特許第6202475号(P6202475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202475
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】熱伝導性複合シリコーンゴムシート
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20170914BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20170914BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20170914BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K3/00
   H01L23/36 M
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-132061(P2014-132061)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-11322(P2016-11322A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2016年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】石原 靖久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇則
(72)【発明者】
【氏名】井川 司
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−016923(JP,A)
【文献】 特開2011−132376(JP,A)
【文献】 特開2013−064090(JP,A)
【文献】 特開2013−147600(JP,A)
【文献】 特開平09−001738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00−83/16
C08K 3/00−3/40
H01L 23/00−23/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基の個数が2〜9個であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサン:本成分中のケイ素原子に結合した水素原子のモル数が(a)成分中のアルケニル基1.0モルに対して0.1〜1.5モルとなる量、
(c) (a)成分100質量部に対し下記の量含むものである熱伝導性充填材:500〜4000質量部
(C-1) 中心粒子径が0.5〜5umの不定形アルミナ 300〜1500質量部
(C-2) 中心粒子径が7〜25umの球状アルミナ 300〜1500質量部
(C-3) 中心粒子径が30〜50umの球状アルミナ 300〜1500質量部
(C-4) 中心粒子径が60〜90umの球状アルミナ 300〜1500質量部
及び
(d)白金族金属系硬化触媒:(a)成分に対して白金族金属元素の質量換算で0.1〜1000ppm
を含有して成り、
(a)成分のオルガノポリシロキサンにおいてアルケニル基が結合している非末端部分のケイ素原子間の平均シロキサン結合数をLとし、
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの平均重合度をL'としたとき、L'/L=0.6〜3.0を満たす熱伝導性シリコーン組成物を、90〜130℃の加熱工程で硬化させた後、さらに140〜180℃のポストキュア工程を加えて成形することを特徴とする熱伝導性シリコーンシートの製造方法。
【請求項2】
熱伝導性シリコーン組成物が、(e)片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン:0.1〜100質量部をさらに含有するものである請求項1記載の熱伝導性シリコーンシートの製造方法。
【請求項3】
硬化後シートの両面がカバーフィルムで最終的に保護されるように90〜130℃の温度下、コーティングもしくはプレス成型で作製されたシートの片側のカバーフィルムを剥がし、90〜130℃の温度で第一のポストキュア工程を加え、さらに140〜180℃の第二のポストキュア工程を加えたのち、露出したシート表面にカバーフィルムを積層する、請求項1又は2記載の熱伝導性シリコーンシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱性電子部品とヒートシンク又は回路基板などの熱放散部材との界面に介在させて熱伝導により電子部品を冷却するための熱伝達材料として有用な熱伝導性成形物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター、デジタルビデオディスク、携帯電話等の電子機器に使用されるCPU、ドライバIC、メモリー等のLSIチップは、高性能化・高速化・小型化・高集積化に伴い、それ自身が大量の熱を発生するようになり、その熱によるチップの温度上昇はチップの動作不良、破壊を引き起こす。そのため、動作中のチップの温度上昇を抑制するための多くの熱放散方法及びそれに使用する熱放散部材が提案されている。
【0003】
従来、電子機器等においては、動作中のチップの温度上昇を抑えるために、アルミニウム板、銅板等の熱伝導率の高い金属板を用いたヒートシンクが使用されている。このヒートシンクは、チップが発生する熱を伝導し、その熱を外気との温度差によって表面から放出する。
【0004】
チップから発生する熱をヒートシンクに効率良く伝えるために、ヒートシンクをチップに密着させる必要があるが、各チップの高さの違い及び組み付け加工による公差があるため、柔軟性を有するシート、またはグリースをチップとヒートシンクとの間に介装させ、このシートまたはグリースを介してチップからヒートシンクへの熱伝導を実現している。
