(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のAOA法(微生物処理)を用いた窒素・リン除去型廃水処理プロセスによれば、リンを含む有機性廃水から窒素とリンを同時除去することが可能である。一方で、米ぬか加工廃水等の有機性廃水のように、COD及びBOD濃度が高く、また、微生物が分解しにくい難分解性有機物が廃水中に多く存在する場合には、AOA法(微生物処理)の前処理工程にオゾンマイクロバブルにより廃水中の有機物を低分子化することが行われている。
この方法では、有機性廃水にオゾンマイクロバブルを接触しオゾンによる有機物低分子化を前処理として行うことで、処理効率低下の原因となる難分解性有機物を分解して低分子化する。その結果、窒素・リン除去型廃水処理プロセスの有機物、窒素、リン除去性能が、オゾンマイクロバブルによる前処理をしない場合に比べ向上する。
【0008】
しかしながら、このように窒素・リン除去型廃水処理プロセスの前段にオゾンマイクロバブルを用いた前処理工程を行った場合でも、米ぬか加工廃水などのように、例えばpHが3〜4の酸性を示し、又はCOD濃度が6000mg/L程度の高いものであると、有機物並びにリンなどの除去性能が低下しあるいは不安定となる要因となる。
【0009】
すなわち、被処理有機性廃水のpHが4程度以下であれば、AOA法(微生物処理)において有機物等の除去を担う活性汚泥中の菌体がダメージを被り、その結果、後述するMLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)濃度が低下する。
また、AOA法(微生物処理)において、廃水処理装置の運転立上げ時ならびに一度MLSS濃度が低下して処理不能に陥った場合の活性汚泥に対して、米ぬか加工廃水等の高濃度のCODを含有する、処理負荷が高い廃水を直接通水してもMLSS濃度は低下したまま回復しない。
【0010】
ここで、MLSS濃度(以下において汚泥濃度ともいう)とは、微生物処理において廃水処理を行う菌体を含む活性汚泥の濃度であり、有機性廃水の処理を行うために、MLSS濃度は一定の値以上を維持する必要がある。
MLSSは、廃水を処理するために消費されるが、被処理水のCOD濃度が過度に高くなければ、処理が進むにつれて回復する性質を持っている。しかしながら、その回復速度を超えてMLSS濃度が低下すれば、それ以上の廃水処理は不可能となる。
したがって、被処理有機性廃水が低pHであれば、MLSS濃度が低下し、有機物ならびにリン等の除去プロセス性能の不安定さをもたらす要因となる。また、廃水処理装置の運転立ち上げ時やMLSS濃度が処理不能な状態まで低下した状態で高COD濃度の被処理水を通水すれば、MLSS濃度は低下したまま回復しない。
【0011】
つまり、窒素・リン除去型廃水処理プロセスに上述のオゾンマイクロバブルを用いた前処理を適用するだけでは、高COD濃度で処理負荷が高い有機性廃水、あるいは低pHの有機性廃水が通水された場合、水質処理に必要なMLSS濃度(汚泥濃度)を保持できなくなる。その結果、有機物やリンの除去性能、すなわち廃水処理性能が損なわれる可能性がある。
【0012】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の少なくとも一実施形態は、米ぬか加工廃水等の、難分解性有機物を含有する高COD濃度及び/又は低pHの有機性廃水であっても、安定して廃水処理性能を維持することができる、有機性廃水の処理方法及び処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の少なくとも一実施形態に係る有機性廃水処理方法は、
有機性廃水のCOD濃度及びpHを調整して調整廃水を得る調整工程と、
前記調整廃水にオゾンマイクロバブルを供給し、前記調整廃水中の難分解性有機物を低分子化して前処理廃水を得る前処理工程と、
リン蓄積細菌及び脱窒性リン蓄積細菌のうち少なくとも一方の存在下で、前記前処理廃水に、嫌気処理、好気処理及び無酸素処理を含む微生物処理を行い、前記前処理廃水に含まれる窒素とリンを除去する微生物処理工程と、
前記微生物処理工程におけるMLSS濃度を計測するMLSS計測工程と、を備え、
前記調整工程において、MLSS計測工程でのMLSS濃度計測値が閾値以下であれば、少なくともMLSS濃度計測値が前記閾値に増加するまでの期間、前記有機性廃水のCOD濃度が2000mg/L以下となるように前記有機性廃水のCOD濃度を調整し、その後、得られる前記調整廃水のpHが5.0以上8.0以下となるように前記有機性廃水のpHを調整する。
