特許第6206122号(P6206122)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6206122-ポリアリーレンスルフィド系組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206122
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド系組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20170925BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20170925BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170925BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08L23/08
   C08K3/04
   C08K7/14
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-242385(P2013-242385)
(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公開番号】特開2015-101628(P2015-101628A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 保巳
(72)【発明者】
【氏名】春成 武
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博之
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−16942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/02
C08K 3/04
C08K 7/14
C08L 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(B−1)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(B−2)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(B−3)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(B−4)及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン系重合体(B−5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の変性エチレン系重合体(B)15〜30重量部、ガラス繊維(C)15〜30重量部、数平均粒子径が10〜20nmであり、ジブチルフタレート吸油量が60〜125cm/100gであるカーボンブラック(D)1〜10重量部、並びに黒色染料(E)0.1〜3重量部を含んでなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド系組成物。
【請求項2】
さらに紫外線吸収剤(F)を含んでなることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド系組成物。
【請求項3】
さらに脂肪酸アミド系滑剤(G−1)、カルナバワックス(G−2)からなる群より選択される少なくとも1種以上の離型剤(G)を含んでなることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド系組成物。
【請求項4】
ガラス繊維(C)が、繊維断面アスペクト比2〜4を有する扁平ガラス繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド系組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装部品としての黒色色調、耐紫外線劣化性、耐衝撃性に優れ、かつ電気絶縁性にも優れるポリアリーレンスルフィド系組成物に関するものであり、さらに詳しくは、特にモバイルパソコンやタブレット、携帯電話など携帯端末機器の筐体等の電子・電気部品用途、又は自動車電装部品等の電気部品用途に有用なポリアリーレンスルフィド系組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ(p−フェニレンスルフィド)に代表されるポリアリーレンスルフィドは、優れた機械的特性、熱的特性、電気的特性、耐薬品性を有することから、多くの電子・電気機器部材や自動車機器部材、その他OA機器部材等に幅広く使用されている。
【0003】
ポリアリーレンスルフィドは、ガラス繊維等の繊維状無機充填材、炭酸カルシウム、タルク等の粒状無機充填材を配合することにより、機械的強度、耐熱性、剛性等を大きく向上させることができる一方で、他のエンジニアリングプラスチックに比較し耐紫外線劣化性、耐衝撃性に劣ることから、モバイルパソコンやタブレット、携帯電話など携帯端末機器の筐体等の電子・電気部品用途、又は自動車電装部品等の電気部品用途への搭載が制限されている。
【0004】
ポリアリーレンスルフィドの耐紫外線劣化性を改良するための技術として、例えばポリフェニレンサルファイドに特定のアルキリデンビス(ベンゾトリアゾリルフェノール)を配合するポリフェニレンサルファイド組成物(例えば特許文献1参照。)、ポリフェニレンサルファイドに特定構造の紫外線吸収剤を配合するポリフェニレンサルファイド繊維(例えば特許文献2参照。)等が提案されている。
【0005】
