特許第6203053号(P6203053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203053
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】遷移金属複合酸化物前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20170914BHJP
【FI】
   H01M4/48
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-540472(P2013-540472)
(86)(22)【出願日】2011年11月24日
(65)【公表番号】特表2014-503942(P2014-503942A)
(43)【公表日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】IB2011055280
(87)【国際公開番号】WO2012070011
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2014年11月20日
(31)【優先権主張番号】10192582.4
(32)【優先日】2010年11月25日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ‐ドブリック,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】シュレードゥレ,ズィモン
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−097087(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/064180(WO,A1)
【文献】 特開平11−167919(JP,A)
【文献】 特開2006−004724(JP,A)
【文献】 特開2011−233300(JP,A)
【文献】 特開2003−086182(JP,A)
【文献】 特開2007−123255(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0194734(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0233696(US,A1)
【文献】 特開平07−196323(JP,A)
【文献】 特開昭55−062814(JP,A)
【文献】 特開平05−325969(JP,A)
【文献】 特開2002−060225(JP,A)
【文献】 特開平05−343066(JP,A)
【文献】 特開平10−321224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36 −4/62
C01G 45/00−45/12
C01G 51/00−51/12
C01G 53/00−53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の
(A)遷移金属炭酸塩が、200〜900℃の範囲の温度で熱処理され、
(B)一回以上洗浄され、
(C)次いで乾燥される、
工程を含み、
炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムの水溶液を遷移金属Mの酢酸塩、硫酸塩、または硝酸塩の水溶液に添加して析出させることにより、前記遷移金属炭酸塩が得られ、及び
前記遷移金属Mが、NiとCoとMnから成る群から少なくとも2種選ばれ、及び
(B)の一回以上洗浄する工程が、水を使用して行われることを特徴とする電極材料前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属Mの酢酸塩、硫酸塩、または硝酸塩の水溶液が、Li、Rb、Cs、Mg、Ca、Al、又はこれらの元素の二種以上の水溶性塩を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遷移金属炭酸塩が球状粒子の形で存在する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
55〜85モル%の前記遷移金属Mが、Mnとして選ばれる請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法で製造される前駆体と少なくとも一種のリチウム化合物の混合物を600〜1000℃で熱処理するリチウムイオン電池用電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
(A)必要なら塩基性である遷移金属炭酸塩が、200〜900℃の範囲の温度で熱処理され、
(B)一回以上洗浄され、
(C)次いで乾燥される
遷移金属複合酸化物前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの保存が、長い間注目を浴びている。電気化学セルを、例えば電池やアキュムレータを電気エネルギーの貯蔵に使用できる。近年、リチウムイオン電池が大きな興味を集めている。これらは、従来の電池に較べていくつかの技術の面で優れている。したがってこれらは、水電解液系の電池を用いて得ることのできない電圧を発生させることができる。
【0003】
ここでは、電極材料が何であるか、特にカソード材料が何であるかが重要な役割を果たす。
【0004】
