特許第6205895号(P6205895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6205895オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6205895
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20170925BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-133379(P2013-133379)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-8102(P2015-8102A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2016年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】紅露 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】計盛 永吾
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/133581(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/005705(WO,A1)
【文献】 特開2013−077377(JP,A)
【文献】 特開2013−032257(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/128936(WO,A1)
【文献】 特開2013−020899(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133584(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部が導電性材料によって被覆された、一般式Li(Mn1−y)SiO(式中、xは1.9<x<2.3、yは0≦y<1、Mは、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、TiおよびVからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素)で表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物であって、比表面積が40m/g〜60m/gであり、前記導電性材料が炭素であり、前記表面の少なくとも一部が炭素によって被覆されたオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の重量に対する炭素の重量の割合が、2.5重量%〜3.5重量%である、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物。
【請求項2】
yの値が0.05以上0.6以下である、請求項1に記載のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物。
【請求項3】
yの値が0.2以上0.5以下である、請求項2に記載のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物。
【請求項4】
金属元素MがFeである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物。
【請求項5】
表面の少なくとも一部が導電性材料で被覆された、一般式Li(Mn1−y)SiO(式中、xは1.9<x<2.3、yは0≦y<1、Mは、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、TiおよびVからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素)で表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の製造方法であって、
リチウム源、マンガン源、ケイ酸源、導電性材料源および必要に応じて金属元素M源の粒子、ならびに分散媒を含有するスラリーを調製することであって、前記導電性材料源が炭素源であり、前記表面の少なくとも一部が炭素によって被覆されたオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の重量に対する炭素の重量の割合が2.5重量%〜3.5重量%となるように、前記スラリー中の炭素源の含有量を調節することと、
前記スラリーを粉砕処理に付すことであって、該粉砕処理により、スラリー中の粒子の平均粒子径を0.5μm以下とすることと、
前記粉砕処理に付したスラリーを噴霧乾燥して前駆体を得ることと
前記前駆体を焼成することと
を含み、
前記オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の比表面積が40m/g〜60m/gである、方法。
【請求項6】
yの値が0.05以上0.6以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
yの値が0.2以上0.5以下である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
金属元素MがFeである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記焼成における焼成温度が500℃〜800℃である、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記粉砕処理により、スラリー中の粒子の平均粒子径を0.2μm以下とする、請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムを可逆的にドープ及び脱ドープ可能なオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の正極活物質として用いられるリチウム遷移金属複合酸化物は、二次電池を構成したときの作用電圧が4Vと高く、また、大きな容量が得られることが知られている。そのため、リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として利用したリチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノート型パソコンおよびデジタルカメラ等の電子機器の電源として多く用いられている。また、近年、環境への配慮から、電気自動車、ハイブリッド自動車などに搭載される大型の二次電池の用途向けにリチウムイオン二次電池の要求が高くなっている。
【0003】
特に、遷移金属としてコバルトを利用したリチウム遷移金属複合酸化物(コバルト酸リチウム)と比較して安全で安価な正極活物質として、例えば、特許文献1に開示されるように、3.5V級の電圧をもつオリビン型リチウム鉄複合酸化物が注目されている。
【0004】
