【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ジルコニア焼結体の着色剤の種類及び含有量を調整すると、自然歯の色調見本と同等な着色と透光性を両立したジルコニア焼結体が得られることを見出し、本発明を完成するに到ったものである。尚、自然歯の色調見本とはVITA社のシェードガイド「VITAPAN(登録商標) classical」や松風社の「ヴィンテージハロー NCCシェードガイド」が例として挙げられる。
【0009】
即ち、本発明は、2〜4mol%のイットリア、0.02〜0.8mol%のEr
2O
3、Fe
2O
3換算で20〜2000ppm未満の鉄化合物及び0.005〜0.2wt%未満のAl
2O
3を含み、残部がジルコニアであるジルコニア焼結体であって、JIS−Z8729に規定された色彩パラメーターの明度L
*が55〜75、a
*が0〜10、b
*が0〜30であり、相対密度が99.80%以上、且つ、試料厚さ1mmにおけるD65光源による全光線透過率が18%以上40%以下であることを特徴とする着色透光性ジルコニア焼結体及び2〜4mol%のイットリア、CoO換算で0.01wt%未満の酸化コバルト、Fe
2O
3換算で20〜2000ppm未満の酸化鉄、0.005〜0.2wt%未満のAl
2O
3を含み、残部がジルコニアであるジルコニア焼結体であって、JIS−Z8729に規定された色彩パラメーターの明度L
*が50〜75、a
*が−1〜10、b
*が0〜30であり、相対密度が99.80%以上、且つ、試料厚さ1mmにおけるD65光源による全光線透過率が18%以上40%以下であることを特徴とする着色透光性ジルコニア焼結体に関する。
【0010】
以下、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、2〜4mol%のイットリア、0.02〜0.8mol%のEr
2O
3、Fe
2O
3換算で20〜2000ppm未満の鉄化合物及び0.005〜0.2wt%未満のAl
2O
3を含み、残部がジルコニアであるジルコニア焼結体であって、JIS−Z8729に規定された色彩パラメーターの明度L
*が55〜75、a
*が0〜10、b
*が0〜30であり、相対密度が99.80%以上、且つ、試料厚さ1mmにおけるD65光源による全光線透過率が18%以上40%以下である着色透光性ジルコニア焼結体である(ジルコニア焼結体A)。
【0012】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aは、安定化剤として2〜4mol%のイットリアを含むものである。安定化剤が2mol%未満では、強度が低下し、結晶相が不安定となる。又、4mol%をこえると焼結体強度が低下してしまう。
【0013】
ジルコニア焼結体Aに含まれるイットリアは、焼結後にイットリアとなるものであればよく、焼結前に用いるイットリウム化合物としては特に限定はなく、例えば、塩化イットリウム、硝酸イットリウムのような可溶性化合物や酸化イットリウムのような不溶性化合物が挙げられる。イットリウム化合物はジルコニアゾルに添加して溶解させることが好ましい。
【0014】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aは着色剤を含むが、着色剤を構成する元素としてはジルコニアを着色するEr
2O
3及び鉄化合物を必須とする。またEr
2O
3の含有量は0.02〜0.8mol%、さらに0.05〜0.7mol%であることが好ましい。また鉄化合物の含有量はFe
2O
3換算で20ppm以上2000ppm未満、さらにFe
2O
3換算で100ppm以上、1500ppm未満であることが好ましい。
【0015】
ジルコニア焼結体Aに含まれるEr
2O
3は、焼結後にEr
2O
3となるものであればよく、焼結前に用いるエルビウム化合物としては特に限定はなく、例えば、塩化エルビウム、硝酸エルビウムのような可溶性化合物や酸化エルビウムのような不溶性化合物が挙げられる。エルビウム化合物はジルコニアゾルに添加して溶解させることが好ましい。その理由は、ジルコニア粉末の粉砕時にエルビウム化合物を添加すると、局所的に粒子が異常成長し、焼結体密度の低い、或いは強度の低い焼結体となるからである。
【0016】
エルビウム化合物が均一に溶解していれば、イットリウム化合物と共に安定化剤として含有しても良い。エルビウム化合物のみで安定化したジルコニア粉末を他のイットリウム化合物で安定化したジルコニア粉末と混合して用いても良い。エルビウム化合物のみで安定化したジルコニア粉末の場合、2〜4mol%のエルビア化合物を含むジルコニア粉末が好ましく、他のイットリウム化合物で安定化したジルコニア粉末との混合によりエルビウム化合物の含有量が0.8mol%未満となるようにすれば良い。
【0017】
