(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206287
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】銅製錬において発生する廃酸の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/62 20060101AFI20170925BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20170925BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
C02F1/62 Z
C02F1/58 Q
C22B3/44 101B
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-62926(P2014-62926)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-182052(P2015-182052A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】窪田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】谷嵜 和典
【審査官】
松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−154196(JP,A)
【文献】
特開2015−020103(JP,A)
【文献】
特開2012−012230(JP,A)
【文献】
特開2005−350766(JP,A)
【文献】
特開2004−275895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58− 1/64
C01F 1/00−17/00
C22B 1/00−61/00
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製錬で発生する廃酸に硫化剤を混合して重金属を硫化し、得られた硫化澱物を含む1次スラリーと1次清澄液とに分離する1次硫化工程と、1次清澄液に中和剤を混合して硫酸を石膏とし、固液分離して石膏終液を得る石膏製造工程と、石膏終液に硫化剤を混合して重金属を硫化し、得られた硫化澱物を含む2次スラリーと2次清澄液とに分離する2次硫化工程とを備え、2次硫化工程において2次清澄液を分離した2次スラリーを1次硫化工程に繰り返し、廃酸と混合することを特徴とする廃酸の処理方法。
【請求項2】
銅製錬で発生する廃酸に硫化剤を混合して重金属を硫化し、得られた硫化澱物を含む1次スラリーと1次清澄液とに分離する1次硫化工程と、1次清澄液に中和剤を混合して硫酸を石膏とし、固液分離して石膏終液を得る石膏製造工程と、石膏終液に硫化剤を混合して重金属を硫化し、得られた硫化澱物を含む2次スラリーと2次清澄液とに分離する2次硫化工程とを備え、2次硫化工程において2次清澄液を分離した2次スラリーを1次硫化工程に繰り返し、1次清澄液を分離した1次スラリーと混合することを特徴とする廃酸の処理方法。
【請求項3】
前記1次硫化工程における1次スラリーと1次清澄液の分離、及び前記2次硫化工程における2次スラリーと2次清澄液の分離は、それぞれシックナーでの濃縮による分離であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の廃酸の処理方法。
【請求項4】
前記2次硫化工程の濃縮分離で得られる2次スラリーの量は、1次硫化工程の濃縮分離で得られる1次スラリーの量に対して、10〜50体積%であることを特徴とする、請求項3に記載の廃酸の処理方法。
【請求項5】
前記1次硫化工程及び2次硫化工程で用いる硫化剤が、水硫化ナトリウム又は硫化水素であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の廃酸の処理方法。
【請求項6】