このオリビン型リチウム鉄複合酸化物は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として、ポリアニオンを基本骨格とするオリビン型結晶構造を有し、例えば、組成式がLiFePOで表される化合物が知られている。これらの化合物は二次電池の正極活物質として使われる際、充放電に伴う結晶構造変化が少ないためサイクル特性に優れ、また結晶中の酸素原子がリンとの共有結合により安定して存在するため電池が高温環境下に晒された際にも酸素放出の可能性が小さく安全性に優れるというメリットがある。しかし、LiFePOの実容量は170mAh/gと理論容量に達しており、これ以上の高容量化は困難である。
【0005】
そこで、優れた安全性を維持して高容量化が期待される材料として、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物、例えばLiMnSiOで表される化合物が提案されている。これらの化合物はLiFePOと比較して2倍のLiを組成中に含んでいることから、理論容量は330mAh/gに達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−79276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は電子伝導性が低く、そのため、得られる非水電解質二次電池の容量は理論容量より大幅に低くなってしまう。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、優れた充放電特性を有するオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、表面の少なくとも一部が導電性材料で被覆された、特定の比表面積を有するオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を用いることにより、優れた充放電容量を有する非水電解液二次電池を得ることができることを見出し、本願発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は、表面の少なくとも一部が導電性材料によって被覆された、一般式Li(Mn1−y)SiO(式中、xは1.9<x<2.3、yは0≦y<1、Mは、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、TiおよびVからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素)で表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物であって、比表面積が35m/g以上である、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物である。
【0011】
本発明に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の製造方法は、表面の少なくとも一部が導電性材料で被覆された、一般式Li(Mn1−y)SiO(式中、xは1.9<x<2.3、yは0≦y<1、Mは、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、TiおよびVからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素)で表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の製造方法であって、
リチウム源、マンガン源、ケイ酸源、導電性材料源および必要に応じて金属元素M源の粒子、ならびに分散媒を含有するスラリーを調製することと、
前記スラリーを粉砕処理に付すことと、
前記粉砕処理に付したスラリーを噴霧乾燥して前駆体を得ることと
前記前駆体を焼成することと
を含む、方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は、表面の少なくとも一部が導電性材料で被覆されていることにより、良好な電子伝導性を有する。更に、本発明に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は、比表面積が大きいことにより、リチウムの挿入および脱離をスムーズに行うことができる。その結果、本発明のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を正極活物質として用いることにより、優れた充放電特性を有する非水電解液二次電池を得ることができる。
【0013】
また、本発明に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の製造方法は、スラリーを粉砕処理に付すことにより、スラリー中の原料を微粒子化することができ、その結果、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の比表面積を大きくすることができる。更に、粉砕処理に付したスラリーを噴霧乾燥することにより、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の前駆体の表面を、導電性材料またはその前駆体で被覆することができ、その結果、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の表面の少なくとも一部を、導電性材料で被覆することができる。本発明の方法により得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を正極活物質として用いることにより、優れた充放電特性を有する非水電解液二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物およびその製造方法の一の実施形態について詳細に説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するために例示するものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明の一の実施形態に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は、表面の少なくとも一部が導電性材料によって被覆された、一般式Li(Mn1−y)SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物である。式中、xは1.9<x<2.3であり、yは0≦y<1であり、Mは、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、TiおよびVからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素である。
【0016】
xが1.9より大きいことにより、優れた理論容量の電池を得ることができる。xが2.3より小さいことにより、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物中に含まれる不純物の量を低減することができ、その結果、優れた特性を有する電池を得ることができる。xのより好ましい範囲は、2.0<x<2.2である。
