特許第6206482号(P6206482)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6206482ディップ成形用ラテックス、ディップ成形用組成物およびディップ成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6206482
(24)【登録日】2017年9月15日
(45)【発行日】2017年10月4日
(54)【発明の名称】ディップ成形用ラテックス、ディップ成形用組成物およびディップ成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 279/02 20060101AFI20170925BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20170925BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20170925BHJP
   C08K 5/41 20060101ALI20170925BHJP
【FI】
   C08F279/02
   C08L51/04
   C08L15/00
   C08K5/41
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-501500(P2015-501500)
(86)(22)【出願日】2014年2月20日
(86)【国際出願番号】JP2014054041
(87)【国際公開番号】WO2014129547
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2016年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-33233(P2013-33233)
(32)【優先日】2013年2月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-201829(P2013-201829)
(32)【優先日】2013年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 良幸
(72)【発明者】
【氏名】石津 修
(72)【発明者】
【氏名】相原 俊二
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−241412(JP,A)
【文献】 特開2001−261751(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/098008(WO,A1)
【文献】 特開2009−209229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 279/02
C08L 51/04
C08L 15/00
C08K 5/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成イソプレン重合体にカルボキシル基を有する単量体を水相中でグラフト重合する工程を含むカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの製造方法であって、得られるディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスが、少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含有し、前記カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを構成するカルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分が30重量%以上である、ディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの製造方法
【請求項2】
前記アニオン性界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを含有する請求項1に記載のディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの製造方法
【請求項3】
前記アニオン性界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホン酸塩と、脂肪酸塩とを含有する請求項1に記載のディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの製造方法
【請求項4】
前記アニオン性界面活性剤の合計含有量が、前記カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して、5重量部以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの製造方法
【請求項5】
前記カルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分が60重量%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの製造方法
【請求項6】
前記カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスが、アルコールを0.1〜100量ppm含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの製造方法
【請求項7】
ディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスであって、少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含有し、
該カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを構成するカルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分が30重量%以上、かつ、テトラヒドロフランに対する膨潤度が30倍以下である、
ディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス。
【請求項8】
請求項7に記載のディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス、硫黄系加硫剤および加硫促進剤を含有してなるディップ成形用組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のディップ成形用組成物をディップ成形してなるディップ成形体。
【請求項10】
ASTM D624−00(Die C、500mm/min)で測定した引裂強度が30N/mm以上である請求項9に記載のディップ成形体。
【請求項11】
手袋である請求項9または10に記載のディップ成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス、ディップ成形用組成物およびディップ成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ゴムのラテックスを含有するディップ成形用組成物をディップ成形して、乳首、風船、手袋、バルーン、サック等の人体と接触して使用されるディップ成形体が得られることが知られている(特許文献1)。しかしながら、天然ゴムのラテックスは、人体にアレルギー症状を引き起こすような蛋白質を含有するため、脱蛋白質化処置をしなければ生体粘膜又は臓器と直接接触するディップ成形体としては使用することが難しかった。そのため、手術用手袋においては、合成イソプレン重合体製手袋の検討がなされてきているが、合成イソプレン重合体製手袋は、天然ゴム製のものに比べて引張強度が劣るという問題があった。手術用手袋においては、医師を感染症から守るため医療行為中に破れたりしないことが求められており、合成イソプレン重合体製手袋に天然ゴム製と同等以上の引張強度が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−526923
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、引張強度が優れたディップ成形体を与えることができるディップ成形用ラテックスを提供することを目的とする。また、本発明は、このラテックスを用いて得られるディップ成形用組成物およびディップ成形体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決鋭意研究した結果、合成イソプレン重合体にカルボキシル基を有する単量体を水相中でグラフト重合して得られるカルボキシ変性合成イソプレン重合体のラテックス(以下、「カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス」という。)であって、特定の界面活性剤を含有し、当該カルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分が特定量以上であるラテックスを、ディップ成形用途に用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った
【0006】
すなわち、本発明によれば、合成イソプレン重合体にカルボキシル基を有する単量体を水相中でグラフト重合して得られるカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスであって、少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含有し、上記カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを構成するカルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分が30重量%以上である、ディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスが提供される。
【0007】
そして、上記アニオン性界面活性剤が、アキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを含有することが好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩と脂肪酸塩とを含有することが特に好ましい。
【0008】
また、上記アニオン性界面活性剤の合計含有量が、上記カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して、5重量部以下であることが好ましい。
【0009】
さらに、上記カルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分が60重量%以上であることが好ましい。
