特許第6203870号(P6203870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203870
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20170914BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C23C14/34 B
   C23C14/34 A
   H01L21/285 S
【請求項の数】4
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-558852(P2015-558852)
(86)(22)【出願日】2015年1月20日
(86)【国際出願番号】JP2015051395
(87)【国際公開番号】WO2015111576
(87)【国際公開日】20150730
【審査請求日】2016年5月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-8740(P2014-8740)
(32)【優先日】2014年1月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】黒田 稔顕
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−522894(JP,A)
【文献】 特開平05−287524(JP,A)
【文献】 特開平08−325719(JP,A)
【文献】 特開2000−265270(JP,A)
【文献】 特開昭61−183467(JP,A)
【文献】 特開昭63−007366(JP,A)
【文献】 特開平06−306596(JP,A)
【文献】 特開平09−111445(JP,A)
【文献】 特開2008−038229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット材を含むスパッタリングターゲットであって、前記ターゲット材が、そのスパッタリング面において、中央に位置する円形の平坦な第1の領域と、前記第1の領域の外側に前記第1の領域と同心円状に配置されるリング状の第2の領域とを有し、前記第1の領域は、前記第2の領域に対して、1mm〜4mm低い位置に配置されていて、前記第2の領域の厚さが25mm〜35mmであり、前記第1の領域の直径が、前記スパッタリング面の外周の直径の60%〜75%であり、前記第1の領域が、エロージョン量が最大となる領域を含まず、エロージョン量が最大となる領域が、前記スパッタリング面の外周の直径の60%より大きく78.3%以下の範囲以内にあることを特徴とする、スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記ターゲット材がその周縁部に段差を有していないことを特徴とする、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記ターゲット材がアルミニウムまたはアルミニウム合金から成ることを特徴とする、請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
ターゲット材を含むスパッタリングターゲットを用いた薄膜の製造方法であって、前記ターゲット材が、そのスパッタリング面において、中央に位置する円形の平坦な第1の領域と、前記第1の領域の外側に前記第1の領域と同心円状に配置されるリング状の第2の領域とを有し、前記第1の領域は、前記第2の領域に対して、1mm〜4mm低い位置に配置されていて、前記第2の領域の厚さが25mm〜35mmであり、前記第1の領域の直径が、前記スパッタリング面の外周の直径の60%〜75%であることを特徴とするスパッタリングターゲットを、前記第1の領域が、エロージョン量が最大となる領域を含まず、かつ、エロージョン量が最大となる領域が、前記スパッタリング面の外周の直径の60%より大きく78.3%以下の範囲以内にあるようにスパッタリングして、前記スパッタリングターゲットに対して距離を置いて配置された基板上に、前記ターゲット材に由来する薄膜を形成することを含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングは、真空下においてアルゴンなどの不活性ガスを導入して基板とターゲット材との間に直流の高電圧を印加することによって、プラズマ化(又はイオン化)した不活性ガスをターゲット材に衝突させてターゲット材中に含まれるターゲット原子を叩き出し、その叩き出された原子を基板上に堆積させて、この基板上に薄膜を形成する方法である。
【0003】
例えば、ターゲット材のスパッタリング面(すなわちターゲット材においてプラズマ化(又はイオン化)した不活性ガスが衝突する面)の裏側にマグネットを配置して、成膜速度を高めたマグネトロンスパッタリングなどが一般によく知られている。
【0004】
このようなスパッタリングに用いられるスパッタリングターゲットは、一般にディスク形状の表面が平坦なターゲット材を含み、そのスパッタリング面は円形である。
【0005】
これに対して、寿命を向上させるべく、例えば特許文献1には、長寿命のスパッタリングターゲットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4213030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、当該分野では、さらに長寿命のスパッタリングターゲットの開発が望まれている。なぜなら、スパッタリングターゲットの寿命を長くすることによって、スパッタリング装置の稼働効率が向上し、基板上での成膜効率がさらに向上するからである。
【0008】
スパッタリングターゲットの長寿命化は、そのターゲット材の厚さを全体的に厚くすれば達成できるものと考えられる。
【0009】
しかし、ターゲット材の厚さを全体的に厚くすると、ターゲット材のスパッタリング面と、基板との間の距離(以下、「TS距離」と呼ぶ場合もある)が小さくなるため、スパッタリングの初期段階において、基板上に形成される薄膜の膜厚均一性が低下する。
【0010】
また、ターゲット材の厚さを単に大きくしてスパッタリングを行うと、時間の経過とともにターゲット材のエロージョンが激しくなる箇所(特にターゲット材の外周部付近)やターゲット材が消費されにくい箇所(特にターゲット材の中央部付近)が形成され、長時間にわたってスパッタリングを行うと、その差が甚大となり、基板上に形成される薄膜の膜厚均一性が大きく低下することになる。
【0011】
このようにスパッタリングターゲットの長寿命化を目的としてターゲット材の厚さを単に大きくすると、スパッタリングの初期段階からその終了時まで、いずれの段階においても基板上に形成される薄膜の膜厚均一性を確保することは困難であった。
【0012】
