(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯機器の普及にともない、高いエネルギー密度を有する小型、軽量な二次電池の開発が強く望まれている。このようなものとして、リチウム、リチウム合金、金属酸化物あるいはカーボンを負極として用いるリチウムイオン二次電池があり、研究開発が盛んに行われている。
【0003】
リチウム複合酸化物、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として期待され、実用化が進んでいる。リチウムコバルト複合酸化物は、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等の他の正極活物質と比較して充填性が高いという特徴がある。
【0004】
一般的に、正極活物質の充填性の向上には、正極活物質となる粒子の球状性を向上させること、粒子自体の密度を向上させること、粒度分布に適正な幅を持たせること、粒径を適正な範囲で大きくすることなどが有効である。また、正極活物質の充填性は、正極活物質の前駆体として用いられる水酸化コバルトなどの水酸化物、酸化コバルトなどの酸化物の充填性をそのまま反映する傾向がある。
【0005】
上述の水酸化物や酸化物の粉体特性に関して、例えば、特許文献1には、酸化コバルトの粒形がほぼ球形であり、50%粒径(D50)が1.5〜15μm、D90がD50の2倍以下、D10がD50の1/5以上であり、かつ比表面積が2〜15m
2/gである酸化コバルト粉が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、タッピング密度が2.3g/cm
3以上であり、かつほぼ球状であって、さらに平均粒径が5μm〜15μmであるオキシ水酸化コバルト粒子が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、約0.5乃至2.2g/cm
3の密度、約1μmを超える、典型的には約1乃至20μmの粒径、および約0.5乃至20m
2/gの比表面積を有する水酸化コバルトまたはコバルトと他の金属から形成される合金の水酸化物が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の水酸化物や酸化物は、粒子の性状の総合的な検討が十分とは言えず、得られるリチウムコバルト複合酸化物の充填性が十分なものとなるとは言いがたい。
【0009】
一方、特許文献4には、底面の平均粒子径が1〜30μm、かつ平均粒子高さが0.2〜10μmであり、六角柱状の水酸化コバルト粒子が開示されているが、このようなアスペクト比の低い形状は、充填性の向上に不利である。
【0010】
さらに、特許文献5には、コバルト塩の水溶液と、苛性アルカリ溶液を同一槽内に連続的に供給、撹拌し、供給塩濃度、供給塩流量、槽内温度を一定にして槽内のpH値を11.0〜13.5の範囲に制御することによりコバルト水酸化物を得るコバルト水酸化物の製造法が開示されている。このような連続法では、粒度分布が広く充填性の向上に効果があると考えられるが、サイクル特性の改善を課題としており、充填性に対する検討が十分なものとは言いがたい。
【0011】
また、特許文献6には、一般式Li
xM
1O
2で表される活物質Aと、一般式Li
xM
2yM
31−yO
2で表される異種元素固溶活物質Bとの混合組成からなる正極活物質が開示されている。この正極活物質では、タップ密度と電子伝導ネットワークを改善して、高容量で高レート特性を有する非水系電解質二次電池を提供できるとしている。しかしながら、粒径の異なる2種の活物質の混合のみが検討されており、混合される粉体の特性についての検討が十分ではなく、充填性が満足されているとは言い難い。
【0012】
以上のように、リチウムコバルト複合酸化物の充填性を向上させるためには、リチウムコバルト複合酸化物の前駆体である水酸化コバルト粒子を含め、粒子自体の密度や粒度分布を検討する必要があるが、特許文献1〜6に記載のリチウムコバルト複合酸化物あるいはその前駆体では、十分な充填性を得ることができない。そのため、リチウムコバルト複合酸化物の充填性の更なる改善が望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を適用した非水系電解質二次電池用の正極活物質及び非水系電解質二次電池について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。本発明に係る実施の形態の説明は、以下の順序で行う。
1.正極活物質
2.非水系電解質二次電池
【0021】
<1.正極活物質>
本発明の実施の形態に係る水酸化コバルト粒子は、非水系電解質二次電池の正極活物質の前駆体であって、特にリチウムイオン二次電池の正極活物質の前駆体となるものである。
