特許第6202505号(P6202505)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6202505
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】細胞培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20170914BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20170914BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C12M3/00 A
   C12M1/36
   C12M1/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-120959(P2016-120959)
(22)【出願日】2016年6月17日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】503366841
【氏名又は名称】株式会社アイカムス・ラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小此木 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】片野 圭二
(72)【発明者】
【氏名】上山 忠孝
(72)【発明者】
【氏名】安西 洋平
(72)【発明者】
【氏名】森 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】夏目 徹
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−526038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 − 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養細胞を培養皿内に配置し、前記培養皿内に前記培養細胞の増殖あるいは維持に必要な液体をリザーバ容器から供給するとともに前記培養皿内の前記液体を廃液容器に排出して前記培養細胞を連続して培養する細胞培養装置であって、
前記リザーバ容器側の前記液体を前記培養皿側に供給する供給ポンプと、前記培養皿側の前記液体を前記廃液容器側に排出する排出ポンプと、前記リザーバ容器と前記供給ポンプとの間、前記供給ポンプと前記培養皿との間、前記培養皿と前記排出ポンプとの間、前記排出ポンプと前記廃液容器との間の各流路を該各流路を形成する流路溝がそれぞれ対向面に形成された弾性部材からなる流路上部プレート及び流路下部プレートを分子接合技術による化学結合によって形成された流路プレートと、前記供給ポンプ及び前記排出ポンプの吸引端ノズル及び吐出端ノズルと前記供給ポンプ側及び前記排出ポンプ側の各流路端部とを嵌合によって直接接合するとともに、各流路の前記リザーバ容器側、前記培養皿側、及び前記廃液容器側の各流路端に容器側ノズルを嵌合によって直接接合し、各流路と前記供給ポンプと前記排出ポンプとが一体化された流路一体プレートと、
前記リザーバ容器、前記培養皿、及び、前記廃液容器が配置されるベースプレートと、
を備え、前記流路一体プレートは、前記ベースプレート上部に対して着脱可能に配置されることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
前記供給ポンプ及び前記排出ポンプは、前記流路上部プレート及び前記流路下部プレートの一側面で並列配置されることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記流路一体プレートは、前記流路上部プレートと前記流路下部プレートとの間に流路中部プレートを設け、前記流路上部プレートと前記流路中部プレートとの間及び前記流路中部プレートと前記流路下部プレートとの間にそれぞれ上部流路と下部流路とを形成し、上部流路及び下部流路に対応して並列配置された2段の前記供給ポンプ及び前記排出ポンプを設け、前記上部流路と前記下部流路とに対応する2つの培養皿で前記培養細胞を連続して培養することを特徴とする請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
