特許第6203032号(P6203032)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6203032ケーキ類の焼成後の型崩れ減少剤、及びケーキ類の原料生地の粘度低下剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203032
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ケーキ類の焼成後の型崩れ減少剤、及びケーキ類の原料生地の粘度低下剤
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/16 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   A21D2/16
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-259722(P2013-259722)
(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公開番号】特開2015-116130(P2015-116130A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年6月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 康夫
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−071153(JP,A)
【文献】 特開平09−023807(JP,A)
【文献】 特開平11−113478(JP,A)
【文献】 特開2008−125445(JP,A)
【文献】 特開2009−148225(JP,A)
【文献】 特開2009−148226(JP,A)
【文献】 特開2009−142185(JP,A)
【文献】 特開2006−149298(JP,A)
【文献】 特開2009−201380(JP,A)
【文献】 特開平09−047216(JP,A)
【文献】 Journal of Food Quality,1996年,Vol. 19,p. 295-302
【文献】 簡単&ヘルシー☆甘さ控えめガトーショコラ,クックパッド, [online],2012年10月 2日,[平成28年9月30日検索], インターネット <URL : http://cookpad.com/recipe/1980208>
【文献】 ヘルシーなマフィン☆パレオダイエット,クックパッド, [online],2013年 3月28日,[平成28年9月30日検索], インターネット<URL : http:cookpad.com/recipe/2169508>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 − 17/00
A23G 1/00 − 9/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロール、及び構成脂肪酸が炭素数6〜10の中鎖脂肪酸のみからなるトリアシルグリセロールを有効成分とする、加熱凝固してなるケーキ類(蒸しケーキ類を除く)の焼成後の型崩れ減少剤。
【請求項2】
炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロール、及び構成脂肪酸が炭素数6〜10の中鎖脂肪酸のみからなるトリアシルグリセロールを有効成分とする、加熱凝固してなるケーキ類(蒸しケーキ類を除く)の原料生地粘度低下剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーキ類及びその製造方法に関する。より詳細には、しっとり感があり、かつソフトな口どけを有し、しかも、香り立ちが良く、焼成後の型崩れが少ないケーキ類及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキ類とは、一般に、小麦粉、卵、牛乳、砂糖等の原材料を混合して得られた生地に対し、焼く、蒸す等の加熱処理を施して製造する菓子のことである。その原材料の配合や製造方法等を変えることにより、様々な食感を有するものが得られるが、最近では、嗜好性の多様化を受けて、しっとり感があり、かつソフトで口どけの良好なものが求められている。
【0003】
焼く、蒸す等の加熱処理を行うと、水分が蒸発したり、熱凝固をするため、ケーキ類のソフトな食感が失われることがある。加熱凝固してもなおソフトな食感を有するケーキ類の製造方法としては、例えば、生地中の水分や脂質の含有量を高めるとともに、蛋白質や澱粉の含有量を低くすることで、加熱凝固により発生する食感のざらつきを緩和する方法がある。しかし、水分や脂質の含有量が高い生地や、蛋白質や澱粉の含有量が低い生地は、静置時に濃度勾配を生じやすいため、安定してソフトな食感を有するケーキ類を得ることが難しい。そこで、特許文献1にあるように、グリセリンモノ脂肪酸エステルやグリセリン有機酸脂肪酸エステル等の食品用乳化剤を配合して、ソフトな食感を有するケーキ類の製造方法が提案されているが、十分満足できるソフトな食感は得られていない。