【0022】
正極活物質は、活物質粒子Aと活物質粒子Bとの混合物からなり、非水系電解質二次電池の正極活物質に好適なものである。
【0023】
活物質粒子Aは、一次粒子が凝集した球状の二次粒子からなり、平均粒径が10〜25μmであり、粒度分布のばらつきを示す(d90−d10)/MVの値が0.65以下であるリチウムコバルト複合酸化物粒子である。
【0024】
活物質粒子Bは、一般式Li
xM
11−yM
2yO
2(ただし、M
1はCo、Ni、Mnから選ばれる少なくとも1種の元素、M
2はM
1以外の遷移金属元素、2族元素、及び13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素、0.95≦x≦1.1、0≦y≦0.15)で表される層状構造の六方晶系結晶構造を有し、平均粒径が正極活物質Aより小さく、球状のリチウム遷移金属複合酸化物粒子である。
【0025】
正極活物質は、活物質粒子Aとその活物質粒子Aより粒径が小さい活物質粒子Bを混合することにより、活物質粒子Aの粒子の隙間に活物質粒子Bを配して正極活物質の充填性を向上させ、電池の正極に用いられた際に高密度の正極を実現することが可能である。さらに、活物質粒子Aは、粒度分布が狭いため、単に粒径の異なる活物質粒子を混合した場合よりも高い充填性を有する正極活物質が得られる。
【0026】
[活物質粒子A]
(形状・平均粒径)
活物質粒子Aは、一次粒子が凝集した球状の二次粒子から構成されており、平均粒径が10〜25μm、好ましくは15〜25μmである。ここで、平均粒径とは、MV(体積平均粒径)を意味する。
【0027】
平均粒径を10〜25μmとすることで、活物質粒子A自体の充填性を高いものとすることができ、活物質粒子Bと混合することで高い充填性を有する正極活物質とすることができる。平均粒径が10μm未満の場合には、活物質粒子A自体の充填性が低下するため、粒径の小さい活物質粒子Bと混合しても高い充填性を有する正極活物質とならない。一方、平均粒径が25μmを超える場合には、活物質粒子Aの粒度分布が広がり、サイクル特性や出力特性などの電池特性が低下するという問題が生じる。
【0028】
また、活物質粒子Aは、球状であるため、高い充填性を有する。ここで、球状とは、楕円形や粒子表面に凹凸がある球状を含むものである。
【0029】
(平均アスペクト比)
活物質粒子Aは、平均アスペクト比が0.7以上であることが好ましい。その平均アスペクト比を0.7以上とすることで、球状性が高く、充填性に優れた粒子となる。アスペクト比が0.7を下回る場合には、二次粒子の球状性が劣り、活物質粒子Aの粒子間の空隙が増え、正極活物質の充填性が低下することがある。
【0030】
ここで、平均アスペクト比は、個々の粒子において求めたアスペクト比の平均値である。個々の粒子におけるアスペクト比は、走査型電子顕微鏡による粒子外観観察における二次粒子の画像上で、二次粒子の外縁上の点から最大長さとなる他の外縁上の点の距離を測定粒径として、当該二次粒子において最大の測定粒径に対する最小の測定粒径の比を計測することにより求めることができる。平均アスペクト比は、走査型電子顕微鏡の外観観察から任意の20個以上の二次粒子について求めたアスペクト比を個数平均することで得られる。
【0031】
(粒度分布のばらつき)
活物質粒子Aは、粒子の粒度分布のばらつきを示す指標である(d90−d10)/MVの値が0.65以下、好ましくは0.6以下である。
【0032】
(d90−d10)/MVの値が0.65以下であることにより、活物質粒子Aの粒度分布の広がりが抑制されて高い粒径の均一性が得られ、微粒子や粗大粒子の混入が抑制されるため、活物質粒子Bと混合した際の粒度分布を制御して高い充填性を有する正極活物質が得られる。また、微粒子や粗大粒子の混入によるサイクル特性や充放電特性などの電池特性の低下を抑制することができる。
【0033】
一方、(d90−d10)/MVの値が0.6を超える場合には、微粒子や粗大粒子の混入が増加するため、高い充填性を有する正極活物質とならないばかりか、粗大粒子増加による非水系電解質二次電池内の短絡という問題を生じる原因となる。
【0034】
ここで、d90、d10は、それぞれ体積累積分布が90%、10%になる粒径である。(d90−d10)/MVは、小さいほど高い粒径の均一性が得られるが、製造上の制約等を考慮すると、(d90−d10)/MVの下限は、通常0.3程度である。なお、d90、d10およびMV(体積平均粒径)は、レーザ回折式粒度分布計を用いて、レーザ回折散乱法によって測定することができる。
【0035】
(N1/L、N2/L、空隙の最大長径)
