(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
減圧雰囲気下にて、ロール状に巻回された樹脂フィルムを巻出し、ロールツーロール方式で搬送して加熱処理を行い、前記加熱処理後に温度調整ロールを介して前記樹脂フィルムを搬送、冷却してロール状に巻取る熱処理方法であって、
前記樹脂フィルムが、液晶ポリマーフィルムであり、
前記加熱処理における加熱温度が、前記樹脂フィルムのフィルム温度(TH)で120℃以上、前記樹脂フィルムのα緩和温度より20℃低い温度以下の範囲であり、
前記温度調整ロールの表面温度(TR)と、前記温度調整ロールに接触する直前の前記樹脂フィルムの温度(TF)との差(TF−TR)が、50℃以内であることを特徴とする熱処理方法。
液晶ポリマーフィルムを加熱処理した後、前記加熱処理した液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に表面処理を行い、前記表面処理した面に接着剤を介することなくスパッタリング法を用いて第1金属層を形成し、前記第1金属層上にスパッタリング法による銅成膜と電解銅めっき法による銅被膜から構成される第2金属層である銅層を形成するめっき積層体の製造方法であって、
前記表面処理後の液晶ポリマーフィルムが、二乗平均粗さ(RMS)で50nm未満、且つ算術平均粗さ(Ra)で50nm未満の表面を有する全芳香族ポリエステルを主成分とする液晶ポリマーフィルムであり、
前記加熱処理が、請求項1〜6に記載の熱処理方法で、
前記第1金属層の膜厚が、2〜30nmで、
前記第2金属層である銅層の膜厚が、0.1〜20μmであることを特徴とするめっき積層体の製造方法。
前記表面処理が、プラズマ処理、イオンビーム照射処理、紫外線照射処理のいずれかもしくは前記処理を組み合せた処理であることを特徴とする請求項7に記載のめっき積層体の製造方法。
前記第1金属層が、ニッケル、クロム、ニッケルを含む合金、クロムを含む合金、ニッケル及びクロムを含む合金から選ばれる一種であることを特徴とする請求項7又は8に記載のめっき積層体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリエステルからなる液晶ポリマーフィルム(以後、単に液晶ポリマーフィルムと称する場合は、この「全芳香族ポリエステルからなる液晶ポリマーフィルム」を指し示す)は、電気・電子部品の小型・薄型化の進展に伴い、低吸水性、高周波における誘電損失が低いといった電気特性に優れていることから、銅張積層板などプリント配線基板向けの絶縁フィルムへの展開が検討されている。
【0003】
この液晶ポリマーフィルムを基板とした銅張積層板の製造方法としては、回路を形成する導体に用いられる電解銅箔と液晶ポリマーフィルムを熱圧着(ラミネート)法にて貼り合わせる方法、もしくは液晶ポリマーフィルム上にドライプロセス(例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法など)により液晶ポリマーフィルム上に薄膜の下地金属層を形成し、その上に電気銅めっきにて銅層を形成するメタライジング法、の2つが代表的な製造方法として挙げられる。
【0004】
しかし、特許文献1にある熱圧着法では、電解銅箔と液晶ポリマーフィルムの密着性が低い為、その銅箔表面を粗化する対応が必要となるが、その表面粗化の結果、伝送損失が大きくなり、液晶ポリマーフィルムの持つ伝送損失の低減効果が得られないことが課題となっている。
一方で、メタライジング法で製造される銅張積層板においては、銅層/液晶ポリマーフィルム界面が平滑である為、液晶ポリマーフィルム表面の凹凸によるアンカー効果が得られず、銅層と液晶ポリマーフィルムの接着界面の接着強度が不十分となる。そこで、例えば特許文献2にあるように、液晶ポリマーフィルムと銅層の間に下地金属(シード)層として、Ni、Cr等を主成分とする金属合金層を形成することで接着力向上が図られている。
【0005】
さらに、液晶ポリマーフィルムは銅層との接着性が悪く、その改善の為にコロナ放電、紫外線照射、エキシマレーザー照射、サンドプラスト、化学薬品による薬液処理、プラズマ処理などの方法が提案されている。特に、プラズマ処理やイオンビーム照射は表面エッチングによる洗浄効果及び極性基の導入に最も効果があるとされ広く工業的に利用されているが、一方で分子鎖の切断や架橋反応なども伴うが、表面層のみの改質にとどめることにより、液晶ポリマーフィルムのバルクの性質を維持することができる。さらに、ガス種や処理方法の組み合わせにより様々な処理効果が得られる。
