(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206323
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/10 20060101AFI20170925BHJP
【FI】
C01G53/10
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-101144(P2014-101144)
(22)【出願日】2014年5月15日
(65)【公開番号】特開2015-218075(P2015-218075A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2016年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大祐
(72)【発明者】
【氏名】杉田 泉
(72)【発明者】
【氏名】松本 智志
(72)【発明者】
【氏名】友田 勝博
【審査官】
廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−310437(JP,A)
【文献】
特開2013−151717(JP,A)
【文献】
特開2013−112530(JP,A)
【文献】
特開2013−203646(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/077296(WO,A1)
【文献】
特開2004−284848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00ー47/00
C01G 49/10ー99/00
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物としてコバルトおよびマグネシウムを含む粗硫酸ニッケル水溶液を得る溶解工程と、
溶媒抽出により前記粗硫酸ニッケル水溶液から前記不純物を分離して高純度硫酸ニッケル水溶液を得るコバルト分離工程と、を備え、
前記コバルト分離工程において、有機相に担持されたニッケルを逆抽出して、コバルトおよびマグネシウムを含む硫酸ニッケル水溶液であるニッケル回収液を得、
前記ニッケル回収液の全部または一部を系外に排出し、残部を前記溶解工程に繰り返す
ことを特徴とする高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項2】
系外に排出されるニッケル回収液に中和剤を添加して、ニッケルおよびコバルトの中和澱物を得る脱マグネシウム工程を備える
ことを特徴とする請求項1記載の高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記中和剤が炭酸ナトリウムである
ことを特徴とする請求項2記載の高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記脱マグネシム工程における反応液のpHを7.2〜8.2に調整する
ことを特徴とする請求項3記載の高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル回収液の40%〜60%を系外に排出する
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法に関する。さらに詳しくは、特にマグネシウム品位が低い高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸ニッケルは、めっき材料や二次電池材料などに使用されている。特に二次電池材料向けには、不純物であるマグネシウムの品位が低い(例えば、10ppm以下)高純度な硫酸ニッケルが必要となる。
【0003】
図3に、硫酸ニッケル水溶液の製錬プロセスの一例を示す。この製錬プロセスでは、ニッケル硫化物等のニッケル原料を溶解し(溶解工程)、得られた粗硫酸ニッケル水溶液に中和剤を添加して中和澱物として鉄を除去し(脱鉄工程)、脱鉄された粗硫酸ニッケル水溶液からコバルトおよびその他の不純物を分離し(コバルト分離工程)、高純度硫酸ニッケル水溶液を得る。
【0004】
原料であるニッケル硫化物や、脱鉄工程で添加される中和剤には、マグネシウムが含まれている。このマグネシウムはコバルト分離工程においてコバルトとともに分離される(例えば、特許文献1〜4)。また、コバルト分離工程では、コバルトやその他の不純物とともに、一部のニッケルも分離される。分離されたニッケルはニッケル回収液として回収して溶解工程に繰り返し装入することでニッケルのロスを低減している。
【0005】
しかし、ニッケル回収液にはマグネシウムが含まれているため、ニッケル回収液を製錬プロセスの系内に繰り返すと、操業を継続するに従い徐々に系内のマグネシウムが濃縮されていく。その結果、コバルト分離工程でマグネシウムが十分に分離されず、得られた高純度硫酸ニッケル水溶液のマグネシウム品位が高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−30135号公報
【特許文献2】特開平10−310437号公報
【特許文献3】特開2004−307270号公報
【特許文献4】特開2008−13387号公報