前記石膏製造工程で用いる中和剤が、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムのいずれかであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の廃酸の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬において発生する廃酸から重金属を除去する廃酸の処理方法に関し、更に詳しくは脱水設備並びにその監視や保守点検の作業の削減を図ることができる廃酸の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、銅製錬において発生する亜硫酸ガス(SO
2)は、硫酸工場に送られ、ガス精製工程、乾燥工程、転化工程及び吸収工程を経て硫酸が製造されている。この銅製錬で発生する亜硫酸ガスのうち1〜3%程度は、ガス精製工程における冷却段階で冷却されて硫酸となる。しかし、ガス精製工程以前の製錬排ガス中には重金属を含む煙灰やヒュームが存在するため、こうして得られた硫酸(以降、廃酸と称する)には不純物が多く含まれ、製品硫酸とはならない。
【0003】
かかる廃酸の処理方法としては、特許文献1に記載されているように、硫酸分及び重金属を分離除去したうえで、排水処理工程へ送る方法が知られている。また、特許文献2に記載されているように、廃酸から重金属を分離除去したうえで、石膏を製造する方法が知られている。これら廃酸の処理方法の一具体例について、
図1を参照して以下に説明する。
【0004】
まず、廃酸を1次硫化工程において、1次硫化反応ステップ、1次分離ステップ及び1次脱水ステップの順に処理する。即ち、1次硫化反応ステップでは、廃酸に水硫化ナトリウム(NaHS)又は硫化水素(H
2S)を混合し、酸化還元電位(ORP)約120mV(銀−塩化銀電極基準)として硫化澱物を含むスラリーを得る。このスラリーを1次分離ステップにおいて濃縮等により分離し、硫化澱物に富む1次スラリーと1次清澄液とを得る。この1次スラリーは1次脱水ステップで水分を低減させ、硫化澱物として製錬工程に送られる。
【0005】
一方、1次分離ステップで得られた1次清澄液は、石膏前濾過ステップで濾過し、濾液として石膏始液を得る。得られた石膏始液は、次の石膏製造工程において、石灰石(炭酸カルシウム)を粉砕したものと反応させ、硫酸分を石膏として分離回収すると共に、硫酸分を取り除いた石膏終液を得る。
【0006】
この石膏製造工程で得られた石膏終液は、2次硫化工程において2次硫化反応ステップ、2次分離ステップ及び2次脱水ステップの順に処理される。即ち、2次硫化反応ステップでは、石膏終液に水硫化ナトリウム又は硫化水素を混合し、ORPを約10mVとして硫化澱物を含むスラリーを得る。このスラリーを2次分離ステップで濃縮等により分離して、硫化澱物に富む2次スラリーと2次清澄液を得る。得られた2次スラリーは、2次脱水ステップで水分を低減させ、硫化澱物として回収して製錬工程へ送る。また、2次清澄液は排水処理工程に送られて処理される。
【0007】
上記した廃酸の処理方法は、廃酸の浄化だけでなく有価な石膏を回収できる点、石膏製造工程より前に1次硫化工程を経ることで廃酸から重金属を硫化澱物として除去でき、石膏の品質が向上する点、2次硫化工程より前に石膏製造工程があることで石膏終液の酸濃度を低減でき、2次硫化工程において硫化水素の発生を抑えながら反応を進められる点において優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−275895号公報
【特許文献2】特開2005−154196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した従来の廃酸の処理方法において、1次及び2次硫化工程で得られる硫化澱物中に残存している水分は、硫化澱物が供給された製錬工程の炉内で水蒸気爆発を起こしたり炉内の熔体を凝固させたりして、重大なトラブルを発生させる危険がある。そのため、上記した廃酸の処理方法では、1次及び2次脱水ステップで回収した硫化澱物は、製錬工程に供給して炉に装入するまでの間に水分を十分に低減しておく必要がある。
【0010】
そのため、上記廃酸の処理方法における1次脱水ステップ及び2次脱水ステップでは、硫化澱物を含むスラリー中の水分率を十分に低減できるような脱水方法が採用されている。具体的な脱水方法としてはフィルタープレスを用いることが多いが、その他の脱水方法として、脱水後の硫化澱物の水分率はフィルタープレスよりもやや高くなるが、真空式濾過機、ベルトプレス、遠心分離機の使用も可能である。