【0006】
また、プラズマ処理の効果に関して非特許文献1では、酸素、窒素、水素プラズマガスによる処理はいずれも接着性改善効果が得られるものの、窒素、水素プラズマ処理では表面改質により親水性成分が著しく増加し、銅層と液晶ポリマーフィルムの界面に水が浸入しやすく、信頼性低下を招く為、酸素プラズマによる処理が最も適していると報告されている。
【0007】
さらに特許文献3には、液晶ポリマーフィルムのプラズマ処理を行う前に加熱処理を行い、製造工程、保管中に吸着した水分を脱離しておくことが記載されている。この加熱処理は、液晶ポリマーフィルムなどめっき積層体に用いられる樹脂フィルム中に含まれる水分が、ドライプロセスで金属層を形成する時に揮発して、金属層を酸化するのを防止することと、液晶ポリマーフィルムと金属層との密着性を向上させる目的で施されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら上記加熱処理の温度が高すぎると、その後の熱収縮により液晶ポリマーフィルムが変形することがあった。また液晶ポリマーフィルムを熱処理後に急冷すると、シワが発生することもあった。
そこで本発明は、減圧雰囲気下にて液晶ポリマーフィルムのシワや変形が発生することのない熱処理方法の提供、及びこの熱処理方法を用いることで液晶ポリマーフィルムと金属層との密着性を維持しつつ、低伝送損失を実現するめっき積層体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の発明は、減圧雰囲気下にて、ロール状に巻回された樹脂フィルムを巻出し、ロールツーロール方式で搬送して加熱処理を行い、加熱処理後に温度調整ロールを介して前記樹脂フィルムを搬送、冷却してロール状に巻取る熱処理方法であって、樹脂フィルムが、液晶ポリマーフィルムであり、加熱処理における加熱温度が、樹脂フィルムのフィルム温度(T
H)で120℃以上、前記樹脂フィルムのα緩和温度より20℃低い温度以下の範囲であり、
前記温度調整ロールの表面温度(T
R)と、前記温度調整ロールに接触する直前の前記樹脂フィルムの温度(T
F)との差(T
F−T
R)が、50℃以内であることを特徴とする熱処理方法である。
【0012】
本発明の第2の発明は、第1の発明の
加熱処理における加熱温度が、樹脂フィルムのフィルム温度(TH)で120℃以上、その樹脂フィルムのα緩和温度より36.7℃低い温度以下の範囲であることを特徴とする熱処理方法である。
【0013】
本発明の第3の発明は、第1の発明の加熱処理における加熱温度が、樹脂フィルムのフィルム温度(TH)で180℃以上、その樹脂フィルムのα緩和温度より40℃低い温度以下の範囲であることを特徴とする熱処理方法である。
【0014】
本発明の第
4発明は、
第1から第3の発明における温度調整ロールに接触する直前の樹脂フィルムのフィルム温度(T
F)が、温度調整ロールと搬送されてくる樹脂フィルムとの接触線を基準として、樹脂フィルムの搬送方向とは逆方向に50mm、あるいは樹脂フィルムが2秒間に搬送される搬送距離のうち、短い方の距離以内の位置で計測されることを特徴とする熱処理方法である。
【0015】
本発明の第
5の発明は、
第1〜第4の発明における温度調整ロールが、ロール表面の少なくとも一方の端部に熱放射率の高い材料を被着され、温度調整ロールの表面温度(T
R)は被着されている熱放射率の高い材料の表面温度であることを特徴とする熱処理方法である。
【0016】
本発明の第
6の発明は、
第5の発明における前記熱放射率の高い材料が、黒体テープまたは黒体塗料であることを特徴とする熱処理方法である。
【0017】
本発明の第
7の発明は、液晶ポリマーフィルムを加熱処理した後、その加熱処理した液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に表面処理を行い、その表面処理した面に接着剤を介することなくスパッタリング法を用いて第1金属層を形成し、その第1金属層上にスパッタリング法による銅成膜と電解銅めっき法による銅被膜から構成される第2金属層である銅層を形成するめっき積層体の製造方法であって、表面処理後の液晶ポリマーフィルムが、二乗平均粗さ(RMS)で50nm未満、且つ算術平均粗さ(Ra)で50nm未満の表面を有する全芳香族ポリエステルを主成分とする液晶ポリマーフィルムであり、その加熱処理が、
第1から第6の発明のいずれかに記載の熱処理方法で、さらに第1金属層の膜厚が、2〜30nmで、第2金属層である銅層の膜厚が、0.1〜20μmであることを特徴とするめっき積層体の製造方法である。
