特許第6206418号(P6206418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206418アルカリバリア層形成用コート液及び物品
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  • 特許6206418-アルカリバリア層形成用コート液及び物品 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206418
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】アルカリバリア層形成用コート液及び物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/00 20060101AFI20170925BHJP
   C03C 17/25 20060101ALI20170925BHJP
   C03C 17/34 20060101ALI20170925BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C09D183/00
   C03C17/25 A
   C03C17/34 Z
   C09D7/12
【請求項の数】14
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-557482(P2014-557482)
(86)(22)【出願日】2014年1月15日
(86)【国際出願番号】JP2014050579
(87)【国際公開番号】WO2014112526
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2016年7月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-4618(P2013-4618)
(32)【優先日】2013年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】大谷 義美
(72)【発明者】
【氏名】本谷 敏
(72)【発明者】
【氏名】高井 あずさ
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−055527(JP,A)
【文献】 特開昭64−033724(JP,A)
【文献】 特開平7−291659(JP,A)
【文献】 特開昭64−056341(JP,A)
【文献】 特開2006−143935(JP,A)
【文献】 特開2007−176738(JP,A)
【文献】 特開2003−226814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
C03C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン及びその加水分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種のマトリックス前駆体(A)と、鱗片状シリカ粒子(B)と、液体媒体(C)とを含有し、
前記マトリックス前駆体(A)と前記鱗片状シリカ粒子(B)との合計量に対する前記鱗片状シリカ粒子(B)の含有量(固形分量)の割合が5〜90質量%であることを特徴とするアルカリバリア層形成用コート液。
【請求項2】
前記アルコキシシランが、下記一般式で表される化合物である、請求項1に記載のアルカリバリア層形成用コート液。
SiX4−m
(mは2〜4の整数であり、Xはアルコキシ基であり、
Yは非加水分解性基である。)
【請求項3】
前記鱗片状シリカ粒子(B)の平均アスペクト比が50〜650、平均粒子径が0.08〜0.42μmである、請求項1又は2に記載のアルカリバリア層形成用コート液。
【請求項4】
前記鱗片状シリカ粒子(B)が、厚みが0.001〜0.1μmの薄片状のシリカ1次粒子、又は厚みが0.001〜3μmの、複数枚の薄片状のシリカ1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、重なって形成されるシリカ2次粒子である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルカリバリア層形成用コート液。
【請求項5】
前記鱗片状シリカ粒子(B)が、鱗片状シリカ粒子が凝集したシリカ凝集体を含むシリカ粉体を、pH2以下で酸処理する工程と、前記酸処理したシリカ粉体をpH8以上でアルカリ処理し、前記シリカ凝集体を解膠する工程と、前記アルカリ処理したシリカ粉体を湿式解砕する工程とを含む方法により製造されたものである、請求項3又は4に記載のアルカリバリア層形成用コート液。
【請求項6】
前記液体媒体(C)が、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、及び含硫黄化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルカリバリア層形成用コート液。
【請求項7】
マトリックス前駆体(A)の含有量は、固形分濃度(SiO換算)として、アルカリバリア層形成用コート液の総質量に対し、0.03〜6.3質量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルカリバリア層形成用コート液。
【請求項8】
マトリックス前駆体(A)と鱗片状シリカ粒子(B)の合計量は、固形分濃度(SiO換算)として、アルカリバリア層形成用コート液の総質量に対し、0.3〜7質量%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアルカリバリア層形成用コート液。
【請求項9】
ガラス基板と、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアルカリバリア層形成用コート液により前記ガラス基板の上に形成されたアルカリバリア層と、を有する物品。
【請求項10】
前記アルカリバリア層の膜厚が40〜200nmである請求項9に記載の物品。
【請求項11】
前記ガラス基板の厚さが15.0mm以下である、請求項9又は10に記載の物品。
【請求項12】
前記アルカリバリア層の上に、該アルカリバリア層とは異なる他の層をさらに有する、請求項9〜11のいずれか一項に記載の物品。
【請求項13】
前記他の層が低反射膜を含む、請求項12に記載の物品。
【請求項14】
前記アルカリバリア層の形成時又は形成後に、100〜700℃での焼成処理が施されてなる、請求項9〜13のいずれか一項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリバリア層形成用コート液、及びガラス基板の上にアルカリバリア層を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシシランを加水分解したゾルゲルシリカ液を基板上にコートし、乾燥すると、アルコキシシランの加水分解物の縮合により、シリカを主成分とする膜が形成される。ゾルゲルシリカ液に様々な機能性微粒子を添加したコート液が、当該コート液をコートした基板に様々な特性(例えば帯電防止機能や低反射機能)を付与するために用いられている。また、ゾルゲルシリカ液自体が、ガラス基板表面にアルカリバリア層を形成するためのコート液として用いられることもある。
たとえば太陽光発電モジュールでは、太陽電池の保護のために、太陽電池の前面や背面に、カバーガラスが配置されており、カバーガラスとしては、発電効率アップの為に、低反射膜(AR膜)をガラス基板の表面に設けたものを用いる事が多い。この場合、AR膜の耐久性向上のため、AR膜とガラス基板との界面にアルカリバリア層を設けることがある。当該アルカリバリア層の形成には、上述したゾルゲルシリカ液がメインのコート液として主に使用されている。また、AR膜の形成にも、機能性微粒子を添加したゾルゲルシリカ液が汎用されている。
【0003】
しかし、ゾルゲルシリカ液を基板にコートした場合、コート後の乾燥工程において膜が収縮し、これによって基板に反りの問題が発生することがある。該膜の収縮量は、コート膜厚が厚いほど、また膜の乾燥(焼成)温度が高いほど、大きくなる傾向がある。とりわけ、基板がガラス基板である場合、用途によっては、ガラス基板の強化のために高温(たとえば600〜700℃)で加熱することが行われるが、コート液のコート後に高温での加熱を行うと、膜収縮量がさらに大きくなり、ガラス基板の反りがさらに大きくなる。この為、強化条件が大きく制約を受けたり、反りによる製品歩留まり低下等の不具合が生じる。また、ガラス基板の反りは、ガラス基板の厚みが薄くなるほど生じやすく、反りの問題が、ガラス基板の軽量化、言い換えれば薄肉化の大きな障害となる。
上記の問題は、ゾルゲルシリカ液に機能性微粒子を添加した場合にも発生する。
【0004】
特許文献1には、ソーダ石灰シリカ系ガラス基板等の透明基板の少なくとも片面に形成した、Si−アルコキシドを前駆体とするシリカ及びコロイダルシリカからなるSiO系ベースマトリックス中に、着色性金属塩を前駆体とする着色金属酸化物を析出、分散させた着色被膜であって、Si−アルコキシドにおけるSi(Si−a)とコロイダルシリカにおけるSi(Si−c)の各Siモル比Si−a/Si−cと、前記Siの総モル数 T−Siと着色金属酸化物の金属の総モル数ΣMiとの金属モル比 ΣMi/T−Siをそれぞれ特定範囲内とした着色被膜が開示されている。また、その製造方法として、着色被膜形成用塗装液を基板に塗布、乾燥後、550℃以上で焼成するに際して、前記着色被膜形成用塗装液がSi−アルコキシドと、コロイダルシリカと、着色性金属塩と、溶媒とを含み、塗装液中の総Siモル濃度を特定範囲内に調整する方法が開示されている。特許文献1においては、上記構成により、焼成時の透明基板の反りの抑制ができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本特開2001−055527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゾルゲルシリカ液を用いてガラス基板上にアルカリバリア層を形成する場合、従来の技術では、ガラス基板の反りの抑制とアルカリバリア性とを両立することは難しい。たとえば、ゾルゲルシリカ液のみを用いた場合、形成される膜のアルカリバリア性は優れるが、ガラス基板の反りが大きい。
ゾルゲルシリカ液に、特許文献1のようにコロイダルシリカ等の微粒子を添加すると、ガラス基板の反りは生じにくくなるが、微粒子によって膜の緻密性が損なわれてアルカリバリア性が低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、ガラス基板の反りの抑制とアルカリバリア性とを両立できるアルカリバリア層形成用コート液、及び該コート液を用いて形成されたアルカリバリア層をガラス基板の上に有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ゾルゲルシリカ液に鱗片状シリカ粒子を添加することで、優れた反り抑制効果が得られ、しかも形成される膜のアルカリバリア性が、コロイダルシリカのような球状シリカ粒子を添加する場合とは異なり、アルカリバリア層として充分に機能し得るものであることを見出した。
