特許第6203910号(P6203910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6203910非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層および非水電解液二次電池用積層セパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6203910
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層および非水電解液二次電池用積層セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20170914BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20170914BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01M2/16 M
   H01M2/16 L
   H01M2/16 P
   H01M4/13
   H01M10/0566
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-128158(P2016-128158)
(22)【出願日】2016年6月28日
(62)【分割の表示】特願2015-232154(P2015-232154)の分割
【原出願日】2015年11月27日
(65)【公開番号】特開2017-98217(P2017-98217A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2016年6月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】有瀬 一郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 力
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−041502(JP,A)
【文献】 特開2012−074133(JP,A)
【文献】 特表2012−500213(JP,A)
【文献】 特開2009−070797(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/023199(WO,A1)
【文献】 特表2004−507347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
H01M 4/13
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩微粒子を含み、
赤外分光法による固体表面の酸性質評価法で測定した、前記金属塩の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積が、0.2g−1以上、3.6g−1以下であり、
前記金属塩微粒子に、チタン酸化物が含まれていることを特徴とする、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
(ここで、金属塩単位重量あたりのルイス酸ピーク面積は、ピリジンを吸着および脱着させた後のサンプルから測定された赤外吸収(IR)スペクトルにおける、1447〜1460cm−1の領域に存在するピークのピーク面積を、測定に使用した金属塩の重量にて除した値である。)
【請求項2】
前記金属塩微粒子に、アルミニウム元素およびチタン元素が含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
【請求項3】
金属塩微粒子を含み、
赤外分光法による固体表面の酸性質評価法で測定した、前記金属塩の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積が、0.2g−1以上、3.6g−1以下であり、
前記金属塩微粒子に、アルミニウム元素およびチタン元素が含まれていることを特徴とする、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
(ここで、金属塩単位重量あたりのルイス酸ピーク面積は、ピリジンを吸着および脱着させた後のサンプルから測定された赤外吸収(IR)スペクトルにおける、1447〜1460cm−1の領域に存在するピークのピーク面積を、測定に使用した金属塩の重量にて除した値である。)
【請求項4】
前記金属塩微粒子に、固溶体の形態の金属塩が含まれていることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
【請求項5】
前記金属塩微粒子が、粉砕物であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
【請求項6】
前記金属塩微粒子が、2種類以上の金属塩の混合物からなることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層。
【請求項7】
ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムの片面または両面に、絶縁性多孔質層が積層している非水電解液二次電池用積層セパレータであって、
前記絶縁性多孔質層は、金属塩微粒子を含み、
赤外分光法による固体表面の酸性質評価法で測定した、前記金属塩の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積が、0.2g−1以上、3.6g−1以下であり、
前記絶縁性多孔質層に、チタン酸化物を含有する金属塩微粒子が含まれていることを特徴とする、非水電解液二次電池用積層セパレータ。
(ここで、金属塩単位重量あたりのルイス酸ピーク面積は、ピリジンを吸着および脱着させた後のサンプルから測定された赤外吸収(IR)スペクトルにおける、1447〜1460cm−1の領域に存在するピークのピーク面積を、測定に使用した金属塩の重量にて除した値である。)
【請求項8】
前記絶縁性多孔質層に、アルミニウム元素およびチタン元素を含有する金属塩微粒子が含まれていることを特徴とする、請求項7に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータ。
【請求項9】
ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムの片面または両面に、絶縁性多孔質層が積層している非水電解液二次電池用積層セパレータであって、
前記絶縁性多孔質層は、金属塩微粒子を含み、
赤外分光法による固体表面の酸性質評価法で測定した、前記金属塩の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積が、0.2g−1以上、3.6g−1以下であり、
前記絶縁性多孔質層に、アルミニウム元素およびチタン元素を含有する金属塩微粒子が含まれていることを特徴とする、非水電解液二次電池用積層セパレータ。
(ここで、金属塩単位重量あたりのルイス酸ピーク面積は、ピリジンを吸着および脱着させた後のサンプルから測定された赤外吸収(IR)スペクトルにおける、1447〜1460cm−1の領域に存在するピークのピーク面積を、測定に使用した金属塩の重量にて除した値である。)
【請求項10】
前記金属塩微粒子に、固溶体の形態の金属塩が含まれていることを特徴とする、請求項7〜9の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータ。
【請求項11】
前記金属塩微粒子が、粉砕物であることを特徴とする、請求項7〜10の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータ。
【請求項12】
前記金属塩微粒子が、2種類以上の金属塩の混合物からなることを特徴とする、請求項7〜11の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータ。
【請求項13】
正極、請求項1〜6の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、および負極がこの順で配置されていることを特徴とする、非水電解液二次電池用部材。
【請求項14】
正極、請求項7〜12の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極がこの順で配置されていることを特徴とする、非水電解液二次電池用部材。
【請求項15】
請求項1〜6の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層をセパレータもしくはセパレータの部材として含むこと、または、請求項7〜12の何れか1項に記載の非水電解液二次電池用積層セパレータを含むことを特徴とする、非水電解液リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層および非水電解液二次電池用積層セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウム二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用されている。
【0003】
これらのリチウム二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高く、電池の破損あるいは電池を用いている機器の破損等により内部短絡・外部短絡が生じた場合には、大電流が流れて激しく発熱する。そのため、非水電解液二次電池には一定以上の発熱を防止し、高い安全性を確保することが求められている。
【0004】
