【文献】
Journal of Chromatography B,2013年 1月 9日,Vol.917-918,p.30-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0030】
〔1.酸化鉄−タンパク質複合体〕
本発明にかかる酸化鉄−タンパク質複合体(以下、「本発明の酸化鉄−タンパク質複合体」または「本発明の複合体」ともいう。)は、タンパク質が、表面修飾されていない酸化鉄に固定化されてなり、当該タンパク質は、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において上記酸化鉄に結合し得るタンパク質(以下、「酸化鉄結合タンパク質」と称する。)である構成である。
【0031】
上記「タンパク質が、表面修飾されていない酸化鉄に固定化され」とは、表面修飾されていない酸化鉄に、酸化鉄結合タンパク質が結合または吸着されていることが意図される。
【0032】
また、上記「表面修飾されていない酸化鉄」とは、酸化鉄に目的の物質を固定化するために従来施されていた表面修飾(例えば、酸化鉄表面の特定の重合体での被覆、酸化鉄表面への特定の官能基の導入等)がなされていない酸化鉄をいう。なお、本明細書においては、「表面修飾されていない酸化鉄」を、単に「酸化鉄」と記載する場合もある。
【0033】
なお、本明細書において、用語「タンパク質」は、「ポリペプチド」または「ペプチド」と交換可能に使用される。「タンパク質」には、タンパク質の部分断片(フラグメント)が含まれるものとする。また、「タンパク質」には、融合タンパク質が含まれるものとする。
【0034】
上記「酸化鉄」としては、例えば、酸化鉄(II)(FeO)(酸化第一鉄ともいう)、酸化二鉄(III)鉄(II)(Fe
3O
4)(四酸化三鉄ともいう)、α−酸化鉄(III)(α−Fe
2O
3)(α−酸化第二鉄または三酸化二鉄ともいう)、β−酸化鉄(III)(β−Fe
2O
3)(β−酸化第二鉄または三酸化二鉄ともいう)、γ−酸化鉄(III)(γ−Fe
2O
3)(γ−酸化第二鉄または三酸化二鉄ともいう)、ε−酸化鉄(III)(ε−Fe
2O
3)(ε−酸化第二鉄または三酸化二鉄ともいう)等を挙げることができる。本発明の複合体において、上記「酸化鉄」は、1種の酸化鉄を単独で含有していてもよく、複数種の酸化鉄を組み合わせて含有していてもよい。また、上記「酸化鉄」は、その他の元素を含有していてもよい。酸化鉄以外の元素は特に限定されない。
【0035】
本発明の複合体では、上記「酸化鉄」は、磁性を有しているものであることが好ましい。かかる酸化鉄としては、磁性を有していれば特に限定されないが、具体的には、例えば、酸化二鉄(III)鉄(II)(Fe
3O
4,マグネタイト)、γ−酸化鉄(III)(γ−Fe
2O
3,マグヘマイト)等を挙げることができる。本発明の複合体において、上記「酸化鉄」は、これらの磁性を有している酸化鉄を、1種を単独で含有していてもよく、複数種を組み合わせて含有していてもよい。
【0036】
本発明の複合体において、上記「酸化鉄」が磁性を有している酸化鉄を含有しているものである場合は、本発明の複合体を磁場(例えば、磁石によって形成される磁場)に捕捉させて回収することができる。その結果、夾雑物を混入させることなく本発明の複合体のみを容易に回収することができる。また、本発明の複合体において、上記「酸化鉄」が磁性を有しているものである場合は、磁場を操作するだけで液中での本発明の複合体の凝集、分散、または移動が可能となり、本発明の複合体の取り扱いが容易となる。
【0037】
上記「酸化鉄」としては、酸化鉄結合タンパク質を表面に固定化可能なものであれば、その形状、大きさ等は特に限定されず、目的に応じて適宜設計可能である。例えば、粒子状、板状、ロッド状のものが意図される。具体的には、例えば、平均粒径が10nm〜数十μmの酸化鉄含有粒子が意図される。
【0038】
本発明の複合体では、上記「酸化鉄結合タンパク質」は、他のタンパク質との融合タンパク質であってもよい。上記「融合タンパク質」とは、2つ以上の異種または同種のタンパク質の一部(フラグメント)または全部が結合したタンパク質をいう。融合タンパク質は、例えば、公知の遺伝子工学的手法を用いることにより組み換えタンパク質として作製することが可能である。なお、本明細書では、酸化鉄結合タンパク質と他のタンパク質との融合タンパク質を「酸化鉄結合タンパク質」という場合もある。
【0039】
本発明の複合体では、上記酸化鉄結合タンパク質は、対象物に結合可能な部位(以下、「対象物結合部位」と称する。)を有しているタンパク質であってもよい。
【0040】
また、本発明の複合体では、上記酸化鉄結合タンパク質は、免疫グロブリンに結合するタンパク質を少なくとも一部分として含んでいるタンパク質であってもよい。言い換えれば、上記酸化鉄結合タンパク質は、対象物結合部位として、免疫グロブリンに結合するタンパク質を少なくとも一部分として含んでいるタンパク質であってもよい。酸化鉄結合タンパク質が、対象物結合部位を有しているタンパク質であれば、対象物を本発明の複合体に容易に固定化することができる。
【0041】
ここで、本発明の複合体の構成の一例を、
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明の複合体の構成を模式的に示す図である。
図1に示すように、本発明の複合体は、対象物結合部位2を有している酸化鉄結合タンパク質1が、酸化鉄4に固定化されてなる。
図1に示すように、一実施形態において、本発明の複合体は、対象物を固定化するための支持体として利用することができる。後述するように、対象物3に吸着可能な部位を有しているタンパク質と酸化鉄結合タンパク質1との融合タンパク質を作製することによって、対象物結合部位2を有している酸化鉄結合タンパク質1を作製することができる。その結果、本発明の複合体を用いて、対象物3を酸化鉄に容易に固定化することができる。なお、
図1中、黒色の太い実線は全て酸化鉄結合タンパク質1を表し、一部が欠けた白抜きの丸は全て対象物結合部位2を表し、黒色の三角は全て対象物3を表している。
【0042】
一例として、後述する実施例で作製した酸化鉄−タンパク質複合体においては、(i)酸化鉄に結合可能なタンパク質であるSi−tag(配列番号1)(Genbank、アクセッションNo.AAC76342.1)と、(ii)公知のプロテインG中の免疫グロブリン結合ドメインB1と、の融合タンパク質を作製し、かかる融合タンパク質をSi−tagを介して酸化鉄に固定化し、その後、所定の免疫グロブリンを、プロテインG中の免疫グロブリン結合ドメインB1を介して酸化鉄に固定化した。さらに、かかる免疫グロブリンを介して心臓由来脂肪酸結合タンパク質(Heart-type fatty acid-binding protein; H-FABP)または大腸菌を酸化鉄に固定化した。この場合、Si−tagが酸化鉄結合タンパク質1に相当し、プロテインG中の免疫グロブリン結合ドメインB1と所定の免疫グロブリンとの複合体が対象物結合部位2に相当し、心臓由来脂肪酸結合タンパク質または大腸菌が対象物3に相当するといえる。
【0043】
または、Si−tagが酸化鉄結合タンパク質1に相当し、公知のプロテインG中の免疫グロブリン結合ドメインB1が対象物結合部位2に相当し、免疫グロブリンと心臓由来脂肪酸結合タンパク質との複合体または免疫グロブリンと大腸菌との複合体が対象物3に相当するといえる。
【0044】