【0011】
しかし、上記脱水方法に共通の欠点として、単位時間あたりの処理能力が低いことが挙げられる。そこで従来は、低い脱水の処理能力を補うために、脱水設備を複数設置して並列処理を行うか、あるいは、脱水に先立って硫化澱物の濃縮を行い、硫化澱物から水分を分離しておくことが一般に行われている。例えば脱水すべき液量が多い場合には、濃縮方法としてシックナーを用いることが多い。
【0012】
上記脱水方法の中でフィルタープレスは回分式であり、閉板、濾過、圧搾、ブロー、開板、ケーキ排出及び濾布洗浄といった各操作が1つの設備で順次行われる。しかし、これらの操作の中でスラリーを処理できるのは濾過操作のみであり、従って濾過操作を行わない間は、フィルタープレスの前工程にある設備はスラリーの排出を停止する必要がある。
【0013】
そこで、前工程にある設備の停止を避けるために、フィルタープレスの前段に貯液槽を設置し、フィルタープレスが濾過操作を行わない間は貯液槽にスラリーを貯めるという方法が行われているが、その場合でも貯液槽が満ちた場合には前工程にある設備を停止する必要がある。そのため、常に貯液槽の液位を監視して、次の濾過操作が開始するまでの間、スラリーを受け入れる余地が残っているか予測する必要があった。
【0014】
また、フィルタープレスの処理能力は、濾布の目詰まりによって時間と共に低下する。そのため、フィルタープレスは定期的な濾布洗浄によって濾布の目詰まりを取り除く機能を備えている。しかし、定期的な濾布洗浄によって目詰まりを完全に解消することはできず、処理能力の低下を遅らせることしかできない。この処理能力低下に対しては、ポンプを用いてフィルタープレスに高圧力で給液したり、それでも処理能力が十分でない場合は濾布を交換したりする。しかし、濾布の交換には時間と人手を要するため、貯液槽の空き容量に余裕がある間に多くの作業員で交換作業を行う必要がある。
【0015】
更に、濾布の交換を要する状態として、濾布の目詰まり以外にも、濾布の破れが挙げられる。濾布が破れる原因としては、給液による化学的腐食、高圧力の給液による摩擦、給液中の固く尖った澱物や異物による力の集中、フィルタープレスを開閉する際の機械的衝撃などが挙げられる。濾布が破れると、給液圧力が低下して有効に濾過されず、破れ目からスラリーが飛散して失われるうえ、飛散したスラリーが周辺設備に入って故障や汚染の原因となることから、直ちに濾布の交換が必要となる。
【0016】
このような濾布の破れに対しても、濾布交換による設備の停止時間を最小化するために、常に運転状態を監視し、給液されるスラリー中に異物が混入していないか、濾布に毛羽立ちや傷がないか、濾布表面に液のにじみはないか等により、濾布が破れる時期を予測する必要があった。また、フィルタープレスは可動部が多いため、監視項目として油圧は適切に維持されているか、歯車に潤滑油膜は形成されているか、濾板は割れていないか等も点検し、時間のかかる部品交換や補修の必要性を判断する必要がある。
【0017】
本発明は、上記した従来の廃酸の処理方法における問題点に鑑みてなされたものであり、1次及び2次硫化工程で得られる硫化澱物に富むスラリーの各脱水ステップにおいて、脱水設備の監視や濾布交換等の保守点検に要する作業の削減を図り、効率的で経済性に優れた廃酸の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、例えば
図1に示す従来の廃酸の処理方法において、1次スラリーと2次スラリーを単一の脱水ステップで処理することによって1次脱水ステップ及び2次脱水ステップの2つの脱水ステップを1つに集約することができれば、脱水設備の監視や保守点検に要する作業の低減になるとの着想を得た。この着想に基づき、2次硫化工程の2次分離ステップから産出する2次スラリーを1次硫化工程に繰り返して、1次分離ステップで更に液量を減少させれば、2次脱水ステップを廃止できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0019】
即ち、本発明が提供する第1の廃酸の処理方法は、銅製錬で発生する廃酸に硫化剤を混合して重金属を硫化し、得られた硫化澱物を含む1次スラリーと1次清澄液とに分離する1次硫化工程と、1次清澄液に中和剤を混合して硫酸を石膏とし、固液分離して石膏終液を得る石膏製造工程と、石膏終液に硫化剤を混合して重金属を硫化し、得られた硫化澱物を含む2次スラリーと2次清澄液とに分離する2次硫化工程とを備え、2次硫化工程において2次清澄液を分離した2次スラリーを1次硫化工程に繰り返し、廃酸と混合することを特徴とする。
