【課題を解決するための手段】
【0022】
そこで、発明者らは、上記(a)〜(c)の特性の全てについて満足できる担体炭素材料を開発すべく鋭意検討した結果、上記(a)の特性を満たすためには、担体炭素材料中の水素含有量(質量%)を低減させることが必要であることに想到した。担体炭素材料中の水素含有量は、親水性官能基の末端部の水素量に相当するからである。また、上記(b)の特性を満たすためには、窒素吸着BET比表面積より算出されるBET表面積(m
2/g)を大きくすることが必要であり、更に、上記(c)の特性を満たすためには、担体炭素材料と金属触媒粒子と間で相互作用を発揮するグラファイトのエッジ部を適度な量で存在させること、つまりグラファイトの結晶子が適度な範囲にあることが必要であることに想到した。
【0023】
ここで、グラファイトのエッジ部とは、結晶子の端部のことを指し、グラファイトの結晶子(La)は、La=44Å/(I
D/I
G)の式〔F. Tuinstra, J. L. Koenig, J. Chem. Phys., 53, p1126 (1970)〕において提案されており、I
D/I
Gは、ラマン分光スペクトルから得られるD-バンドと呼ばれる1200〜1400cm
-1の範囲のピーク強度(以下、I
D)と、G-バンドと呼ばれる1500〜1700cm
-1の範囲のピーク強度(以下、I
G)との相対的強度比を表し、このI
D/I
Gが適度な範囲になるように、グラファイトのエッジ部を制御すればよい。すなわち、I
D/I
Gが大きくて結晶子が小さいと、エッジの数も多くなる。なお、このグラファイトのエッジ部には、キノン基やラクトン基の如き酸素を含有する官能基が存在する〔Z. Linら、J. Phys. Chem. C 115, p7120 (2011)〕と推定されており、この酸素の孤立電子対と金属触媒粒子との間の静電的相互作用により金属触媒粒子が担体炭素材料に固定されると考えられている。
【0024】
そして、本発明者らは、上記(a)〜(c)の特性の全てを満足する担体炭素材料を開発するための具体的な方策として、特許文献3の担体炭素材料の製造方法を見直して発展させることとし、この特許文献3の担体炭素材料の製造工程について詳細に検討した。その結果、担体炭素材料中の水素含有量を低減させるためには、担体炭素材料中に水素が導入される溶解洗浄処理工程(洗浄処理工程)において水素を含有する親水性官能基の導入を抑制し、また、担体炭素材料中に導入された水素が脱離する第3の加熱処理工程において水素を含有する親水性官能基の脱離を促進させることが必要であることを突き止めた。更に、如何にして溶解洗浄処理工程(洗浄処理工程)で親水性官能基の導入を抑制し、また、第3の加熱処理工程で親水性官能基の脱離を促進させるかについて検討を進めた。
【0025】
以上の詳細な検討の結果、本発明者らは、溶解洗浄処理工程(洗浄処理工程)において、これまでの硝酸水溶液(濃硝酸)に代えて熱濃硫酸を使用し、また、第3の加熱処理工程での加熱温度をこれまでの180〜200℃から1000〜2100℃に上昇させることにより、上記(a)〜(c)の特性の全てを満足する新たな担体炭素材料を製造することができ、これによって高加湿運転性能に優れた固体高分子形燃料電池を製造する上で好適な担体炭素材料及び金属触媒粒子担持炭素材料の開発に成功し、本発明を完成した。
【0026】
即ち、本発明は、以下の構成よりなるものである。
(1) 多孔質炭素材料であって、水素含有量(質量%、以下「H」と表記することがある。)が0.004質量%以上0.010質量%以下の範囲にあって、窒素吸着BET比表面積(m
2/g、以下「S」と表記することがある。)が600m
2/g以上1500m
2/g以下であり、且つ、ラマン分光スペクトルから得られるD-バンドと呼ばれる1200〜1400cm
-1の範囲のピーク強度(I
D)と、G-バンドと呼ばれる1500〜1700cm
-1の範囲のピーク強度(I
G)との相対的強度比(I
D/I
G、以下「ラマン相対強度比」と略称することがある。)が1.0以上2.0以下であることを特徴とする固体高分子形燃料電池用担体炭素材料。
【0027】
(2) 前記水素含有量が0.004質量%以上0.006質量%以下であって、ラマン分光スペクトルより求まる相対的強度比(I
