特許第6206284号(P6206284)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206284高純度フェノール、α―メチルスチレンおよびクメンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206284
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】高純度フェノール、α―メチルスチレンおよびクメンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/08 20060101AFI20170925BHJP
   C07C 27/12 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 27/28 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 37/74 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 39/04 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 1/20 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 7/04 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 15/44 20060101ALI20170925BHJP
   C07C 15/085 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C07C37/08
   C07C27/12 350
   C07C27/28
   C07C37/74
   C07C39/04
   C07C1/20
   C07C7/04
   C07C15/44
   C07C15/085
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-62150(P2014-62150)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-182986(P2015-182986A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】野村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 清孝
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−081897(JP,A)
【文献】 特開昭60−123434(JP,A)
【文献】 特開昭61−005034(JP,A)
【文献】 特開平06−329610(JP,A)
【文献】 特開2004−182645(JP,A)
【文献】 特開2003−160519(JP,A)
【文献】 特開2001−247490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クメン法フェノールの製造プロセスにおいて、クメンハイドロパーオキサイドを酸分解することによりフェノールとアセトンとを生成させた後、前記フェノールおよび前記アセトンを取得することにより重質成分を分離し、前記重質成分を熱分解することにより熱分解生成物を取得し、前記熱分解生成物を蒸留することにより前記熱分解生成物中のフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分を取得する方法であって、前記蒸留において、塔頂部より軽沸分を除去し、塔底部より重質分を除去すると共に、塔中間部よりフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分を取得し、且つ、前記塔中間部からのフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分の取得量を前記塔底部の温度が一定となるように調整することを特徴とする、フェノール、α−メチルスチレンおよびクメンを取得する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クメン法フェノールの製造プロセスにおいて、効率良く、高純度なフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを取得する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノールは、工業的には、一般的にクメン法により製造される。クメン法によるフェノールの製造は、クメンの酸化により生成したクメンハイドロパーオキサイドを酸分解した後、蒸留することにより、フェノールやアセトンを得ている。ここで、フェノールやアセトンを取得した後の蒸留残渣には、上記酸分解反応で副生するクミルフェノールや未蒸留フェノールなどの有効成分が含まれている。そこで、クミルフェノールをフェノールとα−メチルスチレンに熱分解した後に回収し、前記クメンハイドロパーオキサイドを酸分解させた液と共に蒸留することが行われている。
【0003】
但し、熱分解生成物をそのまま蒸留してフェノールやα−メチルスチレンを回収し、酸分解させた液と共に蒸留すると、低沸点の不純物成分がフェノールやアセトンに混入しやすい。そこで、熱分解生成物を第一蒸留塔で蒸留してフェノール及びα−メチルスチレンを塔頂から留出させ、α−メチルスチレンよりも低沸点の成分は実質的に凝縮しないように冷却して、フェノール及びα−メチルスチレンを凝縮液として回収する。そして、未凝縮の成分を第二蒸留塔に供給し、残留しているフェノール及びα−メチルスチレンを塔底液として回収し、α−メチルスチレンよりも低沸点の成分は塔頂から留出させる方法などが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法は、2回以上の蒸留や冷却が必要なため、クメン法フェノールの製造プロセスにおいて、製造プロセス内に存在する有効成分を利用して効率良く且つ高純度なフェノールやアセトンを簡便に得る方法の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003‐81897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、クメン法フェノールの製造プロセスにおいて、効率良く、高純度なフェノールやα−メチルスチレンなどの有効成分を簡便に取得する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、クメン法フェノールの製造プロセスにおいて、クメンハイドロパーオキサイドを酸分解させて生成したフェノールとアセトンとを除去した重質成分を熱分解して得た熱分解生成物を蒸留することによりフェノールやα−メチルスチレンなどの有効成分を含む留分を取得するに際し、塔頂部より軽沸分を除去し、塔底部より重質分を除去すると共に、塔中間部より製造プロセス内に存在する有効成分のみを効率良く取得することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されたものである。
