(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属を製錬するプロセスにおいては、回収目的の有価成分と分離すべき不純物成分とを含有する酸性溶液に、炭酸カルシウム(CaCO
3)や消石灰(Ca(OH)
2)等のアルカリを中和剤として添加してpHを調整する中和処理を施し、その有価成分もしくは不純物成分のいずれかを水酸化物として分離する処理が一般的に行われている。
【0003】
例えば、上述した中和処理は、以下のような反応で表される。
Fe
3++3OH
− → Fe(OH)
3 ・・・(i)
CaCO
3+2H
+ → Ca
2++H
2O+CO
2 ・・・(ii)
Fe
2(SO
4)
3+3CaCO
3+9H
2O →
2Fe(OH)
3+3CaSO
4・2H
2O+H
2O ・・・(iii)
【0004】
上述した中和反応によって生成する、石膏(CaSO
4・2H
2O)を主成分とする中和澱物は、粒子が微細で嵩が高く、沈降性及び濾過性が悪いことが知られている。
【0005】
さて、中和反応で生成した中和澱物を工業的に固液分離する際には、例えばシックナー等を用いて実施されることが多く、シックナー等で大まかに固液分離した後、上澄み液を更にフィルタープレス等を用いて精密に濾過する処理が一般的に行われている。
【0006】
このような2段階の固液分離を行うことで、製錬プロセスの中和工程以降における液成分へのコンタミの防止と、濾過負荷を低減させることができる。
【0007】
しかしながら、上述のように中和澱物は嵩高く、沈降性や濾過性が悪い性状であるため、シックナー等による大まかな処理では固液分離が不十分となり、上澄み液に浮遊粒子として中和澱物が流入してしまうといった好ましくない状況を生じさせることがある。
【0008】
このような浮遊粒子の増加は、その後のフィルタープレス等の装置に用いられる濾布の目詰まりを促進させ、その結果、濾過流量が低下したり、濾布寿命が短命化する。そのため、中和澱物の沈降性を改善して、シックナー等での固液分離後にも清澄度の高い上澄み液を得ることを可能にする方法が求められる。
【0009】
例えば、このような中和澱物の沈降特性や濾過性を改善する方法として、凝縮剤や凝結剤を添加する方法や、種晶を添加する方法、反応温度を高くする方法等が知られている。
【0010】
具体的に、特許文献1には、中和工程において、中和澱物の沈降特性を改善することによって、中和設備のコンパクト化と共に濾過性を向上させて上澄み液のSS分を減少させる方法が開示されている。この方法は、被中和液にあらかじめ所定量のヘマタイトを加えた後、炭酸カルシウムや水酸化カルシウム等を加えて同時中和を行い、生成する中和澱物の沈降特性を改善して、中和澱物の嵩を低減させるという方法である。特に、添加するヘマタイトの量を、中和により生成する澱物に対して重量比で50%以上とすることが効果的であることが示されている。
【0011】
また、特許文献2には、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬において排出されるアルミニウムイオンを含有する酸性排水から、密度が高く、高濃度なアルミニウム澱物を分離回収する排水処理方法が開示されている。この方法は、アルミニウムイオンを含有する酸性排水に、アルカリと鉄を含有する固形物とを添加してスラリーとし、そのスラリーを静置して固液分離することによって、アルミニウム澱物と排水とを生成させるという方法である。
【0012】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された方法では、中和工程や固液分離工程における処理負荷の変動や始液pHの変動によって、固液分離後の上澄み液の清澄度にばらつきが生じることがある。
【0013】
特に、工業的には中和剤として消石灰や石灰石等のカルシウム系中和剤を用いることが多いが、カルシウム系の中和剤を用いて中和した場合、その中和剤が核となって微細な中和澱物が生成するようになり、その微細な中和澱物が、浮遊粒子や嵩高い低密度な澱物を生成させる原因となる。
【0014】
一方で、中和剤として水酸化ナトリウムや酸化マグネシウム等の水溶性の中和剤を用いると、カルシウム系の中和剤を用いた場合とは異なり、微細な澱物の生成を抑制することはできる。しかしながら、コストや量的な調達面で、工業的に用いることは困難である。
【0015】
さらに、稼働率を向上させ、作業での負荷を低減するためには、後工程に設置された濾過機の更なる負荷低減が望まれており、安定的に清澄度が高く浮遊粒子の少ない上澄み液を得る方法が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。なお、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」であることを意味する。
【0027】
≪1.中和処理方法≫
本実施の形態に係る中和処理方法は、硫酸酸性溶液にカルシウムを含む中和剤を添加してpHを調整することによって中和スラリーを生成させ、中和澱物と中和後液とに分離する中和処理方法である。
【0028】