D/I
G)が1.4以上2.0以下であることを特徴とする前記(1)に記載の固体高分子形燃料電池用担体炭素材料。
(3) 前記窒素吸着BET比表面積が800m
2/g以上1400m
2/g以下であって、ラマン分光スペクトルより求まる相対的強度比(I
D/I
G)が1.4以上2.0以下であることを特徴とする前記(1)に記載の固体高分子形燃料電池用担体炭素材料。
【0028】
(4) 前記水素含有量が0.004質量%以上0.006質量%以下であり、窒素吸着BET比表面積が800m
2/g以上1400m
2/g以下であり、且つ、ラマン分光スペクトルより求まる相対的強度比(I
D/I
G)が1.4以上2.0以下であることを特徴とする前記(1)に記載の固体高分子形燃料電池用担体炭素材料。
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用担体炭素材料に、Pt単独、又は、Ptを主成分とする金属触媒粒子が担持されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池用金属触媒粒子担持炭素材料。
【0029】
(6) 前記(1)〜(4)のいずれかに記載の固体高分子形燃料電池用担体炭素材料を製造するための方法であり、金属又は金属塩を含む溶液中にアセチレンガスを吹き込み、金属アセチリドを生成させるアセチリド生成工程と、前記金属アセチリドを60℃以上80℃以下の温度で加熱し、金属粒子が内包された金属粒子内包中間体を作製する第1の加熱処理工程と、前記金属粒子内包中間体を160℃以上200℃以下の温度で加熱し、前記金属粒子内包中間体から金属粒子を噴出させ、炭素材料中間体を得る第2の加熱処理工程と、前記第2の加熱処理工程で得られた炭素材料中間体を熱濃硫酸と接触させ、炭素材料中間体を清浄化する洗浄処理工程と、前記洗浄処理工程で清浄化された炭素材料中間体を真空中、不活性ガス雰囲気中、又は空気雰囲気中で、1000℃以上2100℃以下の温度に加熱して、担体炭素材料を得る第3の加熱処理工程とを有することを特徴とする固体高分子形燃料電池用担体炭素材料の製造方法。
【0030】
(7) 前記請求項6に記載の方法で得られた前記(1)〜(4)のいずれかに記載の担体炭素材料を液体分散媒中に分散させ、得られた分散液中に、白金を主成分とする金属の錯体又は塩と還元剤とを添加し、液相で金属イオンを還元して白金を主成分とする微細な金属触媒粒子を析出させると共に、この析出した金属触媒粒子を前記担体炭素材料に担持させ、前記(5)に記載の固体高分子形燃料電池用の金属触媒粒子担持炭素材料を製造することを特徴とする固体高分子形燃料電池用金属触媒粒子担持炭素材料の製造方法。
【0031】
本発明の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料において、求まる水素含有量(H)が0.004質量%以上0.010質量%以下である必要があり、好ましくは0.004質量%以上0.006質量%以下である。このHが0.004質量%未満であると、担体炭素材料に存在する親水性官能基が少なく、フラッディングに対しては有効であるが、担体炭素材料の親水性が過度に失われることになり、湿潤環境下であるからこそ達成される高分子膜のプロトン伝導性が低下し、燃料電池に利用した場合に良好な電池性能が得られない。反対に、Hが0.010質量%を越えて大きくなると、従来の担体炭素材料と同じく、担体炭素材料に存在する親水性官能基が多くなり過ぎ、金属触媒粒子上で発生した水が酸化性ガスの拡散経路を阻害するため、フラッディングの課題は解決されない。
【0032】
担体炭素材料中の水素含有量を測定する方法としては、微量の水素を分析できる手法を用いればよい。例えば、不活性ガス融解−熱伝導度法が例示される。この方法では、試料としての担体炭素材料を黒鉛るつぼ内に入れ、所定温度(例えば、800℃以上)に加熱して、発生した水素を他のガスから分離し、熱伝導度検出器を用いて水素量を測定する。
【0033】
また、本発明の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料において、窒素吸着BET比表面積(S)は600m
2/g以上1500m
2/g以下である必要があり、好ましくは800m
