(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプやファン等の回転機器を使用する場合、特に、取り扱う流体(液体または気体)がポンプモータの外部へ漏れることが許されない用途、または、水中モータポンプや真空ポンプのように外部の水や空気がポンプまたはモータの内部に侵入してはならない用途で使用する場合には、キャンドモータが使用されてきた。キャンドモータでは、キャンを使用して、モータロータとモータステータとが隔離される。キャンは、通常、円筒形状を有しており、モータロータの外周面との間にキャップが生じる状態で、ステータコアの内面に貼り付けられる。また、一般的に、モータステータ(ステータコアおよびステータ巻線)や、ステータ巻線と接続される口出線が収容される空間は、モータフレーム、フレーム側板およびキャンにより固定密閉されて、ステータ室として構成され、当該空間の外部の環境から隔離される。かかる構成は、例えば、モータロータ側から水等の取り扱い液がステータ室に進入して絶縁低下が生じることを防止することもできる。
【0003】
かかるキャンドモータでは、モータ効率の観点から、モータロータとモータステータとのギャップを極小さくすること、すなわち、キャンを極力薄く製作することが望ましい。一方で、キャンは、ポンプの吐出圧力によって大きな内圧または外圧(例えば、真空ポンプの場合では外圧)を受けることになるので、当該圧力に耐え得る強度を必要とする。このようなことから、キャンの材料として、薄くても強度を有する金属材料が使用されることが多い。
【0004】
また、モータでは、モータステータが発生させる回転磁束が、モータステータとモータロータとのギャップを通過してモータロータまで到達することによってモータロータがトルクを発生させる。ギャップ部は磁気抵抗が大きいので、例えば、高透磁率を有する、いわゆる薄肉の鉄板等をキャン材として用いた場合、モータステータが発生させた回転磁束の一部は、モータロータ(より具体的にはロータコア)に到達する前にキャンを伝わり、その結果、モータステータ内部で磁力線が閉じ易くなる。このように、トルクを発生する目的に使用できない磁束は、一般に、漏れ磁束と称される。漏れ磁束が生じると、トルクの低下、ならびに、力率および効率の低下等、モータ性能の低下に繋がり易い。
【0005】
こうしたことから、キャンの材料には、非磁性および耐食性を有する金属材料、例えば、オーステナイト系ステンレス材やチタン材等が使用されてきた。かかるキャンの厚みは、一般的には、0.2mm〜0.5mm程度である。かかる非磁性金属を使用して製作される従来のキャンは、漏れ磁束の発生を防止できるとともに、堅牢であり長期運転に対して信頼性が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、かかる非磁性金属を使用して製作される従来のキャンは、モータ効率に改善の余地を残している。具体的には、金属材料によって製作されたキャンは、導電性を有するので、モータステータが発生させる磁束が回転する際にキャン内部に渦電流が流れ
て、損失が発生する。かかる損失は、一般に、キャン損と称される。かかるキャン損によって、モータ効率は大幅に低下する。例えば、キャンドモータの効率は、キャンを有していないモータ(この場合、勿論、キャン損もない)の効率と比べて、5〜10%程度も低下する。また、渦電流は、モータ内部で熱を発生させるので、モータ効率の低下のみならず、モータ本体や取り扱い流体の温度を上昇させる要因にもなる。このような渦電流の発生を防止するために、キャンの材料として非導電性材料である樹脂やセラミック材を使用する例がある。しかしながら、これらの材料を使用した場合には、ピンホールが形成されないように薄肉の円筒形状のキャンを成形することは困難であり、また、金属材料に比べてキャンの強度が低下する。
【0008】
以上から、キャンにおける漏れ磁束および渦電流の発生を防止して、高効率なキャンドモータが求められる。また、キャンは、信頼性が高いことが求められる。さらに、キャンは、容易に製造できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