用いる鉄化合物としては特に限定はなく、例えば、塩化鉄、硝酸鉄のような可溶性化合物や酸化鉄、酸化水酸化鉄のような不溶性化合物が挙げられる。不溶性化合物を使用する際は平均粒径が1μm以下の鉄化合物をジルコニア粉末の粉砕時に添加して分散混合することが好ましい。その理由は、それ以外の時に不溶性鉄化合物を添加し、撹拌混合しただけでは、凝集物の存在により焼結体に斑点が生じて、色調が不均一となる、或いは強度の低い焼結体となるからである。
【0018】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aは、さらにAl
2O
3(アルミナ)を含むものである。アルミナを含むことで、ジルコニア焼結体の耐水熱劣化特性が向上する。アルミナの含有量は、0.005〜0.2wt%未満であり、さらに0.005wt%以上、0.15wt%以下含むことが好ましい。
【0019】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aのアルミナ含有量が0.2wt%以上になると、高密度化が困難となり、また、焼結体中へのアルミナ粒子の存在による光の拡散が起こるため、透光性が得られ難くなり、0.005wt%未満では、耐水熱劣化特性が悪化するおそれと焼結体色調の脱色が起こるおそれがある。
【0020】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aは、JIS−Z8729に規定された色彩パラメーターの明度L
*が55〜75、a
*が0〜10、b
*が0〜30である。明度L
*、a
*値、b
*値が該範囲外であると、歯により近い色調を得ることは困難である。審美性の点で、好ましいL
*値としては50〜75、a
*値としては0〜7、b
*値としては、10〜27である。
【0021】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aの相対密度は、99.80%以上であり、好ましくは99.89%以上、更に好ましくは99.95%以上である。相対密度が99.80%未満であると透光性が低くなりやすく、歯科材料としての審美性に劣った焼結体となってしまう。
【0022】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aは厚さ1.0mmでの全光線透過率が18%以上、40%以下の透光性を有するものである。濃い色調を有し、明度L
*の値が低い着色ジルコニア焼結体では全光線透過率の値は低下し、本発明で得られる高い焼結体密度の着色ジルコニア焼結体の透光感は、明度L
*が高く、高い焼結体密度を有する焼結体と比較しても同等な透光感を持ち、自然歯と同等な審美性を有する。
【0023】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aはさらに結晶粒径が0.35〜0.50μmであることが好ましい。結晶粒径が0.35μm未満であると、粒間に微細な気孔が多く存在するため、相対密度が99.8%に到達しないことがある。また、結晶粒径が0.50μmを超えると、焼結体の水熱劣化が著しく進行し、焼結体が破壊してしまうため好ましくない場合がある。
【0024】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aには異常に成長した結晶粒子(異常成長粒子)が存在せず、均一な粒子径の結晶粒子により焼結体が構成されている。異常成長粒子とは平均粒子径の5倍以上のサイズとなった粒子のことであり、主に安定化剤の偏析により生成し易く、粒子の結晶相が立方晶(Cubic)となるために低強度の原因となり易い。
【0025】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aは、その結晶相が正方晶(Tetragonal)を含むことが好ましく、正方晶の単相であることが好ましい。これにより機械的強度が高くなりやすい。本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aは、3点曲げ強度が1000MPa以上1200MPa以下である事が好ましい。さらに好ましい強度は1100MPa以上である。
【0026】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Aは、140℃の熱水中に24時間浸漬させた後の単斜晶相の転移深さが15μm以下であることが好ましい。単斜晶相の転移深さが15μmを超えると焼結体の水熱劣化が進行し、焼結体が破壊してしまう。より好ましい単斜晶相の転移深さは10μm以下である。ここで、単斜晶相の転移深さは焼結体を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで結晶の転移の様子が観察できる。
【0027】