【0020】
また、本発明が提供する第2の廃酸の処理方法は、銅製錬で発生する廃酸に硫化剤を混合して重金属を硫化し、得られた硫化澱物を含む1次スラリーと1次清澄液とに分離する1次硫化工程と、1次清澄液に中和剤を混合して硫酸を石膏とし、固液分離して石膏終液を得る石膏製造工程と、石膏終液に硫化剤を混合して重金属を硫化し、得られた硫化澱物を含む2次スラリーと2次清澄液とに分離する2次硫化工程とを備え、2次硫化工程において2次清澄液を分離した2次スラリーを1次硫化工程に繰り返し、1次清澄液を分離した1次スラリーと混合することを特徴とする。
【0021】
上記本発明による本発明が提供する第1及び第2の廃酸の処理方法において、前記1次硫化工程における1次スラリーと1次清澄液の分離、及び前記2次硫化工程における2次スラリーと2次清澄液の分離は、それぞれシックナーでの濃縮による分離であることが好ましい。その場合、上記2次硫化工程の濃縮分離で得られる2次スラリーの量は、1次硫化工程の濃縮分離で得られる1次スラリーの量に対して、10〜50体積%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、銅製錬において発生する廃酸を処理する際に、1次及び2次硫化工程で得られる硫化澱物に富むスラリーの脱水ステップを一つに集約することができるため、脱水設備そのものも削減でき1つだけ設ければよい。従って、脱水設備の監視や濾布交換等の保守点検に要する作業の削減を図ることができ、効率的で経済性に優れた廃酸の処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】従来の廃酸の処理方法の一例を示す工程図である。
【
図2】本発明による第1の廃酸の処理方法の一例を示す工程図である。
【
図3】本発明による第2の廃酸の処理方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による第1の廃酸の処理方法は、
図2に示すように、
図1に示す従来の廃酸処理方法と比較して、2次硫化工程において2次清澄液を分離した2次スラリーを1次硫化工程に繰り返して廃酸と混合する点、及び、2次脱水ステップを廃止した点が異なる。この第1の廃酸の処理方法において、2次硫化工程から繰り返される2次スラリー中に含まれていた硫化澱物は、最終的に1次硫化工程における1次脱水ステップで分離される。
【0025】
また、2次脱水ステップを廃止することによって、2次脱水ステップの脱水設備及びそれに付随する貯液槽などが不要になり、それらの監視や保守点検に要する作業を削減することができる。不要となった2次脱水ステップの脱水設備は、1次脱水ステップの予備機として使うことができる。予備機があれば、濾布交換などの作業によって脱水設備が長時間停止する場合でも、予備機を使用して安定した脱水処理を行うことが可能になる。
【0026】
更に、2次硫化工程での2次スラリーを1次硫化工程に繰り返すことにより、2次硫化工程で未反応のまま残っている硫化剤を、従来のごとく排水処理工程に送って無駄にすることなく、1次硫化工程で再び利用することができる。そのため、従来の廃酸の処理方法に比べて1次硫化工程での硫化剤を節約でき、プロセス全体で硫化剤の使用量を減らすことができる。
【0027】
本発明による第2の廃酸の処理方法は、
図3に示すように、2次硫化工程において2次清澄液を分離した2次スラリーを1次硫化工程に繰り返し、1次清澄液を分離した1次スラリーと混合して、脱水ステップに直接送る方法である。この方法では、2次スラリーを1次硫化工程で濃縮等により再度分離することなく脱水するため、1次硫化工程での脱水ステップの処理能力が要求される反面、1次硫化工程での分離ステップの処理能力に余裕を持たせることができる。
【0028】
また、この第2の廃酸の処理の方法による脱水ステップは、1次分離ステップと2次分離ステップの両方からスラリーを受け入れることから、両方のスラリーを予め混合したうえで脱水ステップに供給することも可能である。これによって、配管長さが節約できると共に、均一なスラリーを安定的に処理できる利点がある。