ここで、本明細書において、上記「対象物」とは、具体的には、例えば、タンパク質(例えば、免疫グロブリン等)、核酸(DNA、RNA)、糖鎖、有機体(例えば、微生物、細胞等)、イオンや他の支持体等が意図されるが、本発明はこれらに限定されない。上記「対象物」は、単一の物質からなるものであってもよく、2つ以上の同種または異種物質が可逆的または不可逆的に結合したものであってもよい。
【0045】
また、本明細書において、上記「対象物を固定化する」とは、本発明の複合体に対象物を可逆的または不可逆的に結合または吸着させて、本発明の複合体に対象物を担持させることが意図される。
【0046】
次いで、以下に「酸化鉄結合タンパク質」および「対象物結合部位」について詳細に説明する。
【0047】
(1−1.酸化鉄結合タンパク質)
本発明の複合体を構成している酸化鉄結合タンパク質は、2%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に結合し得るタンパク質である。
【0048】
本発明において酸化鉄結合タンパク質として使用可能なタンパク質であるか否かは、例えば、以下のようにして確認することができる。ただし、確認方法はこれに限定されるものではない。
【0049】
すなわち、後述する実施例1に記載するように、例えば、確認対象のタンパク質を含む溶液に酸化鉄を添加し、当該タンパク質と酸化鉄との混合液を十分(例えば、4℃で15〜30分間)転倒混和した後に、酸化鉄を回収して、洗浄溶液(25mM Tris−HCl[pH9.0]、0.5M NaCl、0.5%[v/v]Tween 20)で洗浄する。
【0050】
その後、酸化鉄を2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱し、加熱後においてもタンパク質が酸化鉄に結合しているか否かを、SDS−PAGE等を用いて確認する。
【0051】
これにより、そのタンパク質が2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に対する結合能を有しているか否かを容易に確認することができる。上記確認方法において添加する酸化鉄は特に限定されないが、磁性を有する酸化鉄であれば、磁場に捕捉させて回収することができるため、タンパク質溶液と混和後の酸化鉄の回収が容易になる。
【0052】
また、上記確認方法において、タンパク質と酸化鉄とを混合する際に用いる溶液としては、例えば、0.5M NaClと0.5%[v/v]Tween 20とを含むpH8〜9のトリス緩衝液、一般的なリン酸緩衝液(PBS)等を好適に用いることができる。ただし、上記溶液としてはこれに限定されるものではない。タンパク質と酸化鉄との結合を阻害する物質を含んでいるものでなければ使用可能である。
【0053】
本発明に好適に用いることができる酸化鉄結合タンパク質としては、例えば、以下の(a)または(b)のタンパク質を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に結合し得るタンパク質。
【0054】
ここで、上記「1個または数個のアミノ酸が置換、欠失および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により置換、欠失および/または付加できる程度の数(例えば、総アミノ酸数の5%以下、3%以下または1%以下)のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されることを意味する。1個または数個のアミノ酸が置換、欠失および/または付加される数は、総アミノ酸数の5%以下、3%以下または1%以下であって、且つ置換、欠失および/または付加された後のタンパク質が、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に対する結合能を有している限り、いくつであってもよい。
【0055】
1個または数個のアミノ酸が置換、欠失および/または付加される部位は、アミノ酸が置換、欠失および/または付加された後のタンパク質が、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に対する結合能を有していれば、当該アミノ酸配列中のどの部位であってもよい。
【0056】
このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0057】
タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0058】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。特に好ましくは、保存性置換である。これらは、酸化鉄結合タンパク質の酸化鉄に対する結合能を失わせるものではない。
【0059】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0060】
本発明に好適に用いることができる酸化鉄結合タンパク質としては、例えば、以下の(c)または(d)のポリヌクレオチドにコードされたポリペプチドであってもよい。つまり、
(c)配列番号2の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(d)配列番号2の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に結合し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0061】
なお、配列番号2の塩基配列からなるポリヌクレオチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。
【0062】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントな条件」は、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。具体的には、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルタを洗浄することが意図されるが、ハイブリダイゼーションさせるポリヌクレオチドによって、高ストリンジェンシーでの洗浄条件は適宜変更され、例えば、哺乳類由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.5×SSC中にて65℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、E.coli由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、RNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、オリゴヌクレオチドを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にてハイブリダイゼーション温度での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましい。また、上記ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同性の高いポリヌクレオチドを取得することができる。なお、塩基配列の同一性は、サンガー法によって決定することができる。
【0063】
