特許第6206188号(P6206188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206188指紋付着防止剤組成物、指紋付着防止剤の製造方法、ハードコート用組成物、ハードコート層を有する基材およびタッチパネル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206188
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】指紋付着防止剤組成物、指紋付着防止剤の製造方法、ハードコート用組成物、ハードコート層を有する基材およびタッチパネル
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20170925BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20170925BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20170925BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20170925BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20170925BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170925BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20170925BHJP
   C08F 299/08 20060101ALI20170925BHJP
   C08G 77/24 20060101ALN20170925BHJP
【FI】
   C09K3/00 R
   C09K3/00 112F
   C09K3/18 104
   C09D183/08
   C09D4/00
   C09D183/07
   C09D7/12
   C08F230/08
   C08F299/08
   !C08G77/24
【請求項の数】13
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-556418(P2013-556418)
(86)(22)【出願日】2013年1月29日
(86)【国際出願番号】JP2013051923
(87)【国際公開番号】WO2013115191
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2015年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-17605(P2012-17605)
(32)【優先日】2012年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-245498(P2012-245498)
(32)【優先日】2012年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−275403(JP,A)
【文献】 特開2008−106103(JP,A)
【文献】 特開2008−069292(JP,A)
【文献】 特開2011−187558(JP,A)
【文献】 特開2010−138112(JP,A)
【文献】 特開平11−116810(JP,A)
【文献】 特開2002−012859(JP,A)
【文献】 特開昭62−119141(JP,A)
【文献】 特開2007−002194(JP,A)
【文献】 特開2008−248239(JP,A)
【文献】 特開平10−030068(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/013816(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/058386(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C08F 230/08
C08F 299/08
C09D 4/00
C09D 7/12
C09D 183/07
C09D 183/08
C09K 3/18
C08G 77/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(a−1)で表される加水分解性シラン化合物(a−1)、下式(a−2)で表される加水分解性シラン化合物(a−2)および下式(a−3)で表される加水分解性シラン化合物(a−3)を含む混合物の部分加水分解縮合物であって、フッ素原子含有率が2.5〜40質量%であり、数平均分子量(Mn)が500以上10,000未満の部分加水分解縮合物からなる指紋付着防止剤と、水酸基を有し25℃における比誘電率が5〜20である化合物を含む有機溶媒を含有することを特徴とする指紋付着防止剤組成物。
【化1】
式(a−1)、(a−2)および(a−3)中の記号は、以下の通りである。
F(CF−、F(CF、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜100の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)、
:炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基、
Y:(メタ)アクリロイルオキシ基、
:炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基
H2:炭素原子数1〜6の炭化水素基(ただし、エチレン性二重結合を有しない。)
、X、X:加水分解性基
:1または2、
r:0または1であり、q+rが1または2となる数。
ただし、式(a−1)中のX、および、式(a−2)または式(a−3)中に複数個存在する場合の、X、X、Y−Qは、互いに異なっていても、同一であってもよい。
【請求項2】
前記部分加水分解縮合物のフッ素原子含有率が20〜40質量%であって、前記式(a−1)中のRF(CF−、F(CF、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜40の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)である、請求項1に記載の指紋付着防止剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の指紋付着防止剤を製造する方法であって、前記(a−1)で表される加水分解性シラン化合物(a−1)の100モルに対して、前記(a−2)で表される加水分解性シラン化合物(a−2)の1〜23,000モル、前記(a−3)で表される加水分解性シラン化合物(a−3)の20〜11,500モルのモル比で含む加水分解性シラン化合物混合物を、水、水酸基を有し25℃における比誘電率が5〜20である化合物を含む有機溶媒、および酸の存在下、加水分解し部分縮合させ、フッ素原子含有率が2.5〜40質量%であり、数平均分子量(Mn)が500以上10,000未満の部分加水分解縮合物を製造することを特徴とする指紋付着防止剤の製造方法。
【請求項4】
前記部分加水分解縮合物が、前記加水分解性シラン化合物(a−1)の100モルに対して、前記加水分解性シラン化合物(a−2)の1〜800モル、前記加水分解性シラン化合物(a−3)の20〜300モルのモル比で含む加水分解性シラン化合物混合物を加水分解し部分縮合させて製造された部分加水分解縮合物である、請求項3に記載の指紋付着防止剤の製造方法。
【請求項5】
前記水の添加量が、前記加水分解性シラン化合物混合物の100質量部に対して、5〜100質量部である、請求項3または4に記載の指紋付着防止剤の製造方法。
【請求項6】
前記水の添加量が、前記加水分解性シラン化合物混合物の100質量部に対して、5〜40質量部である、請求項4に記載の指紋付着防止剤の製造方法。
【請求項7】
前記酸が硝酸である、請求項3〜6のいずれか1項に記載の指紋付着防止剤の製造方法。
【請求項8】
下記部分加水分解縮合物と光重合性成分とを含有するハードコート用組成物であって、前記組成物の全固形分中の下記部分加水分解縮合物の含有量が0.01〜20質量%であることを特徴とするハードコート用組成物。
部分加水分解縮合物:下式(a−1)で表される加水分解性シラン化合物(a−1)、下式(a−2)で表される加水分解性シラン化合物(a−2)および下式(a−3)で表される加水分解性シラン化合物(a−3)を含む混合物の部分加水分解縮合物であって、フッ素原子含有率が2.5〜40質量%であり、数平均分子量(Mn)が500以上10,000未満の部分加水分解縮合物。
【化2】
式(a−1)、(a−2)および(a−3)中の記号は、以下の通りである。
:炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜100の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)、
:炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基、
Y:(メタ)アクリロイルオキシ基、
:炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基
H2:炭素原子数1〜6の炭化水素基(ただし、エチレン性二重結合を有しない。)
、X、X:加水分解性基
:1または2、
r:0または1であり、q+rが1または2となる数。
ただし、式(a−1)中のX、および、式(a−2)または式(a−3)中に複数個存在する場合の、X、X、Y−Qは、互いに異なっていても、同一であってもよい。
【請求項9】
前記部分加水分解縮合物のフッ素原子含有率が20〜40質量%であって、前記式(a−1)中のRが炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜40の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)である、請求項8に記載のハードコート用組成物。
【請求項10】
前記光重合性成分が光重合性化合物と光重合開始剤とを含有する、請求項8または9に記載のハードコート用組成物。
【請求項11】
前記ハードコート用組成物が硬化した膜が少なくとも可視光線に対し透明である、請求項8〜10のいずれか1項に記載のハードコート用組成物。
【請求項12】
基材と、前記基材の少なくとも一部の表面に請求項8〜10のいずれか1項に記載のハードコート用組成物から形成された硬化膜からなるハードコート層とを有することを特徴とするハードコート層を有する基材。
【請求項13】
請求項12に記載のハードコート層を有する基材を有することを特徴とするタッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指紋付着防止剤およびその製造方法、ハードコート用組成物、ハードコート層を有する基材ならびにタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレットPC等に用いられるタッチパネルは、使用時に人間の指が触れるため、指紋、皮脂、汗等による脂性の汚れが付着しやすい。そして、脂性の汚れは付着すると落ちにくく、また、光の加減等によっては目立つため、視認性や美観を損ねるという問題があった。さらに、ディスプレイガラス、光学素子、衛生機器等においても同様の問題が指摘されていた。
【0003】
そこで、脂性の汚れの付着による問題を解決する手段として、脂性の汚れが付着しにくく、付着しても拭き取りやすい性能を持つ防汚層を光学部材の表面に形成する技術が種々提案されている。防汚層を表面に有する光学部材において、最外層に位置する防汚層は、拭き取る際にその表面部分に傷がつきやすい。このため、基材表面に耐磨耗性等の機械的強度を付与することが必要な場合には、基材表面にハードコート層を設けることが必要であり、製造工程が複雑になるという問題を有していた。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1においては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性重合性単量体成分を含む活性エネルギー線硬化性の重合性単量体と、分子構造に活性エネルギー線硬化性の官能基、撥水撥油性発現部位、および特定の2価炭化水素基を含む撥水撥油性付与剤と、活性エネルギー線重合開始剤と、を含む組成物を基材に塗布し、硬化させて、耐磨耗性に優れ、指紋付着防止性等の防汚性に優れるハードコート層を形成する技術が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、被膜形成用組成物に用いるペルフルオロアルキル基やペルフルオロポリエーテル基を有するフルオロオルガノポリシロキサン樹脂の製造方法が記載されている。実施例では、ペルフルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物、またはこれと有機基(フッ素原子を有しない)を有する加水分解性シラン化合物との混合物、を特定条件下に加水分解させて、フルオロオルガノポリシロキサン樹脂を得ている。そして該樹脂を用いて形成された被膜は、密着性、耐擦過傷性、耐光性、防汚染性、撥水性、反射防止性、低屈折率および透明性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2004/044062号
