(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケル酸化鉱を酸浸出した浸出液を中和することによって得られた、スカンジウム、ウラン、及びトリウムを含有する水酸化物に塩酸を添加して該水酸化物を溶解させ、塩酸酸性溶液を得る塩酸溶解工程と、
前記塩酸酸性溶液に中性抽出剤を添加して溶媒抽出を行う溶媒抽出工程と、
前記溶媒抽出により得られた抽残液にシュウ酸を添加して、スカンジウムを含有するシュウ酸塩澱物を生成させてスカンジウムを回収するスカンジウム回収工程と
を有し、
前記溶媒抽出工程では、前記塩酸酸性溶液のpHを1.0以上2.5以下の範囲に維持し、さらに、溶解後の該塩酸酸性溶液の塩化物濃度が2.0mol/L以上6.0mol/L以下となるように調整する
ことを特徴とするスカンジウムの回収方法。
【背景技術】
【0002】
スカンジウムは、高強度合金の添加剤や燃料電池の電極材料として極めて有用である。しかしながら、生産量が少なく、高価であるため、広く用いられるには至っていない。
【0003】
ところで、ラテライト鉱やリモナイト鉱等のニッケル酸化鉱には、微量のスカンジウムが含まれている。しかしながら、ニッケル酸化鉱は、ニッケル含有品位が低いため、長らくニッケル酸化鉱をニッケル原料として工業的に利用されてこなかった。そのため、ニッケル酸化鉱からスカンジウムを工業的に回収することもほとんど研究されていなかった。
【0004】
しかしながら、近年、ニッケル酸化鉱を硫酸と共に加圧容器に装入し、240℃〜260℃程度の高温に加熱してニッケルを含有する浸出液と浸出残渣とに固液分離するHPALプロセスが実用化されている。このHPALプロセスでは、得られた浸出液に中和剤を添加することで不純物が分離され、次いで、不純物が分離された浸出液に硫化剤を添加することによりニッケルをニッケル硫化物として回収する。そして、このニッケル硫化物を既存のニッケル製錬工程で処理することによって、電気ニッケルやニッケル塩化合物を得ることができる。
【0005】
上述のようなHPALプロセスを用いる場合、ニッケル酸化鉱に含まれるスカンジウムは、ニッケルと共に浸出液に含まれることになる(特許文献1参照)。そして、HPALプロセスで得られた浸出液に対して中和剤を添加して不純物を分離し、次いで硫化剤を添加すると、ニッケルはニッケル硫化物として回収される一方で、スカンジウムは硫化剤添加後の酸性溶液中に含まれるようになるため、HPALプロセスを使用することによって、ニッケルとスカンジウムとを効果的に分離することができる。
【0006】
そして、その酸性溶液からスカンジウムを回収する方法としては、例えばイミノジ酢酸塩を官能基とするキレート樹脂にスカンジウムを吸着させて不純物と分離し、濃縮する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、ニッケル酸化鉱を浸出して得られたその酸性溶液には、アルミや鉄、クロム等のキレート樹脂に吸着される不純物成分も多く含まれており、キレート樹脂を用いた場合には、分離のために多段階の吸着・溶離を繰り返してスカンジウムを濃縮する処理が必要となるなど問題が多かった。
【0008】
さらに、ニッケル酸化鉱から溶媒抽出を用いてスカンジウムを回収する方法も提案されている(特許文献3参照)。具体的に、この特許文献3に記載の方法では、先ず、スカンジウムの他に、少なくとも鉄、アルミニウム、カルシウム、イットリウム、マンガン、クロム、マグネシウムの1種以上を含有する水相の含スカンジウム溶液に、2−エチルヘキシルスルホン酸−モノ−2−エチルヘキシルをケロシンで希釈した有機溶媒を加えて、スカンジウム成分を有機溶媒中に抽出する。次いで、有機溶媒中にスカンジウム共に抽出されたイットリウム、鉄、マンガン、クロム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを分離するために、塩酸水溶液を加えてスクラビングを行い、イットリウム、鉄、マンガン、クロム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを除去した後、有機溶媒中にNaOH水溶液を加えて、有機溶媒中に残存するスカンジウムを水酸化スカンジウム(Sc(OH)
3)を含むスラリーとし、これを濾過して得た水酸化スカンジウムに塩酸を加えて溶解して塩化スカンジウム水溶液を得る。そして、得られた塩化スカンジウム水溶液にシュウ酸を加えてシュウ酸スカンジウムの沈殿とし、その沈殿を濾過して、鉄、マンガン、クロム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを濾液中に分離した後、仮焼することにより高純度な酸化スカンジウムを得るというものである。
【0009】
しかしながら、ニッケル酸化鉱に含まれるスカンジウムは極微量であり、溶媒抽出を用いた場合には、多量の液を扱う大掛かりな設備が必要となり、投資や操業の手間とコストがかさむという問題があった。
【0010】
また、スカンジウムなどの希土類元素には、しばしばウランやトリウム等の共存することがあることも知られている。上述したキレート樹脂におけるウランやトリウムの吸脱着挙動は、スカンジウムとほぼ同じである。つまり、上述したキレート樹脂を用いて分離する方法では、スカンジウムだけでなくウランやトリウムも多くが吸着されてしまい、キレート樹脂に酸性液を通液して溶離した場合には、スカンジウムだけでなくウラン・トリウムも溶離されてスカンジウムと分離できないことになる。
