特許第6205723号(P6205723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205723
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】多孔質材料及び多孔質シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 89/00 20060101AFI20170925BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20170925BHJP
   C08L 101/06 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C08L89/00
   C08K5/04
   C08L101/06
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-2932(P2013-2932)
(22)【出願日】2013年1月10日
(65)【公開番号】特開2014-133832(P2014-133832A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】川口 亜季子
(72)【発明者】
【氏名】小林 一稔
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−082246(JP,A)
【文献】 特表2012−505297(JP,A)
【文献】 特開2012−080918(JP,A)
【文献】 特開2011−173963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 89/00−89/06
101/00−101/14
C08K 5/00−5/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルクフィブロイン水溶液を凍結し、融解してシルクフィブロイン多孔質体を製造し、該シルクフィブロイン多孔質体を、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、乳酸、プロピレングリコール、ブチレングリコール、アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルから選択される1種以上の分子量が1,000以下の水酸基含有化合物を含む水溶液に浸漬し、該水酸基含有化合物の該シルクフィブロイン多孔質体の全量に対する含有量が28〜300質量%とする、多孔質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルクフィブロイン多孔質体を用いて得られる多孔質材料及び多孔質シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質や糖類などの生物由来物質を利用して作製される多孔質体は、創傷被覆材や薬剤徐放担体などの医療分野、紙おむつや生理用品などの生活日用品分野、微生物や細菌などの住処になる支持体として活用が期待され、浄水分野、エステティックサロンや個人での使用による保湿などを目的とした化粧品及びエステ分野、組織工学や再生医工学における細胞培養支持体や組織再生支持体など産業上幅広い分野で利用可能である。
多孔質体を構成する生体由来物質として、セルロースやキチンなどの糖類、コラーゲン、ケラチン、シルクフィブロインなどのタンパク質群が知られている。これらの中で、シルクフィブロインは、原料の安定供給や価格の安定性から工業的に利用される。さらに、衣類用途以外に、手術用縫合糸として長く使用されてきた実績があり、近年、食品や化粧品の添加物としても利用されている。シルクフィブロインは人体に対する安全性にも問題がないことから多孔質体への使用が検討されている。
シルクフィブロイン多孔質体を作製する手法に関しては、いくつか報告がある。例えば、シルクフィブロイン水溶液を急速冷凍したのち結晶化溶媒に浸漬し、融解と結晶化を同時進行することによって得る方法(特許文献1)、シルクフィブロイン水溶液を冷凍した後に長時間凍結状態を維持することで多孔質体を作製する手法(特許文献2)、シルクフィブロイン水溶液に対して少量の水溶性有機溶媒を添加した後に、一定時間冷凍して融解することによってシルクフィブロイン多孔質体が得られる手法である(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−41097号公報
【特許文献2】特開2006−249115号公報