少なくとも前記液体が接する面を形成する部材は生体適合性材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記生体適合性材料は、シリコンゴムまたはポリプロピレンであることを特徴とする請求項4に記載の細胞培養装置。
【請求項6】
前記流路プレートは、シリコンゴムまたはポリプロピレンで形成され、
前記供給ポンプ、前記排出ポンプ、前記吸引端ノズル、前記吐出端ノズル、及び前記容器側ノズルは、前記流路プレートに比して大きい弾性率をもつプラスチックで形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記ベースプレートには、前記リザーバ容器、前記培養皿、及び、前記廃液容器の各底部を位置決めする底部位置決め部が形成され、
前記流路プレートの下部には前記リザーバ容器、前記培養皿、及び、前記廃液容器の各上部を位置決めする上部位置決め部が形成され、
前記流路プレートの上部には、前記リザーバ容器、前記培養皿、及び、前記廃液容器に対応する各蓋が位置決めされる蓋位置決め部が形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の細胞培養装置。
【請求項8】
前記ベースプレートには、前記供給ポンプ及び前記排出ポンプを駆動する駆動源が配置され、前記駆動源の回転軸は前記供給ポンプ及び前記排出ポンプの回転軸に一致する位置に配置されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の細胞培養装置。
【請求項9】
前記駆動源の回転軸の端部は、前記供給ポンプ及び前記排出ポンプの回転軸の溝に係合する回り止め部を備え、前記回り止め部は、前記駆動源の回転軸の回転に伴って軸方向に上下動して前記供給ポンプ及び前記排出ポンプの回転軸に結合することを特徴とする請求項8に記載の細胞培養装置。
【請求項10】
前記容器側ノズルは、前記リザーバ容器側、前記培養皿側、及び、前記廃液容器側に向けて延び、
少なくとも前記培養皿側から吸引する排出側の容器側ノズルは、前記培養皿に形成されるメニスカスリング内に配置されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の細胞培養装置。
【請求項11】
前記流路一体プレートに生理的不活性金属をパターニングしたセンサを設けたことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一つに記載の細胞培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞機能に影響を与えず、装置強度を維持しつつ培養液の漏れをなくすことができる細胞培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における幹細胞を利用した再生医療としては、例えば、肝硬変や血液疾患、心筋梗塞の治療、血管の構築、骨や角膜の再生、移植用皮膚の確保、などが考えられている。再生医療では、培養皿内で幹細胞などから目的とする細胞や臓器を増殖させ、人に移植するようにしている。最近では、骨髄由来の幹細胞から血管新生を行い、狭心症、心筋梗塞などの治療に成功している。
【0003】
ここで、従来の細胞培養装置は、培養皿内の培養液を定期的に入れ替えて培養細胞の増殖を行っていた。この細胞培養装置は、培養液の入れ替えに伴って細胞に大きな刺激が与えられ、また、細胞の代謝活動に伴って培養液中に老廃物が排出されることから、細胞にストレスや傷害を与えてしまうという問題があった。
【0004】
これに対して、培養液の入れ替えを行わず、培養皿に培養液を送液して細胞培養を行うものがある。例えば、特許文献1には、細胞の増殖速度をモニタリングし、このモニタリングした増殖速度をもとに培養液中の栄養分の減少を予測し、消費された栄養素を培養液に追加する細胞培養装置が記載されている。
【0005】
また、培養液の入れ替えを行わず、培養液の送液及び排液を行って細胞培養を行うものがある。例えば、特許文献2には、中空繊維からなるフィルタモジュールによって培養液を培養槽に循環させ、培養液中の栄養分の追加と老廃物の除去を行う細胞培養方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−170366号公報