【0014】
上記において、MLSS濃度の閾値は、MLSS濃度が閾値以上であれば、被処理廃水のCOD濃度が高くても、MLSS濃度を回復することによって微生物処理工程において安定した処理性能が得られるようなMLSS濃度の値である。
上記有機性廃水処理方法では、調整工程において、MLSS濃度の計測値に基づいて被処理廃水である有機性廃水のCOD濃度を所定値以下に調整する。例えば、MLSS濃度の計測値が閾値以下である場合、米ぬか加工廃水等のようにCODの濃度が6000mg/L程度と高濃度である場合にはこれを希釈して2000mg/L以下とする。このため、処理対象の有機性廃水のCODが低下し、その後の微生物処理工程における活性汚泥の処理負荷を軽減させることができる。これにより、通常COD濃度が高く処理負荷が高い廃水処理開始時又は一旦MLSS濃度が低下して廃水処理が不能となった場合であっても、その後MLSS濃度(汚泥濃度)を回復させることが可能となる。又は、廃水処理が不能となる手前でMLSS濃度を回復させることが可能となる。そして、少なくともMLSS濃度計測値が前記閾値まで増加するまで希釈した有機性廃水を微生物処理工程で処理することで、MLSS濃度は前記閾値付近の定常域を維持しやすくなる。その結果、MLSS濃度を安定して維持できるため、微生物処理工程における有機物及びリンの除去性能、すなわち廃水処理性能を安定して維持することができる。
また、COD濃度調整、すなわち有機性廃水の希釈は、廃水処理開始時及び廃水処理性能が悪化した際のスタートアップ時のみであり、MLSS濃度が閾値以上の定常状態に達した場合からは、有機性廃水を希釈しなくともその後の処理が可能となる。このため、COD濃度が高い有機性廃水を全く希釈せずに微生物処理を施すことによって廃水処理性能が低下して処理が滞る場合に比べ、有機物除去時間が短縮し、その結果微生物処理における曝気動力を削減することができる。その結果、廃水処理に要する電力コストを削減することが可能となる。
また、上記有機性廃水処理方法では、調整工程において、上述のようにCOD濃度を調整した有機性廃水のpHを5.0以上8.0以下となるように調整する。このため、その後の微生物処理工程においてpHが5.0以上8.0以下に調整された被処理水が通水されるため、微生物処理工程において有機物等の除去を担う活性汚泥中の菌体が受けるダメージが低減される。その結果、MLSS濃度の低下が抑えられるため、微生物処理工程における廃水処理性能の安定した維持につながる。
このように、MLSS濃度の計測値に基づいて被処理廃水である有機性廃水のCOD濃度及びpHを調整する調整工程を設けることで、米ぬか加工廃水等の高濃度のCOD(炭素源)を含み及び/又は低pHの有機性廃水に対し、安定したMLSS濃度(汚泥濃度)を維持することが可能となり、有機物等の除去性能、すなわち廃水処理性能を改善することができる。
【0015】
幾つかの実施形態では、前記微生物処理工程は、嫌気処理、好気処理及び無酸素処理をこの順に含む。
この場合、微生物処理工程は嫌気処理、好気処理及び無酸素処理の順に処理を行うAOA法である。幾つかの実施形態で微生物処理工程に用いられる脱窒性リン蓄積細菌は、AOA法で運転されている汚泥に大抵含まれているため、この汚泥を有効に活用することで被処理廃水から窒素及びリンを効率よく除去することが可能となる。
【0016】
幾つかの実施形態では、前記MLSS濃度計測値の前記閾値が6500mg/Lである。
【0017】
また、幾つかの実施形態では、前記有機性廃水が、米加工廃水又は米ぬか加工廃水である。
【0018】
本発明の少なくとも一実施形態に係る有機性廃水処理装置は、
有機性廃水処理に含まれる有機物とリンを除去する有機性廃水処理装置であって、
有機性廃水のCOD濃度を調整するCOD濃度調整手段と、
前記有機性廃水のpHを調製するpH調整手段と、
マイクロバブルにオゾンを溶解させてオゾンマイクロバブルを生成するオゾンマイクロバブル生成手段と、
前記有機性廃水に、前記オゾンマイクロバブル生成手段で生成したオゾンマイクロバブルを供給して前記有機性廃水中の難分解性有機物を低分子化して前記処理廃水を得る前処理手段と、
前記前処理手段の後段に接続され、リン蓄積細菌及び脱窒性リン蓄積細菌のうち少なくとも一方の存在下で、前記前処理廃水に、嫌気処理、好気処理及び無酸素処理を含む微生物処理を行い前記前処理排水に含まれる窒素とリンを除去する微生物処理手段と、
前記微生物処理手段におけるMLSS濃度を計測するMLSS計測手段と、