【特許文献3】特許第3412014号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Biomacromolecules,6,3100−3106(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の手法によって作製した多孔質体は水を含んだ湿潤状態では柔らかいものの、凍結乾燥などの乾燥により水を除去した乾燥状態では脆く、クラックが発生するなどして加工性や外観に劣るという課題があった。
本発明は、乾燥状態でも柔らかく、乾燥後の外観及びスライス加工性に優れるシルクフィブロイン多孔質材料及びシルクフィブロイン多孔質シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。
[1]シルクフィブロイン多孔質体が、分子量が1,000以下の水酸基含有化合物を含む多孔質材料。
[2]前記水酸基含有化合物の含有量が、シルクフィブロイン多孔質体の全量に対して0.1〜300質量%である[1]に記載の多孔質材料。
[3]前記水酸基含有化合物が、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、乳酸、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルから選択される1種以上である[1]又は[2]に記載の多孔質材料。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の多孔質材料からなり、膜厚が0.1〜50mmである多孔質シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る多孔質材料及び多孔質シートは、乾燥状態でも柔らかく、乾燥後の外観やスライス加工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で製造された多孔質材料の乾燥後の外観を示す写真である。
図2】実施例1で製造された多孔質材料をスライス加工して得られた多孔質シートの外観を示す写真である。
図3】比較例1で製造された多孔質材料の乾燥後の外観を示す写真である。
図4】比較例1で製造された多孔質材料をスライス加工して得られた多孔質シートの外観を示す写真である。
図5】比較例2で製造された多孔質材料の乾燥後の外観を示す写真である。
図6】比較例2で製造された多孔質材料をスライス加工して得られた多孔質シートの外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る多孔質材料は、シルクフィブロイン多孔質体が、分子量が1,000以下の水酸基含有化合物を含んでなる。すなわち、本発明の多孔質材料においては、シルクフィブロイン多孔質体が上記水酸基含有化合物を保持している。
【0010】
上記水酸基含有化合物としては、1分子当り1つ以上の水酸基を有するものであればよく、1分子当り1〜10の水酸基を有するものが好ましく、1分子当り1〜4の水酸基を有するものがより好ましい。
また、水酸基含有化合物の分子量は、1000以下であり800以下あることが好ましく、500以下であることがより好ましい。
水酸基含有化合物の具体例としては、例えば、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、乳酸、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、アルコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、このうち1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも特に、ハンドリング性、スライス加工性、安全性の観点から、グリセリン、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、ポリグリセリン、乳酸、プロピレングリコール、ブチレングリコールが好ましい。
【0011】
本発明に係る多孔質材料は、シルクフィブロイン多孔質体の全量に対して、水酸基含有化合物を0.01〜500質量%含有することが好ましく、5〜300質量%含有することがより好ましく、10〜250質量%含有することがさらに好ましい。シルクフィブロイン多孔質体の全量に対する水酸基含有化合物の含有量が0.01質量%未満であると、本発明の多孔質材料は乾燥状態で脆く、スライス加工時に割れやすい、ハンドリング性が悪い傾向があり、500質量%超であると、多孔質材料の表面のタックが強くなり、スライス加工時にロールに巻きつきやすく、ハンドリング性が低下する傾向がある。
【0012】
シルクフィブロイン多孔質体の原料として用いられるシルクフィブロインは、家蚕、野蚕、天蚕などの蚕から産生されるものであればいずれでもよく、その製造方法も問わない。シルクフィブロイン多孔質体は、シルクフィブロイン溶液から得られるが、水に溶解させる場合、シルクフィブロインは水に対する溶解性が悪く、直接水に溶解することは困難である。シルクフィブロイン水溶液を得る方法としては、公知のいかなる手法を用いてもよいが、高濃度の臭化リチウム水溶液にシルクフィブロインを溶解後、透析による脱塩、風乾による濃縮を経る手法が簡便である。
