(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記大動脈モデルの血管壁の屈折率と略同じ屈折率の液体が内部に注入され、液体中に前記大動脈モデルが没するように内部に前記大動脈モデルが設置される水槽、を備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
前記大動脈モデルは、患者のCTスキャンデータをコンピュータを使って解析することにより特定される患者の大動脈の血管内腔の形状を3Dプリンタを使って再現した血管内腔模型を型にして製作された血管モデルである、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシミュレーションシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ステントグラフト内挿術を行う場合、医師は、患者の検査データに基づいて、大動脈に設置するステントグラフトの種類、サイズ、数などを予め選択しておく必要がある。術後のトラブルを可能な限り減少させるため、医師は、これらの選択が正しいかどうかを、術前に、入念にシミュレーションして確認しておくことが望ましい。しかしながら、現状では、それらの選択が正しいかどうかを高い精度でシミュレーションする手段がない。
【0007】
また、ステントグラフト内挿術を行うにあたっては、医師には、多くの経験に基づく極めて高度な手技が要求される。近年では、チムニーテクニックや分枝付ステントグラフト内挿術などの複雑な手技も開発されてきており、医師に求められる手技はますます高まっている。医師が術前に繰り返し高精度なシミュレーションができればよいが、現状では、高精度なシミュレーションができていない。
【0008】
また、近年では、分枝付のステントグラフト等、新たなステントグラフトが開発されている。新たなステントグラフトの開発にあたって、開発者は開発したステントグラフトの性能や品質をシュミレーションして評価する必要がある。しかしながら、開発段階のものを実際に人体に設置するわけにはいかないので、現状では、開発者は開発したステントグラフトの高精度な評価ができていない。
【0009】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、ステントグラフトの高精度な設置シミュレーションが可能なシミュレーションシステム、及びステントグラフトの設置シミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係るシミュレーションシステムは、
ステントグラフトの設置シミュレーションのためのシミュレーションシステムであって、
大動脈瘤もしくは大動脈解離が発生した患者の大動脈を模した大動脈モデルと、
前記大動脈モデルの血管内腔に向けて拍動しながら液体を吐出する拍動流ポンプと、を備え、
前記大動脈モデルの血管壁は、透光性のある軟性素材の膜から構成され、骨格を有しておらず、前記拍動流ポンプが発生させた拍動流により収縮および弛緩する、
ことを特徴とするシミュレーションシステム。
【0011】
前記拍動流ポンプの動作を制御する制御手段、を備え、
前記制御手段は、外部からの指示に基づいて、前記拍動流ポンプの拍動周期および前記拍動流ポンプの液体吐出量の少なくとも1つを変更してもよい。
【0012】
前記大動脈モデルの血管壁の屈折率と略同じ屈折率の液体が内部に注入され、液体中に前記大動脈モデルが没するように内部に前記大動脈モデルが設置される水槽、を備えていてもよい。
【0013】
一方の平面が液体中に没し、他方の平面が空気に接するように前記水槽の水面に水平配置される透明板、を備え、
前記大動脈モデルは前記水槽の中に仰向け状態で配置され、
前記透明板は、前記大動脈モデルの上部の水面に配置されていてもよい。
【0014】
前記大動脈モデルを貫く平行光を射出するシートレーザーと、
前記大動脈モデルの前記平行光が貫いた部分を撮像するカメラと、を備えていてもよい。
【0015】
前記大動脈モデルを水平に貫く平行光を射出するシートレーザーと、
前記大動脈モデルの前記平行光が貫いた部分を、前記透明板を介して、前記大動脈モデルの上部から撮像するカメラと、
前記カメラが撮像した画像を表示するモニターと、を備えていてもよい。
【0016】
前記大動脈モデルの血管内腔に流れる液体の流速または圧力を計測する計測手段、を備えていてもよい。
【0017】
前記大動脈モデルは、弓部三分枝動脈に相当する弓部三分枝動脈部を有し、
