(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、
図1を用いて顕微分光システムの構成について説明する。
図1に示すように、この顕微分光システム1は、光源系10、共焦点ユニット20及び顕微鏡30を有する共焦点顕微鏡と、分光器40と、制御部50と、を有して構成されている。この顕微分光システム1において、共焦点ユニット20と分光器40とは、ファイバカプラ29a,29bを介して光ファイバ28により光学的に接続されている。
【0010】
光源系10は、レーザ装置11と、光ファイバ13と、ファイバカプラ12,14と、を有する。レーザ装置11は、例えば、レーザーダイオードを備え、目的の波長特性を有するレーザ光(照明光)を射出する。この照明光は、光ファイバ13を介して共焦点ユニット20に導かれる。なお、
図1の例では、照明光として、標本33を励起して蛍光を発光させるための励起光を射出する。
【0011】
共焦点ユニット20は、光源系10からの照明光を略平行光束とするコリメートレンズ21と、ダイクロイックミラー22と、走査ユニット23と、スキャナレンズ24と、集光レンズ25と、ピンホール26aを有するピンホール板26と、リレーレンズ27と、を有する。また、顕微鏡30は、第2対物レンズ31及び対物レンズ32と、標本33が載置されるステージ34と、を有する。これらの共焦点ユニット20と顕微鏡30とを組み合わせて走査型共焦点顕微鏡が構成される。なお、ダイクロイックミラー22は、光源系10から射出されたレーザ光を顕微鏡30側に反射し、このレーザ光により励起した標本33から放射される蛍光を透過するように構成されている。また、集光レンズ25の像側焦点は、ピンホール板26のピンホール26aと略一致するように配置されている。
【0012】
光源系10のレーザ装置11から射出されたレーザ光(照明光)はファイバカプラ12を介して光ファイバ13に導入される。さらにこの光ファイバ13を通ったレーザ光はファイバカプラ14から共焦点ユニット20のコリメートレンズ21に入射する。そして、このレーザ光はコリメートレンズ21で略平行光に変換された後、ダイクロイックミラー22で顕微鏡30側の光路に反射され、直交配置された2つのガルバノミラーからなる走査ユニット23及びスキャナレンズ24に導入されて、二次元的に走査される。走査されたレーザ光は、第2対物レンズ31で略平行光にされた後、対物レンズ32で標本33上の1点に集光される。なお、走査ユニット23により二次元的に走査される標本33上の位置は、制御部50により走査ユニット23におけるガルバノミラーの動作を制御することにより制御される。そして、このレーザ光(照明光)により励起された標本33から放射された蛍光(信号光)は、対物レンズ32で略平行光に変換され、レーザ光(照明光)と逆の経路を辿ってダイクロイックミラー22に入射する。さらに、ダイクロイックミラー22に入射した蛍光はこのダイクロイックミラー22を透過し、集光レンズ25によりピンホール板26のピンホール26a上に集光される。
【0013】
ピンホール26aを通過した蛍光(信号光)は、リレーレンズ27を経て、ファイバカプラ29aから光ファイバ28に導かれる。リレーレンズ27を介すると、
図1に示すように、ピンホール26aを通過した光が、そのままであると発散光束となるところを、再び、集光され、光ファイバ28の開口端において、見かけ上、小さな開口径でも、有効に(ロスが少なく)入射できるようになる。
【0014】
ここで、ピンホール26aに形成される集光点は標本33上での光スポットの像となっているため、標本33上の他の点から発した光がたとえあったとしても、ピンホール26aでは像を結ばずピンホール板26により遮られ、ファイバカプラ29aにほとんど到達できない。そのため、このピンホール26aを通過できた光のみが、リレーレンズ27を介してファイバカプラ29aに到達できる。この結果、走査型共焦点顕微鏡では高い横分解能だけでなく、高い縦分解能を持って標本を観察できる顕微鏡となっている。
【0015】
ファイバカプラ29aに入射した蛍光(信号光)は、光ファイバ28を通り、ファイバカプラ29bを介して分光器40に導入される。以下、本実施形態に係る分光器40の構成について説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
図2に示すように、分光器40は、ファイバカプラ29bを介して光ファイバ28から入射する信号光(