【0018】
本発明の第
8の発明は、
第7の発明における表面処理が、プラズマ処理、イオンビーム照射処理、紫外線照射処理のいずれかもしくはそれらの処理を組み合せた処理であることを特徴とするめっき積層体の製造方法である。
【0019】
本発明の第
9の発明は、
第7及び第8の発明における第1金属層が、ニッケル、クロム、ニッケルを含む合金、クロムを含む合金、ニッケル及びクロムを含む合金から選ばれる一種であることを特徴とするめっき積層体の製造方法である。
【0020】
本発明の第
10の発明は、ロール状に巻回された樹脂フィルムの巻出手段と、樹脂フィルムをロールツーロール方式で搬送する手段と、樹脂フィルムに加熱処理を施す手段と、加熱処理後に処理済み樹脂フィルムと接触状態を形成して搬送、同時に冷却する少なくとも1つ以上の温度調整ロールを備える樹脂フィルム冷却手段と、冷却された樹脂フィルムの巻取手段を備え、さらに、熱処理装置を減圧雰囲気とするための排気手段を備え、温度調整ロールが、温度調整ロール表面温度を制御する手段と、温度調整ロール表面温度を測定する手段と、温度調整ロールと接触状態を形成する直前の搬送される樹脂フィルムの温度を測定する手段とを有
し、温度調整ロールと接触状態を形成する直前の搬送される樹脂フィルムの温度を測定する手段が、温度調整ロールと搬送されてくる樹脂フィルムとの接触線を基準に前記樹脂フィルムの逆搬送方向に50mm、あるいは前記樹脂フィルムが2秒間に搬送される距離のうち短い方の距離以内の位置の温度を計測するように配置され、温度調整ロールがロール表面の樹脂フィルム接触範囲の外側の少なくとも一方の端部に、熱放射率の高い材料が被着され、前記温度調整ロール表面の温度を測定する手段は、熱放射率の高い材料の表面温度を計測するように配置されていることを特徴とする熱処理装置である。
【0021】
本発明の第11の発明は、第10の発明における熱放射率の高い材料が、黒体テープまたは黒体塗料であることを特徴とする熱処理装置である。
【0022】
本発明の第12の発明は、
第10の発明又は第11の発明における温度を測定する手段が、放射温度計であることを特徴とする熱処理装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、全芳香族型ポリエステルの液晶ポリマーフィルムと金属層で構成され、加熱処理後の熱収縮によるシワや変形がなく、液晶ポリマーフィルムの特性である低伝送損出を備えつつ、液晶ポリマーフィルムと金属層間の密着強度も十分に高められためっき金属張積層体が得られる製造方法を提供するもので、工業上顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明におけるめっき積層体は、全芳香族ポリエステルを主成分とするサーモトロピック液晶ポリマーフィルムを減圧雰囲気下で加熱処理を行い、その片面または両面に表面処理を行った後、接着剤を介することなくスパッタ法で成膜される下地層となる2nm〜30nmの膜厚の第1の金属層、および第2の金属層としてスパッタ法および電解めっき法により形成された0.1μm〜20μmの膜厚の銅層とから構成される。なおこのめっき積層体はメタライジング法で作製したプリント配線基板用の銅張積層板に好適である。
【0026】
本発明で使用する液晶ポリマーフィルムの吸水率は約0.04%であり、銅張積層板にも用いられるポリイミドフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルムに比べても十分に低いが、真空中での処理中に揮発するため、スパッタ膜を酸化させることが懸念される。
そこで、液晶ポリマーフィルム中の水分の除去および液晶ポリマーの表面近傍の分子の状態を適正化することを目的に減圧下で加熱処理を行う。また大気中(大気圧下)の加熱処理でも効果は期待できるが、揮発した水分が再吸着し、再度吸湿する可能性があるので、減圧下、好ましくは100Pa以下に排気しながら加熱処理を行うことが望ましい。
【0027】
次に、この加熱処理における熱処理方法について詳細する。
図1は、加熱処理を行う装置の一例を示す模式図で、10は加熱処理装置、1は真空チェンバー、2は巻出装置、3はガイドロール、4はヒーターユニット、5は温度調整ロール、6は巻取装置、21は巻出ロール、22は巻取ロールである。
図1を参照しながら熱処理方法について説明する。
【0028】
加熱処理装置10は、排気手段(図示せず)を備える真空チャンバー1内に、ロールツーロール方式で樹脂フィルムを搬送しながら加熱処理を行う構成である。
