特許第6206089号(P6206089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206089
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】多糖類モノリス構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20170925BHJP
   C08J 9/36 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C08J9/28 101
   C08J9/36CEP
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-223567(P2013-223567)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2014-224223(P2014-224223A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-90229(P2013-90229)
(32)【優先日】2013年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【弁理士】
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】名嘉真 剛
(72)【発明者】
【氏名】戸所 正美
(72)【発明者】
【氏名】岩本 恵里
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−083292(JP,A)
【文献】 特開平04−091142(JP,A)
【文献】 特表平08−505431(JP,A)
【文献】 特表平07−505415(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/114097(WO,A1)
【文献】 特表平06−510330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類モノリス構造体の製造方法であって、
多糖類を、該多糖類が可溶な溶媒と該多糖類が不溶な溶媒との混合溶媒に、混合溶媒の沸点未満で溶解させて多糖類溶液を得る第一工程と、
多糖類溶液を冷却して多糖類モノリス構造体を得る第二工程とを含み、
混合溶媒が、水溶性高分子、糖類、及び塩類からなる群から選択される第三の成分を含有する、製造方法。
【請求項2】
混合溶媒における第三の成分の濃度が、0.1〜5重量%である、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
第三の成分がポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、グルコース、スクロース、デンプン、塩化カルシウム、及び炭酸カルシウムからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
第三の成分がポリエチレングリコールである、請求項1〜3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
混合溶媒における多糖類が可溶な溶媒と多糖類が不溶な溶媒との体積比が、5:95〜60:40である、請求項の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
混合溶媒における多糖類の濃度が、0.1〜30重量%である、請求項の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
第二工程が、冷却前の多糖類溶液の温度から5〜200℃低い温度まで冷却することを特徴とする、請求項の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
多糖類がエステル化セルロースである、請求項の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項の何れか一項に記載の製造方法によって多糖類モノリス構造体を製造し、第二工程後に、多糖類モノリス構造体をケン化する第三工程を含む、多糖類モノリス構造
体ケン化物の製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の製造方法によって多糖類モノリス構造体ケン化物を製造し、第三工程後に、架橋及び/又はリガンド導入処理を行う第四工程を含む、多糖類モノリス構造体架橋物及び/又はリガンド導入物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類モノリス構造体、及びその製造方法に関する。さらに、前記多糖類モノリス構造体を用いる任意の目的物質の精製方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
種々の動物、昆虫およびその細胞や微生物を宿主として製造されるバイオ医薬品の研究開発に注目が集まっている。バイオ医薬品の生産性は、大容量培養、高力価培養によって向上しており、それに伴い精製工程も効率化が求められている。バイオ医薬品は生物由来であるため、非常に高度な精製技術が必要とされ、遠心分離、限外ろ過、精密ろ過、クロマトグラフィーなどを組み合わせて行われているが、特にクロマトグラフィーは精製の核となる技術である。