前記計測手段は、前記弓部三分枝動脈部に流れる液体の流速および圧力の少なくとも1つを計測してもよい。
【0018】
前記大動脈モデルと前記拍動流ポンプとに直接的或いは間接的に接続され、前記大動脈モデルの血管内腔から流出する液体を前記拍動流ポンプに戻す管状体、を備え、
前記管状体の少なくとも一部は、着脱可能な軟性素材のチューブから構成されていてもよい。
【0019】
前記大動脈モデルは、患者のCTスキャンデータをコンピュータを使って解析することにより特定される患者の大動脈の血管内腔の形状を3Dプリンタを使って再現した血管内腔模型を型にして製作された血管モデルであってもよい。
【0020】
前記大動脈モデルと前記拍動流ポンプとに直接的或いは間接的に接続され、前記拍動流ポンプの前負荷及び後負荷を調整可能な模擬循環回路、を備えていてもよい。
【0021】
本発明の第2の観点に係るステントグラフトの設置シミュレーション方法は、
ステントグラフト評価実験のための、若しくはステントグラフト内挿術習得訓練のためのステントグラフトの設置シミュレーション方法であって、
大動脈瘤もしくは大動脈解離が発生した患者の大動脈を模した大動脈モデルであって、その血管壁が、透光性のある軟性素材の膜から構成され、骨格を有しておらず、拍動流により収縮および弛緩する大動脈モデルの血管内腔に拍動流ポンプを使って液体を送り込むことによって、前記大動脈モデルの血管内腔に拍動流を発生させる液体送出ステップと、
前記大動脈モデルの大動脈瘤形成箇所もしくは大動脈解離形成箇所にステントグラフトを設置するステントグラフト設置ステップと、
前記ステントグラフトが設置された前記大動脈モデルの血管内腔に流れる液体の流速または圧力を計測する計測ステップと、を有する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ステントグラフトの高精度な設置シミュレーションが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
本発明の実施の形態に係るシミュレーションシステム100は、大動脈瘤もしくは大動脈解離の治療に使用するステントグラフトの設置シミュレーションのための装置である。シミュレーションシステム100は、
図1に示すように、大動脈モデル110と、拍動流ポンプ120と、模擬循環回路130と、制御装置140と、管状体151〜158と、計測装置161〜163と、水槽170と、透明板180とから構成される。
【0026】
大動脈モデル110は、大動脈瘤もしくは大動脈解離が発生した患者の大動脈を再現した血管モデルである。大動脈モデル110は、胸部大動脈を模した血管モデルであってもよいし、腹部大動脈を模した血管モデルであってもよい。また、胸部大動脈と腹部大動脈の両方を含んだ血管モデルであってもよい。以下の説明では、一例として、大動脈モデル110は、胸部大動脈を模した血管モデルであるものとして説明する。
【0027】
大動脈モデル110は、例えば
図2に示すように、上行大動脈に相当する上行大動脈部111と、弓部大動脈に相当する弓部大動脈部112と、下行大動脈に相当する下行大動脈部113と、弓部三分枝動脈に相当する弓部三分枝動脈部114とから構成される。なお、以下の説明では、理解を容易にするため、大動脈モデル110の大動脈瘤もしくは大動脈解離が形成された箇所を「患部」と呼ぶ。
【0028】
大動脈モデル110の血管壁は、例えば
図3に示すように、透光性のある軟性素材の膜、例えば、透明若しくは半透明のシリコーン(silicone)の膜から構成される。大動脈モデル110は、硬質素材の骨格を有していないため、実際の大動脈と同様に、拍動流ポンプ120が生み出す拍動流により収縮および弛緩が可能である。なお、「透光」には、「材質を通して向こう側の形状等を明確に認識できない、又はまったく認識できない状態」のみならず、「物質を通してその向こう側が透けて見える状態(すなわち、透明)」も含まれる。
【0029】
大動脈モデル110は、患者の大動脈の血管内腔の形状を模した血管内腔模型(例えば、石膏模型)を型にして製作される。より具体的には、大動脈モデル110は、石膏模型の周りに、シリコーンを塗布して固めることにより製作される。このとき、石膏模型を中空にしておけば、シリコーンが固まった後、石膏模型を打ち砕くだけで、完成した大動脈モデル110を切り開くことなく、大動脈モデル110と石膏模型とを分離できる。なお、血管内腔模型は、患者のCTスキャンデータをコンピュータ解析して特定した患者の大動脈の血管内腔の形状を、3Dプリンタを使って再現することにより製作される。