【0005】
シートはグリースに比べ、取り扱い性に優れており、熱伝導性シリコーンゴム等で形成された熱伝導シート(熱伝導性シリコーンゴムシート)は様々な分野に用いられている。
【0006】
特許文献1にシリコーンゴム等の合成ゴムベース100重量部に酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、水和酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の金属酸化物100〜800重量部を配合してなる電気絶縁性で且つ熱伝導性のすぐれた絶縁性組成物が開示されている。
【0007】
また、絶縁性を必要としない場所に用いられる放熱材料として、特許文献2には、付加硬化型シリコーンゴムにシリカ微粒子及び銀、金、ケイ素等の熱伝導性粉末からなる微細粉砕微粒子を60〜500質量部配合した組成物が開示されている。
【0008】
しかし、これらの熱伝導性材料は、いずれも熱伝導率が低く、また、熱伝導性を向上させるために熱伝導性充填材を多量に高充填すると、液状シリコーンゴム組成物の場合は流動性が低下し、ミラブルタイプのシリコーンゴム組成物の場合は可塑度が増加して、いずれも成形加工性が非常に悪くなるという問題がある。
【0009】
そこで、これを解決する熱伝導性材料として、特許文献3には平均粒径5μm以下のアルミナ粒子10〜30重量%と、残部が単一粒子の平均粒子径10μm以上であり、かつカッティングエッジを有しない形状である球状コランダム粒子とからなるアルミナを充填してなる高熱伝導性ゴム・プラスチック組成物が開示されている。また、特許文献4には、平均重合度6,000〜12,000のガム状のオルガノポリシロキサンと平均重合度200〜2,000のオイル状のオルガノポリシロキサンとを併用したベース100重量部と球状酸化アルミニウム粉末500〜1,200質量部とを含む熱伝導性シリコーンゴム組成物が開示されている。
【0010】
しかし、これらの熱伝導性材料を用いても、例えば酸化アルミニウム粉末をベース100重量部に対して1,000質量部以上(酸化アルミニウムを70体積%以上)高充填化した場合、粒子の組み合わせ及びシリコーンベースの粘度調整だけでは成形加工性の向上に限界がある。
【0011】
一方、パーソナルコンピューター、ワードプロセッサ、CD−ROMドライブ等の電子機器の高集積化が進み、装置内のLSI,CPU等の集積回路素子の発熱量が増加したため、従来の冷却方法では不充分な場合がある。特に、携帯用のノート型のパーソナルコンピューターの場合、機器内部の空間が狭いため大きなヒートシンクや冷却ファンを取り付けることができない。更に、これらの機器では、プリント基板上に集積回路素子が搭載されており、基板の材質としてガラス補強エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱伝導性の悪い樹脂が用いられるので、従来のように放熱絶縁シートを介して基板に熱を逃がすことができない。
【0012】
そこで、集積回路素子の近傍に自然冷却タイプ或いは強制冷却タイプの放熱部品を設置し、素子で発生した熱を放熱部品に伝える方式が用いられる。しかし、この方式で素子と放熱部品とを直接接触させても、表面の凹凸のため熱の伝わりが悪く、更に放熱絶縁シートを介して素子と放熱部品とを取り付けても放熱絶縁シートの柔軟性がやや劣るため、熱膨張により素子と基板との間に応力がかかり素子が破損する虞がある。
【0013】
また、各回路素子に放熱部品を取り付けようとすると余分なスペースが必要となり、機器の小型化が難しくなるので、いくつかの素子をひとつの放熱部品に組み合わせて冷却する方式が採られることもある。このとき、特にノート型のパーソナルコンピューターで用いられているBGAタイプのCPUは、高さが他の素子に比べて低く発熱量が大きいため、冷却方式を充分考慮する必要がある。
【0014】
そこで、素子ごとに高さが異なることにより生じる種々の隙間を埋めることができる低硬度の高熱伝導性材料が必要になる。このような課題を解決するためには、熱伝導性に優れ、柔軟性があり、種々の隙間に対応できる熱伝導性シートが要望される。また、年々駆動周波数が高くなり、CPUの性能が向上するのに伴い、発熱量が増大するため、より高熱伝導性の材料が求められている。
【0015】
例えば、特許文献5には、シリコーン樹脂に金属酸化物等の熱伝導性材料を混入したものをシート状に成形して作られた伝熱シートにおいて、取り扱いに必要な強度を持たせたシリコーン樹脂層の上に柔らかく変形しやすいシリコーン樹脂層が積層され一枚のシートとして構成された伝熱シートが開示されている。また、特許文献6には、熱伝導性充填材を含有し、アスカーC硬度が5〜50であるシリコーンゴム層と直径0.3mm以上の孔を有する多孔性補強材層とを組み合わせた熱伝導性複合シートが開示されている。特許文献7には、可とう性の三次元網状体又はフォーム体の骨格格子表面を熱伝導性シリコーンゴムで被覆したシートが開示されている。特許文献8には、補強性を有するシート或いはクロスを内蔵し、少なくとも一方の面が粘着性を有し、アスカーC硬度が5〜50である厚さ0.4mm以下の熱伝導性複合シリコーンシートが開示されている。特許文献9には、付加反応型液状シリコーンゴムと熱伝導性・絶縁性セラミック粉末を含有し、その硬化物のアスカーC硬度が25以下で熱抵抗が3.0℃/W以下である組成物および該組成物の硬化物からなる放熱スペーサーが開示されている。
【0016】