【0003】
バイオ医薬品の原料となるたんぱく質、核酸、ウイルス等の分離に用いるクロマトグラフィー用充填剤としては、様々な孔径を持つ多孔性粒子や、吸着性能を付与するために官能基を導入した多孔性粒子が製造され、市販されている。また、これらクロマトグラフィー用充填剤の多くはセルロース等天然高分子が用いられている。
しかし、市販品の多くは分子量数十万程度までのたんぱく質の分離を主目的としたものであり、分子量100万以上の核酸等の巨大な生体高分子に適したものは少ない。これは、粒子の耐圧強度を損なうことなく、孔径を大きくすることが困難なことに起因している。
【0004】
ところで、多孔質材料として、三次元網目構造の骨格と空隙をそれぞれ連続に有する一塊の多孔体であるモノリスが次世代型多孔材料として注目されている。モノリスは骨格と流路となる孔のサイズを独立して制御可能である。
【0005】
例えば、シリカを材料として形成されるシリカモノリスがモノリスカラムとして市販されており、これは分離能が高く、機械的強度に優れている。また、骨格径や流路孔を制御する技術や表面細孔を制御する技術開発が進んでいる。
しかし、そのサイズは内径が0.3mm以下のキャピラリーサイズのものがほとんどである。これはキャピラリーサイズのモノリスカラムが調製しやすいという理由からである。つまり、シリカモノリスは分析用であり、バイオ医薬品生産における精製工程に利用できる吸着容量を持たない。
【0006】
シリカの他にも、これまでに高分子材料で構成されるモノリス構造体およびその製造方法が種々報告されている。特許文献1および特許文献2には、合成高分子材料を原料とするモノリス構造体、特許文献3には生分解性を有するポリ乳酸を主成分とするモノリス構造体が開示されている。
しかしながら、天然高分子である多糖からなるモノリス構造体に関する報告は少ない。すなわち、多くの水酸基を有し、タンパク質等の生体物質との相互作用が少ないと予想される多糖骨格のモノリス構造体に関する報告はない。
【0007】
多糖誘導体であるセルロース誘導体による多孔質膜は、飲料水及び工業用水などの水の精製、化学工業、薬品工業、食品工業の各工程での物質分離と精製、人工腎臓による血液透析を始めとする医療分野での利用など、様々な分野で使用されている。
特許文献4には、セルロース誘導体による多孔質膜の製造方法として、高沸点溶媒を用いる熱誘起相分離法が開示されている。しかし、特許文献4の方法で得られるものは多孔質ではあるがその孔は連続孔ではなく個々に独立した孔であり、カラム材料としての利用
はし難い。また、1〜100μmの厚みの膜状の形態のものであり、任意の形状の成形体を製造することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009‐030017号公報
【特許文献2】特開2012‐107216号公報
【特許文献3】特開2010‐260952号公報
【特許文献4】特開2003‐001074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況を鑑みて、本発明は、天然高分子である多糖からなる多孔質体であり、平均孔径が生体分子の分離に適したサイズの連続孔を有し、任意の形状に成形可能なモノリス構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究の末、適切な溶媒を選択することによって、多糖からモノリス構造体を容易に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]多糖類を含むモノリス構造体であって、
平均孔径0.01〜20μmの連続孔を有し、
100μm以上の厚みを有する多孔質体である、多糖類モノリス構造体。
[2]多糖類がセルロースである、[1]に記載の多糖類モノリス構造体。
[3]多糖類の少なくとも1つの水酸基がエステル化された、[1]又は[2]に記載の多糖類モノリス構造体。
[4]架橋構造を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の多糖類モノリス構造体。
[5]多糖類の少なくとも1つの水酸基にリガンドが導入された、[1]〜[4]のいずれかに記載の多糖類モノリス構造体。
[6]多糖類モノリス構造体の製造方法であって、
多糖類を、該多糖類が可溶な溶媒と該多糖類が不溶な溶媒との混合溶媒に、混合溶媒の沸点未満で溶解させて多糖類溶液を得る第一工程と、
多糖類溶液を冷却して多糖類モノリス構造体を得る第二工程とを含む、製造方法。
[7] 混合溶媒に第三の成分を加える、[6] に記載の方法。
[8] 混合溶媒における第三の成分の濃度が、0.1〜5重量%である、[7]に記載の
製造方法。
[9] 第三の成分がポリエチレングリコールである、[7]又は[8]に記載の製造方法

[10]混合溶媒における多糖類が可溶な溶媒と多糖類が不溶な溶媒との体積比が、5:95〜60:40である、[6]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]混合溶媒における多糖類の濃度が、0.1〜30重量%である、[6]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]第二工程が、冷却前の多糖類溶液の温度から5〜200℃低い温度まで冷却することを特徴とする、[6]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]多糖類がエステル化セルロースである、[6]〜[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14][6]〜[13]のいずれかに記載の製造方法によって多糖類モノリス構造体を製造し、第二工程後に、多糖類モノリス構造体をケン化する第三工程を含む、多糖類モノリス構造体ケン化物の製造方法。