本発明は、上記知見にもとづくものであり、以下の態様を有する。
【0009】
[1]アルコキシシラン及びその加水分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種のマトリックス前駆体(A)と、鱗片状シリカ粒子(B)と、液体媒体(C)とを含有し、
前記マトリックス前駆体(A)と前記鱗片状シリカ粒子(B)との合計量に対する前記鱗片状シリカ粒子(B)の含有量(固形分量)の割合が5〜90質量%であるアルカリバリア層形成用コート液。
[2]前記アルコキシシランが、下記一般式で表される化合物である、上記[1]に記載のアルカリバリア層形成用コート液。
SiX4−m
(mは2〜4の整数であり、Xはアルコキシ基であり、
Yは非加水分解性基である。)
[3]前記鱗片状シリカ粒子(B)の平均アスペクト比が50〜650、平均粒子径が0.08〜0.42μmである、上記[1]又は[2]に記載のアルカリバリア層形成用コート液。
[4]前記鱗片状シリカ粒子(B)が、厚みが0.001〜0.1μmの薄片状のシリカ1次粒子、又は厚みが0.001〜3μmの、複数枚の薄片状のシリカ1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、重なって形成されるシリカ2次粒子である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のアルカリバリア層形成用コート液。
[5]前記鱗片状シリカ粒子(B)が、鱗片状シリカ粒子が凝集したシリカ凝集体を含むシリカ粉体を、pH2以下で酸処理する工程と、前記酸処理したシリカ粉体をpH8以上でアルカリ処理し、前記シリカ凝集体を解膠する工程と、前記アルカリ処理したシリカ粉体を湿式解砕する工程とを含む方法により製造されたものである、上記[3]又は[4]に記載のアルカリバリア層形成用コート液。
[6]前記液体媒体(C)が、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、及び含硫黄化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のアルカリバリア層形成用コート液。
[7]マトリックス前駆体(A)の含有量は、固形分濃度(SiO換算)として、アルカリバリア層形成用コート液の総質量に対し、0.03〜6.3質量%である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のアルカリバリア層形成用コート液。
[8]マトリックス前駆体(A)と鱗片状シリカ粒子(B)の合計量は、固形分濃度(SiO換算)として、アルカリバリア層形成用コート液の総質量に対し、0.3〜7質量%である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のアルカリバリア層形成用コート液。
[9]ガラス基板と、上記[1]〜[8]のいずれかに記載のアルカリバリア層形成用コート液により前記ガラス基板の上に形成されたアルカリバリア層と、を有する物品。
[10]前記アルカリバリア層の膜厚が40〜200nmである上記[9]に記載の物品。
[11]前記ガラス基板の厚さが15.0mm以下である、上記[9]又は[10]に記載の物品。
[12]前記アルカリバリア層の上に、該アルカリバリア層とは異なる他の層をさらに有する、上記[9]〜[11]のいずれかに記載の物品。
[13]前記他の層が低反射膜を含む、上記[12]に記載の物品。
[14]前記アルカリバリア層の形成時又は形成後に、100〜700℃での焼成処理が施されている、上記[9]〜[13]のいずれかに記載の物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラス基板の反りの抑制とアルカリバリア性とを両立できるアルカリバリア層形成用コート液、及び該コート液を用いて形成されたアルカリバリア層をガラス基板の上に有する物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】[実施例]で用いた鱗片状シリカ粒子分散液(β)に含まれるシリカ凝集体(湿式解砕後)のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<アルカリバリア層形成用コート液>
本発明のアルカリバリア層形成用コート液(以下、単に「コート液」ともいう。)は、アルコキシシラン及びその加水分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種のマトリックス前駆体(A)(以下「(A)成分」ともいう。)と、鱗片状シリカ粒子(B)(以下「(B)成分」ともいう。)と、液体媒体(C)とを含有し、
(A)成分と(B)成分との合計量に対する(B)成分の含有量(固形分量)の割合が5〜90質量%である。
【0013】
[(A)成分]
アルコキシシランは、シラン(SiH)の水素原子が置換基で置換された化合物であって、該置換基の少なくとも1つがアルコキシ基である化合物である。アルコキシシランの加水分解物は、加水分解によりアルコキシシランのSiに結合したアルコキシ基がOH基となった構造の化合物である。アルコキシシランの加水分解物は、当該加水分解物同士が縮合して縮合物を形成し得る。
アルコキシシランとしては、アルカリバリア層の形成等に用いられている公知のものを用いることができ、たとえば、SiX4−m(mは2〜4の整数であり、Xはアルコキシ基であり、Yは非加水分解性基である。)で表される化合物が挙げられる。
Xのアルコキシ基としては、炭素数1〜4、より好ましくは、炭素数1〜3である。
mは3又は4であることが好ましい。
Yの非加水分解性基とは、加水分解によりSi−X基がSi−OH基となる条件下で構造が変化しない官能基である。非加水分解性基としては、特に限定されず、シランカップリング剤等における非加水分解性基として公知の基であってよい。
【0014】
アルコキシシランの具体例としては、テトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等)、アルキル基を有するアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン等)、アリール基を有するアルコキシシラン(フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等)、ペルフルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン(ペルフルオロポリエーテルトリエトキシシラン等)、ペルフルオロアルキル基を有するアルコキシシラン(パーフルオロエチルトリエトキシシラン等)、ビニル基を有するアルコキシシラン(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等)、エポキシ基を有するアルコキシシラン(2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等)、アクリロイルオキシ基を有するアルコキシシラン(3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等)等が挙げられる。アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシラン、アルキル基を有するアルコキシシランなどが好ましい。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0015】
アルコキシシランの加水分解は常法により実施できる。通常、アルコキシシランのSiに結合したアルコキシ基をすべて加水分解できる量の水(たとえばテトラアルコキシシランの場合、テトラアルコキシシランの4倍モル以上の水)及び触媒として酸又はアルカリを用いて行う。酸としては、HNO、HSO、HCl等の無機酸、ギ酸、しゅう酸、モノクロル酢酸、ジクロルム酢酸、トリクロル酢酸等の有機酸が挙げられる。酸としては硝酸、塩酸、シュウ酸などが好ましい。
アルカリとしては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。触媒としては、長期保存性の点から、酸が好ましい。
【0016】
コート液に含まれる(A)成分は1種でも2種以上でもよい。
コート液中の(A)成分の含有量は、コート液を塗布可能な範囲内であればよく、特に限定されないが、固形分濃度(SiO換算)が、コート液の総質量に対し、0.03〜6.3質量%であることが好ましく、0.05〜3.0質量%であることがより好ましい。(A)成分の固形分濃度が0.03質量%以上であると、アルカリバリア層を形成する際のコート液の使用量を少なくすることができる。(A)成分の固形分濃度が6.3質量%以下であると、形成されるアルカリバリア層の膜厚の均一性が向上する。
なお、(A)成分の固形分は、(A)成分の全てのSiがSiOに転化したときの量(SiO換算固形分)である。
【0017】
[(B)成分]
(B)成分は、鱗片状シリカ粒子である。
「鱗片状シリカ粒子」は、薄片状のシリカ1次粒子、又は複数枚の薄片状のシリカ1次粒子が、互いに面間が平行的に配向し重なって形成されるシリカ2次粒子である。このシリカ2次粒子は通常積層構造の粒子形態を有する。
粒子の形状は、透過型電子顕微鏡(以下「TEM」と称することがある。)を用いて確認することができる。
【0018】
前記シリカ1次粒子及び前記シリカ2次粒子の厚さに対する最小長さの比はそれぞれ、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が特に好ましい。
前記シリカ1次粒子の厚みは0.001〜0.1μmが好ましく、0.002〜0.1μmがより好ましい。このようなシリカ1次粒子は、互いに面間が平行的に配向して、1枚又は複数枚重なった鱗片状のシリカ2次粒子を形成することができる。
前記シリカ2次粒子の厚さは、0.001〜3μmが好ましく、0.005〜2μmがより好ましい。
前記シリカ2次粒子は、融着することなく互いに独立に存在していることが好ましい。
本発明のコート液に含まれる(B)成分は、前記シリカ1次粒子及び前記シリカ2次粒子のいずれか一方のみでも両方でもよい。
【0019】
(B)成分の平均アスペクト比は、50〜650が好ましく、100〜350がより好ましく、170〜240がさらに好ましい。本発明のコート液に含まれる(B)成分全体での平均アスペクト比が50以上であると、アルカリバリア性が良好であり、650以下であるとコート液の分散安定性が良好である。
本発明において「アスペクト比」は、粒子の厚みに対する最長長さの比(最長長さ/厚み)を意味し、「平均アスペクト比」は、無作為に選択された50個の粒子のアスペクト比の平均値である。粒子の厚みはAFM(原子間力顕微鏡)、最長長さは、TEMにより測定される。
【0020】
(B)成分の平均粒子径は、0.08〜0.42μmが好ましく、0.17〜0.21μmがより好ましい。本発明のコート液に含まれる(B)成分全体での平均粒子径が0.08μm以上であるとアルカリバリア性が良好であり、0.42μm以下であるとコート液の分散安定性が良好である。