【特許文献2】特開2012−090632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の細胞培養装置では、培養液の送液及び排液の流路と送液及び排液を行うポンプとの間を可撓性チューブなどによって接続していた。この結果、接続部分では培養液の漏れが生じる場合があり、この場合、流量制御の精度が低下する。
【0008】
一方、培養液は培養細胞に対応して異なるものとなることから、流路部分が使い捨てでき、かつ小型であることが好ましい。このため、プラスチック成形加工の2つのプレートの対向面に溝を形成し、この対向面を貼り合わせることによって流路を形成した流路プレートを用いるものがある。
【0009】
しかし、この場合も、ポンプと流路との接続部分をコネクタ接続しているため、培養液の漏れが生じる場合がある。さらに、流路プレートの流路はプラスチックの貼りあわせであるため、表面の微細な凹凸や、そりで空隙が生じやすく、培養液の漏れが生じる場合がある。また、接着剤は、シアノアクリル系やエポキシ系などの生体適合性のあるものしか用いることができなかったため、流路の貼り合わせ強度を十分に確保することができなかった。さらに、流路形成時に熱融着によるプラスチックの貼り合わせを行うと加熱時にプラスチックから可塑剤が溶出し、細胞機能に影響を与えることになる。なお、細胞培養装置の構成要素は、オートクレーブ滅菌や電子線滅菌などの滅菌処理が行われる。ほとんどの接着剤は、この滅菌処理によって熱や放射線に弱いため、この点からも流路の貼り合わせ強度を十分に確保できなかった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、細胞機能に影響を与えず、装置強度を維持しつつ培養液の漏れをなくすことができる細胞培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる細胞培養装置は、培養細胞を培養皿内に配置し、前記培養皿内に前記培養細胞の増殖あるいは維持に必要な液体をリザーバ容器から供給するとともに前記培養皿内の前記液体を廃液容器に排出して前記培養細胞を連続して培養する細胞培養装置であって、前記リザーバ容器側の前記液体を前記培養皿側に供給する供給ポンプと、前記培養皿側の前記液体を前記廃液容器側に排出する排出ポンプと、前記リザーバ容器と前記供給ポンプとの間、前記供給ポンプと前記培養皿との間、前記培養皿と前記排出ポンプとの間、前記排出ポンプと前記廃液容器との間の各流路を該各流路を形成する流路溝がそれぞれ対向面に形成された弾性部材からなる流路上部プレート及び流路下部プレートを分子結合技術による化学接合によって形成された流路プレートと、前記供給ポンプ及び前記排出ポンプの吸引端ノズル及び吐出端ノズルと前記供給ポンプ側及び前記排出ポンプ側の各流路端部とを嵌合によって直接接合するとともに、各流路の前記リザーバ容器側、前記培養皿側、及び前記廃液容器側の各流路端に容器側ノズルを嵌合によって直接接合し、各流路と前記供給ポンプと前記排出ポンプとが一体化された流路一体プレートと、前記リザーバ容器、前記培養皿、及び、前記廃液容器が配置されるベースプレートと、を備え、前記流路一体プレートは、前記ベースプレート上部に対して着脱可能に配置されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる細胞培養装置は、上記の発明において、前記供給ポンプ及び前記排出ポンプは、前記流路上部プレート及び前記流路下部プレートの一側面で並列配置されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる細胞培養装置は、上記の発明において、前記流路一体プレートは、前記流路上部プレートと前記流路下部プレートとの間に流路中部プレートを設け、前記流路上部プレートと前記流路中部プレートとの間及び前記流路中部プレートと前記流路下部プレートとの間にそれぞれ上部流路と下部流路とを形成し、上部流路及び下部流路に対応して並列配置された2段の前記供給ポンプ及び前記排出ポンプを設け、前記上部流路と前記下部流路とに対応する2つの培養皿で前記培養細胞を連続して培養することを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる細胞培養装置は、上記の発明において、