さらに、活物質粒子Aは、粒子の断面観察において、二次粒子の断面長径が3μm以上の粒子内で確認される最大長径が0.3μm以上の空隙の個数(N1)の二次粒子の断面長径(L)に対する比(N1/L)が0.5以下であることが好ましい。また、二次粒子の断面長径が3μm以上の粒子内で確認される最大長径が0.5μm以上の空隙の個数(N2)の二次粒子の断面長径(L)に対する比(N2/L)が0.2以下であることが好ましい。更に、これらの条件に加えて空隙の最大長径が二次粒子の断面長径の25%以下であることが好ましい。
【0036】
これにより、活物質粒子Aは、緻密性の高いリチウムコバルト複合酸化物粒子となる。N1/L、N2/L、および空隙の最大長径のいずれかが上述の範囲を超えると、粒子内の空隙率が高い状態となり、活物質粒子Aの緻密性が低下する。
【0037】
なお、最大長径が0.3μm未満の空隙は、正確に空隙であるか判断することが困難であるとともに、粒子の緻密性に対する影響が小さいため除外する。さらに、空隙の個数あるいは大きさを計測する粒子として、断面長径が3μm未満の粒子を除外している。これは、断面長径が3μm未満の粒子は、断面観察が粒子の任意の位置での断面であるため、粒子の表面付近の断面である可能性があり、このような表面付近の断面では、粒子表面の凹みが空隙として観察され、粒子内部の空隙を正確に評価できない可能性があるためである。
【0038】
断面長径および空隙の最大長径は、走査型電子顕微鏡観察上における測定する二次粒子あるいは空隙の外縁の点から最大長さとなる他の外縁上の点の距離であり、空隙の最大長径は空隙における最大の空隙長径を意味する。
【0039】
さらに、空隙の最大長径は、2μm以下であることが好ましい。活物質粒子Aの空隙の最大長径は、二次粒子の断面長径の25%以下であるが、粒径が大きい二次粒子では許容される空隙の最大長径も相対的に大きくなる。したがって、空隙の最大長径を2μm以下とすることで、粒径の大きな粒子においても緻密性をより高いものとすることができる。
【0040】
(タップ密度)
また、活物質粒子Aは、タップ密度が2〜3g/mlであることが好ましい。これにより、活物質粒子Aと活物質粒子Bを混合した正極活物質の充填性をさらに高めることができる。活物質粒子Aのタップ密度は高いほど活物質粒子Bを混合した正極活物質の充填性も高くなるが、タップ密度が3g/mlを超えると、活物質粒子Aに混入する微粒子や粗大粒子が増加して、電池特性が低下するという問題が生じることがある。
【0041】
(組成)
活物質粒子Aは、上述した通りリチウムコバルト複合酸化物からなり、その組成は、一般式としてLiCoO
2と表せるものであり、非水系電解質二次電池の特性を改善するために通常添加される元素を含んでもよい。
【0042】
[活物質粒子B]
(組成)
活物質粒子Bは、一般式LixM
11−yM
2yO
2(ただし、M
1はCo、Ni、Mnから選ばれる少なくとも1種の元素、M
2はM
1以外の遷移金属元素、2族元素、及び13族元素から選ばれる少なくとも1種の元素、0.95≦x≦1.1、0≦y≦0.15)で表される層状構造の六方晶系結晶構造を有し、平均粒径が活物質粒子Aより小さく、球状のリチウム遷移金属複合酸化物である。
【0043】
一般式で表される組成で層状構造の六方晶系結晶構造するリチウム遷移金属複合酸化物は、良好な電池特性を有するため、活物質粒子Aと混合した際に、充填性を高くすることができ、しかも良好な電池特性を有する正極活物質を得ることができる。
【0044】
一般式におけるM
2は、電池特性を向上させるものであり、Al、Mg、Ca、Ti、Fe、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0045】
(形状・平均粒径)
活物質粒子Bは、その平均粒径が正極活物質Aより小さく、粒子形状が球状である。活物質粒子Bの平均粒径を活物質粒子Aの平均粒径より小さくすることで、活物質粒子Aの粒子間に活物質粒子Bを配することが可能であり、正極活物質の充填性を高くすることができる。また、粒子形状を球状とすることで、活物質粒子Aの粒子間に活物質粒子Bを配することが容易になるとともに、活物質粒子Aの粒子間隔を狭めることができ、正極活物質の充填性を高くすることができる。
【0046】
正極活物質の充填性をさらに高くするためには、活物質粒子Bの平均粒径が3〜10μmであること好ましく、3〜8μmであることがより好ましい。
【0047】
活物質粒子Bの平均粒径が3μm未満になると、活物質粒子Bに充放電時の電流が集中することにより、電池特性が低下する恐れが生じる。一方、平均粒径が10μmを超えると、活物質粒子Aの粒子間に配される活物質粒子Bが減少して、正極活物質の充填性がより高いものとならないことがある。
【0048】