【特許文献2】特許第4711080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の組成物を用いて得られるハードコート層においては、防汚性について耐光性が充分でない場合があった。
特許文献2に記載のフルオロオルガノポリシロキサン樹脂は、炭素原子数が8のペルフルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物を原料としているため、環境負荷が高い。また、該樹脂により得られる被膜は、硬度が充分でない場合がある。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、光硬化性のハードコート用樹脂に添加して用いることで、得られるハードコート層の表面に充分な硬度、防汚性、特に指紋付着防止性を付与できるとともに、ハードコート層の外観、および防汚性、特に指紋付着防止性の耐光性も充分に確保でき、さらには環境負荷の少ない部分加水分解縮合物、およびその製造方法の提供を目的とする。
本発明は、また上記部分加水分解縮合物を配合した、充分な硬度、防汚性、特に指紋付着防止性およびその耐光性、ならびに外観に優れたハードコート層の形成が可能なハードコート用組成物およびそれを用いたハードコート層を有する基材、該ハードコート層を有する基材を用いたタッチパネルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下[1]〜[1]の構成を有する指紋付着防止剤組成物、指紋付着防止剤の製造方法、ハードコート用組成物、ハードコート層を有する基材およびタッチパネルを提供する。
【0010】
[1] 下式(a−1)で表される加水分解性シラン化合物(a−1)、下式(a−2)で表される加水分解性シラン化合物(a−2)および下式(a−3)で表される加水分解性シラン化合物(a−3)を含む混合物の部分加水分解縮合物であって、フッ素原子含有率が2.5〜40質量%であり、数平均分子量(Mn)が500以上10,000未満の部分加水分解縮合物からなる指紋付着防止剤と、水酸基を有し25℃における比誘電率が5〜20である化合物を含む有機溶媒を含有することを特徴とする指紋付着防止剤組成物。
【化1】
式(a−1)、(a−2)および(a−3)中の記号は、以下の通りである。
F(CF−、F(CF、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜100の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)、
:炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基、
Y:(メタ)アクリロイルオキシ基、
:炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基
H2:炭素原子数1〜6の炭化水素基(ただし、エチレン性二重結合を有しない。)
、X、X:加水分解性基
:1または2、
r:0または1であり、q+rが1または2となる数。
ただし、式(a−1)中のX、および、式(a−2)または式(a−3)中に複数個存在する場合の、X、X、Y−Qは、互いに異なっていても、同一であってもよい。
[2]前記部分加水分解縮合物のフッ素原子含有率が20〜40質量%であって、前記式(a−1)中のRF(CF−、F(CF、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜40の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)である、[1]の指紋付着防止剤組成物。
【0011】
[3]前記[1]または[2]の指紋付着防止剤を製造する方法であって、前記(a−1)で表される加水分解性シラン化合物(a−1)の100モルに対して、前記(a−2)で表される加水分解性シラン化合物(a−2)の1〜23,000モル、前記(a−3)で表される加水分解性シラン化合物(a−3)の20〜11,500モルのモル比で含む加水分解性シラン化合物混合物を、水、水酸基を有し25℃における比誘電率が5〜20である化合物を含む有機溶媒および酸の存在下、加水分解し部分縮合させ、フッ素原子含有率が2.5〜40質量%であり、数平均分子量(Mn)が500以上10,000未満の部分加水分解縮合物を製造することを特徴とする指紋付着防止剤の製造方法。
[4]前記部分加水分解縮合物が、前記加水分解性シラン化合物(a−1)の100モルに対して、前記加水分解性シラン化合物(a−2)の1〜800モル、前記加水分解性シラン化合物(a−3)の20〜300モルのモル比で含む加水分解性シラン化合物混合物を加水分解し部分縮合させて製造された部分加水分解縮合物である、[3]の指紋付着防止剤の製造方法。
[5]前記水の添加量が、前記加水分解性シラン化合物混合物の100質量部に対して、5〜100質量部である、[3]または[4]の指紋付着防止剤の製造方法。
[6]前記水の添加量が、前記加水分解性シラン化合物混合物の100質量部に対して、5〜40質量部である、[4]の指紋付着防止剤の製造方法。
[7]前記酸が硝酸である、[3]〜[]のいずれかの指紋付着防止剤の製造方法。
【0012】
[8]下記部分加水分解縮合物と光重合性成分とを含有するハードコート用組成物であって、前記組成物の全固形分中の下記部分加水分解縮合物の含有量が0.01〜20質量%であることを特徴とするハードコート用組成物。
部分加水分解縮合物:下式(a−1)で表される加水分解性シラン化合物(a−1)、下式(a−2)で表される加水分解性シラン化合物(a−2)および下式(a−3)で表される加水分解性シラン化合物(a−3)を含む混合物の部分加水分解縮合物であって、フッ素原子含有率が2.5〜40質量%であり、数平均分子量(Mn)が500以上10,000未満の部分加水分解縮合物。
【化2】
式(a−1)、(a−2)および(a−3)中の記号は、以下の通りである。
:炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜100の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)、
:炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基、
Y:(メタ)アクリロイルオキシ基、
:炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基
H2:炭素原子数1〜6の炭化水素基(ただし、エチレン性二重結合を有しない。)
、X、X:加水分解性基
:1または2、
r:0または1であり、q+rが1または2となる数。
ただし、式(a−1)中のX、および、式(a−2)または式(a−3)中に複数個存在する場合の、X、X、Y−Qは、互いに異なっていても、同一であってもよい。
[9]前記部分加水分解縮合物のフッ素原子含有率が20〜40質量%であって、前記式(a−1)中のRが炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜40の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)である、[8]のハードコート用組成物。
[10]前記光重合性成分が光重合性化合物と光重合開始剤とを含有する、[8]または[9]のハードコート用組成物。
[11]前記ハードコート用組成物が硬化した膜が少なくとも可視光線に対し透明である、[8]〜[10]のいずれかのハードコート用組成物。
【0013】
[1]基材と、前記基材の少なくとも一部の表面に[]〜[1]のいずれかのハードコート用組成物から形成された硬化膜からなるハードコート層とを有することを特徴とするハードコート層を有する基材。
[1]前記[1]のハードコート層を有する基材を有することを特徴とするタッチパネル。
【発明の効果】
【0014】
本発明の指紋付着防止剤は、光硬化性のハードコート用樹脂に添加して用いることで、得られるハードコート層の表面に充分な硬度、指紋付着防止性を付与できる。また、それらの特性の耐光性に優れるとともに環境負荷が少ない。
本発明の指紋付着防止剤の製造方法は、光硬化性のハードコート用樹脂に添加して用いることで、得られるハードコート層の表面に充分な硬度、指紋付着防止性を付与できる指紋付着防止剤を製造できる。
本発明のハードコート用組成物は、基材上に、良好な外観、充分な硬度、防汚性、指紋付着防止性を有するハードコート層を形成できる。
本発明のハードコート層を有する基材および該ハードコート層を有する基材を用いたタッチパネルは、ハードコート層の外観が良好で、充分な硬度、防汚性、指紋付着防止性に優れ、かつその耐光性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
本明細書における「指紋」とは、物品の表面を指先で触れた際に、指先に付着している汗および皮脂成分等が、該物品の表面に指先の紋様を転写した形で付着したものをいう。
本明細書における「全固形分」とは、ハードコート用組成物が含有する成分のうち、ハードコート層形成成分をいい、ハードコート用組成物を140℃で24時間加熱して溶媒を除去した後の残存物をいう。具体的には、溶媒等のハードコート層形成過程における加熱等により揮発する揮発性成分以外の全成分を示す。なお、全固形分の量は仕込み量からも計算できる。
本明細書においては、ハードコート用組成物を塗布した膜を「塗膜」、それを乾燥させた状態を「膜」、さらに、それを硬化させて得られる膜を「硬化膜」という。また、ハードコート用組成物を用いて形成されるハードコート層とは、該「硬化膜」をいう。
【0016】
本明細書において用いる、(メタ)アクリロイルオキシ基等の「(メタ)アクリロイルオキシ…」の用語は、「アクリロイルオキシ…」と「メタクリロイルオキシ…」の両方を意味する。また、後述の「(メタ)アクリル…」の用語は、同様に「アクリル…」と「メタクリル…」の両方を意味する。
本明細書における式(a−1)で表される化合物を、化合物(a−1)という。他の化合物も同様である。
本発明における部分加水分解縮合物を以下「部分縮合物(A)」という。さらに、本発明における「光重合性化合物」を「光重合性化合物(B)」ともいい、「光重合開始剤」を「光重合開始剤(C)」ともいう。
本明細書における指紋付着防止性とは、上記指紋が付着しない撥水撥油性と、付着した指紋の除去性の両方を合わせもつ性質をいう。指紋付着防止性と防汚性は、水接触角とオレイン酸接触角の数値で評価する。
なお、本明細書において特に説明のない場合、%は質量%を表す。
【0017】
[指紋付着防止剤]
本発明の指紋付着防止剤は、部分縮合物(A)、すなわち下式(a−1)で表される加水分解性シラン化合物(a−1)、下式(a−2)で表される加水分解性シラン化合物(a−2)および下式(a−3)で表される加水分解性シラン化合物(a−3)を含む混合物の部分加水分解縮合物であって、フッ素原子含有率が2.5〜40質量%である部分加水分解縮合物、からなる。
【0018】
【化3】
【0019】
式(a−1)、(a−2)および(a−3)中の記号は、以下の通りである。
:炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜100の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)、
:炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基、
Y:エチレン性二重結合を有する基、
:炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基、
H1、RH2:炭素原子数1〜6の炭化水素基、
、X、X:加水分解性基、
p:0〜3の整数、
q:1または2、
r:0または1であり、q+rが1または2となる数。
ただし、式(a−1)中のX、および、式(a−2)または式(a−3)中に複数個存在する場合の、X、X、RH1、Y−Qは、互いに異なっていても、同一であってもよい。
