特許第6202847号(P6202847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202847
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】電子機器及び処理方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/10 20060101AFI20170914BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H04B7/10 A
   H04B7/08 802
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-66418(P2013-66418)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-192711(P2014-192711A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年2月1日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】杉之下 文康
(72)【発明者】
【氏名】岡部 聡
(72)【発明者】
【氏名】津持 純
【審査官】 原田 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−206734(JP,A)
【文献】 特開平08−181623(JP,A)
【文献】 特開2006−287841(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0296567(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/10
H04B 7/08
H04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モードを選択するモード選択部と、
前記モード選択部によって選択されたモードに基づいて、減衰量と、デジタル信号が「0」であるか、「1」であるかを判定するための閾値となるオフセット値を決定する制御部と
アンテナにより受信した受信信号を前記減衰量に基づいて減衰処理する減衰部と、
前記減衰部で減衰処理された前記受信信号に対して前記オフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う復調部と、
前記復調部でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定するビット誤り率測定部と、
ビット誤り率と受信電力値の関係が対応付けられているテーブルが格納されている記憶部と、
前記記憶部を参照して前記モード選択部によって選択されたモードに対応するテーブルを選択し、当該テーブルに基づいて、前記ビット誤り率測定部により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定する特定部と、を備える電子機器。
【請求項2】
前記制御部は、前記特定部により特定した受信電力値に基づいて前記アンテナの指向性を測定する請求項1記載の電子機器。
【請求項3】
前記制御部は、前記特定部により特定した受信電力値に基づいて前記アンテナの水平及び垂直方向の角度を調整する請求項1記載の電子機器。
【請求項4】
モードを選択するモード選択工程と、
前記モード選択工程によって選択されたモードに基づいて、減衰量と、デジタル信号が「0」であるか、「1」であるかを判定するための閾値となるオフセット値を決定する決定工程と、
アンテナにより受信した受信信号を前記減衰量に基づいて減衰処理する減衰工程と、
前記減衰工程で減衰処理された前記受信信号に対して前記オフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う復調工程と、
前記復調工程でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定するビット誤り率測定工程と、
ビット誤り率と受信電力値の関係が対応付けられているテーブルが格納されている記憶部を参照して、前記モード選択工程によって選択されたモードに対応するテーブルを選択し、当該テーブルに基づいて、前記ビット誤り率測定工程により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定する特定工程と、を備える処理方法。
【請求項5】
第1モード又は第2モードを選択するモード選択部と、
