(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202334
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】生体試料中の単層カーボンナノチューブ分析方法及び該方法に用いる分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/00 20060101AFI20170914BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20170914BHJP
G01N 31/12 20060101ALI20170914BHJP
G01N 21/61 20060101ALI20170914BHJP
B82Y 35/00 20110101ALI20170914BHJP
【FI】
G01N33/00 D
G01N31/00 D
G01N31/00 Y
G01N31/12 B
G01N21/61
B82Y35/00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-58881(P2014-58881)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-184065(P2015-184065A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年10月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「低炭素化社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 直秀
(72)【発明者】
【氏名】内野 加奈子
【審査官】
高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0211207(US,A1)
【文献】
カーボンナノチューブとカーボンナノファイバーへの職業暴露,国立労働安全衛生研究所(NIOSH)最新情報広報(CIB),2010年11月,P84,検索日:2017年5月25日,URL,http://staff.aist.go.jp/kishimoto-atsuo/NIOSH%20CIB%20CNTCNFdraft_translation.pdf
【文献】
Method Number 5040,NIOSH Manual of Analytical Methods 4th Edition,米国,2003年,P1-9,URL,https://www.cdc.gov/niosh/docs/2003-154/
【文献】
TAMURA Moritaka et al,,A determination method of pristine multiwall carbon nanotubes in rat lungs after intratracheal instillation exposure by combustive oxidation-nondispersive infrared analysis,Talanta,米国,2011年,vol.84,P802-808
【文献】
MORIMOTO Yasuo et al,,Hazard Assessments of Manufactured Nanomaterials,Journal of Occupational Health,米国,2010年,vol.52,P325-334
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00
G01N 31/00
G01N 31/12
G01N 21/61
B82Y 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素ガスを供給しながら生体試料を燃焼させ、そのとき発生するガスから生体試料中のSWCNTを分析する方法であって、
ホモジナイズ後の前記生体試料を酸液中で加熱処理することによりバックグラウンドを低減させた後、得られた分解物を含む液を、石英ウールを充填した石英ガラス製燃焼管に通して濾過し、その後、該燃焼管内に酸素ガスを供給しながら該燃焼管内に残存する試料を燃焼させて、発生するガスからSWCNTを分析することを特徴とする生体試料中のSWCNT分析方法。
【請求項2】
前記ホモジナイズ及び酸液中での加熱処理において、石英ガラス製の容器を用いることを特徴とする請求項1に記載の生体試料中のSWCNT分析方法。
【請求項3】
燃焼炉内に、生体試料を入れた燃焼管を配置し、酸素ガスを供給しながら該試料を燃焼させ、そのとき発生するガスを分析して、生体試料中に含まれるSWCNTを定量分析する装置であって、
前記燃焼管として、濾材としての石英ウールを充填した石英ガラス製の燃焼管を用いることを特徴とする、生体試料中のSWCNT分析装置。
【請求項4】
前記燃焼炉の後段に、触媒を充填した触媒管を接続したことを特徴とする請求項3に記載の生体試料中のSWCNT分析装置。