少なくとも前記液体が接する面を形成する部材は生体適合性材料で形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる細胞培養装置は、上記の発明において、前記生体適合性材料は、シリコンゴムまたはポリプロピレンであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる細胞培養装置は、上記の発明において、前記流路プレートは、シリコンゴムまたはポリプロピレンで形成され、前記供給ポンプ、前記排出ポンプ、前記吸引端ノズル、前記吐出端ノズル、及び前記容器側ノズルは、前記流路プレートに比して大きい弾性率をもつプラスチックで形成されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる細胞培養装置は、上記の発明において、前記ベースプレートには、前記リザーバ容器、前記培養皿、及び、前記廃液容器の各底部を位置決めする底部位置決め部が形成され、前記流路プレートの下部には前記リザーバ容器、前記培養皿、及び、前記廃液容器の各上部を位置決めする上部位置決め部が形成され、前記流路プレートの上部には、前記リザーバ容器、前記培養皿、及び、前記廃液容器に対応する各蓋が位置決めされる蓋位置決め部が形成されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる細胞培養装置は、上記の発明において、前記ベースプレートには、前記供給ポンプ及び前記排出ポンプを駆動する駆動源が配置され、前記駆動源の回転軸は前記供給ポンプ及び前記排出ポンプの回転軸に一致する位置に配置されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる細胞培養装置は、上記の発明において、前記駆動源の回転軸の端部は、前記供給ポンプ及び前記排出ポンプの回転軸の溝に係合する回り止め部を備え、前記回り止め部は、前記駆動源の回転軸の回転に伴って軸方向に上下動して前記供給ポンプ及び前記排出ポンプの回転軸に結合することを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる細胞培養装置は、上記の発明において、前記容器側ノズルは、前記リザーバ容器側、前記培養皿側、及び、前記廃液容器側に向けて延び、少なくとも前記培養皿側から吸引する排出側の容器側ノズルは、前記培養皿に形成されるメニスカスリング内に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、リザーバ容器と供給ポンプとの間、供給ポンプと培養皿との間、培養皿と排出ポンプとの間、排出ポンプと廃液容器との間の各流路は、流路を形成する流路溝がそれぞれ対向面に形成された弾性部材の流路上部プレート及び流路下部プレートを分子結合技術による化学接合によって形成されているので、細胞機能に影響を与えず、装置強度を維持しつつ培養液の漏れをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施の形態である細胞培養装置の構成を示す分解斜視図である。
図2図2は、図1に示した流路一体プレートの(a)正面図、(b)平面図、(c)下面図である。
図3図3は、図1に示した流路一体プレートの右側面図である。
図4図4は、流路プレートの構成を示す斜視図である。
図5図5は、流路プレートの構成を示す平面図である。
図6図6は、流路プレートの構成を示す分解斜視図である。
図7図7は、流路を流れる培養液の流れを示す説明図である。
図8図8は、流路プレートのA−A線断面図である。
図9図9は、培養皿の排出側に形成されるノズルの配置を示す説明図である。
図10図10は、図1に示した細胞培養装置に適用される培養皿の一例を示す図である。
図11図11は、図1に示した細胞培養装置に適用される培養皿の一例を示す図である。
図12図12は、図1に示した細胞培養装置に適用される培養皿の一例を示す図である。
図13図13は、流路プレートに形成される粒度測定センサの一例を示す図である。
図14図14は、流路プレートに形成される流量測定センサの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照してこの発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