そして、この中和処理方法では、処理対象である硫酸酸性溶液に、中和剤を添加するとともに、特定量の酸化鉄を添加して中和処理を施す。具体的には、生成する中和澱物の量の200重量%〜500重量%に相当する量の酸化鉄を添加することを特徴としている。
【0029】
このような中和処理方法によれば、生成する中和澱物の粒子の微細化を抑制して、沈降性を向上させることができ、上澄み液である中和後液における浮遊粒子の量を低減させることができる。また、その中和澱物を含むスラリーの濾過装置に対する濾過負荷を低減させることができ、効率的な分離処理を実現することができる。
【0030】
処理対象である硫酸酸性溶液としては、カルシウムを含む中和剤によって沈殿物となる元素成分を不純物として含む硫酸酸性の溶液を用いることができる。具体的には、例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて硫酸を用いた浸出処理により得られる浸出液を用いることができる。なお、その浸出液の詳細については、湿式製錬プロセスの流れを含めて後述する。
【0031】
中和剤としては、カルシウムを含むものであり、例えば、炭酸カルシウム(CaCO
3)スラリーや、消石灰(Ca(OH)
2)スラリー等が挙げられる。
【0032】
なお、この中和処理方法においては、硫酸酸性溶液に対して上述した中和剤を添加することによって、得られる中和後液のpHが3.0〜4.0の範囲となるようにすることが好ましく、3.15〜3.25の範囲となるようにすることがより好ましい。
【0033】
ここで、本実施の形態に係る中和処理方法では、上述したように、処理対象の硫酸酸性溶液に対して、中和剤を添加するとともに、酸化鉄を添加することを特徴としており、その酸化鉄の添加量は、中和処理により生成する中和澱物の量の200重量%〜500重量%に相当する量とする。
【0034】
酸化鉄は、生成する中和澱物の、いわゆる種晶として作用する。酸化鉄の添加量を生成する中和澱物に対して重量比で200%〜500%の範囲とすることによって、種晶としての酸化鉄に基づいて中和澱物の粒子を成長させ、その中和澱物の微細化を抑制することができる。これにより、その中和澱物の沈降性を向上させて、上澄み液の清澄度を高めることができる。これに対して、酸化鉄の添加量が、生成する中和澱物に対して重量比で200%未満の量であると、種晶として作用させるための量として十分でなく、石膏の微細な核が生成してしまい、沈降性が悪くなり、また上澄み液の清澄度が悪化する。一方で、酸化鉄の添加量が、生成する中和澱物に対して重量比で500%を超える量であると、種晶が過剰に存在する状態となるため、固液分離処理での固体負荷が増大し、かえって上澄み液の清澄度が悪化してしまう。
【0035】
また、この酸化鉄の添加量としては、好ましくは、中和処理により生成する中和澱物の量の250重量%〜350重量%に相当する量とする。好ましくは、このような添加量で酸化鉄を添加することによって、得られる中和澱物の微細化をより効果的に抑制して、より効率的に沈降性を向上させることができる。また、固液分離に際しても固体負荷を低減させることができる。
【0036】
酸化鉄としては、特に限定されないが、処理対象である硫酸酸性溶液に対して難溶性のものであることが好ましい。また、この酸化鉄としては、詳しくは後述する、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの浸出工程で得られる浸出残渣を用いることができる。この浸出残渣は、ヘマタイト(Fe
2O
3)を主成分とするものである。
【0037】
以上のように、本実施の形態に係る中和処理方法では、硫酸酸性溶液にカルシウムを含む中和剤を添加するとともに、生成する中和澱物の量の200重量%〜500重量%に相当する量の酸化鉄を添加して中和処理を施す。このような方法によれば、微細化を抑えて、沈降性を高めた中和澱物を生成させることができる。そして、このような中和澱物を含む溶液(スラリー)をシックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理することで、清澄度の高い上澄み液(中和後液)を得ることができる。また、沈降性の良好な中和澱物は、嵩が低い高密度な澱物であるため、その中和澱物の取り扱いも容易となる。
【0038】
≪2.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法での適用≫
本実施の形態に係る中和処理方法では、上述したように、処理対象として、カルシウムを含む石灰石や消石灰等の中和剤の添加により沈殿物を形成する元素を含む硫酸酸性溶液を用いる。
【0039】
そして、この中和処理方法は、例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおける中和工程での処理に適用することができる。このとき、その硫酸酸性溶液としては、原料のニッケル酸化鉱石のスラリーに対して高温高圧下で硫酸を用いた浸出処理を施して得られた浸出液を用いることができる。この浸出液には、ニッケルやコバルト等の有価金属のほかに、アルミニウム等の不純物成分を含有している。
【0040】