本発明の第1の形態は、キャンドモータとして提供される。このキャンドモータは、モータロータとモータステータとを隔離するための円筒状のキャンを備える。キャンは、非磁性の金属材料によって形成された金属線材であって、キャンの軸線を中心に巻き回された金属線材と、絶縁性を有する樹脂部材とを備える。軸線を含むキャンの断面において、隣り合う金属線材の間に樹脂部材が配置される。
【0011】
かかるキャンドモータによれば、金属線材は、非磁性金属によって形成されているので、キャンによる磁束漏れが発生しない。また、キャンの軸線方向において、金属線材の各線材間は、樹脂部材によって電気的に絶縁され、かつ、キャンの両端部間も電気的に導通しないので、キャンに渦電流が発生することがない。したがって、高効率なキャンドモータが提供される。しかも、金属線材によってキャンの強度および柔軟性を確保できるので、信頼性の高い薄肉のキャンが提供される。
【0012】
本発明の第2の形態として、第1の形態において、金属線材は、樹脂部材によって周囲を被覆されていてもよい。かかる形態によれば、金属線材が露出している場合と比べて、キャンドモータの構成部品(例えば、フレーム側板)とキャンとの間のシールを行いやすい。
【0013】
本発明の第3の形態として、第1または第2の形態において、キャンは、金属線材と樹脂部材とによって構成される第1の層の内側に、樹脂によって形成された第2の層を備えていてもよい。かかる形態によれば、第1の層がモータロータ側の流体と直接接触することを抑制できるので、キャンドモータが扱う流体の条件(圧力、腐食性等)によらず、キャンの劣化、損傷、腐食を抑制して、高い密閉性を確保できる。その結果、信頼性の高いキャンを提供できる。
【0014】
本発明の第4の形態として、第3の形態において、第2の層を形成する樹脂は、第1の層を構成する樹脂部材と同一の材質であってもよい。かかる形態によれば、第1の層と第2の層との密着性を向上できる。
【0015】
本発明の第5の形態として、第3または第4の形態において、キャンは、円筒形状の両端が開放された形状を有していてもよい。第2の層は、両端のうちの少なくとも一方の端部において、第1の層よりも軸線の方向における外側まで延びて形成されているとともに
、径方向外側に向けて延びて形成されたフランジ部を有していてもよい。キャンドモータは、軸線の方向における少なくとも一方の端部の側に配置されるフレーム側板であって、モータステータが収容される空間を封止するためのフレーム側板と、押圧部材とを備えていてもよい。フランジ部は、フレーム側板の軸線の方向における外側の面と、押圧部材との間に配置されていてもよい。フランジ部とフレーム側板との間は、フランジ部が押圧部材によってフレーム側板側に押圧されて、シールされてもよい。かかる形態によれば、軸線の方向におけるキャンの端部とフランジ側板との間のシールの信頼性を向上できる。しかも、軸線の方向におけるキャンの端部においてキャンドモータが扱う流体が第1の層と接触することがないので、キャンの端部においても第3の形態の効果を確実に得られる。
【0016】
本発明の第6の形態として、第3または第4の形態において、キャンは、円筒形状の両端が開放された形状を有していてもよい。第2の層は、両端のうちの少なくとも一方において、第1の層よりも軸線の方向における外側まで延びて形成されているとともに、径方向外側において、第1の層が位置する領域まで折り返された折返部を有していてもよい。キャンドモータは、軸線の方向における少なくとも一方の端部の側に配置されるフレーム側板であって、モータステータが収容される空間を封止するためのフレーム側板を備えていてもよい。折返部とフレーム側板との間は、折返部と、フレーム側板の径方向内側の面と、が接触してシールされてもよい。かかる形態によれば、第5の形態と同様の効果を奏する。しかも、温度変化に伴うキャンの軸線方向の膨張および収縮を容易に吸収できるので、キャンが損傷しにくく、キャンの信頼性が高い。
【0017】