かかる安全性の確保手段として、異常発熱の際に、セパレータにより、正−負極間のイオンの通過を遮断して、さらなる発熱を防止するシャットダウン機能を付与する方法が一般的である。シャットダウン機能をセパレータに付与する方法としては、異常発熱時に溶融する材質からなる多孔質フィルムをセパレータとして用いる方法が挙げられる。すなわち、該セパレータを用いた電池は、異常発熱時に多孔質フィルムが溶融・無孔化し、イオンの通過を遮断し、さらなる発熱を抑制することができる。
【0005】
このようなシャットダウン特性を有するセパレータとして、無機フィラーおよびバインダー高分子の混合物から構成される多孔質層からなるセパレータ、および、多孔質基材上に当該多孔質層を積層してなる積層体からなる積層セパレータが挙げられる。
【0006】
また、上記無機フィラーとして、種々の金属塩微粒子を使用するセパレータが提案されている(特許文献1)。さらに、上記金属塩微粒子として、酸化マグネシウムからなる微粒子を用いるセパレータ(特許文献2)、並びに、アルミナおよび/または酸化マグネシウムからなる微粒子を用いるセパレータ(特許文献3)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−196999号公報(2005年7月21日公開)
【特許文献2】特許第4476254号公報(2010年6月9日発行)
【特許文献3】特開2009−146822号公報(2009年7月2日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の従来の多孔質層からなる非水電解液二次電池用セパレータおよび上記多孔質層を含む非水電解液二次電池用積層セパレータは、放電出力特性がまだ不十分であるという課題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、発明者らは、非水電解液二次電池、または非水電解液二次電池用積層セパレータの部材である、無機フィラーを含む絶縁性多孔質層において、上記無機フィラーのルイス酸性を制御することによって、当該絶縁性多孔質層をセパレータとして組み込んだ非水電解液二次電池、または、当該絶縁性多孔質層を多孔質フィルム上の片面、若しくは両面に備える非水電解液二次電池用積層セパレータを組み込んだ非水電解液二次電池の放電出力特性が向上することを見出し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示す非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、非水電解液二次電池用積層セパレータ、非水電解液二次電池用部材、または非水電解液二次電池である。
【0011】
本発明の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層は、金属塩微粒子を含み、赤外分光法による固体表面の酸性質評価法で測定した前記金属塩の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積が、0.2以上、3.6以下であることを特徴とする。
(ここで、金属塩単位重量あたりのルイス酸ピーク面積は、ピリジンを吸着および脱着させた後のサンプルから測定された赤外吸収(IR)スペクトルにおける、1447〜1460cm-1の領域に存在するピークのピーク面積を、測定に使用した金属塩の重量にて除した値である。)
本発明の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層において、前記金属塩微粒子に、チタン酸化物が含まれていることが好ましく、アルミニウム元素およびチタン元素が含まれていることがより好ましい。また、前記金属塩微粒子に、固溶体の形態の金属塩が含まれていることが好ましい。さらに、前記金属塩微粒子が、粉砕物であることが好ましい。加えて、前記金属塩微粒子が、2種類以上の金属塩の混合物からなることが好ましい。
【0012】
本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータは、ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムの片面または両面に、絶縁性多孔質層が積層している非水電解液二次電池用積層セパレータであって、前記絶縁性多孔質層は、金属塩微粒子を含み、赤外分光法による固体表面の酸性質評価法で測定した前記金属塩の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積が、0.2以上、3.6以下であることを特徴とする、非水電解液二次電池用積層セパレータである。
(ここで、金属塩単位重量あたりのルイス酸ピーク面積は、ピリジンを吸着および脱着させた後のサンプルから測定された赤外吸収(IR)スペクトルにおける、1447〜1460cm-1の領域に存在するピークのピーク面積を、測定に使用した金属塩の重量にて除した値である。)
本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータにおいて、前記金属塩微粒子に、チタン酸化物が含まれていることが好ましく、アルミニウム元素およびチタン元素が含まれていることがより好ましい。また、前記金属塩微粒子に、固溶体の形態の金属塩が含まれていることが好ましい。さらに、前記金属塩微粒子が、粉砕物であることが好ましい。加えて、前記金属塩微粒子が、2種類以上の金属塩の混合物からなることが好ましい。
【0013】
本発明の非水電解液二次電池用部材は、正極、本発明の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、および負極がこの順で配置されていることを特徴とする非水電解液二次電池用部材であり得る。また、本発明の非水電解液二次電池用部材は、正極、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極がこの順で配置されていることを特徴とする非水電解液二次電池用部材でもあり得る。
【0014】
本発明の非水電解液二次電池は、本発明の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータを含むことを特徴とする非水電解液二次電池である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の非水電解液二次電池用セパレータ、または非水電解液二次電池用積層セパレータは、非水電解液二次電池に組み込まれることにより、当該非水電解液二次電池の放電出力特性を向上させることができる。同様に、非水電解液二次電池用部材は、非水電解液二次電池に組み込まれることにより、当該非水電解液二次電池の放電出力特性を向上させることができる。また、本発明の非水電解液二次電池は、従来の非水電解液二次電池よりも放電出力特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例、比較例にて実施したルイス酸ピーク面積の測定方法のフローを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。以下において、「A〜B」との記載は、「A以上、B以下」を意味する。
【0018】
[実施形態1:非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、実施形態2:非水電解液二次電池用積層セパレータ]
本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層は、金属塩微粒子を含み、赤外分光法による固体表面の酸性質評価法で測定した前記金属塩の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積が、0.2以上、3.6以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用積層セパレータは、ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムの片面または両面に、絶縁性多孔質層が積層している非水電解液二次電池用積層セパレータであって、前記絶縁性多孔質層は、金属塩微粒子を含み、赤外分光法による固体表面の酸性質評価法で測定した前記金属塩の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積が、0.2以上、3.6以下であることを特徴とする。
【0020】
以下において、本発明の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、および非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する各部材について詳細に説明する。
【0021】
[絶縁性多孔質層]
本発明の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層(絶縁性多孔質層)は、例えば、電極コート層の形態にて、単独で非水電解液二次電池用セパレータとなり得、あるいは、後述する多孔質フィルム上に積層することによって、非水電解液二次電池用積層セパレータの部材としてなり得る。
【0022】
本発明の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層および非水電解液二次電池用積層セパレータにおいて、絶縁性多孔質層に含まれる金属塩微粒子の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積は、0.2以上、3.6以下であり、0.25以上、3.55以下であることが好ましく、0.3以上、3.5以下であることがより好ましい。
【0023】
本明細書における金属塩の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積は、ピリジンを吸着および脱着させた後のサンプルから測定された赤外吸収(IR)スペクトルにおける、1447〜1460cm-1の領域に存在するピークのピーク面積を、測定に使用した金属塩の重量にて除することによって算出される。