【0030】
図1に戻り、拍動流ポンプ120は、拍動しながら大動脈モデル110の血管内腔に向けて擬似血液を吐出する拍動流ポンプ、例えば、補助人工心臓である。擬似血液は、血液の代替となる液体、例えば、生理食塩水である。拍動流ポンプ120は、擬似血液を吐出する吐出口121と、擬似血液を吸入する吸入口122とを備えている。
【0031】
吐出口121は、管状体151および管状体152を介して上行大動脈部111の上流にある開口(
図1に示す(a))に接続されている。また、吸入口122は、管状体158を介して模擬循環回路130の擬似血液の排出口に接続されている。拍動流ポンプ120は、制御装置140の制御に従って、拍動しながら上行大動脈部111に向けて擬似血液を吐出する。また、拍動流ポンプ120は、下行大動脈部113や弓部三分枝動脈部114から排出され、模擬循環回路130を経由して戻ってきた擬似血液を吸入する。
【0032】
模擬循環回路130は、拍動流ポンプ120の前負荷及び後負荷を調整するためのモックサーキットである。模擬循環回路130は、例えば
図4に示すようなオーバーフロー型のモックサーキットから構成される。模擬循環回路130は、擬似血液を吸入する吸入口と、擬似血液を排出する排出口とを備えている。模擬循環回路130の吸入口は、
図1に示すように、管状体153〜155を介して下行大動脈部113の下流にある開口(
図1に示す(b))に接続されている。さらに、模擬循環回路130の吸入口は、管状体155〜157を介して弓部三分枝動脈部114の下流にある3つの開口(
図1に示す(c))に接続されている。なお、模擬循環回路130は、オーバーフロー型のモックサーキットに限定されず、既知の様々なモックサーキットを使用可能である。
【0033】
制御装置140は、拍動流ポンプ120の動作を制御する制御手段として機能する装置である。制御装置140は、プロセッサ等の処理装置や、拍動周期調節ダイヤル等のユーザインタフェースから構成される。制御装置140は、ユーザインタフェースを介して受け取ったユーザの指示に従って、拍動流ポンプ120の拍動周期や液体吐出量(例えば、1回の拍動で吐出される擬似血液の量、若しくは所定時間内に吐出される擬似血液の量)を変更する。
【0034】
管状体151〜158は、大動脈モデル110と拍動流ポンプ120とを接続する管状体である。管状体151と152は、拍動流ポンプ120の吐出口121と上行大動脈部111とを接続している。また、管状体153〜155は、模擬循環回路130の吸入口と下行大動脈部113とを接続している。さらに、管状体155〜157は、模擬循環回路130の吸入口と弓部三分枝動脈部114とを接続している。また、管状体158は模擬循環回路130の排出口と拍動流ポンプ120の吸入口122とを接続している。
【0035】
管状体154は、医師が設置シミュレーションを実行する際に、ステントグラフトの挿入部として使用される部分である。管状体154は、ステントグラフトの挿入手技を訓練できるように、メス等の医療器具により切開可能な軟性素材のチューブ(例えばシリコーンチューブ)から構成されている。なお、管状体154は、ステントグラフトの挿入手技を医師が繰り返し訓練できるように、管状体153および管状体155から取り外して交換可能である。
【0036】
管状体157は、医師がステントグラフトの設置シミュレーションを実行する際に、造影用カテーテルの挿入部として使用される部分である。管状体157は、カテーテルを挿入できるように、メス等の医療器具により切開可能な軟性素材のチューブ(例えばシリコーンチューブ)から構成されている。なお、管状体157は、医師が、ステントグラフトの設置シミュレーションを繰り返し訓練できるように、管状体155および管状体156から取り外して交換可能である。
【0037】
計測装置161〜163は、大動脈モデル110の血管内腔に流れる擬似血液の流速または圧力を計測する計測手段として機能する装置である。計測装置161〜163は、例えば、血圧計や流速計から構成される。計測装置161は管状体151に設置されており、上行大動脈部111に流れ込む擬似血液の血圧および流速を計測する。また、計測装置162及び計測装置163は、それぞれ管状体155に設置されている。計測装置162は下行大動脈部113から流出する擬似血液の血圧および流速を計測し、計測装置163は弓部三分枝動脈部114から流出する擬似血液の血圧および流速を計測する。医師は、患部にステントグラフトを設置した後、計測装置161〜163の計測値に基づいて、ステントグラフトが正常に設置されているか否かを確認する。