多くの場合、リチウムを含む遷移金属複合酸化物が使用され、特にリチウム含有ニッケル−コバルト−マンガン酸化物(一種以上の遷移金属でドープされていてもよい)が使用される。このようなリチウム含有遷移金属複合酸化物は通常、二段プロセスで製造され、一つの難溶性化合物または複数の難溶性化合物の混合物がまず一種以上の遷移金属塩の溶液から析出される。この難溶性化合物または混合物は、前駆体とも呼ばれている。この前駆体を、二段階目で、600〜1000℃の範囲で熱処理する。
【0005】
しかしながら、多くの電池に関わる問題点は、サイクル安定性と高電力安定性とエネルギー密度であり、これらはそれぞれ改善を必要とする。
【0006】
我々の観察により、電極材料の性能が、遷移金属複合酸化物の組成に関するいろいろな因子とその形態に依存することが明らかとなった。その製造工程は電極材料の性質に影響を与え、また多くの場合、前駆体の製造工程も同様に影響を与える。この場合、微量の不純物でもある役割を果たす。
【0007】
遷移金属でのドーピングが望ましいが、多くの場合ナトリウムまたはカリウムの汚染が望ましくない。
【0008】
US2009/0194746には、特定のタップ密度とBET表面積と粒度をもつニッケルとマンガンとコバルトを含む前駆体を、混合炭酸塩からの析出により製造する方法が開示されている。この方法は、少なくとも三種の異なる溶液(即ち、遷移金属の塩、例えば塩化物の溶液と、金属カーボネート、特に炭酸アルカリの溶液、遷移金属塩のアニオンの金属塩、例えばアルカリ金属塩化物の溶液)を相互に混合することからなる。これにより、酸化物や水酸化物を含まない球状のニッケルとマンガンとコバルトの炭酸塩が得られる。しかしながら一つの欠点は、追加して用いられるアルカリ金属塩、例えばアルカリ金属塩化物が副産物として得られ、後処理が必要であるか廃棄する必要があることである。
【0009】
US2009/0197173には、高いBET表面積をもつ酸化物と水酸化物を含まないニッケルとマンガンとコバルトの炭酸塩の製造方法が開示されている。塩化ニッケルと塩化コバルトと塩化マンガンの溶液と炭酸水素ナトリウムの溶液が混合される。しかしながら、一つの欠点は、炭酸水素ナトリウムの溶解度が大きくないため、大体積の炭酸水素ナトリウム溶液を処理する必要があることである。
【0010】
US2006/0121350には、複数の炭酸塩(ニッケルとマンガンとコバルトの炭酸塩と式DCOの炭酸塩)とD(OH)の水酸化物の混合物である粒子を製造する方法が開示されている。ここでは、遷移金属塩とDの塩の溶液がLiCOと混合される。このプロセスの欠点は、炭酸リチウムが比較的高価であり、母液を後処理することによってのみ回収されることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US2009/0194746
【特許文献2】US2009/0197173
【特許文献3】US2006/0121350
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、改善された遷移金属複合酸化物前駆体と電極材料を製造可能な方法を提供することである。もう一つの目的は、改善された電極と改善された電気化学セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このため我々は、冒頭に述べた方法を見出した。本発明の目的では、この方法を、短縮して本発明の方法とよぶ。
【0014】
本発明の方法は、少なくとも三工程(短縮して、工程(A)と(B)と(C)と呼ぶ)からなる。
【0015】
工程(A)は、必要なら塩基性である遷移金属炭酸塩を出発原料として用いる。これは、出発原料が、式MCOの遷移金属炭酸塩であって、例えば、Mが、一種以上の遷移金属(好ましくは、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Zn、Ti及び/又はCr、特に好ましくはNiとCoとMn)の2価カチオンであるものであってよいことを意味する。
【0016】
式(I)の遷移金属炭酸塩:

M(CO(OH)(SO(PO (I)
【0017】
(式中の変数は次のように定義される:
Mは、一種以上の遷移金属であり、
Aは、ナトリウムまたはカリウムであり、
Bは、周期律表の1〜3族の一種以上の金属であって、ナトリウムとカリウム以外のものであり、
Xは、ハロゲン化物、硝酸またはカルボン酸であり、
bは、0.75〜0.98の範囲であり、
cは、0〜0.50の範囲であり、
dは、0〜0.50の範囲であり、
(c+d)の合計が、0.02〜0.50の範囲であり、
eは、0〜0.1の範囲であり、
fは、0〜0.05の範囲であり、
gは、0〜0.05の範囲であり、
hは、0〜0.10の範囲であり、
mは、0.002〜0.1の範囲である)、
を、出発原料として使用することが好ましい。
【0018】
必要なら塩基性である遷移金属炭酸塩は水を含んでいてもよい。本発明の目的では、「含水」や「水を含む」とは、その材料が化学的または物理的に結合している水を1〜50質量%の範囲で、好ましくは2〜20質量%の範囲で含むことを意味する。なお、水は、一般式(I)の材料の結晶格子中で結合していてもよいし、これら粒子に物理的に結合していてもよい。特に、材料を、例えば最高で105℃までの温度で乾燥した後でも、水が存在していることがある。化学結合している水の例としては、水和錯体や、例えば大気下で50〜150℃の範囲の温度で水を放出する熱的に不安定な水酸化物があげられる。しかしながら本発明の目的では、上記式(I)中ではいずれの水も考慮されていない。
【0019】
工程(A)は、200℃〜900℃の範囲、好ましくは300〜600℃の範囲の温度で行われる。
【0020】
工程(A)は、いずれの圧力で行ってもよい。適当な圧力は、例えば1〜10barであり、大気圧が好ましい。