これら熱伝導シートは、チップおよびヒートシンクに対する密着性を向上させるため、高熱伝導性且つ低硬度であることを要求されるようになり、アスカーC硬度20以下の低硬度熱伝導性シートが用いられるようになってきている。低硬度熱伝導性シートは応力を緩和できるため発熱体および放熱部材との高い密着性を実現し、低熱抵抗化と段差構造への適用とが可能である。しかし、復元性には劣るため、一度変形してしまうと元に戻らず、カットなどの次成形が困難であり、貼り付け時の取り扱い性、リワーク性に乏しいという点で不利である。一方、取り扱い性、リワーク性向上を目指すと、熱伝導性シートの硬度を上げなければならず、低硬度と取り扱い性、リワーク性とは今まで、相容れない関係にあった。
【0017】
この問題を解決するために、例えば特許文献10には、シリコーン樹脂の架橋構造を均一化することにより、復元性を向上させ、低硬度化とリワーク性を両立することが可能な組成物および該組成物の硬化物からなる熱伝導性シリコーン硬化物が開示されている。
しかしながら、車載用途においては、上記に記載の熱伝導性シリコーン硬化物であっても、復元性が不足する懸念がある。近年では省スペースの問題から、電子機器が高温下のエンジンルーム等に配置される事例があり、この場合、環境温度が150℃〜180℃程度まで上昇するケースも存在する。また、車載用途の場合、熱伝導性シリコーンシートは長期間、振動に晒させることになる。加熱硬化型の熱伝導性シリコーンシートの成形温度は100℃近辺であることが多く、成形温度を超える温度下においては未反応成分の反応が徐々進むことで復元性が失われる。復元性が失われた状態で振動が加わった場合、一般的なネジ止め固定においては、熱伝導性シリコーンシートと発熱体もしくは放熱体の剥離が発生し、熱抵抗が顕著に大きくなるという問題が生じる。
【0018】
ポストキュア工程を加えることで、高温下での復元性を改善することができるが、シリコーン材料において一般的にはポストキュアは200℃近辺で行われるため、熱伝導性充填材が大量に充填された系においては、硬度上昇による圧縮性の低下や、シリコーンのクラッキング劣化による復元性の低下が発生するといった問題があった。また、シートの保護フィルムとして、高耐熱性のポリイミドを用いる必要があり、コストが上昇する問題があった。硬度上昇やシリコーンのクラッキング劣化を抑制するために、熱伝導性充填材の充填量を減少させると、背反として熱伝導率が低下してしまう。即ち、優れた熱伝導性(放熱性)、低硬度化による高圧縮特性、高温下復元性を両立させることは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭47−32400号公報
【特許文献2】特開昭56−100849号公報
【特許文献3】特開平1−69661号公報
【特許文献4】特開平4−328163号公報
【特許文献5】特開平2−196453号公報
【特許文献6】特開平7−266356号公報
【特許文献7】特開平8−238707号公報
【特許文献8】特開平9−1738号公報
【特許文献9】特開平9−296114号公報
【特許文献10】特開2011−16923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、本発明の目的は、高熱伝導率であり、かつ低硬度であるにもかかわらず、高温下での高復元性を有する、車載用途に適した熱伝導性シリコーンシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
斯かる実状に鑑み、本発明者は鋭意検討した結果、下記の熱伝導性シリコーンシートが、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、次の熱伝導性シリコーンシート及びその製造方法を提供するものである。
【0022】
<1>
(a)少なくとも非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基の個数が2〜9個であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサン:本成分中のケイ素原子に結合した水素原子のモル数が(a)成分中のアルケニル基1.0モルに対して0.1〜1.5モルとなる量、
(c)熱伝導性充填材:500〜4000質量部、及び
(d)白金族金属系硬化触媒:(a)成分に対して白金族金属元素の質量換算で0.1〜1000ppm
を含有して成り、
(a)成分のオルガノポリシロキサンにおいてアルケニル基が結合している非末端部分のケイ素原子間の平均シロキサン結合数をLとし、
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの平均重合度をL'としたとき、L'/L=0.6〜3.0を満たす熱伝導性シリコーン組成物を、90〜130℃の加熱工程で硬化させた後、さらに140〜180℃のポストキュア工程を加えて成形させた熱伝導性シリコーンシート。
【0023】
<2>
(e)片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン:0.1〜100質量部をさらに含有する<1>記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【0024】
<3>
硬度がアスカーC硬度で5〜30である<1>又は<2>記載の熱伝導性シリコーンシート。
【0025】
<4>
(c)熱伝導性充填材が、(a)成分100質量部に対し下記の量含み、かつ熱伝導率が1.5W/m・Kを超えるものである、<1>〜<3>の何れか1に係る熱伝導性シリコーンシート。
(C-1) 中心粒子径が0.5〜5umの不定形アルミナ 300〜1500質量部
(C-2) 中心粒子径が7〜25umの球状アルミナ 300〜1500質量部
(C-3) 中心粒子径が30〜50umの球状アルミナ 300〜1500質量部
(C-4) 中心粒子径が60〜90umの球状アルミナ 300〜1500質量部
【0026】
<5>
(a)少なくとも非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し、非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基の個数が2〜9個であるオルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサン:本成分中のケイ素原子に結合した水素原子のモル数が(a)成分中のアルケニル基1.0モルに対して0.1〜1.5モルとなる量、