前記モード選択部により前記第1モードが選択された場合には、減衰量を第1の減衰量とし、かつデジタル信号が「0」であるか、「1」であるかを判定するための閾値となるオフセット値を第1のオフセット値にし、前記モード選択部により前記第2モードが選択された場合には、減衰量を第2の減衰量にし、前記オフセット値を第2のオフセット値にする制御部と、
アンテナにより受信した受信信号を前記第1の減衰量に基づいて減衰処理する第1減衰部と、
前記第1減衰部で減衰処理された前記受信信号に対して前記第1のオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う第1復調部と、
前記第1復調部でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定する第1ビット誤り率測定部と、
アンテナにより受信した受信信号を前記第2の減衰量に基づいて減衰処理する第2減衰部と、
前記第2減衰部で減衰処理された前記受信信号に対して前記第2のオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う第2復調部と、
前記第2復調部でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定する第2ビット誤り率測定部と、
ビット誤り率と受信電力値の関係が対応付けられているテーブルが格納されている記憶部と、
前記モード選択部によって前記第1モードが選択された場合には、前記第1モードに対応するテーブルを前記記憶部から選択し、当該テーブルに基づいて、前記第1ビット誤り率測定部により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定し、前記モード選択部によって前記第2モードが選択された場合には、前記第2モードに対応するテーブルを前記記憶部から選択し、当該テーブルに基づいて、前記第2ビット誤り率測定部により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定する特定部と、を備える電子機器。
【請求項6】
第1モード又は第2モードを選択するモード選択工程と、
前記モード選択工程により前記第1モードが選択された場合には、減衰量を第1の減衰量とし、かつデジタル信号が「0」であるか、「1」であるかを判定するための閾値となるオフセット値を第1のオフセット値にし、前記モード選択工程により前記第2モードが選択された場合には、減衰量を第2の減衰量にし、前記オフセット値を第2のオフセット値にする決定工程と、
アンテナにより受信した受信信号を前記第1の減衰量に基づいて減衰処理する第1減衰工程と、
前記第1減衰工程で減衰処理された前記受信信号に対して前記第1のオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う第1復調工程と、
前記第1復調工程でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定する第1ビット誤り率測定工程と、
アンテナにより受信した受信信号を前記第2の減衰量に基づいて減衰処理する第2減衰工程と、
前記第2減衰工程で減衰処理された前記受信信号に対して前記第2のオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う第2復調工程と、
前記第2復調工程でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定する第2ビット誤り率測定工程と、
前記モード選択工程によって前記第1モードが選択された場合には、前記第1モードに対応するテーブルを記憶部から選択し、当該テーブルに基づいて、前記第1ビット誤り率測定工程により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定し、前記モード選択工程によって前記第2モードが選択された場合には、前記第2モードに対応するテーブルを前記記憶部から選択し、当該テーブルに基づいて、前記第2ビット誤り率測定工程により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定する特定工程と、を備える処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信電力値を特定する電子機器及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波又はミリ波帯の伝送では、その受信状況を評価する際に受信電力の値を用いることが一般的である(特許文献1を参照)。