本発明の第7の形態は、モータロータとモータステータとを隔離するための円筒状のキャンの製造方法として提供される。この製造方法は、非磁性の金属材料を、絶縁性および熱可塑性を有する樹脂部材で被覆して形成された線材を円柱状の外周面を有する芯金に直接的に、または、他の部材を介して巻き回す工程と、線材を加熱する工程と、芯金の軸線の方向において隣り合う樹脂部材間に隙間が生じることなく、樹脂部材を溶着させる工程とを備える。
【0018】
かかるキャンの製造方法によれば、第2の形態のキャンドモータに使用するキャンを容易に製造できる。かかる製造方法は、第3の形態のキャンを製造する場合には、第1の層を構成するための線材を芯金に巻き回す前に、第2の層を芯金に予め装着する工程を更に備えることができる。この場合、第2の層上に線材を巻き回した後、線材を加熱してもよい。こうすれば、線材の樹脂部材が溶着される際に、当該樹脂部材と芯金とが密着することがないので、製造されたキャンを芯金から容易に取り外すことができる。
【0019】
本発明は、上述の形態に限らず、キャンや、キャンドモータを備えた各種回転機器、例えば、ポンプ、ファンなど、種々の形態で実現可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としてのポンプシステム10の概略断面を示す。ポンプシステム10は、本実施例では、液体ポンプであり、ポンプ本体20とキャンドモータ30(以下、単にモータ30とも呼ぶ)とを備える。ポンプ本体20は、軸線AL1を中心に回転する主軸21と、主軸21に設けられた羽根車22とを備える。主軸21は、軸受23,24によって回転可能に支承されている。
【0022】
モータ30は、主軸21に連結されており、主軸21に回転駆動力を提供する。本実施例では、軸受24は、モータ30の側に設けられている。図示するように、モータ30は、モータロータ31と、モータステータ32と、ステータフレーム33と、フレーム側板34,35と、ブラケット36と、キャン40とを備えている。
【0023】
ステータフレーム33は、軸線AL1に沿って内部空間が形成された、円筒形状を有している。このステータフレーム33の中には、モータステータ32が配置されている。モータステータ32は、ステータコアに巻線が装着された構成を有しており、モータステータ32の軸線AL1の方向(以下、軸線方向ADとも呼ぶ)の両端では、ステータコアの外方に向けて巻線の一部が突出している。このモータステータ32は、ステータフレーム33の内部にステータコアが嵌め込まれることによって、軸線AL1と同心にステータフレーム33に固定される。モータロータ31は、モータステータ32の内部において軸線AL1と同心に配置されるとともに、主軸21上に設けられている。
【0024】
かかるモータロータ31とモータステータ32との間には、キャン40が設けられている。キャン40は、モータロータ31とモータステータ32とを離隔する。このキャン40は、軸線AL1に沿って延びて形成された円筒形状を有している。軸線AL1は、キャン40の軸線でもある。軸線方向ADにおけるキャン40の両端は、開放されている(開口している)。かかるキャン40は、キャン40とモータロータ31との間に僅かなギャップを生じる状態で、モータステータ32(より具体的には、ステータコア)の内面に貼り付けられている。
【0025】
キャン40の両端側には、フレーム側板34,35が配置されている。このフレーム側板34,35は、略円筒形状を有している。フレーム側板34,35の内径は、キャン40の外径よりも僅かに大きく、フレーム側板34,35の外径は、ステータフレーム33の内径よりも僅かに小さい。フレーム側板34,35は、軸線方向ADにおけるモータ30の両端において、ステータフレーム33とキャン40との間に嵌め込まれている。このとき、キャン40の外面は、フレーム側板34,35の径方向内側の面、すなわち内面34a,35aと接触する。これにより、モータステータ32が収容される空間であるステータ室37は、ステータフレーム33とキャン40とフレーム側板34とによって封止される。また、キャン40のポンプ本体20と反対側の開口は、ブラケット36によって閉じられている。これによって、モータロータ31が収容される空間、すなわち、ロータ室も外部に対して封止されている。