そして、上記カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスが、アルコールを0.1〜100重量ppm含有することが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、ディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスであって、少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含有し、該カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを構成するカルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分が30重量%以上、かつ、テトラヒドロフランに対する膨潤度が30倍以下である、ディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスが提供される。
【0011】
さらに、本発明によれば、上記に記載のディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス、硫黄系加硫剤および加硫促進剤を含有してなるディップ成形用組成物、並びに、該ディップ成形用組成物をディップ成形してなるディップ成形体が提供される。
【0012】
なお、上記ディップ成形体の、ASTM D624−00(Die C、500mm/min)で測定した引裂強度が、30N/mm以上であることが好ましい。
【0013】
また、上記ディップ成形体が、手袋であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、引張強度が優れたディップ成形体を与えることができるディップ成形用ラテックス、該ラテックスを用いて得られるディップ成形用組成物、および該ディップ成形用組成物を成形してなるディップ成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のラテックスは、合成イソプレン重合体にカルボキシル基を有する単量体を水相中でグラフト重合して得られるカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスであって、少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含有し、当該カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを構成するカルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分が30重量%以上である、ディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスである。
【0016】
合成イソプレン重合体
本発明で用いる合成イソプレン重合体は、イソプレンを重合して得られる合成イソプレン重合体である。
合成イソプレン重合体は、イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合したものであってもよい。合成イソプレン重合体のイソプレン単位の含有量は、柔軟で、引張強度に優れるディップ成形体が得られ易いことから、全単量体単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%(イソプレンの単独重合体)である。
【0017】
イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ブタジエン、クロロプレン、1,3−ペンタジエン等のイソプレン以外の共役ジエン単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;スチレン、アルキルスチレン等のビニル芳香族単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;などが挙げられる。これらのイソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体は、1種単独でも、複数種を併用してもよい。なお、本明細書においては、(メタ)アクリルは、アクリルおよびメタクリルの両方を含有した意で用いる。
【0018】
合成イソプレン重合体は、従来公知の方法、例えばトリアルキルアルミニウム−四塩化チタンからなるチーグラー系重合触媒やn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム重合触媒を用いて、不活性重合溶媒中で、イソプレンを溶液重合して得ることができる。そして、得られた合成イソプレン重合体の重合体溶液を、合成イソプレン重合体ラテックスの製造にそのまま用いてもよいが、該重合体溶液から固形の合成イソプレン重合体を取り出した後、その固形の合成イソプレン重合体を有機溶媒に溶解して合成イソプレン重合体ラテックスの製造に用いることもできる。
この際、合成した後に重合体溶液中に残った重合触媒の残渣などの不純物を取り除いてもよい。そして、重合中または重合後の溶液に、後述する老化防止剤を添加してもよい。また、市販の固形の合成イソプレン重合体を、合成イソプレン重合体ラテックスの製造に用いることもできる。
【0019】
合成イソプレン重合体中のイソプレン単位としては、イソプレンの結合状態により、シス結合単位、トランス結合単位、1,2−ビニル結合単位、3,4−ビニル結合単位の4種類が存在する。
そして、ディップ成形体の引張強度向上の観点から、合成イソプレン重合体に含まれるイソプレン単位中のシス結合単位の含有割合は、全イソプレン単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0020】
合成イソプレン重合体の重量平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算で、10,000〜5,000,000、好ましくは500,000〜5,000,000、特に好ましくは800,000〜3,000,000である。合成イソプレン重合体の重量平均分子量が小さ過ぎると、ディップ成形体の引張強度が低下する傾向があり、逆に大き過ぎると、合成イソプレン重合体のラテックスが製造し難くなる傾向がある。
【0021】
また、合成イソプレン重合体のポリマームーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は、好ましくは50〜80、より好ましくは60〜80、特に好ましくは70〜80である。
【0022】
本発明においては、合成イソプレン重合体にカルボキシル基を有する単量体を水相中でグラフト重合するため、合成イソプレン重合体のラテックスを用いる。
【0023】
本発明において、合成イソプレン重合体ラテックスの製造方法としては、例えば、(1)有機溶媒に溶解または微分散した合成イソプレン重合体の溶液または微細懸濁液を、アニオン性界面活性剤の存在下に、水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去して、合成イソプレン重合体ラテックスを製造する方法、(2)イソプレン単独または、イソプレンとそれと共重合可能なエチレン性不飽和単量体との混合物を、アニオン性界面活性剤の存在下に、乳化重合もしくは懸濁重合して、直接、合成イソプレン重合体ラテックスを製造する方法、が挙げられるが、イソプレン単位中のシス結合単位の割合が高い合成イソプレン重合体を用いることができ、引張強度に優れるディップ成形体が得られ易い点から、上記(1)の製造方法が好ましい。
【0024】
上記(1)の製造方法で用いる有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂環族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素溶媒;等を挙げることができる。これらのうち、脂環族炭化水素溶媒が好ましく、シクロヘキサンが特に好ましい。
【0025】
なお、有機溶媒の使用量は、合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは2,000重量部以下、より好ましくは20〜1,500重量部である。
【0026】
上記(1)の製造方法では、少なくとも1種以上のアニオン性界面活性剤を使用する。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノレン酸ナトリウム、ロジン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム、セチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、セチルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等のモノアルキルリン酸塩;等が挙げられる。
これらアニオン性界面活性剤の中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、脂肪酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩が特に好ましい。
【0027】
また、合成イソプレン重合体由来の、微量に残留する重合触媒(特に、アルミニウムとチタニウム)がより効率的に除去でき、ディップ成形用組成物製造時の凝集物の発生が抑制されることから、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用して用いることが好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩と、脂肪酸塩とを併用して用いることが特に好ましい。ここで、脂肪酸塩としては、ロジン酸ナトリウムおよびロジン酸カリウムが好ましく、また、アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸カリウムが好ましい。また、これらの界面活性剤は、1種単独でも2種以上を併用しても良い。
【0028】
なお、上述したように、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用して用いることにより、得られるディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスが、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを含有するものとなる。
【0029】
また、上記(1)の製造方法で使用できるアニオン性界面活性剤以外の界面活性剤としては、α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性の界面活性剤が挙げられる。
【0030】
さらに、ディップ成形時に使用する凝固剤での凝固を妨げない範囲であれば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性界面活性剤も併用できる。
【0031】
上記(1)の製造方法で用いるアニオン性界面活性剤の使用量は、合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは0.5〜50重量部であり、より好ましくは0.5〜40重量部、さらに好ましくは5〜30重量部である。なお、2種類以上の界面活性剤を用いる場合においては、これらの合計の使用量を上記範囲とすることが好ましい。すなわち、たとえば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用する場合には、これらの使用量の合計を上記範囲とすることが好ましい。アニオン性界面活性剤の使用量が少なすぎると、乳化時に凝集物が多量に発生するおそれがあり、逆に多すぎると、発泡しやすくなり、ディップ成形体にピンホールが発生する可能性がある。
【0032】