本発明の複合体を構成している酸化鉄結合タンパク質としては、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に対する結合能を有しているものであればよいので、上記例示した以外のタンパク質であっても、当業者であれば、そのタンパク質が上記の条件下において酸化鉄に対して結合し得るか否かを確認することによって、そのタンパク質が本発明において用いられるものであるか否かを容易に判断することができる。
【0064】
上記「2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件」とは、通常であれば、タンパク質が変性してその機能を失う条件であることは当業者に周知である。しかし、本発明の複合体は、酸化鉄結合タンパク質として、上記の過酷な条件下においても酸化鉄に結合し得る、酸化鉄に対して強力な結合能を有しているタンパク質を用いるので、高温(例えば、45〜100℃)条件下や界面活性剤存在下(例えば、0.1〜2%のドデシル硫酸ナトリウム存在下)等の厳しい条件下においても安定的(例えば、酸化鉄結合タンパク質が酸化鉄から遊離することなく)に使用することができる。このため、例えば、好熱菌由来の熱安定タンパク質を固定化した複合体による高温での反応や界面活性剤を含む発泡剤や洗浄剤中での反応、界面活性剤によって可溶化した膜画分からの対象物の回収等の場面においても利用することができ利用価値が高い。
【0065】
また、酸化鉄結合タンパク質は、酸化鉄に直接固定化され得るため、従来の酸化鉄粒子のように、タンパク質を固定化するために酸化鉄の表面を修飾処理する必要がない。つまり、本発明の複合体は、かかる複合体を製造する際の酸化鉄の表面処理にかかるコストや手間を削減することができるため、従来の酸化鉄粒子と比較して製造が容易である。
【0066】
また、酸化鉄結合タンパク質は、酸化鉄結合ドメインを少なくとも含んでいるタンパク質であり得る。つまり、酸化鉄結合タンパク質は、例えば、酸化鉄に結合可能なタンパク質であるSi−tagの酸化鉄結合ドメインを少なくとも含んでいれば、当該酸化鉄結合タンパク質を構成するその他の部位は、酸化鉄結合タンパク質の酸化鉄への結合を阻害しないものである限りどのようなものであってもよい。上記「酸化鉄結合ドメイン」は、タンパク質の立体構造を解析する方法、タンパク質の部分欠失変異体を作製する方法、断片化したタンパク質のフラグメントを作製する方法等の公知の方法を用いることによって決定することができる。
【0067】
なお、酸化鉄結合タンパク質の由来は、特に限定されず、細菌、酵母、植物、動物等、いずれの生物に由来するタンパク質であってもよい。また、生物由来でないが、人工的にデザインされたペプチドライブラリーから酸化鉄結合タンパク質を選択してきてもよい。
【0068】
また、酸化鉄結合タンパク質は、例えば、遺伝子組み換え技術を用いて生産されたものであってもよく、アミノ酸合成機などを用いて化学合成されたものであってもよい。
【0069】
また、酸化鉄結合タンパク質は、付加的なペプチドを含むものであってもよい。付加的なペプチドとしては、例えば、ポリヒスチジンタグ(His-tag)やMyc、Flag等のエピトープ標識ペプチドが挙げられる。
【0070】
(1−2.対象物結合部位)
対象物結合部位を有している酸化鉄結合タンパク質は、対象物に結合可能な部位を有しているタンパク質(以下、「対象物結合タンパク質」と称する。)と酸化鉄結合タンパク質との融合タンパク質を作製することによって取得することができる。すなわち、かかる融合タンパク質における対象物結合タンパク質の部分が、対象物結合部位を有している酸化鉄結合タンパク質の「対象物結合部位」に相当する。
【0071】
ここで、上記「対象物結合タンパク質」について以下に説明する。上記「対象物結合タンパク質」は、特に限定されず、目的に応じて任意のタンパク質を適宜選択することができる。対象物結合タンパク質は、(i)単一のタンパク質からなるものであってもよく、(ii)融合タンパク質であってもよく、または(iii)タンパク質複合体であってもよい。なお、本明細書において上記「タンパク質複合体」とは、2つ以上の異種タンパク質の一部(フラグメント)または全部が解離可能に可逆的に結合したもの、或いは少なくとも1つのタンパク質の一部(フラグメント)または全部と少なくとも1つのタンパク質以外の物質(例えば、糖鎖、核酸等)の一部(フラグメント)または全部とが解離可能に可逆的に結合したものが意図される。かかる「タンパク質複合体」は、2つ以上の異種タンパク質の一部(フラグメント)または全部が不可逆的に結合した「融合タンパク質」とは区別される。
【0072】
上述したように、本発明の複合体が固定化する対象物としては、例えば、タンパク質(例えば、免疫グロブリン、抗原等)、核酸(DNA、RNA)、糖鎖、有機体(例えば、微生物、細胞等)、イオンや他の支持体等が意図される。このため、本発明の複合体に対象物を固定化することができるように、対象物結合タンパク質は、かかる対象物に吸着可能な部位を有しているタンパク質である。
【0073】
ここで、上記「対象物に吸着可能な部位を有している」とは、対象物結合タンパク質が単一のタンパク質からなるものである場合は、そのタンパク質自体が対象物に吸着可能な部位を有していることが意図される。すなわち、「対象物に吸着可能な部位を有しているタンパク質」とは、対象物に対する吸着能を有しているタンパク質が意図される。
【0074】
かかるタンパク質の具体的な例を挙げれば、例えば、「対象物」が特定の免疫グロブリンである場合は、例えば、プロテインG、プロテインA等のタンパク質、またはかかる免疫グロブリンによって特異的に認識されるタンパク質(いわゆる「抗原」)がこれに相当する。また、「対象物」が糖鎖である場合は、レクチン(例えば、コンカナバリンA(ConA)等)がこれに相当する。また、「対象物」が特定の抗原である場合は、当該抗原を特異的に認識する免疫グロブリンがこれに相当する。
【0075】
例えば、免疫グロブリンの中でも単鎖抗体は遺伝子組換え技術を利用して他のタンパク質との融合タンパク質を作製することが容易である。酸化鉄結合タンパク質は酸化鉄に対して強力な結合能を有している。このため、酸化鉄結合タンパク質と対象物結合タンパク質としての単鎖抗体との融合タンパク質を作製し、かかる融合タンパク質を酸化鉄に固定化させることによって、例えば、本発明の複合体に固定化した対象物を溶出する際に、対象物と一緒に抗体が溶出される虞がないため、対象物のみを容易に溶出し回収することができる。本発明の複合体において、対象物結合タンパク質として用いられるタンパク質は上記例示したものに限定されない。
【0076】
また、対象物結合タンパク質が融合タンパク質である場合は、「対象物に吸着可能な部位を有しているタンパク質」とは、当該融合タンパク質を構成している2つ以上の異種タンパク質の内の少なくとも1つが対象物に対する吸着能を有しているタンパク質であることが意図される。
【0077】
また、対象物結合タンパク質がタンパク質複合体である場合は、「対象物に吸着可能な部位を有しているタンパク質」とは、当該タンパク質複合体を構成している2つ以上の異種タンパク質の内の少なくとも1つが対象物に対する吸着能を有しているタンパク質であることが意図されるか、または、当該タンパク質複合体を構成している少なくとも1つのタンパク質または少なくとも1つのタンパク質以外の物質が対象物に対する吸着能を有しているタンパク質であることが意図される。
【0078】