【0026】
図2(a)は、
図1に示したモータ30を、軸線AL1を含む面で切った部分断面図であり、軸線方向ADの一端側(ポンプ本体20と反対の側)を示している。
図2(a)は概略的に示されており、例えば、モータステータ32の巻線は図示を省略されている。
図2(b)は、キャン40の斜視図である。図示するように、本実施例では、キャン40は、金属線材41と樹脂部材42とを備えている。金属線材41は、線状に延びて形成されており、非磁性の金属材料によって形成される。こうした非磁性の金属材料としては、耐食性に優れた材料を使用することが望ましく、例えば、オーストナイト系ステンレス(SUS304、SUS316など)を使用できる。
図2(b)に示すように、金属線材41
は、軸線AL1を中心に巻き回された形状を有している。金属線材41は、キャン40の強度や密閉性の分布を均一化する観点から、等ピッチで巻き回されていることが望ましい。巻き回された金属線材41は、軸線方向ADにおいて、相互に離間している。すなわち、金属線材41は、間隔を隔てつつ、巻き回されている。なお、
図2(a)では、キャン40の断面形状は、簡略的に示している。
【0027】
離間した金属線材41の間には、すなわち、隣り合う金属線材41の間には、樹脂部材42が配置されている。本実施例では、樹脂部材42は、キャン40を後述する方法で製造するために、熱可塑性を有している。換言すれば、樹脂部材42は、自己融着性を有している。こうした熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、フッ素樹脂(例えば、テトラフルオロエチレン)などを使用することができる。樹脂部材42の材質は、特に限定されないが、耐腐食性を有することが望ましく、また、製造の行いやすさの観点から、熱可塑性を有することが望ましい。
【0028】
図3は、
図2に示したキャン40の断面の詳細を示す。図示するように、本実施例では、樹脂部材42は、隣り合う金属線材41の間に配置されるだけでなく、金属線材41の周囲を被覆している。金属線材41に耐食性に優れる材料を使用すれば、仮に、モータ30が高速回転し、モータ30が扱う流体の圧力によって、キャン40の内面において樹脂部材42の一部が剥がれて金属線材41が露出する場合であっても、キャン40の耐食性を維持できる。本実施例では、樹脂部材42の外表面は、湾曲した凹凸形状を有している。かかる樹脂部材42の形状は、以下に説明するキャン40の製造方法に起因している。
【0029】
図4は、キャン40の製造方法の一例を示す。キャン40の製造においては、まず、
図4(b)に示す断面を有する線材50を用意する。線状に延びて形成された線材50は、金属層51と、金属層51の周囲を被覆する被覆層52と、を備えている。線材50を用いてキャン40を製造すると、金属層51は金属線材41になり、被覆層52は樹脂部材42になる。線材50を用意すると、次に、円柱状の外周面を有する芯金61に直接的に線材50を巻き回す。芯金61の軸線AL2は、最終的に製造されるキャン40の軸線AL1と一致する。この工程において、線材50は、軸線AL2の方向(軸線方向ADと同一の方向である)において隣り合う線材50同士に隙間が生じないように巻き回されることが望ましい。ただし、後述する加熱処理によって被覆層52を隙間なく溶着できるのであれば、僅かな隙間が生じてもよい。
【0030】
線材50を巻き回すと、最後に、
図4(a)に示すように、線材50を外表面から加熱する。本実施例では、ドライヤ62によって加熱を行う。ドライヤ62による加熱は、線材50の巻き回しが全て完了してから行ってもよいし、線材50を巻き回しながら、巻き回された部分に対して逐次行われてもよい。こうして、線材50を加熱することによって、隣り合う、線材50の被覆層52同士が隙間なく溶着し、
図4に示した断面構成が得られる。被覆層52が完全に固化した後、溶着処理された線材50を芯金61から取り外すことによって、キャン40が完成する。
【0031】