【0021】
工程(A)は、連続的に行っても回分的に行ってもよい。
工程(A)の前で、将来の電極材料に望ましいリチウムと遷移金属の量に設定するのではなく、当量未満のリチウム化合物を添加することが好ましく、必要なら塩基性である遷移金属炭酸塩にリチウム化合物を添加しないことが特に好ましい。
【0022】
工程(A)での熱処理は、回転チューブ炉か、ロッカー反応器、マッフル炉、熔融石英バルブ炉、回文式または連続式の焼成炉、プッシュスルー炉中で実施できる。○○工程(A)での熱処理は、例えば酸化性雰囲気中で、不活性雰囲気中で、あるいは還元性雰囲気中で実施できる。酸化性雰囲気の一例は、空気である。不活性雰囲気の例は、希ガス雰囲気であり、特にアルゴン雰囲気や二酸化炭素雰囲気、窒素雰囲気である。還元性雰囲気の例は、0.1〜10体積%の一酸化炭素または水素を含む窒素または希ガスである。還元性雰囲気の他の例は、酸素より一酸化炭素を多く含む空気や、窒素または二酸化炭素で希釈された空気である。工程(A)は、好ましくは大気下で行われる。
【0023】
工程(A)での処理時間は、5分〜24時間である。
【0024】
工程(A)で処理後の材料は、物理吸着水を測定可能な量で含まないことが好ましい。
【0025】
本発明のある実施様態では、必要なら塩基性である遷移金属炭酸塩が、
式(I)の材料から選ばれる:
【0026】

M(CO(OH)(SO(PO (I)
【0027】
(式中の変数は次のように定義される:
Mは、一種以上の遷移金属であり、例えばNiやMn、Co、Fe、Cu、Zn、Ti、Cr、好ましくは2〜4種の遷移金属、特に好ましくは三種の遷移金属、特にニッケルとマンガンとコバルトの組合せである。
【0028】
Aは、ナトリウムまたはカリウムであり、
Bは、周期律表の1〜3族の金属であって、ナトリウムとカリウム以外のものであり、セシウムとルビジウムが好ましく、リチウムとマグネシウム、カルシウム、アルミニウム、またこれら元素の2種以上の混合物が特に好ましく、
Xは、ハライドイオン(例えばブロミド、好ましくはクロリド、特に好ましくはフルオリド)、硝酸イオンまたはカルボン酸イオン(好ましくはC−C−カルボキシレート、特にベンゾエートまたはアセテート)であり、
bは、0.75〜0.98の範囲であり、
cは、0〜0.50の範囲、好ましくは最大で0.30であり、
dは、0〜0.50の範囲、好ましくは最大で0.30であり、
(c+d)の合計は、0.02〜0.50の範囲、好ましくは最大で0.30であり、
eは、0〜0.1の範囲、好ましくは最大で0.05であり、
fは、0〜0.05の範囲であり、
gは、0〜0.05の範囲であり、
hは、0〜0.10の範囲、好ましくは最大で0.05であり、
mは、0.002〜0.1の範囲、好ましくは最大で0.05である)。
【0029】
本発明のある実施様態では、Mは、NiとMn、Co、Fe、Cu、Zn、Ti、Crから選ばれる少なくとも二種の遷移金属から選択される。Mが、NiとMnとCoの組み合わせてとして選択されることが非常に好ましい。
【0030】
本発明のある実施様態では、55〜85モル%のMがMnとして選択される。即ち、55〜85モル%のMがマンガンであり、残りが一種以上の他の遷移金属から選ばれ、好ましくはNiとCo、Fe、Cu、Zn、Ti及び/又はCrから、特に好ましくはNiとCoの組合せとなるように、Mが選ばれる。
【0031】
必要なら塩基性である遷移金属炭酸塩を製造するのに、一種以上の遷移金属Mと必要に応じてAとBの水溶性塩を含む水溶液を、出発原料として使用できる。本発明の目的では、このような溶液を「遷移金属塩水溶液」とよぶこともある。Mの水溶性塩、特にニッケルとコバルトとマンガンの水溶性塩は、例えば、遷移金属Mのカルボン酸塩、特に酢酸塩、また遷移金属Mの硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物(特に臭化物または塩化物)であり、Mは好ましくは酸化状態が+2で存在している。
【0032】
複数の遷移金属Mをもつ必要なら塩基性である遷移金属炭酸塩が使用される場合、アニオンとして2種以上の対イオンをもつ水溶液から出発することができ、例えば塩化コバルトと塩化ニッケルと酢酸マンガンの水溶液を使用することができる。他の実施様態では、それぞれ同じ対イオンを持つ複数の遷移金属の塩を使用できる。
【0033】
この遷移金属塩水溶液のMの総濃度は、0.01〜5mol/kg−溶液であり、1〜3mol/kg−溶液が好ましい。
【0034】
本発明のある実施様態では、式(I)中の変数fとgとhが、遷移金属水溶液中でどのような遷移金属塩が使用されているかにより決まる。したがって、例えばマンガンとコバルトとニッケルと、また必要なら一種以上の他の遷移金属Mの硫酸塩のみが遷移金属の水溶液の製造に使用される場合は、fが0より大きく、最大で0.05であり、gとhが0となることがある。
【0035】
必要なら塩基性である遷移金属炭酸塩の析出は、一つ以上の工程で遷移金属塩水溶液を一種以上の炭酸アルカリの水溶液と混合して、具体的には遷移金属塩水溶液に炭酸アルカリ溶液を添加して行うことが好ましい。特に好ましい炭酸アルカリは、炭酸ナトリウムと炭酸カリウムである。
【0036】
本発明のある実施様態では、この析出が、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムの水溶液を、遷移金属Mの酢酸塩、硫酸塩または硝酸塩の水溶液に添加して行われる。
【0037】