【請求項5】
前記ガスを分析する装置として、非分散型赤外線分析装置を用いることを特徴とする請求項3又は4に記載の生体試料中のSWCNT分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層カーボンナノチューブの分析方法及び該方法に適した分析用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ((以下、「CNT」ということもある。)は、これからの社会にとって重要な科学技術と考えられており、それを支える基盤としてのナノ材料は様々な分野で試験・開発・実用化が進められている。
しかし、CNTを使用することによるヒトや環境への影響がはっきりと分かっていないことから、その安全性に関わるリスクについて懸念する声が上がっている。そのため、CNTの生体内における動態や環境中における動態の把握は、緊急課題ともいえる課題である。
【0003】
CNTを測定する方法としては、TEM/SEM画像から計数する方法や、蛍光分光法・近赤外蛍光顕微鏡を用いる方法がこれまで提案されている。前者は定量性が低く、結果の代表性に欠く手法であるという欠点があり、後者は存在・挙動・分布の可視化はできるが定量性が低いという欠点がある。
また、NIOSH(National Institute for Occupational and Health)からは、気化後に触媒反応により参加させて炭素分析を行う方法NIOSH 5040が提案されている(文献1)。ただし、この方法は、気中CNTの分析法に特化しており、生体試料中のCNTを分析するための手法ではない。
【0004】
そこで、生体試料中のCNTを燃焼法を用いて分析することが検討されている。
燃焼法を用いた分析には、酸素気流中燃焼法と赤外線吸収法とを組み合わせたものが一般に用いられる。すなわち、加熱炉内に酸素ガスを供給しながら試料を燃焼させ、そのとき発生するCO及び/又はCO
2を含む燃焼ガスを非分散型赤外線分析計(NDIR)において分析する手法である。
しかしながら、試料が生体組織などの生体試料である場合、試料中に非常に多くの成分を含有しているために、共雑物を分離して分析することが、非常に困難かつ重要である。
一例として、CNTを含有する生体試料を、60%硝酸で酸処理して生体炭素を分解した後、900℃で熱分析することが提案されている(非特許文献2)。
【0005】
しかしながら、該方法は、多層カーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」とする)には有効であるものの、単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」とする)の燃焼温度は、MWCNTの燃焼温度より低く、共存する炭素との分離がいっそう困難であるなどの問題がある。また、酸処理後のSWCNTが、試験管に付着して回収率が悪いなどの問題もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】NIOSH Current Intelligence Bulletin, Occupational Exposure to Carbon Nanotubes and Nanofibers. November 2010 Draft.
【非特許文献2】Tamura et al. 2011 (A determination method of pristine multiwall carbon nanotubes in rat lungs after intratracheal instillation exposure by combustive oxidation-nondispersive infrared analysis. Talanta 84 (2011) 802-808)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、こうした現状を鑑みてなされたものであって、生体試料中のSWCNTを燃焼法により分析する方法において、共雑物を分離して分析することができるとともに、ロスやコンタミをなくして安定した定量値を得ることができる方法及びそのための装置を提供することを目的とするものである。また、本発明は、生体試料中のSWCNTの燃焼法による分析を、生体試料の前処理から分析まで一連の流れで行うことが可能な方法及びそのための装置を提供することをもう1つの目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、燃焼法を用いた生体試料中のSWCNTの分析方法において、熱分解における昇温条件を連続的に行うとともに、燃焼管に及び該管内に充填する濾材の材質を特定することにより、バックグラウンド値(コンタミ)の低減が可能になり、定量限界を下げることができることが判明した。さらには、試料のホモジネート後の酸処理に使用する試験管の材質を選択することにより、SWCNTのロスを防止することができ、安定した定量値が得られることが判明した。