【0011】
例えば、スカンジウムを燃料電池等の材料として用いようとする場合、必要な特性を確保するためには、高純度な品質が要求される。そのため、ウランやトリウム等の元素は特に避けるべきとされていたにもかかわらず、有効にスカンジウムをこれらの元素と分離する方法がなかった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、以下、本発明に係るスカンジウムの回収方法の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
≪1.スカンジウムの回収方法≫
図1は、本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法の一例を示すフロー図である。このスカンジウムの回収方法は、ニッケル酸化鉱を硫酸等の酸により浸出して得られた浸出液を中和し、その中和処理により得られた、スカンジウム、ウラン、及びトリウムを含有する水酸化物から、スカンジウムと、ウラン及びトリウムとを分離して、スカンジウムのみを簡便に且つ効率よく回収するものである。
【0022】
具体的に、このスカンジウムの回収方法は、ニッケル酸化鉱を酸浸出した浸出液を中和することによって得られた、スカンジウム、ウラン、及びトリウムを含有する水酸化物に塩酸を添加して該水酸化物を溶解させ、塩酸酸性溶液を得る塩酸溶解工程S1と、得られた塩酸酸性溶液に中性抽出剤を添加して溶媒抽出を行う溶媒抽出工程S2と、溶媒抽出により得られた抽出残液にシュウ酸を添加して、スカンジウムを含有するシュウ酸塩の沈殿物を生成させてスカンジウムを回収するスカンジウム回収工程S3とを有する。
【0023】
このように、本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法では、スカンジウム、ウラン及びトリウムを含有する水酸化物を出発原料として塩酸を添加して塩酸酸性溶液とし、この溶液に中性抽出剤を添加して溶媒抽出することで抽出剤中にウランを抽出して分離する。そして、抽出されずに残った液(抽残液)にシュウ酸を添加してスカンジウムをシュウ酸塩として沈殿させることによって、その抽残液中のトリウムとスカンジウムとを分離し、スカンジウムのみを回収する。
【0024】
このような方法によれば、不純物であるウラン、トリウムをより高品位で分離することができ、ニッケル酸化鉱のような多くの不純物を含有する原料からであっても、安定した操業を行うことができ、高品位のスカンジウムを効率よく回収することができる。
【0025】
≪2.スカンジウムの回収方法の各工程について≫
図2は、本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法の適用した全体の流れの一例を説明するためのフロー図である。以下、各工程について具体的に説明する。
【0026】
<2−1.ニッケル酸化鉱の湿式製錬処理工程>
本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法においては、その出発原料として、スカンジウム、ウラン、及びトリウムを含有する水酸化物を用いる。この水酸化物としては、ニッケル酸化鉱の湿式製錬処理を経て生成した酸性溶液を中和することによって得られたものを用いることができる。
【0027】
図2のフロー図の一部に示すように、先ず、ニッケル酸化鉱の湿式製錬処理工程S11は、ニッケル酸化鉱を高温高圧下で硫酸等の酸により浸出して浸出液を得る浸出工程S101と、浸出液に中和剤を添加して不純物を含む中和澱物と中和後液とを得る中和工程S102と、中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程S103とを有する。
【0028】
(1)浸出工程
浸出工程S101は、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)等を用いて、ニッケル酸化鉱のスラリーに硫酸等の酸を添加して240℃〜260℃の温度下で撹拌処理を施し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する工程である。なお、浸出工程S101における処理は、従来知られているHPALプロセスに従って行えばよく、例えば特許文献1に記載されている。
【0029】
ここで、ニッケル酸化鉱としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、これらのニッケル酸化鉱には、スカンジウムが含まれている。
【0030】
この浸出工程S101では、得られた浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを洗浄しながら、ニッケルやコバルト、スカンジウム等を含む浸出液と、ヘマタイトである浸出残渣とに固液分離する。この固液分離処理では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、凝集剤供給設備等から供給される凝集剤を用いて、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。なお、この固液分離処理では、シックナー等の固液分離槽を多段に連結させて用い、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離することが好ましい。