析出の後で、水を含む必要なら塩基性である遷移金属炭酸塩が、通常母液から分離される。これを、次いで洗浄し、20〜150℃の温度で乾燥してもよい。なお、この「母液」は、溶液中に存在する水と水溶性塩と他の添加物をさす。可能な水溶性塩は、例えば、遷移金属Mの対イオンのアルカリ金属塩(具体的には酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、ハロゲン化ナトリウム、特に塩化ナトリウム、ハロゲン化カリウム)や他の塩、使用するいずれかの添加物、また場合によっては過剰の炭酸アルカリである。
【0038】
分離は、例えば濾過や遠心分離、デカンテーション、噴霧乾燥または沈降で、あるいはこれらの運転の2つ以上の組合せにより行うことができる。適当な装置は、例えばフィルタープレスやベルトフィルター、液体サイクロン、傾斜板クラリファイヤー、あるいはこれら装置の組合せである。
【0039】
本発明のある実施様態では、必要なら塩基性である遷移金属炭酸塩が、球状粒子の形で存在する。これは粒子が実質的に球状であることを意味する。
【0040】
なお、「実質的に球状」はまた、例えば、完全に球状ではない粒子、例えば長軸と短軸が長さの差が10%以下である楕円状粒子をも含んでいる。一般式(I)の材料の形態は、顕微鏡で決めることができ、例えば光学的顕微鏡または走査型電子顕微鏡で決めることができる。
【0041】
「実質的に球状」はまた、完全には球状でない粒子であるが、その代表的な試料の少なくとも95%(質量平均)が実質的に球状である試料も含まれる。
【0042】
本発明のある実施様態では、含水材料の粒子径(D50)が2〜50μmの範囲である。なお本発明の目的では、この粒子径(D50)は、例えば光散乱で測定可能な平均粒子径(質量平均)である。
【0043】
洗浄は、本発明の方法の工程(B)で行われる。
【0044】
洗浄は、例えば水を用いて行うことができる。他の実施様態では、洗浄を、アルコール水混合物、例えばエタノールと水の混合物またはイソプロパノールと水の混合物を用いて行うことができるが、アルコールを含まない水を使用して洗浄することが好ましい。
【0045】
洗浄工程の効率は、分析でチェックできる。例えば洗浄液中の遷移金属Mの含量を分析できる。
【0046】
水を用いて洗浄する場合、水溶性物質、例えば水溶性塩が洗浄可能であるかどうかをチェックするために、電気伝導度の測定を行うことができる。
【0047】
工程(B)の後に、一つ以上の乾燥工程(C)が続く。○○乾燥工程(C)は、室温あるいは高温で実施できる。例えば、乾燥を30〜150℃の範囲の温度で行うことができる。
【0048】
乾燥工程(C)は、大気圧で行ってもよいし、減圧下、例えば10mbar〜500mbarの範囲で行ってもよい。
【0049】
工程(C)の後で遷移金属複合酸化物前駆体の水分率と粒子径が決められる。
【0050】
本発明の材料は、容易に加工されて、リチウムイオン電池の電極の製造に使用できる遷移金属複合酸化物となる。本発明はまた、本発明の材料の、遷移金属複合酸化物の製造への利用を提供する。本発明はまた、本発明の材料を用いて遷移金属複合酸化物を製造する方法を提供する。
【0051】
遷移金属複合酸化物は、少なくとも一種の本発明により製造された材料と少なくとも一種のリチウム化合物の混合物を600〜1000℃の範囲の温度の熱処理にかけて製造できる。
【0052】
適当なリチウム化合物は、例えば有機金属化合物と、好ましくは無機リチウム化合物である。特に好ましい無機リチウム化合物は、
LiOHとLiCO、LiO、LiNO、及びこれらの水和物、例えばLiOH・HOから選ばれる。混合は、例えば本発明の材料とリチウム化合物を固体ミキサー中で混合することで行うことができる。
【0053】
本発明のある実施様態では、本発明の材料とリチウム化合物の混合物中での遷移金属複合酸化物の量は、リチウムと遷移金属の総量のモル比が0.9〜1.6の範囲、好ましくは1.2〜1.5の範囲となるように、特に好ましくは最大で1.1となるように設定される。もう一つの実施様態においては、リチウムと遷移金属の総量のモル比が約0.5、例えば0.4〜0.6の範囲となるように、この量が設定される。
【0054】
本発明により製造される遷移金属複合酸化物(短縮して、遷移金属複合酸化物ともいう)は、例えば粉末の流動性がよいため、非常に加工が容易であり、本発明により製造される遷移金属複合酸化物を用いて電気化学セルを製造すると、この電気化学セルは非常に優れたサイクル安定性を示す。
【0055】
本発明の電極は、先ず遷移金属複合酸化物を電極材料に加工して製造される。
【0056】
導電性を変化させたい場合には、電極材料が、遷移金属複合酸化物に加えて、炭素(例えば、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、炭素ナノチューブまたは活性炭)を含むことができる。
【0057】
電極材料はまた、少なくとも一種のバインダーを、例えば高分子バインダーを含むことができる。
【0058】
適当なバインダーは、好ましくは有機(コ)ポリマーから選ばれる。適当な(コ)ポリマー、即ちホモポリマーまたはコポリマーは、例えば、アニオン(共)重合、触媒(共)重合またはフリーラジカル(共)重合で得られる(コ)ポリマーから選ばれ、特にポリエチレンとポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、また、エチレンとプロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、1,3−ブタジエンから選ばれる少なくとも二種のコモノマーのコポリマーから選ばれる。ポリプロピレンも適当である。またポリイソプレンとポリアクリレートも適当である。ポリアクリロニトリルが特に好ましい。
【0059】