以下では、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスについての概要を説明して、その湿式製錬プロセスにおける中和工程での処理に、上述した中和処理方法を適用した具体的な態様について説明する。なお、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスとして、高温高圧下で浸出を行う高温加圧酸浸出法(HPAL法)による湿式製錬方法を例に挙げて説明する。
【0041】
<2−1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの各工程について>
図1は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスの流れの一例を示した工程図である。
図1に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスは、原料のニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、浸出スラリーから浸出残渣を分離してニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る固液分離工程S2と、浸出液のpHを調整して浸出液中の不純物元素を中和澱物スラリーとして分離し中和後液を得る中和工程S3と、中和後液に硫化水素ガスを添加することでニッケル及びコバルトの硫化物を生成させる硫化工程(ニッケル回収工程)S4とを有する。さらに、この湿式製錬プロセスは、硫化工程S4にて排出された貧液を回収し、それらを無害化して最終中和残渣を生成する最終中和工程S5を有する。
【0042】
(1)浸出工程
浸出工程S1では、オートクレーブ等の高温加圧反応槽を用い、ニッケル酸化鉱石のスラリー(鉱石スラリー)に硫酸を添加して、温度230℃〜270℃程度、圧力3〜5MPa程度の条件下で撹拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる。
【0043】
ニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8重量%〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10重量%〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、浸出工程S1では、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等を用いることができる。
【0044】
浸出工程S1における浸出処理では、例えば下記式(i)〜(v)で表される浸出反応と高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイト(Fe
2O
3)としての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。なお、この浸出工程S1では、次工程の固液分離工程S2で生成されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1〜1.0にとなるように調整することが好ましい。
【0045】
・浸出反応
MO+H
2SO
4⇒MSO
4+H
2O ・・・(i)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)
3+3H
2SO
4⇒Fe
2(SO
4)
3+6H
2O ・・・(ii)
FeO+H
2SO
4⇒FeSO
4+H
2O ・・・(iii)
・高温熱加水分解反応
2FeSO
4+H
2SO
4+1/2O
2⇒Fe
2(SO
4)
3+H
2O ・・・(iv)
Fe
2(SO
4)
3+3H
2O⇒Fe
2O
3+3H
2SO
4 ・・・(v)
【0046】
なお、鉱石スラリーを装入したオートクレーブへの硫酸の添加量としては、特に限定されないが、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。例えば、鉱石1トン当り300kg〜400kg程度とする。
【0047】
(2)固液分離工程
固液分離工程S2では、浸出工程S1で生成した浸出スラリーを洗浄して、ニッケルやコバルト等の有価金属を含む浸出液とヘマタイトを主成分とする浸出残渣とに分離する。
【0048】
固液分離工程S2では、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、浸出スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケルやコバルトをその希釈度合に応じて減少させることができる。なお、実操業では、このような機能を持つシックナーを多段に連結して用いることにより、ニッケル及びコバルトの回収率の向上を図ることができる。
【0049】
(3)中和工程
中和工程S3では、得られた浸出液に対して、炭酸カルシウム(石灰石)スラリーや水酸化カルシウム(消石灰)スラリー等の中和剤を添加して、不純物成分を含む中和澱物と、ニッケル回収用母液である中和後液とを得る。
