特許第6202327号(P6202327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特許6202327-質量流量計及び静圧計測方法 図000002
  • 特許6202327-質量流量計及び静圧計測方法 図000003
  • 特許6202327-質量流量計及び静圧計測方法 図000004
  • 特許6202327-質量流量計及び静圧計測方法 図000005
  • 特許6202327-質量流量計及び静圧計測方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202327
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】質量流量計及び静圧計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/80 20060101AFI20170914BHJP
   G01F 1/34 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   G01F1/80
   G01F1/34 B
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-255778(P2013-255778)
(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-114191(P2015-114191A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】小阪 亮
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−66184(JP,A)
【文献】 特開2007−218775(JP,A)
【文献】 特開平10−132676(JP,A)
【文献】 米国特許第5641915(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/00− 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した直管部及び曲がり管部を含みこの内部を流体の流通する管路の該曲がり管位置に力検出用歪ゲージを与え、直管位置に静圧・温度補償用歪ゲージを与えた質量流量計で該管路内の静圧の計測を与える静圧計測方法であって、
計測された質量流量に対応する静圧変化について、前記力検出用歪ゲージ又は前記静圧・温度補償用歪ゲージのいずれか一方から得られる流量に対応する静圧変化で補償して前記静圧の計測を与えることを特徴とする静圧計測方法。
【請求項2】
前記質量流量は、前記曲がり管位置での遠心力又は向心力、及び、前記静圧変化との間で一次近似することを特徴とする請求項1記載の静圧計測方法。
【請求項3】
連続した直管部及び曲がり管部を含みこの内部を流体流通する管路の該曲がり管位置に力検出用歪ゲージを与え直管位置に静圧・温度補償用歪ゲージを与えて該管路内の静圧の計測を与える質量流量計であって
計測された質量流量に対応する静圧変化について、前記力検出用歪ゲージ又は前記静圧・温度補償用歪ゲージのいずれか一方から得られる流量に対応する静圧変化で補償して前記静圧計測を与えることを特徴とする質量流量計。
【請求項4】
前記質量流量は、前記曲がり管位置での遠心力又は向心力、及び、前記静圧変化との間で一次近似することを特徴とする請求項3記載の質量流量計。
【請求項5】
前記静圧を前記質量流量で除算することにより管路抵抗計測を与えることを特徴とする請求項3又は4に記載の質量流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量流量計に関し、特に、小型・軽量な流量計で圧力と流量計測が必要な分野、例えば、人工心臓などの医療用流量計や、石油、石油化学、化学などのプラントの配管を流れる流体やガス、ビンの洗浄水、ウェハや基板の洗浄液、薬剤などの圧力・流量計測計、あるいは、管路内のフィルタの目詰まりを検出するための管路内抵抗の計測等に使用するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、既に、小型・軽量な流量計として、硬質の曲がり管単体で流量を計測する質量流量計(特許文献1)、弾性の曲がり管で流量を計測する質量流量計(特許文献2)を出願しているが、いずれも圧力に関する記載は無い。