前記MLSS計測工程でのMLSS濃度の計測値に基づいて、前記COD濃度調整手段により調整される後の前記有機性廃水のCOD濃度である目標COD濃度を決定し、前記有機性廃水のCOD濃度が前記目標COD濃度となるように前記COD濃度調整手段を制御する制御手段と、を備える。
【0019】
上記有機性廃水処理装置では、COD調整手段及び制御手段により、MLSS濃度の計測値に基づいて被処理廃水である有機性廃水のCOD濃度を所定値以下に調整し、pH調整手段により有機性廃水のpHを調整することができる。
制御手段によりCOD調整手段を制御することにより処理対象の有機性廃水のCOD濃度を調整し、これにより、その後の微生物処理工程における活性汚泥の処理負荷を軽減させることができる。したがって、廃水処理開始時又は一旦MLSS濃度が低下して廃水処理が不能となった場合であっても、その後MLSS濃度(汚泥濃度)を回復させることが可能となる。又は、廃水処理が不能となる手前でMLSS濃度を回復させることが可能となる。その結果、MLSS濃度を安定して維持できるため、微生物処理工程における有機物及びリンの除去性能、すなわち廃水処理性能を安定して維持することができる。
また、pH調整手段により、処理対象の有機性廃水のpHを所定範囲内に調製することにより、微生物処理工程において有機物等の除去を担う活性汚泥中の菌体が受けるダメージを低減することができる。その結果、MLSS濃度の低下が抑えられるため、微生物処理工程における廃水処理性能の安定した維持につながる。
このように、上記装置では、MLSS濃度の計測値に基づいて被処理廃水である有機性廃水のCOD濃度及びpHを調整するCOD調整手段及びpH調整手段を設けられる。このため、COD調整手段及びpH調整手段の後に被処理水が通水される微生物処理手段において、米ぬか加工廃水等の高濃度のCOD(炭素源)を含み及び/又は低pHの有機性廃水に対し、安定したMLSS濃度(汚泥濃度)を維持することが可能となる。したがって、有機物等の除去性能、すなわち廃水処理性能を改善することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、米ぬか加工廃水等の、難分解性有機物を含有する高COD濃度及び/又は低pHの有機性廃水であっても、安定して廃水処理性能を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、以下の実施形態における処理対象の有機性廃水は、米ぬか加工工場等から排出された米ぬかや米のとぎ汁等を含む米ぬか加工廃水であり、BOD、COD、窒素、リンを含む有機性廃水である。
【0023】
図1は、一実施形態に係る有機性廃水処理方法を示すフロー図である。
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る有機性廃水処理方法の基本フローを説明する。
本実施形態に係る米ぬか加工廃水の処理方法は、主に、調整工程1と、前処理工程2と、嫌気処理工程3、好気処理工程4、無酸素処理工程5を含む微生物処理工程6と、MLSS計測工程7とを備える。この処理方法は、微生物処理工程6の後、微生物処理工程で得られる処理水と余剰汚泥を分離する固液分離工程8をさらに備えてもよい。
【0024】
次に、一実施形態に係る有機性廃水処理方法の各工程について説明する。
【0025】
調整工程1では、処理対象の有機性廃水のCOD濃度及びpHを調整し調整廃水を得る。この調整工程1においては、後述するMLSS計測工程7でのMLSS濃度計測値が閾値以下であれば、処理対象の有機性廃水のCOD濃度が2000mg/L以下となるように前記有機性廃水のCOD濃度を調整し、その後、得られる前記調整廃水のpHが5.0以上8.0以下となるように前記有機性廃水のpHを調整する。
【0026】
COD濃度の調整は、MLSS計測工程7でのMLSS濃度計測値に基づいて米ぬか加工処理水(有機性廃水)の原水を希釈することによって行う。すなわち、MLSS濃度が閾値以下であれば、少なくともMLSS濃度計測値が前記閾値となるまでの期間、有機性廃水を水で希釈することによりCOD濃度を調整する。一方、MLSS濃度が閾値よりも高ければ希釈によるCOD濃度調整は行わない。
一実施形態においては、COD濃度が2000mg/L以下となるように有機性廃水を水で希釈する。COD濃度が2000mg/L程度以下であると、MLSS濃度が低下して微生物工程6における廃水処理性能が低下しても、COD濃度が抑制されていることにより汚泥の処理負荷が少なくとも一時的に低下する。このため、低下したMLSS濃度を回復(増加)させることが可能となる。