【0017】
オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、TiおよびVからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素Mを含んでよい。金属元素Mを含むことにより、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の電子伝導性を向上させることができると考えられる。yが1未満であると、金属元素Mの単体等の、金属元素M含有不純物の生成を抑制することができるので、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の製造が容易になる。金属元素M含有不純物は、非水電解質二次電池の特性の低下を招き、またショートの原因となり得る。
【0018】
yの値は、0.05以上0.6以下であることが好ましい。yの値が上記範囲内であると、より良好な電子伝導性を得ることができ、且つ金属元素M含有不純物の生成をより抑制することができると考えられる。yの値は、より好ましくは0.2以上0.5以下である。yの値が上記範囲内であると、電池の充放電特性をより一層向上させることができる。
【0019】
金属元素MはFeであることが好ましい。金属元素MがFeであると、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の電子伝導性をより向上させることができる。
【0020】
オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は、その表面の少なくとも一部が導電性材料によって被覆されている。「表面の少なくとも一部が導電性材料によって被覆されている」とは、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の粒子の表面の少なくとも一部に導電性材料が存在していることを意味する。例えば、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物が、複数の一次粒子が凝集した二次粒子の形状を有する場合、「表面の少なくとも一部が導電性材料によって被覆されている」とは、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の一次粒子の表面の少なくとも一部に導電性材料が存在していることを意味する。この場合、導電性材料は、二次粒子の表面および内部に存在してよい。なお、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は、上述の形態に限定されるものではなく、一次粒子等の他の形状を有してもよい。導電性材料によるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の被覆の程度は、充放電特性向上の効果が得られる程度に導電性材料がオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の表面に存在するようなものであれば十分である。導電性材料の好ましい重量割合については後述する。
【0021】
導電性材料は、特に限定されるものではないが、例えば、炭素を用いることができる。導電性材料として利用可能な炭素としては、例えば、アセチレンブラックおよびカーボンブラック等の炭素材料、ならびに有機化合物の分解により得られる炭素等が挙げられる。中でも、導電性材料が、原料に含まれる有機化合物(炭素源)が製造工程において分解することにより得られる炭素であると、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の表面において導電性材料(炭素)の均一な被膜を形成することができるので、好ましい。炭素源として用いることのできる有機化合物の例については後述する。
【0022】
表面の少なくとも一部が導電性材料によって被覆されたオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の重量に対する導電性材料の重量の割合(単に「導電性材料の重量割合」ともよぶ)は、好ましくは1.1重量%以上である。導電性材料の重量割合が1.1重量%以上であると、充放電特性の向上が顕著である。表面の少なくとも一部が導電性材料によって被覆されたオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の重量に対する導電性材料の重量割合は、好ましくは2重量%以上5重量%以下である。導電性材料の重量割合が2重量%以上であると、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の電気抵抗を小さくすることができ、電子伝導性をより向上させることができる。導電性材料の重量割合が5重量%以下であると、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を非水電解液二次電池の正極活物質として用いる際に、重量当たりの充放電容量を大きくすることができる。導電性材料の重量割合は、より好ましくは2.5重量%以上3.5重量%以下である。導電性材料の重量割合が上記範囲内であると、充放電特性をより一層向上させることができる。
【0023】
本発明に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は、比表面積が35m/g以上である。比表面積が35m/g以上であることにより、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物に対するリチウムの挿入および脱離をスムーズに行うことができ、その結果、優れた充放電特性を有する電池を得ることができる。オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の比表面積は、好ましくは40m/g以上60m/g以下である。比表面積が40m/g以上であると、充放電特性をより一層向上させることができる。比表面積が60m/g以下であると、極板にした際の結着性が良好となる。なお、本発明において、「オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の比表面積」は、表面の少なくとも一部が導電性材料で被覆された状態のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の比表面積を意味する。また、本発明において、「比表面積」は、BET法により測定される比表面積を意味する。
【0024】
オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の平均粒子径は、3μm〜15μmであることが好ましい。平均粒子径が上記範囲内であると、極板にする際の充填性が良好である。なお、本明細書において、「オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の平均粒子径」は、表面の少なくとも一部が導電性材料で被覆された状態のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の平均粒子径を意味する。また、本明細書において、「平均粒子径」は、レーザー回折法により測定されるメディアン径(d50)を意味する。