【0031】
(2)中和工程
中和工程S102は、上述した浸出工程S101により得られた浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る工程である。この中和工程S102における中和処理により、ニッケルやコバルト、スカンジウム等の有価金属は中和後液に含まれるようになり、鉄、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分が中和澱物となる。
【0032】
中和剤としては、従来公知のもの使用することができ、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0033】
中和工程S102における中和処理では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、pHを1〜4の範囲に調整することが好ましく、pHを1.5〜2.5の範囲に調整することがより好ましい。pHが1未満であると、中和が不十分となり、中和澱物と中和後液とに分離できない可能性がある。一方で、pHが4を超えると、アルミニウムをはじめとした不純物のみならず、スカンジウムやニッケル等の有価金属も中和澱物に含まれる可能性がある。
【0034】
(3)硫化工程
硫化工程S103は、上述した中和工程S102により得られた中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る工程である。この硫化工程S103における硫化処理により、ニッケル、コバルト、亜鉛等は硫化物となり、スカンジウム等は硫化後液に含まれることになる。
【0035】
具体的に、この硫化工程S103では、得られた中和後液に硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を吹きこみ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と、ニッケル濃度を低い水準で安定させ、スカンジウム等を含有させた硫化後液とを生成させる。
【0036】
この硫化工程S103における硫化処理では、ニッケル・コバルト混合硫化物のスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて沈降分離処理し、ニッケル・コバルト混合硫化物をシックナーの底部より分離回収する一方で、水溶液成分である硫化後液はオーバーフローさせて回収する。
【0037】
本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法では、以上のようなニッケル酸化鉱の湿式製錬処理工程S11における各工程を経て得られる酸性溶液である硫化後液を回収し、この硫化後液を中和することによって得られた、スカンジウム、ウラン、及びトリウムを含有する水酸化物を出発原料として用いてスカンジウムを精製し回収する。
【0038】
<2−2.イオン交換工程>
ここで、上述したニッケル酸化鉱の湿式製錬処理工程S11にて得られた酸性溶液である硫化後液には、スカンジウム、ウラン、トリウムの他に、上述の硫化工程S103における硫化処理で硫化されずに溶液(硫化後液)中に残留したアルミニウムやクロム等が含まれている。このことから、この酸性溶液である硫化後液に対して中和処理を施して水酸化物を生成させるにあたり、それら不純物を除去してスカンジウムを濃縮させ、スカンジウム溶離液を生成させることが好ましい。
【0039】
スカンジウムを濃縮させて溶離液を生成させる方法としては、例えばキレート樹脂を使用したイオン交換処理による方法を挙げることができる。例えばこのイオン交換処理により、硫化後液中に含まれるアルミニウム等の不純物を分離して除去し、スカンジウムを濃縮させたスカンジウム溶離液を得るようにすることができる。なお、以下に具体的に、
図2のフロー図を参照しながら、硫化後液中に含まれる不純物を除去してスカンジウムを濃縮し溶離させる方法として、キレート樹脂を使用したイオン交換反応により行う方法を例に挙げて概略を説明する。
【0040】
図2に一例を示すイオン交換工程S12では、ニッケル酸化鉱の湿式製錬処理工程S11における硫化工程S103にて得られた硫化後液をキレート樹脂に接触させて硫化後液中のスカンジウムをキレート樹脂に吸着させ、スカンジウム溶離液を得るものである。
【0041】