本発明の目的では、「ポリアクリロニトリル」は、ポリアクリロニトリルホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンまたはスチレンのコポリマーも含む。ポリアクリロニトリルホモポリマーが好ましい。
【0060】
本発明の目的では、ポリエチレンは、ホモポリエチレンだけでなく、少なくとも50モル%のエチレンを重合した形で含み、最大で50モル%の少なくとも一種の他のコモノマー[例えば、プロピレンやブチレン(1−ブテン)、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ペンテン、イソブテンなどのα−オレフィンや、スチレンなどのビニル芳香族化学物、また(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸のC−C10−アルキルエステル(特にアクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル)、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸無水物]を含むエチレンのコポリマーも含む。ポリエチレンは、HDPEであってもLDPEであってもよい。
【0061】
本発明の目的では、「ポリプロピレン」は、ホモポリプロピレンだけでなく、少なくとも50モル%のプロピレンを重合した形で含み、最大で50モル%の少なくとも一種の他のコモノマー[例えば、エチレンやブチレン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ペンテンなどのα−オレフィン]を含むプロピレンのコポリマーを含む。ポリプロピレンは、アイソタクチックな、あるいは実質的にアイソタクチックなポリプロピレンが好ましい。
【0062】
本発明の目的では、「ポリスチレン」は、スチレンのホモポリマーだけでなく、アクリロニトリルや1,3−ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC−C10−アルキルエステル、ジビニルベンゼン(特に、1,3−ジビニルベンゼン)、1,2−ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンとのコポリマーをも含む。
【0063】
もう一つの好ましいバインダーはポリブタジエンである。
【0064】
他の適当なバインダーは、ポリエチレンオキシド(PEO)とセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリイミド、ポリビニルアルコールから選ばれる。
【0065】
本発明のある実施様態では、バインダーは、平均分子量Mwが50000〜1000000g/molの範囲の、好ましくは最大で500000g/molの(コ)ポリマーから選ばれる。
【0066】
バインダーは、架橋(コ)ポリマーであっても未架橋(コ)ポリマーであってもよい。
【0067】
本発明の特に好ましい実施様態では、バインダーは、ハロゲン化(コ)ポリマーから、特にフッ素化(コ)ポリマーから選ばれる。この目的では、ハロゲン化またはフッ素化(コ)ポリマーは、分子当り少なくとも一個のハロゲン原子または少なくとも一種のフッ素原子、好ましくは分子当り少なくとも2個のハロゲン原子または少なくとも2個のフッ素原子を重合した形でもつ(コ)ポリマーである。
【0068】
例としては、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF−HFP)、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、エチレン−クロロフルオロエチレンコポリマーがあげられる。
【0069】
適当なバインダーは、特にポリビニルアルコールとハロゲン化(コ)ポリマー(例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリ塩化ビニリデン)、特にフッ素化(コ)ポリマー(例えば、ポリビニルフッ化物、特にポリフッ化ビニリデンとポリテトラフルオロエチレン)である。
【0070】
導電性炭素含有材料は、例えば、グラファイトやカーボンブラック、炭素ナノチューブ、グラフェン、またこれらの材料の少なくとも2つの混合物から選ばれる。本発明の目的では、導電性炭素含有材料を、短縮して炭素(B)とよぶこともある。
【0071】
本発明のある実施様態では、この導電性炭素含有材料がカーボンブラックである。カーボンブラックは、例えばランプブラックとファーネスブラック、フレームブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、インダストリアルブラックから選ぶことができる。
【0072】
カーボンブラックは不純物を含むことができ、例えば炭化水素、特に芳香族炭化水素を、あるいは酸素含有化合物またはOH基などの酸素含有基を含むことができる。また、カーボンブラック中に硫黄または鉄含有不純物が入っていてもよい。
【0073】
ある実施様態では、この導電性炭素含有材料が部分酸化カーボンブラックである。
【0074】
本発明のある実施様態では、この導電性炭素含有材料が炭素ナノチューブである。炭素ナノチューブ(CNT)、例えば単層炭素ナノチューブ(SWCNT)と好ましくは多層炭素ナノチューブ(MWCNT)が知られている。これらの製造方法と性質の一部が例えば、A. Jess et al. in Chemie Ingenieur Technik 2006、78、94−100に記載されている。
【0075】
本発明のある実施様態では、炭素ナノチューブの直径は、0.4〜50nmの範囲であり、好ましくは1〜25nmの範囲である。