[15][14]に記載の製造方法によって多糖類モノリス構造体ケン化物を製造し、第
三工程後に、架橋及び/又はリガンド導入処理を行う第四工程を含む、多糖類モノリス構造体架橋物及び/又はリガンド導入物の製造方法。
[16][1]〜[5]のいずれかに記載の多糖類モノリス構造体を用いる、目的物質の精製方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、安価な多糖や多糖誘導体から、生体高分子の分離に適した孔径を持つモノリス構造体を提供することができる。また、ケン化、架橋、リガンドを導入する工程を経ることによって、モノリス構造体に生体高分子に対する吸着性能を任意に付与することができ、モノリス構造体を用いる目的物質の精製方法に有用な材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】製造例1のモノリス構造体の断面のSEM写真。
図2】製造例4のモノリス構造体の断面のSEM写真。
図3】製造例5のモノリス構造体の断面のSEM写真。
図4】製造例8のモノリス構造体の断面のSEM写真
図5】製造例17のモノリス構造体の断面のSEM写真
図6】試験例2の通液時の流速と圧力の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1>多糖類モノリス構造体
一般に、モノリス構造とは、三次元網目構造の骨格と空隙をそれぞれ連続に有する一塊の多孔体構造をいう。
本発明のモノリス構造体は、多糖類を主成分として含み、連続孔を有し、厚みのある立体である多孔質体である。
【0014】
具体的には、本発明のモノリス構造体は、平均孔径が0.01〜20.0μmの連続孔
を有する。平均孔径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した画像より求めることができる。
ここで、連続孔とは、1つ1つ独立した空洞ではなく、連続的な空隙をいう。なお、孔が連続孔であることは、複数のモノリス構造体サンプルのSEM写真において、孔の形状が同一または類似の形状であることから推測できる。
孔の形状は、構造体表面及び/又は内部にある孔が、円形もしくは楕円形又はそれらに近似した形状のものあることが好ましいが、特に限定されない。
本発明のモノリス構造体は、このような連続孔を有することにより、通液性に優れる。また、官能基やリガンドを任意の量導入することができ、さらに該官能基やリガンドにおける反応効率が良い。そのため、後述する精製方法等に用いるカラム材料に好適である。
【0015】
また、本発明のモノリス構造体は、100μm以上の、好ましくは150μm以上の厚みを有し、膜とは異なる立体的な形態である。本発明において、多孔質体の形状は限定されないが、この多孔質体の縦横高さの3つの方向のうち、最短軸方向の長さを便宜的に厚みと呼ぶ。また、本発明のモノリス構造体は、円柱状、円筒状等の任意の形状に成型できる。
【0016】
本発明のモノリス構造体を主に構成する多糖類としては、セルロース、グルコマンナン等を挙げられる。また、これらの多糖類は多糖類の誘導体をも含み、例えば、エステル化された多糖類でもよい。エステル化多糖類としては、例えば、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸グルコマンナン等が挙げられる。
前記多糖類の分子量は、特に限定されないが、例えば酢酸セルロースの場合は、後述す
る本発明の製造方法における取扱い性と生成するモノリス構造体の強度あるいはモノリス構造体が有する空孔の孔径の観点から、好ましくは1000〜20万、より好ましくは5000〜10万の平均分子量(Mw)である。
【0017】
モノリス構造体の構成材料として、多糖類、特にセルロースを採用することにより、従来のカラム材料であるシリカよりもアルカリ洗浄に耐えうるカラム材料となり得る。また、多糖類は非特異吸着が小さいため、クロマトグラフィー基材として適する。また、多糖類は多くの水酸基を有し、ここに官能基やリガンドを導入しやすい点でも、クロマトグラフィー基材としての有用性がある。なお、シリカでも水酸基に官能基やリガンドを導入することはできるが、導入手順が煩雑であるためあまり実用的でない。
【0018】
本発明の多糖類モノリス構造体においては、多糖類が種々の官能基で修飾されていてもよく、通常多糖類の少なくとも1つの水酸基に対してそのような修飾がなされる。
例えば、糖の水酸基がエステル化されていてもよく、これにより非特異吸着を抑制することができる。エステルとしては、例えばアセチル基が好ましい。あるいは、糖の水酸基はアセチル化されていたものが、さらに脱アセチル化されてもよい。
また、糖鎖間が架橋されていてもよく、これによりモノリス構造体の強度を向上することができる。
【0019】
また、本発明の多糖類モノリス構造体においては、多糖類に種々の任意のリガンドが導入されていてもよく、通常多糖類の少なくとも1つの水酸基に対してそのような導入がなされる。リガンドを導入することにより、多糖類モノリス構造体に生体高分子等の目的物質に対する吸着性能を付与することができ、後述する目的物質の精製や検出に好適に利用することができる。