図1の例では蛍光)を略平行光束とするコリメート光学系41と、このコリメート光学系41の光軸上に配置され、入射する信号光の一部を透過し、残りを反射する第1及び第2の分光光学系42,43と、第1の分光光学系42で反射されて分光された信号光の強度を検出する第1の受光器44と、第1の分光光学系42を透過し第2の分光光学系43で反射されて分光された信号光の強度を検出する第2の受光器45と、第2の分光光学系43を透過して分光された信号光を検出する第3の受光器46と、から構成される。
【0017】
この分光器40において、第1及び第2の分光光学系42,43の各々は、例えば、
図3(a)に示すように、所定の波長λより短い波長の光を反射し、この波長λより長い波長の光を透過する、1枚のロングパスフィルタ(分光素子42a,43a)で構成されている(以下、この波長λを「境界波長」と呼ぶ)。また、これらの第1及び第2の分光光学系42,43を構成する分光素子42a,43aは、角度依存素子であって、入射する光の入射角度に応じて、透過と反射の境界波長λが変化するものである(
図3(a)の場合、λ−Δλからλ+Δλまで変化可能な場合を示している)。
【0018】
図2に示すように、2枚の分光素子42a,43aを組み合わせた場合、
図3(b)に示すように、第1の分光光学系42(分光素子42a)の境界波長がλ1で、第2の分光光学系43(分光素子43a)の境界波長がλ2とすると、第1の分光光学系42の分光素子42aにより、λ1より短い波長の光が反射されて第1の受光器44で検出され、第2の分光光学系43の分光素子43aにより、λ1より長くλ2より短い波長の光が反射されて第2の受光器44で検出され、λ2より長い波長の光が第3の受光器46で検出される。このとき、分光素子42a,43aの各々を光軸に直交する方向の軸(
図2の紙面に垂直な方向)を中心に回転させることにより、これらの分光素子42a,43aに入射する信号光の入射角度が変化するため、それぞれの境界波長λ1,λ2を変化させて第1〜第3の受光器44〜46で検出される信号光の波長帯域を調整することができる。すなわち、この第1の実施形態に係る分光器40では、検出する信号光の波長帯域毎に異なる境界波長の第1及び第2の分光光学系42,43を用意する必要はなく、これらの分光素子42a,43aを回転させることにより、分光される信号光の波長帯域を調整することが可能となる。
【0019】
なお、分光素子42a,43aを回転させて入射する信号光の入射角度を変化させると、反射して射出する射出角度も変化する。そのため、
図2に示すように分光素子42a,43aの回転に応じて第1及び第2の受光器44,43も、分光素子42a,43aの回転中心を中心に回転させる必要がある。
【0020】
また、以上のような構成の分光器40において、分光素子42a,43aを移動させる機構(分光素子42a,43aに対する光の入射角度を変化させる機構)として駆動ユニット54a〜54dを設け、駆動ユニット54a〜54dにより第1及び第2の分光光学系42,43の分光素子42a,43aを回転させ、第1及び第2の受光器44,45を回転させるように構成し、これらの回転の制御を制御部50からの制御信号により行うように構成することが可能である。
【0021】
図2に示すように、制御部50には、第1及び第2の分光光学系42,43や第1及び第2の受光器44,45の作動を制御するための情報を入力するための入力部51、第1〜第3の受光器44〜46で検出された標本33の画像を表示する出力部52、これらの画像及び制御情報等を記憶する記憶部53、並びに、第1の分光光学系42の分光素子42aを移動(回転)させる駆動ユニット54a、第2の分光光学系43の分光素子43aを移動(回転)させる駆動ユニット54b、第1の受光器44を移動させる駆動ユニット54c及び第2の受光器45を移動させる駆動ユニット54dからなる機構が接続されている。この制御部50に対して、第1〜第3の受光器44〜46で検出する波長の範囲(実際には、分光素子42a,43aの境界波長λ1,λ2)を入力部51を介して制御部50に設定し、制御部50によりこの境界波長となるように分光素子42a,43aの回転角度(これらの分光素子42a,43aに対する信号光の入射角度)を決定し、またこの回転角度に応じて第1及び第2の受光器44,45の回転角度を決定して駆動ユニット54a〜54dによりこれらの分光素子42a,43a及び受光器44,45を作動させる。