液晶ポリマーフィルムはロール状に巻回され、巻出装置2に装着されて巻出ロール21を構成する。巻出ロール21より繰り出された樹脂フィルムFは、複数のガイドロール3を介して搬送され、ヒーターユニット4にて加熱され、温度調整ロール5を経て冷却され、巻取装置6により巻き取られる。22は巻取装置6により巻き取られた加熱処理済みの液晶ポリマーフィルムの巻取ロールである。
【0029】
加熱処理の温度は、液晶ポリマーフィルムの温度T
Hを、120℃以上、液晶ポリマーフィルムのα緩和温度より20℃低い温度以下の範囲に保持する温度とし、さらに好ましくは、180℃以上、液晶ポリマーフィルムのα緩和温度より40℃低い温度以下が望ましい。
なお、α緩和温度は、動的粘弾性装置(DMA:Dynamic Mechanical Analysis)で測定した値を用いる。
この液晶ポリマーフィルムの温度T
Hが120℃より低い場合は、脱水や密着性向上の効果は少なく、液晶ポリマーフィルムのα緩和温度より20℃低い温度を超えると加熱後の熱収縮によるフィルムの変形、さらに搬送時の張力による破断などが生じることがある。
【0030】
また、加熱処理の温度が高い場合、液晶ポリマーフィルムの温度も高くなり、ロールツーロールで樹脂フィルムFを搬送中に、張力がかかり破断することもある。そのため張力の上限は4000kN/m
2以下、好ましくは2500kN/m
2以下がよい。また、張力の下限は80kN/m
2以上が望ましく、張力が弱すぎると、加熱中の液晶ポリマーフィルムが波を打つことがある。
この張力範囲に制御するために、
図1の巻出装置2から巻取装置6までの樹脂フィルムFの搬送経路中に、適宜公知の張力付与手段(図示せず)を配置する。
【0031】
この加熱処理における加熱処理時間には、特に制限はなく、温度が高くなるにつれて短く設定することが可能である。液晶ポリマーフィルムの温度T
Hが120℃から液晶ポリマーフィルムのα緩和温度より20℃低い温度の範囲になる時間が2〜200秒間、好ましくは2〜60秒間の範囲内である。
【0032】
加熱処理によって温度上昇した樹脂フィルムFは、
図1の温度調整ロール5に接触することで冷却される。しかし樹脂フィルムFと温度調整ロール5の温度差が大きいほど樹脂フィルムFは急冷され、熱収縮が激しくなる。従って樹脂フィルムFが搬送により温度調整ロール5に接するとき、接する直前の樹脂フィルムFの温度T
Fと温度調整ロール5のロール表面温度T
Rとの温度差(T
F−T
R)は50℃以下、さらに好ましくは30℃以下が良い。この温度差が50℃より大きいと、上記の通り熱収縮でシワが発生しやすくなる。
【0033】
上記「温度調整ロールに接する直前の樹脂フィルムFの温度T
F(以下、「接する直前の樹脂フィルムFの温度T
F」と称す。)は、温度調整ロール5に接触する直前の樹脂フィルムの表面温度であることが望ましい。
すなわち、接する直前の樹脂フィルムFの温度T
Fは、
図2で示されるように放射温度計A(フィルム)11が示す通り、樹脂フィルムFと温度調整ロール5の接触線CLを基準として、樹脂フィルムFの逆搬送方向側で、距離50mm、あるいは樹脂フィルムFが2秒間に搬送される距離(2v:vは搬送速度[mm/秒])のうち短い方の距離L以内の位置で計測される樹脂フィルムFの表面温度であることが望ましい。なお樹脂フィルムFと温度調整ロール5及び放射温度計A(フィルム)11、放射温度計B(ロール)12との配置関係を
図2に示す。
図2において、樹脂フィルムFは、白抜き矢印の方向に搬送速度v[mm/s]で送られ、温度調整ロール5と接触線CLで接触して、紙面表から裏方向に送られる。5aは熱放射材である。
【0034】
図3は温度調整ロール5の一例を示す外観図である。
温度調整ロール5は、樹脂フィルムFの幅より広い幅を有し、
図2に示すようにフィルム接触範囲の外側の少なくとも一方の端部に熱放射率の高い熱放射材5aが設けられている。
例えば黒体テープを貼付して用いる。なお熱放射材は黒体テープ、これに限定されることはなく、熱放射率が高い材料がロール表面に被着していればよく、黒体塗料等でもよい。
図3では両端部に熱放射率が高い材料を被着している状態を示している。
温度調整ロール5の表面温度は、
図1で放射温度計B(ロール)12で計測するが、黒体テープ等の熱放射率の高い材料を被着させた部分を計測するのが望ましい(
図2参照)。上記温度の計測は公知の温度計測手段を用いればよいが、
図1のように放射温度計が好適である。
【0035】