本発明において「平均粒子径」は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定される値であって、体積平均値(D50)である。
【0021】
(B)成分のシリカ純度は、95.0質量%以上が好ましく、99.0質量%以上がより好ましい。
【0022】
本発明のコート液の調製には、複数の鱗片状シリカ粒子の集合体である粉体、又は該粉体を媒体に分散させた分散体が用いられる。シリカ分散体中のシリカ濃度は、1〜80質量%が好ましく、4〜40質量%がより好ましい。
この粉体又は分散体には、鱗片状シリカ粒子だけでなく、鱗片状シリカ粒子の製造時に発生する不定形シリカ粒子が含まれることがある。
鱗片状シリカ粒子は、たとえば鱗片状シリカ粒子が凝集したシリカ凝集体を解砕・分散化することにより得られる。
不定形シリカ粒子は、シリカ凝集体がある程度微粒化された状態であるが、個々の鱗片状シリカ粒子まで微粒化されていない状態のものであり、複数の鱗片状シリカ粒子が塊を形成する形状である。不定形シリカ粒子を含むと、形成される膜の緻密性が低下してアルカリバリア性が損なわれるおそれがある。そのため、粉体又は分散体における不定形シリカ粒子の含有量は、少ないほど好ましい。
不定形シリカ粒子及びシリカ凝集体は、いずれも、TEM観察において黒色状に観察される。一方、薄片状のシリカ1次粒子又はシリカ2次粒子は、TEM観察において透明ないし半透明状に観察される。
【0023】
(B)成分は、市販のものを用いてもよく、製造したものを用いてもよい。
(B)成分は、後述する製造方法(P)により製造されたものであることが好ましい。製造方法(P)によれば、公知の製造方法(たとえば、日本特許第4063464号公報に記載の方法)に比べて、製造工程での不定形シリカ粒子の発生が抑制され、不定形シリカ粒子の含有量の少ない粉体又は分散体を得ることができる。
【0024】
本発明のコート液中の(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分との合計量に対する(B)成分の含有量(固形分量)の割合が5〜90質量%となる量である。該割合は、10〜80質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましい。(A)成分と(B)成分との合計量に対する(B)成分の割合が5質量%以上であると、ガラス基板の反り防止効果が充分に発揮され、90質量%以下であると、当該コート液により形成される膜が、アルカリバリア層として機能するのに充分なアルカリバリア性を発現する。
(B)成分の含有量は、赤外水分計により測定できる。
【0025】
本発明のコート液中の(A)成分と(B)成分との合計量は、コート液が塗布可能な範囲であれば特に制限されないが、固形分濃度として、コート液の総質量に対し、0.3〜7質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましい。該固形分濃度が0.3質量%以上であれば、用いるコート液量を少なくでき、7質量%以下であれば、形成されるアルカリバリア層の膜厚の均一性が向上する。
【0026】
(鱗片状シリカ粒子の製造方法(P))
製造方法(P)は、鱗片状シリカ粒子が凝集したシリカ凝集体を含むシリカ粉体を、pH2以下で酸処理する工程と、前記酸処理したシリカ粉体をpH8以上でアルカリ処理し、前記シリカ凝集体を解膠する工程と、前記アルカリ処理したシリカ粉体を湿式解砕し、鱗片状シリカ粒子を得る工程とを含む。
【0027】
ここで、鱗片状シリカ粒子が凝集したシリカ凝集体とは、個々の鱗片状シリカ粒子が凝集して不規則に重なり合って形成される間隙を有する凝集体形状のシリカ3次粒子である。
不定形シリカ粒子は、シリカ凝集体がある程度解砕されているが、個々の鱗片状シリカ粒子まで解砕されていない状態であり、複数の鱗片状シリカ粒子が塊を形成する形状である。
【0028】
鱗片状シリカ粒子が凝集したシリカ凝集体としては、いわゆる層状ポリケイ酸及び/又はその塩を用いることができる。ここで、層状ポリケイ酸としては、基本構成単位がSiO四面体からなるシリケート層構造のポリケイ酸である。
層状ポリケイ酸及び/又はその塩としては、例えばシリカ−X(SiO−X)、シリカ−Y(SiO−Y)、ケニアアイト、マガディアイト、マカタイト、アイラアイト、カネマイト、オクトシリケート等を挙げることができる。これらの中でもシリカ−X及びシリカ−Yが好ましい。
【0029】
シリカ−X及びシリカ−Yは、シリカ原料を水熱処理して、クリストバライトや石英(クオーツ)を形成させる過程で生じる、中間的な又は準安定な相であり、シリカの準結晶質ともいうべき微弱な結晶相である。
シリカ−X及びシリカ−Yは、X線回折パタ−ンは異なるが、電子顕微鏡で観察される粒子外観は極似しており、いずれも鱗片状シリカ粒子を得るために好ましく使用することができる。
【0030】
シリカ−XのX線回折のスペクトルは、米国のASTM(American Society for Testing and Materials)に登録されているカード(以下、単にASTMカードと称する。)番号16−0380に該当する2θ=4.9°、26.0°、及び28.3°の主ピークを特徴とする。
シリカ−YのX線回折のスペクトルは、ASTMカード番号31−1233に該当する2θ=5.6°、25.8°及び28.3°の主ピークを特徴とする。
シリカ凝集体のX線回折のスペクトルとしては、これらのシリカ−X及び/又はシリカ−Yの主ピークを特徴とするものが好ましい。
【0031】
「シリカ粉体の形成」
シリカ粉体の形成方法の一例としては、シリカヒドロゲル、シリカゾル及び含水ケイ酸からなる群から選ばれる1種以上をアルカリ金属塩の存在下に水熱処理し、鱗片状シリカ粒子が凝集した凝集体を含むシリカ粉体を形成する方法がある。なお、シリカ粉体は、この方法に限定されず任意の方法で形成されたものも含む。
【0032】
出発原料としてシリカヒドロゲルを使用する場合は、シリカ凝集体としてシリカ−X、シリカ−Y等をより低温度・短時間の反応で、クオーツ等の結晶を生成させることなく、しかも収率高く形成することができる。
シリカヒドロゲルは、粒子状シリカヒドロゲルが好ましく、その粒子形状は、球状でも不定形粒状でもよく、また、その造粒方法は適宜選択できる。
【0033】
例えば、球状のシリカヒドロゲルの場合では、シリカヒドロゾルを石油類その他の媒体中で、球形状に固化せしめて生成することもできるが、ケイ酸アルカリ金属水溶液と鉱酸水溶液を混合して、シリカゾルを短時間で生成させるとともに、気体媒体中に放出し、気体中でゲル化させる方法により製造されることが好ましい。鉱酸水溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸等、好ましくは硫酸を挙げることができる。
すなわち、ケイ酸アルカリ金属水溶液と鉱酸水溶液とを、放出口を備えた容器内に別個の導入口から導入して瞬間的に均一混合し、SiO濃度換算で130g/L以上、pH7〜9であるシリカゾルを生成せしめ、これを、上記放出口から、空気等の気体媒体中に放出させ、空中でゲル化させる。得られたゲルを、水を張った熟成槽に落下せしめて、数分〜数十分熟成させ、酸(硫酸、塩酸、硝酸等)を添加し、その後、水洗して球状のシリカヒドロゲルとする。
このシリカヒドロゲルは、粒径がよく揃った平均粒子径2〜10mm程度の透明で弾力性を有する球状粒子であり、SiOに対して重量比で約4倍もの水を含有している場合もある。シリカヒドロゲル中のSiO濃度は、15〜75質量%が好ましい。
【0034】
シリカゾルを出発原料とする場合は、シリカ及びアルカリ金属を特定量含むシリカゾルを使用することが好ましい。
シリカゾルとしては、シリカ/アルカリ金属のモル比(SiO/MeO、ここでMeは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、又はカリウム(K)のアルカリ金属を示す。以下、同じ。)が1.0〜3.4※原料のシリカゾルの比ですのでこれで正しいです。これを脱アルカリして下の比になります。であるケイ酸アルカリ金属水溶液を、イオン交換樹脂法、電気透析法等によって脱アルカリしたシリカゾルが好適に使用される。なお、ケイ酸アルカリ金属水溶液としては、例えば、水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)を適宜水で希釈したもの等が好ましい。
シリカゾルのシリカ/アルカリ金属のモル比(SiO/MeO)は、3.5〜20の範囲が好ましく、4.5〜18の範囲がより好ましい。また、シリカゾル中のSiO濃度は、2〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。
シリカゾル中のシリカの平均粒子径は1〜100nmが好ましい。平均粒子径が100nm超であると、シリカゾルの安定性が低下するので好ましくない。シリカゾルの中でも活性ケイ酸と称される平均粒子径1〜20nm以下のものが特に好ましい。
【0035】
含水ケイ酸を出発原料として使用する場合、シリカゾルと同様の方法でシリカ凝集体を含むシリカ粉体を形成することができる。
【0036】
上記したシリカヒドロゲル、シリカゾル、含水ケイ酸又はこれらの組み合わせであるシリカ源を、アルカリ金属塩の存在下に、オートクレーブ等の加熱圧力容器中で加熱して水熱処理を行うことで、シリカ凝集体を含むシリカ粉体を形成することができる。
なお、シリカ源を水熱処理するため、オートクレーブに仕込むに先立って、さらに蒸留水やイオン交換水等の精製水を加えることにより、シリカ濃度を所望の範囲に調整することもできる。
球状シリカヒドロゲルを使用する場合は、そのまま使用してもよいが、粉砕又は粗粉砕して、粒径0.1〜6mm程度としてもよい。
【0037】
オートクレーブとしては、特にその形式を限定するものではないが、少なくとも加熱手段と撹拌手段、さらに、好ましくは、温度測定手段を備えたものであればよい。
オートクレーブ内の処理液中の総シリカ濃度は、撹拌効率、結晶成長速度、収率等を考慮して選択されるが、通常、全仕込み原料基準でSiOとして1〜30質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。
ここで、処理液中の総シリカ濃度としては、系内の総シリカ濃度を意味し、シリカ源中のシリカのみでなく、アルカリ金属塩としてケイ酸ナトリウム等を使用した場合は、ケイ酸ナトリウム等により系に持ち込まれるシリカをも加えた値である。
【0038】
水熱処理においては、シリカ源にアルカリ金属塩を共存させることで、処理液のpHをアルカリ側に調節し、シリカ溶解度を適度に大きくし、所謂Ostwaldの熟成に基づく晶析速度を高め、シリカヒドロゲルのシリカ−X及び/又はシリカ−Yへの変換を促進させることできる。
アルカリ金属塩としては、水酸化アルカリ金属、ケイ酸アルカリ金属、炭酸アルカリ金属、又はこれらの組み合わせを挙げることができ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
アルカリ金属としては、Li、Na、K、又はこれらの組み合わせを挙げることができ、Na、Kが好ましい。
系のpHとしては、pH7以上が好ましく、pH8〜13がより好ましく、pH9〜12.5がさらに好ましい。