リガンドとしては、特に限定されないが、2−ジエチルアミノエチルクロリド塩酸塩(DEAE)、CM、スルホン基、4級アンモニウム、硫酸エステル等のイオン交換基や、プロテインA、抗体等のタンパク吸着用リガンドや、ポリリジン−ε、ポリリジン−γ等の機能性高分子等が挙げられ、モノリス構造体の使用目的に応じて任意に選択できる。
【0020】
<2>多糖類モノリス構造体の製造方法
本発明の多糖類モノリス構造体は、多糖類を、前記多糖類が可溶な溶媒と前記多糖類が不溶な溶媒との混合溶媒に、前記混合溶媒の沸点未満で溶解させて多糖類溶液を得る第一工程と、前記多糖類溶液を冷却して多糖類モノリス構造体を得る第二工程とを含む方法によって、製造することができる。
材料として用いる多糖類には多糖類誘導体も含まれ、好ましい材料としては、エステル化セルロース、エステル化グルコマンナンを挙げることができ、具体的には、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸グルコマンナンが好ましく挙げられ、これらの中でも酢酸セルロースが特に好ましい。
材料として用いる多糖類の分子量は、特に限定されないが、例えば酢酸セルロースの場合は、製造工程中の取扱い性と生成するモノリス構造体の強度あるいはモノリス構造体が有する空孔の孔径の観点から、好ましくは1000〜20万、より好ましくは5000〜10万の平均分子量(Mw)である。なお、酢酸セルロースは、平均分子量40000のものを和光純薬から入手することができ、好ましく利用できる。
【0021】
本発明の製造方法における第一工程は、多糖類を、前記多糖類が可溶な溶媒(以下、良溶媒とする)と前記多糖類が不溶な溶媒(以下、貧溶媒とする)との混合溶媒に、前記混合溶媒の沸点未満で溶解させて多糖類溶液を得る工程である。
このように、多糖類を溶解させる溶媒として、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を採用することにより、所望の多糖類モノリス構造体を容易に製造することが可能となる。
ここで、良溶媒とは、溶質が溶媒に溶解し、固形物を含まない透明な溶液が得られるも
のをいう。ここでは、室温で1重量%以上、さらには10重量%以上の濃度の溶液が得られる溶媒のことをいう。また貧溶媒とは室温で単独で多糖類を0.0001重量%以上溶解できないものをいう。
多糖類がエステル化多糖である場合、良溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、γ‐ブチロラクトン等、エステル、環状エステル類、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素化合物、メチルグリコー
ル、メチルグリコールアセテート等のグリコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、その他ジメチルスルホキシド等又はこれらの組み合わせが挙げられる。
多糖類がエステル化多糖類である場合、貧溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、水等又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0022】
良溶媒と貧溶媒との混合割合は、良溶媒が5〜60v/v%、貧溶媒が95〜40v/v%がさらに好ましい。良溶媒の割合が60v/v%を超えると、多糖類溶液を冷却しても相分離による析出が生じにくい場合がある。また、良溶媒の割合が5v/v%より小さいと、多糖類を均一に溶解させることができない場合がある。
【0023】
また、混合溶媒中の多糖類の割合は0.1〜30重量%が好ましく、1〜20重量%がさらに好ましい。30重量%を超えると、均一な溶液が得られにくく、きれいな連続孔を有する多孔質体が得られ難い。また、0.1重量%より少ないと、多糖類溶液を冷却しても相分離による析出が生じにくく、また析出を生じても強度が不足し、形状を維持できない。
また、混合溶媒中の多糖類の割合が大きくなるほど、得られる多孔質体の連続孔の孔径は小さくなる傾向にある。そのため、多孔質体を後述するクロマトグラフィーに適用する場合は、混合溶媒中の多糖類の割合を5〜30重量%、さらには5〜20重量%とすることが、良好な通液性となる孔径とする観点から特に好ましい。
【0024】
本発明の製造方法における第一工程は、多糖類を、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒に、前記混合溶媒の沸点未満で溶解させて多糖類溶液を得る工程であるが、ここに混合溶媒中で可溶な第三の成分を加えることにより、得られる多孔質体の連続孔の孔径を大きくすることができる。
第三の成分としては、多糖類の良溶媒と貧溶媒のどちらに溶解する成分でもよく、混合溶媒中で溶解する成分であればよい。
第三の成分としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性高分子、グルコース、スクロース、デンプン等の糖類、塩化カルシウム、炭酸カルシウム等の塩類のような成分を挙げることができ、具体的にはポリエチレングリコールが好ましい。