以上説明したキャン40を使用するキャンドモータ30によれば、金属線材41が非磁性金属によって形成されているので、キャン40による磁束漏れが発生しない。また、キャン40の軸線方向ADにおいて、金属線材41の各線材間は、樹脂部材42によって電気的に絶縁され、かつ、キャン40の両端部間も電気的に導通しないので、キャン40に渦電流が発生することがない。したがって、高効率なキャンドモータ30が提供される。しかも、キャン40は、金属線材41によって強度および柔軟性を十分に確保できるので、樹脂部材のみで形成されるキャンと比べて、割れにくく、圧力変動等に対する信頼性が高い。さらに、キャン40は、金属線材41によってキャン40の強度を確保できるので、樹脂部材のみで形成されるキャンと比べて、キャンの厚みを小さくできる。その結果、
モータロータ31とモータステータ32との間のギャップを小さくできるので、樹脂部材のみで形成されるキャンと比べてモータ効率を高めることができる。
【0032】
また、モータ30によれば、金属線材41の周囲は、樹脂部材42によって被覆されているので、キャン40をモータ30に組み付ける際に、軸線方向ADにおけるキャン40の両端部を加熱することによって、樹脂部材42と内面34aとが溶着し、フレーム側板34とキャン40とのシール性を向上できる。したがって、金属線材41がフレーム側板34,35側(モータステータ32側)において露出する構成と比べて、キャン40とフレーム側板34,35とのシール性が向上する。しかも、キャン40は、
図3に示したように、フレーム側板34,35側に凹凸形状を有しているため、フレーム側板34,35との接触面積が小さくなり、接触圧が高まり、シール性がいっそう向上する。さらに、また、キャン40は、上述したように、極めて簡単な工程で製造することができる。
【0033】
B.第2実施例:
図5は、本発明の第2実施例としてのキャン140の概略構成を示す説明図である。
図5は、第1実施例の
図2(a)に対応している。
図5において、第1実施例としてのキャン40(
図2(a)参照)の構成要素と同一の構成要素については、
図2(a)と同一の符号を付して、説明を省略する。第2実施例としてのキャン140は、金属線材41と樹脂部材42とから構成される第1の層43の内側に、樹脂によって形成された第2の層144を備えている点のみが第1実施例と異なり、その他の点については、第1実施例と同様である。
【0034】
第2の層144の材料は、任意の樹脂を使用することが可能であるが、ポンプシステム10が扱う流体の条件に応じて、耐腐食性、耐圧性等を考慮して選定されることが望ましい。特に、第2の層144の材料は、第1の層43を構成する樹脂部材42と同一の材質とすることが望ましい。こうすれば、第1の層43と第2の層144との密着性が向上する。
【0035】
図6は、キャン140の製造方法の一例を示す。このキャン140の製造方法は、線材50を芯金61の周りに巻き回す前に、第2の層144を芯金61に予め装着しておく点のみが第1実施例(
図4)と異なる。第2の層144は、例えば、樹脂材料、例えば、テトラフルオロエチレンシートを円筒状に丸めて溶接することによって、芯金61の表面に形成することができる。芯金61に第2の層144が装着されると、その後、
図6に示すように、第2の層144上に線材50が巻き回され(つまり、第2の層144を介して、芯金61に線材50が巻き回され)、加熱される。かかる製造方法によれば、線材50の樹脂部材42が加熱によって溶着される際に、溶着される樹脂部材42と芯金61とが密着することがないので、製造されたキャン140を芯金61から容易に取り外すことができる。
【0036】
以上説明したキャン140によれば、第1の層43がモータロータ31側の流体と直接接触することを抑制できるので、モータ30が扱う流体の条件(圧力、腐食性等)によらず、キャン40の劣化、損傷、腐食を抑制して、高い密閉性を確保できる。その結果、信頼性の高いキャンを提供できる。
【0037】
C.第3実施例:
図7は、本発明の第3実施例としてのキャン240の概略構成を示す。
図7(a)は、第1実施例の
図2(a)に対応している。
図7において、第1実施例としてのキャン40(