2/g以上1400m
2/g以下である。このSが600m
2/g未満であると、担体炭素材料は金属触媒粒子を高分散状態で担持するために必要な表面積を有しておらず、担体炭素材料に担持された金属触媒粒子同士の粒子間距離が狭くなり、酸化性ガスの拡散性が不十分になって、燃料電池に利用した場合に電池性能が低下する。反対に、このSが1500m
2/gを超えて大きくなると、担体炭素材料に金属触媒粒子を高分散状態で担持させる上では理想的な表面積であるが、このSの上限値は後述する製造過程の第3の加熱処理工程での加熱条件で決定され、Sの値を大きくすることと前記水素含有量(H)の値を小さくすることとはトレードオフの関係にあり、Sの値を大きくするとHの値も大きくなってフラッディングの問題が発生し、1500m
2/gを超えてSの値を大きくすることはできない。窒素吸着BET比表面積は、窒素ガスを吸着ガスとして、BET1点法により測定すればよい。
【0034】
更に、本発明の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料において、ラマン分光スペクトルから得られるD-バンドと呼ばれる1200〜1400cm
-1の範囲のピーク強度(I
D)とG-バンドと呼ばれる1500〜1700cm
-1の範囲のピーク強度(I
G)との相対的強度比(I
D/I
G、ラマン相対強度比)の値は1.0以上2.0以下であることが必要であり、好ましくは1.4以上2.0以下である。このラマン相対強度比(I
D/I
G)の値が1.0未満であると、グラファイトのエッジ部の量が不足し、金属触媒粒子が担体炭素材料に固定され難くなり、燃料電池に利用した場合に電池性能が低下してしまう。反対に、このラマン相対強度比(I
D/I
G)が2.0を超えると、グラファイトのエッジ部の量が多くなり過ぎて化学的に弱くなり、固体高分子燃料電池の作動条件下では、担体炭素材料が酸化消耗し易くなって燃料電池の耐久性が低下する。ラマン分光スペクトルは、市販のレーザラマン分光光度計を用いて取得すればよい。
【0035】
ここで、水素含有量(H)の低減は、フラッディングの要因となる親水性官能基の量の低減を示すもので、燃料電池の電池性能に対する寄与が大きく、高加湿条件での電池性能、特に発電性能に大きな影響を及ぼすものである。また、窒素吸着BET比表面積(S)の増加は、燃料電池の電池性能に対する寄与が大きく、また、ラマン相対強度比(I
D/I
G)に比較して数値の変動幅が大きく、担体炭素材料に金属触媒粒子を高分散状態に担持させるための前提条件である。
【0036】
特に、水素含有量(H)が0.004質量%以上0.006質量%以下、窒素吸着BET比表面積(S)が800m
2/g以上1400m
2/g以下、及びラマン相対強度比(I
D/I
G)が1.4以上2.0以下である担体炭素材料を用いて燃料電池を作製した場合、より良好な電池性能を達成することができる。すなわち、このような担体炭素材料を用いた場合、その親水性が過度に失われることがないので、湿潤環境下であるからこそ達成される高分子膜のプロトン伝導性を低下させることがなく、しかも、フラッディングの発生を効果的に抑制でき、また、担体炭素材料に担持される金属触媒粒子を高分散させるのに十分な表面積とグラファイトのエッジ部とを有しており、担体炭素材料に担持された金属触媒粒子同士の粒子間距離が広く、酸化性ガスの拡散性も十分に確保され、電池性能に優れた燃料電池の作成が可能である。
【0037】
また、本発明の固体高分子形燃料電池用の金属触媒粒子担持炭素材料において、使用される金属触媒粒子は、Ptを主成分とするものであり、触媒金属としてはPt単独でもよく、また、このPt以外に他の触媒金属を含むものであってもよい。そして、このPt以外の添加可能な触媒金属としては、金属触媒の活性向上を目的として添加されるCo、Ni、Fe、Pd、Au、Ru、Rh、及びIr等から選ばれた1種又は2種以上の混合物を例示することができ、これらPt以外の触媒金属の添加量については、金属触媒粒子中の全触媒金属の原子数に対するPt以外の触媒金属の原子数の割合(原子組成百分率)が0〜50at%の範囲、好ましくは33〜50at%の範囲で添加される。このPt以外の触媒金属の添加量が50at%より高くなると、金属触媒粒子表面の添加元素の存在割合が多くなり、燃料電池作動下で溶解することで、電池性能が低下してしまう。