【0020】
本発明における部分縮合物(A)は、加水分解性シラン化合物(a−1)由来のフッ素原子を化合物中に上記範囲で含有することにより、これを含有するハードコート用組成物を用いて形成されるハードコート層の表面に優れた撥水撥油性を付与できる。ハードコート層の表面が撥水撥油性を有することで、指先から表面に転写した水分および皮脂成分等がハードコート層の表面に密着しない状態にあると考えられる。このような状態にある皮脂成分等は、容易に拭き取ることができる。すなわち、部分縮合物(A)を用いることでハードコート層に優れた指紋付着防止性を付与できるといえる。
【0021】
なお、部分縮合物(A)におけるフッ素原子含有率は2.5〜40質量%であり、3〜40質量%がより好ましく、20〜40質量%がさらに好ましく、25〜40質量%が特に好ましく、30〜40質量%が最も好ましい。
上記範囲の上限値以下であると、後述の光重合化合物(B)との相溶性が良好であり、硬化膜の外観および指紋付着防止性が良好である。なおフッ素原子含有率は、部分縮合物(A)の単位質量当たりのフッ素原子質量の割合であり、後述の方法で求めることができる。
【0022】
本発明における部分縮合物(A)は、加水分解性シラン化合物(a−2)に由来する単位を含有することより、部分縮合物(A)の炭化水素系溶媒への溶解性および造膜性に優れる。
【0023】
本発明における部分縮合物(A)は、加水分解性シラン化合物(a−3)由来のエチレン性二重結合を有する基を含有することにより、ラジカル重合が可能である。これを含有するハードコート用組成物の主成分である後述の光重合性化合物(B)が有するエチレン性二重結合を有する基との結合性に優れ、ハードコート層からの部分縮合物(A)のブリードアウトを抑制できる。
【0024】
また、本発明における部分縮合物(A)は、シラノール基を有することが好ましい。シラノール基の数は、ケイ素原子1個当たり、0.2〜3.5個が好ましく、0.2〜2.0個がより好ましく、0.5〜1.5個が特に好ましい。上記範囲の下限値以上であると、ハードコート用組成物を用いてハードコート層を形成する際に、基材表面から部分縮合物(A)が蒸発しにくい。上記範囲の上限値以下であると、部分縮合物(A)を含有するハードコート組成物は、部分縮合物(A)同士の凝集しにくく、貯蔵安定性が良好である。
【0025】
なお、部分縮合物(A)中のシラノール基数は、29Si−NMRにより測定されるシラノール基を有するSi基と、シラノール基を有しないSi基とのピーク面積の比により算出される。
【0026】
本発明の指紋付着防止剤を構成する部分縮合物(A)は、加水分解性シラン化合物(a−1)〜(a−3)を含む加水分解性シラン化合物の混合物(以下、「加水分解性シラン化合物混合物」ともいう。)の部分加水分解縮合物である。以下、各加水分解性シラン化合物について説明する。
【0027】
(加水分解性シラン化合物(a−1))
加水分解性シラン化合物(a−1)は、下式(a−1)で表される含フッ素加水分解性シラン化合物である。
−Q−SiX …(a−1)
式(a−1)中、Rは炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜100の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)であり、Qは炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基であり、Xは加水分解性基である。ただし、3個のXは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【0028】
化合物(a−1)はRを有するため、部分縮合物(A)を含有するハードコート用組成物から形成されるハードコート層が、優れた指紋付着防止性を示す。化合物(a−1)はRを有するため、部分縮合物(A)を含有するハードコート用組成物を基材に塗布した際に、R基が塗膜の基材と反対側(すなわち空気側)に偏在しやすくなる。すなわち、部分縮合物(A)が基材と反対側に偏在しやすくなる。
式(a−1)において、環境負荷の観点および汎用の溶媒への溶解性が優れる点から、Rは炭素原子数7以上のペルフルオロアルキル基は含まない。
の構造は、直鎖構造、分岐構造、環構造、または部分的に環を有する構造が挙げられるが、直鎖構造が好ましい。
【0029】
が炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基の場合の具体例としては、以下の基が挙げられる。
F(CF−、F(CF−。
【0030】
がRf1ORf2−で表される炭素原子数2〜100の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)である場合、他の加水分解性シラン化合物との相溶性の点から、炭素原子数は2〜80がより好ましく、2〜40が特に好ましい。
【0031】
f2は、(Rf3O)であることが好ましい(式中、Rf3は炭素原子数1〜10のペルフルオロアルキレン基、xは1〜99の整数)。Rf3は、直鎖状であってもよく、分岐状でもよい。Rf3の炭素原子数は合成のしやすさから1〜5が特に好ましい。(Rf3O)の具体例としては、以下が挙げられる。
(CFO)、(CFCFO)、(CFCFCFO)、(CF(CF)CFO)、(CFCFCFCFO)等。
xが2以上である場合、(Rf3O)単位は1種でも2種以上でもよく、その結合順序は限定されない。複数の単位からなるブロック、ランダム、交互のいずれに配置されていてもよい。
【0032】
がRf1ORf2−で表される炭素原子数2〜100の1価の基の場合の具体例としては、以下の基が挙げられる。
CFOCFCFCF−、CFOCF(CF)CF−、CFOCF(CF)CFOCF(CF)−。
F(CFOCFCFOCF−、F(CFOCFCFOCFCF−、F(CFOCFCFOCFCFOCFCFOCF−、F(CFOCFCFOCFCFOCFCFOCFCF−、F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)−。
F(CFOCF−、F(CFOCFCF−、F(CFOCF(CF)−、F(CFOCF(CF)CF−、F(CFOCF(CF)CFOCFCF−、F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)−、F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)CF−、CFO(CFCFO)x1CF−(x1は1〜49の整数。)、F(CFO(CF(CF)CFO)x2CF(CF)−(x2は1〜31の整数。)、F(CFO(CFCFOCFCFCFCFO)x3CFCFOCFCFCF−(x3は1〜15の整数。)、F(CFO(CFCFOCFCFCFCFO)x4CFCFOCFCFCFCF(x4は1〜15の整数。)。
【0033】
化合物(a−1)におけるQは、炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基であり、Rと加水分解性シリル基(−SiX)とを連結する2価の有機基である。Qは、右側の結合手にSiが、左側の結合手にRがそれぞれ結合するとして表示した場合に、具体的には、−(CHi1−(i1は1〜5の整数。)、−CHO(CHi2−(i2は1〜4の整数。)、−SONR−(CHi3−(Rは水素原子、メチル基、またはエチル基、i3は1以上であり、Rの炭素原子数との合計で4以下の整数。)、−(C=O)−NR−(CHi4−(Rは上記同様であり、i4は1以上であり、Rの炭素原子数との合計で4以下の整数。)、−(CHi5−OC(=O)−(CHi6−S−(CHi7−(i5、i6およびi7はそれぞれ独立に1〜5の整数。)、−(CHi5−OC(=O)−(CHi6−NH−(CHi7−(i5、i6およびi7は上記と同様。)、−(CHi5−OC(=O)−(CHi6−N(CH)−(CHi7−(i5、i6およびi7は上記と同様。)、−(CHi5−OC(=O)−(CHi6−N(C)−(CHi7−(i5、i6およびi7は上記と同様。)で表される基が好ましい。Qとしては、−(CH−、−(CH−および−(CH−OC(=O)−(CH−S−(CH−がより好ましく、−(CH−および−(CH−OC(=O)−(CH−S−(CH−が特に好ましい。
【0034】
なお、Rがペルフルオロアルキル基である場合、上記Qとしては、−(CHi1−(i1は上記と同様)、−(CHi5−OC(=O)−(CHi6−S−(CHi7−(i5、i6およびi7は上記と同様。)で表される基が好ましい。i1は2〜4の整数が好ましく、2が特に好ましい。i5、i6およびi7はそれぞれ独立に2〜4の整数が好ましく、2または3が特に好ましい。
また、Rがエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキル基である場合、上記Qとしては、−(CHi1−、−CHO(CHi2−、−SONR−(CHi3−、−(C=O)−NR−(CHi4−で表される基(i1〜4およびRは上記と同様)が好ましい。i1は2〜4の整数が好ましく、2が特に好ましい。
【0035】
式(a−1)においてXは、ケイ素原子に結合する加水分解性基を示す。Xとしては、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、アシルオキシ基、アミノ基およびアミノ基の水素がアルキル基で置換された基等が挙げられる。なかでも、Xとしては、炭素原子数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、塩素原子が特に好ましい。メトキシ基およびエトキシ基は、加水分解反応により水酸基(シラノール基)となり、さらに分子間で縮合反応してSi−O−Si結合を形成する反応が円滑に進みやすい。
【0036】
化合物(a−1)の好ましい具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
F(CFCHCHSi(OCH、F(CFCHCHSi(OCHCH、F(CFCHCHSiCl、F(CFCHCHSi(OCH、F(CFCHCHSi(OCHCH、F(CFCHCHSiCl
CFOCFCFCFCHCHSi(OCH、F(CFO(CFO(CFO(CFOCFCHCHSi(OCHCH、CFOCF(CF)CFCHCHCHSi(OCH
F(CFO(CFOCFCHCHCHSi(OCH、F(CFO(CFO(CFCHCHSi(OCH
F(CFO(CFCHCHSiCl、F(CFOCF(CF)CFO(CFCHCHSi(OCH、CFO(CFCFO)x1CFC(=O)NHCHCHCHSi(OCH(x1は1〜49の整数。)、F(CFO(CF(CF)CFO)x2CF(CF)CHCHSi(OCH(x2は1〜31の整数。)、F(CFO(CFCFOCFCFCFCFO)x3(CFO(CFC(=O)NHCHCHCHSi(OCH(x3は1〜15の整数。)、F(CFO(CFCFOCFCFCFCFO)x4(CFO(CFCHCHCHSi(OCH(x4は1〜15の整数。)、F(CFCHCHOC(=O)CHCHSCHCHCHSi(OCH、F(CFCHCHOC(=O)CH(CH)CHSCHCHCHSi(OCH、[F(CFCHCHOC(=O)CHCHNCHCHCHSi(OCH、F(CFCHCHOC(=O)CHCHNHCHCHCHSi(OCH、[F(CFCHCHOC(=O)CH(CH)CHNCHCHCHSi(OCH、F(CFCHCHOC(=O)CHCH(CH)NHCHCHCHSi(OCH、F(CFCHCHOC(=O)CHCHN(CH)CHCHCHSi(OCH、F(CFCHCHOC(=O)CHCH(CH)N(CH)CHCHCHSi(OCH、F(CFCHCHOC(=O)CHCHN(C)CHCHCHSi(OCH、F(CFCHCHOC(=O)CHCH(CH)N(C)CHCHCHSi(OCH
【0037】
本発明においては、化合物(a−1)としては、なかでも、F(CFCHCHSi(OCH、F(CFOCF(CF)CFO(CFCHCHSi(OCH、CFO(CFCFO)CFC(=O)NHCHCHCHSi(OCH、KY−108(商品名、信越化学工業社製、上記Rf1ORf2−Q−基と、3個のアルコキシ基を有するシラン化合物)が特に好ましく用いられる。
なお、本発明における部分縮合物(A)の原料である加水分解性シラン化合物として、化合物(a−1)は、1種を単独で用いることも2種以上を併用することも可能である。
【0038】
また、本発明における部分縮合物(A)において、加水分解性シラン化合物混合物における化合物(a−1)の含有量としては、該混合物から得られる部分縮合物(A)におけるフッ素原子含有率が上記範囲となる量である。
【0039】
(加水分解性シラン化合物(a−2))