(c)熱伝導性充填材:500〜4000質量部、及び
(d)白金族金属系硬化触媒:(a)成分に対して白金族金属元素の質量換算で0.1〜1000ppm
を含有して成り、
(a)成分のオルガノポリシロキサンにおいてアルケニル基が結合している非末端部分のケイ素原子間の平均シロキサン結合数をLとし、
(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの平均重合度をL'としたとき、L'/L=0.6〜3.0を満たす熱伝導性シリコーン組成物を、90〜130℃の加熱工程で硬化させた後、さらに140〜180℃のポストキュア工程を加えて成形することを特徴とする熱伝導性シリコーンシートの製造方法。
【0027】
<6>
硬化後シートの両面がカバーフィルムで最終的に保護されるように90〜130℃の温度下、コーティングもしくはプレス成型で作製されたシートの片側のカバーフィルムを剥がし、90〜130℃の温度で第一のポストキュア工程を加え、さらに140〜180℃の第二のポストキュア工程を加えたのち、露出したシート表面にカバーフィルムを積層する、<5>記載の熱伝導性シリコーンシートの製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明の熱伝導性シリコーンシートは、高熱伝導率を有し、かつ低硬度であるため、被放熱物の形状に沿うように変形し、被放熱物に応力をかけることなく良好な放熱特性を示す一方で、良好な高温下復元性を有するため、高温・振動下のような過酷な環境でも優れた長期信頼性を発揮することができる。また、取り扱い性、リワーク性にも優れ、車載用途などの発熱性電子部品とヒートシンク又は回路基板などの熱放散部材との界面に介在させて熱伝導により電子部品を冷却するための熱伝達材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(a)オルガノポリシロキサン]
(a)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、少なくとも非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有し(即ち、少なくとも側鎖にアルケニル基を含有し)、非末端部分のケイ素原子に結合したアルケニル基の個数が2〜9個であるオルガノポリシロキサンである。(a)成分のオルガノポリシロキサンは、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のものであるのが一般的であるが、シロキサン結合の連鎖からなるポリシロキサン構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよい。アルケニル基は、非末端部分のケイ素原子にのみ結合していても、非末端部分のケイ素原子と末端のケイ素原子の両方に結合していてもよい。硬化物の機械的強度等、物性の点から、(a)成分は直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
(a)成分は1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0030】
(a)成分の一例として、以下の一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0031】
【化1】
(式中、Rは独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、Xはアルケニル基であり、nは0又は1以上の整数であり、mは2〜9の整数である。)
【0032】
上記一般式(1)中、Rとしては、たとえば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基;およびこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基又はこれらの組み合わせなどで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。Rは、脂肪族不飽和結合を含有しない非置換又は置換の、典型的には炭素原子数が1〜12、より典型的には炭素原子数が1〜10、特に典型的には炭素原子数が1〜6の1価炭化水素基である。Rは、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1〜3の非置換又は置換のアルキル基及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基である。また、Rは全てが同一である必要はなく、互いに異なっていてもよい。
【0033】
上記一般式(1)中、Xとしては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の通常炭素原子数2〜8程度のアルケニル基が挙げられ、中でもビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が好ましく、特にビニル基が好ましい。
【0034】
上記一般式(1)中、nは0又は1以上の整数であり、mは2〜9の整数であるが、更に、n及びmは、好ましくは10≦n+m≦10,000、より好ましくは50≦n+m≦2,000、更により好ましくは100≦n+m≦500を満たし、かつ、0<m/(n+m)≦0.05を満足する整数である。
【0035】