ポリエチレングリコールの分子量は、特に限定されないが、製造工程中の取扱い性と生成するモノリス構造体の強度あるいはモノリス構造体が有する空孔の孔径の観点から、好ましくは100〜10000、より好ましくは1000〜5000の平均分子量(Mw)である。なお、ポリエチレングリコールは、平均分子量3000のものを和光純薬から入手することができ、好ましく利用できる。
【0025】
本発明の製造方法における第二工程は、第一工程で得た多糖類溶液を冷却して多糖類モノリス構造体を得る工程である。
この工程では、相分離が生じ、析出したモノリス構造体を得られる。なお、ここで得られるモノリス構造体は、その孔内部に混合溶媒を包含する。
第二工程においては多糖類溶液を、冷却前の温度(第一工程の溶解時の温度)から、5〜200℃低い温度まで、好ましくは5℃〜150℃低い温度まで、さらに好ましくは5〜100℃低い温度まで冷却する。この際の降温速度は0.1〜200℃/分が好ましく
、0.1〜100℃/分がより好ましい。
【0026】
本発明のモノリス構造体は、上記の第一工程及び第二工程により得られるが、第二工程の後にさらに以下の処理を必要に応じて行ってもよい。
前述のように、第二工程後のモノリス構造体は、第一工程で用いた混合溶媒をその内部に包含している。そのため、これを任意の溶媒に置換してもよい。置換の方法は特に限定されないが、例えば、第二工程後のモノリス構造体を、任意の溶媒の入った別の容器内に浸漬して、相互拡散による置換を行うことができる。ここで置換溶媒は、第二工程で得られるモノリス構造体の均一性を保つために、第一工程で使用した溶媒と混和することが必要である。好ましい溶媒として、アルコール類、水を挙げることができる。
また、モノリス構造体内部に包含される溶媒を除去する処理を行ってもよい。除去方法は、加熱、減圧等、通常の方法が使用できる。
【0027】
また、第一工程で材料としてエステル化多糖類を用いた場合は、第二工程の後に第三工程としてケン化(脱エステル化)を行ってもよい。ケン化処理は、アルカリ処理等の常法に従って任意に行うことができる。
【0028】
さらに、第三工程後のケン化(脱エステル化)したモノリス構造体に対して、そのフリーの水酸基に任意の官能基やリガンドを導入する第四工程を行ってもよい。これにより、前述したような生体高分子等の目的物質に対する吸着性能が付与されたモノリス構造体を得ることができる。
リガンドとしては、特に限定されないが、2−ジエチルアミノエチルクロリド塩酸塩(DEAE)、カルボキシメチル(CM)、スルホン基、4級アンモニウム、硫酸エステル等のイオン交換基やフェニル基、ブチル基などの疎水性基、イオン交換と疎水基を併せ持ついわゆるミックスモードの分離に使えるリガンド、プロテインA、抗体等のタンパク吸着用リガンドやポリリジン等のポリカチオン、ヘパリンやポリグルタミン酸等のポリアニオンなどの機能性高分子等が挙げられ、モノリス構造体の使用目的に応じて任意に選択でき、その導入方法は、常法に従って任意に行うことができる。
【0029】
また、第四工程としては、官能基やリガンドの導入に加えて/代えて、多糖類を架橋する処理を行ってもよい。架橋処理は、反応性の二官能試薬を架橋剤として用いて、常法に従って任意に行うことができる。反応性の二官能試薬としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、ジイソシアネート、ジメチル尿素、ジメチルエチレン尿素、ジメチルクロロシラン、ビス(2−ヒドロキシエチルスルホン)、ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジビニルスルホン、アルキレンジハロゲン、ヒドロキシアルキレンジハロゲン等が好ましく挙げられ、これらのうちエピクロロヒドリンを特に好ましく用いることができる。
【0030】
<3>モノリス構造体を用いる精製方法
本発明のモノリス構造体は、カラム等の態様にしてクロマトグラフィーに用いることができる。
本発明のモノリス構造体は、連続孔を有することにより通液時にカラム内の圧力が上がりにくい。そのため、流速を維持したり大きくしたりすることも可能であるため、クロマトグラフィーの実施に適する。
また、前述のように、本発明のモノリス構造体には、所望の官能基やリガンドを導入することができるため、生体高分子に対する吸着性能を付与することができる。これを利用して、種々の目的物質を精製することが可能となる。例えば、イオン交換基を導入したモノリス構造体を、発現タンパク質の精製に用いたり、リガンドとしてプロテインAを固定化したモノリス構造体をIgGの精製に適用したり、抗体を固定化したモノリス構造体を
、該抗体に対応する抗原の検出や精製に適用することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
<製造例1>
透明試験管中で、酢酸セルロース200mg(5重量%)(Mw:40000、和光純薬製)を、1,4−ジオキサン0.8mL(18v/v%)、エタノール2.8mL(65v/v%)、及び水0.7mL(17v/v%)の混合溶媒に、60℃の湯浴中で加熱溶解させ、多糖類溶液を得た。得られた多糖類溶液を室温(約26℃)まで冷却して、溶媒を包含するモノリス構造体を得た。得られた溶媒を包含するモノリス構造体を、別容器内の過剰量の水中に投入し、モノリス構造体中に包含される前記混合溶媒を水に置換した。得られたモノリス構造体は、直径13mm、長さ約25mmの円柱状であった。次いで水を包含するモノリス構造体を水中から取り出し、−78℃で凍結後、室温で減圧乾燥を行い、内部の水を除去した。