【0025】
次に、本発明の一の実施形態に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の製造方法について説明する。
【0026】
本発明の一の実施形態に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の製造方法は、表面の少なくとも一部が導電性材料で被覆された、一般式Li(Mn1−y)SiO(式中、xは1.9<x<2.3、yは0≦y<1、Mは、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、TiおよびVからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素)で表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の製造方法であって、
リチウム源、マンガン源、ケイ酸源、導電性材料源および必要に応じて金属元素M源の粒子、ならびに分散媒を含有するスラリーを調製することと、
前記スラリーを粉砕処理に付すことと、
前記粉砕処理に付したスラリーを噴霧乾燥して前駆体を得ることと
前記前駆体を焼成することと
を少なくとも含む。
【0027】
(スラリーの調製)
まず、リチウム源、マンガン源、ケイ酸源、導電性材料源および必要に応じて金属元素M源の粒子、ならびに分散媒を含有するスラリーを調製する。以下、リチウム源、マンガン源、金属元素M源、ケイ酸源および導電性材料源を、原料ともよぶ。
【0028】
リチウム源としては、リチウムを含有するものであれば如何なる材料でも使用することができる。例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸水素リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムおよび水酸化リチウムならびにこれらの混合物を用いることができる。取り扱いが容易である点や環境への安全性を配慮すると、炭酸リチウムが好ましい。
【0029】
マンガン源としては、特に限定されるものではなく、マンガンの酸化物や水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩および脂肪酸塩ならびにこれらの混合物を用いることができる。金属元素M源も同様に、特に限定されるものではなく、金属元素Mの酸化物や水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩および脂肪酸塩ならびにこれらの混合物を用いることができる。
【0030】
ケイ酸源としては、特に限定されるものではなく、例えば、二酸化ケイ素、ケイ酸リチウムおよび単体のケイ素ならびにこれらの混合物を用いることができる。なかでも、後述の粉砕処理による微粒子化が容易であることから、水等の分散媒を含むコロイダルシリカが好ましい。
【0031】
導電性材料源としては、カーボンブラック、アセチレンブラックおよび有機化合物等の炭素源を用いることができる。炭素源として用いることのできる有機化合物としては、例えば、グルコース、ショ糖、ラクトース等の糖類、グリセリン、アスコルビン酸、クエン酸、ラウリン酸、ステアリン酸などが挙げられる。これらのうち、取り扱いが容易な点からショ糖が炭素源として好ましい。炭素源は、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物に導電性を付与するはたらきを有し、更に、原料中の金属元素を還元するはたらきも有する。炭素源を用いる場合、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の表面の少なくとも一部は、炭素源に由来する炭素で被覆される。
【0032】
上述の各原料は通常、粒子状の原料として供給される。各原料の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、1μm以上100μm以下であることが好ましい。各原料の平均粒子径が上記範囲内であると、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の製造がより容易になる。但し、後述の分散媒に可溶な原料の平均粒子径は、上述の範囲内である必要はなく、特に限定されない。
【0033】
分散媒としては、水、アセトン、エタノールなどの有機溶媒を用いることができる。なかでも、取り扱いが容易であり、安価であることから、水が好ましい。
【0034】
上述のリチウム源、マンガン源、金属元素M源およびケイ酸源を、目的とするオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の組成の化学量論比となるように秤量し、導電性材料源および分散媒と混合してスラリーを調製する。
【0035】
スラリー中の導電性材料源の含有量は、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料の重量割合が所望の値になるように、適宜調節することができる。表面の少なくとも一部が導電性材料で被覆されたオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物における導電性材料の重量割合の好ましい範囲については上述した。
【0036】
(粉砕処理)
次に、上述のスラリーを粉砕処理に付す。粉砕処理の方法としては、湿式粉砕を用いる。湿式粉砕は、粉砕する目的物を、分散媒中で1mm前後のメディアを用いて撹拌することによる粉砕方法であり、乾式粉砕混合より細かく粉砕できることができる。メディアの撹拌方法は、特に限定されるものではないが、装置の汎用性を考慮するとボールミルもしくはビーズミルが好ましい。粉砕処理により、スラリー中の粒子状の原料を細かく粉砕して微粒子化することができる。その結果、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を微細化することができ、その比表面積を大きくすることができる。
【0037】
粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5μm以下であり、より好ましくは0.2μm以下である。また、粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.02μm以上であることが好ましい。スラリー中の粒子の平均粒子径が上述の範囲内であると、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の平均粒子径および比表面積を適切な値にすることができ、その結果、良好な充放電特性を得ることができる。
【0038】
(噴霧乾燥)