本発明で用いられるシルクフィブロイン多孔質体は、その製造方法は問わないが、例えば、シルクフィブロイン水溶液を急速冷凍したのち結晶化溶媒に浸漬し、融解と結晶化を同時進行することによって得る方法(特許文献1)、シルクフィブロイン水溶液を冷凍した後に長時間凍結状態を維持することで多孔質体を作製する手法(特許文献2)、シルクフィブロイン水溶液に対して少量の水溶性有機溶媒を添加した後に、一定時間冷凍して融解することによって多孔質体を得る手法(特許文献3)が挙げられる。
【0013】
また、本発明で用いられるシルクフィブロイン多孔質体は、シルクフィブロイン水溶液に特定の添加剤を加えて、該水溶液を凍結させ、次いで融解させることにより製造することが好ましい。
シルクフィブロイン多孔質体の製造において、シルクフィブロインの濃度は、シルクフィブロイン溶液中で0.1〜40質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがより好ましく、1.0〜12質量%であることがさらに好ましい。この範囲内に設定することで、十分な強度を持ったシルクフィブロイン多孔質体を効率的に製造することができる。
【0014】
前記添加剤としては、脂肪族カルボン酸、アミノ酸等が挙げられる。添加剤としては、特に制限はないが、水溶性のものが好ましく、水への溶解度が高いものがより好ましい。また、シルクフィブロイン多孔質体の製造において用いられる脂肪族カルボン酸としては、pKaが、5.0以下のものが好ましく、3.0〜5.0のものがより好ましく、3.5〜5.0のものがさらに好ましい。
【0015】
前記脂肪族カルボン酸としては、例えば、炭素数1〜6の飽和または不飽和のモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸を好ましく用いることができ、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、乳酸、アクリル酸、2−ブテン酸、3−ブテン酸等が挙げられる。これらの脂肪族カルボン酸は、単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0016】
アミノ酸としては、特に制限はないが、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、メチオニン等のモノアミノカルボン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等のモノアミノジカルボン酸(酸性アミノ酸)などの脂肪族アミノ酸、フェニルアラニン等の芳香族アミノ酸、ヒドロキシプロリン等の複素環を有するアミノ酸などがあげられ、中でも形状の調整が容易な観点から酸性アミノ酸や、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン等のオキシアミノ酸が好ましい。同様な観点で、酸性アミノ酸の中でもモノアミノカルボン酸がより好ましく、アスパラギン酸やグルタミン酸が特に好ましく、オキシアミノ酸の中でもヒドロキシプロリンがより好ましい。これらのアミノ酸は、いずれか1種を単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
なお、アミノ酸には、L型とD型の光学異性体があるが、L型とD型を用いた場合に、得られる多孔質体に違いが見られないため、どちらのアミン酸を用いても良い。
【0017】
シルクフィブロイン水溶液に添加剤を用いる場合の添加剤の含有量は、0.1〜18質量%であることが好ましく、0.1〜5.0質量%であることがより好ましく、0.5〜4.0質量%であることがさらに好ましい。この範囲内に設定することで、十分な強度を持った多孔質体を製造することができる。また、18質量%以下であれば、シルクフィブロイン水溶液に脂肪族カルボン酸及び/又は酸性アミノ酸を添加したシルクフィブロイン溶液を静置する際、該溶液がゲル化しにくく、安定して良質なシルクフィブロイン多孔質体が得られる。また、アミノ酸の含有量は、シルクフィブロインに対して、1〜500質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0018】
上記添加剤が加えられたシルクフィブロイン多孔質体は、上記添加剤が加えられたシルクフィブロイン溶液を型あるいは容器に流し込み、低温恒温槽中に入れて凍結させ、次いで融解することによって製造することができる。凍結温度は、添加剤を含有させたシルクフィブロイン溶液が凍結する温度であれば特に制限されないが、−10〜−30℃程度が好ましい。また、凍結時間は、十分に凍結し、かつ凍結状態を一定時間保持できるよう、所定の凍結温度で4時間以上であることが好ましい。