【0076】
本発明のある実施様態では、炭素ナノチューブの長さは、10nm〜1mmの範囲、好ましくは100nm〜500nmの範囲である。
【0077】
炭素ナノチューブは既知の方法で製造できる。例えば一種以上の還元剤(例えば、水素)及び/又は窒素などの他のガスの存在下で、メタンまたは一酸化炭素、アセチレンまたはエチレンなどの揮発性炭素含有化合物、あるいは合成ガスなどの揮発性炭素含有化合物の混合物を分解させることができる。もう一つの適当な混合ガスは、一酸化炭素とエチレンの混合物である。分解に適当な温度は、例えば400〜1000℃の範囲であり、好ましくは500〜800℃の範囲である。分解に適当な圧力条件は、例えば大気圧〜100barの範囲であり、好ましくは最大で10barである。
【0078】
単層または多層の炭素ナノチューブは、例えば電気アーク中で分解触媒の存在下あるいは非存在下で炭素含有化合物を分解させて得ることができる。
【0079】
ある実施様態においては、この一種以上の揮発性炭素含有化合物の分解が、分解触媒の存在下で、例えばFe、Coまたは好ましくはNiの存在下で行われる。
【0080】
本発明の目的では、「グラフェン」は、実質的に理想的に、あるいは理想的に、各グラファイト層と同じ構造をもつ二次元六方晶型炭素結晶をいう。
【0081】
本発明のある実施様態では、本発明により加工された遷移金属複合酸化物と導電性炭素含有材料の重量比は、200:1〜5:1の範囲であり、好ましくは100:1〜10:1の範囲である。
【0082】
本発明のもう一つの側面では、上述のようにして製造された少なくとも一種の遷移金属複合酸化物と少なくとも一種の導電性炭素含有材料と少なくとも一種のバインダーを含む電極が提供される。
【0083】
遷移金属複合酸化物と導電性炭素含有材料については、上に述べた。
【0084】
本発明はまた、少なくとも一種の本発明の電極を用いて製造される電気化学セルを提供する。本発明はまた、少なくとも一種の本発明の電極を含む電気化学セルを提供する。
【0085】
本発明のある実施様態では、本発明により製造される電極材料が、
60〜98質量%の範囲、好ましくは70〜96質量%の範囲の遷移金属複合酸化物と、
1〜20質量%の範囲、好ましくは2〜15質量%の範囲のバインダーと、
1〜25質量%の範囲、好ましくは2〜20質量%の範囲の導電性炭素含有材料を含む。
【0086】
本発明の電極の構造は、広い範囲内で選択可能である。本発明の電極は、好ましくは薄膜状であり、例えば厚みが10μm〜250μmの範囲、好ましくは20〜130μmの範囲のフィルムである。
【0087】
本発明のある実施様態では、本発明の電極は、フィルムまたは箔を、例えば金属箔(特に、アルミ箔)または高分子膜(例えば、未処理のあるいはシリコン処理されたポリエステル系フィルム)を含む。
【0088】
本発明はまた、本発明の電極材料または本発明の電極の電気化学セル中での利用を提供する。本発明はまた、本発明の電極材料または本発明の電極を用いる電気化学セルの製造方法を提供する。本発明はまた、少なくとも一種の本発明の電極材料または少なくとも一種の本発明の電極を含む電気化学セルを提供する。
【0089】
本発明の電気化学セル中では、本発明の電極が当然カソードとなる。本発明の電気化学セルは対電極を含み、これは本発明においてはアノードであり、例えば、炭素アノード、特にグラファイトアノード、リチウムアノード、ケイ素アノードまたはリチウムチタネートアノードである。
【0090】
本発明の電気化学セルは、例えば電池またはアキュムレータとなることができる。
【0091】
本発明の電気化学セルは、アノードと本発明の電極に加えて、他の構成要素、例えば電解質塩、非水溶媒、セパレーター、例えば金属または合金製の電力供給リード線、ケーブルやハウジングを有する。
【0092】
本発明のある実施様態では、本発明の電気セルは、好ましくはポリマーと環状および非環状エーテル、環状および非環状アセタール、環状および非環状有機カーボネートから選ばれる、室温で液体または固体である少なくとも一種の非水溶媒を含む。
【0093】
好適なポリマーの例は、特にポリアルキレングリコールであり、好ましくはポリ−C−C−アルキレングリコール、特にポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールは、最大で20モル%の一種以上のC−C−アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、二個のメチルまたはエチル基で末端封鎖されたポリアルキレングリコールであることが好ましい。
【0094】
好適なポリアルキレングリコール、特に適当なポリエチレングリコールの分子量Mwは少なくとも400g/molである。
【0095】
好適なポリアルキレングリコール、特に適当なポリエチレングリコールの分子量Mwは、最大で5000000g/molとなることがあり、好ましくは最大で2000000g/molである。
【0096】
好適な非環式エーテルの例は、ジイソプロピルエーテルとジ−N−ブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンであり、1,2−ジメトキシエタンが好ましい。
【0097】
好適な環状エーテルの例は、テトラヒドロフランと1,4−ジオキサンである。
【0098】
好適な非環状アセタールの例は、ジメトキシエタンとジエトキシメタン、1,1−ジメトキシエタン、1,1−ジエトキシエタンである。
【0099】
好適な環状アセタールの例は、1,3−ジオキサンであり、特に1,3−ジオキソランである。
【0100】
