリットとしての役割を負う。リング状電子源2’には、典型的には数mm程度の厚みを与え、リング状電子源2’の厚さと開口部径との相関関係により、これだけでも平行X線ビームS’を得ることができる。また、リング状電子源2’の開口部周辺においてスリット8を更に設け、2段のスリット構造とすることで厳密に平行なX線ビームS’とすることも可能である。
【0046】
以上述べてきたように、本実施例のX線発生装置1(11,21)では、リング状電子源2、リング状のガイドリング3、軸対称のターゲット4などの回転対称の部品から構成されており、小型でありながら製造をより容易にでき得る。また、大型化することなく、高い電圧を印加できて、高い効率で大なるX線照射線量を得ることができる。更に、ターゲット4に印加される電圧制御部をX線放出方向の背面側に設置できて、近接して被照射部材にX線を照射することが可能となる。付随して、ターゲット4の背面の空間自由度が高いから、例えば、冷却部32の容量を大きくできて、ターゲット4で発生した熱を効率的に除去できる。また、リング状電子源2の内径(開口部)よりも内側に電極を設ける必要がなく、X線の取り出し角度(面積)を大きくできる。
【0047】
次に、本発明による1つの実施例としてのX線照射装置について、図9を用いて説明する。
【0048】
図9に示すように、X線照射装置31は、上記したような、X線放出方向である仮想軸線Pについて回転対称であるX線発生装置1(11,21)を複数並置させて構成される。つまり、X線発生装置1(11,21)は仮想軸線Pを有するため、複数個を仮想軸線Pについて平行になるように配置することで、1個のX線発生装置1(11,21)により出射されるX線を面に亘って重ねて、大面積且つ大線量の照射を可能とするのである。
【0049】
ところで、ターゲット4に入射する電子ビームEの電流を大きくすることでX線の線量を高め得るが、そのエネルギーの大部分はターゲット4に熱として残存するため、ターゲット4が融点を超えるような電子ビームEの電流値まで大きくすることはできない。従来、1つのX線発生装置1(11,21)の電子ビームEの電流を大きくしてX線の照射線量を高めるには、大きな冷却機構が必要になる。ところが、本実施例では、生じていた熱を各X線発生装置1に分散し、効率的に熱を拡散せしめるから、簡便な冷却機構を与えるだけでよいのである。
【0050】
また、本実施例では、上記したように、X線発生装置1(11,21)のターゲット4がX線放出方向と反対側にあるため、かかるX線発生装置1(11,21)の背面に冷却機構32を大きな制約なしに設けることができる。同様に、ターゲット4の図示しない高電圧制御部も大きな制約なしに設け得る。つまり、低コスト且つ小型で大線量照射が可能なX線照射装置31を得られるのである。
【0051】
本実施例のX線照射装置31では、複数個のX線発生装置1(11,21)を密に並べて得られ、大面積を高い照射線量で照射できるのである。これは、非破壊検査などの分野で利用でき、例えば、食品分野における発芽防止や殺菌、滅菌においては、0.03〜50kGy程度の大線量の照射源として利用でき得るのである。
【0052】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0053】
1,11,21 X線発生装置
2 リング状電子源
2a 電子ビーム放出面
3 ガイドリング
4 ターゲット
4a 電子線照射面
5 電子線遮蔽部材
6 グリッド
31 X線照射装置
E 電子ビーム
P 仮想軸線

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9