(全体構成)
図1は、本発明の実施の形態である細胞培養装置1の構成を示す分解斜視図である。また、図2は、図1に示した流路一体プレート3の(a)正面図、(b)平面図、(c)下面図である。図3は、図1に示した流路一体プレート3の右側面図である。図4は、流路プレート4の構成を示す斜視図である。図5は、流路プレート4の構成を示す平面図である。図6は、流路プレート4の構成を示す分解斜視図である。図7は、流路を流れる培養液の流れを示す説明図である。
【0025】
図1図3に示すように、細胞培養装置1は、ベースプレート2の上部に流路一体プレート3が着脱自在に配置される。ベースプレート2と流路一体プレート3との間には、培養液が蓄えられたリザーバ容器、かけ流しされる培養液で細胞を培養する培養皿、及び、細胞皿から排出された培養液を収容する廃液容器が配置される。リザーバ容器、培養皿、及び、廃液容器は、シャーレのように有底の筒状の容器である。リザーバ容器は、底部が底部位置決め部31によって位置決めされ、上部が上部位置決め部21によって位置決めされる。2つの培養皿は、それぞれ底部が底部位置決め部32,33によって位置決めされ、それぞれ上部が上部位置決め部22,23によって位置決めされる。また、廃液容器は、底部が底部位置決め部34によって位置決めされ、上部が上部位置決め部24によって位置決めされる。底部位置決め部31〜34は、各容器の底部が凹部に嵌るように形成され、上部位置決め部21〜24は、各容器の上端外側がリング状の凸部内側に嵌るように形成されている。なお、流路一体プレート3の上部には、リザーバ容器、培養皿、及び、廃液容器に対応する各蓋が位置決めされる蓋位置決め部41〜44が形成され、各蓋が位置決めされる。蓋位置決め部41〜44は、リング状の凸部がキャップ状の蓋の下端内側に嵌るように形成されている。これによって、リザーバ容器、培養皿、及び、廃液容器は、それぞれ密閉空間が形成されることになる。
【0026】
図1に示すように、ベースプレート2には、リザーバ容器、培養皿、及び、廃液容器が配置される位置に穴h11〜h14が形成されている。また、流路一体プレート3には、リザーバ容器、培養皿、及び、廃液容器、並びにこれらの蓋が配置される位置に穴h1〜h4が形成されている。リザーバ容器、培養皿、及び、廃液容器が透明である場合、穴h1〜h4及び穴h11〜14を介して上下方向からリザーバ容器、培養皿、及び、廃液容器内の状態を直接観察することができる。
【0027】
ベースプレート2の一側部には、モータなどの駆動源6が配置されている。一方、流路一体プレート3は、内部に培養液の流路が形成される流路プレート4と培養液の供給及び排出を行うポンプ群が配置されたポンプ部5とを有し、ポンプ部5は、流路一体プレート3の一側面であって、駆動源6の上部には、供給ポンプP1,P3及び排出ポンプP2,P4が配置されている。供給ポンプP1と排出ポンプP2、及び供給ポンプP3と排出ポンプP4はそれぞれ水平方向に並列配置され、2段構成になっている。なお、駆動源6の回転軸は、2つあり、供給ポンプP1,P3の回転軸及び排出ポンプP2,P4の回転軸とそれぞれ同じ軸上となるように配置されている。供給ポンプP1,P3の回転方向は同じ向きであり、排出ポンプP2,P4の回転方向も同じ向きである。なお、供給ポンプP1,P3及び排出ポンプP2,P4は、例えばペリスタポンプである。
【0028】
なお、流路プレート4の四隅と、流路プレート4の四隅に対応するベースプレート2の部分には流路プレート4とベースプレート2との位置決め構造を有している。
【0029】
駆動源6の各回転軸の上端部は、供給ポンプP1,P3及び排出ポンプP2,P4の回転軸の溝に係合する図示しない回り止め部を備え、回り止め部は、駆動源6の回転軸の回転に伴って軸方向に上下動して供給ポンプP1,P3及び排出ポンプP2,P4の回転軸に自動的に結合できるようになっている。
【0030】
(流路プレートの構造)
図5図7に示すように、流路プレート4の内部には、複数の流路F11〜F14,F21〜F24が形成される。流路プレート4は、流路下部プレート4c、流路中部プレート4b、流路上部プレート4aを順次、重ねて分子接合技術によって接合されたものである。上段の流路F11〜F14は、対向面である、流路上部プレート4aの下面S11と流路中部プレート4bの上面S12の各面に形成された溝によって形成される。下段の流路F21〜F24は、対向面である、流路中部プレート4bの下面S21と流路下部プレート4cの上面S22の各面に形成された溝によって形成される。