図2(a)参照)の構成要素と同一の構成要素については、
図2(a)と同一の符号を付して、説明を省略する。
図7(b)は、キャン240の斜視図である。第3実施例としてのキャン240は、金属線材41と樹脂部材42とから構成される第1の層43の内側
に、樹脂によって形成された第2の層244を備えている点と、キャン240とフレーム側板34との間のシール構成とが第1実施例と異なり、その他の点については、第1実施例と同様である。
【0038】
第2の層244は、第2実施例(
図5参照)の第2の層144と形状のみが異なっている。具体的には、
図7(a)に示すように、軸線方向ADにおける第2の層244の両端において、第2の層244は、第1の層43よりも軸線方向ADにおける外側まで延びて形成されている(
図7(a)では、第2の層244の両端のうち、フレーム側板34側の端部のみを示している)。また、
図7(b)に示すように、第2の層244は、その両端において、径方向外側(軸線AL1から離れる側)に向けて延びて形成されたフランジ部245を有している。つまり、第2の層244は、その端部において略直角に折れ曲がった形状を有している。
【0039】
かかる第2の層244を有するキャン240では、押圧部材270を用いて、キャン240とフレーム側板34との間がシールされる。具体的には、押圧部材270は、押圧板271とボルト272とを備えている。フランジ部245は、押圧板271と、フレーム側板34の軸線方向ADにおける外側面34bと、の間に配置される。押圧板271は、押圧板271のうちのフランジ部245を挟持していない領域を貫通するボルト272を締め付けることによってフレーム側板34の側に押圧され、押圧板271は、フランジ部245をフレーム側板34の方に押圧する。その結果、フランジ部245とフレーム側板34との間は、フレーム側板34の外側面34bに形成されたOリング溝34cに配置されたOリング39を介して、シールされる。なお、押圧部材270は、上記の例に限らず、任意の押圧手段に置き換えることができる。例えば、押圧部材270は、1つまたは複数のボルトであってもよい。この場合、ボルトは、フランジ部245を貫通して、フランジ部245をフレーム側板34側に押圧してもよい。
【0040】
以上説明したキャン240によれば、第1または第2実施例のような、樹脂部材42の溶着性能に依存したシール構造と比べて、キャン240とフレーム側板34との間のシールの信頼性を向上できる。しかも、軸線方向ADにおけるキャン240の端部においてモータ30が扱う流体が第1の層43と接触することがないので、キャン240の両端においても、キャン240の劣化、損傷、腐食を抑制して、高い密閉性を確実に確保できる。
【0041】
D.第4実施例:
図8は、本発明の第4実施例としてのキャン340の概略構成を示す。
図8は、第1実施例の
図2(a)に対応している。
図8において、第1実施例としてのキャン40(
図2(a)参照)の構成要素と同一の構成要素については、
図2(a)と同一の符号を付して、説明を省略する。第4実施例としてのキャン340は、金属線材41と樹脂部材42とから構成される第1の層43の内側に、樹脂によって形成された第2の層344を備えている点と、キャン340とフレーム側板34とのシール構成とが第1実施例と異なり、その他の点については、第1実施例と同様である。
【0042】
第2の層344は、第2または第3実施例(
図5,7参照)の第2の層144または第2の層244と形状のみが異なっている。具体的には、
図8に示すように、軸線方向ADにおける第2の層344の両端において、第2の層344は、第1の層43よりも軸線方向ADにおける外側まで延びて形成されている(
図8では、第2の層344の両端のうち、フレーム側板34側の端部のみを示している)。また、
図8に示すように、第2の層344は、その両端において、径方向外側において、第1の層43が位置する領域まで折り返された折返部347を備えている。本実施例では、第2の層344は、その端部において、まず、略直角に径方向外側に折り曲げられ、第1の層43の厚みだけ延びて形成された後、軸線方向ADの内側に向けて略直角に折れ曲げられ、それによって折返部347が