[(b)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(b)成分は、少なくとも両末端がケイ素原子に結合した水素原子(即ち、Si-H基)で封鎖されているオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、通常は直鎖状のものである。(b)成分は、Si-H基を両末端にのみ有しても、両末端と非末端部分(即ち、側鎖)の両方に有してもよい。(b)成分は、少なくとも両末端がSi-H基で封鎖されているため、一分子中に少なくとも2個のSi-H基を有するが、平均で2〜4個のSi-H基を有するものが好ましい。(b)成分中のSi-H基の数が2個未満の場合、得られる組成物は硬化しない虞がある。(b)成分は1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0036】
(b)成分の一例として、以下の平均構造式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
【0037】
【化2】
(式中、Rは独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、oは0以上の正数であり、pは0以上2未満の正数である。)
【0038】
上記平均構造式(2)において、oは0以上の正数であるが、好ましくは10〜250の正数であり、pは0以上2未満の正数であるが、好ましくは0以上1未満の正数である。なお、oおよびpの数値は上記平均構造式(2)においてシロキサン単位の平均の個数を示すものであり、上記平均構造式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを構成する各オルガノハイドロジェンポリシロキサン分子中のシロキサン単位の個数は、oおよびpで表される範囲に制限されるものでない。
【0039】
(b)成分の添加量は、本成分中のSi-H基のモル数が(a)成分中のアルケニル基1.0モルに対して0.1〜1.5モル、好ましくは0.3〜1.0モルとなる量である。本成分中のSi-H基のモル数が(a)成分中のアルケニル基1.0モルに対して0.1モル未満または1.5モル超となる量の(b)成分を添加した場合、所望の低硬度の成形物を得ることが困難である。
【0040】
本発明の組成物は、(a)成分のオルガノポリシロキサンにおいてアルケニル基が結合している非末端部分のケイ素原子間の平均シロキサン結合数をLとし、(b)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの平均重合度をL'としたとき、L'/L=0.6〜3.0を満たすことが必要であり、L'/L=0.7〜2.3を満たすことが好ましく、L'/L=0.8〜2.0を満たすことがより好ましい。L'/Lが0.6より小さい、または、3.0より大きいと、得られる組成物の硬化物において架橋構造が不均一となりやすく、該硬化物からなる熱伝導性シリコーン成形物は良好な復元性を有するものにはなりにくい。このように、比L'/Lは、本発明組成物の硬化物における架橋構造の均一性を示し、本発明の熱伝導性シリコーン成形物が有する復元性の指標となる。
【0041】
なお、(a)成分においてアルケニル基が結合している非末端部分のケイ素原子間の平均シロキサン結合数Lは、例えば、次のとおりにして求められる。まず、(a)成分が両末端のシロキサン単位Mとn種類の非末端部分のシロキサン単位D1〜Dnとからなるオルガノポリシロキサンであり、(a)成分中でアルケニル基が結合している非末端部分のケイ素原子の数がNであるとする。この(a)成分の29Si-NMRを測定し、両末端のM単位中のケイ素原子に由来するピークの積分面積を2としたときに、非末端部分のD1〜Dn単位それぞれの中に存在するケイ素原子に由来するピークの積分面積S1〜Snを求める。この結果、(a)成分は平均構造式:
M-D1S1-D2S2-・・・-DnSn-M
で表される。Lは、式:
L=(S1+S2+・・・+Sn)/(N+1)
から求められる。Lは、アルケニル基が直接結合した非末端部分のケイ素原子が(a)成分の分子中に偏りなく存在しているとしたときの平均構造において、アルケニル基が直接結合した非末端部分のケイ素原子の間のシロキサン結合数を表す。このLの値は、アルケニル基が結合している非末端部分のケイ素原子間の酸素原子の数の平均値に一致する。
【0042】
具体的には、例えば、(a)成分がトリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルアルケニルシロキサン共重合体であるとき、(a)成分の29Si-NMRを測定すると、8ppm付近に末端のトリメチルシロキシ基中のケイ素原子由来のピーク1が検出され、-22ppm付近にジメチルシロキサン単位中のケイ素原子由来のピーク2が検出され、-36ppm付近にメチルアルケニルシロキサン単位中のケイ素原子由来のピーク3が検出される。ピーク1の積分面積を2としたとき、ピーク2および3の積分面積をそれぞれtおよびuとすると、この(a)成分は平均構造式:
(H3C)3SiO-[(CH3)2SiO]t-[(CH3)(Alk)SiO]u-Si(CH3)3
(式中、Alkはアルケニル基を表す)
で表され、Lは、式:
L=(t+u)/(u+1)
から求められる。
【0043】
一方、(b)成分の平均重合度L'は、例えば、次のとおりにして求められる。まず、(b)成分が両末端のシロキサン単位M'とn種類の非末端部分のシロキサン単位D'1〜D'nとからなるオルガノハイドロジェンポリシロキサンであるとする。この(b)成分の29Si-NMRを測定し、両末端のM'単位中のケイ素原子に由来するピークの積分面積を2としたときに、非末端部分のD'1〜D'n単位それぞれの中に存在するケイ素原子に由来するピークの積分面積S'1〜S'nを求める。この結果、(b)成分は平均構造式:
M'-D'1S'1-D'2S'2-・・・-D'nS'n-M'
で表され、(b)成分の平均重合度L'は、式:
L'=S'1+S'2+・・・+S'n
から求められる。
【0044】