一実施形態において、MLSS濃度の上記閾値は、6500mg/Lである。他の実施形態においてはMLSS濃度の上記閾値は、5000mg/L〜7000mg/Lの範囲で調整される。
また、他の実施形態においては、上記のMLSS濃度計測値に基づいたCOD濃度調整に加え、有機性廃水処理の開始時にCOD濃度を調整してもよい。廃水処理開始時は、微生物工程6における汚泥の処理負荷が大きいため、有機性廃水を希釈してCOD濃度を低下させることによってMLSS濃度が回復しやすくなり、微生物処理工程6における廃水処理性能が維持されやすくなる。
他の実施形態において、COD濃度調整後のCOD濃度は、1500mg/L以下である。
【0027】
また、有機性廃水のpHの調整は、上記COD濃度の調整を行った後、40質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えることでpHが5.0以上8.0以下となるように調整する。このようにpHを調整すると、その後の微生物処理工程においてpHが5.0以上8.0の中性付近に調整された被処理水が通水されるため、微生物処理工程において有機物等の除去を担う活性汚泥中の菌体が受けるダメージが低減される。その結果、MLSS濃度の低下が抑えられるため、微生物処理工程における廃水処理性能の安定した維持につながる。
他の実施形態では、pHが6.0以上7.0以下となるように調節する。
【0028】
前処理工程2では、マイクロバブルにオゾンを溶解させたオゾンマイクロバブルを、調整工程1でCOD濃度及びpHを調整した米ぬか加工廃水(調整廃水)に供給して、該調整廃水に含まれる難分解性有機物を低分子化し、前処理廃水を得る。
マイクロバブルとは、大きさ(径)が10〜数10μm程度の微細な気泡であり、好適には気泡が発生した時の大きさが50μmより小さい気泡である。調整廃水にオゾンマイクロバブルを供給することで、調整廃水中の難分解性有機物の低分子化を行い、嫌気性処理でリン蓄積細菌類、脱窒素リン蓄積細菌類による有機物の取り込みを容易にさせる。
【0029】
より具体的には、オゾンの酸化力により調整廃水中の難分解性有機物を低分子化するとともに、マイクロバブルの消滅により生成するOHラジカルの酸化力により難分解性有機物を低分子化する。このとき、マイクロバブルの電荷により難分解性有機物を低分子化が促進されると考えられる。さらに、マイクロバブルは超微細であるため、その上昇速度はストークスの式にほぼ従うとされ、マイクロバブルの上昇速度は非常に遅い。したがってマイクロバブルの液中滞留時間が長いため、難分解性有機物とオゾン又はOHラジカルとの接触効率が極めて高くなり、難分解性有機物を高効率で低分子化することが可能となる。
なお、前処理工程の前段にて、処理対象の廃水中の夾雑物を除去したり、廃水の温度調整を行うなどの予備処理を施しておくことが好ましい。
【0030】
本実施形態の微生物処理工程6では、脱窒性リン蓄積細菌の存在下で、前処理工程2で得られた前処理廃水に、嫌気処理、好気処理及び無酸素処理をこの順に含む微生物処理を行い、前記前処理廃水に含まれる窒素とリンを除去する。
他の実施形態においては、脱窒性リン蓄積細菌に代えてリン蓄積細菌の存在下、又はリン蓄積細菌及び脱窒性リン蓄積細菌の存在下で微生物処理を行ってもよい。
また、他の実施形態においては、微生物処理は嫌気処理、好気処理及び無酸素処理を任意の順に含む。
【0031】
嫌気処理工程3は、リン蓄積細菌及び脱窒性リン蓄積細菌の少なくとも一方の存在下で、前処理工程2で得られた前処理廃水を嫌気処理する。ここでリン蓄積細菌及び脱窒性リン蓄積細菌は、前処理廃水に含まれる炭素源(有機物)を取り込み、リンを放出する。このとき、前処理工程3で米ぬか加工廃水(調整廃水)中の難分解性有機物が低分子化しているため、嫌気処理での炭素源の取り込みが円滑に行われる。
好適には、嫌気処理工程には、リン蓄積細菌及び脱窒性リン蓄積細菌の少なくとも一方を含む汚泥(活性汚泥)若しくはこれらの少なくとも一方が固定化された生物膜が用いられる。
【0032】
主として、脱窒性リン蓄積細菌を含む汚泥を用いて嫌気性処理を行う場合には、脱窒性リン蓄積細菌を含む汚泥を嫌気/無酸素条件で馴養し、脱窒性リン蓄積細菌を優占化させる。この馴養では、嫌気性処理終時に硝酸ナトリウム等の硝酸イオン源を微生物の活性状態により適宜添加してもよく、また処理対象の調整廃水を供給しつつ各処理を脱窒性リン蓄積細菌が優占化するまでこれらの処理を繰り返し行うことが好ましい。主として、脱窒性リン蓄積細菌が固定化された生物膜を用いて嫌気性処理を行う場合には、増殖速度の遅い硝化細菌が生物膜内側に、脱窒性リン蓄積細菌が生物膜外側に局在化するような生物膜を用いることが好ましい。