【0004】
さらに、特許文献2にあるように、乳酸発酵卵白及びクリーム、バター、乳化油脂からなる群より選ばれる一種又は二種以上を配合して、ソフトな食感を有するケーキ類を製造する方法や、また、特許文献3にあるように、乳酸発酵した特定の加工卵白を配合する方法も提案されているが、これらの方法は乳酸発酵を必要とするため、手間がかかるものであり、より簡便な方法で、ソフトな食感を得る方法が求められていた。
【0005】
加えて、特許文献4にあるように、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを含む油脂を加えて、マドレーヌをなどのケーキ類を製造する方法も知られているが、パーム分別軟質油を必須とするものであり、生地中に添加する油脂に含まれる中鎖脂肪酸の含量は少なく、本発明とは本質的に異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−075137号公報
【特許文献2】特開2010−220565号公報
【特許文献3】特開2010−268704号公報
【特許文献4】特開2009−148225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ケーキ類の焼成後の型崩れ減少剤、ケーキ類の原料生地粘度低下剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、油脂を添加することでソフトな食感を有するケーキ類の製造方法について鋭意研究を行った結果、生地中に添加する油脂として、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを特定量配合することにより、しっとり感があり、かつソフトな口どけを有し、しかも香り立ちが良く、焼成後に型崩れが少ないケーキ類が得られることを見出し、本発明を完成させた。また、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを特定量配合した生地は、サラサラとしていて滑らかであり、計量がしやすく、型に入れやすいことも見出した。
【0009】
すなわち、本発明の第1の態様は、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロール、及び構成脂肪酸が炭素数6〜10の中鎖脂肪酸のみからなるトリアシルグリセロールを有効成分とする、加熱凝固してなるケーキ類(蒸しケーキ類を除く)の焼成後の型崩れ減少剤を提供することである。
本発明の第2の態様は、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロール、及び構成脂肪酸が炭素数6〜10の中鎖脂肪酸のみからなるトリアシルグリセロールを有効成分とする、加熱凝固してなるケーキ類(蒸しケーキ類を除く)の原料生地粘度低下剤を提供することである。
【発明の効果】
【0010】
すなわち、本発明の一態様によれば、加熱凝固してなるケーキ類であって、生地中に油脂を10〜40質量%含有させるとともに、前記油脂には、構成脂肪酸として炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを前記油脂の50質量%以上含有させることを特徴とする、しっとり感があり、かつ、ソフトな口どけを有し、しかも、香り立ちが良く、焼成後の型崩れが少ないケーキ類を提供することができる。
本発明の好ましい態様によれば、上記ケーキ類がガトーショコラである、ケーキ類を提供することができる。
また、本発明の一態様によれば、生地の原材料に、油脂を10〜40質量%含有させる工程(ここで前記油脂は、構成脂肪酸として炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを前記油脂の50質量%以上含有している。)、次いで、前記工程で得られた生地を計量し型に流し込んで加熱凝固させる工程を含む、しっとり感があり、かつ、ソフトな口どけを有し、しかも、香り立ちが良く、焼成後の型崩れが少ないケーキ類の製造方法を提供することができる。
また、本発明の一態様によれば、加熱凝固してなるケーキ類用の食感改質剤であって、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを有効成分とし、かつ、しっとり感があり、かつ、ソフトで口どけ良好なものとする食感改良効果が得られる、ケーキ類用食感改質剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の場合における焼き上がり状態を示す図である。
図2】比較例1の場合における焼き上がり状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のケーキ類について順を追って記述する。
