(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂が、フッ化ビニリデンのホモポリマー、および/または、フッ化ビニリデンと、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリクロロエチレン、およびフッ化ビニルからなる群から選択される少なくとも1種類のモノマーとの共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の非水電解液二次電池用電極シート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0020】
[実施形態1:多孔質層]
本発明の実施形態1に係る多孔質層は、前記課題を解決するために、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有する多孔質層であって、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂中の、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、前記α型結晶の含有量が、10モル%以上、65モル%以下であることを特徴としている。
【0021】
ここで、α型結晶の含有量は、前記多孔質層のIRスペクトルにおける765cm
−1付近の吸収強度から算出され、β型結晶の含有量は、前記多孔質層のIRスペクトルにおける840cm
−1付近の吸収強度から算出される。
【0022】
本発明に係る多孔質層は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF系樹脂)を含む。多孔質層は、内部に多数の細孔を有し、これら細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体或いは液体が通過可能となった層である。また、本実施形態に係る多孔質層が非水二次電池用セパレータを構成する部材として使用される場合、前記多孔質層は、当該セパレータの最外層として、電極と接着し得る層となる。
【0023】
本発明に係る多孔質層におけるPVDF系樹脂の含有量は、多孔質層の質量に対して、10質量%以上であり、好ましくは、30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である(上限は100質量%)。
【0024】
PVDF系樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデンの単独重合体(すなわちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(ポリフッ化ビニリデン共重合体);これらの混合物;が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリクロロエチレン、フッ化ビニル等が挙げられ、1種類または2種類以上を用いることができる。PVDF系樹脂は、乳化重合または懸濁重合で合成し得る。
【0025】
PVDF系樹脂は、その構成単位としてフッ化ビニリデンが通常85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上含まれている。フッ化ビニリデンが85モル%以上含まれていると、電池製造時の加圧や加熱に耐え得る機械的強度と耐熱性とを確保し易い。
【0026】
また、多孔質層は、例えば、ヘキサフルオロプロピレンの含有量が互いに異なる2種類のPVDF系樹脂(下記第一の樹脂と第二の樹脂)を含有する態様も好ましい。
・第一の樹脂:ヘキサフルオロプロピレンの含有量が0モル%を超え、1.5モル%以下であるフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、またはフッ化ビニリデン単独重合体(ヘキサフルオロプロピレンの含有量が0モル%)。
・第二の樹脂:ヘキサフルオロプロピレンの含有量が1.5モル%を超えるフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体。
【0027】
前記2種類のPVDF系樹脂を含有する多孔質層は、何れか一方を含有しない多孔質層に比べて、電極との接着性が向上する。また、前記2種類のPVDF系樹脂を含有する多孔質層は、何れか一方を含有しない多孔質層に比べて、非水二次電池用セパレータを構成する他の層(例えば、多孔質基材層)との接着性が向上し、これら層間の剥離力が向上する。第一の樹脂と第二の樹脂との混合比(質量比、第一の樹脂:第二の樹脂)は、15:85〜85:15の範囲が好ましい。
【0028】
PVDF系樹脂は、重量平均分子量が30万〜300万の範囲であることが好ましい。重量平均分子量が30万以上であると、多孔質層が電極との接着処理に耐え得る力学物性を確保することができ、十分な接着性が得られる。一方、重量平均分子量が300万以下であると、塗工成形するときの塗工液の粘度が高くなり過ぎずに成形性に優れる。重量平均分子量は、より好ましくは30万〜200万の範囲であり、さらに好ましくは50万〜150万の範囲である。
【0029】
PVDF系樹脂のフィブリル径は、前記多孔質層を含む非水二次電池のサイクル特性の観点から、10nm〜1000nmの範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明に係る多孔質層は、PVDF系樹脂以外の他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体;アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のビニルニトリル類の単独重合体または共重合体;ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル類;等が挙げられる。
【0031】
さらに、本発明に係る多孔質層は、無機物または有機物からなるフィラーを含んでいてもよい。フィラーを含有することで、前記多孔質層を含むセパレータの滑り性や耐熱性を向上し得る。フィラーとしては、非水電解液に安定であり、かつ、電気化学的に安定な、有機フィラーおよび無機フィラーの何れでもよい。電池の安全性を確保する観点からは、耐熱温度が150℃以上のフィラーが好ましい。
【0032】
有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸メチル等の架橋ポリメタクリル酸エステル;架橋ポリシリコーン、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物等の架橋高分子微粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミド等の耐熱性高分子微粒子;等が挙げられる。
【0033】
有機フィラーを構成する樹脂(高分子)は、前記例示した分子種の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体であってもよい。
【0034】
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素等の金属水酸化物;アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;ケイ酸カルシウム、タルク等の粘土鉱物;等が挙げられる。難燃性付与や除電効果の観点からは、金属水酸化物が好ましい。
【0035】
前記フィラーは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよく、或いは有機フィラーおよび無機フィラーを組み合わせて使用してもよい。
【0036】
フィラーの体積平均粒子径は、良好な接着性と滑り性の確保、および積層体の成形性の観点から、0.01μm〜10μmの範囲であることが好ましい。その下限値としては0.1μm以上がより好ましく、上限値としては5μm以下がより好ましい。
【0037】
フィラーの粒子形状は任意であり、球形状、楕円形状、板状、棒状、不定形状の何れでもよい。電池の短絡防止の観点からは、板状の粒子や、凝集していない一次粒子であることが好ましい。
【0038】
フィラーは、多孔質層の表面に微細な凹凸を形成することで滑り性を向上させ得るものであるが、フィラーが板状の粒子や凝集していない一次粒子である場合には、フィラーによって多孔質層の表面に形成される凹凸がより微細になり、多孔質層と電極との接着性がより良好となる。