次に、粉砕処理に付したスラリーを噴霧乾燥して前駆体を得る。噴霧乾燥は、スラリーをシャワー状に噴霧し、この噴霧されたスラリーに熱風を吹きつけて乾燥させることによって行う。噴霧乾燥は、二流体ノズル、三流体ノズルまたは四流体ノズルを備えた噴霧乾燥設備を用いて行うことができる。この噴霧乾燥により前駆体が形成される。前駆体は、一次粒子の集合体である略球状の二次粒子であることが好ましい。前駆体が略球状の二次粒子であると、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の粒子の充填性を向上させることができる。更に、噴霧乾燥による前駆体の形成を行うことにより、導電性材料またはその前駆体を、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の前駆体の表面に均一に被覆させることができる。その結果、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の表面の少なくとも一部を、導電性材料で均一に被覆することができる。前駆体の二次粒子の平均粒子径は、好ましくは3μm以上15μm以下であり、より好ましくは5μm以上10μm以下である。前駆体の平均粒子径が上述の範囲内であると、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の平均粒子径および比表面積を適切な値にすることができ、その結果、良好な充放電特性を得ることができる。
【0039】
(焼成)
次に、上述の前駆体を焼成する。焼成は、窒素等の不活性雰囲気、または水素もしくはアンモニアを含む還元雰囲気の下で行うことが好ましく、水素および窒素を含む還元雰囲気の下で行うことがより好ましい。このような条件の下で焼成を行うことにより、前駆体に含まれる遷移金属元素の還元がより容易になる。焼成温度は、500℃以上であると、炭素源の炭化が促進され、その結果、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の充放電特性をより向上させることができるので好ましい。焼成温度は、より好ましくは600℃以上である。また、焼成温度は、800℃以下であると、遷移金属元素源の還元が進行しすぎるのを防ぐことができるので好ましい。焼成温度は、より好ましくは700℃以下である。
【0040】
本発明の方法により得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は、表面の少なくとも一部が炭素で被覆されていることにより、良好な電子伝導性を有し、比表面積が大きいことにより、リチウムの挿入および脱離をスムーズに行うことができる。このため、本発明の方法により得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を正極活物質として用いることにより、良好な充放電特性を有する非水電解液二次電池を得ることができる。
【0041】
以下、本発明に係る実施例について説明する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0042】
マンガン源である酸化マンガン(Mn、平均粒子径11.5μm)112gと、リチウム源である炭酸リチウム(LiCO、平均粒子径5.80μm)116gと、ケイ酸源である20重量%コロイダルシリカ(SiO、平均粒子径0.04μm、日産化学工業製)446gと、炭素源であるショ糖32gと、分散媒である純水1600mlとを混合してスラリーを調製した。このとき、スラリー中のリチウム、マンガンおよび鉄のモル比はLi:Mn:Si=2.05:1:1であった。スラリーを容量5000mlのボールミルに入れ、ジルコニアボールを用いて40時間粉砕処理に付した。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.17μmであった。
【0043】
粉砕処理したスラリーを、噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥し、前駆体を得た。この前駆体を窒素ガス雰囲気下で700℃にて5時間焼成して焼成物を得た。これを実施例1のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物とよぶ。
【0044】
X線回折装置を用いて、得られた焼成物の相同定を行った。X線としてCuKα線(波長:λ=1.54nm)を用いて分析した結果、組成式Li2.05MnSiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。この焼成物の比表面積は44.8m/gであり、炭素含有量(オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物に対する炭素の重量割合)は2.7重量%であった。炭素含有量の測定は、TOC(Total Organic Carbon、全有機炭素)計により行った。
【実施例2】
【0045】
酸化マンガン109gと、鉄源(金属元素M源)である酸化鉄(Fe、平均粒子径1.1μm)6gと、炭酸リチウム116gと、20重量%コロイダルシリカ446gと、ショ糖32gと、純水1600mlとを混合してスラリーを調製した以外は実施例1と同様の手順で実施例2のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。スラリー中のリチウム、マンガンおよび鉄のモル比はLi:Mn:Fe:Si=2.05:0.95:0.05:1であった。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.17μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.95Fe0.05SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は46.4m/gであり、炭素含有量は3.0重量%であった。
【実施例3】
【0046】
酸化マンガン103gと、酸化鉄12gと、炭酸リチウム116gと、20重量%コロイダルシリカ446gと、ショ糖32gと、純水1600mlとを混合してスラリーを調製した以外は実施例1と同様の手順で実施例3のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。スラリー中のリチウム、マンガンおよびシリコンのモル比はLi:Mn:Fe:Si=2.05:0.90:0.10:1であった。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.17μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.90Fe0.10SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は46.7m/gであり、炭素含有量は2.8重量%であった。
【実施例4】
【0047】