具体的には、例えば、(b)成分がジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンであるとき、(b)成分の29Si-NMRを測定すると、-8ppm付近に末端のジメチルハイドロジェンシロキシ基中のケイ素原子由来のピーク1'が検出され、-22ppm付近にジメチルシロキサン単位中のケイ素原子由来のピーク2'が検出される。ピーク1'の積分面積を2としたとき、ピーク2'の積分面積をt'とすると、この(b)成分は平均構造式:
H(H3C)2SiO-[(CH3)2SiO]t'-Si(CH3)2H
で表され、L'=t'となる。
【0045】
[(c)熱伝導性充填材]
(c)成分である熱伝導性充填材としては、一般に熱伝導充填材とされる物質であれば特に制限されず用いることができる。(c)成分としては、例えば、銅、アルミニウム等の非磁性の金属;アルミナ、シリカ、マグネシア、ベンガラ、ベリリア、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化硼素等の金属窒化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;人工ダイヤモンド;炭化珪素等が挙げられる。
【0046】
(c)成分の充填材は1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。平均粒径の異なる粒子を2種以上用いることもできる。
例えば、(c)熱伝導性充填材が、以下のものを含む場合、熱伝導性充填材の充填性が良好となり、特に優れた復元効果を示す。
(C-1) 中心粒子径が0.5〜5umの不定形アルミナ 300〜1500質量部
(C-2) 中心粒子径が7〜25umの球状アルミナ 300〜1500質量部
(C-3) 中心粒子径が30〜50umの球状アルミナ 300〜1500質量部
(C-4) 中心粒子径が60〜90umの球状アルミナ 300〜1500質量部
[(a)成分100質量部に対して]
なお、平均粒径は、例えば、レーザー回折法により体積基準の累積平均径として求めたものである。
【0047】
(c)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して500〜4000質量部であることが必要であり、好ましくは700〜3500質量部である。この配合量が500質量部未満の場合には、組成物の熱伝導率が悪くなりやすい上に、保存安定性の乏しいものとなることがある。一方、該配合量が4000質量部を超える場合には、得られる組成物は伸展性が乏しくなることがあり、また、得られる成形物の復元性が低下する。
【0048】
[(d)白金族金属系硬化触媒]
(d)成分の白金族金属系硬化触媒は、(a)成分中のアルケニル基と(b)成分中のSi-H基との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒を用いることができる。(d)成分は1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0049】
(d)成分の具体例としては、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KaHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(各式中、nは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム−オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックスなどが挙げられる。
【0050】
(d)成分の使用量は、所謂触媒量で良く、通常、(a)成分に対して白金族金属元素の質量換算で0.1〜1000ppm程度が良い。
【0051】
[(e)表面処理剤]
(e)成分の片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンは表面処理剤として用いられる任意成分である。(e)成分のジメチルポリシロキサンは、通常、一方の末端がトリアルコキシシリル基で封鎖され、他方の末端がトリメチルシリル基で封鎖されている。(e)成分は1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0052】
(e)成分の一例として、以下の一般式(3)で表されるジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【0053】
【化3】
(式中、Rは独立に非置換または置換の炭素原子数1〜6のアルキル基であり、qは5〜200の整数である。)
【0054】
上記一般式(3)中、Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基などのアルキル基;およびこれらのアルキル基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、シアノ基又はこれらの組み合わせなどで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。
【0055】
(e)成分の添加量は、(a)成分100質量部に対して0.1〜100質量部であることが好ましく、5〜80質量部であることがより好ましい。本成分の割合が多くなりすぎると、得られる組成物においてオイル分離を誘発する虞がある。
【0056】
[その他の成分]
この他に、本発明の目的および作用効果を損なわない範囲で、本発明の組成物には任意成分として、硬化速度を調整するための付加反応制御剤、着色のための顔料・染料、難燃性付与剤、金型またはセパレーターフィルムからの型離れを良くするための内添離型剤、組成物の粘度、成形物の硬度またはこれら両方を調整する可塑剤など、機能を向上させるための様々な添加剤を有効量添加することができる。