かかるタンパク質複合体の具体的な例を挙げれば、例えば、「対象物」が特定の抗原である場合は、例えば、当該抗原を特異的に認識する免疫グロブリンと、免疫グロブリンに結合するタンパク質(例えば、プロテインG、プロテインA等)との複合体がこれに相当する。また、例えば、「対象物」が特定の免疫グロブリンである場合は、例えば、当該免疫グロブリンによって特異的に認識される抗原と、かかる抗原を特異的に認識する他の免疫グロブリンとの複合体がこれに相当する。なお、この場合には、上述した「特定の免疫グロブリン」のエピトープと、上述した「他の免疫グロブリン」のエピトープとは、異なるものであることが好ましい。
【0079】
ただし、本発明の複合体において、対象物結合タンパク質として用いられるタンパク質複合体は上記例示したものに限定されない。
【0080】
本発明の複合体では、対象物結合タンパク質は、酸化鉄結合タンパク質に連結されているが、対象物に対する対象物結合タンパク質の吸着能を妨げないように、酸化鉄結合タンパク質に対して連結されていることが好ましい。なお、対象物結合タンパク質としてタンパク質複合体を用いる場合は、かかるタンパク質複合体を構成しているタンパク質の内の1つと酸化鉄結合タンパク質とを連結した融合タンパク質を作製した後に、タンパク質複合体を構成している他の構成成分とかかる融合タンパク質とを接触させることによってタンパク質複合体を形成させることができる。
【0081】
具体的には、対象物結合タンパク質として、例えば、免疫グロブリンとプロテインGとの複合体を用いる場合は、プロテインGと酸化鉄結合タンパク質との融合タンパク質を作製した後に、かかる融合タンパク質と免疫グロブリンとを接触させることによって免疫グロブリンとプロテインGとのタンパク質複合体を形成させればよい。
【0082】
本発明の複合体では、酸化鉄結合タンパク質は、免疫グロブリンに結合するタンパク質を少なくとも一部分として含んでいるタンパク質であってもよい。すなわち、上記対象物結合タンパク質として、免疫グロブリンに結合するタンパク質を少なくとも一部分として含んでいるタンパク質を選択して酸化鉄結合タンパク質との融合タンパク質を作製すればよい。なお、本明細書において「免疫グロブリン」は、IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、IgY、IgW、IgXおよびこれらのサブクラス(例えば、IgG1〜IgG4等)並びにこれらのFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメントを意味し、「抗体」とも言い換え可能である。例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0083】
ここで、上記「免疫グロブリンに結合するタンパク質」は、免疫グロブリンに対する結合能を有しているタンパク質であれば特に限定されない。具体的には、例えば、プロテインG、プロテインA、プロテインL、免疫グロブリンを特異的に認識する他の免疫グロブリン等が意図される。
【0084】
本発明の複合体では、対象物結合部位を目的に応じて適宜設計することによって、あらゆる対象物を酸化鉄に固定化することが可能となる。
【0085】
対象物結合部位となる対象物結合タンパク質の由来は、特に限定されず、細菌、酵母、植物、動物等、いずれの生物に由来するタンパク質であってもよい。また、生物由来でないが、人工的にデザインされたペプチドライブラリーから対象物結合タンパク質を選択してきてもよい。
【0086】
また、対象物結合タンパク質は、例えば、遺伝子組み換え技術を用いて生産されたものであってもよく、アミノ酸合成機などを用いて化学合成されたものであってもよい。
【0087】
また、対象物結合タンパク質は、付加的なペプチドを含むものであってもよい。付加的なペプチドとしては、例えば、ポリヒスチジンタグ(His-tag)やMyc、Flag等のエピトープ標識ペプチドが挙げられる。
【0088】
〔2.キット〕
本発明に係るキット(「本発明のキット」ともいう。)は、対象物を酸化鉄に固定化するためのキットであって、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に結合し得るタンパク質(酸化鉄結合タンパク質)を少なくとも含んでいる構成である。なお、上記「酸化鉄結合タンパク質」、上記「対象物」および上記「酸化鉄」については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0089】
本発明のキットでは、上記「酸化鉄結合タンパク質」をポリペプチドの形態として備えていてもよいし、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの形態(例えば、当該ポリヌクレオチドを含む形質転換ベクター等)として備えていてもよい。
【0090】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体が意図される。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言でき、デオキシリボヌクレオチド(A、G、C、およびTと省略される)の配列として示される。
【0091】
また、本発明のキットは、上記「酸化鉄結合タンパク質」を、酸化鉄に固定化された状態で、すなわち、上述した本発明の複合体として備えていてもよいし、酸化鉄に固定化されていない状態で備えていてもよい。上記「酸化鉄結合タンパク質」を、酸化鉄に固定化されていない状態で備えている場合は、例えば、酸化鉄結合タンパク質を含む溶液に酸化鉄を添加し、酸化鉄結合タンパク質と酸化鉄との混合液を十分(例えば、4℃で15〜30分間)転倒混和することによって酸化鉄結合タンパク質が酸化鉄に固定化された酸化鉄−タンパク質複合体を容易に得ることができる。
【0092】
また、本発明のキットは、酸化鉄結合タンパク質が、対象物に結合可能な部位(対象物結合部位)を有しているタンパク質であることが好ましい。「対象物結合部位」および対象物結合部位を有している酸化鉄結合タンパク質を作製する方法については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0093】
また、本発明のキットは、上記「酸化鉄結合タンパク質」以外の成分をさらに備えていてもよい。例えば、なお、「対象物結合部位」としてタンパク質複合体が用いられる場合は、かかるタンパク質複合体を構成している成分のすべてが同じ容器に充填されていてもよいし、それぞれの構成成分が別々の容器に充填されていてもよい。
【0094】
また、対象物を酸化鉄に固定化するために好適な緩衝液を備えていてもよい。適切な緩衝液については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0095】
また、本発明のキットを構成する成分を格納するための1つ以上の容器(例えば、バイアル、管、アンプル、ビン等)を含んでいてもよく、本発明のキットを使用するための指示書を備えていてもよい。
【0096】
本発明のキットを用いれば、酸化鉄結合タンパク質を介して対象物を表面修飾されていない酸化鉄に直接結合させることができるので、従来の方法と比較して、より簡便に対象物を酸化鉄に固定化させることができる。
【0097】
〔3.対象物を酸化鉄に固定化する方法1〕
本発明にかかる固定化方法(「本発明の固定化方法」ともいう。)は、対象物を酸化鉄に固定化する方法であって、上述した本発明の複合体と、対象物とを接触させる工程(以下、「接触工程」と称する)を包含していることを特徴としている。なお、上記「本発明の複合体」および「対象物」については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0098】