また、アニオン性界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用する場合には、これらの使用割合を、「脂肪酸塩」:「アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤の合計」の重量比で、1:1〜10:1の範囲とすることが好ましく、1:1〜7:1の範囲とすることがより好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤の使用割合が多すぎると、合成イソプレン重合体の取り扱い時に泡立ちが激しくなるおそれがあり、これにより、長時間の静置や、消泡剤の添加などの操作が必要になり、作業性の悪化およびコストアップに繋がるおそれがある。一方、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤の使用割合が少なすぎると、カルボキシル基を有する単量体をグラフト重合する際に、カルボキシル基を有する単量体の添加時に多量の凝集物が発生する傾向がある。
【0033】
本発明においては、上記の通り乳化時に多量のアニオン性界面活性剤を使用し、乳化後に遠心分離等の方法によりアニオン性界面活性剤の合計含有量を低減することが好ましい。グラフト重合時の、合成イソプレン重合体ラテックスにおける好ましいアニオン性界面活性剤の合計含有量は、合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、特に好ましくは0.1〜3重量部である。
【0034】
上記(1)の製造方法で使用する水の量は、合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは50〜5000重量部、より好ましくは500〜4000重量部である。使用する水の種類としては、硬水、軟水、イオン交換水、蒸留水、ゼオライトウォーターなどが挙げられ、軟水、イオン交換水および蒸留水が好ましい。
【0035】
有機溶媒に溶解または微分散した合成イソプレン重合体の溶液または微細懸濁液を、アニオン性界面活性剤の存在下、水中で乳化する装置は、一般に乳化機又は分散機として市販されているものであれば特に限定されず使用できる。そして、アニオン性界面活性剤の添加方法は、特に限定されず、予め水および/または合成イソプレン重合体の溶液または微細懸濁液に添加しても、乳化操作を行っている最中に、乳化液に添加してもよく、一括添加しても、分割添加してもよい。
【0036】
乳化装置としては、例えば、商品名「ホモジナイザー」(IKA社製)、商品名「ポリトロン」(キネマティカ社製)、商品名「TKオートホモミキサー」(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機;商品名「TKパイプラインホモミキサー」(特殊機化工業社製)、商品名「コロイドミル」(神鋼パンテック社製)、商品名「スラッシャー」(日本コークス工業社製)、商品名「トリゴナル湿式微粉砕機」(三井三池化工機社製)、商品名「キャビトロン」(ユーロテック社製)、商品名「マイルダー」(太平洋機工社製)、商品名「ファインフローミル」(太平洋機工社製)等の連続式乳化機;商品名「マイクロフルイダイザー」(みずほ工業社製)、商品名「ナノマイザー」(ナノマイザー社製)、商品名「APVガウリン」(ガウリン社製)等の高圧乳化機;商品名「膜乳化機」(冷化工業社製)等の膜乳化機;商品名「バイブロミキサー」(冷化工業社製)等の振動式乳化機;商品名「超音波ホモジナイザー」(ブランソン社製)等の超音波乳化機;等が挙げられる。なお、乳化装置による乳化操作の条件は、特に限定されず、所望の分散状態になるように、処理温度、処理時間などを適宜選定すればよい。
【0037】
上記(1)の製造方法においては、乳化操作を経て得られた乳化物から、有機溶媒を除去することが望ましい。
乳化物から有機溶媒を除去する方法としては、得られる合成イソプレン重合体ラテックス中における、有機溶媒(好ましくは脂環族炭化水素溶媒)の含有量を500重量ppm以下とすることが好ましく、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留、遠心分離等の方法を採用することができる。
【0038】
カルボキシ変性合成イソプレン重合体
本発明のディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを構成するカルボキシ変性合成イソプレン重合体は、上記の合成イソプレン重合体にカルボキシル基を有する単量体を水相中でグラフト重合して得られる。
【0039】
カルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分は30重量%以上であることが必要であり、好ましくは60重量%以上である。テトラヒドロフラン不溶解分が少な過ぎると、ディップ成形体の引張強度が低くなる。
【0040】
また、カルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフランに対する膨潤度が30倍以下であることが好ましく、20倍以下であることが特に好ましい。テトラヒドロフランに対する膨潤度が大きすぎると、引張強度と引裂強度が低くなる傾向がある。
【0041】
なお、テトラヒドロフランに対する膨潤度は、後述するように、カルボキシ変性合成イソプレン重合体のラテックスを枠付きガラス板に流延した後、長時間放置することにより水分を除去してフィルムを得て、このフィルムをテトラヒドロフランに所定時間浸漬し、浸漬前後の重量の比から計算で求めればよい。
【0042】
また、カルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフランに対する膨潤度を30倍以下にする方法は特に限定されないが、例えば、後述するカルボキシル基を有する単量体のグラフト重合において、カルボキシル基を有する単量体を、合成イソプレン重合体100重量部に対し、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは2〜50重量部使用し、グラフト重合の転化率を95重量%以上にすれば良い。
【0043】
カルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分を30重量%以上とする方法としては、特に限定されず、例えば、(ア)上記(1)の製造方法で得られた合成イソプレン重合体ラテックスに、有機過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス触媒を添加して架橋する方法や、(イ)上記(1)の製造方法で得られた合成イソプレン重合体ラテックスに、ジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等の架橋性単量体を添加し、該架橋性単量体を従来公知の方法でグラフト重合する方法、などが挙げられるが、後述するカルボキシル基を有する単量体のグラフト重合と同時に行うことができることから、上記(ア)の方法が好ましい。
【0044】
有機過酸化物としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられるが、得られるディップ成形体の機械的強度向上の観点から、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが好ましい。これらの有機過酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
有機過酸化物の使用量は、特に限定されないが、合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは0.01〜3重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。
【0046】
還元剤としては、例えば、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;等が挙げられる。これらの還元剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
還元剤の使用量は、特に限定されないが、有機過酸化物1重量部に対して0.01〜1重量部であることが好ましい。
【0048】
有機過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス触媒を用いて、カルボキシル基を有する単量体のグラフト重合と同時に合成イソプレン重合体の架橋を行う場合には、従来公知のグラフト重合方法が採用できる。また、有機過酸化物と還元剤の添加方法も一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法が可能である。
【0049】
反応温度としては、レドックス触媒でグラフト重合を行う場合には5〜70℃が好ましく、10〜70℃がより好ましい。
【0050】
好適な具体例としては、乳化物から有機溶媒を除去した後の合成イソプレン重合体ラテックスに、カルボキシル基を有する単量体、および、有機過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス触媒を添加して水相中でグラフト重合し、同時に合成イソプレン重合体の架橋も行うことにより、カルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分を制御する。
この際、合成イソプレン重合体ラテックスの固形分濃度は特に限定されないが、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%である。この固形分濃度が低すぎるとグラフト率が低下し、高すぎると凝集物が発生する傾向がある。
【0051】
カルボキシル基を有する単量体としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ2−ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル単量体;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の多価カルボン酸無水物;などを挙げることができるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸が特に好ましい。なお、これらの単量体は1種単独でも、2種以上を併用して用いても良い。
また、上記カルボキシル基は、アルカリ金属やアンモニア等との塩になっているものも含まれる。
【0052】
カルボキシル基を有する単量体の使用量は、合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは0.01重量部〜100重量部、より好ましくは0.01重量部〜40重量部、更に好ましくは0.5重量部〜20重量部である。カルボキシル基を有する単量体の使用量が少な過ぎると、ディップ成形体の引張強度が低くなる傾向がある。逆に、カルボキシル基を有する単量体の使用量が多過ぎると、得られるカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの粘度が高くなり過ぎて、移送ができなくなる場合がある。
【0053】
カルボキシル基を有する単量体を合成イソプレン重合体ラテックスに添加する方法としては、特に限定されず、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を採用することができる。
【0054】