あるいは、蛍光色素毎に、この蛍光色素を励起するための照明光の波長(励起波長)及び励起された色素から発生する信号光の波長(蛍光波長)を対応付けて記憶部53に記憶しておき、入力部51から入力された蛍光色素の種類や励起波長又は蛍光波長に基づいて制御部50が記憶部53から必要な情報を読み出して第1及び第2の分光光学系42,43の境界波長を決定し、この決定された境界波長となるように駆動ユニット54a〜54dにより第1及び第2の分光光学系42,43及び第1及び第2の受光器44,45の作動を制御するように構成してもよい。もちろん、上記蛍光色素等に対応付けて分光素子42a,43aに対する信号光の入射角度を予め記憶部53に記憶しておき、この入射角度を読み出して駆動ユニット54a〜54dにより第1及び第2の分光光学系42,43等の作動を制御してもよいし、蛍光色素毎に基準の入射角度からの補正値を記憶部53に記憶しおき、この補正値に対応させて駆動ユニット54a〜54dにより分光素子42a,43a等の回転角度を制御してもよい。さらに、光源系10のレーザ装置11から放射される照明光の波長を切り替えることができる場合は、この光源系10から放射される照明光の波長と、上述の蛍光色素、吸収波長又は蛍光波長とを対応付けて記憶部53に記憶しておいて駆動ユニット54a〜54dにより第1及び第2の分光光学系42、43等の作動を制御するように構成してもよい。
【0022】
このような構成の顕微分光システム1における制御部50の処理の一例を
図4を用いて説明する。入力部51により光路切り替えが選択されると(ステップS100)、設定方法が判断され(ステップS101)、手動設定が選択されている場合には、励起波長を選択する(ステップS102)。励起波長の選択方法としては、上述のように入力部51から直接入力させてもよいし、光源系10から放射される照明光の波長から選択してもよい。そして、この励起波長に対応する蛍光波長を記憶部53から選択して決定し(ステップS103)、取得する蛍光波長領域(分光素子42a,43aの境界波長λ1,λ2)を決定する(ステップS104)。一方、ステップS101で自動設定が選択されていると判断した場合は、入力部51により蛍光色素を選択させる(ステップS105)。
【0023】
次に、上述のようにして決定した取得蛍光波長領域又は蛍光色素から第1及び第2の分光光学系42,43を構成する分光素子42a,43aの回転角度や第1及び第2の受光器44,45の回転角度を決定する(ステップS106)。これらの回転角度の決定方法としては、後述する演算式を用いて演算により求めてもよいし、予め蛍光色素や取得波長領域毎に求めて記憶部53に記憶しておき、この値を読み出してもよい。そして、求められた回転角度に基づいて駆動ユニット54a〜54dにより第1及び第2の分光光学系42,43及び第1及び第2の受光器44,45の作動を制御し(ステップS107)、所定の位置になったら第1〜第3の受光器44〜46から標本33の画像を取得する(ステップS108)。取得された標本33の画像は、出力部52に表示してもよいし、記憶部53に記憶してもよい。
【0024】
なお、このような分光光学系の機構(駆動ユニット54a〜54d)による制御方法は、以降の実施形態においても同様である。
【0025】
また、
図2に示すこの第1の実施形態に係る分光器40は、2枚の分光素子42a,43aと、これらで反射又は透過して分光された信号光を受光する第1〜第3の受光器44〜46から構成した場合について説明したが、分光素子の枚数は、この実施形態に限定されることはなく、1枚でも3枚以上でもよい。また、受光器もこれらの分光素子の枚数により増減可能である。なお、必ずしも分光された光のすべてを受光器で検出する必要はないため、受光器は少なくとも1つ以上あればよい。
【0026】
また、上述した顕微分光システム1では、標本33を励起した励起光が、この標本33で反射して信号光(蛍光)とともに分光器40に入射する場合がある。そのため、信号光から励起光を除去するために、励起光カットフィルタ(バリアフィルタ)を配置してもよい。この場合、励起光カットフィルタが角度依存素子である場合は、回転させて入射角度を変化させることにより、励起光の波長に応じて除去する波長を調整することができる。
【0027】