(3−1.接触工程)
接触工程は、本発明の複合体、すなわち、表面に酸化鉄結合タンパク質が固定化された酸化鉄と、対象物とを接触させることによって、酸化鉄結合タンパク質を介して酸化鉄に対象物を固定化する工程である。なお、酸化鉄結合タンパク質は、対象物に結合可能な部位(対象物結合部位)を有しているタンパク質であることが好ましい。「対象物結合部位」および対象物結合部位を有している酸化鉄結合タンパク質を作製する方法については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0099】
接触工程では、本発明の複合体の表面に対象物を固定化する方法として、特に限定されないが、例えば、対象物を含んでいる溶液中に本発明の複合体を浸漬する方法、本発明の複合体表面に対象物を含んでいる溶液を塗布またはスポットする方法等を用いることができる。また、接触工程では、本発明の複合体と対象物とを、条件は特に限定されないが、例えば、4℃〜室温にて数秒から30分程度インキュベートすることによって十分に接触させることが好ましい。
【0100】
本発明の固定化方法によれば、酸化鉄結合タンパク質を介して対象物を表面修飾されていない酸化鉄に直接結合させることができるので、従来の方法と比較して、より簡便に対象物を酸化鉄に固定化させることができる。
【0101】
(3−2.その他)
本発明の固定化方法では、上記以外の工程が設けられていてもよく、上記以外の工程の内容は限定されない。例えば、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に対する結合能を有しているタンパク質(酸化鉄結合タンパク質)と酸化鉄とを接触させることによって、酸化鉄の表面に酸化鉄結合タンパク質を固定化する工程(以下「酸化鉄結合タンパク質固定化工程」と称する。)、言い換えれば、本発明の複合体を製造する工程を上記接触工程の前に設けてもよい。
【0102】
上記「酸化鉄結合タンパク質固定化工程」は、酸化鉄結合タンパク質と酸化鉄とを接触させることによって、表面修飾されていない酸化鉄の表面に酸化鉄結合タンパク質を固定化する工程である。酸化鉄結合タンパク質固定化工程では、酸化鉄の表面に酸化鉄結合タンパク質を固定化する方法として、例えば、酸化鉄結合タンパク質を含んでいる溶液中に酸化鉄を浸漬する方法、酸化鉄表面に酸化鉄結合タンパク質を含んでいる溶液を塗布またはスポットする方法等を用いることができる。
【0103】
なお、酸化鉄結合タンパク質は、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に結合し得るタンパク質であるが、酸化鉄結合タンパク質固定化工程において酸化鉄結合タンパク質と酸化鉄とを固定化する条件は、どのような条件で行ってもよい。例えば、酸化鉄結合タンパク質を含む溶液中に、酸化鉄を添加し、4℃〜室温にて数秒から30分程度インキュベートすることによって、酸化鉄結合タンパク質と酸化鉄とを十分に接触させることができる。
【0104】
また、酸化鉄結合タンパク質は、対象物に結合可能な部位(対象物結合部位)を有しているタンパク質であることが好ましい。「対象物結合部位」および対象物結合部位を有している酸化鉄結合タンパク質を作製する方法については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0105】
〔4.対象物の回収方法〕
本発明にかかる回収方法(「本発明の回収方法」ともいう。)は、対象物を回収する方法であって、上述した本発明にかかる酸化鉄−タンパク質複合体(本発明の複合体)、すなわち、表面に酸化鉄結合タンパク質が固定化された酸化鉄と、対象物とを接触させる第1工程と、当該第1工程を経た上記酸化鉄−タンパク質複合体を回収する第2工程と、を包含していることを特徴としている。なお、上記「本発明の複合体」および上記「対象物」については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0106】
(4−1.第1工程)
第1工程は、本発明の複合体、すなわち、表面に酸化鉄結合タンパク質が固定化された酸化鉄と、対象物とを接触させることによって、酸化鉄に酸化鉄結合タンパク質を介して対象物を固定化する工程である。本発明の複合体の表面に対象物を固定化する方法については、上記「3.対象物を酸化鉄に固定化する方法」の「3−1.接触工程」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。酸化鉄結合タンパク質は、対象物に結合可能な部位(対象物結合部位)を有しているタンパク質であることが好ましい。「対象物結合部位」および対象物結合部位を有している酸化鉄結合タンパク質を作製する方法については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0107】
(4−2.第2工程)
第2工程は、上記第1工程を経た上記酸化鉄−タンパク質複合体、すなわち、表面に対象物が固定化された酸化鉄−タンパク質複合体を回収する工程である。
【0108】
酸化鉄−タンパク質複合体の回収方法としては特に限定されず、従来公知の遠心分離法等の方法を用いて酸化鉄−タンパク質複合体を回収することができる。なお、酸化鉄−タンパク質複合体を構成している酸化鉄が磁性を有しているものである場合は、当該酸化鉄−タンパク質複合体を磁場に捕捉させることによって酸化鉄−タンパク質複合体を回収することが好ましい。酸化鉄−タンパク質複合体を磁場に捕捉させて回収する方法では、夾雑物を混入させることなく酸化鉄−タンパク質複合体のみを回収することができるので、対象物のみを容易に回収することができる。
【0109】
上記「磁場」を生成する手段として、磁石を用いることが可能である。すなわち、上記「酸化鉄−タンパク質複合体を磁場に捕捉させる」とは、「酸化鉄−タンパク質複合体を磁石に捕捉させる」と言い換えられる。上記「磁石」としては、例えば、電磁石、永久磁石等を用いることができる。電磁石は、電源をON/OFF操作することによって磁場の生成を制御することができるので、酸化鉄−タンパク質複合体を電磁石に捕捉させるまたは電磁石にから離脱させることが容易である。このため、電磁石のほうが永久磁石よりも利便性に優れている。
【0110】
(4−3.その他)
本発明の回収方法では、上記以外の工程が設けられていてもよく、上記以外の工程の内容は限定されない。例えば、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に対する結合能を有している酸化鉄結合タンパク質と酸化鉄とを接触させることによって、表面修飾されていない酸化鉄の表面に酸化鉄結合タンパク質を固定化する工程(以下「酸化鉄結合タンパク質固定化工程」と称する。)、言い換えれば、本発明にかかる酸化鉄−タンパク質複合体を製造する工程を上記第1工程の前に設けてもよい。なお、上記「酸化鉄結合タンパク質固定化工程」については、上記「3.対象物を酸化鉄に固定化する方法」の「3−2.その他」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0111】
さらには、本発明の回収方法では、上記第2工程の後に、酸化鉄−タンパク質複合体から対象物を溶出させる工程を設けてもよい。酸化鉄−タンパク質複合体から対象物を溶出させる方法としては、特に限定されないが、例えば、対象物結合タンパク質としてプロテインAを用い、対象物として免疫グロブリンを固定化させた場合、酸性溶液による処理(例えば、pH2〜3のグリシン緩衝液やpH3のクエン酸緩衝液)等で溶出をすることによって酸化鉄−タンパク質複合体から対象物を溶出させることができる。