【0024】
具体的には、金属塩の単位重量あたりのルイス酸ピーク面積は、以下の方法にて算出される。
【0025】
初めに、フィラーの原料である金属塩微粒子を40mg秤量し、円盤状のペレットの形に成形し、室温にて当該ペレットを加熱透過型in−situセルに入れ、真空引きし、その後、当該セル内部の温度を500℃まで昇温し、その温度を60分間維持する。その後、30℃まで冷却し、Nicolet社製 フーリエ変換赤外分光光度計 Avatar360を用いて、分解能4cm-1、積算回数256回、測定領域波数4000cm-1〜400cm-1の条件にて、赤外透過スペクトルの測定を行い、得られるスペクトルをバックグラウンドのスペクトルとする。
【0026】
続いて、当該セル内部の温度を100℃まで昇温し、当該セル内部にピリジン蒸気を導入し、5分間かけて、当該ペレットにピリジンを吸着させる。その後、当該セル内部の温度を150℃まで昇温し、その温度を60分間維持することによって、上記金属塩微粒子からなるペレットから、物理吸着したピリジンを脱離させ、その後、当該セル内部の温度を30℃まで下げ、上述の赤外透過スペクトルの測定条件と同一の条件下にて、ピリジンを吸着および脱着させた後のサンプルの赤外透過スペクトルを測定する。
【0027】
その後、測定される2つの赤外透過スペクトルに基づいて、ルイス酸由来のピークである1447〜1460cm-1の領域に存在するピーク面積を算出する。すなわち、ピリジンを吸着および脱着させた後の赤外透過スペクトルからバックグラウンドの赤外透過スペクトルを引いて赤外吸収スペクトルを得、その後、1447〜1460cm-1の領域に存在するピークの両端からベースラインを引き、当該ベースラインと当該ピークとで囲まれた部分の面積をピーク面積とする。上記ピーク面積を金属塩の重量(40mg)にて除することによって、金属塩単位重量当たりのピーク面積を算出する。
【0028】
絶縁性多孔質層に含まれる金属塩微粒子の単位重量当たりのルイス酸ピーク面積は、当該金属塩微粒子の単位重量当たりのルイス酸性度を表す。当該金属塩微粒子の単位重量当たりのルイス酸性度が高い場合、上記絶縁性多孔質層をセパレータまたは積層セパレータの部材として含む非水電解液二次電池において、当該非水電解液二次電池における電解液溶媒と、当該金属塩微粒子との親和性が高くなる。
【0029】
非水電解液二次電池においては、作動時、セパレータとしての非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または非水電解液二次電池用積層セパレータの部材である絶縁性多孔質層を電解液溶媒によって溶媒和されたカチオン(例えば、リチウムイオン二次電池の場合、Li+)が通過し、脱溶媒和された後、正極に取り込まれる。ここで、脱溶媒和過程は、非水電解液二次電池の内部抵抗の1つの要因である。よって、上記脱溶媒和を促進させることによって、非水電解液二次電池の内部抵抗を低減させ、当該電池の出力特性を向上させることができる。
【0030】
ここで、上述の脱溶媒和の起こり易さは、上記絶縁性多孔質層を構成する成分の、特にそれに含まれる金属塩微粒子と、上記電解液溶媒との親和性に影響を受ける。従って、絶縁性多孔質層に含まれる金属塩微粒子の単位重量当たりのルイス酸性度を適度な範囲とすることによって、非水電解液二次電池の出力特性を向上させることができる。
【0031】
具体的には、上記非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層に含まれる金属塩微粒子の単位重量当たりのルイス酸ピーク面積が、0.2未満の絶縁性多孔質層では、フィラーのルイス酸性度が低すぎるため、上記カチオン(例えば、Li+)に溶媒和した溶媒分子(ルイス塩基)と相互作用できず、上述の脱溶媒和の速度は向上しない。それゆえに、当該絶縁性多孔質層をセパレータまたはセパレータの部材として組み込んだ非水電解液二次電池において出力特性の向上は起こらない。一方、上記絶縁性多孔質層に含まれる金属塩微粒子の単位重量当たりのルイス酸ピーク面積が、3.6より大きい絶縁性多孔質層では、フィラーのルイス酸性度が高すぎるため、その高いルイス酸性度によってルイス塩基である溶媒分子が活性化し、溶媒分子の分解ガスを発生させる反応、および溶媒分子の重合反応等の電池出力特性の低下を招く副生成物を発生させる副反応が起こり易くなる。それゆえに、当該絶縁性多孔質層をセパレータまたはセパレータの部材として組み込んだ非水電解液二次電池において、その出力特性はかえって低下する。
【0032】
なお、金属塩微粒子の単位重量当たりのルイス酸ピーク面積(ルイス酸性度)は、金属塩微粒子の組成、および、金属塩微粒子の表面積(形状、粒度)を調整することによって調整することができる。また、金属塩微粒子の表面積は、金属塩微粒子を作製する際の条件(粉砕物である場合は、粉砕条件)によって、調整することが可能である。
【0033】
前記絶縁性多孔質層に含まれる金属塩微粒子は、金属塩から構成される。前記金属塩微粒子は、1種類のみを用いてもよく、粒子径や比表面積が互いに異なる2種類以上の金属塩微粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
前記金属塩微粒子の形状は、原料である金属塩の製造方法や、後述する、多孔質層を形成するための塗工液を作製するときの金属塩微粒子の分散条件等によって変化し、球形、長円形、短形、瓢箪形等の形状、或いは特定の形状を有さない不定形等、様々な形状を使用することができる。
【0035】
金属塩微粒子の体積基準の粒度分布は、2つのピークトップを有し、第1ピークトップの粒径が0.4μm以上、0.6μm以下であり、第2ピークトップの粒径が5μm以上、7μm以下であることが好ましく、加えて第1ピークトップの積算分布(フルイ下)が10%以上、20%以下であり、第2ピークトップの積算分布(フルイ下)が60%以上、80%以上であることがさらに望ましい。
【0036】
また、前記金属塩微粒子は、粉砕物であることが好ましく、平均粒子径および粒度分布が上述の範囲である粉砕物であることがより好ましい。前記金属塩微粒子を粉砕物とするための方法は、湿式粉砕または乾式粉砕であり得る。上記粉砕物を得るための具体的な方法としては、特に限定されないが、例えば、高速回転ミル、転動ミル、振動ミル、遊星ミル、媒体撹拌式ミル、気流式粉砕機、等を用いて、粗大なフィラーを粉砕処理することが挙げられる。その中でも分散媒を使用しない乾式の粉砕法が好ましく、さらにビーズミルや、振動ボールミルといった粉砕メディアを用いた装置での乾式の粉砕法がより好ましく、加えて、前記粉砕メディアのモース硬度が該金属塩のモース硬度以上であることが特に好ましい。なお、上記粉砕方法としては、セラミックス粒子とメディアとの衝突が生じないメディアレス粉砕法、例えば、特許第4781263号公報に記載のジェット流と回転翼による高速せん断とを組み合わせて行う方法を使用することもできる。
【0037】
前記金属塩微粒子を構成する金属塩は、特に限定されないが、好ましくは無機物であり、より好ましくは金属炭酸塩および金属酸化物である。具体的には、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸カルシウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸マグネシウム;チタン酸化物、アルミナ、ベーマイト(アルミナ1水和物)、ジルコニア、シリカ、マグネシア、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛等の金属酸化物が挙げられる。また、前記金属酸化物は複合酸化物を用いても良く、構成金属元素としてアルミニウム元素、チタン元素、ジルコニウム元素、ケイ素元素、ホウ素元素、マグネシウム元素、カルシウム元素、バリウム元素から選ばれる少なくとも一つの元素を含むことが好ましく、アルミニウム元素およびチタン元素を含むことがさらに好ましい。また、前記金属塩には、アルミナ、チタン酸化物、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、又は、炭酸マグネシウムが含まれることが好ましく、アルミナ、及び、チタン酸化物が含まれることが特に好ましい。
【0038】
さらに、前記金属塩は、1種類のみを用いてもよいが、2種類以上を用いることが好ましい。中でも上記金属塩は、チタン酸化物を含むことが好ましく、アルミニウム元素およびチタン元素を含むことがより好ましい。前記金属塩微粒子は、2種類以上の金属塩の混合物からなる微粒子であってもよい。また、前記金属塩微粒子には、固溶体の形態の金属塩が含まれていることが好ましく、固溶体の形態の金属塩のみからなることがより好ましい。具体的には、前記金属塩微粒子は、アルミナとチタニアの固溶体からなる微粒子であることが特に好ましい。
【0039】
本発明における絶縁性多孔質層は、通常、金属塩からなるフィラーの他に、樹脂をバインダー樹脂として含んでなる樹脂層である。絶縁性多孔質層を構成する樹脂は、電池の電解液に不溶であり、また、その電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。
【0040】
当該樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;芳香族ポリアミド;全芳香族ポリアミド(アラミド樹脂);スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステル等の融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0041】