加熱処理後に樹脂フィルムFが搬送されて接触する温度調整ロール5は、ロールの表面と樹脂フィルムFとの温度差を上記の温度範囲とするために、ロール径や材質を適宜選択して成されるものであるが、さらに温度制御手段を有しても良い。
この温度制御手段は、公知のものを利用しても良いが、ロール表面温度が一定になるように、ロール内部に水や有機溶媒等の冷媒を循環させて、その液温をPID制御する等が好適である。
【0036】
温度調整ロール5にて十分に樹脂フィルムFの温度が下がらない場合は、温度調整ロール5の搬送経路後方に配置した搬送用のロール(例えば、
図1の符号3aに示すガイドロール)も温度調整が可能なロールにすることが望ましい。
すなわち温度調整ロールの個数は、加熱温度、樹脂フィルムFと温度調整できるロールとの温度差の設定値、搬送速度、搬送経路の長さ等を考慮して増減させればよい。なおすべての温度調整ロールには、
図1の放射温度計A(フィルム)11や放射温度計B(ロール)12のように、樹脂フィルムFと温度調整ロール5の表面の温度を測定する手段を付加するのが望ましい。
【0037】
本発明におけるめっき積層体に使用する液晶ポリマーフィルムの主成分である全芳香族ポリエステルは、電気・電子部品として使用する際に必須である半田耐熱性を考慮し、230℃以上の融点を持つ、以下の化1、化2に例示する「共重合体化合物(I)」、「共重合体化合物(II)」から選ばれるポリエステルを使用することができる。
【0040】
本発明において使用される液晶ポリマーフィルムには、必要に応じ、滑剤としてポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート等の重合体、酸化防止剤等の添加剤として無機粒子、繊維等の充填材などを配合することができる。
【0041】
本発明におけるめっき積層体に使用する液晶ポリマーフィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、10μm以上であることが好ましい。10μm未満の場合、フィルムの厚さが薄すぎる為に、金属層を形成するめっき搬送時にシワが発生しやすく、生産性が低下する。
【0042】
本発明におけるめっき積層体に使用する液晶ポリマーフィルムは、Tダイ法、インフレーション法等の押出成形方法などの公知の方法によって製造されたものを使用することができる。また、熱変形温度や融点に代表される耐熱性を高めたる目的で熱処理を施された液晶ポリマーフィルムを使用してもよい。
【0043】
本発明におけるめっき積層体に使用する液晶ポリマーフィルムは、その両面の二乗平均粗さ(RMS)及び算術平均粗さ(Ra)が50nm未満であることが必要である。
二乗平均粗さ(RMS)及び算術平均粗さ(Ra)が50nm以上の場合、液晶ポリマーフィルムと金属層との密着性は向上するが、表面の凹凸による伝送損失が大きくなり、結果として液晶ポリマーフィルムの持つ低い誘電損失による伝送損失の低減効果が得られなくなる。
【0044】
めっき積層体の製造では、液晶ポリマーフィルム表面に金属層を形成する前に、表面改質処理をすることが望ましい。
その方法としては、プラズマ処理、イオンビーム照射、紫外線照射のいずれか、若しくは組み合わせて用いることができる。
この表面改質処理によって、液晶ポリマーフィルム表面はエッチングされて清浄状態になるとともに、脆弱な層が除去され、さらに極性基の導入を行うことで界面の密着力を高めることができる。ただし、表面処理後の表面粗さは、表面処理前とほぼ同等であることが望ましい。
【0045】
プラズマ処理のガスは、酸素、アルゴン、窒素、水素、二酸化炭素、水蒸気等を使用することができる。また、これらのガスの混合したガスを使用してもよい。プラズマ処理におけるガス圧は0.5Pa以上が望ましい。ガス圧の下限は、使用するガス種によって異なり、放電持続可能な圧力とする必要がある。これは、電子衝撃による気体の電離断面積や、電極表面や放電空間の状態によって変化する。
また、電源の周波数にも依存し、例えば、直流放電プラズマより高周波放電プラズマの方が、より低圧で放電可能である。ガス圧の上限は特にないが、直流放電プラズマでは、アーク放電が発生する圧力より低圧にすることが望ましい。
【0046】
このプラズマによるフィルムの表面処理は、ガス種、ガス圧だけでなく、印加電圧、電流、処理時間にも依存する。さらに印加電圧を変化させると電流も変化するため、プラズマ処理強度Jを下記(1)式に示すように定め、その範囲は15〜300kJ/m
2が望ましい。プラズマ処理強度が15kJ/m
2未満では、密着力が小さく、300kJ/m
2を超えると、フィルムが熱変形することがある。
【0048】
