【実施例】
【0016】
本発明の実施例を、
図1乃至
図6を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施例に係るプラズマ処理装置を備えた真空処理装置の構成の概略を示す図である。
図1(a)は、真空処理装置の全体の構成を示す上面図であり、
図1(b)は同じく斜視図である。
【0018】
本実施例に係る真空処理装置は、その前後の方向(図上左右方向であって右側が前側に相当する)について大気ブロック101と処理ブロック102に別れている。真空処理装置の前方側であって複数枚の半導体ウエハ等の処理対象の基板状の試料を収納したカセットが搬送される通路に面した大気ブロック101は、その内部で大気圧下でカセットから搬出する或いはカセットに試料を収納する、さらには搬出した試料の位置決めする等の動作を行う部分である。また、真空処理装置の後方側の部分であって大気ブロック101の後方に配置されてこれと連結された処理ブロック102は、大気圧から減圧された圧力下でウエハ等の試料を搬送し、処理等を行なう部分であり、その大気ブロック101と連結された箇所において試料を内部に載置した状態で圧力を上下させる部分を含んでいる。
【0019】
大気ブロック101は、その内部の空間に試料をアーム上に保持して搬送する搬送ロボットを備えた筐体106を有し、この筐体106の前方側には処理用又はクリーニング用の試料の複数枚が内部に収納されているカセットがその上面に接地されるカセット台107複数が筐体106の前面(前方の通路)に沿って並列に配置されている。
【0020】
処理ブロック102は所定の値まで減圧して試料を処理する処理ユニット103−1、103−2、103−3、103−4と、上方から見て多角形状の平面形を有して多角形の辺に相当する側壁とこれらの処理ユニット各々と連結されて、当該処理ユニットに試料を前記の所定の値かこれに近い値まで減圧した圧力下で搬送する搬送室104、さらには搬送室104と大気ブロック101との間にこれらを接続する真空容器であって内部の圧力を大気圧と前記所定の値またはこれに近い値まで減圧可能なロック室105−1、105−2を備えている。この処理ブロック102は、図示しないターボ分子ポンプや粗引きポンプ等の真空ポンプと接続されており減圧されて高い真空度の圧力に維持可能なユニットである。
【0021】
処理ユニット103−1〜103−4内の部品はプロセス条件に合わせた温度に制御されており、本実施例では、試料温度が200〜300℃になるように、図示しない制御ユニットからの指令信号に応じて動作が調節されている。一方、真空搬送室104、大気搬送室106、カセット107は常温かこれと見倣せる程度の範囲の温度にされており、試料は常温の状態で処理ユニット103−1〜103−4に搬入され、この処理ユニットの内部で所望の温度まで加熱された後に、処理が行われる。
【0022】
図2に
図1に示す処理ユニット103における処理容器内部の構成の概略を示す。
図2は、
図1に示す実施例に係るプラズマ処理装置の構成の概略を示す縦断面図である。
【0023】
本実施例において、処理ユニット103は処理容器の内部の円筒形状を有する空間である処理室内の下方に配置された試料台207上に試料Wを載せて保持した状態で内部の空間に形成したプラズマ203を用いて試料Wをエッチング処理するプラズマエッチング処理装置である。本図に示す処理容器は概略として円形状を有する蓋201及び円筒形の外側壁を有する真空容器204により構成されている。蓋201の外周縁部及び真空容器204の円筒形状部の上端とによって挟まれたOリング等のシール部材により封止され外部の大気圧の空間から気密に区画された内部の空間である処理室は、処理容器または真空容器204の下方に配置されてこれと連結されたターボ分子ポンプ等の真空ポンプ206と連結されており、この真空ポンプ206が駆動されることにより、内部の圧力が高い真空度まで低減されて保持される。
【0024】
ここで、ターボ分子ポンプを含む真空ポンプ206は真空容器204内の処理室での処理に適した圧力と比べて所定の値だけ高い圧力の気体は排気できない。そこで、本実施例では、予めバルブ212を開いて粗引きポンプとしてのロータリーポンプ等で構成された真空ポンプ215を用いて、真空容器204内部の空間であってプラズマ203が形成される処理室内を真空ポンプ206が駆動できる圧力まで排気後、バルブ213,214を開き真空ポンプ206及び215の両者を用いて、処理容器206内の処理室を高い真空度まで排気し減圧している。
