【0021】
本発明のフレキシブルデバイスの製造方法において、ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布するキャリア基板(支持体)は、自立性を持つ硬質なものであって、耐熱性があれば良い。つまり製造工程上必要とされる高温にさらされても変形しない素材を用いていれば良い。具体的には、一般に200℃以上、好ましくは250℃以上のガラス転移温度を持つ素材を用いるのが望ましく、このようなものとしてはガラスが挙げられる。キャリア基板の厚さは、0.3mmから5.0mmが好ましく、0.5mmから3.0mmがより好ましく、0.7mmから1.5mmであるものがさらに好ましい。
塗布した本発明のポリイミド前駆体樹脂組成物は、一般に、加熱乾燥した後、脱水閉環してポリイミド樹脂膜を形成する。その加熱温度としては通常100〜500℃、好ましくは150〜450℃、さらに好ましくは200〜400℃の範囲を任意に選択することができる。また加熱時間は、通常1分〜6時間、好ましくは3分〜4時間、さらに好ましくは15分〜2時間とされる。
こうして形成されるポリイミド樹脂のフィルムの熱膨張率は、100〜200℃の範囲において20ppm/K以下であることが好ましく、15ppm/K以下であることがより好ましく、10ppm/K以下であることがさらに好ましく、被塗布体であるキャリア基板(例えばガラス基板)と同程度の熱膨張であることが最も好ましい。熱膨張率は、乾燥後のポリイミドフィルムを5mm×15mmに切り出したものを用い、サーマルメカニカルアナライザー(例えば、株式会社リガク製)によって25℃から450℃まで、毎分5℃ずつ昇温することで測定することができる。
さらに、形成されるポリイミド樹脂は、破断伸びが、5%以上が好ましく(25℃)、10%以上がより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。破断伸びは、乾燥後のポリイミドフィルムを10mm×60mmに切り出したサンプルを用い、オートグラフ(例えば株式会社島津製作所製)により測定することができる。
また、形成されるポリイミド樹脂の弾性率は、1GPa以上であることが好ましく(25℃)、1.5GPa以上であることがより好ましく、2GPa以上であることがさらに好ましい。破断伸びは乾燥後のポリイミドフィルムを10mm×60mmに切り出したサンプルを用い、オートグラフ(例えば株式会社島津製作所製)により測定することができる。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、p−フェニレンジアミン5.41gとN−メチルピロリドン181.03gを仕込み、15分間、40℃で加熱攪拌しモノマーを溶解させた。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物14.71gを加え、さらに30分間攪拌し、粘度1100mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体の重量平均分子量は70000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、130℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ5μmになるように製膜した。次いで、硬化炉を用い200℃で30分間、さらに350℃で60分間加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。イミド化後の膜厚は3μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。
【0024】
測定条件は、次の通り。
ガラス転移温度:サーマルメカニカルアナライザー(株式会社リガク製、測定温度範囲25〜450℃、試料サイズ5mm×15mm)
熱分解温度:サーマルメカニカルアナライザー(株式会社リガク製、測定温度範囲25〜620℃、試料サイズ5mm×15mm)
熱膨張率:サーマルメカニカルアナライザー(株式会社リガク製、測定温度範囲25〜450℃、試料サイズ5mm×15mm)
破断点応力:オートグラフ(株式会社島津製作所製、試料サイズ10mm×60mm)
弾性率:オートグラフ(株式会社島津製作所製、試料サイズ10mm×60mm)
伸び:オートグラフ(株式会社島津製作所製、試料サイズ10mm×60mm)
重量平均分子量:ゲルパーミエーションクロマトグラフ(株式会社島津製作所製)
【0025】
(実施例2)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、p−フェニレンジアミン3.86gと1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン0.18g、N−メチルピロリドン85gを仕込み、15分間、40℃で加熱攪拌しモノマーを溶解させた。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸無水物10.19gと1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル酸無水物)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを0.78g加え、さらに30分間攪拌し、粘度2000mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は80000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、130℃のホットプレートで45秒間、次いで160℃のホットプレートで45秒間ベークし、厚さ8μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は5μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0026】
(実施例3)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン11.99gとN−メチルピロリドン77gを仕込み、室温(25℃)で15分間攪拌しモノマーを溶解した。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物11.01gを加えさらに室温で30分間攪拌し、粘度7200mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は72400であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、100℃のホットプレートで2分間、次いで130℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ13μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は9μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0027】