【0031】
ここで、流路プレート4の流路下部プレート4c、流路中部プレート4b、流路上部プレート4aは、生体適合性材料である、シリコンゴムまたはポリプロピレンで形成されている。これによって、流路プレート4は、少なくとも培養液が接する面を形成する部材が生体適合性材料で形成されることになる。
【0032】
接合面S1,S2の接合は、分子接合技術を用いる。分子接合技術は、樹脂と金属との間などの異種材料間を化学結合によって接合する技術である。もちろん、分子接合技術は、異種材料間に限らず、同種材料間であっても化学結合によって接合する技術でもある。分子結合技術は、例えば、被着体表面に予めジチオールトリアジン基を導入し、あらゆる固体表面を1種類の官能基表面に変換し、この官能基の結合によって接着する。ジチオールトリアジン基は、コロナ放電処理によって被着体表面にOH基を生成し、このOH基とTESとを反応させることによって被着体表面に生成することができる。ジチオールトリアジン基含有材料表面は、他の材料と接触して反応し、官能基の化学結合によって接着接合する。
【0033】
分子接合技術は、分子一層で部材間を科学結合によって接合する技術であるため、分子接合技術によって形成された流路F11〜F14,F21〜F24は、接着剤からの汚染物の溶出がなく、耐溶剤性を有する。また、分子接合技術によって形成された流路F11〜F14,F21〜F24は、化学結合による直接接合で形成されているため、従来の分子間力による接合に比して密着力が高く、高い接合状態を長期で維持するという高い接合信頼性を有する。
【0034】
なお、流路F11は、リザーバ容器51と供給ポンプP1の吸引ノズルとの間を結ぶ。流路F12は、供給ポンプP1の吐出ノズルと培養皿53との間を結ぶ。流路F13は、培養皿53と排出ポンプP2の吸引ノズルとの間を結ぶ。流路F14は、排出ポンプP2の吐出ノズルと廃液容器54との間を結ぶ。
【0035】
また、流路F21は、リザーバ容器51と供給ポンプP3の吸引ノズルとの間を結ぶ。流路F22は、供給ポンプP3の吐出ノズルと培養皿52との間を結ぶ。流路F23は、培養皿52と排出ポンプP4の吸引ノズルとの間を結ぶ。流路F24は、排出ポンプP4の吐出ノズルと廃液容器54との間を結ぶ。
【0036】
図6に示すように、流路F11のリザーバ容器側、流路F12の培養皿側、流路F13の培養皿側、流路F14の廃液容器側には、それぞれ上下方向に延びる流路F11a,F12a,F13a,F14aが流路中部プレート4b及び流路下部プレート4cに形成される。また、図2及び図3に示すように、流路F11aの先端、流路F12aの先端、流路F13aの先端、流路F14aの先端には、それぞれノズルn2,n7,n8,n4が配置される。
【0037】
また、図6に示すように、流路F21のリザーバ容器側、流路F22の培養皿側、流路F23の培養皿側、流路F24の廃液容器側には、それぞれ上下方向に延びる流路F21a,F22a,F23a,F24aが流路下部プレート4cに形成される。また、図2及び図3に示すように、流路F21aの先端、流路F22aの先端、流路F23aの先端、流路F24aの先端には、それぞれノズルn1,n6,n5,n3が配置される。
【0038】
なお、流路プレート4はシリコンゴムなどの弾性部材で形成されており、ノズルn1〜n8は、流路プレート4に比して弾性率が大きいプラスチック材料で形成されている。図8に示すように、ノズルn1〜n8は、環状突起付きノズルであり、基部の環状突起が流路F11a〜F14a,F21a〜F24aの下部方向から圧入されて各流路に嵌合する。流路F11a〜F14a,F21a〜F24a側は弾性率が小さいため、ノズルn1〜n8の環状突起は流路内壁に食い込み、ノズルn1〜n8の抜けを確実に防止でき、接着剤等を用いずとも漏れのない接合となる。
【0039】
(流路プレートとポンプ部との接合)