本発明において「ケーキ類」とは、小麦粉、卵等の原材料を混合して得られた生地を加熱凝固して製造されるものであり、加熱凝固して製造されるものであれば特に限定されないが、例えば、スポンジケーキ、シフォンケーキ、バターケーキ、ガトーショコラ、チーズケーキ、ホットケーキ、カステラ、ドーナツ等が挙げられる。その中でも、油分を多く含む、ガトーショコラが特に好ましい。ただし、本発明の「ケーキ類」においては、蒸しケーキ、マーラーカオのような蒸しケーキ類は除かれる。
【0013】
本発明のケーキ類を加熱凝固させる方法は、特に制限されないが、例えば、フライパンやオーブン等による焼き調理や蒸し焼き調理、フライヤー等による油調理、電子レンジ等によるマイクロ波調理等が挙げられる。
【0014】
本発明のケーキ類に用いられる油脂としては、食用油、マーガリン、ファットスプレッド、及びショートニングなどが挙げられ、これらの一種又は2種以上が用いられる。このうち、マーガリン及びファットスプレッドには、油脂以外に水や調味料等の副材料が含まれるが、これらを用いた場合の油脂含量は、水や調味料等の副材料をプラスしたものとして計算される。また、本発明のケーキ類は、その生地中に上記油脂を10〜40質量%含有する。本発明のケーキ類の油脂含量は、好ましくは10〜30質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。
なお、本発明では、配合する油脂以外の含油原料に由来する油脂は含めない。例えば、カカオマスの油脂(ココアバター)含量は約55質量%であり、ココアパウダーの油脂(ココアバター)含量は約11質量%であり、全脂粉乳の油脂(乳脂)含量は約25質量%であるから、チョコレートを生地に配合した場合、チョコレート全量の約30質量%の油脂分が生地に含まれることになるが、本発明では、これを上記油脂に含めない。
【0015】
本発明のケーキ類に含まれる炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロール(以下、「MTG」とも表す。)の含量は、ケーキ類に配合する油脂含量の50質量%以上となるように配合しなければならない。また、上記油脂には上記トリアシルグリセロールが50〜100質量%含まれていることが好ましく、60〜90質量%含まれていることがさらに好ましい。
【0016】
本発明のケーキ類の油脂中には、構成脂肪酸として炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールが含まれているが、このトリアシルグリセロールは、構成脂肪酸を炭素数6〜10の中鎖脂肪酸のみとするトリアシルグリセロールであってもよいし、構成脂肪酸として炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を含む混酸基トリアシルグリセロールであってもよい。ここで、各々の中鎖脂肪酸のグリセリンへの結合位置は、特に限定されない。また、混酸基トリアシルグリセロールである場合には、構成脂肪酸の一部に炭素数6〜10以外の脂肪酸を含んでいてもよく、例えば、長鎖脂肪酸を含んでいてもよい。
また、本発明において用いられる油脂は、例えば、トリオクタノイルグリセロールとトリデカノイルグリセロールとの混合物等、複数の異なる分子種の油脂が混ざり合った混合物であってもよい。ここで、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸は、直鎖状の飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0017】
本発明のケーキ類に含まれる中鎖脂肪酸を含むトリアシルグリセロールとしては、構成脂肪酸が炭素数6〜10の中鎖脂肪酸のみからなるトリアシルグリセロール(以下「MCT」とも表す。)が好ましく、MTG中のMCT含量が30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。特に、構成脂肪酸が炭素数8又は10の中鎖脂肪酸のみからなるMCTがより好ましい。
本発明のケーキ類の油脂中に含まれるMCTは、従来公知の方法で製造できる。例えば、炭素数6〜10の脂肪酸とグリセロールとを、触媒下、好ましくは無触媒下で、また、好ましくは減圧下で、120〜180℃に加熱し、脱水縮合させることにより製造できる。
【0018】
本発明のケーキ類は、ケーキ類の生地中の油脂の含量および炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を含むトリアシルグリセロールの含量が上記特定の範囲を満たしている限り、他のどのような油脂原料を使用してもよい。例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂、ココアバター等やこれらの混合油、加工油脂等を使用することができる。
【0019】