アルカリ金属とシリカとの合計量に対する好ましいアルカリ金属の量を、シリカ/アルカリ金属のモル比(SiO/MeO)で表示すれば、4〜15の範囲であることが好ましく、7〜13の範囲がより好ましい。
【0039】
シリカゾル及び含水ケイ酸の水熱処理は、反応速度を大きく、かつ、結晶化の進行を小さくするため、150〜250℃の範囲で行われることが好ましく、170〜220℃の範囲で行われることがより好ましい。
また、シリカヒドロゾル及び含水ケイ酸の水熱処理の時間は、水熱処理の温度や種晶の添加の有無等により変わりうるが、通常、3〜50時間が好ましく、3〜40時間がより好ましく、5〜25時間がさらに好ましい。
【0040】
シリカヒドロゲルの水熱処理は、150〜220℃の温度範囲で行われることが好ましく、160〜200℃がより好ましく、170〜195℃がさらに好ましい。
また、必要な水熱処理の時間は、シリカヒドロゲルの水熱処理の温度や種晶の添加の有無等により変わりうるが、通常、3〜50時間が好ましく、5〜40時間がより好ましく、5〜25時間程度がさらに好ましく、5〜12時間程度が一層好ましい。
【0041】
なお、水熱処理を効率よく進め、処理時間を短くするためには、その添加は必須ではないが、シリカ源の仕込み量に対して、0.001〜1質量%程度の種晶を添加するとより好ましい。種晶としては、シリカ−Xやシリカ−Y等をそのまま、又は適宜粉砕して使用することができる。
【0042】
水熱処理終了後、生成物をオートクレーブより取り出し、濾過し、水洗する。水洗処理後の粒子は、10質量%の水スラリーとした際に、pH5〜9であることが好ましく、pH6〜8であることがより好ましい。
【0043】
「シリカ粉体」
上記のようにして形成されたシリカ粉体には、鱗片状シリカ粒子が凝集したシリカ凝集体が含まれる。このシリカ凝集体は、個々の鱗片状シリカ粒子が凝集して不規則に重なり合って形成される間隙を有する凝集体形状のシリカ3次粒子である。これは、該シリカ粉体を走査型電子顕微鏡(以下「SEM」と称することがある。)を用いて確認することができる。
【0044】
なお、SEMでは、薄片状のシリカ1次粒子は識別できず、シリカ1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、複数枚重なって形成される鱗片状のシリカ2次粒子を識別することができる。
一方、TEMでは、電子線が一部透過するような極薄片粒子であるシリカ1次粒子を識別することができる。また、このシリカ1次粒子が互いに面間が平行的に配向し、複数枚重なって形成されてシリカ2次粒子を形成することを識別することができる。このシリカ1次粒子及びシリカ2次粒子が鱗片状シリカ粒子である。
【0045】
鱗片状のシリカ2次粒子から、その構成単位である薄片状のシリカ1次粒子を1枚ずつ剥離し、単離することは難しいとされている。すなわち、薄片状のシリカ1次粒子の層状の重なりにおいて、各層間の結合は強固であって融合一体化しており、従って鱗片状のシリカ2次粒子は、それ以上シリカ1次粒子に解砕することは難しいとされている。本製造方法(P)によれば、シリカ凝集体から、鱗片状のシリカ2次粒子まで微細化することができ、さらに薄片状のシリカ1次粒子まで微細化することも可能である。
【0046】
上記形成されたシリカ粉体の平均粒子径としては、7〜25μmであることが好ましく、7〜11μmであることがより好ましい。
【0047】
「酸処理」
次に、上記のようにして得た、鱗片状シリカ粒子が凝集したシリカ凝集体を含むシリカ粉体をpH2以下、好ましくはpH1.5〜2で酸処理する。
これによって、後工程のアルカリ処理においてシリカ凝集体の解膠を促進することができ、湿式解砕工程後に不定形粒子の発生を防ぐことができる。
また、酸処理を行うことで、シリカ粉体に含まれるアルカリ金属塩を除去することができる。シリカ粉体が水熱処理によって形成されたものである場合、水熱処理においてアルカリ金属塩が添加されているため、これを除去することができる。
【0048】
酸処理のpHは2以下であればよく、好ましくは1.9以下である。あらかじめ低いpHで酸処理しておくことで、後工程のアルカリ処理及び湿式解砕工程においてシリカ凝集体をより解膠及び解砕しやすくすることができる。
酸処理としては、特に制限されないが、シリカ粉体を含む分散体(スラリー状の分散体も含む。以下同じ。)に、系のpHが2以下になるように酸性液を添加して、任意で攪拌しながら処理することができる。酸処理は、特に制限されないが、処理を十分に行うために、室温下、8時間以上、好ましくは9〜16時間で行うとよい。
酸性液としては、硫酸、塩酸、硝酸等の水溶液、好ましくは硫酸の水溶液を用いることができる。これらの濃度は、1〜37質量%、好ましくは15〜25質量%で調整することができる。
シリカ分散体中のシリカ濃度は、5〜15質量%であることが好ましく、10〜15質量%がより好ましい。また、シリカ分散体のpHは、10〜12であることが好ましい。
シリカ分散体と酸性液との配合割合については、pH2以下となるように調整すればよく、特に制限されない。
【0049】
シリカ分散体は酸処理後、洗浄することが好ましい。これによって、水熱処理で混入したアルカリ金属塩が酸処理によって中和された生成物を、除去することができる。
洗浄方法としては、特に制限されず、濾過洗浄、遠心洗浄等を用いて水洗することが好ましい。
洗浄後のシリカ分散体には、水を添加又は濃縮して、固形分量を調整することができる。また、濾過洗浄などでシリカケーキとして回収される場合は、水を添加して分散体とすることができる。また、洗浄後のシリカ分散体のpHとしては4〜6であることが好ましい。
【0050】
「アルミン酸処理」
酸処理後のシリカ粉体に対し、任意に、アルミン酸処理を施してもよい。
これによって、シリカ粉体中のシリカ粒子の表面に、アルミニウム(Al)を導入させて、負に帯電させるように表面改質をすることができる。この負に帯電したシリカ粉体は、酸性媒体に対する分散性を高めることができる。
【0051】
アルミン酸処理としては、特に制限されないが、シリカ粉体を含む分散体にアルミン酸塩の水溶液を添加して、任意で攪拌して混合し、その後、加熱処理してシリカ粒子表面にAlを導入することができる。
混合は、0.5〜2時間、好ましくは0.8〜1.2時間で、10〜30℃、好ましくは20〜35℃の範囲で行うとよい。
加熱は、加熱還流条件で行うことが好ましく、4時間以上、好ましくは4〜8時間で、80〜110℃、好ましくは90〜105℃の範囲で行うとよい。
【0052】
アルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。好ましくはアルミン酸ナトリウムである。
アルミン酸塩の使用量は、シリカ紛体の換算量SiO換算量に対するアルミン酸塩のAl換算量のモル比として、0.00040〜0.00160の範囲内、好ましくは0.00060〜0.00100で調整するとよい。
アルミン酸塩の水溶液としては、濃度が1〜3質量%で調整するとよい。アルミン酸塩の水溶液は、シリカ分散体中のSiO100質量部に対し、5.8〜80.0質量部、好ましくは15〜25質量部で添加することができる。
シリカ分散体中のシリカ濃度は、5〜20質量%であることが好ましく、10〜15質量%がより好ましい。また、シリカ分散体のpHは、6〜8であることが好まし。
【0053】
アルミン酸処理後のシリカ分散体には、水を添加又は濃縮して、固形分量を調整することができる。
アルミン酸処理後のシリカ分散体のpHとしては6〜8であることが好ましい。
【0054】
「アルカリ処理」
次に、上記酸処理し、必要に応じてアルミン酸処理した後のシリカ粉体を、pH8以上、好ましくは9〜11でアルカリ処理し、シリカ凝集体を解膠する。
これによって、シリカ凝集体の強固な結合を解膠して、個々の鱗片状シリカ粒子の形態に近づけることができる。
【0055】
ここで、シリカ凝集体を解膠することは、シリカ凝集体に電荷を与え、個々のシリカ粒子を媒体中に分散させることを意味する。
アルカリ処理によって、シリカ粉体に含まれるシリカ粒子のほぼ全量が、個々の鱗片状シリカ粒子に解膠されてもよく、その一部のみが解膠されて凝集体が残っていてもよい。また、シリカ分散体に含まれるシリカ凝集体は、すべての部分が個々の鱗片状シリカ粒子に解膠されてもよく、その一部分のみが解膠されて凝集体部分が残っていてもよい。残った凝集体は、後工程の湿式解砕工程で、個々の鱗片状シリカ粒子に解砕することが可能である。
【0056】
アルカリ処理のpHは8以上であればよく、より好ましくは8.5以上であり、一層好ましくは9以上である。これによって、シリカ粉体に含まれるシリカ凝集体の解膠を促進することができる。また、アルカリ処理後にシリカ凝集体が残ったとしても、シリカ凝集体のシリカ粒子の結合を弱めることができ、後工程の湿式解砕工程において個々のシリカ粒子に解砕しやすくすることができる。
【0057】
アルカリ処理としては、特に制限されないが、シリカ粉体を含む分散体に、pHが8以上になるようにアルカリ性液を添加して、任意で攪拌しながら処理することができる。アルカリ性液の代わりにアルカリ金属塩及び水を別々に添加してもよい。
アルカリ処理は、10〜50℃の範囲で1〜48時間、好ましくは2〜24時間行うとよい。
【0058】
アルカリ金属塩としては、Li、Na、K等のアルカリ金属の水酸化物又は炭酸塩、若しくはこれらの組み合わせを挙げることができ、好ましくはK、Na、Liである。
アルカリ性液としては、Li、Na、K等のアルカリ金属塩を含む水溶液を用いることができる。また、アルカリ性液としてアンモニア水(NHOH)を用いてもよい。これらの中で好ましくは水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムである。
【0059】
シリカを含む分散体に添加された状態で、アルカリ金属塩の濃度((アルカリ金属塩の質量)/(シリカ分散体中の水分とアルカリ金属塩の合計質量))は、0.01〜28質量%で調整することができ、より好ましくは0.04〜5質量%であり、さらに好ましくは0.1〜2.5質量%である。
アルカリ金属塩は、シリカ分散体中のシリカ1gに対し0.4〜2.5mmolで調整すればよく、0.5〜2mmolであることがより好ましい。
シリカ分散体中のシリカ濃度は、3〜7質量%であることが好ましく、10〜16質量%がより好ましい。また、シリカ分散体のpHは、8〜11であることが好ましく、9〜11がより好ましい。
シリカ分散体とアルカリ性液との配合割合については、pH8以上となるように調整すればよく、特に制限されない。
【0060】
アルカリ処理後のシリカ分散体に含まれるシリカ粉体の平均粒子径としては、3〜10μmであることが好ましく、4〜8.5μmであることがより好ましい。
アルカリ処理後のシリカ分散体には、水を添加又は濃縮して、固形分量を調整することができる。また、アルカリ処理後のシリカ分散体のpHとしては8.0〜12.5であることが好ましく、9〜11がより好ましい。
【0061】
「湿式解砕」
次に、上記アルカリ処理したシリカ粉体を湿式解砕し、鱗片状シリカ粒子を得る。