図4,5に示すように、流路プレート4のポンプ部5側端部には、径の広い流路端部11〜18が形成されている。図8に示すように、この流路端部11〜18には、供給ポンプP1,P3及び排出ポンプP2,P4の吸引用のノズルn11,n15,n13,n17及び吐出用のノズルn12,n16,n14,n18が圧入されて嵌合する。ノズルn11〜n18及びポンプ部5は、ノズルn1〜n8と同様に、流路プレート4に比して弾性率が大きいプラスチック材料で形成されている。ポンプ部5がプラスチック材料で形成されているのでは、ある程度の剛性がなければ、ポンプ機能を発揮しないからである。ノズルn11〜n18の環状突起は流路内壁に食い込み、ノズルn11〜n18の抜けを確実に防止でき、接着剤等を用いずとも漏れのない接合となる。
【0040】
(ノズルの配置)
なお、培養皿52,53側に形成されるノズルn6,n8は、図10に示すように、メニスカスリングR1内に配置されることが好ましい。このような配置にすると、培養皿52,53を傾ける機構を設けなくても、表面張力によって培養液を排出側周囲に集めることができ、培養皿52,53内の培養液を全て取り除くことができる。
【0041】
また、ノズルn1〜n8は、流路プレート4に対して垂直下方に延びているため、例えば、図10に示したセンターウェル61を有した培養皿53aを用いることができる。この培養皿53aは、センターウェル61内で細胞培養を行うことによって、培養液の交換作業を行っても細胞60が押し流されない。この場合、ノズルn1〜n8は、センターウェル61外に配置される。
【0042】
さらに、図11に示した培養皿53bを用いることができる。培養皿53bは、密閉式の培養皿であり、細胞60の中心部分にガラス製の蓋62を設けて培養液及び細胞60を密閉している。この際、ノズルn1〜n8は、内周縁に設けた密閉部材に嵌入される。なお、図12に示すように、中央部分が開放される培養皿53cを用いることもできる。
【0043】
(流路一体プレートの1段構成)
なお、上述した実施の形態では、流路プレート4内に2段の流路群を形成するとともに、供給ポンプ及び排出ポンプの対を2段とする構成としていたが、それぞれ1段構成としてもよい。例えば、上段の供給ポンプP1及び排出ポンプP2を用いる場合には、下段の流路を形成しないので、流路下部プレート4cが削除された構成となる。この場合、培養皿52は用いられない。
【0044】
(流路プレートに対するセンサの配置)
流路プレート4にセンサ機能を持たせるためには、金属とプラスチックまたは樹脂との接合が必要であるが、上述した分子接合技術を用いると接着剤を用いなくても、プラスチックまたは樹脂に金属を直接接合したり、金属めっき等を直接接続することができる。この分子接合技術を用いて流路プレート4に金属を接合することにより、生体適合性を十分確保したまま、十分な接合強度を得ることができる。なお、金属は、金や白金などの生理的不活性金属であることが好ましい。そして、このような金属を用いて流路プレート4にパターニングしたセンサを得ることができる。
【0045】
例えば、電極の通電による水位検出センサ、コールター原理による細胞の吸込みによる粒度測定センサ、サーマル式マスフローメーターによる流量測定センサなどを流路プレート4に配置することができる。具体的に、上述した粒度測定センサは、図13に示すように、細径(アパチャー)102が形成されたアパチャーチューブ101の内外に電極103,104を設けて電流を流し、この電気系の電流抵抗を計測する。粒子105がアパチャー102を通過すると、電気抵抗が増加することを利用して粒度測定などを行う。この際、金属である電極103,104及びリード線を流路プレート4にパターニングする。また、図14に示す流量測定センサでは、流路Fの2箇所に感温抵抗線202,203を巻き、感温抵抗線202,203間に加熱専用ヒータ201を設ける。加熱専用ヒータ201で加熱すると、流路F内の流体が流れている場合、熱の移動により、上流側は下流側に比べて温度が低下する。この温度差は流量に対応するものであり、この温度差を計測することによって流量を計測することができる。ここで、感温抵抗線202,203及び加熱専用ヒータ201のリード線は金属であり、この金属を流路プレート4にパターニングする。
【0046】
(細胞培養装置の大きさ)
なお、流路一体プレート3は、例えば直径35mmの容器を縦横に2個ずつの配置を可能にする形状とすることができ、駆動源6を含めて、ANSI(American National Standards Institute)/SBS(the Society for Biomolecular Screening)規格サイズ以下とすることができる。このため、例えば、生きたままの細胞を観察するライブイメージャー等に搭載が可能となる。