本発明の着色ジルコニア焼結体Aは、色調の微細な調整をするため、ジルコニアに固溶する化合物を含有してもよい。ジルコニアに固溶する化合物としては、例えば、周期表3a族(3族)、5a族(5族)、6a族(6族)、7a族(6族)、7a族(7族)、8族(8〜10族)及び3b族(13族)のいずれか一種以上の酸化物を上げることができる(カッコ内は、国際純正応用科学連合(IUPAC)による表示方法)。
【0028】
また、本発明の着色透光性ジルコニア焼結体は、2〜4mol%のイットリア、CoO換算で0.01wt%未満の酸化コバルト、Fe
2O
3換算で20〜2000ppm未満の酸化鉄、0.005〜0.2wt%未満のAl
2O
3を含み、残部がジルコニアであるジルコニア焼結体であって、JIS−Z8729に規定された色彩パラメーターの明度L
*が50〜75、a
*が−1〜10、b
*が0〜30であり、相対密度が99.80%以上、且つ、試料厚さ1mmにおけるD65光源による全光線透過率が18%以上40%以下である着色透光性ジルコニア焼結体である(ジルコニア焼結体B)。
【0029】
ここで、イットリウム、Fe
2O
3、Al
2O
3はジルコニア焼結体Aと同様のものを用いることができる。
【0030】
ジルコニア焼結体Bは、CoO換算で0.01wt%未満の酸化コバルトを含むものである。
【0031】
ジルコニア焼結体Bに含まれる酸化コバルトは、焼結後に酸化コバルトとなるものであればよく、焼結前に用いるコバルト化合物としては特に限定はなく、例えば、塩化コバルト、硝酸コバルトのような可溶性化合物や酸化コバルトのような不溶性化合物が挙げられる。不溶性化合物を使用する際は平均粒径が1μm以下のコバルト化合物をジルコニア粉末の粉砕時に添加して分散混合することが好ましい。その理由は、鉄化合物の場合と同じ理由である。
【0032】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Bは、JIS−Z8729に規定された色彩パラメーターの明度L
*が50〜75、a
*が−1〜10、b
*が0〜30である。明度L
*、a
*値、b
*値が該範囲外であると、歯により近い色調を得ることは困難である。審美性の点で、好ましいL
*値としては50〜75、a
*値としては−1〜7、b
*値としては、10〜27である。
【0033】
また、a
*値とb
*値の関係が以下の関係であることが好ましい。
a
*>0.0123b
*2−0.0598b
*−2.9088
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Bの相対密度は、99.80%以上であり、好ましくは99.89%以上、更に好ましくは99.95%以上である。相対密度が99.80%未満であると透光性が低くなりやすく、歯科材料としての審美性に劣った焼結体となってしまう。
【0034】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Bは厚さ1.0mmでの全光線透過率が18%以上、40%以下の透光性を有するものである。濃い色調を有し、明度L
*の値が低い着色ジルコニア焼結体では全光線透過率の値は低下し、本発明で得られる高い焼結体密度の着色ジルコニア焼結体の透光感は、明度L
*が高く、高い焼結体密度を有する焼結体と比較しても同等な透光感を持ち、自然歯と同等な審美性を有する。
【0035】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Bはさらに結晶粒径が0.35〜0.50μmであることが好ましい。結晶粒径が0.35μm未満であると、粒間に微細な気孔が多く存在するため、相対密度が99.8%に到達しないことがある。また、結晶粒径が0.50μmを超えると、焼結体の水熱劣化が著しく進行し、焼結体が破壊してしまうため好ましくない場合がある。
【0036】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Bには異常に成長した結晶粒子(異常成長粒子)が存在せず、均一な粒子径の結晶粒子により焼結体が構成されている。異常成長粒子とは平均粒子径の5倍以上のサイズとなった粒子のことであり、主に安定化剤の偏析により生成し易く、粒子の結晶相が立方晶(Cubic)となるために低強度の原因となり易い。
【0037】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Bは、その結晶相が正方晶(Tetragonal)を含むことが好ましく、正方晶の単相であることが好ましい。これにより機械的強度が高くなりやすい。本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Bは、3点曲げ強度が1000MPa以上である事が好ましい。さらに好ましい強度は1100MPa以上である。