また、上記芳香族ポリアミドとしては、具体的には、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(メタベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロパラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、メタフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等が挙げられる。このうち、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)がより好ましい。
【0042】
上記樹脂のうち、ポリオレフィン、含フッ素樹脂、芳香族ポリアミド、および水溶性ポリマーがより好ましい。中でも、上記絶縁性多孔質層を非水電解液二次電池にセパレータとして使用したとき、または、非水電解液二次電池用積層セパレータの部材として使用したときに、電池作動時の酸化劣化による、非水電解液二次電池のレート特性や抵抗特性(液抵抗)等の各種性能を維持し易いため、含フッ素樹脂が特に好ましい。水溶性ポリマーは、絶縁性多孔質層を形成するときの溶媒として水を用いることができるため、プロセスや環境負荷の面からより好ましく、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウムがさらに好ましく、セルロースエーテルが特に好ましい。
【0043】
セルロースエーテルとしては、具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シアンエチルセルロース、オキシエチルセルロース等が挙げられ、長時間にわたる使用における劣化が少なく、化学的な安定性に優れているCMCおよびHECがより好ましく、CMCが特に好ましい。
【0044】
絶縁性多孔質層に金属塩からなるフィラーの他に樹脂が含まれている場合、当該フィラーの含有量が、当該絶縁性多孔質層の1〜99体積%であることが好ましく、5〜95体積%であることがより好ましい。微粒子の含有量を上記範囲とすることにより、微粒子同士の接触によって形成される空隙が、樹脂等によって閉塞されることが少なくなり、当該絶縁性多孔質層が、充分なイオン透過性を得ることができると共に、単位面積当たりの目付を適切な値にすることができる。
【0045】
絶縁性多孔質層の単位面積当たりの目付(片面当たり)は、絶縁性多孔質層の強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよいものの、当該絶縁性多孔質層を、セパレータとしての非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または非水電解液二次電池用積層セパレータの部材として用いた場合の当該電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くする面においては、通常、1〜20g/m2であることが好ましく、2〜10g/m2であることがより好ましい。絶縁性多孔質層の目付が上記範囲を超える場合には、当該絶縁性多孔質層を、セパレータとしての非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、または非水電解液二次電池用積層セパレータの部材として用いたときに、当該絶縁性多孔質層を含む非水電解液二次電池が重くなる。
【0046】
また、絶縁性多孔質層の1平方メートル当たりに含まれる多孔質層構成成分の体積(片面当たり)は、0.5〜20cm3であることが好ましく、1〜10cm3であることがより好ましく、2〜7cm3であることがさらに好ましい。つまり、絶縁性多孔質層の成分体積目付(片面当たり)は、0.5〜20cm3/m2であることが好ましく、1〜10cm3/m2であることがより好ましく、2〜7cm3/m2であることがさらに好ましい。絶縁性多孔質層の成分体積目付が0.5cm3/m2を下回る場合には、当該絶縁性多孔質層を非水電解液二次電池におけるセパレータ、または非水電解液二次電池用積層セパレータの部材として用いたときに、当該電池の破損等による内部短絡を充分に防止することができない。
【0047】
ここで、成分体積目付は、以下の方法を用いて算出する。
(1)絶縁性多孔質層の目付に、当該絶縁性多孔質層を構成する各成分の重量濃度(多孔質層中の重量濃度)を乗じて、各成分の目付を算出する。
(2)(1)にて得られた各成分の目付を、各々、各成分の真比重で除し、得られた数値の総和を、B層の成分体積目付とする。
【0048】
また、絶縁性多孔質層の成分体積目付が20cm3/m2を上回る場合には、上記絶縁性多孔質層全域におけるリチウムイオンの透過抵抗が増加するので、上記絶縁性多孔質層を含む非水電解液二次電池において、サイクルを繰り返すと正極が劣化し、当該電池のレート特性やサイクル特性が低下する。
【0049】
絶縁性多孔質層の空隙率は、充分なイオン透過性を得ることができるように、20〜90体積%であることが好ましく、30〜70体積%であることがより好ましい。また、絶縁性多孔質層が有する細孔の孔径は、上記絶縁性多孔質層が、充分なイオン透過性を得ることができ、電極から脱落した粒子が通過しないように、3μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
【0050】
絶縁性多孔質層の厚さは、通常、0.1μm以上、20μm以下であり、好ましくは2μm以上、15μm以下である。前記絶縁性多孔質層が厚すぎる(20μmより大きい)場合には、当該絶縁性多孔質層を含む非水電解液二次電池を製造した場合に、該電池の内部抵抗が増加し、出力特性等の電池特性が低下する、一方、前記絶縁性多孔質層が薄すぎる(0.1μm未満)場合には、前記絶縁性多孔質層の絶縁性ならびに耐電圧リーク性の低下を招き、さらには当該絶縁性多孔質層をポリオレフィン多孔膜上に積層して、非水電解液二次電池用積層セパレータの部材として用いた場合に、当該積層セパレータを備える非水電解液二次電池において、異常発熱が生じたときに、当該ポリオレフィン多孔膜の熱収縮に抗しきれず当該積層セパレータが収縮するおそれがある。なお、絶縁性多孔質層が多孔質フィルム(ポリオレフィン多孔膜)の両面に形成される場合には、絶縁性多孔質層の厚さは両面の合計の厚さとする。
【0051】
本発明における絶縁性多孔質層の製造方法としては、上記樹脂を溶媒に溶解させると共に、上記金属塩微粒子を分散させることにより、絶縁性多孔質層を形成するための塗工液を調製し、当該塗工液を基材上に塗布した後、溶媒を除去して絶縁性多孔質層を析出させる方法が挙げられる。なお、上記基材は、例えば、後述する非水電解液二次電池用積層セパレータを構成する多孔質フィルム、または非水電解液二次電池における電極、特に正極であり得る。
【0052】
上記溶媒(分散媒)は、基材である多孔質フィルムや電極に悪影響を及ぼさず、上記樹脂を均一かつ安定に溶解し、上記金属塩微粒子を均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。上記溶媒(分散媒)としては、具体的には、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール;アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。上記溶媒(分散媒)は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
塗工液は、所望の絶縁性多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)や金属塩微粒子の量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。塗工液の形成方法としては、具体的には、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法等が挙げられる。また、例えば、スリーワンモーター、ホモジナイザー、メディア型分散機、圧力式分散機等の従来公知の分散機を使用してフィラーを溶媒(分散媒)に分散させてもよい。さらに、金属塩微粒子を湿式の粉砕法にて調製する場合には、樹脂を溶解若しくは膨潤させた液、或いは樹脂の乳化液を、所望の平均粒子径を有する金属塩微粒子を得るための湿式粉砕時に、湿式粉砕装置内に供給し、金属塩微粒子の湿式粉砕と同時に塗工液を調製することもできる。つまり、金属塩微粒子の湿式粉砕と塗工液の調製とを一つの工程で同時に行ってもよい。また、上記塗工液は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記樹脂および微粒子以外の成分として、分散剤や可塑剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。尚、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよい。
【0054】
塗工液の基材への塗布方法は、特に制限されるものではない。例えば、基材の両面に絶縁性多孔質層を積層する場合においては、基材の一方の面に絶縁性多孔質層を形成した後、他方の面に絶縁性多孔質層を形成する逐次積層方法や、基材の両面に絶縁性多孔質層を同時に形成する同時積層方法を行うことができる。絶縁性多孔質層の形成方法としては、例えば、塗工液を基材の表面に直接塗布した後、溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液を適当な支持体に塗布し、溶媒(分散媒)を除去して絶縁性多孔質層を形成した後、この絶縁性多孔質層と基材とを圧着させ、次いで支持体を剥がす方法;塗工液を適当な支持体に塗布した後、塗布面に基材を圧着させ、次いで支持体を剥がした後に溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液中に基材を浸漬し、ディップコーティングを行った後に溶媒(分散媒)を除去する方法;等が挙げられる。絶縁性多孔質層の厚さは、塗工後の湿潤状態(ウェット)の塗工膜の厚さ、樹脂と微粒子との重量比、塗工液の固形分濃度(樹脂濃度と微粒子濃度との和)等を調節することによって制御することができる。尚、支持体としては、例えば、樹脂製のフィルム、金属製のベルト、ドラム等を用いることができる。