好適な非環式有機カーボネートの例は、ジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートである。
【0101】
好適な環状有機カーボネートの例は、一般式(II)と(III)の化合物である。
【0102】
【化1】
【0103】
式中、RとRとRは、同一であるか異なっており、水素とC−C−アルキル(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル)から選ばれ、RとRは、好ましくは共にtert−ブチルではない。
【0104】
特に好ましい実施様態では、Rはメチルであり、RとRがそれぞれ水素であるか、RとRとRがそれぞれ水素である。
【0105】
もう一つの好ましい環状有機カーボネートは、ビニレンカーボネート(式(IV))である。
【0106】
【化2】
【0107】
この一種以上の溶媒は、無水状態で、即ち水分率が1ppm〜0.1質量%の範囲で使用することが好ましい。なおこの水分率は、例えばカールフィッシャー滴定で決めることができる。
【0108】
本発明の電気化学セルはさらに、少なくとも一種の電解質塩を含む。適当な電解質塩は、特にリチウム塩である。好適なリチウム塩の例には、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiC(C2n+1SO、LiN(C2n+1SO(式中、nは1〜20の範囲の整数である)などのリチウムイミド、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiAlCl、一般式(C2n+1SOYLiの塩(式中、tは次ように定義される:
Yが酸素と硫黄から選ばれる場合は、t=1、
Yが窒素とリンから選ばれる場合は、t=2、
Yが炭素とケイ素から選ばれる場合は、t=3)。
【0109】
好ましい電解質塩は、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiPF、LiBF、LiClOから選ばれ、特の好ましくはLiPFとLiN(CFSOとから選ばれる。
【0110】
本発明のある実施様態では、本発明の電気化学セルが、電極を機械的に分離するための一枚以上のセパレーターを有する。好適なセパレーターは、金属リチウムと反応しない高分子膜であり、特に多孔性高分子膜である。セパレーターに特に好適な材料はポリオレフィンであり、特にフィルム状多孔性ポリエチレンとフィルム状多孔性ポリプロピレンである。
【0111】
ポリオレフィンからなる、特にポリエチレンまたはポリプロピレンからなるセパレーターの空隙率は35〜45%の範囲である。好適な気孔径は、例えば30〜500nmの範囲である。
【0112】
本発明のもう一つの実施様態においては、セパレーターが、無機粒子で充填されたPET不織布から選ばれる。これらのセパレーターの空隙率は40〜55%の範囲である。適当な気孔径は、例えば80〜750nmの範囲である。
【0113】
本発明の電気化学セルは、さらにハウジングを有し、その形状はいずれであってもよく、例えば立方体あるいは円筒板状であってもよい。ある実施様態では、パウチ状の金属箔がハウジングとして用いられる。
【0114】
本発明の電気化学セルは、高電圧と高エネルギー密度を与えることができ、安定性にも優れる。
【0115】
本発明の電気化学セルを相互に連結することができ、例えば直列あるいは並列に連結することができる。直列での連結が好ましい。
【0116】
本発明はまた、本発明の電気化学セルの、装置中での利用、特に自動装置中での利用を提供する。自動装置の例には、車両(例えば、自動車)、自転車、航空機、または水上車両(たとえば、ボートや船)があげられる。他の自動装置の例は、人間用のポータブル機器であり、例えばコンピューター(特に、ラップトップ)、電話または電動工具(例えば建設業用のもの、特にドリルやバッテリー駆動ドライバやバッテリー駆動鋲打ち器)である。
【0117】
本発明の電気化学セルを装置で用いると、再充填までの運転時間が長くなるというメリットが得られる。低エネルギー密度の電気化学セルを用いて同じ運転時間が達成しようとすると、より高重量の電気化学セルを使用する必要がある。
【実施例】
【0118】
本発明を、実施例により説明する。
【0119】
一般的な注釈:
溶解塩の量は、1kgの溶液に対する値である。
【0120】
NiとCoとMnとNaの質量比は、誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP−AES)で測定した。CO2−の質量比は、リン酸処理と生成するCOのIR分光分析による測定で決定した。SO2−の質量比は、イオンクロマトグラフィーで決定した。
【0121】
少なくとも滞留時間TRの6倍が経過後に得られる懸濁液のみを、後処理あるいは分析に用いた。
【0122】
I.遷移金属炭酸塩の調整
I.1.材料(I.1)の調整
以下の溶液を作製した。
溶液(a.1):0.363mol/kgの硫酸ニッケルと、0.198mol/kgの硫酸コバルト、1.089mol/kgの硫酸マンガン(II)を水中に溶解して、遷移金属塩の水溶液を調整した。溶液(a.1)の総遷移金属濃度は1.650mol/kgであった。ρa.1=1.3g/ml。
溶液(b.1):1.30mol/kgの炭酸ナトリウムと0.09mol/kgの炭酸水素アンモニウムの水溶液。ρb.1=1.15g/ml
【0123】
窒素雰囲気下で1.5lの水を連続運転中の析出装置に入れ、55℃で撹拌下(1500rpm)で、溶液(a.1)を一定の供給速度PRa.1で、また溶液(b.1)を一定の供給速度PRb.1で同時にポンプ供給した。供給速度は、PRa.1=235g/hとPRb.1=285g/hであった。この結果、析出装置中に式(I.1)に材料が析出し、懸濁液が形成された。