さらに、この分光器40は、光ファイバ28のファイバカプラ29bを入射端としているので、容易に共焦点顕微鏡に接続することが可能である。上述したように、共焦点顕微鏡では光検出をピンホールに接続した光検出器で行っているが、ピンホール透過後の光を光ファイバに入射させることで分光器への光導入を容易に光ファイバで行うことが可能である。このようにして、分光機能を持った共焦点顕微鏡に適した分光器を構成することができる。
【0028】
[第2の実施形態]
第1の実施形態に係る分光器40を
図2に示すような構成にすると、上述したように、分光素子42a,43aの回転に応じてこれらの分光素子42a,43aで反射する信号光を検出する第1及び第2の受光器44,45も回転させる必要が生じる。そこで、
図5に示すように、各々の分光光学系を2枚の光学素子で構成することで、固定配置された受光器に分光された信号光を導くように構成することが可能である。例えば、
図2の構成の分光器40の第1の分光光学系42の場合、
図5に示すように、コリメート光学系41の光軸上に配置され、入射する信号光の一部を透過し、残りを反射する第1の光学素子42aと、この第1の光学素子42aに入射する信号光のうち、反射された信号光をさらに反射して第1の受光器44に導く第2の光学素子42bと、から構成する。ここで、第1の光学素子42aは、上述の分光素子(例えばロングパスフィルタであって角度依存素子)で構成される。また、第2の光学素子42bはミラーで構成される。そして、これらの2枚の光学素子42a,42bの入射面(反射面)の延長線上で、互いに交差する軸(
図5の紙面に垂直に延びる軸)Cを中心に第1及び第2の光学素子42a,42bの相対位置を固定してこれらの光学素子42a,42bを回転させることにより、第1及び第2の光学素子42a,42bに対する信号光の入射角度は変化するが、この入射角度の変化にかかわらず、固定配置された第1の受光器44に分光された信号光を入射させることができる。
【0029】
ここで、第1の光学素子42aと第2の光学素子42bの位置関係を説明する。なお、コリメート光学系41の光軸をX軸とし、このX軸に直交する方向(
図5の紙面における上下方向)で、かつ第1の受光器44の中心を通る軸をY軸として説明する。
【0030】
第1の光学素子42aに対する信号光の入射角度をα、入射位置をAとし、この第1の光学素子42aで反射した信号光の第2の光学素子42bに対する入射角度をβ、入射位置をBとする。また第1の光学素子42aの入射面と平行かつ点Aを通る直線と第2の光学素子42bの入射面と平行かつ点Bを通る直線との交点をCとし、第2の光学素子42bから射出される射出角度をγとする(ここでは、コリメート光学系41の光軸に対して第2の光学素子42bで反射された光線のなす角度を射出角度γとして定義する。以降の説明においても同様である)。上述したように、第1の光学素子42aと第2の光学素子42bとは角度ACBを一定に保ちつつ回転する。このとき射出角度γは次式(1)のように表される。
【0032】
また、三角形ABCの内角の和が180度であることから、入射角度α,βの関係は次式(2)のように表され、射出角度γは次式(3)のように表される。
【0033】
角度BAC+角度ABC+角度ACB=180
角度BAC=90−α、 角度ABC=90−β
α+β = 角度ACB (2)
γ = 2×角度ACB (3)
【0034】
よって入射角度αが変化しても射出角度γは常に一定の値を取る。なお角度ACBは式(3)のような関係があるため、角度ACBを45度に設定すれば、どのような入射角度αでも射出角度γを常に90度にすることができる。この第2の実施形態に係る分光器40の小型化という観点で好ましい形態は射出角度γが90度のときである。
【0035】
また、第1の光学素子42aの入射面の所定の位置点Aがコリメート光学系41の光軸(X軸)と交わるように、第1の光学素子42aを移動させる。さらに、第1の光学素子42aと第2の光学素子42bとによる角度ACB一定の下、第1光学素子42aからの反射光を到達させるために、第2の光学素子42bの入射面の所定の位置点Bが、コリメート光学系41の光軸(X軸)とのなす角をγとなる直線(Y軸)上にあるように第2の光学素子42bを移動させることが好ましい。
【0036】
このとき、X軸とY軸との交点を原点、第1の光学素子42a側を正、第1の受光器44側を正とすると、第1の光学素子42aの入射位置Aの座標は(x1,0)、第2の光学素子42bの入射位置Bの座標は(0,y1)(y1<0)であり、以下の条件式(4)を満たす。
