【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアリーレンスルフィド、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物、水酸化マグネシウム、繊維状充填材及びシランカップリング剤を配合し、更に必要に応じて離型剤を配合するポリアリーレンスルフィド系組成物は、優れた耐トラッキング性を有すると同時に機械的強度、靭性に優れ、かつ成形時の発生ガス量が少なく、溶融流動性、金型離型性、金型汚染性、成形品外観にも優れる組成物となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくとも下記の一般式(1)で示されるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)3〜35重量部、ビニル芳香族化合物重合体ブロック単位と共役ジエン化合物重合体ブロック単位よりなるブロック共重合体の水素添加物をカルボン酸基またはその誘導体基で変性した変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物(C)3〜45重量部、水酸化マグネシウム(D)50〜200重量部、繊維状充填剤(E)50〜150重量部、並びに、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン及びN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランからなる群より選択される1種以上のシランカップリング剤(F)
1〜6重量部を含むことを特徴とするポリアリーレンスルフィド系組成物に関するものである。
【0012】
【化1】
(ここで、x=0.25〜0.94、y=0〜0.04、z=0.02〜0.75で、x+y+z=1であり、Rは炭素数1〜10の炭化水素基である。)
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくとも、上記の一般式(1)で示されるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)3〜35重量部、変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物(C)3〜45重量部、水酸化マグネシウム(D)50〜200重量部、繊維状充填剤(E)50〜150重量部、並びに、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン及びN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランからなる群より選択される1種以上のシランカップリング剤(F)0.5〜6重量部を含むことからなるものである。
【0014】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成するポリアリーレンスルフィド(A)としては、ポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよく、その中でも、得られるポリアリーレンスルフィド系組成物が機械的強度、成型加工性に優れたものとなることから測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを用いて高化式フローテスターで測定した溶融粘度が50〜3000ポイズのポリアリーレンスルフィドが好ましく、特に60〜1500ポイズであるものが好ましい。
【0015】
該ポリアリーレンスルフィド(A)としては、その構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましい。また、他の構成単位として、例えばm−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等を含有していてもよく、中でもポリ(p−フェニレンスルフィド)が好ましい。
【0016】
該ポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法としては、特に制限はなく、例えば一般的に知られている重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能であり、アルカリ金属硫化物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びそれらの混合物が挙げられ、これらは水和物の形で使用しても差し支えない。これらアルカリ金属硫化物は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基とを反応させることによって得られ、ジハロ芳香族化合物の重合系内への添加に先立ってその場で調製されても、また系外で調製されたものを用いても差し支えない。また、ジハロ芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニル等が挙げられる。また、アルカリ金属硫化物及びジハロ芳香族化合物の仕込み比は、アルカリ金属硫化物/ジハロ芳香族化合物(モル比)=1.00/0.90〜1.10の範囲とすることが好ましい。
【0017】
重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温でのアルカリに対して安定な有機アミドが好ましい溶媒である。該有機アミドとしては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等が挙げられる。また、該重合溶媒は、重合によって生成するポリマーに対し150〜3500重量%で用いることが好ましく、特に250〜1500重量%となる範囲で使用することが好ましい。重合は200〜300℃、特に220〜280℃にて0.5〜30時間、特に1〜15時間攪拌下にて行うことが好ましい。
【0018】
さらに、該ポリアリーレンスルフィド(A)は、直鎖状のものであっても、酸素存在下高温で処理し、架橋したものであっても、トリハロ以上のポリハロ化合物を少量添加して若干の架橋または分岐構造を導入したものであっても、窒素等の非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。
【0019】
本発明を構成する上記の一般式(1)で示されるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)は、ポリアリーレンスルフィド系組成物の耐トラッキング性と靭性を向上させるために用いられるものである。そして、該エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)は、上記の一般式(1)において、x=0.25〜0.94、y=0〜0.04、z=0.02〜0.75で、x+y+z=1であり、Rは炭素数1〜10の炭化水素基からなるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体である。
【0020】
ここで、xが0.25未満である場合、得られる組成物は耐熱性に劣るものとなり、xが0.94を超える場合、得られる組成物は耐トラッキング性に劣るものとなる。また、yが0.04を超える場合、得られる組成物は熱安定性に劣り発生ガス量が多く、金型汚染性が劣るものとなる。更には、zが0.02未満である場合、得られる組成物は耐トラッキング性に劣るものとなり、zが0.75を超える場合、得られる組成物は機械的強度、靭性に劣るものとなる。そして、特に高い耐トラッキング性と、良好な機械的強度、靭性とを同時に備え、かつ成形時の発生ガス量が少ないポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、x=0.69〜0.94、y=0〜0.04、z=0.02〜0.31の範囲であるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体及び/又はエチレン−ビニルアルコール共重合体であることが好ましい。
【0021】
また、Rは炭素数1〜10の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等を挙げることができる。ここで、Rが炭素数10を超えるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体である場合、得られる組成物は機械的強度に劣るものとなる。
【0022】
該エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)の製法は特に制限はなく、例えばエチレン単量体、脂肪酸ビニルエステル単量体及びビニルアルコール単量体を共重合する方法;エチレン−脂肪酸ビニルエステル共重合体を部分鹸化する方法、等により得ることが可能であり、中でもエチレン−脂肪酸ビニルエステル共重合体を部分鹸化し得られるエチレン−脂肪酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体は工業的に入手が容易であることから好ましく、中でもエチレン−酢酸ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体は、工業的に入手が容易であること、特に耐トラッキング性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることから最も好ましい。
【0023】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する該エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、3〜35重量部である。該エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)の配合量が3重量部未満である場合、得られる組成物は耐トラッキング性及び靭性に劣るものとなる。一方、該エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)の配合量が35重量部を越える場合、得られる組成物は機械的強度、金型汚染性、成形品外観に劣り、成形時の発生ガス量が多いものとなる。
【0024】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物(C)は、ポリアリーレンスルフィド系組成物の靭性を向上させるために用いられるものである。更には、該変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物は、特にエチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)と組み合わせることより、ポリアリーレンスルフィド系組成物の靭性と耐トラッキング性を同時に向上させるものとなる。
【0025】
該変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物(C)としては、ビニル芳香族化合物重合体ブロック単位と共役ジエン化合物重合体ブロック単位よりなるブロック共重合体の水素添加物をカルボン酸基またはその誘導体基で変性したものであり、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良い。例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの、スチレン−イソプレンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したもの、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸またはその誘導体で変性したものが挙げられる。
【0026】
該変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物(C)において、特に耐熱変形性、靭性、耐トラッキング性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、ビニル芳香族化合物重合体ブロック単位の含有量は、9〜30重量%であることが好ましい。
【0027】
また、該変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物(C)において、カルボン酸基またはその誘導体基を導入する化合物としては、例えばマレイン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、イタコン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エンド−シス−ビシクロ(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等や、これらカルボン酸類の酸無水物、エステル化物、アミド化物、イミド化物などが挙げられる。その中でも、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸が好ましい。これらカルボン酸基またはその誘導体基の含有量は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)と組み合わせによるポリアリーレンスルフィド系組成物が、靭性と耐トラッキング性を同時に向上させる相乗効果に特に優れたものとなることから、0.2〜3.0重量%であることが好ましい。
【0028】
そして、該変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物としては、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)との組み合わせによるポリアリーレンスルフィド系組成物の靭性と耐トラッキング性を同時に向上させる相乗効果に特により優れるものとなることから、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水素添加物を無水マレイン酸で変性したものが最も好ましく、その具体的例示としては、(商品名)タフテックM−1913(旭化成ケミカルズ製)、(商品名)タフテックM−1943(旭化成ケミカルズ製)、(商品名)クレイトンFG−1901G(クレイトンポリマージャパン製)等が挙げられる。
【0029】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する該変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物(C)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、3〜45重量部である。該変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物(C)の配合量が3重量部未満である場合、得られる組成物は靭性に劣るものとなる。一方、該変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物(C)の配合量が45重量部を越える場合、得られる組成物は機械的強度、溶融流動性、金型汚染性に劣り、成形時の発生ガス量が多いものとなる。
【0030】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する水酸化マグネシウム(D)としては、水酸化マグネシウムと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも、得られるポリアリーレンスルフィド系組成物が、耐トラッキング性、溶融流動性に優れ、かつ高い機械的強度を有するものとなることから、化学式Mg(OH)
2で示される水酸化物を80重量%以上含む比較的純度の高い水酸化マグネシウムが好ましく、化学式Mg(OH)
2で示される水酸化物を80重量%以上、CaO含有量5重量%以下、塩素含有量1重量%以下である水酸化マグネシウムがより好ましく、Mg(OH)
295重量%以上、CaO含有量1重量%以下、塩素含有量0.5重量%以下である水酸化マグネシウムが更に好ましく、Mg(OH)
298重量%以上、CaO含有量0.1重量%以下、塩素含有量0.1重量%以下の高純度水酸化マグネシウムが最も好ましい。
【0031】
該水酸化マグネシウム(D)は、特に耐トラッキング性、靭性、機械的強度、溶融流動性、成形品外観に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、レーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D
50)が0.3〜10μmの範囲を有するものであることが好ましく、特に0.5〜3μmの範囲を有するものであることが好ましい。また、該水酸化マグネシウム(D)の比表面積は、特に耐トラッキング性、靭性、機械的強度、溶融流動性に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、10m
2/g以下であることが好ましい。
【0032】
該水酸化マグネシウム(D)としては、例えば表面処理が施されていない水酸化マグネシウム(以下、表面未処理水酸化マグネシウム(D1)と記す。)、表面処理剤等で表面処理が施された水酸化マグネシウム(以下、表面処理水酸化マグネシウム(D2)と記す。)、のいずれをも用いることが可能である。