【0029】
上記した本発明の1次硫化工程と2次硫化工程で用いる硫化剤としては、水硫化ナトリウム(硫化水素ナトリウム)、硫化水素、硫化ナトリウムといった一般的な硫化剤が使用可能である。これらの中で水硫化ナトリウムと硫化水素は、コストの点で優れており、石膏製造に適した硫酸濃度の石膏始液が得られる点で特に有利である。
【0030】
また、本発明の石膏製造工程で用いる中和剤としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどの中和剤が使用可能である。これらの中和剤はコストの点で優れており、石膏へのカルシウム源となる点で特に有利である。なお、上記中和剤は、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムを不純物として含んでいても、問題なく使用することができる。
【0031】
上記した本発明による第1及び第2の廃酸の処理方法においては、
図2及び
図3に示すように、1次硫化工程における1次スラリーと1次清澄液の分離、及び2次硫化工程における2次スラリーと2次清澄液の分離は、それぞれシックナーでの濃縮による分離であることが好ましい。
【0032】
特に上記第1の廃酸の処理方法では、シックナーでの濃縮を行うことによって、2次分離ステップから産出する濃縮された2次スラリーは、2次硫化反応ステップの産出液よりも液量が少なくなり、しかも、2次硫化反応ステップの産出液と同等の澱物を含んでいる。そのため、この濃縮された2次スラリーは、1次分離ステップで更に濃縮されることにより、液量を減少させることができる。その結果、脱水ステップで処理すべき液量は1次スラリーの量と2次スラリーの量の合計よりも少なくてすむため、上記した脱水設備の削減にも寄与する。
【0033】
2次分離ステップにおいて、2次清澄液への澱物の混入を抑えるためには、澱物をわずかでも含むスラリーは2次スラリーに分配させることが望ましい。この場合、2次スラリーは、スラリー濃度が低く且つ液量が多くなる。1次硫化工程へ繰り返されるスラリーがこのようにスラリー濃度が低く且つ液量が多ければ、1次硫化工程で処理すべき液量が多くなる。ただし、繰り返し先が1次分離ステップより前の工程であれば、1次分離ステップによって液量を低減できるため、1次脱水ステップへの影響は軽微である。
【0034】
上記1次分離ステップ及び2次分離ステップにおいて濃縮により硫化澱物を適切に分離するためには、2次スラリーの量は1次スラリーの量に対して10〜50体積%であることが好ましい。10%体積未満の場合には、1次スラリーが多くなるため脱水設備の負荷が大きくなるか、2次スラリーが少なくなり2次清澄液に硫化澱物が混入してしまう。逆に50体積%を超える場合には、1次分離ステップに流入する液量が多くなるか1次スラリーが少なくなるため、1次清澄液に硫化澱物が混入し、石膏前濾過ステップの操業の手間やコストが増加したり、石膏製造工程で得られる石膏の品質が低下したりしてしまう。
【0035】
また、上記2次スラリーの量が1次スラリーの量に対して50%を超える場合には、下記化学式1又は2の反応が生じて有毒の硫化水素が急激に発生するため、硫化水素除害設備の負荷が大きくなってしまうことから、工業的操業には適さない。
【0036】
[化学式1]
2NaHS+H
2SO
4 → 2H
2S↑+Na
2SO
4
[化学式2]
MS+H
2SO
4 → H
2S↑+MSO
4
(式中のMは2価の金属元素を表す)
【実施例】
【0037】
[実施例1]
重金属及び硫酸を含む廃酸を、300l/分の流量で1次硫化工程に送液した。1次硫化工程では、1次硫化反応槽にて廃酸に水硫化ナトリウムを添加することにより、ORPを120mVにしてスラリーを得た。このスラリーを1次シックナーにて沈降濃縮し、上澄み液と底抜きとに分離した。この底抜きは貯液槽に溜めたあと、1次フィルタープレスで濾過することにより硫化澱物を回収した。
【0038】
一方、1次シックナーの上澄み液は、微細な粒子をフィルタープレスで濾過して除くことで石膏始液とし、石膏製造工程へ送液した。石膏製造工程では、石膏始液に炭酸カルシウムを添加してpH2.3に調整し、得られたスラリーから固形分を取り除いて石膏を回収した。石膏を回収して残った石膏終液は、2次硫化工程へ送液した。
【0039】