【0039】
本発明に係る多孔質層においては、PVDF系樹脂およびフィラーの総量に占めるフィラーの割合が、1質量%〜30質量%の範囲であることが好ましい。フィラーの含有割合が1質量%以上であると、多孔質層の表面に微細な凹凸が形成され、前記多孔質層を含むセパレータの滑り性を向上させる効果が発揮され易い。この観点では、フィラーの含有割合は3質量%以上がより好ましい。一方、フィラーの含有割合が30質量%以下であると、多孔質層の機械的強度が保たれ、例えば電極と前記多孔質層を含むセパレータとを重ねて捲き回して電極体を作製するときに、当該セパレータに割れ等が発生し難い。この観点では、フィラーの含有割合は20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0040】
本発明に係る多孔質層においては、セパレータをスリットした場合にスリット端面にケバ立ちや折れ曲がり、スリット屑の混入が発生するのを抑制する観点で、PVDF系樹脂およびフィラーの総量に占めるフィラーの割合が、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。
【0041】
本発明に係る多孔質層の平均膜厚は、電極との接着性および高エネルギー密度を確保する観点から、多孔質基材の片面において0.5μm〜10μmの範囲であることが好ましく、1μm〜5μmの範囲であることがより好ましい。
【0042】
本発明に係る多孔質層は、イオン透過性の観点から十分に多孔化された構造であることが好ましい。具体的には、空孔率が30%〜60%の範囲であることが好ましい。また、本発明に係る多孔質層は、平均孔径が20nm〜100nmの範囲であることが好ましい。
【0043】
本発明に係る多孔質層の表面粗さは、十点平均粗さ(Rz)で、0.8μm〜8.0μmの範囲が好ましく、0.9μm〜6.0μmの範囲がより好ましく、1.0μm〜3.0μmの範囲がさらに好ましい。十点平均粗さ(Rz)は、JIS B 0601−1994(またはJIS B 0601−2001のRzjis)に準じた方法により測定される値である。具体的には、Rzは、小坂研究所社製のET4000を用いて、測定長さ1.25mm、測定速度0.1mm/秒、温湿度25℃/50%RHの条件にて測定される値である。
【0044】
本発明に係る多孔質層の動摩擦係数は、0.1〜0.6が好ましく、0.1〜0.4がより好ましく、0.1〜0.3がさらに好ましい。動摩擦係数は、JIS K 7125に準じた方法により測定される値である。具体的には、本発明における動摩擦係数は、ヘイドン社製のサーフェイスプロパティテスターを用いて測定される値である。
【0045】
<PVDF系樹脂の結晶形>
PVDF系樹脂は、α型、β型およびγ型の3種類の結晶形を取り得る。しかしながら、本発明の積層体における多孔質層のIRスペクトルを測定したとき、以下に示す、α型結晶またはβ型結晶に特徴的なピークは観測され得るが、γ型結晶に特徴的なピークは観測されない。すなわち、前記多孔質層におけるPVDF系樹脂は、そのほとんど全てがα型の結晶またはβ型の結晶である。
【0046】
本発明に係る多孔質層に含まれるPVDF系樹脂において、α型結晶およびβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合のα型結晶の含有量は、10モル%以上、65モル%以下であり、好ましくは15モル%以上であり、より好ましくは20モル%以上であり、さらに好ましくは25モル%以上である。また、好ましくは60モル%以下であり、より好ましくは55モル%以下であり、さらに好ましくは45モル%以下である。言い換えれば、好ましくは10モル%以上65モル%以下であり、より好ましくは15モル%以上65モル%以下であり、さらに好ましくは20モル%以上65モル%以下であり、さらに好ましくは25モル%以上65モル%以下であり、さらに好ましくは25モル%以上55モル%以下であり、さらに好ましくは25モル%以上45モル%以下である。前記α型結晶の含有量が上述の範囲であることによって、前記多孔質層は、シャットダウン特性に優れた非水二次電池、特に非水二次電池用セパレータを構成する部材として利用され得る。さらに、前記α型結晶の含有量が上述の範囲であることによって、前記多孔質層は、電池保存安定性に優れた非水二次電池、特に非水二次電池用セパレータを構成する部材としても利用され得る。
【0047】
本発明の多孔質層がシャットダウン特性に優れた非水二次電池を構成する部材として利用され得る理由としては、比較的低融点であるβ型結晶と、比較的耐熱性に優れるα型結晶とがバランスよく混合されていることにより、β型結晶が孔を埋め、α型結晶がセパレータの形状維持に寄与する、といったことが考えられる。
【0048】
本発明の多孔質層が電池保存安定性に優れた非水二次電池を構成する部材として利用され得る理由としては、力による変形性の比較的高いβ型結晶と、力による変形性の比較的低いα型結晶とがバランスよく混合されていることにより、β型結晶が電極膨張時における前記多孔質層を含むセパレータの追随性を高め、α型結晶が当該セパレータの形状維持に寄与するために、多孔質層が電極の保護膜として良好に機能することができるためと考えられる。電極(特に正極)が、当該セパレータによって充分に保護されない場合には、電極によって電解液が分解(特に酸化分解)されることで電池保存安定性が低下する傾向がある。また、β型結晶はフッ素原子が外側に向く構造を取るため、β型結晶を多く含む多孔質層は、電極(特に正極)に対して高い耐性(特に耐酸化性)を有する傾向があると考えられる。
【0049】
α型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、前記骨格中の分子鎖にある1つの主鎖炭素原子に結合するフッ素原子(または水素原子)に対し、一方の隣接する炭素原子に結合した水素原子(またはフッ素原子)がトランスの位置に存在し、かつ、もう一方(逆側)に隣接する炭素原子に結合する水素原子(またはフッ素原子)がゴーシュの位置(60°の位置)に存在し、その立体構造の連鎖が2つ以上連続する
【0051】
であることを特徴とするものであって、分子鎖が、
【0053】
型でC−F
2、C−H
2結合の双極子能率が分子鎖に垂直な方向と平行な方向とにそれぞれ成分を有している。
【0054】
α型結晶のPVDF系樹脂は、IRスペクトルにおいて、1212cm
−1付近、1183cm
−1付近および765cm
−1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析において、2θ=17.7°付近、18.3°付近および19.9°付近に特徴的なピークを有する。
【0055】
β型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、前記骨格中の分子鎖の1つの主鎖炭素に隣り合う炭素原子に結合したフッ素原子と水素原子がそれぞれトランスの立体配置(TT型構造)、すなわち隣り合う炭素原子に結合するフッ素原子と水素原子とが、炭素−炭素結合の方向から見て180°の位置に存在することを特徴とする。
【0056】
β型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、前記骨格全体が、TT型構造を有していてもよい。また、前記骨格の一部がTT型構造を有し、かつ、少なくとも4つの連続するPVDF単量体単位のユニットにおいて前記TT型構造の分子鎖を有するものであってもよい。何れの場合もTT型構造の部分がTT型の主鎖を構成する炭素−炭素結合は、平面ジグザグ構造を有し、C−F
2、C−H
2結合の双極子能率が分子鎖に垂直な方向の成分を有している。
【0057】
β型結晶のPVDF系樹脂は、IRスペクトルにおいて、1274cm
−1付近、1163cm
−1付近および840cm
−1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析において、2θ=21°付近に特徴的なピークを有する。
【0058】
なお、γ型結晶のPVDF系樹脂は、PVDF系樹脂を構成する重合体に含まれるPVDF骨格において、TT型構造とTG型構造が交互に連続して構成された立体構造を有しており、IRスペクトルにおいて、1235cm
−1付近、および811cm