しかし、受信電力の瞬時的な変動は、測定回路中の容量性成分の存在によって観測波形が鈍ってしまうことから、正確な高速測定が困難になることが多い。また、仮に測定ができたとしても、受信電力は、瞬時的な値であるために、伝送装置の内部雑音等の特性変動の影響を受けやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−110384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一定時間内に測定された受信電力を平均化し、受信電力を平均値で表せば、上述の影響を取り除くことはできるが、高速測定のメリットが失われてしまう。
【0005】
本発明は、マイクロ波又はミリ波帯の伝送において、内部雑音等の特性変動の影響を受けず、正確な受信電力値を高速に得ることができる電子機器及び処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子機器は、モードを選択するモード選択部と、前記モード選択部によって選択されたモードに基づいて、減衰量とオフセット値を決定する制御部と、アンテナにより受信した受信信号を前記減衰量に基づいて減衰処理する減衰部と、前記減衰部で減衰処理された前記受信信号に対して前記オフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う復調部と、前記復調部でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定するビット誤り率測定部と、ビット誤り率と受信電力値の関係が対応付けられているテーブルが格納されている記憶部と、前記記憶部を参照して前記モード選択部によって選択されたモードに対応するテーブルを選択し、当該テーブルに基づいて、前記ビット誤り率測定部により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定する特定部と、を備える構成である。
【0007】
かかる構成によれば、電子機器は、ビット誤り率測定部により測定された受信信号のビット誤り率(BER)に基づいて受信電力値を特定するので、内部雑音等の特性変動の影響を受けず、正確な受信電力値を高速に得ることができる。
【0008】
電子機器では、前記制御部は、前記特定部により特定した受信電力値に基づいて前記アンテナの指向性を測定する構成でもよい。
【0009】
一般的に、アンテナの指向性の測定は、送受信アンテナを見通せる環境において、被測定対象である受信アンテナの向きと角度を変化させ、各位置における受信電力を順次測定することにより算出する。
ここで、受信電力を直接測定した場合には、装置の内部雑音等の特性変動の影響を受けやすく、正確な受信電力の測定が困難である。また、一定時間内に測定された受信電力を平均化し、受信電力を平均値で表せば、上述の影響を取り除くことはできるが、高速測定のメリットが失われてしまう。
かかる構成によれば、電子機器は、ビット誤り率測定部により測定された受信信号のビット誤り率に基づいて受信電力値を特定するので、内部雑音等の特性変動の影響を受けず、正確な受信電力値に基づいてアンテナの指向性を測定することができる。
【0010】
電子機器では、前記制御部は、前記特定部により特定した受信電力値に基づいて前記アンテナの水平及び垂直方向の角度を調整する構成でもよい。
【0011】
かかる構成によれば、電子機器は、ビット誤り率測定部により測定された受信信号のビット誤り率(BER)に基づいて受信電力値を特定するので、内部雑音等の特性変動の影響を受けず、正確な受信電力値に基づいてアンテナの水平及び垂直方向の角度を調整することができる。
【0012】
本発明に係る処理方法は、モードを選択するモード選択工程と、前記モード選択工程によって選択されたモードに基づいて、減衰量とオフセット値を決定する決定工程と、アンテナにより受信した受信信号を前記減衰量に基づいて減衰処理する減衰工程と、前記減衰工程で減衰処理された前記受信信号に対して前記オフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う復調工程と、前記復調工程でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定するビット誤り率測定工程と、ビット誤り率と受信電力値の関係が対応付けられているテーブルが格納されている記憶部を参照して、前記モード選択工程によって選択されたモードに対応するテーブルを選択し、当該テーブルに基づいて、前記ビット誤り率測定工程により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定する特定工程と、を備える構成である。
【0013】
かかる構成によれば、処理方法は、ビット誤り率測定工程により測定された受信信号のビット誤り率(BER)に基づいて受信電力値を特定するので、内部雑音等の特性変動の影響を受けず、正確な受信電力値を高速に得ることができる。
【0014】