【0038】
水槽170は、上部が開口した直方体状の水槽である。大動脈モデル110は、水槽170の中に、
図5に示すように、人が手術台に仰向けに寝たときの大動脈の状態(以下、「仰向け状態」という。)となるよう設置される。水槽170の中には液体が注入されている。大動脈モデル110は、この液体の中に没するよう設置される。
【0039】
水槽170の中に注入される液体は、例えば、ヨウ化ナトリウム溶液である。液体の屈折率は、大動脈モデル110の血管壁の屈折率と略同じになるよう調整されている。液体の屈折率は、例えば、液体に溶かすヨウ化ナトリウムの量を調節することにより調整される。液体と大動脈モデル110の屈折率を一致させることにより、大動脈モデル110の外表面で光が屈折しなくなり、大動脈モデル110の内腔が外部から視認容易になる。
【0040】
透明板180は、水面の波により、大動脈モデル110が上部から視認困難になるのを防ぐ波消し板である。透明板180は、
図6に示すように、一方の平面が液体中に没し、他方の平面が水面上部の空気に接するように、大動脈モデル110の上部の水面に水平配置される。
【0041】
次に、シミュレーションシステム100を使ったステントグラフトの設置シミュレーションについて説明する。ステントグラフトの設置シミュレーションは、「ステントグラフトの内挿訓練(内挿実験)」と、「エンドリークの発生の有無の確認」の2つである。なお、エンドリークとは、ステントグラフトの設置後も血液が瘤または偽腔の中に流れ込んでいる状態のことである。エンドリークが発生していると、瘤や偽腔は縮小せず、最悪の場合、瘤や偽腔が拡大して破裂する。
【0042】
最初に、ステントグラフトの内挿訓練(内挿実験)ついて説明する。
【0043】
まず、医師は、水槽170の側面と上部に、
図7(A)に示すように、シートレーザー210とカメラ220を設置する。シートレーザー210は平行光を発生させる装置であり、
図7(B)に示すように、平行光が大動脈モデル110を水平に貫くように設置される。平行光が大動脈モデル110を水平に貫いた状態で、上部からカメラ220で大動脈モデル110を撮影すると、あたかもレントゲン画像のような画像(例えば、
図8に示すような画像。以下、「断面画像」という。)が撮影される。カメラ220は
図7(A)に示すモニター230と接続されている。医師はこの断面画像をモニター230で確認可能である。
【0044】
次に、医師は、
図1に示す管状体157から、造影用カテーテルを挿入する。医師は、この造影用カテーテルを、実際の手術と同様に、弓部三分枝動脈部114から弓部大動脈部112に挿入する。そして、医師は、ステントグラフトの設置シミュレーションを実施中、造影用カテーテルから、適宜、造影剤に見立てた色素(例えば、コンデンスミルク)を注入する。
【0045】
実際の手術では、ステントグラフトは大腿動脈又は腸骨動脈から挿入される。医師は、
図1に示す管状体154を患者の大腿動脈又は腸骨動脈と見立てて、管状体154に不図示の挿入シース(ステントグラフトの入口となる管)を設置する。このとき、医師は、実際の手術と同様に、挿入シースの回りをタバコ嚢縫合(巾着袋縫合)して挿入シースの回りから擬似血液が流出しないようにする。
【0046】
その後、医師は、挿入シースを介して不図示のガイドワイヤーを大動脈モデル110の血管内腔へ挿入していく。このとき、医師は、ガイドワイヤーの先端が患部に到達するまでガイドワイヤーを挿入する。ガイドワイヤーが患部まで到達したら、医師は、ガイドワイヤーに沿って患部まで不図示のシースカテーテルを挿入する。なお、医師は、実際の手術と同様に、モニター230に映された断面画像を見ながらガイドワイヤーの挿入やシースカテーテルの挿入を行う。
【0047】
シースカテーテルの先端には不図示のステントグラフトが小さく圧縮された状態で収納されている。医師は、シースカテーテルの先端が患部まで到達したところで、シースカテーテルの先端に収納されたステントグラフトを拡張し、ステントグラフトを患部に留置する。
【0048】
なお、ステントグラフトを留置しただけでは、ステントグラフトが十分に患部に圧着しないことがある。このとき、実際の手術では、医師はバルーンを使ってステントグラフトの圧着(以下、「タッチアップ」という。)を実行する。本実施の形態のシミュレーションシステム100は、大動脈モデル110が骨格のない軟性素材の膜から構成されているので、医師はタッチアップを試みることが可能である。