−1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析において、2θ=18°付近に特徴的なピークを有する。
【0059】
<PVDF系樹脂におけるα型結晶、β型結晶の含有率の算出方法>
PVDF系樹脂におけるα型結晶、β型結晶の含有率は、例えば、以下の(i)〜(iii)に記載の方法にて算出され得る。
【0060】
(i)計算式
Beerの法則:A=εbC …(1)
(式中、Aは吸光度、εはモル吸光定数、bは光路長、Cは濃度を表す)
前記式(1)において、α型結晶の特性吸収の吸光度をA
α、β型結晶の特性吸収の吸光度をA
β、α型結晶のPVDF系樹脂のモル吸光定数をε
α、β型結晶のPVDF系樹脂のモル吸光定数をε
β、α型結晶のPVDF系樹脂の濃度をC
α、β型結晶のPVDF系樹脂の濃度をC
βとすると、α型結晶とβ型結晶のそれぞれの吸光度の割合は、
A
β/A
α=(ε
β/ε
α)×(C
β/C
α) …(1a)
となる。
【0061】
ここで、モル吸光定数の補正係数(ε
β/ε
α)をE
β/αとすると、α型結晶およびβ型結晶の合計に対するβ型結晶のPVDF系樹脂の含有率F(β)=(C
β/(C
α+C
β))は、以下の式(2a)で表される。
【0062】
F(β)={(1/E
β/α)×(A
α/A
β)}/{1+(1/E
β/α)×(A
α/A
β)}
=A
β/{(E
β/α×A
α)+A
β} …(2a)
従って、補正係数E
β/αを決定すれば、実測したα型結晶の特性吸収の吸光度A
α、β型結晶の特性吸収の吸光度A
βの値から、α型結晶およびβ型結晶の合計に対するβ型結晶のPVDF系樹脂の含有率F(β)を算出することができる。また、算出したF(β)からα型結晶およびβ型結晶の合計に対するα型結晶のPVDF系樹脂の含有率F(α)を算出することができる。
【0063】
(ii)補正係数E
β/αの決定方法
α型結晶のみからなるPVDF系樹脂のサンプルとβ型結晶のみからなるPVDF系樹脂のサンプルとを混合して、β型結晶のPVDF系樹脂の含有率F(β)が判っているサンプルを調製し、IRスペクトルを測定する。得られるIRスペクトルにおいて、α型結晶の吸光特性の吸光度(ピーク高さ)A
α、β型結晶の吸光特性の吸光度(ピーク高さ)A
βを測定する。
【0064】
続いて、式(2a)をE
β/αに関して解いた、以下の式(3a)に代入して補正係数E
β/αを求める。
【0065】
E
β/α={A
β×(1−F(β))}/(A
α×F(β)) …(3a)
混合比を変更した複数のサンプルに関して、IRスペクトルの測定を行い、前記方法にて、それぞれのサンプルに関して補正係数E
β/αを求め、それらの平均値を算出する。
【0066】
(iii) 試料中のα型結晶、β型結晶の含有率の算出
前記(ii)にて算出した補正係数E
β/αの平均値と、試料のIRスペクトルの測定結果とに基づいて、各試料におけるα型結晶およびβ型結晶の合計に対するα型結晶のPVDF系樹脂の含有率F(α)を算出する。
【0067】
具体的には、後述する作製方法にて前記多孔質層を含む積層体を作製し、当該積層体を切り出して測定用の試料を作製した後、室温(約25℃)下、FT−IRスペクトロメーター(ブルカー・オプティクス株式会社製;ALPHA Platinum−ATRモデル)を用いて、前記試料に関して、分解能4cm
−1、スキャン回数512回で、測定領域である波数4000cm
−1〜400cm
−1の赤外線吸収スペクトルを測定する。ここで、切り出される測定用試料は、好ましくは80mm×80mm角の正方形である。しかしながら、上記赤外線吸収スペクトルを測定することができる大きさであれば足りるので、測定用試料の大きさ、形はこれに限定されない。そして、得られたスペクトルから、α型結晶の特性吸収である765cm
−1の吸収強度(A
α)とβ型結晶の特性吸収である840cm
−1の吸収強度(A
β)とを求める。前記波数に対応する各ピークを形成する開始の点と終了の点とを直線で結び、その直線とピーク波数との長さを吸収強度とする。α型結晶は、波数775cm
−1〜745cm
−1の範囲内で取り得る吸収強度の最大値を765cm
−1の吸収強度(A
α)とし、β型結晶は、波数850cm
−1〜815cm
−1の範囲内で取り得る吸収強度の最大値を840cm
−1の吸収強度(A
β)とする。なお、本明細書においては、前記補正係数E
β/αの平均値は、1.681(特開2005−200623号公報の記載を参考)として、前記α型結晶の含有率F(α)(%)を算出している。その算出式は、以下の式(4a)である。
【0068】
F(α)(%)=〔1−{840cm
−1の吸収強度(A
β)/(765cm
−1の吸収強度(A
α)×補正係数(E
β/α)(1.681)+840cm
−1の吸収強度(A
β))}〕×100 …(4a)。
【0069】
[多孔質層の製造方法]
本発明に係る多孔質層は、例えば、後述する本発明に係る積層体、非水二次電池用セパレータの製造方法と同様の方法にて製造され得る。
【0070】
[実施形態2、3:積層体、非水電解液二次電池用セパレータ]
本発明の実施形態2および3として、本発明に係る積層体および本発明に係る非水電解液二次電池用セパレータ(非水二次電池用セパレータとも称する)に関して以下に説明する。
【0071】
本発明に係る積層体は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも一方の面に積層された、本発明の実施形態1に係る多孔質層と、を含むことを特徴としている。本発明に係る非水二次電池用セパレータは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも一方の面に積層された、本発明の実施形態1に係る多孔質層と、を含むことを特徴としている。
【0072】
以下に、本発明に係る積層体および非水二次電池用セパレータを構成する多孔質基材、並びに、本発明に係る積層体、非水二次電池用セパレータの製造方法に関して説明する。
【0073】
<多孔質基材>
本発明の積層体または非水二次電池用セパレータにおける多孔質基材は、ポリオレフィンを主成分とする多孔質かつ膜状の基材(ポリオレフィン系多孔質基材)であればよく、微多孔膜であることが好ましい。すなわち、多孔質基材は、その内部に連結した細孔を有する構造を有し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能であるポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムであることが好ましい。多孔質基材は、1つの層から形成されるものであってもよいし、複数の層から形成されるものであってもよい。
【0074】
多孔質基材におけるポリオレフィン成分の割合は、多孔質基材全体の、通常50体積%以上であり、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましい。多孔質基材のポリオレフィン成分には、重量平均分子量が5×10
5〜15×10
6の範囲の高分子量成分が含まれていることが好ましい。多孔質基材のポリオレフィン成分として特に重量平均分子量100万以上のポリオレフィン成分が含まれることにより、多孔質基材、並びに、積層体および非水二次電池用セパレータ全体の強度が高くなるため好ましい。
【0075】
ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等を重合してなる高分子量の単独重合体または共重合体が挙げられる。多孔質基材は、これらのポリオレフィンを1種類含む層、および/または、これらのポリオレフィンの2種類以上を含む層、である。特に、エチレンを主体とする高分子量のポリエチレンが好ましい。なお、多孔質基材は、当該層の機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン以外の成分を含むことを妨げない。
【0076】
多孔質基材の透気度は、通常、ガーレ値で30秒/100cc〜500秒/100ccの範囲であり、好ましくは、50秒/100cc〜300秒/100ccの範囲である。多孔質基材が、前記範囲の透気度を有すると、多孔質基材がセパレータを構成する部材として使用された場合に、当該セパレータは十分なイオン透過性を得ることができる。
【0077】