【0038】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Bは、140℃の熱水中に24時間浸漬させた後の単斜晶相の転移深さが15μm以下であることが好ましい。単斜晶相の転移深さが15μmを超えると焼結体の水熱劣化が進行し、焼結体が破壊してしまう。より好ましい単斜晶相の転移深さは10μm以下である。ここで、単斜晶相の転移深さは焼結体を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで結晶の転移の様子が観察できる。
【0039】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体Bは、0.02〜0.8mol%のEr
2O
3を含有してもよい。該Er
2O
3としてはジルコニア焼結体Aと同様のものを用いることができる。
【0040】
本発明の着色ジルコニア焼結体Bは、色調の微細な調整をするため、ジルコニアに固溶する化合物を含有してもよい。ジルコニアに固溶する化合物としては、例えば、周期表3a族(3族)、5a族(5族)、6a族(6族)、7a族(6族)、7a族(7族)、8族(8〜10族)及び3b族(13族)のいずれか一種以上の酸化物を上げることができる(カッコ内は、国際純正応用科学連合(IUPAC)による表示方法)。
【0041】
次に本発明の着色透光性ジルコニア焼結体A,Bの製造法を説明する。
【0042】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体A,Bの製造に用いるジルコニア粉末は、BET比表面積が10〜15m
2/gの範囲であることが好ましい。ジルコニア粉末のBET比表面積が、10m
2/gよりも小さくなると低温で焼結しにくい粉末となる場合があり、また、15m
2/gよりも大きくなると粒子間の凝集力が著しい粉末となる場合がある。特にBET比表面積が11〜14m
2/gの範囲であることが好ましい。
【0043】
ジルコニア粉末は、平均粒径が0.4〜0.7μmの範囲内であることが好ましい。ジルコニア粉末の平均粒径が0.4μmよりも小さくなると粉末の凝集性を高める微小粒子が多くなって成形しにくいものとなることがあり、一方、0.7μmよりも大きくなると硬い凝集粒子を含む粗粒が多くなるために、成形し難いものとなり、かつ、粗粒が焼結の緻密化を阻害するために焼結性の悪いものとなる場合がある。好ましい平均粒径は0.4〜0.6μmである。また、ジルコニア粉末の最大粒径が2.0μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.5μm以下である。
【0044】
ジルコニア粉末は、大気中、昇温速度300℃/時の常圧焼結における相対密度70%から90%までの焼結収縮速度(△ρ/△T:g/cm
3・℃)(以下、単に「焼結収縮速度」とする)が0.012以上0.016以下であることが好ましい。焼結収縮速度はジルコニア粉末の焼結性の指標である。焼結収縮速度がこの範囲であることで、焼結性に優れたジルコニア粉末となる。なお、焼結収縮速度は相対密度が70%以上での測定値である。そのため、焼結収縮速度は成形体の密度のばらつきによる影響を受けない。さらに、相対密度70%から90%における焼結収縮速度は、その速度が一定である。このように、焼結収縮速度が温度と相対密度の一次関数となるため、特別な近似計算処理を用いることなくても正確な焼結収縮速度を求めることができる。
【0045】
ジルコニア粉末は、例えばジルコニウム塩水溶液の加水分解で得られる水和ジルコニアゾルを、乾燥,仮焼,粉砕して得ればよいが、該ジルコニウム塩水溶液にアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物を加えた後に、反応率が98%以上になるまで加水分解を行って得られる水和ジルコニアゾルに、安定化剤の原料としてイットリウム、必要によってはエルビウムを添加して乾燥しても良い。
【0046】
水和ジルコニアゾルの製造に用いるジルコニウム塩としては、オキシ塩化ジルコニウム,硝酸ジルコニル,塩化ジルコニウム,硫酸ジルコニウムなどが挙げられ、この他に水酸化ジルコニウムと酸との混合物を用いてもよい。ジルコニウム塩水溶液に加えるアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物としては、リチウム,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウム等の水酸化物を挙げることができる。上記の水酸化物は、水溶液にして加えることが好ましい。
【0047】
上記で得られた水和ジルコニアゾルの乾燥粉を1000〜1200℃の温度で仮焼することによってジルコニア粉末を得ることができる。仮焼温度がこの範囲外になると、本発明の下記粉砕条件で得られるジルコニア微粉末の凝集性が著しく強くなったり、あるいは硬い凝集粒子を含む粗粒が多くなってしまい、平均粒径が0.4〜0.7μmの範囲外となって、ジルコニア粉末が得難い場合がある。仮焼温度は特に1050〜1150℃が好ましい。