【0047】
また、上述した実施の形態では、供給及び排出される培養液の流量は極めて少なくしている。このため、細胞面積の大きな細胞を培養する場合であっても、培養液の消費量を低減することができる。また、近年の再生医療等で求められる細胞が得られるまでの培養期間が1か月程度の長期間であっても、大量の培養液を消費することはなく、細胞培養のコスト低下を図ることができる。
【0048】
なお、上述した流路一体プレート3は、流路一体プレート4がシリコンゴムで形成され、ポンプ部5及びノズルn1〜n8,n11〜n18がプラスチックで形成されているため、焼却破棄が可能なデュスポーザブル品となる。
【0049】
ところで、上述した培養液は、液体培地である。液体培地には、合成培地と天然培地とがある。合成培地は、天然培地と異なり、生理的塩類溶液(塩類溶液)に糖類やビタミン類などの化学物質を混ぜ合わせたものである。そして、天然培地は、特定の哺乳動物、爬虫類、魚類、昆虫、直物などの組織や細胞に、それぞれ、浸透圧、pH、イオン組成などが至適な塩類溶液の組成であることが要求される。この塩類溶液の組成が最適化された塩類溶液を見い出すために、本実施の形態の細胞培養装置を用いることができる。すなわち、栄養素を含まない塩類溶液を細胞培養装置に供給及び排出して、細胞培養装置内の細胞の生存状態を観察することによって、最適な塩類溶液の組成を見い出すことができる。この場合、本実施の形態の細胞培養装置では、細胞からの老廃物を連続的で長期に排除することができ、かつ、細胞の生存に関するストレスや傷害という他の要因を排除することができるので、最適な塩類溶液の組成を決定することができる。なお、最適な合成培地を見い出す場合、さらに各種栄養素の組成を変えて細胞の生存状態を観察すればよい。
【0050】
すなわち、本実施の形態の細胞培養装置では、培養細胞の増殖のために必要な栄養素を含む培養液や、培養細胞の短期間の生命維持に必要な、栄養素を含まない塩類溶液などの液体を培養皿内に供給し、かつ、排出するものである。
【0051】
上述した実施の形態では、流路プレート4の流路が分子接合技術の接合によって形成されているので、継時的な変化が少なく、温度や湿度により溶剤が揮発することもないので、細胞に与える影響がほとんどない。また、ポンプ部5と流路プレート4とが一体となっているので、チューブなどの接続が不要となり、小型化を促進することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 細胞培養装置
2 ベースプレート
3 流路一体プレート
4 流路プレート
4a 流路上部プレート
4b 流路中部プレート
4c 流路下部プレート
5 ポンプ部
6 駆動源
11〜18 流路端部
21〜24 上部位置決め部
31〜34 底部位置決め部
41〜44 蓋位置決め部
51 リザーバ容器
52,53,53a〜53c 培養皿
54 廃液容器
60 細胞
61 センターウェル
62 蓋
101 アパチャーチューブ
102 アパチャー
103,104 電極
105 粒子
201 加熱専用ヒータ
202,203 感温抵抗線
F,F11〜F14,F11a〜F14a,F21〜F24,F21a〜F24a 流路
h1〜h4,h11〜h14 穴
n1〜n8,n11〜n18 ノズル
P1,P3 供給ポンプ
P2,P4 排出ポンプ
R1 メニスカスリング
S1,S2 接合面
S11,S21 下面
S12,S22 上面
【要約】
【課題】細胞機能に影響を与えず、装置強度を維持しつつ培養液の漏れをなくすことができる細胞培養装置を提供すること。
【解決手段】リザーバ容器側の培養液を培養皿側に供給する供給ポンプと、培養皿側の培養液を廃液容器側に排出する排出ポンプと、リザーバ容器と供給ポンプとの間、供給ポンプと培養皿との間、培養皿と排出ポンプとの間、排出ポンプと廃液容器との間の各流路F11〜F14,F21〜F24は、各流路を形成する流路溝がそれぞれ対向面に形成された弾性部材からなる流路上部プレート4a、流路中部プレート4b、及び流路下部プレート4cを分子結合技術による化学接合によって形成された流路プレートと、が一体化された流路一体プレートを設けている。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14