【0037】
y1/x1 = −tan2α (4)
【0038】
さらに、第1の光学素子42aと第2の光学素子42bを以下の式をみたすような交点Cの座標を中心に、第1の光学素子42aと第2の光学素子42bとによる角度ACB一定の下、回転させてもよい。ここで、交点Cの座標を(x2,y2)とすると、以下の条件式(5)を満たす。
【0040】
[第3の実施形態]
分光光学系を2枚の光学素子(第1及び第2の光学素子42a,42b)で構成し、これらの光学素子で分光した信号光を反射させて受光する構成において、第1の分光素子42aを回転させて境界波長を変化させても、その射出角度γを常に一定にする方法としては、
図6に示すように、コリメート光学系41の光軸上で回転する第1の光学素子42aに対して、この第1の光学素子42aの回転中心Aを中心に第2の光学素子42bを回転させる(信号光の入射する点Bが点Aを中心とする円の円周上を移動する)ように構成してもよい。但し、このような構成の場合、第2の光学素子42bで反射された光がコリメート光学系41の光軸に沿ってシフトしてしまう。そのため、この反射光を固定配置された第1の受光器44に入射させるためには、
図6に示すように集光レンズ42cが必要となる。ここで、第1の受光器44は、集光レンズ42cの焦点上に配置されている。
【0041】
なお、この第2の光学素子42bに入射する信号光の位置Bの移動距離をLとすると、集光レンズ42cに最低限必要なNAおよび焦点距離は以下の式(6),(7)のような関係になる。
【0042】
f ≧ L (6)
NA ≧ L/f (7)
【0043】
以上の関係を保つことによりこの第3の実施形態において第1の光学素子42a及び第2の光学素子42bに対する入射角度βが変わっても第1の受光器44を移動させずに受光することできる。
【0044】
このような構成にすると、第1の実施形態のように受光器を移動させる必要がなくなるので、分光器40を小型化することができる。なお、分光素子に対する光の入射角度を変化させる方法として、分光素子(第1の光学素子42a)を移動させる例を説明したが、これに限らず、光が移動するような構成にしてもよい。
【実施例】
【0045】
それでは、上述した分光器を用いた標本の観察方法について説明する。なお、以降の実施例では、第2の実施形態に示すように、分光光学系を2枚の光学素子で構成し、かつ、少なくとも一方の光学素子が角度依存素子である場合を例に説明するが、第1又は第3の実施形態に示す構成とすることも可能である。
【0046】
[第1実施例]
まず、
図7を用いて第1実施例に係る分光器140の構成を示す。この分光器140は、ファイバカプラ29bから射出した信号光を略平行光束に変換するコリメート光学系41と、第1及び第2の分光光学系142,143と、第1〜第3の受光器144〜146と、から構成されている。また、第1の分光光学系142は、コリメート光学系41の光軸上に配置され、コリメート光学系41から射出する略平行の信号光が入射する第1の光学素子142aと、第1の光学素子142aで反射された信号光を反射する第2の光学素子142bと、第2の光学素子142bで反射された信号光に含まれる励起光を遮断する励起光カットフィルタ142cと、から構成され、この励起光カットフィルタ142cを透過した信号光が入射する位置に第1の受光器144が配置されている。また、第2の分光光学系143は、コリメート光学系41の光軸上に配置され、第1の分光光学系142の第1の光学素子142aを透過した信号光が入射する第1の光学素子143aと、第1の光学素子143aで反射された信号光を反射する第2の光学素子143bと、第2の光学素子143bで反射された信号光に含まれる励起光を遮断する励起光カットフィルタ143cと、から構成され、この励起光カットフィルタ143cを透過した信号光が入射する位置に第2の受光器145が配置され、第1の光学素子143aを透過した信号光が入射する位置に励起光カットフィルタ143d及び第3の受光器146が配置されている。なお、この第1実施例に係る分光器140において、第1及び第2の分光光学系142,143の第1の光学素子142a,143aは、角度依存素子であるロングパスフィルタで構成されている。また、第2の光学素子142b,143bは、ミラーで構成されている。
【0047】