以下に、付加反応制御剤と可塑剤を例として挙げるが、本発明で用いられる任意成分はこれらに限定されるものではない。
【0057】
<付加反応制御剤>
付加反応制御剤は通常の付加反応硬化型シリコーン組成物に用いられる公知の付加反応制御剤を全て用いることができる。例えば、1-エチニル-1-ヘキサノール、3-ブチン-1-オール、エチニルメチリデンカルビノールなどのアセチレン化合物、各種窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。その使用量としては、(a)成分100質量部に対して0.01〜1質量部程度が望ましい。
【0058】
<可塑剤>
可塑剤としては下記一般式(4)で表されるジメチルポリシロキサンが挙げられる。
【0059】
【化4】
(式中、rは1〜200の整数である。)
【0060】
[熱伝導性シリコーン組成物の調製]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記(a)〜(d)成分ならびに必要に応じて(e)成分およびその他の任意成分をプラネタリーミキサー等の混合機器で混合することにより調製することができる。
【0061】
[熱伝導性シリコーン成形物]
本発明の熱伝導性シリコーン成形物は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物からなるシート状の熱伝導性シリコーン成形物である。本発明の成形物は、本発明の組成物をシート状に成形し硬化させることで製造することができる。
【0062】
本発明の熱伝導性シリコーンシート成形物は、90〜130℃の加熱工程で硬化させた後、さらに140〜180℃のポストキュア工程を加えて成形させることが必要である。
90〜130℃の加熱工程での硬化成形方法は特に限定されないが、プレス成型もしくはコーティング成形が簡便性の点から好ましい。硬化後の熱伝導性シリコーンシート成形物は、両面に粘着性を有するため、カバーフィルムを両面に貼りつけることが好ましい。例えば、プレス成型の場合はPETフィルム上に組成物を吐出し、さらに組成物の上からPETフィルムを当ててプレス成型を行うことにより、シート両面にPETフィルムをカバーフィルムとして有するシートを得ることができる。コーティング成形の場合、例えばPETフィルム上に連続的に組成物を吐出し、加熱オーブンを通して硬化させた後、カバーフィルムとなるPEフィルムを積層することで、片面にPETフィルム、もう片面にPEフィルムを設けたシートの成形が可能である。
【0063】
90〜130℃の加熱工程で硬化させた後に行う、140〜180℃のポストキュア工程により、シート中に残存する未反応の官能基の反応を促進させることができる。通常、車載用途に求められる耐熱温度は150℃であるため、140〜180℃のポストキュア工程を取ることにより、高温使用時の復元性の低下を抑制することが可能となる。180℃を超えるポストキュア温度の場合、熱伝導性シリコーンシートの熱劣化が進行し、復元性が低下する場合がある。また、ポストキュア温度が150℃を超えると、カバーフィルムとして耐熱フィルムが必要となるため、さらに好ましいポストキュア温度は140℃〜150℃である。この温度範囲であれば、安価なPETフィルムをカバーフィルムとして使用することが可能となる。
ポストキュアの方法については特に限定されないが、一例としては、140℃〜180℃に温度設定されたオーブン中に、シートを一定時間投入すれば良い。この際、カバーフィルムの片面を剥がしてポストキュアを行うと、シート中に残存する揮発分が抜けるため、復元性の向上により効果的である。この場合は、ポストキュア後のシートの露出面に、再度カバーフィルムを積層する。ポストキュア時間はコスト面を鑑みると1〜3時間程度が好ましい。
【0064】
ポストキュアを低温ポストキュア・高温ポストキュアの2段階で行うと、シート中に含まれる揮発分の急激な揮発によるボイド発生を抑制することが可能である。この場合、シートの片側のカバーフィルムを剥がし、90〜130℃の温度で第一のポストキュア工程を加え、さらに140〜180℃の第二のポストキュア工程を加えたのち、露出したシート表面にカバーフィルムを積層すると良い。このような2段階でのポストキュアを行うことで、収率良くポストキュアを行うことができる。
【0065】
<成形体の硬度>
本発明の成形物のアスカーC硬度、即ち、SRIS 0101に準拠してアスカーC硬度計で測定した25℃における硬度は30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましい。硬度が30を超える成形物は、被放熱物の形状に沿うように変形し、被放熱物に応力をかけることなく良好な放熱特性を示すことが困難になる場合がある。
【0066】
<成形体の熱伝導率>
本発明の成形体の熱伝導率は1.5W/m・K以上であることが好ましく、2.0W/m・K以上であることがより好ましい。熱伝導率が1.5W/m・K未満である成形体は、発熱量の大きい発熱体に適用することができない場合がある。なお、本明細書において、本発明の成形体の熱伝導率は、ISO 22007-2:2008に準拠してホットディスク法により測定した25℃における熱伝導率である。
【実施例】
【0067】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例等に制限されるものではない。
【0068】
[熱伝導性シリコーン組成物の調製]
下記実施例および比較例で用いた(a)〜(g)成分を下記に示す。
(a)成分:
(a-1)n+m=300、m=2である下記一般式(1a)で表されるオルガノポリシロキサン
(a-2)n+m=240、m=2である下記一般式(1a)で表されるオルガノポリシロキサン
(a-3)両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖された25℃における粘度600mm2/sのジメチルポリシロキサン
【0069】
【化5】