【0050】
中和工程S3では、得られる中和後液のpHが所定の範囲となるように、その浸出液に中和剤を添加して、ニッケル回収用の母液の元となる中和後液と、不純物元素としてアルミニウムや鉄を含む中和澱物とを形成する。中和工程S3では、このように浸出液に対する中和処理(浄液処理)を施すことで、HPAL法による浸出処理で用いた過剰の酸を中和して中和終液と生成するとともに、溶液中に残留するアルミニウムイオンや3価の鉄イオン等の不純物を中和澱物として除去する。
【0051】
なお、この中和工程S3での中和処理に、上述した中和処理方法を適用することができ、微細化を抑えて、沈降性を高めた中和澱物を生成させることができる。
【0052】
(4)硫化工程(ニッケル回収工程)
硫化工程S4では、ニッケル及びコバルトを含む硫酸酸性溶液である中和後液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの硫化物と、ニッケルやコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液(硫化後液)とを生成させる。
【0053】
なお、中和後液中に亜鉛が含まれる場合には、硫化物としてニッケル及びコバルトを分離するに先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離することができる。
【0054】
硫化工程S4における硫化処理は、硫化反応槽等を用いて行うことができ、硫化反応槽に導入した硫化反応始液に対して、その反応槽内の気相部分に硫化水素ガスを吹き込み、溶液中に硫化水素ガスを溶解させることで硫化反応を生じさせる。この硫化処理により、硫化反応始液中に含まれるニッケル及びコバルトを硫化物として固定化して回収する。
【0055】
なお、硫化反応の終了後においては、得られたニッケル及びコバルトの硫化物を含むスラリーをシックナー等の沈降分離装置に装入して沈降分離処理を施し、その硫化物のみをシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分は、シックナーの上部からオーバーフローさせて貧液として回収する。なお、回収した貧液は、固液分離工程S2に繰り返し用いることもできる。
【0056】
(5)最終中和工程
最終中和工程S5では、上述した硫化工程S4にて排出された鉄、マグネシウム、マンガン等の不純物元素を含む貧液に対して、排出基準を満たす所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理)を施す。
【0057】
最終中和工程S5における無害化処理の方法、すなわちpHの調整方法としては、例えば炭酸カルシウム(石灰石)スラリーや水酸化カルシウム(消石灰)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。
【0058】
このような中和剤を用いた中和処理によって、最終中和残渣が生成され、テーリングダムに貯留される。一方で、中和処理後の溶液は、排出基準を満たすものとなり、系外に排出される。
【0059】
<2−2.中和工程、最終中和工程における中和処理方法について>
ここで、中和工程S3での処理、つまりニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して浸出して得られた、ニッケル等を含む硫酸酸性溶液である浸出液に対する中和処理においては、上述した中和処理方法を適用することができる。
【0060】
すなわち、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスでは、その中和工程S3において、処理対象である硫酸酸性溶液に対して、カルシウムを含む中和剤を添加するとともに、生成する中和澱物の量の200重量%〜500重量%に相当する量の酸化鉄を添加することによって中和処理を施し、不純物成分を固定化した中和澱物と中和後液とを生成させる。
【0061】
具体的な中和処理の方法についての詳細は、上述した内容と同様であるため、ここでの説明は省略するが、本実施の形態においては、このようにして浸出工程S1を経て得られた浸出液に対し、中和剤と共に特定量の酸化鉄を添加して中和処理を施すことによって、生成する中和澱物の微細化を抑えることができ、その中和澱物の沈降性を向上させることができる。これにより、中和処理後の固液分離に際して、中和後液となる上澄み液中における浮遊粒子を低減させることができ、清澄度の高い中和後液を得ることができる。
【0062】
そして、このように沈降性が良好な嵩の低い中和澱物を生成させることができることから、その中和澱物に付随する液成分(中和後液)の量を低減することができる。これにより、この湿式製錬プロセスにおいて、中和後液中に含まれるニッケルやコバルト等の有価金属が、中和澱物に付随してロスとなってしまうことを防ぐことができ、高い回収率でニッケルやコバルト等を回収することができる。
【0063】
また、この湿式製錬プロセスの中和工程S3における中和処理に、上述した中和処理方法を適用することによって、例えばその酸化鉄として、浸出工程S1で生成され浸出液と分離した浸出残渣を用いることができ、湿式製錬プロセスの全体として効率的でかつ安定的な操業を行うことができる。