本発明に係る電子機器は、第1モード又は第2モードを選択するモード選択部と、前記モード選択部により前記第1モードが選択された場合には、減衰量を第1の減衰量とし、かつオフセット値を第1のオフセット値にし、前記モード選択部により前記第2モードが選択された場合には、減衰量を第2の減衰量にし、オフセット値を第2のオフセット値にする制御部と、アンテナにより受信した受信信号を前記第1の減衰量に基づいて減衰処理する第1減衰部と、前記第1減衰部で減衰処理された前記受信信号に対して前記第1のオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う第1復調部と、前記第1復調部でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定する第1ビット誤り率測定部と、アンテナにより受信した受信信号を前記第2の減衰量に基づいて減衰処理する第2減衰部と、前記第2減衰部で減衰処理された前記受信信号に対して前記第2のオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う第2復調部と、前記第2復調部でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定する第2ビット誤り率測定部と、ビット誤り率と受信電力値の関係が対応付けられているテーブルが格納されている記憶部と、前記モード選択部によって前記第1モードが選択された場合には、前記第1モードに対応するテーブルを前記記憶部から選択し、当該テーブルに基づいて、前記第1ビット誤り率測定部により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定し、前記モード選択部によって前記第2モードが選択された場合には、前記第2モードに対応するテーブルを前記記憶部から選択し、当該テーブルに基づいて、前記第2ビット誤り率測定部により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定する特定部と、を備える構成である。
【0015】
かかる構成によれば、電子機器は、第1モード及び第2モードにおけるそれぞれの受信電力値を特定するので、広いダイナミックレンジで受信電力値を得ることができる。
【0016】
本発明に係る処理方法は、第1モード又は第2モードを選択するモード選択工程と、前記モード選択工程により前記第1モードが選択された場合には、減衰量を第1の減衰量とし、かつオフセット値を第1のオフセット値にし、前記モード選択工程により前記第2モードが選択された場合には、減衰量を第2の減衰量にし、オフセット値を第2のオフセット値にする決定工程と、アンテナにより受信した受信信号を前記第1の減衰量に基づいて減衰処理する第1減衰工程と、前記第1減衰工程で減衰処理された前記受信信号に対して前記第1のオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う第1復調工程と、前記第1復調工程でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定する第1ビット誤り率測定工程と、アンテナにより受信した受信信号を前記第2の減衰量に基づいて減衰処理する第2減衰工程と、前記第2減衰工程で減衰処理された前記受信信号に対して前記第2のオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う第2復調工程と、前記第2復調工程でデジタル復調処理された前記受信信号のビット誤り率を測定する第2ビット誤り率測定工程と、前記モード選択工程によって前記第1モードが選択された場合には、前記第1モードに対応するテーブルを記憶部から選択し、当該テーブルに基づいて、前記第1ビット誤り率測定工程により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定し、前記モード選択工程によって前記第2モードが選択された場合には、前記第2モードに対応するテーブルを前記記憶部から選択し、当該テーブルに基づいて、前記第2ビット誤り率測定工程により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定する特定工程と、を備える構成である。
【0017】
かかる構成によれば、処理方法は、第1モード及び第2モードにおけるそれぞれの受信電力値を特定するので、広いダイナミックレンジで受信電力値を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、正確な受信電力値を高速に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】受信電力(CN比)とビット誤り率(BER)の関係についての説明に供する図である。
図2】電子機器の第1構成を示すブロック図である。