【0070】
なお、上記一般式(1a)において、n+mは平均重合度を表し、mは平均の側鎖ビニル基数を表す。ここで、上記(a-1)について、アルケニル基が結合している非末端部分のケイ素原子間の平均シロキサン結合数Lは以下のとおりにして計算された。まず、(a-1)の29Si-NMRを測定することにより、8ppm付近に末端のトリメチルシロキシ基中のケイ素原子由来のピークAが検出され、-22ppm付近にジメチルシロキサン単位中のケイ素原子由来のピークBが検出され、-36ppm付近にメチルビニルシロキサン単位中のケイ素原子由来のピークCが検出された。ピークAの積分面積を2としたとき、ピークBおよびCの積分面積はそれぞれ298および2であった。即ち、(a-1)は平均構造式:
【0071】
【化6】
【0072】
で表されるものであった。Lは、ビニル基が直接結合した非末端部分のケイ素原子が(a-1)の分子中に偏りなく存在しているとしたときの平均構造において、ビニル基が直接結合した非末端部分のケイ素原子の間のシロキサン結合数を表すものであり、式:
L=(298+2)/(2+1)
から100と計算された。上記(a-2)についても同様にしてLの値が計算された。
【0073】
(b)成分:
(b-1)o=18である下記一般式(2a)で表されるハイドロジェンポリシロキサン
(b-2)o=80である下記一般式(2a)で表されるハイドロジェンポリシロキサン
(b-3)o=100である下記一般式(2a)で表されるハイドロジェンポリシロキサン
(b-4)o=120である下記一般式(2a)で表されるハイドロジェンポリシロキサン
(b-5)o=250である下記一般式(2a)で表されるハイドロジェンポリシロキサン
(b-6)Me3SiO(Me2SiO)27(HMeSiO)2SiMe3
【0074】
【化7】
【0075】
なお、上記一般式(2a)において、oは平均重合度L'を表す。oの値は以下のとおりにして求めた。即ち、(b-1)〜(b-6)のおのおのの29Si-NMRを測定し、-8ppm付近に末端のジメチルハイドロジェンシロキシ基中のケイ素原子由来のピークA'を検出し、-22ppm付近にジメチルシロキサン単位中のケイ素原子由来のピークB'を検出して、ピークA'の積分面積を2としたときのピークB'の積分面積を求め、その値をoの値とした。
【0076】
(c)成分:
(c-1)平均粒径1μmの不定形水酸化アルミニウム
(c-2)平均粒径10μmの不定形水酸化アルミニウム
(c-3)平均粒径2μmの不定形アルミナ
(c-4)平均粒径10μmの球状アルミナ
(c-5)平均粒径45μmの球状アルミナ
(c-6)平均粒径70μmの球状アルミナ
【0077】
(d)成分:
5質量%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液
【0078】
(e)成分:
下記式(3a)で表される平均重合度30の片末端がトリメトキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【0079】
【化8】
【0080】
(f)成分:
付加反応制御剤として、エチニルメチリデンカルビノール
【0081】
(g)成分:
可塑剤として、下記式(4a)で表されるジメチルポリシロキサン
【0082】
【化9】
【0083】
(a)、(c)、(e)および(g)成分を表1に示す量でプラネタリーミキサーに仕込み、60分間混練した。得られた混練物に(d)および(f)成分を表1に示す量で加え、さらにカバーフィルムからの離型を促す内添離型剤を有効量加え、さらに30分間混練した。得られた混練物に(b)成分を表1に示す量で加え、30分間混練して組成物を得た。
【0084】
[成形方法]
得られた組成物を200mm x 300mm x 3mm厚の金型に流し込み、プレス成形機を用い120℃で10分間成形硬化させた。カバーフィルムにはPIフィルムを用いた。その後、片面のPIフィルムを剥離し、オーブン中で、下記表1に示す温度、時間でポストキュアを行った。ポストキュア後にシート露出面にPIフィルムを積層し、両面にPIフィルムをカバーフィルムとして設けた熱伝導性シリコーンシートとした。
ポストキュア条件は表1にまとめた。
【0085】
[評価方法]
・硬度:得られたシート状の成形物を4枚重ねてアスカーC硬度計で測定した。
・熱伝導率:得られたシート状の成形物を試料として用いて、熱伝導率計(TPA−501(商品名)、京都電子工業株式会社製)により該成形物の熱伝導率を測定した。
・復元率:得られたシート状成形物から、20mm角の試験片を型抜きし、厚み方向に50%(1.5mmまで)圧縮し、圧縮したまま150℃オーブン中で50時間および500時間エージングした。その後、試験片を圧縮から解放し、60分後の試験片の厚みを測定した。
上記評価を行った結果を表1に示す。
・ボイド:得られたシート状成形物の表面状態を観察し、ボイド有無を確認した。
上記評価を行った結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
[評価]
実施例1〜6と比較例1〜3を比べると、140〜180℃のポストキュアを与えることにより、長期復元性が良好になることが明らかとなった。また、比較例3のように、ポストキュア温度が180℃を超える条件では、熱劣化による復元性の低下や、ボイドの発生を確認した。
比較例4、5のように、L'/L=0.6〜3.0を満たす範囲を外れると、長期復元性が顕著に低下した。比較例6の結果を鑑みると、両末端がビニル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンと、側鎖にSi-H基を有するハイドロジェンポリシロキサンの組み合わせを用いたシート状成形物よりも、側鎖にビニル基を有するジメチルポリシロキサンと両末端が水素原子で封鎖されたハイドロジェンポリシロキサンとの組み合わせを用いたシート状成形物の方が良い復元性を示すことが明らかとなった。