また、ポリアリーレンスルフィドの耐衝撃性を改良するための技術としては、例えばポリアリーレンスルフィドにα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルと無水マレイン酸からなるエチレン系共重合体を配合する樹脂組成物(例えば特許文献3参照。)、ポリアリーレンスルフィドにα−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとエチレンからなるエチレン系共重合体を配合する樹脂組成物(例えば特許文献4参照。)、等が提案されている。また、例えば、特定のポリアリーレンスルフィドにエチレンおよびグリシジルエステルを含有するオレフィン系共重合体、特定の弾性体、カーボンブラックを配合する樹脂組成物(例えば特許文献5参照。)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平06−002878号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特開平04−050310号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献3】特開昭62−151460号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献4】特開昭58−154757号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献5】特表2007−502894号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜2に提案された技術においては、外装部品として必要な耐紫外線劣化性を得られるものではなかった。また、特許文献3〜5に提案された技術においては、耐衝撃性には優れるものの、外装部品として必要な色調、特に黒色色調や耐紫外線劣化性については何ら述べられていない。即ちこれらの提案技術はおしなべて、黒色色調、耐紫外線劣化性、耐衝撃性を同時に満足することは難しいものであった。
【0008】
更には、ポリアリーレンスルフィドにカーボンブラックを多量に配合する組成物は、外装部品に必要な黒色色調は得られるものの、耐衝撃性、電気絶縁性を低下させることから、やはり、黒色色調、耐紫外線劣化性、耐衝撃性、電気絶縁性を同時に満足することは難しいものであった。
【0009】
そこで、本発明は、外装部品としての黒色色調、耐紫外線劣化性、耐衝撃性、電気絶縁性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物を提供することを目的とし、さらに詳しくは、モバイルパソコンやタブレット、携帯電話など携帯端末機器の筐体等の電子・電気部品用途、又は自動車電装部品等の電気部品用途に特に有用なポリアリーレンスルフィド系組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアリーレンスルフィド、変性エチレン系重合体、ガラス繊維及び特定構造のカーボンブラックから構成され、その配合割合を特定の範囲とし、更には、必要に応じて黒色染料、紫外線吸収剤、離型剤等を配合する組成物は、黒色色調、耐紫外線劣化性、耐衝撃性、電気絶縁性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となり得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(B−1)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(B−2)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(B−3)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(B−4)及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン系重合体(B−5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の変性エチレン系重合体(B)15〜30重量部、ガラス繊維(C)15〜30重量部、数平均粒子径が10〜20nmであり、ジブチルフタレート(以下、DBPと記す。)吸油量が60〜125cm/100gであるカーボンブラック(D)1〜10重量部、並びに黒色染料(E)0.1〜3重量部を含んでなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド系組成物に関するものである。
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成するポリアリーレンスルフィド(A)としては、一般にポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであればよく、該ポリアリーレンスルフィドとしては、例えばp−フェニレンスルフィド単位、m−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、該ポリアリーレンスルフィドの具体的例示としては、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、ポリ(p−フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0014】
該ポリアリーレンスルフィド(A)は、とりわけ黒色度に優れたポリアリーレンスルフィド系組成物が得られることから、溶融温度310℃、加圧力100kgf/cmで圧縮成形した成形体の明度(L値)が70以下のものであることが好ましい。
【0015】
該ポリアリーレンスルフィド(A)は、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度において、機械的強度と成形流動性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物が得られることから50〜1000ポイズのポリアリーレンスルフィドであることが好ましい。
【0016】
該ポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法としては、ポリアリーレンスルフィドの製造方法として知られている方法により製造することが可能であり、例えば極性溶媒中で硫化アルカリ金属塩、ポリハロ芳香族化合物を重合することにより得ることが可能である。その際の極性有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げることができ、硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化リチウムの無水物又は水和物を挙げることができる。また、硫化アルカリ金属塩としては、水硫化アルカリ金属塩とアルカリ金属水酸化物を反応させたものであってもよい。ポリハロ芳香族化合物としては、例えばp−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロビフェニル等を挙げることができる。
【0017】
また、該ポリアリーレンスルフィド(A)としては、直鎖状のものであっても、重合時にトリハロゲン以上のポリハロゲン化合物を少量添加して若干の架橋又は分岐構造を導入したものであっても、ポリアリーレンスルフィドの分子鎖の一部及び/又は末端を例えばカルボキシル基、カルボキシ金属塩、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基等の官能基により変性されたものであっても、窒素などの非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。また、該ポリアリーレンスルフィド(A)は、加熱硬化前又は後に脱イオン処理(酸洗浄や熱水洗浄など)、あるいはアセトン、メチルアルコールなどの有機溶媒による洗浄処理を行うことによってイオン、オリゴマーなどの不純物を低減させたものであってもよい。さらに、重合反応終了後に不活性ガス又は酸化性ガス中で加熱処理を行い、硬化を行ったものであってもよい。
【0018】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する変性エチレン系重合体(B)は、ポリアリーレンスルフィド系組成物の耐衝撃性を改良するものであり、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(B−1)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(B−2)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(B−3)、エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(B−4)及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン系重合体(B−5)からなる群より選択される少なくとも1種以上の変性エチレン系重合体である。
【0019】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(B−1)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド系組成物が耐衝撃性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=50〜98:40〜1:10〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(B−1)の具体的例示としては、(商品名)ボンダインLX4110(アルケマ(株)製)、(商品名)ボンダインTX8030(アルケマ(株)製)、(商品名)ボンダインAX8390(アルケマ(株)製)等が挙げられる。
【0020】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(B−2)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド系組成物が耐衝撃性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位(重量比)=85〜99:15〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体(B−2)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2C(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファーストE(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0021】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(B−3)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド系組成物が耐衝撃性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:酢酸ビニル残基単位(重量比)=50〜98:15〜1:35〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(B−3)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト2B(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7B(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0022】
該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(B−4)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド系組成物が耐衝撃性等に優れることから、エチレン残基単位:α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル残基単位:α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル残基単位(重量比)=50〜98:10〜1:40〜1の範囲であることが好ましい。該エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(B−4)の具体的例示としては、(商品名)ボンドファースト7L(住友化学(株)製)、(商品名)ボンドファースト7M(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0023】