励起光カットフィルタ142c、143c、143dは、従来の角度に依存して特定が変化しないフィルタ(ロングパスフィルタ、又はバンドパスフィルタ)、角度依存素子のいずれであっても良い。角度依存素子は1枚のロングパスフィルタ、又は1枚のバンドパスフィルタで構成しても良いし、1枚のロングパスフィルタと1枚のショートパスフィルタとの組み合わせで構成しても良い。
【0048】
なお、ショートパスフィルタは、所定の波長λより短い波長の光を透過し、この波長λより長い波長の光を反射する特性を有し、バンドパスフィルタは、所定の波長領域のみ光を透過する特性を有する。なお、後述する第2実施例、第3実施例も同様である。
【0049】
この第1実施例に係る分光器140は、2つの分光光学系142,143を用いて、
図8に示すように、測定する波長領域を3つの領域(第1の分光光学系142の第1の光学素子142aの境界波長をλ1とし、第2の分光光学系143の第1の光学素子143aの境界波長をλ2とした場合、λ1より短い波長の領域、λ1〜λ2の波長の領域、及び、λ2より長い波長の領域)に分割し、それぞれの領域の光強度を、第1〜第3の受光器144〜146で検出するように構成している。ここで、
図8は、標本を、DAPI、黄色蛍光タンパク質(YFP)及びmCherryの3つの蛍光色素で染色(3重染色)し、それぞれの蛍光色素に対して、λex1=405nm、λex2=514nm及びλex3=594nmの励起光で励起したときに発生する蛍光(それぞれの励起光に対応して、FE1,FE2,FE3とする)に対して設定された第1及び第2の分光光学系142,143の第1の分光素子142a,143aの境界波長λ1,λ2の関係を示している。この
図8から明らかなように、蛍光FE1〜FE3の強度が最大になる波長は、各々の蛍光を発生させるための励起光の波長λex1〜λex3よりも長くなっている。そのため、第1及び第2の分光光学系142,143の第1の光学素子142a,143aの境界波長λ1,λ2を、λex2,λex3より短く設定すれば、上記3つの領域のそれぞれに、3つの蛍光色素に対する励起光及び蛍光が入ることになる。そして、それぞれの領域において、励起光カットフィルタ142c、143c、143dで励起光を遮断することにより、3つの蛍光のピークを中心とする強度を第1〜第3の受光器144〜146で検出することができる。
【0050】
この
図8には、従来の分光器で用いられており、信号光から所望の波長帯域の光を分光するフィルタの分離領域EM1〜EM3を示しており、従来の分光器ではこの範囲内でしか蛍光を検出することができない。しかし、この第1実施例に係る分光器140によれば、第1及び第2の分光光学系142,143の第1の光学素子(ロングパスフィルタ)142a,143aの光軸に対する角度を変化させ信号光の入射角度αを変えることにより、境界波長λ1,λ2をシフトさせることができるため、蛍光取得領域を任意に広げることができる。また、励起光の波長が誤差によりずれる場合でも、角度依存素子である励起光カットフィルタ142c、143c及び143dを回転させて信号光の入射角度を変化させることにより、除去できる波長を変化させて調整することができる。なお、以上の第1実施例では、2つの分光光学系により3つの領域に分割した場合について説明したが、1つの分光光学系で構成してもよいし、4つ以上の分光光学系で構成してもよい。
【0051】
[第2実施例]
図9は第2実施例に係る分光器240の構成を示しており、この分光器240は、4つの分光光学系242〜245により、信号光を5つの波長領域に分光し、それぞれの領域の光強度を5つの受光器246〜250で検出するように構成する場合を示している。各々の分光光学系242〜245は、上述の第1実施例と同じであり、角度依存素子であるロングパスフィルタで構成される第1の光学素子242a〜245aと、ミラーで構成される第2の光学素子242b〜245bと、で構成されている。このように複数の波長領域に分割し、各々の領域における光強度を検出することにより、信号光のピーク分離をすることができる。例えば、
図10に示すように、ピークが近い2つの蛍光FE1,FE2を観察する場合でも、それぞれのピークを含む波長領域を5つの領域に分割することにより、ピーク分離を行うことができる。このとき、第1の光学素子242a〜245aの各々を回転させて信号光の入射角度を変化させることにより、境界波長λ1〜λ4を変化させることができるので、計測する蛍光のピークに合わせて、分割された領域の波長帯域を調整することができる。なお、励起光カットフィルタ242c,244cは、励起光に応じて適宜配置することにより、信号光から励起光を除去することができる。この励起光カットフィルタ242c,244cも角度依存素子である場合は、回転させることにより、除去することができる波長を、励起光の波長に合わせて調整することができる。