図3】電子機器の第2構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
マイクロ波及びミリ波帯の通信において、受信状況を評価する場合には、受信電力を用いるのが一般的である。
受信電力を直接測定する場合には、受信装置で受信した電波を電圧又は電流に変換し、外部装置により、当該電圧又は電流に基づいて受信電力値を算出する。ところで、外部装置では、内部に配置されている回路基板の容量性成分によって、観測波形が鈍ってしまい、受信電力値を正確に測定することが困難になることがある。
【0021】
また、受信電力値は、瞬時的な値であるため、受信装置や外部装置の特性変動(電源の変動や雑音等)の影響を受けやすい。
そこで、この特性変動の影響を取り除くために、外部装置によって、受信電力値を時間平均により算出することが考えられるが、測定に時間がかかってしまうデメリットがある。
【0022】
マイクロ波及びミリ波帯の見通し通信においては、雑音は、熱雑音が支配的であり、また、伝送するデジタル信号に生じる誤り(以下、伝送誤りという)は、バースト誤りよりもランダム誤りとなる場合が多い。
【0023】
また、このような環境では、受信電力(CN比)とビット誤り率(BER)との間には、再現性のよい相関関係がある。よって、ビット誤り率(BER)の測定結果に基づいて、受信電力値を推定することが可能になる。
【0024】
また、ビット誤り率(BER)は、受信した全ビット数に対するエラービットの数の比であり、疑似ランダム・ビット列等を用いて測定する。よって、ビット誤り率(BER)を測定するためには、ある程度の時間が必要になる。
ところで、1Gbpsの高速デジタル信号のデータ通信を想定した場合、1/100秒という短時間であっても1000万個のビットが含まれていることになる。
よって、高速デジタル信号のデータ通信においては、短時間(例えば、1/100秒)に受信した全ビット数(1000万個)に対するエラービットの数の比を計算することにより、ビット誤り率(BER)を測定することができる。このことは、瞬時的(1/100秒程度)な測定にもかかわらず、信頼性の高い測定結果が得られることを意味している。
【0025】
ところで、伝送誤りにランダム誤りとバースト誤りが含まれる場合には、ランダム誤りのみの場合と比べると、受信電力(CN比)とビット誤り率(BER)の関係が変化し、受信電力の絶対値を推定することが難しくなる。しかし、瞬時的(1/100秒程度)な測定であっても、平均化された信頼性の高い測定結果が得られることの意義は失われない。
【0026】
よって、伝送誤りにランダム誤りとバースト誤りが含まれていても、高速デジタル信号のビット誤り率(BER)に基づいて、受信電力の変動を高速かつ高精度に測定することが可能になる。
【0027】
また、マイクロ波又はミリ波の通信では、さまざまな変復調方式が用いられるが、代表としてASK変調方式について説明する。
ASK変調方式は、送信データのビット列に対応して搬送波の振幅を変化させることで送信データを送る方式である。最も単純なものとして、搬送波をスイッチ等で離散的にオン/オフする場合を考えることができる。
なお、以下では、デジタル信号が「0」で搬送波「オフ」とし、デジタル信号が「1」で搬送波「オン」とする。
【0028】
また、ASK変調方式は、オンオフ変調(OOK)とも呼ばれている。ただし、大抵の場合、ASK変調方式とOOK変調方式は、明確に区別されず、単にASKと呼ばれている。
【0029】
変調及び復調装置は、他の変調方式の装置と比べ、複雑かつ高価なものではない。そのため、ASK変調方式は、ミリ波帯やサブミリ波帯の伝送装置を始め、光ファイバでデータ送信を行なう場合に一般に使用されている。
【0030】
ASK変調方式では、デジタル信号が「0」であるか「1」であるかを判定する。このとき、判定の閾値となる値(オフセット値)を変えると、受信電力(CN比)とビット誤り率(BER)の関係は、図1に示すように変化する。
【0031】
第1モードでは、受信電力が0.2のとき、ビット誤り率(BER)が10−2程度で受信できていて、受信電力が大きくなるにつれて、ビット誤り率(BER)が漸次改善する特性を示す。
【0032】
第2モードでは、必要な受信電力が第1モードに比べ高く、受信電力が0.6程度なければビット誤り率(BER)が10−2以下とならないが、一旦、そのレベルまでいくと、受信電力がわずかに改善しても、ビット誤り率(BER)が飛躍的によくなる、すなわち、ビット誤り率(BER)が急峻に変動することがわかる。これは、受信電力に対してビット誤り率(BER)の感度がよいということである。
【0033】
これらのモードを選択すること、又は組み合わせることで、目的に対応した受信電力の範囲において、高速で高精度の受信電力を測定する電子機器を提供することが可能になる。
【0034】