さらに、本出願人は、脈波伝搬速度より圧力計測を実施する質量流量計(特許文献3)も既に出願しているが、この場合には脈波伝搬速度を測定するための構成が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−218775号公報
【特許文献2】特開2009−150671号公報
【特許文献3】特願2012−234891号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、病院外使用の体内埋め込み人工心臓では、病態管理のため血圧と血流量の計測が重要であるが、埋め込みできる小型の血圧計と血流量計が実用化されていない。実用化されている産業用の圧力計としては、ダイヤフラム式の圧力センサや、流量計としては、渦流量計、抵抗流量計、フロート式流量計など様々な方式はあるが、超軽量でシンプルな計測方式の圧力計と流量計が求められている。本出願人が従来提案してきた曲がり管を用いた質量流量計(特許文献1、2等)では、計測方法はシンプルで小型化が可能だが、質量流量のみの計測を行い、表示機器に質量流量のみを表示していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために、本発明の質量流量計では、内部を流体が流通する管路内の流体の遠心力ないし向心力が作用する部分に遠心力ないし向心力検出用歪ゲージと、遠心力ないし向心力が作用しない位置に静圧・温度補償用の歪ゲージを貼り付け、その出力差から質量流量を計測する質量流量計において、計測された質量流量と歪ゲージの出力から管路内の静圧を計測する質量流量計を提供する。
上記静圧の計測については、遠心力ないし向心力検出用歪ゲージの出力から計測した質量流量を元に算出した流量による歪ゲージの変化を補償することで、管路内の静圧の計測が可能であり、或いはまた、静圧・温度補償用の歪ゲージの出力から計測した質量流量を元に算出した流量による歪ゲージの変化を補償することで、管路内の静圧を計測することも可能である。
また、上記管路内の遠心力ないし向心力が作用する部分は、管路形状が曲がり管形状である。
また、計測された静圧と質量流量とから管路抵抗(=静圧/質量流量)を計測することも出来る。
【発明の効果】
【0006】
本発明の質量流量計においては、質量流量の計測に加えて、管路内の静圧の計測を可能とする。そのため、質量流量計とは別の圧力計を使用せずに、曲がり管の管路内の静圧を計測可能な質量流量計を実現することが出来、装置の小型が実現出来る。
また、静圧と流量の計測結果から、管路内抵抗を求めることが出来る。そのため、管路の詰まり具合や狭窄などの管路異常を検知することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の一実施例である曲がり管を用いた質量流量計の実施例1の全体構成図であり、静圧計測は、遠心力計測用の歪ゲージを使用して実施している。
図2図2は、本発明の一実施例である曲がり管を用いた質量流量計の実施例2の全体構成図であり、静圧計測は、静圧・温度補償用の歪ゲージを使用して実施している。
図3図3は、本発明の一実施例である曲がり管を用いた質量流量計の実施例3の全体構成図であり、図1で示した実施例1においてさらに管路抵抗を測定出来るようにし、測定結果から管路内のフィルタの詰まりなどの異常検知機能を付与したものである。
図4図4は、本発明の曲がり管を用いた実機を用いて市販流量計との流量の計測性能の比較試験を実施した測定結果を示す。
図5図5は、本発明の曲がり管を用いた実機を用いて市販圧力計との静圧の計測性能の比較試験を実施した測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の遠心力ないし向心力の作用する管(例えば曲がり管)を用いた質量流量計において、質量流量と静圧は下記のように得られる。
まず、流量が0[L/min]の時、管路に静圧Psを加えると、遠心力ないし向心力の作用する部位(例えば、図1の遠心力計測用歪ゲージの貼り付け部位)の静圧と歪εsAの関係式と、遠心力ないし向心力の作用しない部位(例えば、図1の静圧・温度補償用歪ゲージの貼り付け部位)の静圧と歪εsBの関係式は、下記の式(1)(2)として得られる。
s=αsA×εsA+βsA (1)