そこで本発明では、上記の問題に鑑みて、スパッタリングターゲットの長寿命化と、その間にわたって基板上に形成される薄膜の膜厚均一性との両立の達成を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究の結果、スパッタリングターゲットのターゲット材のスパッタリング面において、その中央に位置する円形の平坦な第1の領域と、この第1の領域の外側に第1の領域と同心円状に配置されるリング状の第2の領域とを形成し、第1の領域を第2の領域に対して、最大で第2の領域の厚さの15%低い位置に配置して、第1の領域の直径をスパッタリング面の外周の直径の60%〜80%とすることによって、積算電力で1800kWh以上の長寿命化を達成し、なおかつその間にわたって、基板上に形成される薄膜において優れた膜厚均一性を確保できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、以下のスパッタリングターゲットを提供するが、本明細書中の開示は、以下のスパッタリングターゲットに限定されるものではない。
【0015】
[1]
ターゲット材を含むスパッタリングターゲットであって、前記ターゲット材が、そのスパッタリング面において、中央に位置する円形の平坦な第1の領域と、前記第1の領域の外側に前記第1の領域と同心円状に配置されるリング状の第2の領域とを有し、前記第1の領域は、前記第2の領域に対して、最大で前記第2の領域の厚さの15%低い位置に配置されていて、前記第1の領域の直径が、前記スパッタリング面の外周の直径の60%〜80%であることを特徴とする、スパッタリングターゲット。
[2]
前記第1の領域が、前記第2の領域に対して、前記第2の領域の厚さの4%〜12%低い位置にあることを特徴とする、上記[1]に記載のスパッタリングターゲット。
[3]
前記ターゲット材における前記第1の領域の厚さが20mm〜30mmであることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載のスパッタリングターゲット。
[4]
前記ターゲット材における前記第2の領域の厚さが25mm〜35mmであることを特徴とする、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
[5]
前記ターゲット材がその周縁部に段差を有していないことを特徴とする、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
[6]
前記ターゲット材がアルミニウムまたはアルミニウム合金から成ることを特徴とする、上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スパッタリングターゲットの長寿命化、特に1800kWh以上のロングライフと、その間に基板上に形成された薄膜における優れた膜厚均一性との両立を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のスパッタリングターゲットの一実施形態を示す斜視図。
図2】本発明のスパッタリングターゲットの一実施形態を模式的に示す上面図および断面図。
図3】標準形状のスパッタリングターゲットのターゲット材Tおよび本発明のスパッタリングターゲットのターゲット材Tを模式的に示す断面図。
図4】標準形状のスパッタリングターゲットのターゲット材Tならびに比較例1および2のスパッタリングターゲットのターゲット材TcおよびTcをそれぞれ模式的に示す断面図。
図5】標準形状のスパッタリングターゲットのターゲット材Tならびに比較例3および4のスパッタリングターゲットのターゲット材TcおよびTcをそれぞれ模式的に示す断面図。
図6】比較例1および2のスパッタリングターゲットのターゲット材TcおよびTcの上面図。
図7】比較例3および4のスパッタリングターゲットのターゲット材TcおよびTcの上面図。
図8】比較例5のスパッタリングターゲットを模式的に示す上面図および断面図。
図9】直径200mmの基板上での薄膜の49点でのシート抵抗値(Ω/□)の測定点(Point 1〜49)を示す模式図。
図10】参照例(標準形状)のスパッタリングターゲットを用いた場合の膜厚均一性を示すグラフ。
図11】参照例(標準形状)のスパッタリングターゲットを用いた場合の平均膜厚に対する膜厚(%)を示すグラフ。
図12】実施例1および参照例(標準形状)のスパッタリングターゲットを用いた場合の膜厚均一性を示すグラフ。
図13】実施例1のスパッタリングターゲットを用いた場合の平均膜厚に対する膜厚(%)を示すグラフ。
図14】比較例1および参照例(標準形状)のスパッタリングターゲットを用いた場合の膜厚均一性を示すグラフ。
図15】比較例1のスパッタリングターゲットを用いた場合の平均膜厚に対する膜厚(%)を示すグラフ。
図16】比較例2および参照例(標準形状)のスパッタリングターゲットを用いた場合の膜厚均一性を示すグラフ。
図17】比較例2のスパッタリングターゲットを用いた場合の平均膜厚に対する膜厚(%)を示すグラフ。
図18】比較例2および参照例(標準形状)のスパッタリングターゲットのターゲット材のエロージョン量を示すグラフ。
図19】参照例(標準形状)、比較例1および実施例1のスパッタリングターゲットの各ターゲット材のエロージョン量を示すグラフ。
図20】比較例4のスパッタリングターゲットにおいて、積算電力と基板上に形成される薄膜の膜厚との関係を示すグラフ。
図21】比較例3のスパッタリングターゲットにおいて、積算電力と基板上に形成される薄膜の膜厚との関係を示すグラフ。
図22】100kWhにおいて、第1の領域と第2の領域との間の距離d(mm)と、基板上に形成される薄膜の膜厚との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のスパッタリングターゲットを添付の図面を参照しながら以下に具体的な実施形態を挙げて詳しく説明する。ただし、本発明のスパッタリングターゲットは、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<スパッタリングターゲット>
本発明のスパッタリングターゲットの一実施形態を図1および2に模式的に示す。なお、図1および2において示される本発明のスパッタリングターゲットは、例示のために模式的に示されるものであり、実際の寸法および形状は本明細書中に定義する通りである。
【0020】
本発明のスパッタリングターゲット10は、図1および2に示す通り、ターゲット材Tを含む。
【0021】
ターゲット材Tは、スパッタリングによりプラズマ化(またはイオン化)した不活性ガスを受けるスパッタリング面Sを含む。スパッタリング面Sは、その中央に位置する円形の平坦な第1の領域1と、この第1の領域1の外側にあって、この第1の領域1と同心円状に配置されるリング状の第2の領域2とを含む。なお、図示する実施形態では、第1の領域1および第2の領域2は、いずれも平面で示されるが、これらは平面に限定されるものではない。
【0022】
本発明において、第1の領域1は、第2の領域2に対して、最大で第2の領域の厚さの15%低い位置(垂直下方)に好ましくは互いに平行に配置され得る。