イオン交換工程S12の態様としては特に限定されるものではないが、例えば、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる吸着工程S201と、スカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させてキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程S202と、キレート樹脂に0.3N以上3N以下の硫酸を接触させてスカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程S203と、このスカンジウム溶離工程S203を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸を接触させ、吸着工程S201でキレート樹脂に吸着したクロムを除去するクロム除去工程S204とを有するものを例示できる。以下、各工程について概略を説明する。
【0042】
[吸着工程]
吸着工程S201では、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる。キレート樹脂の種類は特に限定されず、例えばイミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いることができる。
【0043】
[アルミニウム除去工程]
アルミニウム除去工程S202では、吸着工程S201でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させ、キレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去する。なお、アルミニウムを除去する際、pHを1以上2.5以下の範囲に維持することが好ましく、1.5以上2.0以下の範囲に維持することがより好ましい。
【0044】
[スカンジウム溶離工程]
スカンジウム溶離工程S203では、アルミニウム除去工程S202を経たキレート樹脂に0.3N以上3N未満の硫酸を接触させ、スカンジウム溶離液を得る。スカンジウム溶離液を得るに際して、溶離液に用いる硫酸の規定度を0.3N以上3N未満の範囲に維持することが好ましく、0.5N以上2N未満の範囲に維持することがより好ましい。
【0045】
[クロム除去工程]
クロム除去工程S204では、スカンジウム溶離工程S203を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸を接触させ、キレート樹脂に吸着したクロムを除去する。クロムを除去する際に、溶離液に用いる硫酸の規定度が3Nを下回ると、クロムが適切にキレート樹脂から除去されないため、好ましくない。
【0046】
[鉄除去工程]
また、
図2中には示していないが、ニッケル酸化鉱には不純物として鉄が含まれており、上述したアルミニウム除去工程S202に先立ち、吸着工程でスカンジウムを吸着させたキレート樹脂に、アルミニウム除去工程S202において使用する硫酸の規定度よりも小さい規定度の硫酸を接触させて、吸着工程S201でキレート樹脂に吸着した鉄を除去することが好ましい。鉄を除去するにあたっては、pHを1以上3以下の範囲に維持することが好ましい。pHが1未満であると、鉄だけでなく、スカンジウムもキレート樹脂から除去される可能性がある。一方で、pHが3を超えると、鉄が適切にキレート樹脂から除去されない可能性がある。
【0047】
このようなイオン交換工程S12における処理により、不純物が除去されてスカンジウムが濃縮されたスカンジウム溶離液が得られる。このスカンジウム溶離液には、ウラン、トリウムも含有されている。なお、得られたスカンジウム溶離液に対して再びイオン交換工程S12を繰り返し行うことで、スカンジウム溶離液の濃度を高めることができる。数多く繰り返すほど、回収されるスカンジウムの濃度が高まるが、多く繰り返し過ぎても、回収されるスカンジウムの濃度の上昇の程度が小さくなるため、工業的には繰り返す回数としては8回以下程度であることが好ましい。
【0048】
<2−3.溶離液中和工程>
次に、イオン交換工程S12にて得られたスカンジウム溶離液に対して中和処理を施してスカンジウムの沈殿を生じさせて不純物を分離する(溶離液中和工程S13)。なお、ニッケル酸化鉱の湿式製錬処理により得られた硫化後液に対して直接中和処理を施してスカンジウムの沈殿を生じさせるようにしてもよい。
【0049】
溶離液中和工程S13において、スカンジウム溶離液、もしくは硫化後液を濃縮させてスカンジウムの沈殿物を生じさせる方法としては、水酸化中和処理を用いることができる。水酸化中和では、上述したイオン交換工程S12で得られたスカンジウム溶離液、もしくは硫化工程にて得られた硫化後液に対して中和剤を添加して、水酸化物の沈殿物を生成させて固液分離する。
【0050】
中和剤としては、特に限定されるものではなく従来公知のものを用いることができる。例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等を挙げることができるが、スカンジウム溶離液が硫酸溶液である場合、Ca分を含む中和剤では石膏が生成されるため、中和剤としては水酸化ナトリウム等を用いることが好ましい。
【0051】
中和剤を添加したときのpHとしては、8以上9以下であることが好ましい。pHが8未満であると、中和処理が不十分となりスカンジウムを水酸化物沈殿として十分に回収できない可能性がある。一方で、pHが9を超えると、中和剤の使用量が増加するためコスト増となってしまう。
【0052】
<2−4.塩酸溶解工程>