酸化マンガン91gと、酸化鉄23gと、炭酸リチウム116gと、20重量%コロイダルシリカ446gと、ショ糖32gと、純水1600mlとを混合してスラリーを調製した以外は実施例1と同様の手順で実施例4のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。スラリー中のリチウム、マンガンおよびシリコンのモル比はLi:Mn:Fe:Si=2.05:0.80:0.20:1であった。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.17μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.80Fe0.20SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は49.1m/gであり、炭素含有量は2.8重量%であった。
【実施例5】
【0048】
酸化マンガン80gと、酸化鉄35gと、炭酸リチウム116gと、20重量%コロイダルシリカ446gと、ショ糖32gと、純水1600mlとを混合してスラリーを調製した以外は実施例1と同様の手順で実施例5のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。スラリー中のリチウム、マンガンおよびシリコンのモル比はLi:Mn:Fe:Si=2.05:0.70:0.30:1であった。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.18μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.70Fe0.30SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は44.0m/gであり、炭素含有量は2.7重量%であった。
【実施例6】
【0049】
酸化マンガン68gと、酸化鉄47gと、炭酸リチウム116gと、20重量%コロイダルシリカ446gと、ショ糖32gと、純水1600mlとを混合してスラリーを調製した以外は実施例1と同様の手順で実施例6のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。スラリー中のリチウム、マンガンおよびシリコンのモル比はLi:Mn:Fe:Si=2.05:0.60:0.40:1であった。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.17μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.60Fe0.40SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は44.9m/gであり、炭素含有量は2.9重量%であった。
【実施例7】
【0050】
酸化マンガン57gと、酸化鉄58gと、炭酸リチウム116gと、20重量%コロイダルシリカ446gと、ショ糖32gと、純水1600mlとを混合してスラリーを調製した以外は実施例1と同様の手順で実施例7のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。スラリー中のリチウム、マンガンおよびシリコンのモル比はLi:Mn:Fe:Si=2.05:0.50:0.50:1であった。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.18μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.50Fe0.50SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は42.7m/gであり、炭素含有量は2.9重量%であった。
【0051】
[比較例1]
酸化鉄114gと、炭酸リチウム116gと、20重量%コロイダルシリカ446gと、ショ糖32gと、純水1600mlとを混合してスラリーを調製した以外は実施例1と同様の手順で比較例1のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。スラリー中のリチウム、鉄およびシリコンのモル比はLi:Fe:Si=2.05:1:1であった。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.17μmであった。得られた焼成物は、Li2.05FeSiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は32.3m/gであり、炭素含有量は2.8重量%であった。
【実施例8】
【0052】
スラリーの粉砕処理の時間を5時間とした以外は実施例5と同様の手順で実施例8のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.59μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.70Fe0.30SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は37.4m/gであり、炭素含有量は2.8重量%であった。
【実施例9】
【0053】
スラリーの粉砕処理の時間を20時間とした以外は実施例5と同様の手順で実施例9のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.18μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.70Fe0.30SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は43.8m/gであり、炭素含有量は3.0重量%であった。
【実施例10】
【0054】
スラリーの粉砕処理の時間を100時間とした以外は実施例5と同様の手順で実施例10のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.17μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.70Fe0.30SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は44.6m/gであり、炭素含有量は2.8重量%であった。
【実施例11】
【0055】
スラリーの粉砕処理の時間を150時間とした以外は実施例5と同様の手順で実施例11のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、0.06μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.70Fe0.30SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は42.1m/gであり、炭素含有量は2.9重量%であった。
【0056】
[比較例2]
ショ糖の量を16gとした以外は実施例5と同様の手順で比較例2のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、