【0033】
好気処理工程4は、処理対象の調整廃水中に空気を供給して好気条件とし、ここで硝化細菌によるアンモニア態窒素の硝酸態窒素への酸化、及びリン蓄積細菌によるリンの取り込みが行われる。なお、この好気処理工程4では、リン蓄積細菌による過剰なリン取り込みを防止するために、好気処理工程初期に有機炭素源を少量添加し、リン取り込み量を制限することが好ましい。これにより、後の無酸素処理工程5において、脱窒性リン蓄積細菌による硝酸態窒素の取り込みを十分に行うことが可能となる。
【0034】
無酸素処理工程5は、空気の供給を停止して無酸素条件とし、ここで脱窒性リン蓄積細菌による脱窒反応及びリンの取り込みが行われる。
無酸素処理工程4の終了後は、余剰汚泥と処理水とを分離する固液分離工程8が行われる。固液分離工程8は、例えば、沈殿、膜分離等の公知の方法が用いられ、凝集剤を投入して汚泥を凝集沈殿させてもよい。
【0035】
上記した微生物処理工程6は、バッチ式であっても連続式であってもよい。連続式の場合には、固液分離工程8で分離した余剰汚泥の一部を嫌気処理工程3に返送し、MLSS濃度を維持することが好ましい。
本実施形態によれば、前処理工程2及び微生物処理工程6の前に調整工程1を設けたことにより、微生物処理工程における廃水処理性能が維持されることで、リンの除去性能が向上することが期待できる。これにより、微生物処理工程に用いられる汚泥中のリン濃度が高くなり、汚泥からリンを回収する従来手法を採用した場合に、リン回収率の向上が期待できる。
【0036】
MLSS計測工程7では、微生物処理工程6におけるMLSS濃度を計測する。MLSS濃度は活性汚泥法における曝気槽内の活性汚泥量をmg/Lで表したものであり、本実施形態においては、微生物処理工程6における処理対象の前処理廃水と、微生物処理工程6で用いるリン蓄積細菌及び脱窒性リン蓄積細菌の少なくとも一方を含む汚泥(活性汚泥)との混合液中の汚泥の濃度(mg/L)である。
MLSS濃度の計測には、一般に用いられるMLSS計を使用することができる。
【0037】
次に、
図2〜
図4を参照して、一実施形態に係る有機性廃水処理装置の構成について説明する。
【0038】
図2は一実施形態に係る有機性廃水処理装置の構成例を示す全体図であり、
図3は、一実施形態に係る有機性廃水処理装置のCOD濃度調整手段及びpH調整手段の概略構成図である。
図2に示すように、有機性廃水処理装置110は、主に、COD濃度調整手段50と、pH調整手段60と、オゾンマイクロバブル生成手段11と、前処理槽10を含む前処理手段と、微生物処理槽35を含む微生物処理手段と、MLSS計56を含むMLSS計測手段と、コントローラ100を含む制御手段と、を備える。微生物処理槽35は、嫌気性処理工程、好気性処理工程、無酸素処理工程をそれぞれ別個に行う槽を複数設け、これらを直列に接続してもよいし、同図に示すように槽内の条件を変化させて嫌気性処理工程、好気性処理工程、無酸素処理工程を単一槽で行うようにしてもよいが、装置の設置面積の削減及び装置の小型化ができることから、特に単一槽であることが好ましい。
【0039】
以下に、有機性廃水処理装置の詳細な構成を説明する。
処理対象の有機性廃水は、ポンプ20により一旦貯水タンク21に貯留される。貯水タンク21には、有機性廃水のpHや温度を測定するセンサ22が設置されている。
貯水タンク21の米加工廃水は、廃水供給ライン23を介してポンプ24により前処理槽10に送給される。廃水供給ライン23上にはバルブ25が設けられており、このバルブ25により前処理槽10へ供給する廃水処理量が調整される。また、廃水供給ライン23から分岐した廃水の一部を貯水タンク21へ返送する返送ライン26を設けてもよく、廃水返送量はバルブ27により調整される。
【0040】
前処理槽10には、オゾンマイクロバブル生成手段11で生成されたオゾンマイクロバブルが供給される。具体的には、オゾンマイクロバブル生成手段11には、循環ライン17(17a、17b)が接続されており、前処理槽10に送給された有機性廃水がこの循環ライン17(17a、17b)を介して前処理槽10とマイクロバブル発生装置16間を循環することにより、廃水中にオゾンマイクロバブルが供給される。循環ライン17(17a、17b)上にはバルブ18(18a、18b)が設けられており、ここで循環量が調整される。なお、オゾンマイクロバブル生成手段11は、