【0025】
なお、前記真空ポンプ215は大気圧の気体の排気可能であり、前記真空ポンプ206が安全に運転できる圧力になるまで処理室を排気するのに使用している。また、真空ポンプ206はバルブ212または214が閉じられた状態でも回転駆動されていても良い。
【0026】
試料台207の上方の処理室内の空間にプラズマ203を形成し試料Wを処理するために処理室内に供給される処理用ガスは、ガス流量制御器208によって処理室内へのその流量が調節される。本実施例では、処理用ガスは複数種類のガスが混合されたものが用いられ、各々の種類のガスが通流するガスライン上にバルブ209及びガス流量制御器208が配置されてそのガスの流量が処理に適合したものに調節される。
【0027】
これらの複数のガスラインは各々のガス流量制御器208の下流側で接続されて合流しており、合流部において複数種類のガスが所定の比率で混合した組成のガスとして1つのガスラインを通り真空処理用器に供給される。ガスラインは真空処理容器の上部と連結され、処理室の上方でその天井面を構成するガス拡散板202と蓋201との間に配置された所定の高さの空間に導入される。
【0028】
このガス拡散板202の上面(処理室に対しての背面)側の空間でガスは拡散してこの空間に充満した後、ガス拡散板202の中央部に複数配置された貫通孔を経由して処理容器内に導入される。処理用ガスが導入された状態で真空ポンプ206は駆動を並行して行われており、真空計213によって検知された結果に基づいて、図示しない制御ユニットから発信された指令信号に応じて、処理室の底部に配置された排気用の開口と真空ポンプ206の入口との間に配置された軸周りに回転可能な板状のフラップ複数枚を具備するコンダクタンス調整バルブ205の回転動作によって処理室の上下でのガスの供給と排気とのバランスが調節され、処理室内の圧力が処理に適した範囲内の値に維持される。
【0029】
処理室内部に導入された処理用ガスは、マグネトロン等の電界供給手段210から供給される電界とソレノイドコイル212から供給される磁界との相互作用により生起される共鳴現象により、ガスの分子や原子が励起されてプラズマ化される。処理用ガスの分子はイオンと電子に電離、あるいは、ラジカルに解離される。
【0030】
本実施例において処理室は略円筒形状を有しており、真空容器204も円筒形状を備えている。また、ガス分散板203は円形の誘電体製の板部材であり、処理室の円筒形状部分とガス分散板203の円板とはその中心同士が合致するように配置されている。
【0031】
処理室内に配置された試料Wがその上面に載置される試料台207は略円筒形状を備えており、円板形状の試料Wが載せられる試料台207上面の載置面も円形またはこれと見倣せる形状を備えている。載置面は試料台207の上面を覆う誘電体製の膜を有して構成され、処理中に被処理物である試料Wは載置面の誘電体製の膜上面に形成された静電気力によってこれに吸着されて保持される。
【0032】
試料台207の内部には円板形状または円筒形状を有する導電体製の部材から構成された電極が配置され、この電極は高周波バイアス電源211が接続されている。試料Wの処理に際して、試料Wが試料台207上面に保持されプラズマ203が形成された状態で高周波バイアス電源により上記電極に印加される高周波電圧により、プラズマ203の電位に応じて試料Wの上面上方にバイアス電位が形成される。これら両者の電位差により、プラズマ203内のイオン等荷電粒子を試料Wの表面に誘引して衝突させることにより、試料W上面に予め形成されて配置された複数の膜層が積層された膜構造との間で生起する物理反応及び化学反応の相互反応により膜構造の処理対象の膜のエッチング処理が促進される。
【0033】
試料台207上面の誘電体製の膜(誘電体膜)は、当該試料台207の上面に誘電体材料を所定の厚さに溶射して形成されても良く、予め焼結等の製造方法により所定の厚さの円板として形成された部材を試料台207の上面に接着する等の方法により形成されても良い。また、本実施例では、後述の通り誘電体膜の内部に試料Wをその上面に吸着する静電気力を発生するための膜状の電極が複数個配置されている。