加水分解性シラン化合物(a−2)は、上記化合物(a−1)とともに、本発明における部分縮合物(A)の原料である加水分解性シラン化合物として用いられる、下式(a−2)で表される化合物である。
H1−SiX(4−p) …(a−2)
式(a−2)中、RH1は炭素原子数1〜6の炭化水素基であり、炭素原子数1〜4のアルキル基、またはフェニル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。Xは加水分解性基であり、上式(a−1)中のXと好ましい態様を含めて同様のものが採用できる。pは0〜3の整数である。ただし、pが2または3の場合の2個または3個のRH1、および(4−p)個のXは、それぞれ互いに異なっていても、同一であってもよい。
【0040】
化合物(a−2)は、pが0である4官能性化合物、またはpが1である3官能性化合物であることが好ましく、4官能性化合物が特に好ましい。化合物(a−2)は1種を単独で用いることも2種以上を併用することも可能である。2種以上を併用する場合、4官能性化合物および/または3官能性化合物とともに2官能性化合物および/または1官能性化合物を併用することもできる。
【0041】
部分縮合物(A)においては、化合物(a−1)由来の単位におけるRによって撥水撥油性が発現される。また、化合物(a−2)由来の単位において、pが0の場合、部分縮合物(A)における造膜性に優れるという利点がある。化合物(a−2)由来の単位において、pが1、2または3の場合(すなわち、RH1が存在する場合)、RH1がある程度存在することにより、部分縮合物(A)は炭化水素系の溶媒に溶解しやすくなり、基材の表面にハードコート用組成物の塗膜を形成する際に比較的安価な溶媒を選択できるという利点がある。
【0042】
化合物(a−2)の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。また、化合物(a−2)として、必要に応じてその複数個を予め部分加水分解縮合して得た化合物(a−2)の部分加水分解縮合物を用いてもよい。なお、他の加水分解性シラン化合物についても同様にその部分加水分解縮合物を用いてもよい。
Si(OCH、Si(OCHCH、CHSi(OCH
CHSi(OCHCH、CHCHSi(OCH
CHCHSi(OCHCH、(CHSi(OCH
(CHSi(OCHCH
Si(OCHの部分加水分解縮合物(例えば、コルコート社製のメチルシリケート51(商品名))、
Si(OCHCHの部分加水分解縮合物(例えば、コルコート社製のエチルシリケート40、エチルシリケート48。多摩化学工業社製のシリケート45(いずれも商品名))。
【0043】
また、化合物(a−2)は、1種を単独で用いることも2種以上を併用することも可能である。
なお、加水分解性シラン化合物混合物中の加水分解性シラン化合物(a−2)の含有量は、加水分解性シラン化合物(a−1)の100モルに対して、加水分解性シラン化合物(a−2)の1〜23,000モルが好ましく、1〜15,000モルがより好ましく、1〜3,000モルがさらに好ましく、1〜800モルが特に好ましく、1〜400モルが最も好ましい。
【0044】
(加水分解性シラン化合物(a−3))
加水分解性シラン化合物(a−3)は、下式(a−3)で表されるエチレン性二重結合を有する基を含む加水分解性シラン化合物であり、上記化合物(a−1)、化合物(a−2)とともに、本発明における部分縮合物(A)の原料として用いられる。
【0045】
【化4】
式(a−3)において、加水分解性基を示すXは、上式(a−1)中のXと好ましい態様を含めて同様のものが採用できる。また、RH2は上式(a−2)中のRH1と好ましい態様を含めて同様のものが採用できる。
式(a−3)中のYは、エチレン性二重結合を有する基であり、Qは、炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基である。qは1または2であり、rは0または1であり、q+rが1または2となる数である。ただし、Y−QおよびXが、上記加水分解性シラン化合物内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【0046】
化合物(a−3)はYを有するため、得られる部分縮合物(A)を含有するハードコート用組成物の膜を光硬化する際に、該膜の表面において、該基を介して部分縮合物(A)同士、あるいは部分縮合物(A)とハードコート用組成物が含有する光重合性化合物(B)のエチレン性二重結合を有する基とを重合させることができる。よって、光硬化後に、部分縮合物(A)をハードコート層、特にその表面に偏在しやすくする作用を有し、長期使用後もハードコート層の表面を撥水撥油性に保ち指紋付着防止性を持続させる効果を付与できる。
【0047】
式(a−3)中のYとしては、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルフェニル基等が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基が特に好ましい。
式(a−3)中のQは、加水分解性シリル基(−SiX(4−q−r)(RH2)とYとを結合する連結基であり、具体的には、炭素原子数2〜6のアルキレン基、フェニレン基等が挙げられる。なかでも、−(CH−が好ましい。
【0048】
式(a−3)において、qが2の場合、2個のY−Qは互いに同一であっても異なっていてもよく、q+rが1の場合、3個のXは互いに同一であっても異なっていてもよく、q+rが2の場合、2個のXは互いに同一であっても異なっていてもよい。
式(a−3)中、qが1、rが0または1であることが好ましい。
【0049】
化合物(a−3)の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
CH=C(CH)COO(CHSi(OCH
CH=C(CH)COO(CHSi(OC
CH=CHCOO(CHSi(OCH
CH=CHCOO(CHSi(OC
[CH=C(CH)COO(CH]CHSi(OCH
[CH=C(CH)COO(CH]CHSi(OC
【0050】
また、本発明における部分縮合物(A)の原料である加水分解性シラン化合物として、化合物(a−3)は、1種を単独で用いることも2種以上を併用することも可能である。
なお、加水分解性シラン化合物混合物中の、加水分解性シラン化合物(a−3)の含有量は、加水分解性シラン化合物(a−1)の100モルに対して、20〜11,500が好ましく、20〜8,000モルがより好ましく、20〜2,000がさらに好ましく、20〜300モルが特に好ましく、50〜200モルが最も好ましい。
【0051】
本発明における部分縮合物(A)の原料である加水分解性シラン化合物混合物は、上記化合物(a−1)、化合物(a−2)および化合物(a−3)に加えて、必要に応じて、例えば、得られる部分縮合物(A)のハードコート用組成物への相溶性の向上や反応性の制御等を目的として、これらの化合物以外の加水分解性シラン化合物を含んでいてもよい。加水分解性シラン化合物混合物における他の加水分解性シラン化合物の含有量は、得られる部分縮合物(A)におけるフッ素原子含有率が2.5〜40質量%となる範囲において、化合物(a−1)、化合物(a−2)および化合物(a−3)の合計量の100モルに対して、1〜100モルとすることが好ましい。
【0052】
本発明における部分縮合物(A)は、加水分解性シラン化合物(a−1)、加水分解性シラン化合物(a−2)、加水分解性シラン化合物(a−3)、および、必要に応じて適宜配合される他の加水分解性シラン化合物からなる加水分解性シラン化合物混合物の部分加水分解縮合物からなる。なかでも、本発明における部分縮合物(A)としては、加水分解性シラン化合物(a−1)、加水分解性シラン化合物(a−2)、および加水分解性シラン化合物(a−3)からなる混合物を部分加水分解縮合して得られる部分縮合物(A)が好ましい。この場合の、加水分解性シラン化合物混合物における加水分解性シラン化合物(a−1)と、加水分解性シラン化合物(a−2)と、加水分解性シラン化合物(a−3)の含有量としては、得られる部分縮合物(A)におけるフッ素原子含有率が2.5〜40質量%となる含有量であれば特に制限されず、例えば、加水分解性シラン化合物(a−1)の100モルに対して、加水分解性シラン化合物(a−2)の1〜23,000モル、加水分解性シラン化合物(a−3)の20〜11,500モルとする含有量が好ましく、加水分解性化合物(a−1)の100モルに対して、加水分解性シラン化合物(a−2)の1〜800モル、加水分解性シラン化合物(a−3)の20〜300モルが特に好ましい。
【0053】
本発明における部分縮合物(A)は、上記原料の加水分解性シラン化合物混合物の部分加水分解縮合物であり、通常、重合度の異なる複数の縮合物で構成される混合物である。すなわち、部分縮合物(A)を、例えば、原料加水分解性シラン化合物として、加水分解性シラン化合物(a−1)と、加水分解性シラン化合物(a−2)と、加水分解性シラン化合物(a−3)とからなる混合物を用いて製造した場合、下式(1)で表される平均組成式の構造を有する縮合物となる。
【0054】
ただし、部分縮合物(A)は加水分解性基またはシラノール基が残存した生成物(部分加水分解縮合物)であるので、この生成物を化学式で表すことは困難であり、式(1)で表される平均組成式は、上記のように製造された部分加水分解縮合物において加水分解性基またはシラノール基の全てがシロキサン結合となったと仮定した場合の化学式である。
【0055】
【化5】
式(1)中、R、Q、RH1、Y、Q、RH2およびp、q、rの好ましい範囲は上述と同様である。s、t、uは、重合度の異なる複数の含フッ素シラン化合物混合物における各単位の平均存在数である。
本発明における部分縮合物(A)は、式(1)で表されるように、主鎖が結合エネルギーが大きいポリシロキサン結合で構成されているため、耐光性が良好である。
【0056】
式(1)で表される平均組成式の構造を有する部分縮合物(A)においては、化合物(a−1)、化合物(a−2)、および化合物(a−3)にそれぞれ由来する単位は、ランダムに配列していると推測される。なお、平均組成式(1)における、s:tは、加水分解性シラン化合物混合物における化合物(a−1)に対する化合物(a−2)の含有割合として上述した範囲内にあることが好ましい。また、s:uは、該混合物における化合物(a−1)に対する化合物(a−3)の含有割合として上述した範囲内にあることが好ましい。これを、s:t:uとして表せば、100:1〜23,000:20〜11,500(モル比)の関係にあることが好ましく、100:1〜800:20〜300(モル比)が特に好ましい。
【0057】
本発明における部分縮合物(A)の数平均分子量(Mn)は、500以上10,000未満が好ましく、500以上5,000未満がより好ましく、500以上3,000未満が特に好ましい。数平均分子量(Mn)が上記下限値以上であると、ハードコート用組成物を用いてハードコート層を形成する際に、部分縮合物(A)の表面移行性が高く、少量の添加で良好な指紋付着防止性を発現できるため、硬化膜の硬度が良好になる。数平均分子量(Mn)が上記上限値未満であると、部分縮合物(A)がハードコート用組成物中で、溶媒や他の成分との相溶性に優れる。さらに、相分離しにくく、ハードコート用組成物の貯蔵安定性が良好になる。
部分縮合物(A)の数平均分子量(Mn)は反応条件等を選択することにより調節できる。
【0058】
[指紋付着防止剤の製造方法]
本発明の指紋付着防止剤を構成するフッ素原子含有率が2.5〜40質量%である部分縮合物(A)は、上述した加水分解性シラン化合物(a−1)、加水分解性シラン化合物(a−2)、加水分解性シラン化合物(a−3)を、得られる部分縮合物(A)におけるフッ素原子含有率が2.5〜40質量%となる含有量で含む加水分解性シラン化合物混合物を、加水分解し部分縮合させることで製造できる。
【0059】
具体的には、以下の反応工程(以下、「反応工程(I)」という。)を含む部分縮合物(A)の製造方法により製造できる。
反応工程(I):加水分解性シラン化合物(a−1)の100モルに対して、加水分解性シラン化合物(a−2)の1〜23,000モル、および加水分解性シラン化合物(a−3)の20〜11,500モルのモル比で含む加水分解性シラン化合物混合物を、水、有機溶媒および酸の存在下、加水分解し部分縮合させる工程。
この加水分解し部分縮合させる反応は、上記の通り加水分解性基の加水分解反応によるシラノール基の生成とシラノール基同士の脱水縮合反応によるシロキサン結合を生成する反応である。
【0060】