多孔質基材の膜厚は、積層体または非水二次電池用セパレータの積層数を勘案して適宜決定される。特に多孔質基材の片面(または両面)に多孔質層を形成する場合において、多孔質基材の膜厚は、4μm〜40μmの範囲が好ましく、7μm〜30μmの範囲がより好ましい。
【0078】
多孔質基材の目付は、積層体の強度、膜厚、ハンドリング性および重量、さらには、非水二次電池のセパレータを構成する部材として用いた場合の当該電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる点で、通常、4g/m
2〜20g/m
2の範囲であり、5g/m
2〜12g/m
2の範囲が好ましい。
【0079】
このような多孔質基材としては、例えば、特開2013−14017号公報に記載の多孔質ポリオレフィン層、特開2012−54229号公報に記載のポリオレフィン多孔膜、および特開2014−040580号公報に記載のポリオレフィン基材多孔質フィルム等を好適に利用することができる。
【0080】
多孔質基材の製造方法に関しても、公知の手法を用いることができ、特に限定されない。例えば、特開平7−29563号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法が挙げられる。
【0081】
具体的には、例えば、多孔質基材が、超高分子量ポリエチレンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成されてなる場合には、製造コストの観点から、以下に示す工程(1)〜(4)を含む方法により製造することが好ましい。
(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5重量部〜200重量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100重量部〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、
(2)ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程、
(3)工程(2)で得られたシート中から無機充填剤を除去する工程、
(4)工程(3)で得られたシートを延伸する工程。
その他、上述した各特許文献に記載の方法を利用してもよい。
【0082】
また、多孔質基材に関しては、上述した特性を有する市販品を用いてもよい。
【0083】
また、多孔質基材には、多孔質層を形成する前に、つまり、後述する塗工液を塗工する前に、親水化処理を施しておくことがより好ましい。多孔質基材に親水化処理を施しておくことにより、塗工液の塗工性がより向上し、それゆえ、より均一な多孔質層を形成することができる。この親水化処理は、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)に占める水の割合が高い場合に有効である。前記親水化処理としては、具体的には、例えば、酸やアルカリ等による薬剤処理、コロナ処理、プラズマ処理等の公知の処理が挙げられる。前記親水化処理のうち、比較的短時間で多孔質基材を親水化することができる上に、親水化が多孔質基材の表面近傍のみに限られ、多孔質基材の内部を変質しないことから、コロナ処理がより好ましい。
【0084】
多孔質基材は、必要に応じて、本発明の実施形態1に係る多孔質層の他に、別の多孔質層を含んでいてもよい。当該別の多孔質層としては、耐熱層や接着層、保護層等の公知の多孔質層が挙げられる。具体的な別の多孔質層としては、本発明の実施形態1に係る多孔質層と同じ組成の多孔質層が挙げられる。
【0085】
<シャットダウン特性>
前記積層体におけるシャットダウン特性の測定方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。また、同様の方法にて、前記非水二次電池用セパレータにおけるシャットダウン特性も測定することができる。
【0086】
積層体(積層多孔質フィルム)から直径19.4mmの円形状測定用サンプルを切り出し、測定用サンプルとする。また、2032型コインセルの部材(上蓋、下蓋、ガスケット、カプトンリング(外径16.4mm、内径8mm、厚さ0.05mm)、スペーサー(直径15.5mm、厚さ0.5mmの円形状スペーサー)、アルミリング(外径16mm、内径10mm、厚さ1.6mm))(宝泉株式会社製)を用意する。
【0087】
そして、下蓋から順に測定用サンプル、ガスケットリングを設置し、電解液10μmLを含浸させた後、測定用サンプルの上から順番にカプトンリング、スペーサー、アルミリング、上蓋を設置し、コインセルカシメ器(宝泉株式会社製)で密閉することによって、測定用のコインセルを作製する。ここで、電解液としては、LiBF
4をプロピレンカーボネート、NIKKOLBT−12(日光ケミカルズ株式会社製)の体積比が91.5:8.5の混合溶媒に溶解させた25℃の電解液(LiBF
4濃度:1.0mol/L)を用いる。
【0088】
測定用のコインセル内部の温度を、15℃/分の速度で室温から150℃まで昇温しながら、上記コインセル内部の温度をデジタルマルチメーター(株式会社エーディーシー製; 7352A)、上記コインセルにおける1kHzでの抵抗値をLCRメータ(日置電機株式会社製;IM3523)により連続的に測定する。
【0089】
測定中、コインセルの1kHzでの抵抗値が5000Ω以上となる場合、そのコインセルはシャットダウン機能を備えることが確認されたとする。
【0090】
上述の測定を複数のコインセルに対して行い、その結果シャットダウン機能を備えることが確認されたコインセルの割合を算出することによって、シャットダウン特性を評価する。
【0091】
<積層体、非水二次電池用セパレータの製造方法>
本発明の実施形態2、3に係る積層体、非水二次電池用セパレータを製造する方法は、特に限定されず、種々の方法が挙げられる。
【0092】
例えば、多孔質基材となるポリオレフィン系樹脂微多孔膜の表面上に、以下に示す工程(1)〜(3)の何れかの1つの工程を用いて、PVDF系樹脂を含む多孔質層を析出させ、工程(1)および(2)の場合においては、得られる多孔質層をさらに乾燥させ、溶媒を除去することによって、製造される。
【0093】
(1)前記多孔質層を形成するPVDF系樹脂を溶解させた塗工液を、前記多孔質基材の表面に塗工した後、その多孔質基材を前記PVDF系樹脂に対して貧溶媒である、析出溶媒に浸漬することによって、前記PVDF系樹脂を含む多孔質層を析出させる工程。
【0094】
(2)前記多孔質層を形成するPVDF系樹脂を溶解させた塗工液を、前記多孔質基材の表面に塗工した後、低沸点有機酸を用いて、前記塗工液の液性を酸性にすることによって、前記PVDF系樹脂を含む多孔質層を析出させる工程。
【0095】
(3)前記多孔質層を形成するPVDF系樹脂を溶解させた塗工液を、前記多孔質基材の表面に塗工した後、遠赤外線加熱または凍結乾燥を用いて、前記塗工液中の溶媒を蒸発させて、前記PVDF系樹脂を含む多孔質層を析出させる工程。
【0096】
前記塗工液における溶媒(分散媒)は、多孔質基材に悪影響を及ぼさず、PVDF系樹脂を均一かつ安定に溶解し、前記フィラーを均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。前記溶媒(分散媒)としては、例えば、N−メチルピロリドンを用いることがより好ましい。
【0097】
前記析出溶媒には、例えば、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)に溶解し、かつ、塗工液に含まれるPVDF系樹脂を溶解しない他の溶媒(以下、溶媒X)を使用することができる。塗工液が塗布されて塗膜が形成された多孔質基材を前記溶媒Xに浸漬し、多孔質基材上または支持体上の塗膜中の溶媒(分散媒)を溶媒Xで置換した後に、溶媒Xを蒸発させることにより、塗工液から溶媒(分散媒)を効率よく除去することができる。析出溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコールまたはt−ブチルアルコールを用いることが好ましい。
【0098】
前記工程(2)において、低沸点有機酸としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、酢酸等を使用することができる。
【0099】
前記工程(3)において、遠赤外線加熱または凍結乾燥は、他の乾燥方法(風乾等)と比較して、前記多孔質層の空孔の形状が析出時に崩れ難いという利点を有する。
