【実施例】
【0056】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1] PABN導入形質転換シロイヌナズナの作製
1.cDNAの合成
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana,Columbia-0)のロゼット葉よりRNeasy Mini Kit(Qiagen社製)を用いてトータルRNAを抽出した。得られたRNAを用いてPCR Core Kit(Applied Biosystem社製)を利用してcDNAを合成した。
【0057】
2.cDNAからのAtPABN遺伝子部分の単離
上記で合成されたcDNAを鋳型として、以下のフォワードプライマー及びリバースプライマーを用いてPCRを行った。
フォワードプライマー:5'- AAACCTTCCCTTCTTTCCCG -3'(配列番号7)
リバースプライマー :5'- TCAGTACGGTCTGTAGCGCA -3'(配列番号8)
【0058】
これらのフォワードプライマー及びリバースプライマーは、既知のAtPABN遺伝子(AtPABN1; At5G51120)の塩基配列(GenBankアクセッション番号NM_001203582)の5’UTRから終止コドンまでを増幅できるように設計したものである。PCRは50μlの反応系で行った。PCR反応液の調製においては、Ex Taq DNAポリメラーゼ(TAKARA BIO INC.;5 units/μl)を0.2μl、10×ポリメラーゼバッファー(MgCl
2を含む)を5μl、2.5mM dNTP液(2.5mM)を2.5μl、上記の各プライマー(10pmol/μl)を0.1μl及び上記で合成したcDNA(約1μg /μl)を2μl混合し、さらに反応全量をミリQ水で50μlに調整した。用いたPCRの反応条件及び反応回数は、以下の表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
PCR反応後、電気泳動によりPCR産物の確認を行ったところ、予測された長さの核酸断片が(700塩基前後)が増幅されていた。得られた断片をpGEM-Teasyベクターシステム(Promega社製)を利用してクローニングし、複数の陽性クローンを得た。それらの陽性クローンに含まれるDNA挿入断片について、BigDye Terminator v1.1サイクルシークエンシングキット(Applied Biosystems社製)を用いて、ABI社製DNAシーケンサー(3130 DNA sequencer)により塩基配列を決定し、さらに上述した既知のAtPABN遺伝子との比較解析を行い、クローニングしたDNA挿入断片がAtPABN遺伝子(シロイヌナズナPABN遺伝子)であることを確認した。得られたAtPABN遺伝子のORFの塩基配列を配列番号1に、その配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0061】
3.アグロバクテリウムを用いたAtPABN遺伝子のシロイヌナズナへの導入
以上のようにして単離されたAtPABN遺伝子を、Ti系ベクターであるpBI 121ベクター(Clonetech社製)中のCaMV35Sプロモーターの下流に、センス鎖方向で導入した。
【0062】
まず、上記で得られた、pGEM-TeasyベクターにAtPABN遺伝子が挿入されたプラスミドをXhoI及びSacIで処理しXhoI-SacI断片を調製した。調製したAtPABN遺伝子含有XhoI-SacI断片を、XhoI及びSacIを用いて切断したpBI 121ベクターに、センス方向でライゲーションした。得られた核酸構築物をアグロバクテリウム(GV3101/Pmp-90)に凍結融解法(Hofgen et al.、(1998)Storage of competent cells for Agrobacterium transformation. Nucleic Acids Res. Oct 25;16(20):9877)を利用して形質転換した。形質転換アグロバクテリウムを選抜するため、遺伝子導入したアグロバクテリウムをカナマイシン(50mg/L)、ゲンタマイシン(100mg/L)を含むYEP培地上でカナマイシン耐性、ゲンタマイシン耐性について選抜した。選抜したコロニーをカナマイシン、ゲンタマイシンを含む5 mlのYEP培地で20〜24時間培養後、カナマイシン、ゲンタマイシンを含む100mlのYEP培地に植菌し、O.D.