なお、部分縮合物(A)において、そのフッ素原子含有率が20〜40質量%であり、上述した加水分解性シラン化合物(a−1)中のRが炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、または、Rf1ORf2−で表される炭素原子数2〜40の1価の基(Rf1は、炭素原子数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rf2は炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。)である場合には、反応工程(I)を、加水分解性シラン化合物(a−1)の100モルに対して、加水分解性シラン化合物(a−2)の1〜800モル、加水分解性シラン化合物(a−3)の20〜300モルのモル比で含む加水分解性シラン化合物混合物を、水、有機溶媒および酸の存在下、加水分解し部分縮合させる工程(以下、反応工程(Ia)ともいう。)とすることができる。以下の説明において、反応工程(I)における各種条件等には、反応工程(Ia)の条件等が包含される。その中で、特に反応工程(Ia)に好ましい条件がある場合には、反応工程(Ia)についてさらに説明するものである。
【0061】
反応工程(I)に用いる水の量としては、加水分解性シラン化合物混合物の100質量部に対して、5〜100質量部が好ましく、5〜80質量部が特に好ましい。また、反応工程(Ia)の場合、用いる水の量としては、加水分解性シラン化合物混合物の100質量部に対して、5〜40質量部が好ましく、5〜25質量部が特に好ましい。水の量を上記範囲とすることで、加水分解および部分縮合の制御がし易くなる。
【0062】
酸は、加水分解性シラン化合物を加水分解、部分縮合させる触媒として作用する。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸等の有機酸が挙げられる。なかでも、硝酸が好ましい。酸の量としては、加水分解性シラン化合物混合物の100質量に対して、0.01〜10質量部が好ましく、0.01〜1質量部が特に好ましい。
【0063】
反応工程(I)において用いる有機溶媒としては、加水分解性シラン化合物を加水分解、縮合反応する際に、通常用いる有機溶媒が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール等のセルソルブ類;2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール等のカルビトール類;メチルアセテート、エチルアセテート、n−ブチルアセテート、エチルラクテート、n−ブチルラクテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート、シクロヘキサノールアセテート、乳酸ブチル、γ−ブチロラクトン、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、グリセリントリアセテート等のエステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。反応工程(I)においては有機溶媒として、ヘキサフルオロメタキシレン等の含フッ素溶媒を用いてもよい。これらの有機溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
本発明においては、得られる部分縮合物(A)は上記の通りシラノール基を有することが好ましい。また、得られる部分縮合物(A)は、反応工程(I)で用いた有機溶媒とともにハードコート用組成物に配合されることが多い。したがって、反応工程(I)に用いる有機溶媒としては、上記シラノール基を安定化する有機溶媒を用いることが好ましい。シラノール基を安定化する有機溶媒としては、水酸基を有し、25℃における比誘電率(ε)が5〜20の範囲の化合物が挙げられる。
【0065】
具体的には、炭素原子数2〜8個のグリコール系のモノアルキルエーテルアセテート溶媒、グリコール系のモノアルキルエーテル溶媒、グライム系溶媒、炭素原子数2〜4個の炭化水素系アルコール等が挙げられる。より具体的には、グリコール系のモノアルキルエーテルアセテート溶媒として、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(ε:8.3)、グリコール系のモノアルキルエーテル溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(ε:12.3)、炭化水素系アルコールとして、2−プロパノール(ε:19.92)等が挙げられる。特に、水素結合のできるプロトン性極性溶媒であるプロピレングリコールモノメチルエーテルはシラノール基の安定化効果が高く好ましい。
【0066】
有機溶媒は、シラノール基を充分に安定化させる観点からは、水酸基を有し25℃における比誘電率(ε)が5〜20の範囲の化合物のみで構成されることが好ましい。ただし、有機溶媒は必要に応じて、該化合物以外の化合物を含んでもよく、その場合、有機溶媒の全量に対して、水酸基を有し25℃における比誘電率(ε)が5〜20の範囲の化合物を10〜100質量%の範囲で含むことがシラノール基の安定化効果の点から好ましく、20〜100質量%の範囲で含むことが特に好ましい。
【0067】
反応工程(I)は、室温から溶媒の沸点までの反応温度で、適当な撹拌条件の下で実施することが好ましい。反応時間として具体的には、用いる原料成分の量、反応温度、撹拌条件等にもよるが、0.5〜24時間が好ましく、1〜18時間が特に好ましい。反応終了後、得られた部分縮合物(A)を有機溶媒を除去することなく、本発明のハードコート用組成物中に含有させることもできる。通常の方法により有機溶媒を除去してから部分縮合物(A)を単離した後、ハードコート用組成物中に含有させてもよい。
【0068】
[ハードコート用組成物]
本発明のハードコート用組成物は、前記部分縮合物(A)と、光重合性成分とを含有し、部分縮合物(A)の含有量が該組成物の全固形分に対して0.01〜20質量%であるハードコート用組成物である。
光重合性成分は、光重合性化合物(B)を含有し、好ましくは、さらに、光重合開始剤(C)を含有する。
本発明のハードコート用組成物は、さらに、必要に応じて、有機溶媒(D)、シリカ微粒子(E)およびその他の添加剤を含有してもよい。
【0069】
本発明のハードコート用組成物は、それを硬化させて得られる膜である硬化膜が少なくとも可視光線に対し透明であることが好ましい。硬化膜は無色透明な膜であることが好ましいが、着色透明な膜であってもよい。無色透明な膜または着色透明な膜を得る場合には、ハードコート用組成物が硬化膜の透明性を阻害する添加剤を含むことは好ましくない。たとえば、顔料など着色粉末は透明性を阻害することよりハードコート用組成物に配合することは好ましくない。一方、シリカ微粒子(E)のような硬化膜とほぼ等しい屈折率を有する透明物質からなる粉末は、透明性を低下させることなく硬化膜の耐磨耗性を向上させる添加剤としてハードコート用組成物に配合できる。
【0070】
(部分縮合物(A))
本発明のハードコート用組成物は、前記部分縮合物(A)を含有する。
本発明のハードコート用組成物における部分縮合物(A)の含有量は、ハードコート用組成物における全固形分中、0.01〜20質量%であり、0.1〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%が特に好ましい。部分縮合物(A)の含有量を上記範囲とすることにより、ハードコート用組成物の貯蔵安定性が良好になる。該ハードコート用組成物から得られるハードコート層の表面の防汚性や指紋付着防止性が良好となり、また外観が良好な表面を有するハードコート層が得られる。
【0071】
(光重合性化合物(B))
本発明のハードコート用組成物における光重合性化合物(B)は、後述する光重合開始剤(C)の存在下で、光を照射することで重合反応を開始し、重合により硬化する化合物の総称である。条件や種類によっては光重合性化合物(B)のみで光重合することもあるが、通常、光重合開始剤(C)とともに用いられる。
光重合性化合物(B)は、1分子内に2個以上のエチレン性二重結合を有する多官能性の単量体(以下、「単量体(b−1)」ともいう。)を含有することが好ましい。また、必要に応じて、1分子内に1個のエチレン性二重結合を有する単官能性の単量体(以下、「単量体(b−2)」ともいう。)を含有することが好ましい。光重合性化合物(B)は、単量体(b−1)を含有することで、光、具体的には、紫外線、電子線、X線、放射線および高周波線等の照射により硬化する。なお、上記部分縮合物(A)は、エチレン性二重結合を有する化合物であるが、光重合性化合物(B)は、部分縮合物(A)に相当する化合物は含まない。
【0072】
単量体(b−1)としては、1分子内に2個以上のエチレン性二重結合を有する基(以下、「重合性官能基」ともいう。)を有する化合物であれば、特に制限されない。重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のα,β−不飽和基が好ましく、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。なかでも紫外線によってより重合しやすいアクリロイル基が好ましい。なお、単量体(b−1)は、1分子中に2種以上の重合性官能基を合計2個以上有する化合物であってもよく、同じ重合性官能基を合計2個以上有する化合物であってもよい。
【0073】
単量体(b−1)の1分子中における重合性官能基の数は2個以上であり、3個以上が特に好ましい。単量体(b−1)の1分子が有する重合性官能基の個数の上限は、特に限定されず、通常は50個程度であり、30個が好ましい。また、単量体(b−1)としては、高度な耐磨耗性を発現させる観点から、重合性官能基を1分子中に3個以上有し、1官能基あたりの分子量が120以下である化合物が好ましい。このような条件を満たす単量体(b−1)としては、以下の化合物が挙げられる。
【0074】
ペンタエリスリトールまたはポリペンタエリスリトールと、(メタ)アクリル酸と、の反応生成物であるポリエステルであり、かつ(メタ)アクリロイル基を3個以上、より好ましくは4〜20個有する多官能性化合物。具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が好ましく挙げられる。
【0075】
また、ウレタン結合を分子内に有する(メタ)アクリロイル基含有化合物(以下、「アクリルウレタン」ともいう。)は、そのウレタン結合がその水素結合の作用で擬似架橋点として働き、1官能基あたりの分子量が上記ほど小さくなくても充分高度な耐磨耗性を発現させることが可能であり、好ましい。このような条件を満たす単量体(b−1)としては、以下の化合物が好ましい。
【0076】
ペンタエリスリトールやポリペンタエリスリトールと、ポリイソシアネートと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、の反応生成物であるアクリルウレタンであり、かつ(メタ)アクリロイル基を3個以上、より好ましくは4〜20個有する多官能性化合物。
ペンタエリスリトールやポリペンタエリスリトールの水酸基含有ポリ(メタ)アクリレートと、ポリイソシアネートと、の反応生成物であるアクリルウレタンであり、かつ(メタ)アクリロイル基を3個以上、より好ましくは4〜20個有する多官能性化合物。
単量体(b−1)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
単量体(b−2)としては、1分子内に1個の重合性官能基を有する化合物であれば、特に制限されない。単量体(b−2)が有する重合性官能基としては(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0078】
単量体(b−2)として、具体的には、CH=C(R)COOC2z+1(Rは水素原子またはメチル基であり、zは1〜13の整数である。C2z+1は直鎖構造でも分岐構造でもよい。)で表されるアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。単量体(b−2)としては、さらに、アリルモノ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−スルホン酸ナトリウムエトキシ(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ビニルアセテート、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルピロリドン、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート等が挙げられる。
単量体(b−2)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0079】