以下に、各モードに応じて算出した受信信号のビット誤り率(BER)を用いて、高速かつ高精度に受信電力値を特定する電子機器1の構成と動作について説明する。
【0035】
<第1構成>
電子機器1は、図2に示すように、モード選択部11と、制御部12と、減衰部13と、復調部14と、ビット誤り率測定部15と、記憶部16と、特定部17と、を備える。
【0036】
モード選択部11は、モードを選択する。例えば、モード選択部11は、ユーザによる操作部(不図示)の操作に応じて、モードを選択する。また、モードは、図1に示すように、第1モードと第2モードの2つであるとして説明するが、これに限られず、3つ以上あってもよい。
【0037】
制御部12は、モード選択部11によって選択されたモードに基づいて、減衰量とオフセット値を決定する。例えば、記憶部16には、モードに対応して、減衰量とオフセット値が設定されているテーブルAが格納されている。制御部12は、モード選択部11によって選択されたモードに基づいて、記憶部16を参照して、減衰量とオフセット値を決定する。
【0038】
減衰部13は、受信アンテナ部20により受信した受信信号を制御部12により決定された減衰量に基づいて減衰処理する。
復調部14は、減衰部13で減衰処理された受信信号に対して、制御部12により決定されたオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う。
【0039】
ビット誤り率測定部15は、復調部14でデジタル復調処理された受信信号のビット誤り率(BER)を測定する。
記憶部16は、ビット誤り率(BER)と受信電力値の関係が対応付けられているテーブルBが格納されている。
特定部17は、記憶部16を参照してモード選択部11によって選択されたモードに対応するテーブルBを選択し、当該テーブルBに基づいて、ビット誤り率測定部15により測定されたビット誤り率(BER)に対応する受信電力値を特定する。
【0040】
このようにして、電子機器1は、ビット誤り率測定部15により測定された受信信号のビット誤り率(BER)に基づいて受信電力値を求めるので、内部雑音等の特性変動の影響を受けず、短時間で正確な受信電力値を求めることができる。
【0041】
また、電子機器1の技術的特徴を利用した実施例について以下に説明する。
<実施例1>
電子機器1により受信アンテナ部20の指向性を測定する構成について説明する。
一般的に、アンテナの指向性は、送信アンテナ部と受信アンテナ部とが互いに見通せる環境において、被測定対象である受信アンテナ部の向きと角度を変化させ、各位置における受信電力値を順次測定することにより算出する。
【0042】
ここで、受信電力値を直接測定した場合には、装置の内部雑音等の特性変動の影響を受けやすく、正確な受信電力値の測定が困難になる。なお、直接測定した受信電力値を所定時間で平均化すれば、上述の影響を低減することができるが、受信電力値を平均化するための所定時間分だけ測定が遅れてしまうデメリットがある。
【0043】
よって、従来の構成では、不正確な受信電力値に基づいて短時間で受信アンテナ部の指向性の測定をするか、又は、時間をかけて正確な受信電力値に基づいて受信アンテナ部の指向性の測定を行っていた。
【0044】
そこで、電子機器1の制御部12は、特定部17により特定した受信電力値に基づいて受信アンテナ部20の指向性を測定する。
特定部17により特定される受信電力値は、ビット誤り率測定部15により測定された受信信号のビット誤り率(BER)に基づいて求められるので、内部雑音等の特性変動の影響を受けず、短時間で正確な値である。
よって、電子機器1は、正確な受信電力値に基づいて短時間で受信アンテナ部20の指向性の測定を行うことができる。
【0045】
<実施例2>
電子機器1により受信アンテナ部20の方向調整する構成について説明する。
指向性アンテナを用いたマイクロ波又はミリ波等の無線伝送システムでは、送信アンテナ部と受信アンテナ部を最適な角度で正対させる必要がある。
無線伝送システムでは、例えば、受信アンテナ部の方向を変動させながら受信電力値を測定し、受信アンテナ部の受信電力値が所定の値を超える方向、又は受信電力値が最大となる方向になるように、受信アンテナ部の方向調整を行う。
【0046】
ここで、受信電力値を直接測定した場合には、装置の内部雑音等の特性変動の影響を受けやすく、正確な受信電力値の測定が困難になる。なお、直接測定した受信電力値を所定時間で平均化すれば、上述の影響を低減することができるが、受信電力値を平均化するための所定時間分だけ測定が遅れてしまうデメリットがある。
【0047】
よって、従来の構成では、不正確な受信電力値に基づいて短時間で受信アンテナ部の方向調整を行うか、又は、時間をかけて正確な受信電力値に基づいて受信アンテナ部の方向調整を行っていた。
【0048】