本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法においては、上述したように中和処理を施して得られた、スカンジウム、ウラン、及びトリウムを含有する水酸化物の沈殿物に対して塩酸溶液を添加して溶解し、塩酸酸性溶液を得る(塩酸溶解工程S14)。このように、本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法では、スカンジウムを含有する水酸化物を出発原料とすることで、その水酸化物沈殿を塩酸で溶解して塩酸酸性溶液を得る際に、塩酸酸性溶液中のスカンジウム濃度を高く設定することができ、処理液量の削減による設備規模の圧縮、薬剤コストの削減を図ることができる。なお、この塩酸溶解工程S14が、
図1のフロー図に示す塩酸溶解工程S1に相当する。
【0053】
塩酸溶解工程S14における水酸化物沈殿の溶解は、その沈殿物の溶解度付近で行うことが好ましい。沈殿物を溶解度付近で溶解することで、一度固体を析出させて任意の濃度に再溶解できるので、スカンジウム濃度を任意に選択することができ、次工程の溶媒抽出工程での液量、延いては設備規模を縮減できる点で工業的に極めて好ましい。
【0054】
また、上述のように水酸化物沈殿の溶解は、塩酸を用いて行い、その水酸化物沈殿を溶解させた塩酸酸性溶液を得る。このように塩酸により溶解して塩酸酸性溶液を得るようにすることで、得られた塩酸酸性溶液をそのまま次工程の溶媒抽出処理に付すようにすることができる。なお、溶解に用いる塩酸の濃度としては、特に限定されるものではなく、後述の溶媒抽出工程S15での溶媒抽出処理に適した濃度とすればよい。
【0055】
<2−5.溶媒抽出工程>
溶媒抽出工程S15では、スカンジウム、ウラン、及びトリウムを含有する水酸化物を塩酸により溶解することで得られた塩酸酸性溶液、すなわち、スカンジウムと不純物であるウラン及びトリウムとを含有する塩酸酸性溶液に対して、中性抽出剤を接触させて、不純物を抽出した有機溶媒とスカンジウムを含有する抽残液とを得る。なお、この溶媒抽出工程S15が、
図1のフロー図に示す溶媒抽出工程S2に相当する。
【0056】
溶媒抽出工程S15における態様は、特に限定されないが、例えば、塩酸酸性溶液と有機溶媒である中性抽出剤とを混合して抽出後有機溶媒と抽残液とに分離する抽出工程S501と、抽出後有機溶媒に酸性溶液を混合して抽出後有機溶媒に抽出された僅かなスカンジウムを水相に分離させて洗浄後液を得るスクラビング工程S502と、洗浄後有機溶媒に逆抽出剤を添加して洗浄後有機溶媒から不純物を逆抽出する逆抽出工程S503とを有する溶媒抽出処理を行うことが好ましい。
【0057】
[抽出工程]
抽出工程S501では、スカンジウム、ウラン、及びトリウムを含有する塩酸酸性溶液と、中性抽出剤を含む有機溶媒とを接触させて、有機溶媒中に不純物であるウランを選択的に抽出する抽出処理を行う。この抽出工程S501における抽出処理により、ウランを含有する有機溶媒と、抽残液とを得る。
【0058】
中性抽出剤としては、様々な種類が知られており特に限定されないが、例えばTBP(トリ−n−ブチルホスフェート)を用いることができる。中性抽出剤を用いた抽出処理に際しては、その抽出剤を炭化水素系の有機溶媒等で希釈して使用することが好ましい。例えば中性抽出剤として上述したTBPを使用する場合、粘性等の観点から、有機溶媒等により100倍に希釈、すなわち1体積%程度に希釈して用いることが好ましい。
【0059】
ここで、抽出処理においては、塩酸酸性溶液のpHを1.0以上2.5以下の範囲に調整して維持することが好ましい。抽出処理対象である塩酸酸性溶液のpHが1.0未満であると、溶液中の不純物であるウランの抽出がほとんど進まずに効果が著しく低下する可能性があるとともに、設備の腐食が促進される懸念がある。一方で、塩酸酸性溶液のpHが2.5を超えると、スカンジウムの水酸化物が生じてしまいクラッド発生の原因となることがあり、操業が困難になるおそれがある。なお、より好ましくは塩酸酸性溶液のpHを1.5以上2.0以下の範囲に維持することにより、より効率的に且つ効果的にウランを抽出することができる。
【0060】
また、抽出時における塩酸酸性溶液の塩化物濃度(T−Cl濃度)としては、2.0mol/L以上とすることが好ましい。また、塩化物濃度の上限値としては6.0mol/L以下とすることが好ましい。塩酸酸性溶液の塩化物濃度が6.0mol/Lを超えると、共存する鉄イオン等の塩化物が過飽和となって結晶が析出してしまい、クラッドを形成して操業を阻害するおそれがある。
【0061】
塩酸酸性溶液における塩化物濃度の調整には、塩化ナトリウムや塩化カリウム等のアルカリ金属の塩を用いることが好ましい。なお、例えば塩酸を用いて塩化物濃度を調整すると、塩酸酸性溶液のpHが上述した好ましい範囲を逸脱してウランの抽出効果が低減する可能性がある。
【0062】
抽出処理における温度としては、特に限定されない。温度は高い方が好ましいが、高過ぎると塩酸酸性溶液が揮発したり、引火等の危険もある。このことから、概ね40℃以上50℃以下の範囲に設定して行うことが好ましい。
【0063】
[スクラビング(洗浄)工程]