【0009】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]酸素ガスを供給しながら生体試料を燃焼させ、そのとき発生するガスから生体試料中のSWCNTを分析する方法であって、
ホモジナイズ後の前記生体試料を酸液中で加熱処理することによりバックグラウンドを低減させた後、得られた分解物を含む液を、石英ウールを充填した石英ガラス製燃焼管に通して濾過し、その後、該燃焼管内に酸素ガスを供給しながら該燃焼管内に残存する試料を燃焼させて、発生するガスからSWCNTを分析することを特徴とする生体試料中のSWCNT分析方法。
[2]前記ホモジナイズ及び酸液中での加熱処理において、石英ガラス製の容器を用いることを特徴とする[1]に記載の生体試料中のSWCNT分析方法。
[3]燃焼炉内に、生体試料を入れた燃焼管を配置し、酸素ガスを供給しながら該試料を燃焼させ、そのとき発生するガスを分析して、生体試料中に含まれるSWCNTを定量分析する装置であって、
前記燃焼管として、濾材としての石英ウールを充填した石英ガラス製の燃焼管を用いることを特徴とする、生体試料中のSWCTN分析装置。
[4]前記燃焼炉の後段に、触媒を充填した触媒管を接続したことを特徴とする[3]に記載の生体試料中のSWCNT分析装置。
[5]前記ガスを分析する装置として、非分散型赤外線分析装置を用いることを特徴とする[3]又は[4]に記載の生体試料中のSWCNT分析装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体試料中のSWCNTと共雑物とを分離して分析することができるとともに、ロスやコンタミをなくして安定した定量値を得ることができる。また、本発明によれば、生体試料の前処理から分析まで一連の流れで行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】実施例及び比較例における、加熱のNDIRによる測定結果を示す図
【
図4】SWCNT粉体の摂取量とNDIR測定値の相関図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の分析方法は、ホモジナイズ後の生体試料を、酸液中での加熱処理によりバックグラウンドを低減させた後、得られた分解物を含む液を、石英ウールを充填した石英ガラス製燃焼管に通して濾過し、その後、該燃焼管内に酸素ガスを供給しながら該燃焼管を加熱し、該燃焼管内の試料を燃焼させて、発生する二酸化炭素量から試料中のSWCNTを分析することを特徴とするものである。
【0013】
図1は、濾過もしくはサンプリングから加熱・燃焼に至るまでの様子を示す図であって、図中、ブランクは、内部に石英ウールを充填した石英ガラス管(以下、「CNT燃焼管」という。)を示している。
また、
図2は、本発明のCNT燃焼管を用いた燃焼分析装置の概要を示す図であり、昇温燃焼炉内に、前記のCNT燃焼管が設置される。
該昇温燃焼炉の上流側から、マスフローコントローラーを介して、酸素ボンベから所定量の酸素ガスを送り込まれるとともに、昇温燃焼炉の後段には、白金と酸化コバルトが触媒として充填された触媒管が設置されており、該触媒管の後段には、生成されたCO2量を定量するためのガス分析装置が設置されている。
なお、
図2では、ガス分析装置として、非分散型赤外線分析法(NDIR)を例示しているが、分解したときに生じる二酸化炭素を定量出来る分析装置であれば、特に限定されない。
以下、順に。さらに詳しく説明する。
【0014】
本発明において、分析に供される試料はSWCNTを含有する生体試料であって、たとえば、SWCNTを投与されたラットの肺や肝臓などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0015】
生体試料は、一定量の水を加えた上でホモジナイザーなどを用いてホモジナイズされた後、酸を追加して、酸液中での加熱分解により、バックグランドを低減させる。
該酸液としては、硝酸などが用いられ、その濃度は50〜70%が好ましい。
【0016】
本発明において分析精度を向上させるためには、ホモジネート及び酸液中での加熱処理に用いる試験管などの容器については、SWCNTは付着しにくいものを用いることが重要である。
本発明者らが、種々検討した結果、ガラス製のものを用いることが好ましいことが判明した。これに対し、PTFE製のものを用いた場合には、ホモジネートの際にSWCNTが付着して、その後、酸を追加しても付着物は脱離しなかった。
【0017】
また、生体試料由来の共存有機物を低減するためには、加熱条件も重要であり、ホットプレート上もしくはマイクロ波分解装置内において120℃程度で90分以上加熱することが必要である。ただし、160℃の加熱を行った場合には、SWCNTも分解するという結果になるため、120℃を大きく超える高温での加熱は避ける必要がある。
【0018】
前述の、酸性中での加熱処理により得られた分解物を含む液は、前記のCNT燃焼管に通して酸性液のみを濾過する。