【0049】
なお、実際の手術では、血流を一時的に抑えるため、ラピッドペーシングと呼ばれる処置が行われることがある。医師は、制御装置140を操作して拍動流ポンプ120の拍動周期や液体吐出量を適宜変更することで、内挿訓練中、適宜、ラピッドペーシングが行われた大動脈の状態と同じ状態を再現する。
【0050】
ステントグラフトの患部への圧着を確認したら、医師は、ガイドワイヤーやカテーテル等をシミュレーションシステム100から抜き取って、ステントグラフトの内挿訓練を終了する。
【0051】
次に、エンドリークの発生有無の確認について説明する。
【0052】
医師は、ステントグラフトの内挿訓練の後、患部にエンドリークが発生していないかを確認する。具体的には、医師は、大動脈モデル110の血管内腔の擬似血液の流れを可視化することにより、患部にエンドリークが発生していないかを確認する。流れの可視化は以下の方法により行う。
【0053】
まず、医師は、
図1に示す管状体157から、ステントグラフトの上流まで造影用カテーテルを挿入する。上述の内挿訓練ですでに造影用カテーテルが挿入されている場合は、そのまま、その造影用カテーテルを使用してもよい。
【0054】
図9は、大動脈解離が形成された大動脈モデル110の患部にステントグラフトを設置し、その後、上述の方法を使用して大動脈モデル110を撮影した断面画像である。医師は、この大動脈モデル110のステントグラフトの上流に造影用カテーテルで色素を注入することで、大動脈モデル110の血管内腔に流れる擬似血液の流れを可視化する。医師は、真腔から偽腔に色素が流れ込んでいないかを確認することで、患部にエンドリークが発生していないかを判断する。
【0055】
なお、エンドリークが発生していると判断した場合、医師は、タッチアップを追加してもよい。また、医師は、ステントグラフトの種類、大きさ、数、設置場所等のステントグラフトの設置条件を適宜変更しながら、ステントグラフトの内挿訓練を繰り返してもよい。エンドリークが発生しなくなったら、エンドリークが発生しないステントグラフトの設置条件を記録し、ステントグラフトの設置シミュレーションを終了する。
【0056】
本実施の形態によれば、大動脈モデル110が軟性素材の血管壁から構成されているので、医師は実際の患者の大動脈に近い状態でステントグラフトの設置シミュレーションができる。しかも、大動脈モデル110は3Dプリンタを使って患者の大動脈を忠実に再現したものであるので、医師は実際の患者の大動脈に極めて近い状態で高精度な設置シミュレーションができる。
【0057】
また、大動脈モデル110は軟性素材から構成されているので、拍動流ポンプ120の拍動に伴い、収縮および弛緩する。そのため、大動脈モデル110の内部の擬似血液の圧力波形は、
図10に示すように、実際の大動脈内部の血液の圧力波形と略同じ波形となる。すなわち、大動脈モデル110は拍動流ポンプ120が生成した拍動流により実際の患者の大動脈と同じように拍動するので、医師は実際の手術の状態に近い状態で高精度な設置シミュレーションができる。
【0058】
しかも、大動脈モデル110の血管壁は透光性素材から構成されているので、平行光を照射することで断面画像を撮像できる。医師は、実際の手術と同様に、断面画像が映されたモニター230を見ながらステントグラフトの設置訓練ができる。
【0059】
また、大動脈モデル110の血管壁は透光性素材から構成されているので、大動脈モデル110の血管内腔は外部から視認できる。医師は、ステントグラフトを設置した後、外部からステントグラフトの設置状態を視認できるので、訓練の結果を容易に、しかも詳細に確認できる。
【0060】
大動脈モデルにステントグラフトを設置する場合、医師がどのようにうまくステントグラフトを設置したとしても、ステントグラフトと血管壁との間に僅かに隙間ができることがある。実際の手術では、医師はタッチアップを実行してステントグラフトを患部に圧着するが、アクリル樹脂等の硬質素材の骨格を有する大動脈モデルを使用した場合、大動脈モデルの血管壁が変形しないので、医師はタッチアップを試みることができない。その結果、ステントグラフトの選択が正しかったとしても、患部にはエンドリークが発生することになるので、医師は選択したステントグラフトを使って手術が問題なく実施できるか否かを術前に精度よく判断できない。しかしながら、本実施の形態の大動脈モデル110は、軟性素材の血管壁から構成され、実際の血管壁と同様に血管壁が柔軟に変形するので、医師はタッチアップを試みることができる。ステントグラフトを正しく選択し、医師が正常にステントグラフトを設置した場合、ステントグラフトは患部にぴったり圧着し、エンドリークは発生しない。すなわち、本実施の形態のシミュレーションシステム100を使用すれば、医師は、選択したステントグラフトを使って問題なく手術を実施できるか否かを術前に精度よく判断できる。