ここで、アルカリ処理したシリカ粉体には、シリカ凝集体が解膠されて、一部残存したシリカ凝集体とともに、シリカ凝集体がある程度微粒化された状態でシリカ粒子が含まれる。これを湿式解砕することで、これらのシリカ粒子をさらに解砕して、個々の鱗片状シリカ粒子を得ることができる。あらかじめ、アルカリ処理しておくことで、湿式解砕においてシリカ粒子の解砕を促進することができる。そのため、シリカ粒子が十分に解砕されずに不定形粒子として残ることを防ぐことができる。
【0062】
湿式解砕するための装置としては、粉砕媒体を使用して機械的に高速撹拌する方式の、湿式ビーズミル、湿式ボールミル、薄膜旋回型高速ミキサー、衝撃粉砕装置(ナノマイザ等)等の湿式粉砕装置(解砕装置)を用いることができる。特に、湿式ビーズミルに直径0.2〜1mmのアルミナ又はジルコニアの媒体ビーズを使用すると、鱗片状シリカ粒子の基本的な積層構造を極力粉砕・破壊しないように、解砕・分散化することができるため好ましい。また、衝撃粉砕装置は、80〜1000μmの細い管に、粉体を含む分散体を、圧力をかけて投入して、分散体中の粒子同士を衝突させて分散させるものであり、粒子をより微細に解砕することができる。
【0063】
湿式粉砕するシリカ粉体は、蒸留水やイオン交換水等の精製水で分散体として、適当な濃度にして湿式粉砕装置に供給することが好ましい。
分散体濃度は0.1〜20質量%が好ましい。解砕効率や粘度上昇による作業効率を考慮すると0.1〜15質量%がより好ましい。
【0064】
「カチオン交換処理」
湿式解砕後のシリカ粉体は、任意にカチオン交換処理をしてもよい。
これによって、シリカ粉体に含まれるカチオン、特に金属イオンを除去することができる。
【0065】
カチオン交換処理としては、特に制限されないが、シリカ粉体を含むシリカ分散体にカチオン交換樹脂を添加して、任意で攪拌しながら処理することができる。カチオン交換処理は、0.5〜24時間、好ましくは3〜12時間で、10〜50℃、好ましくは20〜35℃の範囲で行うとよい。
カチオン交換樹脂の樹脂母体としては、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン等のスチレン系、(メタ)アクリル酸系等を挙げることができる。また、カチオン交換樹脂としては、水素型(H型)カチオン交換樹脂が好ましく、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基等を有するカチオン交換樹脂を挙げることができる。
カチオン交換樹脂は、シリカ分散体中のSiO100質量部に対し、3〜20質量部で添加することができる。
シリカ分散体中のシリカ濃度は、3〜20質量%であることが好ましく、10〜20質量%がより好ましい。
シリカ分散体のpHは、4以下であることが好ましく、2.0〜3.5がより好ましい。
【0066】
上記のようにして、鱗片状シリカ粒子を得ることができる。
鱗片状シリカ粒子は、粉体の状態で本発明のコート液の調製に用いてもよく、媒体に分散させ分散体として、本発明のコート液の調製に用いてもよい。
鱗片状シリカ粒子を含む分散体としては、上記した湿式解砕後に、任意にカチオン交換処理をした後、そのままの状態で、又は、水分を濃縮又は希釈したものを使用することができる。また、このような分散体の水分を除去して、有機溶剤を添加して使用してもよい。有機溶剤としては、たとえば後述する液体媒体(C)で挙げる有機溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン、灯油、軽油等を挙げることができる。
【0067】
[液体媒体(C)]
液体媒体(C)は、(B)成分を分散する液体である。液体媒体(C)は、(A)成分を溶解する溶媒であってもよい。
液体媒体(C)としては、たとえば、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。
アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
エーテル類としては、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
セロソルブ類としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等が挙げられる。
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。
グリコールエーテル類としては、エチレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。
含窒素化合物としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
含硫黄化合物としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
液体媒体(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
(A)成分におけるアルコキシシランの加水分解に水が必要となるため、アルコキシシランの加水分解後に液体媒体の置換を行わない限り、液体媒体(C)には少なくとも水が含まれる。
液体媒体(C)は、水と他の液体との混合液であってもよい。該他の液体としては、たとえば、前述したアルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。
該他の液体のうち、(A)成分の溶媒としては、アルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールが特に好ましい。
液体媒体(C)の含有量は、アルカリバリア層形成用コート液の全量(100質量%)に対して、93〜99.7質量%、好ましくは95〜99.5質量%である。
【0069】
[任意成分]
本発明のコート液は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)成分及び(B)成分以外の他の成分をさらに含有してもよい。
該他の成分としては、たとえば、紫外線吸収剤、赤外線反射/赤外線吸収剤、反射防止剤、他の機能性粒子、レベリング性向上のための界面活性剤、耐久性向上のための金属化合物等が挙げられる。
【0070】
紫外線吸収剤としては、ZnO、TiO等が挙げられる。
赤外線反射/赤外線吸収剤としては、TiO、Sb含有SnO(ATO)、Sn含有In(ITO)等が挙げられる。
【0071】
他の機能性粒子としては、たとえば、(B)成分以外の金属酸化物粒子、金属粒子、顔料系粒子、樹脂粒子等が挙げられる。
(B)成分以外の金属酸化物粒子の材料としては、Al、SiO、SnO、TiO、ZrO、ZnO、CeO、Sb含有SnO(ATO)、Sn含有In(ITO)、RuO等が挙げられる。
金属粒子の材料としては、金属(Ag、Ru等)、合金(AgPd、RuAu等)等が挙げられる。
顔料粒子としては、無機顔料(チタンブラック、カーボンブラック等)、有機顔料等が挙げられる。
樹脂粒子の材料としては、ポリアクリル、ポリスチレン、メラニン樹脂等が挙げられる。
【0072】
機能性粒子の形状としては、球状、楕円状、針状、板状、棒状、円すい状、円柱状、立方体状、長方体状、ダイヤモンド状、星状、三角すい状、花びら状、不定形状等が挙げられる。
機能性粒子は、中実粒子でもよく、中空状又は穴あき状粒子であってもよい。
機能性粒子は、各粒子が独立した状態で存在していてもよく、各粒子が鎖状に連結していてもよく、各粒子が凝集していてもよい。
機能性粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
レベリング性向上のための界面活性剤としては、シリコーンオイル系界面活性剤、アクリル系界面活性剤等が挙げられる。
耐久性向上のための金属化合物としては、ジルコニウムキレート化合物、チタンキレート化合物、アルミニウムキレート化合物が好ましい。
ジルコニウムキレート化合物としては、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムトリブトキシステアレート等が挙げられる。
チタンキレート化合物としては、チタンテトラアセチルアセトナート等が挙げられる。
アルミニウムキレート化合物としては、アルミニウムテトラアセチルアセトナート等が挙げられる。
これら任意成分のコート液中の含有量は、コート液の塗布性、必要な機能等を考慮して適宜設定できる。
【0074】
本発明のコート液は、たとえば、(A)成分の溶液と、(B)成分の分散液と、必要に応じて追加の液体溶媒、任意成分等とを混合することにより調製される。
【0075】
[作用効果]
本発明のコート液は、ガラス基板の上にアルカリバリア層を形成するために用いられる。詳しくは後で説明するが、本発明のコート液をガラス基板の上に塗布し、乾燥することで、(A)成分に由来するマトリックス(アルコキシシランの加水分解物の縮合物)中に(B)成分が分散した膜が形成される。
該膜は、本発明のコート液が(A)成分とともに、(B)成分を所定の割合で含有していることにより、乾燥、焼成時の膜の収縮が抑制されており、該収縮によるガラス基板の反りを抑制できる。たとえば、コート液の塗布後、ガラス基板の強化等の目的で、600℃以上の高温での焼成を行ったとしても、また、ガラス基板として厚さ15.0mm以下、さらには0.7mm以下であるような薄いものを用いた場合でも、反り量を、充分に許容可能な範囲内に抑えることができる。
また、該膜は、シリカ粒子である(B)成分を含んでいても、優れたアルカリバリア性を有し、アルカリバリア層として充分に機能し得る。
優れたアルカリバリア性が得られる理由は明確ではないが、水熱合成法で合成された(B)成分は、微結晶性でゾルゲルシリカよりも密度が高いことが考えられる。
さらに、(B)成分は、膜のアルカリバリア性以外の特性に与える影響も小さく、たとえば、(B)成分による透過率への影響はほとんど見られない。
また、本発明のコート液と、(A)成分を含有し(B)成分を含有しないコート液とでは、(A)成分のSiO換算固形分濃度が同じであれば、本発明のコート液の方が、必要膜厚を得るためのコート液使用量が少なく、コスト的にも有利である。
【0076】
<物品>
本発明の物品は、ガラス基板と、上述した本発明のコート液により前記ガラス基板の上に形成されたアルカリバリア層と、を有する。
本発明の物品は、前記アルカリバリア層の上に、該アルカリバリア層とは異なる他の層をさらに有してもよい。該他の層によって、物品に任意の機能を付与することができる。
【0077】
[ガラス基板]
ガラス基板を構成するガラスとしては、特に限定されず、たとえば、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、混合アルカリ系ガラス等が挙げられ、物品の用途等に応じて適宜選択できる。
ソーダライムガラスとしては、特に限定されないが、たとえば、物品が建築用又は車両用の窓ガラスの場合、下記の組成を有するものが好ましい。
酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO :65〜75%、
Al:0〜10%、
CaO :5〜15%、
MgO :0〜15%、
NaO :10〜20%、
O :0〜3%、
LiO :0〜5%、
Fe:0〜3%、
TiO :0〜5%、
CeO :0〜3%、
BaO :0〜5%、
SrO :0〜5%、
:0〜15%、
ZnO :0〜5%、
ZrO :0〜5%、
SnO :0〜3%、