【0112】
本発明の回収方法によれば、酸化鉄結合タンパク質を介して、対象物を表面修飾されていない酸化鉄に直接結合させることができるので、従来の方法と比較して、より簡便に対象物を酸化鉄に固定化させることができる。また、酸化鉄結合タンパク質は酸化鉄に対して強力な結合能を有しているので、本発明の複合体は種々の操作を経た後も安定的に使用することができる。よって、本発明の回収方法を安定的に行うことができる。
【0113】
〔5.目的の細胞を死滅させる方法〕
本発明にかかる目的の細胞を死滅させる方法(「本発明の細胞死滅方法」ともいう。)は、in vitroにおいて目的の細胞を死滅させる方法であり、上述した本発明の酸化鉄−タンパク質複合体と、目的の細胞とを接触させる第1工程と、上記第1工程を経た上記酸化鉄−タンパク質複合体に交流磁場を印加して、当該酸化鉄−タンパク質複合体を加熱する第2工程とを包含し、上記酸化鉄は、磁性を有しているものであることを特徴としている。なお、上記「本発明の酸化鉄−タンパク質複合体」については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0114】
本発明の細胞死滅方法において、死滅させる対象となる細胞は特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、様々な細胞を含む混合培養物、様々な細胞を含む組織(例えば、生体内から摘出された後の組織)の中の特定の細胞を死滅させることができるが、これらに限定されない。
【0115】
本発明の複合体の利用の一実施形態として、本発明の複合体をin vivoにおいて目的の細胞を死滅させる方法に適用することも可能である。この場合は、例えば、本発明の複合体に目的のがん細胞を認識する抗体を固定化したものを体内に投与することで、目的のがん組織(腫瘍)に本発明の複合体を特異的に集積させる。その後、本発明の複合体に交流磁場を印加して複合体を加熱することによって目的のがん組織(腫瘍)を局所的に加熱してがん細胞を死滅させることができる。なお、磁性粒子をがん組織に集積させることによって、外部磁界で患部のみを加熱してがん細胞を死滅させる方法は、温熱療法(ハイパーサーミア)と称され臨床応用が期待されている。すなわち、本発明の複合体は、温熱療法(ハイパーサーミア)に適用することが可能である。
【0116】
(5−1.第1工程)
第1工程は、本発明にかかる酸化鉄−タンパク質複合体と、すなわち、表面に酸化鉄結合タンパク質が固定化された酸化鉄と、目的の細胞とを接触させる工程であればよい。本発明にかかる酸化鉄−タンパク質複合体と目的の細胞とを接触させることによって、酸化鉄結合タンパク質を介して、目的の細胞の表面に酸化鉄−タンパク質複合体を固定してもよく、または、本発明の酸化鉄−タンパク質複合体と目的の細胞とを接触させることによって、本発明の酸化鉄−タンパク質複合体が目的の細胞内に取り込ませて、細胞内において、酸化鉄−タンパク質複合体に酸化鉄結合タンパク質を介して目的の細胞内物質を固定化してもよい。
【0117】
酸化鉄結合タンパク質は、対象物(この場合の「目的の細胞」または「目的の細胞内物質」)に結合可能な部位(対象物結合部位)を有しているタンパク質であることが好ましい。上記「対象物結合部位」および対象物結合部位を有している酸化鉄結合タンパク質を作製する方法については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0118】
上記「目的の細胞内物質」としては、特に限定されないが、例えば、リボソーム、アクチン、RNA等を挙げることができる。
【0119】
本発明の複合体の表面に目的の細胞を固定化する方法として、特に限定されないが、例えば、目的の細胞を含んでいる溶液中に本発明の複合体を浸漬する方法等を用いることができる。この場合、第1工程では、本発明の複合体と目的の細胞とを、条件は特に限定されないが、例えば、4〜37℃にて数秒から30分程度インキュベートすることによって十分に接触させることが好ましい。
【0120】
また、本発明の酸化鉄−タンパク質複合体を目的の細胞内に取り込ませて、細胞内において、酸化鉄−タンパク質複合体に酸化鉄結合タンパク質を介して目的の細胞内物質を固定化する方法としては、特に限定されないが、例えば、エンドサイトーシスによる細胞内への取り込みを利用する方法によって行うことができる。この場合、目的の細胞としては、貪食能を有している細胞(例えば、マクロファージ、好中球等)等を好適に用いることができる。
【0121】
(5−2.第2工程)
第2工程は、上記第1工程を経た酸化鉄−タンパク質複合体、すなわち、表面に目的の細胞が固定化された酸化鉄−タンパク質複合体または目的の細胞内に取り込まれて目的の細胞内物質が固定化された酸化鉄−タンパク質複合体に交流磁場を印加して、酸化鉄−タンパク質複合体を加熱する工程である。磁性粒子に交流磁場を印加すると発熱することが知られている。また、一般に細胞は、43℃程度まで加熱されると死滅することが知られている。このため、表面に目的の細胞が固定化された酸化鉄−タンパク質複合体または目的の細胞内に取り込まれて目的の細胞内物質が固定化された酸化鉄−タンパク質複合体に交流磁場を印加して、酸化鉄−タンパク質複合体を加熱することで細胞を死滅させることができる。
【0122】
印加する磁場については、本発明の酸化鉄−タンパク質複合体を加熱することができる強度であればよく、使用する酸化鉄−タンパク質複合体の組成、形状、大きさ等によって適宜設定することができる。例えば、酸化鉄−タンパク質複合体を構成する酸化鉄として10〜30nmの粒子径のマグネタイト粒子を用いる場合は、100〜1000kHzの高周波磁場を印加することによって酸化鉄−タンパク質複合体を加熱することができる。
【0123】
(5−3.その他)
本発明の細胞死滅方法では、上記以外の工程が設けられていてもよく、上記以外の工程の内容は限定されない。例えば、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に対する結合能を有している酸化鉄結合タンパク質と酸化鉄とを接触させることによって、表面修飾されていない酸化鉄の表面に酸化鉄結合タンパク質を固定化する工程(以下「酸化鉄結合タンパク質固定化工程」と称する。)、言い換えれば、本発明の酸化鉄−タンパク質複合体を製造する工程を上記第1工程の前に設けてもよい。なお、上記「酸化鉄結合タンパク質固定化工程」については、上記「3.対象物を酸化鉄に固定化する方法」の「3−2.その他」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0124】
本発明の細胞死滅方法によれば、目的の細胞または目的の細胞内物質を酸化鉄結合タンパク質を介して表面修飾されていない酸化鉄に直接結合させることができるので、従来の方法と比較して、より簡便に目的の細胞または目的の細胞内物質を酸化鉄に固定化させることができる。また、酸化鉄結合タンパク質は酸化鉄に対して強力な結合能を有しているので、本発明の酸化鉄−タンパク質複合体は種々の操作を経た後も安定的に使用することができる。よって、本発明の細胞死滅方法を安定的に行うことができる。
【0125】
〔6.対象物を酸化鉄に固定化する方法2〕