【0061】
また、大動脈モデル110の外表面が空気と直接接していると、大動脈モデル110の外表面で光が屈折する。そのため、大動脈モデル110の血管内腔は、あたかも水を入れた試験管の内部を外部から見たときのような状態となり、視認困難である。しかし、大動脈モデル110は屈折率が同じ液体中に没しているので、大動脈モデル110の外表面で光が屈折することがない。その結果、大動脈モデル110の血管内腔は外部から視認容易になる。
【0062】
実際の手術では患者は手術台に仰向けに寝ている。医師が実際の手術と同じ条件で内挿訓練を行おうとしたら、大動脈モデル110は仰向け状態に設置される必要がある。実際の手術では、医師は患者の上部から撮像されたレントゲン画像を見ながらガイドワイヤーやカテーテルを挿入するが、この場合、実際の手術と同じように大動脈モデル110を上部から撮像すると、撮像された画像は水面に発生した波に妨害されて乱れたものになる。しかし、本実施の形態のシミュレーションシステム100は、水面に透明板180が設置されているので、波により画像が乱れることはない。しかも、水面が波立たないので、ステントグラフト設置後に、医師が上部からステントグラフトの設置状態を視認することも容易である。
【0063】
また、管状体154及び管状体157は、医療器具により切開可能な軟性素材のチューブから構成されている。そのため、医師はステントグラフトの挿入手技や造影用カテーテルの挿入手技を容易に訓練できる。しかも、管状体154及び管状体157は着脱可能であるので、管状体154及び管状体157を取り替えることで、医師は、ステントグラフトの挿入手技等を繰り返し訓練できる。
【0064】
また、シミュレーションシステム100は計測装置161〜163を備えているので、医師は大動脈モデル110の血流の状態を容易に確認できる。特に、ステントグラフトが弓部三分枝動脈を塞いでしまった場合、患者に重大な結果をもたらすので、弓部三分枝動脈の血流の確認は極めて重要である。本実施の形態のシミュレーションシステム100は計測装置163で弓部三分枝動脈部114の血流を確認できるので、ステントグラフトが弓部三分枝動脈を塞いでいないかを容易に確認できる。
【0065】
なお、上述の実施の形態は一例であり、種々の変更及び応用が可能である。
【0066】
例えば、上述の実施の形態では弓部三分枝動脈部114の3本の血管に1つの計測装置163が設置されていたが、弓部三分枝動脈部114の3本の血管それぞれに計測装置163が取り付けられてもよい。より高精度な計測結果の取得が可能になる。
【0067】
また、大動脈モデル110は1枚の膜から構成されていてもよいし、実際の大動脈と同様に複数の膜から構成されていてもよい。例えば、大動脈モデル110は、内膜、中膜、外膜に見立てた3枚の膜を貼り付けることにより製作されてもよい。実際の大動脈に近い状態で設置シミュレーションができるので、より高精度な設置シミュレーションができる。
【0068】
また、上述の実施の形態では、大動脈モデル110を製造するための血管内腔模型は石膏模型であるものとして説明したが、血管内腔模型は石膏模型に限られない。内部に空気を入れることにより血管内腔の形状に膨らむ風船状の模型であってもよい。大動脈モデル110を製造した後、空気を抜いて模型を収縮させることにより、大動脈モデル110と血管内腔模型とを容易に分離できる。しかも、模型に再び空気を入れて膨らませることにより、再び血管内腔模型として利用できる。
【0069】
また、上述の実施の形態では、擬似血液は生理食塩水であるものとして説明したが、擬似血液は生理食塩水に限定されない。擬似血液は生理食塩水以外の溶液であってもよいし、単に水であってもよい。
【0070】
また、エンドリークの発生の有無の確認の際に注入する色素はコンデンスミルクに限られない。色素は、例えば、インク、ミルク、フルオレセイン、ローダミン、メチレンブルー、フクシン等、他の色素であってもよい。
【0071】