さらに、前記のガラス製容器、及び該ガラス製容器からCNT燃焼管に移す際に使用したガラス製のパスツールピペットなどに付着・残留するSWCNTを脱離・回収するために、エタノールを入れて超音波処理をし、処理後のエタノールを前記CNT燃焼管に通して濾過する。この際、酸液はできる限り取り除いておくことが望ましい。さもなければ、突沸が起こり、危険である。
次いで、CNT燃焼管に純水を流通させて水洗濾過した後、該CNT燃焼管をマッフル炉中で100〜200℃にて乾燥させて水を飛ばし、その後、CNT燃焼管内に、酸素ガスを供給しながら加熱して燃焼させる。
【0019】
本発明においては、CNN燃焼管に、石英ガラス製のものを用いることにより、バックグランドを大幅に低減することができる。
これに対し、ステンレス(SUS)製のものを用いた場合には、SUS由来の無機炭素によりバックグランドが上昇し、分析の定量下限が高くなる。
【0020】
また、本発明においては、濾過に用いる濾材として、900℃前後での前焼きをした石英製濾紙に代えて変えて、900℃前後での前焼きをした石英ウールを用いることにより、圧力損失を大幅に低減することができる。(
図1参照)
さらに、CNN燃焼管の後段に、触媒を充填した触媒管を接続することにより、完全に燃焼が進むようにすることが好ましい。
【0021】
CNT燃焼管の加熱は、200℃で10分程度加熱した後、50℃/minで500℃まで昇温し、30分〜1時間500℃で熱を掛けた後、20℃/minで900℃まで昇温し、30分〜1時間900℃で熱を掛ける。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
本実施例では、SWCNT分散液として、SWCNT約1mgをBSA水溶液中約1mL中に分散ざせたものを用い、生体試料として、ラットの肺ホモジネートを用いた。また、分析装置には、
図2に示す燃焼分析装置を用いた。
なお、肺ホモジネートには、未投与のラットを解剖して得られた肺に純水を数mL加えて作成したものを用いた。
該燃焼分析装置におけるCNT燃焼管には、石英ウール(0.025g)をつめた石英管(内径3mm、長さ85mm)を用い、触媒管には、酸化コバルト5gと白金4gを充填したステンレス製の容器を用いた。
【0024】
(試料の酸処理)
前記SWCNT分散液(SWCNT量として20μg〜100μg)と肺ホモジネート0.5g(肺として0.2g)の混合液をガラス製試験管に分取し、硝酸(60%、5mL)中で、80℃から120℃まで昇温し、120℃で120分間のマイクロ波処理を行った。
(CNT燃焼管の準備)
ガラス製試験管内の、前記マイクロ波処理後の酸液を、パスツールピペットを用いて、前記CNT燃焼管に通してろ過した。
ガラス製試験管及びパスツールピペットに付着したCNTを回収するため、エタノールを入れて、超音波処理(10分)をし、該エタノールを前記CNT燃焼管に通してろ過した。
次いで、CNT燃焼管に純水を流通させて、水洗濾過した後、該CNT燃焼管を、マッフル炉中で、200℃にて乾燥させ、水を飛ばした。
【0025】
(燃焼分析)
乾燥後のCNT燃焼管を、前記燃焼分析装置にセットするとともに、昇温燃焼炉の後段には、白金と酸化コバルトをとして触媒を充填した触媒管を接続した後、CNT燃焼管内に酸素ガスを供給しながら(流量0.2L/min)、200℃で10分加熱した後、50℃/minで500℃まで昇温し、40分500℃で熱を掛けた後、20℃/minで900℃まで昇温し、40分900℃で熱を掛け、発生したCO
2をNDIR(Non-dispersive Infrared absorption method 非分散赤外線吸収法)で経時的に測定(0.1秒ごとに計測)し、CO
2濃度と時間を掛け合わせたピーク面積からCNT濃度を求めた。
なお、定量には、あらかじグルコースを用いて作成した検量線を用いた。
【0026】
図3に、加熱条件(最上段)、分析結果を示す。
図3に示すとおり、500℃の燃焼において、加熱開始後30分間で、有機炭素分の残渣を燃焼させた。ついで、500から900℃まで昇温すると、550〜600℃でCNTが燃焼を開始した。
【0027】
(比較例)
試料を用いない2種の、操作ブランク(石英ガラス製CNT燃焼管)及び操作ブランク(SUS製CNT燃焼管)、並びに、実施例における試料を、肺ホモジネートのみ、SWCNT分散液のみ、SWCNTと肺ホモジネートの混合液、及びSWCNT分散液と肺ホモジネートの混合液に変更した5種類の試料を用いて、前記実施例と同様の分析を行った。
【0028】
図3に、各試料のNDIRによる測定結果を示す。
図から明らかなように、石英ガラス製NT燃焼管を用いることにより、操作ブランク、及び肺ホモジネートのみの試料において、ピークの無いものが得られた。
【0029】
(実施例2)
本実施例では、SWCNT量と分析値の相関を調べるために、実施例におけるSWCNT粉体を、40μg〜100μg分取して、実施例と同様の燃焼分析を行った。
図4に、SWCNT粉体の摂取量とNDIR測定結果を示す。
図に示すとおり、ほぼ傾き1で相関(R
2=0.996)があることがわかる。