【0023】
また、図示する実施形態では、第1の領域1と第2の領域2との間に中間領域3が存在し、これは第1の領域1と第2の領域2とを連続して接続し得るものである。
【0024】
従って、図示する実施形態のスパッタリングターゲット10では、ターゲット材Tは、第1の領域1と、第2の領域2と、それらの中間領域3とから構成されるスパッタリング面Sを有する。
【0025】
図2の上面図で示すように、スパッタリング面Sは、円形の外周を有するものであり(このとき、スパッタリング面Sの外周は、第2の領域2の外周に一致する)、第1の領域1の直径は、このスパッタリング面Sの外周の直径の60%〜80%、好ましくは60%〜75%、より好ましくは65%〜75%、さらに好ましくは67%〜72%である。
【0026】
本発明のスパッタリングターゲット10は、上述の構成を有することで、例えばマグネトロンスパッタリング装置などのスパッタリング装置を用いたスパッタリングの際に1800kWh以上の長寿命を達成することができ、なおかつ従来品と同等またはそれ以上の膜厚均一性を有する薄膜を0〜1800kWh以上にわたって、基板上に形成することができる。
【0027】
以下、本発明のスパッタリングターゲット10で使用するターゲット材Tについて、さらに詳しく説明する。
【0028】
<ターゲット材T>
ターゲット材Tは、例えば、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)等の金属およびそれらの合金からなる群から選択される材料から作製することができるが、ターゲット材Tを構成する材料は、これらに限定されるものではない。
【0029】
ターゲット材Tの材料としては、アルミニウムが好ましく、例えば純度が99.99%以上、より好ましくは99.999%以上のアルミニウムを使用することが特に好ましい。
【0030】
また、ターゲット材Tの材料として、アルミニウム合金も好ましく、かかるアルミニウム合金には、銅、ケイ素などの金属が含まれていてもよく、その含有量は、例えば2重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0031】
ターゲット材Tは、図1および2に示すように、円形で平坦な第1の領域1と、第2の領域2と、必要に応じてその中間領域3とを含み、これらでスパッタリング面Sを形成し得る。
【0032】
図2の平面図に示す通り、スパッタリング面Sの直径dは、例えば260mm〜325mmの範囲内である。
【0033】
ターゲット材Tの裏面4(すなわちスパッタリング面Sの反対側の面)は、円形の外周を有することが好ましく、その外周の直径は、例えば330mm〜345mmの範囲内である。
【0034】
また、ターゲット材Tの裏面4は、図示する通り、円の中心を頂点とした円錐形状に凹んで形成されていてもよい。凹みの深さは、頂点部において、通常1mm〜3mmである。
【0035】
ターゲット材Tの周縁部(又は側面)5は、第2の領域2の端部から支持部材6との接合部xにかけて直線的に連続した面である。図示する実施形態のように、周縁部5は、第2の領域2の端部から支持部材6との接合部xに向かって進むに従って、半径方向の大きさが増大するテーパ面や、あるいは円筒状の面であってもよい。なお、本発明において、周縁部が「段差を有していない」とは、ターゲット材の周縁部が連続した面を有し、任意の段差が意図的に形成されていないことを意味する。
【0036】
ここで、ターゲット材Tの接合部xは、図示するようにリング状の凸部(垂直下方)であるが、その高さに特に制限はない。また、ターゲット材Tの接合部xは、ターゲット材Tの裏面4とともに平面を形成していてもよい(すなわち、面一であってもよい)。
【0037】
このようにターゲット材Tの周縁部5には段差がなく、このような段差のない周縁部5をターゲット材の側面として設けることによって、スパッタリングターゲットの膜厚均一性は向上し、その結果、ターゲット材の寿命が向上する。
【0038】
なお、周縁部5の異なる形態としては、角度の異なる複数のテーパ面を段差なく連続して有していてもよく、また、上方に凸となるように曲面を有していてもよい。
【0039】
(第1の領域1)
第1の領域1は、図2に示す通り、スパッタリング面Sの中央に位置していて、円形の平坦な形状を有する領域であり、第2の領域2よりも低い位置(垂直下方)に配置されるものである。
【0040】
なお、本発明において、第1の領域1が「平坦」であるとは、第1の領域1内において、凸部や凹部が実質的に形成されていないことを意味する。また、第1の領域1内において「凸部や凹部が実質的に形成されていない」とは、第1の領域1に意図的に凸部や凹部が形成されていないことを意味する。ただし、算術平均粗さRa=7μm程度までの表面粗さは、許容され得る。
【0041】
なお、図示する実施形態では、第1の領域1は、平面で示されているが、上述の通り平坦であればよく、第1の領域1は、かかる平面に限定されるものではない。
【0042】
また、第1の領域1は円形であり、その半径rは、例えば95mm〜130mm、好ましくは95mm〜125mm、より好ましくは105mm〜125mm、さらに好ましくは108mm〜117mmである。
【0043】
第1の領域1と第2の領域2との間の距離d(垂直方向)は、第2の領域2の厚さdに対して、最大で15%、好ましくは4%〜12%、より好ましくは4%〜8%である。第1の領域1と第2の領域2との間の距離dを実際の寸法で示すと、例えば4mm以下、より好ましくは1mm〜3mm、より好ましくは1mm〜2mmである。
【0044】
距離dが、第2の領域の厚さdに対して15%以下であることによって、基板上に形成される薄膜の膜厚均一性を向上させることができる。
【0045】
第1の領域1におけるターゲット材Tの厚さdは、従来の標準品(スパッタリング面の直径:8インチ、寿命:1200kWh)の厚さ19.6mm以上であり、例えば20mm〜30mm、好ましくは23mm〜28mmである。
【0046】
なお、ターゲット材Tの裏面4が、図示するように、その中心を頂点とした円錐形状に凹んでいる場合には、距離dは、もっとも厚さが小さい、ターゲット材Tの中心での厚さを示す。
【0047】
このように、本発明では、ターゲット材Tの第1の領域における厚さdを従来の標準品の厚さ(19.6mm)以上に設定したにもかかわらず、1800kWh以上の長寿命化が得られ、さらにその間にわたって、基板上に形成される薄膜に優れた膜厚均一性を与えることができる。
【0048】
(第2の領域2)
第2の領域2は、図2に示す通り、第1の領域の外側にあり、第1の領域と同心円状に配置されるリング状の領域である。
【0049】
図2において、第2の領域2は、平面で示すが、この第2の領域2は、平面に限定されるものではなく、例えば、その上方に湾曲して突出していてもよい。
【0050】
ターゲット材Tの第2の領域2の厚さd(ターゲット材Tの厚さに対応する)は、例えば25mm〜35mm、好ましくは25mm〜30mmである。