本発明のケーキ類は、油脂以外に好ましくは糖類を含有する。糖類としては、例えば、ショ糖(砂糖、粉糖)、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、還元澱粉糖化物、液糖、酵素転化水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖ポリデキストロース、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトース、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、デキストリン等を使用することができる。本発明のケーキ類に含まれる糖類の含量は、その生地中に、好ましくは10〜60質量%であり、より好ましくは10〜50質量%であり、さらに好ましくは10〜40質量%である。
【0020】
本発明のケーキ類は、油脂、糖類以外にも、ケーキ類に一般的に配合される原材料を使用することができる。具体的には、例えば、小麦粉、米粉等の穀粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等の生澱粉、物理的/酵素的/化学的処理を施した澱粉、家禽の全卵、卵白、抗菌卵、凍結卵、濃縮卵、乾燥卵等の卵類、アーモンド、ナッツペースト、ナッツ粉末等のナッツ類、果実、果汁、果肉ペースト、乾燥果実等の果実類、野菜、野菜汁、野菜ペースト、乾燥野菜等の野菜類、牛乳、濃縮乳、粉乳、乳蛋白質、発酵乳、チーズ等の乳原料、豆乳、大豆蛋白質等の大豆類、ゼラチン等の蛋白質原料、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、タマリンドガム、ペクチン、カラギーナン、寒天、コンニャクマンナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の増粘多糖類、バニラフレーバー、フルーツフレーバー等の香料、クチナシ色素等の着色料、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、酒石酸水素カリウム等のpH調整剤、クエン酸、乳酸等の酸味料、ベーキングパウダー、重曹等の膨張剤、塩化ナトリウム等の塩類、食物繊維、酒類、コーヒー、紅茶、抹茶、ココア、チョコレート、キャラメル等を使用することができる。
【0021】
本発明のケーキ類は、従来公知の方法に、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを含む油脂を配合することにより製造することができる。具体的には、まず、必要に応じてホイッパー、泡だて器、ミキサー等で撹拌した小麦粉、卵、砂糖、牛乳等の原材料及び炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを含む油脂を撹拌混合し、混合物を調製する。続いて得られた混合物を型に入れる又は成形し、焼成、油ちょう等の加熱処理により凝固させる方法が挙げられる。
【0022】
ところで、以上述べたように、本発明に用いる炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールは、ケーキ類をしっとり感があり、かつソフトで口どけの良好なものに改変するから、本発明は、加熱凝固してなるケーキ類用の食感改質剤であって、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を含むトリアシルグリセロールを有効成分とする、ケーキ用食感改質剤にも関する。以下に示すように、本発明のケーキ用食感改良剤をケーキ類に配合することにより、ケーキ類をしっとり感があり、かつソフトで口どけの良好なものとする食感改良効果を得ることができる。
また、本発明のケーキ類用食感改良剤は、有効成分であると上述した炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを含有したものであればよく、この他に本発明の効果を損なわない範囲で、大豆油、菜種油などの油脂、デキストリン、澱粉等の賦形剤、他の品質改良剤等を含有させたものであってもよい。
【実施例】
【0023】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。また。以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0024】
<分析方法>
トリアシルグリセロール含量は、AOCS Ce5−86に準じて測定した。
各脂肪酸含量は、AOCS Ce1f−96に準じて測定した。
【0025】
<原料油脂>
以下、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを「MTG」と省略する。また、そのうち、構成脂肪酸が炭素数6〜10の中鎖脂肪酸のみからなるトリアシルグリセロールを「MCT」と省略する。
〔MCT1〕:トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸がn−オクタン酸(炭素数8)とn−デカン酸(炭素数10)であり、その質量比が30:70であるMCT(日清オイリオグループ株式会社社製)をMCT1とした。なお、このMCT1に含まれるMTG含量は100質量%であり、MCT含量も100質量%である。