上述した抽出工程S501において、不純物であるトリウムを抽出させた有機溶媒中にスカンジウムが僅かに共存する場合には、抽出液を逆抽出する前に、その有機溶媒(有機相)に対してスクラビング(洗浄)処理を施し、スカンジウムを水相に分離させて抽出剤から回収することが好ましい(スクラビング工程S502)。
【0064】
このようにしてスクラビング工程S502を設けて有機溶媒を洗浄し、抽出剤により抽出された僅かなスカンジウムを分離させることによって、洗浄液中にスカンジウムを分離させることができ、スカンジウムの回収率をより一層に高めることができる。
【0065】
スクラビングに用いる溶液(洗浄溶液)としては、特に限定されず、例えば塩酸溶液や硫酸溶液を使用することができるが、スクラビングにより回収した洗浄液は抽出後の抽残液と共に精製してスカンジウムの回収に用いられるため、同じ液種である塩酸系の洗浄溶液を使用することが好ましい。また、水に可溶性の塩化物や硫酸塩を添加したものを使用することもできる。具体的に、洗浄溶液としては、1.0mol/l以上3.0mol/l以下の濃度範囲のものを使用することができる。
【0066】
洗浄段数(回数)としては、不純物元素の種類、濃度にも依存することからそれぞれの中性抽出剤や抽出条件によって適宜変更することができる。例えば、有機相(O)と水相(A)の相比O/A=1とした場合、3〜5段程度の段数とすることにより、有機溶媒中に抽出されたスカンジウムを分析装置の検出下限未満まで分離することができる。
【0067】
[逆抽出工程]
逆抽出工程S503では、不純物(ウラン)を抽出した有機溶媒から、そのウランを逆抽出する。具体的に、この逆抽出工程S503では、抽出剤を含む有機溶媒に逆抽出溶液(逆抽出始液)を添加して混合することによって、抽出工程S501における抽出処理とは逆の反応を生じさせてウランを逆抽出し、ウランを含む逆抽出後液を得る。
【0068】
上述したように、抽出工程S501での抽出処理においては、抽出剤としてTBP等の中性抽出剤を用いて不純物であるウランを選択的に抽出するようにしている。このことから、その不純物であるウランを抽出剤を含む有機溶媒から効率的に且つ効果的に分離させて、抽出剤を再生する観点から、逆抽出溶液としては、例えば純水を用いることができる。このように純水等の逆抽出溶液を水相として有機溶媒と混合することによって、有機溶媒中の抽出剤に抽出されたウランを水相中に逆抽出することができる。
【0069】
なお、上述したスクラビング工程S502にて抽出剤を含む有機溶媒に対してスクラビング処理を施した場合には、同様に、スクラビング後の抽出剤に対して逆抽出溶液を添加して混合することによって逆抽出処理を行うことができる。
【0070】
このようにして抽出後の抽出剤又はスクラビング後の抽出剤に対して純水等の逆抽出溶液を添加して逆抽出処理を行いウランを分離させた後の中性抽出剤は、再び、抽出工程S501における抽出処理に用いる抽出剤として繰り返して使用することができる。
【0071】
<2−6.シュウ酸塩化工程>
次に、シュウ酸塩化工程S16において、溶媒抽出工程S15における抽出工程S501にて得られたスカンジウムとトリウムとを含有する抽残液に、シュウ酸を添加してスカンジウムをシュウ酸スカンジウムの白色結晶として沈降させ、シュウ酸化後液と分離する。このシュウ酸塩化の処理において、抽残液中に含まれていたトリウムは、シュウ酸によっては沈殿を生成しない。そのため、抽残液に対してシュウ酸塩化処理を施すことによって、スカンジウムとトリウムとを効果的に分離することができる。なお、このシュウ酸塩化工程S16が、
図1のフロー図に示すスカンジウム回収工程S3に相当する。
【0072】
シュウ酸塩化工程S16においてシュウ酸の添加量としては、特に限定されないが、抽残液に含まれるスカンジウムをシュウ酸塩として析出させるのに必要な当量の、1倍以上2.5倍以下となる量で添加することが好ましく、1.05倍以上2.0倍以下となる量で添加することがより好ましい。その添加量が析出に必要な当量の1倍(1当量)未満であると、抽残液中のスカンジウムの全量を回収できない可能性がある。一方で、添加量が析出に必要な当量の2.5倍を超えると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が増加して、スカンジウムが再溶解して回収率が低下する可能性がある。また、過剰にシュウ酸を添加した場合には、残留したシュウ酸を分解するために次亜塩素ソーダ等の酸化剤を添加することが必要となり、コスト面等でも好ましくない。
【0073】
なお、スカンジウムをシュウ酸塩として析出させるのに必要な当量は、シュウ酸とスカンジウムとが以下の式(1)で反応してシュウ酸スカンジウムを生成する際のスカンジウムに対する量(倍数)として定義することができる。
Sc
2(SO
4)
3+3C
2O
4H
2・2H
2O
⇒ Sc
2(C
2O
4)
3+3H
2SO
4 ・・・(式1)
【0074】
また、シュウ酸塩化の処理における抽残液のpHとしては、特に限定されないが、0〜0.5の範囲とすることが好ましい。pHが0未満のように低すぎると、シュウ酸スカンジウムの溶解度が増加し、スカンジウム回収率が低下する可能性がある。一方で、pHが0.5を超えると、抽残液中のトリウムまでも沈殿物となり、スカンジウム純度が低下する原因となる可能性がある。
【0075】
なお、