なお、上述したテトラヒドロフラン不溶解分の制御と、カルボキシル基を有する単量体のグラフト重合は別々に行うこともできる。その場合においてグラフト重合の重合触媒(グラフト重合触媒)としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができるが、得られるディップ成形体の機械的強度向上の観点から、有機過酸化物が好ましく、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが特に好ましい。
【0055】
上記グラフト重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。グラフト重合触媒の使用量は、その種類によって異なるが、合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜5重量部である。また、グラフト重合触媒を添加する方法としては、特に限定されず、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を採用することができる。
【0056】
なお、グラフト重合の転化率は、95重量%以上が好ましく、97重量%以上が特に好ましい。グラフト重合の転化率が低すぎる場合には、引張強度と引裂強度が低くなる傾向がある。
【0057】
上記のようにして得られる、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスには、ラテックスの分野で通常配合される、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、キレート化剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合してもよい。
【0058】
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物;等が挙げられるが、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
【0059】
また、グラフト重合した後、必要に応じ、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法で濃縮操作を施してもよいが、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス中のアニオン性界面活性剤の残留量を調整することができるという観点より、遠心分離を行うことが好ましい。
【0060】
グラフト重合後のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを遠心分離機にかける場合、ラテックスの機械的安定性の向上のため、予めpH調整剤を添加してラテックスのpHを7以上としておくことが好ましく、更に好ましくはpHを9以上としておく。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
なお、ラテックスのpHを調整した際に、変性により導入したカルボキシル基は、塩の状態になっていてもよい。
【0061】
遠心分離は、たとえば、連続遠心分離機を用いて、遠心力を、好ましくは4,000〜5,000G、遠心分離前のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの固形分濃度を、好ましくは2〜15重量%、遠心分離機に送り込む流速を、好ましくは500〜2000Kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)を、好ましくは0.03〜1.6MPaの条件にて実施することが好ましい。
【0062】
本発明のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの固形分濃度は、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜70重量%である。固形分濃度が低すぎると、該ラテックスを貯蔵した際に重合体粒子が分離する懸念があり、逆に高すぎると、重合体粒子同士が凝集して粗大凝集物が発生する場合がある。
【0063】
本発明のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの体積平均粒子径は、0.5〜10μm、好ましくは0.5〜3μm、より好ましくは0.5〜2μmである。この体積平均粒子径が小さすぎると、ラテックス粘度が高くなりすぎて取り扱い難くなる場合があり、逆に大きすぎると、ラテックスを貯蔵した際にラテックス表面に皮膜が生成する場合がある。
【0064】
また、本発明のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスのアニオン性界面活性剤の合計含有量は、カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、特に好ましくは0.1〜3重量部である。アニオン性界面活性剤の合計含有量が上記範囲にある場合に、泡立ちの発生が抑制され、引張強度に優れ、ピンホールの発生が無いディップ成形体が得られ易い。
【0065】
本発明のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを構成するカルボキシ変性合成イソプレン重合体中のカルボキシル基(塩になっているものも含む)の量は、電導度滴定により求められる重合体1g当りの表面酸量(meq/g)で示され、好ましくは0.05〜2.0meq/g、より好ましくは0.05〜1.5meq/g、特に好ましくは0.05〜1.0meq/gである。表面酸量が小さ過ぎる(重合体中のカルボキシル基の量が少な過ぎる)と、ディップ成形体の引張強度の向上効果が得られにくい傾向があり、表面酸量が大き過ぎる(重合体中のカルボキシル基の量が多過ぎる)と、ラテックスの粘度が高くなり過ぎて、ポンプ等で移送しにくい場合がある。
なお、上記電導度滴定による表面酸量(meq/g)の測定は、特開2002−53602号に記載された「表面および水相の酸量測定」と同様の方法で測定すれば良い。
【0066】
また、カルボキシ変性合成イソプレン重合体中のカルボキシル基を有する単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは0.01〜50重量%、より好ましくは0.5〜40重量%、さらに好ましくは1〜30重量%、特に好ましくは1〜15重量%である。カルボキシ変性合成イソプレン重合体中のカルボキシル基を有する単量体単位の含有割合が多すぎると、手袋などのディップ成形体が硬くなり過ぎる場合があり、少なすぎると、カルボキシ変性合成イソプレン重合体のラテックスの機械的安定性が低下したり、得られるディップ成形体の引張強度および引裂強度の向上効果が得られにくい傾向がある。
【0067】
本発明のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを製造する際には、上述したように、テトラヒドロフラン不溶解分を制御するために、有機過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス触媒を添加して架橋する方法が好ましい。
しかしながら、有機過酸化物を使用する場合に、その使用量によっては、有機過酸化物の分解物であるアルコール由来の臭気が発生する場合がある。
そのため、本発明のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスは、アルコールを0.1〜100重量ppm含有することが好ましく、1〜50重量ppm含有することが好ましく、5〜40重量ppm含有することが特に好ましい。
【0068】
アルコールの含有量が多すぎる場合には、臭気が強くなり過ぎる場合がある。
そして、アルコールの含有量を少なくするために、有機過酸化物を全く使用しないか、使用量が少ない場合には、ディップ成形体の機械的強度が低下する傾向がある。
【0069】
また、有機過酸化物を使用する場合において、有機過酸化物の分解物であるアルコールは、通常、分子量が大きく、沸点が高いため、アルコールの含有量を過剰に少なくするためには、大掛かりな設備が必要になってしまう。
【0070】
有機過酸化物の分解物であるアルコールの具体例としては、1−メチル−1−[4−(1−メチルエチル)フェニル]エタノール、1−メチル−1−フェニルエタノール、t−ブチルアルコール、1,1,3,3−テトラメチル−1−ブタノールなどの分子量が60以上のアルコールが好ましく、分子量が100以上のアルコールがより好ましく、ディップ成形体の機械的強度向上の観点から、1,1,3,3−テトラメチル−1−ブタノール(1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドの分解物)が特に好ましい。
【0071】
なお、有機過酸化物の分解物であるアルコールの分子量は、300以下であることが好ましく、250以下であることが特に好ましい。
【0072】
また、有機過酸化物の分解物であるアルコールの沸点は、100℃以上が好ましく、100〜200℃が特に好ましい。
【0073】
本発明のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス中のアルコール含有量を上記範囲にする方法は特に限定されないが、グラフト重合後のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを遠心分離機で処理した後(「濃縮」により、アルコール含有量は増加する)、さらに脱臭工程(アルコール除去工程)を行うことが好ましい。
【0074】
遠心分離機による処理は、上述した遠心分離の条件と同様にして行うことができる。
また、脱臭工程(アルコール除去工程)は、固形分濃度30〜70重量%のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスに、該ラテックスの1〜3倍(重量基準)の水を添加して希釈した後、30℃〜100℃の温度条件で、減圧度を−0.027〜−0.101MPa(ゲージ圧)にして、減圧蒸留を行って濃縮することが好ましい。
なお、場合によっては、グラフト重合後のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスに脱臭工程(アルコール除去工程)を行った後、遠心分離機で処理しても良い。
【0075】
ディップ成形用組成物
本発明のディップ成形用組成物は、上記カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスに加えて、硫黄系加硫剤および加硫促進剤を含有してなる。
【0076】
硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等の硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリン・ジスルフィド、アルキルフェノール・ジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼピノンー2)、含りんポリスルフィド、高分子多硫化物、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等の硫黄含有化合物が挙げられる。なかでも、硫黄が好ましく使用できる。これらの硫黄系加硫剤は、1種単独でも、2種以上を併用して用いることもできる。
【0077】
硫黄系加硫剤の使用量は、特に限定されないが、カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.2〜3重量部である。この量が上記範囲にある場合に、ディップ成形体の引張強度がより一層向上する。