【0051】
なお、ターゲット材Tの裏面4が、図示するように、その中心を頂点とした円錐形状に凹んでいる場合には、かかる厚さdは、ターゲット材Tの支持部材6との接合部xを除いて、最も厚さが大きくなる箇所の厚さを示す。
【0052】
このように本発明では、ターゲット材Tの厚さdを従来の標準品(スパッタリング面の直径:8インチ、寿命:1200kWh)の厚さ19.6mmよりも大きくしたにもかかわらず、1800kWh以上の長寿命化が達成できるだけでなく、その間にわたって、基板上に形成される薄膜に優れた膜厚均一性を与えることもできる。
【0053】
また、第2の領域2におけるリング幅d(すなわち、第2の領域2の外周半径と内周半径との差)は、例えば25mm〜65mm、好ましくは30mm〜65mm、より好ましくは30mm〜60mm、さらに好ましくは36mm〜54mmである。
【0054】
リング幅dを上記の範囲内とすることで、スパッタリングターゲットの長寿命化や、優れた膜厚均一性などの効果が得られる。
【0055】
(第1の領域と第2の領域との間の中間領域3)
図2に示す実施形態では、第1の領域1と第2の領域2との間に中間領域3が存在する。中間領域3は、第1の領域1と第2の領域2とを連続的に接続するものであり、好ましくは第1の領域1と第2の領域2とを直線的に接続するものである。
【0056】
図示するように、例えば、第1の領域1と第2の領域2とが直線的に接続されている場合、上述の通り、図2の断面図で示すように、第1の領域1が第2の領域2よりも低い位置にあることから、これらを接続する中間領域3は、すり鉢状の傾斜面(すなわちテーパ面)を形成することになる。このとき、スパッタリング面Sは、第1の領域1を底部とするその断面が逆台形の凹部を有することとなる(図2の断面図参照)。
【0057】
図示する実施形態において、中間領域3の傾斜角θ(すなわち、図2の断面図で示す中間領域3と第1の領域1とが形成する角度)は、垂直の角度(θ=90°)より小さければ特に制限はなく、傾斜角θは、10°〜80°が好ましく、15°〜60°がより好ましい。傾斜角θが上記の範囲内であると、スパッタリングの間において、この角部で生じ得る異常放電を抑制することができ、それによりスパッタリングターゲットの寿命が延び、さらに基板上に形成される薄膜の膜厚均一性も向上し得る。
【0058】
図2に示す中間領域3の幅d(すなわち、第1の領域1と、第2の領域2との間の距離(水平方向))は、例えば0.1mm〜23.0mm、好ましくは0.1mm〜18.0mm、より好ましくは0.5mm〜7.5mmである。中間領域の幅dの値が大きいほど中間領域3の傾斜角θは小さくなり(すなわち、中間領域3の傾斜は、緩やかとなり)、上述の通り、その角部での異常放電を抑制することができる。ただし、このとき、第1の領域1の直径(又は半径r)は、上述の通り、スパッタリングターゲットSの直径(又は半径r)の60%〜80%の範囲内である。そうすることで、スパッタリングターゲットの長寿命化や、優れた膜厚均一性、粗大粒子の付着による歩留り低下を防止することができるなどの効果が得られる。
【0059】
<支持部材6>
図1および2に示すように、本発明のスパッタリングターゲット10は、上述のターゲット材Tを載置して、例えばマグネトロンスパッタリング装置などのスパッタリング装置に固定するための支持部材6を更に含んでいてもよい。
【0060】
支持部材6は金属製であり、例えば、アルミニウム、銅、鉄、クロム、ニッケルなどの金属およびその合金からなる群から選択される材料から作製され得るものである。
【0061】
支持部材6は、上述のターゲット材Tを配置するためのリング部から主に構成され、さらに支持部材6のスパッタリング装置への固定を可能とするためのフランジ部7を含んでいてもよい。なお、支持部材6のリング部およびフランジ部7は、切削加工等により、上記の材料から一体的に形成されることが好ましい。
【0062】
リング部の厚さ(すなわち壁厚)に特に制限はなく、例えば5mm〜20mm、好ましくは10mm〜15mmである。リング部の厚さは、均一であっても、そうでなくてもよい。従って、フランジ部7に近づくにつれて、その厚さが増加するように形成されていてもよい。
【0063】
一般に、支持部材6のリング部の上面にターゲット材Tを配置するが、ターゲット材Tは、その接合部xにおいて、電子ビーム(EB)溶接等の溶接によって、支持部材6のリング部に結合されていることが好ましい。また、支持部材6のリング部の外側の周縁部はターゲット材Tの外側の周縁部5と面一に形成されていることが好ましい。
【0064】
また、フランジ部7には、スパッタリング装置へのボルト等の締結具による固定を可能とするために、複数の孔が形成されていてもよい。
【0065】
フランジ部7の厚さに特に制限はなく、例えば5mm〜15mm、好ましくは8mm〜12mm、より好ましくは10mm〜11mmである。また、フランジ部7の厚さは均一であることが好ましい。
【0066】
また、支持部材6の高さに特に制限はなく、例えば10mm〜30mm、好ましくは20mm〜29mm、より好ましくは25mm〜29mmである。
【0067】
また、スパッタリングターゲット全体の高さ(すなわち、ターゲット材Tの第2の領域の上面から支持部材6のフランジ部7の裏面までの距離)に特に制限はなく、例えば45mm〜70mm、好ましくは50mm〜65mm、より好ましくは50mm〜60mmである。
【0068】
<スパッタリングターゲットの製造方法>
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法では、例えば、まず、ターゲット材Tの材料を混合して溶融して鋳造することにより、スラブと呼ばれる鋳塊を形成し、かかる鋳塊を圧延して熱処理した後に任意の寸法で円盤状にくり抜き、ターゲット材の予備成形体を得る。
【0069】
次に、このターゲット材の予備成形体と、予め作製しておいた支持部材6とを溶接(好ましくはEB溶接)により接合した後、このターゲット材の予備成形体を切削加工により所望の形状に成形することによって、本発明のスパッタリングターゲット10を製造することができる。
【0070】
なお、本発明のスパッタリングターゲット10の製造方法は、かかる方法に限定されるものではない。
【0071】
<スパッタリング装置>
本発明のスパッタリングターゲットを使用することのできるスパッタリング装置に特に制限はなく、市販のスパッタリング装置を何ら制限なく使用することができる。
【0072】
なかでも、マグネトロンスパッタリング装置を使用することが好ましい。マグネトロンスパッタリング装置では、プラズマ化(又はイオン化)したアルゴンなどの不活性ガスをマグネットを利用して捕捉することができるので、ターゲット材から、ターゲット原子を効率よく叩き出し、基板上での成膜速度を高めることができる。
【0073】