【0055】
上記塗工液を基材または支持体に塗布する方法は、必要な目付や塗工面積を実現し得る方法であればよく、特に制限されるものではない。塗工液の塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクターブレードコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、バーコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。
【0056】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられるが、溶媒(分散媒)を充分に除去することができるのであれば如何なる方法でもよい。また、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから除去する方法としては、例えば、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)に溶解し、かつ、塗工液に含まれる樹脂を溶解しない他の溶媒(以下、溶媒X)を使用し、塗工液が塗布されて塗膜が形成された基材または支持体を上記溶媒Xに浸漬し、基材上または支持体上の塗膜中の溶媒(分散媒)を溶媒Xで置換した後に、溶媒Xを蒸発させる方法が挙げられる。この方法は、塗工液から溶媒(分散媒)を効率よく除去することができる。尚、基材としてポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムを使用する場合には、基材(当該多孔質フィルム)または支持体に形成された塗工液の塗膜から溶媒(分散媒)或いは溶媒Xを除去するときに加熱を行う際、当該多孔質フィルムの細孔が収縮して透気度が低下することを回避するために、当該多孔質フィルムの透気度が低下しない温度、具体的には、10〜120℃、より好ましくは20〜80℃で行うことが望ましい。また、上記乾燥には、通常の乾燥装置を用いることができる。
【0057】
[多孔質フィルム]
本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータにおける多孔質フィルムは、非水電解液二次電池用積層セパレータの基材であり、ポリオレフィンを主成分とし、その内部に連結した細孔を多数有しており、一方の面から他方の面に気体や液体を通過させることが可能となっている。
【0058】
ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムとは、当該多孔質フィルムに占めるポリオレフィンの割合が、当該多孔質フィルム全体の50体積%以上であり、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましい。また、上記ポリオレフィンには、重量平均分子量が5×105〜15×106の高分子量成分が含まれていることがより好ましい。特に、ポリオレフィンに重量平均分子量が100万以上の高分子量成分が含まれていると、多孔質フィルム、および多孔質フィルムを含む積層体、すなわち非水電解液二次電池用積層セパレータの強度が向上するのでより好ましい。
【0059】
熱可塑性樹脂である上記ポリオレフィンとしては、具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等の単量体を(共)重合してなる単独重合体(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン)または共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体)が挙げられる。このうち、過大電流が流れることをより低温で阻止(シャットダウン)することができるため、ポリエチレンがより好ましい。当該ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン−α−オレフィン共重合体)、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン等が挙げられ、このうち、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンがさらに好ましい。
【0060】
多孔質フィルムの膜厚は、非水電解液二次電池用積層セパレータの厚さを考慮して適宜決定すればよいものの、多孔質フィルムを基材として用い、多孔質フィルムの片面または両面に絶縁性多孔質層を積層して非水電解液二次電池用積層セパレータを形成する場合においては、通常、4〜50μmであり、好ましくは5〜30μmである。多孔質フィルムの膜厚が4μm未満である場合には、多孔質フィルムの機械強度が不十分となり、電池組立時に、多孔質フィルムまたは当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用積層セパレータが破膜するおそれがあり、さらには多孔質フィルムに保持される電解液量が低下するため、当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池の電池長期特性が低下する。一方、多孔質フィルムの膜厚が50μmを超えると、当該多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用積層セパレータ全域におけるリチウムイオンの透過抵抗が増加するので、上記非水電解液二次電池用積層セパレータを有する非水電解液二次電池が、サイクルを繰り返すにつれてその正極が劣化していき、レート特性やサイクル特性が低下する。また、正極および負極間の距離が増加するので非水電解液二次電池が大型化する。
【0061】
また、多孔質フィルムの孔径は、3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0062】
多孔質フィルムの単位面積当たりの目付は、非水電解液二次電池用積層セパレータの強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよいものの、当該非水電解液二次電池用積層セパレータを組み込んだ非水電解液二次電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができるように、通常、4〜20g/m2であることが好ましく、5〜12g/m2であることがより好ましい。
【0063】
多孔質フィルムの透気度は、ガーレ値で30〜500sec/100mLであることが好ましく、50〜300sec/100mLであることがより好ましい。多孔質フィルムが上記透気度を有することにより、当該非水電解液二次電池用積層セパレータが、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0064】
多孔質フィルムの空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止(シャットダウン)する機能を得ることができるように、30〜60体積%であることが好ましく、35〜55体積%であることがより好ましい。
【0065】
多孔質フィルムの空隙率が30体積%を下回ると、当該多孔質フィルムの抵抗が増加する。また、多孔質フィルムの空隙率が60体積%を上回ると、当該多孔質フィルムの機械的強度が低下する。
【0066】
また、多孔質フィルムが有する細孔の孔径は、当該非水電解液二次電池用積層セパレータが、充分なイオン透過性を得ることができ、かつ、正極や負極への粒子の入り込みを防止することができるように、3μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
【0067】
多孔質フィルムの製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィン等の樹脂に炭酸カルシウム等の孔形成剤を加えてフィルムに成形した後、当該孔形成剤を適当な溶媒で除去する方法が挙げられる。
【0068】
具体的には、例えば、超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリオレフィンとを含むポリオレフィン樹脂を用いて多孔質フィルムを製造する場合には、製造コストの観点から、以下に示す方法によって当該多孔質フィルムを製造することが好ましい。
(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、
(2)上記ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程、
次いで、
(3)工程(2)で得られたシートから無機充填剤を除去する工程、
(4)工程(3)で無機充填剤を除去したシートを延伸して多孔質フィルムを得る工程。
或いは、
(3’)工程(2)で得られたシートを延伸する工程、
(4’)工程(3’)で延伸したシートから無機充填剤を除去して多孔質フィルムを得る工程。
【0069】
尚、多孔質フィルムは、上述した物性を有する市販品を用いることもできる。
【0070】