【0052】
[第3実施例]
図11は、第3実施例に係る分光器340の構成を示しており、この分光器340は、2つの分光光学系342,343により、信号光を3つの波長領域に分光し、それぞれの領域の光強度を3つの受光器344〜346で検出するように構成する場合を示している。この分光器340において、第1及び第2の分光光学系342,343は、第1及び第2実施例と同様に2枚の光学素子で構成されており、第1の光学素子342a,343aは、ある波長以下の光を吸収し、それ以上の波長の光を透過するシャープカットフィルタで構成される。シャープカットフィルタは角度依存素子でないため、第1の光学素子342a,343aを回転させても境界波長は変化しない。一方、第2の光学素子342b,343bは、所定の狭い波長帯域の光を透過し、残りの波長の光を反射するノッチフィルタであって、角度依存素子として構成されている。そのため、この第2の光学素子342b,343bを回転させて信号光の入射角度を変化させると、透過する光の波長帯域が変化する。また、この第1及び第2の分光光学系342,343は、第1の分光光学系342の第2の光学素子342bと第1の受光器344との間、第2の分光光学系343の第2の光学素子343bと第2の受光器345との間に励起光カットフィルタ342c,343cが配置されている。
【0053】
図12は、脳細胞に含まれるタンパク質のうち、チャンネルロドプシン(CHR2)とハロロドプシン(NPHR)の刺激光の波長に対して刺激を受ける感度を示しており、CHR2の感度曲線S1及びNPHRに対する感度曲線S2として示されている。この
図12から分かるように、刺激波長はその波長によって感度が違うだけで様々である。つまり、ユーザが望む刺激波長は様々であり(例えば
図12に示すλex1〜λex6)、現状のフィルタにおいてそれら全て対応することは現実的でない。
【0054】
この第3実施例に係る分光器340は、第1及び第2の分光光学系342,343の第1の光学素子342a,343aにより、信号光を3つの波長領域に分光して検出しているが、これらの境界領域を変化させることができない。一方、第2の光学素子342b,343bは、第1の光学素子342a,343aで分光された信号光に含まれる刺激光を透過させて除去する機能を有しており、この第2の光学素子342b,343bを回転させて入射角度を変化させることにより、透過させる(除去する)刺激光の波長帯域を調整することができる。なお、刺激光により刺激された試料に対し、励起光を照射することにより、蛍光を放射させるため、第2の光学素子(ノッチフィルタ)342b,343bで反射された信号光に含まれる励起光が第1及び第2の受光器344,345に入射しないように、
図11に示すように、励起光カットフィルタ342c,343cが配置されている。このように、この第3実施例に係る分光器340によれば、第2の光学素子(ノッチフィルタ)342b,343bに対する信号光の入射角度を変えることにより波長シフトを起こさせユーザが望む刺激波長カットを任意に設定することができる。この第3実施例においては分光光学系を2組用いたが、複数の刺激波長が存在する場合3組以上で構成してもよい。
【0055】
[第4実施例]
第4実施例として、
図13を用いて、異なる蛍光色素の組み合わせによる観察を行うときの分光光学系を構成する分光素子の回転角度について説明する。まず、DAPIと強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)による2色蛍光観察を行う場合、EGFPの励起波長λex1は488nmであるので、レーザ装置11の公差を±5nmとすると、分光素子の境界波長λ1を485nmに設定することにより、この励起光が入射しない範囲でDAPIの蛍光を取得することができる。一方、シアン蛍光タンパク質(CFP)と強化黄色蛍光タンパク質(EYFP)による2色蛍光観察を行う場合、EYFPの励起波長λex2は514nmであるので、レーザ装置11の公差を±5nmとすると、分光素子の境界波長λ2を511nmに設定することにより、この励起光が入射しない範囲でCFPの蛍光を取得することができる。