マグネトロンスパッタリング装置としては、アプライド・マテリアルズ社製の「エンデュラ(Endura)」と呼ばれる装置を使用することが好ましく、そのなかでもデュラタイプ(Dura−type)のマグネットを利用したものが特に好ましい。
【0074】
<基板>
本発明のスパッタリングターゲットおよび上述のスパッタリング装置を使用して、その上に薄膜を形成することのできる基板としては、特に制限はなく、例えば、シリコン、銅等の金属ウエハや、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の酸化物ウエハ、石英、パイレックス等のガラス基板や、樹脂基板などを使用することができる。
【0075】
基板の寸法に特に制限はなく、その直径は、例えば100mm〜450mm、好ましくは150mm〜300mm、より好ましくは200mmである。
【0076】
<本発明のスパッタリングターゲットの寿命>
本発明のスパッタリングターゲットは、積算電力で1800kWh以上、好ましくは2000kWh以上の長寿命を有する。これは、従来の標準形状のターゲット材を有するスパッタリングターゲットの寿命(1200kWh)の1.5倍以上である。
【0077】
本発明のスパッタリングターゲットにおいて、このような長寿命が得られるのは、本発明のスパッタリングターゲットが上述の形状および寸法のターゲット材Tを含むことに起因する(図2参照)。
【0078】
そのなかでも特にターゲット材Tのスパッタリング面Sが第1の領域1と第2の領域2とを有し、第1の領域1が第2の領域2に対して、最大で第2の領域2の厚さの15%低い位置、より具体的には4mmまたはそれよりも低い位置にあり、なおかつスパッタリング面Sの中央に位置する第1の領域1の直径がスパッタリング面Sの外周の直径の60%〜80%であることに起因する。
【0079】
また、ターゲット材Tの周縁部5に段差がないことや、中間領域3の傾斜角θが80°以下であることもスパッタリングターゲットの長寿命化に貢献し得る。
【0080】
<本発明のスパッタリングターゲットによって基板上に形成される薄膜の膜厚均一性>
本発明のスパッタリングターゲットによって基板上に形成される薄膜の膜厚均一性は、基板上に形成される薄膜の所定の49点にて測定した薄膜のシート抵抗値R(Ω/□)と、既知の薄膜の体積抵抗率R(Ω・m)とにより、式:t=R/R×10から求められる膜厚t(μm)の値の最大値(max)と最小値(min)とに基づいて、式:(max−min)/(max+min)×100(%)から求めることができる。なお、アルミニウム薄膜の場合、R=2.9×10−8(Ω・m)である。
【0081】
ここで、薄膜のシート抵抗値(Ω/□)は、例えば、KLAテンコール社製Omnimap RS35cを用いて測定することができる。測定を行う所定の49点は、例えば直径が200mmの基板を用いる場合には、例えば図9に示すように、基板の外周から10mmの間隔を設けて(Edge Exclusion=10mm)、中心に1点(Point 1)、その中心から30mmの箇所に基板の円周に沿って等間隔に設けた8点(Point 2−9)、中心から60mmの箇所に基板の円周に沿って等間隔に設けた16点(Point 10−25)、さらに中心から90mmの箇所に基板の円周に沿って等間隔に設けた24点(Point 26−49)の合計49点である。
【0082】
本発明において、上述の膜厚均一性は、4%未満であり、好ましくは3%未満であり、より好ましくは2%未満であり、スパッタリングの初期段階(例えば0〜300kWh)においても4%未満であり、好ましくは3%未満であり、より好ましくは2%未満の膜厚均一性を達成することができる。また、1800kWh以上、好ましくは2000kWhの長時間が経過した時点であっても、膜厚均一性は、4%未満であり、好ましくは3%未満であり、より好ましくは2%未満である。
【0083】
従って、本発明では、スパッタリングターゲットの長寿命化だけでなく、スパッタリングの初期段階から1800kWh以上が経過した時点であっても、優れた膜厚均一性を得ることができる。
【0084】
以下の実施例において、本発明のスパッタリングターゲットをさらに詳しく説明するが、本発明は、以下のスパッタリングターゲットに限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
<実施例1>
純度99.999%以上のアルミニウムに、0.5重量%の銅を添加し、これらの混合物を溶融して鋳造して得られる鋳塊(スラブ)を圧延して熱処理した後に円盤状にくり抜き、ターゲット材の予備成形体を得た。
【0086】
かかるターゲット材の予備成形体と、図2に示す形状の支持部材6とを電子ビーム(EB)溶接にて接合し、さらに切削加工によりターゲット材の予備成形体を図2に示すターゲット材Tの形状に成形することにより、本発明のスパッタリングターゲットを製造した。ターゲット材Tの各寸法は、以下の通りである。
【0087】
:159.57mm
:112.00mm
:1.65mm(第2の領域2の厚さdの5.98%)
:23.94mm
:27.60mm
:319.14mm
:44.57mm
:3.00mm
θ:29°
/r:70.2%
スパッタリングターゲット全体の高さ(第2の領域の上面から支持部材のフランジ部の裏面までの距離):56.26mm
【0088】
<参照例>
実施例1と同様にして、図3に示す標準形状のターゲット材Tを備えたスパッタリングターゲットを作製した。なお、ターゲット材Tの支持部材は、実施例1と同一形状のものを使用した。
【0089】
標準形状のターゲット材Tの形状は、図3の断面図に示す通りであり、各寸法は、以下の通りである。
【0090】
スパッタリング面の直径:323.42mm
ターゲット材Tの接合部xを除く最大厚さd:19.61mm
スパッタリングターゲット全体の高さ(ターゲット材Tの上面から支持部材のフランジ部の裏面までの距離):48.26mm
【0091】
<比較例1>
実施例1と同様にして、図4の断面図および図6の上面図に示す形状のターゲット材Tcを備えたスパッタリングターゲットを作製した。なお、ターゲット材Tcの支持部材は、実施例1と同一形状のものを使用した。
【0092】
ターゲット材Tcは、参照例の標準形状のターゲット材Tの厚さを全体的に均一にして、d10だけ増加させたものである(図4の断面図参照)。なお、図4のターゲット材Tcにおいて、点線Lは、参照例の標準形状のターゲット材Tのスパッタリング面の位置を示す。
【0093】
ターゲット材Tcの各寸法は、以下の通りである。
【0094】
ターゲット材Tcの厚さ(d+d10):27.61mm
:19.61mm
10:8.00mm
スパッタリング面の直径(平面領域101の直径)d11:319.14mm
スパッタリングターゲット全体の高さ(ターゲット材TC1の上面から支持部材のフランジ部の裏面までの距離):56.26mm
【0095】
<比較例2>
実施例1と同様にして、図4の断面図および図6の上面図に示す形状のターゲット材Tcを備えたスパッタリングターゲットを作製した。なお、ターゲット材Tcの支持部材は、実施例1と同一の形状のものを使用した。