【特許文献5】特開2010−248043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、マグネシム品位が低い高純度硫酸ニッケル水溶液が得られる高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、
不純物としてコバルトおよびマグネシウムを含む粗硫酸ニッケル水溶液を得る溶解工程と、溶媒抽出により
前記粗硫酸ニッケル水溶液から前記不純物を分離して高純度硫酸ニッケル水溶液を得るコバルト分離工程
と、を備え、前記コバルト分離工程において、有機相に担持されたニッケルを逆抽出して、コバルトおよびマグネシウムを含む硫酸ニッケル水溶液であるニッケル回収液を得、前記ニッケル回収液の全部または一部を系外に排出し、残部を
前記溶解工程に繰り返すことを特徴とする。
第2発明の高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、第1発明において、系外に排出されるニッケル回収液に中和剤を添加して、ニッケルおよびコバルトの中和澱物を得る脱マグネシウム工程を備えることを特徴とする。
第3発明の高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、第2発明において、前記中和剤が炭酸ナトリウムであることを特徴とする。
第4発明の高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、第3発明において、前記脱マグネシム工程における反応液のpHを7.2〜8.2に調整することを特徴とする。
第5発明の高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、第1、第2、第3または第4発明において、前記ニッケル回収液の40%〜60%を系外に排出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、マグネシウムを含むニッケル回収液の全部または一部が系外に排出されるので、系内でマグネシウムが濃縮されることを抑制できる。その結果、コバルト分離工程でマグネシウムの分離が十分にでき、マグネシウム品位が低い高純度硫酸ニッケル水溶液を得ることができる。
第2発明によれば、系外に排出されるニッケル回収液からニッケルおよびコバルトの中和澱物を得ることができ、中和澱物を資源として利用できる。
第3発明によれば、中和剤として炭酸ナトリウムを用いることで、ニッケル/コバルト炭酸化物を得ることができ、塩化ニッケルの精製プロセスに用いられる中和剤等として利用できる。
第4発明によれば、pHを7.2〜8.2に調整することで、中和澱物のニッケル濃度を高くできるとともに、マグネシウム濃度を低くできる。
第5発明によれば、ニッケル回収液の40%以上を系外に排出するので、マグネシウムの濃縮を抑制でき、マグネシム品位が10ppm以下の硫酸ニッケル結晶が得られる高純度ニッケル水溶液を得ることができる。また、ニッケル回収液の系外への排出を60%以下とすることで、ニッケルおよびコバルトのロスを低減でき、ニッケルおよびコバルトの回収量を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る硫酸ニッケル水溶液の製錬プロセスの工程図である。
【
図3】従来の硫酸ニッケル水溶液の製錬プロセスの工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係る高純度硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、
図1に示す硫酸ニッケル水溶液の製錬プロセスに適用される。
【0012】
まず、ニッケル硫化物等のニッケル原料を硫酸で溶解して粗硫酸ニッケル水溶液を得る(溶解工程)。原料であるニッケル硫化物にはニッケルおよびコバルトのほか、マグネシウム等の不純物が含まれているため、得られた粗硫酸ニッケル水溶液にもコバルトおよび不純物が含まれている。つぎに、得られた粗硫酸ニッケル水溶液に中和剤を添加して中和することで、粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる鉄を中和澱物として除去する(脱鉄工程)。中和剤としては、例えば消石灰が用いられる。消石灰にはマグネシウムが含まれており、このマグネシウムが脱鉄後の粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる。
【0013】
脱鉄された粗硫酸ニッケル水溶液には、不純物としてコバルトおよびマグネシウム等が含まれている。コバルト分離工程では、溶媒抽出により粗硫酸ニッケル水溶液からコバルトおよびその他の不純物を分離して高純度硫酸ニッケル水溶液を得る。コバルト分離工程では、高純度硫酸ニッケル水溶液のほかに、後述のコバルト回収液およびニッケル回収液が回収される。
【0014】
コバルト分離工程で得られた高純度硫酸ニッケル水溶液は、そのままで、または濃縮して硫酸ニッケル結晶として回収される。また、コバルト回収液は、不純物を除去した後、コバルト製品の製造に用いられる。
【0015】
つぎに、
図2に基づきコバルト分離工程の詳細を説明する。なお、
図2において実線矢印は水相の流れを意味し、破線矢印は有機相の流れを意味する。