光重合性化合物(B)における、単量体(b−1)の含有量は、光重合性化合物(B)の全量に対して、20〜100質量%が好ましい。光重合性化合物(B)のうち、単量体(b−1)の割合が上記範囲であると、ハードコート用組成物の硬化膜からなるハードコート層の耐磨耗性が優れている。単量体(b−1)の割合は、50〜100質量%であることがより好ましく、70〜100質量%であることが特に好ましい。
光重合性化合物(B)における、単量体(b−2)の含有量は、光重合性化合物(B)の全量に対して、0〜80質量%が好ましい。光重合性化合物(B)のうち、単量体(b−2)の割合が上記範囲であると、硬化膜の硬度が良好で、また膜収縮率が適当であるため、ハードコート層を有する基材の反りが発生しない。単量体(b−2)の割合は、0〜50質量%であることがより好ましく、0〜30質量%であることが特に好ましい。
【0080】
ここで、単量体(b−1)および単量体(b−2)は、必要に応じて単量体(b−1)の複数個または、単量体(b−1)および単量体(b−2)の複数個を予め(共)重合して得た(コ)オリゴマーまたはプレ(コ)ポリマーの形で用いてもよい。この場合の光重合性化合物(B)における該(コ)オリゴマーまたはプレ(コ)ポリマーの含有量としては、単量体(b−1)に由来する繰り返し単位の含有量が、光重合性化合物(B)の全量に対して20〜100質量%となり、単量体(b−2)に由来する繰り返し単位の含有量が、光重合性化合物(B)の全量に対して0〜80質量%となる範囲が好ましい。さらに、単量体(b−1)に由来する繰り返し単位の割合は、50〜100質量%であることがより好ましく、70〜100質量%であることが特に好ましい。単量体(b−2)に由来する繰り返し単位の割合は、0〜50質量%であることがより好ましく、0〜30質量%であることが特に好ましい。
【0081】
ハードコート用組成物における全固形分中の光重合性化合物(B)の含有量は、40〜98.99質量%が好ましく、50〜95質量%がより好ましく、55〜90質量%が特に好ましい。
【0082】
(光重合開始剤(C))
本発明のハードコート用組成物に用いる光重合開始剤(C)は、光重合開始剤としての機能を有する化合物であれば特に制限されないが、光によりラジカルを発生する化合物が好ましい。
光重合開始剤(C)として、具体的には、アリールケトン系光重合開始剤(例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アルキルアミノベンゾフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、ベンゾイルベンゾエート類、α−アシルオキシムエステル類等)、含硫黄系光重合開始剤(例えば、スルフィド類、チオキサントン類等)、アシルホスフィンオキシド類(例えば、アシルジアリールホスフィンオキシド等)、その他の光重合開始剤が挙げられる。
【0083】
光重合開始剤(C)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、光重合開始剤(C)はアミン類等の光増感剤と組み合わせて使用してもよい。
光重合開始剤としては、以下の化合物が挙げられる。
【0084】
4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、1−{4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル}−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−{4−(メチルチオ)フェニル}−2−モルホリノプロパン−1−オン。
【0085】
ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラキス(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、9,10−フェナントレンキノン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2−エチルアントラキノン、4’,4”−ジエチルイソフタロフェノン、(1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2(o−エトキシカルボニル)オキシム)、α−アシルオキシムエステル、メチルフェニルグリオキシレート。
【0086】
4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルフィド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド。
【0087】
ハードコート用組成物における全固形分中の光重合開始剤(C)の含有量は、1〜15質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましく、3〜10質量%が特に好ましい。上記範囲であると、ハードコート用組成物における光重合性化合物(B)との相溶性および硬化性が良好であり、形成する硬化膜の硬度が良好である。
【0088】
(有機溶媒(D))
本発明のハードコート用組成物は、有機溶媒(D)を含有してもよい。有機溶媒(D)を含有することで、該組成物の基材への塗工性を向上できる。また、ハードコート用組成物中で、部分縮合物(A)を安定して存在させることができる。有機溶媒(D)としては、ハードコート用組成物が必須成分として含有する部分縮合物(A)、光重合性化合物(B)、および光重合開始剤(C)、さらには、任意成分として含有する、シリカ微粒子(E)やその他の添加剤を均一に溶解または分散させ、ハードコート用組成物に含まれる各成分との反応性を有しないものであれば、特に制限されない。
有機溶媒(D)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。有機溶媒(D)の使用量は、光重合性化合物(B)の100質量部に対して、10,000質量部以下が好ましく、5,000質量部以下が特に好ましい。
【0089】
有機溶媒(D)としては、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール類、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−t−ブチルエーテル等のエーテル類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類等の有機溶剤が好ましい。また、n−ブチルアセテート、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、ポリフルオロヘキサン、ポリフルオロメチルシクロヘキサン、ポリフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン等の炭素原子数5〜12のポリフルオロ脂肪族炭化水素、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等の多フッ素化芳香族炭化水素、多フッ素化脂肪族炭化水素等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素類等が使用できる。ハードコート用組成物の塗工性が良好である点からは、光重合性化合物(B)の溶解性および蒸発速度が適当であるn−ブチルアセテートが特に好ましい。
【0090】
なお、上述したように、ハードコート用組成物中で、部分縮合物(A)を安定して存在させることができる点からは、水酸基を有し、25℃における比誘電率(ε)が5〜20の範囲の化合物が好ましい。特に、水素結合のできるプロトン性極性溶媒であるプロピレングリコールモノメチルエーテルはシラノール基の安定化効果が高く好ましい。
有機溶媒の全量に対して、水酸基を有し25℃における比誘電率(ε)が5〜20の範囲の化合物を10〜100質量%の範囲で含むことがシラノール基の安定化効果の点から好ましく、20〜100質量%の範囲で含むことが特に好ましい。
【0091】
ハードコート用組成物に有機溶媒(D)を含有する場合、ハードコート層を形成する基材の種類に応じて、適当な有機溶媒(D)を選択するのが好ましい。例えば、基材が耐溶剤性の低い芳香族ポリカーボネート樹脂である場合、芳香族ポリカーボネート樹脂に対する溶解性の低い有機溶媒(D)を用いることが好ましく、低級アルコール類、グリコールエーテル類、エステル類、エーテル類、それらの混合物等が適当である。
【0092】
(シリカ微粒子(E))
本発明のハードコート用組成物は、必要に応じて、シリカ微粒子(E)を含んでもよい。シリカ微粒子(E)を含有することにより、ハードコート層の耐磨耗性を向上できる。
【0093】
シリカ微粒子(E)としては、コロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは、分散媒中にコロイド状に分散した無水ケイ酸の超微粒子であり、分散媒は特に限定されないが、水、低級アルコール類、セロソルブ類等が好ましい。具体的な分散媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルアセトアミド、トルエン、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、アセトン等が挙げられる。
【0094】
シリカ微粒子(E)の平均粒径は特に限定されないが、硬化後の硬化膜、すなわちハードコート層の高い透明性を発現させるためには、1〜1,000nmが好ましく、1〜200nmがより好ましく、1〜50nmが特に好ましい。
【0095】
シリカ微粒子(E)の分散安定性を向上させるために、微粒子表面を加水分解性シラン化合物の加水分解物で修飾して使用することもできる。ここで「加水分解物で表面が修飾された」とは、シリカ微粒子(E)の表面の一部または全部のシラノール基に加水分解性シラン化合物の加水分解物が物理的または化学的に結合した状態であり、これにより表面特性が改質されていることを意味する。なお、加水分解物の部分縮合物が結合しているシリカ微粒子も含まれる。表面修飾は、例えば、シリカ微粒子存在下で加水分解性シラン化合物の加水分解性基の一部または全部を加水分解、または加水分解と縮合反応を生じさせることで行えばよい。
【0096】
加水分解性シラン化合物としては、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基等の官能性基を有する有機基とアルコキシ基等の加水分解性基または水酸基とがケイ素原子に結合しているシラン化合物が好ましい。
【0097】
シリカ微粒子(E)を含有する場合、その含有量は、光重合性化合物(B)の100質量部に対して、0.1〜500質量部が好ましく、1〜300質量部がより好ましく、10〜200質量部が特に好ましい。上記範囲であると、硬化後の硬化膜、すなわちハードコート層において、耐磨耗性が充分であり、高い透明性を維持しやすく、かつ、外力によるクラック等が生じにくい。
【0098】
(その他の添加剤)
本発明のハードコート用組成物には、上記以外の添加剤として、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱重合防止剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、顔料(有機着色顔料、無機顔料)、着色染料、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、分散剤、導電性微粒子、帯電防止剤、防曇剤、カップリング剤からなる群から選ばれる1種以上の添加剤を配合してもよい。
【0099】
なお、本発明のハードコート用組成物には、ハードコート形成用に市販されている光硬化性の樹脂組成物(以下、「樹脂組成物(Y)」ともいう。)に部分縮合物(A)を、樹脂組成物(Y)の全固形分と部分縮合物(A)の合計質量に対して0.01〜20質量%の割合で含有させたものであってもよい。市販のハードコート形成用の樹脂組成物(Y)は、通常、光重合性の成分として、光重合性化合物(B)を含有し、さらに多くの場合、光重合開始剤(C)を含有し、必要に応じて上記同様に各種成分を含むものである。
このような市販のハードコート形成用の樹脂組成物(Y)として具体的には、ハードコートHC162(商品名、横浜ゴム社製)、ハードコートビームセット575(CB)(商品名、荒川化学工業社製)等が挙げられる。
【0100】
[ハードコート層を有する基材]
本発明のハードコート層を有する基材は、基材と、前記基材の少なくとも一部の表面に上記本発明のハードコート用組成物から形成された硬化膜からなるハードコート層とを有する。
【0101】
ハードコート層が形成される基材としては、一般に防汚性、特に指紋付着防止性のハードコート層の形成が求められている材質からなる基材であれば特に限定されず、金属、ガラス、樹脂、セラミック、またはその組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなる基体が好ましく使用される。特に、ガラスまたは樹脂等の透明な基材が好ましい。