なお、凍結の方法としては、シルクフィブロイン溶液を一気に凍結温度まで下げて凍結してもよいが、一旦、−5℃程度に2時間程度保持して過冷却状態とし、その後、凍結温度まで下げて凍結することが、力学的強度の高い多孔質体を得る上で好ましい。−5℃から凍結温度までにかける時間を調整することで、多孔質体の構造や強度をある程度制御することが可能である。
その後に、凍結したシルクフィブロイン溶液を、融解することによってシルクフィブロイン多孔質体が得られる。融解の方法は特に制限はないが、自然融解のほか、恒温槽内に保持する方法などが挙げられる。
【0019】
得られたシルクフィブロイン多孔質体には添加剤が含まれるが、用途に応じて、添加剤を除去する必要がある場合には、適当な方法でシルクフィブロイン多孔質体から添加剤を除去して用いることができる。たとえば、シルクフィブロイン多孔質体を、純水中に浸漬して、添加剤を除去することが最も簡便な方法として挙げられる。あるいは、多孔質体を凍結乾燥することによって、添加剤と水分を同時に除去することが可能である。
【0020】
シルクフィブロイン多孔質体は、スポンジ状の多孔質構造を有しており、通常このシルクフィブロイン多孔質体には凍結乾燥等により水除去を行わなければ水が含まれ、含水状態で堅い構造物である。また、シルクフィブロイン多孔質体を凍結乾燥することにより、シルクフィブロイン多孔質体の乾燥品を得ることができる。
【0021】
このシルクフィブロイン多孔質体は、シルクフィブロイン多孔質体作製時の型や容器を適宜選択することにより、フィルム状、シート状、ブロック状、管状、球状等、目的に応じた形状とすることができる。型や容器としては、シルクフィブロイン溶液が流出しない形状及び形態のものであれば制限はなく、その素材としては、鉄、ステンレス、アルミニウム、金、銀、銅などの熱伝導率が高い素材を用いることが、均一な構造のシルクフィブロイン多孔質体を得る観点から好ましい。また、型や容器の壁の厚さは、その機能と凍結の際の膨張などによる変形などを防止する観点から、0.5mm以上であることが好ましく、取り扱いが容易で、冷却効率的な観点から、より好ましくは1〜3mmである。
【0022】
また、ここで用いられる型や容器は、前記フィルム層の構造や厚さを制御することを目的として、その内側のシルクフィブロイン溶液と接する内壁面に、シートを設けることができる。
該シートとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)やテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂からなるシート、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)などからなる離型処理されたシートなどが好ましく挙げられる。これらのシートを用いた場合、細孔が少なく平滑なフィルム層を得ることができる。また、フィルム層を設けたくない場合は、ろ紙などといった表面が粗いシートを設けることもできる。これらのシートの採用については、多孔質体の用途に応じて、適宜選択すればよい。
また、シートは、熱伝導を阻害しにくい厚さ1mm以下のものを用いることが好ましい。
【0023】
このシルクフィブロイン多孔質体は、上記した融解する工程に次いで、切削加工や切断加工を施してもよい。シルクフィブロイン多孔質体をシート形状とする場合において、多孔質層のみからなる多孔質体とする場合には、容器の材質を選択するほかに、フィルム層を切除することで、表面構造を選択することができる。具体的には、例えば、テフロンシートなどのシートをその内壁面に設けたブロック状の型あるいは容器を用い、該型あるいは容器から取り出してから、側面の四面のフィルム層を取り除き、多孔質層の部分を切削あるいは切除するなどして、多孔質層のみからなる多孔質体を得ることができる。また、一面のみにテフロンシートなどのシートをその内壁面に設け、その他の面の内壁面にろ紙を設けた型あるいは容器を用い、一面のみにフィルム層を有する多孔質体を得ることもできる。
【0024】
シルクフィブロイン多孔質体に水酸基含有化合物を含有させる方法は特に限定されず、シルクフィブロイン多孔質体を製造する際に、シルクフィブロイン溶液に配合する方法や、シルクフィブロイン多孔質体作製後に、その全体が浸る程度の水酸基含有化合物を含む溶液に浸漬させてもよい。浸漬時間も特に規定はしないが、浸漬時間が短いとシルクフィブロイン多孔質体中に導入される水酸基含有化合物の量が少なくなる可能性がある。
【0025】
本発明に係る多孔質シートは、上記多孔質材料からなり、その膜厚は、0.01〜300mmであり、0.01〜100mmであることが好ましく、0.1〜50mmであることがより好ましい。