s=αsB×εsB+βsB (2)
ここで、αsA,βsA,αsB,βsBは定数であり、事前の校正で得られる。
一方、流体が流れたとき、遠心力ないし向心力の作用する部位の圧力PAと流量による静圧変化PDA、歪εAの関係式と、遠心力ないし向心力の作用しない部位の圧力PBと流量による静圧変化PDB、歪εBの関係式は、下記の式(3)(4)として得られる。
A=PDA+Ps=αA×εA+βA (3)
B=PDB+Ps=αB×εB+βB (4)
ここで、αA,βA,αB,βBは定数であり、事前の校正で得られる。なお、上記式(1)〜(4)において、「εsA,εA」は、例えば、流体の遠心力ないし向心力が作用する部分に貼り付けた遠心力ないし向心力検出用歪ゲージの出力として得られ、「εsB,εB」は、例えば、遠心力ないし向心力の作用しない位置に貼り付けた静圧・温度補償用歪ゲージの出力として得られる。
曲がり管内の質量流量と遠心力ないし向心力の関係を一次近似と仮定すると、曲がり管内の質量流量Flowと、遠心力ないし向心力の作用する部位と作用しない部位の差圧ΔPは下記の式(5)として得られる。
Flow=α×ΔP+β=α(PA−PB)+β (5)
ここで、α,βは定数であり、事前の校正で得られる。
次に、遠心力ないし向心力の作用する部位に着目すると、流量による静圧変化PDAと質量流量Flowの関係を一次近似と仮定すると、上記式(5)で計測された質量流量Flowを用いて、流量による静圧変化PDAは、下記の式(6)で得られる。
DA=αDA×Flow+βDA (6)
ここで、αDA,βDAは定数であり、事前の校正で得られる。
そして、上記式(3)を変形して下記の式(7)が得られ、
s=αA×εA+βA−PDA (7)
式(7)中のαA,βAは事前の校正で得られている定数であるから、遠心力ないし向心力検出用歪ゲージの出力として得られる歪量εAと式(6)で算出される流量による静圧変化PDAを用いて、式(7)より静圧Psを求めることが出来る。
なお、遠心力ないし向心力の作用しない部位に着目した場合には、上記遠心力ないし向心力の作用する部位に着目した場合と同様にして、流量による静圧変化PDBと質量流量Flowの関係を一次近似と仮定すると、上記式(5)で計測された質量流量Flowより、流量による静圧変化PDBは、下記の式(6’)で得られる。
DB=αDB×Flow+βDB (6’)
ここで、αDB,βDBは定数であり、事前の校正で得られる。
そして、上記式(4)を変形すると下記の式(7’)が得られ、
s=αB×εB+βB−PDB (7’)
式(7’)中のαB,βBは事前の校正で得られている定数であるから、静圧・温度補償用歪ゲージの出力として得られる歪量εBと式(6’)で算出される流量による静圧変化PDAを用いて、式(7’)より静圧Psを求めることが出来る。
【0009】
以上説明したとおり、本発明では、流体の遠心力ないし向心力が作用する部分(図1の例では曲がり管の部分)に遠心力ないし向心力検出用歪ゲージを貼り付け、遠心力ないし向心力が作用しない部分(図1の例では直管の部分)に静圧・温度補償用の歪ゲージを貼り付けることにより、これら二つの歪みゲージの出力差から式(5)を元に質量流量Flowを計測することが出来る(なお、式(5)のPA−PBは、式(3)でPAを式(4)でPBを算出してその差から求まる)。そして、求めた質量流量Flowを用いて式(6)(或いは式(6’))から流量による静圧変化PDA(或いはPDB)を算出し、歪ゲージの出力εA(或いはεB)と算出した流量による静圧変化PDA(或いはPDB)を用いて式(7)(或いは式(7’))を元に静圧Psを算出するものである。なお、式(7)(或いは式(7’))において、右辺の最終項の「−PDA」(或いは「−PDB」)は、質量流量による歪ゲージの出力変化を補償する項ということも出来る。
したがって、本発明の質量流量計では、別の圧力計を用意することなくあるいは静圧計測のための別の歪みゲージ等を用意することなく静圧の計測が出来る。
【実施例】
【0010】
(実施例1)
図1は、本発明の一実施例である曲がり管を用いた実施例1を示したものである。図1に示した実施例1では、曲がり管の曲がりの外側の遠心力が作用する部分に遠心力計測用歪ゲージを貼り付け(なお、向心力が作用する部分に歪みゲージを貼り付けるには曲がり管の曲がりの内側に貼り付ければよい)、遠心力(ないし向心力)検出用歪ゲージとは異なる位置、すなわち遠心力(ないし向心力)の作用しない部分である直管に静圧・温度補償用歪ゲージを貼り付ける。なお、図では歪ゲージ貼り付け部分の管壁は薄肉にして感度を上げている。