さらに、活物質粒子Bの平均粒径は、活物質粒子Aの平均粒径に対する比で0.5以下とすることが好ましく、0.4以下とすることがより好ましい。これにより、活物質粒子Aの粒子間隔を狭くするとともに活物質粒子Aの粒子間に活物質粒子Bを多く配することが可能となり、正極活物質の充填性をさらに高めることができる。
【0049】
(粒度分布のばらつき)
活物質粒子Bの粒度分布のばらつきを示す指標である(d90−d10)/MVの値が0.65以下であることが好ましく、0.60以下であることがより好ましくい。
【0050】
(d90−d10)/MVの値が0.65以下であることにより、微粒子や粗大粒子の混入を抑制すること可能であり、正極活物質の電池特性の低下を抑制するとともに、充填性をさらに向上させることができる。(d90−d10)/MVの値が0.60を超えると、微粒子の混入による電池特性の低下や粗大粒子の混入による十分な充填性が得られないという問題が生じることがある。
【0051】
[活物質粒子Aと活物質粒子Bの混合]
活物質粒子Aと活物質粒子Bの質量混合比(A:B)が70:30〜90:10であることが好ましく、75:25〜90:10であることがより好ましい。これにより、活物質粒子Aの粒子間に配する活物質粒子Bの量を十分なものとすることができ、正極活物質の充填性をさらに向上させることができる。
【0052】
正極活物質は、活物質粒子Aと活物質粒子Bの持つ粉体としての性状を維持しながら、各粒子が偏在しないように混合することで得られる。混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサー、レーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができ、混合前の粒子の性状が破壊されない程度で、各粒子が十分に混合されればよい。
【0053】
[活物質粒子Aの製造方法]
活物質粒子Aは、前駆体に水酸化コバルト粒子を用いて製造する。水酸化コバルト粒子は、反応容器内を非酸性雰囲気に制御しながら、塩素含有コバルト塩水溶液、無機アルカリ水溶液およびアンモニウムイオン含有水溶液を反応容器に供給して反応液とし、反応液の液温25℃基準におけるpH値を10.5〜12.0となるように制御して、核を生成する核生成工程を行う。次に、核生成工程において反応液中に形成された核を含有する粒子成長用水溶液を、液温25℃基準におけるpH値が9.5〜10.5、かつ核生成工程におけるpH値より低くなるように制御して粒子成長を行う粒子成長工程を行う。これにより、水酸化コバルト粒子を得ることができる。
【0054】
塩素含有コバルト塩水溶液は、塩素の含有量がコバルトの含有量に対してモル比で1〜3であることが好ましく、1.5〜3であることがより好ましい。塩素の含有量をモル比で1〜3とすることで、水酸化コバルト粒子の緻密性をより向上させることができる。
【0055】
塩素含有コバルト塩水溶液の濃度は、コバルトとして1mol/L〜2.6mol/Lとすることが好ましく、さらには1.5mol/L〜2.2mol/Lとすることが好ましい。
【0056】
アンモニウムイオン含有水溶液としては、反応液のアンモニア濃度を、好ましくは5g/L〜20g/L、より好ましくは7.5g/L〜15g/Lに調整する。アンモニア濃度を5g/L〜20g/Lに調整することにより、さらに充填性が高い水酸化コバルト粒子を得ることができる。アンモニア濃度が5g/L未満になると、一次粒子の形状が板状になりやすくなり、充填性が低下することがある。一方、アンモニア濃度が20g/Lを超えると、上述した粒子の外形、平均アスペクト比、平均粒径、粒度分布の広がりを示す指標、粒子内の空隙、タップ密度などの粒子の形態、構造の制御には効果が無く、薬品費用や排水処理費用が大きくなり、コスト高になるという問題が生じる。
【0057】
無機アルカリ水溶液としては、反応液のpH値が、所定の数値となるように制御できれば特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液などを適宜使用することができる。
【0058】
反応容器内の非酸化性雰囲気は、酸素濃度が5容量%以下の不活性ガス混合雰囲気が好ましく、酸素濃度が2容量%以下の不活性ガス混合雰囲気がより好ましい。
【0059】
活物質粒子Aは、上述のようにして得られた水酸化コバルト粒子を前駆体として、通常のリチウムコバルト複合酸化物の製造方法と同様にして製造することができる。すなわち、水酸化コバルト粒子とリチウム化合物とを混合し、酸化性雰囲気、好ましくは大気雰囲気に調整して、800℃〜1100℃で、好ましくは850℃〜1000℃で焼成して、リチウムコバルト複合酸化物粒子からなる活物質粒子Aを得ることができる。
【0060】
水酸化コバルト粒子は、300℃〜900℃の温度に加熱し、水酸化コバルト粒子に含有されている水分を除去して酸化コバルト粒子としてもよい。また、焼成後に凝集が認められた際には解砕してもよい。