本実施形態に係る電子機器1は、ビット誤り率測定部15により測定された受信信号のビット誤り率(BER)に基づいて受信電力値を求めるので、内部雑音等の特性変動の影響を受けず、短時間で正確な受信電力値を求めることができる。
制御部12は、正確な受信電力値に基づいて短時間で受信アンテナ部20の水平及び垂直方向の角度の調整(方向調整)を行う。
【0049】
つぎに、受信アンテナ部20の構成について説明する。
受信アンテナ部20は、フェーズドアレーアンテナにより構成される。フェーズドアレーアンテナは、多数のアンテナ素子を組み合わせて1つのアンテナとして動作させることで、アンテナの指向性を任意の方向に形成できる特徴をもつ可変指向性アンテナである。
【0050】
このような構成によれば、制御部12は、正確な受信電力値に基づいて受信アンテナ部20の指向性を調整することにより、受信アンテナ部20の方向調整を行うことができる。
【0051】
また、受信アンテナ部20は、アンテナの水平及び垂直方向を機械的に制御する回転台にアンテナが載置される構成でもよい。
このような構成によれば、制御部12は、正確な受信電力値に基づいて回転台を制御することにより、受信アンテナ部20の方向調整を行うことができる。
【0052】
<実施例3>
電子機器1により降雨減衰量を測定する構成について説明する。
マイクロ波又はミリ波等の無線伝送システムでは、降雨の影響を受けると受信電力値が減衰することが分かっている。電子機器1は、受信電力値の減衰量を計測することにより、降雨減衰量を測定する。
【0053】
ここで、受信電力値を直接測定した場合には、装置の内部雑音等の特性変動の影響を受けやすく、正確な受信電力値の測定が困難になる。なお、直接測定した受信電力値を所定時間で平均化すれば、上述の影響を低減することができるが、受信電力値を平均化するための所定時間分だけ測定が遅れてしまうデメリットがある。
【0054】
そうすると、不正確な受信電力値に基づいて降雨減衰量を測定するか、又は、時間をかけて正確な受信電力値に基づいて降雨減衰量を測定することになる。
【0055】
本実施形態に係る電子機器1は、ビット誤り率測定部15により測定された受信信号のビット誤り率(BER)に基づいて受信電力値を求めるので、内部雑音等の特性変動の影響を受けず、短時間で正確な受信電力値を求めることができる。
制御部12は、この正確な受信電力値の減衰量に基づいて、降雨減衰量を算出する。
【0056】
具体的には、電子機器1は、予め、人工的に降雨量x[mm/h]を変化させたときの受信電力値をそれぞれ計測し、降雨量と受信電力値(降雨減衰量)の対応関係を示すテーブルCを作成し、作成したテーブルCを記憶部16に格納させておく。
【0057】
制御部12は、ビット誤り率測定部15により測定された受信信号のビット誤り率(BER)に基づいて受信電力値(降雨減衰量)を求め、記憶部16に記憶されているテーブルCを参照し、降雨量を算出する。
【0058】
このようにして、電子機器1は、ビット誤り率測定部15により測定された受信信号のビット誤り率(BER)に基づいて受信電力値を特定し、受信電力値から降雨量を測定することができる。
【0059】
<実施例4>
電子機器1により対象物に混入している異物の有無を判断する構成について説明する。
例えば、ベルトの上に対象物を載せて移動させる装置(例えば、ベルトコンベア)において、ベルトの下方に送信アンテナを配置し、ベルトの上方に受信アンテナを配置する。なお、送信アンテナと受信アンテナとは対向している。
この状態において、ベルトを動かし、送信アンテナからマイクロ波又はミリ波の電波を送信し、受信アンテナで受信する。
【0060】
制御部12は、特定部17により特定した受信電力値に基づいて、ベルトの上の対象物の中に異物が混入しているか否かの有無を判断する。
【0061】
具体的には、電子機器1は、予め、異物が混入していない対象物をベルトの上に載せて移動させている状態において、送信アンテナから電波を送信し、対象物とベルトを透過してきた電波を受信アンテナにより受信し、そのときの受信電力値を基準値として記憶部16に記憶させておく。
【0062】
制御部12は、特定部17により特定した受信電力値に基づいて、記憶部16に記憶されている基準値を参照し、受信電力値が基準値から所定値以上減衰していると判断した場合には、対象物の中に異物が混入していると判断する。
【0063】
また、電子機器1は、対象物に異物が混入していると判断した場合には、アラームを鳴動させたり、下流側に配置されている異物を取り除く装置に信号を送信するような構成でもよい。
【0064】
<第2構成>
第1構成に係る電子機器1は、選択された一つのモードに応じた減衰量とオフセット値を設定し、一つの受信電力値を求めるものである。