【0078】
加硫促進剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用でき、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4′−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホニリル−2−ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3−ビス(2−ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられるが、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの加硫促進剤は、1種単独でも、2種以上を併用して用いることもできる。
【0079】
加硫促進剤の使用量は、カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部であり、更に好ましくは0.1〜2重量部である。この量が少な過ぎるとディップ成形体の引張強度が低下する場合がある。また、この量が多過ぎると、ディップ成形体の伸び、および引張強度が低下する場合がある。
【0080】
本発明のディップ成形用組成物は、さらに酸化亜鉛を含有することが好ましい。
酸化亜鉛の含有量は、特に限定されないが、カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部、より好ましくは0.2〜2重量部である。この量が少な過ぎるとディップ成形体の引張強度が低下する傾向があり、逆に多過ぎると、ディップ成形用組成物中のカルボキシ変性合成イソプレン重合体粒子の安定性が低下し、粗大な凝集物が発生する場合がある。
【0081】
本発明のディップ成形用組成物には、さらに、分散剤;老化防止剤;カーボンブラック、シリカ、タルク等の補強剤;炭酸カルシウム、クレー等の充填剤;紫外線吸収剤;可塑剤;等の配合剤を必要に応じて配合することができる。
【0082】
老化防止剤としては、2,6−ジ−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、スチレン化フェノール、2,2’−メチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、アルキル化ビスフェノール、p−クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物、などの硫黄原子を含有しないフェノール系老化防止剤;2,2’−チオビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−o−クレゾール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノールなどのチオビスフェノール系老化防止剤;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコール・ジホスファイトなどの亜燐酸エステル系老化防止剤;チオジプロピオン酸ジラウリルなどの硫黄エステル系老化防止剤;フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)−ジフェニルアミン、4,4’―(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物などのアミン系老化防止剤;6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンなどのキノリン系老化防止剤;2,5−ジ−(t−アミル)ハイドロキノンなどのハイドロキノン系老化防止剤;などが挙げられる。これらの老化防止剤は、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0083】
老化防止剤の使用量は、カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して、好ましくは0.05〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。
この量が少な過ぎると、カルボキシ変性合成イソプレン重合体が劣化する場合がある。また、この量が多過ぎると、ディップ成形体の引張強度が低下する場合がある。
【0084】
ディップ成形用組成物の調製方法は、特に限定されない。当該調製方法としては、ボールミル、ニーダー、ディスパー等の分散機を用いて、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスに、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、酸化亜鉛および必要に応じて配合される分散剤や老化防止剤などのその他の配合剤を混合する方法や、予め上記の分散機を用いて、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス以外の所望の配合成分の水性分散液を調製した後、該水性分散液をカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスに混合する方法などが挙げられる。
【0085】
ディップ成形用組成物のpHは、7以上であることが好ましく、pHが8〜12の範囲であることがより好ましい。また、ディップ成形用組成物の固形分濃度は、15〜65重量%の範囲にあることが好ましい。
【0086】
本発明のディップ成形用組成物は、ディップ成形に供する前に、熟成(前加硫ともいう。)させることが好ましい。前加硫する時間は、特に限定されず、前加硫温度にも依存するが、好ましくは1〜14日間であり、更に好ましくは1〜7日間である。この時間が短すぎても長すぎても得られるディップ成形体の引張強度が低下する場合がある。なお、前加硫温度は、好ましくは20〜40℃である。
そして、前加硫した後、ディップ成形に供されるまで、好ましくは10〜30℃の温度で貯蔵することが好ましい。高温のまま貯蔵すると、得られるディップ成形体の引張強度が低下する場合がある。
【0087】
ディップ成形体
本発明のディップ成形体は、本発明のディップ成形用組成物をディップ成形して得られる。ディップ成形は、ディップ成形用組成物に型を浸漬し、型の表面に当該組成物を沈着させ、次に型を当該組成物から引き上げ、その後、型の表面に沈着した当該組成物を乾燥させる方法である。なお、ディップ成形用組成物に浸漬される前の型は予熱しておいてもよい。また、型をディップ成形用組成物に浸漬する前、または、型をディップ成形用組成物から引き上げた後、必要に応じて凝固剤を使用できる。
【0088】
凝固剤の使用方法の具体例としては、ディップ成形用組成物に浸漬する前の型を凝固剤の溶液に浸漬して型に凝固剤を付着させる方法(アノード凝着浸漬法)、ディップ成形用組成物を沈着させた型を凝固剤溶液に浸漬する方法(ティーグ凝着浸漬法)などがあるが、厚みムラの少ないディップ成形体が得られる点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
【0089】
凝固剤の具体例としては、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどのハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛などの硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛など酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;などの水溶性多価金属塩である。なかでも、カルシウム塩が好ましく、硝酸カルシウムがより好ましい。
これらの水溶性多価金属塩は、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0090】
凝固剤は、好ましくは水溶液の状態で使用する。この水溶液は、さらにメタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒やノニオン性界面活性剤を含有していてもよい。凝固剤の濃度は、水溶性多価金属塩の種類によっても異なるが、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0091】
型をディップ成形用組成物から引き上げた後、通常、加熱して型上に形成された沈着物を乾燥させる。乾燥条件は適宜選択すればよい。
【0092】
次いで、加熱して、型上に形成された沈着物を加硫する。
加硫時の加熱条件は、特に限定されないが、好ましくは60〜150℃、より好ましくは100〜130℃の加熱温度で、好ましくは10〜120分の加熱時間である。
加熱の方法は、特に限定されないが、オーブンの中で温風で加熱する方法、赤外線を照射して加熱する方法などがある。
【0093】
また、ディップ成形用組成物を沈着させた型を加熱する前あるいは加熱した後に、水溶性不純物(例えば、余剰の界面活性剤や凝固剤)を除去するために、型を水または温水で洗浄することが好ましい。用いる温水としては好ましくは40℃〜80℃であり、より好ましくは50℃〜70℃である。
【0094】
加硫後のディップ成形体は、型から脱着される。脱着方法の具体例は、手で型から剥がす方法、水圧又は圧縮空気圧力により剥がす方法、などがある。加硫途中のディップ成形体が脱着に対する十分な強度を有していれば、加硫途中で脱着し、引き続き、その後の加硫を継続してもよい。
【0095】
本発明のディップ成形体は、引張強度に優れているため、手袋に用いることが好ましい。ディップ成形体が手袋である場合、ディップ成形体同士の接触面における密着を防止し、着脱の際の滑りをよくするために、タルク、炭酸カルシウムなどの無機微粒子または澱粉粒子などの有機微粒子を手袋表面に散布したり、微粒子を含有するエラストマー層を手袋表面に形成したり、手袋の表面層を塩素化したりしてもよい。
【0096】
なお、本発明のディップ成形体は、引裂強度にも優れるものが好ましい。
すなわち、本発明のディップ成形体のASTM D624−00(Die C、500mm/min)で測定した引裂強度は、30N/mm以上であることが好ましく、40N/mm以上であることが特に好ましい。
【0097】
また、本発明のディップ成形体は、上記手袋の他にも、哺乳瓶用乳首、スポイト、チューブ、水枕、バルーンサック、カテーテル、コンドームなどの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具;加圧成形用バック、ガス貯蔵用バックなどの工業用品;指サックなどにも用いることができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明が詳細に説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。なお、各種の物性は以下のように測定された。
【0099】
界面活性剤の含有量
ラテックスを0.15g精秤して超純水2mlに添加した後、アセトニトリルを添加することで、溶液を10mlに調整した。次いで、上澄み液を0.2μmのディスクフィルターでろ過した後、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記の条件で測定した。
カラム:商品名「ZORBOX XDB−C18 1.8μ」(アジレント・テクノロジー社製)
カラム温度:40℃
流速:0.75 ml/min.