【0034】
図3に試料台207の構成をより詳細に示す。
図3は、
図2に示す実施例に係るプラズマ処理装置の試料台の構成を拡大して模式的に示す縦断面図である。
【0035】
本図において、円板形状の試料Wは図のように試料台207の上面に形成される誘電体膜301の上面に載置される。
【0036】
試料台207の内部には、前述の通り、電極となる導電体製の円板形状の部材であるヘッド311が配置されており、誘電体膜301は、断面が凸字形状となるようにヘッド311の中央部に配置された円筒形の凸部の上面を覆って配置されている。ヘッド311内部には多重の同心の円弧状またはら旋状に配置され熱交換流体が内部を通流する冷媒流路305が配置され、冷媒流路305を通り熱交換した冷媒が循環することによりヘッド311の温度が所定の範囲内となるように調節され、ひいては試料台207の温度が制御される。
【0037】
熱交換流体は、試料台207に配置された冷媒流路305の入口及び出口と管路を介して連結されたサーキュレータ308において、冷媒流路305の出口から流出した冷媒が所望の温度、流量に調節された後冷媒流路305の入口に向けて流出して循環している。さらに、本実施例では、誘電体膜301の内部またはヘッド311の上部の内部に複数の膜状のヒータを備え、ヒータが発生する熱により誘電体膜301上面の温度を調節している。
【0038】
本実施例のヘッド311の円形の上面の表面上に配置された誘電体膜301内部には、上方からみて円形を有した中央部のヒータ321、その外側に各々隣接して配置された上方からみてリンク形状を有した中間部のヒータ322、外周部のヒータ323が配置されて、各々が直流電源に連結されて独立した値の電力が供給されている。これらの電力の値は、後述の通りCPU等で構成されたコントローラ309からの指令信号に基づいて調節される。
【0039】
また、試料台207内のヘッド311の上部の温度がヘッド311内に配置された温度センサ304により検知される。温度センサ304から出力された信号は、通信手段を介して試料台207の外部に配置されたコントローラ309で受信され、試料台207の載置面の温度、あるいは、試料Wの温度が検出される。コントローラ309は所謂CPU等マイクロプロセッサ(演算器)、RAM或いはROM等のメモリやハードディスクといった記憶装置、外部との信号をやり取りするためのインターフェース及びこれらの間を連結して信号を伝達する配線等の通信手段を備え、演算器がインターフェースを介して受信した温度センサ304からの信号を用いて、記憶装置から読み出した予め記録されたソフトウェア等のアルゴリズムに基づいてヘッド311或いは試料台207の誘電体膜301上面の温度を検出し、これを所望の温度の値にするための熱交換流体の温度、流量およびヒータ321,322,323へ供給される電力を算出し、インターフェースを通してサーキュレータ308及びヒータ321,322,323各々の電源に指令信号を発信してその設定の温度、加熱量、或いは供給電力量を調節する。
【0040】
なお、ヘッド311の下方には円板形状を有する試料台ベース312が配置され、ヘッド311の円筒形状の凸部の外周側に配置された凹み部に配置され上下方向に延びる複数本のボルト306により両者が締結されている。凹み部の段差のリング状の底面に載せられたリング状のカバー315は、ヘッド311の凸部の円筒形の側壁とともにボルト306、ヘッド311及び試料台ベース312の側壁を覆って配置され、これらの部材の処理室内のプラズマ203との相互作用が低減されている。
【0041】
また、誘電体膜301の内部には静電吸着用の膜状の電極302,303が配置されている。これら電極302,303に電源307,310から供給される直流電圧を印加することで、誘電体膜301を挟んで試料Wに分極を生起して静電気力により試料Wを誘電体膜301上面に吸着(静電吸着)させる。さらに、誘電体膜301の表面には所定の形状の凹みまたは溝が予め形成されており、試料Wをその上面に吸着させた状態で試料Wの裏面と誘電体膜301の間には隙間空間319が形成される。
【0042】