600=0.80になるまで培養した。培養した菌液は5000×gで10分間室温で遠心した。沈澱した菌体は50mlの培地floral dropping mediumに溶解した。溶解した菌液をシロイヌナズナの蕾に3〜5回注入した。アグロバクテリウムを注入した植物はビニール袋に入れ、22℃の暗所で一晩生育させた。翌日、植物を22℃、長日条件下に移動させた。植物に菌を感染させてから3日後に水を与え始めた。以上の実験に使用した培地の組成は表2及び表3の通りである。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
4.AtPABN導入形質転換植物体の選抜
上記のようにして形質転換し生育させたシロイヌナズナから得られた種子を滅菌溶液(70%エタノール、0.5% Triton X-100)で30分間滅菌し、その後100%エタノールで2分滅菌した。その後、カナマイシン(50mg/L)、バンコマイシン(200mg/L)を含むMS培地に種子を播いた。同培地上で正常に生育した植物体(T
1世代)を自家受粉して得られたT
2世代で形質転換体と野生株の分離比が3:1であることを確認した。さらにT
3世代で導入遺伝子をホモ接合で有する植物体を選抜した。以上の実験に使用した培地の組成は表4の通りである。
【0066】
【表4】
【0067】
選抜されたAtPABN導入形質転換植物体では、薬剤耐性遺伝子の発現により導入遺伝子の発現が確認されることから、当該形質転換植物がPABN遺伝子を過剰発現していることが示される。
【0068】
[実施例2] 環境ストレス耐性の評価
1.塩ストレス耐性実験
上記で作製したAtPABN導入形質転換シロイヌナズナ(PABN過剰発現体)、及びシロイヌナズナ野生株(Columbia-0)の種子(各25個)をMS培地(2% ショ糖、8% 寒天、pH 5.7〜5.8)に播いた。22℃の連続光条件下で1週間生育させた後、NaCl(200 mM)を加えたMS培地に移し、22℃の連続光条件で4日間生育した後に、生存率の測定を行った。
【0069】
この塩ストレス耐性実験の結果を
図1に示す。野生株は1個体も生存しなかった(生存率:0%)のに対し、AtPABN導入形質転換シロイヌナズナ(図中のPABN)では、60%の生存率を示した。PABN遺伝子を過剰発現した形質転換植物では耐塩性(塩ストレス耐性)が顕著に向上していることが示された。
【0070】
2.乾燥ストレス耐性実験
上記のAtPABN導入形質転換シロイヌナズナ(PABN過剰発現体)、及びシロイヌナズナ野生株(Columbia-0)の種子(各48個)をMS培地(2% ショ糖、8% 寒天、pH 5.7〜5.8)に播き、22℃の連続光条件下で10日間生育させた。その後、植物体を土(培養土:バーミキュライト = 3 : 1)に移し、22℃の短日条件(10時間/明所、14時間/暗所)にて生育させた。土での生育開始後、3日目、4日目は水やりを実施せず、5日目より水やりを再開した。土での生育開始後、10日目に生存率を測定した。
【0071】
この乾燥ストレス耐性実験の結果を
図2に示した。野生株の生存率は2%であったのに対し、PABN過剰発現株(図中のPABN)では、野生株よりも有意に高い生存率(79%)を示した。PABN遺伝子を過剰発現した形質転換植物では耐乾燥性(乾燥ストレス耐性)が顕著に向上していることが示された。
【0072】
3.凍結ストレス耐性実験
上記のAtPABN導入形質転換シロイヌナズナ(PABN過剰発現体)、及びシロイヌナズナ野生株(Columbia-0)の種子(各12個)をMS培地(2% ショ糖、8% 寒天、pH 5.7〜5.8)に播き、22℃で連続光にて2週間生育後、土(培養土:バーミキュライト = 1 : 2)に移し、22℃の短日条件(8時間/明所、16時間/暗所)にて1週間生育させた。その後、4℃の短日条件にて1週間、低温馴化させた。次いで形質転換植物をプログラムフリーザーに入れ−2℃で1時間培養した。氷核を形成させるため、形質転換植物に水道水をスプレーにて噴霧した後、2時間に1℃の速度で温度を低下させて−14℃まで冷却するプログラムを実施し、さらに、4℃にて12時間培養を行った。その後、22℃の短日条件にて1週間培養した後に、植物体の生存率を求めた。
【0073】
この凍結ストレス耐性実験の結果を