【0100】
また、本発明の積層体を製造する別の方法として、以下の(4)に示す工程を含む方法が挙げられる。
【0101】
(4)前記多孔質層を形成するPVDF系樹脂の微粒子を水等の分散媒に分散させた塗工液を、多孔質基材上に塗工し、分散媒を乾燥除去することによって多孔質層を形成させる工程。
【0102】
前記工程(4)においては、分散媒は水であることが好ましく、また乾燥前の積層膜を低級アルコール類へ浸漬することで、水等の分散媒を希釈、置換してもよく、この場合の低級アルコール類としては、イソプロピルアルコールまたはt−ブチルアルコールが好ましい。
【0103】
多孔質層の塗工量は、電極との接着性およびイオン透過性の観点から、多孔質基材の片面において0.5g/m
2〜1.5g/m
2の範囲であることが好ましい。すなわち、得られる積層体および非水二次電池用セパレータにおける多孔質層の塗工量が上述の範囲となるように、前記多孔質基材上に塗布する前記塗工液の量を調節することが好ましい。
【0104】
また、前記積層体に、さらに耐熱層を積層する場合には、多孔質層を構成する樹脂の代わりに前記耐熱層を構成する樹脂を用いること以外は、上述した方法と同様の方法を行うことにより、耐熱層を積層させることができる。
【0105】
さらに、前記多孔質層にフィラーが含まれる場合には、前記多孔質層を形成する樹脂を溶解させた溶液の代わりに、その溶液にさらにフィラーを分散させたものを用いることによって、フィラーが含まれる多孔質層を形成することができる。
【0106】
本実施形態では、前記工程(1)〜(3)において、多孔質層を形成する樹脂を溶解させた溶液中の樹脂量を変化させることにより、電解液に浸漬した後の多孔質層1平方メートル当たりに含まれる、電解液を吸収した樹脂の体積を調整することができる。
【0107】
また、多孔質層を形成する樹脂を溶解させる溶媒量を変化させることにより、電解液に浸漬した後の多孔質層の空隙率、平均細孔径を調整することができる。
【0108】
<PVDF系樹脂の結晶形の制御方法>
また、本発明の積層体、非水二次電池用セパレータは、上述の方法における乾燥温度および析出温度(PVDF系樹脂を含む多孔質層を析出溶媒または低沸点有機酸を用いて析出させる場合の析出温度)を調節することによって、得られる多孔質層に含まれるPVDF系樹脂の結晶形を制御して製造される。具体的には、前記PVDF系樹脂において、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、α型結晶の含有量が10モル%以上、65モル%以下となるように、前記乾燥温度および前記析出温度を調節して、本発明の積層体、非水二次電池用セパレータが製造される。
【0109】
前記PVDF系樹脂において、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、α型結晶の含有量を10モル%以上、65モル%以下とするための乾燥温度および析出温度は、前記多孔質層の製造方法、使用する溶媒(分散媒)、析出溶媒および低沸点有機酸の種類等によって適宜変更され得る。例えば、PVDF系樹脂を溶解させる溶媒としてN−メチルピロリドン、析出溶媒としてイソプロピルアルコールを使用して、上述した工程(1)にて多孔質層を形成する場合は、析出温度を−30℃〜10℃、かつ、乾燥温度を30℃とすることが好ましい。
【0110】
[実施形態4、5:非水二次電池用部材、非水二次電池]
本発明の実施形態4および5として、非水二次電池用部材および非水二次電池に関して以下に説明する。本発明の非水二次電池用部材は、正極、本発明の実施形態1に係る多孔質層、および負極がこの順で配置されてなることを特徴とする。本発明の非水二次電池は、本発明の実施形態1に係る多孔質層を含むことを特徴とする。非水二次電池は、例えば、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、本発明の多孔質層と、多孔質基材と、負極とがこの順で積層されてなる非水二次電池部材を備えるリチウムイオン二次電池である。以下、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。なお、多孔質層以外の非水二次電池の構成要素は、下記説明の構成要素に限定されるものではない。
【0111】
本発明の非水二次電池は、正極と、負極と、本発明の多孔質層とを備えていればよく、その他の構成は特に限定されない。本発明の非水二次電池は、好ましくは、さらに多孔質基材を備える。本発明の非水二次電池は、通常、負極と正極とが、本発明の多孔質層および多孔質基材を含む上述した積層体を介して対向した構造体に電解液が含浸された電池要素が、外装材内に封入された構造を有する。非水二次電池は、非水電解質二次電池、特にはリチウムイオン二次電池であることが好ましい。なお、ドープとは、吸蔵、担持、吸着、または挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。上述した本発明に係る積層体を非水二次電池用セパレータとして使用することにより製造された非水二次電池は、セパレータのハンドリング性に優れるので、製造歩留まりが高い。
【0112】
非水二次電池の正極としては、通常、正極活物質およびバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える正極シートを使用することができる。前記活物質層は、更に導電助剤を含んでもよい。
【0113】
正極活物質としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的には、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
1/2Ni
1/2O
2、LiCo
1/3Mn
1/3Ni
1/3O
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiCo
1/2Ni
1/2O
2、LiAl
1/4Ni
3/4O
2等が挙げられる。
【0114】
正極におけるバインダー樹脂としては、例えばPVDF系樹脂等が挙げられる。
【0115】
導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末といった炭素材料が挙げられる。
【0116】
正極における集電体としては、例えば厚さ5μm〜20μmの、アルミニウム箔、チタン箔、ステンレス箔等が挙げられる。
【0117】
非水二次電池の負極としては、負極活物質およびバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える負極シートを使用することができる。活物質層は、更に導電助剤を含んでもよい。
【0118】
負極活物質としては、リチウムを電気化学的に吸蔵し得る材料が挙げられ、具体的には、例えば、炭素材料;ケイ素、スズ、アルミニウム等とリチウムとの合金;等が挙げられる。
【0119】
負極におけるバインダー樹脂としては、例えばPVDF系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム等が挙げられる。本発明の非水二次電池においては、負極バインダーとしてスチレン−ブタジエンゴムを用いた場合でも、負極に対し十分な接着性を確保することができる。
【0120】
負極における導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末といった炭素材料が挙げられる。
【0121】
負極における集電体としては、例えば厚さ5μm〜20μmの、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等が挙げられる。また、前記の負極に代えて、金属リチウム箔を負極として用いてもよい。
【0122】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。リチウム塩としては、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4等が挙げられる。
【0123】
非水系溶媒としては、非水二次電池において一般に用いられる溶媒がすべて含まれ、例えば混合溶媒(エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチレンカーボネートの体積比が50:20:30)に限定されるものではない。
【0124】