前記隙間空間319にはヘリウムなどの熱伝導ガスが充填され、ヘッド311と試料Wとの間の熱伝達効率を高めている。このヘリウムガスは、前記隙間空間319に充填される圧力が設定値となるようにガス流量制御314によって流量を制御される。また、バルブ316を開くことで前記隙間空間に充填されたヘリウムガスを排気することが出来る。あるいはバルブ320を開くことで隙間空間319と処理室を同等圧力とすることが出来る。すなわち処理室内部を前記排気ポンプ206を用いて高い真空度に排気している状態でバルブ320を開くと、前記隙間空間319も同様に高い真空度まで排気出来る。
【0043】
ここで、試料Wがプラズマ処理室内に搬入されてからプラズマ処理が開始するまでのシーケンスを
図4に示す。
図4は本発明を使用する以前の従来シーケンスを示す。本図では試料W温度を200℃に制御してプラズマ処理を行うものとして、プラズマ処理室に搬入される前の試料Wの温度は常温(例えば25℃)であるとする。
【0044】
本図において、試料台の温度はその処理中に或いは処理の開始に適した温度として200℃を実現すべき設定の温度としてヒータ321,322,323の発熱の量やサーキュレータ308での冷媒の温度が調節されている。このような従来技術において、処理室に搬入された試料Wは試料台に載置された後、試料台の上面に配置された誘電体製の膜の上面上に静電吸着されるとともに試料Wの裏面と試料台の間の隙間空間に熱伝導用のHeガスが導入され、この熱伝達用のガスを媒体として試料Wは試料台と熱交換して加熱される。
【0045】
その後、処理用ガスが処理室内に導入されつつ処理室内の圧力を所望の値の範囲内に制御される。試料Wの温度が処理に適した所望の範囲内であることが検出されると、処理室内に電界または磁界が共有されて処理用ガスを用いてプラズマが形成されて試料Wの処理が開始される。
【0046】
このような処理の動作において、本図の技術では試料Wは試料台に静電吸着された状態で試料台から熱を受けて熱膨張するため、試料Wと誘電体製の試料台の載置面の上面との間で熱膨張の大きさの差に起因して摩擦が生じることになる。このため、試料Wあるいは試料台の上面の載置面が摩擦により損傷あるいは摩耗して微小異物が発生したり、試料台の表面粗さが変化することで試料Wと試料台との間の熱伝達効率が変化し処理性能が経時的に変化したりするという問題が生じていた。
【0047】
本実施例に係るプラズマ処理装置における試料Wの処理の動作の流れを
図5を用いて説明する。
図5は、
図2に示す実施例に係るプラズマ処理装置の時間の変化に伴う動作の流れを示すタイムチャートである。
【0048】
本実施例では、試料Wを試料台207上面の誘電体膜301上に静電吸着させずに加熱することで、試料Wが熱膨張しても試料Wと試料台207上面(誘電体膜301上面)の間で発生する摩耗量が許容限度以下とされることとしている。この試料Wが試料台207に吸着された状態での試料Wの温度変動の許容値は、試料Wの種類、プラズマ処理条件、あるいは、試料台207の材質などによって異なるものとなり、使用者により選択されコントローラ309からの指令信号に応じて調節される。
【0049】
本実施例では、常温(25℃)の試料Wを200℃の設定値に調節された試料台207の上面に載置後、静電吸着せずに試料Wを試料台207(誘電体膜301)の上に予め定められた時間、または試料Wの温度が所定の範囲内の値となることが検出されるまで保持している。その間、試料Wと誘電体膜301上面との間の接触による熱伝達により、試料Wは徐々にヒータ321,322,323或いはヘッド311内部の冷媒流路305内を通流する冷媒との間の熱交換により加熱される。
【0050】
試料Wが載置直後のものから150℃の温度まで加熱されると試料Wを誘電体膜301上面に静電吸着させ、試料W裏面と誘電体膜301との間の隙間の空間に熱伝達用のヘリウムガスを導入し、さらに試料台207或いはヘッド311の温度をプラズマの処理に適した条件である200℃まで加熱してプラズマ203を処理室内に形成し試料Wのエッチング処理を開始する。このとき、試料Wと誘電体膜301との間に導入されるヘリウムガスの圧力は例えば1kPaに制御している。
【0051】