【0096】
ターゲット材Tcは、比較例1のターゲット材Tcの周縁部に段差を設けたものである(図4の断面図参照)。
【0097】
ターゲット材Tcの各寸法は、以下の通りである。
【0098】
ターゲット材Tcの厚さ(d+d10):27.61mm
:19.61mm
10:8.00mm
12(中心平面領域102の直径):260.00mm
13(段差部の幅):16.71mm
14(傾斜部の幅):15.00mm
スパッタリングターゲット全体の高さ(ターゲット材Tcの最上面から支持部材のフランジ部の裏面までの距離):56.26mm
【0099】
<比較例3>
実施例1と同様にして、図5の断面図および図7の上面図に示す形状のターゲット材Tcを備えたスパッタリングターゲットを作製した。なお、ターゲット材Tcの支持部材は、実施例1と同一形状のものを使用した。
【0100】
ターゲット材Tcは、参照例の標準形状のターゲット材Tのスパッタリング面にリング状の平面領域201を同心円状に隆起させて形成したものである(図5の断面図参照)。
【0101】
ターゲット材Tcの各寸法は、以下の通りである。
【0102】
:19.61mm
15(リングの高さ):8.00mm(ターゲット材の厚さ(d+d15)の29.0%)
16(中心平面領域103の直径):200.00mm
17(リング状の平面領域201のリング幅):15.00mm
18(リングの内側の傾斜部の幅):15.00mm
19(リングの外側の傾斜部の幅):15.00mm
20(段差部の幅):16.71mm
スパッタリングターゲット全体の高さ(ターゲット材Tcの最上面から支持部材のフランジ部の裏面までの距離):56.26mm
【0103】
<比較例4>
実施例1と同様にして、図5の断面図および図7の上面図に示す形状のターゲット材Tcを備えたスパッタリングターゲットを作製した。なお、ターゲット材Tcの支持部材は、実施例1と同一形状のものを使用した。
【0104】
ターゲット材Tcは、参照例の標準形状のターゲット材Tのスパッタリング面に二重のリング状の平面領域202(外側)および203(内側)を同心円状に隆起させて形成したものである(図5の断面図参照)。
【0105】
ターゲット材Tcの各寸法は、以下の通りである。
【0106】
:19.61mm
21(内側リングの高さ):8.00mm(ターゲット材の厚さ(d+d21(=d+d22))の29.0%)
22(外側リングの高さ):8.00mm(ターゲット材の厚さ(d+d21(=d+d22))の29.0%)
23(中心平面領域104の直径):10.00mm
24(内側リングのリング幅):20.00mm
25(内側リングの内側傾斜部の幅):15.00mm
26(内側リングの外側傾斜部の幅):15.00mm
27(外側リングのリング幅):15.00mm
28(外側リングの内側傾斜部の幅):15.00mm
29(外側リングの外側傾斜部の幅):15.00mm
30(段差部の幅):16.71mm
31(外側平面領域105の幅):45.00mm
スパッタリングターゲット全体の高さ(ターゲット材TC4の最上面から支持部材のフランジ部の裏面までの距離):56.26mm
【0107】
<比較例5>
実施例1と同様にして、図8の上面図および断面図に示す形状のターゲット材Tcを備えたスパッタリングターゲットを作製した。なお、ターゲット材Tcの支持部材は、実施例1と同一形状のものを使用した。
【0108】
ターゲット材Tcの形状は、主に、実施例1のターゲット材T(図2)のdおよびdの寸法を変更し、さらに周縁部5に段差部9を形成したものである(図8の断面図参照)。
【0109】
ターゲット材Tcの各寸法は、以下の通りである。
【0110】
:161.71mm
:105.00mm
:4.49mm(第2の領域の厚さdの16.3%)
:21.11mm
:27.60mm
:323.42mm
:15.00mm
:10.00mm
:15.00mm
:16.71mm
:19.61mm
θ:24°
/r:64.9%
スパッタリングターゲット全体の高さ(第2の領域2の上面から支持部材のフランジ部の裏面までの距離):56.26mm
【0111】
<比較例6>
およびdの寸法を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ターゲット材Tcを備えたスパッタリングターゲットを作製した。なお、ターゲット材Tcの支持部材は、実施例1と同一形状のものを使用した。
【0112】
ターゲット材Tcの各寸法は、以下の通りである。
【0113】
:159.57mm
:52.00mm
:1.65mm(第2の領域2の厚さdの5.98%)
:23.94mm
:27.60mm
:319.14mm
:104.57mm
:3.00mm
θ:29°
/r:32.6%
スパッタリングターゲット全体の高さ(第2の領域の上面から支持部材のフランジ部の裏面までの距離):56.26mm
【0114】
<スパッタリング>
マグネトロンスパッタリング装置(アプライド・マテリアルズ社製のEndura 5500、マグネット:Dura−type)、ならびに実施例、参照例および比較例のスパッタリングターゲットをそれぞれ使用して、直径が200mmの基板(LG Siltron社製のシリコン基板)に、以下の条件にて、薄膜を形成した。
【0115】
スパッタリング条件
出力:10600W
不活性ガス:アルゴン
チャンバ内圧力:2.75mTorr
基板温度:300℃
ターゲット−基板間の距離(TS距離):35mm(ターゲット材:T、Tc〜Tc)または43mm(ターゲット材:T
【0116】
<スパッタリングターゲットの評価>
【0117】
実施例、参照例および比較例の各スパッタリングターゲットについて、上記の条件で0〜2000kWhの範囲にわたって、スパッタリング操作を行い、各スパッタリングターゲットの寿命を評価した。
【0118】
また、上記のスパッタリング条件において、実施例、参照例および比較例の各スパッタリングターゲットを用いて、基板上に形成した薄膜のシート抵抗値(Ω/□)を所定の積算電力で図9に示す49点で測定し、そこから各点における膜厚を算出し、その最大値(max)と最小値(min)とから、式:(max−min)/(max+min)×100(%)に従って、膜厚均一性を決定し、各スパッタリングターゲットによって、各基板上に形成された薄膜の膜厚均一性を評価した。
【0119】
それと同時に、上記の49点で測定したシート抵抗値(Ω/□)から膜厚を算出し、そこから標準偏差σを計算し、1σ%(パーセント1シグマ)の値を算出した。なお、ここで標準偏差σは、下式で算出されるものである。
【0120】
【数1】
【0121】
式中、nはデータ数、XAVEは平均値を表す。
【0122】
さらに、この49点で測定したシート抵抗値(Ω/□)から算出した膜厚の平均値に対して、図9に示す中央の1点(Point 1)、その周囲の8点(Point 2−9(中心からの距離:30mm))、その周囲の16点(Point 10−25(中心からの距離:60mm))、さらにその周囲の24点(Point 26−49(中心からの距離:90mm))の割合をそれぞれパーセントで算出した(平均膜厚に対する膜厚(%))。