(実施例4)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、1,4−ジアミノシクロヘキサン5.59gをN−メチルピロリドン80gを仕込み、70℃で15分間加熱攪拌しモノマーを溶解した。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物14.41gを加え80℃で30分間攪拌後、自然冷却し粘度9200mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は53000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、100℃のホットプレートで2分間、次いで130℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ15μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は10μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0028】
(実施例5)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン1.49gと1,4−ジアミノシクロヘキサン4.78g、N−メチルピロリドン80gを仕込み、70℃で15分間加熱攪拌しモノマーを溶解した。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物13.01gと3,3’,4,4’−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物0.71gを加え80℃で30分間加熱攪拌後、自然冷却し液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は87900であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、100℃のホットプレートで2分間、次いで130℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ15μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は10μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0029】
(比較例1)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル6.03gと1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン0.39g、N−メチルピロリドン85gを仕込み、室温で15分間攪拌しモノマーを溶解させた。その後ピロメリット酸二無水物3.46gと3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物5.11gを加え、さらに24時間攪拌した。その後80℃の加熱攪拌で粘度調整を行い、粘度1100mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は76000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物をガラス基板上にスピンコートで塗布した後、140℃のホットプレートで1分間ベークし、厚さ8μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は4μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0030】
(比較例2)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン8.07gと1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン0.26g、N−メチルピロリドン68g、ジイソブチルケトン17gを仕込み、15分間攪拌した。その後3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物6.67gを加えさらに30分間攪拌し、粘度1100mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は81000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、120℃のホットプレートで3分間ベークし、厚さ14μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は8μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0031】
(比較例3)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン8.93gとN−メチルピロリドン85gを仕込み、室温で15分間攪拌しモノマーを溶解した。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物6.07gを加えさらに30分間攪拌し、粘度500mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は78100であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、80℃のホットプレートで2分間、次いで120℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ7μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は3μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0032】
ディスプレイデバイスの製造例
上記実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を用いたフレキシブル液晶ディスプレイの製造例を示す。
図1に示すようにキャリア基板としてガラス基板を用い、ガラス基板上に各液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を、スピンコートで塗布した後、130℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ約5μmになるように製膜した。次いで、硬化炉を用い200℃で30分間、さらに350℃で60分間加熱硬化してイミド化し、固体状の樹脂膜であるポリイミド樹脂フィルムを形成した。この膜厚は3μmであ
った。このポリイミド膜上に、既知の方法に従って
図2に示すようにTFT電極を形成することができ
た。さらにその上に既知の方法に従って、
図3に示すように液晶表示素子、カバーフィルムの層を形成することができ
た。その後、
図4に示すようにガラス基板から、フレキシブルデバイスを剥離することができ
た。
このようにして得られる、実施例のフレキシブル液晶ディスプレイは良好な性能を示
したが、比較例のものはポリイミド膜物性が劣るため、信頼性に優れるフレキシブル液晶ディスプレイは得られな
かった。
【0033】
【表1】
表1に示したように、本発明の一般式(1)で表される構成単位を有するポリイミド前駆体を用いた樹脂膜は、ガラス転移温度、熱分解温度、熱膨張率などの熱特性、破断点応力、弾性率、伸びなどの機械特性に優れる。これに対し、一般式(1)で表される構成単位を有さない比較例1〜3は、熱特性、機械特性に劣る。また、実施例のポリイミド前駆体は、薄膜の樹脂膜にもかかわらず、その上に形成した各種回路(TFT電極、液晶表示素子)にはがれなどの欠陥を生じさせることなくキャリア基板からの剥離性に優れる。