第2構成に係る電子機器2は、選択された二つのモードに応じた減衰量とオフセット値をそれぞれ設定し、二つの受信電力値を求め、求めた受信電力値を事後的に使い分けるものである。第2構成に係る電子機器2は、測定する受信電力値のレベルや変動幅が不明確である場合にも対応できるように、広いダイナミックレンジでの測定をすることができる。
以下に、電子機器2の構成と動作について説明する。
【0065】
電子機器2は、図3に示すように、モード選択部21と、制御部22と、第1減衰部23と、第1復調部24と、第1ビット誤り率測定部25と、第2減衰部26と、第2復調部27と、第2ビット誤り率測定部28と、記憶部29と、特定部30と、を備える。
【0066】
なお、モード選択部21は、実質的に、モード選択部11に相当する。制御部22は、実質的に、制御部12に相当する。第1減衰部23及び第2減衰部26は、実質的に、減衰部13に相当する。第1復調部24及び第2復調部27は、実質的に、復調部14に相当する。第1ビット誤り率測定部25及び第2ビット誤り率測定部28は、実質的に、ビット誤り率測定部15に相当する。記憶部29は、実質的に、記憶部16に相当する。特定部30は、実質的に、特定部17に相当する。
【0067】
モード選択部21は、第1モード又は第2モードを選択する。
制御部22は、モード選択部21により第1モードが選択された場合には、減衰量を第1の減衰量とし、かつオフセット値を第1のオフセット値にし、モード選択部21により第2モードが選択された場合には、減衰量を第2の減衰量にし、オフセット値を第2のオフセット値にする。
【0068】
第1減衰部23は、アンテナにより受信した受信信号を第1の減衰量に基づいて減衰処理する。
第1復調部24は、第1減衰部23で減衰処理された受信信号に対して第1のオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う。
第1ビット誤り率測定部25は、第1復調部24でデジタル復調処理された受信信号のビット誤り率を測定する。
【0069】
第2減衰部26は、アンテナにより受信した受信信号を第2の減衰量に基づいて減衰処理する。
第2復調部27は、第2減衰部26で減衰処理された受信信号に対して第2のオフセット値に基づいてデジタル復調処理を行う。
第2ビット誤り率測定部28は、第2復調部27でデジタル復調処理された受信信号のビット誤り率を測定する。
【0070】
記憶部29は、ビット誤り率と受信電力値の関係が対応付けられているテーブルが格納されている。
【0071】
特定部30は、モード選択部21によって第1モードが選択された場合には、第1モードに対応するテーブルを記憶部29から選択し、当該テーブルに基づいて、第1ビット誤り率測定部25により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定する。
また、特定部30は、モード選択部21によって第2モードが選択された場合には、第2モードに対応するテーブルを記憶部29から選択し、当該テーブルに基づいて、第2ビット誤り率測定部28により測定されたビット誤り率に対応する受信電力値を特定する。
【0072】
このようにして、電子機器2は、第1モード及び第2モードにおけるそれぞれの受信電力値を特定するので、広いダイナミックレンジで受信電力値を求めることができる。
【0073】
なお、上述では、主に電子機器の構成と動作について説明したが、これに限られず、各構成要素を備え、ビット誤り率(BER)に基づいて正確な受信電力値を高速に測定するための方法、及びプログラムとして構成されてもよい。
【0074】
さらに、電子機器の機能を実現するためのプログラムをコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。
【0075】
ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータで読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0076】
さらに「コンピュータで読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時刻の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時刻プログラムを保持しているものも含んでもよい。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 電子機器
11、21 モード選択部
12、22 制御部
13 減衰部
14 復調部
15 ビット誤り率測定部
16、29 記憶部
17、30 特定部
20 受信アンテナ部
23 第1減衰部
24 第1復調部
25 第1ビット誤り率測定部
26 第2減衰部
27 第2復調部
28 第2ビット誤り率測定部
図1
図2
図3