図3に示した。野生株の生存率は0%であったのに対し、PABN過剰発現株(図中のPABN)では、野生株よりも有意に高い生存率(33.3%)を示した。PABN遺伝子を過剰発現した形質転換植物では耐凍性(凍結ストレス耐性)が顕著に向上していることが示された。
【0074】
[実施例3] 種子収量性の評価
AtPABN遺伝子導入の種子収量性への影響について試験した。上記のAtPABN導入形質転換シロイヌナズナ(PABN過剰発現体)、及びシロイヌナズナ野生株(Columbia-0)の種子をMS培地(2% ショ糖、8% 寒天、pH 5.7〜5.8)に播き、22℃の長日条件(16時間/明所、8時間/暗所)で約1ヶ月生育させた。この生育条件は、塩、乾燥、及び凍結などの環境ストレスを負荷していない一般的な条件である。その生育後、種子を採取し、植物体1個体当たりの総種子数を算出した。
【0075】
結果を
図4に示した。植物体1個体当たりの種子数は、野生株で500個であった。一方、PABN過剰発現株(図中のPABN)では野生株の1.46倍に相当する788個の種子が得られた。PABN過剰発現体では花茎の分枝が促進されており、長角果の増加が観察された(
図5)。この結果より、PABN遺伝子が種子形成を大幅に促進し、種子収量性を強化することが示された。
【0076】
[実施例4] コムギPABN遺伝子の形質転換コムギの作製
コムギにおけるAtPABN遺伝子のオーソログである2種類の遺伝子、TaPABN1遺伝子(GenBankアクセッション番号:AK331378)及びTaPABN2遺伝子(GenBankアクセッション番号:AK335747)について過剰発現させた形質転換体を下記の方法によって作出した。
【0077】
1.cDNAの合成
コムギ(Triticum aestivum, 品種:ユメチカラ)の幼葉よりRNeasy Mini Kit(Qiagen社製)を用いてトータルRNAを抽出した。得られたRNAを用いてPCR Core Kit(Applied Biosystem社製)を利用してcDNAを合成した。
【0078】
2.cDNAからのコムギPABN遺伝子部分の単離
上記で合成されたcDNAを鋳型として、以下のフォワードプライマー及びリバースプライマーを用いて、各遺伝子をそれぞれPCRで増幅した。
TaPABN1増幅用プライマーセット
TaPABN1フォワードプライマー:5'- GATTCGGTTTCTAGCTCAGC -3'(配列番号9)
TaPABN1リバースプライマー :5'- GCCACAACTTAGTAGAAGGG -3'(配列番号10)
TaPABN2増幅用プライマーセット
TaPABN2フォワードプライマー:5'- TTAGATCGGAGAGAGACGGC -3'(配列番号11)
TaPABN2リバースプライマー :5'- TTCATGGAAGCCTCGTCCTC -3'(配列番号12)
【0079】
これらのフォワードプライマー及びリバースプライマーは、上記2種類の遺伝子(TaPABN1及びTaPABN2)それぞれの5’UTRから終止コドンまでを増幅できるように設計したものである。PCRは50μlの反応系で行った。PCR反応液の調製においては、Ex Taq DNAポリメラーゼ(TAKARA BIO;5 units/μl)を0.2μl、10×ポリメラーゼバッファー(MgCl
2を含む)を5μl、2.5mM dNTP液(2.5mM)を2.5μl、上記の各プライマー(10pmol/μl)を0.1μl及び上記で合成したcDNA(約1μg/μl)を2μl混合し、さらに反応全量をミリQ水で50μlに調整した。用いたPCRの反応条件及び反応回数は、実施例1の表1と同一の条件にて実施した。
【0080】
PCR反応後、電気泳動によりPCR産物の確認を行ったところ、予測された長さの核酸断片が(いずれも650塩基前後)が増幅されていた。得られた断片をpGEM-Teasyベクターシステム(Promega社製)を利用してクローニングし、複数の陽性クローンを得た。それらの陽性クローンに含まれるDNA挿入断片について、BigDye Terminator v3.1サイクルシークエンシングキット(Applied Biosystems社製)を用いて、ABI社製DNAシーケンサー(3130 DNA sequencer)により塩基配列を決定し、上述したTaPABN1及びTaPABN2の塩基配列との比較解析を行い、クローニングしたDNA挿入断片がTaPABN1及びTaPABN2であることを確認した。得られたTaPABN1のORFの塩基配列を配列番号3に、その配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。また、得られたTaPABN2遺伝子のORFの塩基配列を配列番号5に、その配列によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0081】