【0061】
[活物質粒子Bの製造方法]
活物質粒子Bは、公知の技術を用いて得ることが可能であるが、粒度分布が均一な粒子を得る場合には、例えば、国際公開第2011/067937号公報で開示された製造方法を用いることで得ることができる。
【0062】
以上のような正極活物質は、リチウムコバルト複合酸化物からなる充填性の高い活物質粒子Aに、更にリチウム遷移金属複合酸化物からなる活物質粒子Aよりも粒径が小さい活物質粒子Bが混合されていることにより、活物質粒子Aの粒子間に活物質粒子Bが入り込み、充填性が高いものとなっている。したがって、この正極活物質は、非水系電解質二次電池における正極の充填密度を高くすることができ、高いクーロン効率を得ることができる。その結果、高充填密度の正極を備えた高容量の非水系電解質二次電池を得ることができ、非水系電解質二次電池の正極材料として極めて有用である。
【0063】
<2.非水系電解質二次電池>
上述した正極活物質は、非水系電解質二次電池の正極活物質として好適に用いられるものである。以下、非水系電解質二次電池用として用いられる際の実施態様を例示する。
【0064】
非水系電解質二次電池は、上述の正極活物質を用いた正極を採用したものでる。非水系電解質二次電池は、正極材料に上述した正極活物質を用いたこと以外は、一般的な非水系電解質二次電池と実質的に同様の構造を備えているため、簡単に説明する。
【0065】
非水系電解質二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレーターを備えた構造を有している。
【0066】
正極は、シート状の部材であり、正極活物質を含有する正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し乾燥して形成することができる。
【0067】
正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加して混練して形成されたものである。正極合材は、上述の正極活物質と、導電材および結着剤とを混合して形成されたものである。
【0068】
導電材は、特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0069】
正極合材に使用される結着剤は、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。なお、正極合材には、活性炭などを添加してもよく、活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0070】
溶剤は、特に限定されないが、例えばN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0071】
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。
【0072】
負極活物質は、例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0073】
吸蔵物質は、特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。
【0074】
セパレーターは、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができる。なお、セパレーターの機能を有するものであれば、特に限定されない。
【0075】
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を、単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0076】
上述の構成を有する非水系電解質二次電池は、上述の正極活物質を用いた正極を有しているので、正極活物質の充填密度が高く、高い電極密度を得ることができる。これにより、非水系電解質二次電池では、高い初期放電容量とクーロン効率が得られ、高容量となる。また、非水系電解質二次電池は、高い体積エネルギー密度を有する。さらに、従来の正極活物質と比較して、微細粒子の混入がないため、サイクル特性に優れている。また、熱安定性が高く、安全性においても優れている。
【実施例】
【0077】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。各実施例および各比較例における各種の評価方法を以下の通りである。
【0078】
(1)体積平均粒径及び粒度分布測定
レーザ回折式粒度分布計(商品名マイクロトラック、日機装株式会社製)を用いて測定した。
【0079】
(2)粒子の外観及び平均アスペクト比