検出器:DAD(ダイオードアレイ検出器)
注入量:2μL
【0100】
グラフト重合の転化率
下記の装置およびカラムを用いて、ガスクロマトグラフィー分析を行うことにより、先ず未反応のメタクリル酸量を求めた。重合に使用したメタクリル酸量から未反応のメタクリル酸量を差し引いて反応したメタクリル酸量を算出し、これを重合に使用したメタクリル酸量で割って百分率で表示した(単位:%)
装置:商品名「GC−4000」(ジーエルサイエンス社製)
キャピラリーカラム:商品名「InertCap PureWax ProG2m 0.25×30m df=0.25」
(ジーエルサイエンス社製)
検出器:FID
【0101】
テトラヒドロフラン不溶解分
蒸留水で固形分濃度を30%に調整したラテックス40gを枠付きガラス板(16cm×23cm)に流延し、23℃、相対湿度50%で5日間静置して厚み0.2〜0.3mmのフィルムを得た。このフィルムを縦5mm、横5mmの大きさに細分して試料とした。試料約0.2gの重量(A)を精秤した後、80メッシュのステンレス金網製の篭に入れた状態でテトラヒドロフラン(和光純薬社製1級)100ml入りのビーカに浸漬し、23℃で48時間置いてから取り出した。これを23℃の室内に1時間以上置いてから105℃で2時間加熱し、乾燥状態の不溶解分の重量(B)を測定した。テトラヒドロフラン不溶解分量は下記計算式により求めた。
テトラヒドロフラン不溶解分量=(B/A)×100(重量%)
【0102】
テトラヒドロフランに対する膨潤度
蒸留水で固形分濃度を30%に調整したラテックス40gを枠付きガラス板(16cm×23cm)に流延し、23℃、相対湿度50%で5日間静置して厚み0.2〜0.3mmのフィルムを得た。このフィルムを縦5mm、横5mmの大きさに細分して試料とした。試料約0.2gを精秤した後、80メッシュのステンレス金網製の篭(重量:B1)に入れた状態でテトラヒドロフラン(和光純薬社製1級)100ml入りのビーカに浸漬し、23℃で48時間置いてから篭ごと取り出した。垂れる溶剤を除去した後、すぐに篭ごと重量を測定した(重量:B2)。
これを篭ごとドラフト内で12時間放置後、105℃で2時間加熱した。その後、篭ごと重量を測定し(重量:B3)、テトラヒドロフランに対する膨潤度を下記計算式により求めた。
テトラヒドロフランに対する膨潤度(倍)=(B2−B1)/(B3−B1)
【0103】
機械的安定性
固形分濃度が55%に調整されたラックス75gをマーロン安定性試験機にセットし、荷重10Kg/cm(ゲージ圧)の圧力で5分間加圧した。加圧後のラテックスを80メッシュ金網(重量:C1(g))で濾過し、105℃の乾燥機内で2時間乾燥させた。乾燥後の金網(凝集物が付着している)の重量(C2(g))を測定し、下記計算式により機械的安定性を求めた。数値が小さいほど、ラテックスの機械的安定性が高い。
機械的安定性(%)=[(C2−C1)/(75×0.55)]×100
【0104】
ディップ成形体の引張強度
ディップ成形体の引張強度は、ASTM D412に基づいて測定した。
フィルム状のディップ成形体を、ダンベル(商品名「スーパーダンベル(型式:SDMK−100C)」、(株)ダンベル社製)で打ち抜き、引張強度測定用試験片を作製した。当該試験片をテンシロン万能試験機(商品名「RTG−1210」、(株)オリエンテック製)で引張速度500mm/minで引っ張り、破断直前の引張強度(単位:MPa)、破断直前の伸び(単位:%)を測定した。
【0105】
ディップ成形体の引裂強度
ディップ成形体の引裂強度は、ASTM D624−00に基づいて測定した。
膜厚が約0.2mmのフィルム状のディップ成形体を、23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室で24時間以上放置した後、ダンベル(Die C:ダンベル社製)で打ち抜き、引裂強度測定用の試験片を作製した。当該試験片をテンシロン万能試験機(商品名「RTG−1210」、A&D(株)製)で引張速度500mm/minで引っ張り、引裂強度(単位:N/mm)を測定した。
【0106】
残留金属量
ラテックス中の残留金属量(アルミニウム原子とチタン原子の合計含有量)は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)を用いて、下記のようにして測定を行った。
ラテックス0.15gを白金るつぼに秤量した。これを加熱して水分を飛ばした後、硫酸0.2mlを添加して煙が出なくなるまで加熱した。これを550℃の電気炉に2時間入れて灰化させた後、硫酸0.5mlと超純水5mlを添加して更に加熱して溶解させた。これに硝酸0.2mlを添加した後、超純水で20mlにした。これを測定用サンプルとした。
装置:商品名「SPS−5100」(SIIナノテクノロジー社製)、
検量線:内部標準検量線法
【0107】
ディップ成形用組成物中の凝集物量(200メッシュ濾過)
予め重量を測定した200メッシュステンレス製金網(重量:C)を用いてディップ成形用組成物(固形分濃度:D重量%、重量:E)を濾過した。この金網を105℃の乾燥機内で2時間以上乾燥させた後、乾燥後の金網の重量(重量:F)を測定した。次に、ディップ成形用組成物中の凝集物量(重量%)を下記の式で求めた。
凝集物量=[(F−C)/(D×E)]×10000(重量%)
【0108】
1,1,3,3−テトラメチル−1−ブタノール量およびシクロヘキサン量
下記の装置およびカラムを用いて、ガスクロマトグラフィー分析を行うことにより、求めた。
(1,1,3,3−テトラメチル−1−ブタノール量)
装置:商品名「GC−2010」(島津製作所社製)
カラム:商品名「ZB−1」(島津製作所社製)
検出器:FID
【0109】
(シクロヘキサン量)
装置:商品名「GC」(Perkin Elmer社製)
カラム:商品名「NEUTRA BOND−1」(GL Science社製)
検出器:FID
【0110】
製造例1
(合成イソプレン重合体ラテックスの製造)
重量平均分子量が1,300,000の合成イソプレン重合体(商品名「NIPOL IR2200L」、日本ゼオン(株)製、イソプレンの単独重合体、シス結合単位量98%)をシクロヘキサンと混合し、攪拌しながら温度を60℃に昇温して溶解し、B形粘度計で測定した粘度が12,000mPa・sのポリイソプレンのシクロヘキサン溶液(a)を調製した(固形分濃度8重量%)。
【0111】
一方、ロジン酸ナトリウム10部とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部を水と混合し、重量比で、ロジン酸ナトリウム/ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム=2/1の混合物を含有してなる、温度60℃で濃度1.5重量%のアニオン性界面活性剤水溶液(b)を調製した。
【0112】
次に、上記シクロヘキサン溶液(a)と、上記アニオン性界面活性剤水溶液(b)とを、重量比で1:1.5となるように(このときの固形分比は、ポリイソプレン:アニオン性界面活性剤=8:2.25)、商品名「マルチラインミキサーMS26−MMR−5.5L」(佐竹化学機械工業株式会社製)を用いて混合し、続いて、商品名「マイルダーMDN310」(太平洋機工株式会社製)を用い4100rpmで混合及び乳化して、乳化液(c)を得た。なお、その際、シクロヘキサン溶液(a)とアニオン性界面活性剤水溶液(b)の合計のフィード流速は2,000kg/hr、温度は60℃、背圧(ゲージ圧)は0.5MPaとした。
【0113】
次いで、乳化液(c)を、−0.01〜−0.09MPa(ゲージ圧)の減圧下で80℃に加温し、シクロヘキサンを留去し、合成イソプレン重合体の水分散液(d)を得た。その際、消泡剤として、商品名「SM5515」(東レ・ダウコーニング社製)を用い、乳化液(c)中の合成イソプレン重合体に対して300重量ppmの量になるよう、噴霧しながら連続添加を行った。
【0114】
なお、シクロヘキサンを留去する際には、乳化液(c)がタンクの容積の70体積%以下になるように調整し、かつ、攪拌翼として3段の傾斜パドル翼を用い、60rpmでゆっくり攪拌を実施した。
【0115】
そして、得られたシクロヘキサンの留去が完了した後、得られた水分散液(d)を、連続遠心分離機(商品名「SRG510」、アルファラバル社製)を用いて、4,000〜5,000Gで遠心分離し、軽液としての固形分濃度56重量%の合成イソプレン重合体ラテックス(e)を得た。なお、遠心分離の際の条件は、遠心分離前の水分散液(d)の固形分濃度10重量%、連続遠心分離時の流速は1300kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)は1.5MPaであった。
【0116】
得られた合成イソプレン重合体ラテックス(e)は、固形分濃度が56重量%、体積平均粒子径が1.0μm、pH=10、B形粘度計で測定した粘度が120mPa・s、アニオン性界面活性剤の合計含有量が合成イソプレン重合体100部あたり3.0部であった。また、ラテックス(e)中の凝集物は観察されず、ラテックス(e)中の残留金属量(アルミニウム原子とチタン原子の合計含有量)は、250重量ppmであった。結果を表1に示す。
【0117】
製造例2
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部をドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム15部に変更し、ロジン酸ナトリウムを使用しなかった以外は、製造例1と同様にして合成イソプレン重合体ラテックス(f)を得た。
【0118】
得られた合成イソプレン重合体ラテックス(f)は、固形分濃度が56重量%、体積平均粒子径が0.9μm、pH=10、B形粘度計で測定した粘度が140mPa・s、アニオン性界面活性剤の合計含有量が合成イソプレン重合体100部あたり3.3部であった。また、ラテックス(f)中の凝集物は観察されず、ラテックス(f)中の残留金属量(アルミニウム原子とチタン原子の合計含有量)は、640重量ppmであった。結果を表1に示す。