【0038】
そして、本発明の金属触媒粒子担持炭素材料における金属触媒粒子の担持率(質量%)は、金属触媒粒子と担体炭素材料の合計質量に対して10〜60質量%、好ましくは20〜50質量%の範囲であるのがよい。これは、金属触媒粒子担持炭素材料を触媒層として固体高分子形燃料電池を形成した場合、発電する際に燃料となる水素等の還元性ガス又は酸素等の酸化性ガスの拡散が必須であるが、この触媒層中のこれら還元性ガス又は酸化性ガスの拡散を良好にするための条件である。また、この金属触媒粒子の担持率は金属触媒粒子同士の粒子間距離と相関関係があり、触媒層中の金属触媒粒子の量を等しくした場合、金属触媒粒子の担持率が低いと、触媒層が厚くなって酸化性ガスの拡散性が低下し、電池性能が低下する。しかし、金属触媒粒子の担持率が低ければ、金属触媒粒子同士の粒子間距離が長くなるため、金属触媒粒子は凝集せず、適度な粒子間距離を保つことで、拡散した酸化性ガスを金属触媒粒子表面で効率的に反応させることができ、 反対に、金属触媒粒子の担持率が高いと、触媒層が薄くなって酸化性ガスの拡散はし易くなる傾向にあるが、金属触媒粒子同士の粒子間距離が短くなって、金属触媒粒子は凝集し、金属触媒粒子の表面積が低下することで、拡散した酸化性ガスを金属触媒粒子表面で効率的に反応出来ないという問題が生じる。
【0039】
本発明の担体炭素材料の製造方法については、特に制限されるものではなく、例えば以下に示す方法により製造される。
すなわち、金属又は金属塩を含む溶液中にアセチレンガスを吹き込み、金属アセチリドを生成させる(アセチリド生成工程)。
【0040】
次いで、生成した金属アセチリドを60℃以上80℃以下の温度で加熱し、前記金属を金属粒子として偏析させ、この金属粒子が内包された金属粒子内包中間体を得る(第1の加熱処理工程)。この第1の加熱処理工程での加熱時間は、通常12時間以上、好ましくは12〜24時間である。
【0041】
このようにして得られた金属粒子内包中間体については、次に160℃以上200℃以下の温度で加熱し、前記金属粒子内包中間体を爆発させてこの金属粒子内包中間体により金属粒子を噴出させ、炭素材料中間体を得る(第2の加熱処理工程)。この第2の加熱処理工程での加熱時間は、通常10〜30分間、好ましくは20〜30分である。
【0042】
この第2の加熱処理工程で得られた炭素材料中間体については、次に熱濃硫酸と接触させ、第2の加熱処理工程で噴出し表面に付着した金属粒子やその他の不安定な炭素化合物等を溶解し洗浄して除去し、炭素材料中間体を清浄化すると共に、熱濃硫酸の脱水作用により炭素材料中間体の水素含有量(H)を低減させる(洗浄処理工程)。この熱濃硫酸を用いた炭素材料中間体の洗浄処理は、硫酸濃度90質量%以上、好ましくは96質量%以上、より好ましくは98質量%以上の濃硫酸を用い、温度120℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上の加熱下に、30分以上、好ましくは30〜60分、より好ましくは30分の処理条件下に行われる。すなわち、本発明では、熱濃硫酸は、濃硫酸の温度(処理温度)が120℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上である濃硫酸を意味する。なお、硫酸濃度が90質量%未満であると、濃硫酸の脱水作用が低く、また、担体炭素材料表面に対する反応性が高くなる。後者は具体的に、硫酸濃度を希釈する際に添加されるH
2Oが担体炭素材料表面と反応し、グラファイトのエッジ部が増大傾向にあるためである。よって、硫酸濃度が90質量%未満であると、本発明では不適当であり、反対に、硫酸濃度が高いことは本発明では好ましく、硫酸濃度100質量%の濃硫酸を好適に用いることができる。また、濃硫酸の温度(処理温度)については、120℃未満では、担体炭素材料表面に対する反応性が乏しく、表面積が減少する傾向にあり、金属粒子やその他の不安定な炭素化合物等に対する溶解や、所望の脱水作用を発揮できず、反対に、この濃硫酸の温度(処理温度)には特に上限はなく、硫酸の沸点(290℃)まで適用可能である。
【0043】