走査型電子顕微鏡(SEM、商品名S−4700、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により粒子の外観を観察し、任意に選択した20個の粒子を測定した値から、平均値を算出することにより求めた。
【0080】
(3)緻密性
粒子の断面を走査型電子顕微鏡(SEM、商品名S−4700、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて1000倍で観察し、断面全体が観察可能な粒子を選択し、断面長径及び空隙の最大長径を計測することにより評価した。
【0081】
(4)金属成分の分析
試料を溶解した後、ICP発光分光法(ICP:Inductively Coupled Plasma)により分析した。
【0082】
(5)結晶構造の同定
X線回折測定装置(パナリティカル社製、X‘Pert PRO)により得られたX線回折パターンを用いて同定した。
【0083】
(6)電池評価
得られた正極活物質を用いて、2032型コイン電池を構成し、これにより初期容量についての評価を行った。具体的には、正極活物質粉末70質量%に、アセチレンブラック20質量%及びPTFE10質量%を加えて混合し、150mgを秤量してペレットを作製し、正極とした。また、負極にはリチウム金属を使用し、電解液には1MのLiClO
4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業製)を使用し、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で、2032型のコイン電池を作製した。
【0084】
作製したコイン電池を24時間程度放置し、開路電圧(OCV;Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.5mA/cm
2としてカットオフ電圧4.4Vまで充電して初期充電容量とし、1時間の休止後カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0085】
(実施例1)
まず、活物質粒子Aを以下のようにして製造した。
【0086】
邪魔板を4枚取り付けた槽容積5Lの晶析反応槽に、純水1.4L、25質量%アンモニア水を90ml投入して恒温槽及び加温ジャケットにて40℃に加温し、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、反応槽内の反応液のpHを25℃基準で11.5に調整した。反応槽内には窒素ガスを3L/分で供給し、反応槽内の酸素濃度を1容量%以下に制御した。
【0087】
核生成工程の晶析反応は、反応液を攪拌しつつ、定量ポンプを用いて、コバルトのモル濃度1.2mol/Lの塩化コバルト水溶液を5ml/分で供給し、併せて25質量%アンモニア水を0.8ml/分で供給しつつ、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を断続的に添加し、25℃でのpHが11.5になるように制御して行った。規定量の反応が終了した後、35質量%塩酸を適量投入し、反応液のpHを25℃基準で10.0に調整した。
【0088】
粒子成長工程の晶析反応は、反応液(粒子成長用水溶液)を攪拌しつつ、定量ポンプを用いて、核生成工程と同様に塩化コバルト水溶液、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、反応液のpHが25℃で10.0になるように制御して行った。塩化コバルト水溶液中の塩素含有量は、コバルトに対してモル比で2.1であった。液中のアンモニア濃度は15g/Lであった。粒子成長工程を8時間行い、得られた水酸化コバルト粒子を含むスラリーを固液分離し、水洗し、乾燥して粉末状の水酸化コバルトを得た。
【0089】
得られた水酸化コバルト粒子をコバルトに対するリチウムのモル比(Li/Co)が1.00となるようにシェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社)を用いて炭酸リチウムと混合し、空気気流中にて、990℃で10時間焼成した。冷却した後、解砕して活物質粒子Aを得た。
【0090】
得られた活物質粒子Aの結晶構造は、LiCoO
2で表される層状化合物であることが確認された。また、平均粒径、(d90−d10)/MV、タップ密度を測定した。
【0091】
また、
図1に示す断面SEM像から二次粒子の緻密性を評価したところ、二次粒子の断面観察において、二次粒子の断面長径が3μm以上の粒子内で確認される最大長径が0.3μm以上の空隙の個数(N1)の二次粒子の断面長径(L)に対する比(N1/L)が0.5以下、最大長径が0.5μm以上の空隙の個数(N)の二次粒子の断面長径(L)に対する比(N2/L)が0.2以下であり、かつ空隙の最大長径が二次粒子の断面長径の25%以下であることが確認された。空隙の最大長径は1.8μmであった。