【0048】
次いで、上記で得られた仮焼粉を平均粒径が0.4〜0.7μmの範囲にジルコニアボールを用いて湿式粉砕することが好ましい。上記仮焼温度で仮焼した仮焼粉末を平均粒径が0.4〜0.7μmとなるように粉砕を行うことで、BET比表面積が10〜15m
2/gの範囲のジルコニア粉末が得られる。また、この時の結晶子径は25〜40nmとなり、仮焼後にはほぼ100%の正方晶相のジルコニア粉末が、単斜晶相が30〜50%のジルコニア粉末となる。
【0049】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体の製造にアルミニウムを用いる場合には、原料化合物としては、アルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができる。着色元素化合物と同様に不溶性の化合物を使用することが好ましい。
【0050】
目的とする色調の焼結体を得るために、イットリアとエルビアで安定化したジルコニア粉末に着色剤として鉄化合物、コバルト化合物を必要量添加した着色ジルコニア粉末をそれぞれ調整して製造しても良いが、それぞれの着色剤を含有した数種類のジルコニア粉末を先に準備し、所望の配合となるように数種類の着色ジルコニア粉末を混合して、着色剤組成を変えることも可能である。
【0051】
例えば、3mol%のイットリアで安定化したジルコニア粉末を製造する(粉末1)。別に、3.2mol%のエルビアで安定化したジルコニア粉末を製造する(粉末2)。さらに、3mol%のイットリアで安定化したジルコニア粉末にFe
2O
3換算で1500ppmの鉄化合物を添加した粉末とCoO換算で0.05wt%のコバルト化合物を添加した粉末をそれぞれ製造する(粉末3,4)。粉末1〜4には0.005〜0.2wt%未満のアルミナを含有している。これら4種類の粉末を均一になるまで混合し、着色剤としてのEr
2O
3、Fe
2O
3、CoOの含有量を目的とする濃度に配合して焼結体を得ることで、イットリアとエルビアで安定化したジルコニア粉末に着色剤として鉄化合物、コバルト化合物を必要量添加した着色ジルコニア粉末を焼結した場合と同じ色調の着色焼結体が得られる。
【0052】
自然歯の色調見本であるVITA社のシェードガイド「VITAPAN(登録商標) classical」には16色の色調見本があるが、上記4種類の粉末の混合割合を調整することで全ての色調を再現できる。
【0053】
この時、4種類の粉末物性(例えばBET比表面積)を微調整し、焼結性の指標である焼結収縮速度をできるだけ一致させることで、得られる焼結体の密度を低下させずに、高密度焼結体が得られ、透光性も損なうことがない。
【0054】
ジルコニア粉末は、噴霧造粒粉末顆粒を用いることが好ましく、有機バインダーを含む噴霧造粒粉末を用いてもよい。
【0055】
ジルコニア粉末をスラリーにして噴霧乾燥することにより、成形体を形成する際の流動性が高く、焼結体中に気泡が生成し難いものとなる。顆粒の粒径は30〜80μm、軽装嵩密度が1.10〜1.40g/cm
3であることが好ましい。
【0056】
顆粒にバインダーを使用する場合、バインダーとしては、一般に用いられるポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス、アクリル系等のバインダーを挙げることができ、中でも分子中にカルボキシル基またはその誘導体(例えば、塩、特にアンモニウム塩など)を有するアクリル系のものが好ましい。このアクリル系のバインダーとして、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体やその誘導体を挙げることができる。バインダーの添加量は、セラミックス粉末スラリー中のセラミックス粉末に対し0.5〜10重量%が好ましく、特に1〜5重量%が好ましい。
【0057】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体A,Bを得るには、当該ジルコニア粉末を通常のプレス成形(必要に応じて静水圧プレス(CIP処理))により相対密度50±5%程度の成形体として焼結することが好ましい。
【0058】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体A,Bの製造は、常圧下にて1350〜1450℃、特に1400℃で焼結することにより製造することが好ましい。
【0059】
焼結温度が1350℃未満であると、相対密度が99.80%に到達しない場合があり、1450℃を超えると、焼結体の水熱劣化が著しく進行し、焼結体が破壊し易いという問題が生じる場合がある。
【0060】
本発明の着色透光性ジルコニア焼結体A,Bは常圧焼結で得るが、焼結雰囲気としては還元性雰囲気でなければ特に制限は無く、酸素雰囲気、大気中焼結で良い。特に大気中で焼結することが好ましい。