前記第2の加熱処理工程及び洗浄処理工程を経て得られた洗浄処理後の炭素材料中間体について、真空中、不活性ガス雰囲気中、又は空気雰囲気中で、1000℃以上2100℃以下、好ましくは1600℃〜2000℃、より好ましくは1600℃〜1900℃の温度範囲の温度で例えば2〜5時間加熱し(第3の加熱処理工程)、この加熱処理により炭素材料中間体から水素を脱離させ、水素含有量(H)を低減させ、本発明の上記(a)、(b)、及び(c)の特性を満たす担体炭素材料を得る。この第3の加熱処理工程で、加熱温度が1000℃未満であると、得られた担体炭素材料中にヒドロキシル基やカルボキシル基等の親水性官能基が完全に脱離されずに残存し、Hの値が0.010を超えてしまい、この担体炭素材料を用いて製造された燃料電池において、担体炭素材料に担持された金属触媒粒子上で発生した水が酸化性ガスの拡散を阻害する、いわゆるフラッディングの問題を引き起こす虞がある。反対に、2100℃を超えて加熱すると、窒素吸着BET比表面積(S)の値が600m
2/gに達しない場合があり、担体炭素材料に金属触媒粒子を高分散状態で担持させるのに必要な表面積が得られない。
【0044】
また、本発明の固体高分子形燃料電池用の金属触媒粒子担持炭素材料を製造する方法についても、特に制限されるものではないが、例えば以下に示す方法を例示することができる。
すなわち、先ず、以上のようにして製造された担体炭素材料を液体分散媒中に分散させ、得られた分散液中に、白金を主成分とした金属の錯体又は塩と還元剤とを添加し、液相で金属イオンを還元して白金を主成分とする微細な金属触媒粒子を析出させると共に、この析出した金属触媒粒子を前記担体炭素材料に担持させる方法である。
【0045】
ここで、担体炭素材料に高分散状態で担持された金属触媒粒子は、そのサイズが1〜6nm程度であり、このサイズの金属触媒粒子を均一な粒子径で製造することは機械的又は物理的には不可能であり、化学的に金属イオンを還元して生成させる。すなわち、上記の如く、白金を主成分とする金属の錯体又は金属塩を液相で還元剤により還元して金属触媒粒子を生成させる方法である。ここで、適用可能な還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、ヒドラジン、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類、エタノールやプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール等のポリオール、クエン酸、シュウ酸、ギ酸等のカルボン酸等を用いることができる。また、活性の高い金属触媒粒子を生成させるためには、コロイド化剤等の触媒表面を被覆する化合物の添加は避けるべきであり、そのために予め液体分散媒中に担体炭素材料を分散させておき、還元されて生成した金属触媒粒子が凝集して粗大化する前に、この生成した金属触媒粒子を担体炭素材料に固着させる。更に、生成する金属触媒粒子の粒子径の制御は、還元剤の強度、金属触媒粒子の濃度、担体炭素材料の濃度等を制御因子として最適化することができる。
【0046】
上述した本発明の固体高分子形燃料電池用の担体炭素材料は、上記(a)の特性「担体炭素材料に親水性官能基が少ないこと」、(b)の特性「担体炭素材料に金属触媒粒子を高分散状態で担持させるために、担体炭素材料が大きな表面積を有すること」、及び(c)の特性「担体炭素材料に前記金属触媒粒子を高分散状態に固定するために、担体炭素材料が適度な量のサイトを有すること」を有し、また、本発明の固体高分子形燃料電池用の金属触媒粒子担持炭素材料は、高加湿条件下で運転される燃料電池に用いられ、優れた電池性能を発揮する。
【0047】
また、特許文献2においては、触媒層の構造をガス拡散が良好になるように最適化することにより、加湿条件下でなくとも高い電池性能を発現させているが、本発明の担体炭素材料を用いた場合でも、特許文献2の場合と同様に触媒層の構造をガス拡散が良好になるように最適化することにより、加湿条件下でなくとも高い電池性能を発現させることができる。
【0048】
なお、以上の説明においては、固体高分子形燃料電池の電極としての用途のうち、求められる条件の厳しいカソード電極の用途について記載したが、カソード電極よりも求められる条件が緩やかなアノード電極の用途でも使用可能であることは勿論である。