コバルト分離工程は、酸性有機抽出剤によりナトリウムやアンモニア等のニッケルよりも低いpHで抽出される不純物をわずかに含む硫酸ニッケル水溶液からニッケルを抽出してニッケル保持有機相を得る抽出工程と、抽出工程で得られたニッケル保持有機相を、ニッケルを含む洗浄液で洗浄する洗浄工程と、洗浄工程で得られた洗浄後のニッケル保持有機相とコバルトを多く含む粗硫酸ニッケル水溶液とを反応させて、粗硫酸ニッケル水溶液中のコバルト等の不純物とニッケル保持有機相中のニッケルとを置換する置換工程とを備える。置換工程により高純度硫酸ニッケル水溶液を得るとともに、コバルトが濃縮した有機相を得ることができる。
【0016】
置換工程で得られた不純物を含む有機相は、ニッケル逆抽出工程、コバルト回収工程、最終逆抽出工程からなる一連の回収工程に送られる。これらの工程により、有機相に担持されたニッケルの回収、コバルトの回収、その他の不純物の除去を行い、有機相を清浄化して再び抽出工程および置換工程に供給する。
【0017】
以下、各工程の詳細を説明する。
抽出工程では、酸性有機抽出剤を用いた溶媒抽出法により、抽出・洗浄用硫酸ニッケル水溶液中のニッケルを有機相に抽出し、ニッケル保持有機相を調製する。ニッケル保持有機相には、抽出・洗浄用硫酸ニッケル水溶液に含まれるカルシウム、マグネシウム等のニッケルよりも低いpHで有機相中に抽出される不純物の大部分が同時抽出され含まれている。
【0018】
抽出工程で得られたニッケル保持有機相は洗浄工程に送られ、ニッケル含有溶液で洗浄される。洗浄工程に供給される洗浄液としては、抽出・洗浄用硫酸ニッケル水溶液(置換工程にて精製された高純度硫酸ニッケル水溶液や工程内繰返し粗硫酸ニッケル水溶液)を水で希釈したものが用いられる。
【0019】
洗浄工程を経たニッケル保持有機相および最終逆抽出工程で得られた有機相は置換工程に送られ、コバルト分離工程に供給された粗硫酸ニッケル水溶液(置換硫酸ニッケル水溶液)と置換反応が行われる。例えば、3段向流ミキサーセトラーを用い、その最上段、すなわち1段目のミキサーセトラーにニッケル保持有機相を供給し、最下段、すなわち3段目のミキサーセトラーに置換硫酸ニッケル水溶液を供給し、両者を向流的に反応させる。このようにすると、置換硫酸ニッケル水溶液中のコバルト、鉄、亜鉛、銅、カルシウム、マグネシウム等の不純物とニッケル保持有機相中のニッケルが置換反応によって交換される。有機相中のニッケルは水相中へ、置換硫酸ニッケル水溶液中のコバルト等の不純物は有機相中へとそれぞれ移行し、高純度に精製された高純度硫酸ニッケル水溶液を得ることができる。
【0020】
ニッケル保持有機相のニッケル濃度は、置換反応後に得られる有機相にある程度の量のニッケルが残留するような過剰量に調整されている。すなわち、置換後有機相にはニッケルが担持されている。ニッケル逆抽出工程では、硫酸を使用してpH4.0付近で反応させることにより、有機相に担持されたニッケルの大部分を逆抽出して、ニッケル回収液を回収する。ニッケル回収液はコバルトおよびマグネシウムを含む硫酸ニッケル水溶液である。
【0021】
ニッケルを逆抽出した後のニッケル回収後有機相は、コバルト回収工程に送られる。コバルト回収工程では、塩酸を使用してpHを1.0付近に調整することで、有機相中のコバルトを硫酸に逆抽出して、コバルト回収液を回収する。コバルト回収液は塩化コバルト水溶液であり、カルシウム、マグネシウム、銅、亜鉛などが同時に逆抽出されて含まれている。
【0022】
コバルトを逆抽出した後のコバルト回収後有機相は、最終逆抽出工程に送られる。最終逆抽出工程では、硫酸を使用して有機相に残存する鉄などの不純物を除去する。以上のように一連の回収工程を経ることで有機相が浄化され、有機相を抽出工程および置換工程に繰り返すことができる。
【0023】
図1に戻り説明する。
従来、コバルト分離工程のニッケル逆抽出工程で回収されたニッケル回収液は、その全部が溶解工程に繰り返されていた(
図3参照)。本実施形態は、このニッケル回収液の全部または一部を製錬プロセスの系外に排出するところに特徴を有する。ニッケル回収液の一部を系外に排出する場合には、その残部が系内、例えば溶解工程に繰り返される。
【0024】
前述のごとく、ニッケル原料や脱鉄工程に添加される中和剤にはマグネシウムが含まれる。このマグネシウムはコバルト分離工程で分離され、その一部がニッケル回収液に含まれている。このマグネシウムを含むニッケル回収液の全部または一部が系外に排出されるので、系内でマグネシウムが濃縮されることを抑制できる。その結果、コバルト分離工程でマグネシウムの分離が十分にでき、マグネシウム品位が低い高純度硫酸ニッケル水溶液を得ることができる。
【0025】
また、ニッケル回収液の残部を溶解工程に繰り返すことで、ニッケル回収液に含まれるニッケルおよびコバルトのロスを低減し、高純度硫酸ニッケル水溶液およびコバルト回収液として回収できる。
【0026】
ニッケル回収液のうち系外に排出する割合は特に限定されないが、ニッケル回収液の発生量の40%〜60%とすることが好ましい。
【0027】
ニッケル回収液の40%以上を系外に排出すれば、マグネシウムの濃縮を抑制でき、マグネシム品位が10ppm以下の硫酸ニッケル結晶が得られる高純度ニッケル水溶液を得ることができる。また、ニッケル回収液の系外への排出を60%以下とすれば、ニッケルおよびコバルトのロスを低減でき、ニッケルおよびコバルトの回収量を維持できる。