該無水マレイン酸グラフト変性エチレン系重合体(B−5)としては、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いても良く、中でも得られるポリアリーレンスルフィド系組成物が耐衝撃性等に優れることから、エチレン残基単位:α−オレフィン残基単位:無水マレイン酸残基単位(重量比)=50〜98:45〜1:5〜1の範囲からなるものであることが好ましく、具体的には無水マレイン酸グラフト変性直鎖状低密度ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン−プロピレンゴム等が挙げられる。該無水マレイン酸グラフト変性エチレン系重合体は、例えばエチレン−α−オレフィン共重合体、過酸化物、無水マレイン酸を共存し、グラフト化反応を進行することにより入手することが可能である。
【0024】
そして、該変性エチレン系重合体(B)を構成するα−オレフィンとは、炭素数が3以上のα−オレフィンを言い、例えばプロピレン、ブテン−1、4−メチル−ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等を例示できる。また、α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸等のアルキルエステルが挙げられ、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル等が挙げられる。α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステルとしては、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステルが挙げられる。
【0025】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する該変性エチレン系重合体(B)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、15〜30重量部である。該変性エチレン系重合体(B)の配合量が15重量部未満である場合、得られる組成物は耐衝撃性に劣るものとなる。一方、該変性エチレン系重合体(B)の配合量が30重量部を越える場合、得られる組成物は機械的強度に劣るものとなる。
【0026】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成するガラス繊維(C)は、ポリアリーレンスルフィド系組成物の耐衝撃性、機械的強度を改良するものであり、該ガラス繊維(C)としては、一般にガラス繊維と称すものであれば如何なるものを用いてもよい。該ガラス繊維の具体的例示としては、例えば平均繊維径が6〜14μmのチョップドストランド、繊維断面のアスペクト比が2〜4の扁平ガラス繊維からなるチョップドストランド、ミルドファイバー、ロービング等のガラス繊維;シラン繊維;アルミノ珪酸塩ガラス繊維;中空ガラス繊維;ノンホーローガラス繊維等が挙げられ、その中でもとりわけ耐衝撃性と成形流動性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、繊維断面のアスペクト比が2〜4である扁平ガラス繊維からなるチョップドストランドであることが好ましい。繊維断面のアスペクト比が4であるチョップドストランドとしては、例えば(商品名)CSG−3PA 830(日東紡(株)製)、繊維断面のアスペクト比が2であるチョップドストランドとしては、例えば(商品名)CSG−3PL 830(日東紡(株)製)等が挙げられる。これらのガラス繊維(C)は2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものを用いてもよい。
【0027】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する該ガラス繊維(C)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、15〜30重量部である。該ガラス繊維(C)の配合量が15重量部未満である場合、得られる組成物は耐衝撃性、機械的強度に劣るものとなる。一方、該ガラス繊維(C)の配合量が30重量部を越える場合、得られる組成物は成形流動性に劣るものとなる。
【0028】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成するカーボンブラック(D)は、ポリアリーレンスルフィド系組成物の黒色度を向上させ、耐紫外線劣化性を改良するものであり、該カーボンブラック(D)としては、とりわけ黒色色調、耐紫外線劣化性、耐衝撃性、電気絶縁性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、数平均粒子径が10〜20nmであり、DBP吸油量が60〜125cm/100gのカーボンブラックである。カーボンブラックの数平均粒子径が10nm未満である場合、得られる組成物は耐衝撃性に劣り、数平均粒子径が20nmを超える場合、得られる組成物は黒色色調に劣るものとなる。また、カーボンブラックのDBP吸油量が60cm/100g未満である場合、得られる組成物は耐紫外線劣化性に劣り、DBP吸油量が125cm/100gを超える場合、得られる組成物は耐衝撃性、電気絶縁性に劣るものとなる。このようなカーボンブラック(D)の具体的例示としては、例えば(商品名)#950(三菱化学(株)製;数平均粒子径16nm、DBP吸油量79cm/100g)、 (商品名)#2600(三菱化学(株)製、;数平均粒子径13nm、DBP吸油量77cm/100g)、(商品名)ヴァルカン9A32(キャボット社製;数平均粒子径19nm、DBP吸油量118cm/100g)等を挙げることができる。これらのカーボンブラック(D)は2種以上を併用することも可能であり、必要により表面を酸化処理したものを用いてもよい。なお、数平均粒子径は、例えば電子顕微鏡により測定することもできる。