多孔質シートは、上記多孔質材料をスライスすることで容易に製造することができる。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0027】
実施例1
(シルクフィブロイン溶液の調製)
シルクフィブロイン水溶液は、シルクフィブロイン粉末(KBセーレン社製、商品名:「シルクパウダーIM」)を9M臭化リチウム水溶液に溶解し、遠心分離で不溶物を除去したのち、超純水に対して透析を繰り返すことによって得た。得られたシルクフィブロイン水溶液を透析チューブ中で風乾し濃縮した。この濃縮液に添加剤として酢酸を添加し、シルクフィブロイン濃度が30g/L、酢酸濃度が2体積%であるシルクフィブロイン溶液を調製した。
【0028】
(シルクフィブロイン多孔質体の製造)
このシルクフィブロイン溶液をアルミ板で作製した型(内側サイズ;400mm×300mm×20mm、60mm×30mm×10mm、100mm×10mm×10mm)に流し込み、低温恒温槽(EYELA社製NCB−3300)に入れて−1℃で10時間静置した。
その後、予め低温恒温槽を−1℃に冷却しておいて低温恒温槽中にシルクフィブロイン溶液を入れた型を投入し、その後3℃/時間の速度で−20℃まで冷却し、そのままの温度で5時間保持して凍結した。
凍結した試料を自然解凍で室温に戻してから、型から取り出し、超純水に浸漬し、超純水を1日2回、3日間交換することによって、使用した酢酸を除去した。その後、凍結乾燥し、内径60mm×30mm×10mmの型で作製したシルクフィブロイン多孔質体の乾燥質量を測定した。
【0029】
(水酸基含有化合物の導入)
上記のようにして作製したシルクフィブロイン多孔質体の全体が浸る程度の5体積%グリセリン水溶液を用意し、24時間静置した状態で浸漬させ、その後これを凍結乾燥して多孔質材料を得た。また、この凍結乾燥後の多孔質材料の乾燥質量を測定した。
多孔質材料中の水酸基含有化合物の質量比は、水酸基含有化合物量を乾燥後のシルクフィブロイン多孔質体量で割ったものとし、以下の式で算出した。
((水酸基化合物導入後の多孔質材料の乾燥質量)−(水酸基含有化合物の導入前のシルクフィブロイン多孔質体の乾燥質量))/(水酸基含有化合物の導入前のシルクフィブロイン多孔質体の乾燥質量)
【0030】
上述のようにして得た多孔質材料について、以下に示すようにして乾燥後の外観とスライス加工性とを評価した。評価結果を第1表に示す。
(乾燥後の外観)
乾燥後の多孔質材料の外観を観察し、目視で認識できる程度(幅0.3mm以上、長さ2mm以上)のクラックの有無と外観の状態を評価した。クラックの数が1つでもあれば「×」とし、クラックはないが多孔質材料に析出物等の外観異常がある場合は△とし、クラックも外観異常もないものは「○」と判定した。
(スライス加工性)
乾燥後の多孔質材料を、スライス装置((有)北島マシンナイフ製)を用いてスライス後の厚みが1mm程度になるようにスライスした。スライス時にシートや多孔質体が割れたものを「×」とし、割れがないものを「○」と判定した。
【0031】
実施例2〜30及び比較例1〜7
実施例1において、グリセリンの濃度を第1表に記載の濃度とすること、又はグリセリン溶液に代えて第1表に記載の溶液または分散液を、第1表に記載の濃度にて用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質材料を得た。また、乾燥後の外観とスライス加工性の評価結果も第1表に示す。
【0032】
実施例1〜30より、シルクフィブロイン多孔質体が分子量1,000以下の水酸基含有化合物を含んでなる本発明の多孔質材料は、乾燥後の外観や、スライス加工性に優れている。一方、比較例1〜7より、水酸基を含まない化合物や、水酸基を含むものの分子量が1,000より高い化合物を含んでなる材料は、乾燥後にクラックが発生したり、外観の異常や、スライス加工時に割れが生じた。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
PEG:ポリエチレングリコール
PGL:ポリグリセリン
TEC:クエン酸トリエチル
DMSO:ジメチルスルホキシド
PVA:ポリビニルアルコール
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の多孔質材料は、化粧品及びエステ分野等に広く適用することができ、顔の形状に合わせたフェイスマスクとしても極めて有用である。また、創傷被覆材や薬剤徐放担体、止血スポンジ等の医療分野、紙おむつや生理用品等の生活日用品分野、組織工学や再生医工学における細胞培養支持体や組織再生支持体、浄水用途及び環境分野における微生物や細菌等の住処になる支持体など種々の産業に適用が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6