このように、2色蛍光観察において、一方の蛍光色素から出る蛍光を他方の蛍光色素から出る蛍光から分離する場合、従来のフィルタキューブを用いた場合はフィルタを交換しなければならないが、上述した実施形態のように分光光学系の分光素子を回転させ信号光の入射角度を変化させるように構成することにより、分光素子を回転するだけで境界波長を変化させることができる。この第4実施例の場合、分光素子を18度回転させることで、境界波長λ1とλ2とを切り替えることができる。また、このように境界波長を調整できることにより、励起光の波長に近接するように境界波長を設定し、試料からの蛍光を可能な限り効率良く取得することができる。
【0056】
なお、上述の各実施形態の要件は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、法令で許容される限りにおいて、上述の各実施形態及び変形例で引用した装置などに関する全ての公開公報及び米国特許の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【0057】
前記課題を解決するために、本発明に係る分光器は、光を略平行光とするコリメート光学系と、この光の入射角度により分光する波長帯域が変化する分光素子を少なくとも1枚含む分光光学系と、この分光光学系で分光された光を検出する少なくとも1つの受光器と、分光素子に対する光の入射角度を変化させる機構と、光を分光する波長帯域に応じて、分光素子に対する光の入射角度を決定し、当該入射角度になるように機構を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
このような分光器において、分光光学系は、入射する光の一部を透過し、残りを反射する第1の光学素子と、第1の光学素子で反射された光の少なくとも一部を反射する第2の光学素子と、を有し、第1の光学素子及び第2の光学素子の少なくとも一方は、光の入射角度により分光する波長帯域が変化する分光素子であり、制御部は、機構を制御して第1の光学素子の入射面の向きを変化させ、第1の光学素子の入射面の向きの変化に伴って、機構を制御して第2の光学素子の入射面の向きを変化させる。
また、このような分光器において、制御部は、機構を制御して、第1の光学素子の入射面を延長した面と第2の光学素子の入射面を延長した面とのなす角度を所定の値に維持したまま、第1の光学素子及び第2の光学素子を移動させて入射角度を変化させる。
また、このような分光器は、機構を制御して、第1の光学素子の入射面を延長した面と第2の光学素子の入射面を延長した面との交線を軸として第1の光学素子及び第2の光学素子を一体に回転させることにより、入射角度を変化させてもよい。
また、このような分光器において、制御部は、機構を制御して、コリメート光学系の光軸上に位置する回転軸による第1の光学素子の回転に応じて、この第1の光学素子の回転軸を中心に第2の光学素子を回転させることにより、入射角度を変化させてもよい。
また、このような分光器は、第2の光学素子から射出する光を受光器上に集光する集光レンズを有してもよい。
また、このような分光器は、分光光学系と当該分光光学系で分光された光を受光する受光器との間に配置され、前記光とは異なる波長の光を遮断するバリアフィルタを有し、このバリアフィルタは、異なる波長の光のバリアフィルタに対する入射角度により遮断する光の波長帯域が変化してもよい。
また、本発明に係る顕微分光システムは、光源から放射された所定の波長を有する照明光を走査して対物レンズにより標本に照射するとともに、この標本から放射される、所定の波長とは異なる波長を有する光を対物レンズで集光する顕微鏡と、この顕微鏡からの光を分光して検出する上述の分光器のいずれかと、を有することを特徴とする。
このような顕微分光システムにおいて、制御部は、入力部で入力された蛍光色素の種類、照明光の波長及び前記光の波長の少なくも一つに対応して前記入射角度になるように機構を制御してもよい。
また、このような分光システムは、前記入射角度を蛍光色素の種類、照明光の波長及び前記光の波長の少なくとも一つに対応付けて記憶する記憶部を有し、制御部は、記憶部から読み出された入射角度になるように機構を制御してもよい。
また、このような分光システムにおいて、制御部は、照明光の波長の切り替えによって生じる入射角度の補正値に基づいて機構を制御してもよい。