SO :0〜0.5%、を含む。
【0078】
混合アルカリ系ガラスの場合、下記の組成を有するものが好ましい。
酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO :50〜75%、
Al:0〜15%、
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO:6〜24%、
NaO+KO:6〜24%、を含む。
【0079】
ガラス基板は、フロート法等により成形された平滑なガラス板であってもよく、表面に凹凸を有する型板ガラスであってもよい。また、平坦なガラスのみでなく曲面形状を有するガラスでもよい。
物品が太陽電池用カバーガラスの場合、ガラス基板としては、表面に凹凸をつけた梨地模様の型板ガラスが好ましい。型板ガラスとしては、通常の窓ガラス等に用いられるソーダライムガラス(青板ガラス)よりも鉄の成分比が少ない(透明度が高い)ソーダライムガラス(白板ガラス)が好ましい。
【0080】
ガラス基板の厚さは特に限定されず、物品の用途等に応じて適宜設定できる。
ガラス基板の厚さが薄いほど、アルカリバリア層の形成時や強化のための焼成時のガラス基板の反りが問題となりやすく、本発明の有用性が高い。
また、透過率向上を目的とする用途においては、厚さが薄いほど光の吸収を低く抑えられ、透過率が高まる。かかる観点から、ガラス基板の厚さは、15.0mm以下であることが好ましく、12.0mm以下がより好ましく、7.0mm以下がさらに好ましく、3.2mm以下が特に好ましい。ガラス基板の厚さの下限は特に限定されない。
【0081】
[アルカリバリア層]
アルカリバリア層は、アルカリの透過を抑制するアルカリバリア機能を有する層である。アルカリバリア層をガラス基板と他の層との間に有することで、ガラス基板から該他の層へのアルカリの影響が抑制され、他の層の耐久性が向上する。たとえば、他の層がシリカ系多孔質膜等の低反射膜を含む場合に、ガラスに含まれるナトリウムに起因して、湿熱条件下でアルカリが生じ、その影響によって、シリカ系多孔質膜の多孔質構造が壊れる等により反射防止性能が低下することを抑制できる。
【0082】
本発明の物品は、アルカリバリア層として、上述した本発明のコート液により形成された膜を有する。
アルカリバリア層の形成方法については後で詳細に説明する。
本発明の物品が有するアルカリバリア層は1層でも2層以上でもよい。たとえば、本発明のコート液として、組成(含有する成分の種類や配合量)が異なる2種以上のコート液を使用して、2種以上の膜を順次形成した多層膜であってもよい。
アルカリバリア層の膜厚(多層である場合はそれらの合計の膜厚)は、40〜200nmが好ましく、60〜180nmであることがより好ましい。アルカリバリア層の膜厚が40nm以上であると、充分なアルカリバリア性が得られ、200nm以下であると、膜の均一性が良好である。
【0083】
[他の層]
本発明の物品が、前記アルカリバリア層の上に有していてもよい他の層としては、特に限定されず、当該物品の用途を考慮し、要求される機能に応じた任意の層であってよい。
他の層の具体例としては、たとえば、低反射膜、導電膜、着色膜、赤外線カット膜、紫外線カット膜、帯電防止膜等が挙げられる。他の層は、単層膜でも多層膜でもよい。
【0084】
本発明の物品においては、前記他の層が低反射膜を含むことが好ましい。低反射膜は、例えばシリカ系多孔質膜で形成されるような場合、アルカリ耐久性が低く、本発明の有用性が高い。
また、低反射膜を有する物品は、太陽電池カバーガラス、ディスプレイカバーガラス、携帯電話等の通信機器用カバーガラス、車両用ガラス、建築用ガラス等に有用である。
低反射膜としては、特に限定されず、たとえば、ガラス基板等の表面に設けられる低反射膜として公知の低反射膜と同様であってよい。
低反射膜の一例としては、上述の通りシリカ系多孔質膜が挙げられる。「シリカ系多孔質膜」とは、シリカを主成分とするマトリックス中に、複数の空孔を有する膜である。
シリカ系多孔質膜は、マトリックスがシリカを主成分とすることから、比較的屈折率(反射率)が低い。また化学的安定性、ガラス基板との密着性、耐摩耗性等に優れる。さらにマトリックス中に空孔を有することで、空孔を有さない場合に比べて屈折率が低くなっている。
【0085】
マトリックスがシリカを主成分とするとは、シリカの割合がマトリックス(100質量%)のうち60質量%以上であることを意味する。
マトリックスとしては、実質的にシリカからなるものが好ましい。実質的にシリカからなるとは、不可避不純物(たとえば、マトリックス前駆体として非加水分解性基を有するアルコキシシランの加水分解物を用いた場合の非加水分解性基のような、原料に由来する構造。)を除いてシリカのみから構成されていることを意味する。
マトリックスは、シリカ以外の成分を少量含んでもよい。該成分としては、Li,B,C,N,F,Na,Mg,Al,P,S,K,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Sr,Y,Zr,Nb,Ru,Pd,Ag,In,Sn,Hf,Ta,W,Pt,Au,Bi及びランタノイド元素からなる群より選ばれる1つ若しくは複数のイオンおよび/または酸化物等の化合物(硝酸塩、塩化物塩、キレート化合物等が挙げられる。
マトリックスは、2次元的に重合されたマトリックス成分だけでなく、3次元的に重合されたナノ粒子を含んでも良い。ナノ粒子の組成としてAl,SiO,SnO,TiO,ZnO,ZrO等が挙げられる。ナノ粒子のサイズは1〜200nmが好ましい。ナノ粒子の形状は特に限定されるものではなく、球状、針状、中空状、シート状、角状等が挙げられる。
【0086】
好ましいシリカ系多孔質膜の一例として、分散媒(a)と、前記分散媒(a)中に分散した微粒子(b)と、前記分散媒(a)中に溶解又は分散したマトリックス前駆体(c)とを含む塗布液(以下、上層塗布液(I)ともいう。)を塗布し、乾燥(焼成)して得られる膜が挙げられる。
該膜は、マトリックス前駆体(c)の焼成物(SiO)からなるマトリックス中に微粒子(b)が分散した膜となる。該膜においては、微粒子(b)の周囲に選択的に空隙が形成されている。該空隙によって膜全体の屈折率が低下し、優れた反射防止効果を発現する。特に、微粒子(b)のコア部が中空の場合は、より優れた反射防止効果を発現する。該膜は、低コストで、かつ比較的低温であっても形成できる利点もある。
上層塗布液(I)、及びこれを用いたシリカ系多孔質膜の形成方法についてはそれぞれ後で詳細に説明する。
【0087】
シリカ系多孔質膜の膜厚は、50〜300nmが好ましく、80〜200nmがより好ましい。シリカ系多孔質膜の膜厚が50nm以上であれば、光の干渉が起こり、反射防止性能が発現する。シリカ系多孔質膜の膜厚が300nm以下であれば、クラックが発生せずに成膜できる。
シリカ系多孔質膜の膜厚は、反射分光膜厚計により測定される。
【0088】
前記他の層が低反射膜を含む場合、該他の層は、低反射膜のみからなるものでもよく、低反射膜以外の膜をさらに有してもよい。たとえば、低反射膜がシリカ系多孔質膜である場合、表面に凹凸が多いため、汚れが付着しやすい、付着した汚れを除去しにくい等の問題がある。そのため、物品の防汚性を高めるため、低反射膜の上に防汚層をさらに設けてもよい。
防汚膜に用いる材料としては、撥水もしくは撥油性を示すフッ素含有化合物、アルキル基含有化合物等が挙げられる。
【0089】
本発明の物品における他の層の好ましい他の例として、導電膜が挙げられる。
導電膜とは、膜の表面抵抗値が1012Ω/□以下であることを意味する。
導電膜の材質としては、Sb含有SnO(ATO)、Sn含有In(ITO)、RuO2、Ag、Ru、AgPd、RuAu等が挙げられる。
導電膜はスピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スクリーンコート法、インクジェット法、フローコート法、グラビアコート法、バーコート法、フレキソコート法、スリットコート法、ロールコート法等の公知の方法により形成できる。
【0090】
(上層塗布液(I))
上層塗布液(I)は、分散媒(a)と、前記分散媒(a)中に分散した微粒子(b)と、前記分散媒(a)中に溶解又は分散したマトリックス前駆体(c)とを含む。
【0091】
分散媒(a)は、微粒子(b)を分散する液体である。分散媒(a)は、マトリックス前駆体(c)を溶解する溶媒であってもよい。
分散媒(a)としては、前記液体媒体(C)と同様のものが挙げられる。
マトリックス前駆体(c)がアルコキシシランの加水分解物である場合、加水分解に水が必要となるため、分散媒(a)は少なくとも水を含むことが好ましい。分散媒(a)としては、水と他の液体とを併用してもよい。該他の液体としては、たとえば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。前記他の液体のうち、マトリックス前駆体(c)の溶媒としては、アルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールが特に好ましい。
【0092】
微粒子(b)としては、金属酸化物微粒子、金属微粒子、顔料系微粒子、樹脂微粒子等が挙げられる。
金属酸化物微粒子の材料としては、Al、SiO、SnO、TiO、ZrO、ZnO、CeO、Sb含有SnO(ATO)、Sn含有In(ITO)、RuO等が挙げられ、低屈折率である点から、SiOが好ましい。
金属微粒子の材料としては、金属(Ag、Ru等)、合金(AgPd、RuAu等)等が挙げられる。
顔料系微粒子としては、無機顔料(チタンブラック、カーボンブラック等)、有機顔料等が挙げられる。
樹脂微粒子の材料としては、ポリアクリル、ポリスチレン、メラニン樹脂等が挙げられる。
【0093】
微粒子(b)の形状としては、球状、楕円状、針状、板状、棒状、円すい状、円柱状、立方体状、長方体状、ダイヤモンド状、星状、三角すい状、花びら状、不定形状等が挙げられる。また、微粒子(b)は、中空状又は穴あき状であってもよい。また、微粒子(b)は、各微粒子が独立した状態で存在していてもよく、各微粒子が鎖状に連結していてもよく、各微粒子が凝集していてもよい。
微粒子(b)の平均凝集粒子径は、1〜1000nmが好ましく、3〜500nmがより好ましく、5〜300nmがさらに好ましい。微粒子(b)の平均凝集粒子径が1nm以上であれば、反射防止効果が充分に高くなる。微粒子(b)の平均凝集粒子径が1000nm以下であれば、シリカ系多孔質膜14のヘイズが低く抑えられる。
微粒子(b)の平均凝集粒子径は、分散媒(a)中における微粒子(b)の平均凝集粒子径であり、動的光散乱法で測定される。なお、凝集がみられない単分散の微粒子(b)の場合には、平均凝集粒子径は平均一次粒子径と等しい。
微粒子(b)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
マトリックス前駆体(c)としては、アルコキシシランの加水分解物(ゾルゲルシリカ)、シラザン等が挙げられ、アルコキシシランの加水分解物が好ましい。
アルコキシシランとしては、(A)成分の説明で挙げたものと同様のものが挙げられる。加水分解物は、(A)成分で説明した方法と同様の方法でアルコキシシランを加水分解することにより得られる。加水分解時に用いる触媒としては、微粒子(b)の分散を妨げないものが好ましい。