また、多孔質フィルムには、絶縁性多孔質層を形成する前に、つまり、後述する塗工液を塗工する前に、親水化処理を施しておくことがより好ましい。多孔質フィルムに親水化処理を施しておくことにより、塗工液の塗工性がより向上し、それゆえ、より均一な絶縁性多孔質層を形成することができる。この親水化処理は、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)に占める水の割合が高い場合に有効である。上記親水化処理としては、具体的には、例えば、酸やアルカリ等による薬剤処理、コロナ処理、プラズマ処理等の公知の処理が挙げられる。上記親水化処理のうち、比較的短時間で多孔質フィルムを親水化することができる上に、親水化が多孔質フィルムの表面近傍のみに限られ、多孔質フィルムの内部を変質しないことから、コロナ処理がより好ましい。
【0071】
[非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法]
本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法としては、上述の絶縁性多孔質層の製造方法において、基材を上述の多孔質フィルムとする方法を挙げることができる。
【0072】
さらに、本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータの厚さ(膜厚)は、通常、5〜80μmであり、好ましくは5〜50μmであり、特に好ましくは6〜35μmである。セパレータ全体の厚さが5μm未満である場合には、当該セパレータが破膜し易くなり、80μmを超えると、当該セパレータを備える非水電解液二次電池の内部抵抗が増加し、出力特性等の電池特性が低下するとともに、当該電池の内部容積が小さい場合においては、電極量を減らさざるを得ず、結果として当該電池の電池容量が小さくなる。
【0073】
[実施形態3:非水電解液二次電池用部材、実施形態4:非水電解液二次電池]
本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池用部材は、正極、本発明の実施形態1に係る絶縁性多孔質層、および負極がこの順で配置されている非水電解液二次電池用部材であり得る。また、本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池用部材は、正極、本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極がこの順で配置されている非水電解液二次電池用部材でもあり得る。
【0074】
本発明の非水電解液二次電池用部材は、セパレータまたはセパレータの部材として、単位重量当たりのルイス酸ピーク面積(ルイス酸性度)が特定の範囲に制御された金属塩微粒子を含む絶縁性多孔質層を備える。よって、当該非水電解液二次電池用部材を組み込んだ非水電解液二次電池の出力特性を向上させることができる。
【0075】
本発明の実施形態4に係る非水電解液二次電池は、本発明の実施形態1に係る絶縁性多孔質層または本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用積層セパレータを含む。上記非水電解液二次電池は、絶縁性多孔質層または非水電解液二次電池用積層セパレータ以外の部材として、正極、負極、電解液を含む。
【0076】
本発明の非水電解液二次電池は、セパレータまたはセパレータの部材として、単位重量当たりのルイス酸ピーク面積(ルイス酸性度)が特定の範囲に制御された金属塩微粒子を含む多孔質層を備える。よって、該非水電解液二次電池は、出力特性に優れる。
【0077】
以下、非水電解液二次電池として、リチウムイオン二次電池を例に挙げて各部材について説明する。なお、本発明の非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池における、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、非水電解液二次電池用積層セパレータは、上述した本発明の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、非水電解液二次電池用積層セパレータである。また、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層、非水電解液二次電池用積層セパレータ以外の非水電解液二次電池の構成要素は、下記説明の構成要素に限定されるものではない。
【0078】
[電解液]
本発明の非水電解液二次電池における電解液としては、例えばリチウム塩を電解液溶媒である有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、Li210Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4等が挙げられる。上記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。上記リチウム塩のうち、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、およびLiC(CF3SO23からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素含有リチウム塩がより好ましい。
【0079】
電解液溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドン等のカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトン等の含硫黄化合物;並びに、上記有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒;等が挙げられる。上記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。上記有機溶媒のうち、カーボネート類がより好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または、環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、作動温度範囲が広く、かつ、負極活物質として天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合においても難分解性を示すことから、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒がさらに好ましい。
【0080】
[正極]
正極としては、通常、非水電解液二次電池にて一般に使用される正極が使用され得、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を含む正極合剤を正極集電体上に担持したシート状の正極を用いられる。
【0081】
上記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。上記リチウム複合酸化物のうち、平均放電電位が高いことから、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等のα−NaFeO2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネル等のスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物がより好ましい。当該リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでいてもよく、複合ニッケル酸リチウムがさらに好ましい。
【0082】
さらに、Ti、Zr、Ce、Y、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、上記少なくとも1種の金属元素の割合が0.1〜20モル%となるように当該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル特性に優れるので特に好ましい。中でもAlまたはMnを含み、かつ、Ni比率が85%以上、さらに好ましくは90%以上である活物質が、当該活物質を含む正極を備える非水電解液二次電池の高容量での使用におけるサイクル特性に優れることから、特に好ましい。
【0083】
上記導電材としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。上記導電材は、1種類のみを用いてもよく、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いる等、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
上記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、およびポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。尚、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0085】
正極合剤を得る方法としては、例えば、正極活物質、導電材および結着剤を正極集電体上で加圧して正極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材および結着剤をペースト状にして正極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0086】
上記正極集電体としては、例えば、Al、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられ、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0087】