2次硫化工程では、2次硫化反応槽にて石膏終液に水硫化ナトリウムを添加し、ORPが10mVとなるように調整してスラリーを得た。このスラリーを2次シックナーで沈降濃縮し、上澄み液と底抜きとに分離した。この底抜きは1次硫化工程に繰り返して、1次硫化反応槽に20l/分の流量で送液した。また、2次シックナーの上澄み液は排水処理工程に送液した。
【0040】
上記の条件で10日間にわたって操業を行ったところ、2次シックナーの底抜きが送液された1次硫化工程において、1次シックナーの上澄み液は清澄な状態が維持され、1次シックナーの底抜きは100l/分であって、1次シックナーと1次フィルタープレスの間の貯液槽から液が溢れることはなかった。また、1次シックナーの上澄み液を分析したところ、銅が1mg/l及び砒素が10mg/lであった。廃酸処理プロセス全体で使用した水硫化ナトリウムの量は、1日につき7.4トンであった。
【0041】
1次硫化工程及び2次硫化工程に要する作業員に関しては、1次フィルタープレスの監視と操作に作業員1人を要したが、石膏前フィルタープレスは1次シックナーの上澄み液が清澄で連続して通液できたので、作業員を配置する必要がなく、無人での運転が可能であった。従って、本発明による廃酸の処理方法では、監視と操作を要するフィルタープレスは1台のみで操業でき、脱水設備の監視や保守点検に要する作業を削減することができた。
【0042】
[比較例1]
2次シックナーの底抜きを1次硫化反応槽へ送液せず、従来と同様に2次フィルタープレスへ送液して濾過し、澱物を回収した以外は、上記実施例1と同様に実施した。
【0043】
上記の条件で10日間にわたって操業を行ったところ、廃酸処理プロセス全体で使用する水硫化ナトリウムの量は1日につき8.1トンであった。また、1次フィルタープレスの監視と操作に作業員1人、及び2次フィルタープレスの監視と操作に作業員1人を要した。尚、石膏前フィルタープレスは、上記実施例1と同様に無人運転が可能であった。
【0044】
実施例1と比較例1とでフィルタープレスの操業に要した人数を比較すると、実施例1では2次フィルタープレスを稼働せず、1次フィルタープレスでの1台のみの稼働で操業できたため、作業員を1名削減することができた。また、水硫化ナトリウムの使用量を比較すると、実施例1の方が少ない。この理由は、2次シックナーの底抜きには未反応の水硫化ナトリウムが含まれており且つその濃度は1次硫化工程よりも高いことから、実施例1では2次シックナーの底抜きを1次硫化工程へ繰り返すことで、未反応の水硫化ナトリウムが1次硫化工程で利用されたためである。
【0045】
水硫化ナトリウムが還元剤として働く系において、その濃度が高いほどORPは低くなる。1次硫化工程のORPと2次硫化工程のORPは実施例1に記載の通りであり、2次硫化工程の方が1次硫化工程よりも常に低いことから、水硫化ナトリウム濃度は2次硫化工程の方が1次硫化工程よりも常に高かったことが見て取れる。
【0046】
上記実施例1においては、水硫化ナトリウム濃度の高いスラリーが2次硫化工程から1次硫化工程に送液されたので、実施例1の1次硫化工程の水硫化ナトリウム濃度が比較例1の1次硫化工程の水硫化ナトリウム濃度よりも部分的に高くなることが考えられる。水硫化ナトリウム濃度が高い場合、下記化学式3又は化学式4に基づいて重金属(銅や砒素)が沈殿し、1次シックナーの上澄み液中の重金属濃度が低くなる。
【0047】
[化学式3]
2NaHS+CuSO
4 → 2CuS↓+NaHSO
4
[化学式4]
MS+CuSO
4 → CuS↓+MSO
4
(式中のMは2価の金属元素を表す)
【0048】
しかしながら、分析結果によれば、実施例1と比較例1の1次シックナーの上澄み液中の重金属濃度は等しかった。よって、水硫化ナトリウム濃度は実施例1と比較例1で等しかったことが分かる。このことは、本発明の方法によっても、水硫化ナトリウム濃度を適切に制御できることを示している。
【0049】
[比較例2]
2次シックナーの底抜きを1次硫化反応槽へ送液せず、その代りに1次シックナーの底抜きと1次フィルタープレスの間の貯液槽へ送液して濾過することにより澱物の回収を試みた以外は、上記実施例1と同様に実施した。
【0050】
上記の条件で操業を行ったところ、1次シックナーの底抜きと1次フィルタープレスの間の貯液槽の保有液量が増加の一途を辿り、液が溢れそうになったため数時間で操業を中止した。