【0123】
・参照例のスパッタリングターゲットの評価結果
図10のグラフに示す通り、参照例の標準形状のスパッタリングターゲット(ターゲット材T図4参照))では、膜厚均一性に優れるが、その寿命は1200kWhであり、十分に満足できるものではなかった。
【0124】
また、図11のグラフに示す通り、参照例の標準形状のスパッタリングターゲットでは、基板上に形成した薄膜の全面にわたって(すなわち、Point 1〜49のすべてにおいて)、ある程度の膜厚均一性は確保できるが、その中央部(Point 1)において、その膜厚が低いことがわかった。
【0125】
・実施例1のスパッタリングターゲットの評価結果
図12のグラフに示す通り、本発明の実施例1のスパッタリングターゲット(ターゲット材T(図2参照))では、2000kWhの長寿命を有することが明らかとなった。なお、参照例の標準形状のスパッタリングターゲットの寿命は、上述の通り1200kWhであり(図10および12)、これに対して、本発明の実施例1のスパッタリングターゲットは、参照例の標準形状のスパッタリングターゲットの1.5倍以上の寿命を有することがわかった。
【0126】
また、図12のグラフに示す通り、本発明の実施例1のスパッタリングターゲットによると、0〜2000kWhの全域において、上述の参照例の標準形状のスパッタリングターゲットよりも優れた膜厚均一性を示すことがわかった。
【0127】
さらに図13のグラフに示す通り、本発明の実施例1のスパッタリングターゲットによると、0〜2000kWhの全域にわたって、基板上に形成した薄膜の全面において、優れた膜厚均一性を提供できることがわかった。
【0128】
このように、本発明の実施例1のスパッタリングターゲットは、2000kWhの長寿命を有し、なおかつ0〜2000kWhの寿命の全域において、基板の全面にわたって、優れた膜厚均一性を提供できることがわかった。
【0129】
・比較例1のスパッタリングターゲットの評価結果
図14に示す通り、比較例1のスパッタリングターゲット(ターゲット材Tc図4参照))では、2000kWhまでスパッタリングを行うことはできるが、その初期段階、特に0〜300kWhにおいて、膜厚均一性が著しく悪化することがわかった。
【0130】
また、図15に示す通り、比較例1のスパッタリングターゲットでは、基板の中央部分(Point 1)において、膜厚が小さく、特にその初期段階(0〜300kWh)において、基板の中央部分(Point 1)の膜厚が著しく小さいことがわかった。
【0131】
このように、ターゲット材の厚さを単に全体的に増加させただけでは(図4のターゲット材Tc参照)、スパッタリングの初期段階(0〜300kWh)において、膜厚均一性が悪く、特に、その中央部(Point 1)において、膜厚が著しく小さいことがわかった。
【0132】
・比較例2のスパッタリングターゲットの評価結果
図16に示す通り、比較例2のスパッタリングターゲット(ターゲット材Tc図4参照))は、スパッタリングの直後の初期段階から、膜厚均一性が著しく悪化することがわかった。
【0133】
さらに、図16に示す通り、比較例2のスパッタリングターゲットでは、800kWhの時点から、膜厚均一性が著しく悪化するため(膜厚均一性:(max−min)/(max+min)=5.4%、1σ=3.7%)、もはやそれ以上、スパッタリングを続けても、スパッタリングターゲットの長寿命化は達成できないことが明らかとなった。
【0134】
また、図17に示す通り、比較例2のスパッタリングターゲットでは、スパッタリングの直後の初期段階から、基板の外周部(Point 26−49)において形成される薄膜の膜厚は小さく、基板の全面にわたって均一な膜厚が得られないことがわかった。
【0135】
このように、ターゲット材の厚さを単に全体的に増加させ、さらにターゲット材の周縁部に段差を設けると(図4のターゲット材Tc参照)、スパッタリングの初期段階から、膜厚均一性が著しく悪化することがわかった。
【0136】
また、図18には、比較例2のスパッタリングターゲットにおけるターゲット材のエロージョン量を示す。図18において、実線は、参照例のスパッタリングターゲットのターゲット材のエロージョン量を示し、破線は、比較例2のスパッタリングターゲットのターゲット材のエロージョン量を示す(0〜800kWhで400kWh毎)。
【0137】
図18から、比較例2のスパッタリングターゲットでは、参照例と比べて、ターゲット材の最も消費される部分がより外周部付近にあることがわかった。その結果、基板の外周部からより遠い位置のスパッタ量が増え、基板の外周部(Point 26−49)へ到達することなく消費されてしまうので、基板の外周部(Point 26−49)での膜厚が減少する。このことは、上述の図17のグラフに示す結果と一致する。
【0138】
・比較例3、4および5のスパッタリングターゲットの評価結果
以下の表に示す通り、比較例3、4および5のスパッタリングターゲットは、いずれも初期段階(特に100kWh)での膜厚均一性が著しく悪いことが明らかとなった。
【0139】
・比較例6のスパッタリングターゲットの評価結果
以下の表に示す通り、比較例6のスパッタリングターゲットは、第1の領域の直径がスパッタリング面の外周の直径の32.6%であることから、第1の領域の直径がスパッタリング面の外周の直径の70.2%である実施例1に比べると、膜厚均一性が悪化することがわかった。
【0140】
【表1】
【0141】
なお、比較例3、4および5のスパッタリングターゲットにおいても、上述の比較例2と同様に、スパッタリングターゲットの長寿命化が達成できないことも明らかとなった。
【0142】
・段差についての検討
ここで、ターゲット材の周縁部に段差のない参照例(図3、ターゲット材T参照)、本発明の実施例1(図3、ターゲット材T参照)および比較例1(図4、ターゲット材Tc参照)について、膜厚均一性の結果を以下の表にまとめる(図10、12および14の結果もあわせて参照のこと)。
【0143】
【表2】
【0144】
これらの結果からも、実施例1のように、ターゲット材の周縁部に段差がない場合には、優れた膜厚均一性が得られることが実証されている。特に本発明の実施例1では、参照例および比較例1と比べても、その膜厚均一性は、初期および長期の両方、特に初期段階において、飛躍的に向上していることがわかる。
【0145】
従って、スパッタリングターゲットの長寿命化および膜均一性の向上において、ターゲット材の周縁部に段差を設けない方が良いことが実証されている。
【0146】