イオンビームを照射する場合、イオンビームを照射するためのイオンガンとして、カウフマン型、クローズドドリフトイオンソース等が利用することができる。イオン源としては、DC放電、RF放電や、マイクロ波放電等を利用することができる。
イオンガンに使用するガスは、水素、ヘリウム、酸素、窒素、空気、フッ素、ネオン、アルゴン、クリプトンのいずれかを使用することができる。また、これらのガスの混合したガスを使用してもよい。
【0049】
イオン化粒子の種類、イオン粒子のエネルギー、イオン粒子の照射量等は特に限定されないが、液晶ポリマーフィルム表面を所望する状態に改質することができればよい。
通常、イオンガンの放電電圧、放電電流、放電電力、ビームガス流量、イオンガン室の圧力、フィルム送り速度などを適宜選択して、イオン粒子の平均エネルギーを50〜5000eVの範囲に調節することが好ましい。
【0050】
紫外線を照射する場合、紫外線の主成分の波長が180〜500nmの範囲にあることが好ましく、紫外線を発生し得る光源としては、メタルハライドランプ、水銀ランプ、エキシマランプなどが挙げられる。紫外線照射時間と照度は、使用するモノマーや光増感剤の種類などによって適宜選択すればよいが、一般的には、照射時間が0.1〜6000秒、照度が1〜500mW/cm
2、好ましくは10〜300mW/cm
2である。
【0051】
次に、めっき積層体の第1金属層(下地金属層)を形成する金属としては、例えば、ニッケル、クロム、モリブデン、チタン、バナジウム、錫、金、銀、亜鉛、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、鉄、アルミニウム、鉛−錫系はんだ合金などが挙げられ、これらの金属を1種以上含む合金であることが望ましい。さらには、これらの中でも、ニッケル、クロム、ニッケルを含む合金、クロムを含む合金、ニッケル及びクロムを含む合金から選ばれる一種であることがさらに望ましい。
【0052】
この第1金属層は、蒸着やスパッタリング等の乾式めっきで形成し、特にスパッタリングで形成することが望ましい。
その厚みは、金属層を形成するには2nm以上であることが望ましく、上限としては30nm以下であることが望ましい。第1金属層の厚みが2nm未満では、スパッタリングによる膜成長の初期段階は島状であるため、液晶ポリマーフィルムと金属層界面における表皮効果(周波数が高くなる程、界面に信号が集中する現象)により、伝送損失が大きくなる可能性が高くなる。また、周波数が高いほど、表皮効果が発生する膜厚は薄くなる(例えば10GHzの時、約50〜60nm)為、膜厚バラツキを考慮し、第1金属層の厚みは30nm以下とすることが望ましい。
【0053】
次に、めっき積層体の製造ではスパッタ法及び電解銅めっき法により第2金属層の銅層を形成するが、その厚みは、0.1〜20μmの範囲内とすることが望ましい。
第2金属層の厚みが0.1μmよりも薄い場合、セミアディティブ法で配線加工する際に湿式めっき工程で給電がし辛くなるため好ましくない。対して20μmよりも厚くなると、エッチングによる配線加工の生産性が低下するばかりでなく、基板としての総厚も厚くなってしまうので、好ましくない。なお、スパッタ法の銅薄膜層の膜厚は、上記銅層の膜厚の範囲にあればよい。
【0054】
本発明の製造方法によって得られるめっき積層体は、プリント配線基板に対して有用であり、例えば、リード付部品を穴を通して基板に実装するピン挿入実装法、ケース付部品を穴を通さず表面で基板に実装する表面実装法、裸のICチップを基板に実装するICチップ実装法などの公知の方法により、表面実装部品を装着することができる。
【0055】
以上説明しためっき積層体である銅張積層板を用いて、プリント配線基板の配線を形成するには、サブトラクティブ法又はセミアディティブ法を用いることができる。
サブトラクティブ法とは、銅張積層板の銅層を化学エッチング処理して不要部分を除去する方法である。即ち、銅張積層板の銅層のうち導体配線として残したい部分の表面にレジストを設け、銅に対応するエッチング液による化学エッチング処理と水洗を経て、銅層の不要部分を選択的に除去して導体配線を形成するものである。
一方、セミアディティブ法とは、銅張積層板の下地金属層および銅層の上にレジスト層を形成し、フォトリソグラフィーにより、レジスト層をパターニングし、配線を形成したい箇所のレジスト層を除去して得られる銅層が露出した開口部に銅めっきを施し、配線を形成する。配線を形成後、レジスト除去を行い、不要な銅層および下地金属層を化学エッチング処理して極薄銅層および下地金属層部分を除去する方法である。