図2で説明したものと同一である。
また、前処理槽10には、槽内を撹拌する撹拌機19と、前処理槽10内の廃水中のオゾン濃度を測定するオゾンモニタ28と、有機性廃水のpHや温度を測定するセンサ29が設置されている。
【0041】
前処理槽10から排出された有機性廃水は、廃水供給ライン30を介してポンプ31により微生物処理槽35に送給される。廃水供給ライン30上には、バルブ32等が設けられており、このバルブ32等により微生物処理槽35へ供給する廃水処理量が調整される。
微生物処理槽35には、循環ライン37(37a、37b)を介してマイクロバブル発生装置36が接続されている。マイクロバブル発生装置36は、廃水中に空気のマイクロバブルを供給して微生物処理槽35内を好気条件にするための装置である。空気の供給量(曝気量)はバルブ38(38a、38b)により調整される。
【0042】
また、微生物処理槽35には、循環ライン41(41a、41b)を介して槽内の温度調整を行う空冷チラー40が接続されており、循環ライン41aには圧力脈動を防止するための膨張タンク43が接続されている。
さらにまた、微生物処理槽35には、槽内を撹拌する撹拌機44と、微生物処理槽内の廃水のpHや温度を測定するセンサ45が設置されている。
【0043】
上記した構成を備える微生物処理槽35において、各処理工程の条件に合わせて、各バルブを開度調整して槽内の状態を変化させるとよい。例えば、好気性処理工程では、マイクロバブル発生装置36のバルブ38(38a、38b)を開にして微生物処理槽35内に空気のマイクロバブルを供給して好気条件とする。また、温度調整を行う場合には、空冷チラー40のバルブ42(42a、42b)を調整する。
この微生物処理槽35で、嫌気性処理工程、好気性処理工程、無酸素処理工程からなる一連の処理工程が終了したら、排出ライン70より処理水を排出し、後段の固液分離装置(図示略)に送給する。
【0044】
貯水タンク21、前処理槽10、微生物処理槽35それぞれに設置されたセンサ22,29,45により測定されたpHや温度の測定値のデータは、後述するコントローラ100に送信される。
【0045】
一実施形態において、貯水タンク21には、処理対象の廃水のCOD濃度を調整するCOD濃度調整手段50が接続される。一実施形態においては、
図2及び
図3に示すように、COD濃度調整手段50は、貯水タンク21において処理対象の廃水のCOD濃度を希釈するための希釈水を貯留する希釈水タンク52と、希釈水流量制御弁54とを含む。希釈水タンク52から貯水タンク21に供給される希釈水の量は、希釈水流量制御弁54の開閉状態により制御される。希釈水流量制御弁54の開閉状態は、後述のコントローラ100により制御される。
他の実施形態では、希釈水タンク21及び希釈水流量制御弁54を含むCOD濃度調整手段50は前処理槽10に接続され、前処理槽10に送給された処理対象の廃水を希釈するように構成されてもよい。
【0046】
前処理槽10には、処理対象の廃水のpHを調整するpH調整手段60が接続される。一実施形態においては、
図2及び
図3に示すように、pH調整手段60は、処理対象の廃水のpHを調整するためのpH調整剤を貯留するためのpH調整剤タンク62と、pH調整剤タンク62内のpH調整剤を前処理槽10内に送出するためのpH調整ポンプ64とを含む。後述のコントローラ100がpH調整ポンプ64を制御することにより、pH調整ポンプ64から前処理槽10内に送出されるpH調整剤の量が制御される。
なお、pH調整ポンプ64としては、例えば電磁定量ポンプを使用することができる。また、pH調整剤としては、アルカリ性の被処理廃水にたいしては酸性の水溶液を、酸性の被処理廃水に対しては塩基性の水溶液を用いることができる。一実施形態においては、pHが低い米ぬか加工排水(有機性廃水)のpHを増加させるため、40質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpH調整剤として用いる。
【0047】
なお、いくつかの実施形態では、COD濃度調整手段50やpH調整手段60により処理対象の廃水のCOD濃度やpHの調整は、微生物処理槽35内の温度にも影響されるため、微生物処理槽35内の温度は冷却または必要にあわせて加温調節が可能なチラー40等により処理槽内温度が30〜35℃に調節される。
【0048】
微生物処理槽35には、微生物処理槽内のMLSS濃度を計測するためのMLSS計56が接続される。MLSS計56により計測されたMLSS計測値のデータは、コントローラ100に送信される。