【0007】
即ち、本発明の第1の要旨は、クメン法フェノールの製造プロセスにおいて、クメンハイドロパーオキサイドを酸分解することによりフェノールとアセトンとを生成させた後、前記フェノールおよび前記アセトンを取得することにより重質成分を分離し、前記重質成
分を熱分解することにより熱分解生成物を取得し、前記熱分解生成物を蒸留することにより前記熱分解生成物中のフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分を取得する方法であって、前記蒸留において、塔頂部より軽沸分を除去し、塔底部より重質分を除去すると共に、塔中間部よりフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分を取得することを特徴とする、フェノール、α−メチルスチレンおよびクメンを取得する方法に存する。また、本発明の第2の要旨は、第1の要旨に記載されたフェノール、α−メチルスチレンおよびクメンを取得する方法であって、前記塔中間部からのフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分の取得量を前記塔底部の温度が一定となるように調整することを特徴とする、フェノール、α−メチルスチレンおよびクメンを取得する方法に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クメン法フェノールの製造プロセスにおいて、有効成分であるフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを簡便な方法により、効率良く、取得することが可能となる。また、これらの有効成分をクメン法フェノールの製造プロセスに戻すことにより、高純度なフェノールやアセトンをより効率良く製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のフェノール、α−メチルスチレンおよびクメンを取得する方法の好ましい具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のフェノール、α−メチルスチレンおよびクメンを取得する方法は、クメン法フェノールの製造プロセスにおいて、クメンハイドロパーオキサイドを酸分解することによりフェノールとアセトンとを生成させた後、前記フェノールおよび前記アセトンを取得することにより重質成分を分離し、前記重質成分を熱分解することにより熱分解生成物を取得し、前記熱分解生成物を蒸留することにより、前記熱分解生成物中のフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分を取得する。
【0011】
ここで、クメンハイドロパーオキサイドは、クメンを酸化させることにより得ることができる。原料クメンは、通常ベンゼンとプロピレンとを反応させることにより得られたものを用いる。クメンの酸化反応では、アセトフェノンが副生する。
クメンハイドロパーオキサイドの酸分解は、硫酸を用いて行うことが好ましい。また、酸分解後に水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いて中和してから水洗することが好ましい。クメンハイドロパーオキサイドの酸分解反応では、α−メチルスチレン、クミルフェノールおよびα−メチルスチレンダイマーが副生する。
【0012】
酸分解により生成したフェノールとアセトンは、通常、蒸留によりアセトン、フェノールの順に順次除かれる。フェノールとアセトンとを除去することにより得られる重質成分には、クミルフェノールなどの有効成分が含まれている。そこで、この重質成分を熱分解した後に蒸留することにより、重質成分に含まれる有効成分を回収する。熱分解は、クミルフェノールなどが分解する温度で行い、具体的には、通常250〜350℃で行う。熱分解では、クメン、ベンゼンおよびエチルベンゼンなども副生する。
【0013】
なお、本発明に係るクメンの酸化、クメンハイドロパーオキサイドの酸分解、フェノールとアセトンの除去および重質成分の熱分解などのクメン法フェノールの製造プロセスは、公知の何れの方法で行っても良い。また、熱分解前に、重質成分に含まれる軽沸分は、蒸留により除いておくことが好ましい。
重質成分を熱分解させた組成物(熱分解生成物)には、通常、沸点の低い順に、ベンゼン、エチルベンゼン、熱分解で生成したクメン、α−メチルスチレン、フェノール、アセ
トフェノン、クミルフェノールおよびα−メチルスチレンダイマーなどが含まれている。
【0014】
本発明のフェノール、α−メチルスチレンおよびクメンを取得する方法は、上記熱分解生成物を蒸留するに際し、塔頂部より軽沸分を除去し、塔底部より重質分を除去すると共に、塔中間部よりフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分を取得する(この蒸留を以下、「本発明に係る蒸留」と言う場合がある。)。すなわち、本発明に係る蒸留は、1つの蒸留塔により3つ以上の留分に分けることができる。
【0015】
これに対し、従来公知の熱分解生成物の蒸留では、第一蒸留塔で蒸留してフェノール及びα−メチルスチレンを塔頂から留出させ、この塔頂留出物をフェノール及びα−メチルスチレンは凝縮する。その際、α−メチルスチレンよりも低沸点の成分は実質的に凝縮しないように冷却して、塔頂留出物中のフェノール及びα−メチルスチレンを凝縮液として回収する。そして、未凝縮の成分は第二蒸留塔に供給して残留しているフェノール及びα−メチルスチレンを塔底液として回収し、α−メチルスチレンよりも低沸点の成分は塔頂から留出させる。以上のように本発明に係る蒸留は、公知の蒸留と比べて、非常に簡便な方法でありながら、フェノール及びα−メチルスチレンを含む留分を回収することができる。ここで、本発明に係る蒸留によって塔中間部より取得された留分に含まれるクメンは、蒸留して取り出すことにより原料クメンとして再利用できる。
【0016】