得られたモノリス構造体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(キーエンス(株)社製、VE−8800)で観察した写真を図1に示す。
【0033】
<製造例2>
酢酸セルロース250mgを1,4−ジオキサン1.5mL(30v/v%)、エタノール3.0mL(60v/v%)、及び水0.5mL(10v/v%)の混合溶媒に、60℃の湯浴中で加熱溶解させ、多糖類溶液を得た。得られた多糖類溶液を室温(約5℃)まで冷却して、溶媒を包含するモノリス構造体を得た。得られた溶媒を包含するモノリス構造体を、別容器内の過剰量の水中に投入し、モノリス構造体中に包含される前記混合溶媒を水に置換した。得られたモノリス構造体は直径13mm、長さ約30mmの円柱状であった。
【0034】
<製造例3>
混合溶媒の組成を、1,4−ジオキサン1.2mL(30v/v%)、エタノール1.4mL(35v/v%)、及び水1.4mL(35v/v%)とした以外は、製造例1と
同様にして、円柱状のモノリス構造体を得た。
【0035】
<製造例4>
多糖類溶液の冷却工程を、35℃の湯浴中で行う以外は、製造例1と同様にして、円柱状のモノリス構造体を得た。このモノリス構造体の断面のSEM写真を図2に示す。
【0036】
<製造例5>
多糖類溶液の冷却工程を、30℃の湯浴中で行う以外は、製造例1と同様にして、円柱状のモノリス構造体を得た。このモノリス構造体の断面のSEM写真を図3に示す。
【0037】
<製造例6>
多糖類溶液の冷却工程を、0℃で行う以外は、製造例1と同様にして、円柱状のモノリス構造体を得た。
【0038】
<製造例7>
透明試験管中で、酢酸セルロース300mgを、クロロホルム1.0mL(33v/v%)、及びメタノール2.0mL(67v/v%)の混合溶媒に、50℃の湯浴中で加熱溶解させ、多糖類溶液を得た。得られた多糖類溶液を製造例1と同様に処理して、円柱状のモノリス構造体を得た。
【0039】
<製造例8>
混合溶媒の組成を、N−メチルピロリドン0.8mL(20v/v%)、エタノール2.0mL(50v/v%)、及び水1.2mL(30v/v%)とした以外は、製造例1と同様にして、直径13mm、長さ約25mmの円柱状のモノリス構造体を得た。水を包含するモノリス構造体を水中から取り出し、−78℃で凍結後、室温で減圧乾燥を行い、内部の水を除去した。
得られたモノリス構造体の断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真を図4に示す。
【0040】
<製造例9>
混合溶媒の組成を、N−メチルピロリドン2.0mL(50v/v%)、エタノール0.8mL(20v/v%)、及び水1.2mL(30v/v%)とした以外は、製造例1
と同様にして、円柱状のモノリス構造体を得た。
【0041】
<製造例10>
混合溶媒の組成を、γ−ブチロラクトン1.8mL(34v/v%)、エタノール2.8mL(53v/v%)、及び水0.7mL(13v/v%)とした以外は、製造例1と
同様にして、円柱状のモノリス構造体を得た。
【0042】
<製造例11>
混合溶媒の組成を、ジメチルスルホキシド1.9mL(35v/v%)、エタノール2.8mL(52v/v%)、及び水0.7mL(13v/v%)とした以外は、製造例1
と同様にして、円柱状のモノリス構造体を得た。
【0043】
<製造例12>
50mLサンプル管にアセチル化グルコマンナン1.0gを計り取り、クロロホルム10mL(45v/v%)、及びエタノール10mL(55v/v%)に溶解した以外は製造例7と同様にして、モノリス構造体を得た。得られたモノリス構造体の大きさは、直径2.4cm、長さ1.5cmの円柱状であった。
【0044】
<製造例13>
100mLナスフラスコ中で、酢酸セルロース2.5gを、1,4−ジオキサン15mL(30v/v%)、エタノール30mL(73v/v%)、及び水5.0mL(10v/v%)混合溶媒に、60℃の湯浴で加熱溶解させ、多糖類溶液を得た。得られた多糖類溶液を試験管(φ1.5cm、h10cm)中に4.0mLずつ分注した。前記多糖類溶液を10℃まで冷却して、溶媒を包含するモノリス構造体を得た。得られた溶媒を包含するモノリス構造体を、別容器内の過剰量の水中に投入し、モノリス構造体中に包含される前記混合溶媒を水に置換した。得られたモノリス構造体の大きさは直径1.3cm、長さ2.2cmの円柱状であった。
【0045】
<製造例14>
透明試験管中で、酢酸セルロース500mg(10重量%)を、1,4−ジオキサン1.5mL(30v/v%)、エタノール3.0mL(60v/v%)、及び20wt%のポリエチレングリコール(Mw:3000、和光純薬製)水溶液0.5mL(10v/v%)の混合溶媒に60℃の湯浴中で加熱溶解させ、多糖類溶液を得た。得られた多糖類溶液を20℃まで冷却して、溶媒を包含するモノリス構造体を得た。得られた溶媒を包含するモノリス構造体を、別容器内の過剰量の水中に投入し、モノリス構造体中に包含される前記混合溶媒を水に置換し、ポリエチレングリコールを除去した。得られたモノリス構造体は、直径13mm、長さ約25mmの円柱状であった。
【0046】
<製造例15>