【0049】
コントローラ100は、貯水タンク21、前処理槽10、微生物処理槽35それぞれに設置されたセンサ22,29,45から送信されるpHや温度の測定値のデータやMLSS計56から送信されるMLSS計測値のデータを受信し、これらの値に基づいて、COD濃度調整手段50やpH調整手段60を制御する。
例えば、コントローラ100が取得したMLSS測定値が予め設定された閾値以下である場合に、貯水タンク21内の被処理廃水のCOD濃度が一定値(例えば2000mg/L)以下となるような量の希釈水を、希釈水タンク52から貯水タンク21に送出するように、希釈水流量制御弁を制御する。そして、MLSS計測値が一定値(例えば7000mg/L)となるまでの期間、上記のように被処理廃水が希釈されるように制御する。
また、例えば、前処理槽10に設置されたセンサ29からコントローラ100に送信されたpHが一定範囲(例えば5.0以上8.0以下)外である場合には、pHが前記範囲内となるのに必要な量だけ、pH調整剤タンク62内に貯留されたpH調整剤を前処理槽10内に送出するように、pH調整ポンプ64を制御する。
【0050】
図4は、一実施形態に係る有機性廃水処理装置の前処理槽を示す概略構成図である。
前処理槽10には、オゾンマイクロバブル生成手段11からオゾンマイクロバブルが供給される。
オゾンマイクロバブル生成手段11は、空気を吸気して高濃度の酸素を生成する酸素濃縮機12と、酸素からオゾンを生成するオゾン発生装置13と、マイクロバブルにオゾンを溶解したオゾンマイクロバブルを生成するマイクロバブル発生装置16とを含む。なお、オゾンマイクロバブル生成手段11は、同図では一例として気液混合ポンプ型を示したが、これに限定されず、旋回流ノズル型等の他の型式であってもよいし、空気からオゾンを生成する手段であってもよい。
【0051】
酸素濃縮機12から排出された酸素(好ましくは酸素濃度90%以上)はオゾン発生装置13に供給され、ここで酸素を原料としてオゾンが生成される。このオゾンは、オゾン発生装置13からオゾン供給ライン14を通ってマイクロバブル発生装置16に供給される。このとき、オゾン供給ライン14上の流量調整バルブ15でオゾン流量が調整される。
前処理槽10とマイクロバブル発生装置16とは循環ライン17(17a,17b)で接続されており、循環ライン17(17a,17b)上で循環する米ぬか加工廃水は、マイクロバブル発生装置16でオゾンマイクロバブルの供給を受け、廃水中の難分解性有機物が低分子化される。
このように米ぬか加工廃水にオゾンマイクロバブルを供給しながら該廃水を循環させることにより、米ぬか加工廃水とオゾンマイクロバブルとの接触効率が向上して、処理時間の短縮化が図れる。
【0052】
なお、前処理槽10では、上記した構成の他に、槽底部に設けた曝気管(不図示)よりオゾンマイクロバブルを供給してもよいし、また、槽内に撹拌手段を設けてオゾンマイクロバブルと米加工廃水との接触効率をさらに向上させるようにしてもよい。
前処理槽10から排出された米ぬか加工廃水は、前処理済みの前処理廃水として後段の微生物処理槽35へ送給される。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
実施例1として、米ぬか加工廃水の処理におけるMLSS濃度の経時変化を調べる試験を行った。
図2に示す有機性廃水処理装置を用い、調整工程でのCOD濃度及びpHの調整は行わずに、米ぬか加工廃水原水のまま、下記に示す条件下で前処理工程及び微生物処理工程のうち好気工程を行った。なお、調整前のCOD濃度は、6000mg/L程度であった。
本法では、槽内で、COD濃度及びpHの調整を行う調整工程を加え、上記と同様の条件下で前処理を行った。
前記調整工程においては、微生物処理工程におけるMLSS濃度の測定値が6500mg/L以下である場合に、MLSS濃度計測値が7000mg/Lとなるまで、米ぬか加工廃水の原水をCOD濃度が2000mg/L以下となるように希釈し、COD濃度を調整した。COD濃度の調整後、40質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHが6.5となるように調整した。
<前処理工程における条件>
酸素濃縮機12からオゾン発生装置13への酸素流入量:1[L/min](酸素濃度90%以上)
オゾン発生装置13のオゾン発生量:9.66[g/h](161[mg/min])
オゾン濃度:161[g/nm