試料Wが試料台207上面の誘電体膜301に載せられた状態で、内側電極302,外側303には直流電力は印加されず、試料Wは誘電体膜301に吸着されておらず試料台207上に保持された状態で、試料台207と試料Wとの間の熱伝達が行われる。また、試料Wが誘電体膜301上に載せられた状態で内側電極302にのみ電力を供給して試料Wの中央側部分のみ静電気により吸着させた状態で上記熱伝達を行わせて、試料Wが所定の温度に到達したことが検出された後に外側電極303に電力を供給してエッチング処理に適した吸着力で試料Wを保持しても良い。また、内側電極302、外側電極303に試料Wの処理中に供給される電力より小さい電力を供給し処理中より小さい静電気による吸着力で試料Wを保持した状態で、試料Wを所定の温度になるまで加熱した後により大きな電力を内側電極302、外側電極303に供給して処理に適した吸着力を実現して試料Wを保持した後エッチング処理を開始しても良い。
【0052】
上記の実施例において、試料Wが試料台207上の誘電体膜301の載置面に載置されて常温(25℃)から所定の温度である150℃まで加熱される間は、試料Wの少なくとも一部分は誘電体膜301には静電吸着されておらず、この試料Wの非吸着領域の裏面では試料W及び誘電体膜301が熱膨張してもこれらの間の摩擦力は小さく摩耗や損傷は無視できる程度まで抑制される。試料Wが150℃から200℃まで加熱される間は、試料Wはこれまで吸着されていなかった部分も含めて全体的に誘電体膜301上に静電吸着されているので、試料W及び誘電体膜301の熱膨張の差に応じてこれらの間の摩擦が発生するが、本実施例では上記摩耗、損傷が許容される範囲内となる温度差の範囲は50℃内としている。
【0053】
一方、試料Wの裏面と試料台207の誘電体膜301の上面はそれぞれ表面粗さを有しているので、
図6に示すように、試料W裏面と誘電体膜301上面とが接触した状態で、これらの間には各々の粗さを有した表面の形状に応じて接触部601と微小隙間602とが形成される。
図5に示す動作において、試料Wが誘電体膜301上に静電吸着されていない状態で試料台207と熱交換して加熱される場合、処理室内部は高い真空度の低圧力に保たれているため微小隙間602も高い真空度の低圧となっており、微小隙間602の熱通過率は極めて低い。
【0054】
このため、試料Wと誘電体膜301との間では実質的に接触部601でのみ熱伝達が行われるが、この接触面積は試料Wの裏面全体の面積と比べて著しく小さいものとなる。このことから、試料Wと試料台207との間の熱伝達の効率は相対的に小さくなる。一方、処理時間が試料Wの搬送に掛かる時間や処理後の試料を冷却する時間などと比較して十分に短い場合は、処理に要する試料Wをカセットから搬出して処理後に当該カセットの元の位置に戻すまでの全体の試料Wのハンドリング時間へ与える影響は相対的に小さくなる。
【0055】
ただし、プラズマ処理時間が試料Wの搬送に要する時間に対して十分に長く、前記プラズマ処理前の試料W加熱時間の追加により生産性が低下してしまう場合は、試料Wを試料台に静電吸着させない状態で、試料Wを効率よく加熱することが求められる。その解決手段を変形例1に示す。
【0056】
変形例1に係るプラズマ処理装置における試料Wの処理の動作の流れを
図7を用いて説明する。
図7は、
図2に示す実施例に係るプラズマ処理装置の時間の変化に伴う動作の流れを示すタイムチャートである。
【0057】
前記の通り、試料Wと試料台との間の前記隙間空間319、および、微小隙間602が高い真空度を維持している状態では、試料Wと試料台との間の熱伝達効率は小さく、試料Wの加熱に時間がかかる。一方、前記隙間空間319、および、微小隙間602に熱伝達用のガスを充填すると試料台207と試料W間の熱伝達効率は向上するが、試料Wを前記試料台に静電吸着させない状態で熱伝達ガスを前記隙間空間319、および、微小隙間602にガスを導入すると、試料W裏面側のみに高いガス圧力がかかることで試料Wが飛び跳ねたり、熱伝達ガスが試料Wと試料台の間から流れ出るときに試料Wが試料台の上を滑って中心位置がずれたり、試料Wが試料台から滑り落ちたりすることが懸念される。
【0058】
そこで、本例では、前記隙間空間319と前記微小隙間602を含む真空容器全体を比較的高圧にすることでウエハの加熱の効率を向上させている。
【0059】