【0056】
本発明に係るめっき積層体のめっき層は、上記説明してきた金属層に限定されず、酸化物や窒化物を乾式めっき法で形成しためっき積層体にも適用できる。長手方向および幅方向の寸法安定性が改善された酸化物のめっき層が積層されためっき積層体を求める場合は、本発明は有益である。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の実施例、比較例を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら制限されることはない。
プラズマ処理後の液晶ポリマーフィルム表面の二乗平均粗さ(RMS)及び算術平均粗さ(Ra)、めっき積層体における液晶ポリマーフィルム−金属層間の密着強度、伝送損失は以下の方法により測定した。
まためっき積層体の形成工程のうち、減圧下での加熱処理、プラズマ処理による表面改質、スパッタリング、電気銅めっきの条件を下記に示した。
【0058】
(特性評価)
1.二乗平均粗さ(RMS)及び算術平均粗さ(Ra)
日本ビーコ株式会社製 NanoscopeV及びNANO WORLD製 プローブSEIHR(ばね定数:12〜13N/m、共振周波数123〜125kHz)にて、液晶ポリマーフィルム表面をタッピングモードにて測定し、2×2μm角内のRMS及びRaを算出した。
【0059】
2.密着強度
銅層側に1mm幅のマスキングを行った後、40℃の第二鉄溶液(比重40Be′)にて30秒間浸漬し、金属層をエッチングして除去することで、1mm幅の金属層を得た。株式会社島津製作所製 「オートグラフEZ Graph」にて、JIS C 6471に記載されている「90°方向引き剥がし方法」により金属層を20mm/min、90°方向に引っ張り、得られた引き剥がし荷重を試料幅1mmで除した値を接着強度(N/m)とした。
【0060】
3.伝送損失
特性インピーダンスが50Ωのマイクロストリップ線路を形成し、HP社製の「ネットワークアナライザー HP8510C」により透過係数を測定し、各周波数での伝送損失を求めた。
【0061】
(めっき積層体の形成)
実施例で用いためっき積層体の製造方法を以下に示す。
【0062】
[減圧下での加熱処理]
液晶ポリマーフィルムを
図1の熱処理装置の巻出2に設置し、真空チャンバー1内を真空ポンプで圧力が1Pa以下になるまで排気し、液晶ポリマーフィルムを搬送しながらヒーターユニット4(赤外線ヒーター)を用いて液晶ポリマーフィルムの両側から加熱した。予め液晶ポリマーフィルムに極細の熱電対を設置し、ヒーターユニット4と液晶ポリマーフィルムの温度の関係を把握した後、実際の加熱処理はヒーターユニット4の設定温度で制御した。
【0063】
[プラズマ処理による表面改質]
真空チェンバー内の圧力が1×10
−4Pa以下となるまで真空引きした後、ガスを導入し、上記(1)式により定義されたプラズマ処理強度Jになるように印加電圧V、電流I、処理時間t、及び電極表面積Aを適宜設定した後、直流放電プラズマにより液晶ポリマーフィルム表面にプラズマ処理を施した。
【0064】
[スパッタリング]
次に真空チェンバー内の圧力が1×10
−4Pa以下となるまで真空引きした後、アルゴンガスを真空チャンバー内に導入して、その圧力を0.3Paとし、プラズマ処理を施したフィルム表面にスパッタリング法によりNi−20質量%Cr合金層、次いで銅層からなるスパッタ層を積層した。
【0065】
[電気銅めっき]
電流密度2A/dm
2で電気銅めっき(めっき液:硫酸銅溶液)を行ない、スパッタ層上に膜厚8μmの銅めっき層を形成した。
【実施例1】
【0066】
株式会社クラレ製ポリエステル系液晶ポリマーフィルム 「Vecstar−CTZ(共重合体化合物IIの構造を有する全芳香族型ポリエステル、膜厚50μm、α緩和温度236.7℃)」を、
図1の加熱処理装置10にて液晶ポリマーフィルム温度が200℃になるように加熱処理を行った。このとき加熱後の放射温度計A(フィルム)11で測定した温度調整ロール5直前の液晶ポリマーフィルムの温度は90℃で、放射温度計B(ロール)12で測定した温度調整ロール5の表面の温度は60℃であった。
その後、液晶ポリマーフィルム両面に、プラズマ処理強度83kJ/m
2にて酸素プラズマ処理を行った。続いてスパッタリング法によりNi−20質量%Crを8nm、銅を100nm積層し、続いて電解銅めっきにより銅めっき層を8μm形成し、めっき積層体を作製した。
【0067】
次に、プラズマ処理後の液晶ポリマーフィルム両面(非光沢面、光沢面)の2×2μm角におけるRMS及びRa、めっき積層体の密着強度、伝送損失を測定した。