【0064】
具体的に、浸出工程S1における浸出処理で得られる浸出残渣は、ヘマタイト(Fe
2O
3)を主成分とするものであり、固液分離工程S2における固液分離処理により、浸出残渣はシックナー等の底部より回収される。一方で、浸出残渣を分離除去した後の浸出液は、中和処理を行うための中和処理槽等に移送されるが、中和処理槽に移送された浸出液に対して中和剤を添加するとともに、固液分離工程S2にて回収した浸出残渣を酸化鉄として特定の割合で添加することによって、簡易な操作で、沈降性が良好な中和澱物を生成させることができる。
【0065】
なお、
図1の工程図にも示すように、この中和工程S3において得られた中和澱物は、その一部を固液分離工程S2に繰り返し用いることができる。
【0066】
また、最終中和工程S5での処理、つまり浸出液に対して硫化処理を施し、生成したニッケルの硫化物を分離した後の硫化後液(排水)に対する中和処理においても、上述した中和処理方法を適用することも可能である。具体的には、中和処理槽に移送された、硫化処理後の硫化後液に対して中和剤を添加するとともに、固液分離工程S2にて回収した浸出残渣を酸化鉄として特定の割合で添加することによって、同様に簡易な操作で、沈降性が良好な中和澱物を生成させることができる。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施した。その後、浸出処理後のスラリーに対して固液分離処理を施すことによって浸出液と浸出残渣とを分離して、ニッケル等の有価金属が含まれる浸出液を得た。なお、その浸出液は、液温が常温で、pH3.04であった。
【0069】
次に、得られた浸出液を始液として中和処理を施した。中和剤としては、固体量で20重量%〜30重量%の炭酸カルシウム(CaCO
3)スラリーを用いた。そして、その中和始液に対して中和剤を添加するとともに、酸化鉄を添加した。なお、中和処理後の中和後液のpHが3.21となるように中和剤を添加した。
【0070】
ここで、酸化鉄としては、鉄品位が40重量%〜45重量%のヘマタイト(Fe
2O
3)を用いた。また、酸化鉄としてのヘマタイトの添加量は、生成する中和澱物に対して重量比で274%に相当する量とした。なお、ヘマタイトとしては、浸出処理により生成した浸出残渣を用いた。
【0071】
中和処理においては、反応槽での滞留時間を0.7時間〜1.0時間とし、反応温度を約55℃に維持して行った。このような中和処理を施した後、得られた中和スラリーに対してシックナーを用いて固液分離し、シックナーで分離して得られた上澄み液(中和後液)の濁度を測定した。なお、散乱光式濁度計を用いて測定した。
【0072】
その結果、上澄み液の濁度は24NTUであった、また、上澄み液のシックナーの水面積に対する水面積負荷は29.3m
3/D/m
2であった。
【0073】
[実施例2]
実施例2では、酸化鉄としてのヘマタイトの添加量を、生成する中和澱物に対して重量比で490%に相当する量とした。なお、中和処理後の中和後液のpHが3.22となるように中和剤を添加した。その以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0074】
その結果、上澄み液の濁度は38NTUであった、また、上澄み液のシックナーの水面積に対する水面積負荷は34.2m
3/D/m
2であった。
【0075】
[比較例1]
比較例1では、中和始液である浸出液として、pHが2.53のものを用いた。そして、その浸出液に中和剤を添加して、pHが3.25となるように調整して中和処理を施した。このとき、酸化鉄としてのヘマタイトを、生成する中和澱物に対して重量比で180%に相当する量を添加した。その以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0076】
その結果、上澄み液の濁度は83NTUであった、また、上澄み液のシックナーの水面積に対する水面積負荷は32.9m
3/D/m
2であった。
【0077】
[比較例2]
比較例2では、酸化鉄としてのヘマタイトの添加量を、生成する中和澱物に対して重量比で1080%に相当する量とした。なお、中和処理後の中和後液のpHが3.23となるように中和剤を添加した。その以外は、実施例1と同様にして処理した。
【0078】
その結果、上澄み液の濁度は62NTUであった、また、上澄み液のシックナーの水面積に対する水面積負荷は33.5m
3/D/m
2であった。
【0079】
下記表1に、実施例、比較例にて行った中和処理の処理結果をまとめて示す。
【0080】
【表1】
【0081】
以上のように、実施例1及び実施例2では、生成する中和澱物に対して重量比で200%〜500%に相当する酸化鉄を添加して中和処理を施したことにより、濁度が40NTU以下と高い清澄度の中和後液が得られた。また、沈降速度も早く嵩の低い高密度な中和澱物が得られた。
【0082】
一方、比較例1及び比較例2では、実施例と比較して得られる上澄み液の濁度が高く、また沈降速度も実施例よりは遅く嵩の高い中和澱物が生成した。