なお、参照例および比較例1では、100kWhでの1σの値がそれぞれ1.2%(参照例)、1.3%(比較例1)であり、いずれの場合においても、膜厚均一性が良好なように見える。しかし、比較例1では、上述の図14および図15で説明した通り、初期段階(0〜300kWh)における膜厚均一性は、著しく悪く、また、図15に示すように、特に、初期段階(0〜300kWh)において、測定した49点のうち、その中心点(Point 1)の膜厚だけが著しく低いものであった。そして、このような結果は、その中心点(Point 1)の膜厚が、1σの計算に殆ど反映されないため、1σの値からは、見かけ上、膜厚均一性が良いように見えるからである。従って、このようなことから、1σの値によって膜厚均一性を評価することは、あまり適切でないこともわかった。
【0147】
・ターゲット材のエロージョン量に基づく長寿命化の検討
参照例、比較例1および実施例1の各スパッタリングターゲットについて測定したターゲット材のエロージョン量を図19に示す。破線は、参照例でのエロージョンを示し、点線は、比較例1でのエロージョンを示し、実線は、実施例1でのエロージョンを示す(400〜2000kWhで、400、800、1200および2000kWh、ただし、参照例は、1200kWhまで)。
【0148】
図19のグラフから、本発明の実施例1のスパッタリングターゲットにおいては、中心から70〜125mmの部分、特に中心から90mm付近(すなわち、スパッタリング面の半径159.57mmに対して56.4%)から125mm付近(スパッタリング面の半径159.57mmに対して78.3%)にかけて、エロージョンが増加することが分かった。
【0149】
従って、スパッタリング面の外周の直径の60%〜80%の領域にかけて、本発明の第1の領域を設けることによって、ターゲット材の長寿命化および優れた膜厚均一性が達成できることがわかった。
【0150】
・膜厚均一性の向上の検討
【0151】
参照例、比較例1および比較例2の結果から、スパッタリング面の厚さを単に増加させただけでは、基板上に形成される薄膜の膜厚均一性は、向上しないことがわかった(図10、11、14〜17)。
【0152】
また、図11および図15に示すグラフから、スパッタリングの初期段階(特に、0〜300kWh付近)において、基板上に形成される薄膜の中央部(Point 1)の膜厚が極端に小さいことが明らかとなった(特に図15の比較例1のターゲット材Tcの場合)。
【0153】
なお、比較例1のターゲット材Tcを使用した場合において、このように基板上に形成される薄膜の中央部(Point 1)の膜厚が極端に薄くなる原因は、ターゲット材の厚さを増したことにより、ターゲット材−基板間の距離(TS距離)が短くなり、そして図19に示すようにターゲット材の外周付近が激しく消費されることによって、基板の外周部の膜厚が大きくなり、基板の中央部(Point 1)での膜の形成量が相対的に低下したためであると考えられる。
【0154】
また、図20および21に示すように、スパッタリングの極めて初期段階(特に0〜160kWh)において、図20に示す比較例4(ターゲット材Tc)と比べて、図21に示す比較例3(ターゲット材Tc)では、基板の中央部(Point 1)に形成される薄膜の膜厚が向上することが明らかとなった。
【0155】
これは、図20に示す比較例4(ターゲット材Tc)では、スパッタリング面の中央付近にリング状の凸部が形成されているために中央付近が肉厚となっているのに対して、図21に示す比較例3(ターゲット材Tc)では、スパッタリング面の中央部付近が一定の範囲で平坦であることに起因するものと考えられる(図5)。
【0156】
従って、スパッタリング面の中央部は、ある程度の範囲にわたって、好ましくは上述の通り、スパッタリング面の外周の直径の60%〜80%の範囲にわたって平坦であると(図19参照)、スパッタリングの初期段階において、基板上に形成される薄膜の中央部(Point 1)の膜厚を増加させて、膜厚均一性を向上させることができることがわかった。
【0157】
また、上述の図20および21に示す結果は、スパッタリングターゲットの中央部の厚さと、基板上に形成される薄膜の中央部(Point 1)の膜厚との間に何らかの相関関係があることを示唆している。
【0158】
そこで、図2に示す本発明の実施例1のスパッタリングターゲットにおいて、dを変更することによりターゲット材の中央部の厚さdを変更して、初期段階(特に100kWh)において、基板上に形成される薄膜の膜厚を測定した。その結果を図22に示す。
【0159】
図22に示す結果では、dの値が8mmから小さくなるにつれて、各ポイントでの膜厚が収束して膜厚均一性が向上することが明らかとなった。なかでも、dが4.0mm以下、特に1.65mmにおいて、膜厚均一性が顕著に向上することが明らかとなった。
【0160】
従って、dの値を、好ましくは4.0mm以下にすること(従って、第1の領域を第2の領域に対して、最大で第2の領域の厚さの15%低い位置に配置すること)によって、基板上に形成される薄膜の膜厚均一性を向上させることができた。
【0161】
本願は、2014年1月21日に日本国で出願された特願2014−008740を基礎として、その優先権を主張するものであり、その内容はすべて本明細書中に参照することにより援用される。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明のスパッタリングターゲットは、市販のスパッタリング装置、特にマグネトロンスパッタリング装置において利用することができ、積算電力で1800kWh以上の長寿命を提供し、なおかつ、その間にわたって、優れた膜厚均一性を有する薄膜を基板上に形成することができるので有益である。
【符号の説明】
【0163】
1 第1の領域
2 第2の領域
3 第1の領域と第2の領域との間の中間領域
(または第2の領域の内側の周囲部)
4 ターゲット材の裏面(スパッタリング面の反対側の面)
5 ターゲット材の周縁部
6 支持部材
7 フランジ部
8 第2の領域の外側の周囲部
9 ターゲット材の周縁部に設けた段差部
10 本発明のスパッタリングターゲット
101 比較例1のスパッタリングターゲットのターゲット材Tcの平面領域(スパッタリング面)
102 比較例2のスパッタリングターゲットのターゲット材Tcの平面領域
103 比較例3のスパッタリングターゲットのターゲット材Tcの中心平面領域
104 比較例4のスパッタリングターゲットのターゲット材Tcの中心平面領域
105 比較例4のスパッタリングターゲットのターゲット材Tcの外側平面領域
201 比較例3のスパッタリングターゲットのターゲット材Tcのリング状の平面領域
202 比較例4のスパッタリングターゲットのターゲット材Tcの二重リングの外側のリング状の平面領域
203 比較例4のスパッタリングターゲットのターゲット材Tcの二重リングの内側のリング状の平面領域
S スパッタリング面
T ターゲット材
標準形状のターゲット材
Tc〜Tc 比較例1〜6のスパッタリングターゲットのターゲット材
x ターゲット材の支持部材との接合部
図1
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