この実施例1では、それぞれの歪ゲージの検出信号はブリッジ回路アンプを介して出力され、両出力を用いて式(5)から質量流量Flowを算出するとともに、求めた質量流量Flowを元に式(6)から流量による静圧変化PDAを算出し、歪みゲージの出力εAと求めた流量による静圧変化PDAを元に式(7)から静圧Psを算出するものである。算出した質量流量と静圧とを出力装置で表示・印刷・記憶等する。
【0011】
(実施例2)
図2は、本発明の一実施例である曲がり管を用いた実施例2を示したものである。実施例2では、上記実施例1と同様に、曲がり管の曲がりの外側の遠心力が作用する部分に遠心力計測用歪ゲージを貼り付け、遠心力検出用歪ゲージとは異なる位置として直管の部分に静圧・温度補償用歪ゲージを貼り付ける。そして、それぞれの歪ゲージの検出信号はブリッジ回路アンプを介して出力され、両出力を用いて式(5)から質量流量Flowを算出するとともに、求めた質量流量Flowを元に式(6’)から流量による静圧変化PDBを算出し、歪みゲージの出力εBと求めた流量による静圧変化PDBを元に式(7’)から静圧Psを算出するものである。算出した質量流量と静圧とを出力装置で表示・印刷・記憶等する。
この実施例2を上記実施例1と比較すると、流量による静圧変化の算出が上記実施例1では式(6)を用いているのに対して、実施例2では式(6’)を用いる点、及び、静圧の算出が上記実施例1では式(7)を用いているのに対して、実施例2では式(7’)を用いる点で異なるだけでその他の構成は同じである。
【0012】
(実施例3)
図3は、本発明の一実施例である第3実施例を示したものであって、質量流量と静圧の他に、さらに管路抵抗を求め、管路内のフィルタの詰まりなどの異常検知機能を備えたものである。図3の実施例3では、上記図1に示した実施例1を基本構成としており、質量流量計算と静圧計算については図1で示した上記実施例1と同じである。実施例3が実施例1と異なるところは、求めた質量流量と静圧とから、さらに管路抵抗を計算し、この管路抵抗を用いて管路の詰まり具合や狭窄などの管路の異常を検知し出力装置で表示・音・光等の異常を出力するものである。なお、図3に示した実施例3では、図1の実施例1を基本構成としているが、図2の実施例2を基本構成としても同様に構成できることはもちろんである。
ここで、管路抵抗とは、質量流量と静圧から
管路抵抗=静圧/質量流量
により算出して求めた量であり、電気系の抵抗(=電圧/電流)と機械系のアナロジーからすれば、管路抵抗が過大であるときに管路の詰まりや狭窄あるいは管路内のフィルタの目詰まりなどの異常が発生していると判断することが出来る。
【0013】
図4に、本発明の質量流量計の実機と、市販の流量計とを用いて流量の計測性能の比較試験を行った結果を示す。図4において、横軸は時間(単位[s])、縦軸は流量(単位[L/min])を表し、黒い実線が曲がり管を用いた本発明の実機による流量の測定結果であり、薄い灰色の実線が市販の流量計による流量の測定結果である。図4によれば、本発明の実機の測定結果は、市販の流量計の測定結果とほぼ一致しており、本発明の実機で流量が正確に測定されていることが確認できた。
【0014】
図5に、本発明の質量流量計の実機と、市販の圧力計とを用いて静圧の計測性能の比較試験を行った結果を示す。図5において、横軸は時間(単位[s])、縦軸は静圧(単位[mmHg])を表し、黒い実線が曲がり管を用いた本発明の実機による静圧の測定結果であり、薄い灰色の実線が市販の圧力計による圧力の測定結果である。図5によれば、本発明の実機による圧力の測定結果は、市販の圧力計の測定結果と一致しており、本発明の実機で圧力が正確に測定されていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は小型・軽量な流量計での圧力と流量計測が必要な分野に利用することが出来、例えば、人工心臓などの医療用流量計や、石油、石油化学、化学などのプラントの配管を流れる流体やガス、ビンの洗浄水、ウェハや基板の洗浄液、薬剤などの圧力・流量計測として利用でき、また、管路内のフィルタの目詰まりを検出するための管路内抵抗の計測に使用することも出来る。
図1
図2
図3
図4
図5