【0095】
上層塗布液(I)は、テルペン誘導体(d)をさらに含んでもよい。これにより、形成されるシリカ系多孔質膜中の空隙部の容積が増えて反射防止効果が大きくなる。
テルペンとは、イソプレン(C)を構成単位とする(C(ただし、nは1以上の整数である。)の組成の炭化水素を意味する。
テルペン誘導体(d)とは、テルペンから誘導される官能基を有するテルペン類を意味する。テルペン誘導体(d)は、不飽和度を異にするものも包含する。
なお、テルペン誘導体(d)には分散媒(a)として機能するものもあるが、「イソプレンを構成単位とする(Cの組成の炭化水素」であるものは、テルペン誘導体(d)に該当し、分散媒(a)には該当しないものとする。
テルペン誘導体(d)としては、シリカ系多孔質膜14の反射防止効果の点から、分子中に水酸基及び/又はカルボニル基を有するテルペン誘導体が好ましく、分子中に水酸基、アルデヒド基(−CHO)、ケト基(−C(=O)−)、エステル結合(−C(=O)O−)、及びカルボキシ基(−COOH)からなる群から選ばれる1種以上を有するテルペン誘導体がより好ましく、分子中に水酸基、アルデヒド基及びケト基からなる群から選ばれる1種以上を有するテルペン誘導体がさらに好ましい。
【0096】
テルペン誘導体(d)としては、テルペンアルコール(α−テルピネオール、テルピネン4−オール、L−メントール、(±)シトロネロール、ミルテノール、ネロール、ボルネオール、ファルネソール、フィトール等)、テルペンアルデヒド(シトラール、β−シクロシトラール、ペリラアルデヒド等)、テルペンケトン((±)しょうのう、β−ヨノン等)、テルペンカルボン酸(シトロネル酸、アビエチン酸等)、テルペンエステル(酢酸テルピニル、酢酸メンチル等)等が挙げられる。特に、テルペンアルコールが好ましい。
テルペン誘導体(d)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
上層塗布液(I)は、必要に応じて、他の添加剤等を含んでもよい。
他の添加剤としては、レベリング性向上のための界面活性剤、シリカ系多孔質膜14の耐久性向上のための金属化合物等が挙げられる。
界面活性剤としては、シリコーンオイル系、アクリル系等が挙げられる。
金属化合物としては、ジルコニウムキレート化合物、チタンキレート化合物、アルミニウムキレート化合物等が好ましい。ジルコニウムキレート化合物としては、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムトリブトキシステアレート等が挙げられる。
【0098】
上層塗布液(I)の粘度は、1.0〜10.0mPa・sであることが好ましく、2.0〜5.0mPa・sであることがより好ましい。上層塗布液(I)の粘度が1.0mPa・s以上であれば、形成されるシリカ系多孔質膜の膜厚を制御しやすい。上層塗布液(I)の粘度が10.0mPa・s以下であれば、上層塗布液(I)の塗布後の乾燥又は焼成時間や塗布時間が短くなる。上層塗布液(I)の粘度は、B型粘度計により測定される。
【0099】
上層塗布液(I)の固形分濃度は、1〜9質量%が好ましく、2〜6質量%がより好ましい。固形分濃度が1質量%以上であれば、上層塗布液(I)の塗膜の膜厚を薄くでき、最終的に得られるシリカ系多孔質膜の膜厚を均一にしやすい。固形分濃度が9質量%以下であれば、上層塗布液(I)の塗膜の膜厚を均一にしやすい。
上層塗布液(I)の固形分とは、微粒子(b)及びマトリックス前駆体(c)(ただし、マトリックス前駆体(c)の固形分は、アルコキシシランのSiO換算量である。)の合計を意味する。
【0100】
上層塗布液(I)中、微粒子(b)とマトリックス前駆体(c)との質量比(微粒子/マトリクス前駆体)は、95/5〜10/90が好ましく、70/30〜90/10がより好ましい。微粒子/マトリクス前駆体が95/5以下であれば、シリカ系多孔質膜とガラス基板との密着性が充分に高くなる。微粒子/バインダーが10/90以上であれば、反射防止効果が充分に高くなる。
テルペン誘導体(d)を上層塗布液(I)に配合する場合、その配合量は、上層塗布液(I)の固形分1質量部に対して、0.01〜2質量部が好ましく、0.03〜1質量部がより好ましい。テルペン誘導体(d)が0.01質量部以上であれば、反射防止効果がテルペン誘導体(d)の無添加の場合と比べて充分に高くなる。テルペン誘導体(d)が2質量部以下であれば、シリカ系多孔質膜の強度が良好となる。
【0101】
上層塗布液(I)は、たとえば、微粒子(b)分散液と、マトリックス前駆体(c)溶液と、必要に応じて追加の分散媒(a)、テルペン誘導体(d)、他の添加剤とを混合することにより調製される。
【0102】
[物品の製造方法]
本発明の物品は、たとえば、ガラス基板の上に、本発明のコート液を塗布し、乾燥(焼成)してアルカリバリア層を形成し、必要に応じて、前記アルカリバリア層の上に他の層を形成することにより製造できる。
アルカリバリア層の形成時又は形成後(たとえば他の層の形成時又は形成後)に、アルカリバリア層の緻密化、ガラス基板の物理強化等のために、80〜700℃、好ましくは100〜700℃での焼成処理を行うことが好ましい。該焼成処理を行うことは、本発明の有用性の点でも好ましい。
【0103】
ガラス基板上への本発明のコート液の塗布方法としては、公知のウェットコート法を用いることができる。たとえば、スピンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スクリーンコート法、インクジェット法、フローコート法、グラビアコート法、バーコート法、フレキソコート法、スリットコート法、ロールコート法等が挙げられる。
塗布時のコート液の液温度は、室温〜80℃が好ましく、室温〜60℃がより好ましい。
【0104】
コート液の塗布及び乾燥(焼成)は、コート液を塗布した後に、任意の乾燥温度に加熱することにより行ってもよく、あらかじめ乾燥(焼成)温度とされたガラス基板にコート液を塗布することにより行ってもよい。
乾燥(焼成)温度は、30℃以上が好ましく、ガラス基板やコート液の材料((A)成分等)に応じて適宜決定すればよい。
アルカリバリア層は、80℃以上の温度で焼成されることが好ましい。焼成温度は、100℃以上がより好ましく、200〜700℃がさらに好ましい。焼成温度が80℃以上であれば、アルコキシシランの加水分解物を速やかに焼成物とすることができる。特に100℃以上であると、焼成物が緻密化して耐久性が向上する。
アルカリバリア層の上に他の層をさらに形成する場合、アルカリバリア層の焼成は、他の層の形成前に行ってもよく、形成後に行ってもよい。たとえば、他の層の形成時に焼成を行う場合、該他の層の焼成工程が、アルカリバリア層の焼成工程を兼ねることもできる。
【0105】
前記アルカリバリア層の上に他の層を形成する工程は、形成する他の層に応じて、公知の方法により実施できる。
たとえば、前述した上層塗布液(I)を用いる場合、これをアルカリバリア層の上に塗布し、乾燥(焼成)することによって、シリカ系多孔質膜からなる低反射膜を形成することができる。
上層塗布液(I)の塗布、乾燥(焼成)は、本発明のコート液の塗布、乾燥(焼成)と同様にして実施できる。好ましい条件も同様である。
【0106】
アルカリバリア層又はシリカ系多孔質膜の焼成工程は、ガラス基板の物理強化工程を兼ねることもできる。物理強化工程では、ガラス基板は、ガラスの軟化温度付近まで加熱される。この場合、焼成温度は、約600〜700℃に設定される。焼成温度は、通常、ガラス基板の熱変形温度以下とするのが好ましい。焼成温度の下限値は、コート液の配合等に応じて決定される。
ただし、自然乾燥であっても、アルコキシシランの加水分解物の重合はある程度進むため、時間に何らの制約もないのであれば、乾燥又は焼成温度を室温付近の温度設定とすることも、理論上は可能である。
【0107】
[作用効果]
本発明の物品は、ガラス基板上に、本発明のコート液により形成されたアルカリバリア層を有する。
アルカリバリア層が本発明のコート液により形成されることで、本発明の物品は、該コート液の塗布後の乾燥(焼成)時における膜の収縮と、それに伴うガラス基板の反りが抑制されている。その反り量は、ガラス基板の物理強化のための高温焼成を行っても充分に少ないものとなっている。そのため、本発明の物品は、製造時に、強化条件の制約を受けにくく、また、許容範囲を超える反りの発生による製品歩留まりの低下が生じにくく、生産性に優れる。
また、該アルカリバリア層は、優れたアルカリバリア性を有している。そのため該アルカリバリア層をガラス基板と他の層との間に有する物品は、ガラス基板からのアルカリによる他の層の機能低下が生じにくく、耐久性に優れる。
【0108】
本発明の物品の用途としては、特に限定されないが、たとえば、他の層として低反射膜を有する物品は、太陽電池用カバーガラス、ディスプレイカバーガラス、携帯電話等の通信機器用カバーガラス、車両用ガラス、建築用ガラス等として用いることができる。
【実施例】
【0109】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定して解釈されない。
以下の各例のうち、例2〜7は実施例であり、例1、例8〜11は比較例である。
以下の各例で用いた測定・評価方法及び材料(入手先又は調製方法)を以下に示す。
【0110】
〔測定・評価方法〕
(アスペクト比測定法)
透過型電子顕微鏡(TEM)写真から実測した鱗片状シリカの最大径長さを、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した最小平均厚みで割ることでアスペクト比を求めた。
また平均アスペクト比は、上記方法で求めたアスペクト比から任意の50点を選び、平均することで求めた。
【0111】
(反り測定)
反り測定用物品(ガラス基板上に下層(アルカリバリア膜)を形成した物品)を、下層形成面が上になるように水平な平板上に静置し、平板下面から基板頂点上部までの高さ(mm)をマイクロメーターにて測定した。測定値から平板と基板の合計厚み(3.4mm)を差し引き、反り量(mm)とした。
【0112】
(耐高温高湿性評価)
環境試験機(エスペック社製、PR−1SP)に、ガラス基板及び膜特性測定用物品(ガラス基板上に下層(アルカリバリア膜)と上層(低反射膜)を形成した物品)をセットし、90℃、湿度95%RHで168時間放置した。その後、取り出したガラス基板、及び膜特性測定用物品のそれぞれの透過率を、後述する手順で測定した。測定値から、下式(1)により透過率差Tdを求めた。
Td=T1−T2 ・・・(1)
ただし、前記式(1)中、T1は膜特性測定用物品の透過率であり、T2はガラス基板のみの透過率である。
【0113】
(透過率)
ガラス基板及び膜特性測定用物品の透過率(%)は、分光光度計(日本分光社製、V670)を用いて、波長400〜1100nmにおける光について測定した。光の入射角度は5°とした。
【0114】
〔材料〕
(マトリックス前駆体溶液(α−1))
変性エタノール(日本アルコール販売社製、ソルミックスAP−11(商品名)、エタノールを主剤とした混合溶媒。以下「変性エタノール」は同じものを示す。)の80.4gを撹拌しながら、これにイオン交換水の11.9gと61質量%硝酸の0.1gとの混合液を加え、5分間撹拌した。これに、テトラエトキシシラン(固形分濃度:29質量%)の7.6gを加え、室温で30分間撹拌し、固形分濃度が2.2質量%のマトリックス前駆体溶液(α−1)を調製した。