非水系溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびそのフッ素置換体等の鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル;等が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0125】
電解液としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを体積比(環状カーボネート/鎖状カーボネート)20/80〜40/60(より好ましくは30/70)で混合した溶媒に、リチウム塩を0.5M〜1.5M溶解したものが好適である。
【0126】
外装材としては、金属缶やアルミラミネートフィルム製パック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型等がある。
【0127】
非水二次電池は、例えば、正極シートと負極シートとの間に、セパレータとして上述した積層体を配置した非水二次電池用部材に、電解液を含浸させて外装材(例えばアルミラミネートフィルム製パック)に収容し、前記外装材の上から前記非水二次電池用部材をプレスすることで製造し得る。
【0128】
また、当該セパレータとしての本発明に係る積層体は、電極と重ねることによって接着し得る。したがって、電池製造において前記プレスは必須の工程ではないが、電極とセパレータとしての本発明に係る積層体との接着性を高めるためには、プレスを行うことが好ましい。さらに電極とセパレータとしての本発明に係る積層体との接着性を高めるために、プレスは加熱しながらのプレス(熱プレス)であることが好ましい。
【0129】
正極シートと負極シートとの間にセパレータとしての本発明に係る積層体を配置する方式は、正極シート、セパレータとしての本発明に係る積層体、負極をシートこの順に少なくとも1層ずつ積層する方式(いわゆるスタック方式)でもよく、正極シート、セパレータとしての本発明に係る積層体、負極シート、セパレータとしての本発明に係る積層体をこの順に重ね、長さ方向に捲き回す方式でもよい。
【0130】
〔その他の実施形態〕
上述した説明では、多孔質基材の上に多孔質層を形成した非水二次電池用セパレータとしての本発明に係る積層体を製造し、当該非水二次電池用セパレータとしての本発明に係る積層体を挟むように正極シートおよび負極シートを重ねることで、非水二次電池用セパレータとしての本発明に係る積層体と電極とを含む非水二次電池用部材を製造するものとした。しかしながら、本発明に係る非水二次電池の製造方法は、これに限定されるものでない。
【0131】
例えば、多孔質層に含まれるPVDF系樹脂を溶解させた溶液を、正極シートまたは負極シートの少なくとも一方の面上に塗布することで、多孔質層を形成してもよい。この形成方法としては、上述した工程(1)〜(4)の何れかを含む方法を用いればよい。そして、多孔質基材を挟むように正極シートおよび負極シートを重ね、熱プレスすることにより、非水二次電池用セパレータとしての本発明に係る積層体と電極とを含む非水二次電池用部材を製造する。このとき、多孔質層が形成された電極シートに関しては、多孔質層が多孔質基材と対向するように配置すればよい。これにより、電極、多孔質層、多孔質基材、(多孔質層)、電極がこの順に積層された非水二次電池用部材を製造することができる。その結果、得られる非水二次電池は、電極と多孔質基材との間にα型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、α型結晶の含有量が10モル%以上、65モル%以下であるPVDF系樹脂を含む多孔質層が配置された非水二次電池が製造され得る。
【0132】
本発明の非水二次電池は、ポリオレフィンを主成分とする多孔質基材と、前記多孔質基材の片面または両面に積層された、α型結晶とβ型結晶の含有量の合計を100モル%とした場合の、α型結晶の含有量が10モル%以上、65モル%以下であるPVDF系樹脂を含む多孔質層を含む積層体を、セパレータとして含んでいるので、シャットダウン機能を備える。
【0133】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0134】
[シャットダウン特性試験]
[各種測定方法]
以下の実施例1〜4および比較例1〜4にて得られた積層体に関して、α比の算出およびシャットダウン試験を、下記方法にて実施した。
【0135】
(1)α比算出法
以下の実施例および比較例において得られた積層体における多孔質層に含まれるPVDF系樹脂のα型結晶とβ型結晶との合計の含有量に対する、α型結晶のモル比(%)を、α比(%)とし、以下に示す方法にてそのα比を測定した。
【0136】
積層体を80mm×80mm角の正方形に切り出し、室温(約25℃)下、FT−IRスペクトロメーター(ブルカー・オプティクス株式会社製;ALPHA Platinu
m−ATRモデル)を用いて、分解能4cm
−1、スキャン回数512回で、測定領域である波数4000cm
−1〜400cm
−1の赤外線吸収スペクトルを得た。得られたスペクトルから、α型結晶の特性吸収である765cm
−1の吸収強度とβ型結晶の特性吸収である840cm
−1の吸収強度とを求めた。前記波数に対応する各ピークを形成する開始の点と終了の点とを直線で結び、その直線とピーク波数との長さを吸収強度とし、α型結晶は、波数775cm
−1〜745cm
−1の範囲内で取り得る吸収強度の最大値を765cm
−1の吸収強度とし、β型結晶は、波数850cm
−1〜815cm
−1の範囲内で取り得る吸収強度の最大値を840cm
−1の吸収強度とした。
【0137】
α比算出は、前記の通りにα型結晶に対応する765cm
−1の吸収強度およびβ型結晶に対応する840cm
−1の吸収強度を求め、特開2005−200623号公報の記載を参考に、α型結晶の吸収強度に補正係数1.681を乗じた数値を用いて、以下の式(4a)によって算出した。
【0138】
α比(%)=〔1−{840cm
−1の吸収強度/(765cm
−1の吸収強度×補正係数(1.681)+840cm
−1の吸収強度)}〕×100 …(4a)。
【0139】
(2)シャットダウン試験
実施例1〜4、比較例1〜4にて得られた積層体(積層多孔質フィルム)から直径19.4mmの円形状測定用サンプルを切り出し、測定用サンプルとした。また、2032型コインセルの部材(上蓋、下蓋、ガスケット、カプトンリング(外径16.4mm、内径8mm、厚さ0.05mm)、スペーサー(直径15.5mm、厚さ0.5mmの円形状スペーサー)、アルミリング(外径16mm、内径10mm、厚さ1.6mm))(宝泉株式会社製)を用意した。
【0140】
そして、下蓋から順に測定用サンプル、ガスケットリングを設置し、電解液10μmLを含浸させた後、測定用サンプルの上から順番にカプトンリング、スペーサー、アルミリング、上蓋を設置し、コインセルカシメ器(宝泉株式会社製)で密閉することによって、測定用のコインセルを作製した。ここで、電解液としては、LiBF
4をプロピレンカーボネート、NIKKOLBT−12(日光ケミカルズ株式会社製)の体積比が91.5:8.5の混合溶媒に溶解させた25℃の電解液(LiBF
4濃度:1.0mol/L)を用いた。
【0141】
測定用のコインセル内部の温度を、15℃/分の速度で室温から150℃まで昇温しながら、上記コインセル内部の温度をデジタルマルチメーター(株式会社エーディーシー製; 7352A)、上記コインセルにおける1kHzでの抵抗値をLCRメータ(日置電機株式会社製;IM3523)により連続的に測定した。
【0142】
測定中、コインセルの1kHzでの抵抗値が5000Ω以上となる場合、そのコインセルはシャットダウン機能を備えることが確認されたとした。
【0143】
上述の測定を複数(3個)のコインセルに対して行い、その結果シャットダウン機能を備えることが確認されたコインセルの割合を算出した。その結果として、シャットダウン機能を備えることが確認されコインセルの割合(シャットダウン機能発現率)が60%以上のものを「○」、30%以上60%未満のものを「△」、30%未満のものを「×」として、表1に記載した。
【0144】
[実施例1]