【0092】
次に、活物質粒子Bを以下のようにして製造した。
【0093】
反応槽(34L)内に水を17L入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定し、反応槽に窒素ガスを流通させて窒素ガス雰囲気とした。反応槽内の水に25%水酸化ナトリウム水溶液と25%アンモニア水を適量加えることにより、液温25℃におけるpHとして、槽内の反応液のpHが12.6となるように調整した。また、反応液中のアンモニウムイオン濃度を15g/Lに調節した。
【0094】
次に、硫酸ニッケルと硫酸コバルトを水に溶かしてNi:Co=0.82:0.15となるように調整した1.8mol/Lの混合水溶液を、反応槽内の反応液に88ml/分で加えた。同時に、25質量%アンモニア水および25質量%水酸化ナトリウム水溶液も反応槽内の反応液に一定速度で加えていき、得られた核生成用水溶液中のアンモニウムイオン濃度を15g/Lとなるように保持した状態で、pHを12.6に制御しながら2分30秒間晶析を行って、核生成を行った。
【0095】
その後、液温25℃における核生成用水溶液pHが11.6(粒子成長pH)になるまで、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給のみを一時停止して、粒子成長用水溶液を得た。
【0096】
得られた粒子成長用水溶液の液温25℃におけるpHとして、反応液のpHが11.6に到達した後、再度、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開し、pHを11.6に制御した状態で、2時間粒子の成長を行った。反応槽内が満液になったところで水酸化ナトリウム溶液の供給を停止するとともに撹拌を止めて静置することにより、生成物の沈殿を促した。その後、反応槽から上澄み液を半量抜き出した後、水酸化ナトリウム溶液の供給を再開し、2時間晶析を行った後(計4時間)、粒子の成長を終了させた。そして、得られた生成物を水洗、濾過、乾燥させることにより、粒子を回収した。
【0097】
得られた粒子を別の反応槽に移して常温の水と混合してスラリーとし、この混合水溶液にアルミン酸ナトリウムの水溶液および硫酸を撹拌しながら加えて、スラリーのpHを9.5に調整した。その後、1時間撹拌を続けることによりニッケルコバルト複合水酸化物粒子表面に水酸化アルミニウムの被覆を行った。このとき、アルミン酸ナトリウムの水溶液は、スラリー中の金属元素モル比が、Ni:Co:Al=0.82:0.15:0.03となるように加えた。撹拌停止後に水溶液を濾過して水酸化アルミニウム被覆を行った粒子を水洗することにより、複合水酸化物を得た。
【0098】
得られた複合水酸化物粒子を、空気(酸素濃度:21容量%)気流中にて温度700℃で6時間の熱処理を行い、複合酸化物粒子を得た。Li/Me=1.02(原子比)となるように水酸化リチウムを秤量し、この水酸化リチウムと得られた複合酸化物粒子とをシェーカーミキサー装置を用いて混合することにより、混合物を得た。
【0099】
得られたこの混合物を酸素気流中(酸素濃度:100容量%)にて500℃で4時間仮焼した後、730℃で24時間焼成し、冷却した後に解砕して活物質粒子Bを得た。得られた活物質粒子Bの結晶構造は、Li
1.017Ni
0.82Co
0.15Al
0.03O
2で表される層状化合物であることが確認された。そして、活物質粒子Bの平均粒径、(d90−d10)/MVを測定した。
【0100】
得られた活物質粒子Aおよび活物質粒子Bを質量比で80:20となるように秤量し、シェーカーミキサー装置を用いて混合し、正極活物質を得た。得られた正極活物質のタップ密度、初期放電容量を測定した。
【0101】
(実施例2)
活物質粒子Aおよび活物質粒子Bを質量比で85:15となるように秤量して混合した以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
【0102】
(比較例1)
活物質粒子Aを活物質粒子Bと混合せず正極活物質として、実施例1と同様に評価した。
【0103】
(比較例2)
活物質粒子Aの核生成工程において、反応液のpHを25℃基準で12.5に調整した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。活物質粒子Aの緻密性を評価したところ、断面全体が観察され二次粒子の断面長径が3μm以上の粒子において、観察した粒子内で確認されたN1/Lが最大で0.8、N2/Lが最大で0.5であり、空隙の最大長径は二次粒子の断面長径の27%であった。また、空隙の最大長径は3.8μmであり、粒子内に空隙が多いことが確認された。