【0029】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を構成する該カーボンブラック(D)の配合量は、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、1〜10重量部である。該カーボンブラック(D)の配合量が1重量部未満である場合、得られる組成物は黒色色調、耐紫外線劣化性に劣るものとなる。一方、該カーボンブラック(D)の配合量が10重量部を越える場合、得られる組成物は耐衝撃性、電気絶縁性に劣るものとなる。
【0030】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、特に黒色色調が優れたものとなることから、さらに、黒色染料(E)を配合してなるものが好ましい。該黒色染料(E)としては、一般に黒色染料と称すもので、ポリアリーレンスルフィドの成形加工温度において、分解、揮発が生じないような耐熱性を有するものであれば如何なるものを用いてもよい。このような黒色染料として、例えばクロム、コバルト、ニッケル、銅等の2価、3価の金属で錯体を形成した含金属染料;ニグロシン、ペリノン等のアゾ系芳香族化合物からなる油溶性染料などが挙げられる。該黒色染料(E)の配合量としては、黒色色調、耐紫外線劣化性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、0.1〜3重量部であることが好ましい。
【0031】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、特に耐紫外線劣化性が優れたものとなることから、さらに、紫外線吸収剤(F)を配合してなることが好ましい。紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤等を挙げることができ、いずれのものでも使用できる。中でも、ポリアリーレンスルフィドが350〜380nmの波長領域の紫外線を特に吸収し劣化に至ることから、この波長領域の紫外線を吸収する紫外線吸収剤であることが好ましい。このような紫外線吸収剤として、例えば(商品名)LA−31((株)アデカ製)等が挙げられる。該紫外線吸収剤(F)の配合量としては、黒色色調に影響を与えず、耐紫外線劣化性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、0.1〜3重量部であることが好ましい。
【0032】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、特に成形加工性が優れたものとなることから、さらに、離型剤(G)を配合してなるものが好ましい。該離型剤(G)は、脂肪酸アミド系滑剤(G−1)、カルナバワックス(G−2)から選択される1種以上のものであることが好ましく、該脂肪酸アミド系滑剤(G−1)、カルナバワックス(G−2)は市販のものが使用できる。該脂肪酸アミド系滑剤(G−1)は、高級脂肪酸アミド、エチレンビスステアロアミド、高級脂肪酸及びジアミンからなる重縮合物などが挙げられ、この範疇に属するものであれば如何なるものを用いることも可能であり、例えばステアリン酸、セバシン酸、エチレンジアミンからなる重縮合物である、(商品名)ライトアマイドWH−255(共栄社化学(株)製)等を挙げることができる。また、該カルナバワックス(G−2)としては、一般にカルナバワックスと称するものであれば如何なるものを用いる事が可能であり、例えば(商品名)精製カルナバ粉末1号(日興リカ(株)製)等を挙げることができる。該離型剤(G)の配合量としては、成形流動性に優れるポリアリーレンスルフィド系組成物となることから、ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対して、0.1〜3重量部であることが好ましい。
【0033】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、炭素繊維、窒化珪素ウイスカー、塩基性硫酸マグネシウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、炭化珪素ウイスカー、ボロンウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカー;ロックウール、ジルコニア、チタン酸バリウム、炭化珪素、シリカ、高炉スラグ等の無機系繊維、全芳香族ポリアミド繊維、フェノール樹脂繊維、全芳香族ポリエステル繊維等の有機系繊維;ワラステナイト、マグネシウムオキシサルフェート等の鉱物系繊維が添加されたものであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、マイカ、シリカ、タルク、クレイ、硫酸カルシウム、カオリン、ワラステナイト、ゼオライト、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化スズ、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、ガラスパウダー、ガラスバルーン、ガラスフレークが添加されたものであっても構わない。
【0034】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知のタルク、カオリン、シリカなどの結晶核剤;ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤;酸化防止剤;熱安定剤;滑剤;発泡剤などの通常の添加剤を1種以上添加するものであってもよい。
【0035】
さらに、本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えば、エポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアルキレンオキサイド等の1種以上を混合して使用してなるものであってもよい。