図2中には示していないが、このシュウ酸塩化工程S16におけるシュウ酸塩化処理に先立ち、溶媒抽出工程S15にて得られたスカンジウムとトリウムとを含有する抽残液に対してさらに中和処理を施すことによってスカンジウムの沈殿物を生じさせ、不純物を除去するようにしてもよい。
【0076】
具体的には、溶媒抽出工程S15で得られた抽残液に対して水酸化ナトリウム等の中和剤を添加して、水酸化スカンジウムの沈殿物を生じさせる(抽残液中和処理)。次いで、得られた水酸化スカンジウムの沈殿物に塩酸溶液を添加して溶解してスカンジウム溶解液を得る(塩酸溶解処理)。このようにして得られたスカンジウム溶解液に対して、上述したシュウ酸塩化処理を施すようにすることができる。
【0077】
<2−6.焙焼工程>
シュウ酸塩化工程S16にて得られたシュウ酸スカンジウムの沈殿物については、水で洗浄し、乾燥して、焙焼することにより酸化スカンジウムとすることができる(焙焼工程S17)。このように、焙焼工程S17における焙焼処理を経ることで、スカンジウムを極めて高品位な酸化スカンジウムとして回収することができる。
【0078】
焙焼工程S17における焙焼処理の条件としては、特に限定されないが、例えば、乾燥後のシュウ酸スカンジウムの沈殿物を管状炉に入れて約900℃で2時間程度加熱すればよい。なお、工業的には、ロータリーキルン等の連続炉を用いることで、乾燥と焙焼とを同じ装置で行うことができるため好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]
ニッケル酸化鉱を公知の方法に基づき硫酸と共に加圧浸出装置に装入して加圧酸浸出し、得られた浸出液に中和剤を添加してpHを調整して不純物を除去した後、次いで硫化剤を添加してニッケルを分離して硫化後液を用意した。
【0081】
次に、得られた硫化後液を公知の方法によってキレート樹脂に通液してスカンジウムを吸着させ、次いで硫酸溶液を通液してキレート樹脂から溶離してスカンジウムを濃縮させた溶離液(スカンジウム溶離液)を得た。
【0082】
次に、このスカンジウム溶離液に水酸化ナトリウムを添加し、水酸化スカンジウムの沈殿物を得た。さらに、この水酸化スカンジウムの沈殿物に対して塩酸及び塩化ナトリウムを添加して溶解し、塩酸酸性溶液を得た。この塩酸酸性溶液に一部の成分を試薬で添加して、表1に示す組成の抽出始液をそれぞれ調製し、これらを始液A〜Hとした。
【0083】
【表1】
【0084】
実施例1として、表1のE〜Hに示す組成の抽出始液を、それぞれ21mlずつ分取し、これに中性抽出剤であるTBPを1体積%含んだ有機溶媒7mlを混合し、ビーカーに入れ室温状態で15分間撹拌して抽出処理を施した。撹拌終了後、静置して分液ロートを用いて抽出後有機溶媒(抽出剤)と抽残液とに分け、それぞれをICPにより分析した。
【0085】
ここで、抽出時における塩化物濃度(T-Cl)は、スカンジウム、アルミニウム、鉄、ウラン、トリウムのそれぞれの分析値と、塩酸酸性溶液中に存在すると考えられる形態から算出したCl量の合計と、調整時に添加した塩酸及び塩化ナトリウムに含有されたCl量から算出した。なお、表2にその抽出時における塩化物濃度を抽残液中の濃度(mol/l)として併せて示す。
【0086】
表2に、溶媒抽出処理により得られた抽残液の組成を示す。
【0087】
【表2】
【0088】
表2に示すように、本実施例1であるE〜Hの塩酸酸性溶液(抽出始液)を用いた溶媒抽出ではウランが効果的に抽出されたことが分かる。
【0089】
また、表3及び
図3に、上述した有機溶媒中のスカンジウム、ウラン、トリウムの物量を、抽出始液中のそれぞれの物量で除した割合(有機溶媒中物量/抽出始液中物量)の百分率を算出し、それを抽出率(%)として示した。
【0090】
【表3】
【0091】
表3及び
図3に示すように、塩酸酸性溶液中のT−Cl(塩化物濃度)が2.16mol/Lではウランの抽出率が62.1%となり、T-Clが2.37mol/Lではウランの抽出率は92%以上に達した。これらの抽出処理では、スカンジウムの抽出率が3%以下に抑制でき、溶媒抽出処理によりウランとスカンジウムとを効果的に分離できることが確認できた。
【0092】
続いて、表2に組成を示すHの抽残液(実施例1−4)に、中和剤として水酸化ナトリウムを添加してスカンジウムを含有する沈殿を生成させた。次に、この沈殿物に塩酸溶液を添加して完全に溶解し、表4に示す組成の溶解液(スカンジウム溶解液)を得た。
【0093】
【表4】
【0094】
次に、表4に示す塩酸により溶解させたスカンジウム溶解液に対し、その溶解液に含まれるスカンジウム量に対して下記式1で定義した1.5当量となる量のシュウ酸・2水和物(三菱ガス株式会社製)の結晶を添加して溶解させ、室温で60分間撹拌混合して反応させ、シュウ酸スカンジウムの白色の結晶性沈殿を生成させた。
【0095】
Sc
2(SO
4)
3+3C
2O
4H
2・2H
2O
⇒ Sc
2(C
2O
4)
3+3H
2SO
4 ・・・(式1)
【0096】
得られたシュウ酸スカンジウムの沈殿物を固液分離して取り出し、沈殿物中のトリウムとウランの含有量を分析した。表5に、その分析値を示す。
【0097】
【表5】
【0098】