シート状の正極の製造方法、即ち、正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、例えば、正極合剤となる正極活物質、導電材および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電材および結着剤をペースト状にして正極合剤を得た後、当該正極合剤を正極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の正極合剤を加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0088】
[負極]
負極としては、通常、非水電解液二次電池にて一般に使用される負極が使用され得、例えば、負極活物質を含む負極合剤を負極集電体上に担持したシート状の負極が用いられる。シート状の負極には、好ましくは上記導電材、及び、上記結着剤が含まれる。
【0089】
上記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料;正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物;が挙げられる。上記負極活物質のうち、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いために正極と組み合わせた場合に大きなエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料がより好ましい。
【0090】
負極合剤を得る方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧して負極合剤を得る方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得る方法;等が挙げられる。
【0091】
上記負極集電体としては、例えば、Cu、Ni、ステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0092】
シート状の負極の製造方法、即ち、負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、例えば、負極合剤となる負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得た後、当該負極合剤を負極集電体に塗工し、乾燥して得られたシート状の負極合剤を加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。上記ペーストには、好ましくは上記導電助剤、及び、上記結着剤が含まれる。
【0093】
[非水電解液二次電池用部材、非水電解液二次電池の製造方法]
本発明の非水電解液二次電池用部材を製造する方法としては、上記正極、本発明の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層または本発明の非水電解液二次電池用積層セパレータ、および負極をこの順で配置して非水電解液二次電池用部材を形成する方法が挙げられる。
【0094】
また、本発明の非水電解液二次電池を製造する方法として、例えば、上記正極、非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層または非水電解液二次電池用積層セパレータおよび負極をこの順で配置して非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉することにより、本発明に係る非水電解液二次電池を製造することができる。非水電解液二次電池の形状は、特に限定されるものではなく、薄板(ペーパー)型、円盤型、円筒型、直方体等の角柱型等のどのような形状であってもよい。尚、本発明の非水電解液二次電池用部材の製造方法、非水電解液二次電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を採用することができる。
【0095】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0097】
[測定方法]
実施例および比較例にて作製された非水電解液二次電池用積層セパレータ(積層多孔質フィルム)、A層(多孔質フィルム)、およびB層(絶縁性多孔質層)の物性等、並びに、非水電解液二次電池の放電出力特性(レート特性)を、以下の方法で測定した。
【0098】
(1)膜厚(単位:μm)
積層多孔質フィルムの膜厚(即ち、全体の膜厚)、A層の膜厚、およびB層の膜厚は、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機(VL−50)を用いて測定した。
【0099】
(2)目付(単位:g/m2
積層多孔質フィルムから、一辺の長さ8cmの正方形をサンプルとして切り取り、当該サンプルの重量W(g)を測定した。そして、次式
目付(g/m2)=W/(0.08×0.08)
に従い、積層多孔質フィルムの目付(即ち、全体の目付)を算出した。同様にして、A層の目付を算出した。B層の目付は、全体の目付からA層の目付を差し引いて算出した。
【0100】
(3)平均粒子径、粒度分布(D10,D50,D90(体積基準))(単位:μm)
フィラーの粒子径および粒度分布を、日揮装株式会社製のMICROTRAC(MODEL:MT-3300EXII)を用いて測定した。
【0101】
(4)金属塩微粒子のルイス酸性度の定量
図1に記載のフローに従い、実施例、比較例にて製造された金属塩微粒子の単位重量当たりのルイス酸ピーク面積(ルイス酸性度)を測定した。
【0102】
初めに、金属塩微粒子を40mg秤量し、円盤状のペレットの形に成形し、室温にて当該ペレットを加熱透過型in−situセルに入れ、真空引きし、その後、当該セル内部の温度を500℃まで昇温し、その温度を60分間維持した。その後、30℃まで冷却し、Nicolet社製 フーリエ変換赤外分光光度計 Avatar360を用いて、分解能4cm-1、積算回数256回、測定領域波数4000cm-1〜400cm-1の条件にて、赤外透過スペクトルの測定を行った(測定1)。得られたスペクトルをバックグラウンドのスペクトルとした。
【0103】
続いて、当該セル内部の温度を100℃まで昇温し、当該セル内部にピリジン蒸気を導入し、5分間かけて、当該ペレットにピリジンを吸着させる。その後、当該セル内部の温度を150℃まで昇温し、その温度を60分間維持することによって、上記金属塩微粒子からなるペレットから、物理吸着したピリジンを脱離させ、その後、当該セル内部の温度を30℃まで下げ、上述の赤外透過スペクトルの測定条件と同一の条件下にて、ピリジンを吸着および脱着させた後のサンプルの赤外透過スペクトルを測定した(測定2)。
【0104】
その後、測定される2つの赤外透過スペクトルに基づいて、ルイス酸由来のピークである1447〜1460cm-1の領域に存在するピーク面積を算出した。すなわち、ピリジンを吸着および脱着させた後の赤外透過スペクトルからバックグラウンドの赤外透過スペクトルを引いて赤外吸収スペクトルを得た後、1447〜1460cm-1の領域に存在するピークの両端からベースラインを引き、当該ベースラインと当該ピークとで囲まれた部分の面積をピーク面積とした。上記ピーク面積を金属塩の重量(40mg)にて除することによって、金属塩単位重量当たりのピーク面積を算出した。
【0105】
(6)レート特性(%)
実施例および比較例にて作製された非水電解液二次電池に対して、25℃で電圧範囲;4.1〜2.7V、電流値;0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下も同様)を1サイクルとして、4サイクルの初期充放電を行った。
【0106】
上記初期充放電後、当該非水電解液二次電池に対して、55℃、充電電流値;1C、放電電流値が0.2Cと20Cの定電流を用いて、それぞれ3サイクルずつ、充放電を行い、それぞれの場合の放電容量を測定した。
【0107】
放電電流値が0.2Cと20Cにおける、それぞれ3サイクル目の放電容量を放電容量の測定値とした。上記測定値の割合(20C放電容量/0.2C放電容量)をレート特性(%)とした。
【0108】
[実施例1]
<A層>
ポリオレフィンであるポリエチレンを用いて基材である多孔質フィルムを作製した。
【0109】
即ち、超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学株式会社製)70重量部と、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞株式会社製)30重量部とを混合して混合ポリエチレンを得た。得られた混合ポリエチレン100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.4重量部、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.1重量部、およびステアリン酸ナトリウム1.3重量部を加え、さらに、全体積に占める割合が38体積%となるように、平均粒子径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加えた。この組成物を粉末のまま、ヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練することにより、ポリエチレン樹脂組成物を得た。次いで、このポリエチレン樹脂組成物を、表面温度が150℃に設定された一対のロールにて圧延することにより、シートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%を配合)に浸漬させることで炭酸カルシウムを溶解して除去した。続いて、当該シートを105℃で6倍に延伸することにより、ポリエチレン製の多孔質フィルム(A層)を作製した。
【0110】
<B層の作製>
(金属塩微粒子の調製)
金属塩として、Ceram社製 Aluminiumoxid/Titandioxid (Al23/TiO2=60/40、固溶体)を用いた。この金属塩を容積3.3Lのアルミナ製ポットおよび15mmφアルミナボールを用いた振動ミル粉砕を4時間実施し、金属塩微粒子を得た。