結果を表1に示す。
【実施例2】
【0068】
実施例1と同じ液晶ポリマーフィルムを、
図1の熱処理装置内で液晶ポリマーフィルム温度が150℃になるように加熱処理を行った。
このとき加熱後の放射温度計A(フィルム)11で測定した温度調整ロール5直前の液晶ポリマーフィルムの温度は65℃で、放射温度計B(ロール)12で測定した温度調整ロール5の表面の温度は40℃であった。
続いて実施例1と同様の操作によってめっき積層体を作製し、プラズマ処理後のRMS及びRa、めっき積層体の密着強度、伝送損失を測定した。
結果を表1に示す。
【実施例3】
【0069】
実施例1と同じ加熱処理を行った液晶ポリマーフィルムの両面にプラズマ処理強度42kJ/m
2にて酸素プラズマ処理を行い、実施例1と同様の操作によってめっき積層体を作製し、プラズマ処理後のRMS及びRa、めっき積層体の密着強度、伝送損失を測定した。
結果を表1に示す。
【実施例4】
【0070】
実施例1と同じ加熱処理を行った液晶ポリマーフィルムの両面にプラズマ処理強度77kJ/m
2にて窒素プラズマ処理を行い、実施例1と同様の操作によってめっき積層体を作製し、プラズマ処理後のRMS及びRa、めっき積層体の密着強度、伝送損失を測定した。
結果を表1に示す。
【実施例5】
【0071】
実施例1と同じ液晶ポリマーフィルム
図1の熱処理装置内で液晶ポリマーフィルム温度が215℃になるように加熱処理を行った。このとき加熱後の放射温度計A(フィルム)11で測定した温度調整ロール5直前の液晶ポリマーフィルムの温度は120℃で、放射温度計B(ロール)12で測定した温度調整ロール5表面の温度は80℃であった。
続いて液晶ポリマーフィルムの両面にプラズマ処理強度42kJ/m
2にて酸素プラズマ処理を行い、実施例1と同様の操作によってめっき積層体を作製し、プラズマ処理後のRMS及びRa、めっき積層体の密着強度、伝送損失を測定した。
結果を表1に示す。
【実施例6】
【0072】
実施例1と同じ加熱処理を行った液晶ポリマーフィルムの両面にプラズマ処理強度148kJ/m
2にて酸素プラズマ処理を行い、実施例1と同様の操作によってめっき積層体を作製し、プラズマ処理後のRMS及びRa、めっき積層体の密着強度、伝送損失を測定した。
結果を表1に示す。
【0073】
(比較例1)
片面をサンドブラスト粗化した全芳香族型ポリエステル液晶ポリマーフィルムを用い、減圧下で加熱処理しない以外は実施例1と同じ操作にてめっき積層体を作製した。
なお、サンドブラスト処理条件はラインスピードを1.5m/minとし、サンドブラスト処理は、加圧一段式で粒径0.1〜1mmのけい砂を使用し、吹き出しノズルと液晶ポリマーフィルムとの角度、間隔をそれぞれ45度、130mmとした。吹き出し量は調整弁により6kg/minとした。次に、プラズマ処理後のRMS及びRa、めっき積層体の密着強度、伝送損失を測定した。
結果を表1に示す。
【0074】
(比較例2)
実施例1と同じ液晶ポリマーフィルムを減圧下で加熱処理しない以外は実施例1と同様の操作によってめっき積層体を得、プラズマ処理後のRMS及びRa、めっき積層体の密着強度、伝送損失を測定した。
結果を表1に示す。
【0075】
(比較例3)
実施例1と同じ液晶ポリマーフィルムを、
図1の熱処理装置内で液晶ポリマーフィルム温度が100℃になるように加熱処理を行った液晶ポリマーフィルムの両面にプラズマ処理強度42kJ/m2にて酸素プラズマ処理を行い、実施例1と同様の操作によってめっき積層体を得、プラズマ処理後のRMS及びRa、めっき積層体の密着強度、伝送損失を測定した。
結果を表1に示す。
【0076】
(比較例4)
実施例1と同じ液晶ポリマーフィルムを、
図1の熱処理装置内で液晶ポリマーフィルム温度が300℃になるように加熱処理を行ったところ、途中で液晶ポリマーフィルムが破断した。
【0077】
(比較例5)
実施例1と同じ液晶ポリマーフィルムを、
図1の熱処理装置内で液晶ポリマーフィルム温度が200℃になるように加熱処理を行った。このとき加熱後の液晶ポリマーフィルムのロール直前の温度は80℃で、ロール表面の温度は25℃であった。しばらくして、液晶ポリマーフィルムにシワが発生した。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示す結果からも明らかに、本発明により製造しためっき積層体によれば、フィルムにシワや破談の発生はなく、液晶ポリマーフィルムと金属層との密着強度は十分に高まり、同時に低伝送損失を実現できることがわかる。