100mLナスフラスコ中で、酢酸セルロース2.5gを、1,4−ジオキサン15mL(30v/v%)、エタノール30mL(73v/v%)、及び水5.0mL(10v/v%)混合溶媒に、60℃の湯浴で加熱溶解させ、多糖類溶液を得た。得られた多糖類溶液を試験管(φ1.5cm、h10cm)中に4.0mLずつ分注した。前記多糖類溶液を10℃まで冷却して、溶媒を包含するモノリス構造体を得た。得られた溶媒を包含するモノリス構造体を、別容器内の過剰量のエタノール中に投入し、モノリス構造体中に包含される前記混合溶媒をエタノールに置換した。
3mLのエタノールに10M水酸化ナトリウム溶液1mLを加え、試験管内でよく混合した。ここに先に得られたエタノールで置換したモノリス構造体の1つ(乾燥重量約200mg)を入れ、30℃で5時間振とう(100rpm)して、脱アセチル化を行った。その後、水中に浸漬して、溶媒を置換した。
1.5mLの水中に320μLのエピクロヒドリンを加え、試験管内でよく混合した。ここに先に得られた脱アセチル化後のモノリス構造体を加え、3時間30℃で振とうした。続いて、別の試験管にエピクロロヒドリン0.16mL、水1.5mL、および10M
NaOHを0.42mL加えよく混合した。ここにエピクロロヒドリン水溶液に浸漬したモノリスを加え、50℃で15時間振とうして架橋反応を行った。反応終了後、モノリス構造体を水中に投入し、中性になるまで水洗し、内部の溶媒を水で置換した。得られたモノリス構造体は、直径1.2cm、長さ1.9cmの円柱状であった。
【0047】
<製造例16>
試験管で2−ジエチルアミノエチルクロリド塩酸塩(和光純薬、以下DEAEとする)0.36gをイオン交換水1.5mLに溶解し、製造例15で得られたモノリスを浸漬し、30℃で3時間振とう(100rpm)した。続いて別の試験管に水1.0mL、10M NaOHを0.52mL加えよく混合した。ここにDEAE水溶液に浸漬したモノリ
スを浸漬し、50℃で15時間振とうしてDEAE導入反応を行った。反応終了後、モノリス構造体を水中に投入し、洗浄水が中性になるまで水洗し、内部の溶媒を水で置換した。得られたモノリス構造体は、直径1.2cm、長さ2.0cmの円柱状であった。
【0048】
製造例16で得られたモノリス構造体について、以下の手順で中和滴定を行いDEAE導入量(イオン交換容量)を測定した。
モノリスを遠心チューブに入れ0.5MのNaOH水溶液に浸漬し、18時間振とうした。次にMilliQ水で洗浄水が中性になるまでモノリスを水洗した。モノリスに付着した余分な水分をふき取り、重量を測定し、含水量を求めた。モノリスに含水量を含めて最終濃度が0.1MのHCL溶液になるように、水と0.5M HCLを加え、16時間
浸漬した。浸漬液2mLをホールピペットで測り取り、0.1M NaOHで滴定した。
その結果、DEAE導入量は1.0meg/g−dryであった。
【0049】
<製造例17>
100mLナスフラスコ中で、酢酸セルロース5.0gを、1,4−ジオキサン15mL(30v/v%)、エタノール30mL(60v/v%)、及び20wt%ポリエチレングリコール水溶液5.0mL(10v/v%)混合溶媒に60℃の湯浴で加熱溶解させ、多糖類溶液を得た。得られた多糖類溶液を試験管(φ1.5cm、h10cm)中に5.0mLずつ分注した。前記多糖類溶液を20℃まで冷却して、溶媒を包含するモノリス構造体を得た。得られた溶媒を包含するモノリス構造体を、別容器内の過剰量の水中に投入し、モノリス構造体中に包含される前記混合溶媒を水に置換した。水を包含するモノリス構造体の1つを水中から取り出し、−78℃で凍結後、室温で減圧乾燥を行い、内部の水を除去した。得られたモノリス構造体の断面を走査型電子顕微鏡で観察した写真を図5に示す。
2.5mLの水に10M水酸化ナトリウム溶液2.5mLを加え、試験管内でよく混合
した。ここに先に得られた水で置換したモノリス構造体の1つ(乾燥重量約400mg)を入れ、30℃で5時間振とう(100rpm)して、脱アセチル化を行った。その後、水中に浸漬して、水溶液が中性になるまで水洗した。
5.0mLの水中に350μLのエピクロヒドリンを加え、試験管内でよく混合した。ここに先に得られた脱アセチル化後のモノリス構造体を加え、2時間30℃で振とうした。続いて、別の試験管に水2.75mL、および10MNaOHを0.25mL加えよく混合した。ここにエピクロロヒドリン水溶液に浸漬したモノリスを加え、50℃で2時間振とうして架橋反応を行った。反応終了後、再びエピクロロヒドリン水溶液(エピクロロヒドリン350μl/水5ml)への浸漬、および10MNaOH水溶液(10MNaOH0.25ml/水2.75ml)中での架橋反応を前記記載の要領で行った。その後、モノリス構造体を水中に投入し、中性になるまで水洗し、内部の溶媒を水で置換した。得られたモノリス構造体は、直径1.2cm、長さ2.1cmの円柱状であった。
【0050】
<製造例18>
試験管でDEAE1.4gをイオン交換水2.0mLに溶解し、製造例17で得られた架橋モノリスを浸漬し、30℃で3時間振とう(100rpm)した。続いて別の試験管に水1.3mL、10M NaOHを1.7mL加えよく混合した。ここにDEAE水溶
液に浸漬したモノリスを浸漬し、50℃で15時間振とうしてDEAE導入反応を行った。反応終了後、モノリス構造体を水中に投入し、洗浄水が中性になるまで水洗し、内部の溶媒を水で置換した。得られたモノリス構造体は、直径1.2cm、長さ2.2cmの円
柱状であった。
【0051】
<参考製造例>
透明試験管中で、酢酸セルロース0.25、0.5、又は1.0g(5、10、又は20重量%)を、特許文献4に記載のセルロース多孔質膜製造方法で用いている溶媒である2−エチル−1,3−ヘキサンジオールをそれぞれ4.75、4.5、又は4gを加え、