0.18μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.70Fe0.30SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は28.7m/gであり、炭素含有量は1.0重量%であった。
【実施例12】
【0057】
ショ糖の量を48gとした以外は実施例5と同様の手順で実施例12のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を作製した。粉砕処理後のスラリー中の粒子の平均粒子径は、
0.17μmであった。得られた焼成物は、Li2.05Mn0.70Fe0.30SiOで表されるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物と同定された。焼成物の比表面積は55.0m/gであり、炭素含有量は4.0重量%であった。
【0058】
[電池の作製]
実施例1〜12ならびに比較例1および2のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物を正極活物質として使用して、以下に示す手順で評価用電池を作製した。
【0059】
(正極の作製)
正極活物質9重量部と、導電剤であるアセチレンブラック0.5重量部と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン0.5重量部とを、分散媒であるN−メチルピロリドンに分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを、集電体としてのアルミニウム箔の片面に塗布し、乾燥後プレス機で圧縮成形して正極極板を得た。この極板を、サイズが5cmとなるように裁断して正極を得た。正極活物質層の重量は、正極1枚当たり約0.33gであった。
【0060】
(電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを体積比率3:7で混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度1mol/Lになるように溶解させて、電解液を調製した。
【0061】
(電池の組み立て)
負極としては、金属リチウム泊を使用した。上述の手順で作製した正極および負極の集電体に各々リード電極を取り付けたのち、正極と負極との間にセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。次いで、これを60℃で真空乾燥させて、各部材に吸着した水分を除去した。その後、アルゴン雰囲気下でラミネートパック内に電解液を注入し、封止した。こうして得られた電池を25℃の恒温槽に入れ、微弱電流でエージングを行った。
【0062】
[充放電試験]
上述の手順で作製した電池を25℃に設定した恒温槽に接続し、充放電試験を行った。まず、充電電圧4.25V、充電負荷0.02C(1Cは1時間で放電が終了する電流負荷を意味する)で充電を行い、充電容量を測定した。次いで、放電電圧2.0V、放電負荷0.02Cにて放電を行い、放電容量を測定した。測定した充電容量に対する放電容量の比(百分率)を充放電効率とした。
【0063】
実施例1〜12ならびに比較例1および2のオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の物性および充放電特性の測定結果を下記の表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例1〜7の結果より、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物中の鉄元素のモル比が大きいほど、即ちyの値が大きいほど、電池の充放電特性が向上する傾向にあることがわかる。しかし、比較例1の結果より、y=1の場合、即ちマンガンを含まない場合には、マンガンを含む実施例1〜7よりも充放電特性が低下することがわかる。これは、充放電時にMnがMn2+/Mn3+/Mn4+と価数変化してLiイオンを2個放出する又は取り込むのに対し、FeはFe2+/Fe3+と価数変化してLiイオンを1個放出する又は取り込むのみであり、そのため、yの値が大きくなると理論容量が低下する傾向にあることに起因すると考えられる。yの値が0.05以上0.6以下の場合に充放電特性がより向上する傾向にあり、yの値が0.2以上0.5以下の場合に充放電特性が特に向上した。また、実施例7および比較例1の結果より、yの値が大きいと、比表面積が小さくなる傾向にあることがわかる。これは、yの値が大きいほど、焼成時にオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の焼結により一次粒子の寸法が大きくなりやすいことに起因するものであると考えられる。
【0066】
実施例5および8〜11の結果より、スラリーの粉砕処理の時間が長いほど、粉砕後のスラリー中の粒子の平均粒子径は小さくなったが、20時間以上ではほぼ一定の値になったことがわかる。得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の比表面積は、粉砕時間が長いほど大きくなる傾向にあるが、粉砕時間が40時間以上の場合にはほぼ一定の値になる。更に、表1より、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の比表面積が大きいほど、充放電特性が向上する傾向にあることがわかる。比表面積が35m/g以上である場合に充放電特性が向上する傾向にあり、比表面積が40m/g〜60m/gである場合に、充放電特性が特に向上した。
【0067】
実施例7および12ならびに比較例2の結果より、炭素源の量が多いほど、得られるオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物に対する炭素の重量割合(炭素含有量)が増加し、また、比表面積が大きくなる傾向にあることがわかる。炭素源の量が多いほど比表面積が大きくなる理由は、表面に付着した炭素微粒子が増加することによると考えられる。実施例7および12ならびに比較例2の結果より、オリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物に対する炭素の重量割合が大きいほど、充放電効率が向上する傾向にあることがわかる。一方、充電容量および放電容量は、炭素含有量が4.0重量%である実施例12よりも、炭素含有量が2.9重量%である実施例7の方が最も高い値となった。これは、炭素含有量が多くなると、正極活物質としてはたらくオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物の量が相対的に少なくなり、その結果、単位重量当たりの充放電容量が小さくなることに起因すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るオリビン型ケイ酸遷移金属リチウム化合物は、非水電解液二次電池の正極活物質として利用可能であり、例えば、携帯電話を含む各種携帯機器の他、電気自動車およびハイブリッド電気自動車等への利用が可能である。