〔MCT2〕:上記MCT1を41.7質量%、ヤシ硬化油(日清オイリオグループ株式会社社製、MTG含量53.2質量%)を32.9質量%、ハイエルシン菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製、MTG含量0質量%)を0.5質量%、パームステアリン極度硬化油50質量部とパーム核オレイン極度硬化油50質量部との混合油を化学的エステル交換したエステル交換油(MTG含量13.2質量%)を8.3質量%、乳化剤を0.4質量%、水を16.0質量%、及び食塩を0.2質量%混ぜたものを、常法に従って、コンビネーターにより急速可塑化することにより、中鎖マーガリン(日清オイリオグループ株式会社製、商品名:リセッタソフト)を製造し、これをMCT2とした。なお、このMCT2に含まれるMTG含量は60.3質量%であり、MCT含量は69.2質量%である。
〔LCT1〕サラダ油(日清オイリオグループ株式会社社製、商品名:日清サラダ油)。これをLCT1とした。なお、このLCT1に含まれるMTG含量は0質量%であり、MCT含量も0質量%である。
〔LCT2〕菜種油(日清オイリオグループ株式会社社製、MTG含量0質量%)を41.7質量%、パーム中融点画分(日清オイリオグループ株式会社製、MTG含量0質量%)を20.4質量%、パームオレインを化学的エステル交換したエステル交換油(MTG含量0質量%)を12.5質量%、パームステアリン極度硬化油50質量部とパーム核オレイン極度硬化油50質量部との混合油を化学的エステル交換したエステル交換油(MTG含量13.2質量%)を8.3質量%、ハイエルシン菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製、MTG含量0質量%)を0.5質量%、乳化剤を0.4質量%、水を16.0質量%、及び食塩を0.2質量%混ぜたものを、常法に従って、コンビネーターにより急速可塑化することにより、長鎖マーガリンを製造し、これをLCT2とした。なお、このLCT2に含まれるMTG含量は1.1質量%であるが、MCT含量は0質量%である。
【0026】
[実施例1]
<ガトーショコラの製造>
下記表1の配合に従って、実施例1、比較例1のガトーショコラを、常法に従って製造した。具体的には、まず、下記に示された配合の油脂、上白糖、重曹、及び食塩を混合し、配合物1を得た。次に、チョコレートを湯煎に溶かして牛乳と混合し、配合物2を得た。こうして得られた配合物1と2を混合し、全卵を加え、さらに薄力粉とココアパウダーとブランデーを混合して、ガトーショコラ生地を得た。直径4cmで高さが3.5cmである紙型に得られた生地を30gずつ入れて、150℃のオーブンで11分間焼成し、下記のガトーショコラを製造した。
【0027】
【表1】
【0028】
<ガトーショコラの評価>
上記で製造した、実施例1と比較例1のガトーショコラの食感について、以下の評価方法に従って評価した。
【0029】
<ガトーショコラの評価方法>
(1)食感の評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。
◎:しっとり感があり、ソフトな口どけが良好
○:しっとり感はややあるが、ソフトな口どけは十分でない
△:しっとり感も、ソフトな口どけも普通である
×:しっとり感も、ソフトな口どけも少ない
(2)香り立ちの評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した
○:香り立ちがよい
△:やや香り立ちが弱い
×:香り立ちがない
【0030】
表1から明らかであるように、MCT1及び2を用いて製造したガトーショコラは、LCT1及び2を用いて製造したものと比較して、出来上がりがしっとりしており、ソフトな口どけを有していることがわかった。また、香り立ちも良いことがわかった。
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
また、表2及び3から明らかであるように、両製品は比重に関しては差がないものの、粘度においては大きな差があった。すなわち、MCT1及び2を用いて製造した生地は、LCT1及び2を用いて製造した生地と比較して、驚くべきことに、粘度が低く、生地がサラサラしており、計量しやすく、型に入れやすいという特徴を有することが明らかとなった。また、1.5時間後の生地の粘度を測定すると、MCT1及び2を用いて製造した生地は、粘度が大きく変わらないが、LCT1及び2を用いて製造した生地は、粘度が2倍以上に上昇していた。このように、MCT1及び2を用いて製造した生地は、長時間持続してサラサラしており、大量生産する際には極めて高い意義を持つものである。なお、調製直後の生地の温度はどちらも約26℃であり、1.5時間後の生地の温度はどちらも約22℃である。
【0034】
さらに、図1(実施例1)及び図2(比較例1)から明らかであるように、両製品の焼成品の状態を比較すると、MCT1及び2を用いたガトーショコラは、型崩れせず、きれいな保形性を保っていたが、LCT1及び2を用いたガトーショコラは、型崩れを起こしており、見た目に良くない製品となっていた。
図1
図2