【0119】
製造例3
ロジン酸ナトリウムとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを水と混合した濃度1.5重量%のアニオン性界面活性剤水溶液(b)に代えて、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名「エマルゲン1150S−60」、花王株式会社製)の濃度1.5重量%のノニオン性界面活性剤水溶液(o)を用いた以外は、製造例1と同様にして合成イソプレン重合体ラテックスを得ようとしたが、ラテックス中に凝集物が多量に発生したため、メタクリル酸をグラフト重合するのに適した合成イソプレン重合体ラテックスを得ることができなかった。
【0120】
実施例1
製造例1で得られた合成イソプレン重合体ラテックス(e)の合成イソプレン重合体100部に対して、蒸留水850部を添加して希釈した。この希釈したラテックスを窒素置換された攪拌機付き重合反応容器に仕込み、撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。また、別の容器を用い、メタクリル酸5部と蒸留水16部を混合してメタクリル酸希釈液を調製した。このメタクリル酸希釈液を、30℃にまで加温した重合反応容器内に、30分間かけて添加した。
【0121】
更に、別の容器を用い、蒸留水7部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(商品名「SFS」、三菱ガス化学社製)0.32部、硫酸第一鉄(商品名「フロストFe」、中部キレスト社製)0.01部からなる溶液(g)を調製した。この溶液を重合反応容器内に添加した後、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(商品名「パーオクタH」、日本油脂社製)0.5部を添加して30℃で1時間反応を行い、更に70℃で2時間反応させた(グラフト重合の転化率は、99重量%)。
【0122】
反応後、水酸化ナトリウムを添加してpHを10に調整した後、これを連続遠心分離機(商品名「SRG510」、アルファラバル社製)を用いて、4,000〜5,000Gで遠心分離(流速は1700kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)は0.08MPa)を行い、固形分濃度が56重量%、pHが10、B形粘度計で測定した粘度が180mPa・s、体積平均粒子径が1.0μm、アニオン性界面活性剤の合計含有量が1.9部(カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して)、残留シクロヘキサンが10重量ppm、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドの分解物である1,1,3,3−テトラメチル−1−ブタノール(沸点:145℃)の残留量が119重量ppmのカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)を得た。このカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)を乾燥して得られたカルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分は88重量%であった。
【0123】
(ディップ成形用組成物)
先ず、スチレン−マレイン酸モノ−sec−ブチルエステル−マレイン酸モノメチルエステル重合体(商品名「Scripset550」、Hercules社製)を、水酸化ナトリウムを用い、重合体中のカルボキシル基を100%中和して、分散剤(i)としてのナトリウム塩水溶液(濃度10重量%)を調製した。そして、この分散剤(i)を、上記のカルボキシ変性合成イソプレン重合体100部に対して、固形分換算で0.8部になるようにして、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に添加した。
【0124】
そして、得られた混合物を攪拌しながら、混合物中のカルボキシ変性合成イソプレン重合体100部に対して、固形分換算で、酸化亜鉛1.5部、硫黄1.5部、老化防止剤(商品名「Wingstay L」、グッドイヤー社製)2部、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛0.3部、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛0.5部、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩0.7部となるように、各配合剤の水分散液を添加した後、水酸化カリウム水溶液を添加して、pHを10.5に調整したディップ成形用組成物(j)を得た。
【0125】
その後、得られたディップ成形用組成物(j)を、25℃の恒温槽で48時間熟成した。
【0126】
(ディップ成形体)
表面がすり加工されたガラス型(直径約5cm、すり部長さ約15cm)を洗浄し、70℃のオーブン内で予備加熱した後、18重量%の硝酸カルシウムおよび0.05重量%のポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名「エマルゲン109P」、花王(株)製)からなる凝固剤水溶液に5秒間浸漬し、取り出した。
【0127】
次いで、凝固剤で被覆されたガラス型を70℃のオーブン内で乾燥した。その後、凝固剤で被覆されたガラス型をオーブンから取り出し、25℃の上記ディップ成形用組成物(j)に10秒間浸漬してから取り出し、室温で60分間乾燥してフィルムで被覆されたガラス型を得た。そして、このフィルムで被覆されたガラス型を60℃の温水中に2分間浸漬した後、室温で30分間風乾した。その後、このフィルムで被覆されたガラス型を120℃のオーブン内に置き20分間加硫を行った。加硫されたフィルムで被覆されたガラス型を室温まで冷却し、タルクを散布した後、当該フィルムをガラス型から剥離した。得られたフィルム(ディップ成形体)の引張強度および伸びの測定結果を表2に示す。
【0128】
実施例2
製造例1で得られた合成イソプレン重合体ラテックス(e)に代えて、製造例2で得られた合成イソプレン重合体ラテックス(f)を用いた以外は実施例1と同様にして、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(k)を得た。
【0129】
得られたカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(k)は、固形分濃度が56重量%、pHが10、B形粘度計で測定した粘度が200mPa・s、体積平均粒子径が0.9μm、アニオン性界面活性剤の合計含有量が2.2重量部(カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して)、残留シクロヘキサンが12重量ppm、1,1,3,3−テトラメチル−1−ブタノールの残留量が119重量ppmであった。また、このカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(k)を乾燥して得られた重合体のテトラヒドロフラン不溶解分は84重量%であった。
【0130】
(ディップ成形用組成物およびディップ成形体)
カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に代えて、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(k)を用いた以外は実施例1と同様にして、ディップ成形用組成物およびフィルム(ディップ成形体)を得た。得られたフィルム(ディップ成形体)の引張強度および伸びの測定結果を表2に示す。
【0131】
実施例3
蒸留水7部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(商品名「SFS」、三菱ガス化学社製)0.32部、硫酸第一鉄(商品名「フロストFe」、中部キレスト社製)0.01部からなる溶液(g)に代えて、蒸留水1.4部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(商品名「SFS」、三菱ガス化学社製)0.06部、硫酸第一鉄(商品名「フロストFe」、中部キレスト社製)0.002部からなる溶液(l)を用い、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(商品名「パーオクタH」、日本油脂社製)0.5部に代えて、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(商品名「パーオクタH」、日本油脂社製)0.1部を用いた以外は実施例1と同様にして、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(m)を得た。
【0132】
得られたカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(m)は、固形分濃度が56重量%、pHが10、B形粘度計で測定した粘度が160mPa・s、体積平均粒子径が1.0μm、アニオン性界面活性剤の合計含有量が2.0重量部(カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して)、残留シクロヘキサンが10重量ppm、1,1,3,3−テトラメチル−1−ブタノールの残留量が29重量ppmであった。また、このカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(m)を乾燥して得られた重合体のテトラヒドロフラン不溶解分は50重量%であった。