【0036】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物を製造する際の製造方法としては特に制限はなく、一般的な混合・混練方法として知られている方法を用いる事が可能であり、例えば全ての原材料を配合し溶融混練する方法;原材料の一部を配合した後で溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法;あるいは原材料の一部を配合後単軸又は二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法、など、いずれの方法を用いてもよい。また、小量の添加成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加することで使用してもよい。そして、溶融混練を行う方法としては、従来から使用されている加熱溶融混練方法を用いることができ、例えば単軸又は二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダーなどによる加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常260〜350℃の中から任意に選ぶことができる。
【0037】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物の成形方法としては、射出成形機、押出成形機、圧縮成形機などが挙げられ、これらの方法を用いて任意の形状に成形することができ、特に射出成形には好適な樹脂組成物である。
【0038】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、外装部品としての黒色色調に優れたものとなることから、シリンダー温度310℃、金型温度135℃で射出成形した成形体の明度(L値)が30以下であることが好ましい。
【0039】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、外装部品としての黒色色調、耐紫外線劣化性、耐衝撃性、電気絶縁性に優れる特性をあわせもつことから、モバイルパソコンやタブレット、携帯電話など携帯端末機器の筐体等の電子・電気部品用途、又は自動車電装部品に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0040】
本発明は、外装部品としての黒色色調、耐紫外線劣化性、耐衝撃性に優れ、かつ電気絶縁性にも優れるポリアリーレンスルフィド系組成物を提供するものであり、該ポリアリーレンスルフィド系組成物は、モバイルパソコンやタブレット、携帯電話など携帯端末機器の筐体等の電子・電気部品用途、又は自動車電装部品等の電気部品用途に有用なものである。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0042】
実施例及び比較例において用いた、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、変性エチレン系重合体(B)、ガラス繊維(C)、カーボンブラック(D)、黒色染料(E)、紫外線吸収剤(F)および離型剤(G)を以下に示す。
【0043】
<ポリアリーレンスルフィド(A)>
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A−1)と記す。):溶融粘度400ポイズ、明度(L値)68。
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A−2)と記す。):溶融粘度460ポイズ、明度(L値)63。
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A−3)と記す。):溶融粘度370ポイズ、明度(L値)59。
【0044】
<変性エチレン系重合体(B)>
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸共重合体(B−1)(以下、変性エチレン系重合体(B−1)と記す。):アルケマ(株)製、(商品名)ボンダインAX8390。
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(B−2)(以下、変性エチレン系重合体(B−2)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファースト7M。
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸グリシジルエステル−酢酸ビニル共重合体(B−3)(以下、変性エチレン系重合体(B−3)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファースト7B。
エチレン−α、β−不飽和カルボン酸−グリシジルエステル共重合体(B−4)(以下、変性エチレン系重合体(B−4)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファーストE。
【0045】
<ガラス繊維(C)>
ガラス繊維(C−1);日東紡(株)製チョップドストランド、(商品名)CSG−3PA 830、繊維断面のアスペクト比4。
ガラス繊維(C−2);日東紡(株)製チョップドストランド、(商品名)CSG−3PL 830、繊維断面のアスペクト比2。
【0046】
<カーボンブラック(D)>
カーボンブラック(D−1); 三菱化学(株)製、(商品名)#950、数平均粒子径16nm、DBP吸油量79cm/100g。
カーボンブラック(D−2); 三菱化学(株)製、(商品名)#2600、数平均粒子径13nm、DBP吸油量77cm/100g。
カーボンブラック(D−3); キャボット社製、(商品名)ヴァルカン9A32、数平均粒子径19nm、DBP吸油量118cm/100g。
カーボンブラック(D−4); 三菱化学(株)製、(商品名)MA−100、数平均粒子径24nm、DBP吸油量100cm/100g。
カーボンブラック(D−5); 三菱化学(株)製、(商品名)#1000、数平均粒子径18nm、DBP吸油量56cm/100g。
カーボンブラック(D−6); 三菱化学(株)製、(商品名)#3030B、数平均粒子径55nm、DBP吸油量130cm/100g。
【0047】
<黒色染料(E)>
黒色染料(E−1);(株)ヘキサケミカル製、(商品名)H01B794、ペリノン系染料。
【0048】
<紫外線吸収剤(F)>
紫外線吸収剤(F−1);(株)アデカ製、(商品名)LA−31。
【0049】
<離型剤(G)>
脂肪酸アミド系滑剤(以下、離型剤(G−1)と記す。);共栄社化学(株)製、(商品名)ライトアマイドWH−255。