なお、ここでの固形分濃度は、SiO換算での固形分濃度(テトラエトキシシランのすべてのSiがSiOに転化したときの固形分濃度)である。
【0115】
(マトリクス前駆体溶液(α−2))
変性エタノールの77.6gを撹拌しながら、これにイオン交換水の11.9gと61質量%硝酸の0.1gとの混合液を加え、5分間撹拌した。これに、テトラエトキシシラン(SiO換算での固形分濃度:29質量%)の10.4gを加え、室温で30分間撹拌し、SiO換算での固形分濃度が3.0質量%のマトリクス前駆体溶液(α−2)を調製した。
得られたマトリクス前駆体溶液(α−2)は、後述の上層(低反射膜)用塗布液(L)の調製に使用した。
【0116】
(鱗片状シリカ粒子分散液(β))
「シリカ分散体の作製」
出発原料のシリカヒドロゲルは、ケイ酸ナトリウムをアルカリ源として次のようにして調製した。SiO/NaO=3.0(モル比)、SiO濃度21.0質量%であるケイ酸ナトリウム水溶液2000mL/minと、硫酸濃度20.0質量%の硫酸の水溶液とを、放出口を備えた容器内に別個の導入口から導入して瞬間的に均一混合して、放出口から空中に放出される液のpHが7.5〜8.0になるように2液の流量比を調整し、均一混合されたシリカゾル液を放出口から連続的に空気中に放出させた。放出された液は、空気中で球形液滴となり、放物線を描いて約1秒間滞空する間に空中でゲル化した。落下地点には、水を張った熟成槽を置いておき、ここに落下せしめて熟成させた。
熟成後、pHを6に調整し、さらに十分水洗して、シリカヒドロゲルを得た。得られたシリカヒドロゲル粒子は、粒子形状が球形であり、平均粒子径が6mmであった。このシリカヒドロゲル粒子中のSiO質量に対する水の質量比率は、4.55倍であった。
上記シリカヒドロゲル粒子を、ダブルロールクラッシャーを用いて平均粒子径2.5mmに粗粉砕して、次の水熱処理に用いた。
【0117】
容量17mのオートクレーブ(アンカ−型攪拌羽根付き)に、系内の総SiO/NaOモル比が12.0なるように、上記粒径2.5mmのシリカヒドロゲル(SiO18質量%)7249kg及びケイ酸ナトリウム水溶液(SiO29.00質量%、NaO9.42質量%、SiO/NaO=3.18(モル比)))1500kgを仕込み、これに水1560kgを加え、10rpmで攪拌しながら飽和圧力17kgf/cmの高圧水蒸気を4682kg加え、185℃まで昇温し、その後5時間水熱処理を行った。系内の総シリカ濃度は、SiOとして12.5質量%であった。
合成後のシリカ分散体を濾過及び洗浄してシリカ粉体を取り出し、透過型顕微鏡(TEM)を用いて観察した結果、シリカ分散体には、シリカ凝集体が含まれることが観察された。また、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、「LA−950」、以下同じ)でのシリカ粒子の平均粒子径は8.33μmであった。
【0118】
「酸処理」
合成後のシリカ分散体(赤外線水分計で計測の固形分13.3質量%、pH11.4)10100gをスターラーで撹拌しながら、硫酸濃度20質量%の硫酸の水溶液1083g加えた。添加後のpHは1.5であった。そのまま室温下で18時間撹拌を継続し処理を行った。
【0119】
「洗浄」
酸処理後のシリカ分散体は、シリカ1g当たり50mLの水でろ過洗浄を行った。洗浄後のシリカケーキを回収し、水を加えスラリー状に調製した。このシリカ分散体の赤外線水分計で計測の固形分は14.7質量%、pHは4.8であった。
【0120】
「アルミン酸処理」
洗浄後のシリカ分散体7000gを10Lのフラスコへ入れ、オーバーヘッドスターラーで撹拌しながら、2.02質量%濃度のアルミン酸ナトリウム水溶液197g(Al/SiOモル比=0.00087)を少量ずつ加えた。添加後のpHは7.2であった。添加後、室温下で1時間撹拌を継続した。その後、昇温し加熱還流条件で4時間処理を行った。
【0121】
「アルカリ処理」
アルミン酸処理後のシリカ分散体775gをスターラーで撹拌しながら、水酸化カリウム43.5g(1mmol/g−シリカ)、及び水1381gを加えた。添加後のpHは9.9であった。そのまま室温下で24時間撹拌を継続し処理を行った。また、アルカリ処理後のシリカ粒子の平均粒子径は7.98μmであった。
【0122】
「湿式解砕」
アルカリ処理後のシリカ分散体を、超高圧湿式微粒化装置(吉田機械興業社製、「ナノマイザNM2−2000AR」、孔径120μm衝突型ジェネレータ)を用い、吐出圧力130〜140MPaで30パスで処理を行い、シリカ粒子を解砕・分散化した。解砕後のシリカ分散体のpHは9.3、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置での平均粒子径は0.182μmであった。
湿式解砕後のシリカ分散体を濾過及び洗浄して、シリカ粉体を取り出し、透過型顕微鏡(TEM)を用いて観察した結果を図1に示す。図1に示すように、シリカ分散体には、鱗片状シリカ粒子が含まれることが観察された。
【0123】
「カチオン交換」
解砕後のシリカ分散体1550gにカチオン交換樹脂161mLを添加し、オーバーヘッドスターラーで撹拌しながら、室温下で17時間処理した。その後、カチオン交換樹脂を分離した。カチオン交換後のシリカ分散体のpHは3.7であった。
【0124】
得られたシリカ分散体(鱗片状シリカ粒子分散液(β))からシリカ粒子を取り出し、TEMにより形状観察したところ、不定形粒子を実質的に含まない鱗片状シリカ粒子のみであることが確認された。
鱗片状シリカ粒子分散液(β)に含まれるシリカ粒子の平均粒子径は、湿式解砕後と同じであり、0.182μmであった。平均アスペクト比は188であった。
鱗片状シリカ粒子分散液(β)の赤外線水分計で計測の固形分は、3.6質量%であった。
【0125】
(球状シリカ微粒子分散液(γ))
日産化学工業社製、スノーテックス OS(商品名)、SiO換算での固形分濃度:20.5質量%、平均一次粒子径:8〜10nm。
【0126】
(球状シリカ微粒子分散液(δ))
日産化学工業社製、スノーテックス O(商品名)、SiO換算での固形分濃度:20.5質量%、平均一次粒子径:10〜20nm。
【0127】
(下層(アルカリバリア膜)用塗布液(A))
マトリックス前駆体溶液(α−1)をそのまま用いて、SiO換算での固形分濃度が2.2質量%の下層用塗布液(A)とした。
【0128】
(下層(アルカリバリア膜)用塗布液(B))
マトリックス前駆体溶液(α−1)の95.0gを攪拌しながら、これに変性エタノールの2.8g、鱗片状シリカ粒子分散液(β)の2.2gを加え、固形分濃度が2.2質量%の下層用塗布液(B)を調製した。
【0129】
(下層(アルカリバリア膜)用塗布液(C)〜(K))
組成を表1に示すとおりに変更した以外は、下層用塗布液(B)と同様にして、固形分濃度が2.2質量%の下層用塗布液(C)〜(K)を調製した。
【0130】
(上層(低反射膜)用塗布液(L))
変性エタノールの16.5gを撹拌しながら、これにイソブチルアルコールの24.0g、ジアセトンアルコールの15.0g、β−ヨノンの1.0g、マトリクス前駆体溶液(α−2)の30.0g、及び鎖状中実シリカ微粒子分散液(γ)の13.5gを加え、SiO換算での固形分濃度が3.0質量%の上層用塗布液(L)を調製した。
【0131】
〔例1〕
(ガラス基板の研磨と洗浄)
ガラス基板として、ソーダライムガラス(旭硝子社製、FL0.7(商品名)。サイズ:100mm×100mm、厚さ:0.7mm)と、型板ガラス(旭硝子社製、Solite(商品名)。低鉄分のソーダライムガラス(白板ガラス)、サイズ:100mm×100mm、厚さ:3.2mm)を用意した。各ガラスの表面を酸化セリウム水分散液で、
3分間研磨し、水で酸化セリウムを洗い流した後、イオン交換水でリンス(rinse)し、乾燥させた。なお、乾燥終了時点の反りは0であった。
【0132】
(反り測定用物品の作製)
前記ソーダライムガラスを予熱炉(ISUZU社製、VTR−115)にて、80℃で予熱し、スピンコータ(ミカサ社製、1H−360S)に、研磨した表面の温度を30℃に保持した状態で設置した。次いで、前記基材の研磨した表面に、下層用塗布液(A)をポリスポイトで1mL滴下してスピンコートした。その後、大気中で、650℃で10分焼成して、反り測定用物品(アルカリバリア層の1層構成の物品)を得た。
得られた反り測定用物品について反り測定を行った。結果を表1に示す。
【0133】
(膜特性測定用物品の作製)
前記型板ガラスを予熱炉(ISUZU社製、VTR−115)にて、80℃で予熱し、スピンコータ(ミカサ社製、1H−360S)に、研磨した表面の温度を30℃に保持した状態で設置した。次いで、前記基材の研磨した表面に、下層用塗布液(A)をポリスポイトで1mL滴下してスピンコートし、その上にさらに上層用塗布液(L)をポリスポイトで1mL滴下してスピンコートした。その後、大気中で、600℃で10分焼成して膜特性測定用物品(アルカリバリア層/低反射膜の2層構成の物品)を得た。
得られた膜特性測定用物品について耐高温高湿性評価を行った。結果を表1に示す。
【0134】
〔例2〜11〕
下層用塗布液の種類を表1に示すように変更した以外は例1と同様にして2種類の物品(反り測定用物品、及び膜特性測定用物品)を得た。反り測定用物品について、反り測定、膜特性測定用物品について耐高温高湿性評価を行った。結果を表1に示す。
表1中、「粒子/マトリックス前駆体」は、下層塗布液中のシリカ粒子(鱗片状又は球状)とマトリックス前駆体との固形分での質量比を示す。
【0135】
【表1】
【0136】
上記結果に示すとおり、例2〜7の反り測定用物品は、下層塗布液としてマトリックス前駆体溶液(α−1)をそのまま用いた例1の反り測定用物品よりも反り量が小さく、高温焼成時の反りが抑制されていた。
また、例2〜7の膜特性測定用物品は、透過率差Tdが0.5%以下と少なかった。このことから、下層塗布液(B)〜(G)から形成された下層が充分なアルカリバリア性を有し、高温高湿下での低反射膜へのアルカリの影響を抑制できることが確認できた。
一方、鱗片シリカ粒子の代わりに球状シリカ粒子を配合した下層塗布液を用いた例8〜11は、反り測定用物品の反り量が、例1の反り測定用物品の反り量と同等かそれよりも大きかった。また、膜特性測定用物品の透過率差Tdは、0.5%を超えていた。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明のコート液を用いて形成されたアルカリバリア層を有するガラス基板からなる物品は、高温焼成においてもガラス基板の反りが少なく、製品歩留まりの低減化により、生産性が高く、優れたアルカリバリア性により、機能低下が生じにくく、耐久性にも優れており、太陽電池用カバーガラス、ディスプレイカバーガラス、携帯電話等の通信機器用カバーガラス、車両用ガラス、建築用ガラス等として有用である。
なお、2013年1月15日に出願された日本特許出願2013−004618号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図1