PVDF系樹脂(ポリフッ化ビニリデンホモポリマー)のN−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」と称する場合もある)溶液(株式会社クレハ製;商品名「L#7305」、重量平均分子量:1,000,000)を塗工液とし、ポリエチレンの多孔膜(厚さ12μm、空隙率44%)上に、ドクターブレード法により、塗工液中のPVDF系樹脂が1平方メートル当たり5.0gとなるように塗布した。得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、−25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(1−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(1−i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(1−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(1−ii)を30℃で5分間乾燥させて、積層体(1)を得た。得られた積層体(1)の評価結果を表1に示す。
【0145】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、−5℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(2−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(2−i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(2−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(2−ii)を30℃で5分間乾燥させて、積層体(2)を得た。得られた積層体(2)の評価結果を表1に示す。
【0146】
[実施例3]
PVDF系樹脂(ポリフッ化ビニリデンホモポリマー)のNMP溶液(株式会社クレハ製;商品名「L#1120」、重量平均分子量;280,000)を塗工液とし、実施例1と同様の方法でポリエチレンの多孔膜(厚さ12μm、空隙率44%)上に塗布した。得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、実施例1と同様の方法で、−5℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(3−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(3−i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(3−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(3−ii)を30℃で5分間乾燥させて、多孔質層を備える積層体(3)を得た。得られた積層体(3)の評価結果を表1に示す。
【0147】
[実施例4]
PVDF系樹脂(ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー)のNMP溶液(株式会社クレハ製;商品名「L#9305」、重量平均分子量;1,000,000)を塗工液として、実施例1と同様の方法でポリエチレンの多孔膜(厚さ12μm、空隙率44%)上に塗布した。得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、10℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(4−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(4−i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(4−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(4−ii)を30℃で5分間乾燥させて、多孔質層を備える積層体(4)を得た。得られた積層体(4)の評価結果を表1に示す。
【0148】
[比較例1]
実施例3と同様の方法で得られた塗布物、塗膜がNMP湿潤状態のままで、2−プロパノール中に浸漬し、0℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(4−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(5−i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ積層多孔質フィルム(4−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(5−ii)を65℃で5分間乾燥させて、積層体(5)を得た。得られた積層体(5)の評価結果を表1に示す。
【0149】
[比較例2]
PVDF系樹脂(ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、株式会社クレハ製;商品名「W#9300」、重量平均分子量;1,000,000)を、固形分が5質量%となるように、ジメチルアセトアミド/トリプロピレングリコール=7/3[質量比]の混合溶媒に、65℃、30分間の条件で撹拌し、溶解させた。得られた溶液を塗工液とし、ポリエチレンの多孔膜(厚さ12μm、空隙率44%)上に、ドクターブレード法により、塗工液中のPVDF系樹脂が1平方メートル当たり5.0gとなるように塗布した。得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで水/ジメチルアセトアミド/トリプロピレングリコール=57/30/13[質量比]中に浸漬し、40℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(6−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(6−i)を水洗し、積層多孔質フィルム(6−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(6−ii)を65℃で5分間乾燥させて、多孔質層を備える積層体(6)を得た。得られた積層体(6)の評価結果を表1に示す。
【0150】
[比較例3]
実施例3と同様の方法で得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで、ドライアイスで冷却した2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(7−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(7−i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ積層多孔質フィルム(7−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(7−ii)を30℃で5分間乾燥させて、積層体(7)を得た。得られた積層体(7)の評価結果を表1に示す。
【0151】
[比較例4]
実施例3と同様の方法で得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで、ドライアイスで冷却した2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(8−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(8−i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ積層多孔質フィルム(8−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(8−ii)を65℃で5分間乾燥させて、積層体(8)を得た。得られた積層体(8)の評価結果を表1に示す。
【0152】
【表1】
【0153】
[結果]
実施例1〜4にて製造された、積層体における多孔質層に含まれるα型結晶およびβ型結晶からなるPVDF系樹脂中の、α型結晶の含有率(α比)が10モル%以上、65モル%以下である積層体(1)〜(4)をセパレータとして含むコインセル(非水二次電池)のうちの60%以上のセルがシャットダウン機能を有することが示された。
【0154】