表5に示すように、トリウムの含有量が70ppm、ウランの含有量が10ppmと非常に僅かな量にまで低減されたシュウ酸スカンジウムの沈殿物を生成させることができ、トリウム及びウランと、沈殿物となったスカンジウムとを効果的に分離することができた。
【0099】
[比較例1]
比較例1として、表1のA〜Dに示す組成の抽出始液を、実施例1と同様の方法で溶媒抽出に付した。具体的には、これら抽出始液を、実施例1と同様の条件で中性抽出剤であるTBPと混合し、常温で15分間かけて撹拌機で撹拌して抽出処理を施した。次いで、撹拌終了後、静置して分液ロートを用いて抽出後有機溶媒と抽残液とに分離し、それぞれをICPにより分析した。
【0100】
表6に、溶媒抽出処理により得られた抽残液の組成を示す。なお、表6中にその抽出時における塩化物濃度を抽残液中の濃度(mol/l)として併せて示す。また、表7及び
図3に、実施例1と同様にして算出した抽出率を示す。
【0101】
【表6】
【0102】
【表7】
【0103】
表6及び表7、並びに
図3に示すように、T−Cl濃度が2.0mol/L未満であるとウラン抽出率が30%以下と低くなることが分かった。なお、T−Cl濃度が2.0mol/Lではウラン抽出率が60%以上となり、さらにT−Cl濃度が2.5mol/Lを超えると、実施例1に示したようにウランを92%以上の割合で抽出することができて、スカンジウムと効果的に分離できることが確認された。
【0104】
なお、塩酸酸性溶液中におけるトリウムについては、溶媒抽出処理によりウランほど顕著に分離することはできなかったものの、実施例1にて示したように、抽残液に対するシュウ酸塩化処理を併せて行うことにより、スカンジウムを沈殿させてトリウムと効果的に分離できることが分かった。
【0105】
[比較例2]
比較例2として、実施例1にて用いた表1に組成を示すHと同組成の塩酸酸性溶液を用い、その塩酸酸性溶液に対して溶媒抽出処理を施さずに、直接シュウ酸を添加してシュウ酸塩化の処理を行った。シュウ酸塩化の処理条件は実施例1と同様とした。
【0106】
表8に、そのシュウ酸塩化処理により得られたシュウ酸スカンジウムの分析値を示す。なお、表8には、表5に示した実施例1におけるシュウ酸塩化処理により得られたシュウ酸スカンジウムの分析値と、比較例1(比較例1−3)における溶媒抽出後の抽残液を実施例1と同様の条件でシュウ酸塩化処理を行ったときのシュウ酸スカンジウムの分析値を併せて示す。
【0107】
【表8】
【0108】
表8に示すように、比較例2において、溶媒抽出処理を施さずに、スカンジウム、ウラン、トリウムを含有する塩酸酸性溶液に対して直接シュウ酸塩化処理を施した場合、得られたシュウ酸スカンジウム中のウラン品位は60ppmとなり、実施例1と比べて多くのウランが含まれることになった。なお、比較例1にて得られた溶媒抽出後の抽残液に対してシュウ酸塩化処理を施した場合においても、ウラン品位が50ppmとなった。
【0109】
[比較例3]
比較例3として、実施例1にて用いた表1に組成を示すHと同組成の塩酸酸性溶液を用い、その塩酸酸性溶液に対して溶媒抽出処理を施さず、直接水酸化ナトリウムを添加してスカンジウムを含有する水酸化物(水酸化スカンジウム)の沈殿を生成させた。その後、シュウ酸塩化処理も行わずに、そのまま得られた水酸化スカンジウムを分析した。表9に、その水酸化スカンジウムの分析値を示す。
【0110】
【表9】
【0111】
表9に示すように、比較例3において、水酸化スカンジウム中のトリウム品位は1000ppmとなった。実施例1にて得られたシュウ酸塩化後のシュウ酸スカンジウムの分析値と比べても明らかなように、溶媒抽出処理もシュウ酸塩化処理も行わないことにより、トリウム品位及びウラン品位も高くなり、スカンジウムと効率的に分離することができず、スカンジウムを効果的に精製することができないことが確認された。
【0112】
[比較例4]
比較例4として、実施例1にて用いた表1に組成を示すHと同組成の塩酸酸性溶液を用い、実施例1と同条件の溶媒抽出処理を施した後、得られた抽残液に水酸化ナトリウムを添加してスカンジウムを含有する水酸化物(水酸化スカンジウム)の沈殿を生成させた。その後、シュウ酸塩化処理は行わずに、そのまま得られた水酸化スカンジウムを分析した。表10に、その水酸化スカンジウムの分析値を示す。
【0113】
【表10】
【0114】
表10に示すように、比較例4において、水酸化スカンジウム中のトリウム品位は950ppmとなった。ウランに関しては、溶媒抽出処理を行ったことにより30ppmの品位まで低下させることができたものの、トリウムは溶媒抽出処理のみでは効果的に低減させることができず、シュウ酸塩化処理がトリウムの分離には必要であることが確認された。
【0115】
以上のように、実施例及び比較例の結果から、スカンジウム、ウラン、トリウムを含有する塩酸酸性溶液に対して中性抽出剤を用いた溶媒抽出を行うことでウランを効果的に分離でき、その後、得られた抽残液に対してシュウ酸塩化処理を施すことによってトリウムを効果的に分離できることが確認された。すなわち、スカンジウム、ウラン、トリウムを含有する塩酸酸性溶液に対して、溶媒抽出処理とシュウ酸塩化処理とを併せて用いることで、スカンジウムと、ウラン及びトリウムとを効果的に分離して、ウラン品位及びトリウム品位の低いスカンジウムを得ることができることが分かった。