本発明にかかる固定化方法(「本発明の固定化方法」ともいう。)は、対象物を酸化鉄に固定化する方法であって、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に結合し得るタンパク質(酸化鉄結合タンパク質)を、表面修飾されていない酸化鉄に固定化させる工程(以下「酸化鉄結合タンパク質固定化工程」と称する。)と、対象物を、上記タンパク質に固定化させる工程(以下「対象物固定化工程」と称する。)と、を包含していることを特徴としている。なお、上記「酸化鉄結合タンパク質」、「酸化鉄」および「対象物」については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0126】
本発明の固定化方法では、上記酸化鉄結合タンパク質固定化工程と上記対象物固定化工程とを行う順序は特に限定されない。すなわち、酸化鉄結合タンパク質固定化工程の後で対象物固定化工程を行ってもよく、その逆も可能である。より具体的に説明すると、例えば、酸化鉄結合タンパク質固定化工程の後に対象物固定化工程を行う場合には、酸化鉄結合タンパク質を酸化鉄に固定化させた後に、酸化鉄結合タンパク質に対象物を固定化してもよい。また、例えば、酸化鉄結合タンパク質固定化工程の前に対象物固定化工程を行う場合には、対象物と酸化鉄結合タンパク質とを固定化させた後に、かかる酸化鉄結合タンパク質を酸化鉄に固定化してもよい。
【0127】
また、本発明の固定化方法では、上記以外の工程が設けられていてもよく、上記以外の工程の内容は限定されない。
【0128】
(6−1.酸化鉄結合タンパク質固定化工程)
酸化鉄結合タンパク質固定化工程は、酸化鉄結合タンパク質(または、対象物が固定化された酸化鉄結合タンパク質)と酸化鉄とを接触させることによって、酸化鉄の表面に酸化鉄結合タンパク質を固定化する工程である。酸化鉄結合タンパク質を酸化鉄に固定化するとは、酸化鉄に、酸化鉄結合タンパク質(または、対象物が固定化された酸化鉄結合タンパク質)を結合または吸着させることが意図される。
【0129】
酸化鉄結合タンパク質固定化工程では、酸化鉄の表面に酸化鉄結合タンパク質(または、対象物が固定化された酸化鉄結合タンパク質)を固定化する方法として、例えば、酸化鉄結合タンパク質(または、対象物が固定化された酸化鉄結合タンパク質)を含んでいる溶液中に酸化鉄を浸漬する方法、酸化鉄表面に酸化鉄結合タンパク質(または、対象物が固定化された酸化鉄結合タンパク質)を含んでいる溶液を塗布またはスポットする方法等を用いることができる。
【0130】
なお、酸化鉄結合タンパク質は、2%ドデシル硫酸ナトリウム存在下にて95℃、5分間加熱する条件下において酸化鉄に結合し得るタンパク質であるが、酸化鉄結合タンパク質固定化工程において酸化鉄結合タンパク質(または、対象物が固定化された酸化鉄結合タンパク質)と酸化鉄とを固定化する条件は、どのような条件で行ってもよい。例えば、酸化鉄結合タンパク質(または、対象物が固定化された酸化鉄結合タンパク質)を含む溶液中に、酸化鉄を添加し、4℃〜室温にて数秒から30分程度インキュベートすることによって、酸化鉄結合タンパク質(または、対象物が固定化された酸化鉄結合タンパク質)と酸化鉄とを十分に接触させることができる。
【0131】
(6−2.対象物固定化工程)
対象物固定化工程は、酸化鉄結合タンパク質と、対象物とを接触させることによって、対象物を酸化鉄結合タンパク質に固定化する工程である。
【0132】
対象物を酸化鉄結合タンパク質に固定化するとは、酸化鉄結合タンパク質に対象物を可逆的または不可逆的に結合または吸着させて、酸化鉄結合タンパク質に対象物を担持させることが意図される。
【0133】
上記酸化鉄結合タンパク質は、対象物に結合可能な部位(対象物結合部位)を有しているタンパク質であることが好ましい。これにより、対象物を酸化鉄結合タンパク質に固定化することができる。なお、上記「対象物結合部位」および対象物結合部位を有している酸化鉄結合タンパク質を作製する方法については、上記「1.酸化鉄−タンパク質複合体」の項で説明したとおりであるので、説明を省略する。
【0134】
対象物固定化工程では、酸化鉄結合タンパク質に対象物を固定化する方法として、特に限定されないが、例えば、対象物を含んでいる溶液中に酸化鉄結合タンパク質を添加する方法等を用いることができる。また、対象物固定化工程では、酸化鉄結合タンパク質と対象物とを、条件は特に限定されないが、例えば、4℃〜室温にて数秒から30分程度インキュベートすることによって十分に接触させることが好ましい。
【0135】
また、対象物固定化工程では、対象物がタンパク質である場合は、酸化鉄結合タンパク質と対象物との融合タンパク質を作製することによって、対象物を酸化鉄結合タンパク質に固定化してもよい。
【0136】
本発明の固定化方法によれば、酸化鉄結合タンパク質を介して、対象物を表面修飾されていない酸化鉄に直接結合させることができるので、従来の方法と比較して、より簡便に対象物を酸化鉄に固定化させることができる。
【0137】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0138】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0139】
〔実施例1〕
Si−tag(Genbank、アクセッションNo.AAC76342.1)(アミノ酸配列を配列番号1に示し、塩基配列を配列番号2に示す。)の酸化鉄に対する結合能を検討した。
【0140】
(方法)
Streptococcus属細菌の抗体結合タンパク質であるプロテインG中の免疫グロブリン結合ドメインB1に相当するアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号Genbank、アクセッションNo.M13825.1の1259残基〜1425残基に相当)を合成した。このDNAをpET−SpA−Sitag(Ikeda, T., Y. Hata, K. Ninomiya, Y. Ikura, K. Takeguchi, S. Aoyagi, R. Hirota and A. Kuroda. 2009. Oriented immobilization of antibodies on a silicon wafer using Si-tagged protein A. Anal. Biochem. 385: 132-137.を参照)のNdeI−BamHI消化断片とライゲーションし、Si−tagとプロテインG中のイムノグロブリン結合ドメインB1の融合タンパク質(以下、「Si−tag融合プロテインG」と称する。)を発現させるためのプラスミドを作製した。
【0141】
得られたプラスミドをエレクトロポレーション法によりEscherichia coli Rosetta(DE3)pLysS株に形質転換した。得られた形質転換体を2×YT液体培地に植菌し37℃で培養した。培養液のOD600が0.5になった時点で、終濃度1mMのIPTGを添加して28℃でさらに7時間培養を行った。E. coli菌体を遠心操作(6,000×g,10分)により回収した。得られた菌体をトリス緩衝生理食塩水に懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離(40,000×g,30分)した上清を陽イオン交換クロマトグラフィーカラム(Applied Biosystems社製Poros HS/M)上にアプライし、カラムに吸着したタンパク質を0Mから1M NaClのリニアグラジエントにて溶出した。Si−tag融合プロテインGを含む画分を回収して、以下の実験に利用した。
【0142】