【0133】
(ディップ成形用組成物およびディップ成形体)
カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に代えて、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(m)を用いた以外は実施例1と同様にして、ディップ成形用組成物およびフィルム(ディップ成形体)を得た。得られたフィルム(ディップ成形体)の引張強度および伸びの測定結果を表2に示す。
【0134】
実施例4
実施例1で得られたカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを1.9重量部添加して、アニオン性界面活性剤の合計含有量が3.8部(カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して)のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(n)を得た。
【0135】
カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に代えて、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(n)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ディップ成形用組成物およびフィルム(ディップ成形体)を得た。結果を表2に示す。
【0136】
実施例5
実施例1と同様にして、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)(固形分濃度56重量%)を得た。
【0137】
このカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に、ラテックスの重量の2倍の水を加えて希釈し、ロータリーエバポレーターを用いて、温度80℃、減圧度−0.0933MPaの条件下で濃縮して、再び固形分濃度が56重量%のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(q)を得た。得られたカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(q)は、固形分濃度が56重量%、pHが10、B形粘度計で測定した粘度が170mPa・s、体積平均粒子径が1.0μm、アニオン性界面活性剤の合計含有量が1.9部(カルボキシ変性合成イソプレン重合体100重量部に対して)、残留シクロヘキサンが5重量ppm、1,1,3,3−テトラメチル−1−ブタノールの残留量が26重量ppmであった。また、このカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(q)を乾燥して得られた重合体のテトラヒドロフラン不溶解分は90重量%であった。
【0138】
カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に代えて、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(q)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ディップ成形用組成物およびフィルム(ディップ成形体)を得た。結果を表2に示す。
【0139】
比較例1
ディップ成形用組成物を調製する際に、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に代えて、製造例1で得られた合成イソプレン重合体ラテックス(e)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ディップ成形用組成物およびフィルム(ディップ成形体)を得た。結果を表2に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
【0142】
表2より、本発明の要件を満たすカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを用いて得られるディップ成形体は、引張強度に優れ、破れにくい手袋として使用できるものであった(実施例1〜5)。
【0143】
一方、水相中でメタクリル酸をグラフト重合していない(カルボキシ変性されていない)ために、本発明の要件を満たさない比較例1においては、ディップ成形体の引張強度が劣るものであった(比較例1)。
【0144】
なお、合成イソプレン重合体の製造時に、アニオン性界面活性剤を使用せず、ノニオン性界面活性剤のみを用いた場合には、凝集物が多量に発生し、メタクリル酸をグラフト重合したカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスの製造に適さないものになった(製造例3)。
【0145】
また、グラフト重合後のカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを遠心分離機で濃縮処理した後、さらに脱臭工程(アルコール除去工程)を行った場合には、1,1,3,3−テトラメチル−1−ブタノールの残留量が少なく、引張強度も良好で、臭気の問題も改善されていた(実施例5)。
【0146】
実施例6
実施例1と同様にして、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)を得た。このカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)について、テトラヒドロフラン不溶解分、テトラヒドロフランに対する膨潤度、および、機械的安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
また、実施例1と同様にして、フィルム(ディップ成形体)を得て、引張強度、伸び、および引裂強度の測定を行った。結果を表3に示す。
【0147】
実施例7
メタクリル酸5部に代えて、メタクリル酸10部を用いた以外は、実施例1と同様にして、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(r)を得た。このカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(r)について、テトラヒドロフラン不溶解分、テトラヒドロフランに対する膨潤度、および、機械的安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
また、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に代えて、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(r)を用いた以外は、実施例1と同様にして、フィルム(ディップ成形体)を得て、引張強度、伸び、および引裂強度の測定を行った。結果を表3に示す。
【0148】
実施例8
メタクリル酸5部に代えて、メタクリル酸30部を用いた以外は、実施例1と同様にして、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(s)を得た。このカルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(s)について、テトラヒドロフラン不溶解分、テトラヒドロフランに対する膨潤度、および、機械的安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
また、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に代えて、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(s)を用いた以外は、実施例1と同様にして、フィルム(ディップ成形体)を得て、引張強度、伸び、および引裂強度の測定を行った。結果を表3に示す。
【0149】
比較例2
カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に代えて、製造例1で得られた合成イソプレン重合体ラテックス(e)を用い、機械的安定性の評価を行った。結果を表3に示す。
また、ディップ成形用組成物を調製する際に、カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックス(h)に代えて、製造例1で得られた合成イソプレン重合体ラテックス(e)を用いた以外は、実施例1と同様にして、フィルム(ディップ成形体)を得て、引張強度、伸び、および引裂強度の測定を行った。結果を表3に示す。
【0150】
【表3】
【0151】
表3より、ディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスであって、少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含有し、該カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスを構成するカルボキシ変性合成イソプレン重合体のテトラヒドロフラン不溶解分が30重量%以上、かつ、テトラヒドロフランに対する膨潤度が30倍以下である、ディップ成形用カルボキシ変性合成イソプレン重合体ラテックスは、機械的安定性に優れ(凝集物の発生量が少ない)、また該ラテックスを用いて得られるディップ成形体は、引張強度のみならず、引裂強度にも優れ、手袋として特に好適に使用できるものであった(実施例6〜8)。
【0152】
一方、カルボキシ変性されていないために、本発明の要件を満たさない比較例2においては、ラテックスの機械的安定性に劣り(凝集物の発生量が多い)、得られるディップ成形体は、引張強度のみならず引裂強度にも劣るものであった(比較例2)。