ガラスとしては、通常のソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。
【0102】
本発明において、ハードコート層が形成される基材としては、透明な樹脂であって、防汚性、特に指紋付着防止性とともに耐磨粍性が要求されている樹脂基材を用いた場合に、特に顕著な効果が発揮でき、好ましい。
このような樹脂として、具体的には、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、MS(メチルメタクリレート・スチレン)樹脂等が挙げられる。
【0103】
基材の形状やハードコート層が形成される表面については、特に制限されず、用途に応じて適宜選択される。基材が板状である場合には、平板でもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。基材の厚さはハードコート層を有する基材の用途により適宜選択できるが、一般的には0.5〜10mmが好ましい。
【0104】
本発明に用いる基材としては、目的に応じて、その表面に酸処理(希釈したフッ酸、硫酸、塩酸等を用いた処理)、アルカリ処理(水酸化ナトリウム水溶液等を用いた処理)または放電処理(プラズマ照射、コロナ照射、電子線照射等)等が施されたものを用いてもよい。
【0105】
基材の表面にハードコート層を形成する方法としては、通常、光重合性化合物(B)を主体とするハードコート用組成物を用いて基材上にハードコート層を形成するのと同様の方法が適用できる。具体的には、(1)ハードコート用組成物を基材の所定の表面に塗布し、塗膜を形成する塗膜形成工程(ただし、ハードコート用組成物が溶媒を含有しない場合は、得られる塗膜が溶媒を含有しない「膜」となる。)、(2)基材上の塗膜から必要に応じて溶媒を除去し、膜を形成する溶媒除去工程、(3)基材上の膜に光照射を行い、硬化膜であるハードコート層を形成する光硬化工程、を有する方法で製造できる。
【0106】
(塗膜(膜)形成工程)
ハードコート用組成物を、基材の表面に塗布する方法としては、特に制限されず従来公知の方法が適用できる。具体的には、ディッピング法、スピンコート法、フローコート法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法等の方法が挙げられる。ここで、塗膜または膜の厚さは、光硬化後の硬化膜すなわちハードコート層の厚さが後述の厚さとなるように調整される。
【0107】
(溶媒除去工程)
基材上に溶媒を含む塗膜が形成された場合は、通常、溶媒除去のための乾燥が行う。乾燥条件は、用いるハードコート用組成物によるが、40〜120℃で0.5〜5分間程度の処理が一般的である。
【0108】
(光硬化工程)
次いで、基材上の膜に光を照射し、膜中の光硬化成分を反応硬化させて硬化膜とし、ハードコート層を形成する。光照射に用いる光としては、紫外線、電子線、X線、放射線および高周波線等が好ましく、180〜500nmの波長を有する紫外線が経済的に特に好ましい。光源としては、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等の紫外線照射装置、電子線照射装置、X線照射装置、高周波発生装置等が使用できる。
【0109】
光照射の条件は、光重合性化合物(B)の種類、光重合開始剤(C)の種類、膜の厚さ、光源の種類等により適宜変え得る。通常は、膜に対する露光量の条件として100〜5,000mJ/cmが好ましく、100〜1,000mJ/cmが特に好ましい。露光時間としては、0.1〜60秒間が好ましく、0.5〜30秒間が特に好ましい。さらに硬化反応を完結させる目的で、光照射後に加熱処理することもできる。
【0110】
硬化膜すなわちハードコート層の厚さは、所望により種々の厚さを採用できる。ハードコート層の厚さは、0.1〜50μmが好ましく、0.2〜20μmがより好ましく、0.3〜10μmが特に好ましい。ハードコート層の厚さが上記範囲にあると、耐磨耗性が充分となり、ハードコート層深部の硬化も充分となるため好ましい。
【0111】
このようにして基材の表面に形成されるハードコート層は、透明性が良好であり、かつその表面が充分な硬度を有し、撥水撥油性に優れており、長期にわたって優れた指紋付着防止性を発現できる。本発明のハードコート層を有する基材のハードコート層表面における上記撥水撥油性に係る性質は、ハードコート用組成物が含有する部分縮合物(A)の機能による。
【0112】
部分縮合物(A)はハードコート用組成物に配合され、上記方法によりハードコート層が形成される際に、ハードコート層の主構成成分である光重合性化合物(B)に結合する。ハードコート層は、特に表面において、部分縮合物(A)が有する含フッ素有機基による優れた撥水撥油性を発現している。さらに、部分縮合物(A)は光重合性化合物(B)と結合していることから、ハードコート層からブリードアウトすることが殆どなく、長期にわたって優れた撥水撥油性を発現することができる。したがって、本発明のハードコート層を有する基材のハードコート層表面は、皮脂、汗、化粧品等の脂性の汚れに対する防汚性、特に指紋付着防止性に優れており、脂性の汚れが付着しにくく、付着したとしても容易に拭き取ることができる。
【0113】
本発明のハードコート層を有する基材は、上記特性を有することから、脂性の汚れ、特に指紋の付着が外観上、問題となる、スマートフォンやタブレットPC等に用いられるタッチパネル、ディスプレイガラス、光学素子、衛生機器等の部材として有用である。特に、タッチパネルに用いた場合に顕著な効果が得られる。
【0114】
<タッチパネル>
本発明のタッチパネルは、上記本発明のハードコート層を有する基材を有する。該タッチパネルは、タッチ面にハードコート層が表出するようにハードコート層を有する基材が配設される以外は、通常のタッチパネルの構成と同様に設計することができる。
【実施例】
【0115】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、例1〜3、9〜11、18、19、21〜24、26は実施例、例4〜8、12〜16、20、25は比較例、例17は参考例である。
【0116】
各測定は以下の方法で行った。
[数平均分子量(Mn)]
分子量測定用の標準試料として市販されている重合度の異なる数種の単分散ポリスチレン重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を、市販のGPC測定装置(東ソー社製、装置名:HLC−8320GPC)を用いて測定し、ポリスチレンの分子量と保持時間(リテンションタイム)との関係をもとに検量線を作成した。
試料をテトラヒドロフランで1.0質量%に希釈し、0.5μmのフィルタに通過させた後、該試料についてのGPCを、前記GPC測定装置を用いて測定した。
前記検量線を用いて、試料のGPCスペクトルをコンピュータ解析することにより、該試料の数平均分子量(Mn)を求めた。
[フッ素原子含有率]
1,4−ジトリフルオロメチルベンゼンを標準物質として、19F NMR測定によりフッ素原子含有率を求めた。
【0117】
[水接触角]
静滴法により、JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して、基材上の測定表面の3ヶ所に水滴を載せ、各水滴について測定した。液滴は約2μL/滴であり、測定は20℃で行った。接触角は、3測定値の平均値(n=3)で示す。なお、指紋付着防止性の観点から水接触角は、概ね90度以上であれば使用でき、概ね95度以上が好ましい。
【0118】
[オレイン酸接触角]
静滴法により、JIS R 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して、基材上の測定表面の3ヶ所にオレイン酸滴を載せ、各オレイン酸滴について測定した。液滴は約2μL/滴であり、測定は20℃で行った。接触角は、3測定値の平均値(n=3)で示す。なお、指紋付着防止性の観点から、オレイン酸接触角は概ね55度以上であれば使用でき、概ね60度以上が好ましい。
【0119】
[硬化膜外観]
以下の基準にしたがい目視により硬化膜外観を評価した。
○(良好):異物が確認できず、膜厚が均一である。
△(可):異物は確認できないが、膜厚にムラがある。
×(不良):異物が確認できる。
【0120】
[インクはじき性]
初期と以下の耐光性試験後のインクはじき性を評価した。インクはじき性は、得られた硬化膜の表面にフェルトペン(ゼブラ社製、製品名:マッキー極細黒色)で線を描き、インクの付着状態を目視で観察することで評価した。評価基準は下記の通りである。
◎(優良):インクはじき性が良好であり、インクを玉状にはじく。
○(良好):インクを玉状にはじかず、線状のはじきを生じる(線幅がフェルトペンのペン先の幅の50%未満)。
△(可):インクの線状のはじきを生じ、線幅がフェルトペンのペン先の幅の50%以上100%未満である。
×(不良):インクをまったくはじかずに、表面にきれいに線が描ける。
[耐光性試験]
得られた硬化膜を、サンシャインウエザーメータを用いてブラックパネル温度63℃で、降雨12分、乾燥48分のサイクルで500時間暴露した。
[鉛筆硬度]
JIS K 5600に準じて測定した。
【0121】
ハードコート用組成物およびハードコート層を有する基材の実施例で用いた化合物の略語は以下の通りである。
(部分縮合物(A))
以下の例1〜6、例8および例18〜21で得られた部分縮合物液(A1−1)〜(A6−1)、(A8−1)〜(A11−1)、(X1−1)および例7で得られた部分縮合物(A7)を用いた。
(光重合性化合物(B))
B−1:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート。
B−2:トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート。
(光重合開始剤(C))
C−1:2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノ−プロパン−1−オン
【0122】
(有機溶媒(D))
D−1:n−ブチルアセテート。
D−2:プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、「PGME」ともいう。)。
(シリカ微粒子(E))
E−1:イソプロパノール分散型コロイダルシリカ(シリカ含量:30質量%、平均粒径:11nm。)の100質量部に、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランの2.5質量部を加えて、50℃にて3時間撹拌した後、12時間室温にて熟成して得られた、メタクリロイル基含有シラン化合物の加水分解縮合物を表面に有するコロイダルシリカ。
【0123】
[例1:部分縮合物(A1)および部分縮合物液(A1−1)の製造]
撹拌機を備えた2リットルのフラスコに、上記化合物(a−1)であるCF(CFCHCHSi(OCH(旭硝子社製)の46.75g、上記化合物(a−2)であるSi(OC(コルコート社製)の12.45g、上記化合物(a−3)であるCH=CHCOO(CHSi(OCH(東京化成工業社製)の40.8gを入れた。次いで、PGMEの607g、水の12.02gを入れて、混合物を得た。
【0124】
該混合物を、室温で撹拌しながら、60%硝酸水溶液を0.20g滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌した。得られた、部分縮合物(A1)を10質量%含有するPGME溶液を、部分縮合物液(A1−1)とした。部分縮合物(A1)の含フッ素原子含有率は34.3質量%、数平均分子量(Mn)は740であった。
表1に、部分縮合物(A1)の原料組成および、製造に用いた各成分の量を質量(g)で示す。さらに、原料組成については化合物(a−1)を100モルとした場合のモル数を併せて示す。製造に用いた各成分の量は、化合物(a−1)〜(a−3)の合計量を100質量部とした場合の質量部を併せて示す。また、フッ素原子含有率、数平均分子量(Mn)を併せて示す。
【0125】
[例2〜6:部分縮合物(A2)〜(A6)および部分縮合物液(A2−1)〜(A6−1)の製造]
原料の配合を表1のように変更した以外は例1と同様にして、部分縮合物(A2)〜(A6)および部分縮合物液(A2−1)〜(A6−1)を得た。
【0126】
[例7:部分縮合物(A7)の製造]
原料の配合を表1のように変更した。反応終了後、白色グリース状物が析出していた。白色グリース状物を濾過し、イオン交換水によりpHが6〜7になるまで洗浄し、減圧下60℃で3時間乾燥させ、やや粘性のある白色固体状樹脂を得た。得られた樹脂を部分縮合物(A7)とした。
【0127】
[例8:部分縮合物(A8)および部分縮合物液(A8−1)の製造]
撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、チタンテトライソブトキサイドの80mg、C(OCFCFCF20O(CFCHOH(ダイキン工業社製、製品名:デムナムSA、数平均分子量(Mn):4,000)の100gおよびε−カプロラクトンの10gを加え、150℃で5時間加熱した。C(OCFCFCF20O(CFCHOHの片末端にε−カプロラクトンが開環付加した白色ワックス状の化合物を得た。該化合物の数平均分子量(Mn)は4,400であり、カプロラクトンの重合度数は約3.5であった。
【0128】
次いで、該化合物を室温まで冷却し、ヘキサフルオロメタキシレンの50gおよび2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールの60mgを加え、30分間撹拌した。2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートの6.0gを加え、室温でさらに24時間撹拌し、末端がメタクリロイル基で修飾された部分縮合物(A8)のヘキサフルオロメタキシレン溶液(部分縮合物(A8)を70質量%で含有する)である部分縮合物液(A8−1)を得た。表1に部分縮合物液(A8−1)の組成および部分縮合物(A8)のフッ素原子含有率、数平均分子量(Mn)を示す。
【表1】
【0129】
[例9:ハードコート用組成物およびハードコート層を有する基材の製造]
撹拌機および冷却管を装着した300mLの4つ口フラスコに、例1で製造した(A1−1)液の10g、光重合性化合物(B−1)の80g、光重合開始剤(C−1)の4g、有機溶媒(D−1)の100gを入れ、常温および遮光にした状態で、1時間撹拌した。次いで、撹拌しながら、コロイダルシリカ(E−1)の75gをゆっくりと加え、さらに常温および遮光にした状態で1時間撹拌して、ハードコート用組成物1を得た。
次いで、PET基板の表面にハードコート用組成物例1をバーコートにより塗布し、50℃のホットプレートで1分間乾燥させ、基板の表面に膜を形成した。次いで、高圧水銀ランプ(光量:300mJ/cm、波長365nmの紫外線積算エネルギー量)を用いて光照射した。その結果、基板の表面に厚さ5μmの硬化膜を得た。この硬化膜(ハードコート層)を上述の方法で評価した。結果をハードコート用組成物の組成とともに表2に示す。
【0130】
[例10〜17:ハードコート用組成物およびハードコート層を有する基材の製造]
例1〜6および8で得た部分縮合物液(A1−1)〜(A6−1)、(A8−1)、例7で得た部分縮合物(A7)、光重合性化合物(B)、光重合開始剤(C)、有機溶媒(D)およびコロイダルシリカ(E)を、表2のように変更した以外は、例9と同様にしてハードコート用組成物2〜9を製造した。これらをそれぞれ用いて例9と同様にしてPET基板上に硬化膜(ハードコート層)を形成し、評価した。結果をハードコート用組成物の組成とともに表2に示す。
【0131】
【表2】
【0132】
[例18:部分縮合物(A9)および部分縮合物液(A9−1)の製造]
撹拌機を備えた2リットルのフラスコに、上記化合物(a−1)であるCFO(CFCFO)CFC(=O)NHCHCHCHSi(OCH(国際公開第2009/008380号の例2に基づき製造)の3.3g、上記化合物(a−2)であるSi(OC(コルコート社製)の62.1g、上記化合物(a−3)であるCH=CHCOO(CHSi(OCH(東京化成工業社製)の34.6gを入れた。次いで、ヘキサフルオロメタキシレンの530gと2−プロパノールの227gを入れて、混合物を得た。
【0133】
該混合物を、室温で撹拌しながら、1%硝酸水溶液水の59.7gを滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌した。得られた、部分縮合物(A9)を5質量%含有する溶液を、部分縮合物液(A9−1)とした。部分縮合物(A9)の含フッ素原子含有率は3.9質量%、数平均分子量(Mn)は1,160であった。
【0134】
[例19:部分縮合物(A10)および部分縮合物液(A10−1)の製造]
撹拌機を備えた2リットルのフラスコに、上記化合物(a−1)であるKY−108(商品名、信越化学工業社製)の5.2g、上記化合物(a−2)であるSi(OC(コルコート社製)の60.7g、上記化合物(a−3)であるCH=CHCOO(CHSi(OCH(東京化成工業社製)の34.1gを入れた。次いで、ヘキサフルオロメタキシレンの537gと2−プロパノールの230gを入れ、混合物を得た。
【0135】
該混合物を、室温で撹拌しながら、1%硝酸水溶液水の57.6gを滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌した。得られた、部分縮合物(A10)を7質量%含有する溶液を、部分縮合物液(A10−1)とした。部分縮合物(A10)の含フッ素原子含有率は7.4質量%、数平均分子量(Mn)は1,230であった。
【0136】
[例20:部分縮合物(X1)および部分縮合物液(X1−1)の製造]
撹拌機を備えた2リットルのフラスコに、上記化合物(a−1)であるCFO(CFCFO)CFC(=O)NHCHCHCHSi(OCH(国際公開第2009/008380号の例2に基づき製造)の1.7g、上記化合物(a−2)であるSi(OC(コルコート社製)の62.8g、上記化合物(a−3)であるCH=CHCOO(CHSi(OCH(東京化成工業社製)の35.5gを入れた。次いで、ヘキサフルオロメタキシレンの526gと2−プロパノールの226gを入れ、混合物を得た。
【0137】
該混合物を、室温で撹拌しながら、1%硝酸水溶液水61.3gを滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌した。得られた、部分縮合物(X1)を5質量%含有する溶液を、部分縮合物液(X1−1)とした。部分縮合物(X1)の含フッ素原子含有率は2.1質量%、数平均分子量(Mn)は1,150であった。
【0138】
[例21:部分縮合物(A11)および部分縮合物液(A11−1)の製造]
撹拌機を備えた2リットルのフラスコに、窒素雰囲気下、F(CFCHCHOC(=O)C(CH)=CHの88.0g、HSCHCHCHSi(OCHの40.0g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の0.33gを入れた。次いで、ヘキサフルオロメタキシレン710gと2−プロパノールの304gを入れて、混合物を得た。
該混合物を、70℃で撹拌しながら、12時間反応させ、F(CFCHCHOC(=O)CH(CH)CHSCHCHCHSi(OCH(化合物(a−1−11))を10質量%含有する溶液を得た。
【0139】
撹拌機を備えた1リットルのフラスコに、上記化合物(a−1)である化合物(a−1−11)の10%溶液の162g、上記化合物(a−2)であるSi(OC(コルコート社製)の53.6g、上記化合物(a−3)であるCH=CHCOO(CHSi(OCH(東京化成工業社製)の30.2gを入れた。次いで、ヘキサフルオロメタキシレンの149gと2−プロパノールの64gを入れて、混合物を得た。
該混合物を、室温で撹拌しながら、1%硝酸水溶液水の53.8gを滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌した。得られた、部分縮合物(A11)を10質量%含有する溶液を、部分縮合物液(A11−1)とした。部分縮合物(A11)の含フッ素原子含有率は12.4質量%、数平均分子量(Mn)は990であった。
【0140】
表3に、部分縮合物(A9)、(A10)、(X1)および(A11)の原料組成および、製造に用いた各成分の量を質量(g)で示す。さらに、原料組成については化合物(a−1)を100モルとした場合のモル数を併せて示す。製造に用いた各成分の量は、化合物(a−1)〜(a−3)の合計量を100質量部とした場合の質量部を併せて示す。また、フッ素原子含有率、数平均分子量(Mn)を併せて示す。
【0141】
【表3】
【0142】
[例22〜26:ハードコート用組成物およびハードコート層を有する基材の製造]
例18〜21で得た部分縮合物液(A9−1)、(A10−1)、(X1−1)および(A11−1)を、表4に示す市販のハードコート形成用の樹脂組成物(Y)に、部分縮合物(A9)、(A10)、(X1)および(A11)の割合が、樹脂組成物(Y)の全固形分と部分縮合物の合計質量に対して表4に示す割合(質量%)となるように含有させたハードコート用組成物10〜14を製造した。なお、各例における光硬化性樹脂組成物(Y)としては、ハードコートHC162(商品名、横浜ゴム社製)およびハードコートビームセット575(CB)(商品名、荒川化学工業社製)のいずれかを用いた。これらをそれぞれ用いて例11と同様にしてPET基板上に硬化膜(ハードコート層)を形成し、評価した。結果をハードコート用組成物の組成とともに表4に示す。
【0143】
【表4】
【0144】
本発明の部分縮合物(A1)および(A2)をそれぞれ用いて形成した例9、10のハードコート層は、撥水撥油性およびインクはじき性で示される指紋付着防止性、耐光性、硬化膜外観、鉛筆硬度が良好であった。
本発明の部分縮合物(A3)用いて形成した例11のハードコート層は、指紋付着防止性を有し、硬化膜外観が良好なものであった。
本発明の部分縮合物(A9)、(A10)および(A11)をそれぞれ用いて形成した例22〜24および26のハードコート層は、撥水撥油性およびインクはじき性で示される指紋付着防止性および硬化膜外観が良好なものであった。
【0145】
部分縮合物のフッ素原子含有率が40%超の部分縮合物(A4)を用いた例12のハードコート層は、硬化膜外観が不充分であった。
化合物(a−2)の単位を含有しない部分縮合物(A5)を用いた例13のハードコート層は、インクはじき性が不充分であった。化合物(a−2)の単位を含有しないため、部分加水分解縮合物の造膜性が損なわれた結果だと推定される。
化合物(a−3)の単位を含有しない部分縮合物(A6)を用いた例14のハードコート層は、インクはじき性が不充分であった。化合物(a−3)の単位を含有しないため、部分加水分解縮合物が光重合性化合物(B)と重合せず、コート層の特に表面に偏在しにくかった結果だと推定される。
【0146】
炭素原子数が8のペルフルオロアルキル基を有する加水分解性シラン化合物を使用した部分縮合物(A7)を用いた例15のハードコート層は、環境負荷が大きい。また、硬化膜外観が不充分であった。これは、部分加水分解縮合物の数平均分子量が大きいため、光重合性化合物(B)との相溶性が不充分であったためと推定される。
主鎖が炭化水素で構成されている部分縮合物(A8)を用いた例16のハードコート層は、耐光性が不充分であった。主鎖が炭化水素で構成されているため、紫外線により劣化したためと推定される。
【0147】
例17においては、例1で得た実施例の部分加水分解縮合物を用いてハードコート用組成物を製造し、これを用いてハードコート層を有する基材を製造した。ただし、ハードコート用組成物を、全固形分中の部分加水分解縮合物の含有量が20質量%を超える組成で製造したことから、例17のハードコート層では、インクはじき性が不充分であった。低表面エネルギーである部分加水分解縮合物は、表面に偏析する特性がある。例17のハードコート層では部分加水分解縮合物が濃縮された層ができ、部分縮合物(A)と光重合性化合物(B)とが充分に架橋できなかったためと推定される。本発明の部分加水分解縮合物を組成物に含有して用いる場合には、該組成物に求められる特性の範囲等により、適宜好適な組成を調整して用いるものである。
フッ素原子含有率が2.5%未満の部分縮合物(X1)を用いた例25のハードコート層は、インクはじき性が不充分であった。表面がRで充分に被覆されていなかったためと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明の部分加水分解縮合物を含有するハードコート用組成物は、基材に充分な硬度を有するとともに、優れた防汚性、特に、指紋付着防止性に優れたハードコート層を形成できる。さらには、環境負荷が少ない。また、ハードコート層を有する基材は、耐磨耗性、透明性に優れ、さらにその表面は充分な硬度を有し、防汚性、特に、指紋付着防止性の耐光性にも優れる。このため、脂性の汚れ、特に指紋の付着が外観上、問題となるスマートフォンやタブレットPC等に用いられるタッチパネル、ディスプレイガラス、光学素子、衛生機器等の部材として有用である。
なお、2012年1月31日に出願された日本特許出願2012−017605号および2012年11月7日に出願された日本特許出願2012−245498号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。