すなわち、本例において、プラズマ処理用ガスは前記の通り複数の種類のものが混合された混合ガスが使用されており、ガス拡散板202を経由して処理室内に導入されている。試料Wが試料台207の誘電体膜301上面に載置され処理が開始されていない状態で、処理室を内外を連通して試料Wが搬送されるゲートの開口を気密に閉塞し処理室内を密封し、処理用ガスの内の不活性ガスや希釈用のガス、例えばアルゴンガスを処理室内に導入して処理室の圧力を数百Paから略大気圧程度に維持する。この際、バルブ320を開いておくことにより試料Wと試料台207あるいは誘電体膜301上面との間の前記隙間空間319および微小隙間602にもアルゴンガスが供給されこれらに充満する。
【0060】
アルゴンガスを熱伝達媒体として試料台207と試料Wとの間の熱伝達を促進することで、試料Wの加熱効率が向上する。また、試料Wの表側と裏側を含む真空容器204全体にほぼ均等圧力にガスが充満するため、隙間空間316および微小隙間602を高い圧力にしつつも、試料Wの表面側と裏面側の圧力差は無いか或いはわずかの差異が生じるに過ぎないものとなり、試料Wが試料台207上方に遊離したり滑ったりすることが抑制され、例えこれらが生じても予め位置決めされて試料台207上に載せられている試料Wの所定位置からのズレの量が低減される。
【0061】
本動作の流れの詳細を
図7を用いて説明する。試料台207上の誘電体膜301上面に試料Wを載置後、バルブ213および214を閉じて処理容器内部の処理室の排気を停止する。このとき、バルブ213,214が閉じられて外部と遮断された真空ポンプ206を含む空間は高い真空度に維持されており、ターボ分子ポンプを含む真空ポンプ206は動作が維持されている。
【0062】
この状態で、処理用ガスに用いられる希釈ガス或いは不活性ガス、例えばアルゴンガスが処理室内に導入され、処理室内部の圧力が所定の圧力、例えば1kPaになるまで導入が継続された後、導入が停止されて処理室内部が所定の圧力に維持される。この際、バルブ320はアルゴンガスの導入開始前から停止まで全開放されており、隙間空間319、および微小隙間602内にもアルゴンガスが供給され、これらの空間内の圧力は処理室内部の圧力と同等にされる。
【0063】
本例での隙間空間319の厚さは数十マイクロメートル、微小隙間602の厚さは数百ナノメートル程度であり、1kPa程度の圧力ではこれらの内部のガスは分子流となるので、熱伝達の効率は圧力に比例して高くなる。すなわち、隙間空間319および微小隙間602内部の圧力を高くすることでアルゴンガスを熱伝達媒体として用いて高い効率で試料台207と試料Wとの間の熱伝達を行わせることができる。
【0064】
本例においても、試料Wの処理に適した或いは処理の開始前に実現する温度は200℃に設定されており、ヒータ321,322,323及びサーキュレータ308で温度調節される冷媒の温度はこれを実現するために試料台207を加熱できる温度にされている。このため、試料Wが誘電体膜301上に載置された後、誘電体膜301との接触による熱伝達及び隙間空間319および微小隙間602のアルゴンガスによる熱伝達によって試料Wの加熱が行われ、試料Wの載置後、またはアルゴンガスの供給の開始後に所定の時間が経過するか或いは試料Wの温度が所定の温度(本例では、設定された上記温度200℃から所定の値だけ小さい温度である150℃)に到達したことが温度センサ304からの出力を受信したコントローラ309により検出されると、コントローラ309はバルブ212を開いて真空容器204内部を急速に排気して減圧させる。
【0065】
処理室内部の圧力が真空ポンプ206を運転するのに十分に安全な圧力以下に下がったら、バルブ213、および、バルブ214を開き、処理室内部を真空ポンプ206,215を用いて高い真空度まで排気して減圧する。このとき、バルブ320は開かれており、処理室内部の排気と共に隙間空間319、微小隙間602内部も高い真空度まで排気され減圧される。
【0066】
処理室内部を所定の時間、あるいは、所定の圧力まで減圧されたことが真空計213からの出力を受信したコントローラ309により検出されると、コントローラ309からの指令信号に基づいて、試料Wが誘電体膜301上面に静電吸着され、隙間空間319、微小隙間602に熱伝達用のヘリウムガスが供給される。この状態で試料Wが再度加熱され、試料Wの吸着後所定の時間が経過するか或いは試料Wの温度が設定の温度に対して予め定められた許容範囲内の値になったことが温度センサ304からの出力を受けたコントローラ309により検出されると、コントローラ309からの指令信号に基づいて処理室内にプラズマ203が形成され試料Wの処理が開始される。