150℃のブロックヒーターで加熱溶解させ、多糖類溶液を得た。得られた多糖類溶液を20℃まで冷却したところ、5重量%の場合は流動性があり、ゲルとしては成形体が得られなかった。また、10重量%では冷却すると、沈殿し、不均一析出となった。また、20重量%では直径1.5cm、長さ3.2cmの3次元の構造体が得られたが、通液性能が非常に悪くなり孔径も小さかった。
【0052】
<試験例1>連続孔の評価
製造例1の酢酸セルロースモノリス構造体の孔の連続性を調査するために、以下の手順でカラムを組み立てた。
口径0.9cmのロッド状の酢酸セルロースモノリス構造体をカッターで所望の長さに切断した。2.5cmの四弗化パイプ(I.D.7−O.D.9mm)(アズワン株式会社より購入)、直径9.3mm、厚さ2.4mmのポリプロピレン製フリッツ(スペルコ、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)でモノリスの両端を挟み、更にそれを全長が覆われる長さのテフロン(登録商標)熱収縮チューブFEP−090(アズワン株式会社より購入)の中に入れ全体をドライヤーで加熱して収縮させた。カラムの両端に異型ユニオン(30−10RU6−C、株式会社サンプラテック製)に接続した。これに外径6mmのチューブ接続し流速を測定した。また、さらに異型ユニオン(U−20C、東京理化器械株式会社)を接続することで1/16インチ(1.59mm)のチューブにてクロマトグラフィーシステムでの測定に用いた。
NaCl、牛血清アルブミン(BSA)、又は鉄コロイド(平均粒径78nm)の水溶液をそれぞれカラムに流して、溶出された物質の回収率を調べた。
クロマトグラフィーシステムは、BioLogic LP(バイオ・ラッドラボラトリ
ーズ株式会社)を用い、NaClは電気伝導度により、BSAと鉄コロイドは280nmの吸収によりそれぞれ検出した。流速は1.2mL/minとした。用いたモノリス構造
体は径0.9cm、長さ2.5cmであった。
NaClの場合、カラムは純水によって平衡化した後、1M NaCl水溶液を10m
L通液させた。比較のために、カラムを接続せず配管を直接接続して同様に1M NaC
l水溶液を流した。それぞれ、溶出時間と電気伝導度をチャートレコーダーで記録した。それぞれのピーク面積はデジタイザーソフト(un scan it)を用いて求めた。
BSAおよび鉄コロイドの場合、カラムはPBS(−)(日水製薬株式会社製、Dulbecco’s PBS(−)を取扱い説明にしたがって調製した)で平衡化し後、1%
BSA、又は20μg/mLの鉄コロイドのPBS(−)溶液をそれぞれ2mL通液させた。それぞれ、溶出時間と280nmの吸光度をチャートレコーダーで記録した。それぞれのピーク面積はデジタイザーソフト(un scan it)を用いて求めた。
いずれの場合もそれぞれ2回繰り返し、平均値から回収率を計算した。
【0053】
結果を表1に示す。NaCl、BSA、及び鉄コロイドの何れの試料であっても、ほぼ100%の回収量となり、製造例1のモノリス構造体の孔は連続している事が確認された。
【0054】
【表1】
【0055】
<試験例2>通液時の流速と圧力の関係の評価
製造例13および製造例14の酢酸セルロースモノリスに純水を通液しその際のカラム入り口の圧力を測定した。まず以下の手順でカラムを組み立てた。
口径1.2cmのロッド状の酢酸セルロースモノリス構造体をカッターで所望の長さに切断した。5.0cmの四弗化パイプ(I.D.7−O.D.9mm)、直径9.3mm、厚さ2.4mmのポリプロピレン製フリッツでモノリスの両端を挟み、更にそれを全長が覆われる長さのスミチューブC(SUMI−C−14、住友電工ファインポリマー株式会社)の中に入れ全体を95℃の湯浴で加熱して収縮させた。さらにそれを全長が覆われる長さのテフロン(登録商標)熱収縮チューブFEP−120(アズワン株式会社より購入)の中に入れ、全体をドライヤーで加熱して収縮させた。カラムの両端に異型ユニオン(30−10RU6−C、株式会社サンプラテック製)に接続した。これに外径6mmのチューブ接続し流速を測定した。また、さらに異型ユニオン(U−20C、東京理化器械株式会社)を接続することで1/16インチ(1.59mm)のチューブにてクロマトグラフィーシステムでの測定に用いた。
測定装置としては、ポンプにはLC8A(島津)、圧力計にはGP−M025(キーエンス)、流量計にはFD−SS02A(キーエンス)を用いた。用いたモノリス構造体は径0.9cm、長さ2.5cmであった。通水液としては、31〜32℃の純水を用いた。
比較例として、セルロース粒子充填カラムであるセルファイン Max S−r Min
iカラム(径0.9cm、長さ1.8cm、JNC株式会社製)を用いて同様に評価した。
結果を図6に示す。製造例13および製造例14のモノリス構造体は、粒子充填カラムと比べて非常に低圧で且つ高流速での通液が可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、安価な多糖や多糖誘導体から、生体高分子の分離に適した孔径を持つモノリス構造体を提供することができる。また、該モノリス構造体には、生体高分子に対する吸着性能を任意に付与することができ、医薬品製造等における精製工程の効率向上に寄与することができるため、産業上非常に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6