カルナバワックス(以下、離型剤(G−2)と記す。);日興リカ(株)製、(商品名)精製カルナバ粉末1号。
【0050】
<合成例1(PPS(A−1)の合成)>
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(NaS・2.9HO)1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH:和光純薬特級)8.7g及びN−メチル−2−ピロリドン3232gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、339gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2129g、N−メチル−2−ピロリドン1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、250℃にて2時間重合を行った。次いで、この系に250℃で蒸留水509gを圧入し、255℃まで昇温してさらに2時間重合反応を行った。重合終了後、室温まで冷却し、重合スラリーを遠心濾過器で固液分離した。ケーキをN−メチル−2−ピロリドン、アセトン及び水で順次洗浄した。得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を105℃で一昼夜乾燥することによって、溶融粘度が400ポイズのPPS(A−1)を得た。
【0051】
<合成例2(PPS(A−2)の合成)>
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(NaS・2.9HO)1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH:和光純薬特級)8.7g及びN−メチル−2−ピロリドン3232gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、340gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2107g、N−メチル−2−ピロリドン1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、250℃にて2時間重合を行った。次いで、この系に250℃で蒸留水509gを圧入し、255℃まで昇温してさらに2時間重合反応を行った。重合後、減圧下で重合スラリーからN−メチル−2−ピロリドンを蒸留操作で回収した。最終到達温度は170℃で圧力は4.7kPaであった。得られたケーキに80℃の温水を加えスラリー濃度20%として洗浄し、再度、同様に温水を加え200℃まで昇温してポリ(p−フェニレンスルフィド)の洗浄を合計2回行った。得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を105℃で一昼夜乾燥することによって、溶融粘度が460ポイズのPPS(A−2)を得た。
【0052】
<合成例3(PPS(A−3)の合成)>
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(NaS・2.9HO)1854g、30%苛性ソーダ溶液(30%NaOHaq)48g及びN−メチル−2−ピロリドン3679gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、380gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2140g、N−メチル−2−ピロリドン985gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合後、減圧下で重合スラリーからN−メチル−2−ピロリドンを蒸留操作で回収した。最終到達温度は170℃で圧力は4.7kPaであった。得られたケーキに80℃の温水を加えスラリー濃度20%として洗浄し、再度、同様に温水を加え175℃まで昇温してポリ(p−フェニレンスルフィド)の洗浄を合計2回行った。得られたポリフェニレンスルフィドを105℃で一昼夜乾燥した。次いで、乾燥したポリフェニレンスルフィドをバッチ式ロータリーキルン型焼成装置に充填し、窒素雰囲気下で240℃まで昇温し、1時間の保持による硬化処理を行うことによって、溶融粘度が370ポイズのPPS(A−3)を得た。
【0053】
得られたポリアリーレンスルフィド、ポリアリーレンスルフィド系組成物の評価・測定方法を以下に示す。
【0054】
ポリアリーレンスルフィドの評価・測定方法
〜ポリアリーレンスルフィドの明度(L値)の測定〜
ポリアリーレンスルフィドを溶融温度310℃、加圧力100kgf/cmの圧力で圧縮成形した後、冷却温度150℃で冷却し、50mm×50mm×1mm厚の成形体を作製し、この成形体を用い、色彩色差計(スガ試験機(株)製、商品名SMカラーコンピューター)にて、室温下で明度(L値)の測定を行った。
【0055】
〜ポリアリーレンスルフィドの溶融粘度測定〜
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター((株)島津製作所製、(商品名)CFT−500)にて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で溶融粘度の測定を行った。
【0056】
ポリアリーレンスルフィド系組成物の評価・測定方法
〜ポリアリーレンスルフィド系組成物の明度(L値)の測定〜
ポリアリーレンスルフィド系組成物をシリンダー温度310℃、金型温度135℃とした射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE−75S)によって射出成形し、70mm×70mm×2mm厚の成形板を作製し、この成形板を用い、色彩色差計(スガ試験機(株)製、(商品名)SMカラーコンピューター)にて、室温下で明度(L値)の測定を行った。明度(L値)が30以下のものを黒色色調に優れる判断した。
【0057】
〜耐紫外線劣化性の評価〜