3.アグロバクテリウムを用いたコムギPABN遺伝子のコムギへの導入
上記で得られた、pGEM-TeasyベクターにコムギのPABN遺伝子(上記2種類のいずれか)が挿入されたプラスミドから制限酵素BamHI及びKpn Iを用いてコムギPABN遺伝子含有断片を切り出し、バイナリーベクターpUBIN-ZH2のマルチクローニングサイト中の当該酵素切断部位に挿入した。バイナリーベクターpUBIN-ZH2は、pPZP202(P. Hajdukiewicz, Z. Svab, P. Maliga, 1994. Plant Molecular Biology 25: 989-994)のT-DNA部分に、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターとノパリンシンターゼターミネーターとの間にハイグロマイシン耐性遺伝子を導入したカセットと、トウモロコシユビキチン遺伝子プロモーター (Plant physiology Volume 100, 1992, Pages 1503-1507)とノパリンシンターゼターミネーター間にマルチクローニングサイトを持つ遺伝子発現用カセットを組み込んだものである。このようにして、それぞれのコムギPABN遺伝子を含む2種類のアグロバクテリウム形質転換用ベクターを作製した(
図6)。
【0082】
得られたそれぞれの形質転換用ベクターを用いてアグロバクテリウム(LBA4404株)を凍結融解法(Hofgen et al.、(1998) Storage of competent cells for Agrobacterium transformation. Nucleic Acids Res. Oct 25;16(20):9877)により形質転換した。さらに、上述の手法にて取得したいずれかのアグロバクテリウムを用いて、コムギ(品種:ユメチカラ)への形質転換を実施した。コムギの形質転換には、特願2005-513739に記載のインプランタ形質転換法を用いた。
【0083】
4.コムギPABN形質転換植物体の選抜
上記のようにして形質転換したコムギから得られたT
1世代の植物体より、Plant DNAzol reagent(ライフテクノロジーズ社製)を用いてゲノムを抽出した。得られたゲノムを鋳型として、以下のフォワードプライマー及びリバースプライマーを用いてゲノムPCRを実施した。リバースプライマーは、ノパリンシンターゼターミネーター上に設計したものである。
TaPABN1検出用プライマーセット
TaPABN1フォワードプライマー:5'- GATTCGGTTTCTAGCTCAGC -3'(配列番号9)
TaPABN1リバースプライマー :5'- ATAATCATCGCAAGACCGGC -3'(配列番号13)
TaPABN2検出用プライマーセット
TaPABN2フォワードプライマー:5'- TTAGATCGGAGAGAGACGGC -3'(配列番号11)
TaPABN2リバースプライマー :5'- ATAATCATCGCAAGACCGGC -3'(配列番号13)
【0084】
PCRは50μlの反応系で行った。PCR反応液の調製においては、Ex Taq DNAポリメラーゼ(TAKARA BIO;5 units/μl)を0.2μl、10×ポリメラーゼバッファー(MgCl
2を含む)を5μl、2.5mM dNTP液(2.5mM)を2.5μl、上記の各プライマー(10pmol/μl)を0.1μl及び上記で合成したcDNA(約1μg/μl)を2μl混合し、さらに反応全量をミリQ水で50μlに調整した。用いたPCRの反応条件及び反応回数は、実施例1の表1と同一の条件にて実施した。
【0085】
上記手法にて実施したゲノムPCRにより、コムギPABN遺伝子が導入された形質転換植物体を選抜した。さらにこの形質転換植物体を自家受粉させ、種子を採取し、導入したコムギPABN遺伝子をホモ接合で有する形質転換コムギを選抜した。
【0086】
[実施例5] 形質転換コムギにおけるT1世代での導入遺伝子の発現確認