また、エンドリークの発生の有無の確認方法は医師の視認による方法に限られない。例えば、医師は、色素の流出に伴う大動脈モデル110の輝度の変化に基づいてエンドリークの発生の有無を確認してもよい。より具体的には、医師は、大動脈モデル110に平行光を当てた後、真腔と偽腔にそれぞれ色素を注入し、上部から大動脈モデル110をカメラ220で撮影する。医師は撮影した画像に基づいて、例えば
図10に示すように、時間の経過に伴う真腔と偽腔の輝度の変化を測定する。そして、医師は測定した輝度変化に基づいて擬似血液の流量(例えば、1分間に真腔もしくは偽腔を通過した擬似血液の量)を算出する。医師は、算出した擬似血液の流量に基づいて患部にエンドリークが発生していないか判別する。例えば、医師は、1分間に偽腔を通過した擬似血液の量が所定の閾値以上の場合、患部にエンドリークが発生していると判断する。医師の主観によらず、客観的にエンドリークの発生の有無を判断できる。なお、
図11は、色素を注入した直後の真腔または偽腔の輝度をIo、色素を注入してから時間tが経過したときの真腔または偽腔の輝度をItとして作成した対数輝度変化曲線である。医師は、対数輝度変化曲線の近似曲線を求め、求めた近似曲線に所定の定数を乗じることにより擬似血液の流量を算出する。
【0072】
なお、上述の実施の形態では、シミュレーションシステム100にシートレーザー210やカメラ220が含まれていないものとして説明したが、シミュレーションシステム100にはシートレーザー210やカメラ220が含まれていてもよい。シミュレーションシステム100がシートレーザー210とカメラ220を備えることにより、レントゲン装置等の高価な医療機器を使用することなく、レントゲン画像に似た断面画像を容易に得ることができる。しかも、水槽170の水面には透明板180が設置されているので、波で画像が乱れることがない。
【0073】
また、シミュレーションシステム100には、シートレーザー210とカメラ220に加えてモニター230が含まれていてもよい。実際の手術の状態に近い状態での設置シミュレーションが可能になる。
【0074】
また、上述の実施の形態では、シートレーザー210は、平行光が大動脈モデル110を水平に貫くよう平行光を射出したが、平行光の射出角度は水平に限定されない。例えば、シートレーザー210は、平行光が大動脈モデル110を鉛直に貫くように平行光を射出してもよい。平行光の射出角度は任意である。この場合、カメラ220の平行光に対する撮影角度も任意である。例えば、大動脈モデル110を輪切りにした断面画像を撮像することで、ステントグラフトの設置状態をより詳細に把握できる。
【0075】
また、上述の実施の形態では、大動脈モデル110は大動脈解離が形成された大動脈モデルであるものとして説明したが、大動脈モデル110は大動脈瘤が形成された大動脈モデルであってもよい。
【0076】
また、上述の実施の形態では、大動脈モデル110は胸部大動脈を模した血管モデルであるものとして説明したが、大動脈モデル110は、
図12に示すように、腹部大動脈を模した血管モデルであってもよい。また、胸部大動脈から腹部大動脈の両方を含んだ血管モデルであってもよい。
【0077】
大動脈モデル110に大動脈解離が形成されている場合、偽腔の上流と下流にはそれぞれエントリーとなる亀裂が形成されていてもよい。そして、医師等は亀裂の大きさを変更することで、偽腔に流れる擬似血液の流量を調節してもよい。
【0078】
また、上述の実施の形態では、シミュレーションシステム100は、ステントグラフトの選択が正しいか否かを医師が術前に確認するために、若しくは、医師が術前にステントグラフト内挿術を訓練するために使用されたが、シミュレーションシステム100の用途はこれらの用途に限定されない。例えば、シミュレーションシステム100は、ステントグラフト評価実験のために使用されてもよいし、ステントグラフト内挿術習得訓練のために使用されてもよい。
【0079】
ここで「ステントグラフト評価実験」とは、ステントグラフトの開発者等が、開発したステントグラフトの性能若しくは品質を評価するために実施する実験のことである。また、「ステントグラフト内挿術習得訓練」とは、医師、医学生等が、ステントグラフト内挿術を習得するために実施する訓練のことである。この場合、医師、医学生、開発者等は、上述した「ステントグラフトの内挿訓練(内挿実験)」及び「エンドリークの発生の有無の確認」と同様の手順でステントグラフトの設置シミュレーションを実行してもよい。
【0080】
なお、「ステントグラフト評価実験」及び「ステントグラフト内挿術習得訓練」のいずれにも、医師が人間の手術、治療、又は診断の一環として行う実験や訓練は含まれない。