【0033】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する該水酸化マグネシウム(D)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、50〜200重量部である。該水酸化マグネシウム(D)の配合量が50重量部未満である場合、得られる組成物は耐トラッキング性に劣るものとなる。一方、該水酸化マグネシウム(D)の配合量が200重量部を越える場合、得られる組成物は靭性、機械的強度、溶融流動性、金型離型性、成形品外観に劣るものとなる。
【0034】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する繊維状充填剤(E)は、該ポリアリーレンスルフィド系組成物の機械的強度及び寸法安定性を向上させるために配合されるものであり、この目的を達成できる繊維状充填剤であれば、如何なるものを用いることも可能である。繊維状充填剤(E)としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維等が例示でき、その中でも、ガラス繊維が好ましい。該繊維状充填剤(E)は、表面処理剤で表面処理したものであっても良い。
【0035】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する該繊維状充填剤(E)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、50〜150重量部である。該繊維状充填剤(E)の配合量が50重量部未満である場合、得られる組成物は機械的強度に劣るものとなる。一方、該繊維状充填剤(E)の配合量が150重量部を越える場合、得られる組成物は靭性、溶融流動性、成形品外観に劣るものとなる。
【0036】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成するシランカップリング剤(F)は、ポリアリーレンスルフィド系組成物の機械的強度、靭性を大幅に向上させるために用いられるものである。そして、該シランカップリング剤(F)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン及びN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランからなる群より選択される1種以上のシランカップリング剤であり、これら以外のシランカップリング剤では、得られる組成物は、機械的強度、靭性の向上効果に劣るものとなる。そして、中でも、得られるポリアリーレンスルフィド組成物の機械的強度、靭性の大幅な向上効果がバランス的にも優れるものとなることから、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン及び3−アミノプロピルトリエトキシシランからなる群より選択される1種以上のシランカップリング剤であることが好ましい。
【0037】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する該シランカップリング剤(F)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、0.5〜6重量部である。該シランカップリング剤(F)の配合量が0.5重量部未満である場合、得られる組成物は機械的強度に劣るものとなる。一方、該シランカップリング剤(F)の配合量が6重量部を越える場合、得られる組成物は成形時の発生ガス量が多くなり、溶融流動性、成形品外観に劣るものとなる。
【0038】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、得られる成形品の金型離型性や外観をより優れたものとするために離型剤(G)を配合してなることが好ましい。該離型剤(G)としては離型剤として知られている範疇に属するものであれば用いることが可能であり、例えばカルナバワックス(G1)、ポリエチレンワックス(G2)、ポリプロピレンワックス(G3)、ステアリン酸金属塩(G4)、酸アマイド系ワックス(G5)等を挙げることができ、その中でも特に得られる成形品の金型離型性、成形品外観に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることからカルナバワックス(G1)であることが好ましい。
【0039】
該カルナバワックス(G1)としては、一般的な市販品を用いることができ、例えば(商品名)精製カルナバ1号粉(日興ファインプロダクツ製)等を挙げることができる。
【0040】
該離型剤(G)の配合量は、特に金型離型性、成形品外観に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることからポリアリーレンスルフィド(A)、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(B)、変性ビニル芳香族化合物系ブロック共重合体の水素添加物(C)、水酸化マグネシウム(D)、繊維状充填剤(E)及びシランカップリング剤(F)の合計量100重量部に対し、0.05〜5重量部であることが好ましい。
【0041】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、非繊維状充填剤を配合していてもよく、非繊維状充填剤としては、例えばワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、タルク、アルミナシリケート等の珪酸塩;酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;窒化珪素、窒化硼素、窒化アルミニウム等の窒化物;ガラスフレーク、ガラスビーズ等を例示でき、その中でも、マイカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズが好ましい。また、該非繊維状充填剤は、表面処理剤等で表面処理したものであってもよい。
【0042】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えばエポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の1種以上を混合して使用することができる。
【0043】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物の製造方法としては、従来使用されている加熱溶融混練方法を用いることができる。例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダー等による加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常280〜400℃の中から任意に選ぶことが出来る。また、本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物からなるケースは、射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機等を用いて任意の形状に成形することができる。
【0044】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、従来公知の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、発泡剤、金型腐食防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料等の着色剤、帯電防止剤等の添加剤を1種以上併用しても良い。
【0045】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバータ、コンデンサ板などの各種ケース用途に好適に使用でき、その中でも、優れた耐トラッキング性を有すると同時に機械的強度、靭性にも優れ、かつ成形時の発生ガス量が少なく、溶融流動性、金型離型性、金型汚染性及び成形品外観に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物からなる大容量パワーモジュールである絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor;IGBT)モジュールのケースとして特に好適に使用できる。
【0046】
該絶縁ゲート型バイポーラトランジスタモジュール用ケースは、鉄道車両のインバータ、大型の無停電電源装置のインバータ、電気自動車やハイブリッド自動車の電動機用のインバータ、太陽光発電や風力発電のパワーコンディショナ、大型モータやエレベータ等のインバータ等に使用される、定格電圧が1000V以上、定格電流が10A以上である大容量パワーモジュール、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタモジュールのケースとして適用でき、その信頼性を高めることができる。