【0111】
(塗工液の調製)
上記金属塩微粒子、バインダー樹脂としてフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(アルケマ株式会社製;商品名「KYNAR2801」)、および溶媒としてN−メチル−2−ピロリジノン(関東化学株式会社製)を以下の態様にて混合した。
【0112】
上記混合の態様は、上記金属塩微粒子90重量部に対して、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を10重量部添加し、混合物を得た。得られた混合物に対して、固形分(金属塩微粒子+フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)の濃度が40重量%となるように上記溶媒を添加し、混合液を得た。得られた混合液を薄膜旋回型高速ミクサー(プライミクス(株)製フィルミクス(登録商標))で攪拌・混合して均一な塗工液1を得た。
【0113】
<非水電解液二次電池用積層セパレータ(積層多孔質フィルム)の作製>
上記A層の片面に得られた塗工液1をドクターブレード法により塗工し、得られた塗膜を通風乾燥機(東京理化器械株式会社製 形式:WFO−601SD)を用いて85℃にて乾燥することでB層を形成した。これによりA層の片面にB層が積層された積層多孔質フィルム1を得た。
【0114】
<非水電解液二次電池用積層セパレータ、多孔質フィルム、絶縁性多孔質層の物性測定>
上述の測定方法を用いて、金属塩微粒子の単位重量当たりのルイス酸ピーク面積、得られた積層多孔質フィルム1、およびそれを構成する多孔質フィルム(A層)、絶縁性多孔質層(B層)の物性等を測定した。その結果得られた金属塩微粒子の単位重量当たりのルイス酸ピーク面積の値を表1に示す。
【0115】
<非水電解液二次電池の作製>
以下に示す正極および負極、並びに、上述の積層多孔質フィルム1を使用し、以下に示す組み立て方法にて非水電解液二次電池を作製した。
【0116】
(正極)
LiNi0.5Mn0.3Co0.22/導電材/PVDF(重量比92/5/3)をアルミニウム箔に塗布することにより製造された市販の正極を用いた。上記正極を、正極活物質層が形成された部分の大きさが45mm×30mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が形成されていない部分が残るように、アルミニウム箔を切り取って正極とした。正極活物質層の厚さは58μm、密度は2.50g/cm3、正極容量は174mAh/gであった。
【0117】
(負極)
黒鉛/スチレン−1,3−ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1)を銅箔に塗布することにより製造された市販の負極を用いた。上記負極を、負極活物質層が形成された部分の大きさが50mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が形成されていない部分が残るように、銅箔を切り取って負極とした。負極活物質層の厚さは49μm、の密度は1.40g/cm3、負極容量は372mAh/gであった。
【0118】
(組み立て方法)
ラミネートパウチ内で、上記正極、積層多孔質フィルム1、および負極をこの順で積層(配置)することにより、非水電解液二次電池用部材1を得た。このとき、正極の正極活物質層における主面の全部が、負極の負極活物質層における主面の範囲に含まれる(主面に重なる)ように、正極および負極を配置した。
【0119】
続いて、上記非水電解液二次電池用部材1を、アルミニウム層とヒートシール層とが積層されてなる袋に入れ、さらにこの袋に非水電解液を0.25mL入れた。上記非水電解液としては、濃度1.0モル/リットルのLiPF6をエチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチレンカーボネートの体積比が50:20:30の混合溶媒に溶解させた25℃の電解液を用いた。そして、袋内を減圧しつつ、当該袋をヒートシールすることにより、非水電解液二次電池1を作製した。非水電解液二次電池1の設計容量は20.5mAhとした。
<非水電解液二次電池の物性測定>
作製された非水電解液二次電池1に対して、上述のレート特性の測定方法を用いて、そのレート特性(%)を測定した。その結果を表1に示す。
【0120】
[実施例2]
金属塩として、Ceram社製 Aluminiumoxid/Titandioxid (Al23/TiO2=60/40、固溶体)の代わりに、Aluminiumoxid/Titandioxid (Al23/TiO2=85/15、固溶体)を用いる以外は実施例1と同様にして、積層多孔質フィルム2、非水電解液二次電池用部材2、および非水二次電池2を得た。また、実施例1と同様の方法にて、それぞれの物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0121】
[実施例3]
金属塩として、Ceram社製 Aluminiumoxid/Titandioxid (Al23/TiO2=60/40、固溶体)の代わりに、Aluminiumoxid/Titandioxid (Al23/TiO2=99/1、固溶体)を用いる以外は実施例1と同様にして、積層多孔質フィルム3、非水電解液二次電池用部材3、および非水二次電池3を得た。また、実施例1と同様の方法にて、それぞれの物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0122】
[実施例4]
金属塩として、Ceram社製 Aluminiumoxid/Titandioxid (Al23/TiO2=60/40、固溶体)の代わりに、Al23と、MgCO3とを重量比=99:1にて混合してなる金属塩混合物を用いる以外は実施例1と同様にして、積層多孔質フィルム4、非水電解液二次電池用部材4、および非水二次電池4を得た。また、実施例1と同様の方法にて、それぞれの物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0123】
[比較例1]
金属塩として、Ceram社製 Aluminiumoxid/Titandioxid (Al23/TiO2=60/40、固溶体)の代わりに、酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製;商品名 パイロキスマ(登録商標)500−04R)を用いる以外は実施例1と同様にして、積層多孔質フィルム5、非水電解液二次電池用部材5、および非水二次電池5を得た。また、実施例1と同様の方法にて、それぞれの物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0124】
[比較例2]
金属塩として、Ceram社製 Aluminiumoxid/Titandioxid (Al23/TiO2=60/40、固溶体)の代わりに、高純度アルミナ(住友化学製商品名 AA−03)を用いる以外は実施例1と同様にして、積層多孔質フィルム6、非水電解液二次電池用部材6、および非水二次電池6を得た。また、実施例1と同様の方法にて、それぞれの物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0125】
[比較例3]
金属塩として、Ceram社製 Aluminiumoxid/Titandioxid (Al23/TiO2=60/40、固溶体)の代わりに、炭酸マグネシウムを金属塩として用いる以外は、実施例1と同様にして、積層多孔質フィルム7、非水電解液二次電池用部材7、および非水二次電池7を得た。また、実施例1と同様の方法にて、それぞれの物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
[結論]
表1の記載から、実施例1〜4にて得られた、単位重量当たりのルイス酸ピーク面積が0.2以上、3.6以下の範囲内である金属塩微粒子を含む多孔質層を有する非水電解液二次電池用積層セパレータの方が、比較例1〜3にて得られた、単位重量当たりのルイス酸ピーク面積が上記範囲外である金属塩微粒子を含む多孔質層を有する非水電解液二次電池用積層セパレータよりも、当該セパレータを備える非水電解液二次電池の放電レート特性(放電出力特性)を向上させることが分かった。
【0128】
また、上述の放電レート特性の向上は、上記非水電解液二次電池用積層セパレータの多孔質層内部における金属塩微粒子と電解質溶媒との親和性を適宜調整したことにより、正極に取り込まれるカチオン(Li+)の脱溶媒和の進行度が適切に調整されたことに起因すると考えられる。従って、単位重量当たりのルイス酸ピーク面積が0.2以上、3.6以下の範囲内である金属塩微粒子を含む絶縁性多孔質層を単独で非水電解液二次電池用セパレータとして使用した場合であっても、当該非水電解液二次電池用絶縁性多孔質層をセパレータとして組み込んだ非水電解液二次電池において、正極付近のカチオン(リチウムイオン)の脱溶媒和の進行度、ならびに電池特性の低下を招く、電解液溶媒分子の分解ガス発生や重合等の副反応量は、実施例にて製造された非水電解液二次電池の場合と同様になると考えられる。それゆえに、単位重量当たりのルイス酸ピーク面積が0.2以上、3.6以下の範囲内である金属塩微粒子を含む絶縁性多孔質層からなる非水電解液二次電池用セパレータとしての非水電解液二次電池用絶縁性多孔質もまた、当該非水電解液二次電池用絶縁性多孔質を組み込んだ非水電解液二次電池の出力特性を向上させることができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の非水電解液二次電池用絶縁性多孔質、非水電解液二次電池用積層セパレータおよび非水電解液二次電池用部材は、出力特性に優れる非水電解液二次電池の製造に利用することができる。
図1