図1に示す分光分布を有する100Wの紫外線ランプを2個配した紫外線照射箱に、上記成形板を、ランプ下端と成形板表面との距離が10cmとなるように挿入し、紫外線を照射した。紫外線照射時間は6時間および30時間で行った。耐紫外線劣化性は、紫外線照射前の成形板のL値、a値、b値と、紫外線照射後の成形板のL値、a値、b値から下式(1)により紫外線照射6時間後のΔE及び紫外線照射30時間後のΔE30を算出し、その値の大小で劣化性を評価した。紫外線照射6時間後のΔEが3以下で、かつ紫外線照射30時間後のΔE30が5以下であるものを耐紫外線劣化性に優れると判断した。尚紫外線照射前および照射後の成形板のL値、a値、b値は、色彩色差計(スガ試験機(株)製、(商品名)SMカラーコンピューター)にて、室温下で測定を行った。因みにL値、a値、b値とは色空間を表わす数値であり、L値は色の明度(L=0は黒体、L=100は完全な白色を表わす。)、a値は赤と緑との補色の相対位置(負の値が大きいほど緑寄りで、正の値が大きいほど赤寄りを表わす。)、b値は黄と青との補色の相対位置(負の値が大きいほど青寄りで、正の値が大きいほど黄寄りを表わす。)をそれぞれ表わすものである。
ΔE=((L1−L2)+(a1−a2)+(b1−b2)0.5 (1)
(ここで、L1は、紫外線照射前のL値、a1は、紫外線照射前のa値、b1は紫外線照射前のb値、L2は、規定時間紫外線照射後のL値、a2は、規定時間紫外線照射後のa値、b2は、規定時間紫外線照射後のb値のそれぞれを示す。)
〜耐衝撃性の測定〜
ポリアリーレンスルフィド系組成物を、シリンダー温度310℃、金型温度135℃とした射出成形機(住友重機械工業(株)製、(商品名)SE−75S)によってシャルピー衝撃強度測定用試験片を作製し、ノッチングマシーン((株)東洋精機製作所製、(商品名)A−3型)によりノッチを入れ、シャルピー衝撃試験機((株)東洋精機製作所製、(商品名)DG−CB型)を用いて、ISO179に準拠し測定を行った。シャルピー衝撃強度として12kJ/mを超えるものを実用上十分な値を示すと判断した。
【0058】
〜体積固有抵抗率の測定〜
上記成形板を23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室に24時間以上放置後、電気抵抗測定装置((株)アドバンテスト製、(商品名)R8340)を用いて、体積固有抵抗率を測定した。体積固有抵抗率が1.0×1015Ω-cm以上であるものを電気絶縁性に優れると判断した。
【0059】
実施例1
合成例1で得られたPPS(A−1)100重量部に対し、変性エチレン系重合体(B−1)26.6重量部、カーボンブラック(D−1)2.3重量部、及び離型剤(G−1)0.3重量部を予め均一に混合し、シリンダー温度310℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM−35−102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(C−1)をPPS(A−1)100重量部に対して26.6重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリアリーレンスルフィド系組成物を作製した。得られたポリアリーレンスルフィド系組成物から、明度、耐紫外線劣化性、体積固有抵抗率を評価するための成形板、および耐衝撃性を評価するためのシャルピー衝撃強度測定用試験片を作製し、明度、耐紫外線劣化性、シャルピー衝撃強度、体積固有抵抗率を評価した。評価結果を表1に示した。
【0060】
得られたポリアリーレンスルフィド系組成物は、実用上十分な明度を有し、耐紫外線劣化性に優れ、衝撃強度も良好であった。また、電気絶縁性にも優れていた。
【0061】
実施例2〜11
PPS(A−1、A−2、A−3)、変性エチレン系重合体(B−2、B−3、B−4)、カーボンブラック(D−1、D−2、D−3)、黒色染料(E−1)、紫外線吸収剤(F−1)、及び離型剤(G−1、G−2)を表1に示す構成割合で配合して、二軸押出機のホッパーに投入し、ガラス繊維(C−1、C−2)を、表1に示す構成割合になるように二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、実施例1と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド系組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表1に示した。
【0062】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド系組成物は、実用上十分な明度を有し、耐紫外線劣化性に優れ、衝撃強度も良好であった。また、電気絶縁性にも優れていた。
【0063】
【表1】
比較例1〜6
PPS(A−2)、変性エチレン系重合体(B−2)、カーボンブラック(D−1、D−4、D−5、D−6)及び離型剤(G−2)を表2に示す構成割合で配合して、二軸押出機のホッパーに投入し、ガラス繊維(C−1)を、表2に示す構成割合になるように、二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、実施例1と同様の方法により組成物を作製し、実施例1と同様の方法により評価した。評価結果を表2に示した。
【0064】
比較例1、3により得られた組成物は、明度において実用上十分な性能が得られなかった。比較例1、3、4により得られた組成物は、耐紫外線劣化性において劣っていた。比較例2、5、6により得られた組成物は、衝撃強度において劣っていた。また、比較例2、5により得られた組成物は、電気絶縁性において劣っていた。
【0065】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のポリアリーレンスルフィド系組成物は、外装部品としての黒色色調、耐紫外線劣化性、耐衝撃性に優れ、かつ電気絶縁性にも優れることから、特にモバイルパソコンやタブレット、携帯電話など携帯端末機器の筐体等の電子・電気部品用途、又は自動車電装部品等の電気部品用途に用いられる樹脂組成物として期待されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1:実施例において耐紫外線劣化性を評価する際に用いた紫外線ランプの分光分布を示す図である。
図1