【0028】
また、本実施形態は、系外に排出されるニッケル回収液に中和剤を添加して中和することで、ニッケルおよびコバルトの中和澱物を得る(脱マグネシウム工程)ところに特徴を有する。系外に排出されるニッケル回収液からニッケルおよびコバルトの中和澱物を得ることができ、中和澱物を資源として利用できる。なお、マグネシウムは排水として排出される。
【0029】
中和剤としては特に限定されないが、炭酸ナトリウムを用いれば、中和澱物としてニッケル/コバルト炭酸化物を得ることができる。ニッケル回収液は、ニッケル濃度が15〜50g/L、コバルト濃度が1〜10g/L、マグネシウム濃度が0.2〜1.0g/Lである。また、ニッケル、コバルト、マグネシウムの重量比は、およそ100:20:2である。すなわち、ニッケル回収液に含まれるマグネシウムは量的にはわずかである。しかも、脱マグネシウム工程により、マグネシムの大部分が除去される。したがってマグネシウムは中和澱物の不純物とみなすことができる。そのため、得られた中和澱物をわずかな量のマグネシウムの混入が問題とならない工程に利用することができる。例えば、特許文献5に記載されるような、塩化ニッケルの精製プロセスの中和工程に添加される中和剤として利用できる。
【0030】
脱マグネシム工程における反応液のpHは、特に限定されないが、7.2〜8.2に調整することが好ましい。pHを7.2〜8.2に調整することで、中和澱物のニッケル濃度を高くできるとともに、マグネシウム濃度を低くできる。
【実施例】
【0031】
つぎに、実施例を説明する。
(実施例1)
図1に示す硫酸ニッケル水溶液の製錬プロセスの実操業を行い、コバルト分離工程で得られたニッケル回収液をサンプリングした。ニッケル回収液は、ニッケル濃度が15〜50g/L、コバルト濃度が1〜10g/L、マグネシウム濃度が0.2〜1.0g/Lであった。このニッケル回収液に中和剤として濃度150〜250g/Lの炭酸ナトリウム水溶液を添加して、pHを6.8、7.2、8.2、8.9のそれぞれに調整した。
【0032】
中和反応後、中和澱物と濾液とに固液分離し、濾液へのマグネシウム分配率および濾液のニッケル濃度を測定した。ここで、濾液へのマグネシウム分配率とは、ニッケル回収液に対する濾液のマグネシウム濃度比である。その結果を表1に示す。
【表1】
【0033】
表1より、濾液へのマグネシウム分配率を上昇させると、濾液のニッケル濃度も上昇することが分かる。また、反応液のpHを高くするほど、濾液へのマグネシウム分配率が低下することが分かる。また、pHを7.2以上に調整することで、濾液のニッケル濃度が375mg/L以下になり、ニッケルのロスを低減できることが確認された。また、pHを8.2以下に調整することで、マグネシウム分配率が28%以上になり、マグネシムを十分に除去できることが確認された。以上より、脱マグネシム工程における反応液のpHを7.2〜8.2に調整することが好ましいことが確認された。
【0034】
(実施例2)
図1に示す硫酸ニッケル水溶液の製錬プロセスのシミュレーションを以下の条件にて行った。ニッケル原料はニッケル品位57%、マグネシウム品位60ppmとした。また、脱鉄工程に添加される消石灰のマグネシウム品は0.2%とした。
【0035】
なお、
図3に示すようにニッケル回収液の全部を溶解工程に繰り返した場合は、高純度硫酸ニッケル水溶液へのマグネシウム分配率は7.8%、ニッケル回収液へのマグネシウム分配率は83.4%であった。ここで、高純度硫酸ニッケル水溶液へのマグネシウム分配率とは、置換硫酸ニッケル水溶液に対する高純度硫酸ニッケル水溶液のマグネシウム濃度比である。また、ニッケル回収液へのマグネシウム分配率とは、ニッケル回収後有機相に対する置換後有機相のマグネシウム濃度比である。
【0036】
ニッケル回収液の系外に排出する割合を60%とした。また、脱マグネシウム工程における反応液のpHを6.8、7.2、8.2、8.9のそれぞれに調整した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0037】
表2より、脱マグネシウム工程における反応液のpHを7.2以上の調整した場合、排水のニッケル濃度が375mg/L以下になり、ニッケルのロスを低減できることが確認された。また、反応液のpHが8.2を超えると中和剤の添加量が多くなってしまう。以上より、脱マグネシム工程における反応液のpHを7.2〜8.2に調整することが好ましいことが確認された。
【0038】
(実施例3)
実施例2と同様の条件で、ニッケル回収液の系外に排出する割合を100、80、70、60、40、0%とした。また、脱マグネシウム工程における反応液のpHを7.2に調整した(ニッケル回収液の排出割合が0%の場合を除く)。その結果を表3に示す。
【表3】
【0039】
表3より、ニッケル回収液の排出割合を40%以上とすることで、硫酸ニッケル結晶のマグネシウム品位が10ppm以下となり、製品の要求を満たすことが分かった。また、ニッケル回収液の排出割合が60%を超えると、製品の要求よりも高純度にはなるがニッケルが系外に多く排出されるため、硫酸ニッケル水溶液の生産性が低下する。以上より、ニッケル回収液の40%〜60%を系外に排出することが好ましいことが確認された。