(1) T
1形質転換体からのRNA抽出及びcDNA合成
形質転換植体T
1世代の葉(第1〜第2葉)をマイクロチューブに採取し、RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて、トータルRNAを抽出した。抽出手順はキットのマニュアルに従った。得られたトータルRNA 1μgを用いて、High Capacity RNA-to-cDNA
TMKit(アプライドバイオシステムズ社製)により、逆転写反応によりcDNAを合成した。
【0087】
(2) T
1世代での導入遺伝子の発現確認(RT-PCR)
実施例5(1)にて調製したcDNA溶液1μLを用いてPCR法により導入遺伝子発現を確認した。PCRは表1と同様の条件で行ったが、変性から伸長反応までの工程のサイクル数は30サイクルとした。PCRには、下記のプライマーを用いた。
TaPABN1 RT-PCRフォワードプライマー:5'- GATTCGGTTTCTAGCTCAGC -3'(配列番号14)
TaPABN1 RT-PCRリバースプライマー:5'- GCCACAACTTAGTAGAAGGG -3'(配列番号15)
TaPABN2 RT-PCRフォワードプライマー:5'- TTAGATCGGAGAGAGACGGC -3'(配列番号16)
TaPABN2 RT-PCRリバースプライマー:5'- TTCATGGAAGCCTCGTCCTC -3'(配列番号17)
【0088】
図7に示すように、TaPABN1遺伝子又はTaPABN2遺伝子を導入したT
1世代において、導入遺伝子の発現個体(TaPABN1過剰発現株、TaPABN2過剰発現株)が得られたことを確認できた。なお、PCRにより得られた断片がTaPABN遺伝子の断片であることを配列解析により確認した。
【0089】
[実施例6] TaPABN遺伝子導入コムギの収量性の評価
TaPABN遺伝子導入の種子収量性への影響について検討した。上記で作製したTaPABN遺伝子導入コムギ(TaPABN2過剰発現株)、及びコムギ野生株の個体(種子)を培養土に播き、22℃の長日条件(16時間/明所、8時間/暗所)で約1ヶ月生育させた。用いた生育条件は、塩、乾燥、及び凍結などの環境ストレスを負荷していない一般的な栽培条件である。生育後、各々の個体の分げつ数(枝分かれした茎の総数)を調べた。分げつ数が多ければ多いほど、個体あたりの穂数が増加するため、収量の増加が見込まれる。
【0090】
結果を表5に示した。植物体1個体当たりの平均分げつ数は、野生株で3.4本(n=16)であったが、TaPABN2過剰発現株では野生株の1.58倍に相当する5.4本(n=8)であった。この結果より、TaPABN2遺伝子が分げつを顕著に促進し、種子収量性を50%以上も強化することが示された。
【0091】
【表5】
【0092】
[実施例7] TaPABN2遺伝子導入コムギの塩ストレス耐性実験
TaPABN2遺伝子導入コムギ(TaPABN2過剰発現株)、及びコムギ野生株の種子(各10個体)を滅菌水中で発芽させ、22℃の長日条件下で3日間生育させた後、NaCl(400 mM)を含む滅菌水中にて、22℃の長日条件で2日間生育させた。これを、培養土に移して生育させ、7日後生存率の測定を行った。
【0093】
この塩ストレス耐性実験後の各個体の写真を
図8に示す。野生株は4個体が生存した(生存率:40%)のに対し、TaPABN2過剰発現株では6個体が生存した(生存率:60%)。この結果より、TaPABN2遺伝子を過剰発現した形質転換植物では耐塩性(塩ストレス耐性)が向上していることが示された。
【0094】
[実施例8] AtPABN遺伝子形質転換コムギの作製
実施例1にて取得したシロイヌナズナPABN遺伝子(AtPABN遺伝子)を導入遺伝子として用いる点以外は、実施例4に示す方法と同一の方法によって、AtPABN遺伝子導入形質転換コムギを作出した。
【0095】
ゲノムPCRにより、AtPABN遺伝子が導入された形質転換植物体を選抜した。さらにこの形質転換植物体を自家受粉させ、種子を採取し、導入したAtPABN遺伝子をホモ接合で有する形質転換コムギを選抜した。
【0096】
この形質転換コムギは、実施例1で作製したPABN導入形質転換シロイヌナズナと同様に、強化された環境ストレス耐性(塩ストレス耐性、乾燥ストレス耐性、及び凍結ストレス耐性)及び種子収量性を有している。