また、比較例1〜4にて製造された、積層体における多孔質層に含まれるα型結晶およびβ型結晶からなるPVDF系樹脂中の、α型結晶の含有率(α比)が10モル%未満、65モル%より高い積層体(5)〜(8)をセパレータとして含むコインセル(非水二次電池)のうちシャットダウン機能を有するセルは60%未満であることが示され、実施例1〜4にて得られた積層体(1)〜(4)を含むコインセルよりもシャットダウン特性を示す割合が小さいことが判った。
【0155】
従って、α型結晶およびβ型結晶からなるPVDF系樹脂のうち、α型結晶の含有率(α比)が10モル%以上、65モル%以下である多孔質層を含む積層体がシャットダウン機能を備えるコインセル(非水二次電池)におけるセパレータとして好ましいことが判った。
【0156】
[電池保存安定性試験]
次に、以下に示す作製方法にて、非水二次電池を作製した。そして、以下に示す電池保存安定性の試験方法にて、製造した非水二次電池の電池保存安定性を測定した。
【0157】
[非水電解液二次電池の作製方法、電池保存安定性の試験方法]
<非水電解液二次電池の作製方法>
以下に示す正極、負極、並びに、実施例5、6および比較例5にて作製された積層体の各々を非水二次電池用セパレータとして用いて、非水二次電池を以下に示す組み立て方法に従って作製した。
【0158】
(正極)
LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2/導電材/PVDF(重量比92/5/3)をアルミニウム箔に塗布することにより製造された市販の正極を用いた。上記正極を、正極活物質層が形成された部分の大きさが40mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が形成されていない部分が残るように、アルミニウム箔を切り取って正極とした。正極活物質層の厚さは58μm、密度は2.50g/cm
3であった。
【0159】
(負極)
黒鉛/スチレン−1,3−ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1)を銅箔に塗布することにより製造された市販の負極を用いた。上記負極を、負極活物質層が形成された部分の大きさが50mm×40mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が形成されていない部分が残るように、銅箔を切り取って負極とした。負極活物質層の厚さは49μm、の密度は1.40g/cm
3であった。
【0160】
(組み立て方法)
ラミネートパウチ内で、上記正極、非水二次電池用セパレータ(積層体)、および負極をこの順で積層(配置)することにより、非水電解液二次電池用部材を得た。このとき、正極の正極活物質層における主面の全部が、負極の負極活物質層における主面の範囲に含まれる(主面に重なる)ように、正極および負極を配置した。なお、上記非水二次電池用セパレータは、実施例5、6および比較例5の各々にて得られた積層体を5.5cm×4.0cmの大きさにて長方形の形状に切り出したものである。
【0161】
続いて、上記非水電解液二次電池用部材を、アルミニウム層とヒートシール層とが積層されてなる袋に入れ、さらにこの袋に非水電解液を0.20mL入れた。上記非水電解液は、濃度1.0モル/LのLiPF
6をエチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチレンカーボネートの体積比が50:20:30の混合溶媒に溶解させた25℃の電解液を用いた。そして、袋内を減圧しつつ、当該袋をヒートシールすることにより、非水二次電池を作製した。
【0162】
[電池保存安定性の試験方法]
上に示す方法にて作製された、充放電サイクルを経ていない新たな非水二次電池に対して、25℃で電圧範囲;4.1〜2.7V、電流値;0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下も同様)を1サイクルとして、4サイクルの初期充放電を行った。
【0163】
続いて55℃で、充電電流値;1C、電圧;4.2Vの定電流で充電を行い、電圧が4.2V充電状態に到達した後、電圧を4.2Vに維持したまま、保存試験を1週間行った。保存試験のとき、0.02C未満を検出した電流値の総量を「分解消費電流による積算容量」(mAh)として算出した。算出した「分解消費電流による積算容量」は、その値が大きいほど、保存時の電流が電解液等の分解に消費されたことを意味する。従って、「分解消費電流による積算容量」の値が小さいことは、当該非水二次電池が電池保存安定性に優れることを示す。算出した「分解消費電流による積算容量」の値を表2に示す。
【0164】
[実施例5]
PVDF系樹脂(ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー)のNMP溶液(株式会社クレハ製;商品名「L#9305」、重量平均分子量;1,000,000)を塗工液とし、ポリエチレンの多孔膜(厚さ12μm、空隙率44%)上に、ドクターブレード法により、塗工液中のPVDF系樹脂が1平方メートル当たり1.0gとなるように塗布した。得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、−25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(9−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(9−i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(9−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(9−ii)を30℃で5分間乾燥させて、多孔質層を備える積層体(9)を得た。得られた積層体(9)をセパレータとして用いた非水二次電池の電池保存安定性の評価結果を表2に示す。
【0165】
[実施例6]
実施例5と同様の方法で得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、0℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(10−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(10−i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(10−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(10−ii)を30℃で5分間乾燥させて、多孔質層を備える積層体(10)を得た。得られた積層体(10)をセパレータとして用いた非水二次電池の電池保存安定性の評価結果を表2に示す。
【0166】
[比較例5]
実施例5と同様の方法で得られた塗布物を、塗膜がNMP湿潤状態のままで2−プロパノール中に浸漬し、5℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(11−i)を得た。得られた積層多孔質フィルム(11−i)を浸漬溶媒湿潤状態で、さらに別の2−プロパノール中に浸漬し、25℃で5分間静置させ、積層多孔質フィルム(11−ii)を得た。得られた積層多孔質フィルム(11−ii)を30℃で5分間乾燥させて、多孔質層を備える積層体(11)を得た。得られた積層体(11)をセパレータとして用いた非水二次電池の電池保存安定性の評価結果を表2に示す。
【0167】
【表2】
【0168】
[結果]
実施例5〜6にて製造された、積層体における多孔質層に含まれるα型結晶およびβ型結晶からなるPVDF系樹脂中の、α型結晶の含有率(α比)が10モル%以上、65モル%以下である積層体(9)〜(10)をセパレータとして含む非水二次電池は、比較例5にて製造された、積層体における多孔質層に含まれるα型結晶およびβ型結晶からなるPVDF系樹脂中の、α型結晶の含有率(α比)が上記範囲外(67%)である積層体(11)をセパレータとして含む非水二次電池よりも、電池保存安定性に優れることが示された。
【0169】
従って、α型結晶およびβ型結晶からなるPVDF系樹脂のうち、α型結晶の含有率(α比)が10モル%以上、65モル%以下である多孔質層を含む積層体が、電池保存安定性を備える非水二次電池におけるセパレータとして更に好ましいことが判った。