【0124】
懸濁液を連続的に装置からオーバフローで抜き出して、運転中の析出装置内にほぼ一定体積の懸濁液が存在するようにした。用いた析出装置の場合、この体積Vは1.6リットルであった。滞留時間TRは、Vから、TR=V/(PRa.1/ρa.1+PRb.1/ρb.1)として計算できた。なお、ρa.1とρb.1は、それぞれ溶液(a.1)と(b.1)の密度である。TVは3.7時間であった。
【0125】
懸濁液の更なる後処理
この懸濁液を濾過して析出物を分離し、洗浄液の電気伝導度が0.10mSとなるまで水で洗浄した。この析出物を105℃で乾燥オーブン中で一夜乾燥させた。次いでこの固体を、開口径が50μmの篩を用いて篩い分けした。
【0126】
これにより、析出材料(I.1)を得た。
【0127】
【表1】
【0128】
なお、cは、それぞれ材料(I.1)中の濃度であり、単位は質量%である。
【0129】
I.2.材料(I.2)の調整
溶液(a.2):0.396mol/kgの硫酸ニッケルと1.254mol/kgの硫酸マンガン(II)を水に溶解して、遷移金属塩の水溶液を調整した。溶液(a.2)の総遷移金属濃度は1.650mol/kgであった。
ρa.2=1.3g/ml
【0130】
本方法は実質的にI.1の方法と同じであるが、溶液(a.2)を用い、以下の供給速度を選択した:PRa.2=235g/h、PRb.1=286g/h。平均滞留時間TRは3.7時間であった。
【0131】
この結果、析出材料(I.2)を得た。
【0132】
【表2】
【0133】
なお、cは、それぞれ材料(I.2)中の濃度であり、単位は質量%である。

【0134】
II.工程(B)の後の熱処理
II.1.材料(I.1)の熱処理
いずれの場合も、100gの量のI.1で得られた材料を、他の添加物を加えることなく、回転バルブ炉中で表2に示す温度で加熱し、適当な温度で2時間熱処理した。次いで、それぞれ500mlの水で三回洗浄した。次いで、このようにして得られた固体を、乾燥オーブン中、105℃で12時間乾燥させた。この結果、本発明の前駆体(II.1)を66gの量で得た。分析データを表3に示す。
【0135】
【表3】
【0136】
比較のために、I.1の材料を500℃で焼成したが、水で洗浄しなかった。そのNa含量は0.5%であった。
【0137】
比較のために、1000gのI.1で得られた材料を、他の添加物を加えることなく、乾燥オーブン中で120℃で加熱し、120℃で12時間乾燥させた。この結果、990gの比較用前駆体を得た。
【0138】
II.2.材料(I.2)の熱処理
100gの量のI.2で得られた材料を、他の添加物を加えることなく、回転バルブ炉中で475℃で加熱し、その温度で2時間熱処理した。これを、それぞれの500mlの水で三回洗浄した。次いで、このようにして得られた固体を、乾燥オーブン中、105℃で12時間乾燥させた。この結果、66gの本発明の前駆体(II.2)を得た。そのNa含量は0.04%であった。
【0139】
III.遷移金属複合酸化物の調整
III.1.遷移金属複合酸化物III.Iの調整
本発明の前駆体(II.1−550)を、LiCO(Li:Ni:Co:Mnのモル比=1.5:0.22:0.11:0.67)と混合し、マッフル炉中900℃で6時間焼成した。この前駆体から遷移金属複合酸化物III.1が得られた。遷移金属複合酸化物III.1は、シート構造をもっていた。
【0140】
III.2.遷移金属複合酸化物III.2の調整
本発明の前駆体(II.2)をLiCO(Li:Ni:Mnモル=0.5:0.25:0.75)と混合し、マッフル炉900℃で6時間焼成した。この前駆体から遷移金属複合酸化物III.2が得られた。遷移金属複合酸化物III.2はスピネル構造をしていた。
【0141】
III.電極と試験セルの一般的な製造方法
使用材料:
導電性炭素含有材料:炭素(C−1):カーボンブラック、BET表面積:62m/g、ティムカル社から「スーパーP・Li」として販売中。
バインダー(BM.1):フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンのコポリマー、粉末状で、アルケマ社からキナールフレックス(R)2801として販売中。
【0142】
特に断らない場合、%の値は質量%である。
【0143】
材料の電気化学データを得るために、8gの本発明の遷移金属複合酸化物III.2と1gの炭素(C−1)と1gの(BM.1)を24gのN−メチルピロリドン(NMP)と混合して、ペーストとした。30μm厚のアルミ箔上に上記ペーストを塗布した(活物質負荷量:5〜7mg/cm)。105℃で乾燥後、このように塗布されたアルミ箔の円形試料(直径:20mm)を切り出した。このようにして得られた電極から電気化学セルを製造した。
【0144】
105℃で乾燥後、円形の電極(直径:20mm)を切り出し、試験セルの製造に用いた。1mol/lのLiPFのエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(質量比:1:1)溶液を電解液として使用した。試験セルのアノードは、カソード箔にガラス繊維紙製のセパレーターを経由して接触しているリチウム箔である。
【0145】
このようにした本発明の電気化学セルEC.2を得た。
【0146】
本発明の電気化学セルEC.2を、25℃で100回の4.9Vと3.5Vの間のサイクル(充放電サイクル)にかけた。充放電流は、いずれの場合も1.50mA/g−カソード材料であった。本発明の電気化学セルの放電容量は、100サイクル後で135mAh/gであった。