精製したSi−tag融合プロテインG溶液を終濃度50μg/mlになるように添加して4℃にて30分間旋回振盪にて混合することで、Si−tag融合プロテインGをシリカ粒子(添川理化学社製,粒径0.8μm)または酸化鉄粒子(ナカライテスク社製,品番:19522-45)上に固定化した。その後、各粒子を洗浄溶液(25 mM Tris-HCl [pH 9.0], 0.5 M NaCl, 0.5% [v/v] Tween 20)を用いて3回洗浄した後に、SDS−PAGEサンプルバッファー(組成:62.5 mM Tris-HCl [pH 6.8], 5% [v/v] 2-メルカプトエタノール, 2% [w/v] SDS, 5% [w/v] スクロース, 0.005% [w/v] ブロモフェノールブルー)中で95℃にて5分間加熱した。(i)加熱後の上清、(ii)シリカ粒子または酸化鉄粒子と混合後の上清、(iii)各洗浄後の上清を、それぞれ20μlずつSDS−PAGEに供し、各溶液に含まれるタンパク質の解析を行った。
【0143】
(結果)
SDS−PAGEによって、シリカ粒子または酸化鉄粒子に固定化したSi−tagの安定性の比較を行った結果を
図2に示す。
図2において、各レーンは以下の試料の結果を示している。
【0144】
レーンM:分子量マーカー
レーン1:固定化前のSi−tag融合プロテインG(比較用)
レーン2:加熱後の上清(シリカ粒子)
レーン3:混合後の上清(シリカ粒子)
レーン4:1回目洗浄後の上清(シリカ粒子)
レーン5:2回目洗浄後の上清(シリカ粒子)
レーン6:3回目洗浄後の上清(シリカ粒子)
レーン7:加熱後の上清(酸化鉄粒子)
レーン8:混合後の上清(酸化鉄粒子)
レーン9:1回目洗浄後の上清(酸化鉄粒子)
レーン10:2回目洗浄後の上清(酸化鉄粒子)
レーン11:3回目洗浄後の上清(酸化鉄粒子)
図2に示したように、レーン3〜6およびレーン8〜11にはSi−tag融合プロテインGのバンドが認められないことから、Si−tag融合プロテインGはシリカ粒子および酸化鉄粒子の両方に結合したことが確認できた。
【0145】
また、レーン2にはSi−tag融合プロテインGのバンドが観察された。これは、シリカ粒子に結合したSi−tag融合プロテインGが、95℃にて5分間の熱処理によって解離したことを表している。これに対して、レーン7にはSi−tag融合プロテインGのバンドが観察されなかった。これは、酸化鉄粒子に結合したSi−tag融合プロテインGは、95℃にて5分間の熱処理によってほとんど解離しなかったことを表している。
【0146】
以上のことから、Si−tagは、酸化鉄に対して非常に安定的に結合していること、およびSi−tagはシリカよりも酸化鉄に対してより強い結合能を有していることが明らかになった。Si−tagと酸化鉄との結合は非常に安定であるため、本手法によりタンパク質を固定化した酸化鉄粒子は、高温や界面活性剤存在下などの厳しい条件下においても使用可能であることが明らかになった。
【0147】
〔実施例2〕
磁性粒子を用いた免疫測定法(遠心分離操作なし)について検討した。
【0148】
(方法)
酸化鉄として磁性粒子(マグネタイト粒子)(ナカライテスク社製,品番:19522-45)を用いた。マグネタイト粒子20μgを一旦dH
2Oに懸濁後、磁石を用いてマグネタイト粒子を回収し上清を除くことで洗浄した。同様にマグネタイト粒子をリン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH7.4)で3回洗浄した。洗浄後のマグネタイト粒子を結合溶液(25 mM Tris-HCl [pH 9.0], 0.5 M NaCl, 0.5% [v/v] Tween 20)200μlで再度洗浄した後、改めて結合溶液200μlに懸濁した。
【0149】
実施例1において精製したSi−tag融合プロテインG溶液を、終濃度250μg/mlになるように添加して4℃にて30分間旋回振盪にて混合することで、Si−tag融合プロテインGをマグネタイト粒子上に固定化した。
【0150】
マグネタイト粒子を磁石により回収し、PBSで3回洗浄した。磁石を用いてマグネタイト粒子を回収し上清を除いた後、PBSで希釈した抗H−FABP抗体溶液(5μg/ml,abcam社製,品番:ab8315)を添加し、4℃で1時間旋回振盪にて混合することによって抗体をマグネタイト粒子に固定化した。4℃で1時間旋回振盪にて混合した後、マグネタイト粒子をPBST(PBS + 0.05% [v/v] Tween 20)で3回洗浄した。磁石により回収したマグネタイト粒子に1%(w/v)BSAを含むPBS溶液1mlを添加して、室温にて2時間旋回振盪を行うことでブロッキング処理を行った。上清を除いた後、様々な濃度の心臓由来脂肪酸結合タンパク質(Heart-type fatty acid-binding protein; H-FABP)(Cayman Chemical社製,品番:10007432)と1%(w/v)BSAとを含むPBS溶液200μlを添加した。室温で1時間旋回振盪にて混合した後、マグネタイト粒子をPBSTで3回洗浄した。HRPで標識した抗H−FABP抗体(abcam社製,品番:ab24470)を1%(w/v)BSAを含むPBSで10000倍希釈した溶液200μlを添加して、4℃で1時間旋回振盪にて混合した。マグネタイト粒子をPBSTで5回洗浄後、上清を除き、HRPの発色基質(Promega社製TMB One Solution)200μlを添加して室温で発色反応を行った。0.5M H
2SO
4 200μlを添加して反応を停止した後、波長450nmにおける吸光度を分光光度計で測定した。
【0151】
(結果)
測定の結果を
図3に示す。
図3に示したように、H−FABP濃度に応じた発色が認められた。このことより、Si−tag融合プロテインGを介して目的の抗体がマグネタイト粒子上に機能的に固定化されていることが示された。
【0152】
本手法により目的の抗体を固定化した酸化鉄粒子を簡便に作製することができた。酸化鉄粒子は磁場を操作することで液中での凝集・分散が可能である。通常の場合、粒子を回収するためには遠心分離操作が必要であるが、磁性粒子は遠心分離が不要なため自動化プロセスに適しており、種々のアプリケーションに利用することができる。
【0153】
〔実施例3〕
抗体を固定化した磁性粒子を用いた細菌回収法について検討した。
【0154】
(方法)
酸化鉄として、実施例2で用いたマグネタイト粒子を用いた。マグネタイト粒子への抗体の固定化は、実施例2に記載した方法と同様の方法にて行った。ただし、抗体は抗E. coli(大腸菌)抗体(abcam社製,品番:ab25823)を用いた。
【0155】
抗体を固定化したマグネタイト粒子をPBSで3回洗浄した。LB液体培地中で一晩培養した大腸菌培養液200μlをマグネタイト粒子に添加して室温にて1時間旋回振盪にて混合した。粒子をPBSTで5回洗浄した後、PBSに懸濁し適宜希釈した。希釈液100μlをLB寒天培地上にプレーティングして、37℃で一晩培養した後、寒天培地上に形成されたコロニー数を計数することで磁性粒子によって回収された細菌数を評価した。
【0156】
(結果)
形成されたコロニー数を表1に記載する。
【0157】
【表1】
【0158】
抗E. coli抗体を固定化しなかった場合と比較して、抗E. coli抗体を固定化した場合は多くのコロニー形成が認められた。このことから、目的とする細菌に対する抗体を提示した酸化鉄粒子によって目的とする細菌を効率的に回収できることが示された。遠心分離による回収ではその他の夾雑物も同時に沈殿してしまうが、磁性による回収であれば目的のものだけを回収できるため利用価値が高い。