形成されている。つまり、キャン340の両端においては、第1の層43の径方向内側および外側の両方が第2の層344で挟み込まれ、3層構造が提供される。
【0043】
かかる第2の層344を有するキャン340は、折返部347とフレーム側板34との間が、フレーム側板34の内面34aに形成されたOリング溝34dに配置されたOリング38を介して、シールされる。つまり、キャン340は、第1実施例のように樹脂部材42をフレーム側板34に溶着させる必要なく、また、第3実施例で示したような押圧部材270を使用する必要なく、キャン340とフレーム側板34との間を良好に密封できる。
【0044】
また、キャン340は、第3実施例と同様に、キャン340の両端においても、キャン340の劣化、損傷、腐食を抑制して、高い密閉性を確実に確保できる。しかも、キャン340は、フレーム側板34との間で径方向にシールされ、軸線方向ADにおいては拘束されていないので、温度変化に伴うキャン340の軸線方向ADの膨張および収縮を容易に吸収できる。したがって、キャン340の信頼性をいっそう高めることができる。
【0045】
図9は、キャン340の変形例としてのキャン440の断面形状を示す。この例では、第2の層444は、その端部において、まず、略直角に径方向外側に折り曲げられ、第1の層43の厚みだけ延びて形成された後、軸線AL1に対して非平行となる角度をなして軸線方向ADの内側に向けて折れ曲げられ、それによって折返部447が形成されている。かかる形状のキャン440は、キャン340と同様に効果を奏する。
【0046】
E.変形例:
E−1.変形例1:
第3または第4実施例において、フランジ部245または折返部347,447は、キャン240またはキャン340の両端のうちの一方の端部のみに形成されていてもよい。あるいは、キャンの両端のうちの一方の端部がフランジ部245を有し、他方の端部が折返部347または447を有していてもよい。かかる構成とすれば、モータ30の組立時において、軸線方向ADにおけるキャンの位置決めを行いやすい。また、第3または第4実施例において、Oリングは必須ではなく、Oリングに変えて、任意のシール手段を採用可能である。例えば、フランジ部245または折返部347,447にシールリップ部が形成されていてもよい。
【0047】
E−2.変形例2:
第1実施例において、キャン40は金属線材41と樹脂部材42とから形成されたが、キャン40は、さらに多層の構造を有していてもよい。例えば、樹脂部材42の周囲が、樹脂部材42とは異なる他の樹脂部材を用いてモールドなどによって被覆されていてもよい。同様に、第2ないし第4実施例においても、第1の層43は、さらに多層の構造を有していてもよい。
【0048】
E−3.変形例3:
上述の実施形態では、金属線材41は樹脂部材42によって被覆されていたが、軸線AL1を含む断面において、隣り合う金属線材41の間にのみ樹脂部材42が配置され、かつ、金属線材41の径方向の表面には樹脂部材42が配置されていない構成を採用することもできる。こうしても、渦電流の発生がないキャンを提供可能である。かかるキャンは、例えば、金属線材41と線状に形成された樹脂部材とが軸線AL2に沿って交互に配置されるように、金属線材41と線状に形成された樹脂部材とを芯金61に隙間無く巻き回した後に、樹脂部材を加熱し、金属線材41と樹脂部材とを溶着させて製造してもよい。
【0049】
E−4.変形例4:
第1実施例において、軸受24がポンプ本体20側に配置され、モータ30が主軸21に片持ち支持される場合には、キャン40のポンプ本体20と反対側の端部は、閉塞していてもよい。この場合、当該端部の開口に円盤状のフレーム側板を嵌め込んで、キャン40を閉塞構造としてもよい。
【0050】
E−5.変形例5:
上述したキャンは、液体ポンプに限らず、気体ポンプに使用することも可能である。もとより、上述したキャンは、ポンプに限らず、ファンなどの各種回転機器に使用可能である。
【0051】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。