本発明に係る蒸留は、塔底部の温度が一定となるように、塔中間部からのフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分の取得量を調整して行うことが好ましい。温度一定とは、上下限が20℃以内であることを言う。また、塔底部の温度は、具体的には、180℃以上で行うことが好ましく、210℃以上で行うことが更に好ましく、また、一方、260℃以下で行うことが好ましく、230℃以下で行うことが好ましい。
【0017】
本発明に係る蒸留の特に好ましい態様について、図1を用いて説明する。
図1において、重質成分を熱分解させた組成物1を、蒸留塔10を用いて蒸留し、塔頂部より軽沸分2を除去し、塔底部より重質分4を除去すると共に、塔中間部よりフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分3を取得する。ここで、軽沸分2にベンゼン、エチルベンゼンおよびクメンなどが含まれ、留分3にフェノール、α−メチルスチレン及びクメンが含まれ、重質分4にアセトフェノン、クミルフェノールおよびα−メチルスチレンダイマーが含まれるように蒸留条件を調整することが好ましい。なぜなら、上記留分3は、クメンハイドロパーオキサイドを酸分解させた液と共に蒸留することにより再利用できるからである。また、留分3に含まれるクメンは、原料クメンとして用いることもできる。すなわち、本発明に係る蒸留は、1つの蒸留塔を用いて3つ以上の留分を分けることができることから、有効な成分のみを高純度で効率良く取り出すことができる。従って、本発明に係る蒸留は、上記留分3がフェノール、α−メチルスチレン及びクメンという有効成分を多く含むと共に、クメンよりも沸点が低い成分および上記フェノールよりも沸点が高い成分が少なくなるように調整することが好ましい。特にベンゼンは、発がん性物質であることから、クメン法フェノールの製造プロセスにより得られるアセトンを医療分野や食品分野で洗浄剤などに用いる場合、混入しないようにすることが好ましい。従って、上記留分3に含まれるフェノール、α−メチルスチレンおよびクメンを、クメンハイドロパーオキサイドを酸分解させた液と共に蒸留することにより再利用する場合、上記留分3に含まれないように蒸留することが好ましい。
【0018】
図1においては、塔中間部からの留分3の取得量を、塔底部の温度計300における温度が一定となるように調量弁(図示せず)により調整する。ここで、塔底部の温度計300における温度は、塔底の熱交換器40に流す熱媒の流量により調整しても良いが、熱分解させた組成物1の量や組成の変動に迅速に追随させやすい点では、調量弁301により調整することが好ましい。
【0019】
本発明に係る蒸留は、塔頂からの軽沸分2を熱交換器20により冷却した後、還流ベッセル30に入れ、その一部を還流ライン2bから蒸留塔10に還流させ、残部を廃棄ライン2aから廃棄することが好ましい。還流ライン2bからの還流量は、還流ベッセル30の液面がレベルコントローラ100において一定に保たれるようにすることが好ましく、廃棄ライン2aからの廃棄量は、留分3に含まれるベンゼンの量が所望の量以下となるように調量弁200を用いて調整することが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の内容を実施例により説明する。但し、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例において、各留分の組成は、クメンハイドロパーオキサイドの酸分解以降の蒸留精製系におけるマテリアルバランスから算出した。
【0021】
[実施例1]
クメンを酸化させて得たクメンハイドロパーオキサイドを酸分解することによりフェノールとアセトンとを生成させた後、フェノールおよびアセトンを蒸留することにより除去した。残った重質成分を熱分解して得た組成物を蒸留した。蒸留では、塔頂部より軽沸分を除去し、塔底部より重質分を除去すると共に、塔中間部よりフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分を取得した。また、塔頂の還流ベッセルの液面は、蒸留塔への還流量により一定に保った。ここで、塔中間部からのフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分の取得量は、塔底部の温度が222〜223℃となるように調整した。この結果、塔中間部からの留分および塔底部からの重質分として、各々以下の組成の組成物が得られた。
【0022】
(塔中間部からの留分)
ベンゼン; 39重量ppm
クメン; 31.69重量%
α−メチルスチレン; 7.74重量%
フェノール; 42.46重量%
アセトフェノン; 0.011重量%
その他; 18.10重量%
(塔底部からの重質分)
フェノール; 8.33重量%
アセトフェノン; 75.55重量%
クメンフェノール; 1.57重量%
α−メチルスチレンダイマー; 3.30重量%
その他重質分; 11.25重量%
【0023】
[実施例2]
実施例1において、熱分解して得た組成物の蒸留方法を以下のように変更した以外は、同様にして、塔頂部より軽沸分を除去し、塔底部より重質分を除去すると共に、塔中間部よりフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分を取得した。塔底部の温度を塔底の熱交換器40に流す熱媒の流量により、220〜224℃となるよう調整した。塔頂の還流ベッセルの液面は、塔中間部からのフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分の取得量により一定に保った。この結果、塔底部からの重質分として、以下組成の組成物が得られた。
【0024】
(塔底部からの重質分)
フェノール; 20.04重量%
アセトフェノン; 60.62重量%
クメンフェノール; 1.82重量%
α−メチルスチレンダイマー; 3.43重量%
その他重質分; 14.09重量%
【0025】
実施例1および2より、本発明の方法により、簡便に、効率良く、フェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分を取得できることが裏付けされた。また、特に、実施例1において、実施例2に比べ、塔底部の重質分に含まれるフェノール量が少ないことから、塔中間部からのフェノール、α−メチルスチレン及びクメンを含む留分の取得量を塔底部の温度が一定となるように調整することにより、塔底部の重質分に含まれるフェノール量を少なくできることもわかった。また、ここで得られた有効成分をクメン法フェノールの製造プロセスに戻すことにより、高純度なフェノールをより効率良く製造することが可能となると思われる。
【符号の説明】
【0026】
1:熱分解させた組成物
2:軽沸分
2a:廃棄ライン
2b:還流ライン
3:塔中間部からの留分3
4:重質分
10:蒸留塔
20、40:熱交換器
30:還流ベッセル
100:レベルコントローラ
200:調量弁
300:温度計
図1