3]
マイクロバブル循環量:24.5[L/min]
前処理槽10における被処理廃水とオゾンマイクロバブルとの反応時間:90分間
【0054】
処理開始時から30日経過までは調整工程を行わずに前処理工程及び微生物処理工程を行う従来の処理方法を行い、30日経過後からは上記処理を行った場合のMLSS濃度の経時変化の測定結果を
図5に示す。
pH及びCOD濃度を調整する調整工程を行わずに前処理工程及び微生物処理工程を行う従来の処理方法を行った処理開始時から30日経過までは、初め3400mg/L程度のMLSS濃度が、一時は増加したものの29日で2000mg/Lを下回り、処理不能となりそれ以上回復(増加)しなかった。このことから、COD濃度が6000mg/L程度と高い廃水では、微生物処理工程での汚泥による処理が米ぬか加工廃水の負荷に耐えられず、処理性能が低下し、MLSS濃度(汚泥濃度)の減少にもつながることが分かった。
その後、調整工程を加えた本発明の処理方法に切り替えられると、当初3600mg/L程度のMLSS濃度が、徐々に増加傾向を示し、80日経過時で6300mg/L、117日経過時で7000mg/Lまで増加した。このことから、調整工程を加えた本発明の処理方法を付加することで、MLSS濃度を7000mg/L程度に維持することができ、高濃度COD廃水に対応できる汚泥濃度を維持できることが分かった。
【0055】
[実施例2]
実施例2として、米ぬか加工廃水のCOD濃度の経時変化を調べる試験を行った。
図2に示す有機性廃水処理装置を用い、調整工程及び前処理工程を下記の条件で行った後、嫌気処理を4時間施し、続いて好気処理を施した。好気処理下において、被処理廃水のCOD濃度の経時変化を測定した。上記調整工程においては、希釈後のCOD濃度を変化させて試験を行った。なお、嫌気処理及び好気処理は連続式で行った。
【0056】
<調整工程における条件>
調整工程後のCOD濃度(初期COD濃度):
7440, 6160,
5200, 5120, 3840, 3000, 2260, 1880, 1600, 1250, 1110, 740, 280(mg/L)の13種類
調整工程後のpH:6.5(40質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整)
<前処理工程における条件>
酸素濃縮機12からオゾン発生装置13への酸素流入量:1[L/min](酸素濃度90%以上)
オゾン発生装置13のオゾン発生量:9.66[g/h](161[mg/min])
オゾン濃度:161[g/nm
3]
マイクロバブル循環量:24.5[L/min]
前処理槽10における被処理廃水とオゾンマイクロバブルとの反応時間:90分間
【0057】
米ぬか加工廃水のCOD濃度の経時変化の測定結果を、
図6に示す。
図6において、横軸は好気処理開始後からの経過時間(単位:時間)を示し、縦軸はCOD濃度(単位:mg/L)を示す。
調整工程において、COD濃度をそれぞれ280、740、1110、1250、1600、2260(mg/L)に調製した米ぬか加工排水については、好気処理開始から15〜36時間でCOD濃度を90%以上低下させることができた。
一方、調整工程においてCOD濃度をそれぞれ1880、3000、3840、5120、5200、6160、7440(mg/L)に調製した米ぬか加工排水については、好気処理開始から5時間しても、初期濃度よりもCOD濃度が低下することはなかった。
この結果によれば、調整工程においてCOD濃度を2000mg/L程度以下に調製することで、その後の微生物処理においてCOD濃度が順調に減少し、微生物処理工程における処理性能が維持されることがわかった。
【0058】
[実施例3]
実施例3として、COD濃度を希釈して調整した米ぬか加工廃水の微生物処理後のCOD濃度を確認した。
図2に示す有機性廃水処理装置を用い、調整工程後のCOD濃度を1800〜2500mg/Lに調製した米ぬか加工廃水について、上記実施例2と同様の条件で調整工程(pH調整)及び前処理工程を行った後、下記の条件で微生物処理工程を行った。なお、微生物処理工程は連続式で行った。
<微生物処理の各工程の処理時間>
嫌気処理:4時間
好気処理:26時間
無酸素処理:3時間
【0059】
微生物処理前後のCOD濃度の測定結果を
図7に示す。この結果、微生物処理工程後のCOD濃度は、いずれも90%以上低下したことがわかった。これにより、本発明の一実施形態に係る処理方法及び処理装置を用いることで、高い炭素源(有機物)処理性能が得られることがわかった。